第1 大腿骨骨折の後遺障害慰謝料と逸失利益
1 この記事の対象と結論
本記事は,交通事故による大腿骨骨折について,自賠責後遺障害等級が認定された後の後遺障害慰謝料及び逸失利益の算定を対象とする。
生成AIを用いて法令,行政資料,裁判例,統計及び医学文献を整理し,金額・割合・期間は原資料又は判決全文で照合した。
大腿骨骨折の逸失利益は,等級に対応する労働能力喪失率を出発点とするが,職業,家事の実態,現実の減収,勤務先の配慮,短縮による歩容障害,疼痛の器質的原因及び改善可能性によって率又は期間が調整される。
特に,下肢短縮では逸失利益を否定した裁判例と表どおりの9%を認めた裁判例が併存し,人工骨頭10級11号では27%を用いる例のほか,20%又は基礎収入の一部だけを用いる例がある。
大腿骨骨折の部位別の等級認定は,大腿骨骨折の後遺障害等級と認定方法が扱っている。
2 自賠責限度額・自賠責慰謝料等・裁判基準を区別する
後遺障害の金額を比較するときは,①自賠責保険金の等級別限度額,②自賠責支払基準の慰謝料等,③裁判実務上の後遺障害慰謝料の目安を区別する必要がある。
自賠責限度額は,逸失利益と慰謝料等を合計した後遺障害損害の支払上限であり,慰謝料額ではない。
| 等級 | 自賠責限度額 | 自賠責の慰謝料等 | 裁判基準の慰謝料目安 | 喪失率表 |
|---|---|---|---|---|
| 7級 | 1,051万円 | 419万円 | 1,000万円 | 56% |
| 8級 | 819万円 | 331万円 | 830万円 | 45% |
| 10級 | 461万円 | 190万円 | 550万円 | 27% |
| 11級 | 331万円 | 136万円 | 420万円 | 20% |
| 12級 | 224万円 | 94万円 | 290万円 | 14% |
| 13級 | 139万円 | 57万円 | 180万円 | 9% |
| 14級 | 75万円 | 32万円 | 110万円 | 5% |
表の自賠責金額は,令和2年4月1日以後に発生した事故へ適用される現行支払基準による。
それより前の事故は事故日に適用された支払基準を確認する必要があり,現行額へ置き換えることはできない。
裁判基準の金額は,日弁連交通事故相談センター東京支部の令和8年版基準に掲載された目安であり,法令上の定額ではない。
任意保険会社の内部基準については,公開された統一金額が存在するわけではないため,「任意保険基準」という一つの固定表を前提に比較すべきではない。
自賠責支払基準の位置付け,別表及び改正経緯は,自賠責保険の支払基準で詳しく説明している。
3 等級が決まっても逸失利益は自動的に決まらない
後遺障害等級は,症状固定時に残った身体障害を自動車損害賠償保障法施行令の別表へ当てはめるものである。
これに対し,民事上の逸失利益は,その障害によって将来の収入獲得能力又は家事労働能力にどのような経済的不利益が生じるかを評価する損害項目である。
したがって,裁判所は,等級別の喪失率表を有力な出発点としながら,障害の内容・程度,職業,年齢,事故前後の就労状況,現実の減収,特別な努力,配置転換及び勤務先の配慮を考慮する。
評価方法も,①率を下げる,②期間を短くする,③基礎収入を調整する,④逸失利益を否定して慰謝料の事情とする,というように一様ではない。
第2 後遺障害逸失利益の計算方法
1 基礎収入・喪失率・ライプニッツ係数を掛ける
後遺障害逸失利益の基本式は,「基礎収入年額×労働能力喪失率×喪失期間に対応するライプニッツ係数」である。
自賠責支払基準も,年間収入額又は年相当額に,該当等級の喪失率と後遺障害確定時年齢に対応する就労可能年数の係数を乗じる方式を採用している。
もっとも,自賠責の支払計算と民事裁判上の損害計算は同一ではない。
自賠責は支払基準の年齢別平均給与額及び就労可能年数表を用いるのに対し,裁判では個別の収入資料,症状固定時の年齢,職業継続の見込み及び利用可能な生命表を考慮するため,基礎収入又は期間が異なることがある。
2 給与所得者・事業所得者・家事従事者の基礎収入
