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裁判手続の実務

処分禁止の仮処分とは―登記請求権の保全,効力と仮差押えとの違い(AI作成)

目次

第1 処分禁止の仮処分の目的1 登記を取得・回復する権利を守る2 金銭回収の仮差押えと区別する第2 登記請求権と保全の必要性1 どの登記を誰に請求するかを特定する2 現状変更による権利実行の危険を示す第3 処分禁止登記と保全仮登記1 処分禁止登記によって執行する場合2 所有権以外の権利の保存・設定・変更を求める場合第4 相対的効力とその限界1 後の登記が全て絶対的に無効となるわけではない2 本案後の登記と抹消も権利の種類に応じて異なる第5 建物収去土地明渡しを保全する別の類型第6 申立て前から本案後までの確認事項第7 出典・参考資料
第1 処分禁止の仮処分の目的
1 登記を取得・回復する権利を守る

不動産について登記手続を求める訴訟を進めても,その間に名義が移転したり,抵当権等の登記がされたりすると,判決後の登記実現が複雑になる場合がある。
そこで,登記請求権を守るために処分禁止の仮処分を検討する。
民事保全法53条は,不動産に関する登記請求権を保全する処分禁止の仮処分を,処分禁止登記によって執行するものと定めている。
本記事は不動産を中心に,令和8年10月8日に確認した法令及び裁判所の書式に基づいて説明する。

2 金銭回収の仮差押えと区別する

貸金や売掛金を回収するため,相手方の不動産を責任財産として確保したい場合は,通常,仮差押えを検討する。
これに対し,所有権移転登記や登記の抹消など,登記請求権そのものを守りたい場合は,処分禁止の仮処分が問題となる。
同じ不動産を対象にすることから手続を選ぶのではなく,最終的に金銭回収を求めるのか,登記を実現するのかを先に確認する必要がある。
金銭回収の手続は,仮差押えの総論を参照する。

民事保全の3類型と手続全体の比較は,民事保全とはで説明している。

第2 登記請求権と保全の必要性
1 どの登記を誰に請求するかを特定する

申立てでは,権利の発生原因,対象不動産,請求する登記の種類・内容,相手方を確認する。
売買等の契約と登記記録,既存の担保権,登記上の利害関係人を照合し,本案で求める内容と保全する権利を対応させる必要がある。
契約書だけでなく,現時点の登記の状態を確認することが大切である。

2 現状変更による権利実行の危険を示す

係争物に関する仮処分には,現状の変更によって権利実行が不能又は著しく困難になるおそれが必要である(民事保全法23条1項)。
相手方が登記請求に応じないことと,さらに譲渡や担保設定等によって登記の実現が難しくなる危険とは,分けて説明する必要がある。
処分の具体的な動き,関係者の説明,登記の変化等について,どの事実をどの資料で疎明するかを整理する。

第3 処分禁止登記と保全仮登記
1 処分禁止登記によって執行する場合

民事保全法53条1項の処分禁止の仮処分は,処分禁止登記によって執行される。
相手方に命令が発せられたという段階と,登記による保全執行がされた段階を区別し,実際の登記を確認する必要がある。

2 所有権以外の権利の保存・設定・変更を求める場合

不動産の所有権以外の権利の保存,設定又は変更に関する登記請求権を保全する場合は,処分禁止登記とともに保全仮登記をする(民事保全法53条2項)。
東京地裁の書式6は,根抵当権設定登記請求権を保全する,保全仮登記併用の申立ての例である。
全ての処分禁止の仮処分に同じ保全仮登記を付けるのではなく,保全する登記請求権の内容に応じて手続を選ぶ。

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占有移転禁止の仮処分とは―建物明渡しの準備,相手方と執行期限(AI作成)

目次

第1 占有移転禁止の仮処分の目的1 将来の明渡しに備える手続2 通常の債務者使用型では直ちに退去させない第2 被保全権利と保全の必要性1 明渡しを求める権利を確認する2 占有移転によって執行が困難になる危険を示す第3 相手方と対象建物の特定1 契約名義と現実の占有者を照合する2 債務者を特定しない命令は特別の事情が必要である第4 申立書と疎明資料の準備1 申立ての趣旨と物件目録を整える2 権利・必要性・占有を説明する資料を分ける第5 執行官への申立てと2週間の期限1 命令の取得とは別に保全執行を申し立てる2 申立期限だけではなく執行への着手を管理する第6 第三者への効力と本案訴訟1 執行後の占有者に対する効力には条件がある2 明渡しの実現には本案と執行の準備を続ける第7 出典・参考資料
第1 占有移転禁止の仮処分の目的
1 将来の明渡しに備える手続

占有移転禁止の仮処分は,建物等の引渡し・明渡しを求める権利を保全するため,占有の移転を禁止し,執行官に保管と公示をさせる手続である(民事保全法25条の2第1項,62条)。
建物明渡しの訴訟中に別の者へ占有が移ると,本案の債務名義を用いて誰に執行できるかが問題となるため,早い段階で必要性を検討する。
民事保全全体の位置付け及び仮差押えとの違いは,仮差押えの総論を参照する。
本記事の法令・裁判所案内の確認日は令和8年10月8日である。

2 通常の債務者使用型では直ちに退去させない

通常の債務者使用型では,執行官の保管の下で債務者に建物の使用を許す。
そのため,相手方が現実の使用を続ける場合があり,命令の取得がそのまま即時の明渡しを意味するものではない。

執行官が保管するだけで誰にも使用を許さない方法や,債権者の使用を許す方法もあるが,現実の使用状況に与える影響が異なる。
どの方法を求めるかは,必要性や執行方法を踏まえて検討し,通常の占有移転禁止と明渡断行の仮処分を混同しないことが大切である。

民事保全の3類型と手続全体の比較は,民事保全とはで説明している。

第2 被保全権利と保全の必要性
1 明渡しを求める権利を確認する

賃貸借の終了を理由とする場合は,契約の成立・内容,賃料等の支払状況,催告・解除の経緯,通知の到達等を確認する。
所有権に基づく場合など,権利の根拠が異なれば説明する事実も異なる。
単に賃料が未払であるという記載だけで,契約の終了や明渡請求権の存在まで説明できるとは限らない。

2 占有移転によって執行が困難になる危険を示す

係争物に関する仮処分には,現状の変更により権利実行が不能又は著しく困難になるおそれが必要である(民事保全法23条1項)。
権利の存在とは別に,占有移転の危険を示す事情を整理する必要がある。
東京地裁の書式4は,建物明渡請求権と保全の必要性を別々に記載する例を示しているが,その例文をそのまま写すのではなく,実際の事情と資料を対応させる。

第3 相手方と対象建物の特定
1 契約名義と現実の占有者を照合する

申立てでは,契約書に書かれた名義人だけでなく,現地で誰がどの範囲を使用・管理しているかを確認することが重要である。
法人の店舗,転貸,別会社による使用などでは,契約の名義と占有の実態が一致しているかが問題になる。
表札・看板,郵便物,現地の状況,関係者から得た説明等を適法に確認し,確認日と根拠を記録する。

2 債務者を特定しない命令は特別の事情が必要である

係争物が不動産で,執行前に債務者を特定することが困難な特別の事情がある場合には,債務者を特定しない占有移転禁止の仮処分命令を発することができる(民事保全法25条の2)。
これは,通常の調査を省略してよいという制度ではない。

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民事保全とは―仮差押え・仮処分の違い,要件,費用と手続の流れ(AI作成)

目次

第1 民事保全とは何か1 判決を待つ間の危険に備える手続2 まず選ぶべき3つの類型第2 仮差押えと仮処分の違い1 仮差押えは金銭回収のために財産を確保する2 係争物に関する仮処分は物や登記をめぐる現状を守る3 仮の地位を定める仮処分は現在の重大な損害に対応する第3 申立てに必要な要件と疎明資料1 被保全権利と保全の必要性を分ける2 事実と資料を対応させる第4 費用と担保の資金計画1 手続費用,担保,後の回収費用を見積もる2 担保は後から必ず戻るとは限らない第5 申立てから保全執行までの流れ1 申立先と面接・審尋を確認する2 発令と執行を分けて予定する第6 保全を受けた側の対応と限界第7 出典・参考資料
第1 民事保全とは何か
1 判決を待つ間の危険に備える手続

民事保全は,民事訴訟の判決を得るまでに財産が処分され,建物の占有者が変わり,又は生活・事業に重大な損害が生じる場合に,権利の実現や当面の状態を暫定的に守る裁判手続である。
金銭回収の準備をする仮差押えと,物や権利関係を守る仮処分があり,さらに仮処分は,係争物に関するものと仮の地位を定めるものに分かれる(民事保全法1条,20条,23条)。

裁判で勝てる見込みがあることと,今すぐ保全をする必要があることは別の問題である。
申立ての前には,最終的に何を実現したいのか,判決を待つと何が失われるのか,どの財産・物・行為を対象とするのかを分けて考える必要がある。
本記事は令和8年10月8日に確認した法令及び裁判所の案内を基礎とし,野村創『失敗事例でわかる!民事保全・執行のゴールデンルール30〈改訂版〉』(学陽書房,令和6年)を実務上の検討の参考としている。
同書の失敗事例は説明のための架空事例であり,掲載された金額や日数,著者の経験を全国共通の基準として扱うものではない。

2 まず選ぶべき3つの類型
最終的な目的保全の類型判決までに防ぐ危険貸金・売掛金・損害賠償金等の回収仮差押え責任財産が失われ,将来の強制執行ができなくなる危険建物明渡し,物の引渡し,登記手続等係争物に関する仮処分占有や登記等の現状が変わり,権利の実行が困難になる危険当面の生活費の確保,侵害行為の差止め等仮の地位を定める仮処分判決を待つ間に著しい損害や急迫の危険が生じること

仮差押えは金銭債権の回収を準備する手続であり,その命令だけで預金を取り立てたり,相手方から支払を受けたりできるわけではない。
これに対し,仮払いを命ずる仮処分は,当面必要な給付を暫定的に実現する場合がある。
同じ金銭に関係する申立てでも,財産の確保と現実の支払を混同してはならない。

第2 仮差押えと仮処分の違い
1 仮差押えは金銭回収のために財産を確保する

仮差押えの対象には,不動産,預金・給料などの債権,動産等がある。
対象を選ぶときは,その財産が実際に存在するか,誰に属するか,先順位の担保権や他の差押えがあるか,後に回収へ進めるだけの価値が残るかを確認する必要がある。
不動産の登記に記載された抵当権の債権額や根抵当権の極度額と,現実に残っている債務額は同じではない。

手続の詳細は,仮差押えとは―要件・手続の流れ・担保・効力・解放金・担保の取戻しの全体像で説明している。
預金・給料については,預金・給料の仮差押えを参照する。

保証人の財産を確保する場合は,連帯保証人に対する仮差押えで,主債務者と保証人双方の資力・保全の必要性を説明している。

2 係争物に関する仮処分は物や登記をめぐる現状を守る

建物明渡しを求める場合,裁判の途中で占有者が変わると,誰を相手に明渡しの執行をするのかが問題になる。
そこで,占有移転禁止の仮処分により占有の移転を禁止し,執行官の保管・公示を通じて将来の明渡しに備える。
通常の債務者使用型では相手方が建物の使用を続けるため,仮処分の発令だけで直ちに退去させる手続とは異なる。

登記請求権を守る場合は,処分禁止の仮処分が問題となる。
金銭を回収したいから相手方の不動産を確保する場合と,自分がその不動産の登記を取得・回復したい場合では,保全する権利も手続も異なる。

相手方や対象の調査,執行官への申立てと2週間の期限は,占有移転禁止の仮処分で説明している。
登記請求権の類型,処分禁止登記・保全仮登記,後の登記への効力は,処分禁止の仮処分を参照する。

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明文のない主観的追加的併合と別訴・弁論併合の実務(AI作成)

目次

第1 被告の追加と請求の変更を分ける第2 昭和62年判決が挙げた懸念を原文で確認する1 従前の訴訟状態を当然に利用できるか2 紛争処理がかえって複雑にならないか3 軽率な提訴・濫訴を増やさないか4 訴訟の遅延を招かないか第3 別訴と弁論併合では何を確認するか1 新しい被告に対する訴えを独立して整える2 裁判所の併合判断に必要な事情を示す第4 併合後も証拠・認否・自白を一括しない1 尋問の機会がなかった当事者を確認する2 共通の証拠と各被告の認否を分ける第5 試験で指定された肯定立論を実務上の一般ルールにしない第6 関連記事・出典1 関連記事2 出典と適用範囲

訴訟の途中で別の者にも責任があると分かったとき,既存事件の準備書面にその者を追加するだけでよいとは限らない。別訴の提起と裁判所による弁論の併合を分け,手数料,送達,従前の訴訟状態及び防御の機会を確認する必要がある。

第1 被告の追加と請求の変更を分ける

最高裁昭和62年7月17日第三小法廷判決(昭和59年(オ)第1382号,民集41巻5号1402頁)は,既存の被告に対する訴訟の係属後に,別の被告に対する請求を追加して一個の判決を求める場合,まず別訴を提起し,裁判所に口頭弁論の併合を促して,併合について裁判所の判断を受けるべきであるとした。

共同訴訟の要件を満たしていても,新訴が既存事件へ当然に併合される効果は認められない。現在の民事訴訟法38条は共同訴訟の要件を,152条1項は裁判所が口頭弁論の併合等を命じる権限を定める。両者は別の問題である。

また,143条の請求又は請求原因の変更と,新しい被告を訴訟に入れることは区別する。請求変更の要件を論じたことだけで,別の者に対する訴訟が当然に成立するものとしてはならない。本記事は,特別の参加・承継制度の要件によらず,被告を追加して当然併合を求める場面を対象とする。

第2 昭和62年判決が挙げた懸念を原文で確認する

判決は,明文の規定がないことに加え,旧訴訟の訴訟状態を当然に利用できるか,訴訟経済に適うか,複雑化,軽率な提訴・濫訴及び遅延を問題としている。次の4点は,判決原文の理由を実務向けに分けたものである。

1 従前の訴訟状態を当然に利用できるか

新しい被告が加わっても,それまでの主張,認否,自白,証拠調べが,どの範囲でその被告との関係に引き継がれるかが問題になる。既存の証拠を使えるということと,別の当事者の自白に拘束されるということは同じではない。

通常共同訴訟について,民事訴訟法39条は,共同訴訟人の一人の訴訟行為等が他の共同訴訟人に影響を及ぼさないと定める。従前の被告がある事実を認めたことだけを理由に,新しい被告もその事実を争えないと扱うべきではない。

2 紛争処理がかえって複雑にならないか

被告を増やせば一回で解決できるとは限らない。被告ごとに請求原因,抗弁,証拠及び審理の進行状況が異なると,一緒に審理することが争点整理を難しくする場合もある。併合の上申では,共通する争点と,被告ごとに別に審理すべき争点を示すことが有用である。

3 軽率な提訴・濫訴を増やさないか

後から被告を追加すれば足りるという運用を前提に,提訴前の相手方の特定や責任根拠の調査を省いてはならない。法人を被告にするときは,商号だけでなく,契約時から提訴時までの法人の同一性と,その法人に対する請求原因を確認する。

4 訴訟の遅延を招かないか

新しい被告に訴状を送達し,認否・反論・証拠申出の機会を与えるには時間を要する。既存事件がどの段階にあるか,新訴との争点・証拠の重複はどの程度かを確認する。審理をまとめる便益と,新たに生じる手続負担の両方を示す必要がある。

第3 別訴と弁論併合では何を確認するか
1 新しい被告に対する訴えを独立して整える

新訴について,被告の表示,請求の趣旨・原因,管轄,手数料,送達に必要な情報を確認する。昭和62年判決は,新訴の訴訟の目的の価額に応じた手数料の納付が必要であり,手数料納付命令に応じなかったため訴えを却下した原審を是認している。既存請求と経済的利益が共通するというだけで,新訴の手数料が当然に不要となるとはいえない。

現行民事訴訟法138条1項は,訴状を被告に送達しなければならないと定める。新しい被告に対する送達と防御の機会を,既存被告への送達で代替したものとして扱わない。

時効や提訴期間に関する判断も請求及び相手方ごとに行う。既存事件の提訴日,新訴の提訴日,送達日を別に記録し,期間の問題がある場合はその制度の要件と効果を個別に確認する。

2 裁判所の併合判断に必要な事情を示す

152条1項による弁論の併合は,裁判所が命じるものである。併合を上申したことだけで,併合済みとして審理や書面の提出先を扱わない。事件番号,係属部,共通争点,既に提出・取調べ済みの証拠,今後必要な証拠及び期日の状況を整理する。

次の表は,法定の一律な提出様式ではなく,代理人が準備書面や併合上申を作るための確認事項である。

確認する事項既存事件と新訴で区別するもの書面に具体化する内容当事者・請求被告,請求原因,抗弁誰に何を請求し,共通又は固有の争点がどれか提訴・送達提訴日,送達日,期間の判断新訴について履践した手続と,期間に関する根拠証拠と主張書証・証人・認否・自白共通利用を求める証拠と,各当事者の主張・認否手続保障証人尋問の機会,反論の機会既に誰がどの証人を尋問し,誰に機会がなかったか審理の進行既存事件の段階,新訴の準備状況併合の便益,追加期日・証拠調べの必要性
第4 併合後も証拠・認否・自白を一括しない
1 尋問の機会がなかった当事者を確認する

民事訴訟法152条2項は,当事者を異にする事件の口頭弁論を併合した場合,併合前に尋問した証人について,尋問の機会がなかった当事者が尋問を申し出たときは,その尋問をしなければならないと定める。

「既に尋問が終わっている」という理由だけで申出を処理しない。誰が尋問の機会を持っていたか,対象証人は誰か,併合前の取調べはどの事件のものかを確認する。

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令和4年度最高裁民事破棄判決等の実情-25判決・3決定の一覧と主要8事件(AI作成)

目次

第1 資料の対象と位置付け第2 破棄件数と割合の読み方1 破棄判決の母数と割合2 差戻し・自判と破棄理由3 破棄決定の3件第3 掲載された25判決・3決定の一覧1 破棄判決25件2 破棄決定3件第4 主要8事件の判断1 町内会の土地と釈明義務2 別訴が係属する財産と財産分与3 ツイッター投稿の削除と比較衡量4 家賃保証契約の解除・明渡し条項5 原発事故の国賠責任と反対意見6 財産開示と弁済の主張7 子の引渡しの間接強制8 調査委員会の弁護士と訴訟代理人排除第5 関連資料への導線第6 出典・参考資料1 年次論文・一覧表2 裁判例
第1 資料の対象と位置付け

令和4年度の「最高裁民事破棄判決等の実情」によれば,対象となる破棄判決は25件,破棄決定は3件である。
対象期間は令和4年1月から12月までであり,4月から翌年3月までの会計年度ではない。
行政事件・労働事件も集計に含まれる。

原資料は,鷹野旭・和久一彦「最高裁民事破棄判決等の実情-令和4年度-」(判例時報2563号,令和5年10月1日号,88頁~112頁)である。
この論文は,当該年の事件と破棄理由を整理した解説であり,判決・決定そのものとは区別される。
以下では,論文の集計と掲載事件の索引を示し,主要8事件について裁判所公表の本文に基づいて判断を説明する。

第2 破棄件数と割合の読み方
1 破棄判決の母数と割合
(1) 調整済み既済件数

論文が示す通常上告事件の既済件数は2168件,上告受理申立て事件の既済件数は2704件であり,単純合計は4872件となる。
同一事件の通常上告と上告受理申立ての重複を調整した既済件数は2956件であり,破棄判決25件の割合はこの調整済み件数を母数としている。

25÷2956×100を計算すると約0.85%となる。
論文の表示は小数第1位までの0.8%であり,25件という件数と2956件という母数を併せて読むことで計算の関係が分かる。

(2) 個別事件の見通しとの違い

この割合は,令和4年に処理された事件全体についての記述である。
特定の事件で上告又は上告受理申立てが成功する確率を示す数値ではなく,申立て理由や原判決の内容を評価せずに個別事件へ当てはめることはできない。

2 差戻し・自判と破棄理由
(1) 主文の内訳と重複

論文によれば,差戻しを含む判決は11件,自判を含む判決は15件であり,両方を含む判決が1件ある。
11+15-1=25であり,差戻しと自判を重複のない分類として足し合わせると,件数を1件多く数えることになる。

差戻しでは破棄された部分について原審でさらに審理が行われ,自判では最高裁自身がその部分の裁判をする。
一部破棄の事件には,残る部分について棄却や却下をしたものもあるため,「破棄」の語だけでは当事者の請求がどこまで認められたかは分からない。

(2) 論旨に基づく破棄と職権破棄

破棄理由についての論文の内訳は,論旨に基づくもの21件,職権によるもの3件,両方によるもの1件である。
この3区分では21+3+1=25となり,主文の差戻し・自判の分類とは別の集計である。

3 破棄決定の3件

許可抗告事件について,論文は既済16件のうち破棄決定3件,割合18.8%と整理している。
3÷16×100=18.75%であり,判決の25件とは事件の種類も母数も異なる。

(続きを読む...)令和4年度最高裁民事破棄判決等の実情-25判決・3決定の一覧と主要8事件(AI作成)

令和6年度最高裁民事破棄判決等の実情-19判決・2決定の一覧と判旨の読み方(AI作成)

目次

第1 対象資料と破棄件数1 対象は令和6年中の裁判である2 19判決・2決定の内訳第2 破棄判決19件の一覧第3 破棄決定2件の一覧第4 判旨を読む際に分けたい三つの問題1 権限の有無と権限行使の相当性2 共通の事情と個別に確かめる事情3 破棄理由と最終的な事件の結論第5 出典・参考資料1 裁判例2 統計3 文献

各年度の記事と判例時報の掲載号は,最高裁民事破棄判決等の実情(平成元年度~令和7年度)―年度別記事と判例時報の掲載号の一覧から参照できる。

第1 対象資料と破棄件数
1 対象は令和6年中の裁判である

令和6年度の最高裁民事破棄判決等の年次論文が扱うのは,令和6年1月から12月までに言い渡された19件の破棄判決と2件の破棄決定である。
4月から翌年3月までの会計年度を集計したものではなく,行政事件及び労働事件も対象に含まれる。

基礎資料は,宮端謙一・一藤哲志「最高裁民事破棄判決等の実情―令和6年度―」(判例時報2629号,令和7年10月1日,5頁~31頁)である。
以下では,同論文の年度集計と裁判例の紹介を区別し,公表された裁判本文へのリンクを付して裁判日順に整理する。

