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第1 骨折名から後遺障害等級へ直結させない
1 本記事の対象
内果骨折,外果骨折及び後果骨折は,いずれも足関節を構成する果部の骨折であるが,骨折名又は手術歴だけで後遺障害等級が決まるものではない。本記事は,交通事故によるこれらの骨折について,症状固定時に足関節の可動域制限,痛み,不安定性又は変形が残った場合の等級と,その判断に必要となる画像,診療録及び測定記録を扱う。資料の収集及び整理には生成AIを用いたが,法令,行政基準,裁判例及び医学文献の重要な命題は原典で照合した。
足関節の可動域制限と後遺障害12級7号では,背屈・底屈の合算方法,測定軸,代償動作及び測定値の信用性を詳しく整理している。本記事ではこれらの一般論を必要な範囲にとどめ,内果,外果及び後果ごとに見落としやすい器質的原因と,骨折から等級までの証拠のつながりに重点を置く。
本記事は一般的な情報提供を目的とするものであり,特定の事故について等級又は賠償額を保証するものではない。個別事件の結論は,受傷時の損傷,治療経過,症状固定時期,既往障害,測定方法及び職務内容によって変わる。
2 内果,外果及び後果の位置と役割
日本整形外科学会の説明によれば,足関節は脛骨,腓骨及び距骨から構成され,内果と後果は脛骨遠位部,外果は腓骨遠位部にある。内果は内側支持機構及び三角靱帯,外果は腓骨の長さ・回旋と遠位脛腓靱帯結合,後果は脛骨後縁の関節面,後下脛腓靱帯及び腓骨切痕との関係が重要となる。日本整形外科学会「足関節果部骨折(脱臼骨折)」
一果骨折,両果骨折及び三果骨折では,骨折した部位だけでなく,距骨が足関節のモルティス内で適合しているか,脱臼又は亜脱臼を伴ったか,軟骨・靱帯・神経血管及び皮膚軟部組織にどこまで損傷が及んだかが異なる。脛骨天蓋の圧潰を主病変とするpilon骨折は,通常の回旋型果部骨折とは病態が異なるため,別に評価する必要がある。
3 診断,事故起因性,残存機能及び等級を分ける
画像で骨折,偽関節又は軟骨病変が見つかることは診断上の所見であり,その所見が当該事故で生じたかは事故起因性の問題である。さらに,その損傷が症状固定時の可動域制限又は疼痛を生じさせているかは残存機能の問題であり,その程度が自賠責又は労災の基準を満たすかは等級評価の問題である。これらを一段階で処理すると,「重い骨折名だから高い等級になる」「骨癒合が良好だから後遺障害はない」という誤った結論になりやすい。
本記事では,①受傷時の損傷,②整復及び治療後に残った器質的原因,③症状固定時の反復可能な機能障害,④行政上の等級,⑤現実の労働能力及び民事損害という順序で検討する。この証拠鎖のどこが欠けているかを確認することが,追加資料の優先順位を決める基礎となる。
第2 自賠責及び労災で問題となる等級
1 機能障害の第8級,第10級及び第12級
自動車損害賠償保障法施行令別表第二及び労働者災害補償保険法施行規則別表第一では,足関節の機能障害を次のように区分している。自賠責と労災では,第10級の号数及び神経症状の一部の号数が異なるため,制度を区別して記載する必要がある。
| 残存障害 | 自賠責 | 労災 | 主な判断基準 |
|---|---|---|---|
| 足関節の用廃 | 第8級7号 | 第8級7号 | 強直,これに近い状態又は完全弛緩性麻痺等 |
| 著しい機能障害 | 第10級11号 | 第10級10号 | 主要運動の合計が健側の2分の1以下 |
| 機能障害 | 第12級7号 | 第12級7号 | 主要運動の合計が健側の4分の3以下 |
| 頑固な局部神経症状 | 第12級13号 | 第12級12号 | 疼痛等を医学的所見によって説明できる場合 |