給与所得者は,原則として事故前の現実収入を基礎とし,源泉徴収票,給与明細,賃金台帳,課税証明書及び確定申告書を照合する。
若年者で将来の増収が見込まれる場合,事故前収入が一時的に低い場合又は失業中で就労の蓋然性がある場合には,賃金構造基本統計調査を用いるかが問題となる。
事業所得者は,売上高ではなく,原則として経費を控除した所得を出発点とする。
ただし,減価償却費,専従者給与,事故後も発生する固定費又は事業の人的依存度について,税務上の処理と労働能力の経済的価値が一致しないことがあるため,複数年の申告書,総勘定元帳及び事業実態を確認する必要がある。
家事従事者は,金銭収入がないことを理由に基礎収入を0円とはしない。
裁判実務では女性全年齢平均賃金を出発点とするが,高齢,同居者による分担,事故前に行っていた家事の範囲,介護・育児及び外部サービスの利用状況によって全額を用いない場合がある。
有職の家事従事者については,給与収入と家事労働分を単純に加算して二重評価しない。
3 喪失期間と中間利息控除
喪失期間は症状固定時から原則67歳までを出発点とし,67歳を超える者は平均余命の2分の1を一応の目安とする。
67歳までの年数が平均余命の2分の1より短い者についても,後者を用いることがあり,職業,健康状態及び現実の就労継続を個別に検討する。
民法417条の2は,将来取得すべき利益の損害額を定める場合に,請求権発生時の法定利率によって中間利息を控除すると定めている。
令和2年4月1日から令和11年3月31日までに発生した交通事故については,年3%のライプニッツ係数を用いるが,事故日が令和2年4月1日前である場合は年5%の旧計算との区別が必要である。
4 人工骨頭10級11号の計算例
令和7年賃金構造基本統計調査の女性・一般労働者・産業計・全年齢は,きまって支給する現金給与額が月額304.7千円,年間賞与その他特別給与額が714.3千円である。
本記事で年収へ換算すると,「304.7千円×12か月+714.3千円=4,370,700円」となる。
症状固定時51歳の家事従事者について,この年収換算額,10級の27%,67歳まで16年の係数12.561を単純に用いると,計算は「4,370,700円×27%×12.561=14,823,097円」となる。
これは計算構造を示す例であり,実際の家事分担,年齢,症状固定年,喪失率,喪失期間,過失相殺及び既払金を反映した個別の見積りではない。
第3 下肢短縮の逸失利益
1 短縮量だけでは喪失率を決められない
自賠責の下肢短縮は,5cm以上が8級5号,3cm以上が10級8号,1cm以上が13級8号であるが,この形態障害の等級から裁判上の労働能力喪失が自動的に決まるわけではない。
裁判では,短縮量に加え,跛行,立位・歩行耐久性,股・膝関節の障害,疼痛,補高具の効果,職務動作及び現実の減収を検討する。
脚長差に関する医学研究でも,脚長差と姿勢・歩行の非対称との関連は示される一方,短縮量と症状の相関は研究間で一貫しておらず,一律に労働能力が低下する短縮量は確立していない。
そのため,「1cmであれば必ず9%」とも,「短縮だけなら労働能力へ影響しない」ともいえない。
2 逸失利益を否定した裁判例と認めた裁判例
下肢短縮の裁判例は,短縮そのものよりも,短縮が具体的な仕事へどう影響したかによって結論が分かれている。
| 裁判例 | 障害・職業等 | 喪失率・期間の判断 |
|---|---|---|
| 大阪地裁令和4年3月25日判決 | 右下肢1.5cm~2cm短縮,トラック運転業務 | 歩行障害,可動域制限及び業務支障の立証がなく,短縮による逸失利益を否定 |
| 名古屋地裁令和2年2月12日判決 | 右下肢短縮13級8号,現実の減収なし | 職業・生活実態を踏まえ,9%・32年を認め,5,162,742円 |
| 神戸地裁令和2年10月8日判決 | 股関節機能障害と短縮による併合10級,バス運転者 | 仕事の変更及び収入減を踏まえ,27%・16年を認定 |
大阪地裁判決から,1.5cm以上の短縮なら逸失利益が常に否定されるとの一般論は導けない。
