第1 逮捕に伴う無令状捜索・差押えの枠組み
1 刑事訴訟法220条
刑事訴訟法220条1項2号は、通常逮捕、現行犯逮捕又は緊急逮捕をする場合に必要があるとき、逮捕の現場で差押え、捜索又は検証をすることを認め、同条3項は令状を不要としている。
もっとも、逮捕があれば場所・人・物を無限定に捜索できるわけではない。
逮捕との時間的・場所的な結び付き、対象と押収すべき物との関連性、処分の必要性及び方法の相当性を分けて検討する必要がある。
2 制度趣旨からの二つの説明
逮捕の現場には証拠物が存在する蓋然性が一般に高いとする説明と、逮捕者の安全確保や逃亡・証拠隠滅の防止という緊急の必要性を重視する説明がある。
具体的事案では、いずれかの標語だけで結論を出さず、捜索対象、距離、時間、移動理由、代替手段及び危険性を事実に即して評価する。
第2 第三者の身体・所持品を捜索する場合
1 刑事訴訟法102条2項の準用
刑事訴訟法222条1項は、逮捕に伴う捜索について同法102条を準用する。
同法102条2項は、被告人以外の者の身体、物又は住居その他の場所について、押収すべき物の存在を認めるに足りる状況がある場合に限って捜索できると定める。
被疑者の隣にいただけ、同じ車に乗っていただけという抽象的な関係では足りず、対象者が証拠物を受け取った、隠した、保持していると疑わせる具体的状況を検討する必要がある。
2 身体捜索の方法と相当性
衣服の外側からの確認、ポケット内の確認、衣服を脱がせる処分では、権利侵害の程度が異なる。
押収すべき物の種類・大きさ、対象者の行動、場所の公開性、同性の捜査官の有無、遮蔽の有無、より侵害の小さい方法で目的を達成できたかを記録する。
3 居合わせた第三者の身体と「必要な処分」
逮捕に伴う無令状の捜索が許される根拠を、逮捕の現場や被逮捕者の身体・所持品に証拠が存在する蓋然性が類型的に高いことに求めると、たまたま現場に居合わせた第三者が逮捕事実に関連する証拠を持っている蓋然性は、類型的に高いとはいえない。
そこで、居合わせた第三者の身体は逮捕に伴う捜索の対象にならないとする考え方(消極説)がある。
この考え方でも、場所の捜索の実施中又はその開始の直前に、居合わせた者が捜索・差押えの目的物を身体や衣服に隠した疑いが十分に認められるときは、場所に対する捜索に付随する「必要な処分」(刑事訴訟法222条1項が準用する同法111条1項前段)として、その妨害を排除し、目的物を取り戻す限度で身体に有形力を加えることができるかが問題となる。
他方、刑事訴訟法220条1項2号は捜索の対象を文言上限定しておらず、同法222条1項は被疑者以外の者の身体を除外することなく同法102条2項を準用しているとして、居合わせた第三者の身体の捜索も許され得るとする考え方(積極説)もある。
この考え方では、前記1の「押収すべき物の存在を認めるに足りる状況」が要件となる。
令和7年司法試験刑事系科目第2問では、逮捕の現場に居合わせた被疑者の交際相手の上着のポケットに捜査官が手を入れて中の物を取り出した事実が置かれ、法務省の出題の趣旨及び採点実感は、いずれの考え方を採るにしても、逮捕に伴う捜索が認められる趣旨と矛盾しない論述を求めている。
第3 逮捕地点から移動して捜索する場合
1 最高裁平成8年1月29日決定
最高裁平成8年1月29日第三小法廷決定(平成5年(あ)第518号、刑集50巻1号1頁)は、逮捕現場で直ちに身体を捜索することが、被逮捕者の名誉を害し、抵抗による混乱を生じ、又は交通を妨げるおそれがあるなど不適当な場合に、速やかに、その場から最も近い適当な場所へ連行して実施する捜索を「逮捕の現場」での捜索と同視できる場合があるとした。
同決定の事案では、警察署までの距離、移動時間、被逮捕者の抵抗、現場の交通上の危険等が具体的に考慮された。
2 近い場所なら常に適法というわけではない
重要なのは移動距離だけではなく、現場で実施しなかった理由、途中により近く適切な場所がなかったか、移動後直ちに捜索したかである。
令和7年司法試験刑事系科目第2問では、約1キロメートル先の交番へ連行する一方、約50メートル先に駐車場があり、被疑者が落ち着いた後にはそこで捜索できた可能性があるという事実が置かれた。
法務省の出題の趣旨及び採点実感は、この代替場所の存在を含め、最高裁決定の射程を具体的事実に即して検討することを求めている。
第4 適法性を判断するチェックポイント
1 時間的接着性
逮捕から捜索までの経過時間、移動中に別の捜査活動を挟んだか、被逮捕者が継続して捜査官の管理下にあったかを確認する。
時間が経過するほど、逮捕に伴う無令状処分ではなく、別途の捜索差押許可状を得るべきだったとの評価が強まり得る。
刑事訴訟法220条1項の「逮捕する場合において」は、逮捕との時間的な接着を求める文言であり、逮捕の着手の前後どの範囲で捜索できるかは、無令状の捜索を認める根拠を証拠存在の蓋然性に求めるか、証拠隠滅を防ぐ緊急の必要性に求めるかによって説明が異なる。