2 19判決・2決定の内訳
(1) 差戻し・自判と破棄の根拠
区分破棄件数差戻し自判上告・上告受理事件の判決19件10件9件許可抗告事件の決定2件1件1件

年次論文によれば,19判決及び2決定はいずれも論旨を理由とする破棄であり,職権による破棄はなかった。
特別抗告事件の破棄決定もなかったとされている。

(2) 破棄割合と母数の違い

同論文は,重複を調整した上告・上告受理事件の既済件数3137件に対する19判決の割合を0.6%とする。
これは年度全体の集計値であり,特定の事件について上告が認められる確率を示すものではない。

許可抗告については,同論文の既済17件に対する2件の割合が11.8%である。
一方,司法統計年報の第2表から民事・行政の許可抗告既済件数を合算すると30件となるため,両資料の集計範囲を揃えずに同一の割合として比較することはできない。

第2 破棄判決19件の一覧

表の「差戻し」「自判」は年次論文の分類である。
一部の請求だけが破棄された裁判も含まれるため,具体的な事件の帰結は主文と併せて読むことになる。

裁判・事件番号主な論点分類最高裁令和6年1月30日第三小法廷判決(令和5年(行ヒ)第2号)海難事故の回避可能性と懲戒裁決差戻し最高裁令和6年3月12日第三小法廷判決(令和4年(受)第1041号,民集78巻1号1頁)消費者の共通義務確認訴訟と個別審理自判最高裁令和6年3月26日第三小法廷判決(令和4年(行ツ)第318号,同年(行ヒ)第360号,民集78巻1号99頁)同性の共同生活者と犯罪被害者遺族給付金差戻し最高裁令和6年4月16日第三小法廷判決(令和5年(受)第365号)業務日報の信用性と事業場外みなし労働時間制一部差戻し・一部棄却最高裁令和6年4月19日第二小法廷判決(令和4年(受)第1266号,民集78巻2号267頁)株券発行前の株式譲渡と株券交付請求差戻し最高裁令和6年4月26日第二小法廷判決(令和5年(受)第604号)職種限定合意と配置転換命令の権限差戻し最高裁令和6年6月21日第二小法廷判決(令和5年(受)第287号,民集78巻3号315頁)法的性別を女性へ変更した者に対する認知請求自判最高裁令和6年6月24日第一小法廷判決(令和4年(受)第1744号,民集78巻3号335頁)住宅供給公社の住宅と賃料減額請求差戻し最高裁令和6年6月27日第一小法廷判決(令和4年(行ヒ)第319号)飲酒運転による懲戒免職と退職手当の不支給自判最高裁令和6年7月3日大法廷判決(令和5年(オ)第1341号,同年(受)第1682号)旧優生保護法と国家賠償・除斥期間差戻し最高裁令和6年7月4日第一小法廷判決(令和5年(行ヒ)第108号,民集78巻3号662頁)労災保険給付支給決定に対する事業主の原告適格自判最高裁令和6年7月8日第一小法廷判決(令和4年(受)第1780号,民集78巻3号839頁)取締役の退職慰労金を減額する決議と裁量自判最高裁令和6年7月11日第一小法廷判決(令和4年(受)第2281号,民集78巻3号921頁)献金に関する不起訴合意と勧誘行為の違法性差戻し最高裁令和6年7月18日第一小法廷判決(令和4年(行ヒ)第373号,民集78巻3号1097頁)外国子会社合算税制における再保険事業自判最高裁令和6年9月13日第二小法廷判決(令和4年(行ヒ)第352号,第353号,民集78巻4号1219頁)年金制度一元化後の継続長期要件自判最高裁令和6年10月31日第一小法廷判決(令和5年(受)第906号)大学教員の任期と無期転換の10年特例差戻し最高裁令和6年11月12日第三小法廷判決(令和5年(行ヒ)第165号,民集78巻6号1377頁)兄弟姉妹の代襲相続と養子縁組前の子自判最高裁令和6年11月15日第二小法廷判決(令和6年(オ)第1287号)裁判体の構成と直接主義差戻し最高裁令和6年12月23日第二小法廷判決(令和5年(受)第1583号,民集78巻6号1445頁)SNS投稿後のログイン通信と発信者情報開示一部自判・一部棄却

11月15日の裁判の紹介は,年次論文の記載による。
年次論文末尾の一覧にある退職手当事件の事件番号及びSNS事件の民集号数については,裁判所の公表情報に従って上表に記載した。

年度を横断して探す場合は,最高裁の破棄判決等一覧表及び平成21年度以降の最高裁民事破棄判決の分析が参照先となる。

第3 破棄決定2件の一覧
裁判・事件番号主な論点分類最高裁令和6年10月16日第二小法廷決定(令和6年(許)第5号)刑事事件の記録についての文書提出命令自判最高裁令和6年10月23日第三小法廷決定(令和6年(許)第1号,民集78巻5号1頁)文化功労者年金を受ける権利の差押え差戻し

10月16日決定は,本件の取調べ記録媒体について,民事訴訟法231条による同法220条3号の準用と,刑事訴訟法47条による提出拒否の判断を扱ったものである。
刑事記録一般の公開や自由な利用を認めた決定と読むことはできない。

10月23日決定は,文化功労者年金を受ける権利が,その性質から当然に差押禁止になるとはいえないと判断した。

(続きを読む...)令和6年度最高裁民事破棄判決等の実情-19判決・2決定の一覧と判旨の読み方(AI作成)

令和5年度最高裁民事破棄判決等の実情-19判決・8決定の一覧と代表判例(AI作成)

目次

第1 対象資料と令和5年分の範囲第2 基礎件数と破棄率の分母1 上告・上告受理申立てと0.6%2 許可抗告35%と資料間の件数差3 差戻し・自判・訴訟終了の内訳第3 破棄判決19件の一覧第4 破棄決定8件の一覧第5 公式全文から読む代表9裁判1 手続の前提を誤った二つの裁判2 賃金の名称や割合で結論を決めない3 権利の時間軸と支払の性質を分ける4 行政裁量と国家賠償の審査対象5 土地一部の権利を全部の仮処分で保全できる場合第6 原資料と関連する記事への入口第7 出典・参考資料1 統計・データ2 裁判例3 文献
第1 対象資料と令和5年分の範囲

令和5年度の「最高裁民事破棄判決等の実情」が扱うのは,令和5年1月から12月までに最高裁判所がした民事の破棄判決19件と破棄決定8件である。
行政事件と労働事件も含まれており,「年度」という題名から4月始まりの会計年度と読むことはできない。

基礎資料は,川﨑直也・山本拓「最高裁民事破棄判決等の実情―令和5年度―」(判例時報2595号,令和6年8月11日号,5頁~30頁)である。
本記事は,AIを用いて,同資料の統計と全件一覧を整理し,代表9裁判について裁判所公表全文を基に判断の意味と限界を説明する。

年次解説は個々の裁判の原文ではなく,事件の所在と破棄理由を把握するための文献である。
以下の全件一覧は年次解説の記載に基づく索引であり,詳しい判例解説は公式全文へのリンクを付した9裁判に限っている。
資料確認の基準日は令和8年10月7日であるが,説明の対象は令和5年当時の裁判であり,現在の事件への適用には適用法とその後の改正・判例を区別する必要がある。

第2 基礎件数と破棄率の分母
1 上告・上告受理申立てと0.6%

年次解説5頁が示す上告と上告受理申立ての件数は,次のとおりである。
単純合計と,並行申立て等を調整した件数は別の数値である。

区分新受既済上告2369件2253件上告受理申立て2968件2804件単純合計5337件5057件年次解説の調整後件数3254件3111件

上告・上告受理の各件数は,裁判所の「令和5年司法統計年報1民事・行政編」第2表の民事と行政の各欄を足しても確認できる。
例えば,既済の上告は1903+350=2253件,上告受理は2430+374=2804件となる。

年次解説の破棄判決の割合0.6%は,19÷3111×100を小数第1位に丸めたものである。
本記事の再計算では約0.6107%となるが,19÷5057でも,19÷新受件数でもない。
分子は破棄判決の文書数であり,分母も調整後の既済件数であるため,特定の当事者や個別事件の上告成功率を表すものではない。

2 許可抗告35%と資料間の件数差

年次解説5頁は,許可抗告の新受22件,既済20件を示している。
破棄決定8件のうち許可抗告は7件,特別抗告は1件であり,年次解説の既済許可抗告に占める破棄決定の割合は7÷20×100=35%となる。
特別抗告を含む8件を分子にして40%とする計算は,対象を混ぜている。

一方,裁判所が掲載する令和7年9月16日更新版の司法統計年報第2表では,許可抗告は民事と行政を合わせて新受23件,既済21件であり,年次解説の数値と一致しない。
本記事では35%を年次解説の集計による数値として示し,異なる資料の分母へ置き換えない。
また,許可抗告として最高裁に係属した事件の内訳と,許可を求める申立て全体がどれだけ認められるかとは区別する必要がある。

3 差戻し・自判・訴訟終了の内訳

年次解説8頁による結果の内訳は,次のとおりである。
一部破棄を含む結果分類であり,併合事件や並行事件を事件番号の数だけ重ねて数えていない。

裁判の種類結果件数破棄判決差戻し3件破棄判決自判15件破棄判決訴訟終了宣言1件破棄決定差戻し4件破棄決定自判4件

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令和3年度最高裁民事破棄判決等の実情-25判決・8決定と統計の読み方(AI作成)

目次

第1 対象と結論第2 件数と割合をどう読むか1 原論文の集計2 事件統計年表との違い第3 破棄判決25件の一覧第4 破棄決定8件の一覧1 原論文が取り上げる決定2 月別の開示一覧との掲載範囲第5 個別裁判は主文まで読む1 人損・物損の時効-11月2日判決2 会計限定監査役-7月19日判決3 競売不動産の買受け-6月21日決定4 訴訟行為の排除-4月14日決定第6 関連記事第7 出典1 文献2 公的統計・開示資料3 裁判例4 改正法の案内
第1 対象と結論

宮﨑朋紀・大竹敬人「最高裁民事破棄判決等の実情-令和3年度-」が取り上げる破棄裁判は,判決25件と決定8件である。
対象は令和3年1月から12月までに言い渡された裁判であり,「年度」という表題でも4月から翌年3月までの集計ではない。
民事事件に加えて行政・労働事件を含み,複数の事件番号があっても,一つの裁判書にまとめられたものは1件として数えている。

同論文の破棄判決の割合は1.0%,許可抗告事件の破棄決定の割合は26.7%である。
ただし,事件統計年表には異なる既済件数が載っており,分母を置き換えると割合も変わる。
以下では,論文の件数,公的統計の登録事件数及び各裁判の主文を分けて整理する。

第2 件数と割合をどう読むか
1 原論文の集計
(1) 新受・既済と破棄件数

原論文が掲げる通常の上告事件と上告受理申立事件の新受件数は,それぞれ1944件と2437件である。
合計は4381件であるが,同じ原判決に対する並行申立てを1件に換算した数は2654件とされる。
これに対し,破棄率の分母は新受ではなく既済件数である。

区分原論文の既済件数破棄裁判と割合上告・上告受理申立て合計4178件,並行申立て換算後2529件判決25件,25÷2529≒1.0%許可抗告30件決定8件,8÷30≒26.7%

これらの割合は,最高裁で処理された事件の概況を示すものである。
個別事件の勝訴確率や,高等裁判所で許可抗告が許可される割合を示すものではなく,複数の当事者をそれぞれ成功者として数えた割合でもない。

(2) 差戻しと自判の重複

原論文による判決の処理は,差戻し12件,自判16件である。
両方の処理を含む判決が3件あるため,12+16-3=25となり,単純合計が28件になることは矛盾ではない。
決定は,差戻し1件,自判6件,その他1件と整理されている。

原論文によれば,判決・決定とも,当事者の論旨に基づく破棄であり,職権による破棄はなかった。
民集・裁判集民事への登載状況は,判決が12件・8件,決定が5件・1件であり,いずれにも登載されていないものは判決5件・決定2件である。
この登載区分と,裁判所ウェブサイトに本文が公開されているかどうかとは別の問題である。

2 事件統計年表との違い
(1) 判決の件数と既済件数

最高裁判所訟廷事務室作成の「令和3年度最高裁判所事件統計年表」は,速報値である。
第10表の破棄は,上告1件・上告受理29件の計30件であり,原論文の「25判決」とは計上単位が異なる。
複数事件を含む裁判書の数と,登録された事件の数をそのまま比較することはできない。

既済件数にも相違がある。

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強制執行停止の申立てが取り消された場合の損害賠償―最高裁令和7年9月9日判決(AI作成)

目次

第1 判決の結論

第2 事案の概要

第3 最高裁が示した理由

1 債権者の執行利益も法的に保護される
2 請求異議の訴えと執行停止の申立ては別である
3 相当な根拠の調査・検討義務

第4 過失の推定と反証

1 推定が働く場面
2 相当な事由による反証

第5 申立人・代理人側の提出前チェック

第6 債権者側の損害立証

第7 判決の射程

第8 関連記事

第9 出典及び確認状況

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令和7年度最高裁民事破棄判決等の実情―24判決・2決定から学ぶ原判決監査と差戻審実務(AI作成)

目次

第1 資料の範囲と結論

第2 基礎件数と「破棄率」の読み方

1 裁判所の司法統計で確認できる件数
2 換算後件数の注意点

第3 24判決・2決定の論点地図

第4 原判決を監査する8つの観点

1 実体論の前に手続と訴訟要件を監査する
2 理由・主文・計算表を相互に照合する
3 契約の表題より権利帰属と取引実体を先に確定する
4 予備的主張を一審から明示する
5 行政事件では審査対象と規範を固定する
6 処分の違法と国家賠償法上の違法を分ける
7 抽象的な評価を具体的事実へ戻す
8 旧法と現行法を枝分けする

第5 差戻審で作るべき事件カード

第6 資料の照合手順

第7 関連記事

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執行官に対する加害行為の防止と警察との連携―令和8年4月24日付け最高裁事務連絡,警察庁通知及び民事執行法6条の警察上の援助(AI作成)

目次第1 本記事の対象と資料1 対象とする文書2 契機となった事件第2 第三課長等事務連絡の内容1 裁判所の内部だけでは限界があるという認識2 警察署との連携の再確認3 都道府県警察本部との連携第3 警察庁通知の内容1 宛先と位置付け2 求められた対応第4 民事局参事官事務連絡の具体的取組1 庁として警察本部と連携する2 連携の具体的な内容3 監督官・監督補佐官による現場の実情把握4 警察上の援助要請の実情の把握5 今後の実施状況の照会第5 別添資料と民事執行法上の権限1 別添資料が説明する執行官の職務2 威力の使用と警察上の援助3 警察上の援助を受けるときの立会人4 建物明渡しの手続との関係第6 刑法による保護1 公務執行妨害罪2 強制執行行為妨害等3 執行補助者に対する暴行と裁判例4 事後の処罰と事前の備え第7 債権者側の代理人弁護士が確認しておくこと1 援助要請は執行官が判断する2 執行官に伝えておく事項3 現場に出向く関係者の安全第8 関連記事第9 出典1 提供資料2 法令及び規則3 裁判例4 公的資料5 報道
第1 本記事の対象と資料
1 対象とする文書

本記事は,本ブログに掲載した「加害行為の防止に関する警察との連携等について(令和8年4月24日付の最高裁民事局第三課長及び総務局参事官の事務連絡)」(PDF7頁)の内容を整理し,民事執行法6条の警察上の援助,執行官規則による監督及び刑法上の保護と併せて,強制執行の現場の安全確保を説明するものである。
基準日は令和8年10月6日であり,条文は同日にe-Gov法令検索で確認した。

このPDFには,表題の事務連絡だけでなく,次の4点の文書が綴じられている。
①最高裁判所事務総局民事局第三課長及び総務局参事官から地方裁判所事務局長宛ての事務連絡「加害行為の防止に関する警察との連携等について」(令和8年4月24日。PDF1頁~2頁)
②その別添として,警察庁生活安全局生活安全企画課長,警察庁長官官房参事官(教養・厚生・国際担当)及び警察庁刑事局組織犯罪対策部組織犯罪対策第一課長から警視庁の各部長及び各道府県警察本部長宛ての通知「民事執行法(昭和54年法律第4号)に基づいた執行官の職務の執行に関する裁判所との連携について」(警察庁丁生企発第242号,丁参人発第298号,丁組一発第315号,令和8年4月24日。PDF3頁)
③最高裁判所事務総局民事局参事官から地方裁判所(民事)首席書記官宛ての事務連絡「加害行為の防止に関する警察との連携等における具体的取組について」(令和8年4月24日。PDF4頁~6頁)
④③の別添資料「執行官の職務について」(○○地方裁判所名義の1枚もの。PDF7頁)

①と③の各頁には機密性2の表示があり,②には原議保存期間を1年(令和10年3月31日まで)とする表示がある。
以下では,①を「第三課長等事務連絡」,②を「警察庁通知」,③を「民事局参事官事務連絡」,④を「別添資料」と呼ぶ。

2 契機となった事件

警察庁通知は,「本年1月15日」に,民事執行法に基づく執行官の職務の執行に際して,執行官等が関係者に刃物で刺される事案が発生したことを受けて,裁判所から事務連絡が発出されたと記載している。
第三課長等事務連絡も,執行の現場において債務者の加害行為により執行官及び関係者が死傷する事案が発生したと記載している。

時事通信の令和8年1月15日付け配信記事によれば,同日午前10時頃,東京都杉並区のアパートで家賃滞納による住宅明渡しの強制執行のため訪問した東京地方裁判所の執行官と保証会社の社員が包丁で刺され,保証会社の社員が死亡し,住人の男が殺人未遂の疑いで現行犯逮捕された。
共同通信の同年4月27日付け配信記事は,最高裁判所が全国の地方裁判所に対し,再発防止に向けて各地の警察本部と協議を行うなど連携強化を求める事務連絡を出したと報じている。
刑事事件の帰すうは本記事の対象外であり,報道を超える事実関係及び刑事責任は確定したものとして扱わない。

第2 第三課長等事務連絡の内容
1 裁判所の内部だけでは限界があるという認識

第三課長等事務連絡は,公務遂行に対する加害行為を防止し,裁判所の職員や利用者,関係者らの安全を確保するためには,まず裁判所内部で関係職員間の意思疎通を十分に図り,有効な対策を講じる必要があるとする。
その上で,裁判所の内部だけの対応では限界があり,特に執行の現場のような庁舎外での公務遂行の場面における安全の確保については,警察との連携が重要であると述べている。

2 警察署との連携の再確認

同事務連絡は,これまでも各庁が,対応する警察署との間で連絡態勢の整備,関連する情報の交換,訓練の実施等を通じて連携を図ってきたものと承知しているとした上で,この機会に警察署との連携の重要性を改めて確認し,加害行為の防止及び職員や利用者,関係者らの安全確保に特段の配慮をするよう求めている。

3 都道府県警察本部との連携

同事務連絡の中心は,連携の相手方を広げた点にある。
これまでは,主に裁判所敷地内での加害行為を念頭に,裁判所庁舎所在地を所轄する警察署との連携が中心であったと考えられるが,執行の現場のような庁舎外での公務遂行では,緊急事態が当該警察署の管外で生じ得る。
そこで同事務連絡は,各庁に対し,対応する都道府県警察本部との間でも打合せや協議を行うなどして連携を図るよう求めている。
また,同事務連絡は警察庁と協議済みであり,警察庁からも都道府県警察に対して別添の通知(警察庁通知)が送付されると記載している。

裁判所の敷地内での加害行為については,最高裁判所事務総局総務局参事官の平成28年8月23日付け事務連絡「裁判所の敷地内において加害行為が発生した際の留意点について」が既にある。

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AIによる準備書面の最終査読―6観点の点検と依頼者向け報告書の作り方(AI作成)

目次第1 最終査読の目的と対象版1 ファイル名だけで版を決めない2 整理資料から原資料へ戻る3 結論までのつながりを点検する第2 6観点の点検1 用紙サイズと判読性2 書証・従前書面の特定と引用3 内部矛盾と帰属4 数値・計算5 見出し・目次・表記・書式6 判例の実在・引用内容・適用範囲第3 指摘表と「問題なし」の書き方1 同じ原因をまとめても出現箇所を消さない2 分母・手法・未確認範囲を残す第4 依頼者向け報告書と内部記録1 内容面を先に説明する2 内部メモと更新工程を分ける第5 出典・関連する確認手順
第1 最終査読の目的と対象版

準備書面の最終査読では,主張の筋道が伝わることと,引用・計算・提出形式が正確であることを別々に確かめる必要がある。
AIを利用する場合も,担当弁護士が採用した主張を前提に,誤りと未確認事項を発見する工程として設計する。
以下の6観点,指摘表及び報告書の構成は,確認漏れを減らすための運用提案であり,その分け方自体が法令上の義務という趣旨ではない。

最終査読を,新たな起案,証拠採否の決定,又は争点整理ノートの更新と同時に行わせると,点検中に対象自体が変わりやすい。
確認する工程と,指摘を採用して修正する工程を分ける。
AIに専門家や裁判官の視点を指定しても,資格者の査読又は実際の裁判官の判断を受けたことにはならない。

1 ファイル名だけで版を決めない

準備書面,証拠説明書,別紙及び提出予定書証について,所在,ファイル名,確認時の更新日時,頁数,変更履歴の有無を記録する。
同じ名前のまま編集されることもあるため,必要に応じてSHA-256等のハッシュ値を残す。
ハッシュ値はファイルの同一性の手掛かりであり,内容の正しさ又は提出済みの状態を証明しない。
確認日は,法令適用の基準日や提出期限の代わりにはならない。

2 整理資料から原資料へ戻る

争点整理ノート,資料目録及び既存点検表は,原資料を探す索引として利用できる。
引用文,数値及び重要な事実については,実際の書証や従前書面へ戻る。
原資料とノートが食い違う場合は,双方の記載と根拠を残し,推測で統一しない。

最終版から引用元へ戻る確認に加え,記録側から,重要事実,抗弁,反対証拠及び回答すべき争点が最終版に残っているかを確認する。
引用が一致していても,取り上げるべき争点自体を落とした場合は,引用照合だけでは検出できない。
担当弁護士が争点・重要資料を指定し,実質的な採否判断と形式・引用の点検を分けて結果を対応させる。