| 局部神経症状 | 第14級9号 | 第14級9号 | 症状の一貫性・継続性等から医学的に説明できる場合 |
「強直に近い状態」は,健側の可動域の10%程度以下に制限された状態をいい,10%に相当する角度は5度単位で切り上げる。また,可動域が10度以下に制限されている場合も含まれる。傷病名が三果骨折又は脱臼骨折であっても,症状固定時の残存機能がこの基準を満たさなければ,機能障害の上位等級にはならない。
2 背屈と底屈の合計を原則として他動値で比較する
足関節の主要運動は背屈と底屈であり,患側の両運動の合計値を健側の合計値と比較する。厚生労働省の認定基準は,可動域制限の原因を明らかにした上で,原則として他動運動の可動域を用いる。末梢神経損傷による弛緩性麻痺,筋損傷又は腱断裂等のため他動値では障害の実態を捉えられない場合には自動値を検討する余地があるが,単に自動値の方が小さいという理由では足りない。厚生労働省・平成16年6月4日基発第0604003号
平成16年の厚生労働省測定表は,足関節の基本軸を下腿骨軸への垂線,移動軸を第5中足骨とする。これに対し,令和4年4月から用いられている学会改訂法は,基本軸を矢状面における腓骨長軸への垂直線,移動軸を足底面とし,参考可動域を背屈20度,底屈45度とする。日本リハビリテーション医学会「関節可動域表示ならびに測定法改訂」 両者を公式に統一した現行資料は確認できないため,境界事案では,測定値だけでなく,測定軸,膝関節の肢位,他動・自動の別,測定者,測定日及び反復回数を確認すべきである。
3 痛み,動揺性及び変形は別の認定経路となり得る
適式な可動域が健側の4分の3を超えていても,骨折部,外傷後関節症,神経損傷又はCRPSによる痛みが残る場合には,自賠責第12級13号又は第14級9号が問題となり得る。ただし,機能障害と同一の器質的原因から通常派生する痛みは,機能障害と別に併合されないことがあるため,痛みの部位,原因及び障害系列を分ける必要がある。
骨癒合後も足関節の不安定性が残る場合,厚生労働省の認定基準は,硬性補装具を常に必要とするものを第8級,時々必要とするものを第10級,重激な労働等の際以外には必要としないものを第12級に準じて扱う。動揺性を主張する場合は,損傷した靱帯,荷重時所見,徒手検査,必要に応じたストレス撮影及び装具の実使用を対応させる必要がある。動揺関節の立証手段としてのストレスレントゲン撮影では,撮影方法と数値の限界を説明している。
腓骨又は脛骨の変形がある場合には第12級8号等が問題となり得るが,所定の長管骨変形を満たす必要がある。骨折部の局所的な肥厚,手術痕又はインプラントの存在だけで長管骨の変形障害になるわけではない。
第3 内果,外果及び後果ごとの確認事項
1 内果骨折では関節面,三角靱帯及び神経を分ける
内果骨折では,①骨折線が関節面へ及ぶか,②転位及び整復後の段差,③遷延癒合又は偽関節,④三角靱帯損傷,⑤内側関節裂隙,⑥後脛骨神経又は足底神経の障害,⑦足根管症状,⑧内側疼痛の圧痛点を確認する。画像上の偽関節が無症候である場合と,荷重痛,圧痛及び歩行制限を伴う症候性偽関節とでは,残存機能との結び付きが異なる。
内果の骨癒合が良好でも,関節包損傷,三角靱帯機能不全,神経障害又は軟部組織拘縮が残ることがある。他方,画像及び診療録がいずれも関節適合性と可動域の回復を示し,痛みの部位にも対応する所見がない場合には,骨折名だけで継続的な障害を説明することは困難となる。
2 外果骨折では腓骨の長さ・回旋とモルティスを見る