反対に,名古屋地裁判決の9%・32年も,短縮13級の全事案にそのまま適用できる相場ではなく,職業・生活実態を含む個別判断である。
3 短縮と職務上の支障を結ぶ証拠
被害者側では,①同じ撮影条件による左右全下肢長,②診療録・リハビリ記録上の跛行,疼痛及び補高,③事故前後の職務動作,立位・歩行時間及び休憩,④配置転換・時間短縮・同僚の補助,⑤収入推移を順に確認する。
測定方法と画像の整理は,大腿骨骨幹部骨折の後遺障害が扱っているため,本記事では損害額との接続に限る。
相手方からは,短縮が軽度で補高により歩容が改善する,仕事内容が座位中心である,事故後も収入が維持されている,又は支障の原因が股関節症・脊椎疾患等の既往症にある,という反論が想定される。
被害者側は,収入が維持されている場合でも,本人の特別な努力,勤務先の配慮,昇進・転職上の不利益及び長期就労への影響を具体的な資料で示す必要がある。
第4 人工骨頭・人工股関節の逸失利益
1 10級11号の27%は出発点である
股関節に人工骨頭又は人工関節を挿入置換し,8級7号の可動域要件を満たさない場合は,原則として10級11号が問題となる。
もっとも,10級に対応する27%は裁判上の有力な出発点であり,人工骨頭があるという一事で,すべての職業について27%・67歳までが認められるわけではない。
評価では,長時間立位,階段昇降,しゃがみ込み,重量物運搬,車両乗降,現場移動及び転倒リスクを伴う職務と,座位中心の職務を区別する。
人工骨頭の等級,可動域及び医学的な将来リスクは,交通事故後の人工骨頭置換術と後遺障害等級で説明している。
2 喪失率・期間・基礎収入を調整した裁判例
人工骨頭又は人工股関節の裁判例は,同じ10級11号でも,率,期間又は基礎収入の異なる部分を調整している。
| 裁判例 | 被害者・障害 | 逸失利益の判断 |
|---|---|---|
| 奈良地裁葛城支部平成18年12月5日判決 | 64歳女性,人工骨頭10級11号 | 年収2,999,600円,27%,12年で7,178,234円。慰謝料550万円 |
| 京都地裁令和3年11月16日判決 | 51歳派遣労働者,人工骨頭10級11号 | 現在の影響と将来リスクを考慮し,平均20%・16年で5,377,900円。慰謝料600万円 |
| さいたま地裁令和3年12月21日判決 | 41歳女性,人工股関節10級11号 | 女性全年齢平均賃金の2分の1を基礎とし,27%・26年で8,457,555円 |
| 東京地裁令和6年8月21日判決 | 74歳女性家事従事者,人工骨頭10級11号 | 女性全年齢平均賃金の50%,27%・8年で3,657,397円 |
奈良地裁葛城支部判決は,裁判所ウェブサイト掲載の判決全文で確認できる。
同判決は交通事故ではなく,道路沿いの水路への転落を理由とする国家賠償請求の事案であるが,人工骨頭による逸失利益について27%を採用した。
これに対し,京都地裁判決は現実の減収と将来リスクをならして20%とし,他の二判決は喪失率ではなく基礎収入を調整した。
3 家事従事者・高齢者の基礎収入
家事従事者の基礎収入は,女性全年齢平均賃金を出発点とする場合でも,家事能力を年齢だけで抽象的に評価してはならない。
世帯人数,調理・清掃・買物・洗濯・送迎・育児・介護の内容,事故前の分担,家族による代替及び外部サービスの利用を確認する。
東京地裁令和6年8月21日判決は,娘及び孫らへの家事貢献を認めながら,年齢と家事の実態から女性全年齢平均賃金の50%を基礎とした。
この割合は高齢家事従事者へ一律に適用されるものではなく,事故前に一人で家事を担っていた事案と,家族が広く分担していた事案とでは基礎収入の評価が変わり得る。
第5 疼痛の12級・14級と喪失期間
1 12級10年・14級5年は法定期間ではない
日弁連交通事故相談センター東京支部の令和8年版基準は,むち打ち症について,12級をおおむね10年,14級をおおむね5年に制限する例が多いとしつつ,具体的症状に応じるとしている。