資料は,①提出済み,②担当弁護士が使用・提出予定を採用した未提出資料,③採否未決の候補,④提出状況不明に分ける。
日付や号証らしいファイル名だけで提出済みと扱わない。
未提出資料に基づく主張が直ちに不適切となるわけではないが,取調べ済みであるかのような記載,内部の仮番号又は未採用候補の混入を点検する。
読めなかった資料の範囲を「問題なし」に含めない。

3 結論までのつながりを点検する

以下の6観点を横断する確認として,「結論―必要な前提―根拠資料―そこからの推論」を一つずつ対応させる方法を提案する。
引用した文が原資料と一致していても,その文から書面の結論まで導けるかは,別の確認である。
これは第7の点検項目を増やす趣旨ではなく,6観点の結果を結論へつなぐための確認方法である。

次は,特定事件の事実や法律上の証明水準を示すものではなく,説明の飛躍を点検するための架空例である。
「資料Aに商品を発送した記録がある。したがって,相手方が商品を受領した事実は確認済みである。」と書く場合,発送と受領の間に必要な事情が示されているかを確かめる。

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Wordの変更履歴で法律文書を添削する方法―承諾後・却下後の照合と版管理(AI作成)

目次第1 添削モードで何を残すか第2 原本と基準本文を保全する1 編集する版を決める2 以前から履歴がある場合の基準第3 記録と表示,本文と書式を分ける1 履歴を非表示にしても消えない2 採用済みの主張と書式を尊重する第4 承諾後・却下後の全文を照合する1 二つの検証用コピーを作る2 期待本文と基準本文を比較する3 Wordの比較機能を併用する第5 完成版と関連書面を読み直す1 頁割り・目次・出力結果2 証拠説明書と報告書への反映第6 コメント・隠し情報と外部提供用コピー第7 出典
第1 添削モードで何を残すか

法律文書の添削では,完成後の本文に加え,どの箇所を何の理由で変えたかを確認できることが重要である。
Wordの変更履歴はそのための機能であるが,履歴を付けただけで修正範囲の正しさや復元可能性が保証されるわけではない。
本記事は,Windowsのデスクトップ版Wordの公式説明を踏まえた運用提案であり,メニュー名や機能は版・言語・利用環境で確認する必要がある。

第2 原本と基準本文を保全する
1 編集する版を決める

編集前に原本のコピーを保存し,ファイル名,所在,更新日時及び必要に応じてSHA-256等のハッシュ値を記録する。
原本を直接編集する指示がある場合も先に退避版を確保する。
同じファイル名でも内容が変わるため,版番号だけで同一性を決めない。

履歴付きのレビュー版と,担当者が承認した完成版を区別する。
修正前・修正後,理由,原資料及び判断事項を対応させた指摘表を付けると,承諾対象が明確になる。
証拠採否,認否,請求内容又は推認の強さを変える修正は,表記修正とは分けて判断する。

2 以前から履歴がある場合の基準

受領時点で履歴やコメントがある場合は,誰のどの変更が未確定かを確認する。
今回分と以前の変更を区別せず「すべて元に戻す」を実行すると,以前の変更まで取り消される。
そのため,添削前に画面で読んでいた本文と全履歴を元に戻した本文が違っていても,直ちに今回の添削ミスとは限らない。

担当者と基準を決め,既存履歴を保持する原本とは別に,比較用コピーで状態を固定する。
今回分を元に戻した状態が,定義した添削前の基準本文と一致するかを照合する。
今回分を判別できない場合は,履歴全体の状態も比較し,確認の限界を記録する。

第3 記録と表示,本文と書式を分ける
1 履歴を非表示にしても消えない

Microsoftの変更履歴の説明によれば,記録を有効にして変更を追跡し,挿入・削除や書式の表示を選択できる。
「変更履歴なし」や「オリジナル」の表示で隠しても,未処理の変更やコメントは文書内に残る。
表示の切替えを,承諾,元に戻す操作又は削除と混同しない。

開始時に記録が有効であることを確認し,必要な本文・書式変更が履歴に残るかを小さい変更で確かめる。
校閲者や変更種類の表示を絞っていると履歴が見えないことがあるため,レビュー時の表示設定も確認する。
履歴の作成者表示や時刻だけを本人の承認の証拠として扱わない。

2 採用済みの主張と書式を尊重する

引用内は原資料の句読点,数字及び送り仮名を尊重する。

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社会福祉法人の解散命令と執行停止―清算法人の存続と事業基盤の喪失を疎明する方法(AI作成)

目次第1 解散命令を受けた法人が最初に確認すること第2 解散と法人格の消滅を分けて考える1 清算の目的の範囲で法人はなお存続する2 何の停止を求めるかを特定する第3 重大な損害を三つの判断要素に対応させる1 損害の回復の困難の程度2 損害の性質及び程度3 処分の内容及び性質第4 契約・信用の喪失について参考となる裁判例第5 緊急の必要と停止した場合の影響を別に説明する1 損害が進む日程と疎明資料をそろえる2 公共の福祉と本案の見通し第6 出典及び関連記事
第1 解散命令を受けた法人が最初に確認すること

社会福祉法人が解散命令の取消訴訟を提起しても,そのことだけで処分の効力は止まらない。
事業基盤が本案判決までに失われるおそれがある場合には,取消訴訟と併せて行政事件訴訟法25条の執行停止を検討する必要がある。

受任直後は,処分書の名宛人,理由,到達日及び効力発生日を確認し,清算,利用者の移転,雇用及び契約関係について,いつ何が変わるかを整理する。
損害額の集計とともに,勝訴後も同じ事業を再開しにくくなる原因と,その変化が進む日程を把握することが重要である。

第2 解散と法人格の消滅を分けて考える
1 清算の目的の範囲で法人はなお存続する

社会福祉法46条1項6号は,所轄庁の解散命令を解散事由とする。
同法46条の3第1項は解散した社会福祉法人の清算を定め,同法46条の4は,解散した法人が清算の目的の範囲内で,清算結了までなお存続すると定める。

したがって,解散命令と同時に法人格が消滅したと説明するのは正確でない。
執行停止の申立てでは,清算のために法人が存続することと,従前の事業を継続するための法的地位や基盤に生じる影響を区別して示す。
許認可・指定,委託,補助金又は個々の契約への影響は,それぞれの根拠法令,条件及び契約条項を確認する必要がある。

2 何の停止を求めるかを特定する

行政事件訴訟法25条2項は,処分の効力,処分の執行又は手続の続行の全部又は一部の停止を定める。
同項ただし書により,効力停止は,執行又は手続の続行の停止で目的を達成できる場合には認められない。

解散による法的地位の変化が損害の原因となる場合には,清算の個々の行為を止めるだけで目的を達成できるかを検討する。
申立書には,止めたい法律上の効果と,その停止によって避けられる損害を対応させる。
別の処分や契約上の措置も問題となる場合には,解散命令の効力停止がそれらに及ぼす影響を個別に確認する。

第3 重大な損害を三つの判断要素に対応させる
1 損害の回復の困難の程度

行政事件訴訟法25条3項は,損害の回復の困難の程度を考慮すると定める。
法人については,取消判決後に施設,人員,利用者との契約,取引先との関係又は信用をどの程度回復できるかを説明する。

① 移転先での利用関係が定着し,元の施設へ戻ることが難しくなるか。
② 必要な職員が退職した場合に,配置の回復にどの程度の期間を要するか。
③ 契約が終了し,施設や設備が処分された場合に,同じ条件で再取得できるか。

これらは確認事項であり,移転,退職又は契約終了が必ず生じるという意味ではない。
通知書,契約書,相手方の回答及び再取得・再採用の見込みを示す資料によって,予測の根拠を具体化する。

2 損害の性質及び程度

同項は,損害の性質及び程度も勘案すると定める。

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補助参加と後訴の判決効―援用する人・相手・判断内容・手続保障の確認(AI作成)

目次第1 後の訴訟では「誰が誰に何を援用するか」を先に決める第2 既判力と参加的効力を分ける1 補助参加したことだけで既判力が及ぶとはいえない2 参加的効力は理由中の判断にも及ぶが,限界がある第3 援用の方向が変わると,追加の論証が要る1 被参加人から補助参加人への援用2 補助参加人から被参加人への援用3 前の訴訟の相手方と補助参加人との関係第4 46条の例外は,訴訟の経過と結び付けて確認する第5 訴訟告知をした場合も,参加の利益と判断の範囲を確認する第6 後の訴訟の準備書面に落とし込む確認手順第7 出典
第1 後の訴訟では「誰が誰に何を援用するか」を先に決める

補助参加をした訴訟の判決が確定しても,その判決のすべての判断を,関係者の誰にでも援用できるわけではない。
後の訴訟で判決を使うときは,①援用する人,②援用される相手,③拘束を求める判断,④その判断を争う機会の有無を,順に確認する必要がある。
この順序を守ると,既判力,参加的効力,判決書の証拠としての利用を混同しにくくなる。

本記事は,通常の補助参加を対象として,民事訴訟法46条による参加的効力と,補助参加人から被参加人に対する援用が問題になる場合の確認手順を扱う。
調査基準日は令和8年10月4日であり,民事訴訟法は同日時点の施行中の条文を確認した。
共同訴訟的補助参加その他の特別な判決効については,それぞれの制度と条文による検討が必要である。

第2 既判力と参加的効力を分ける
1 補助参加したことだけで既判力が及ぶとはいえない

民事訴訟法114条1項は,確定判決の既判力を,主文に包含するものに限って認めている。
相殺のために主張した請求については,同条2項の特則がある。
誰に効力が及ぶかは,同法115条などの規定によって確認する。
補助参加人は,補助参加したという理由だけで115条1項1号の当事者になるわけではなく,参加的効力とは別に検討する必要がある。

2 参加的効力は理由中の判断にも及ぶが,限界がある

最高裁昭和45年10月22日判決の原文は,旧民事訴訟法70条の効力を,既判力とは異なる特殊な効力とし,判決確定後に補助参加人が被参加人に対して判決の不当を主張することを禁ずるものと説明している。
同判決は,補助参加人が協力し,又は協力し得たのに被参加人が敗訴した場合に,敗訴の責任を分担させることが衡平にかなうという理由を示す。
その効力は,主文だけでなく,その前提となる理由中の事実認定や先決的権利関係の判断にも及ぶ。

最高裁平成14年1月22日判決の原文は,理由中の判断の範囲を,主文を導き出すために必要な主要事実に係る認定及び法律判断などに限っている。
判決の結論に影響しない傍論まで拘束力を持つわけではない。
判決書の一文を取り出す前に,その判断が主文へ至る過程でどの役割を果たしたかを確認する。

第3 援用の方向が変わると,追加の論証が要る
1 被参加人から補助参加人への援用

民事訴訟法46条の柱書は,例外に当たる場合を除いて,裁判が補助参加人に対しても効力を有するという構造である。
昭和45年判決が示したのは,被参加人との後の訴訟で,補助参加人が前の判決の不当を主張できなくなるという効力である。
この方向で援用するときも,対象となる判断の範囲と,46条各号の例外を確認しなければならない。

2 補助参加人から被参加人への援用

補助参加人の側が,被参加人との後の訴訟で前の判決を援用する場合は,条文が想定する通常の方向と逆になる。
昭和45年判決を引用しただけで,この逆方向の援用まで当然に認められると説明することはできない。

令和5年司法試験の採点実感の民事系第3問・設問3課題2は,この逆方向の援用を検討対象とし,参加的効力の根拠と46条の文言の双方を踏まえて結論を論証することを求めている(22~23頁)。

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確定判決の後に取消し・相殺・解除・建物買取請求をして争い直せるか―基準時後の形成権行使と既判力に関する最高裁判例5件(AI作成)

目次第1 この記事の結論第2 既判力の基準時と遮断の仕組み1 既判力は基準時の判断に生じる2 条文上の手掛かり3 なぜ遮断されるのか第3 最高裁判例5件1 取消権:基準時後に行使しても争えない(最高裁昭和55年10月23日判決)2 白地手形の補充権:特段の事情がない限り争えない(最高裁昭和57年3月30日判決)3 相殺:口頭弁論終結後の相殺は請求異議の事由になる(最高裁昭和40年4月2日判決)4 建物買取請求権:判決確定後に行使して請求異議で主張できる(最高裁平成7年12月15日判決)5 別の取得原因:前の訴訟で主張しなかった相続も争えない(最高裁平成9年3月14日判決)6 5件の整理第4 解除権と,判決確定後に初めて分かった事実1 解除権について判例は見当たらない2 基準時後に生じた解除原因は別である3 期待可能性説とその限界4 使用貸借の明渡請求で敗訴した場合第5 実務での対応1 前の訴訟の段階で行うこと2 判決確定後に相談を受けたときの確認手順3 勝訴した側の対応第6 関連記事第7 出典1 法令2 判例3 公的資料
第1 この記事の結論

民事訴訟で判決が確定した後に,相手方に対する取消し,相殺,解除,建物買取請求等の意思表示をして,判決の結論を争い直したいという相談がある。
本記事は,この場面について,最高裁判所の判例5件を判決原文で確認し,実務上の確認事項を整理したものである。

結論は,次のとおりである。
①確定判決の既判力は,事実審の口頭弁論終結時(基準時)の権利関係についての判断に生じ,基準時より前に存在した事由に基づいてその判断を争う主張は,後の訴訟では原則として許されない。
②基準時の後に意思表示をしても,それだけでは「基準時後の事由」にならない。
判例は,取消権と白地手形の補充権については後の主張を許さず,相殺と借地上の建物の買取請求については請求異議の事由として主張できるとしている。
③前の訴訟で主張しなかった別の取得原因(相続による共有持分の取得等)を後の訴訟で主張することも,既判力に抵触するとされている。
④基準時前から存在した解除原因に基づく解除を判決確定後に主張できるかを正面から判断した最高裁判例は,裁判所ウェブサイトの裁判例検索では見当たらなかった。
⑤前の訴訟で主張することがおよそ期待できなかった事由には既判力による遮断が及ばないとする見解(期待可能性説)があるが,強い批判もあり,これに頼ることを前提に訴訟を組み立てるのは危険である。
⑥したがって,前の訴訟の段階で,取消し・解除・相殺等の原因を全部調べ,必要なものは予備的にでも主張しておくことが最も確実な対応である。

第2 既判力の基準時と遮断の仕組み
1 既判力は基準時の判断に生じる

確定判決は,主文に包含するものに限り,既判力を有する(民事訴訟法114条1項)。
給付訴訟や確認訴訟の判決の主文は,事実審の口頭弁論終結時における権利関係の存否を判断したものと理解されている。
当事者が攻撃防御の資料を提出できるのは口頭弁論の終結時までだからである。

既判力は,後の訴訟の裁判所が,基準時の権利関係について前の判決の判断を前提にしなければならないという形で働く。
その結果として,当事者が基準時より前に存在した事由を持ち出して前の判断と矛盾する主張をしても,その主張は排斥される。
これが,いわゆる既判力の遮断効である。

2 条文上の手掛かり

民事執行法35条2項は,確定判決についての請求異議の事由は「口頭弁論の終結後に生じたものに限る」と定めている。
確定判決に基づく強制執行を止めようとする債務者は,基準時より前の事由を請求異議の訴えで主張できないことになる。
確定判決の効力が及ぶ人の範囲は,当事者,当事者が他人のために原告又は被告となった場合のその他人,口頭弁論終結後の承継人等である(民事訴訟法115条1項)。

3 なぜ遮断されるのか

遮断の根拠は,二つの面から説明されている。
一つは,確定判決による紛争の解決を蒸し返させず,勝訴した当事者の地位と法的安定を守るという制度的な面である。
もう一つは,前の訴訟で主張立証の機会が与えられていたのに,これを使わなかった以上,その結果は自分の責任として引き受けるべきだという面である。

この二つは,第4の3で触れる期待可能性説をどう評価するかに関わる。

第3 最高裁判例5件

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判例を実務に使うための読み方―結論・理由・事実・射程を分け,原文で確かめる手順(AI作成)

目次第1 資料の役割を分けて読む1 研究者の回想から得られる学習の手掛かり2 学説の説明と判決の判断を区別する第2 判例を読む順序1 事件と請求を特定する2 事実・理由・主文を往復する3 自分の事件との共通点と相違点を示す第3 背信的悪意者からの転得者の判決で確かめる1 第二買主と転得者の関係を分ける2 破棄差戻しを最終的な勝訴と読まない3 認識という言葉の対象を明らかにする第4 原文確認と確認状況の記録1 公開検索で見つからないことと不存在を区別する2 判例秘書などの本文と公式公開資料を照合する3 図と確認メモを更新する第5 出典と関連記事

判例を相談,交渉又は準備書面に使うときは,結論だけでなく,どの請求について,どの事実を前提に,どの理由で判断したかを確認する必要がある。
本記事は,公開された法学研究者の回想を学習方法の手掛かりとし,裁判所が公開する判決を使って,原文の確認と事案の比較の手順を整理する。

第1 資料の役割を分けて読む
1 研究者の回想から得られる学習の手掛かり

松岡久和教授オーラルヒストリーは,立命館法学2025年5・6号に掲載された公開資料である。
授業で得た説明を自分の言葉で整理し,具体的な問題について議論し,疑問を調べ直す経験や,同じ結論でも裁判の理由が異なることに着目した研究の経緯が語られている(PDF6頁及び11~12頁)。

この経験から,判例を読んだ後に,自分で法律関係を図にし,結論が変わる条件を問い直すという学習方法を考えられる。
これは本記事の実務上の提案であり,回想だけで学習効果が実証されたわけではない。

2 学説の説明と判決の判断を区別する

研究者が判例の理由を批判し,又は別の理論で説明できると述べていても,その理論を裁判所が採用したことにはならない。
判決を引用する際は,裁判所自身が述べた理由と,評釈者が示した理解を別々に記録する。

裁判所の判決原文,法令の公式条文及び立法過程の公式資料には,それぞれ確認できる対象がある。
判決原文は当該事件の判断を確認する資料であり,議事録は発言や審議の経緯を確認する資料である。
議事録に提案が載っているというだけで,提案が現行法になったと扱わない。

第2 判例を読む順序
1 事件と請求を特定する

最初に,裁判所,裁判年月日,事件番号及び事件名を記録する。
同日の別事件や,下級審と上級審を取り違えないようにする。

次に,当事者が何を請求し,原審がどの請求を認め,上級審がどの部分を維持又は変更したかを確認する。
登記請求,明渡請求及び損害賠償請求などが一つの判決に含まれる場合は,請求ごとに主文と理由を対応させる。

2 事実・理由・主文を往復する

事実関係では,裁判所の認定した事実,当事者の主張及びまだ判断されていない事項を分ける。
契約,支払,占有,登記及び各人の認識を時系列に並べると,どの事実が法律上の要件に関係するかを確かめやすい。

理由では,一般的な判断基準と,当該事件への当てはめを分けて読む。
その上で主文に戻り,理由中の判断が,請求の認容,棄却又は差戻しのどれにつながったかを確認する。

3 自分の事件との共通点と相違点を示す

判例の射程とは,その判断をどの範囲の事案に使えるかという問題である。
似た用語が出てくるというだけで結論を移さず,請求の根拠,権利取得の順序,登記の有無,認識の対象及び判断の相手方を比べる。

準備書面では,判例の判断を示した後に,本件で共通する事実と,結論を左右し得る相違点を書く。

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賃料債権への物上代位と相殺―抵当権設定登記,差押え及び担保不動産収益執行(AI作成)

目次第1 賃料の差押えでは,抵当権設定登記の時期も確認する1 通常の差押えとの違い2 登記,取得,差押え,賃料の対象期間を並べる第2 物上代位による賃料差押えと相殺1 登記後取得債権と将来賃料2 差押え前に直ちに相殺する合意をした場合第3 令和5年判決では,反対債権への充当も重要だった1 登記前の貸金と登記後の保証債権2 現在の事件では適用法と充当合意を確認する第4 担保不動産収益執行では賃料債権は誰に帰属するか1 管理人に移るのは管理収益権である2 登記前に取得した保証金返還債権第5 相談時の資料と関連する問題第6 出典
第1 賃料の差押えでは,抵当権設定登記の時期も確認する
1 通常の差押えとの違い

賃借人Bが賃貸人Aに対して貸金債権などを持ち,賃料と相殺したいと考えているところ,抵当権者Cから物上代位に基づく賃料債権の差押えを受けた場合が,本記事の対象である。
通常の債権差押えに関する民法511条の説明だけでは,結論を出せない。
抵当権者との関係では,賃料を差し押さえられた時だけでなく,Bの反対債権を取得した時と抵当権設定登記の先後が重要になる。

民法372条・304条に基づく物上代位と,民法371条及び民事執行法180条・188条に関係する担保不動産収益執行は,区別して検討する。
本記事は令和8年10月3日時点の法令と,裁判所公開全文を確認した平成21年7月3日・令和5年11月27日判決を中心に整理する。

2 登記,取得,差押え,賃料の対象期間を並べる

①抵当権・根抵当権の設定登記日
②賃借人の反対債権の取得日と発生原因
③物上代位による差押命令の送達日,又は収益執行開始決定の効力発生時
④相殺の意思表示・相殺合意の時
⑤相殺対象とされた各月の賃料の対象期間と弁済期

とりわけ,差押え後の期間に対応する将来賃料と,差押え前の期間に対応する賃料を一括して扱わない。
複数の反対債権がある場合は,どの債権から相殺・弁済の充当をしたかも,結論を左右する。

第2 物上代位による賃料差押えと相殺
1 登記後取得債権と将来賃料

最高裁令和5年11月27日第二小法廷判決(令和3年(受)第1620号,民集77巻8号2188頁)は,抵当権設定登記後に取得した賃貸人に対する債権と,物上代位による差押え後の期間に対応する賃料債権との相殺を扱った。
同判決は,物上代位によって抵当権の効力が賃料債権に及ぶことが,設定登記によって公示されていると説明する。
そのため,登記後取得債権と将来賃料を相殺するという賃借人の期待を,抵当権の効力に優先させて保護することはできないとした。

同判決が先例として参照する最高裁平成13年3月13日第三小法廷判決(平成11年(受)第1345号,民集55巻2号363頁)についても,令和5年判決の理由中で,登記後取得債権による相殺と,あらかじめ相殺適状になる都度相殺する旨の合意をした場合の扱いが確認されている。
本記事でこの先例に触れる部分は,確認した令和5年判決本文の引用・説明によるものである。