外果骨折では,①骨折の高さと形態,②腓骨の短縮又は回旋不良,③距骨の偏位,④内側関節裂隙,⑤遠位脛腓間の離開,⑥三角靱帯損傷,⑦荷重位でのモルティス適合,⑧プレート又はスクリュー周囲の症状,⑨皮膚・筋腱の瘢痕拘縮を確認する。Danis-Weber分類は外果骨折の高さを脛腓靱帯結合との関係で整理するが,後果,内側支持機構及び関節面適合性の全てを示すものではない。
外果だけが良好に癒合したという所見は重要であるが,脛腓靱帯結合の不整復,距骨偏位又は軟部組織拘縮まで当然に否定するものではない。反対に,転位のない外果先端剥離骨折が短期間で癒合し,反復測定と画像の双方に残存障害が現れない場合には,機能障害等級を否定する方向の資料となる。
3 後果骨折では骨片面積よりCT形態と関節適合性を重視する
後果骨折では,①受傷時CT,②骨片の位置及び形態,③腓骨切痕への進展,④後内側骨片,⑤関節面の段差又は離開,⑥距骨亜脱臼,⑦後下脛腓靱帯及び脛腓靱帯結合,⑧固定方法,⑨術後CT又は正確な側面像,⑩外傷後関節症の進行を確認する。単純エックス線は骨片の大きさ及び形態を過小評価し得るため,複雑骨折又は後果骨折の治療計画ではCTが重要となる。British Orthopaedic Association, BOAST 12
後果骨片が関節面の25%又は33%を超えるかという割合は,治療選択の一要素ではあるが,それだけで固定適応,長期予後又は後遺障害等級を決めることはできない。現在は,骨片形態,腓骨切痕,関節面段差,距骨亜脱臼及び脛腓靱帯結合の安定性を統合する方向にある。
4 両果・三果骨折及び脱臼骨折は各果の癒合だけで評価しない
両果骨折,三果骨折又は脱臼骨折では,各果の骨癒合だけでなく,距骨がモルティス内の解剖学的位置へ戻ったか,関節面段差が残ったか,脛腓靱帯結合が整復されたか,軟骨及び皮膚軟部組織の初期損傷がどの程度であったかを確認する。重症な傷病名は将来の障害を疑う端緒にはなるが,症状固定時の機能と器質的原因までつながらなければ等級の直接証明にはならない。
| 骨折部位 | 特に確認する構造 | 症状固定時に対応させる資料 |
|---|---|---|
| 内果 | 関節面,三角靱帯,内側関節裂隙,後脛骨神経・足底神経 | CT・エックス線,圧痛点,知覚検査,Tinel徴候,可動域 |
| 外果 | 腓骨長・回旋,モルティス,遠位脛腓靱帯結合 | 整復前後像,荷重位像,手術記録,不安定性,装具使用 |
| 後果 | 関節面段差,腓骨切痕,後内側骨片,距骨亜脱臼 | 受傷時CT,術後像,脛腓靱帯結合評価,関節症の推移 |
第4 近年の医学研究が示す射程と限界
1 後果骨折の分類及び関節面段差
後果骨折の分類に関する110研究,1万2614人を対象とした系統的レビューでは,骨片面積,Haraguchi分類,Bartoníček-Rammelt分類及びMason分類等が検討されたが,治療アルゴリズム又は予後を一義的に導ける単一分類は確立していない。したがって,分類名を記載するだけでなく,当該CT上の形態と,その形態が関節適合性及び安定性へ及ぼす意味を説明する必要がある。
三果骨折手術例169例を平均6.3年追跡した研究では,術後1mmを超える関節面段差を65例(39%),画像上の変形性関節症を49例(30%)に認め,1mmを超える段差は変形性関節症の独立した危険因子であった。もっとも,これは集団レベルの観察研究であり,1mmという数値だけで個別事件の症状,事故起因性又は等級を確定するものではない。
2 内果・外果の手術選択を後遺障害へ短絡させない
外果等を固定した後に2mm以内へ整復された内果骨折154例の無作為化試験では,1年時の患者報告アウトカムについて内果固定の優位性を認めなかった。他方,非固定群では画像上の偽関節が20%に生じ,症候性はその一部であった。この結果は,外果固定後に良好な整復が得られた内果骨折に限られ,孤立性内果骨折又は整復不良例へ直接適用できない。