大阪地裁基準第4版も,むち打ち症について12級5年~10年,14級3年~5年を一応の目安とする。
これらはむち打ち症の裁判例を踏まえた実務上の目安であり,大腿骨の骨癒合不全,変形,関節面損傷,金属内固定又は筋力低下に裏付けられた疼痛へ自動的に適用される法定期間ではない。
大腿骨骨幹部骨折の前向き研究でも,回復の多くが受傷後6か月までに生じる一方,12か月時にも膝・大腿等の疼痛が残ることが示されているが,この研究だけから5年・10年又は終身という法的期間は決められない。
2 器質的な疼痛について12年を認めた裁判例
神戸地裁令和3年8月26日判決(令和2年(ワ)第346号ほか,交民54巻4号)は,症状固定時59歳の税理士について,右大腿骨骨折後の疼痛14級9号に股関節・足関節の状態を合わせて12級相当・14%と評価した。
同判決は,職業を継続していた実態及び症状が今後改善するとは考えにくいことから,10年へ制限せず,平均余命の2分の1に相当する12年を認めた。
この判決から,大腿骨骨折後の疼痛は常に平均余命の2分の1まで認められるとの一般論は導けない。
他方,12級・14級という等級だけを根拠に,むち打ち症と同じ期間へ制限することもできず,器質的所見と改善可能性を個別に検討する必要がある。
3 期間制限を争うための医学資料と就労資料
被害者側では,①疼痛部位と画像・手術所見の対応,②症状固定までの一貫した診療記録,③投薬・リハビリ・装具とその効果,④仕事で症状が再現する動作,⑤今後の改善可能性に関する主治医の見解を確認する。
疼痛があるとの陳述だけでなく,歩行距離,立位時間,階段数,休憩回数及び勤務後の症状を,事故前と比較できる形で記録する。
相手方からは,骨癒合が完成している,画像が安定している,治療が終了している,受診間隔が長い,又は事故後も同じ仕事を継続しているとの反論が想定される。
被害者側は,医学的症状が残ることと,その症状が労働能力へ影響し続けることを分けて立証する必要がある。
第6 将来の人工関節再置換費用
1 集団統計だけでは将来手術費を証明できない
人工骨頭から人工股関節への転換術を扱った医学研究では,転換後の感染,脱臼,骨折又は再再置換等が報告されている。
しかし,転換手術を受けた患者群の術後成績は,人工骨頭を入れた全患者のうち何人が将来転換を必要とするかを示す確率ではない。
将来手術費の立証では,①現在のインプラントの種類と設置時期,②摩耗・弛み・骨溶解・臼蓋侵食等の現所見,③担当医が見込む術式と時期,④手術・入院・リハビリ費,⑤公的医療保険・高額療養費等を反映した自己負担,⑥複数回の場合の各実施時期,⑦中間利息控除を具体化する。
「人工関節の耐用年数は一律何年」とする説明だけでは,個別の再手術の蓋然性を証明できない。
2 将来手術費を否定した裁判例と認めた裁判例
東京地裁平成28年1月22日判決(平成25年(ワ)第20923号)は,人工関節の将来手術費3,138,940円について,個別の再手術の必要性等の立証が足りないとして認めなかった。
これに対し,東京地裁平成29年12月20日判決(平成27年(ワ)第31620号,自保ジャーナル2017号87頁)は,36歳時とその後20年ごとの再置換を具体的に見込み,75万円を3回分割り引いた699,300円を認めた。
二つの判決を分けたのは,人工関節に一般的な再置換リスクがあるかではなく,当該被害者について必要性,時期及び費用をどこまで具体化できたかである。
将来手術の可能性を独立の治療費として評価する場合と,後遺障害慰謝料の増額事情として評価する場合を重ね,二重に算定しないことにも留意する。
3 意見書・鑑定へ進む条件と停止基準
最初に取得するのは,手術記録,インプラントラベル,定期画像,診療録及び主治医の通常の診療上の説明である。
これらから摩耗・弛み等が認められ,再手術の有無・時期が損害額を左右する場合に,具体的な照会又は専門医意見を検討する。
主治医が再置換を予定しておらず,画像上の問題もなく,術式・時期・自己負担額を具体化できない場合は,高額な鑑定へ直ちに進んでも,「将来必要になる可能性がある」という状態を超えにくい。
