メインコンテンツへスキップ

裁判手続の実務

民事訴訟の証明妨害―証拠廃棄・民訴法224条・信義則・事実認定(AI作成)

目次第1 証明妨害の意味と検討順序1 証明妨害とは2 自動的な立証責任転換ではない第2 民事訴訟法224条による処理1 文書提出命令に従わない場合2 相手方の使用を妨げる目的で文書を失わせた場合3 電磁的記録への準用と適用法の確認第3 民事訴訟法224条の外側にある証明妨害1 訴訟上の信義則を基礎とする考え方2 主観面は具体的事実から認定する第4 証明妨害の効果1 複数の処理を区別する2 他の証拠との総合評価第5 裁判例から見た考慮要素1 名古屋高裁金沢支部昭和51年6月16日判決2 令和7年司法試験の事例が示す着眼点第6 訴訟実務のチェックリスト1 証拠を失わせた側を追及する場合2 証拠を失わせたと主張された側の対応第7 関連する山中弁護士ブログの記事第8 出典
第1 証明妨害の意味と検討順序
1 証明妨害とは

証明妨害とは、訴訟当事者が証拠を破棄し、隠匿し、改変し、又は提出を拒むことによって、相手方の証明を不可能又は著しく困難にする行為をいう。
民事訴訟法には文書提出命令違反等について明文の効果があるが、証明妨害の問題は同法224条だけでは尽くされない。
まず同条が直接適用されるかを検討し、直接適用されない場合に民事訴訟法2条の訴訟上の信義則を基礎とする評価が可能かを検討するのが分かりやすい。

2 自動的な立証責任転換ではない

証明妨害が認められても、常に立証責任が転換し、又は相手方の主張が当然に真実となるわけではない。
問題となる証拠の重要性、代替証拠の有無、妨害行為の時期・態様、行為者の認識、他の証拠との整合性を踏まえて、どの程度の不利益な評価をするかを具体的に論じる必要がある。

第2 民事訴訟法224条による処理
1 文書提出命令に従わない場合

民事訴訟法224条1項は,当事者が文書提出命令に従わないとき,裁判所が当該文書の記載に関する相手方の主張を真実と認めることができると定める。
同条3項は,前二項の場合に,相手方が①文書の記載について具体的な主張をすること,及び②その文書で証明すべき事実を他の証拠によって証明することの双方が著しく困難なとき,その事実に関する相手方の主張を真実と認めることができると定める。
「具体的な主張をしたこと」を要件とする規定ではなく,文書の内容を具体的に主張すること自体が著しく困難な場合を対象としている。

規定検討する要件真実と認めることができる対象224条1項当事者が文書提出命令に従わない文書の記載に関する相手方の主張224条2項当事者が相手方の使用を妨げる目的で,提出義務のある文書を滅失させる等,使用不能にする1項と同じ対象224条3項前二項の場合に,文書の記載についての具体的な主張と,他の証拠による要証事実の証明の双方が著しく困難その文書により証明すべき事実に関する相手方の主張

1項・2項の文書の記載と,3項の要証事実を区別して,申立てや準備書面で求める効果を明示する。
いずれも裁判所が真実と認めることができるという規定であり,命令違反や廃棄があれば当然に相手方の全主張が真実となるわけではない。

2 相手方の使用を妨げる目的で文書を失わせた場合

同条2項は、当事者が相手方の使用を妨げる目的で、提出義務のある文書を滅失させるなど使用不能にした場合にも1項と同じ効果を認める。
したがって、提出義務、使用妨害目的、文書の滅失又は使用不能化を区別して事実を主張する必要がある。
単に保管ミスや廃棄があったというだけでは、同項の要件を当然に満たさない。

3 電磁的記録への準用と適用法の確認

現行の民事訴訟法231条の3第1項は,電磁的記録に記録された情報の内容に係る証拠調べについて,224条を含む書証の規定を準用し,提出命令や記載に関する用語の読替えを定めている。
電磁的記録を利用する権限を有する者,対象の記録,削除・上書きの経緯及びバックアップを特定し,提出義務と使用不能化の要件を検討する。
事件の開始時期等により改正法の経過措置が問題になるため,適用法を確認する。
本節の条文は令和8年10月3日にe-Gov法令検索で確認した。

第3 民事訴訟法224条の外側にある証明妨害
1 訴訟上の信義則を基礎とする考え方

民事訴訟法2条は、当事者に対し、信義に従い誠実に民事訴訟を追行する義務を課している。
提出義務のある文書に当たらない場合や、使用妨害目的を直接認定しにくい場合でも、証拠の収集・提出を不可能又は困難にした行為を訴訟上の信義則に反する証明妨害として評価し、事実認定に反映させる考え方がある。

(続きを読む...)民事訴訟の証明妨害―証拠廃棄・民訴法224条・信義則・事実認定(AI作成)

裁判所・法廷で写真撮影,録音又は録画はできるか(AI作成)

目次

第1 結論
第2 場所と立場を分けて考える
第3 裁判所の敷地・庁舎内
第4 民事訴訟の期日
第5 刑事事件の公判廷
第6 報道機関の法廷内カメラ取材
第7 法廷内撮影に関する最高裁判例
第8 肖像・プライバシーは別に確認する
第9 撮影等を希望するときの確認事項
第10 一次資料及び関連記事

第1 結論
1 裁判所で写真撮影,録音又は録画ができるかは,①敷地・玄関・廊下等の庁舎共用部か,②民事訴訟の期日か,③刑事事件の公判廷かをまず分けて考える必要があります。
2 一般来庁者については,各裁判所の案内により,敷地又は庁舎内での写真撮影・録音等が禁止されていることがあります。東京地方裁判所は前庭を含む敷地内で撮影・録音等はできないと案内し,横浜地方裁判所も法廷内に限らず裁判所内での撮影・録音を一切禁止すると案内しています。
3 民事訴訟の期日における撮影,速記,録音,録画又は放送には,民事訴訟規則77条により裁判長等の許可が必要です。刑事事件の公判廷における撮影,録音又は放送には,刑事訴訟規則215条により裁判所の許可が必要です。
4 報道機関の冒頭カメラ撮影は,一般傍聴人が自由に撮影できることの根拠ではありません。代表取材,撮影時間,機材,位置及び対象等の条件の下で,各裁判体が許否を判断する別の運用です。

傍聴時は,端末を持ち込めるか,電源を切る必要があるか,撮影・録音に許可が必要かを分けて確認してください。携帯電話等を持って入れたことは,法廷内で使用・撮影・録音できることを意味しません。対象庁の掲示と職員の指示に従ってください。予定の調べ方,予約,傍聴券及び当日の流れは,初めての裁判所傍聴ガイドで説明しています。

第2 場所と立場を分けて考える
1 同じ「裁判所での撮影」でも,適用される根拠及び判断主体は同じではありません。
2 敷地,玄関,廊下,待合スペースその他の庁舎共用部では,庁舎管理権者による施設管理と各庁の案内・個別運用が中心となります。
3 民事訴訟の期日及び刑事事件の公判廷では,庁舎管理に加えて,訴訟規則と裁判長又は裁判所の手続運営上の判断が問題となります。
4 報道機関向けの運用基準は,司法行政上の取材対応を整える資料です。当事者,代理人,傍聴人その他の一般来庁者に同一の撮影機会を与えるものではありません。

第3 裁判所の敷地・庁舎内
1 裁判所の庁舎等の管理に関する規程は,裁判所の用に供する建物,土地及び附帯施設を「庁舎等」とし,その管理の仕組みを定めています。撮影への対応は,執務への支障,一般来庁者のプライバシー,裁判所の中立性・公平性,撮影目的及び当該庁の運用等を踏まえて判断されます。

(続きを読む...)裁判所・法廷で写真撮影,録音又は録画はできるか(AI作成)

行政庁の勧告・指示・公表に対する争い方―処分性,差止め,執行停止及び重大な損害(AI作成)

目次

第1 結論
第2 最初に行為の連鎖を特定する
第3 勧告・指示・公表の処分性
第4 最高裁平成17年7月15日判決―病院開設中止勧告
第5 取消訴訟・差止め・執行停止の選択
第6 最高裁平成24年2月9日判決―「重大な損害を生ずるおそれ」
第7 公表が予定される場合の時間軸

1 法人自身の重大な損害を具体化する

第8 本案の主張―要件解釈と裁量審査を分ける
第9 受任直後の確認事項
第10 令和7年司法試験から得られる学び
第11 調査範囲と留保
第12 関連記事
第13 出典

第1 結論

行政庁から「勧告」「指導」「指示」又は「公表」と呼ばれる行為を受けても,名称だけで抗告訴訟の対象となる処分かどうかは決まらない。
根拠法令・条例の仕組み,当該行為が生じさせる具体的な法的効果,後続行為との結び付き及び後の段階で救済を受けられるかを確認する必要がある。

また,勧告,指示及び公表が段階的に予定されているときは,それぞれを別の行為として分析する。
勧告に処分性がなくても,指示に義務を課す法的効果があり,不服従に対する公表が制度上予定されているなら,指示の処分性が認められる可能性がある。
反対に,社会的・経済的な圧力が強いだけでは,直ちに処分性が認められるわけではない。

救済手段も時間軸で変わる。
処分前なら差止め,処分後なら取消訴訟と執行停止が中心となるが,「処分が出た後でも公表前に執行停止を得られるか」が差止めの必要性を左右する。

第2 最初に行為の連鎖を特定する

受任直後は,行政庁の文書名よりも,次の連鎖を図にすることが有用である。

(続きを読む...)行政庁の勧告・指示・公表に対する争い方―処分性,差止め,執行停止及び重大な損害(AI作成)

民事訴訟における法的観点指摘義務―弁論主義・釈明権・事実主張を促すこととの違い(AI作成)

目次第1 結論第2 弁論主義・釈明権・法的観点指摘義務の区別第3 最高裁昭和55年2月7日判決―主張のない主要事実を認定できない場合第4 最高裁平成22年10月14日判決―不意打ちとなる法的構成を採用する場合第5 法的観点を指摘すべき必要性が高まる事情第6 事実主張を促すこととの違い第7 代理人がとるべき実務対応1 判決後は失われた反論・反証の機会を特定する2 求釈明の不申出と責問権の喪失を同一視しない第8 令和7年司法試験から得られる学び第9 確認用チェックリスト第10 調査範囲と留保第11 関連記事第12 出典

第1 結論

民事訴訟では,裁判所が当事者の主張していない主要事実を判決の基礎にすることと,当事者が主張した事実に別の法的評価を与えることは,同じ問題ではない。

前者は弁論主義の第一原則との関係で問題となる。
後者は,法律の適用が原則として裁判所の職責に属するとしても,当事者にとって予測できない法的構成によって結論を出すなら,反論・反証の機会を実質的に保障するために,裁判所がその法的観点を指摘すべき場合がある。

もっとも,「法的観点指摘義務」は,裁判所が当事者に代わって請求原因や抗弁の事実を作る義務ではない。
事実の提出主体と法律評価の主体を分け,さらに,訴訟の経過から本当に不意打ちとなるかを具体的に検討する必要がある。

第2 弁論主義・釈明権・法的観点指摘義務の区別

民事訴訟法149条1項は,裁判長が訴訟関係を明瞭にするため,事実上及び法律上の事項について当事者に問いを発し,又は立証を促すことができると定めている。
これが釈明権である。

これに対し,弁論主義の第一原則(主張原則)は,裁判所が当事者の主張していない主要事実を判決の基礎にしてはならないという原則である。
条文に同じ表現の規定があるわけではなく,民事訴訟の基本原則として判例・学説上認められている。

また,民事訴訟法246条は,裁判所が当事者の申し立てていない事項について判決できないと定める。
これは処分権主義に関する規定であり,請求の範囲の問題である。
主要事実の提出に関する弁論主義とは区別しなければならない。

法的観点指摘義務は,当事者が提出した事実に裁判所が予想外の法律構成を与えようとする場面で,釈明権の適切な行使や当事者の弁論権の実質的保障が問題となるものである。
名称だけを暗記するより,①誰が提出すべき事実か,②どの法的構成が審理の対象になっていたか,③反論・反証の機会が与えられたかを分けて考える方が実務的である。

第3 最高裁昭和55年2月7日判決―主張のない主要事実を認定できない場合

最高裁昭和55年2月7日第一小法廷判決(昭和52年(オ)第1144号,民集34巻2号123頁,判例秘書L03510014)は,不動産の相続取得をめぐる事件である。

原告らは,被相続人が土地を買い受け,その死亡により共同相続したと主張した。
被告は,土地を買ったのは被相続人ではなく被告の亡夫であると主張した。
ところが原審は,被相続人が土地を買った後,被告の亡夫に死因贈与したと認定して原告らの請求を排斥した。

最高裁は,被相続人による所有権喪失原因は,相続取得を争う側が抗弁として主張立証すべき事実であると整理した。
その上で,被告が抗弁として主張していない死因贈与の事実を原審が認定したことは,弁論主義に違反するとした。

この判決の核心は,「証拠上うかがわれる事実なら裁判所が自由に採用できる」とはいえない点である。
証拠は主張された主要事実を認定する資料であり,証拠に現れたからといって,主張されていない主要事実が当然に判決の基礎になるわけではない。

もっとも,最高裁昭和33年7月8日第三小法廷判決(昭和31年(オ)第764号,民集12巻11号1740頁)は,当事者本人間で契約が成立したとの主張に対し,原審が代理人との間で契約が締結されたと認定した事案で,契約が本人によってされたか代理人によってされたかで法律効果に変わりはないとして,弁論主義に反しないとした。
代理の事実が主張されないまま証言に現れた場合,この判例があるため,弁論主義違反を理由とする上訴が当然に通るとはいえない。
代理人としては,証拠調べで代理の事実が現れた段階で,これを主張に取り込むか,争うかを準備書面で明示しておくことが望ましい。

第4 最高裁平成22年10月14日判決―不意打ちとなる法的構成を採用する場合

最高裁平成22年10月14日第一小法廷判決(平成20年(受)第1590号,集民235号1頁,判例秘書L06510107)は,大学教授が雇用契約上の地位確認と賃金等の支払を求めた事件である。

当事者間で実際に争われていた中心は,定年を80歳とする合意があったかどうかであった。
第一審は弁論準備手続で争点をその点に絞り,本人・証人尋問を行った上で合意を認めず請求を棄却した。
控訴審でも,控訴理由と答弁は専ら合意の存否に関するものであった。

それにもかかわらず控訴審は,当事者双方が主張していなかった信義則違反という法律構成を採用し,定年退職の1年前までに定年規程の厳格な適用と再雇用をしない旨を告知すべき義務を認め,具体的な告知から1年を経過するまでは,賃金支払義務との関係で定年退職の効果を主張できないとして賃金請求の一部を認容した。

最高裁は,控訴審が原告に信義則違反を主張するか明らかにするよう促し,被告に十分な反論・反証の機会を与える措置をとらないまま判断したことには,釈明権の行使を怠った違法があるとした。

この判決は,裁判所が当事者の主張した事実に法を適用する権限を一般に否定したものではない。
争点整理,証拠調べ,第一審判決,控訴理由及び答弁という具体的な訴訟経過の下で,信義則違反という新たな法的観点が不意打ちとなり,攻撃防御の機会が欠けたことを重視した事例判決である。

第5 法的観点を指摘すべき必要性が高まる事情

平成22年判決及び令和7年司法試験の出題趣旨を踏まえると,次の事情が重なるほど,法的観点を事前に示して当事者に意見・立証の機会を与える必要性が高まると考えられる。

(続きを読む...)民事訴訟における法的観点指摘義務―弁論主義・釈明権・事実主張を促すこととの違い(AI作成)

任意的訴訟担当とは―最高裁大法廷昭和45年11月11日判決と共同事業・多数債権者の訴え(AI作成)

第1 任意的訴訟担当とは第2 最高裁大法廷昭和45年11月11日判決第3 認められるための三つの確認第4 共同事業・共有者・多数債権者での使い分け第5 訴訟代理との違いと実務資料第6 出典・参考資料
第1 任意的訴訟担当とは

任意的訴訟担当とは,権利義務の主体ではない者が,本人から訴訟追行権の授与を受け,自己の名で本人の権利について訴訟を追行する仕組みである。
訴訟代理人は本人の名で訴訟行為をするのに対し,訴訟担当者は自らが当事者となる点が異なる。

民事訴訟法には任意的訴訟担当を一般的に認める明文規定はない。
しかも,同法54条1項本文は地方裁判所以上の訴訟代理人を原則として弁護士に限り,信託法10条は訴訟行為をさせることを主たる目的とする信託を禁止している。
そのため,本人が自由に第三者を「名目上の原告」にできるわけではない。

第2 最高裁大法廷昭和45年11月11日判決

最高裁大法廷昭和45年11月11日判決(昭和42年(オ)第1032号,民集24巻12号1854頁,判例秘書L02510245)は,民法上の組合の業務執行組合員が,他の組合員から訴訟追行権を授与されて組合財産に関する給付訴訟を追行できるかを扱った。

判決は,弁護士代理の原則又は訴訟信託禁止の趣旨を回避・潜脱するおそれがなく,かつ,任意的訴訟担当を認める合理的必要性がある場合には,許容されることがあるとした。
その上で,業務執行組合員が組合財産について実体法上の管理権・対外的業務執行権を有し,訴訟追行権も授与されていた事案で原告適格を認めた。
判決は,選定当事者の規定(当時の民事訴訟法47条,現在の30条)は任意的訴訟担当が許容される原則的な場合を示すにとどまるとした。
そして,組合規約に基づいて業務執行組合員に自己の名で組合財産を管理し組合財産に関する訴訟を追行する権限が授与されている場合には,単に訴訟追行権のみが授与されたものではなく,実体上の管理権,対外的業務執行権とともに訴訟追行権が授与されているから,弁護士代理の原則等を潜脱するものとはいえず,特段の事情のない限り合理的必要を欠くものとはいえないとしている。

この判例の意味は,「授権があれば足りる」とした点にはない。
実体法上の地位,訴訟をまとめて追行する必要性,弁護士代理原則等を潜脱しないことを組み合わせて判断した点にある。

第3 認められるための三つの確認

検討順序では,まず本人から訴訟追行権を授与されたかという前提要件を確認し,次に,授権があっても任意的訴訟担当を許容できるかを判断する。授権の存否と,非潜脱要件・合理的必要性を満たすかは別の問題であり,「委任状があるから適法」とはならない。

第1に,権利主体から訴訟追行権が授与されている必要がある。
対象となる権利,請求,相手方及び審級を特定した授権書を作成し,担当者が和解・請求放棄・控訴等をどこまで行えるかも明らかにする。

第2に,担当者の実体法上の地位と訴訟追行の必要性を確認する。
共同事業の業務執行者,債券管理者など,権利の管理や回収を継続的に担う者であることは重要な事情になる。
単に本人より訴訟に詳しい,本人が出廷を面倒に感じるというだけでは足りない。

第3に,弁護士代理原則又は訴訟信託禁止の潜脱にならないことを確認する。
訴訟だけを目的に権利者と無関係の者を当事者に据えること,報酬目的で多数の他人の請求を集めること,本人と担当者の利益相反を放置することは,否定方向の事情となる。

第4 共同事業・共有者・多数債権者での使い分け

共同事業では,組合契約,業務執行者の選任,財産管理権及び対外的権限を確認する。
最高裁判決は民法上の組合の業務執行組合員を扱ったものであり,名称だけが「代表者」である者に当然に原告適格を認めたものではない。

共有物に関する訴えでは,保存行為として各共有者が単独で行える請求,共有者全員でなければならない請求,代表者による任意的訴訟担当を検討する請求を分ける。
まず実体法上,誰が請求権を行使できるかを確認すべきであり,任意的訴訟担当を最初から万能な解決策として用いない。

多数の債権者については,最高裁第一小法廷平成28年6月2日判決(平成26年(受)第949号)が,ソブリン債の管理会社について,債券保有者からの授権,債券の性質,管理会社の規制・監督,公平誠実義務及び善管注意義務等を踏まえて任意的訴訟担当を認めた。
多数人の権利行使が事実上困難で,適切な管理主体に集約する制度的必要があることが重視されている。

合理的必要性は,任意的訴訟担当を使わない場合と比較して判断する。各権利者が個別に提訴できるか,民事訴訟法30条の選定当事者を利用できるか,全員が弁護士へ委任すれば足りるか,人数・地域・費用・管理権限・利益相反の点で集約する必要があるかを比較する。権利者が数名にすぎず,一人の提訴でも目的を達成できる場合は,合理的必要性を弱める事情になり得る。

第5 訴訟代理との違いと実務資料

任意的訴訟担当が成立すると,担当者が当事者となり,判決の効力は民事訴訟法115条1項2号により担当された本人にも及ぶ。
誰が費用を負担し,和解内容を誰が承認し,回収金をどう分配するかを内部契約で定めておく必要がある。

実務では,①本人と担当者の関係を示す契約書・規約,②実体法上の管理権限を示す資料,③訴訟追行権授与書,④合理的必要性を示す人数・地域・管理実態,⑤利益相反を管理する条項を揃える。
これらが欠けると,本案に入る前に当事者適格を争われ,訴えを却下される危険がある。

令和6年司法試験公式資料による補足:授権と許容要件の区別,個別提訴・選定当事者・弁護士委任との比較及び合理的必要性に関する補足は,第3問設問1の公式整理に基づく。
民事系科目の論文式試験問題,論文式試験出題の趣旨(民事系科目)及び採点実感(民事系科目)(法務省)を確認した。

共同相続人の一人に賃貸建物の管理と明渡訴訟を任せる取決めがある場合に,この判例をどう当てはめるかは,令和6年度司法試験民事系第3問の模範解答と評価項目で検討している。

第6 出典・参考資料

①民事訴訟法54条,115条(e-Gov法令検索)
②信託法10条(e-Gov法令検索)
③最高裁大法廷昭和45年11月11日判決(昭和42年(オ)第1032号,民集24巻12号1854頁,判例秘書L02510245。裁判所ウェブサイトの判決全文で確認した)
④最高裁第一小法廷平成28年6月2日判決(平成26年(受)第949号,民集70巻5号1157頁,裁判所ウェブサイト)

別件判決・先行訴訟の準備書面は後訴でどう使われるか――既判力,裁判上の自白,証拠価値及び証拠説明書

目次第1 判決主文と判決理由中の認定の違い第2 理由中の判断に既判力が生じる範囲と相殺の例外第3 別件判決が後訴で証拠として持つ意味第4 先行訴訟の準備書面・上申書・陳述書の扱い第5 「その主張をした事実」と「主張内容が真実であること」の区別第6 裁判上の自白と単なる不利益陳述の区別第7 後訴で引用する前に確認する記録第8 証拠説明書の立証趣旨の記載例第9 先行主張と現在の主張が異なる場合の説明方法第10 まとめ第11 出典・関連記事

別件判決又は先行訴訟の準備書面を現在の訴訟で使うときは,①確定判決の主文に生じる既判力,②先行訴訟でされた主張又は判断という訴訟経過,③記載内容が真実かという証拠評価,④現在の訴訟における裁判上の自白を区別する必要がある。本記事では,判決書,準備書面,上申書及び陳述書を後訴で利用する前に確認すべき記録と,証拠説明書の立証趣旨の書き方を整理する。

第1 判決主文と判決理由中の認定の違い

判決書は,主文と理由から成る。主文は,当事者の請求について,認容,棄却又は訴えの却下等の結論を示す部分である。理由は,その結論に至った事実認定及び法律判断を示す。

民事訴訟法114条1項は,「確定判決は,主文に包含するものに限り,既判力を有する。」と定めている。したがって,前訴判決の理由中にある個々の事実認定又は法律判断が,その記載だけで一律に後訴を拘束するわけではない。

もっとも,どの権利又は法律関係について判断されたかを確定するには,主文だけでなく,請求の趣旨,請求原因及び判決理由を読み,前訴の訴訟物と基準時を特定する必要がある。「理由に書いてあるから既判力がない」と短絡することも,「前の判決が認定したから後の裁判所も従う」と短絡することもできない。

判決理由だけを不服として控訴できるかという別の問題は,全部勝訴した当事者に民事控訴の利益はあるか――判決理由だけを争える場合と争えない場合で説明している。

第2 理由中の判断に既判力が生じる範囲と相殺の例外

既判力が生じるのは,原則として,前訴の口頭弁論終結時を基準として主文に包含された訴訟物についての判断である。後訴が前訴と同じ訴訟物を対象とするとき,又は前訴の判断を先決関係として覆すことになるときは,既判力との抵触を検討する。

判決理由中の判断については,民事訴訟法114条2項が明文の例外を置いている。同項は,「相殺のために主張した請求の成立又は不成立の判断は,相殺をもって対抗した額について既判力を有する。」と定めている。

例えば,被告が反対債権を自働債権として相殺を主張し,裁判所がその成立又は不成立を判断した場合は,相殺をもって対抗した額の範囲で,その理由中判断にも既判力が生じる。相殺の抗弁に関する整理は,相殺の抗弁に関するメモ書きで説明している。

例えば,目的物引渡請求について「代金500万円と引換えに引き渡せ」とされた場合,引換額が主文に記載されていても,反訴等で代金請求が審判対象になっていなければ,代金支払請求権についての既判力がその記載だけから生じるわけではない。引換額は引渡しの強制執行を開始する条件として意味を持ち,売主に代金回収の債務名義を与えるものではない。「主文に包含するもの」と「主文に書かれた文言のすべて」を同一視しない。

このほか,既判力の範囲外であっても,前訴で十分に争われた事項を後訴で蒸し返すことが信義則に反すると評価される場合がある。これは114条の既判力そのものとは別の問題であるため,前訴と後訴の当事者,請求,争点,審理の程度及び訴訟経過を個別に確認する。

具体的には,前訴で当該事項が主要な争点になったか,双方に主張立証の機会があったか,その判断が結論にどう関わったか,前訴後の履行や相手方の信頼,主張を変える理由等を確認する。他方で,前訴では後訴の請求自体が審判対象ではなかったこと,反訴を提起するかどうかは当事者の訴訟上の選択であることなど,後訴の主張を許す方向の事情も検討する。反訴を提起できたこと自体を,直ちに後訴を許す理由又は禁止する理由として扱わない。「前訴で争えた」という一事情だけで一律に後訴を禁止しない。

既判力が作用する関係にある後訴では,前訴基準時前に存在した事由によって,既判力ある判断と矛盾する主張をすることは原則として遮断される。単に前訴基準時前から存在した事実というだけで,異なる請求に関する後訴の主張がすべて遮断されるわけではない。もっとも,遮断効の実質的根拠を,前訴で十分な主張立証の機会を与えられながら行使しなかった自己責任に求め,前訴での主張立証がおよそ期待できなかった事実には遮断効が及ばないとする「期待可能性説」がある。

この説には,①既判力による法的安定と勝訴者の地位を害する,②民事訴訟法338条1項5号は刑事罰を科される他人の行為で主張立証を妨げられた場合にも再審制度で処理しており,単なる期待可能性欠如で既判力を縮小すると境界が曖昧になる,③後訴裁判所の審理負担が重くなるとの批判がある。採用する場合も,「知らなかった」「思い付かなかった」だけで例外とせず,資料へのアクセス,前訴の争点・進行,主張を妨げた事情及び相手方の信頼を具体的に検討する必要がある。

また,基準時後に形成権を行使したという形式だけで,基準時前から存在した解除原因等を当然に後訴へ持ち込めるとは限らない。形成権行使の時期と,その基礎となる事由が基準時前後のいずれに存在したかを分け,期待可能性説,制度的効力説及び信義則を相互に混同しない。基準時後に取消権,相殺,建物買取請求権又は白地手形の補充権を行使した場合と,前訴で主張しなかった別の取得原因を後訴で主張する場合の最高裁判例は,確定判決の後に取消し・相殺・解除・建物買取請求をして争い直せるかで整理している。

既判力が及ぶ人の範囲も限られる。確定判決は,当事者,当事者が他人のために原告又は被告となった場合のその他人,口頭弁論終結後の承継人等に対して効力を有する(民事訴訟法115条1項)。同じ原告から訴えられた共同被告どうしの間には,当然には既判力は生じない。前訴の共同被告の一方が他方へ求償や損害賠償を請求する後訴で,前訴判決の理由中の認定を既判力によって持ち込むことはできないのが出発点である。

これとは別に,補助参加人に対する裁判の効力(民事訴訟法46条)がある。訴訟告知を受けた者が参加しなかった場合も,参加することができた時に参加したものとみなされる(同法53条4項)。最高裁昭和45年10月22日判決は,この効力は既判力ではなく,判決の確定後補助参加人が被参加人に対してその判決が不当であると主張することを禁ずる効力であり,判決の理由中でされた事実の認定や先決的権利関係の存否についての判断にも及ぶとした。最高裁平成14年1月22日判決は,その理由中の判断を,判決の主文を導き出すために必要な主要事実に係る認定及び法律判断などに限り,訴訟告知を受けたが参加しなかった者に効力が及ぶのは,その者が訴訟の結果につき法律上の利害関係を有する場合に限られるとした。

したがって,前訴で敗訴した場合に第三者へ求償又は損害賠償を請求する見込みがあるときは,前訴の係属中にその第三者へ訴訟告知をしておくことが,後訴で前訴の判断を争わせないための基本的な手段となる。自分が相手方の訴訟に補助参加しても,それは参加した自分の側が判断を争えなくなる関係であり,自分が求償しようとする相手を拘束する手段にはならない。効力の向きは,「誰が誰に対して,前訴のどの判断を援用するか」で確認する。訴訟告知の方式,効力の範囲及び告知を検討する場面は,訴訟告知の使い方―参加的効力の範囲,告知の方式と敗訴後の求償・損害賠償への備えで整理している。公証人の補助参加を例にした説明は,遺言無効確認請求訴訟における公証人の証言の取扱い及び公証人の補助参加でも扱っている。

例えば,本訴請求200万円に対して300万円の反対債権で相殺を主張し,反対債権が全部弁済済みと判断された場合でも,相殺をもって対抗した額は200万円である。残100万円に既判力が当然に及ぶわけではない。
他方,全部弁済という前訴の判断と証拠は,残100万円の後訴における証拠評価や信義則の検討で問題となり得る。既判力の範囲と,残額の主張が実体法上理由を持つか,後訴が信義則に反するかを別に判断する。
訴訟外相殺による消滅が再抗弁として判断された場合も,再抗弁に用いた別債権には,その理由中の判断だけで114条2項の既判力が生じるわけではない。