2 差押え前に直ちに相殺する合意をした場合

令和5年判決では,賃借人と賃貸人が,差押え前に,登記後取得債権と将来賃料を直ちに相殺する旨の合意をしていた。
最高裁は,このような合意でも,将来賃料を相殺対象にする状態を作り出して差押え前に清算したというだけで,抵当権者への対抗を認めればその利益を不当に害するとし,対抗を認めなかった。
「差押え前に相殺契約を済ませたから安全」という説明は,本判決の対象となる場面では成り立たない。

ただし,同判決を,「登記後はすべての賃料の相殺が禁止される」と読み替えてはならない。
判決が問題としたのは,登記後取得債権と,差押え後の期間に対応する将来賃料との相殺合意である。
各月の賃料がどの期間に対応するか,差押え前の清算の対象は何かを特定する必要がある。

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差し押さえられた債権と相殺できるか―民法511条,債権取得時と弁済期(AI作成)

目次第1 差押命令が届いても,相殺が一律に禁止されるわけではない1 誰の債権と誰の債務を相殺するのか2 結論を分ける確認表第2 差押えの時と相殺適状の時を区別する1 差押えの基準時2 差押え前の相殺適状は必須ではない第3 差押え後に取得した債権と民法511条2項1 債権の発生時と原因の時は一致するとは限らない2 債権譲渡・倒産の規定とは別に検討する第4 相殺の意思表示,金額及び経過措置1 意思表示と計算書を残す2 令和2年4月1日前の原因がある場合第5 相談・訴訟で準備する資料第6 出典
第1 差押命令が届いても,相殺が一律に禁止されるわけではない
1 誰の債権と誰の債務を相殺するのか

取引先Aに100万円を支払う義務があるBに,Aの債権者Cが申し立てた債権差押命令が届いたとする。
BがAに対して有する反対債権を使って支払義務を消滅させるのが,ここで扱う相殺である。
Bを第三債務者,Cを差押債権者といい,BのAに対する債権が自働債権,差し押さえられたAのBに対する債権が受働債権となる。

現行の民法511条は,差押え前に取得した債権による相殺を差押債権者に対抗できることを明示している。
差押え後に取得した債権でも,同条2項の要件を満たせば対抗できる。
ただし,反対債権があることと,現時点で相殺できることは別であり,弁済期その他の相殺要件も確認する。
本記事は令和8年10月3日時点の法令及び下記の裁判所公開判決を基準とする。

2 結論を分ける確認表
反対債権の取得・原因差押債権者への対抗根拠・注意点差押え前に取得した相殺の要件を満たせば可能民法511条1項。両債権の弁済期の先後だけで排除されない差押え後に取得したが,差押え前の原因に基づく同条2項により可能となり得る原因の内容・時期の立証が必要差押え後に他人の債権を取得した同条2項による保護はない原債権の発生が古いというだけでは足りない差押え後の新たな原因に基づいて取得した原則として対抗できない当事者間で清算できるかとCに対抗できるかを区別する

この表は通常の債権差押えについての整理である。
抵当権者の物上代位による賃料差押えでは,抵当権設定登記との先後が問題となるため,賃料債権への物上代位と相殺を併せて参照されたい。

第2 差押えの時と相殺適状の時を区別する
1 差押えの基準時

債権執行では,差押命令が第三債務者に送達された時に差押えの効力が生ずる(民事執行法145条5項)。
申立日や裁判所が命令を発した日と,Bに送達された日を取り違えない。
送達された命令の対象債権,金額,期間も確認し,対象外の債務と一括して扱わない。

2 差押え前の相殺適状は必須ではない

最高裁昭和45年6月24日大法廷判決(昭和39年(オ)第155号,民集24巻6号587頁)は,差押え前に取得した反対債権について,自働債権と受働債権の弁済期の前後を問わず,相殺適状に達すれば差押え後にも相殺できるとした。
同判決は,弁済期の先後を重視していた昭和39年12月23日大法廷判決の見解を,判示した限度で変更している。
したがって,「差押え時点で両債権の弁済期が到来していなければ相殺できない」という説明は正確ではない。

一方,自働債権の弁済期が未到来で,相殺適状にもない段階で,反対債権の存在だけを理由に支払を拒めるわけではない。
昭和45年判決でも,相殺適状に達することが前提となっている。
借入金の期限の利益喪失条項がある場合は,条項の文言,喪失事由の発生,通知の要否と到達を確認する。

第3 差押え後に取得した債権と民法511条2項
1 債権の発生時と原因の時は一致するとは限らない

民法511条2項は,差押え後に現実の債権を取得した場合でも,差押え前の原因に基づいて生じたものであれば,その債権による相殺を差押債権者に対抗できるとする。
契約書の作成日だけで結論を出さず,どの契約条項・法律関係から,どの事実を経て反対債権が発生したのかを示す必要がある。

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当事者照会の作り方と不回答への対応―質問の特定・拒絶理由・求釈明・提出命令(AI作成)

目次第1 当事者照会で何を明らかにするか1 本記事の対象と基準日2 先に争点と不足情報を整理する第2 照会できる事項とできない事項1 163条1項の六つの除外事由2 秘密を含むときの検討第3 照会書の記載事項と質問の例1 書面で照会するときの基本事項2 送信の有無が争点となる場合の仮例3 調査報告書を識別するための質問の例第4 電子メールでの照会・回答1 照会する側の承諾確認2 回答方法の選択と電子回答の承諾第5 照会を受けた側の回答と拒絶理由1 回答書を項目に対応させる2 回答拒絶は条項と理由を具体化する第6 不回答又は不十分な回答の後に検討すること1 質問と拒絶理由を見直す2 求釈明と既存記録の取得へつなげる第7 制度改正の議論との区別第8 関連する山中弁護士ブログの記事第9 出典
第1 当事者照会で何を明らかにするか
1 本記事の対象と基準日

当事者照会は,訴訟の係属中,相手方に対して,主張又は立証を準備するために必要な事項を照会する制度である(民事訴訟法163条)。
裁判所への証拠申出や,相手方に既存文書の提出を命ずる手続とは区別して利用する。
本記事は令和8年10月3日時点の条文と裁判所公表の民事訴訟規則を基準に,照会書の作成,受領側の回答及び不回答後の選択を説明する。

2 先に争点と不足情報を整理する

照会前に,①明らかにしたい事実,②本案での証明責任の所在,③既に提出された証拠から分かること,④不足する情報,⑤回答を得た後の主張又は証拠収集の方針を整理する。
例えば,特定の通知メールが送信されたかが争点なら,送信日時,宛先及び送信記録の有無など,その争点に結び付く事項へ絞る。
「相手方の対応の全部を説明せよ」という広い質問から始めるべきではない。

照会への回答で事実関係を知ることと,その事実を裁判所に証明することは同じではない。
必要に応じて,回答の根拠となった記録を特定し,書証その他の証拠調べにつなげる。

第2 照会できる事項とできない事項
1 163条1項の六つの除外事由

民事訴訟法163条1項は,次の照会を除外している。
① 具体的又は個別的でない照会
② 相手方を侮辱し,又は困惑させる照会
③ 既にした照会と重複する照会
④ 意見を求める照会
⑤ 回答するために不相当な費用又は時間を要する照会
⑥ 196条又は197条により証言を拒絶できる事項と同様の事項についての照会

「当社に対する態度を反省しているか」「契約違反だと認めるか」といった評価又は意見を求める質問ではなく,いつ,誰が,どの通知をしたのかという事実へ分解する。
全取引期間,全従業員,全アカウントを無限定に対象とする質問は,対象の不特定や作業負担が問題となるため,事件との関連性,対象期間及び担当部署を具体化する。

2 秘密を含むときの検討

営業秘密,職務上の秘密その他の保護の必要性があるときは,163条1項6号と196条・197条の要件との対応を検討する。
「秘密」「個人情報」という言葉だけで,すべての質問に一括して回答を拒めるとは限らない。
対象期間の限定,第三者名の省略,項目の分離などで必要な情報を得られるかを検討することが有用である。

提訴前照会には132条の2による別の要件・除外事項があるため,係属中の当事者照会と同じ書式をそのまま流用しない。
照会の段階と法的根拠を最初に確定する。

第3 照会書の記載事項と質問の例

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一部請求で負けた後に残額を請求・相殺できるか―既判力と信義則,係属中と確定後の違い(AI作成)

目次第1 残額に既判力が及ばないことだけでは結論は出ない第2 一部請求の敗訴確定後に残額を請求する場合1 最高裁平成10年6月12日判決2 「特段の事情」を抽象語で済ませない第3 係属中の一部請求の残額を相殺に使う場合1 最高裁平成10年6月30日判決の法廷意見2 既に別訴で請求している部分とは区別する第4 敗訴確定後の残額による相殺についての補足意見第5 相殺が排斥された被告の残額請求は,同じ問題か第6 判決を受け取った時点で確認すること第7 出典・関連記事
第1 残額に既判力が及ばないことだけでは結論は出ない

300万円の債権のうち100万円だけを明示して請求し,その訴訟で敗訴した場合,残りの200万円を改めて請求できるだろうか。
相手方に別の債権で訴えられたとき,その200万円を相殺に使うことはできるだろうか。
この問題では,既判力の範囲と,信義則による訴訟の制限を分けて検討する必要がある。

明示的一部請求については,訴訟物と既判力の範囲を請求された一部に限るという判例の考え方がある。
しかし,既判力が残額に及ばないことから,残額の請求や相殺が常に許されるとはいえない。
特に,まだ別件訴訟が係属している場合と,一部請求を棄却する判決が確定した場合を混同すると,訴訟方針を誤る。

この記事は令和8年10月3日時点の民事訴訟法と,以下にリンクする最高裁判決の公式全文を基礎とする。
判例の判断と,その判断から導く実務上の確認事項を分けて説明する。

第2 一部請求の敗訴確定後に残額を請求する場合
1 最高裁平成10年6月12日判決

最高裁平成10年6月12日判決は,金銭債権の数量的一部請求で敗訴した原告による残部請求を,特段の事情がない限り信義則に反して許されないとした。
同判決は,数量的一部請求であっても,通常は債権全体について審理した上で一部請求の当否が判断されること,敗訴後の残部請求は実質的な紛争の蒸し返しになることを重視する。
被告が紛争は解決したと期待することや,再び応訴を強いられる負担も理由となる。

したがって,裁判所が債権全体の不存在を認定して一部請求を棄却し,その判決が確定した場合に,「今度は残りの部分なので別の請求である」とだけ説明して再提訴することはできない。
これは残部に既判力が及ぶという説明ではなく,後の訴えが信義則によって制限されるという説明である。
同判決では残部請求の訴えが却下された。

2 「特段の事情」を抽象語で済ませない

判例は特段の事情がある場合を留保している。
ただし,「新しい証拠を見つけた」「前の主張を工夫し直した」と言えば必ず再提訴できる,という判断ではない。
この判決だけから,例外の類型を網羅的に確定することもできない。
前訴の請求範囲,争点,審理経過,棄却理由及び確定時期を記録によって確認し,後訴を許すべき事情を具体的に示す必要がある。

また,請求棄却と,訴訟要件を欠くことによる訴え却下,訴えの取下げ,和解は同じではない。
前の事件の終了方法を確認せず,一部請求の敗訴確定後の判例をすべてに当てはめてはならない。

第3 係属中の一部請求の残額を相殺に使う場合
1 最高裁平成10年6月30日判決の法廷意見

最高裁平成10年6月30日判決は,一個の債権の一部についてのみ判決を求める旨を明示して訴えを提起した場合,残部を自働債権として他の訴訟で相殺を主張することを,権利濫用などの特段の事情がない限り許容した。
相殺は,相手方の提訴を契機として提出する防御手段であり,両者の債権を簡易・迅速・確実に決済する機能があることを考慮した判断である。

もっとも,この判決で実際に相殺の主張が許されたのは,違法仮処分による損害賠償請求権のうち弁護士報酬相当額の損害である。

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相手方の相殺にどう反論するか―弁済の再抗弁,訴訟外の相殺通知と債権を失うリスク(AI作成)

目次第1 相殺への反論は,自分の債権を使う前に整理する第2 まず,乙債権の成立と弁済を争えるか確認する1 請求された債権と,相殺に使われた債権を分ける2 弁済の再抗弁に必要な資料をそろえる第3 訴訟上の相殺に,訴訟上の相殺を重ねることはできない第4 訴訟外の相殺通知を送る前に確認すること1 相殺通知は,相手方への意思表示である2 使う債権と消費する金額を先に確定する第5 訴訟外の相殺が実際に認められた事例第6 実体法上の消滅と,既判力の範囲は別に計算する第7 依頼者と決めておく訴訟方針第8 出典・関連記事
第1 相殺への反論は,自分の債権を使う前に整理する

相手方から相殺を主張されたとき,別の債権を持っているからといって,直ちにそれで相殺し返すのは危険である。
訴訟上の相殺と訴訟外の相殺では,債権が消滅する仕組みが異なるからである。
以下では,XがYに対して200万円の甲債権を請求し,YがXに対する300万円の乙債権で相殺を主張した場合を考える。
Xは,乙債権が既に弁済されていると反論できるほか,Yに対する別の300万円の丙債権を持っているものとする。
金額の違いを見やすくするため,利息等を除き,各債権の当事者・相殺適状には問題がない場合を前提とする。

この記事は令和8年10月3日時点の法令を基準とし,裁判所が公表する判決全文に基づいて説明する。
金額例と依頼者への説明項目は,条文と判例を踏まえた実務上の整理であり,その数値例を直接判断した判決の紹介ではない。

第2 まず,乙債権の成立と弁済を争えるか確認する
1 請求された債権と,相殺に使われた債権を分ける

甲債権の発生原因・支払期限と,乙債権の発生原因・金額・支払期限を別々に整理する。
相殺に使う自己の債権を自働債権,相殺によって消滅させる相手方の債権を受働債権という。
Yの相殺では乙が自働債権,甲が受働債権になる。
乙の契約が成立していない,金額が違う,既に支払済みであるといった反論と,Xが丙を使って乙を消滅させる主張とは,事実も証拠も異なる。

2 弁済の再抗弁に必要な資料をそろえる

乙について支払済みと主張する場合は,支払日,支払者,受領者,金額,どの債務への支払だったかを特定する。
振込明細だけでなく,請求書,領収書,送金前後の連絡,複数債務がある場合の充当合意も確認する。
振込があったことと,乙が消滅したことは同じではない。
乙が弁済によって消滅していると認められれば,丙を消費せずにYの相殺を排斥できる。
この選択肢の検討を終える前に丙による相殺通知を送ると,後から弁済の証拠が見つかっても,通知の法的効果が別に問題になる。

第3 訴訟上の相殺に,訴訟上の相殺を重ねることはできない

最高裁平成10年4月30日判決は,訴訟上の相殺の抗弁に対して,原告が別の債権による訴訟上の相殺を再抗弁として主張することを許さなかった。
訴訟上の相殺は,その相殺について裁判所が判断することを条件に実体法上の効果が生じるという性質を持つ。
これを重ねると仮定的な判断が積み重なり,審理が複雑になることに加え,再抗弁の債権の判断にまで既判力を広げる根拠がないことが理由である。

ただし,同判決は,訴訟外で相殺の意思表示をして確定的に相殺の効果が生じたことを,再抗弁として主張する方法まで禁止していない。
また,原告は別の債権について訴えの追加的変更又は別訴の提起をする方法も検討できる。
「相殺の再抗弁はできない」とだけ説明せず,禁止される方法と,実体法上の効果を先に発生させてその消滅事実を主張する方法を区別する必要がある。

第4 訴訟外の相殺通知を送る前に確認すること
1 相殺通知は,相手方への意思表示である

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証明責任を負わない側の訴訟対応―否認・反証・抗弁・証拠協力をどう分けるか(AI作成)

目次第1 証明責任を負わないことと,何もしなくてよいことは違う1 本記事の対象と基準日2 最終的な不利益と,審理中の対応を分ける第2 否認,不知及び抗弁を区別する1 認否は事実ごとに具体化する2 否認と弁済の抗弁は別の防御である第3 反証の目的と,相手方提出証拠の利用1 本証と反証2 相手方の証拠も利用できる第4 証明責任を負わない側にも関係する個別の規律1 文書提出と当事者本人の尋問2 当事者照会と一般的な事案解明義務の議論第5 依頼を受けたときの整理と行動1 争点ごとの内部管理表を作る2 記録の保存と提出前の確認第6 関連する山中弁護士ブログの記事第7 出典と確認範囲
第1 証明責任を負わないことと,何もしなくてよいことは違う
1 本記事の対象と基準日

民事訴訟で,相手方が証明責任を負う事実を争う場合にも,認否,反証,自分の抗弁の立証及び証拠収集への対応を検討する必要がある。
本記事は令和8年10月3日時点の民事訴訟法と裁判所公表の民事訴訟規則を基準に,これらを区別して説明するものである。
以下の貸金の例は説明のための仮例であり,具体的な要件事実は請求の内容,契約の種類及び特約によって確認する。

2 最終的な不利益と,審理中の対応を分ける

客観的証明責任とは,裁判所が証拠調べを経ても,ある事実が存在するかどうかを確定できない場合に,その事実を要件とする法律効果を認めないことによる不利益を誰が負うかという問題である。
証明責任を負わない側は,その事実について相手方の証明が成功しなければ有利な判断を受け得るが,相手方の証拠によって裁判所が事実の存在を認めれば,証明責任の配分だけで防御することはできない。

相手方に有利な証拠が出たため反証が必要になっても,それだけで客観的証明責任が移転したわけではない。
最終的な真偽不明の処理と,現在の証拠関係の下で何を追加すべきかという訴訟上の判断を分けることが重要である。

第2 否認,不知及び抗弁を区別する
1 認否は事実ごとに具体化する

相手方が主張する事実について,認めるのか,否認するのか,知らないのかを明らかにする。
民事訴訟法159条は,相手方の主張事実を争うことを明らかにしない場合の自白の擬制を定めているが,弁論の全趣旨により争ったと認めるべき場合を除いている。
不知の陳述は争ったものと推定されるが,自分が関与した取引については,記録や担当者への確認を踏まえて認否を具体化するのが適切である。

民事訴訟規則79条3項・80条は,準備書面で否認する場合の理由の記載や,答弁書での具体的な認否・抗弁の記載を求めている。
「原告が証明すべきである」とだけ記載せず,例えば,借入れの申込みをしていない,署名をしていない,振込みは別取引の代金であるなど,争う内容と理由を示す。
認否のための調査と,結論を相手方に有利にする虚偽の説明をしないことは,証明責任の配分とは別の問題である。

2 否認と弁済の抗弁は別の防御である

貸金返還請求について「借りていない」と争う場合は,相手方の請求を基礎付ける事実を否認する場面である。
これに対して「借入れはあったが,既に返済した」という主張は,弁済という別の事実に基づく抗弁であり,通常は弁済を主張する側がその事実の証明責任を負う。
被告であるというだけで,事件中のすべての事実について証明責任を負わないわけではない。

弁済の抗弁を提出するなら,支払日,金額,相手先及びどの債務への支払かを明確にし,領収書,送金記録及び関連する連絡を対応させる。
口座から現金を引き出した事実だけでは,相手方へ支払ったことまで当然には分からないため,資料が直接示す事実と,そこから推認する事実を区別する。

第3 反証の目的と,相手方提出証拠の利用
1 本証と反証

自分が証明責任を負う事実の存在を裁判所に認めてもらうための立証が本証であり,相手方が証明責任を負う事実について,その証明を揺るがすための立証が反証である。
反証では,常に反対の事実を積極的に証明し尽くす必要があるわけではなく,相手方の証明が成功したといえない状態にすることが目標となる。

例えば,相手方がメールを根拠に合意成立を主張する場合,後続のメールに未合意の条件が残っていることを示す,送信者に権限がなかったことを争う,抜粋の前後を提出するなどが考えられる。

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接見禁止中の被告人への訴状送達と仮差押え-施設長送達・一部解除・執行期限(AI作成)

目次第1 接見禁止中でも民事手続を進めるための整理1 訴状の送達と受領拒否への対応2 仮差押えの送達と執行期限3 本記事の対象範囲第2 訴状と保全命令は誰に送達するか1 刑事施設の長への送達2 警察署の留置施設にいる場合3 施設長への送達の効力4 本人が知らないまま欠席判決・確定に至る可能性と救済第3 収容先が分からないときの調査1 手元の情報から確認する2 弁護士会照会を検討する場合第4 接見禁止を理由に受領が拒まれた場合1 返送理由と禁止決定の範囲を確認する2 一部解除によって送達できた民事執行の実例3 一部解除を求めるときの整理事項第5 仮差押えでは送達問題と執行を分けて進める1 勾留の事実だけで仮差押えが認められるわけではない2 対象財産・管轄・担保を整える3 債務者への送達前の執行と2週間の期限第6 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 裁判所の運用資料4 個人執筆の実務文献
第1 接見禁止中でも民事手続を進めるための整理
1 訴状の送達と受領拒否への対応

勾留中の被告人に訴状を送達する場合,民事訴訟法99条3項に従い,収容先の刑事施設の長に送達する。
接見禁止が付いていても,警察署長又は拘置所長など法令上の受送達者への適法な交付が完了すれば,その時点で本人に対して有効な送達となる。
本人への現実の手渡しや接見禁止の一部解除を,送達の効力発生の条件とするものではない。

もっとも,送達が有効であることと,本人に防御の機会を与えないまま進めた訴訟手続が適法であることは別である。
本人が知らないまま欠席判決・確定に至る可能性と,控訴等による救済は,第2の4で説明する。

接見禁止を理由に書類の受領が拒まれた場合は,送達先の誤りを直す場面と,刑事裁判所に接見等禁止の一部解除を求める対応を検討する場面を分ける。

2 仮差押えの送達と執行期限

仮差押えでは,債務者への保全命令の送達前にも執行できるため,本人への送達が進まないことだけで執行を待つ必要はない(民事保全法43条3項)。
保全命令を当事者に送達すること自体は,接見禁止や施設長の受領拒否の有無にかかわらず必要である(同法17条)。
施設長への適法な交付が完了していれば,債務者への送達は既に済んでおり,本人への現実の手渡しや接見禁止の一部解除を待つ必要はない。
接見禁止を理由に施設長が受領を拒否し,適法な交付が完了していない場合には,債務者への送達を完了させるため,一部解除・再送達への対応を検討する。
また,債権者に保全命令が送達された日から2週間という保全執行の期限は,施設長の受領拒否の有無にかかわらず適用される(同法43条2項)。
一部解除・再送達への対応をしていることを理由に,この期限が当然に延びるものではない。