この場合は,将来治療費の独立請求を止め,現在確認できる障害と慰謝料の評価,又は相手方の同意を得て将来の再手術費を清算対象から留保する条項を検討する方が合理的である。
第7 損害額を個別化する資料と確認手順
1 最初に低負担の資料を揃える
被害者側が最初に確認する資料は,次のとおりである。
①後遺障害等級認定票及び認定理由
②症状固定診断書,画像CD,画像報告書,手術記録及びインプラント情報
③左右下肢長,股・膝関節可動域,筋力,歩容及び疼痛の経時記録
④源泉徴収票,確定申告書,賃金台帳,勤務表及び事故前後の職務内容
⑤家事従事者については,世帯構成,事故前後の家事分担及び有償サービスの利用記録
⑥補高靴,杖,装具及び再手術説明に関する指示書・領収書
診療記録と画像は医療機関,賃金台帳・勤務表・配置変更記録は勤務先が保有するのが通常であり,被害者が当然に全資料を持っているわけではない。
まず本人の手元にある等級通知,診断書,給与・税務資料及び勤務先との連絡記録を確保し,不足する資料を医療機関又は勤務先へ具体的に求める。
2 被害者側と相手方の主張を資料に対応させる
被害者側は,等級表の率を示すだけでなく,障害がどの職務・家事動作へ影響し,どの期間続くかを立証する。
収入が維持されている場合は,特別な努力,同僚の補助,休憩増加,残業減少,配置転換,昇進・転職上の不利益及び将来の勤務継続を具体化する。
相手方は,現実の減収がない,障害が職務へ影響しない,補高又は杖により支障が軽減する,疼痛は改善する,又は既往症・別の傷害が支障の原因であると反論し得る。
この反論に対しては,等級の存在を繰り返すのではなく,事故前後の勤務資料,診療経過,補助具使用時にも残る支障及び既往症の事故前の状態を示す必要がある。
3 高負担の追加調査を行う場面
整形外科医の意見書,職業能力評価又は鑑定へ進むのは,低負担資料を集めても,①短縮と職務支障,②疼痛の永続性,③再置換の蓋然性のいずれかが未解決であり,専門意見によって結論が変わる場合である。
依頼時には,「何が判明すれば喪失率・期間・将来費の結論が変わるか」を質問として特定する。
診療録が支障を裏付けず,勤務・収入・家事資料にも変化がなく,将来治療も具体化していない場合は,等級表だけを根拠に高額な鑑定へ進む費用対効果は低い。
追加調査によっても結論が変わらないと見込まれる場合は,利用可能な資料の範囲で請求を組み立て,裏付けのない高い率又は長期間を主張しないことが相当である。
4 民法上の請求と自賠責被害者請求の時効を分ける
民法724条の2により,人の生命又は身体を害する不法行為の損害賠償請求権については,損害及び加害者を知った時からの期間が5年となる。
後遺障害損害の起算点は症状固定等との関係で個別判断を要するため,「事故日から必ず5年」と単純化することはできない。
自動車損害賠償保障法19条は,被害者請求権等を3年間行使しない場合の消滅時効を定めている。
加害者に対する民法上の身体損害請求の5年と,自賠責保険会社に対する被害者請求の3年を混同せず,事故日,症状固定日,等級通知日,請求・支払及び交渉経過を時系列で確認する必要がある。
第8 出典・参考資料
1 法令・行政資料
①e-Gov法令検索・民法404条,417条の2,709条,710条,722条,724条及び724条の2
②e-Gov法令検索・自動車損害賠償保障法3条,16条,16条の3及び19条
③e-Gov法令検索・自動車損害賠償保障法施行令2条及び別表第1・第2
④国土交通省・金融庁「自動車損害賠償責任保険の保険金等及び自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払基準」3頁~12頁
⑤国土交通省「就労可能年数とライプニッツ係数表」
⑥法務省「令和8年4月1日以降の法定利率について」
2 裁判例
①奈良地方裁判所葛城支部平成18年12月5日判決(平成17年(ワ)第239号,裁判所ウェブサイト)