第3 別件判決が後訴で証拠として持つ意味

別件判決の理由中の認定に既判力がない場合でも,判決書を後訴で書証として提出することはできる。後訴の裁判所は,民事訴訟法247条により,口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果をしん酌して,自由な心証により事実を判断する。

別件判決書から直接分かるのは,まず,別の裁判所が,特定の当事者及び請求について,記載された主文及び理由の判断をしたという事実である。判決が確定していれば,確定した主文の範囲では既判力の問題が加わる。未確定判決であれば,その時点の判決が存在することは示せても,確定判決としての既判力は生じていない。

他方,判決理由に認定された基礎事実が後訴でも真実であるかは,別の問題である。前訴で用いられた証拠,争点,認否,反対尋問の有無及び当事者の範囲が後訴と異なることがある。後訴の裁判所は別件判決書の証拠価値を評価するが,理由中認定だけを切り出して現在の争点が当然に証明されたものとして扱うべきではない。

特に,別件判決が一方当事者の準備書面又は陳述書を引用している場合は,その文書が実際に提出又は取調べされたのか,単に当事者の主張として摘示されたのかを,前訴記録で区別する。

(続きを読む...)別件判決・先行訴訟の準備書面は後訴でどう使われるか――既判力,裁判上の自白,証拠価値及び証拠説明書

東京地裁医療集中部とは-担当部,発足経緯,審理運営及び鑑定制度(AI作成)

目次第1 東京地裁医療集中部の概要1 医療集中部の意味2 本記事の基準時と資料の読み方第2 現在の担当部1 民事第14部,第30部,第34部及び第35部2 担当裁判官と担当部の確認第3 発足までの経緯1 平成10年から平成13年まで2 発足の目的第4 医療集中部の審理運営1 提訴前の調査と訴状2 診療経過と争点の可視化3 証人尋問の位置付け第5 医学的知見を審理へ取り入れる方法1 医学文献と協力医の意見書2 専門委員3 鑑定とカンファレンス方式第6 和解と統計の読み方1 和解の機能2 令和7年の全国統計第7 制度を利用する際の注意点1 集中部であることと立証責任2 古い運用資料と現在情報の区別第8 主な出典及び参考資料1 裁判所及び国会図書館の資料2 判例タイムズ掲載論文
第1 東京地裁医療集中部の概要
1 医療集中部の意味

東京地裁医療集中部とは,医療行為の当否が争点となり,審理に医学的知見を要する民事事件を集中的に担当する東京地方裁判所の民事部である。独立した裁判所又は特別な訴訟類型ではなく,専門性の高い事件について知識と審理運営の経験を蓄積するための事件配点上の仕組みである。
医療集中部に配点されたこと自体は,医療機関の過失,因果関係又は患者側の請求が認められることを意味しない。責任の有無は,各事件の主張及び証拠に基づいて判断される。

2 本記事の基準時と資料の読み方

本記事は,令和8年(2026年)9月22日現在の裁判所公開資料と,判例タイムズ1495号及び1497号に掲載された令和4年(2022年)のシンポジウム記録を区別して整理するものである。
シンポジウム記録にある件数,割合及び運用は,当時の実務報告であり,現在も同一であると断定できない。現在の担当部は最新の裁判所資料で確認し,個別事件の進行は担当部の指示に従う必要がある。

第2 現在の担当部
1 民事第14部,第30部,第34部及び第35部

東京地裁が公開している霞が関庁舎のダイヤルイン一覧では,民事第14部,第30部,第34部及び第35部に「通常・医療部」と表示されている。したがって,東京地裁本庁の医療事件を集中的に担当する部は,この4か部であると確認できる。
東京地裁霞が関庁舎のダイヤルイン一覧には各部の係別電話番号も掲載されている。ただし,問い合わせ先は事件の係属部及び担当係を確認した上で選ぶ必要がある。

2 担当裁判官と担当部の確認

東京地方裁判所の民事部担当裁判官一覧は,令和8年4月24日現在のものとして,民事第14部,第30部,第34部及び第35部の担当裁判官を掲載している。同一覧自体には各部が医療集中部であるとの表示がないため,医療部であることは前記ダイヤルイン一覧と突き合わせて確認するのが安全である。
裁判官の異動,部の担当事務及び電話番号は変更され得る。提出又は照会の直前に裁判所ウェブサイトの最新版を再確認すべきである。

第3 発足までの経緯
1 平成10年から平成13年まで

国立国会図書館の調査資料によれば,平成10年(1998年)に医療関係訴訟の運営に関する司法研究が始まり,平成11年(1999年)に東京地裁の委員会が医療事件の集中処理を提案した。東京地裁は平成12年(2000年)4月から民事第14部,第30部,第34部及び第35部で試行し,平成13年(2001年)4月に医療集中部を発足させた。
判例タイムズ1495号21頁のシンポジウム記録も,1年間の試行を経て平成13年4月に4か部が発足したと説明している。発足時には,裁判長が争点整理に主体的に関与できるよう配点を調整し,4か部で早期に共通の審理運営を形成することが意識されていた。

2 発足の目的

最高裁判所医事関係訴訟委員会の答申は,東京及び大阪の地方裁判所に平成13年4月から医療関係訴訟の集中部が設けられたとし,審理上のノウハウを蓄積するとともに,地域の医療界との連絡窓口として機能することが期待されると述べている。
したがって,集中部の意義は,単に事件を同じ部へ集める点だけにない。争点整理,医学的知見の獲得,鑑定人確保及び医療界との継続的な協議を一体として改善するところにある。

第4 医療集中部の審理運営
1 提訴前の調査と訴状

判例タイムズ1497号19頁から20頁では,医療事件では,提訴前に診療録に基づく診療経過の整理,医学文献の調査,協力医への相談及び医療機関への照会を行い,具体的な注意義務違反と因果関係を絞り込む必要性が繰り返し指摘されている。
集中部は当事者の調査又は立証を代行する制度ではない。争点を特定しないまま提訴すると,争点整理に長期間を要し,専門委員を早期に選任しても,当事者が負う主張立証の不足を当然に補えるわけではない。

2 診療経過と争点の可視化

判例タイムズ1495号21頁から22頁によれば,医療集中部の審理は,基本的書証を早期に提出し,診療経過一覧表によって時系列を共有し,当事者が参加して争点整理表を作成した上で,集中証拠調べへ進むという考え方を基礎としている。
同号25頁は,令和4年当時の取組として,訴え提起後2,3か月以内に実質的な答弁を踏まえた第1回期日を開くこと,ウェブ会議前に注意義務違反の内容等を記載したアジェンダを共有し,期日後に議論の到達点と次回までの準備事項を共有することを紹介している。これらは,期日間の準備を明確にし,争点整理を口頭議論だけで終わらせないための工夫である。

3 証人尋問の位置付け

(続きを読む...)東京地裁医療集中部とは-担当部,発足経緯,審理運営及び鑑定制度(AI作成)

和解のために出した試算書は後の訴訟で不利に使われるか――裁判上の自白との違いと,自分の書面を書証にするときの注意(AI作成)

目次第1 結論第2 裁判上の自白とは何か1 条文2 対象は「事実」である3 「裁判所において」された陳述であること4 争わないことによる効果も当該訴訟限りである5 場面ごとの対照第3 前の訴訟で出した書面は,後の訴訟の自白にならない1 訴訟が違えば陳述にならない2 書証として出された場合の扱い3 協議中の発言と,後に提出された書証を分ける4 和解が成立した場合との違い第4 書面に書いた数字がどう読まれるか1 上限の表示2 仮定の表示3 前提が変われば上限も動く4 主張額,上限額及び和解の提示額を混ぜない第5 自分が作った書面を自ら書証にするときの注意1 全部が相手方の目に入る2 立証趣旨で前提を特定する3 書面の一部だけを引用しない4 抄本で出すかどうか5 書証の申出の仕方第6 相手方が前の訴訟の書面を出してきたとき1 文書の成立の真正2 書面の全体を読ませる3 反対の記載を探す4 相手方又は第三者が持っている書面を出させる方法第7 和解のための書面を作るときの書き方第8 指摘を受けたときの返し方第9 関連記事第10 出典・参考資料1 法令2 裁判例の引用について
第1 結論

和解の協議の中で,「こちらの計算では,多めに見積もっても相手方の損害は○円にとどまる」という趣旨の試算書を出すことがある。
その事件が和解で終わらず,あるいは別の事件が後から起きたとき,この試算書が相手方の手に渡り,「相手方自身が○円を認めている」と主張される場面がある。

結論としては,次の三つを分けて考えるのが整理しやすい。

①その書面は,後の訴訟における裁判上の自白ではない。裁判上の自白は,当該訴訟の口頭弁論又は弁論準備手続における陳述であることを要するからである(民事訴訟法179条参照)。

②しかし,協議用の書面が後に書証として提出され,適法な証拠調べの対象となる場合は,その記載の意味と証明力を検討する必要がある。裁判官が和解の交互面接で聞いただけの発言を,そのまま判決の心証資料にすることとは区別する。

③したがって,実際に効いてくるのは「自白かどうか」ではなく,「その書面が何を前提とした,どういう性質の数字を示したものとして読まれるか」である。

本記事では,この三つを条文に即して整理し,和解のための書面を作るとき,自分の書面を自ら書証として提出するとき及び相手方が前の訴訟の書面を出してきたときの実務上の注意を示す。

第2 裁判上の自白とは何か
1 条文

民事訴訟法179条は,「裁判所において当事者が自白した事実及び顕著な事実は,証明することを要しない。」と定めている。

同法159条1項は,「当事者が口頭弁論において相手方の主張した事実を争うことを明らかにしない場合には,その事実を自白したものとみなす。ただし,弁論の全趣旨により,その事実を争ったものと認めるべきときは,この限りでない。」と定めている。
同条2項は,「相手方の主張した事実を知らない旨の陳述をした者は,その事実を争ったものと推定する。」としている。

自白が成立すると,その事実について証明が不要になる。
争点整理の場面では,どの事実に自白が成立しているかが,証拠調べの対象を決める。

2 対象は「事実」である

179条も159条1項も,対象を「事実」としている。
そのため,法律上の効果に関する意見,計算方法の当否についての見解及び評価の当否は,それ自体では自白の対象にならない。

遺留分侵害額,損害額,過失割合のような数字は,その内実が①算定の基礎となる事実と②その事実への法規の当てはめとに分かれる。
「○円である」という記載が,どこまで事実の陳述で,どこからが当てはめの結論かは,書面の文脈で決まる。

したがって,相手方から「その書面で○円を認めているではないか」と言われたときは,まずその数字がどの層の主張なのかを切り分ける。

3 「裁判所において」された陳述であること

179条は「裁判所において当事者が自白した事実」としている。
すなわち,当該訴訟の口頭弁論又は弁論準備手続の期日における陳述であることが前提になる。

訴訟の外で作った文書,交渉の場で相手方に渡した書面,別の事件で提出した書面は,この要件を満たさない。
これらは,講学上,裁判外の自白として,証拠資料の一つとして扱われるにとどまる。

もっとも,弁論準備手続には,民事訴訟法170条5項により,争うことを明らかにしない事実を自白したものとみなす159条等が準用される。
したがって,弁論準備手続で準備書面の事実主張を正式に陳述し,相手方がそれを争わないときは,裁判上の自白又は擬制自白が問題となり得る。

同じ期日で和解協議が行われても,協議用の試算を示しただけのことと,準備書面の事実主張を訴訟上の主張として陳述したことは区別する。

(続きを読む...)和解のために出した試算書は後の訴訟で不利に使われるか――裁判上の自白との違いと,自分の書面を書証にするときの注意(AI作成)

建築訴訟の審理モデル―東京地裁民事第22部が示した6類型の主張立証と一覧表・付調停による2年審理(AI作成)

目次第1 この記事の対象と資料1 審理モデルとは2 6本の論稿第2 審理モデルのねらいと全体像1 2年で終えるためのスケジュール2 一覧表は「手段」であり,二往復で打ち止める3 専門的知見は調停で取り入れる第3 追加変更工事1 要件と典型的な争点2 追加性3 有償合意4 代金額の相当性5 追加変更工事一覧表第4 工事の瑕疵1 瑕疵の意義と主張の組み立て2 設計の瑕疵と施工の瑕疵3 審理計画と瑕疵一覧表第5 出来高1 出来高の審理の流れ2 既施工部分の証拠3 報酬額の算定方式4 中途終了の原因と着地点第6 設計・監理1 報酬請求と契約の成否2 設計・監理の債務不履行第7 第三者被害型(振動・地盤沈下による近隣被害)第8 付調停と現地調査1 付調停の時期と訴訟との並進2 現地調査第9 一覧表の書式第10 代理人の実務上の対応第11 関連記事第12 出典1 法令2 論稿3 裁判所の資料4 裁判例
第1 この記事の対象と資料
1 審理モデルとは

東京地方裁判所民事第22部は,建築訴訟を専門に扱う部である。
同部に所属し又は所属していた裁判官らが,建築訴訟の審理を効率化するため,事件の類型ごとに「審理モデル」を作り,判例タイムズに6回に分けて発表している。
最高裁判所の建築関係訴訟委員会でも,東京地裁が基本3類型の審理モデルを判例タイムズに掲載したことが報告されている(第19回議事要旨)。

本記事は,この6本の論稿を判例秘書の判例タイムズ電子復刻版で読み,代理人が訴状の作成から和解・調停までの各段階で押さえるべき点を整理するものである。
論稿の中の法解釈や手続に関する意見は,執筆した裁判官らの私見であるとされている。

2 6本の論稿

①「建築訴訟の審理モデル~追加変更工事編~」判例タイムズ1453号5頁(2018年12月)
②「建築訴訟の審理モデル~工事の瑕疵編~」判例タイムズ1454号5頁(2019年1月)
③「建築訴訟の審理モデル~出来高編~」判例タイムズ1455号5頁(2019年2月)
④「建築訴訟の審理モデル~設計・監理の報酬請求編~」判例タイムズ1489号5頁(2021年12月)
⑤「建築訴訟の審理モデル~設計・監理の債務不履行・不法行為編~」判例タイムズ1490号5頁(2022年1月)
⑥「建築訴訟の審理モデル~不法行為(第三者被害型)編~」判例タイムズ1495号5頁(2022年6月)

①から③は,民法の債権法改正(令和2年4月1日施行)の前に執筆され,改正の内容は盛り込まれていない。
現在の制度を理解するために参照する場合は,「瑕疵担保責任」「民法634条」等の旧法の説明と,現行民法の契約不適合責任(民法559条,562条~564条)を対照して読む。
実際の紛争へ適用する法律は,契約締結時期と改正法の経過措置を確認して決める必要があり,過去の請負契約の責任を一律に現行法へ読み替えるものではない。
④から⑥は,改正後の民法を前提としている。

法務省の経過措置の案内は,契約に関するルールについて,原則として施行日前に締結された契約には改正前の民法,施行日後に締結された契約には改正後の民法が適用されると説明している。
契約上の請求と不法行為に基づく請求では確認する規定が異なるため,それぞれの請求原因に即して適用関係を確認する。

建築訴訟で鑑定人や専門家がどう選ばれるかは,建築訴訟の鑑定人と専門家はどう選ばれるかで,統計は建築訴訟の統計(令和6年)で扱っている。

第2 審理モデルのねらいと全体像
1 2年で終えるためのスケジュール

審理モデルは,建築訴訟についても,知財訴訟や医療訴訟のように効率的な審理のやり方を確立し,「2年で終える」ことを目指すものとされている(判タ1453号6頁)。
論稿は,建築訴訟が長くかかる背景として,中小規模の裁判所では建築事件のノウハウが蓄積されにくいことと,「建築訴訟は時間がかかっても仕方がない」という意識が当事者にも裁判所にもあることを挙げている。

基本3類型(追加変更工事,工事の瑕疵,出来高)について示された進行の目安は,次のとおりである(判タ1453号7頁)。
①訴状の審査:1か月程度
②主張の整理:最長8か月程度
③調停:6か月から10か月程度

(続きを読む...)建築訴訟の審理モデル―東京地裁民事第22部が示した6類型の主張立証と一覧表・付調停による2年審理(AI作成)

建築訴訟の鑑定人と専門家はどう選ばれるか―建築関係訴訟委員会の推薦ルート,鑑定料の考え方及び専門家選定の情報(AI作成)

目次第1 この記事の対象と資料1 この記事の対象2 使用した資料と読み方の注意第2 建築関係訴訟委員会とは1 設置の経緯と規則2 推薦の流れ第3 推薦依頼の件数と期間1 件数2 期間第4 推薦依頼書と専門分野の伝え方1 推薦依頼書の記載事項2 専門分野を具体的に伝える3 利害関係の確認第5 鑑定料の考え方1 「鑑定料の検討に当たり考慮することが考えられる要素」2 代理人の対応第6 鑑定以外の手段―専門家調停と専門委員第7 事件類型の動向第8 代理人の実務上の対応第9 関連記事第10 出典1 法令・規則2 建築関係訴訟委員会の資料
第1 この記事の対象と資料
1 この記事の対象

本記事は,建築紛争の訴訟で鑑定が必要になったとき,裁判所がどのように鑑定人を探すのか,鑑定料はどう決まるのか,調停委員や専門委員を含む建築の専門家をどう選ぶのかを,最高裁判所の建築関係訴訟委員会の公開資料から整理するものである。
施主側と施工者・設計者側のどちらの代理人にとっても,鑑定や専門家調停を申し出る前に知っておくと見通しを立てやすくなる事項である。

建築関係訴訟の件数,審理期間,終局区分,瑕疵の種別,鑑定率及び付調停率は,建築訴訟の統計(令和6年)にまとめた。
医療訴訟について同じ仕組みを扱った記事として,医療訴訟の鑑定人はどう選ばれるかがある。

2 使用した資料と読み方の注意

資料は,最高裁判所の建築関係訴訟委員会のページに掲載された,第1回(平成13年7月19日)から第21回(令和6年12月19日)までの議事要旨,分科会の議事要旨,添付資料,平成17年6月の答申,中間取りまとめ,委員会規則及び統計である(令和8年9月20日に取得)。
議事要旨の発言は委員又はオブザーバーの意見であり,委員会の結論や裁判所の運用そのものではない。
本記事では,資料に書かれた事実と,委員等の意見とを区別して書く。

期間や件数の一部は,議事要旨に添付された「鑑定人候補者推薦依頼一覧」から本記事で集計したものである。
一覧は月単位でしか日付を示していないため,集計した期間には1か月程度の誤差がある。

第2 建築関係訴訟委員会とは
1 設置の経緯と規則

建築関係訴訟委員会は,建築関係訴訟委員会規則(平成13年最高裁判所規則第6号)に基づき,平成13年に最高裁判所に置かれた委員会である。
設置の前から,最高裁判所事務総局民事局と日本建築学会との間で意見交換が行われ,平成12年6月には学会の中に司法支援建築会議が作られていた(答申)。

規則2条は,民事訴訟事件又は民事調停事件のうち争点若しくは証拠の整理又は裁判をするについて建築の専門的知識経験を必要とするものを「建築紛争事件」と定め,委員会の事務として,運営に関する共通的な事項の調査審議のほか,次の3つの候補者の選定を掲げている。
①鑑定人の候補者(2条3号)
②民事調停委員の候補者(同条4号)
③専門委員の候補者(同条5号)

規則は委員を20人以内とし(3条),鑑定人等候補者選定分科会を置いている(7条)。
令和6年12月19日現在の委員名簿には,建築系の研究者を中心に,実務家,弁護士及び法学研究者の11名が掲載されている。

2 推薦の流れ

推薦の流れは,概略図と第3回委員会(平成14年3月5日)の資料によれば,次のとおりである。
①事件を担当する地方裁判所等が,推薦依頼を最高裁判所事務総局民事局(委員会の事務局)に送る。
②事務局が,日本建築学会(司法支援建築会議)等に推薦を依頼する。
③学会の推薦は,同じ経路を逆にたどって裁判所に届く。
④裁判所が候補者に連絡し,鑑定人に選任するかを判断する。

概略図には,推薦は法的な強制によるものではなく,推薦された候補者を選任するかどうかは各裁判所の判断に委ねられることが注記されている。

(続きを読む...)建築訴訟の鑑定人と専門家はどう選ばれるか―建築関係訴訟委員会の推薦ルート,鑑定料の考え方及び専門家選定の情報(AI作成)

医療訴訟の鑑定人はどう選ばれるか―医事関係訴訟委員会の推薦ルート,期間,費用及び鑑定人質問の実情(AI作成)

目次第1 この記事の対象と資料1 この記事の対象2 使用した資料と読み方の注意第2 医事関係訴訟委員会とは1 設置の経緯2 現在の位置付け第3 鑑定人候補者の推薦ルート1 手続の流れ2 委員会ルートを使う事案3 推薦依頼書に書かれる事項4 「推薦に当たっての希望」欄の書き方第4 件数,依頼先の学会及び所要期間1 件数の推移2 依頼先の学会3 所要期間4 推薦が難航する類型第5 医療過誤以外の事件での利用第6 鑑定事項と鑑定資料1 答えにくい鑑定事項2 複数の診療科にまたがる事案3 鑑定資料の渡し方第7 鑑定の方式と費用1 単独鑑定,複数鑑定及びカンファレンス鑑定2 鑑定料と費用負担第8 鑑定書が出た後―補充鑑定と鑑定人質問1 鑑定人質問はほとんど行われていない2 補充鑑定と鑑定人質問の条文第9 代理人の実務上の対応1 受任時と鑑定の申出前の説明2 鑑定の申出で準備しておくこと第10 関連記事第11 出典1 法令2 医事関係訴訟委員会の資料3 統計・報告書
第1 この記事の対象と資料
1 この記事の対象

本記事は,医療訴訟で鑑定が必要になったのに鑑定人が見つからないとき,裁判所がどのような経路で鑑定人候補者を探すのかを,最高裁判所の医事関係訴訟委員会の公開資料から整理するものである。
あわせて,鑑定事項の立て方,鑑定資料の渡し方,鑑定の方式と費用,鑑定書が出た後の補充鑑定と鑑定人質問について,同委員会で議論された内容を紹介する。
患者側と医療機関側のどちらの代理人にとっても,鑑定の申出の前に知っておくと見通しを立てやすくなる事項である。

鑑定事項書そのものの書き方は,民事訴訟の鑑定事項書の作り方で扱っている。
医療訴訟の件数,審理期間,和解率及び認容率は,医療訴訟の統計(令和7年)にまとめた。

2 使用した資料と読み方の注意

資料は,最高裁判所の医事関係訴訟委員会についてのページに掲載された,第1回(平成13年7月13日)から第37回(令和8年5月27日)までの議事要旨とその添付資料,平成17年6月頃の答申,委員会の規則及び統計である(令和8年9月19日に取得)。
議事要旨の「主な発言」は委員又はオブザーバーの意見であり,委員会の結論や裁判所の運用そのものではない。
本記事では,資料に書かれた事実と,委員等の意見とを区別して書く。

期間や件数の一部は,議事要旨に添付された「推薦依頼事案の経過一覧表」から本記事で集計したものである。
一覧表は月単位でしか日付を示していないため,集計した期間には1か月程度の誤差がある。
この種の数値には,本文で「本記事の集計」と明記する。

第2 医事関係訴訟委員会とは
1 設置の経緯

医事関係訴訟委員会は,医事関係訴訟委員会規則(平成13年最高裁判所規則第5号)に基づき,平成13年7月に最高裁判所に置かれた委員会である。
医学界の委員,法曹界の委員及び一般の有識者で構成され,医事関係訴訟の運営に関する一般的な問題を審議することと,鑑定人候補者を選ぶことを主な任務とする。
鑑定人候補者の選定は,委員会に置かれた鑑定人等候補者選定分科会と合同で行われ,第3回以降の会議は分科会との合同開催になっている。

委員会の答申によれば,設置前の意見交換で,医学界の側から,医師が鑑定人を引き受けない理由として次のような事情が挙げられていた。
①時間をかけて鑑定をしても裁判の結果が知らされず,鑑定が役に立ったのかが分からないこと
②法廷で,人格を非難されたと受け取られるような質問がされることがあったこと
③要約書面もなしに記録の写しをそのまま送られ,不適切な鑑定事項について鑑定を求められること

これを受けて,事件が終わったときに裁判所から鑑定人へ結果を通知する運用が定着し,委員会からも学会と鑑定人に結果を通知して礼状を送るようになった。
後で見る鑑定人質問の運用の変化も,この経緯と関係している。

2 現在の位置付け

委員会の規則は,委員を20人以内とし(3条),鑑定人等候補者選定分科会を置くことを定めている(7条)。
令和8年9月14日現在の委員名簿には,委員長を含む12名が掲載されている。

委員会ルートは,各裁判所の努力で鑑定人を見つけられない事案のための仕組みである。

(続きを読む...)医療訴訟の鑑定人はどう選ばれるか―医事関係訴訟委員会の推薦ルート,期間,費用及び鑑定人質問の実情(AI作成)

公示送達のウェブ掲載―令和8年5月21日以後の事件,効力発生時期及び掲載ページの利用条件(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論1 公示送達は裁判所のウェブページに掲載されるようになった2 基準日と本記事の範囲第2 公示送達の要件1 公示送達ができる場合2 職権による公示送達第3 公示送達の方法1 法律と規則の定め2 官報・新聞への掲載第4 裁判所ウェブサイトの掲載ページ1 全国のリンク集2 大阪地方裁判所・大阪家庭裁判所・大阪府内の簡易裁判所のページ3 申立人・代理人が確認すること第5 効力発生時期と意思表示の到達1 公示送達の効力発生時期2 公示送達による意思表示の到達3 被告が後で訴訟を知った場合4 海外の相手への公示送達はいつ効力が生じるか第6 掲載ページの利用条件1 大阪地方裁判所等のページの利用条件2 実務上の注意第7 関連記事第8 出典1 法令2 裁判所ウェブサイト
第1 この記事の対象と結論
1 公示送達は裁判所のウェブページに掲載されるようになった

民事訴訟法111条は,公示送達を,公示事項を最高裁判所規則で定める方法により不特定多数の者が閲覧することができる状態に置く措置と,裁判所の掲示場への掲示又は裁判所に設置した電子計算機の映像面での閲覧の措置とによって行うと定めている。
この規定は,令和8年5月21日に施行された民事訴訟法の改正(令和4年法律第48号)によるものである。
裁判所ウェブサイトには,「公示送達・公告(令和8年5月21日以降に申立等があった事件等に関するもの)」のページが設けられ,全国の裁判所の掲載ページへのリンク集になっている。

結論として,実務上の要点は次のとおりである。
①令和8年5月21日以後に申立て等があった事件の公示送達は各裁判所のウェブページで確認し,同月20日以前に申立て等があった事件は各裁判所の掲示場で確認する。
②公示送達の効力は,措置を開始した日から2週間(外国においてすべき送達は6週間)を経過することによって生じ,同一の当事者に対する2回目以降の公示送達は措置を開始した日の翌日に生ずる(民事訴訟法112条)。
③当事者が相手方の所在を知ることができない場合,公示送達された書類等に記載された意思表示は,措置を開始した日から2週間を経過した時に到達したものとみなされる(民事訴訟法113条)。
④掲載ページには利用条件があり,大阪地方裁判所等のページは,スクレイピング,スクリーンショットの撮影や転記によるSNS・ブログへの転載等を禁止している。

2 基準日と本記事の範囲

本記事は,令和8年9月19日を基準日とする。
本記事は,民事訴訟における公示送達の掲載方法と,掲載ページを見るときの注意を扱う。
公示送達の要件を満たすための住所調査や,付郵便送達・システム送達との関係は,「民事訴訟の送達――補充送達,付郵便送達,公示送達及びシステム送達」で説明している。
個別の事件の公示事項の内容は,掲載ページの利用条件に照らし,本記事では一切取り上げない。

第2 公示送達の要件
1 公示送達ができる場合

民事訴訟法110条1項は,次の場合に,裁判所書記官が申立てにより公示送達をすることができると定めている。
①当事者の住所,居所その他送達をすべき場所が知れない場合(民事訴訟法109条の2の規定により送達をすることができる場合を除く。)。
②同法107条1項の規定により送達をすることができない場合。
③外国においてすべき書類の送達について,同法108条の規定によることができず,又はこれによっても送達をすることができないと認めるべき場合。
④同法108条の規定により外国の管轄官庁に嘱託を発した後6か月を経過してもその送達を証する書面の送付がない場合。

①の括弧書きにより,送達を受けるべき者についてシステム送達をすることができる場合は,送達場所が知れないことを理由に公示送達をすることはできない。

2 職権による公示送達

裁判所は,訴訟の遅滞を避けるため必要があると認めるときは,申立てがないときであっても,裁判所書記官に公示送達をすべきことを命ずることができる(民事訴訟法110条2項)。
同一の当事者に対する2回目以降の公示送達は,職権でする(同条3項本文)。
ただし,外国の管轄官庁に嘱託を発した後6か月を経過しても送達を証する書面の送付がない場合(同条1項4号)は,この限りでない(同条3項ただし書)。

第3 公示送達の方法
1 法律と規則の定め

(続きを読む...)公示送達のウェブ掲載―令和8年5月21日以後の事件,効力発生時期及び掲載ページの利用条件(AI作成)

民事裁判はどのくらいかかるか―事件類型別・代理人の有無別の平均審理期間と長くなる要因(令和6年)(AI作成)

目次第1 この記事の対象と資料1 使用する資料と対象期間2 平均値を依頼者への説明に使うときの前提第2 民事第一審全体の審理期間1 令和6年の平均と分布2 平均を押し下げている事件第3 代理人・人証調べ・合議で変わる期間1 代理人の付き方2 人証調べ・鑑定・合議3 訴額第4 事件類型別の審理期間第5 手続段階と期日1 第1回口頭弁論期日までの期間2 期日の回数と間隔第6 大阪地方裁判所管内の数値第7 代理人の活動で審理期間が変わる場面1 訴状と初期の書面2 期日間の投稿と書面の提出期限3 合議体と付合議の上申第8 依頼者へ見通しを説明するときの注意1 数値を選ぶ順序2 控訴審を含めた期間
3 法定審理期間訴訟手続なら6か月で終わるか第9 関連記事第10 出典1 法令2 統計・データ
第1 この記事の対象と資料