3 本記事の対象範囲

本記事は,令和8年10月3日現在の法令を基に,民事訴訟の原告・仮差押債権者側の対応を中心に説明し,本人に書類が渡されなかった場合の被告側の救済にも触れる。
一部解除によって送達できた民事執行の実例も紹介するが,接見禁止中の全事件で解除が必要になる,又は民事債権者の求めが必ず認められるという意味ではない。

第2 訴状と保全命令は誰に送達するか
1 刑事施設の長への送達
(1) 訴状・保全命令の送達先

民事訴訟法99条3項は,刑事施設に収容されている者への送達を,刑事施設の長にすると定める。
訴状は被告に送達する書類であり,送達に関する事務は裁判所書記官が取り扱う(同法138条1項,98条2項)。

原告側は,収容施設の名称・所在地と被告本人の特定事項を担当書記官に伝え,施設長への送達として処理されるよう確認する。
本人宛てに私的な郵便を送ることと,裁判所が行う訴状の送達とは区別する。

保全命令にも,民事保全法7条による民事訴訟法の準用を通じて,施設長への送達の規定が適用される。
保全命令を当事者に送達する根拠は,民事保全法17条である。

(2) 当事者目録の表示と送達場所

当事者目録に記載する被告・債務者は収容されている本人であり,拘置所長や警察署長を被告・債務者又はその法定代理人として表示する必要はない。

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民事訴訟で「唯一の証拠方法」を調べないことが許される場合―重要証拠不採用、再尋問、所在不明と終結時の対応(AI作成)

目次第1 結論―「唯一」「重要」「既に調べた」を分ける第2 唯一性は,何を証明する証拠かに即して判断する1 事件全体の証拠の数だけでは判断できない2 「他に主張立証はない」と,申出の撤回は区別する第3 所在不明など,取調べに不定期間の障害がある場合1 唯一の証拠方法でも例外はある2 呼出しと所在調査の経過を具体化する第4 第一審で既に尋問した者の再尋問第5 唯一ではない重要証拠の不採用が違法となる場合1 証拠の採否には裁量がある2 平成20年判決は,供述の食い違いを調べる必要性を問題にした第6 事案を比較するときの確認表第7 証拠申出・終結時・上訴での対応1 証拠説明では立証命題と既存証拠の不足を対応させる2 終結時は,未処理の申出を維持するか明示する3 上訴では,不取調べと結論への影響を結び付ける第8 責問権との関係・出典の範囲第9 関連記事
第1 結論―「唯一」「重要」「既に調べた」を分ける

民事訴訟では,申し出た証拠をすべて取り調べなければならないわけではない。
民事訴訟法181条1項は,必要でないと認める証拠について,取調べを要しないと定める。
しかし,特定の主張に関する唯一の証拠方法を,特段の事情なく取り調べないことは,判例上,許されない。
また,形式的に唯一ではない証拠であっても,重要な供述の食い違いを検証するために必要な尋問を省略したことが,審理不尽となる場合がある。

一方,唯一の証人でも取調べに不定期間の障害がある場合や,第一審で同一の立証事項について既に尋問した者を控訴審で再度申し出た場合は,別の検討が必要である。
本記事は,令和8年10月3日現在の条文と最高裁判決6件の原文を基に,これらの違いと,代理人が申出・終結時・上訴時に具体化すべき事項を説明する。

第2 唯一性は,何を証明する証拠かに即して判断する
1 事件全体の証拠の数だけでは判断できない

最高裁昭和53年3月23日第一小法廷判決は,土地について相手方会社が完全な所有権を有するのではなく,共有持分を有するにすぎないとの主張を立証するための,当事者本人尋問の申出を扱った。
最高裁は,その主張に関する唯一の証拠方法である以上,特段の事情がない限り取り調べる必要があるとした。
原審は採否を明示しないまま弁論を終結しており,最高裁は判決への影響が明らかな違法を認め,関係部分を破棄差戻しとした。

この判決から実務上導かれるのは,事件に書証や別の証人が存在するかという数の確認だけでは足りないということである。
「契約成立」「所有権の範囲」「説明の有無」など,具体的な立証命題ごとに,既存証拠が何を示し,申し出た尋問がどの不足を埋めるかを説明する必要がある。
本人尋問であることだけを理由に,唯一の証拠方法に関する問題から除外することもできない。

2 「他に主張立証はない」と,申出の撤回は区別する

昭和53年判決では,弁論終結時に双方が「他に主張立証はない。」と述べていた。
最高裁は,この発言をもって,既に申し出ていた唯一の証拠方法を取り調べなくてよい特段の事情とすることはできないとした。
したがって,この事案では,追加の主張立証がない旨の発言から,未処理の尋問申出が当然に撤回されたと扱うことはできなかった。

もっとも,同判決は,責問権の放棄可能性又は民訴法90条による異議権の喪失を一般的に判示したものではない。
発言の解釈,証拠申出の維持・撤回,手続違反に対する異議権の喪失を,それぞれ分けて検討する必要がある。

第3 所在不明など,取調べに不定期間の障害がある場合
1 唯一の証拠方法でも例外はある

最高裁昭和30年9月9日第二小法廷判決では,唯一の証人を尋問するため2回呼出状を発送したが,いずれも転居先不明で送達できなかった。
2回目には郵便集配手が再度調査したことなども認定されている。
最高裁は,旧民訴法260条の不定期間の障害に該当し,唯一の証拠方法であっても同条の適用は妨げられないとして,尋問をせず弁論を終結した措置を適法とした。

最高裁昭和37年4月27日第二小法廷判決も,転貸承諾についての唯一の証人を扱う。
第一審では,送達後の不出頭と,次の呼出状の転居先不明があった。
控訴審は,尋問のため一旦終結した弁論を再開し,証人作成の証明書に記載された新住所へ発送したが,再び転居先不明となり,郵便集配手も数度調査していた。

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釈明義務違反・証人尋問の不採用を控訴・上告受理申立てで争う方法―審理経過、失われた立証機会、判決への影響(AI作成)

目次第1 手続上の不満を上訴理由にするための基本第2 釈明義務違反を主張する場合1 裁判所が採用した法的構成と審理経過を対照する2 失われた機会を具体的な主張・証拠で示す第3 証人尋問の不採用を争う場合1 証拠の必要性と裁量の限界2 目撃証人に準ずる証人を調べなかった事例3 期日中の申出に盛り込む事項4 唯一の証拠方法・再尋問・実施の障害を分ける第4 控訴・上告・上告受理申立ての区別1 手続違反を述べるだけでは上訴経路は決まらない2 上訴理由の記載順序第5 責問権と調書をどう位置付けるか1 違法・異議権の喪失・判決への影響を順に検討する第6 調査範囲と出典
第1 手続上の不満を上訴理由にするための基本

釈明が足りなかったことや証人尋問が採用されなかったことは,それだけで判決の取消し・破棄を導くものではない。
争うべき点は,審理経過に照らして裁判所にどのような対応が求められ,その欠如によってどの反論・立証機会が失われ,それが判決のどの判断に影響したかである。
本記事は令和8年10月3日現在の民事訴訟法と裁判所が公開する判決原文に基づき,民事事件の代理人が期日中及び判決後に確認すべき事項を説明する。

同じ手続上の問題でも,期日中の求釈明・異議,終局判決に対する控訴,最高裁判所への上告及び上告受理申立ては,対象と要件が異なる。
手続中の異議を述べたことだけで,独立の抗告が可能になるわけではない。
基本的な手段の区別は,求釈明・訴訟指揮への異議・責問権と期日の記録も参照されたい。

第2 釈明義務違反を主張する場合
1 裁判所が採用した法的構成と審理経過を対照する

民訴法149条による釈明には裁判所の判断が伴うが,審理経過に照らして釈明すべき義務が生じる場合がある。
裁判所が当事者と異なる法律評価をしたというだけで直ちに違法となるものではなく,その構成が当事者に予測可能であったか,主張・反論・反証の機会を与えられていたかを確認する必要がある。

最高裁平成22年10月14日第一小法廷判決(平成20年(受)第1590号・集民235号1頁)は,定年を80歳とする合意の成否が争われた事件において,原審が,合意を認めない一方,定年退職の1年前までに定年規程の厳格な適用と再雇用をしない旨を告知すべき信義則上の義務を認め,具体的な告知から1年を経過するまでは,賃金支払義務との関係で定年退職の効果を主張できないとして,一定期間の賃金支払を命じた場面を扱った。
当事者双方はその義務の存否を争点とせず,従前の争点整理と審理も合意の成否を中心としていた。
最高裁は,その構成を採用するのであれば,原告にその主張をするかどうか釈明するとともに,被告にも反論・反証の機会を与えるべきであったとし,釈明義務違反を理由に破棄差戻しとした(判決PDF1頁~4頁)。

この判決から,すべての事件で裁判所が判決前に結論や心証を開示する義務を負うとはいえない。
重視すべき点は,新しい構成に固有の攻撃防御をする機会が,実際の審理過程で確保されていたかである。
法的観点指摘義務と事実主張を促すこととの違いも併せて確認する必要がある。

2 失われた機会を具体的な主張・証拠で示す

上訴理由では,「不意打ちであった」との評価に先立ち,争点整理の内容,双方の主張,裁判所の発言,判決で初めて採用された判断枠組みを,記録の所在とともに示す。
その上で,機会があれば提出した反論,追加して主張した事実,申し出た証拠,その証拠により判断が変わり得る理由を特定することが有用である。

例えば,信義則上の義務を争点とするのであれば,義務の基礎とされた言動の趣旨・時期・権限,相手方の認識,信頼を否定又は限定する事情について,どの資料や尋問で反証したかを説明する。
これは一般的な記載の考え方であり,上記判決がすべての反論について提出可能性を認定したという意味ではない。
失われた機会と判決の判断を結び付けることで,抽象的な不公平感と,結論に関係する審理上の欠落とを区別できる。

第3 証人尋問の不採用を争う場合
1 証拠の必要性と裁量の限界

民訴法181条1項は,必要でないと認める証拠を取り調べることを要しないと定める。
申出があることだけで実施が義務付けられるわけではなく,立証命題,争点との関係,既存証拠では解明できない点を具体化する必要がある。

最高裁昭和56年11月13日第二小法廷判決(昭和56年(オ)第715号・集民134号227頁)は,唯一の証拠方法でない限り証拠申出の採否は裁判所の裁量に属する旨を述べ,当該事件では申出に係る証人尋問が唯一の証拠方法ではないことなどから違法を否定した(判決PDF1頁~2頁)。
しかし,証拠が複数あることを理由に,重要な尋問を省略する判断が常に適法になるものではない。

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引換給付判決を実行する方法―反対給付の提供・証明,弁済供託と還付の実務(AI作成)

目次第1 最初に判決主文と執行方法を確認する第2 反対給付を「提供する」とは何か第3 提供・履行を証明する資料を作る1 受領された場合と拒絶された場合2 第三者による記録と提出先への確認第4 登記手続を命ずる判決では証明する段階が異なる第5 受領拒絶がある場合の弁済供託1 供託原因・金額・供託所を確認する2 反対給付の内容を曖昧にしない3 固定事案による供託書・添付資料の記載例第6 申請・納付・正本の受領・通知を区別する第7 引換額の提供と代金債務全額の消滅は別問題である第8 供託金の還付では反対給付を「した」ことが問題となる第9 参照資料と個別事件で残る確認事項

引換給付判決を得ても,相手方が任意に履行するとは限らない。強制執行に進むためには,判決主文が定める反対給付を履行し,又は提供したことを証明する必要がある。ただし,登記手続を命ずる判決には特別の扱いがあり,弁済供託の成立や供託金の還付にも別の要件がある。

本記事は,現行の民法,民事執行法,供託法及び法務省の供託Q&Aを基に,何を準備し,何を証明するかを整理する。個別事件で受け付けられる証明資料は,給付の内容と提出先に即して確認する必要がある。

第1 最初に判決主文と執行方法を確認する

「代金500万円の支払と引換えに物を引き渡せ」という判決であれば,執行開始のために確認する反対給付は,まず主文に記載された500万円である。判決書,確定証明書又は仮執行宣言,送達証明書,執行文の要否及び給付の目的物を確認する。仮執行が可能かどうかは,個々の判決と執行の種類による。

物の引渡し等の執行と,所有権移転登記手続等の意思表示を命ずる判決は,同じ手順ではない。前者では民事執行法31条1項による執行開始要件が問題となり,後者では同法177条2項による執行文付与の段階で反対給付の証明が必要となる。提出先を取り違えないことが出発点となる。

第2 反対給付を「提供する」とは何か

民法493条本文は,債務の本旨に従った現実の提供を原則とする。金銭であれば,支払うべき金額,支払場所,支払時期及び支払方法を確認し,受領できる状態で差し出すことが基本となる。単に資金を保有していることや,「いつでも払う」と通知することだけで当然に現実の提供になるわけではない。

相手方があらかじめ受領を拒んでいる場合,又は履行について相手方の行為を要する場合には,同条ただし書により,弁済の準備をしたことを通知し,受領を催告する方法が認められる。拒絶の発言や連絡,準備した資金,通知及び催告の内容を一組の資料として残す。相手方の協力を要する事情も具体的に特定する。

振込みについては,送金先の指定,契約上の支払方法,着金の有無及び返金の経緯を確認する。振込予約の画面と,実際の着金を示す資料は区別する。送金ができなかった場合にも,その理由が受領拒絶なのか,口座情報の誤りなのかによって評価が異なる。

第3 提供・履行を証明する資料を作る
1 受領された場合と拒絶された場合

受領された場合は,領収書,振込結果,入金の確認及び相手方の受領確認を整理する。領収書には,受領者,日付,金額,対象となる債務及び事件を特定できる情報を記載してもらう。代理人等に支払うときは,その受領権限も確認する。

受領を拒絶された場合は,いつ,どこで,誰が,何を,どのように差し出し,相手方がどう応答したかを記録する。通知書,配達証明,連絡記録,写真その他の資料は,それぞれ証明できる事実が異なる。内容証明郵便は通知内容を裏付ける資料となるが,それだけで現金を差し出した事実まで証明するものではない。

2 第三者による記録と提出先への確認

事実実験公正証書も検討対象となる。公証人が直接見聞した事実を記録するものであり,弁済提供の状況を残す用途がある。ただし,公正証書を作成すれば,その提供が債務の本旨に適合することや,執行開始要件を満たすことまで自動的に確定するわけではない。丸の内公証役場の事実実験に関する説明も参照されたい。

履行・提供の方法を決める前に,担当する執行機関又は執行文付与を担当する裁判所書記官に,給付内容と予定する証明資料を示して確認することが有用である。録音や自己作成の報告書等について,一般的に必ず受け付けられるとは断定できない。相手方が争うことを想定し,直接裏付ける資料を重ねて準備する。

口頭の提供の証拠化を考える参考となるのが,東京地裁平成19年10月19日判決(平成19年(ワ)第7138号,判例秘書L06234603)である。裁判上の和解による不動産売買の決済について,登記必要書類の準備,決済日時・場所・担当司法書士の回答を求めたFAX及び通知先の前訴代理人の受領権限を具体的に検討し,口頭の提供を認めた。

この判決は,請求異議訴訟において実体法上の提供を認定したものである。執行官がFAXだけで民事執行法31条1項の証明を認めた事件ではない。実務では,①給付を実行できる準備,②準備の通知と受領の催告,③通知の到達,④代理人に通知した場合の受領権限をそれぞれ裏付ける資料を残す。前訴の訴訟代理人であったという事実だけから,和解後の通知を受領する権限まで当然に認めない。

第4 登記手続を命ずる判決では証明する段階が異なる

民事執行法177条1項は,意思表示を命ずる判決について,原則として確定時に意思表示をしたものとみなす。同条2項は,債務者の意思表示が反対給付との引換えである場合等には,所定の執行文が付与された時に意思表示をしたものとみなすと定める。

この場合には,債権者が反対給付を履行し,又は提供したことを証する文書を提出して,執行文の付与を受ける。「判決が確定したから直ちに登記に進める」と処理しない。執行文付与のための資料と,登記申請自体に必要な書類をそれぞれ確認する。

東京高裁昭和54年12月25日決定(昭和54年(ラ)第731号,判例タイムズ407号83頁・判例時報958号73頁)は,50万円の支払と引換えの所有権移転登記・建物明渡判決について,別の確定貸金債権による相殺を主張して登記用の執行文を得た後にも,明渡執行官は独立して反対給付の履行・提供を調査判断するとした。登記が済んだことだけで,明渡しの執行開始要件の証明まで済んだと扱うことはできない。

同決定は,相殺について実体的な要件・効力の判断が必要となることから,相手方が相殺を認める書面等の特段の事情がない限り,その主張を反対給付の履行の証明とすることはできないとした。相殺が実体法上常に無効という判断ではない。確定貸金判決と相殺通知を用意しただけで,当然に明渡執行を開始できると説明しない。旧民事訴訟法下の決定であり,現在の執行官室への個別照会回答と区別する。

第5 受領拒絶がある場合の弁済供託
1 供託原因・金額・供託所を確認する

民法494条は,弁済の提供に対して債権者が受領を拒んだ場合,債権者が受領できない場合等に弁済供託を認める。供託原因によって必要な事実が異なるため,受領拒絶,受領不能又は債権者不確知のどれに当たるかを特定する。受領拒絶を理由にする場合は,第2で述べた提供の要件を確認する。

同法495条1項により,供託は債務の履行地の供託所にする。供託額は,判決主文の引換額だけを見るのではなく,何の債務を消滅させる目的で供託するのかを明確にして検討する。利息,遅延損害金その他の付随する債務の有無も確認する。

2 反対給付の内容を曖昧にしない

同時履行関係にある場合には,相手方に求める反対給付の内容を供託手続上どう記載するかも確認する。民法498条2項は,債権者が反対給付をすべきときは,その反対給付をしなければ供託物を受け取れないと定める。金銭を供託したことと,相手方が自由に還付を受けられることは別の問題となる。

(続きを読む...)引換給付判決を実行する方法―反対給付の提供・証明,弁済供託と還付の実務(AI作成)

反訴か別訴か―重複起訴,併合審理,請求の関連性と債務名義から考える選択(AI作成)

目次第1 抗弁と請求を区別する1 同時履行の抗弁だけでは回収できない2 相殺で消すことと残額を請求することも異なる第2 別訴が重複起訴になるかの判断1 関連する事件というだけでは禁止されない2 相殺が関わる場合は別に検討する第3 反訴の要件と別訴を選ぶ余地1 関連性と審理の遅延を確認する2 反訴が可能であることは一般的な義務を意味しない第4 別訴と弁論の併合1 別訴の適法性と併合の必要性を分ける2 共通する証拠と食い違う進行を示す第5 前訴の確定後に別訴を起こす場合1 先に既判力の範囲を確認する2 信義則を反訴の一般的強制にしない第6 依頼者と決めておくこと1 勝訴の意味と必要な債務名義2 提出前に一枚で整理する第7 出典・関連記事1 公式資料2 関連記事

訴えられた被告が相手方に対する請求を持っているとき,その請求を必ず反訴として提起しなければならないわけではありません。他方,抗弁として述べるだけでは,相手方に支払等を命じる判決を得られない場合があります。
反訴と別訴を選ぶ前に,自分の目的が相手の請求を防ぐことか,自分の請求について債務名義を得ることかを確認します。本記事は,第一審の通常の民事訴訟を中心に,請求の同一性,関連性,審理の進み方,管轄及び回収の必要性を整理します。

第1 抗弁と請求を区別する
1 同時履行の抗弁だけでは回収できない

買主が売主に目的物の引渡しを請求し,売主が「代金の提供があるまで引き渡さない」と抗弁を出す場合を考えます。抗弁が認められて引換給付判決がされても,それは通常,売主に条件付きで引渡しを命じる判決です。
その判決が当然に買主に代金の支払を命じるわけではありません。売主が預金差押え等によって代金を回収するには,支払請求を反訴又は別訴として審判対象にし,その請求に対応する債務名義を得る必要があります。

2 相殺で消すことと残額を請求することも異なる

相殺の抗弁は,相手方の請求債権を自分の債権と対当額で消滅させるための主張です。相殺によって防御できても,自分の債権の残額について,相手方に支払を命じる判決が当然にされるわけではありません。
また,民事訴訟法114条2項による既判力の範囲と,反訴として求める支払請求の範囲を確認します。相殺と反訴を併用する場合は,同じ額を二重に回収する請求にならないよう,主張の順序と請求額を整理します。

例えば,相手方の本訴請求200万円に対して自己の300万円の債権を用い,相殺が全部認められたとき,本訴の支払を免れても,残100万円の給付判決・債務名義が当然に得られるわけではない。
相殺に用いた債権が全部弁済済みとして抗弁が排斥された場合は,対抗額200万円の不存在判断に既判力が生じるが,残100万円への既判力の当然の拡張とは区別する。前訴の弁済認定や信義則が後訴で問題となる余地は別に検討する。
本訴債権の不存在を理由に相殺を判断せず請求を棄却したときは,自己の債権について相殺判断の既判力は生じない。
相殺で全部勝訴しても自働債権を失う場合には,上訴の利益が問題となる。依頼者には,本訴の支払額,自己の債権の残額,既判力が生じる額及び必要な債務名義を分けて説明する。

貸金請求を受けたときの時効の抗弁と,違法な取立て・提訴による損害賠償の反訴は,目的が異なる。
時効の抗弁は本訴の貸金請求を退けるための主張であり,それだけで相手方に弁護士費用・慰謝料の支払を命じてもらえるわけではない。損害賠償を求める場合は,反訴又は別訴という別個の請求として,不法行為の要件と損害を主張立証する。

大阪地裁令和7年11月25日判決(令和7年(レ)第256号,判例秘書L08051156)の事件では,第一審で損害賠償の反訴が提起され,本訴の貸金請求が放棄された後も反訴が審理・判断された。
請求放棄,訴えの取下げ及び敗訴判決は同じ手続ではない。本訴が終了したという事実だけで,違法性,故意・過失,損害及び因果関係が当然に立証されたことにもならない。
反訴で認められた費用・慰謝料と取立て・提訴の事情は,古い借金の請求・訴状が届いたら―時効の確認,時効の主張後の取立て・提訴と弁護士費用・慰謝料を参照されたい。