②大阪地方裁判所令和4年3月25日判決(令和2年(ワ)第9958号,交通事故民事裁判例集55巻2号。裁判所HP未掲載。弁護士ドットコムLIBRARYにより全文確認)
③名古屋地方裁判所令和2年2月12日判決(平成28年(ワ)第5372号,交通事故民事裁判例集53巻1号。裁判所HP未掲載。弁護士ドットコムLIBRARYにより全文確認)
④神戸地方裁判所令和2年10月8日判決(平成30年(ワ)第1599号ほか,交通事故民事裁判例集53巻5号。裁判所HP未掲載。弁護士ドットコムLIBRARYにより全文確認)
⑤東京地方裁判所令和6年8月21日判決(令和4年(ワ)第11192号,交通事故民事裁判例集57巻4号。裁判所HP未掲載。弁護士ドットコムLIBRARYにより全文確認)
⑥京都地方裁判所令和3年11月16日判決(令和2年(ワ)第4007号,交通事故民事裁判例集54巻6号。裁判所HP未掲載。弁護士ドットコムLIBRARYにより全文確認)
⑦さいたま地方裁判所令和3年12月21日判決(平成30年(ワ)第2583号,交通事故民事裁判例集54巻6号。裁判所HP未掲載。弁護士ドットコムLIBRARYにより全文確認)
⑧神戸地方裁判所令和3年8月26日判決(令和2年(ワ)第346号ほか,交通事故民事裁判例集54巻4号。裁判所HP未掲載。弁護士ドットコムLIBRARYにより全文確認)
⑨東京地方裁判所平成28年1月22日判決(平成25年(ワ)第20923号。裁判所HP未掲載。D1-Law判例体系・判例ID29016368により全文確認)
⑩東京地方裁判所平成29年12月20日判決(平成27年(ワ)第31620号,自保ジャーナル2017号87頁。裁判所HP未掲載。D1-Law判例体系・判例ID28263149により全文確認)
3 統計・実務書
①厚生労働省「令和7年賃金構造基本統計調査 結果の概況」及びe-Stat原表
②日弁連交通事故相談センター東京支部編『民事交通事故訴訟・損害賠償額算定基準 上巻(基準編)2026(令和8年)版』(日弁連交通事故相談センター東京支部,2026年)111頁~112頁,122頁,222頁,478頁及び482頁
③大阪民事交通訴訟研究会編著『大阪地裁における交通損害賠償の算定基準〈第4版〉』(判例タイムズ社,2022年)6頁~8頁及び40頁~43頁
4 医学文献
①Sanders DW, et al. Functional outcome and persistent disability after isolated fracture of the femur. Canadian Journal of Surgery. 2008;51(5):366-370. PMC全文
②Azizan NA, et al. The Effects of Leg Length Discrepancy on Stability and Kinematics-Kinetics Deviations: A Systematic Review. Applied Bionics and Biomechanics. 2018;2018:5156348. PMC全文
③Poursalehian M, et al. Conversion of a Failed Hip Hemiarthroplasty to Total Hip Arthroplasty: A Systematic Review and Meta-analysis. Arthroplasty Today. 2024;28:101459. PMC全文
④Hernandez NM, et al. Increased Risk of Periprosthetic Joint Infection, Dislocation, and Reoperation in Patients Undergoing Conversion of Hip Hemiarthroplasty to Total Hip Arthroplasty. Clinical Orthopaedics and Related Research. 2019;477(6):1392-1399. PMC全文