初回画像でモルティスが適合する孤立性Weber B型外果骨折126例の無作為化試験では,2年時の足関節機能についてギプス固定が手術に非劣性であった。この試験は骨折脱臼,多果骨折,モルティス不適合及び開放骨折を除外しているため,重い損傷へ外挿できない。保存治療又は手術という選択だけから,後遺障害の不存在又は医療上の過失を推認すべきではない。
3 将来の変形性足関節症は現在の所見から個別化する
果部骨折後には外傷後変形性足関節症が問題となり得るが,医学研究が示す発症割合を個別被害者へそのまま当てはめることはできない。将来の関節症,関節固定術又は人工関節置換術を損害として主張するときは,現在の関節裂隙,関節面適合性,疼痛の進行,年齢,治療計画及び主治医の具体的見通しを対応させる必要がある。
画像上の関節症変化があることと,その変化によって現在の仕事又は日常生活がどの程度制限されているかも別問題である。画像は病変の存在,部位及び経時変化を示すが,事故起因性,症状固定時の機能及び等級は,診療経過と測定記録を加えて判断する。
第5 画像,診療録及び可動域を時系列でそろえる
1 低負担で先に確保する資料
被害者側が最初に行う作業は,新しい検査又は高額な医学意見を依頼することではなく,既に作成された資料を収集して時系列化することである。①救急搬送記録及び初診カルテ,②整復前後の単純エックス線,③CTのDICOM全シリーズ及び読影報告書,④手術記録及び術中画像,⑤退院時記録,⑥理学療法記録,⑦後遺障害診断書を医療機関へ任意に請求し,骨折型,整復状態,荷重開始時期及び可動域の推移を一つの表にする。
医療機関の保存期間又は運用により全資料が交付されるとは限らないため,事故直後画像及び手術記録は早期に確保する方がよい。相手方保険会社又は自賠責調査事務所が保有する資料は,被害者側が当然に入手できるものではないため,まず自ら取得できる医療記録と認定理由を照合し,どの測定値又は器質的原因が否定されたかを特定する。
2 画像を同じ観点で比較する
画像は,①患者,撮影日,左右及びシリーズが正しいか,②整復前か整復後か,③荷重位か非荷重位か,④単純像かCTかを確認した上で比較する。各時点について,骨折線,転位,関節面段差,腓骨長・回旋,距骨偏位,脛腓間,内側関節裂隙,骨癒合,変形及び関節症変化を同じ書式で記録すると,どの所見が残存障害を説明するかが明確になる。
読影報告書だけで争点を確定せず,必要に応じてDICOM画像と撮影条件を確認する。他方,異常画像を見つけただけで結論を出さず,その所見が症状の部位,発現時期,可動域の終末感及び歩行障害と解剖学的・時間的に整合するかを検討する。
3 可動域は一回値ではなく経過として監査する
後遺障害診断書では,患側・健側の背屈及び底屈,他動・自動の別,測定日,測定肢位及び制限原因を確認する。診断書の一回値だけでなく,固定解除後から症状固定までの理学療法記録を並べ,一度正常域へ改善した後に急に悪化した場合には,測定方法の違い,抜釘,感染,関節炎又は新たな外傷等の理由があるかを調べる。
同一測定者による反復測定,他動・自動の併記,膝屈曲位,基本軸・移動軸,5度単位及び代償動作の除外を確認する。健側にも既往障害がある場合は,健側比較を機械的に用いず,参考可動域へ切り替える根拠を記録する。
4 追加検査へ進む条件と停止基準
既存資料を整理した後も,①単純エックス線では後果又は関節面を評価できない,②症状部位と既存画像が対応しない,③複数の可動域が等級の境界をまたぐ,④動揺性又は神経損傷が未評価である,という具体的な未解決点が残る場合に限り,主治医照会,CT,MRI,ストレス撮影又は専門医意見を検討する。追加検査は,何が判明すれば等級判断が変わるかを先に定めてから依頼すべきである。