第2 別訴が重複起訴になるかの判断
1 関連する事件というだけでは禁止されない

民事訴訟法142条は,裁判所に係属する事件について,更に訴えを提起することを禁止しています。しかし,同じ当事者間の同じ契約を巡る紛争であっても,すべて同一事件になるわけではありません。
目的物引渡請求権と代金支払請求権は,契約上関連していても,通常は別の権利です。一方が引渡しを請求していることだけから,他方の代金支払請求の別訴が142条に反すると結論付けることはできません。
逆に,既に反訴で求めている代金について,同じ範囲の支払を別訴でも求める場合は,重複起訴の問題になります。給付請求とその債務の不存在確認などでは,当事者の立場の逆転や請求の形式だけで同一性を否定しないようにします。

債務不存在確認訴訟の被告が,同じ債務の給付を求める場合は,前訴の裁判所に反訴を提起する方法と,他の裁判所に別訴を提起する方法を区別します。
民事訴訟法146条による反訴の可否と,同法142条の重複起訴の問題を分けて検討し,「給付判決が必要である」という事情だけで,別訴が常に許されると考えないことが重要です。

実務では,先行する確認請求が対象とする債務と金額の範囲,予定する給付請求との重なり,両事件の審理段階,管轄及び債務名義を得る必要性を対照します。
同じ裁判所での一体的な審理と,異なる裁判所で審理が並行する場合とでは,判断の抵触を避けるために検討すべき手続も異なります。

2 相殺が関わる場合は別に検討する

別訴で請求している債権を,もう一つの訴訟で相殺の自働債権として主張する場合は,同時履行の抗弁とは異なる検討が必要です。相殺の判断には114条2項の既判力が生じ得るため,審理と判断の重複・抵触が問題になるからです。

(続きを読む...)反訴か別訴か―重複起訴,併合審理,請求の関連性と債務名義から考える選択(AI作成)

引換給付判決で何が確定するか―同時履行の抗弁,反対債権の既判力,代金回収と強制執行(AI作成)

目次第1 同時履行の抗弁と引換給付判決1 抗弁は履行を拒めるという主張である2 反対債権を述べただけでは足りない第2 主文に書かれた引換額と既判力1 主文の文言と審判の対象を区別する2 相殺の抗弁には別の規定がある第3 強制執行を始める条件と代金を回収する権限1 引渡しの執行では買主の反対給付を確認する2 売主に代金の債務名義ができるわけではない第4 後訴で代金額を争えるか1 既判力がないことだけで結論を出さない2 不利益な事情と主張を許す事情の両方を見る3 裁判例の事案と判断対象を分ける第5 500万円と1000万円の事例で考える1 前訴で命じられた給付を確かめる2 回収のための請求と金額の蒸し返しを分ける第6 訴訟代理人が確認する記録と方針1 判決前に回収まで含めて方針を決める2 判決後は請求と履行の状況を並べる第7 出典・関連記事1 公式資料2 関連記事

「代金500万円の支払を受けるのと引換えに,絵画を引き渡せ」という確定判決があっても,売主がその判決を使って買主の預金を差し押さえられるとは限りません。誰の請求について,誰に何を命じた判決かを確認する必要があります。
引換給付判決では,目的物の引渡請求についての既判力,反対給付の金額についての判断,強制執行を始める条件,反対給付を回収するための債務名義を区別します。本記事は,売買に基づく目的物引渡請求を中心に,これらの違いと訴訟記録の確認方法を説明します。

第1 同時履行の抗弁と引換給付判決
1 抗弁は履行を拒めるという主張である

売買契約では,目的物の引渡しと代金の支払が同時履行の関係にある場合があります。民法533条に基づく同時履行の抗弁は,相手方の履行の提供があるまで,自分の債務の履行を拒絶するためのものです。相手方の債務がまだ弁済期にない場合などは別に検討します。
買主から引渡しを求められた売主が「代金の提供があるまで引き渡さない」と主張することと,「買主に代金の支払を命じてほしい」と請求することは,訴訟上の意味が異なります。

2 反対債権を述べただけでは足りない

司法研修所「4訂 紛争類型別の要件事実」8頁は,同時履行の抗弁を権利抗弁とし,権利を行使することが要件であると説明しています。反対債権の存在に触れたというだけで,履行拒絶の意思まで明らかになったと決め付けないことが大切です。
売主の代金支払請求に対する買主の抗弁と,買主の引渡請求に対する売主の抗弁では,請求と抗弁の向きが逆になります。具体的な契約内容,先履行の合意,既にされた履行又は提供も確認します。

第2 主文に書かれた引換額と既判力
1 主文の文言と審判の対象を区別する

民事訴訟法114条1項は,確定判決が既判力を有する範囲を主文に包含するものに限定しています。ただし,主文に書かれた言葉のすべてが,独立した権利についての確定判断になるわけではありません。
買主が売買契約に基づく絵画の引渡しを請求し,売主が同時履行の抗弁だけを出した場合,審判の対象である訴訟物は,買主の引渡請求権です。代金支払請求権は,反訴などで別に請求されない限り,その訴訟物にはなりません。
したがって,「500万円と引換えに引き渡せ」という主文だけから,売主の代金債権が500万円であり,これを超える部分は存在しないと既判力によって確定した,とはいえません。

最高裁昭和39年2月4日判決(民集18巻2号233頁)は,訴訟物ではない反対債権の存在及び金額について,引換給付判決による既判力は生じないと判断しています。引換額が主文に書かれることと,その反対債権自体が審判対象になることを区別する直接の根拠となる判決です。ただし,判決後に同じ代金債権を増額請求することの信義則上の許否まで判断した判決ではありません。

2 相殺の抗弁には別の規定がある

民事訴訟法114条2項は,相殺のために主張した請求の成立又は不成立の判断について,相殺をもって対抗した額の範囲で既判力を認めています。同時履行の抗弁について,同じ規定が置かれているわけではありません。
相殺は対当額の債権を消滅させるための主張,同時履行は履行を拒むための主張です。「反対債権を裁判で使った」という共通点だけで,その効果を同一視しないようにします。

第3 強制執行を始める条件と代金を回収する権限
1 引渡しの執行では買主の反対給付を確認する

民事執行法31条1項は,債務者の給付が反対給付と引換えにされる場合,債権者が反対給付又はその提供があったことを証明したときに限って,強制執行を開始できると定めています。
上の例で引渡しを受ける側の買主は,判決で示された代金の給付又は提供を証明する必要があります。この規律によって,訴訟で認められた給付の牽連性が執行段階でも保たれます。単に「支払うつもりがある」と述べるだけで当然に執行を開始できるわけではありません。
提供の方法や証明資料は,債務の内容と執行方法に応じて確認します。弁済供託の必要性や適法性も,受領拒絶等の事情を踏まえて別に判断します。

所有権移転登記手続等の意思表示を命ずる判決には,民事執行法177条2項の特則があります。反対給付との引換えである場合には,履行又は提供を証する文書を提出して執行文の付与を受け,その時に意思表示をしたものとみなされます。物の引渡しの執行開始要件と,登記判決の執行文付与要件を同じ手順として説明しないことが必要です。

2 売主に代金の債務名義ができるわけではない

買主の引渡請求だけについてされた引換給付判決は,売主に絵画の引渡しを命じるものです。その引換額を記載したことによって,買主に代金の支払を命じる判決が同時にできるわけではありません。
売主が買主の預金等を差し押さえて代金を回収したいのであれば,代金支払を命じる反訴判決又は別訴判決など,回収する権利に対応する債務名義を確保する必要があります。判決の確定又は仮執行宣言,執行文,送達等の条件も,その名義に即して確認します。

第4 後訴で代金額を争えるか
1 既判力がないことだけで結論を出さない

(続きを読む...)引換給付判決で何が確定するか―同時履行の抗弁,反対債権の既判力,代金回収と強制執行(AI作成)

民事訴訟の進行に異議があるとき―求釈明・訴訟指揮への異議・責問権と期日の記録(AI作成)

目次第1 異議の前に対象と求める対応を特定する1 期日で確認する四つの事項2 応答時間が足りないときの伝え方第2 求釈明と訴訟指揮等に対する異議1 求釈明は不明確な事項を明らかにするための手段である2 150条の異議は対象が限定されている3 書記官を通じた期日外釈明を受けたとき第3 責問権と「意見・異議なし・同意」を区別する1 90条は手続違反に対する異議権の喪失を定める2 意見聴取と同意要件は同じではない3 放棄できない違反と補正・追認を区別する4 認識可能性を,違反の種類と審理経過に即して検討する第4 期日の記録と調書の内容への異議1 自分のメモと裁判所の調書は役割が異なる2 記録を求める事項を具体的にする3 調書への異議は元の手続への異議を代替しない第5 証拠申出と上訴を見据えた準備1 尋問の必要性を判断対象と対応させる2 その場の異議と上訴の可否を分けて検討する3 上訴では失われた機会と判決への影響を示す4 「追加立証なし」と,既存の尋問申出の撤回を分ける第6 出典と本記事の対象範囲
第1 異議の前に対象と求める対応を特定する

民事訴訟の期日では,裁判所が予定する進行について意見を求められることがある。
進行への希望,相手方の説明を明確にするための求釈明,裁判長の命令等への異議,手続違反についての異議,調書の内容への異議は,目的と根拠が異なる。
「異議があります」とだけ述べるよりも,誰の,いつの,どの行為が問題なのか,何を変更し,又は確認してほしいのかを明らかにする必要がある。
本記事は,条文上の区別と期日の準備・記録の方法を整理したものであり,個々の異議が認められるかを一律に示すものではない。

1 期日で確認する四つの事項

① 対象となる行為は,裁判長の進行上の命令,裁判所の証拠に関する判断,相手方の主張,書記官の処分のどれか。
② 現在の手続は,口頭弁論,弁論準備手続,書面による準備手続等のどれか。
③ 求める対応は,説明の明確化,応答機会の確保,命令の変更,手続違反の是正,調書内容に対する異議の記録のどれか。
④ その対応が必要な理由と,実施に必要な期間・資料は何か。

2 応答時間が足りないときの伝え方

例えば,相手方の新たな主張にその場で回答できないときは,対象の書面・頁・主張を示し,確認を要する事実,依頼者への照会,追加資料の収集等を具体的に説明する。
「検討期間がほしい」という希望だけではなく,「この点について認否・反論をするには契約原本の確認が必要であり,○日までに書面を提出したい」と,必要な手続と期限を提案する方法が考えられる。
これは実務上の伝え方の例であり,その希望が当然に採用されるという意味ではない。
異議を述べる場合には,進行についての希望と,問題とする命令又は手続違反を分けて伝える。

第2 求釈明と訴訟指揮等に対する異議
1 求釈明は不明確な事項を明らかにするための手段である

民事訴訟法149条3項は,当事者が口頭弁論の期日又は期日外において,裁判長に対して必要な発問を求めることができると定める。
相手方の主張について求釈明をする場合には,不明確な箇所,明らかにしてほしい事項,その回答が認否・立証に必要な理由を対応させる。
例えば,「どの時点の,誰の発言を,契約成立の根拠として主張するのか」を明確にするよう発問を求めることが考えられる。
求釈明は,裁判所に自分の主張を作成してもらう手続でも,相手方に自分が望む回答をさせる手続でもない。

2 150条の異議は対象が限定されている

民訴法150条は,口頭弁論の指揮に関する裁判長の命令,又は149条1項・2項による裁判長若しくは陪席裁判官の処置に対し,当事者が異議を述べたときは,裁判所が決定で裁判すると定める。
異議の対象を「先ほどの発言を止める旨の命令」等と特定し,その理由と,求める変更を示すことが必要である。
裁判所のあらゆる判断が150条の対象になるわけではない。
特に,証拠申出の採否については,裁判長の進行上の命令なのか,裁判所の証拠に関する判断なのかを確認し,150条の異議と同一視しない。
弁論準備手続については,170条5項による149条・150条等の準用を確認する必要がある。
受命裁判官が担当する場合も含め,手続の種類と命令等の主体を確認して対応する。

3 書記官を通じた期日外釈明を受けたとき

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最高裁民事破棄判決等の実情(平成元年度~令和7年度)―年度別記事と判例時報の掲載号の一覧(AI作成)

目次

本記事は,平成元年度から令和7年度までの年度別記事と判例時報掲載号への入口である。最高裁破棄判決の意味を起点に,22事例を請求・主張,直接証拠,間接証明,証拠収集・損害論の四つの失敗層として読む方法は,最高裁破棄判決とは―22の失敗事例から学ぶ主張・立証・事実認定の実務で整理している。

第1 この記事の位置付け1 年次解説と年度別記事2 年度別記事を読むときの注意第2 年度別一覧1 平成元年度~平成15年度2 平成16年度~令和2年度3 令和3年度~令和7年度第3 年度を横断して使うための記事第4 年次解説と判決本文の照合第5 関連記事
第1 この記事の位置付け
1 年次解説と年度別記事

判例時報には、毎年、最高裁判所調査官が、前年中に最高裁判所でされた民事(行政事件、労働事件を含む。)の破棄判決及び破棄決定を紹介する記事が掲載されている。
題名は、平成10年度分までは「最高裁民事破棄判決の実情」、平成11年度分以降は「最高裁民事破棄判決等の実情」である。

本記事は、平成元年度分から令和7年度分までの年次解説について、判例時報の掲載号と、当ブログの年度別記事を一覧にしたハブ記事である。
年度別記事は、原則として年次解説を年度全体の索引として用い、代表的な判決・決定を裁判所ウェブサイト等の全文で照合した上で、弁護士実務の観点から整理したものである。

平成25年4月以降に最高裁判所がした破棄判決等の一覧表は、最高裁の破棄判決等一覧表(平成25年4月以降の分)に掲載している。

2 年度別記事を読むときの注意

年次解説は、最高裁判所調査官が執筆した有力な二次資料であるが、個々の判決・決定の原文そのものではない。
個別事件で引用するときは、事件番号・裁判年月日を手掛かりに、裁判所公式全文、判例集又は認証された判例データベースの本文へ戻る必要がある。
各年度別記事は、裁判所公式全文等で確認した判決と、年次解説の記述によるだけで個別の本文を照合していない判決とを区別して記載することを基本としている。

年次解説が示す破棄判決の割合は、年度によって分母が異なる。
例えば、平成2年度分は判決により終結した事件数を分母とし、平成29年度分以降の年次解説は、上告と上告受理申立ての並行申立てを1件と換算した既済件数を分母としている。
いずれも特定年度の歴史的統計であり、現在の上告・上告受理申立ての「成功率」として用いることはできない。

古い年度の判決には、旧民事訴訟法、改正前の民法その他の旧法を前提とするものが多い。
判旨が現在も参考になることと、判決当時の条文がそのまま現在の事件を規律することとは別であり、現行の条文、経過措置及び後続判例を確認する必要がある。

第2 年度別一覧
1 平成元年度~平成15年度

掲載号欄は判例時報の号数である。平成8年度分及び平成14年度分の掲載号は、本記事では確認していない。

年度判例時報の掲載号年度別記事平成元年度1353号以下(全6回)39件から学ぶ手続入口・証拠推論・時系列・一部無効と差戻審実務平成2年度1386号・1387号・1389号・1390号・1392号25件から学ぶ信義則・時間軸・危険管理と差戻審実務平成3年度1419号・1420号39件から学ぶ手続入口・証拠推論・行政不作為及び差戻し実務平成4年度1448号・1450号・1451号29件から学ぶ訴訟要件・証拠評価・主文設計平成5年度1507号・1508号・1510号・1511号・1513号・1514号60件から学ぶ証拠評価・手続保障・差戻審実務平成6年度1522号・1523号・1525号・1526号・1529号・1530号68件から学ぶ当事者・主張立証・証拠評価及び損害論平成7年度1553号・1554号・1556号・1557号55件から学ぶ原判決監査と差戻審実務平成8年度―47件から学ぶ原判決の誤りと上告・差戻審実務平成9年度1636号・1638号・1639号・1641号・1642号・1644号72件から学ぶ理由不備・経験則違反・主文設計の実務平成10年度1678号・1680号・1681号75件から学ぶ手続入口・判断遺脱・証拠推論及び現行法への読替え平成11年度1707号・1708号・1710号・1711号・1713号・1714号74件の破棄判決・5件の破棄決定から学ぶ訴訟実務平成12年度1744号・1745号・1747号・1748号65件から学ぶ上告審・証拠評価・差戻しの実務平成13年度1783号・1784号・1786号・1787号・1789号70件から学ぶ原判決の誤りと上告・抗告実務平成14年度―95件から学ぶ訴訟入口・経験則・期間・救済の誤り平成15年度1859号以下(全4回)破棄判決97件・破棄決定4件から学ぶ訴訟実務
2 平成16年度~令和2年度
年度判例時報の掲載号年度別記事平成16年度1895号・1896号・1898号・1899号・1901号88件の破棄判決・9件の破棄決定から学ぶ原判決監査と差戻し対応平成17年度1932号・1933号・1935号・1936号75件の破棄判決・9件の破棄決定から学ぶ訴訟実務平成18年度1966号・1967号・1969号・1970号110件から学ぶ破棄理由と訴訟実務平成19年度2009号・2010号57件から学ぶ破棄理由と訴訟実務平成20年度2043号・2044号52判決・3決定から学ぶ訴訟の入口・損害額認定・損益相殺と差戻審実務平成21年度2082号・2083号68件・4決定から学ぶ原判決監査と差戻し対応平成22年度2115号・2116号・2118号67判決・3決定から学ぶ原判決監査と差戻し対応平成23年度2161号・2162号71件・8決定から学ぶ原判決監査平成24年度2188号・2189号・2191号処理統計・主要判例・実務チェック平成25年度2224号・2225号34件の破棄判決・7件の破棄決定から学ぶ手続・証拠・差戻し実務平成26年度2258号・2259号42判決・4決定から学ぶ訴訟入口・証拠・特別法・差戻し実務平成27年度2306号原判決監査・破棄自判と差戻し・一次資料確認平成28年度2342号・2343号39判決・2決定から学ぶ訴訟実務平成29年度2374号22判決・9決定から学ぶ訴訟承継・損害審理・割増賃金と差戻審実務平成30年度2420号24判決から学ぶ訴えの利益・相続分譲渡・労働条件と差戻審実務令和元年度2442号27判決・4決定から学ぶ訴訟入口・証拠・差戻し実務令和2年度2498号35判決・5決定から学ぶ訴えの利益・時効中断・同一労働同一賃金と差戻審実務
3 令和3年度~令和7年度
年度判例時報の掲載号年度別記事令和3年度2524号・2525号
(令和4年9月11日・21日号)25判決・8決定と統計の読み方令和4年度2563号
(令和5年10月1日号)25判決・3決定の一覧と主要8事件令和5年度2595号
(令和6年8月11日号)19判決・8決定の一覧と代表判例令和6年度2629号
(令和7年10月1日号)19判決・2決定の一覧と判旨の読み方令和7年度2652号
(令和8年9月1日号)24判決・2決定から学ぶ原判決監査と差戻審実務
第3 年度を横断して使うための記事

年度別記事を横断して使うときは、次の記事も参照されたい。

① 平成21年度から令和7年度までの最高裁民事破棄判決の分析:件数の推移、反復する分野及び破棄理由を横断的に分析している。
② 最高裁民事破棄判決から作る原判決監査チェックリスト:原判決を点検する順序を整理している。

(続きを読む...)最高裁民事破棄判決等の実情(平成元年度~令和7年度)―年度別記事と判例時報の掲載号の一覧(AI作成)

令和2年度最高裁民事破棄判決等の実情―35判決・5決定から学ぶ訴えの利益・時効中断・同一労働同一賃金と差戻審実務(AI作成)

目次第1 資料の性質と確認範囲1 年次解説は有力な索引であるが判決原文ではない2 35判決・5決定という数字の読み方第2 35判決・5決定の一覧第3 40件から見える五つの監査領域1 訴えの利益・確認の利益2 時効の中断と期間の起算点3 不法行為と使用者・専門家の責任4 割増賃金と同一労働同一賃金5 行政・税・家事第4 裁判所ウェブサイトで全文を確認した代表5判決1 被用者から使用者への求償―損害の公平な分担という見地から求償できる2 ふるさと納税の不指定―総務省告示の規定の一部は委任の範囲を逸脱して無効3 タクシー乗務員の歩合給―残業手当等の額がそのまま歩合給の減額につながる仕組み4 アルバイト職員の賞与―不支給が不合理とはいえないとされた事例5 郵便局の時給制契約社員の病気休暇―有給と無給の相違は不合理第5 破棄差戻し後まで見据える第6 旧法判例を現在の事件へ使う手順第7 受任後に作る四つの実務台帳第8 出典及び確認状態

令和2年度の最高裁民事破棄判決等を読む意義は、個々の結論を覚えることではなく、原判決のどの段階に誤りが入り、最高裁がどの範囲を是正し、何を事実審へ差し戻したかを確認することにある。本記事は、家原尚秀・池原桃子「最高裁民事破棄判決等の実情―令和2年度―」を年度全体の索引として用い、裁判所ウェブサイトで全文を確認できた代表5判決を一次資料として照合した実務整理である。

第1 資料の性質と確認範囲
1 年次解説は有力な索引であるが判決原文ではない

年次解説は、令和2年中に最高裁判所で言い渡された民事(行政事件、労働事件を含む。)の破棄判決及び破棄決定を、最高裁判所調査官が破棄事由ごとに分類して紹介したものである(判例時報2498号16頁以下)。
民集又は集民に登載された判決・決定は判示事項と要旨等を紹介した上で説明し、登載されていないものは本文の関係部分を摘示して紹介するという方式がとられている。

もっとも、年次解説の要約や摘記は判決原本そのものではない。個別事件へ引用するときは、事件番号・裁判年月日を手掛かりに、裁判所公式全文、判例集又は認証された判例データベースの本文へ戻る必要がある。

本記事で裁判所ウェブサイトの全文と書誌を確認したのは、第4で紹介する5判決である。残る判決・決定は年次解説の記述によるものであり、個別の本文は未照合である。判例秘書による照合は行っていない。これは「掲載なし」を意味しない。

2 35判決・5決定という数字の読み方

年次解説によれば、令和2年の新受件数は、上告事件1789件、上告受理申立て事件2169件の合計3958件であり、並行申立てを1件と換算すると2392件である。既済件数は、上告事件1862件、上告受理申立て事件2296件の合計4158件であり、換算後は2517件である。許可抗告事件は新受28件(このほかに最高裁判所に直接申し立てられた事件が19件ある。)、既済23件であった。

