第1 記事の対象と結論
1 診断名ではなく残存障害ごとに等級を検討する
デグロービング損傷は,剪断力によって皮膚及び皮下組織が深部組織から剥離する重度の軟部組織損傷である。足関節・足部では,皮膚欠損だけでなく,血管,リンパ管,神経,筋,腱,骨及び関節が同時に損傷し,壊死,感染,植皮又は皮弁,長期免荷及びリハビリテーションを経て症状固定に至ることがある。
もっとも,自賠責の後遺障害等級は「デグロービング損傷」という診断名自体に付されるものではない。症状固定時に残った①下肢の欠損,②足関節の機能障害又は動揺性,③足趾の欠損・機能障害,④偽関節・変形・短縮,⑤神経症状,⑥下肢の醜状,⑦既存の区分だけでは捉え切れない組織欠損等を分け,それぞれの根拠所見,障害系列及び重複の有無を検討する必要がある。
2 等級認定の中心となる三つの問い
本件で結論を分ける中心的な問いは,①測定された可動域制限に骨折,関節面変形,腱癒着,瘢痕拘縮その他の器質的原因があるか,②植皮・皮弁後の状態が外観上の瘢痕だけなのか,それとも筋力低下,知覚脱失,浮腫,皮膚脆弱性,荷重痛及び靴の不適合を伴うのか,③複数の症状を別々に評価すべきか,同一系列又は一つの欠損障害に含めるべきかという点である。
この記事は一般的な情報提供を目的とするものであり,個別事故の等級又は賠償額を保証するものではない。受傷部位,治療経過,症状固定時期及び証拠によって結論は変わる。
第2 損傷の医学的特徴と後遺障害評価
1 開放性損傷と閉鎖性損傷
開放性デグロービング損傷では皮膚の剥脱又は欠損が外見から分かることが多い。これに対し,閉鎖性デグロービング損傷であるMorel-Lavallée lesionでは,皮膚表面が保たれていても皮下組織と筋膜の間が剥離し,断裂した毛細血管及びリンパ管から血液・リンパ液が貯留する。慢性化すると線維性被膜を形成し,壊死又は感染を伴うことがある。
医学文献上,閉鎖性損傷は診断が遅れることがあり,病変の大きさ,内容及び慢性化を確認する画像としてMRIが重視されている。他方,開放性損傷では,単純X線・CTによる骨折評価,MRIによる筋・腱等の評価,血管画像及び手術所見を組み合わせる必要がある。いずれの型でも,画像だけで最終的な機能障害が決まるものではなく,初療から症状固定までの手術所見及び臨床経過が重要である。
2 初療時の外観より損傷範囲が広がることがある
初療時に温存可能に見えた皮膚が血流障害によって後日壊死し,段階的なデブリードマン,陰圧閉鎖療法,植皮又は皮弁を要することがある。そのため,事故直後の写真だけで損傷範囲を固定せず,second look以降の壊死範囲,切除した組織,植皮・皮弁の面積及び採皮部を時系列で確認する必要がある。
症状固定時の瘢痕が小さく見えても,皮下脂肪,筋,腱,神経又は血管の欠損が回復したとは限らない。再建が生着したという治療上の成功と,知覚,筋力,関節可動域,荷重耐久性及び就労能力が回復したかという後遺障害評価は区別すべきである。
3 踵及び足底では荷重機能を別に確認する
踵及び足底は,立位・歩行時の荷重と剪断力を受ける。後遺障害の評価では,創が閉鎖したかだけでなく,防御知覚,胼胝・潰瘍,皮膚のずれ,荷重痛,装具又は特注靴の必要性,連続歩行時間及び再建組織の耐久性を確認する必要がある。通常歩行が可能であるという一点から,長時間の立位,階段,坂道,しゃがみ動作又は作業靴の使用に支障がないとはいえない。
第3 後遺障害等級の評価経路
1 足関節・足部で問題となる主な自賠責等級
| 残存障害 | 主な自賠責等級 | 基準又は評価の要点 |
|---|---|---|
| 1下肢を足関節以上で失ったもの | 5級5号 | 足関節以上の切断又は離断 |
| 1下肢の3大関節中の1関節の用を廃したもの | 8級7号 | 強直又はこれに近い状態等 |
| 1足の足指の全部の用を廃したもの | 9級15号 | 全足趾の機能障害 |
