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同一の被保全債権について別の財産を追加仮差押えできるか―最高裁平成15年1月31日決定(AI作成)

第1 結論

1 同一債権でも別の財産へ追加申立てができる

最高裁判所第二小法廷平成15年1月31日決定(平成14年(許)第113号)は、特定の目的物について既に仮差押命令を得た債権者であっても、同一の被保全債権に基づき、異なる目的物について更に仮差押命令を申し立てることができる場合があるとした。

要件は、異なる目的物を追加して仮差押えしなければ、金銭債権の完全な弁済を受けるに足りる強制執行ができなくなるおそれがあるとき、又は、その強制執行をするのに著しい困難を生ずるおそれがあるときである。

2 先行命令があるだけでは追加の必要性は認められない

この決定は、「同じ被保全債権なら何度でも仮差押えができる」としたものではない。先行仮差押えの目的物だけでは完全な弁済に足りないこと又は換価・回収に著しい困難があることを、追加目的物との関係で疎明する必要がある。

したがって、債権者は、先行命令の存在を隠さず、既存目的物の現在価値、先順位の担保権・差押え、換価費用、第三者権利、回収見込額及び債権残額を整理する。債務者は、先行仮差押えだけで十分に保全されていること、評価が過小であること又は追加目的物の範囲が過大であることを具体的に争う。

第2 最高裁平成15年1月31日決定

1 事案

債権者は、建物賃貸借契約に伴う敷金3000万円の返還債務について連帯保証人に対する請求権を有していた。平成13年9月、同請求権を被保全債権として、土地及び建物について仮差押命令を得て執行した。

その後、債権者は、同じ3000万円の連帯保証債務履行請求権を被保全債権として、別の土地について追加の仮差押命令を申し立てた。

2 原審と最高裁の判断

原審は、既に同一の被保全債権について仮差押命令が効力を有している以上、別の目的物への新たな申立ては広い意味での一事不再理に反し、権利保護の要件を欠くとして却下すべきものとした。

最高裁はこれを破棄した。仮差押命令の申立てでは、被保全債権に加えて、債務者の特定の目的物について仮差押命令の必要性が審理対象となる。異なる目的物について追加の保全をしなければ完全な弁済に足りる強制執行ができないときは、先行命令とは異なる保全必要性が存在するからである。

3 一事不再理ではなく目的物ごとの保全必要性をみる

先行事件と後行事件で被保全債権が同一でも、目的物が異なり、その目的物との関係で新たな保全必要性が問題となる。したがって、同一債権であることだけを理由に後行申立てを排除することはできない。

もっとも、後行申立てで審理されるのは、既に認められた被保全債権の存在だけではなく、追加目的物を保全しなければならない具体的な危険である。先行命令を添付するだけで疎明が足りるわけではない。

第3 追加申立てで疎明すべき事項

1 被保全債権と残額

①被保全債権の発生原因、元本、利息・遅延損害金及び弁済期
②先行申立て後の弁済、相殺、和解その他の減額事情
③本案の提起・進行状況、債務名義の有無
④追加申立て時点の残額を示す計算書

被保全債権の同一性を明示し、先行命令の事件番号、発令日、目的物及び執行状況を申立書に記載する。

2 先行仮差押物の実価と換価可能性

①不動産の固定資産評価額、査定、占有状況及び売却困難性
②抵当権、租税滞納処分、先行差押えその他の先順位負担
③預金又は売掛金の存否、第三債務者の陳述及び反対債権
④換価費用、優先債権及び配当見込額
⑤目的物の滅失、価値低下、権利関係の変動

帳簿上又は名目上の価額ではなく、最終的な回収見込額を示す。先行仮差押物の評価資料が古い場合は、追加申立て時点に更新する。

3 追加目的物と新たな保全必要性

追加目的物を特定し、債務者の所有又は債権の存在を疎明する。あわせて、追加しなければ完全な弁済に足りない理由又は強制執行が著しく困難となる理由を、先行目的物の不足額と対応させて説明する。