破棄判決は35件(判決書単位)であり、換算後の既済件数2517件を分母とした割合は1・4%である。年次解説は、過去5年間の推移を、平成28年39件(1・1%)、平成29年22件(0・7%)、平成30年24件(0・9%)、令和元年27件(1・0%)、令和2年35件(1・4%)と示している。
破棄判決35件の内訳は、差戻し(一部差戻しを含む。)が15件、自判(一部自判を含む。)が20件である。論旨に基づく破棄が34件、職権による破棄が1件であり、民集に登載されたものが7件、集民に登載されたものが21件、いずれにも登載されなかったものが7件である。

破棄決定は5件(決定書単位)であり、全て許可抗告事件(うち1件は特別抗告事件を兼ねる。)である。許可抗告事件の既済件数23件を分母とした割合は21・7%である。結果は差戻し4件、自判1件であり、論旨に基づく破棄が4件、職権による破棄が1件である。

これらは特定年度の判決書・決定書単位の歴史的統計である。現在の上告・上告受理申立ての「成功率」として用いてはならない。

第2 35判決・5決定の一覧

年次解説の破棄事件判決一覧表に基づき、言渡期日順に整理すると次のとおりである(判決日はいずれも令和2年)。内容欄は一覧表の「主な問題点」欄を要約したものであり、結果欄も一覧表による。

判決日・法廷事件番号内容結果1月21日・三小平成30年(受)第1711号盗難自動車による物損事故について盗難に遭った会社に過失があるか自判2月25日・三小平成30年(行ヒ)第215号経過観察を受けている被爆者が被爆者援護法10条1項の「現に医療を要する状態」にあるか自判2月25日・三小平成30年(行ヒ)第191号同上(別件)自判2月28日・二小平成30年(受)第1429号被用者が使用者の事業の執行について第三者に加えた損害を賠償した場合における被用者の使用者に対する求償の可否差戻し3月6日・二小平成31年(受)第6号所有権移転登記の申請の委任を受けた司法書士の委任者以外の者との関係における注意義務違反差戻し3月19日・一小平成31年(行ヒ)第99号固定資産評価基準の画地計算法を適用する場合の各筆の宅地の評点数の算出方法自判3月24日・三小平成30年(受)第388号家屋の評価の誤りによる固定資産税等の過大決定と損害賠償請求権の除斥期間の起算点一部差戻し3月24日・三小平成31年(行ヒ)第96号同上(別件)差戻し3月24日・三小平成30年(行ヒ)第422号取引相場のない株式の譲渡に係る所得税法59条1項の「その時における価額」の評価方法差戻し3月30日・一小平成30年(受)第908号歩合給の計算に当たり残業手当等相当額を控除する賃金規則に基づく残業手当等の支払により割増賃金が支払われたといえるか差戻し3月30日・一小平成30年(受)第761号同上(別件)差戻し3月30日・一小令和元年(受)第1922号同上(別件)差戻し4月7日・三小平成31年(受)第606号強制執行の費用のうち民事訴訟費用等に関する法律2条各号の費目のものを不法行為の損害として主張することの許否一部自判6月26日・二小令和元年(行ヒ)第252号被相続人に既に告知された地方団体の徴収金につき相続人に納付等を求める通知と消滅時効の中断一部自判6月30日・三小令和2年(行ヒ)第68号ふるさと納税制度に係る平成31年総務省告示第179号2条3号の規定の法適合性自判7月2日・一小平成31年(行ヒ)第61号制限超過利息等の不当利得返還請求権に係る破産債権が確定した場合に受領日の属する事業年度の益金の額を減額する計算方法の適否自判7月6日・一小平成31年(行ヒ)第97号いじめで受傷した生徒に医師へ虚偽の説明をするよう指示したこと等を理由とする市立中学校教諭の停職処分の適否自判7月7日・三小平成31年(受)第184号法例改正法(平成元年法律第27号)施行前の嫡出でない子と母との間の分娩による親子関係の成立の準拠法一部差戻し7月14日・三小平成31年(行ヒ)第40号複数の公務員が国家賠償法1条2項による求償債務を連帯して負う場合一部自判9月3日・一小平成31年(受)第558号事業協同組合の理事選挙の取消しの訴えに後任理事等を選出する後行の選挙の効力を争う訴えが併合されている場合における先行選挙の取消しを求める訴えの利益の有無差戻し9月7日・二小平成31年(受)第619号特許権者の第三者に対する特許権侵害を理由とする損害賠償請求権が存在しないことの確認を求める訴えの確認の利益一部自判9月8日・三小平成31年(受)第133号不当利得返還請求訴訟の係属中に不法行為に基づく損害賠償請求を追加したことにより消滅時効中断効が生ずるか一部自判9月8日・三小平成31年(受)第61号破産者の支払停止前の請負契約に基づく注文者の違約金債権と破産法72条2項2号の「前に生じた原因」、相殺の許否自判9月11日・二小平成30年(受)第2064号請負代金債権と瑕疵修補に代わる損害賠償債権の一方を本訴、他方を反訴の請求債権とする本訴・反訴の係属中に、反訴請求債権を自働債権とする相殺の抗弁の許否自判9月18日・二小平成31年(受)第310号区分所有法所定の先取特権を有する債権者の配当要求により消滅時効中断効が生ずるための要件一部差戻し10月9日・二小令和元年(受)第877号・第878号少年保護事件を題材として家庭裁判所調査官が執筆した論文の公表とプライバシー侵害一部自判10月9日・二小平成30年(受)第2032号家庭裁判所調査官が執筆した論文の執筆届の決裁に係る家庭裁判所職員の注意義務の有無等自判10月13日・三小令和元年(受)第1055号・第1056号賞与に関する労働条件の相違と労働契約法(平成30年法律第71号による改正前)20条一部自判10月13日・三小令和元年(受)第1190号・第1191号退職金に関する労働条件の相違と同条一部自判10月15日・一小令和元年(受)第777号・第778号私傷病による病気休暇に関する労働条件の相違と同条一部差戻し10月15日・一小令和元年(受)第794号・第795号年末年始勤務手当等に関する労働条件の相違と同条一部差戻し10月20日・三小令和2年(行ツ)第130号訴えの利益の消滅自判11月27日・二小令和元年(受)第1900号公認会計士協会の上場会社監査事務所名簿への登録を認めない旨の決定の前提となる監査の基準不適合の事実差戻し12月15日・三小令和2年(受)第887号同一当事者間に数個の金銭消費貸借契約に基づく各元本債務がある場合の充当指定のない一部弁済と消滅時効の中断一部自判12月22日・三小平成30年(受)第1961号有価証券届出書の虚偽記載と元引受けの金融商品取引業者等の金商法21条2項3号による免責の要件一部差戻し

破棄決定5件は、年次解説の破棄事件決定一覧表によれば、次のとおりである(9月2日の決定は職権による破棄である。)。

決定日・法廷事件番号内容結果1月23日・一小平成31年(許)第1号婚姻費用分担審判の申立て後に当事者が離婚した場合における婚姻費用分担請求権の帰すう差戻し3月24日・三小令和元年(許)第12号捜査段階の鑑定書の法律関係文書該当性差戻し4月16日・一小令和元年(許)第14号ハーグ条約実施法117条1項の類推適用の可否差戻し8月6日・一小令和元年(許)第16号財産分与における給付命令の許否差戻し9月2日・二小令和2年(ク)第275号・令和2年(許)第11号売却許可決定に対する執行抗告の許否自判
第3 40件から見える五つの監査領域
1 訴えの利益・確認の利益

令和2年度は、訴えの利益・確認の利益に関する破棄が目立つ。市道に越境する樹木等の除却命令の差止めの訴えは、原判決言渡し後に除却命令がされたことにより訴えの利益が失われたとして、最高裁が職権で原判決を破棄し、訴えを却下した(10月20日第三小法廷判決)。年次解説によれば、上告審で訴えが不適法になった場合にも、口頭弁論を経ずにその旨の判決をすることができると説明されている。

このほか、事業協同組合の理事選挙の取消しの訴えに後任理事等を選出する後行選挙の効力を争う訴えが併合されている場合の訴えの利益(9月3日第一小法廷判決)、特許権者の第三者に対する損害賠償請求権の不存在確認の利益(9月7日第二小法廷判決)、本訴・反訴の係属中の相殺の抗弁の許否(9月11日第二小法廷判決)等、手続の入口に関する判断が続いた。

受任時と上訴前には、訴訟の係属中に処分がされるなどして訴えの利益が失われていないか、確認の対象が適切かを、請求の内容とは別に点検しておくとよい。

2 時効の中断と期間の起算点

時効に関しては、不当利得返還請求訴訟の係属中に不法行為に基づく損害賠償請求を追加した場合(9月8日第三小法廷判決)、区分所有法上の先取特権に基づく配当要求(9月18日第二小法廷判決)、充当の指定のない一部弁済(12月15日第三小法廷判決)、地方団体の徴収金の相続人に対する納付の通知(6月26日第二小法廷判決)と、いずれも「時効の中断」が問題となる判断が4件ある。家屋の評価の誤りによる固定資産税等の過大決定についての損害賠償請求権の除斥期間の起算点(3月24日第三小法廷判決2件)も破棄されている。

これらは時効の「中断」や除斥期間といった判決当時の制度を前提とする判断であるから、現在の事件で用いるときは、現行の規定と経過措置を確認する必要がある。

3 不法行為と使用者・専門家の責任

被用者が第三者に損害を賠償した場合の使用者に対する求償(2月28日第二小法廷判決、第4の1)のほか、盗難自動車による物損事故と盗難に遭った会社の過失(1月21日第三小法廷判決)、登記申請の委任を受けた司法書士の委任者以外の者に対する注意義務(3月6日第二小法廷判決)、有価証券届出書の虚偽記載と元引受けの金融商品取引業者等の免責(12月22日第三小法廷判決)等、責任の主体と範囲を問う判断が多い。

家庭裁判所調査官が少年保護事件を題材に執筆した論文の公表とプライバシー侵害(10月9日第二小法廷判決2件)も破棄されている。

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平成30年度最高裁民事破棄判決等の実情―24判決から学ぶ訴えの利益・相続分譲渡・労働条件と差戻審実務(AI作成)

目次第1 資料の性質と確認範囲1 年次解説は有力な索引であるが判決原文ではない2 24判決・破棄決定0件という数字の読み方第2 24判決の一覧第3 24判決から見える五つの監査領域1 訴えの入口と手続の土台2 相続と財産3 労働条件と企業の責任4 交通事故・人身保護・刑事施設5 行政・公金・公務員第4 裁判所ウェブサイトで全文を確認した代表5判決1 グループ会社の相談窓口―求められた対応をしなかったことだけで義務違反とはいえない2 無償の相続分譲渡―原則として民法903条1項の「贈与」に当たる3 弁護士会照会―報告義務の確認を求める訴えは確認の利益を欠く4 業務手当と割増賃金―労働者が直ちに請求できる仕組みがないことだけで否定しない5 有期契約労働者の手当―労働契約法20条違反でも無期契約と同一の労働条件にはならない第5 破棄差戻し後まで見据える第6 旧法判例を現在の事件へ使う手順第7 受任後に作る四つの実務台帳第8 出典及び確認状態

平成30年度の最高裁民事破棄判決等を読む意義は、個々の結論を覚えることではなく、原判決のどの段階に誤りが入り、最高裁がどの範囲を是正し、何を事実審へ差し戻したかを確認することにある。本記事は、松田敦子・中島崇「最高裁民事破棄判決等の実情―平成30年度―」を年度全体の索引として用い、裁判所ウェブサイトで全文を確認できた代表5判決を一次資料として照合した実務整理である。

第1 資料の性質と確認範囲
1 年次解説は有力な索引であるが判決原文ではない

年次解説は、平成30年中に最高裁判所で言い渡された民事(行政事件、労働事件を含む。)の破棄判決を、最高裁判所調査官が破棄事由ごとに分類して紹介したものである(判例時報2420号5頁以下)。
民集又は集民に登載された判決は判示事項と判決要旨を紹介した上で説明し、登載されていないものは本文の関係部分を摘示して紹介するという方式がとられている。

もっとも、年次解説の要約や摘記は判決原本そのものではない。個別事件へ引用するときは、事件番号・裁判年月日を手掛かりに、裁判所公式全文、判例集又は認証された判例データベースの本文へ戻る必要がある。

本記事で裁判所ウェブサイトの全文と書誌を確認したのは、第4で紹介する5判決である。残る判決は年次解説の記述によるものであり、個別の本文は未照合である。判例秘書による照合は行っていない。これは「掲載なし」を意味しない。

2 24判決・破棄決定0件という数字の読み方

年次解説によれば、平成30年の新受件数は、上告事件2116件、上告受理申立て事件2562件の合計4678件であり、並行申立てを1件と換算すると2844件である。既済件数は、上告事件2112件、上告受理申立て事件2528件の合計4640件であり、換算後は2812件である。許可抗告事件は新受15件、既済11件であった。

破棄判決は24件(判決書単位)であり、換算後の既済件数2812件を分母とした割合は0・9%である。年次解説は、過去5年間の推移を、平成26年42件(1・1%)、平成27年32件(0・9%)、平成28年39件(1・1%)、平成29年22件(0・7%)、平成30年24件(0・9%)と示している。
破棄判決24件の内訳は、差戻し(一部差戻しを含む。)が10件、自判(一部自判を含む。)が15件であり、そのうち1件は一部差戻しと一部自判の双方を含む。論旨に基づく破棄が23件、職権による破棄が1件である。民集に登載されたものが10件、集民に登載されたものが9件、いずれにも登載されなかったものが5件である。

平成30年には、民事の破棄決定は特別抗告事件・許可抗告事件のいずれも0件であった。年次解説が示す許可抗告事件の破棄決定は、平成26年4件、平成27年7件、平成28年2件、平成29年7件であり、過去4年はいずれも1件以上あった。

これらは特定年度の判決書単位の歴史的統計である。現在の上告・上告受理申立ての「成功率」として用いてはならない。

第2 24判決の一覧

年次解説の破棄事件判決一覧表に基づき、言渡期日順に整理すると次のとおりである(判決日はいずれも平成30年)。内容欄は一覧表の「主な問題点」欄を要約したものであり、結果欄も一覧表による。

判決日・法廷事件番号内容結果1月19日・二小平成29年(行ヒ)第46号内閣官房報償費の支出に関する行政文書の情報と情報公開法5条3号・6号の不開示情報一部自判1月19日・二小平成28年(行ヒ)第218号同上(別件)一部自判1月19日・二小平成28年(行ヒ)第228号同上(別件)一部自判2月15日・一小平成28年(受)第2076号親会社が子会社従業員による相談の申出の際に求められた対応をしなかったことと信義則上の義務違反自判3月15日・一小平成29年(受)第2015号国境を越えて日本へ連れ去られた子の人身保護請求と、意思能力のある子に対する監護の「拘束」該当性等差戻し3月30日・二小平成30年(オ)第93号法律に従って判決裁判所を構成しなかったこと(職権破棄)差戻し4月26日・一小平成29年(行ヒ)第216号県議会議長の議員に対する発言取消命令の適否は司法審査の対象となるか自判6月1日・二小平成28年(受)第2099号・第2100号有期契約労働者と無期契約労働者の労働条件の相違と労働契約法20条一部差戻し6月1日・二小平成29年(受)第442号同上(別件)一部自判・一部差戻し7月17日・三小平成29年(受)第1738号民法248条による償金請求権等に基づいて支払うべき利益の現存額自判7月17日・三小平成28年(行ヒ)第406号接する街路が建築基準法42条1項3号の道路に当たることを前提とする固定資産の価格決定差戻し7月19日・一小平成28年(受)第563号国歌斉唱時の起立斉唱の職務命令違反を理由に再任用等の選考で不合格としたことの適法性自判7月19日・一小平成29年(受)第842号業務手当が割増賃金に当たるか差戻し9月27日・一小平成29年(受)第659号・第660号交通事故の被害者の自賠法16条1項の直接請求権と国が代位取得した直接請求権との優先関係等一部差戻し9月28日・二小平成28年(受)第1978号無権代理人が民法117条1項に基づく債務の履行を拒むことの可否自判10月19日・二小平成29年(受)第1735号共同相続人間の無償による相続分の譲渡と民法903条1項の「贈与」差戻し10月23日・三小平成29年(行ヒ)第185号住民訴訟の係属中にされた市の請求権を放棄する市議会の議決の適法性自判10月25日・一小平成29年(受)第990号保護室に収容中の未決拘禁者との面会を、申出を本人に告げずに許さなかった刑事施設の長の措置の違法性差戻し11月6日・三小平成29年(行ヒ)第320号勤務時間中のわいせつ行為等を理由とする停職6月の懲戒処分の適法性自判11月6日・三小平成29年(行ヒ)第226号財産の譲渡の議案を可決する議決と地方自治法237条2項の議会の議決自判11月16日・二小平成29年(行ヒ)第404号政務活動費等の収支報告書上の支出の一部が架空でも不当利得返還義務を負わない場合自判12月17日・一小平成30年(受)第16号・第17号依頼を受けて自動車の名義上の所有者兼使用者となった者と自賠法3条の運行供用者差戻し12月18日・三小平成29年(行ヒ)第292号不正受給者に対する生活保護法(改正前)78条の費用徴収額と基礎控除相当額自判12月21日・二小平成29年(受)第1793号弁護士会照会をした弁護士会が相手方の報告義務の確認を求める利益自判
第3 24判決から見える五つの監査領域
1 訴えの入口と手続の土台

平成30年度唯一の職権破棄は、法律に従って判決裁判所を構成しなかったという絶対的上告理由に当たる事件である(3月30日第二小法廷判決)。判決裁判所の構成のような手続の土台に関する誤りが、職権で取り上げられた例である。

県議会議長の議員に対する発言取消命令の適否が司法審査の対象となるか(4月26日第一小法廷判決)、弁護士会照会をした弁護士会が相手方の報告義務の確認を求める利益があるか(12月21日第二小法廷判決、第4の3)は、いずれも本案に入る前の入口の問題である。

受任時には、裁判所が判断できる紛争か、確認の利益など訴えの利益があるか、判決裁判所の構成に問題がないかを、請求の内容とは別に点検しておくとよい。

2 相続と財産

共同相続人間の無償による相続分の譲渡が民法903条1項の「贈与」に当たるか(10月19日第二小法廷判決、第4の2)は、遺留分の算定に直結する判断である。

また、無権代理人が民法117条1項に基づく債務の履行を拒むことの可否(9月28日第二小法廷判決)や、民法248条による償金請求権等に基づいて支払うべき利益の現存額(7月17日第三小法廷判決)も、財産関係の基本的な規律が問題となった事件である。

3 労働条件と企業の責任

平成30年度は、労働分野の判断が多い。有期契約労働者と無期契約労働者の労働条件の相違と労働契約法20条(6月1日第二小法廷判決2件、第4の5)、業務手当が割増賃金に当たるか(7月19日第一小法廷判決、第4の4)、親会社が子会社従業員による相談の申出の際に求められた対応をしなかったことと信義則上の義務違反(2月15日第一小法廷判決、第4の1)である。

いずれも、契約書や規程の文言だけでなく、手当の趣旨、運用の実態、相談窓口の仕組みの具体的内容等の事実関係によって結論が左右されている。

4 交通事故・人身保護・刑事施設

自賠法の分野では、被害者の直接請求権と国が代位取得した直接請求権との優先関係等(9月27日第一小法廷判決)と、依頼を受けて自動車の名義上の所有者兼使用者となった者が運行供用者に当たるか(12月17日第一小法廷判決)が破棄されている。

(続きを読む...)平成30年度最高裁民事破棄判決等の実情―24判決から学ぶ訴えの利益・相続分譲渡・労働条件と差戻審実務(AI作成)

平成29年度最高裁民事破棄判決等の実情―22判決・9決定から学ぶ訴訟承継・損害審理・割増賃金と差戻審実務(AI作成)

目次第1 資料の性質と確認範囲1 年次解説は有力な索引であるが判決原文ではない2 22判決・9決定という数字の読み方第2 22判決・9決定の一覧第3 31件から見える五つの監査領域1 訴訟の入口と手続の土台2 損害と事実の審理を省略しない3 相続・家族と財産4 労働・取引の契約条項の効力5 行政・税・公金第4 裁判所ウェブサイトで全文を確認した代表5判決1 節税目的の養子縁組―それだけで縁組意思がないとはいえない2 共同相続された定期預金・定期積金―相続開始と同時に当然には分割されない3 個人情報の漏えい―プライバシー侵害の精神的損害を審理しないまま棄却しない4 タクシー乗務員の歩合給―公序良俗違反とするだけで割増賃金の審理を省略しない5 認定司法書士の裁判外の和解―弁護士法72条違反でも当然には無効とならない第5 破棄差戻し後まで見据える第6 旧法判例を現在の事件へ使う手順第7 受任後に作る四つの実務台帳第8 出典及び確認状態

平成29年度の最高裁民事破棄判決等を読む意義は、個々の結論を覚えることではなく、原判決のどの段階に誤りが入り、最高裁がどの範囲を是正し、何を事実審へ差し戻したかを確認することにある。本記事は、齋藤毅・中丸隆「最高裁民事破棄判決等の実情―平成二九年度―」を年度全体の索引として用い、裁判所ウェブサイトで全文を確認できた代表5判決を一次資料として照合した実務整理である。

第1 資料の性質と確認範囲
1 年次解説は有力な索引であるが判決原文ではない

年次解説は、平成29年中に最高裁判所で言い渡された民事(行政事件、労働事件を含む。)の破棄判決及び破棄決定を、最高裁判所調査官が破棄事由ごとに分類して紹介したものである(判例時報2374号3頁以下)。
民集又は集民に登載された判決・決定は判示事項と要旨を紹介した上で説明し、登載されていないものは本文の関係部分を摘示して紹介するという方式がとられている。

もっとも、年次解説の要約や摘記は判決原本そのものではない。個別事件へ引用するときは、事件番号・裁判年月日を手掛かりに、裁判所公式全文、判例集又は認証された判例データベースの本文へ戻る必要がある。

本記事で裁判所ウェブサイトの全文と書誌を確認したのは、第4で紹介する5判決である。残る判決・決定は年次解説の記述によるものであり、個別の本文は未照合である。判例秘書による照合は行っていない。これは「掲載なし」を意味しない。