反対に,適式な反復他動値が一貫して健側の4分の3を明らかに上回り,痛み,動揺性,変形又は神経損傷の独立した原因所見もない場合,高額な私的鑑定を追加しても機能障害等級が変わる可能性は低い。新しい病態仮説又は未確認画像がなく,残る疑問が等級判断を変えないことを確認した段階を,追加調査の停止基準とする。
第6 原典で確認できる認定例及び裁判例
1 三果骨折を伴う脱臼骨折を労災第12級7号とした決定事例
厚生労働省が公表した平成23年度の労災保険審査官決定事例には,右足関節脱臼骨折について,原処分の第14級9号を取り消して第12級7号とした例がある。主治医の他動値は右45度・左55度,監督署職員の測定値は右50度・左60度で,いずれも4分の3以下ではなかったが,地方労災医員は右60度・左95度と測定した。また,三果骨折,後果の約2分の1の後上方転位,関節面の階段状変形,軟骨損傷及び外傷性足関節炎を画像と診察所見から評価した。厚生労働省「平成23年度労災保険審査官決定事案・障害等級関係」決定書例2
審査官は,地方労災医員の意見を採用し,可動域制限を第12級7号,頑固な神経症状を労災第12級12号に該当するとした上で,神経症状は機能障害から通常派生する関係にあるとして,最終的に第12級7号と判断した。この事例は,複数の測定値がある場合に最小値を機械的に選ぶのではなく,測定条件,画像及び臨床所見を一体として信用性を評価することを示している。
2 関節面不整を認めなくても第12級7号相当とした裁判例
神戸地方裁判所尼崎支部平成14年1月30日判決(平成12年(ワ)第630号)は,右脛骨内果骨折後の足関節障害を扱った。事前の自賠責認定は,関節面不整と可動域2分の1以下を根拠に第10級11号としていたが,裁判所は症状固定時に最も近いエックス線上で関節面不整を認めず,第10級認定をそのまま採用しなかった。裁判所公式判決PDF
もっとも,裁判所は,5回の可動域測定,抜釘前後の推移,関節内に及ぶ骨折による関節包損傷,継続する疼痛及びリハビリ経過を検討し,著しい機能障害には至らないが,第12級7号相当の後遺障害を認めた。この判決の射程は,関節面不整がないという一つの反対資料だけで軟部組織損傷,疼痛及び反復測定の経過を排除すべきでないという点にある。
3 個別事例を一般的な認定傾向へ拡張しない
前記の労災決定例及び裁判例は,画像と複数測定値をどのように評価したかを確認できる資料であるが,これら二件だけから裁判所又は認定機関の一般的傾向を導くことはできない。また,労災の決定例を自賠責へ,行政上の等級を民事上の労働能力喪失率へ,そのまま移すこともできない。
裁判例を利用するときは,裁判所名,年月日,事件番号,確認媒体及び傷病を確認し,対象事案と異なる骨折型,測定法又は既往障害を捨象しないことが必要である。裁判所ウェブサイトの検索でヒットしないことも,判決の不存在を意味しない。
第7 想定される反論と実務上の判断順序
1 相手方の反論を資料ごとに再検証する
相手方からは,①骨癒合及び関節適合性は良好である,②症状固定前に正常域まで改善している,③可動域が一回だけ又は自動値だけで測定された,④健側も制限され比較対象として不適切である,⑤事故前の骨折又は変形性関節症がある,⑥歩行,運転,スポーツ又は就労状況と申告する制限が一致しない,⑦疼痛は機能障害から通常派生して評価済みである,という反論が想定される。各反論が否定しようとするのが事故起因性,残存機能,等級又は民事損害のいずれであるかを分けると,必要な反証を絞り込むことができる。