自分の事件の見通しを考えるときは,まず通常訴訟か他の手続かを確認し,次に裁判所,事件類型,争いの有無,人証調べの必要性を分けて数値を選ぶ。全体平均だけから終了月を予測しない。本記事の統計は令和6年の事件を対象とする。訴状の送達,答弁書,争点整理,証拠調べ及び和解・判決という各段階の役割は,民事裁判の流れで説明している。

1 使用する資料と対象期間

本記事は,最高裁判所事務総局「裁判の迅速化に係る検証に関する報告書(第11回)」(令和7年7月)の統計を基に,地方裁判所の民事第一審訴訟がどのくらいの期間で終わっているかを整理するものである。
対象は令和6年に終局した事件であり,統計は令和7年4月15日現在の数値である。
同報告書は,裁判の迅速化に関する法律8条1項に基づき,最高裁判所が2年ごとに公表している検証結果である。
事件類型ごとの細かな数値は,同報告書の資料2-2-1(事件類型別平均審理期間等)及び資料2-6・2-9(地方裁判所管内別の数値)から取った。

「民事第一審訴訟」には,地方裁判所の通常訴訟のほか人事訴訟も含まれる(報告書45頁注1)。
平均審理期間は,訴えの受理から終局までの期間の平均である。
報告書の本文が「前回」と書くときは第10回報告書,すなわち令和4年の数値を指し,前年の令和5年の数値ではない。

2 平均値を依頼者への説明に使うときの前提

裁判の迅速化に関する法律2条1項は,「第一審の訴訟手続については二年以内のできるだけ短い期間内にこれを終局させ」ることを目標として掲げている。
これは目標であり,個々の事件を2年以内に終わらせる義務を裁判所に課す規定ではない。
平均審理期間は既に終わった事件の平均であり,係属中の事件がいつ終わるかを示すものでもない。

平均値は,短期間で終わる事件が多いと大きく下がる。
そのため,本記事では,全体の平均よりも,代理人の付き方・人証調べの有無・事件類型に分けた数値を重視する。

第2 民事第一審全体の審理期間
1 令和6年の平均と分布

令和6年の既済事件は13万9370件で,平均審理期間は9.2月であった(報告書47頁)。
平均審理期間は,平成20年の6.5月まで短くなった後に長期化し,令和3年・4年の10.5月を経て,令和6年は9.2月に短縮した。

審理期間の分布は,6月以内が58.1%,6月超1年以内が17.8%,1年超2年以内が16.5%,2年超が7.6%であった(報告書49頁,資料2-6)。
2年を超える割合は,前回(令和4年)の9.9%から下がっている。

2 平均を押し下げている事件

全体の平均が9.2月にとどまるのは,争いがほとんどなく短期間で終わる事件が多いためである。
例えば,建物の明渡し等の「建物」事件は4万0474件あり,平均審理期間は3.8月であった(資料2-2-1)。
判決で終局した事件のうち,被告が出頭しない欠席判決は平均3.4月で終わっている。

報告書は,第9回報告書から,過払金返還請求等の事件を統計から除く処理をやめ,全体の統計だけを分析している(報告書45頁注2)。
したがって,「民事裁判の平均は9.2月」という数値を,当事者双方が争う事件の目安として使うことはできない。

(続きを読む...)民事裁判はどのくらいかかるか―事件類型別・代理人の有無別の平均審理期間と長くなる要因(令和6年)(AI作成)

民事訴訟で弁護士が付く割合と本人訴訟の割合―地裁・簡裁・人事訴訟・遺産分割・婚姻関係事件の推移(平成元年~令和6年)(AI作成)

目次第1 本記事の対象と資料1 資料と対象期間2 「代理事件数」と「代理割合」第2 地方裁判所の民事第一審通常訴訟1 代理事件数の推移2 令和6年の代理の状況3 建物事件の増加4 事件類型別の代理割合第3 簡易裁判所の民事第一審訴訟1 双方本人が8割を超える2 「双方本人」には司法書士が代理した事件を含む第4 人事訴訟と家事事件1 人事訴訟(離婚訴訟を含む)2 遺産分割事件(調停・審判)3 婚姻関係事件(調停・審判)第5 数字を読むときの注意1 全国の数値であること2 出典の時点による差3 平成15年以前の地裁の合計第6 関連記事第7 出典・参考資料1 統計・データ
第1 本記事の対象と資料
1 資料と対象期間

本記事は,法務省が法曹養成制度改革連絡協議会の第26回(令和8年3月3日開催)に提出した資料1-2「裁判事件数調査関係資料」に基づき,民事訴訟と家事事件で弁護士が代理人に付いている割合の推移を整理するものである。
資料1-2の代理人に関する図表は,いずれも司法統計を基に作成されたもの(令和7年6月時点)であり,平成元年から令和6年までの36年分の全国の数値を掲げている。
大阪地裁その他の裁判所ごとの数値は,この資料には含まれていない。

2 「代理事件数」と「代理割合」
(1) 代理事件数

資料1-2の「代理事件数」は,既済事件を,双方に弁護士が付いた事件(双方代理),原告側だけに付いた事件(原告代理),被告側だけに付いた事件(被告代理)及びどちらにも付いていない事件(双方本人)の4つに分けて数えたものである。
本記事では,この4区分の件数と,その合計に対する割合(本記事で計算したもの)を示す。

(2) 代理割合

資料1-2の「代理割合」は,弁護士が当事者に代理人として付いた数(双方代理の事件は2,一方だけの事件は1と数える)を,既済事件数の2倍で割ったものである。
代理割合は当事者の側ごとに数えた指標であり,「少なくとも一方に弁護士が付いた事件の割合」とは異なる。
例えば,令和6年の地裁の代理割合は約66%であるが,少なくとも一方に弁護士が付いた事件の割合は約91.5%である。

第2 地方裁判所の民事第一審通常訴訟
1 代理事件数の推移

表1は,資料1-2の図表17(地裁の民事第一審通常訴訟の代理事件数)の全年を並べたものである。
括弧内の割合は,4区分の合計に対する割合を本記事で計算したものである。
平成9年までは再審の件数を含むと注記されている。

年双方代理原告だけ代理被告だけ代理双方本人計平成元年51,660(47.4%)37,301(34.2%)3,351(3.1%)16,755(15.4%)109,067平成2年53,235(50.4%)34,367(32.6%)3,191(3.0%)14,730(14.0%)105,523平成3年51,689(49.2%)35,336(33.6%)3,035(2.9%)15,046(14.3%)105,106平成4年51,676(44.5%)40,710(35.1%)3,543(3.1%)20,101(17.3%)116,030平成5年53,336(40.7%)46,358(35.4%)4,137(3.2%)27,200(20.8%)131,031平成6年54,546(39.7%)48,761(35.5%)4,753(3.5%)29,384(21.4%)137,444平成7年57,000(40.9%)48,901(35.1%)4,690(3.4%)28,818(20.7%)139,409平成8年57,610(41.6%)48,829(35.3%)4,809(3.5%)27,236(19.7%)138,484平成9年58,270(41.7%)48,767(34.9%)4,847(3.5%)27,719(19.9%)139,603平成10年59,671(40.1%)51,148(34.4%)5,625(3.8%)32,183(21.7%)148,627平成11年59,137(40.5%)49,234(33.7%)6,115(4.2%)31,548(21.6%)146,034平成12年60,876(40.6%)48,688(32.5%)6,893(4.6%)33,478(22.3%)149,935平成13年57,002(38.4%)51,251(34.6%)7,371(5.0%)32,699(22.0%)148,323平成14年55,463(38.0%)50,922(34.9%)7,192(4.9%)32,486(22.2%)146,063平成15年55,492(37.3%)51,423(34.6%)7,124(4.8%)34,626(23.3%)148,665平成16年53,906(38.4%)49,849(35.5%)6,499(4.6%)30,170(21.5%)140,424平成17年52,963(39.8%)47,678(35.8%)5,719(4.3%)26,645(20.0%)133,005平成18年54,305(38.0%)52,258(36.6%)5,989(4.2%)30,424(21.3%)142,976平成19年56,262(32.5%)68,153(39.4%)7,308(4.2%)41,162(23.8%)172,885平成20年58,420(30.4%)77,157(40.1%)8,426(4.4%)48,230(25.1%)192,233平成21年59,812(27.9%)91,243(42.5%)9,086(4.2%)54,370(25.3%)214,511平成22年63,148(27.8%)102,983(45.3%)8,390(3.7%)52,914(23.3%)227,435平成23年63,672(30.0%)92,114(43.3%)8,721(4.1%)47,985(22.6%)212,492平成24年63,308(37.6%)65,070(38.7%)7,382(4.4%)32,469(19.3%)168,229平成25年60,700(40.5%)58,080(38.7%)5,849(3.9%)25,301(16.9%)149,930平成26年60,124(42.6%)54,430(38.6%)5,012(3.6%)21,442(15.2%)141,008平成27年62,286(44.2%)54,899(38.9%)4,689(3.3%)19,099(13.5%)140,973平成28年64,197(43.4%)55,582(37.5%)4,389(3.0%)23,855(16.1%)148,023平成29年64,686(44.3%)54,391(37.3%)4,032(2.8%)22,874(15.7%)145,983平成30年63,055(45.5%)53,490(38.6%)3,803(2.7%)18,336(13.2%)138,684令和元年61,750(46.9%)54,719(41.6%)3,896(3.0%)11,193(8.5%)131,558令和2年54,635(44.5%)54,796(44.6%)3,440(2.8%)9,892(8.1%)122,763令和3年67,397(48.5%)57,296(41.2%)4,146(3.0%)10,181(7.3%)139,020令和4年63,169(47.9%)54,904(41.7%)4,005(3.0%)9,725(7.4%)131,803令和5年58,959(42.8%)64,524(46.9%)3,953(2.9%)10,173(7.4%)137,609令和6年56,385(40.5%)67,205(48.2%)3,978(2.9%)11,802(8.5%)139,370
2 令和6年の代理の状況
(1) 9割を超える事件で少なくとも一方に弁護士が付いている

令和6年の地裁の既済事件139,370件のうち,双方に弁護士が付いた事件は56,385件(40.5%),原告側だけに付いた事件は67,205件(48.2%),被告側だけに付いた事件は3,978件(2.9%)であった。
どちらにも弁護士が付いていない事件は11,802件(8.5%)であり,少なくとも一方に弁護士が付いた事件は91.5%になる。
少なくとも一方に弁護士が付いた事件の割合は,令和元年から令和6年まで毎年91%から93%の間にある。

(2) 双方本人の減少

双方本人の割合は,平成21年の25.3%(54,370件)が最も高く,令和元年に8.5%(11,193件)へ下がった後は,7%から9%の間で推移している。
平成21年前後は過払金返還請求訴訟の多かった時期であり,資料1-2は,その多くが含まれる事件類型を「金銭のその他」と説明している。

(3) 双方代理の割合の低下

双方代理の割合は,令和3年の48.5%から令和6年の40.5%へ下がり,代わりに原告だけに弁護士が付いた事件の割合が41.2%から48.2%へ上がっている。

(続きを読む...)民事訴訟で弁護士が付く割合と本人訴訟の割合―地裁・簡裁・人事訴訟・遺産分割・婚姻関係事件の推移(平成元年~令和6年)(AI作成)

強制執行・財産開示手続と時効の完成猶予・更新―差押えの了知不要,申立ての取下げ及び配当要求(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 本記事の対象2 結論第2 民法148条の構造1 条文2 改正前民法との対応3 財産開示手続と第三者からの情報取得手続第3 債権執行の差押えと債務者の了知(最高裁令和元年9月19日判決)1 事案2 判示3 現行法での読み方第4 物上保証人に対する競売と債務者への通知(民法154条)1 競売開始決定正本の送達が通知に当たる(最高裁昭和50年11月21日判決)2 効力が生ずる時点(最高裁平成8年7月12日判決・平成7年9月5日判決)3 連帯保証人の債務の物上保証人に対する競売(最高裁平成8年9月27日判決)第5 申立ての取下げ1 改正前民法の下での判例(最高裁平成11年9月9日判決)2 一部の満足を得た後の取下げ(最高裁平成30年12月18日決定)3 現行法の下での取下げ第6 配当要求と時効(最高裁令和2年9月18日判決)1 事案と判示2 実務上の意味第7 時効管理の実務上の注意1 判決確定後の時効期間2 日付による例3 確認事項第8 関連記事第9 出典・参考資料1 法令2 裁判例
第1 本記事の対象と結論
1 本記事の対象

本記事は,強制執行,担保権の実行,財産開示手続及び第三者からの情報取得手続によって消滅時効の完成が猶予され,又は更新される仕組み(民法148条)と,物上保証人に対する担保権の実行の場合の通知(民法154条)を,裁判所ウェブサイトで全文を確認できた最高裁判例に沿って整理するものである。
調査基準日は令和8年9月19日であり,条文はe-Gov法令検索で取得した現行条文によっている。

判決を得た後の回収の場面を主に想定している。
訴えの提起による完成猶予・更新は「訴えの提起と時効の完成猶予・更新―明示的一部請求,訴えの取下げ及び訴えの変更」,仮差押え・仮処分(民法149条)は「仮差押えと差押えの違い―処分禁止の効力,時効の完成猶予及び破産手続開始による失効」で扱う。
消滅時効全体の見取り図は「消滅時効に関するメモ書き」にある。

2 結論

強制執行・担保権の実行・財産開示手続・第三者からの情報取得手続を申し立てると,手続が終わるまでは時効が完成せず(完成猶予),手続が終わった時から時効が新たに進行を始める(更新)。
財産開示手続や第三者からの情報取得手続は,財産を差し押さえる手続ではないが,これらも完成猶予・更新の事由として条文に明記されている(民法148条1項4号)。

ただし,申立てを取り下げ,又は法律の規定に従わないことにより取り消されて手続が終わったときは,更新の効果は生じず,終了の時から6か月の完成猶予が残るだけである(民法148条1項括弧書・2項ただし書)。
改正前民法の下では,申立てを取り下げると(少なくとも請求債権の満足を得ないまま取り下げた場合には),時効中断の効力は初めから生じなかったことになるとされていた(改正前民法154条,最高裁平成11年9月9日判決)。

債権執行の差押えによって請求債権の時効が中断するためには,債務者が差押えを知り得る状態に置かれている必要はない(最高裁令和元年9月19日判決)。
これに対し,物上保証人の不動産に対する競売のように,時効の利益を受ける債務者以外の者に対して手続がされたときは,債務者に通知をした後でなければ完成猶予・更新の効力は生じない(民法154条)。
判例上,この通知は競売開始決定正本の債務者への送達で足り,その効力は送達の時(付郵便送達のときは到達の時)に生ずる。

マンションの管理組合が区分所有法の先取特権に基づいて配当要求をした場合,法定文書で先取特権が証明されれば,差押えに準ずるものとして時効中断の効力が生じ,債務者が配当異議を出さずに配当が実施されることまでは要しない(最高裁令和2年9月18日判決)。

第2 民法148条の構造
1 条文

民法148条1項は,「次に掲げる事由がある場合には、その事由が終了する(申立ての取下げ又は法律の規定に従わないことによる取消しによってその事由が終了した場合にあっては、その終了の時から六箇月を経過する)までの間は、時効は、完成しない。」と定める。
掲げられた事由は,①強制執行,②担保権の実行,③民事執行法195条に規定する担保権の実行としての競売の例による競売,④民事執行法196条に規定する財産開示手続又は同法204条に規定する第三者からの情報取得手続である。

同条2項は,「前項の場合には、時効は、同項各号に掲げる事由が終了した時から新たにその進行を始める。ただし、申立ての取下げ又は法律の規定に従わないことによる取消しによってその事由が終了した場合は、この限りでない。」と定める。
すなわち,これらの手続は,係属中は完成猶予の効果を持ち,取下げ・取消し以外の事由で終了したときに更新の効果を持つ。
訴えの提起(民法147条)と違い,権利が判決等で確定することは更新の要件とされていない。

2 改正前民法との対応

改正前民法は,「差押え、仮差押え又は仮処分」を時効の中断事由とし(改正前民法147条2号),「差押え、仮差押え及び仮処分は、権利者の請求により又は法律の規定に従わないことにより取り消されたときは、時効の中断の効力を生じない。」と定めていた(改正前民法154条)。
現行法は,差押え等を完成猶予と更新に分けた上,財産開示手続と第三者からの情報取得手続を明文で掲げ,取下げ・取消しの場合にも終了の時から6か月の完成猶予を認めた。
仮差押え・仮処分は,現行法では完成猶予だけの事由とされた(民法149条)。

施行日(令和2年4月1日)前に改正前民法147条の中断事由が生じた場合,その効力はなお従前の例による(平成29年法律第44号附則10条2項)。
以下で紹介する判例は,いずれも改正前民法の下での時効中断について判断したものである。

(続きを読む...)強制執行・財産開示手続と時効の完成猶予・更新―差押えの了知不要,申立ての取下げ及び配当要求(AI作成)

訴えの提起と時効の完成猶予・更新―明示的一部請求,訴えの取下げ及び訴えの変更(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 本記事の対象2 結論第2 訴えの提起による完成猶予と更新(民法147条)1 条文の構造2 完成猶予が始まる時点3 改正前民法との対応第3 明示的一部請求と残部の時効1 最高裁昭和34年2月20日判決(先例)2 最高裁昭和43年6月27日判決(踏襲)3 一部であることを明示していない場合(最高裁昭和45年7月24日判決)4 残部についての裁判上の催告(最高裁平成25年6月6日判決)5 現行法の下での考え方第4 訴えの取下げと却下1 現行法の規律2 最高裁昭和50年11月28日判決(取下げ後も効力が存続する場合)第5 訴えの変更・別の請求権と裁判上の請求1 不法行為から不当利得への変更(最高裁平成10年12月17日判決)2 手形金請求と原因債権(最高裁昭和62年10月16日判決)3 被告として権利を主張する場合(最高裁昭和38年10月30日大法廷判決)第6 支払督促・和解・調停・倒産手続参加1 支払督促2 訴え提起前の和解と調停3 破産手続参加等第7 時効管理の実務上の注意1 提訴前に確認すること2 訴訟係属中に確認すること3 判決確定後第8 関連記事第9 出典・参考資料1 法令2 裁判例
第1 本記事の対象と結論
1 本記事の対象

本記事は,訴えの提起その他の裁判上の請求等(民法147条)によって消滅時効の完成が猶予され,又は更新される仕組みを,裁判所ウェブサイトで全文を確認できた最高裁判例に沿って整理するものである。
調査基準日は令和8年9月19日であり,条文はe-Gov法令検索で取得した現行条文によっている。

扱うのは,①訴えの提起による完成猶予と更新の基本構造,②債権の一部だけを請求した場合(一部請求)の残部の時効,③訴えの取下げ,④訴えの変更・請求の追加,⑤支払督促・和解・調停等である。
催告(民法150条)と協議を行う旨の合意(民法151条)の詳細は「内容証明による催告と協議を行う旨の合意―6か月の完成猶予,再度の催告及び民法151条の使い方」,強制執行等による完成猶予・更新は「強制執行・財産開示手続と時効の完成猶予・更新―差押えの了知不要,申立ての取下げ及び配当要求」で扱う。
消滅時効全体の見取り図は「消滅時効に関するメモ書き」にある。

2 結論

訴えを提起すると,訴訟が続いている間は時効が完成せず(完成猶予),判決等で権利が確定すると,訴訟が終わった時から時効が新たに進行を始める(更新)。
権利が確定しないまま訴えを取り下げ,又は訴えが却下されたときでも,その時から6か月を経過するまでは時効が完成しない(民法147条1項括弧書)。

債権の一部だけを,一部であることを明示して請求した場合,裁判上の請求としての効力はその一部についてだけ生じ,残部には及ばない(最高裁昭和34年2月20日判決。最高裁昭和43年6月27日判決もこれを踏襲した)。
一部であることを明示していなければ,債権の同一性の範囲内で全部に効力が及ぶ(最高裁昭和45年7月24日判決)。
明示的一部請求の訴えは,特段の事情のない限り,残部について「裁判上の催告」としての効力を持つが,時効期間が経過した後の再度の催告にすぎない場合には時効の完成を妨げない(最高裁平成25年6月6日判決)。

したがって,残部を請求する可能性があるなら,時効期間が満了する前に請求を拡張するか,残部について別に訴えを提起しておくことが最も確実である。
施行日(令和2年4月1日)前に生じた時効の中断事由の効力は,なお改正前民法による(平成29年法律第44号附則10条2項)。

第2 訴えの提起による完成猶予と更新(民法147条)
1 条文の構造

民法147条1項は,「次に掲げる事由がある場合には、その事由が終了する(確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定することなくその事由が終了した場合にあっては、その終了の時から六箇月を経過する)までの間は、時効は、完成しない。」と定める。
掲げられた事由は,①裁判上の請求,②支払督促,③民事訴訟法275条1項の和解又は民事調停法若しくは家事事件手続法による調停,④破産手続参加,再生手続参加又は更生手続参加の4つである。

同条2項は,「前項の場合において、確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定したときは、時効は、同項各号に掲げる事由が終了した時から新たにその進行を始める。」と定める。
すなわち,裁判上の請求等は,手続の係属中は完成猶予の効果を持ち,権利が確定すれば更新の効果を持つ。
確定判決等によって確定した権利の時効期間は,10年より短い時効期間の定めがあるものであっても10年となる(民法169条1項)。
この点は「判決で確定した債権の消滅時効は10年―民法169条と改正前169条(定期給付債権)の違い」で扱う。

2 完成猶予が始まる時点

民事訴訟法147条は,「訴えが提起されたとき、又は第百四十三条第二項(第百四十四条第三項及び第百四十五条第四項において準用する場合を含む。)の書面が裁判所に提出されたときは、その時に時効の完成猶予又は法律上の期間の遵守のために必要な裁判上の請求があったものとする。」と定める。
訴状が被告に送達された時ではなく,訴えを提起した時が基準である。
訴訟の途中で請求を拡張し,又は新たな請求を追加する場合は,訴えの変更の書面(民事訴訟法143条2項)を裁判所に提出した時が基準となる。

3 改正前民法との対応

改正前民法は,「請求」を時効の中断事由とし(改正前民法147条1号),「裁判上の請求は、訴えの却下又は取下げの場合には、時効の中断の効力を生じない。」と定めていた(改正前民法149条)。

(続きを読む...)訴えの提起と時効の完成猶予・更新―明示的一部請求,訴えの取下げ及び訴えの変更(AI作成)

判決で確定した債権の消滅時効は10年―民法169条と改正前169条(定期給付債権)の違い(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 本記事の対象2 結論第2 民法169条の内容1 条文2 趣旨3 起算点と計算例4 10年に延びない場合第3 改正前民法169条・174条の2との関係1 改正前民法174条の22 改正前民法169条(定期給付債権)3 経過措置第4 「確定判決と同一の効力を有するもの」1 主なもの2 公正証書(執行証書)は含まれない3 裁判外の合意は含まれない第5 民法169条の適用範囲1 確定の時に弁済期が到来していない債権2 保証人・原因債権への影響第6 判決確定から10年が近づいたときの対応1 債権者側の手段2 債務者側の対応第7 関連記事第8 出典・参考資料1 法令2 裁判例
第1 本記事の対象と結論
1 本記事の対象

本記事は,判決や裁判上の和解等によって確定した債権の消滅時効が何年になるかを扱う。
調査基準日は令和8年9月19日であり,条文はe-Gov法令検索で取得した現行条文と,平成29年法律第44号による改正前の民法(以下「改正前民法」という。)の条文で確認し,裁判例は裁判所HPの裁判例検索で確認した。
消滅時効全体の見取り図は,消滅時効に関するメモ書きにまとめている。

2 結論

確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって確定した権利は,本来の時効期間が10年より短くても,確定の時から10年で時効にかかる(民法169条1項,147条2項)。
例えば,5年で時効になる売買代金債権でも,判決が確定すれば,確定の日の翌日から10年間は時効が完成しない。

「確定判決と同一の効力を有するもの」には,裁判上の和解・請求の認諾の調書,民事調停・家事調停の調書,督促異議のなかった仮執行宣言付支払督促,確定した破産債権についての破産債権者表の記載等が含まれる。
これに対し,強制執行認諾文言付きの公正証書(執行証書)は,強制執行はできるが確定判決と同一の効力を有するものではないから,民法169条による10年への延長はない。

確定の時に弁済期が到来していない債権(和解で定めた将来の分割金等)には,民法169条1項は適用されない(同条2項)。
主たる債務について判決が確定して時効期間が10年に延びると,保証人の債務の時効期間も10年になるとするのが改正前民法の下での判例である。

条番号には注意を要する。
改正前民法169条は,年又はこれより短い時期によって定めた給付を目的とする債権(定期給付債権)の5年の短期消滅時効の規定であり,現行民法169条とは内容がまったく異なる。
現行民法169条に当たる規定は,改正前は民法174条の2に置かれていた。

第2 民法169条の内容
1 条文

民法169条1項は,「確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって確定した権利については、十年より短い時効期間の定めがあるものであっても、その時効期間は、十年とする。」と定める。
同条2項は,「前項の規定は、確定の時に弁済期の到来していない債権については、適用しない。」と定める。

同条は,時効期間を10年に延ばす規定であるが,時効が新たに進行を始めること自体は,民法147条2項による。
民法147条1項は,裁判上の請求,支払督促,裁判上の和解・調停,破産手続参加等の事由がある場合,その事由が終了するまで時効は完成しないとし,同条2項は,「確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定したときは、時効は、同項各号に掲げる事由が終了した時から新たにその進行を始める。」と定める。
つまり,訴えの提起によって時効の完成が猶予され(完成猶予),判決の確定によって時効が新たに進行を始め(更新),その新たな時効期間が民法169条によって10年となる。

2 趣旨

確定判決等によって権利の存在が公的に確認された後も,本来の短い時効期間(例えば5年)がそのまま適用されると,債権者は短期間のうちに再び時効の完成を防ぐ手段を講じなければならなくなる。
民法169条は,権利の存在が確定した以上,証拠の散逸を理由とする短期の時効を維持する必要は乏しいという考え方に基づき,時効期間を一律に10年としたものと考えられる。
後記第5の2の最高裁昭和53年判決も,時効期間が延長されたのに原因債権の時効完成によって債務名義の執行力が排除されることがあっては「手形債権者の通常の期待に著しく反する結果となる」と述べており,判決等による確定後の権利行使への期待を保護する趣旨がうかがわれる。

3 起算点と計算例

判決確定後の10年は,判決が確定した日の翌日から起算する。
最高裁判所第二小法廷昭和46年7月23日判決(昭和45年(オ)第622号,集民103号457頁)は,求償金請求訴訟の勝訴判決が昭和36年9月5日の経過とともに確定した事案について,求償金債権は「判決確定の日の翌日である昭和三六年九月六日から、さらに一〇年の時効期間に服することになつた」と述べている。

(続きを読む...)判決で確定した債権の消滅時効は10年―民法169条と改正前169条(定期給付債権)の違い(AI作成)

売掛金の振込先口座がある銀行支店の所在地で訴えを提起できるか―民事訴訟法5条1号の義務履行地と振込払いの裁判例(AI作成)

目次第1 本記事の結論と対象1 結論2 本記事の対象と基準日第2 義務履行地の裁判籍の仕組み1 民事訴訟法4条及び5条1号2 売買代金債務の履行場所3 持参債務の原則と義務履行地の裁判籍第3 振込みによる支払と義務履行地に関する裁判例1 東京高裁昭和53年4月21日決定(売掛代金)2 大阪高裁平成10年4月30日決定(賃金の口座振込)3 松山地裁宇和島支部昭和60年8月8日決定(送金債務)4 金融機関の支店の所在地が義務履行地とされた例第4 振込先の支店の所在地を義務履行地と主張できる場合1 弁済場所についての明示の合意がある場合2 「振り込んで支払う」とだけ定める条項3 約款で支払場所を定める条項の限界第5 実務上の対応1 売主が訴えを提起する場合2 買主が訴えられた場合3 契約書を作成する段階第6 出典1 法令2 裁判例3 文献
第1 本記事の結論と対象
1 結論

売買代金を売主の指定する預金口座へ振り込んで支払う約束があるだけでは,その口座を管理する金融機関の支店の所在地は,民事訴訟法5条1号の義務履行地にはならないと考えられる。
大阪高裁平成10年4月30日決定は,銀行振込を義務履行のための一つの方法にすぎないとし,東京高裁昭和53年4月21日決定は,売掛代金が売主本店の口座への振込みで支払われていたことから支払場所を本店とする暗黙の合意の成立を推認することは困難であるとしており,いずれもこの考え方に沿うものである。

売買代金債務の履行場所は,弁済場所についての別段の意思表示がない限り,民法484条1項により債権者の現在の住所となり,商行為によって生じた債務であれば商法516条により債権者の現在の営業所となる。
したがって,売主は,自らの住所又は営業所の所在地を義務履行地として民事訴訟法5条1号の管轄を主張するのが通常であり,これとは別に振込先の支店の所在地を管轄の根拠とする意味は乏しい。

振込先の支店の所在地が義務履行地となり得るのは,その支店を弁済場所とする明示の合意がある場合など,当事者の意思表示によって弁済場所が特定されている場合に限られると考えられる。
もっとも,売買代金の事案で振込先の支店の所在地を義務履行地と認めた裁判例は,本記事で確認した範囲では見当たらなかった。

2 本記事の対象と基準日

本記事は,令和8年9月18日現在の法令並びに本記事で確認した裁判例及び文献に基づき,国内の売買代金(売掛金)請求訴訟の土地管轄を対象とする。
国際裁判管轄,手形又は小切手による金銭の支払の請求(民事訴訟法5条2号),消費者契約に特有の問題及び個別の契約条項の有効性の判断は,本記事の対象外とする。

本記事で取り上げる裁判例には,賃金,保険金,銀行取引等,売買代金以外の債務に関するものが含まれる。
これらは義務履行地の考え方を示すものとして参照するものであり,売買代金の事案にそのまま当てはまるとは限らない。

第2 義務履行地の裁判籍の仕組み
1 民事訴訟法4条及び5条1号

民事訴訟法4条1項は,訴えは被告の普通裁判籍の所在地を管轄する裁判所の管轄に属すると定め,同条4項は,法人の普通裁判籍は主たる事務所又は営業所により定まるとしている。
これに対し,同法5条柱書き及び1号は,財産権上の訴えについて,義務履行地を管轄する裁判所にも訴えを提起することができると定めている。