| 1下肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの | 10級11号 | 原則として主要運動の可動域が健側の2分の1以下 |
| 1下肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの | 12級7号 | 原則として主要運動の可動域が健側の4分の3以下 |
| 局部に頑固な神経症状を残すもの | 12級13号 | 他覚的所見により神経症状を証明できる場合等 |
| 下肢の露出面にてのひらの大きさの醜いあとを残すもの | 14級5号 | 膝関節以下の露出面に残る瘢痕の部位及び面積 |
| 局部に神経症状を残すもの | 14級9号 | 症状を医学的に説明できる場合 |
自賠責と労災では,同じ障害でも号数が異なるものがある。例えば,足関節の著しい機能障害は自賠責10級11号,労災10級10号であり,下肢の露出面の醜状は自賠責14級5号,労災14級4号である。裁決例,認定通知及び判決を引用するときは,制度名を付けずに号数だけを転記してはならない。
2 足関節可動域の測定方法
厚生労働省の関節機能障害の評価資料では,足関節の主要運動は屈曲及び伸展であり,原則として主要運動の可動域を健側と比較する。主要運動が健側の2分の1をわずかに上回る場合又は4分の3をわずかに上回る場合には参考運動を用いることがあるが,「わずかに」は原則として5度以内とされている。
「関節の用を廃したもの」には完全強直だけでなく,関節可動域が健側の10%程度以下に制限された状態が含まれる。10%程度は,健側の可動域角度の10%に相当する角度を5度単位で切り上げて判断する。したがって,8級,10級及び12級の境界では,数値を丸める前の実測値,健側値,測定肢位,自動・他動の別及び測定日を確認する必要がある。
足関節の可動域制限と後遺障害12級7号では,可動域の合算方法,代償動作及び測定値の信用性を詳しく整理している。本記事では,デグロービング損傷に固有の器質的原因及び組織欠損との関係に重点を置く。
3 可動域の数値だけでは足りない
可動域制限を事故による後遺障害として評価するには,骨折,脱臼,関節面不整,腱断裂・癒着,筋欠損,瘢痕拘縮又は治療上必要であった長期固定・免荷とのつながりを示す必要がある。受傷部位が足趾又は皮膚に限られ,足関節自体の外傷,神経学的所見及び治療経過からの説明が乏しい場合には,測定値が制限域にあっても事故との因果関係が否定され得る。
また,一回の症状固定時測定だけが他の診療記録と大きく異なる場合には,測定の信用性が争われる。初療後,術後,荷重開始時,退院時及び症状固定時の可動域を並べ,変化の理由を画像,手術記録及びリハビリ記録から説明することが必要である。
4 足趾,神経症状,醜状及び組織欠損
足部デグロービングでは,足趾切断,伸筋腱の断裂・癒着及び中足趾節関節の機能障害が足関節障害と並存し得る。足関節と足趾は別の項目であっても,障害系列及び派生関係によって等級の処理が変わるため,各関節の可動域と原因組織を分けた上で最終的な併合又は系列処理を行う必要がある。
知覚脱失,異常感覚及び疼痛については,骨折部の荷重痛,瘢痕部痛,末梢神経損傷及びCRPSを分ける。疼痛が強いというだけで12級又はCRPSになるものではなく,損傷神経,知覚分布,筋力,反射,電気生理検査,皮膚温,発汗,皮膚萎縮,骨萎縮及び関節拘縮等の所見との整合が問題となる。
下肢の露出面は,厚生労働省基準では膝関節以下であり,足背を含む。他方,植皮部又は採皮部に残った瘢痕が醜状に該当しても,瘢痕の下にある筋・神経・血管の欠損による機能低下を当然に評価済みとすることはできない。外観上の問題と,荷重,知覚,筋力,浮腫及び皮膚脆弱性による機能上の問題を分けて記録する必要がある。