被害者側は,これらを抽象的に否定するのではなく,整復前後画像,症状固定までの反復値,画像所見と症状部位の対応,事故前画像又は受診歴,装具の処方・使用状況及び具体的な職務動作を提出する。活動記録がある場合も,活動できたか否かだけでなく,距離,速度,休憩,活動後の疼痛及び代償動作まで確認する必要がある。
2 労働能力喪失は等級と別に具体化する
後遺障害等級は労働能力喪失率の重要な目安であるが,民事裁判所を拘束するものではない。立ち仕事,長距離歩行,階段,不整地,しゃがみ込み,重量物運搬又は運転ペダル操作を要する仕事では足関節障害の影響が現れやすいが,座位中心の仕事,配置転換又は補助具により影響を軽減できる場合には,標準的な喪失率からの修正が争われ得る。
被害者側では,事故前後の賃金資料だけでなく,職務記述,勤務表,配置転換,休憩増加,作業免除,補助者の必要性及び退職理由をそろえる。減収が生じていない場合には,将来の昇進,職種選択又は就労継続への制約を具体化し,反対に事故後も就労しているという一事だけで労働能力への影響を当然に否定しないよう,実際の負担と職場の配慮を分けて示す必要がある。
3 申請又は追加調査の優先順位
実務上は,①既存の画像・診療録・理学療法記録を収集する,②骨折型から症状固定時までの時系列表を作る,③背屈・底屈の患健側比と測定方法を監査する,④可動域以外の痛み,動揺性,変形及び神経障害を別系列で確認する,⑤否定理由を一つずつ資料へ対応させる,という順序が低負担である。異議を申し立てる場合も,単に症状が重いと述べるのではなく,初回判断を変え得る新しい画像,測定記録又は医学的説明を特定する必要がある。
等級の境界を越える反復値又は残存障害を説明する器質的原因がなく,別系列の障害も認められない場合には,上位等級の主張を続けるより,現在ある資料で認め得る障害と民事上の具体的支障を整理する方が合理的である。時効その他の期間制限は事故時期及び請求の種類により異なるため,等級調査とは別に早期確認を要する。
第8 出典・参考資料
1 法令・行政資料
自動車損害賠償保障法施行令(昭和30年政令第286号)第2条・別表第二
労働者災害補償保険法施行規則(昭和30年労働省令第22号)別表第一
厚生労働省労働基準局長「せき柱及びその他の体幹骨,上肢並びに下肢の障害に関する障害等級認定基準について」(平成16年6月4日基発第0604003号)
厚生労働省「平成23年度(平成24年1月~3月)労働者災害補償保険審査官決定事案・障害等級関係」決定書例2
2 裁判例
神戸地方裁判所尼崎支部平成14年1月30日判決・平成12年(ワ)第630号
3 医学・学会資料
日本整形外科学会・日本リハビリテーション医学会・日本足の外科学会「関節可動域表示ならびに測定法改訂について」Jpn J Rehabil Med 58巻10号1188頁~1200頁(2021年)
British Orthopaedic Association, BOAST 12: The Management of Ankle Fractures(2016年,PDF1頁~2頁)
4 書籍
山下敏彦ほか編『今日の整形外科治療指針 第7版』(医学書院,2016年)836頁~837頁(PDFビューア862頁~863頁)。
加藤義治『医師と損保のためのわかりやすい交通事故外傷ガイドQ&A整形外科編』(保険毎日新聞社,2024年)117頁~121頁(PDFビューア120頁~124頁)。
榎木貴之・小杉晴洋『自賠責・紛争処理事例と判例から読み解く後遺障害等級認定の判断――傾向を踏まえた交通事故事件処理』(新日本法規,2026年)178頁~180頁,402頁~449頁。