令和7年司法試験の採点実感は、場所的範囲である「逮捕の現場」を詳細に検討する一方で、時間的範囲である「逮捕する場合」を全く検討しない答案が相当数あったと指摘している。
最高裁大法廷昭和36年6月7日判決(刑集15巻6号915頁)は、捜索・差押えと逮捕との時間的接着及び同一場所を重視し、一定の事案では逮捕の着手前の処分も許されるとした。捜索開始時に不在だった被疑者が帰宅し、現実に時間的に接着した緊急逮捕を受けた事実関係を含む。逮捕後でなければ常に捜索できないとするのも、将来逮捕する予定だけで不在の住居を捜索できるとするのも、同判決の射程を正確に捉えたものではない。
2 場所的接着性と移動の必要性
逮捕地点、移動先、距離、所要時間、移動経路、途中の代替場所を図面や映像で特定する。
公衆の面前での身体捜索を避ける必要、交通上の危険、抵抗や混乱の程度を、抽象的な表現ではなく具体的事実で示す。
第三者の住居で逮捕した場合に、場所的範囲を逮捕地点と同一の管理権が及ぶ範囲と考える立場を採るときも、その管理権の主体は被逮捕者に限られず、住居の管理者である第三者の管理権が及ぶ範囲かを検討することになる。
その場所が第三者に属する以上、刑事訴訟法102条2項の「押収すべき物の存在を認めるに足りる状況」も別に検討する必要があり、令和7年司法試験の採点実感は、これらの点を誤り、又は検討しなかった答案が相当数あったと指摘している。
3 対象物との関連性
逮捕事実と捜索対象物の関連、対象物が現場に存在する蓋然性、隠滅又は危険防止の必要性を確認する。
第三者の身体・所持品については、刑事訴訟法102条2項の「押収すべき物の存在を認めるに足りる状況」を独立して検討する。
4 別罪の証拠を発見した場合
東京高裁昭和46年3月8日判決(高刑集24巻1号183頁)は、逮捕に伴う差押えの対象を逮捕事実と関連する物に限るとした。別罪の証拠でも逮捕事実との関連を兼ねる場合と、全く無関係な場合を区別する必要がある。無関係な物については、別罪の現行犯逮捕の要件、所有者・所持者・保管者による自由な意思に基づく任意提出(刑事訴訟法221条)、又は別の令状による取得を独立して検討する。
同判決で匕首の領置が適法とされたのは、本人が不要なので処分してほしいと申し出て、任意提出と認められたためである。逮捕現場で見つかった物を一律に差し押さえられるという判断ではない。また、最高裁昭和53年9月7日判決は、違法な所持品検査等で初めて現行犯逮捕の要件が整った事案で、その逮捕に伴う差押手続を違法とした。発見、検査、逮捕及び取得の順序も確認する必要がある。
第5 弁護活動で確保すべき資料
1 初回接見で確認する事項
逮捕地点と時刻、手錠等の時刻、移動開始・到着・捜索の時刻、各地点の距離、抵抗の有無、周囲の人通り、捜索の方法、差し押さえた物を聴き取る。
被疑者以外の者を捜索した場合は、その者と証拠物を結び付ける捜査官の説明も確認する。
別罪の物が発見された場合は、物ごとに所在、取り出した人、発見・検査・逮捕・差押えの時刻を整理する。任意提出とされている場合には、提出者の立場、捜査官の説明・要求、本人の応答、拒否や留保の有無も聴き取る。任意提出書の署名だけで自由な意思があったと決めず、任意提出書、領置調書、押収品目録及び捜索差押調書を照合する。
2 客観資料
防犯カメラ、警察官の装着カメラ、110番記録、無線記録、捜索差押調書、逮捕手続書、位置情報、現場写真及び地図を早期に保全する。
違法収集証拠排除の主張では、単なる条文違反だけでなく、令状主義の精神を没却する重大な違法と将来の違法捜査抑制の観点を含めて構成する。
第6 関連する山中弁護士ブログの記事
被疑者の逮捕(AIリライト)
家宅捜索で同居家族のバッグや来訪者のポケットまで調べられるか―場所に対する捜索差押許可状の効力と最高裁平成6年9月8日決定(AI作成)
別罪の証拠の取得方法は、逮捕現場で別の犯罪の証拠が見つかったら―差押え・現行犯逮捕・任意提出の区別(AI作成)で詳しく整理している。
第7 出典
e-Gov法令検索「刑事訴訟法」
法務省「令和7年司法試験論文式試験問題」
法務省「令和7年司法試験論文式試験の出題の趣旨」
法務省「令和7年司法試験論文式試験の採点実感等に関する意見」
判例秘書L05110007(最高裁平成8年1月29日第三小法廷決定、平成5年(あ)第518号、刑集50巻1号1頁)
最高裁大法廷昭和36年6月7日判決(昭和31年(あ)第2863号、刑集15巻6号915頁。多数意見の判文を確認)
東京高裁昭和46年3月8日判決(昭和45年(う)第3017号、高刑集24巻1号183頁。判例秘書L02620113の「論旨第二点について」を確認)
最高裁昭和53年9月7日判決(昭和51年(あ)第865号、刑集32巻6号1672頁。差押手続の違法と証拠能力の結論を区別して確認)