5 併合と重複評価
複数の障害が残った場合でも,すべてを機械的に併合できるわけではない。同一系列に属する複数障害,通常派生する関係にある障害又は一つの重い欠損障害に含まれる障害では,重複評価を避ける処理が必要になる。他方,足関節機能,足趾機能及び下肢醜状が別の障害として評価され,併合又は準用によって全体等級が定まる事例もある。
等級の検討表には,各症状について,①原因となった組織損傷,②該当候補の等級,③同一系列又は派生関係,④既に別の等級で評価された機能,⑤なお評価されていない機能を記載すると,評価漏れと重複評価を同時に確認できる。
第4 裁判例が示す認定上の分岐
1 足関節機能障害が否定又は引き下げられた事例
京都地裁令和7年3月25日判決は,右足デグロービング損傷後に足趾切断等が残った事案で,足関節の自覚的な可動域制限について,足関節自体の外傷及び神経学的な裏付けが乏しいとして等級評価に採用しなかった。他方で,足趾欠損・機能障害を同一系列の9級相当,瘢痕を14級5号とし,併合9級相当を前提に20歳の被害者について35%の労働能力喪失を67歳まで認めた。診断名及び主観的可動域だけでなく,足関節制限を生じさせる器質的な経路が必要であることを示す。
大阪地裁令和3年9月24日判決は,自賠責の異議申立てで認定された足関節10級11号について,画像上の骨癒合,可動域の改善及び医学的所見を検討し,訴訟では足関節機能障害を否定した。裁判所は自賠責の等級認定に拘束されないため,認定票だけでなく,その基礎となった全画像,診療録及び可動域の経時記録を検討する必要がある。
京都地裁平成26年10月14日判決は足関節の用廃を8級7号等として併合6級としたが,大阪高裁平成27年3月20日判決は,事故後の医療機関で測定された可動域を重視し,足関節を10級11号へ変更した上で,全足趾の障害と同一系列8級,醜状12級との併合7級とした。有利な症状固定時測定だけを引用せず,控訴審を含む経時的評価を確認すべき事例である。
2 瘢痕の逸失利益が肯定・否定された事例
東京地裁平成26年8月27日判決は,幼児の足背瘢痕14級5号について,将来の職業選択への影響を考慮して5%の労働能力喪失を18歳から67歳まで認めた。しかし,東京高裁平成26年12月24日判決は,瘢痕が足背にあり通常は靴等で隠れること,具体的な職業選択への影響が明らかでないこと等から,逸失利益を全て否定した。原判決だけを一般化することはできない。
東京地裁平成30年9月14日判決も,14歳女子の下肢瘢痕について,外貌を重視する職業に就く具体的な準備がないとして逸失利益を否定した一方,後遺障害慰謝料400万円を認めた。これに対し,東京地裁令和4年11月14日判決は,足部・足関節の重度損傷後に残った痛み及び瘢痕を併合14級とし,美容師の職務内容等を考慮して5%・5年間の逸失利益を認めている。
東京地裁令和元年7月19日判決は,広範な左下肢デグロービング損傷について,瘢痕の外観だけでなく,皮下組織等の欠損,周径差,筋力低下,感覚消失,乾燥及び浮腫等を具体的に認定し,併合6級の標準率をそのまま用いるのではなく,現実の機能と就労支障から25%の労働能力喪失を認めた。瘢痕とその下の組織欠損を分けて立証する意義を示す事例である。
3 疼痛及びCRPSの評価
総務省行政不服審査会令和5年度答申第49号が扱った労災事案では,右足部デグロービング損傷等について,足関節の著しい機能障害,全足趾の用廃,植皮痕及び踵骨骨折後の疼痛を合わせた総合等級は8級であった。しかし,疼痛自体は踵骨骨折による14級9号であり,末梢神経損傷,RSD又はカウザルギーに基づくものではないと判断された。
この答申は,総合等級が高いことと,疼痛単独が12級以上の神経障害に該当することを区別している。CRPS又は末梢神経損傷を主張する場合には,痛みの程度だけでなく,原因,客観的所見及び時間的経過を示す必要がある。