売買代金の支払を求める訴えは財産権上の訴えであるから,買主の普通裁判籍の所在地のほか,代金支払債務の義務履行地にも管轄が生じる。
そのため,代金支払債務の義務履行地がどこかが,売主がどこの裁判所に訴えを提起できるかを左右する。

2 売買代金債務の履行場所
(1) 民法484条1項

民法484条1項は,「弁済をすべき場所について別段の意思表示がないときは、特定物の引渡しは債権発生の時にその物が存在した場所において、その他の弁済は債権者の現在の住所において、それぞれしなければならない。」と定めている。
金銭債務である売買代金債務は「その他の弁済」に当たるから,別段の意思表示がなければ,売主の現在の住所が履行場所となり,これを持参債務の原則という(我妻榮ほか『我妻・有泉コンメンタール民法―総則・物権・債権―〔第6版〕』(日本評論社,2019年)968頁)。

同書は,別段の意思表示がない場合にも,債権発生行為の性質上弁済地が特定される場合には,民法484条の適用はないと説明している(同書969頁)。

(2) 商法516条

商法516条は,商行為によって生じた債務の履行をすべき場所がその行為の性質又は当事者の意思表示によって定まらないときは,特定物の引渡し以外の債務の履行は「債権者の現在の営業所(営業所がない場合にあっては、その住所)」においてしなければならないと定めている。
事業者間の売掛金は通常これに当たるから,売主の現在の営業所が履行場所となる。

(3) 民法574条

民法574条は,売買の目的物の引渡しと同時に代金を支払うべきときは,その引渡しの場所において支払わなければならないと定めている。

(続きを読む...)売掛金の振込先口座がある銀行支店の所在地で訴えを提起できるか―民事訴訟法5条1号の義務履行地と振込払いの裁判例(AI作成)

民事訴訟で相手方・第三者の資料を集める方法―弁護士会照会・調査嘱託・文書送付嘱託・文書提出命令の使い分け(AI作成)

目次第1 証拠収集手段を選ぶ前に整理する事項1 本記事の対象2 立証命題から逆算する3 事実の回答と既存資料の送付を区別する第2 本人による取得と任意の開示請求1 取得できることと取得してよいことを分ける2 本人取得と任意請求を具体化する第3 弁護士会照会1 制度の仕組み2 回答が保証される制度ではない3 照会で得た情報が損害額の立証に使われた例第4 提訴前照会と提訴前の証拠収集処分1 提訴前照会2 提訴前の証拠収集処分第5 当事者照会第6 調査嘱託第7 文書送付嘱託第8 文書提出命令1 申立てに必要な事項2 提出義務と除外文書3 命令に従わない場合第9 各制度の比較第10 電磁的記録,個人情報及び秘密への対応1 電磁的記録2 個人情報を含むことだけで取得できなくなるわけではない3 法律相談通信と既存資料を混同しない第11 よくある失敗と申立て前の確認事項1 よくある失敗2 申立て前の確認事項第12 証拠収集法制の見直しとの関係第13 一次資料と裁判例の確認範囲第14 出典1 法令・裁判例2 法改正関係資料
第1 証拠収集手段を選ぶ前に整理する事項
1 本記事の対象

相談・提訴の準備段階では,まず手元の契約書,送金記録,メール等を保存し,足りない資料の名称,対象期間,保有者と,証明したい事実を整理する。解決方法を選ぶための準備は民事事件の具体例・解決方法と相談の準備,裁判の各段階との関係は民事裁判の流れで説明している。本記事の収集手段は,この整理をした上で,利用時期と要件を確認して選ぶものである。

民事事件で必要な資料が相手方や第三者の手元にある場合,利用できる制度は一つではない。
弁護士会照会,提訴前照会,提訴前の証拠収集処分,当事者照会,調査嘱託,文書送付嘱託及び文書提出命令は,対象,利用できる時期,求める内容,強制力及び不回答時の効果が異なる。

本記事は,これらの制度を現行の民事訴訟法及び弁護士法に沿って比較し,制度を選ぶ前に整理すべき事項をまとめるものである。
条文は令和8年9月17日時点のe-Gov法令検索で確認した。
申立てさえすれば裁判所や弁護士会が必要な証拠を網羅的に探してくれる制度はないから,最初に「何を証明するため,誰が,どの資料又は情報を持っているか」を具体化し,本人による取得や任意交渉で足りるかを確認した上で,目的に合う制度を選ぶ必要がある。

2 立証命題から逆算する

最初に決めるべきなのは制度名ではなく,証明したい事実である。
例えば「取引の経過」を証明する場合でも,契約書,注文履歴,入出金記録,電子メール,アクセスログ等では,保有者,保存期間及び適切な取得手段が異なる。

資料候補ごとに,少なくとも次の事項を整理する。
① 証明すべき事実
② 資料又は情報の名称,内容及び対象期間
③ 作成者,保有者,担当部署及び保存システム
④ 契約番号,口座,端末,日時等の識別情報
⑤ 本人が取得できるか,既に取得を試みたか
⑥ 保存期間,上書き又は消去の可能性
⑦ 第三者の個人情報,営業秘密その他の秘密を含むか
⑧ 本案の証明責任を誰が負うか
⑨ 甲乙双方の既提出証拠で足りる部分と,不足している証明対象は何か

3 事実の回答と既存資料の送付を区別する

「特定日の登録住所を回答してほしい」という要求と,「特定期間の取引明細を送ってほしい」という要求は性質が違う。
前者は一定事項の報告を求める照会又は調査嘱託に適し,後者は既存文書の送付嘱託又は提出命令が問題になりやすい。
新しい意見書や調査報告書を作らせることと,既に存在する資料を送らせることも分けて検討する。

第2 本人による取得と任意の開示請求
1 取得できることと取得してよいことを分ける

資料を物理的・技術的に開けることと,その資料を取得・閲覧・複製してよい権限があることは別である。本人取得を選ぶ前に,端末・アカウント・媒体の名義及び管理者,ロック又はパスワードの有無,同意の有無と範囲,業務用か私用か,第三者の秘密を含むかを確認する。

対象を期間・相手・ファイル名等で絞り,取得前の状態,日時,取得者及び取得方法を記録する。電子データは原本を上書きせず,必要に応じて複製のハッシュ値を保存する。第三者の医療・家族・営業情報を含む場合や,退職者の会社端末,死亡者のロック端末,共有アカウント等は,裁判上の必要性だけで正当化できるとは限らないため,任意開示,照会,嘱託又は提出命令という代替手段も比較する。

(続きを読む...)民事訴訟で相手方・第三者の資料を集める方法―弁護士会照会・調査嘱託・文書送付嘱託・文書提出命令の使い分け(AI作成)

ウェブ会議による民事裁判期日を録音・録画・撮影できるか―民事訴訟規則77条と弁護士の確認事項(AI作成)

目次
第1 結論
第2 令和8年5月21日施行の民事訴訟規則77条
第3 ウェブ会議にも許可が必要となる理由
第4 裁判所が作成する録音・録画との違い
第5 刑事事件及び庁舎内撮影との区別
第6 弁護士の実務チェックリスト
第7 一次資料及び関連記事

第1 結論
1 本記事が扱うのは,当事者又は代理人が,ウェブ会議その他の民事裁判期日を私物端末等で録音,録画又は画面撮影する場面です。報道機関による法廷内カメラ取材は,「法廷内写真撮影」及び「最高裁判所における法廷内カメラ取材運用要領」で扱います。
2 現行の民事訴訟規則77条は,民事訴訟に関する手続の期日における写真撮影,速記,録音,録画又は放送について,裁判長,受命裁判官又は受託裁判官の許可を必要としています。
3 規制対象は従前の「法廷」に限られません。ウェブ会議で参加する弁論準備手続その他の期日でも,無断の録音,録画又はスクリーンショットをしてよいことにはなりません。
4 当事者双方が同意していること,端末に録画機能があること又は自分の発言だけを記録する目的であることは,裁判長等の許可に代わるものではありません。必要がある場合は,目的,方法,保存期間及び利用範囲を示して事前に許可を求めるべきです。

第2 令和8年5月21日施行の民事訴訟規則77条
1 裁判所が公表する現行民事訴訟規則77条は,対象を「民事訴訟に関する手続の期日」と定め,写真撮影,速記,録音,録画又は放送について許可を要求しています。
2 同条後段は,期日外の審尋及び民事訴訟法176条2項に基づく書面による準備手続の協議についても同じ扱いとしています。
3 令和8年5月21日より前の条文は「法廷における」撮影等を対象としていました。古い条文を現在のウェブ会議にそのまま当てはめると,適用範囲を誤るおそれがあります。

第3 ウェブ会議にも許可が必要となる理由
1 民事規則制定諮問委員会資料は,ウェブ会議等の利用場面が拡大する一方で,旧条文では裁判所が行う弁論準備手続期日や書面による準備手続の協議に一律の規律が及ばないという問題を説明しています。
2 画面撮影又は録画には,裁判官,裁判所職員,当事者,代理人,証人,通訳人,資料及び画面通知などが記録される可能性があります。情報漏えいだけでなく,発言萎縮,手続運営及び証人隔離への影響も生じ得ます。
3 規則77条は許可制であり,条文上「常に不許可」とされているわけではありません。ただし,許可の有無及び条件は個別の手続で確認する必要があります。

第4 裁判所が作成する録音・録画との違い
1 民事訴訟規則76条は,裁判所が必要と認めるときに,申立て又は職権で口頭弁論の陳述を録音装置により録取できることを定めています。
2 簡易裁判所では,所定の場合に裁判所書記官が証人等の陳述又は検証結果を録音・録画した電磁的記録を作成する制度もあります。
3 これらは裁判所が訴訟記録又は当事者の裁判上の利用のために作成する公式記録の制度です。当事者又は代理人が私物端末で記録することとは,根拠,管理主体,利用目的及び開示範囲が異なります。

(続きを読む...)ウェブ会議による民事裁判期日を録音・録画・撮影できるか―民事訴訟規則77条と弁護士の確認事項(AI作成)

仮差押えの担保(供託金)を取り戻す方法―担保取消しの3類型,簡易の取戻し及び所要期間(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 本記事の対象2 結論第2 担保を取り戻す手続の全体像1 担保は債務者の損害賠償請求権を担保するもの2 担保取消しと簡易の取戻しの違い3 手続を選ぶときの考え方第3 担保の事由の消滅による担保取消し(民事訴訟法79条1項)1 「担保の事由が消滅したこと」の意味2 勝訴的和解に頼らず同意条項を入れる3 必要書類と所要期間第4 担保権利者の同意による担保取消し(民事訴訟法79条2項)1 同意の意味と証明方法2 和解条項に同意と抗告権放棄を入れる3 同意書による場合の書類と所要期間4 債務者が破産した場合第5 権利行使催告による担保取消し(民事訴訟法79条3項)1 「訴訟の完結後」の意味2 保全事件では保全命令の申立ての取下げも必要3 本案訴訟の係属中は使えない4 催告期間と権利が行使された場合5 必要書類と所要期間第6 担保の簡易の取戻し(民事保全規則17条)1 要件2 運用基準3 申立書と添付書類4 債務者が債権者の権利を承継した場合第7 担保取消決定確定後の供託金の払渡し1 供託原因消滅証明書の交付を受ける2 法務局への供託物払渡請求3 受取方法4 簡易の取戻しの場合第8 支払保証委託契約(ボンド)と担保の変換1 ボンドで担保を立てた場合の解放手続2 保証料は返ってこないことがある3 供託した担保を支払保証委託契約に変換する方法第9 所要期間の目安と注意点1 東京地方裁判所の目安2 大阪地方裁判所3 資金計画上の注意点第10 関連記事第11 出典・参考資料1 法令・裁判所規則2 裁判例3 裁判所等の案内4 文献
第1 本記事の対象と結論

仮処分を含む民事保全の3類型と選択の考え方は,民事保全とはで説明している。

1 本記事の対象

本記事は,仮差押命令を得るために債権者が立てた担保(法務局に供託した金銭等)を,後日,債権者が取り戻す方法を扱う。
調査基準日は令和8年9月17日であり,条文はe-Gov法令検索の現行条文,民事保全規則は裁判所ウェブサイト掲載の規則本文で確認した。
仮差押えの全体像は仮差押えとは―要件・手続の流れ・担保・効力・解放金・担保の取戻しの全体像を,担保の金額の決まり方は仮差押えの担保金はいくらか―目的物の価格を基準とする算定方法,担保基準表及び立て方を参照されたい。

債務者が仮差押えの執行を免れるために供託する仮差押解放金の取戻しは,本記事の対象外である(仮差押解放金とは―金額の決まり方,供託による執行の取消し及び債権者の回収方法を参照)。
控訴に伴う強制執行停止の担保など,民事保全以外の担保も対象外である。

2 結論

仮差押えの担保を取り戻す方法は,次の4つである。
① 担保の事由が消滅したことを証明して担保取消しを受ける方法(民事保全法4条2項,民事訴訟法79条1項)
② 担保権利者(債務者)の同意を得たことを証明して担保取消しを受ける方法(同条2項)
③ 訴訟の完結後に権利行使催告をし,債務者が権利を行使しないことで同意があったものとみなして担保取消しを受ける方法(同条3項)
④ 保全執行が空振りに終わった場合等に,裁判所の許可を得て担保を取り戻す方法(民事保全規則17条1項。担保の簡易の取戻し)

どれを選ぶかは,概ね次の順で判断する。
① 登記・送達ができなかった,執行に着手する前に取り下げた等,債務者に損害が生じないことが明らかであれば,簡易の取戻しを検討する。
② 債務者の同意が得られるなら,同意による担保取消しが最も早い。
③ 本案で債権者が全部勝訴して確定し,又は請求の認諾があったときは,事由消滅による担保取消しを使う。
④ それ以外(一部敗訴,本案未提起,本案の取下げ等)は,保全命令の申立てを取り下げた上で,権利行使催告による担保取消しを使う。

東京地方裁判所民事第9部の案内(令和8年9月17日確認)では,担保取消しの申立てから供託原因消滅証明書の交付までの目安は,同意が約1週間,事由消滅が約1か月,権利行使催告が約2か月とされている。
大阪地方裁判所第1民事部(保全部)の案内には,所要日数の記載はない。
担保取消決定が確定した後(簡易の取戻しでは許可を得た後),法務局に供託物払渡請求をして,初めて供託金が戻ってくる。

権利行使催告の催告期間は,東京地方裁判所の取扱いでは,催告書の送達を受けた日から14日とされ,さらに権利行使の証明書の提出期間として5日が加えられている(岡口基一『民事保全・非訟マニュアル―書式のポイントと実務』(ぎょうせい,2019年)377頁)。
本案訴訟の係属中で債務者の同意も得られないときは,担保を支払保証委託契約に変換する手続(民事保全法4条2項,民事訴訟法80条)もあるが,それで資金が手元に戻るかどうかは,保証を引き受ける銀行等の条件による。

第2 担保を取り戻す手続の全体像
1 担保は債務者の損害賠償請求権を担保するもの

保全命令は,担保を立てさせて発することができる(民事保全法14条1項)。

(続きを読む...)仮差押えの担保(供託金)を取り戻す方法―担保取消しの3類型,簡易の取戻し及び所要期間(AI作成)

仮差押えと差押えの違い―処分禁止の効力,時効の完成猶予及び破産手続開始による失効(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 本記事の対象2 結論第2 仮差押えと差押えの比較表第3 仮差押えの効力―処分禁止1 不動産の仮差押え2 債権の仮差押え第4 仮差押えではできないこと1 換価・取立て・転付による満足はできない2 優先弁済権はない第5 本執行への移行1 移行の要件と手続2 最高裁平成28年12月1日判決(法定地上権)第6 時効への効果1 現行民法では完成猶予にとどまる2 「その事由が終了した時」はいつか3 令和2年4月1日より前の仮差押え4 仮差押えの対象となった債権自体の時効第7 破産手続開始による失効と再生・更生手続での中止1 破産法42条1項・2項2 債権者から見た意味3 民事再生・会社更生との比較第8 関連記事第9 出典・参考資料1 法令・裁判所規則2 裁判例3 裁判所等の案内4 文献
第1 本記事の対象と結論
1 本記事の対象

本記事は,金銭債権の強制執行を保全するための仮差押え(民事保全法20条1項)と,債務名義に基づく強制執行としての差押え(本執行)との違いを,効力の面から整理するものである。
調査基準日は令和8年9月17日であり,法令は同日時点でe-Gov法令検索に掲載されている現行条文により確認した。

仮差押えの要件,申立ての流れ,担保の額,解放金,債務者の対抗手段等の各論は,仮差押えとは―要件・手続の流れ・担保・効力・解放金・担保の取戻しの全体像及び同記事からリンクする各記事で扱う。
係争物に関する仮処分,仮の地位を定める仮処分,国税滞納処分,個人再生及び特別清算の各手続における扱いは,本記事の対象外である。
民事再生と会社更生は,破産との違いが分かる範囲で条文の骨格だけを紹介する。

2 結論

①仮差押えも差押えも,債務者による目的財産の処分を制限する点では共通するが,仮差押えは将来の強制執行に備えて財産を確保する手続にすぎず,それだけで債権を回収することはできない。
②仮差押えは債務名義なしに,被保全権利と保全の必要性を疎明して発令を受けるものであり(民事保全法13条2項),通常は担保を立てる必要がある(同法14条1項)。
これに対し,差押えは,確定判決等の債務名義に基づいて行う(民事執行法22条)。

③仮差押えの処分禁止の効力は,処分を絶対的に無効とするものではなく,処分をしても仮差押債権者に対抗できないという相対的なものである(最高裁判所第三小法廷令和3年1月12日判決の理由中の判示参照)。
④仮差押債権者は,取立て,転付命令,換価による満足を得ることができず,担保権者のような優先弁済権もない。
配当等に加わる場合も,仮差押債権者に対する配当等の額は供託される(民事執行法91条1項2号)。
回収するには,本案訴訟等で債務名義を得た上で,改めて本執行を申し立てる必要がある。

⑤時効について,現行民法では,仮差押えは時効の完成猶予事由にとどまり,その事由が終了した時から6か月を経過するまで時効が完成しないだけである(民法149条1号)。
時効の更新を得るには,本案訴訟を提起して確定判決等により権利を確定させる等の手続が別に必要である(民法147条)。
令和2年4月1日より前に仮差押えがされた場合は,改正前の「時効の中断」の規定による(平成29年法律第44号附則10条2項)。
「その事由が終了した時」がいつかについて,改正後の民法の下で判断した最高裁判例は見当たらない。
完成猶予の効力が及ぶのは被保全債権とされた範囲であり,仮差押えの対象となった債権(被仮差押債権)自体の時効を止めるものではない。

⑥債務者について破産手続開始の決定があると,破産財団に属する財産に対して既にされている破産債権に基づく仮差押えは,破産財団に対してその効力を失う(破産法42条2項)。
強制執行(差押え)も同様に失効するが,破産管財人が強制執行の手続を続行することは妨げられないのに対し,仮差押えにはこの続行の定めがない。
これに対し,再生手続開始の決定や更生手続開始の決定があった場合,既にされている仮差押えは直ちに失効するのではなく中止し,再生計画認可の決定の確定又は更生計画認可の決定があったときに効力を失う(民事再生法39条1項・184条,会社更生法50条1項・208条)。

第2 仮差押えと差押えの比較表

次の表は,本記事で確認した条文と教材の記載に基づき,両者の違いを要約したものである。

項目仮差押え差押え(本執行)目的将来の金銭債権の強制執行の保全金銭債権の強制的な実現債務名義不要(被保全権利と保全の必要性を疎明する)必要(執行文の付された債務名義の正本等に基づく)担保通常は立てる必要がある保全命令の担保のような担保はない(仮執行宣言が担保を条件とする場合はある)処分の制限あり(手続相対効)あり債権の場合の効力発生仮差押命令が第三債務者に送達された時差押命令が第三債務者に送達された時換価・取立て・転付できないできる優先弁済なし(配当等の額は供託される)担保権者のような優先弁済権はないが,取立て・配当等により満足を得られる時効完成猶予(事由終了から6か月)完成猶予,手続終了時に更新(取下げ等による終了を除く)破産手続開始破産財団に対して失効破産財団に対して失効(破産管財人は続行できる)再生手続・更生手続開始中止(計画認可で失効)中止(計画認可で失効)主な条文民事保全法13条・14条・20条・47条・50条,民法149条,破産法42条,民事再生法39条,会社更生法50条民事執行法22条・25条・45条・145条・155条・159条,民法148条,破産法42条

表の「差押え(本執行)」欄は,不動産の強制競売と債権執行を念頭に置いたものである。
担保の欄の仮執行宣言については,民事訴訟法259条1項が,裁判所は「担保を立てて、又は立てないで仮執行をすることができることを宣言することができる」と定めている。

第3 仮差押えの効力―処分禁止

(続きを読む...)仮差押えと差押えの違い―処分禁止の効力,時効の完成猶予及び破産手続開始による失効(AI作成)

仮差押解放金とは―金額の決まり方,供託による執行の取消し及び債権者の回収方法(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 本記事の対象2 結論第2 仮差押解放金の意味と根拠1 民事保全法22条2 供託できるもの,供託所及び供託する者3 担保との違い第3 解放金の額の決まり方1 基本的な考え方2 目的物の種類ごとの基準3 解放金の額に不服がある債務者第4 債務者が解放金を供託した場合の効果1 仮差押えの執行の取消し(民事保全法51条)2 目的物ごとの執行の解放3 供託後も仮差押えの効力が残ること4 複数の仮差押命令と解放金の重複第5 債権者の回収方法1 本案で勝訴してから供託金取戻請求権を差し押さえる2 差押えが競合しない場合3 差押えが競合した場合4 債権者の立場からみた解放金の意味第6 みなし解放金(民事保全法50条3項)1 第三債務者が供託した場合2 債務者がみなし解放金を取り戻す手続第7 債務者が解放金を取り戻す方法1 取戻事由2 手続の流れ3 取戻事由を作る方法第8 解放金の供託と他の対抗手段の使い分け1 解放金の供託と保全異議・保全取消し2 担保の取戻しとの区別3 仮処分解放金は別の制度第9 関連記事第10 出典・参考資料1 法令・裁判所規則2 裁判例3 裁判所等の案内4 文献
第1 本記事の対象と結論
1 本記事の対象

本記事は,仮差押命令に定められる仮差押解放金(民事保全法22条)について,金額の決まり方,債務者が供託したときの効果,債権者が最終的に回収する方法及び債務者が供託金を取り戻す方法を説明するものである。
調査基準日は令和8年9月17日である。
条文はe-Gov法令検索の現行条文(民事保全法は令和8年5月21日施行の改正を反映したもの)で確認し,裁判例は裁判所HPで確認したものを挙げ,裁判所HPで確認できなかったものは文献が引用するものとして示している。

主な文献は,岡口基一『民事保全・非訟マニュアル―書式のポイントと実務』(ぎょうせい,2019年。以下「岡口マニュアル」という。)86頁~89頁と,司法研修所編『民事弁護教材 改訂 民事保全(補正版)』(日本弁護士連合会,平成25年3月1日発行。以下「教材」という。)である。
いずれもその後の法改正(民法(債権関係)改正(令和2年4月1日施行),令和元年の民事執行法改正等)との時点差があるので,条番号は現行条文で書いている。
仮差押えの全体像は,仮差押えとは―要件・手続の流れ・担保・効力・解放金・担保の取戻しの全体像で説明している。

仮処分命令で定められる仮処分解放金(民事保全法25条)は,要件も還付の仕組みも異なるので,本記事の対象外とする。

2 結論

①仮差押解放金とは,債務者が仮差押えの執行の停止又は既にした執行の取消しを得るために供託すべき金銭の額であり,仮差押命令で必ず定められる(民事保全法22条1項)。
②供託できるのは金銭に限られ,有価証券や支払保証委託契約(いわゆるボンド)によることはできず,管外供託も認められない(教材36頁,岡口マニュアル88頁)。
第三者による供託も,東京地方裁判所民事第9部の案内では認められていない。
③金額は,解放金が目的物に代わるものであることから,原則として目的物の価額を基準とし,目的物の価額が被保全債権の額を上回るときは被保全権利の額を基準とする(岡口マニュアル86頁~87頁,教材36頁)。
債権の仮差押えは仮差押債権額,目的物を特定しない動産の仮差押えは被保全債権の額,不動産の仮差押えは目的物の価額(基本的に固定資産評価額)と被保全権利の額のいずれか低い方が基準とされる(岡口マニュアル87頁)。
④債務者は,供託書正本及びその写しを添付して保全執行裁判所に執行取消しを申し立て,保全執行裁判所は仮差押えの執行を取り消さなければならない(民事保全法51条1項)。
取消決定は即時に効力を生じ,取り消されるのは執行であって仮差押命令そのものは残る。
⑤執行が取り消されても,仮差押えの執行保全の効力は債務者の供託金取戻請求権の上に存続する(最高裁判所第三小法廷平成6年6月21日判決)。
債権者は,本案で勝訴した後,この取戻請求権を差し押さえ,取立て又は転付命令により供託所から払渡しを受け,他の差押えと競合したときは配当等を受ける。
⑥債権の仮差押えで第三債務者が債権額相当額を供託したときは,解放金の額の限度で,債務者が解放金を供託したものとみなされる(民事保全法50条3項。みなし解放金)。
⑦債務者が供託した解放金を取り戻すには,仮差押命令の申立ての取下げ又は仮差押命令を取り消す決定が必要であり,東京地方裁判所民事第9部の案内では,発令裁判所に取戻許可申立書を出す手続とされている。

第2 仮差押解放金の意味と根拠
1 民事保全法22条

民事保全法22条1項は,「仮差押命令においては、仮差押えの執行の停止を得るため、又は既にした仮差押えの執行の取消しを得るために債務者が供託すべき金銭の額を定めなければならない。」と定めている。
「定めなければならない」とされているから,解放金の額は仮差押命令の必要的記載事項であり,裁判所は職権で定める(岡口マニュアル86頁)。
教材35頁~36頁によれば主文中に記載される。

仮差押えは,本案で勝訴したときの強制執行に備えて,債務者の特定の財産の処分を暫定的に禁止する制度である。
債務者からみると,不動産の売却や預金の払戻しが止まることの不利益が大きい場合がある。
解放金は,債務者が目的物に代わる金銭を供託することで,目的物を仮差押えから解放する仕組みである。

(続きを読む...)仮差押解放金とは―金額の決まり方,供託による執行の取消し及び債権者の回収方法(AI作成)

大阪地裁で仮差押命令を得るまでの流れ―申立て,債権者面接,担保提供及び午後4時の発令(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 本記事の対象2 結論第2 申立ての準備1 管轄2 申立書,疎明資料及び目録3 申立ての費用4 電子申立てはできるか第3 申立てから担保決定まで1 申立ての受付2 債権者面接3 担保決定第4 担保の提供と発令1 担保の提供方法2 証明書の提出3 午後4時までの提出と発令第5 発令後の仮差押えの執行1 執行の申立ては原則として不要2 不動産の仮差押え3 債権の仮差押え4 保全執行期間は2週間第6 発令に至らなかった場合と担保の取戻し1 却下と即時抗告2 申立ての取下げ3 担保の取戻し第7 関連記事第8 出典・参考資料1 法令・裁判所規則2 裁判例3 裁判所等の案内4 文献
第1 本記事の対象と結論

仮処分を含む民事保全の3類型と選択の考え方は,民事保全とはで説明している。

1 本記事の対象

本記事は,金銭債権を保全するために大阪地方裁判所に仮差押命令を申し立て,仮差押命令の発令を受け,不動産の仮差押えの登記又は第三債務者への送達によって仮差押えの執行がされるまでの流れを説明するものである。
調査基準日は令和8年9月17日である。

大阪地方裁判所の運用として書く事項は,同日に確認した大阪地方裁判所第1民事部(保全部)の裁判所ウェブサイト上の案内に記載があるものに限っている。
案内に記載のない面接の時間帯や,申立てから発令までの日数の目安は,本記事では取り上げない。
運用は変更されることがあるから,実際に申し立てる際は,最新の案内を確認し,不明な点は担当書記官に問い合わせる必要がある。

仮差押えの要件,効力及び債務者側の手続を含む全体像は,仮差押えとは―要件・手続の流れ・担保・効力・解放金・担保の取戻しの全体像で説明している。

2 結論

大阪地方裁判所で仮差押命令(不動産又は債権の仮差押え)を得るまでの流れは,おおむね次のとおりである。

段階内容根拠①管轄の確認本案の管轄裁判所又は仮に差し押さえるべき物の所在地を管轄する地方裁判所に申し立てる民事保全法12条②申立て申立書に疎明資料及び添付資料を添えて第1民事部の受付窓口(本館3階)へ持参する民事保全法13条,大阪地裁の案内③債権者面接原則として全件で実施され,申立ての翌日に行われることが多い(代理人弁護士の申立事件はウェブ会議も可)大阪地裁の案内④担保決定担保提供の期間は原則として7日民事保全法14条1項,大阪地裁の案内⑤担保の提供法務局への現金供託又は許可を得た上での支払保証委託契約の締結民事保全法4条1項,民事保全規則2条,大阪地裁の案内⑥証明書の提出午後4時までに提出すれば原則として同日中に発令大阪地裁の案内⑦保全執行不動産は裁判所書記官が仮差押えの登記を嘱託し,債権は第三債務者に仮差押命令を送達する民事保全法47条3項,50条1項⑧執行期間債権者に保全命令が送達された日から2週間民事保全法43条2項

実務上特に注意すべき点は,次のとおりである。
①債権者面接は申立ての翌日に行われることが多く,差支え日時は受付の場で聞かれるから,申立日後2,3日分の予定を把握しておく必要がある。
②担保提供期間内に担保提供の証明書を提出しないと,申立ては却下される。
③証明書の提出が午後4時を過ぎると,発令は翌日以降になる。
④供託金を電子納付する場合は,供託所で入金が確認されてから供託書正本が交付されるので,その時間を見込んでおく必要がある。
⑤東京地方裁判所民事第9部の案内(令和8年9月17日確認)では,保全事件の申立ては令和8年5月21日から始まった民事訴訟の全面電子化の対象外とされており,大阪地方裁判所第1民事部の案内も申立書を受付窓口に持参するよう求めている。