「財産が見つかったから押さえたい」というだけでなく、債権残額、先行目的物の回収見込額、追加目的物の価額及び必要な保全範囲を数量的に示すことが重要である。

第4 過剰保全と仮差押解放金

1 過剰な満足は生じない

最高裁は、複数の目的物に仮差押えをしても、債権者が被保全債権を超えて満足を受けることにはならないと説明した。仮差押えは処分を禁止する保全であり、それ自体が債権者へ優先弁済又は二重の満足を与えるものではない。

ただし、債権回収額を超える財産の処分を長期間拘束すれば債務者の不利益は大きい。目的物ごとの価額と不足額を検討し、必要な範囲を超える保全になっていないかを継続して見直す。

2 先後両命令の解放金

決定は、先後の仮差押命令に定められた仮差押解放金の合計が被保全債権額を超える場合でも、債務者に被保全債権額を超える供託をさせない取扱いが可能であり、その問題は追加命令を発する障害にならないとした。

複数命令がある場合、債権者は先行命令を開示し、裁判所に解放金の重複を避ける取扱いを求める。債務者は、各命令の事件番号、主文、解放金額及び供託状況を確認し、同一債権について合計額が過大になっていないかを点検する。

3 補足意見の位置付け

北川弘治裁判官の補足意見は、先後両命令の解放金合計が被保全債権額を超えるとき、後行命令の主文に、先行命令における解放金の供託によっても供託できる旨を付記する方法を提案した。また、両事件番号を供託書に併記する取扱い等を具体的に示した。

これらは重要な実務上の示唆であるが、法廷意見の判示そのものではなく補足意見である。現在の個別裁判所・供託所の運用を当然に示すものとして引用せず、申立先裁判所及び供託所に事前確認する。

第5 債権者側の実務チェック

①先行仮差押命令正本、事件番号、目的物目録及び執行資料を添付する。
②被保全債権の残額を更新し、先行申立て後の弁済等を反映する。
③先行目的物の現在価値、先順位負担、配当見込額及び換価上の障害を疎明する。
④追加目的物の価額と不足額を対応させ、保全範囲を必要最小限にする。
⑤解放金の重複を避ける主文・供託方法について裁判所に確認する。
⑥本案訴訟の進行と、保全を継続すべき必要性を定期的に見直す。

第6 債務者側の実務チェック

①先行命令と後行命令の被保全債権が同一か、各目的物と価額を確認する。
②先行目的物だけで債権額を十分に保全できることを示す査定、登記、残高又は第三債務者資料を集める。
③債権残額が減少している場合は弁済資料を提出する。
④追加目的物が事業又は生活に与える影響と、より狭い保全範囲で足りることを具体化する。
⑤保全異議、事情変更による保全取消し又は解放金供託を検討する。
⑥複数命令の解放金合計が被保全債権額を超える場合、重複供託を避ける取扱いを申し入れる。

第7 判例の射程と注意点

本決定は、異なる目的物について新たな保全必要性がある場合の追加申立てを認めたものであり、同じ目的物について同じ事情で判断をやり直すことを認めたものではない。また、追加申立てが最終的に認容されるかは、差戻審で保全必要性を更に審理するものとされた。

仮差押えは金銭債権の執行保全を目的とする。本決定の法理を、係争物に関する仮処分又は仮の地位を定める仮処分へそのまま適用することはできない。調査基準日は令和8年9月30日である。

第8 出典・関連記事

1 一次資料

①最高裁判所第二小法廷平成15年1月31日決定(平成14年(許)第113号)
②民事保全法1条、13条、20条から22条、26条、32条、38条及び51条

2 関連記事

①仮差押えとは―要件・手続の流れ・担保・効力・解放金・担保の取戻しの全体像
②仮差押解放金とは―金額の決まり方、供託による執行の取消し及び債権者の回収方法
③仮差押えを受けた債務者の対抗手段―保全異議、起訴命令、事情変更による保全取消し及び保全抗告