4 踵の荷重障害及び装具依存
横浜地裁平成27年1月22日判決は,踵部デグロービング損傷後の装具常用及び荷重障害を,単純な可動域測定だけでなく,関節不安定性に準じた機能上の問題として評価した。踵・足底の事案では,角度測定と別に,装具の種類,処方理由,実際の装着頻度,装具なしでの立位・歩行,潰瘍歴及び再建部の耐久性を資料化する必要がある。
動揺関節を主張する場合のストレス撮影,徒手検査及び装具の証拠化は,動揺関節の立証手段としてのストレスレントゲン撮影で説明している。
5 切断,義足及び小児の将来損害
大阪地裁令和2年3月26日判決は,左足の開放性脱臼骨折・デグロービング損傷後に左下腿切断となった事案で,5級5号を前提に,義足を装着できることだけを理由として標準的な79%の労働能力喪失率を下げず,19年間の逸失利益を認めた。
9歳女子の右足デグロービング損傷後に足関節上切断となった事案について,札幌高裁令和5年5月30日判決は,5級5号及び79%の喪失を前提とした原判決を維持した。控訴審は,将来介護費について,義足使用により基本的な日常生活動作が可能で,医師による介護指示もないこと等から否定した一方,症状固定後の義足リハビリテーション及び18歳までの専門医による経過観察費を認めた。小児では,義足交換費だけでなく,成長,学校生活,水泳,リハビリテーション及び将来医療を項目ごとに検討する必要がある。
6 糖尿病等の素因
千葉地裁令和3年5月31日判決は,右下肢デグロービング損傷後の大腿切断等により併合1級となった事案で,糖尿病等が創傷治癒及び感染に寄与したことを認めつつ,損傷自体の重篤性等を踏まえ,素因減額を15%にとどめた。糖尿病があるという事実だけで大幅な減額割合が決まるものではなく,事故前の治療状況,血糖管理,受傷外力,感染経過及び医学的寄与を具体的に検討する必要がある。
第5 主張立証に必要となる資料
通常の対応 本記事で扱う類型でも,弁護士が通常行う作業は,症状固定後に既存の診療録,画像,検査報告書及び後遺障害診断書を取得し,認定理由と照合して不足点を特定するところまでである。
本記事で挙げる追加検査又は専門的評価は,治療又は診断上の必要性を主治医若しくは担当専門医が判断するものであり,弁護士が検査方法を設計し,原画像若しくは生データを自ら医学的に解析し,又は訴訟上有利な資料を得る目的だけで手配するものではない。
既存資料で等級判断に必要な事実を確認できる場合は,追加検査又は医学意見書を重ねる必要はなく,具体的な否定理由又は未解決の医学的争点が結論を変え得る場合に限って専門的対応を検討する。
1 被害者側が優先して収集する資料
最初に収集すべき中心資料は,初療医療機関の診療録・画像,手術記録及びその後の経過記録である。具体的には,①初療時の診療録及び写真,②全手術記録及び手術図,③デブリードマン,植皮・皮弁及び採皮部の記録,④単純X線・CT・MRI・血管画像,⑤リハビリテーション記録,⑥症状固定前後の可動域表,⑦後遺障害診断書,⑧装具処方箋,⑨瘢痕の定規入りカラー写真を時系列に並べる。
救急活動記録票は医療機関の診療記録ではなく,消防機関が作成する記録である。受傷機転,医療処置前の状態,現場処置又は搬送時間が争点となり,その事項が実際に記録されている場合に,消防機関から取得する補助資料と位置付ける。
これらの資料から,皮膚,皮下脂肪,筋,腱,神経,血管,骨及び関節のどこが損傷し,どの組織損傷が現在のどの症状を生じさせているかを一覧化する。医師意見書は,基礎資料に残る具体的な争点を解消できる場合に検討すべきであり,初めから診療録及び画像の代わりとして依頼するものではない。
2 可動域及び神経症状の証拠化
可動域表には,患側・健側,自動・他動,測定日,測定者及び疼痛・代償動作の有無を記載する。一回だけの数値が問題となる場合は,過去のリハビリ記録との一致を確認し,不一致があれば骨癒合,荷重開始,腱癒着,瘢痕拘縮又は測定条件の変化から説明できるかを検討する。