第2 申立ての準備
1 管轄
(1) 民事保全法の定め

民事保全法12条1項は,「保全命令事件は、本案の管轄裁判所又は仮に差し押さえるべき物若しくは係争物の所在地を管轄する地方裁判所が管轄する。」と定める。
本案の管轄裁判所は第一審裁判所であり,本案が控訴審に係属するときは控訴裁判所である(同条3項)。
仮に差し押さえるべき物が債権であるときは,その債権は第三債務者の普通裁判籍の所在地にあるものとされる(同条4項)。

(2) 大阪地方裁判所の管轄チェックチャート

大阪地方裁判所第1民事部の案内は,大阪地方裁判所に管轄がないのに申立てをする例が比較的多く見られるとして,管轄の有無を十分に検討してから申し立てるよう求めている。
同部が公表している「管轄チェックチャート(仮差押え)」は,大阪市,豊中市,吹田市,高槻市,枚方市,東大阪市等の地域を大阪地方裁判所本庁の管轄区域とし,堺市等は堺支部,岸和田市等は岸和田支部に申し立てるべき事件としている。

(続きを読む...)大阪地裁で仮差押命令を得るまでの流れ―申立て,債権者面接,担保提供及び午後4時の発令(AI作成)

仮差押えを受けた債務者の対抗手段―保全異議,起訴命令,事情変更による保全取消し及び保全抗告(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 本記事の対象2 結論第2 仮差押えを知る時点と最初に確認すること1 債務者の審尋なしに発令され,送達で知ること2 事件記録の閲覧3 最初に確認する事項第3 債務者の対抗手段の全体像1 選択肢の一覧2 特別事情による保全取消しは仮差押えに使えないこと3 手段の選び方第4 保全異議1 申立て2 異議の理由3 審理4 決定5 保全執行の停止の裁判(民事保全法27条)6 取下げと判事補の権限第5 起訴命令による保全取消し(民事保全法37条)1 起訴命令2 本案の訴えとみなされる手続3 期間内に書面が出ない場合の取消し4 起訴命令を使う場面第6 事情変更による保全取消し(民事保全法38条)1 要件と申立先2 事情の変更の例3 弁済しただけでは仮差押えの執行は止まらないこと4 決定第7 保全異議と保全取消しの関係1 主張できる事由の違い2 同一手続での主張と申立ての競合第8 保全抗告(民事保全法41条)1 期間と対象2 手続の特徴3 取消決定の効力の停止(民事保全法42条)4 保全抗告についての決定に対する特別抗告・許可抗告第9 期限の早見表1 民事保全の主な期間2 民事訴訟の即時抗告・執行抗告との違い第10 その他の対抗手段1 仮差押解放金の供託2 本案で争う3 不当な仮差押えによる損害賠償4 保全執行の手続上の違法を争う場合第11 関連記事第12 出典・参考資料1 法令・裁判所規則2 裁判例3 裁判所等の案内4 文献
第1 本記事の対象と結論
1 本記事の対象

本記事は,仮差押命令を受けた債務者が取り得る対抗手段について,保全異議(民事保全法26条),起訴命令による保全取消し(同法37条),事情変更による保全取消し(同法38条)及び保全抗告(同法41条)を中心に,申立先,期間,審理の方法及び決定の効力を説明するものである。
調査基準日は令和8年9月17日である。
条文はe-Gov法令検索の現行条文(民事保全法は令和8年5月21日施行の改正を反映したもの)で,民事保全規則は裁判所HPに掲載された規則のPDFで確認した。

司法研修所編『民事弁護教材 改訂 民事保全(補正版)』(日本弁護士連合会,平成25年3月1日発行。以下「教材」という。)は平成25年時点の資料である。
その後の法改正で条番号や名称が変わった箇所は,現行条文に合わせて記載する。
仮差押えの全体像は,仮差押えとは―要件・手続の流れ・担保・効力・解放金・担保の取戻しの全体像で説明している。

本案の判決等に基づく強制執行(本執行)に対する対抗手段は,強制執行に対する債務者の対抗手段―執行抗告,請求異議の訴え,執行停止,差押禁止債権の範囲変更で説明しており,本記事の対象外とする。

2 結論

①仮差押命令は,通常,債務者の審尋を経ずに発令され,債務者は保全命令の送達(民事保全法17条)によって初めて仮差押えを知ることが多い。
送達を受けた後は,事件の記録を閲覧して,債権者の主張と疎明資料を確認できる(同法5条ただし書)。
②仮差押命令に不服がある債務者は,発令裁判所に保全異議を申し立てることができる(同法26条)。
被保全権利や保全の必要性が発令時から無かったこと,担保の額が低すぎること,解放金の額が高すぎること等を主張でき,申立てに期間の制限は無い(教材89頁,96頁)。
③債権者がまだ本案の訴えを起こしていないときは,起訴命令を申し立てることができる。
裁判所は2週間以上の期間を定めて本案の訴えの提起等を命じ,債権者が期間内に証する書面を出さなければ,債務者の申立てにより仮差押命令は取り消される(同法37条1項~3項)。
④発令後に弁済等で被保全債権が消滅した場合や,保全の必要性が無くなった場合は,事情変更による保全取消しを申し立てることができる(同法38条)。
⑤特別の事情による保全取消し(同法39条)は,条文上「仮処分命令」に限られており,仮差押えには使えない。
⑥保全異議や保全取消しの申立てについての決定に不服がある当事者は,その送達を受けた日から2週間の不変期間内に保全抗告をすることができ,保全抗告についての裁判に対しては更に抗告をすることができない(同法41条1項・3項)。
もっとも,高等裁判所がした保全抗告についての決定は許可抗告の対象となり(最高裁判所第一小法廷平成11年3月12日決定),憲法違反を理由とする特別抗告もでき,いずれも告知を受けた日から5日の不変期間内にしなければならない(民事訴訟法336条2項,337条6項)。
⑦保全異議を申し立てても仮差押えの執行は当然には止まらない。
保全執行の停止の裁判(同法27条)は要件が厳格なので,目的物を早く解放したいときは仮差押解放金の供託(同法22条・51条)を併せて検討することになる。
⑧保全抗告の2週間は,民事訴訟法の即時抗告の1週間(同法332条)とは異なる。
起算点も,即時抗告は「告知を受けた日」,保全抗告は「送達を受けた日」である。

第2 仮差押えを知る時点と最初に確認すること
1 債務者の審尋なしに発令され,送達で知ること

仮差押命令は,口頭弁論を経ないで発することができる(民事保全法3条)。
仮の地位を定める仮処分については,原則として口頭弁論又は債務者が立ち会うことができる審尋の期日を経なければならないとされているが(同法23条4項),仮差押えにはこのような規定はない。
教材14頁は,債権者の立場では,密行性の観点から,任意的口頭弁論及び債務者審尋を避け,書面審理又は債権者(代理人)審尋のみで保全命令を得ることが望ましいと説明している。

(続きを読む...)仮差押えを受けた債務者の対抗手段―保全異議,起訴命令,事情変更による保全取消し及び保全抗告(AI作成)

不当な仮差押えによる損害賠償―過失の推認と担保(供託金)からの回収(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 本記事の対象2 結論第2 責任の根拠と過失の推認1 民法709条による不法行為責任2 最高裁昭和43年12月24日判決の過失の推認3 推認が覆るその他の場合4 違法とされる場面(被保全権利又は保全の必要性の欠如)第3 損害の範囲と因果関係1 民法416条の類推適用(最高裁昭和48年6月7日判決)2 信用毀損・取引停止による損害3 平成26年~27年の下級審裁判例(消費者庁資料)4 令和元年以降の下級審裁判例(判例秘書登載)5 損害項目ごとの整理6 過失相殺と消滅時効7 損害賠償請求の方法第4 担保(供託金)からの回収1 担保の性質と債務者の優先弁済権2 供託金の還付請求3 支払保証委託契約で担保が立てられている場合4 権利行使催告を受けたときの対応5 担保取消しに同意する前の注意第5 債権者側の注意点1 被保全権利の疎明と調査2 債務者の取違え3 過大な仮差押えと保全の必要性4 取引先・勤務先への影響への配慮第6 関連記事第7 出典・参考資料1 法令・裁判所規則2 裁判例3 裁判所等の案内4 文献
第1 本記事の対象と結論
1 本記事の対象

本記事は,仮差押えや仮処分(以下,併せて「保全処分」ということがある。)が後に取り消され,又は本案訴訟で債権者が敗訴した場合に,保全処分を受けた債務者が債権者に損害賠償を請求できるか,どのような損害が認められやすいか,債権者が立てた担保(供託金等)からどのように回収するかを説明するものである。
調査基準日は令和8年9月17日である。
条文はe-Gov法令検索の現行条文で確認し,民事保全規則は裁判所ウェブサイト掲載のPDFで確認した。
最高裁判所の裁判例は,裁判所HPの裁判例検索で書誌事項と全文を確認したものを挙げている。

司法研修所編『民事弁護教材 改訂 民事保全(補正版)』(日本弁護士連合会,平成25年3月1日発行。以下「教材」という。)は平成25年時点の資料である。
岡口基一『民事保全・非訟マニュアル―書式のポイントと実務』(ぎょうせい,2019年。以下「岡口マニュアル」という。)は,担保からの回収,過失相殺及び消滅時効の説明に用いる。
平成26年~27年の下級審裁判例は,消費者庁の検討会資料「不当な仮差押命令に関する損害賠償請求についての近時の裁判例」(平成28年4月22日・参考資料1。国立国会図書館インターネット資料収集保存事業(WARP)の保存版)に基づいて紹介する。
令和元年以降の下級審裁判例は,判例秘書で内容を確認したもの(いずれも裁判所ウェブサイト未掲載)を紹介する。
仮差押えの全体像は,仮差押えとは―要件・手続の流れ・担保・効力・解放金・担保の取戻しの全体像で説明している。

2 結論

①不当な保全処分による損害賠償責任の根拠は,民法709条の不法行為であり,債権者に故意又は過失がなければ責任は生じない。
保全処分が取り消されたこと自体から当然に責任が生ずるわけではない。
②もっとも,保全命令が異議若しくは上訴手続で取り消され,又は本案訴訟で債権者敗訴の判決が確定した場合には,特段の事情のない限り,債権者に過失があったものと推認される(最高裁判所第三小法廷昭和43年12月24日判決)。
③この推認は覆ることがある。
債務者を会社とすべきか代表者個人とすべきかが極めてまぎらわしかった事案や,遺言の解釈が分かれうる事案では,取消しや本案敗訴の一事で過失があるとはいえないとされている(同判決,最高裁判所第二小法廷平成2年1月22日判決)。
④損害の範囲については,民法416条が類推適用され,特別の事情による損害は予見可能性がある場合に限られる(最高裁判所第一小法廷昭和48年6月7日判決)。
債権の仮差押え後に第三債務者との新たな取引がなくなったことによる逸失利益について,相当因果関係が否定された最高裁判決がある(最高裁判所第一小法廷平成31年3月7日判決)。
⑤消費者庁資料が紹介する平成26年~27年の東京地裁判決7件では,保全異議の弁護士費用,仮差押解放金の調達費用・利息,自己資金の法定利率相当額等が認められる一方,不動産の売却機会の喪失,信用毀損の慰謝料,上場廃止による損害等は否定されている。
令和元年以降の東京地裁判決でも,保全異議等の弁護士費用5,303万円余りが全額認められた例や,給料の仮差押えについて慰謝料50万円が認められた例がある一方,取引の途絶による逸失利益は否定され,本案の第一審で請求債権の存在が認められた事案等では過失が否定されている。
⑥過失相殺(民法722条2項)は,債務者が通常とり得た損害拡大防止措置をとらなかった場合に問題となりうるが,保全異議を申し立てなかっただけでは過失相殺事由にならないとした裁判例がある(岡口マニュアル397頁)。
消滅時効は損害及び加害者を知った時から3年であり(民法724条1号),本案判決の確定日を起算点とした例がある(同頁)。
⑦債務者は,債権者が供託した担保について他の債権者に先立って弁済を受ける権利を有する(民事保全法4条2項,民事訴訟法77条)。
回収するには,債権者の同意書と印鑑証明書を添付するか,損害賠償請求権の存在を認める確定判決(存在確認の判決でもよく,執行文は不要)又はこれと同一の効力を有する和解調書等を得て,供託所に還付請求をする(教材107頁,岡口マニュアル397頁~398頁)。
担保が支払保証委託契約で立てられているときは,債務名義又は損害賠償請求権の存在を確認する確定判決等に表示された額を,裁判所が定めた金額を限度として銀行等から支払を受ける(民事保全規則2条1号)。
⑧債権者から権利行使催告(民事訴訟法79条3項)を受けたのに期間内に権利を行使しないと,担保取消しに同意したものとみなされ,担保から優先的に回収する機会を失う。
東京地裁では催告期間を催告書の送達を受けた日から14日としており(岡口マニュアル377頁),同書380頁が紹介する東京地裁の催告書の書式によれば,権利を行使したときは期間の満了日から5日以内に,訴状等の写しを添付した証明書を添えて申し出る必要がある。

第2 責任の根拠と過失の推認

(続きを読む...)不当な仮差押えによる損害賠償―過失の推認と担保(供託金)からの回収(AI作成)

仮差押えの取下げ―債務者の同意の要否,書面での取下げ,執行の解放及び担保の取戻し(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 本記事の対象2 結論第2 取下げが問題になる場面1 目的を達した場合2 仮差押えが空振りに終わった場合3 本案で敗訴した場合又は本案を断念した場合第3 取下げに債務者の同意は要らない1 民事保全法18条2 同意が不要とされる理由3 保全異議等の申立て後の取下げ第4 取下げの方式1 書面でする2 債務者への通知3 保全執行の申立ての取下げ4 取下書と添付書類5 取下げの証明6 一部の取下げ第5 取下げと執行の解放1 執行機関によって手続が異なる2 不動産の仮差押え3 債権の仮差押え4 動産など執行官による執行5 債権者が取り下げない場合第6 取下げと担保の取戻し1 取下げだけでは担保は戻らない2 簡易の取戻し3 送達・登記の後に取り下げた場合第7 和解で取り下げる場合の条項1 和解だけでは足りない2 入れておくべき条項3 債務者側からみた条項第8 取下げ後の再申立て1 既判力が生じないこと2 再申立ての注意点第9 時効との関係1 現行民法2 令和2年4月1日より前の仮差押え第10 関連記事第11 出典・参考資料1 法令・裁判所規則2 裁判例3 裁判所等の案内4 文献
第1 本記事の対象と結論
1 本記事の対象

本記事は,債権者が仮差押命令の申立てを取り下げる場合について,債務者の同意の要否,取下げの方式,取下げによる仮差押えの執行の解放(登記の抹消や第三債務者への通知),担保の取戻し,和解条項,再申立て及び時効との関係を扱う。
調査基準日は令和8年9月17日であり,法律の条文はe-Gov法令検索の現行条文,民事保全規則は裁判所ウェブサイト掲載の規則本文で確認した。
東京地方裁判所民事第9部(保全部)と大阪地方裁判所第1民事部(保全部)の運用は,いずれも令和8年9月17日に確認した各部の案内による。

仮差押えの全体像は仮差押えとは―要件・手続の流れ・担保・効力・解放金・担保の取戻しの全体像を参照されたい。
仮処分の取下げ,債務者側が申し立てる保全異議の取下げ及び本案訴訟の訴えの取下げは,本記事の対象外である。

2 結論

① 仮差押命令の申立ての取下げに,債務者の同意は要らない(民事保全法18条)。
保全異議や保全取消しの申立てがされた後でも同じである。
保全命令の申立てに対する裁判には既判力が生じず,取下げによって債務者が特段の不利益を受けないからである(司法研修所編『民事弁護教材 改訂 民事保全(補正版)』23頁)。

② 取下げは,口頭弁論又は審尋の期日でする場合を除き,書面でしなければならない(民事保全規則4条1項)。
審尋期日の呼出し又は保全命令の送達を受けた債務者には,裁判所書記官が取下げを通知する(同条2項)。
東京地方裁判所民事第9部の案内によれば,保全事件の取下げは令和8年5月21日から始まった民事訴訟の全面電子化の対象外であり,書面を提出する。

③ 不動産や債権の仮差押えは発令裁判所が執行機関となるため,保全命令の申立ての取下書を出せば,保全執行の申立ても同時に取り下げたものとして扱われる(東京地方裁判所民事第9部の案内)。
不動産は裁判所書記官が仮差押登記の抹消を嘱託し,債権は裁判所が第三債務者に取下げを通知する。
抹消登記には,東京・大阪の案内とも,物件1個(大阪の案内では1筆)につき1,000円の登録免許税(収入印紙)と郵便切手が必要とされている(登録免許税法別表第一の一(十五))。

④ 取下げをしただけでは担保(供託金)は戻らない。
登記の嘱託前や第三債務者への送達の着手前に取り下げた場合等は,民事保全規則17条1項の簡易の取戻しで担保を取り戻せる。
第三債務者に送達された後の取下げでは,陳述書で預金等が無いと回答されていても簡易の取戻しは認められない運用であり(同教材114頁),担保取消し(民事訴訟法79条)によることになる。

⑤ 和解で取り下げるときは,仮差押命令の申立ての取下げ,担保取消しへの同意及び担保取消決定に対する抗告権の放棄を条項に入れておくと,担保を早く取り戻せる。

⑥ 取下げによって仮差押えが終了すると,時効の完成猶予はその時から6か月で終わる(民法149条1号)。
終了の時点を登記の抹消時等とみる余地もあるが,改正後に取下げの場面を判断した裁判例は確認した範囲で見当たらないので,取下書の提出時から6か月で管理するのが安全である。
令和2年4月1日より前にした仮差押えは改正前の民法により,取下げによって時効中断の効力が生じなかったことになる可能性もある(改正前の民法154条)。
いずれにしても,取下げの前に,本案訴訟の提起など時効の完成を防ぐ手当てが済んでいるかを確認する必要がある。

第2 取下げが問題になる場面
1 目的を達した場合

債務者と和解が成立した場合や,債務者が被保全債権を弁済した場合には,仮差押えを続ける理由がなくなる。
この場合,債務者からは,不動産の仮差押登記の抹消や預金口座の凍結の解除を早く求められることが多い。

(続きを読む...)仮差押えの取下げ―債務者の同意の要否,書面での取下げ,執行の解放及び担保の取戻し(AI作成)

債務名義があっても仮差押えはできるか―保全の必要性と東京高裁平成24年11月29日決定(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 本記事の対象2 結論第2 債務名義があるだけでは強制執行を始められない1 債務名義の種類2 強制執行を始めるための手順3 仮差押えの執行との違い第3 仮差押えの要件と「権利保護の必要性」1 保全の必要性2 債務名義がある場合の問題第4 東京高裁平成24年11月29日決定1 書誌と事案2 判旨―原則と例外3 当てはめ4 結論は差戻しである5 本決定の位置付け第5 無剰余取消しに関する高裁の裁判例1 紹介する裁判例と確認の範囲2 無剰余取消しの「おそれ」では足りないとした東京高裁平成20年4月25日決定3 無剰余取消し後は保全の必要性を認めた名古屋高裁平成20年10月14日決定4 二つの高裁決定の関係5 仮差押命令の後に債務名義を得た場合(事情変更による保全取消し)第6 特別の事情が問題になり得る場面1 承継執行文の付与に時間がかかる場合2 条件成就執行文が必要な場合3 送達により強制執行の準備が知られる場合4 差し押さえるべき債権の弁済期が迫っている場合5 被保全債権の期限が到来していない場合6 仮執行宣言付判決に対して控訴があった場合7 強制競売が無剰余で取り消された場合第7 仮差押えが認められにくい場面1 直ちに差押えができる場合2 財産の所在が分からないだけの場合3 財産の隠匿・処分のおそれが具体的でない場合第8 申立書に書くべき事情1 記載の原則2 債務名義がある場合に記載すべき事項3 担保と発令後の手続4 却下されたとき第9 関連記事第10 出典・参考資料1 法令・裁判所規則2 裁判例3 裁判所等の案内4 文献
第1 本記事の対象と結論
1 本記事の対象

本記事は,確定判決,執行証書(公正証書)等の債務名義を既に持っている債権者が,重ねて仮差押命令を申し立てることができるかを扱うものである。
調査基準日は令和8年9月17日であり,法令は同日時点でe-Gov法令検索に掲載されている現行条文により確認した。

仮差押えの要件,手続の流れ,担保,効力等の全体像は,仮差押えとは―要件・手続の流れ・担保・効力・解放金・担保の取戻しの全体像で扱う。
係争物に関する仮処分,仮の地位を定める仮処分及び国税滞納処分は,本記事の対象外である。

2 結論

①債務名義を持っている債権者は,遅滞なく強制執行の手続をとれば,特別の事情がない限り速やかに強制執行に着手できるのが通常であるから,原則として,仮差押えという民事保全制度を利用する権利保護の必要性は認められない(東京高裁平成24年11月29日決定)。
②もっとも,債権者が強制執行を望んでも速やかに行うことができない特別の事情があり,強制執行までの間に債務者が財産を隠匿又は処分するなどして強制執行が不能又は困難となるおそれがあるときは,権利保護の必要性が認められ,仮差押えが許される(同決定)。

③同決定は,破産管財人が承継執行文の付与を受け,承継執行文付きの公正証書を相手方に送達しなければ債権執行を申し立てられず,その送達によって強制執行の準備が相手方に知られる上,差し押さえるべき債権の弁済期限が迫っていた事案で,特別の事情を認めた。
ただし,同決定の結論は原決定の取消しと東京地方裁判所への差戻しであり,高裁自身が仮差押命令を発したものではない。

④本記事の整理としては,承継執行文や条件成就執行文の付与に時間がかかる場合,強制執行の前提となる送達によって債務者に準備が知られる場合,差し押さえるべき債権の弁済期が迫っている場合等に,特別の事情が問題となり得る。
これに対し,執行文の付与も送達も済んでいて直ちに差押えができる場合には,仮差押えの必要性は認められにくいと考えられる。

⑤不動産の強制競売が無剰余を理由に取り消される「おそれ」があるだけでは保全の必要性がないとした東京高裁平成20年4月25日決定と,強制競売が無剰余を理由に実際に取り消された後は保全の必要性があるとした名古屋高裁平成20年10月14日決定があり,高裁の結論の方向は分かれている(事案の段階は異なる)。
また,仮差押命令の後に債務名義を得て本執行をしたが無剰余で取り消された場合に,事情変更による仮差押命令の取消しができるかについても,これを否定した大阪高裁平成11年7月15日決定と,旧法下でこれを肯定した名古屋高裁金沢支部平成3年5月27日判決がある。

⑥申立書では,債務名義があることを隠さず,強制執行に直ちに着手できない具体的な理由と,その間に財産が隠匿・処分されるおそれを,証拠とともに具体的に記載する必要がある(民事保全規則13条2項)。

第2 債務名義があるだけでは強制執行を始められない
1 債務名義の種類

強制執行は,民事執行法22条各号に掲げる債務名義により行う。
主なものは,確定判決(1号),仮執行の宣言を付した判決(2号),仮執行の宣言を付した支払督促(4号),執行証書(5号),確定判決と同一の効力を有するもの(7号。和解調書・調停調書等)である。

執行証書とは,金銭の一定の額の支払等を目的とする請求について公証人が作成した公正証書で,債務者が直ちに強制執行に服する旨の陳述が記載され,又は記録されているものである(民事執行法22条5号)。
仮執行の宣言が付されていない確定前の判決は債務名義に当たらないので,その段階の債権者が仮差押えを申し立てる場面は,本記事の問題とは異なる通常の仮差押えである。

電子化された判決・和解調書等を債務名義とする場合の事件特定情報,記録事項証明書及び執行文については,電子化された債務名義と強制執行―事件特定情報・執行文・自動車登録・特許権等登録で扱う。

2 強制執行を始めるための手順
(1) 執行文の付与

強制執行は,原則として,執行文の付された債務名義の正本(電子化されたものは記録事項証明書等)に基づいて実施する(民事執行法25条本文)。
少額訴訟の確定判決,仮執行の宣言を付した少額訴訟の判決又は支払督促により,これに表示された当事者に対し,又はその者のためにする強制執行は,執行文を要しない(同条ただし書)。

執行文は,執行証書以外の債務名義については事件の記録の存する裁判所の裁判所書記官が,執行証書については原本を保存する公証人が付与する(民事執行法26条1項)。

(2) 条件成就執行文と承継執行文

(続きを読む...)債務名義があっても仮差押えはできるか―保全の必要性と東京高裁平成24年11月29日決定(AI作成)

預金・給料の仮差押え―取扱店舗の特定,差押禁止の範囲及び陳述催告(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 本記事の対象2 結論第2 債権仮差押えの基本1 管轄2 申立書の記載3 執行の方法と効力の発生4 保全執行期間と送達の順序第3 預金債権の仮差押え1 取扱店舗の特定2 複数の金融機関・複数の口座3 預金の種類による順位付け4 どの時点の預金が対象になるか5 銀行による相殺第4 給料債権の仮差押え1 差押禁止の範囲2 継続的給付への効力と期間の限定3 仮差押債権目録の記載例4 差押禁止債権の範囲の変更5 勤務先への影響第5 第三債務者に対する陳述催告1 申立てと催告2 陳述の意味と不陳述の責任3 「預金なし」の陳述と担保の取戻し4 仮差押えを受けた債権自体の消滅時効第6 第三債務者の供託とみなし解放金1 権利供託と義務供託2 みなし解放金第7 預金・給料の仮差押えの担保の額第8 債務者側への影響第9 関連記事第10 出典・参考資料1 法令・裁判所規則2 裁判例3 裁判所等の案内4 文献
第1 本記事の対象と結論

仮処分を含む民事保全の3類型と選択の考え方は,民事保全とはで説明している。

1 本記事の対象

本記事は,金銭債権の強制執行を保全するための仮差押え(民事保全法20条1項)のうち,債務者の預金債権と給料債権を対象とする場合の注意点を整理するものである。
調査基準日は令和8年9月17日であり,法令は同日時点でe-Gov法令検索に掲載されている現行条文により,民事保全規則及び民事執行規則は裁判所ウェブサイト掲載のPDFにより確認した。

仮差押えの要件,手続全体の流れ,担保,解放金,債務者の対抗手段等の総論は,仮差押えとは―要件・手続の流れ・担保・効力・解放金・担保の取戻しの全体像で扱う。
債務名義を得た後の債権差押え(本執行)は,債権差押命令の申立てと取立て・配当の実務で扱う。
家事事件の審判前の保全処分,国税の滞納処分,倒産手続における扱いは,本記事の対象外である。

2 結論

①債権の仮差押命令事件は,本案の管轄裁判所のほか,仮に差し押さえるべき債権の所在地を管轄する地方裁判所が管轄し,債権は第三債務者の普通裁判籍の所在地にあるものとされる(民事保全法12条1項・4項)。
申立書には第三債務者を記載し,仮差押債権は「債権の種類及び額その他の債権を特定するに足りる事項」を明らかにして特定しなければならない(民事保全規則18条1項,19条2項1号)。

②預金債権は,取扱店舗を示して特定するのが裁判所の書式である。
東京地方裁判所民事第9部及び大阪地方裁判所第1民事部の書式は,「○○支店扱い」と店舗を示した上で,先行の差押え・仮差押えの有無,円貨建て・外貨建ての別,預金の種類(定期預金から当座預金まで)及び口座番号の順に順位を付けている。
最高裁判所第三小法廷平成23年9月20日決定は,差押えの事案で,大規模な金融機関の全ての店舗を対象として順位付けをする方式は差押債権の特定を欠き不適法であるとした。
最高裁判所第三小法廷平成24年7月24日決定も,差押えの事案で,普通預金債権のうち送達後1年間の入金によって生ずる部分(将来預金)を対象とする申立ては特定を欠き不適法であるとした。
ゆうちょ銀行の貯金は,店舗ではなく貯金事務センターを示して特定する記載例である。
なお,第三債務者である銀行が債務者に貸付金を有する場合,仮差押えを受けた預金と相殺されて仮差押えの実益がなくなることがある(民法511条)。

③給料債権の仮差押えには,民事執行法152条の差押禁止の規定が準用される(民事保全法50条5項)。
原則として手取額の4分の3(支払期が毎月の場合,その額が33万円を超えるときは33万円)は仮差押えの対象とならず,扶養義務等に係る金銭債権を請求する場合は「四分の三」が「二分の一」となる(民事執行法152条3項,民事執行法施行令2条)。
民事保全法50条5項は民事執行法146条から153条までを一括して準用しているので,151条の2(扶養義務等に係る定期金債権を請求する場合の特例)も準用範囲に含まれる。
給料のような継続的給付に係る債権に対する効力は後に受けるべき給付に及ぶが(民事執行法151条の準用),仮差押えの実務では期間を1年程度に限定する扱いが多いとされる。

④第三債務者に対する陳述の催告は,債権者の申立てがあるときに行われ,第三債務者は送達の日から2週間以内に,債権の存否・種類・額,弁済の意思,優先権者,他の差押え・仮差押え,滞納処分による差押えの有無等を書面で陳述する(民事保全法50条5項,民事執行法147条1項,民事保全規則41条2項,民事執行規則135条)。
故意又は過失による不陳述・不実陳述には損害賠償責任がある(民事執行法147条2項)。
もっとも,陳述書に「預金なし」と記載されても,そのことだけでは担保の簡易の取戻しは認められない運用である(司法研修所の教材114頁)。

⑤第三債務者は仮差押えに係る金銭債権の全額に相当する金銭を供託することができ,その供託は仮差押解放金の供託とみなされる(民事保全法50条3項・5項,民事執行法156条1項)。

⑥保全執行は債権者に保全命令が送達された日から2週間を経過したときはすることができないため(民事保全法43条2項),第三債務者への送達が不能になったときは速やかに対応する必要がある。

⑦担保の額は目的物の価格を基準とし,司法研修所の教材が紹介する基準では,貸金・賃料・売買代金その他を被保全債権とする預金・給料の仮差押えで10~30%とされている(同教材28頁)。

(続きを読む...)預金・給料の仮差押え―取扱店舗の特定,差押禁止の範囲及び陳述催告(AI作成)