神経症状については,単に「しびれ」「痛み」と書くのでは足りない。知覚地図,筋力,損傷神経の走行,Tinel徴候,電気生理検査,発汗・皮膚温・色調・萎縮及び疼痛部位を対応させ,骨折痛,瘢痕痛,末梢神経損傷及びCRPSのどれを主張するのかを明確にする。
3 就労支障及び逸失利益の証拠化
逸失利益では,等級表の標準的な労働能力喪失率と,個別の職務上の支障を分けて主張する。立位・歩行時間,階段,坂道,しゃがみ,走行,重量物運搬,作業靴,制服,接客,皮膚保護のための休憩,配置転換及び減収を,職務記録,給与資料,勤務先の説明及び本人の具体的な活動記録と対応させる。
収入が事故前を下回っていない場合でも,将来の配置,昇進又は転職への影響が直ちに否定されるものではないが,抽象的な可能性だけでは足りない。他方,瘢痕等級が認定されたという理由だけで標準喪失率全てが当然に認められるものでもない。裁判例が分かれるのは,この具体的な職務影響の立証に差があるためである。
4 保険会社側から想定される反論
保険会社側からは,①足関節自体に骨折・脱臼等がなく因果関係がない,②過去の可動域は良好で症状固定時測定だけが悪い,③痛みに客観的所見がない,④瘢痕は衣服又は靴で隠れ労働能力に影響しない,⑤歩行又は復職ができている,⑥糖尿病等が治癒遅延に寄与した,⑦足関節,神経及び瘢痕を重複評価しているとの反論が想定される。
被害者側は,これらに対し,結論だけの医学意見ではなく,画像,手術所見,可動域の時系列,知覚分布,装具の処方理由及び具体的職務を結び付ける必要がある。反対に,保険会社側も,自賠責の認定結果又は復職の一事だけに依拠せず,残存機能と職務内容を個別に検討する必要がある。
第6 申請,異議申立て及び訴訟の進め方
1 初回申請前の確認
初回申請前には,後遺障害診断書に,足関節及び全足趾の可動域,神経症状,瘢痕・採皮部,筋力,装具及び症状固定日が記載されているかを確認する。既存の診療録及び画像で原因を説明できない症状を,診断書の数値だけで上位等級として申請しても,因果関係又は器質的裏付けが争われやすい。
2 異議申立てを行う条件
異議申立ては,初回判断の誤りを変え得る新資料又は見落としがある場合に行う。例えば,未提出の手術記録に腱・神経損傷が記載されている,過去の可動域推移が因果関係を裏付ける,採皮部が診断書から漏れている,装具の医学的必要性が未評価である,画像の読影上重要な所見があるという場合である。
これに対し,同じ資料と同じ主張を言い換えるだけで結論が変わる可能性は低い。鑑定又は専門医意見のような高負担の手段は,既存資料を整理した後に残る具体的争点があり,その争点が解消すれば等級又は損害額が変わる場合に限って検討するのが相当である。
3 訴訟では等級認定と損害評価を分ける
訴訟では,裁判所は自賠責の等級認定に拘束されない。被害者は,後遺障害の存在,事故との因果関係及び労働能力への影響を証拠により主張する必要があり,保険会社側は,器質的原因,測定値の信用性,重複評価及び具体的な就労支障を争い得る。
また,自賠責の等級と民事上の労働能力喪失率は同じ概念ではない。等級認定が維持されても,醜状が職務に影響しないとして逸失利益が否定又は減縮される場合がある一方,等級表だけでは表現しにくい組織欠損の具体的機能を踏まえて喪失率が認められる場合もある。自賠責保険の支払基準は,自賠責限度額内の算定構造を確認するための別記事である。
4 時効を別に管理する
自賠責保険に対する被害者請求権について,自動車損害賠償保障法19条は,被害者又は法定代理人が損害及び保有者を知った時から3年で時効消滅すると定める。加害者等に対する不法行為損害賠償請求権とは根拠条文及び起算点の検討が同一ではないため,自賠責への申請又は異議申立てを続けているという理由だけで,損害賠償請求権を含む全ての期間管理が済んだものとしてはならない。
第7 出典・参考資料
1 法令・行政資料
④ 厚生労働省「せき柱及びその他の体幹骨,上肢並びに下肢の障害等級認定基準の一部改正について」,資料上10頁~11頁
⑤ 厚生労働省「外貌の醜状障害に関する障害等級認定基準について」,資料上2頁~5頁
⑥ 総務省行政不服審査会令和5年度答申第49号,4頁~12頁
2 裁判例
① 京都地裁令和7年3月25日判決・令和6年(ワ)第144号・判例秘書L08051140(裁判所HP未掲載)
② 札幌高裁令和5年5月30日判決・令和5年(ネ)第16号・自保ジャーナル2155号1頁・判例秘書L07820713(裁判所HP未掲載),原審・函館地裁令和4年12月15日判決・令和3年(ワ)第181号・判例秘書L07751802(裁判所HP未掲載)
③ 東京地裁令和4年11月14日判決・令和3年(ワ)第4006号ほか・自保ジャーナル2136号124頁・判例秘書L07731889・判例体系〔29073604〕(裁判所HP未掲載)
④ 大阪地裁令和3年9月24日判決・令和元年(ワ)第11651号・判例秘書L07650883(裁判所HP未掲載)
⑤ 千葉地裁令和3年5月31日判決・平成28年(ワ)第2415号・自保ジャーナル2101号1頁・判例秘書L07651557(裁判所HP未掲載)
⑥ 大阪地裁令和2年3月26日判決・平成30年(ワ)第10978号・交通事故民事裁判例集53巻2号489頁・判例秘書L07550394・判例体系〔28284215〕(裁判所HP未掲載)
⑦ 東京地裁令和元年7月19日判決・平成28年(ワ)第33555号・交通事故民事裁判例集52巻4号875頁・判例秘書L07432195・判例体系〔29057552〕(裁判所HP未掲載)
⑧ 東京地裁平成30年9月14日判決・平成29年(ワ)第13735号・自保ジャーナル2035号68頁・判例秘書L07331927・判例体系〔28271509〕(裁判所HP未掲載)
⑨ 大阪高裁平成27年3月20日判決・平成26年(ネ)第3096号ほか・判例秘書L07020944(裁判所HP未掲載),原審・京都地裁平成26年10月14日判決・平成25年(ワ)第2909号ほか・判例秘書L06951391(裁判所HP未掲載)
⑩ 横浜地裁平成27年1月22日判決・平成24年(ワ)第1958号・交通事故民事裁判例集48巻1号131頁・判例秘書L07051486・判例体系〔28232173〕(裁判所HP未掲載)
⑪ 東京高裁平成26年12月24日判決・平成26年(ネ)第5105号・自保ジャーナル1942号30頁・判例秘書L06920788・判例体系〔28231880〕(裁判所HP未掲載),原審・東京地裁平成26年8月27日判決・平成25年(ワ)第28950号・交通事故民事裁判例集47巻4号1040頁・判例秘書L06930479・判例体系〔28225015〕(裁判所HP未掲載)
3 医学文献
① 一杉正仁・西山慶編『交通外傷―メカニズムから診療まで』名古屋大学出版会,2020年,186頁~187頁
② Yang Yほか,The Morel-Lavallée Lesion: Review and Update on Diagnosis and Management,Orthopaedic Surgery,2023年,15巻10号2485頁~2491頁,PMCID PMC10549858
③ 津田宗一郎ほか「挟撃損傷によるデグロービング損傷の1例」,整形外科と災害外科71巻3号517頁~519頁,2022年
④ 横井卓哉ほか「有茎内側足底皮弁と後脛骨動脈穿通枝皮弁により再建した広範囲踵部デグロービング損傷の1例」,日本マイクロサージャリー学会会誌35巻2号35頁~39頁,2022年,DOI 10.11270/jjsrm.35.35