仮差押えの担保金はいくらか―目的物の価格を基準とする算定方法,担保基準表及び立て方(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 本記事の対象2 結論第2 担保の趣旨と法的根拠1 担保は債務者の損害を担保するためのもの2 担保の要否と額は裁判所が裁量で決める3 担保を立てる時期は2通りある第3 担保額の算定基準―目的物の価格1 目的物の価格を基準とする理由2 目的物の価格(時価)の出し方3 被保全債権額との関係4 動産の仮差押えは請求債権額が基準第4 担保基準表(一応の目安)1 基準表の性格2 代表的な数値3 計算例4 預金・給料の仮差押えの比率第5 担保額を左右する要素1 疎明の程度2 疎明不足を担保で補うことはできない3 債務者の損害の大きさ第6 担保の立て方1 担保を立てる方法2 供託する供託所3 担保提供期間4 供託金の納付方法5 証明書の提出と発令6 第三者による担保の提供第7 担保金以外にかかる費用第8 担保の行方1 本案で勝訴した場合等は担保を取り戻す2 和解で解決する場合は担保取消しの同意を条項に入れる3 仮差押えが不当であった場合は損害賠償の引当てになる第9 関連記事第10 出典・参考資料1 法令・裁判所規則2 裁判例3 裁判所等の案内4 文献
第1 本記事の対象と結論

仮処分を含む民事保全の3類型と選択の考え方は,民事保全とはで説明している。

1 本記事の対象

本記事は,金銭債権を保全するための仮差押命令を申し立てる債権者が,裁判所から立てるよう命じられる担保(いわゆる担保金・保証金)について,その趣旨,額の決まり方,一応の目安及び立て方を説明するものである。
調査基準日は令和8年9月17日であり,法令は同日時点でe-Gov法令検索に掲載されている現行条文,民事保全規則は裁判所ウェブサイト掲載の条文で確認した。
担保額の算定基準及び基準表は,司法研修所編『民事弁護教材 改訂 民事保全(補正版)』(日本弁護士連合会,平成25年3月1日発行)24頁~33頁の頁画像で確認した記載に基づいている。
同書は平成25年時点の教材であり,担保基準を公表した裁判所はないとされているから,個別の事件で命じられる担保額は,担当裁判官の判断によって以下の目安と異なることがある。

仮差押え全体の要件,手続の流れ及び効力は,仮差押えとは―要件・手続の流れ・担保・効力・解放金・担保の取戻しの全体像で整理している。

2 結論

仮差押えの担保金についての結論は,次のとおりである。
① 仮差押命令は,通常,担保を立てさせて発令される(民事保全法14条1項)。
担保は,不当な仮差押えによって債務者が被るおそれのある損害を担保するためのものであり,要否及び額は裁判所の裁量で決まる。
② 担保額は,仮差押えの目的物の価格(時価)を基準とし,これに被保全債権の種類,目的物の種類及び疎明の程度に応じた比率を乗じる形で定められるのが一般的である(前記教材26頁~27頁)。
③ 被保全債権額が目的物の価格より高くても,基準は目的物の価格であり,請求額を減らして内金請求にする必要はない(同26頁)。
④ 一応の目安として,貸金・賃料・売買代金等を被保全債権とする場合,不動産は目的物の価格の10~25%,預金・給料は10~30%,交通事故の損害賠償請求権を被保全債権とする不動産の仮差押えは5~15%とされている(同28頁)。
もっとも,給料の仮差押えは被保全権利を問わず30%以上,預金の仮差押えは20%以上(交通事故の場合は15%程度)とすべきとする実務書の見解もあり,預金・給料の仮差押えでは表の下限より高い比率を想定しておくのが無難である。
⑤ 担保は,法務局(供託所)への金銭又は有価証券の供託のほか,裁判所の許可を得て銀行等と支払保証委託契約を締結する方法でも立てられる(民事保全法4条1項,民事保全規則2条)。
保険会社の支払保証委託契約(いわゆるボンド)には保証料率が公表されている例があるが,保証料は掛け捨てであり,供託金と異なり戻ってこない。
⑥ 大阪地方裁判所及び東京地方裁判所の案内では,担保提供期間は原則又は一般に7日であり,その期間内に供託書正本等の証明書を提出しないと,申立ては却下される。
⑦ 立てた担保は,本案勝訴や債務者の同意等により担保取消決定を得て取り戻すのが原則であり,仮差押えが不当であった場合は債務者の損害賠償請求権の引当てになる。

第2 担保の趣旨と法的根拠
1 担保は債務者の損害を担保するためのもの

民事保全法14条1項は,「保全命令は、担保を立てさせて、若しくは相当と認める一定の期間内に担保を立てることを保全執行の実施の条件として、又は担保を立てさせないで発することができる。」と定めている。
仮差押命令は,債務者の言い分を聴かないまま,債権者の疎明だけで発令されることが多い手続であるから,後に被保全債権が存在しなかったことが判明するなどして仮差押えが不当であったときに備え,債務者の損害をあらかじめ担保しておく必要がある。

前記教材24頁は,担保は民事保全により債務者の被る可能性のある損害を担保する性質を有すると説明している。
債務者は,供託された金銭又は有価証券について,他の債権者に先立ち弁済を受ける権利を有する(民事保全法4条2項が準用する民事訴訟法77条)。
もっとも,同頁によれば,債務者がこの権利を行使するには,債権者に対する損害賠償請求権の存在を認める確定判決又はこれと同一の効力を有する和解調書等を添付して還付請求をする必要があり,実際に行使されることは比較的少ないとされている。

(続きを読む...)仮差押えの担保金はいくらか―目的物の価格を基準とする算定方法,担保基準表及び立て方(AI作成)

控訴権の濫用―民訴法303条の金銭納付命令と代理人弁護士の懲戒(AI作成)

目次

第1 民訴法303条の目的

1 濫用的控訴への手続的対応
2 敗訴見込みだけでは足りない

第2 金銭納付命令

1 命令の内容
2 不納付の効果

第3 濫用判断の資料

1 控訴理由と訴訟経過
2 正当な権利行使との区別

第4 代理人弁護士の懲戒との区別

1 当事者の控訴と弁護士の職務行為
2 懲戒判断

第5 根拠資料及び注意

(続きを読む...)控訴権の濫用―民訴法303条の金銭納付命令と代理人弁護士の懲戒(AI作成)

民事控訴における必要的共同訴訟と共同訴訟的補助参加―当事者の地位,控訴期間及び取下げ(AI作成)

目次第1 必要的共同訴訟の控訴1 一部の者による控訴の効力2 形式的な当事者表示だけで決めない第2 主要な最高裁判例1 全員が控訴人となる例2 被控訴人となる例3 いずれにもならない例4 合一確定のため不利益変更が必要となる例第3 通常の補助参加と共同訴訟的補助参加1 まず参加の根拠を三層に分ける2 控訴行為と被参加人との抵触第4 実務上の確認事項1 当事者・参加人と判決効の一覧2 行為者・時点・効果・救済第5 根拠資料及び注意
第1 必要的共同訴訟の控訴
1 一部の者による控訴の効力

必要的共同訴訟では,共同訴訟人の一人の訴訟行為が他の者にも影響し得る。ただし,一部の者が控訴した場合に全員が控訴人となるか,被控訴人となるか,又はいずれにもならないかは,訴訟の類型と紛争構造により異なる。

2 形式的な当事者表示だけで決めない

固有必要的共同訴訟か類似必要的共同訴訟か,誰の権利関係を合一に確定すべきかを確認し,当事者の地位を決める。

第2 主要な最高裁判例
1 全員が控訴人となる例

最高裁昭和38年3月12日判決は,事案の必要的共同訴訟性を踏まえ,一人の被告の控訴により他の被告も控訴人の地位を取得するとした。

2 被控訴人となる例

最高裁平成11年11月9日判決は,境界確定訴訟の当事者関係を踏まえ,共有者の一部が被控訴人の地位に立つとした。

3 いずれにもならない例

最高裁平成9年4月2日大法廷判決は,住民訴訟で自ら上訴しなかった共同訴訟人をその意思に反して上訴人にする効力までは生じないとした。

4 合一確定のため不利益変更が必要となる例

最高裁平成22年3月16日第三小法廷判決(平成20年(オ)第999号,民集64巻2号498頁)は,共同相続人全員の間で合一にのみ確定する相続人たる地位不存在確認請求を固有必要的共同訴訟とした上で,原告が上訴又は附帯上訴をしていなくても,合一確定に必要な限度では原判決を当事者に不利益に変更できるとした。
控訴審では,誰が控訴したかだけで処分範囲を決めず,①訴訟共同の類型,②判決効を合一に確定すべき範囲,③上訴不可分の範囲,④各当事者に対する審理の程度を図示してから,原判決のどの部分を維持又は変更できるかを検討する必要がある。

第3 通常の補助参加と共同訴訟的補助参加
1 まず参加の根拠を三層に分ける

通常の補助参加は,民事訴訟法42条が定める「訴訟の結果について利害関係を有する第三者」に認められる。ここでいう法律上の利害関係は,判決主文が直接及ぶ場合だけに限られないが,単なる事実上・経済上の影響とも区別される。参加人の法的地位にどのような影響が及ぶかを具体化する。

これとは別に,確定判決の効力が第三者にも及ぶため,共同訴訟人に準じた地位を与えるべき共同訴訟的補助参加が問題となる。①判決効が及ぶか,②通常の補助参加に必要な法律上の利害関係があるか,③後の別訴でどの事項が争われるかを分け,名称だけで参加類型を決めない。訴訟告知を受けた第三者が参加しなかった場合の効力(民事訴訟法53条4項)は,訴訟告知の使い方―参加的効力の範囲,告知の方式と敗訴後の求償・損害賠償への備えで整理している。

2 控訴行為と被参加人との抵触

通常の補助参加人は,民事訴訟法43条2項により上訴審でも参加でき,同法45条1項により上訴その他の訴訟行為をすることができる。ただし,同条2項により,参加人の訴訟行為が被参加人の訴訟行為と抵触するときは効力を有しない。

共同訴訟的補助参加では,判決効の拡張を根拠に,参加人の独立性を通常の補助参加より強く認めるべきかが問題となる。最高裁昭和40年6月24日判決などを踏まえ,誰が控訴したか,被参加人が控訴又は取下げをしたか,両者の行為がどの点で抵触するか,判決効が参加人へ及ぶ根拠は何かを個別に確認する。

民事訴訟法43条2項は,補助参加の申出を,補助参加人としてすることのできる訴訟行為とともにすることを認めている。
したがって,第1審に補助参加していなかったことだけを理由に,補助参加の申出と控訴を同時に行う方法を除外してはならない。

もっとも,参加の利益があるか,控訴をすることのできる時期か,既にされた訴訟行為との抵触がないかは,別に確認する必要がある。
通常の補助参加では,同法45条1項ただし書及び2項にも注意する。
共同被告であることだけから,他の被告について法律上の利害関係又は判決効が当然に認められると考えず,当事者の地位と参加の根拠を先に整理する。

主債務者が保証人側に補助参加した保証債務履行請求訴訟での補助参加人の控訴期間と,参加的効力の例外を素材とする検討例は,平成20年度旧司法試験論文式試験の模範答案の民事訴訟法第2問で扱っている。

第4 実務上の確認事項

(続きを読む...)民事控訴における必要的共同訴訟と共同訴訟的補助参加―当事者の地位,控訴期間及び取下げ(AI作成)

民事控訴の利益とは―全部勝訴判決でも控訴できる場合と上訴の適法性(AI作成)

目次第1 控訴の利益の基本1 第一審主文と申立てを比較する2 理由中の判断だけを争うことはできない3 相殺判断に既判力が生じる場合第2 最高裁令和5年3月24日判決1 事案の特殊性2 一般化には注意が必要である第3 控訴の利益を確認する手順1 申立てと主文を対照する2 不利益の法的性質を特定する第4 不適法控訴のリスク1 期間内でも利益がなければ却下される2 相手方の附帯控訴第5 根拠資料及び関連記事
第1 控訴の利益の基本
1 第一審主文と申立てを比較する

控訴の利益は,原則として第一審で求めた裁判と実際の主文を比較して判断する。請求が全部認容された原告は,理由に不満があっても通常は控訴できない。

2 理由中の判断だけを争うことはできない

判決理由に不利な認定があっても,主文で全部勝訴していれば,その理由だけの変更を求める控訴は原則として許されない。既判力その他の効果が問題となる場合は,別途検討する。

3 相殺判断に既判力が生じる場合

民事訴訟法114条1項により,判決理由中の判断には原則として既判力が生じない。しかし,同条2項は,相殺のため主張した請求の成立又は不成立の判断について,相殺をもって対抗した額の範囲で既判力を認める。

そのため,支払額が同じでも,相殺判断の既判力が生じるかが変われば,判決の法的効果は同じではない。
例えば,本訴債権200万円を認めた上で被告の相殺を容れて請求を全部棄却した場合,被告は支払を免れる一方,自働債権について対抗額の範囲で不利な既判力を受ける。このため,相殺によって全部勝訴した被告にも例外的に控訴の利益が認められると解される。
逆に,本訴債権の不存在を理由とする第一審の請求棄却を,原告の控訴に対して,本訴債権は存在するが相殺で消滅したとして請求棄却に改める場合は,相殺判断の既判力を伴うため,単に控訴を棄却するのではなく,原判決を取り消して改めて請求棄却判決をするという整理になる。

最高裁昭和61年9月4日判決の公式全文は,相殺による請求棄却に対して原告だけが控訴し,被告が控訴も附帯控訴もしなかった場合,本訴債権の不存在を理由とする請求棄却に改めると原告が得た自働債権不存在の既判力を失わせるため,不利益変更禁止により第一審判決を維持すべきとした。
被告が自働債権を守りたいときは,原告の控訴に応答するだけで足りると考えず,自らの控訴又は附帯控訴の要否を確認する。

控訴の利益,控訴審の審判範囲,判決主文及び既判力の範囲は別々に確認する。相殺の既判力については,相殺の抗弁に関するメモ書き―既判力・再訴・相殺の抗弁相互の関係も参照されたい。

第2 最高裁令和5年3月24日判決
1 事案の特殊性

最高裁令和5年3月24日判決(第二小法廷,令和4年(受)第324号,民集77巻3号803頁)は,第一審で事件を一人の裁判官が審理して口頭弁論を終結した後,その口頭弁論に関与していない裁判官が,民事訴訟法254条1項(当時)により判決書の原本に基づかないで請求を全部認容する判決を言い渡した事案で,その判決手続は同法249条1項に違反する重大な違法であり,同法338条1項1号の再審事由にも当たるとして,全部勝訴した原告であっても第一審判決に対して控訴をすることができるとした。

2 一般化には注意が必要である

この判決は,全部勝訴者が理由に不満を持つだけで控訴できるとしたものではない。判決としての適法性に関わる特殊な事情を踏まえて理解する必要がある。

第3 控訴の利益を確認する手順
1 申立てと主文を対照する

第一審の最終的な請求の趣旨,訴えの変更,請求の放棄・認諾及び主文を対照する。予備的請求がある場合は,主位的請求との関係も確認する。

2 不利益の法的性質を特定する

経済的不満ではなく,主文又は判決の法的効力による不利益を特定する。控訴以外の手段で解決すべき問題かも検討する。

第4 不適法控訴のリスク
1 期間内でも利益がなければ却下される

控訴期間内の申立てであっても,控訴の利益を欠けば不適法となる。控訴状では,どの主文部分についてどのような変更を求めるかを明示する。

2 相手方の附帯控訴

自分の控訴により,相手方が附帯控訴をして第一審判決より有利な変更を求める可能性がある。控訴の利益と訴訟戦略は分けて検討する。

相殺通知を送る前の確認事項は,相手方の相殺にどう反論するか―弁済の再抗弁,訴訟外の相殺通知と債権を失うリスク(AI作成)で説明している。
一部請求の残額を請求又は相殺に使う場合は,一部請求で負けた後に残額を請求・相殺できるか―既判力と信義則,係属中と確定後の違い(AI作成)で,係属中と敗訴確定後,法廷意見と補足意見を分けて整理している。

第5 根拠資料及び関連記事

(続きを読む...)民事控訴の利益とは―全部勝訴判決でも控訴できる場合と上訴の適法性(AI作成)

民事控訴審の審理の流れ―原審口頭弁論の結果陳述,一回結審及び和解(AI作成)

目次

第1 控訴提起から第一回期日まで1 控訴状と記録送付2 控訴理由書と答弁書第2 第一審口頭弁論の結果陳述1 控訴審へ第一審の訴訟資料を引き継ぐ2 陳述範囲を曖昧にしない第3 一回結審と続行1 第一回期日で終結することがある2 続行が必要な場合第4 和解1 控訴審でも和解は可能である2 仮執行・担保・関連紛争も確認する第5 根拠資料及び関連記事

民事控訴審は,第一審の判決に対する不服を,控訴された範囲で審理する手続である。地裁の第一審判決に対する控訴は高裁へ,簡裁の通常民事訴訟の判決に対する控訴は地裁へ進む(民事訴訟法281条,裁判所法16条・24条)。高裁で審理する場合も,控訴状の提出先は第一審裁判所である。

高裁の役割と三審制全体は,高等裁判所とは―役割・地裁や最高裁との違い・全国8高裁と支部の一覧を参照されたい。本記事は,控訴提起後の書面準備,第一回期日,弁論終結及び和解の流れを説明する。少額訴訟や決定に対する抗告は,通常の民事判決に対する控訴とは手続が異なる。

大まかな流れは,①第一審裁判所への控訴状提出,②控訴裁判所への記録送付,③控訴理由書・答弁書等の準備,④第一回口頭弁論期日と第一審口頭弁論の結果陳述,⑤審理の続行又は弁論終結・判決,である。和解の協議が行われることもある。全事件が同じ回数の期日・同じ期間で進むわけではない。

第1 控訴提起から第一回期日まで
1 控訴状と記録送付

控訴状は第一審裁判所に提出する(民事訴訟法286条)。適法な控訴として整理された後,記録が控訴裁判所へ送られる。記録送付後の事件番号,担当部・係,書面の提出先・提出方法は,控訴裁判所からの通知等で確認する。電子事件ではmintsによる提出・送達等の現行運用を確認する。

2 控訴理由書と答弁書

控訴人は定められた期間内に控訴理由書を提出し,被控訴人はこれに対する答弁を準備する。新証拠,訴えの変更又は附帯控訴がある場合は,第一回期日前に手続を明確にする。

第一回期日前には,①第一審判決のどの判断を争うか,②第一審の主張・証拠と新たに提出するものの対応関係,③相手方の書面への反論,④期日までの提出指示と提出状況,を整理する。新証拠を出す場合には,何を立証する資料か,第一審で提出しなかった事情や審理の必要性も具体的に説明できるようにする。

第2 第一審口頭弁論の結果陳述
1 控訴審へ第一審の訴訟資料を引き継ぐ

民事訴訟法296条2項により,当事者は第一審の口頭弁論の結果を陳述する。これは第一審で提出した主張・証拠を控訴審の判断資料として引き継ぐための手続である。

2 陳述範囲を曖昧にしない

最高裁昭和41年11月10日判決は,「第一審判決事実摘示のとおり」との陳述では,判決の事実摘示に記載されていない主張が控訴審で陳述されたことにならないとした。判決に現れていない重要主張は,控訴審書面で明示するのが安全である。

第3 一回結審と続行
1 第一回期日で終結することがある

控訴審は提出書面と原審記録を事前に検討し,第一回期日で弁論を終結することがある。重要な主張・証拠を「期日後に出す」前提で準備してはならない。

2 続行が必要な場合

新たな争点,証拠調べ,訴えの変更又は和解協議が必要なときは続行され得る。続行を求める場合は,必要な審理事項と予定期間を具体的に示す。

第4 和解
1 控訴審でも和解は可能である

控訴審では第一審判決を踏まえて法的・経済的リスクが具体化しているため,和解が試みられることがある。

2 仮執行・担保・関連紛争も確認する

和解条項では,支払方法,遅延時の取扱い,仮執行による既払金,強制執行の停止・取下げ,訴訟費用及び関連事件を漏れなく確認する。

第5 根拠資料及び関連記事

裁判所「民事事件Q&A」も参照した。法令及び公式の控訴先の案内は令和8年10月11日に確認した。事件ごとの提出指示・期日の通知と,現行の手続案内を併せて確認されたい。

民事訴訟法281条・286条・296条以下(e-Gov法令検索)を確認した。
手続の現行化は,大阪高裁民事部主任決議集を令和8年の民事訴訟で使う方法及びmintsで控訴・上告・上告受理申立てをする方法を参照されたい。

民事控訴審の不利益変更禁止―不服申立ての範囲と附帯控訴の注意点(AI作成)

目次第1 不利益変更禁止の基本1 変更は不服申立ての限度に限られる2 主文上の不利益を基準に考える第2 控訴人だけが控訴した場合1 控訴人をより不利にできない2 請求の一部控訴3 過失相殺率が有利でも最終額が増えれば違反すること第3 被控訴人が変更を求める方法1 附帯控訴2 訴えの変更との関係第4 相殺の抗弁と不利益変更禁止1 相殺判断には特別の既判力がある2 最高裁昭和61年9月4日判決第5 提出前の確認1 対照表を作る2 例外的問題第6 根拠資料及び関連記事
第1 不利益変更禁止の基本
1 変更は不服申立ての限度に限られる

民事訴訟法304条は,第一審判決の取消し及び変更を不服申立ての限度に限る。控訴審は,当事者が争っていない部分まで自由に変更するものではない。

2 主文上の不利益を基準に考える

一般に,判決理由の評価ではなく,主文で認められた権利義務と控訴の範囲を基準にする。理由中の判断に不満があるだけでは,通常は独立した控訴の利益がない。

もっとも,相殺の抗弁については,民事訴訟法114条2項により,理由中の判断にも例外的に既判力が生ずる。このため,同じ請求棄却の主文でも,請求債権を否定した棄却と,相殺で消滅したとする棄却とでは,判決の法的効果が異なり得る。

第2 控訴人だけが控訴した場合
1 控訴人をより不利にできない

相手方が控訴又は附帯控訴をしていない場合,控訴人の不服申立てを契機として第一審判決より控訴人に不利な主文又は法的効果へ変更することはできない。

2 請求の一部控訴

一部だけ控訴した場合,控訴審の審判対象も原則としてその範囲に限られる。控訴状の「原判決中控訴人敗訴部分を取り消す」といった表現と,具体的な請求額・対象を整合させる。

3 過失相殺率が有利でも最終額が増えれば違反すること

伊藤正晴・上村考由「最高裁民事破棄判決等の実情―平成25年度―」(判例時報2224号・2225号)によれば,最高裁平成25年2月15日第二小法廷判決(平成23年(受)第302号)は,不法行為に基づく損害賠償請求で被告だけが控訴した事案を扱った。控訴審は,過失割合を被告に有利に変更した一方,過失相殺前の損害額を第一審より大きく認定したため,結論として被告の支払額を第一審より増加させた。最高裁は,このような変更は民事訴訟法304条の不利益変更禁止に反するとしたと整理されている。

したがって,不利益変更の有無は,過失割合その他の個別要素だけで判定してはならない。第一審主文,不服申立ての範囲,控訴審が認定した損害項目・基礎額・過失割合・既払額及び最終認容額を一つの計算表にし,控訴した当事者の最終的な負担が増えていないかを確認する必要がある。

資料上の注意:上記判決の事件番号,判決日,法廷,結論及び事案の概要は同年度論文で確認した。今回の調査では裁判所ウェブサイトの判決全文及び判例秘書の全文を確認できていないため,準備書面等で判旨を直接引用するときは原典を追加確認する必要がある。

第3 被控訴人が変更を求める方法
1 附帯控訴

被控訴人が第一審判決より自己に有利な主文又は法的効果を求めるには,附帯控訴が必要である。単に控訴棄却を求める答弁だけでは,自己の敗訴部分の変更を求めたことにならない。

2 訴えの変更との関係

被控訴人が請求又は訴訟物を追加・変更する場合も,附帯控訴の要否を検討する。名称ではなく,実質として第一審判決より有利な裁判を求めるかで判断する。

第4 相殺の抗弁と不利益変更禁止
1 相殺判断には特別の既判力がある

民事訴訟法114条2項は,相殺のため主張した請求の成立又は不成立の判断について,相殺をもって対抗した額に限り既判力が生ずると定める。したがって,請求債権が存在しないとして請求を棄却する判決と,請求債権は存在するが相殺によって消滅したとして請求を棄却する判決は,主文が同じでも,将来に残る既判力の範囲が異なる。

控訴審では,第一審の主文だけでなく,①請求債権の存否,②相殺に供された反対債権の存否,③民事訴訟法114条2項の既判力及び④誰が控訴・附帯控訴をしたかを一つの表にして確認する必要がある。

2 最高裁昭和61年9月4日判決

最高裁昭和61年9月4日第一小法廷判決は,第一審が請求債権の成立を認めた上で相殺により消滅したとして請求を棄却し,原告だけが控訴した事案について,控訴審が請求債権自体の成立を否定すると,原告に不利益となるとして許されないとした。

第一審判決には,相殺に供された被告の反対債権が相殺額の限度で不存在となるという原告に有利な既判力が含まれる。原告だけの控訴によってその利益を失わせることは,不利益変更禁止に反するからである。控訴審が請求債権の成立を否定すべきだと考えても,結論として控訴を棄却し,第一審判決を維持する。

逆に,第一審が請求債権の不存在だけを理由に請求を棄却したのに,控訴審が請求債権の成立と相殺を認める場合には,相殺判断の既判力が新たに生ずる。主文が請求棄却のままでも法的効果が変わるため,原判決を取り消した上で請求を棄却するという処理を検討する。

第5 提出前の確認

(続きを読む...)民事控訴審の不利益変更禁止―不服申立ての範囲と附帯控訴の注意点(AI作成)

仮執行後に第一審判決が変更された場合の原状回復―民事訴訟法260条2項の申立て(AI作成)

目次第1 260条2項の目的1 仮執行後の清算を同じ判決で行う2 職権ではなく申立てが必要である第2 対象となる給付と損害1 返還の対象2 損害賠償の対象第3 申立ての作り方1 申立ての趣旨2 申立ての原因3 証拠第4 他の請求との区別1 本案請求との関係2 別訴との関係第5 根拠資料及び関連記事
第1 260条2項の目的
1 仮執行後の清算を同じ判決で行う

第一審の仮執行宣言に基づき被告が給付し,又は執行を受けた後に本案判決が変更されると,給付の法律上の基礎が失われる。民事訴訟法260条2項は,被告の申立てにより,返還及び一定の損害賠償を変更判決の中で命じる制度である。

2 職権ではなく申立てが必要である

控訴審が第一審判決を変更する見込みがあっても,申立てがなければ同項の裁判はされない。控訴答弁又は準備書面の中に埋めず,申立ての趣旨と原因を明確にするのが安全である。

相手方が国である場合について,法務省大臣官房訟務部門の「訟務事務入門(第6版)」(平成18年3月)は,国が敗訴した仮執行宣言付判決に基づいて相手方が仮執行をした事件で上訴するときは,上訴の提起と同時に(遅くとも控訴審の口頭弁論終結までの間に)260条2項の申立てをする必要があるとし,上告に際しても同じ申立てをするとしている(PDF105頁)。
同書によれば,国は,金銭の支払を求める訴訟で仮執行宣言の申立てがされると,原則として,答弁書で担保を条件とする仮執行免脱の申立て及び仮執行開始時期の猶予の申立てをする(PDF52頁)。
国側の手続の流れは,国を被告とする訴訟で国側は何をしているかで説明している。

第2 対象となる給付と損害
1 返還の対象

仮執行宣言に基づいて給付した金銭又は物が中心である。任意の支払であっても,仮執行宣言を背景としてされたか,別個の確定的弁済かを事実関係に即して検討する。

2 損害賠償の対象

仮執行により,又は仮執行を免れるために被告が受けた損害が対象となる。執行費用,資金調達費用その他の項目ごとに因果関係と金額を立証する必要がある。

第3 申立ての作り方
1 申立ての趣旨

返還を求める給付の内容,金額,利息又は遅延損害金の起算点を特定する。複数回の支払又は一部執行がある場合は一覧表を付ける。

2 申立ての原因

①仮執行宣言付判決,②給付又は執行の日時・内容,③控訴審で求める本案判決の変更,④返還額,⑤損害の発生及び因果関係を順に記載する。

3 証拠

振込記録,領収書,執行調書,供託書,金融機関との契約書及び費用明細など,支出と仮執行との結び付きを示す資料を提出する。

第4 他の請求との区別
1 本案請求との関係

260条2項の申立ては,本案判決の変更を前提とする付随的な裁判である。本案でどの範囲の変更を求めるかと,原状回復を求める範囲を対応させる。

2 別訴との関係

同項の申立てをしなかった場合又は控訴審で判断されなかった場合の別訴の可否は,既判力及び請求の法的構成を含めて個別に検討する必要がある。

第5 根拠資料及び関連記事

民事訴訟法260条(e-Gov法令検索)を確認した。
仮執行後の実務例として,残業代請求訴訟の仮執行による仮払いも参照されたい。
国が当事者の場合の扱いは,法務省大臣官房訟務部門「訟務事務入門(第6版)」(平成18年3月)PDF52頁・105頁を確認した。

(続きを読む...)仮執行後に第一審判決が変更された場合の原状回復―民事訴訟法260条2項の申立て(AI作成)

民事控訴審における反訴―相手方の同意,異議,移送・却下及び手数料(AI作成)

目次第1 控訴審の反訴に追加される要件1 原則として相手方の同意が必要である2 異議なく本案弁論をすると同意とみなされる第2 同意を要しない場合1 第一審の審判を受ける利益を失わせない場合2 人事訴訟の特則第3 相手方が同意しない場合1 移送説と却下説がある2 書面で明確にする事項第4 手数料1 第一審が本訴を判断した場合2 第一審が本訴を判断していない場合第5 根拠資料及び関連記事
第1 控訴審の反訴に追加される要件
1 原則として相手方の同意が必要である

控訴審でも反訴は提起できるが,第一審の反訴要件に加え,相手方の同意を要する(民事訴訟法300条1項)。これは反訴について第一審の審判を受ける利益を保護するためである。

2 異議なく本案弁論をすると同意とみなされる

相手方が異議を述べず反訴の本案について弁論したときは,同意したものとみなされる(同条2項)。反訴を受けた側は,本案に入る前に同意の有無と異議を明確にする必要がある。

第2 同意を要しない場合
1 第一審の審判を受ける利益を失わせない場合

最高裁昭和38年2月21日判決は,相手方から第一審の審判を受ける利益を実質上奪うおそれがない場合には,同意を要しないとした。
反訴と本訴の争点・証拠の重なりや,第一審での審理状況を具体的に示す必要がある。

2 人事訴訟の特則

人事訴訟の控訴審における反訴については,人事訴訟法18条の特則があり,相手方の同意を要しない。一般民事訴訟と混同してはならない。

第3 相手方が同意しない場合
1 移送説と却下説がある

過去の下級審裁判例には,管轄権を有する第一審裁判所へ移送した例と,不適法として却下した例がある。反訴状送達前の段階から,担当裁判官と進行を確認することが重要である。

2 書面で明確にする事項

反訴状には,請求の趣旨・原因だけでなく,控訴審で反訴を許すべき理由,相手方の同意の有無,同意不要と主張する根拠及び本訴との関連性を記載する。

第4 手数料
1 第一審が本訴を判断した場合

原則として控訴提起手数料を基準に算定し,本訴と目的を同じくする反訴では一定の控除が問題となる。

2 第一審が本訴を判断していない場合

訴え提起手数料を基準とする取扱いが問題となる。訴額と本訴との目的同一性を示し,提出前に裁判所へ確認するのが安全である。

第5 根拠資料及び関連記事

民事訴訟法(e-Gov法令検索),人事訴訟法(e-Gov法令検索)及び民事訴訟費用等に関する法律(e-Gov法令検索)を確認した。
電子提出の一般的な扱いは,mintsで反訴・訴えの変更をする方法を参照されたい。

民事控訴審で請求を追加・変更する方法―訴えの変更,附帯控訴及び送達(AI作成)

目次第1 控訴審でも請求の追加・変更は問題となる1 請求の趣旨と訴訟物を区別する2 独立した表題を付ける第2 控訴人と被控訴人で手続が異なる1 控訴人による変更2 被控訴人による変更と附帯控訴第3 許否を左右する事情1 著しい訴訟遅延2 第一審が本案判断をしていない場合3 新訴に対する裁判第4 手数料と提出前確認1 手数料2 チェック項目第5 根拠資料及び関連記事
第1 控訴審でも請求の追加・変更は問題となる
1 請求の趣旨と訴訟物を区別する

請求額又は請求内容を変える場合だけでなく,請求の趣旨が同じでも新たな請求原因を加えて訴訟物が変わる場合は,訴えの変更として扱う必要がある。
控訴理由書又は準備書面の中に変更部分を埋め込むと,裁判所と相手方が送達及び手数料を判断しにくい。

2 独立した表題を付ける

控訴人が変更する場合は「訴え変更申立書」又は「控訴理由書兼訴え変更申立書」など,変更が一見して分かる表題と独立項目を設けるのが実務上安全である。

第2 控訴人と被控訴人で手続が異なる
1 控訴人による変更

控訴人の請求追加・変更は,民事訴訟法143条が控訴審に準用されることを前提に,同一性,審理遅延及び二審制の利益への影響が検討される。変更書面は相手方への送達が必要となる。

2 被控訴人による変更と附帯控訴

被控訴人が第一審判決より自己に有利な裁判を求める場合は,附帯控訴を要する。請求の趣旨を変えない場合でも,訴訟物を追加又は変更して自己に有利な変更を求めるときは,附帯控訴の要否を検討する。

第3 許否を左右する事情
1 著しい訴訟遅延

相手方の陳述した事実に基づく変更であっても,著しく訴訟手続を遅滞させる場合は許されない(最高裁昭和42年10月12日判決)。

2 第一審が本案判断をしていない場合

訴え却下判決に対する控訴審で追加的新訴を持ち込むと,第一審の審判を受ける利益との関係が問題となる。知財高裁平成31年2月19日判決及び同年3月4日判決は,それぞれの事案で追加的変更を許さなかった。

3 新訴に対する裁判

控訴審で訴えの変更により新訴が係属した場合,控訴裁判所は新訴について事実上第一審として裁判すべきであり,単なる控訴棄却では処理できない(最高裁昭和31年12月20日判決)。

第4 手数料と提出前確認
1 手数料

第一審が変更前の請求を判断したか否かにより,控訴手数料基準と訴え提起手数料基準のどちらを用いるかが変わり得る。実額は変更前後の訴額を示して裁判所書記官に確認するのが安全である。

2 チェック項目

①変更前後の請求の趣旨,②請求原因,③附帯控訴の要否,④相手方への送達,⑤手数料,⑥審理遅延,⑦第一審の審判を受ける利益を確認する。

第5 根拠資料及び関連記事

民事訴訟法(e-Gov法令検索)及び民事訴訟費用等に関する法律(e-Gov法令検索)を確認した。
電子提出を含む現行実務については,mintsで反訴・訴えの変更をする方法も参照されたい。

民事控訴審の控訴理由書の書き方―原判決の誤り,証拠評価及び主張の組み立て(AI作成)

目次第1 控訴理由書で最初に示す事項1 結論を変える判断点を特定する2 不服の範囲を主文と対応させる第2 事実認定の誤りの書き方1 証拠と認定事実を一対一で対応させる2 新証拠の役割を説明する第3 法令適用の誤りと文章構成1 規範・要件・事実・結論を分ける2 推奨する並び順第4 提出前チェック1 形式面2 内容面第5 根拠資料及び関連記事
第1 控訴理由書で最初に示す事項
1 結論を変える判断点を特定する

民事控訴審は続審であるが,控訴理由書では第一審の主張を単に再掲するのでは足りない。原判決の主文を支える主要な判断を分解し,どの判断が変われば結論が変わるのかを先に示す必要がある。
原判決の認定事実,証拠評価,法令解釈及び当てはめを区別し,各項目について原判決の該当頁を特定すると,裁判体が争点を追いやすい。

2 不服の範囲を主文と対応させる

控訴の趣旨,控訴状及び控訴理由書の結論は一致させる。請求の一部だけを争う場合は,第一審判決のどの部分について変更を求めるかを明示する。
被控訴人が自己に不利益な変更を求める場合は,単なる答弁ではなく附帯控訴が必要となることがある。

第2 事実認定の誤りの書き方
1 証拠と認定事実を一対一で対応させる

「証拠の評価が不当である」とだけ書くのではなく,①原判決が認定した事実,②根拠とした証拠,③見落とした反対証拠,④経験則又は論理則上の問題,⑤正しく認定すべき事実,⑥結論への影響を順に記載する。
供述証拠については,変遷,客観証拠との整合性,利害関係及び知覚・記憶の条件を具体的に示す。

2 新証拠の役割を説明する

新証拠を提出する場合は,証拠の内容だけでなく,どの争点のどの認定を動かすのか,第一審で提出できなかった事情及び立証趣旨を説明する。
控訴審の期日が短期間で終結する場合もあるため,提出予定の証拠は理由書と同時又はできる限り早期に整理する。

第3 法令適用の誤りと文章構成
1 規範・要件・事実・結論を分ける

法令適用の誤りは,適用条文,解釈上の規範,要件事実,原判決の認定及び正しい当てはめを分けて書く。判例を引用する場合は,結論だけでなく事案との共通点と相違点を示す。

2 推奨する並び順

実務上は,①控訴の趣旨,②結論を左右する要点,③原判決の判断構造,④争点ごとの誤り,⑤新証拠,⑥求める結論の順で構成すると読みやすい。
提出期限の考え方は,控訴理由書・上告理由書の提出期限を参照されたい。

第4 提出前チェック
1 形式面

①事件番号,当事者及び提出先が正しいか,②控訴の趣旨と理由が対応しているか,③引用した原判決の頁が正しいか,④証拠番号と立証趣旨が一致するか,⑤訴えの変更又は附帯控訴を含んでいないかを確認する。

2 内容面

各控訴理由について,「その誤りがなければ主文が変わる」ことまで説明できているかを確認する。周辺的な誤記の指摘だけでは,原判決変更の理由にならない。

第5 根拠資料及び関連記事

民事訴訟法(e-Gov法令検索)及び民事訴訟規則(e-Gov法令検索)を確認した。
民事控訴審全体の案内は,控訴審の手続と主要論点を参照されたい。
本記事は一般的な整理であり,個別事件では控訴の範囲,記録及び提出先裁判所の運用を確認する必要がある。

(続きを読む...)民事控訴審の控訴理由書の書き方―原判決の誤り,証拠評価及び主張の組み立て(AI作成)

大阪高裁民事部主任決議集を令和8年の民事訴訟で使う方法―mints後も残る実務と旧紙運用(AI作成)

目次第1 結論及び資料の位置付け1 結論2 対象資料第2 令和8年5月21日前後で取扱いを分ける必要1 新事件2 旧事件3 民事執行等第3 旧紙運用を現在の実務へ読み替える方法1 提出方法,手数料及び郵便費用2 送達及び通知3 副本及び記録送付4 閲覧制限,秘密保持及び記録保存第4 電子化後も有用な主任決議集の学び1 書面の表題より内容を見ること2 当事者及び参加人ごとに期限を管理すること3 上訴理由書を自己完結させること4 記録の所在と緊急性を引き継ぐこと5 証明書等は目的から逆算すること第5 法律事務所の確認チェックリスト1 事件及び適用法令2 提出及び送達3 記録及び証拠第6 一次資料による裏付けの状況1 確認できた事項2 資料に記載されているが,現在の運用とは限らない事項3 本記事の推論4 未確認事項第7 関連記事及び出典1 関連記事2 出典
第1 結論及び資料の位置付け
1 結論

大阪高裁民事部の主任決議集からは,書類の題名ではなく内容に応じて処理すること,当事者及び参加人ごとに送達・提出期限を管理すること,記録の所在を確かめて緊急処理を引き継ぐことなど,電子化後も有用な実務上の視点を学ぶことができる。

他方,同決議集には,紙の事件記録,郵便切手,ファクシミリ,書類の編てつ及び紙の副本を前提とする記載が多い。令和8年5月21日に施行された改正民事訴訟法及び改正民事訴訟規則の下では,これらを現在の取扱いとしてそのまま用いることはできない。

したがって,同決議集は,現在の法令又は大阪高裁の現行運用を証明する資料ではなく,令和3年3月15日時点の内部事務資料として読み,現行法令及び裁判所の公式案内と照合して利用すべきである。

2 対象資料

本記事の対象は,大阪高裁民事部の主任決議集(令和3年3月15日改訂)である。

このPDFは,大阪高裁民事部における主任書記官の決議又は申合せを集約したものと読める。しかし,裁判所ウェブサイトで公開された法令・通達又は裁判例ではなく,大阪高裁の現行版原本との同一性も確認できていない。

そのため,個別事件で裁判所の取扱いを予測する資料としては有用であるものの,法的根拠を示す場合は,民事訴訟法,民事訴訟規則,裁判所の公式案内及び必要に応じて判例を別途確認する必要がある。

第2 令和8年5月21日前後で取扱いを分ける必要
1 新事件

裁判所の「改正民訴法等で変わる民事訴訟手続の概要」によれば,令和8年5月21日に改正民事訴訟法及び改正民事訴訟規則が施行された。

改正後の新事件では,弁護士等の訴訟代理人は原則としてオンラインで申立てその他の提出をし,手数料及び裁判所が定める費用も電子納付する。裁判所のシステムを利用した送達,電子訴訟記録の閲覧及び事件管理が制度の中心となる。

したがって,新事件について,主任決議集の郵便切手,紙の正本・副本,ファクシミリ提出,紙記録の編てつ順序等の記載を現在の通常運用として引用するのは適切でない。

2 旧事件

令和8年5月21日より前に提起された事件には経過措置がある。旧事件の上訴であっても,手続の各場面について新旧いずれの規定が適用されるかを,施行日だけで一律に判断することはできない。

とりわけ,上告,上告受理申立て,抗告並びに費用の予納については,改正後の民事訴訟規則及び附則に個別の経過措置がある。そのため,事件の第一審提起日,現在の審級及び対象手続を組み合わせて確認する必要がある。

3 民事執行等

裁判所の公式案内によれば,民事訴訟のデジタル化が全面施行された後も,民事執行,民事保全,倒産及び家事事件等のデジタル化は別の施行日程に従う。

主任決議集の内容を検討するときは,「民事訴訟がデジタル化されたから,全ての関連手続が同じ取扱いになった」と考えず,対象となる手続類型を先に確定する必要がある。

第3 旧紙運用を現在の実務へ読み替える方法
1 提出方法,手数料及び郵便費用

主任決議集では,窓口又は郵送による提出,収入印紙,郵便切手及びファクシミリを前提とする記載が多い。

現在は,まず事件が新事件か旧事件か,提出者がオンライン提出義務者か,対象書面がシステム提出の対象かを確認する。その上で,手数料及び費用の電子納付の要否,紙提出が許される例外並びに旧事件の取扱いを確認する。

上訴の具体的な提出先,提出時期及びmints上の操作は,mintsで控訴・上告・上告受理申立てをする方法で整理している。

2 送達及び通知

主任決議集の郵便送達及びファクシミリ送信に関する記載は,現在のシステム送達へ機械的に置き換えることはできない。

現行の民事訴訟規則189条は,上告提起通知書について,原則として裁判所の使用に係る電子計算機から送達すべき電子書類を当事者のファイルへ記録する方法を定める。もっとも,システム送達の通知メールは送達そのものではなく,送達の効力発生時点は法令に従って別に判定する必要がある。

期限管理では,メール受信日時だけでなく,事件管理画面の送達記録及び対象書類を確認する。詳しくは,mintsのシステム送達と期限管理で説明している。

(続きを読む...)大阪高裁民事部主任決議集を令和8年の民事訴訟で使う方法―mints後も残る実務と旧紙運用(AI作成)

大阪高裁民事部「執務上の留意事項(集約版)」から学ぶ民事訴訟の事故防止(AI作成)

目次第1 資料の位置付けと限界第2 事件・当事者・代理権第3 提出・申出・採否・取調べ第4 期日後の調書・目録第5 送達・期限第6 判決・和解調書を債務名義として点検する第7 秘匿情報・個人番号第8 家事事件の別事件資料第9 紙手続からmintsへの読み替え第10 弁護士向けチェックリスト第11 根拠・資料レベル第12 関連記事

大阪高等裁判所民事部の「執務上の留意事項(集約版)」には,事件表示,送達,証拠目録,調書,判決書及び家事事件の記録などについて,裁判所内部で経験された事務上の事故と確認事項がまとめられています。本記事は,その記載を弁護士側の事故防止策へ読み替えます。ただし,同文書は法令,最高裁判所規則又は裁判例ではなく,掲載PDFの取得経路・真正も本記事作成時点では独立に確認していません。したがって,文書の記載,法的根拠及び本記事の実務提案を区別します。2026年9月16日現在の内容です。

第1 資料の位置付けと限界

対象資料は,平成30年度から令和4年度までの「執務上の留意事項」を集約した,令和6年3月の大阪高等裁判所民事部の文書と表示されています。各項目は,裁判所の内部事務における留意点を示したものであり,当事者又は代理人の手続上の権利義務を直接定めるものではありません。

本記事では,情報の性質を次のように分けます。

法令で確認できる事項―民事訴訟法,民事訴訟規則等に根拠があるもの。
資料の記載―対象資料が過去の事故又は留意事項として述べるもの。
本記事の実務提案―資料の記載から弁護士側の確認工程を導いたもの。
未確認事項―個別の裁判例,現在の全国統一運用又は掲載PDFの来歴について一次資料の確認が終わっていないもの。

第2 事件・当事者・代理権

訴状,答弁書,委任状,登記事項証明書及び裁判所から届いた書面を横断して,次の事項を照合します。

裁判所,部係,事件番号及び事件名
当事者の氏名・名称,住所,本店所在地及び法人番号
代表者の資格,役職及び変更の有無
代理人の委任範囲,復代理及び特別授権の要否
送達場所及び送達受取人

同姓同名,法人の商号変更,合併,代表者変更又は関連事件がある場合には,「名称が似ている」ことを照合の根拠にせず,事件番号と登記事項等の客観的識別子を用います。

第3 提出・申出・採否・取調べ

証拠ファイル又は写しを提出したことと,期日で証拠申出がされ,裁判所が採否を判断し,実際に証拠調べが行われたことは別です。代理人側の管理表には,少なくとも次の欄を分けて設けるのが安全です。

提出日,提出先及び提出方法
相手方への直送又は閲覧可能性

(続きを読む...)大阪高裁民事部「執務上の留意事項(集約版)」から学ぶ民事訴訟の事故防止(AI作成)

上告・上告受理申立ての提出前チェックリスト―代理権・送達・理由書・記録・秘匿(AI作成)

目次第1 本記事の目的及び資料の位置付け第2 最初に確認する当事者・代表者及び代理権1 当事者の同一性と上訴の主体2 法人等の代表者3 代理権及び特別授権第3 送達と期限を確定する1 上訴期間と理由書提出期間を分ける2 送達日と送達先を記録する第4 理由書で区別すべき三つの場面1 期限内に法定理由が存在しない場合2 法定理由はあるが記載方式が不備の場合3 理由の当否及び受理の重要性を判断する場合第5 理由書を自足的にする1 上告と上告受理申立てを区別する2 他の書面又は他人の理由へ丸投げしない第6 不服の範囲と記録の完全性1 主文と不服申立ての範囲2 裁判体,期日及び調書3 引用判例の同一性と射程第7 閲覧制限・秘匿及びマスキング第8 代理人用の提出前チェックリスト第9 関連記事第10 出典
第1 本記事の目的及び資料の位置付け

本記事は,最高裁判所へ送付された上告事件及び上告受理申立て事件の記録について指摘された事項を,代理人側の提出前チェックに置き換えて整理するものである。
中心資料は,上告審から見た書記官事務の留意事項(令和6年分)である。

本記事が扱うのは,上訴権者・代理権,送達日・期限,理由書の方式,記録編成及び秘匿処理を点検する「上訴手続の提出前監査」である。原判決の適用法,判断枠組み,主要事実,証拠評価,理由及び主文の誤りを探す「原判決の実体監査」は,最高裁民事破棄判決から作る原判決監査チェックリストで扱う。

同資料は,当事者・代表者・代理権,送達,理由書,記録編成,閲覧制限及び秘匿等について,実際に生じやすい不備を広く挙げている。
もっとも,同資料には作成部署,決裁主体及び配布範囲を示す表紙又は発出文書が収録されていないため,裁判所の公式通達又は一般的な法解釈そのものとして扱うことはできない。

そこで,法令及び裁判例に関する結論は,現行の民事訴訟法,裁判所が公表する民事訴訟規則及び確認できた裁判例で裏付ける。
同資料だけで確認した事項は,「同資料は」と主語を明示して紹介する。

第2 最初に確認する当事者・代表者及び代理権
1 当事者の同一性と上訴の主体

上訴状を作成する前に,原判決の当事者欄,主文,訴訟承継,参加,脱退及び選定当事者に関する記録を突き合わせる必要がある。
名称が似ている者,途中で地位を承継した者又は複数の選定者がいる事件では,原審の表示を機械的に転記するだけでは足りない。

選定当事者については,選定書,選定者全員,自己選定の有無,選定の取消し及び資格喪失の有無を確認する。
必要的共同訴訟である可能性があるときは,上訴しなかった共同訴訟人を含めて通知及び記録送付の対象に漏れがないかを検討する。

2 法人等の代表者

法人,医療法人,社会福祉法人,事業協同組合及び地方公共団体等については,名称や通常の代表者だけから訴訟上の代表者を決めない。
請求の相手方及び内容によって代表権者が変わることがあるため,根拠法令,登記,定款又は規約を確認する。

特に,会社と取締役又は退任取締役との間の訴えでは,監査役設置会社か,監査役の監査範囲を会計に限定する定款の定めがあるか等によって検討が分かれる。
上訴段階では,第一審開始時だけでなく,上訴時点の代表資格も確認する必要がある。

3 代理権及び特別授権

委任状が提出されていることだけでなく,当該訴訟代理権が上訴提起,取下げ又は和解等の対象行為まで及ぶかを確認する。
訴訟代理権の消滅又は終了の通知が相手方に到達しているかによって,その効力及び送達先の判断が変わり得る。

上告提起通知書等が本人と代理人のいずれに送達されるべきかは,代理権の存否と一体で確認する。
当事者表示,代理権証明及び送達先を別々のチェック項目にせず,一つの連鎖として点検することが重要である。

第3 送達と期限を確定する
1 上訴期間と理由書提出期間を分ける

判決書の送達を受けた日から2週間の上告期間と,上告提起通知書の送達を受けた日から50日の上告理由書提出期間は,起算点も期間の性質も異なる。
上告期間は不変期間である一方,理由書提出期間は不変期間ではない。

現行の民事訴訟規則194条は,電子上告提起通知書の送達を受けた日から50日を上告理由書の提出期間と定めている。

(続きを読む...)上告・上告受理申立ての提出前チェックリスト―代理権・送達・理由書・記録・秘匿(AI作成)

東京高裁の民事控訴-原判決の取消・変更率,和解率及び審理期間(令和7年度)(AI作成)

目次第1 この記事の対象と資料の読み方1 対象となる資料2 統計を「控訴成功率」と読まないこと第2 民事控訴事件の終局内訳1 令和6年の通年値2 令和7年1月から9月まで第3 第一審判決の取消し・変更率1 令和6年及び令和7年の数値2 個別事件の見通しに使う場合の限界3 全国の民事控訴審との比較第4 民事控訴事件の審理期間1 令和6年に終局した事件2 令和6年末の未済事件第5 家事抗告事件と多数冊事件1 家事抗告事件の増加2 多数冊事件の基準変更第6 弁護士実務への示唆1 依頼者への説明2 受任時及び控訴理由作成時の確認事項第7 出典及び関連記事1 一次資料2 関連記事
第1 この記事の対象と資料の読み方
1 対象となる資料

1 この記事は,東京高裁民事部が作成した「令和7年度民事事件概況説明資料」(令和7年12月19日付け。以下「本資料」といいます。)のうち,民事控訴事件の終局区分,第一審判決の取消し・変更,審理期間,家事抗告事件及び多数冊事件に関する部分を整理したものです。
2 本資料の令和7年の数値は,原則として同年9月30日までの実績又はその時点の事件を対象としています。令和6年の通年値と令和7年1月から9月までの値を比較するときは,対象期間が異なることに注意する必要があります。
3 以下で「資料記載」とした部分は本資料の記載又は表から直接確認できる事項,「計算値」とした部分は本資料の数値から私が計算した事項です。

2 統計を「控訴成功率」と読まないこと

1 本資料の「取消・変更率」は,当審判決のうち,第一審判決が取り消され,又は変更されたものの割合です。控訴審で終局した全事件を分母にした割合ではありません。
2 また,取消し・変更には,請求の全部が認められた場合だけでなく,一部変更その他の類型が含まれ得ます。そのため,この率を,控訴人が全面的に勝った割合又は個別事件の見通しと読み替えることはできません。
3 和解,取下げその他によって終局した事件も相当数あるため,判決だけを見ても控訴審全体の解決像は分かりません。

第2 民事控訴事件の終局内訳
1 令和6年の通年値

1 本資料16頁の第11表の1によれば,令和6年に東京高裁で終局した民事控訴事件は5995件でした。
2 内訳は,判決3826件(63.8%),和解1566件(26.1%),取下げその他603件(10.1%)です。判決以外による終局が合計36.2%を占めています。
3 したがって,控訴審の説明では,判決結果だけでなく,和解による解決可能性及び取下げ等による終局も別に検討する必要があります。

2 令和7年1月から9月まで

1 本資料16頁によれば,令和7年1月から9月までに終局した民事控訴事件は4468件でした。
2 内訳は,判決2754件(61.6%),和解1239件(27.7%),取下げその他475件(10.6%)です。各割合の合計が100%にならないのは,表示上の端数処理によります。
3 これは9か月分の途中集計であり,令和7年の通年値ではありません。

第3 第一審判決の取消し・変更率
1 令和6年及び令和7年の数値

1 本資料13頁の第9表の1及び14頁の第9表の2によれば,令和6年は,当審判決3826件のうち755件で第一審判決が取り消され,又は変更され,その割合は19.7%でした。
2 令和7年1月から9月までは,当審判決2754件のうち537件で第一審判決が取り消され,又は変更され,その割合は19.5%でした。
3 いずれも分母は「当審判決」であり,和解,取下げその他を含む全既済事件ではありません。

2 個別事件の見通しに使う場合の限界

1 取消し・変更率は,事件類型,争点,証拠関係,控訴理由の内容及び原判決の認定判断によって大きく意味が変わります。
2 したがって,19.5%又は19.7%という全体値だけから,特定事件の控訴結果を予測することはできません。
3 実務上は,原判決のどの認定又は法的評価を問題とするのか,新たな主張又は証拠を提出できるのか,変更を求める範囲をどのように特定するのかを,記録に即して検討する必要があります。
4 本記事は統計資料の読み方を整理するものであり,民事控訴の法的要件又は個別判例の射程を論じるものではありません。そのため,本記事の統計値について判例秘書は使用していません。

3 全国の民事控訴審との比較

(続きを読む...)東京高裁の民事控訴-原判決の取消・変更率,和解率及び審理期間(令和7年度)(AI作成)

民事訴訟の証拠収集法制見直し―早期開示・文書提出命令・秘密保護の現在地(AI作成)

目次第1 法制審議会への諮問後の現在地第2 見直しが検討された背景第3 提訴前の証拠収集手続1 現行法の入口2 被告の特定・送達先情報第4 提訴後の当事者間情報取得1 三つの案2 人身事故等で想定される利用場面第5 文書提出命令の見直し1 現行法の構造2 自己利用文書等の見直し3 文書を特定する手続4 法律相談通信と訴訟準備資料の扱い第6 専門家その他の第三者の知見第7 秘密保持命令と第三者の秘密保護1 検討案の内容2 現行実務での対応
3 刑事関係文書は提出段階と提出後を分ける第8 弁護士実務で今から準備できること第9 一次資料と裁判例の確認状態第10 出典
第1 法制審議会への諮問後の現在地

公益社団法人商事法務研究会の「証拠収集手続の拡充等を中心とした民事訴訟法制の見直しのための研究会」は,令和8年2月に報告書を取りまとめ,同年4月28日に誤植訂正版を公表した。
同報告書は,民事訴訟における情報・証拠収集を,①準備としての収集,②立証としての収集,③専門家等の知見の収集,④秘密の保護という段階に分けて検討している。

令和7年度実務協議会(冬季)資料も,同研究会で文書等の早期開示制度や文書提出命令の見直し等が検討されていることを紹介している(PDF実頁14頁)。
もっとも,研究会報告書は立法上の検討資料であり,同報告書の案がそのまま成立法又は施行済み制度になったわけではない。

その後,令和8年9月14日に開催された法制審議会第206回会議において,法務大臣から発せられた「民事訴訟制度の見直しに関する諮問第131号」を,新設の「民事訴訟法(証拠収集等関係)部会」に付託して審議することとされた。
同会議の配布資料は,主な検討事項として,訴えの提起前における証拠等の収集手続,訴状の送達前における被告に関する情報の収集手続,訴え提起後における当事者間での情報の収集手続,文書提出命令,専門的知見の収集手続及び秘密の保護を挙げ,その他として,審理の充実や手続の合理化の観点からの必要な措置も挙げている。
現在の段階は,研究会報告書を踏まえて法制審議会の部会で審議が始まる段階であり,部会での審議,要綱案,答申,法案の提出,成立,公布及び施行は区別して追う必要がある。

したがって,以下では,現行民事訴訟法に基づく制度と研究会の検討案を分けて説明する。
「早期開示を請求すれば相手方に提出義務がある」などと,検討案を現在の権利として主張することはできない。

第2 見直しが検討された背景

報告書は,平成8年改正による文書提出義務の一般義務化と当事者照会の新設,平成13年・15年の改正後も,真実解明のための手段を充実させる必要性が指摘されてきたと説明する。
また,情報・証拠収集制度の強化,既存制度の実効性及び秘密保護を一体として検討する必要性を挙げる(報告書PDF実頁2頁~3頁)。

証拠収集を広げれば,当事者が事案を早期に把握し,争点を絞りやすくなる。
一方,広すぎる開示義務は,探索的な要求,営業秘密・私生活上の秘密の流出,第三者の負担及び審理の遅延を生じさせ得る。
このため,開示の必要性,対象の特定,負担,除外事由及び秘密保護を組み合わせて制度設計することが課題となる。

第3 提訴前の証拠収集手続

1 現行法の入口

現行民事訴訟法132条の2以下は,訴え提起前の照会及び証拠収集の処分を定めている。
報告書は,これらの手続が実務上あまり利用されていないという認識を示し,提訴予告通知,申立期間,必要性及び当事者自身による収集困難性等の要件や効果を見直すかを引き続き検討するとした(報告書PDF実頁3頁~5頁)。

報告書は,提訴予告通知を不要とする案について制度趣旨や他制度との均衡に問題があり,具体的方向を見いだすまでに至らなかったことも明記している。
したがって,「提訴前手続が廃止される」「通知なしで相手方に開示を強制できるようになる」と確定的に説明することはできない。

2 被告の特定・送達先情報

(続きを読む...)民事訴訟の証拠収集法制見直し―早期開示・文書提出命令・秘密保護の現在地(AI作成)

簡易裁判所の民事訴訟―地方裁判所との違いと交通事故事件の争点整理(AI作成)

目次第1 簡易裁判所で扱う民事事件1 簡易裁判所と地方裁判所の比較2 簡裁の審理に関する司法行政資料と統計第2 通常訴訟,少額訴訟及び民事調停を選び分ける第3 簡易裁判所の通常訴訟にある特則1 口頭による訴え等2 司法委員の関与第4 交通事故事件の争点整理1 四つの欄を先に作る2 事故態様は時系列と図面を一致させる3 過失と損害を混ぜない第5 地裁の書式を参考にする場合の注意第6 資料の適用範囲第7 出典
第1 簡易裁判所で扱う民事事件

手続を選ぶ前に,事件の具体例と解決方法を確認する場合は民事事件の具体例・解決方法と相談の準備を参照されたい。簡裁の通常訴訟も,訴状・答弁書,争点・証拠の整理,必要な証拠調べ,和解・判決という基本的な流れを踏まえて準備する。全体像は民事裁判の流れで説明するが,本記事で述べる簡裁の特則は別に確認する必要がある。

簡易裁判所は,訴訟の目的の価額が140万円を超えない請求(行政事件訴訟に係る請求を除く。)について第一審の裁判権を有する(裁判所法33条1項1号)。
もっとも,簡易裁判所で利用できる手続には通常訴訟,少額訴訟,民事調停及び支払督促があり,目的と進め方が異なる。裁判所全体の役割は,裁判所とは―5種類の役割・三審制・管轄と利用方法を参照されたい。

1 簡易裁判所と地方裁判所の比較
比較事項簡易裁判所地方裁判所通常の民事第一審原則として訴額140万円以下の請求。行政事件訴訟を除く。簡裁等の管轄に属するもの以外の民事事件。訴額140万円超の通常の金銭請求など。不動産に関する訴訟訴額140万円以下の請求は簡裁の裁判権の対象となる。訴額140万円以下でも地裁にも第一審の裁判権がある。手続の特徴口頭による訴えの提起等の特則がある。少額訴訟は60万円以下の金銭支払請求を対象とする別の手続。地裁の通常訴訟へ簡裁の特則や少額訴訟をそのまま適用しない。通常訴訟の控訴先地裁。さらに高裁への上告等は法律の要件による。高裁。最高裁への上告・上告受理申立ては法律の要件による。

第一審の裁判所は請求額だけで機械的に決まるものではない。不動産に関する訴訟の地裁の裁判権(裁判所法24条1号),地裁の自庁処理(民事訴訟法16条2項)及び移送等も確認する必要がある。地裁の自庁処理では,簡裁の管轄に属する訴訟を地裁で審理・裁判する場合を説明している。

上の控訴先は通常訴訟の判決についての説明である。少額訴訟の終局判決には控訴できず,同じ簡裁への異議申立てが用意される。異議後の判決にも控訴できない(民事訴訟法377条・378条・380条)。管轄と不服申立ては,利用する手続を特定してから判断する。

地裁の取扱事件,簡裁・家裁との違い及び管轄の調べ方をまとめて確認する場合は,地方裁判所とは―扱う事件・他の裁判所との違い・管轄の調べ方を参照されたい。

2 簡裁の審理に関する司法行政資料と統計

令和8年2月の令和7年度実務協議会(冬季)資料は,本人訴訟の難化と,弁護士保険の普及を背景とした交通損害賠償訴訟等の弁護士関与事件の増加を簡裁の課題として挙げる。
その上で,地裁の審理・判決に慣れた弁護士にも,簡裁の簡易迅速な役割と手続上の特則を理解してもらう必要があるとしている(PDF実頁6頁)。

法務省が法曹養成制度改革連絡協議会第26回(令和8年3月3日)に提出した司法統計の資料によれば,令和6年の簡裁の民事第一審訴訟の既済事件417,083件のうち,当事者の双方に弁護士が付いていない事件は343,612件(82.4%)であった。
この数には司法書士が代理した事件も含まれる。
地裁との比較や推移は,民事訴訟で弁護士が付く割合と本人訴訟の割合―地裁・簡裁・人事訴訟・遺産分割・婚姻関係事件の推移(平成元年~令和6年)で扱っている。

この資料は司法行政上の課題認識を示すものであり,個別事件の証明度,過失割合又は損害額を定めるものではない。
簡易迅速という目的から,必要な主要事実や証拠を省略してよいという結論も導かれない。

第2 通常訴訟,少額訴訟及び民事調停を選び分ける

手続主な対象・特徴選択時に確認する事項通常訴訟判決による権利判断を求める。簡裁には簡易な手続の特則がある事実・法律上の争点,証拠調べ,控訴の可能性少額訴訟60万円以下の金銭請求について原則1回の審理で解決を図る最初の期日までの全主張・証拠,即時に調べられる証拠,通常手続への移行可能性民事調停非公開の話合いにより,実情に即した合意を目指す金額以外の条件,履行可能性,関係維持,合意できない場合の次の手続支払督促書類審査から金銭等の支払を求める相手方の異議見込み,送達先,訴訟移行時の対応

少額訴訟は,60万円以下の金銭請求について原則1回の審理で紛争解決を図る制度である。
最初の期日までに全ての言い分と証拠を提出し,証拠はその場ですぐに調べられるものに限られるため,単に金額が少ないという理由だけで選ぶべきではない。

交通事故事件で事故態様,因果関係,休業損害,後遺障害等に多くの争いがあり,追加の証拠調べを要する場合には,通常訴訟又は他の手続が適することがある。
少額訴訟の判決に異議が申し立てられた場合は同じ簡易裁判所で通常手続による審理が行われ,その異議後の判決に対する控訴は認められていない。

第3 簡易裁判所の通常訴訟にある特則

1 口頭による訴え等

(続きを読む...)簡易裁判所の民事訴訟―地方裁判所との違いと交通事故事件の争点整理(AI作成)

民事訴訟の争点整理―主要事実・証拠・判決の道筋を期日前に整理する方法(AI作成)

目次第1 争点整理は判決に必要な判断対象を明らかにする作業である第2 主要事実,間接事実及び証拠を分ける1 請求原因・抗弁等から主要事実を取り出す2 認否と理由を事実ごとに対応させる3 証拠から事実までの推認過程を書く第3 期日前に確認する事項1 時系列表・主張対比表・陳述書対比表を使い分ける2 主張対比表には出典と次の作業を残す3 記入例と更新の仕方第4 検討結果を準備書面と期日の説明へ反映する1 一つの節で一つの判断対象を扱う2 期日で確認する事項を絞る3 期日間の投稿と書面の提出期限4 争点整理後の新主張・証拠を処理する5 進行への希望,求釈明及び異議を区別して記録する
6 法定審理期間訴訟手続の提出期間と判断事項の確認第5 証拠説明書及び新様式判決との関係第6 判決受領後の六段階監査第7 法的根拠と資料の限界第8 出典
第1 争点整理は判決に必要な判断対象を明らかにする作業である

争点整理は,民事事件の解決に必要な事実のうち,どこが争われ,どの証拠で確認するのかを明確にする段階である。訴状・答弁書から和解・判決までの手続上の位置付けは民事裁判の流れで確認できる。本記事では,各期日前に主要事実,認否及び証拠をどのように対応させるかを詳しく扱う。

争点整理では,当事者の主張を短くすること自体ではなく,裁判所が判決をするために判断しなければならない事実と法律問題を明らかにする。
令和8年2月5日・6日の令和7年度実務協議会(冬季)資料「民事・行政事件の現状と課題」は,審理の序盤に主要事実レベルの争点と今後の主張立証の見通しを口頭で協議し,中盤には判決の結論・理由の道筋を意識して判断対象を共有するという審理運営を示している(PDF実頁5頁)。

同資料は裁判所内部の実務協議会資料の公開写しであり,法令又は判決ではない。
本記事は,この問題意識を代理人の準備へ応用した確認方法を説明するものであり,裁判所が指定する証拠説明書その他の書式とは区別している。

第2 主要事実,間接事実及び証拠を分ける

1 請求原因・抗弁等から主要事実を取り出す

主要事実とは,請求原因,抗弁,再抗弁等の法律効果の発生に直接必要となる具体的事実である。
まず,請求,抗弁等の法的構成を選び,その要件ごとに主要事実を一文で記載する。

契約書があるという事実や供述が信用できるという評価は,それだけでは請求原因ではない。
法的要件,主要事実,主要事実を推認させる間接事実及び証拠を別欄に置くと,書面の不足を発見しやすくなる。

2 認否と理由を事実ごとに対応させる

相手方の主張については,認める,否認する,不知のいずれかだけで終わらせず,否認する主要事実には可能な範囲で理由を対応させる。
複数の事実をまとめて「争う」とだけ記載すると,どの事実が証拠調べの対象になるのかが見えにくい。

認否を整理すると,当事者間で一致している事実,証拠が必要な事実及び法律評価だけが争われている部分を区別できる。
期日では,この区別を前提に,次に何を主張・立証すれば判断可能になるかを確認する。

3 証拠から事実までの推認過程を書く

証拠欄には証拠番号だけでなく,引用する頁,段落,日付,メール件名又は画像上の位置まで記載する。
次に,その記載又は映像から,どの事実を,どのような経験則で推認するのかを書く。

同じ証拠でも,契約締結そのものを直接示す場合と,当事者の行動から契約締結を間接的に推認させる場合とがある。
証拠が直接示す内容と,そこから導く評価を分ければ,推論の飛躍や反証の必要性を点検できる。

専門資料は結論を左右する前提条件から点検する

(続きを読む...)民事訴訟の争点整理―主要事実・証拠・判決の道筋を期日前に整理する方法(AI作成)

名古屋地裁の令状事務処理の手引(七訂版)-令状の点検項目,記載例及び現行法への読み替え(AI作成)

目次第1 手引の概要と本記事の範囲1 作成主体と版の沿革2 本記事の基準日と頁の示し方第2 令状事務の流れと書記官による点検1 受付から交付までの流れ2 書記官による点検の範囲3 撤回,却下及び令状の更新第3 令状の種類ごとの主な記載と取扱い1 通常逮捕状と逮捕状に代わるもの2 緊急逮捕状3 捜索差押許可状,捜索許可状,差押許可状及び検証許可状4 身体検査令状,鑑定処分許可状及び身体からの採取5 電磁的記録に関する令状6 行政手続の令状,引致状及び保護許可状第4 現行法への読み替え1 読み替えが必要な主な箇所2 公訴時効の一覧表の注意点3 今後の改正予定第5 黒塗り箇所と旧版との比較1 黒塗り又は空白となっている主な箇所2 四訂版からの主な変更点第6 関連資料と関連記事1 同じ手引の旧版と抜粋2 他の裁判所の令状事務資料3 関連記事第7 出典
第1 手引の概要と本記事の範囲
1 作成主体と版の沿革
(1) 手引の構成

「令状事務処理の手引」は,名古屋地方裁判所刑事書記官室及び名古屋簡易裁判所刑事書記官室が,当直員を含む令状事務の担当職員のために作成した執務資料である。
名古屋地裁の令状事務処理の手引(七訂版,令和6年2月補訂)はPDFで全125頁であり,総論,令状の種類ごとの各論,当直用チェック票,記載例及び資料(公訴時効,令状の有効期間一覧表,少年触法事件の参考書式)から成る。

(2) 各版の改訂内容

各版のはしがきによれば,改訂の経過は次のとおりである。
① 平成20年3月に,名古屋簡裁刑事書記官室が改訂版を作成した。
② 平成27年3月の三訂版で,平成23年の刑事訴訟法改正による新たな令状(平成24年6月22日施行)を盛り込んだ。
③ 平成28年9月の四訂版で,名古屋の高裁・地裁・家裁の当直令状事務の見直しを反映し,平成30年4月及び同年9月に補訂した。
④ 令和3年12月の五訂版で,特別法違反の令状等に罪名に係る条文を記載しない取扱い(同年3月1日から)等を反映した。
⑤ 令和5年7月の六訂版で,通常逮捕状,緊急逮捕状及び引致状を除く令状について,請求時に請求書謄本の添付を求めない取扱い(同月3日から)を反映した。
⑥ 令和6年2月の七訂版で,同月15日施行の刑事訴訟法改正に伴い,被害者等の個人特定事項を秘匿するための「逮捕状に代わるもの」の手続を追加した。

(3) 資料としての位置付け

手引は裁判所の内部の執務資料であり,法令の解釈を公式に示す資料ではない。
三訂版のはしがきも,踏み込んだ法解釈や理論的な部分については,裁判所職員総合研修所の研修教材である『令状事務(再訂補訂版)』等の専門書を参照するよう求めている。
記載されている取扱いは,令和6年2月時点の名古屋地裁・名古屋簡裁のものであり,他の裁判所の取扱いが同じであるとは限らない。

2 本記事の基準日と頁の示し方

本記事は,令和8年9月14日現在の法令に基づき,手引の内容を紹介した上で,その後の法改正により読み替えが必要な箇所を示すものである。
手引の頁は本文下部に印字された頁で示し,PDFの頁を併記する。
本文の印字頁は,PDFの頁から9を引いた数に当たる。

掲載されているPDFには,黒塗り又は空白となっている箇所がある。
主な箇所は,第5で整理する。

第2 令状事務の流れと書記官による点検
1 受付から交付までの流れ
(1) 事前準備と立件

警察署等から令状請求の事前連絡を受けたときは,請求官署名,令状の種類,通数,緊急性の有無及び到着予定時刻を聞き,緊急逮捕の場合は被疑罪名,逮捕時刻及び引致時刻も聞いた上で,定型用紙を準備しておくとよいとされている(手引4頁,PDF13頁)。
令状請求書には受付日付印を押し,受付時刻を24時間表示で記入して立件する(手引6頁~7頁,PDF15頁~16頁)。
当直で立件する一般令状事件の符号は,地裁の裁判官が担当する場合は「令む」,簡裁の裁判官が担当する場合は「令る」とされている(手引7頁,PDF16頁)。

(続きを読む...)名古屋地裁の令状事務処理の手引(七訂版)-令状の点検項目,記載例及び現行法への読み替え(AI作成)

社会調査・アンケートを法律実務で使うときの読み方―分母・抽出法・複数回答・比較可能性と因果関係(AI作成)

第1 結論とこの記事の対象第2 数字を見る前に確認する六つの事項第3 第17回出生動向基本調査の具体例1 「ネット20.2%」の分母と範囲2 結婚意思に関する数字3 理想・予定・完結を混同しない4 費用と就業継続の数字第4 異なる調査の数字を単純比較しない第5 法律実務での使い方第6 因果関係・属性差・複数回答の注意第7 一次資料への戻り方第8 関連記事第9 出典・参考資料

第1 結論とこの記事の対象

社会調査又はアンケートの数字を法律相談,主張書面又はブログ記事で使うときは,数字の大きさより先に,①誰を対象としたか,②誰が回答したか,③質問文は何か,④分母は何人か,⑤単一回答か複数回答か,⑥比較する調査と条件がそろっているかを確認する必要がある。
回答者全体の割合は,個別当事者の意思,信用性,稼働能力,過失又は因果関係を直接証明するものではない。

この記事は,令和8年9月13日現在の公表資料を基準とし,国立社会保障・人口問題研究所の第17回出生動向基本調査及びこども家庭庁の「若者10万人の総合調査(ウェブアンケート・途中経過)」を具体例として,法律実務での読み方を整理するものである。
報道は論点を知る入口にはなるが,数値及び定義は調査主体が公表した報告書本文で確認する。
令和8年10月3日の加筆では,第17回出生動向基本調査の就業継続の定義と分母を再確認し,国際比較で質問の意味を揃える際の注意を補った。
令和8年10月17日の加筆では,こども家庭庁の調査の正式な名称,結婚意欲の分母及び結婚のハードルに関する設問の意味を原資料で確認し直した。

第2 数字を見る前に確認する六つの事項

第一に,資料が最終報告か中間報告かを確認する。
中間報告では,後の精査,集計方法の変更又は追加分析によって説明が補われることがある。

第二に,質問文と回答選択肢を確認する。
「結婚する意思があるか」,「いずれ結婚するつもりか」,「現時点で結婚したいか」は似ていても同じ質問ではない。

第三に,割合の分母を確認する。
全回答者,未婚者,最近5年間に結婚した夫婦,理想の子ども数を実現できないと答えた夫婦又は妊娠判明時に就業していた妻では,示している母集団が全く異なる。

第四に,対象者の抽出方法を確認する。
無作為に抽出した地区又は世帯を対象とする調査と,民間調査会社に登録したモニターへのインターネット調査では,回答者が集まる仕組みが異なる。

第五に,回答率,無回答,標本誤差,ウェイト付け及び属性構成を確認する。
総務省統計局は,標本調査には標本誤差があり,非回答,調査範囲,測定及び集計等に由来する非標本誤差もあり得ると説明している。
回答者数が多いという一事だけで,母集団を偏りなく代表するとまではいえない。

第六に,過去又は別機関の数字と比較可能かを確認する。
対象年齢,調査時点,抽出枠,質問文,回答形式又は分母のいずれかが違えば,差が社会の変化なのか調査設計の差なのかを切り分けにくい。

第3 第17回出生動向基本調査の具体例
1 「ネット20.2%」の分母と範囲

第17回出生動向基本調査の概要は,過去5年間に結婚した夫婦が知り合ったきっかけについて,「ネット(SNS・ウェブサイト・アプリ等)」が20.2%であったと報告している。
これはマッチングアプリだけの割合ではなく,SNS及びウェブサイト等を含む集計区分であり,当該集計の標本数は570組である。

同じ表には婚姻年次が令和2年から令和6年までの夫婦について18.6%という別の集計もある。
「過去5年間」と「令和2年から令和6年」を取り違えず,本文で採用した分母と集計範囲を示す必要がある。

この20.2%は,オンラインでの出会いが珍しい例外ではないことを示す背景資料にはなる。
しかし,特定の夫婦の婚姻意思,交際実態又は相手方の本人性を証明する数字ではない。

2 結婚意思に関する数字

同調査では,18歳から34歳までの未婚者のうち,「いずれ結婚するつもり」と答えた割合が男性75.1%,女性77.8%であり,「一生結婚するつもりはない」と答えた割合が男性24.0%,女性21.5%であった。
これは調査時点における対象集団の回答分布であり,将来の婚姻を確定的に予測するものではない。

報告書自身も,「一生結婚するつもりはない」と答えた者について,今後考えが変わる可能性を尋ねている。
したがって,調査回答を個人の固定的な意思又は契約上の約束と同視してはならない。

3 理想・予定・完結を混同しない

第17回調査は,夫婦の理想子ども数を2.18人,予定子ども数を1.95人,結婚持続期間15年から19年の夫婦の完結出生児数を1.86人と報告している。
理想は希望,予定は現在の見通し,完結出生児数は婚姻期間で区切った別の集団の実績であり,同じ意味の三つの測定値ではない。

理想と予定の差をそのまま「希望したのに実現できなかった人数」と扱い,完結出生児数との差を特定要因の効果とみなすことはできない。
各指標の対象,時点及び質問の意味を確認した上で,その範囲だけを述べる必要がある。

4 費用と就業継続の数字

予定子ども数が理想子ども数を下回る夫婦に理由を尋ねた設問では,「子育てや教育にお金がかかりすぎるから」が52.9%であった。
これは特定の条件に該当する夫婦への複数回答の結果であり,全夫婦の52.9%が費用だけを原因として子どもを持たなかったことを意味しない。

(続きを読む...)社会調査・アンケートを法律実務で使うときの読み方―分母・抽出法・複数回答・比較可能性と因果関係(AI作成)

SNS・マッチングアプリで知り合った相手との紛争と証拠保全―メッセージ・プロフィール・決済履歴を消す前に(AI作成)

第1 結論とこの記事の対象第2 消える前に保存する資料1 アカウントとプロフィール2 メッセージの前後関係3 送金・決済と現実の行動第3 削除・ブロック・機種変更より先にすること1 LINEで先に保存するもの2 Tinderで先に保存するもの3 事業者の保有と開示を同一視しない第4 スクリーンショットの証拠評価1 証拠として出せるかと信用できるかは別である2 表示・書出し・受信ファイルを区別する3 ハッシュ値が証明する範囲4 改変可能性と具体的な改変を区別する5 アカウントと投稿者の同一性第5 交際中の金銭移動を法的に分類する1 貸金か贈与か2 投資詐欺と不当利得3 独身表示と貞操権侵害4 被害事実の公開は別の紛争を生み得る第6 適法な取得と安全の確保第7 弁護士相談に持参する資料第8 裁判所へ提出するときの整理第9 関連記事第10 出典・参考資料1 法令・裁判所資料2 サービス提供者の公式資料3 判例・文献の確認範囲

第1 結論とこの記事の対象

SNS,マッチングアプリ又はメッセージアプリを介した交際で,貸金,贈与,立替金,投資勧誘,不貞又は婚姻意思をめぐる紛争が生じた場合,最初にすることは,相手を論破することではなく,自分が適法に閲覧できる資料を消える前の状態で保存することである。
プロフィールの一画面又は問題発言だけではなく,アカウントの特定資料,やり取りの前後関係,送金・決済履歴及び現実の行動を同じ時系列に置く必要がある。

この記事は,令和8年9月14日現在の法令及び公表資料を基準として,民事紛争に備える最小限の証拠保全を扱う。
サービスの保存・書出し機能は変更され得るため,実行時には各サービスの最新の公式ヘルプを確認する必要がある。

後記第10のとおり,裁判所ウェブサイトの有界検索に加え,判例秘書の認証済み環境で判決本文を確認した。
スクリーンショットの真正,アカウントと投稿者の同一性,マッチングアプリを介した貸金・贈与,不当利得,投資詐欺及び貞操権侵害について参考となる下級審裁判例があるため,本記事では各裁判例の具体的事情と射程を区別して紹介する。

第2 消える前に保存する資料
1 アカウントとプロフィール

まず,①サービス名,②表示名,③ユーザーID,④プロフィールURL,⑤登録電話番号又はメールアドレスのうち自分に表示されるもの,⑥プロフィール全文,⑦写真,⑧認証済み表示その他のバッジ,⑨表示した日時を保存する。
表示名と写真だけでは,同名の別人,名称変更又はなりすましとの区別が難しいためである。

プロフィールは,一部分だけを切り取らず,サービス名,画面遷移又はURLが分かる画面から問題部分まで連続して撮影する。
長い画面は複数枚に分け,重複部分を残して順序が分かるようにする。

2 メッセージの前後関係

メッセージは,問題となる一文だけでなく,①当事者名又はアカウント,②日付と時刻,③直前と直後の発言,④引用・返信関係,⑤編集又は削除の表示,⑥既読表示の有無が分かる範囲を保存する。
「返す」「あげる」「預かる」といった短い表現の意味は,その前後にある目的,期限,条件及び相手の応答によって変わり得る。

可能であれば,画面のスクリーンショットに加え,サービスの公式機能によるテキスト又はデータの書出しも行う。
ただし,書出しデータにプロフィール写真,削除表示,返信関係又は添付ファイルが含まれないことがあるため,書出しだけで十分とは限らない。

写真,動画,音声又は文書を受信した場合は,アプリ上の表示画面と,取得できる受信ファイルを分けて保存する。
ファイル名を整理するために上書き保存又は再圧縮を繰り返す前に,最初に取得したファイルを読み取り専用の保全用複製として残すのが安全である。

3 送金・決済と現実の行動

金銭紛争では,メッセージだけでなく,①銀行振込明細,②クレジットカード又は決済アプリの利用明細,③商品・航空券・宿泊等の注文番号と領収書,④暗号資産を用いた場合の取引所記録及びトランザクション情報,⑤返済又は返金の履歴を保存する。
カード番号,認証コード及び秘密鍵等,立証に不要な秘密情報は他人へ送付してはならない。

対面で会った事実又は婚姻・交際の実態が問題となる場合は,交通,宿泊,カレンダー,写真の撮影日時,家族・知人との交流及び関係者との連絡を時系列に対応させる。
一つの資料だけで結論を出すのではなく,独立した資料が同じ出来事を指すかを確認する。

第3 削除・ブロック・機種変更より先にすること
1 LINEで先に保存するもの

LINEの標準バックアップは,同じOS間の引継ぎに用いる機能であり,保存対象はテキストメッセージだけである。
LYPプレミアムのプレミアムバックアップは,写真,動画,ファイル及びボイスメッセージを含むリアルタイム保存と異なるOS間の引継ぎに対応するが,会員資格を解約すると保存データが削除されると案内されている。

PINコード又はQRコードを用いる引継ぎで復元できるのは,現行の公式ヘルプ上,直近14日間のトーク履歴である。
また,トーク履歴のテキスト書出しは復元用バックアップではなく,PC版では画面に表示されているトーク履歴だけが保存対象となるため,スクリーンショット,テキスト書出し,画像・動画等の受信ファイル及びバックアップを相互に代用できるものと考えてはならない。

送信取消しと削除は異なり,削除は原則として自分の端末側だけに影響するが,公式ヘルプは,いずれの操作後も元に戻せないと案内している。
LINEアカウントを削除すると全データが削除されて復元できず,アプリのアンインストールだけでもバックアップしていない端末内のトーク履歴を失う可能性があるため,これらの操作より先に必要資料を保存する必要がある。

2 Tinderで先に保存するもの

Tinderでは,個々のメッセージだけを削除することはできず,マッチを解除すると双方のマッチリストから相手と会話が消え,元に戻すことはできない。
マッチが突然消えた画面は,相手がマッチを解除した場合とアカウントを削除した場合のいずれでも生じ得るため,その画面だけから原因を断定してはならない。

個人データのダウンロード機能は,そのアカウントで利用した範囲のメールアドレス,電話番号,プロフィール写真,メッセージ及び設定等を対象とし,申請後に送られるダウンロードリンクは24時間で無効となる。
アカウント削除後はダウンロードできないため,プロフィール及び会話の画面保存と公式データの申請を先に行うべきである。

ID認証又は写真認証のバッジは,対象機能の範囲で身分証明書,プロフィール写真及び実在人物の対応を示す一事情にはなるが,公式ヘルプも身分証明書の真正又は利用者の安全を完全に保証するものではないと注意している。
バッジだけで法律上の氏名,独身であること,説明内容の真実性又は取引の安全性まで立証できるものではない。

3 事業者の保有と開示を同一視しない

令和8年3月31日適用のTinderプライバシーポリシーは,アカウント閉鎖後の安全保持期間とデータの種類に応じた個別の保持期間に加え,法的に有効な保全要請又は手続に対応するため保持期間を延長する場合に言及している。
もっとも,事業者内にデータが保持されていることと,一般利用者又は民事事件の当事者が実際に開示を受けられることは別問題である。

(続きを読む...)SNS・マッチングアプリで知り合った相手との紛争と証拠保全―メッセージ・プロフィール・決済履歴を消す前に(AI作成)

訴訟行為の追完(民事訴訟法97条)―控訴期間を過ぎた場合の救済,送達日の誤認,通知メールの見落とし及び事務所内の事務処理(AI作成)

目次第1 本記事の対象1 扱う問い2 結論の要旨第2 不変期間と追完の規定1 不変期間とは何か2 民事訴訟法97条の文言3 追完の仕方第3 最高裁判所の判例に見る追完の成否1 公示送達で訴訟を知らなかった場合2 送達受取人の受領記録の誤りで送達日を取り違えた場合3 訴訟代理人や法律事務所の事務員の過失4 郵便の遅れ第4 システム送達と追完1 システム送達の効力が生じる時2 閲覧等ができない期間の不算入3 通知メールの見落としと追完第5 事務所内の事務処理と自動化の誤り1 判例から読み取れること2 知的財産高等裁判所平成31年3月18日判決(特許法の「正当な理由」)3 事務所で決めておくこと第6 追完の期間も過ぎた場合第7 関連記事第8 出典・参考資料1 法令2 裁判例
第1 本記事の対象
1 扱う問い

本記事は,控訴期間のような不変期間を過ぎてしまった場合の救済である訴訟行為の追完(民事訴訟法97条)を扱う。
追完が認められるのはどのような場合か,送達された日を取り違えた場合やシステム送達の通知メールを見落とした場合はどうなるか,法律事務所内の受付処理や自動化した仕組みの誤りは救済されるかを,条文と最高裁判所の判例に即して整理する。
法令の内容は,令和8年9月13日時点で確認したものである。

2 結論の要旨

追完ができるのは,当事者の責めに帰することができない事由によって不変期間を守れなかった場合に限られ,その事由が消滅した後1週間以内にしなければならない。
最高裁判所は,公示送達のために訴訟が起きたこと自体を知らなかった場合や,所属弁護士会が送達受取人として送達日を実際と違う日で記録していたために訴訟代理人が送達日を取り違えた場合について,責めに帰することができない事由に当たることを認める方向の判断をしている。
他方で,訴訟を起こされたことを知りながら判決の有無を調べなかった場合や,訴訟代理人の過失,同じ法律事務所に常勤する弁護士や書生・事務員による受領・取次ぎの誤りによって期間を守れなかった場合には,追完を認めていない。
したがって,法律事務所が自ら設計し運用する受付処理や自動化の仕組みの誤りは,追完では救われない前提で運用を組むのが安全だと考えられる。

第2 不変期間と追完の規定
1 不変期間とは何か

裁判所は,法定の期間又は裁判所が定めた期間を伸長し又は短縮することができるが,不変期間については伸縮できない(民事訴訟法96条1項)。
不変期間については,遠隔の地に住所又は居所を有する者のために付加期間を定めることができるにとどまる(同条2項)。
代表的な不変期間は,控訴期間(判決書等の送達を受けた日から2週間,同法285条),上告期間(同法313条による準用),即時抗告期間(裁判の告知を受けた日から1週間,同法332条)及び再審期間(再審の事由を知った日から30日,同法342条1項)である。

2 民事訴訟法97条の文言
(1) 現行の条文

民事訴訟法97条1項は,「当事者が裁判所の使用に係る電子計算機の故障その他その責めに帰することができない事由により不変期間を遵守することができなかった場合には、その事由が消滅した後一週間以内に限り、不変期間内にすべき訴訟行為の追完をすることができる。ただし、外国に在る当事者については、この期間は、二月とする。」と定める。
同条2項は,「前項の期間については、前条第一項本文の規定は、適用しない。」と定めており,追完のための1週間も裁判所が伸縮することはできない。

(2) 令和8年5月21日の改正で加わった例示

e-Gov法令検索の時点指定で比べると,令和8年5月20日時点の97条1項には「裁判所の使用に係る電子計算機の故障」という文言がなく,令和8年5月21日時点の条文から加わっている。
これは民事裁判手続のIT化に伴う改正であり,同じ言い回しは,訴訟代理人のオンライン提出義務を解除する同法132条の11第3項にも使われている。
もっとも,この文言は例示であり,裁判所側のシステム故障以外の事由でも,当事者の責めに帰することができないものであれば追完の対象になる。

3 追完の仕方

追完は,期間内にすべきであった訴訟行為そのもの(控訴であれば控訴の提起)をすることで行う。
後記第3の2の最高裁判所昭和46年4月20日判決は,原審が「訴訟行為追完の申立もない」として控訴を却下したのに対し,追完事由があることが原判決の認定事実からうかがえる以上,追完事由を主張するかどうかについて釈明を求めるべきであったとして,原判決を破棄している。
実務上は,期間経過後に提出する控訴状等に,責めに帰することができない事由の内容と,その事由が消滅した日(通常は判決を知った日)を具体的に記載し,裏付け資料を添えておくことが考えられる。

第3 最高裁判所の判例に見る追完の成否

以下の判例の多くは,平成8年の民事訴訟法全面改正前の159条(現行97条に当たる規定)の下のものである。

(続きを読む...)訴訟行為の追完(民事訴訟法97条)―控訴期間を過ぎた場合の救済,送達日の誤認,通知メールの見落とし及び事務所内の事務処理(AI作成)