2 22判決・9決定という数字の読み方

年次解説によれば、平成29年の新受件数は、上告事件2235件、上告受理申立て事件2727件の合計4962件であり、並行申立てを1件と換算すると3046件である。既済件数は、上告事件2255件、上告受理申立て事件2782件の合計5037件であり、換算後は3111件である。許可抗告事件は新受33件、既済52件であった。

破棄判決は22件(判決書単位)であり、換算後の既済件数3111件を分母とした割合は0・7%である。年次解説は、過去5年間の推移を、平成25年34件(0・9%)、平成26年42件(1・1%)、平成27年32件(0・9%)、平成28年39件(1・1%)、平成29年22件(0・7%)と示している。
破棄判決22件の内訳は、差戻し(一部差戻しを含む。)が11件、自判(一部自判を含む。)が11件であり、全て論旨に基づく破棄で、職権による破棄はない。民集に登載されたものが7件、集民に登載されたものが11件、いずれにも登載されなかったものが4件である。

破棄決定は9件(決定書単位)であり、その内訳は特別抗告事件2件、許可抗告事件7件である。許可抗告事件の既済件数52件を分母とした割合は13・4%である。結果は差戻し2件、自判4件、その他3件であり、論旨に基づく破棄が6件、職権による破棄が1件、論旨及び職権の両方による破棄が2件である。

これらは現行民事訴訟法下の数字であるが、特定年度の判決書・決定書単位の歴史的統計である。現在の上告・上告受理申立ての「成功率」として用いてはならない。

第2 22判決・9決定の一覧

年次解説の破棄事件判決一覧表に基づき、言渡期日順に整理すると次のとおりである(判決日はいずれも平成29年)。内容欄は一覧表の「主な問題点」欄を要約したものであり、結果欄も一覧表による。

判決日・法廷事件番号内容結果1月31日・三小平成28年(受)第1255号専ら相続税の節税のための養子縁組と民法802条1号の「縁組をする意思がないとき」自判2月21日・三小平成27年(受)第659号名義貸しの立替払契約における販売業者の告知と割賦販売法の「購入者の判断に影響を及ぼすこととなる重要なもの」差戻し2月21日・三小平成27年(受)第660号同上(別件)差戻し2月28日・三小平成27年(受)第1876号商標法4条1項10号の無効審判が請求されないまま5年経過した後の権利濫用の抗弁一部差戻し2月28日・三小平成28年(行ヒ)第169号私道の用に供されている宅地(歩道状空地)の相続税評価差戻し2月28日・三小平成27年(受)第1998号タクシー乗務員の歩合給から残業手当等相当額を控除する賃金規則の効力差戻し3月13日・二小平成28年(受)第944号主たる債務者への支払督促が、同じ当事者間の保証契約に基づく保証債務履行請求権の消滅時効を中断するか自判4月6日・一小平成27年(行ヒ)第349号じん肺管理区分(管理一)決定の取消訴訟の係属中に原告が死亡した場合の訴訟承継差戻し4月6日・一小平成28年(受)第579号共同相続された定期預金債権・定期積金債権は相続開始と同時に当然に分割されるか一部自判4月21日・二小平成28年(行ヒ)第14号特別支給の老齢厚生年金の額の改定(退職改定)の要件自判7月7日・二小平成28年(受)第222号医師の年俸に時間外労働等の割増賃金を含める合意一部差戻し7月24日・一小平成28年(受)第1463号認定司法書士が弁護士法72条に違反して締結した裁判外の和解契約の効力自判9月8日・二小平成28年(行ヒ)第371号水俣病認定患者が原因企業から損害賠償を受けた場合の公害健康被害補償法上の障害補償費自判9月14日・一小平成28年(受)第1187号工業用水道の使用廃止者の負担金と地方自治法の「分担金」差戻し9月15日・二小平成28年(行ヒ)第33号教員採用試験の不正関与者に対する県の求償権の不行使一部差戻し10月17日・三小平成28年(受)第2009号株主でないとの判決が確定した原告による株主代表訴訟の適法性自判10月23日・二小平成28年(受)第1892号個人情報の漏えいによる精神的損害の有無等差戻し10月24日・三小平成28年(行ヒ)第224号シンガポール子会社の地域統括業務とタックス・ヘイブン対策税制の適用除外自判12月18日・一小平成28年(行ヒ)第404号の1被爆者健康手帳交付申請却下処分の取消訴訟等の係属中に原告が死亡した場合の訴訟承継一部自判12月18日・一小平成28年(行ヒ)第404号の2同上(別件)一部自判12月18日・一小平成29年(受)第84号マンション管理組合の理事会の決議による理事長の解職差戻し12月19日・三小平成28年(受)第1797号差押え後の第三債務者の弁済と破産法162条1項の否認一部自判

破棄決定9件は、年次解説の破棄事件決定一覧表によれば、次のとおりである(12月22日の2件は特別抗告事件、その余の7件は許可抗告事件である。)。

決定日・法廷事件番号内容結果5月17日・二小平成28年(許)第49号父母が戸籍に記載されていないことと戸籍法104条3項の「責めに帰することができない事由」自判9月5日・三小平成28年(許)第40号訴訟上の救助を受けた者の猶予費用の取立てをすることができる額の算定方法差戻し10月5日・一小平成29年(許)第6号破産者の依頼を承諾したことのある弁護士が破産管財人を原告とする訴訟で被告の訴訟代理人となることと弁護士法25条1号自判10月10日・三小平成28年(許)第46号債権差押命令の申立日の翌日以降の遅延損害金も取立金の充当の対象となるか自判12月12日・三小平成28年(許)第43号仲裁人の開示義務(仲裁法18条4項)違反の要件差戻し12月13日・二小平成29年(許)第27号上告受理申立て理由の記載の有無破棄12月19日・三小平成29年(行フ)第3号資格決定処分を受けた村議会議員が、補欠選挙を争わなくても効力停止決定又は取消判決により地位を回復し得るか自判12月22日・二小平成29年(ク)第898号特別抗告を却下した原決定の当否破棄12月22日・二小平成29年(ク)第899号抗告を許可しなかった原決定の当否破棄
第3 31件から見える五つの監査領域
1 訴訟の入口と手続の土台

平成29年度は、原告が訴訟の係属中に死亡した場合の訴訟承継が2つの分野で問題となった。じん肺管理区分の決定の取消訴訟(4月6日第一小法廷判決)と、被爆者健康手帳交付申請却下処分の取消訴訟等(12月18日第一小法廷判決2件)である。年次解説によれば、じん肺管理区分の事件では、原審が原告の死亡により訴訟は当然に終了したとして訴訟終了宣言をしたのに対し、最高裁は、労働者災害補償保険法11条1項に規定する者が訴訟を承継するとして、原判決を破棄し差し戻した。
本記事では、原告の死亡によって訴訟が当然に終了するかどうかは、争われている地位が一身専属的なものにとどまるか、相続人等が引き継ぐべき法律上の利益を伴うかによって分かれると整理する。

また、株主でないとの判決が確定した原告による株主代表訴訟の適法性(10月17日第三小法廷判決)、上告受理申立て理由の記載の有無(12月13日第二小法廷決定)、特別抗告・抗告許可の申立てを却下・不許可とした原決定の当否(12月22日第二小法廷決定2件)等、手続の入口に関する破棄が目立つ。

受任時、争点整理終結時及び上訴前には、当事者の死亡・承継の可能性、当事者適格、上訴理由書の記載事項及び申立ての方式を一覧にして点検するとよい。

2 損害と事実の審理を省略しない

個人情報の漏えいによる損害賠償請求事件(10月23日第二小法廷判決)では、不快感や不安を超える損害の主張立証がないことだけを理由に請求を棄却した原審の判断に、審理不尽の違法があるとされた(第4の3)。

同じく差戻しとなった私道の用に供されている宅地(歩道状空地)の相続税評価(2月28日第三小法廷判決)、工業用水道の使用廃止者の負担金(9月14日第一小法廷判決)、マンション管理組合の理事長の解職(12月18日第一小法廷判決)等も、年次解説の一覧表では差戻しとされている。

損害や評価が争点となる事件では、「損害がない」「区別できない」という結論に直行せず、どの事実を立証すれば損害の有無と程度が判断できるかを、証拠と結び付けて整理しておくべきである。

3 相続・家族と財産

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平成20年度最高裁民事破棄判決等の実情―52判決・3決定から学ぶ訴訟の入口・損害額認定・損益相殺と差戻審実務(AI作成)

目次第1 資料の性質と確認範囲1 年次解説は有力な索引であるが判決原文ではない2 52判決・3決定という数字の読み方第2 52判決・3決定の一覧第3 55件から見える五つの監査領域1 訴訟の入口と手続の土台2 事実認定と損害額の認定3 不当利得・過払金と損益相殺4 契約・会社・取引の外観5 行政・税・公金第4 裁判所ウェブサイトで全文を確認した代表5判決1 国籍法3条1項の違憲判断―準正要件を除いた要件で国籍を取得する2 土地区画整理事業計画の決定の処分性―早い段階で争う道を開く3 ヤミ金融業者の貸付けと損益相殺―民法708条の趣旨4 採石権侵害と民訴法248条―損害額が分からないことを理由に請求を棄却しない5 会社分割とゴルフクラブの名称続用―会社法22条1項の類推適用第5 破棄差戻し後まで見据える第6 旧法判例を現在の事件へ使う手順第7 受任後に作る四つの実務台帳第8 出典及び確認状態

平成20年度の最高裁民事破棄判決等を読む意義は、個々の結論を覚えることではなく、原判決のどの段階に誤りが入り、最高裁がどの範囲を是正し、何を事実審へ差し戻したかを確認することにある。本記事は、増森珠美・清野正彦「最高裁民事破棄判決等の実情(上)(下)―平成二〇年度―」を年度全体の索引として用い、裁判所ウェブサイトで全文を確認できた代表5判決を一次資料として照合した実務整理である。

第1 資料の性質と確認範囲
1 年次解説は有力な索引であるが判決原文ではない

年次解説は、平成20年中に最高裁判所で言い渡された民事(行政事件、労働事件を含む。)の破棄判決及び破棄決定を、最高裁判所調査官が破棄事由ごとに分類して紹介したものである(判例時報2043号3頁以下、2044号14頁以下)。
民集又は集民に登載された判決・決定は判示事項と要旨を紹介した上で説明し、登載されていないものは本文の関係部分を摘示して紹介するという方式がとられている。

もっとも、年次解説の要約や摘記は判決原本そのものではない。個別事件へ引用するときは、事件番号・裁判年月日を手掛かりに、裁判所公式全文、判例集又は認証された判例データベースの本文へ戻る必要がある。

本記事で裁判所ウェブサイトの全文と書誌を確認したのは、第4で紹介する5判決である。残る判決・決定は年次解説の記述によるものであり、個別の本文は未照合である。判例秘書による照合は行っていない。これは「掲載なし」を意味しない。

2 52判決・3決定という数字の読み方

年次解説によれば、平成20年の新受件数は、上告事件2257件、上告受理申立て事件2653件の合計4910件であり、並行申立て(1801件)を1件と換算すると3109件である。既済件数は合計4634件であり、並行申立て(1682件)を1件と換算すると2952件である。許可抗告事件は新受58件、既済54件であった。

破棄判決は52件、破棄決定は3件である。この52件は判決書単位の数であり、上告と上告受理申立ての並行申立てがされた事件や、複数の当事者からの上訴を併合した事件を一通の判決書で処理したものは1件と数えている。年次解説の目次では、判決はすべて「論旨に基づいて破棄された判決」に分類されている。

年次解説の破棄事件判決一覧表の結果欄を数えると、差戻し(一部破棄差戻しを含む。)が28件、自判(一部破棄自判を含む。)が24件である。ただし、「自判」には、第一審判決を取り消して第一審へ差し戻したもの(土地区画整理事業計画の判決及び入会権確認の判決)も含まれている。

これらは旧来の上告制度ではなく現行民事訴訟法下の数字であるが、それでも、特定年度の判決書単位の歴史的統計である。現在の上告・上告受理申立ての「成功率」として用いてはならない。

第2 52判決・3決定の一覧

年次解説の破棄事件判決一覧表に基づき、言渡期日順に整理すると次のとおりである(判決日はいずれも平成20年)。内容欄は一覧表の「主な問題点」欄を要約したものであり、結果欄も一覧表による。

判決日・法廷事件番号内容結果1月18日・二小平成18年(受)第2268号第一の基本契約に係る過払金を第二の基本契約の借入金債務に充当することの可否差戻し1月18日・二小平成17年(行ヒ)第304号土地開発公社が市との委託契約に基づいて先行取得した土地について市がその義務の履行として同公社から同土地を買い取る売買契約を締結することが違法となる場合差戻し1月24日・一小平成18年(受)第1572号遺留分権利者が価額弁償請求権を確定的に取得する時期一部自判1月24日・一小平成18年(受)第1154号労働者が労働基準法76条所定の休業補償と同一の事由について休業補償給付を受けるべき場合における使用者の休業補償義務の範囲自判1月28日・二小平成17年(受)第1372号融資を実行した銀行の取締役の責任(拓銀栄木関係)一部自判1月28日・二小平成17年(受)第1440号融資を実行した銀行の取締役の責任(拓銀カブトデコム関係)自判2月15日・二小平成18年(受)第2084号有価証券募集の際の不実の目論見書の使用者の損害賠償責任差戻し2月18日・一小平成19年(行ヒ)第138号原爆被爆者に対する援護に関する法律に基づく健康管理手当の受給権につき地方自治法236条の消滅時効を主張することの可否自判2月19日・三小平成15年(行ツ)第157号・同年(行ヒ)第164号輸入しようとした写真集の関税定率法(平成17年法律第22号による改正前)21条1項4号「風俗を害すべき書籍、図画」該当性一部自判2月22日・二小平成19年(受)第528号会社の貸付けと商行為性の推定差戻し2月28日・一小平成19年(受)第733号保険金請求権の消滅時効と約款に基づく履行期の合意による延長差戻し2月28日・一小平成17年(行ヒ)第47号生活保護開始決定の変更決定の適否自判2月29日・二小平成19年(受)第955号他の相続人に無断で相続財産を葬儀費用に支出した相続人が不法行為責任を負うか一部差戻し2月29日・二小平成18年(受)第192号賃料自動改定特約のある建物賃貸借契約の相当賃料額算定に当たり経済事情の変動等を考慮すべき期間差戻し3月6日・一小平成19年(オ)第403号・同年(受)第454号住基ネットと憲法13条自判3月7日・二小平成19年(受)第980号競売建物につき法定地上権を考慮せずに代金額を算定した原審の判断の当否一部差戻し3月17日・一小平成18年(行ヒ)第168号公金の支出から1年を経過して住民監査請求がされたことについての正当な理由の有無差戻し3月18日・三小平成18年(受)第2056号いわゆるわらの上からの養子に対する親子関係不存在確認請求と韓国法における権利濫用差戻し3月27日・一小平成18年(受)第1870号労災に基づく損害賠償請求事件における使用者側の過失相殺の主張の可否差戻し3月27日・一小平成18年(行ヒ)第102号土地の譲渡所得が確定申告において税額の計算の基礎とされていなかったことについての正当な理由の有無一部自判4月15日・三小平成18年(受)第263号弁護士と受刑者との接見を許可しなかった刑務所長の措置の違法性自判4月18日・二小平成19年(受)第1180号小学校の教室内の事故につき担任教諭の過失を認めた原審の判断の当否自判4月24日・一小平成18年(受)第1632号チーム医療の総責任者の説明義務差戻し6月4日・大法廷平成18年(行ツ)第135号国籍法3条1項の憲法適合性と日本国籍の取得の可否(退去強制令書発付処分取消等)自判6月4日・大法廷平成19年(行ツ)第164号国籍法3条1項の憲法適合性と日本国籍の取得の可否(国籍確認)自判6月10日・三小平成18年(受)第265号採石権侵害の不法行為による損害と民訴法248条一部差戻し6月10日・三小平成19年(受)第569号ヤミ金融業者による高利の貸付けと損益相殺差戻し6月10日・三小平成18年(受)第890号会社分割後のゴルフクラブの名称続用と会社法22条1項の類推適用自判6月12日・一小平成19年(受)第808号ほか5件取材を受けた者が放送内容等について抱いた期待、信頼が侵害されたことを理由とする不法行為の成否自判6月24日・三小平成19年(受)第1146号投資資金名目の詐欺と損益相殺差戻し7月4日・二小平成19年(受)第1401号コンビニのフランチャイザーの加盟店に対する報告義務差戻し7月4日・二小平成19年(受)第1386号・同年(オ)第1515号パトカーと衝突した自動二輪車の運転者の過失を同乗者の過失として過失相殺することの可否差戻し7月8日・三小平成18年(受)第1214号パチンコ店開業妨害目的で診療所を開設するなどした医師等の不法行為責任一部差戻し7月10日・一小平成19年(受)第1985号債権の一部についての前訴の確定判決の既判力差戻し7月10日・一小平成19年(行ヒ)第318号特許異議申立事件係属中に複数の請求項に係る訂正請求がされた場合の許否の判断一部自判7月15日・三小平成18年(受)第1877号瑕疵ある建物について建築士が不法行為責任を負う場合差戻し7月17日・一小平成18年(受)第1818号訴え提起に同調しない入会権者を被告に加えた入会権確認の訴えの当事者適格自判9月8日・二小平成19年(受)第46号不真正連帯債務関係にある被告らのうち一名に対する関係でのみ相殺の効力を認めた原審の判断の当否一部自判9月8日・二小平成19年(行ヒ)第223号土人形等を指定商品とする商標の類否差戻し9月10日・大法廷平成17年(行ヒ)第397号市町村施行の土地区画整理事業の事業計画の決定の行政処分該当性自判9月12日・二小平成19年(オ)第1344号代表権の欠缺差戻し9月12日・二小平成19年(受)第1040号子の友人が運転中に起こした事故と父親の自賠法3条にいう「運行供用者性」差戻し10月7日・三小平成20年(受)第12号被害者側加入の人身傷害保険金を過失相殺後の損害額から控除した原審の判断の当否差戻し10月10日・二小平成19年(受)第152号振込の原因となる法律関係が存在しない場合における預金の払戻請求と権利濫用差戻し10月10日・二小平成19年(行ヒ)第68号20歳未満で統合失調症を発症したが医師の診断を受けた時点で20歳に達していた大学の学生等の障害基礎年金の受給権の有無自判10月24日・二小平成19年(行ヒ)第285号都民税の減額更正により生じた過納金に係る還付加算金の起算日一部差戻し11月7日・二小平成19年(受)第1878号目撃者に準ずる者の証人尋問を行わずに痴漢行為を認定した原審の判断の当否差戻し11月25日・三小平成19年(行ヒ)第91号建築基準法42条2項所定の「現に建築物が立ち並んでいる道」該当性自判11月27日・一小平成19年(行ヒ)第215号普通地方公共団体の予算執行職員等が地方自治法(平成18年法律第53号による改正前)243条の2第1項後段による損害賠償責任を負う場合自判12月11日・一小平成20年(行ヒ)第29号遺産分割調停調書を添付してされた建物の所有権移転登記申請についての登記原因証明情報の提供の有無自判12月19日・二小平成19年(行ヒ)第222号市町村施行の土地区画整理事業の事業計画の変更決定の行政処分該当性自判12月19日・二小平成19年(受)第670号過払金返還の際に悪意の受益者が付すべき利息の利率差戻し

破棄決定3件は、いずれも許可抗告事件であり、次のとおりである。

決定日・法廷事件番号内容結果3月26日・二小平成19年(許)第34号上告受理申立て理由書に所定の理由の記載がないとして上告受理申立てを却下した原決定の当否破棄7月18日・二小平成20年(許)第12号簡易裁判所の管轄に属する訴訟について、被告の移送申立てを却下する地方裁判所の判断と裁量自判12月16日・三小平成20年(許)第46号同上(専属的管轄合意に係る簡易裁判所への移送申立て)自判
第3 55件から見える五つの監査領域
1 訴訟の入口と手続の土台

代表権の欠缺が問題となった9月12日第二小法廷判決は、適式に選任された代表者による追認の主張について更に審理させるため、原判決を破棄して差し戻した。年次解説が摘記する判決文は、訴訟行為をするのに必要な授権の有無は職権探知事項であるとしている。

入会権確認の訴えについての7月17日第一小法廷判決は、入会集団の一部の構成員が、訴えの提起に同調しない構成員も被告に加え、構成員全員が訴訟当事者となる形式で第三者に対して入会権確認の訴えを提起することができるとして、原告適格を欠くとして訴えを却下した原判決を破棄し、第一審へ差し戻した。固有必要的共同訴訟であっても、非同調者がいることだけで権利確認の道が閉ざされるわけではない。

市町村の施行に係る土地区画整理事業の事業計画の決定(9月10日大法廷判決)及びその変更決定(12月19日第二小法廷判決)は、いずれも抗告訴訟の対象となる行政処分に当たるとされた。

破棄決定では、上告受理申立て理由書に経験則違反等の記載があるのに、所定の理由の記載がないとして申立てを却下した原決定が破棄された(3月26日第二小法廷決定)。簡易裁判所への移送申立てを却下する地方裁判所の判断は、専属的管轄の合意がある場合を含め、地方裁判所の合理的な裁量にゆだねられるとされた(7月18日第二小法廷決定、12月16日第三小法廷決定)。

受任時、争点整理終結時及び上訴前には、代表権・授権、当事者の配置、処分性、上訴理由書の記載事項及び管轄を一覧にして点検するとよい。

2 事実認定と損害額の認定

痴漢行為の有無が争われた損害賠償請求事件(11月7日第二小法廷判決)では、目撃者が見付からない中で、電話を通じて当事者の発言を聞いていた人物が目撃証人に準ずる立場にある唯一の人物であったのに、その証人尋問をしないまま一方当事者の供述の信用性を肯定した原審の判断に、審理不尽の違法があるとされた。客観的証拠が乏しく、供述の信用性が正面から対立する事件では、その対立を解く鍵となる人証の申出を、採否の理由とともに記録に残すことが重要である。

一部請求後の残部請求が問題となった7月10日第一小法廷判決は、前訴において一個の債権の一部についてのみ判決を求める旨が明示されていたとして、前訴の確定判決の既判力が後訴に及ばないとした。どのような場合に一部請求であることの明示があったといえるかの事例判断である。

採石権侵害の事件(6月10日第三小法廷判決)は、損害の発生が明らかな以上、損害額の立証が極めて困難であっても、民訴法248条により相当な損害額が認定されなければならないとした(第4の4)。

3 不当利得・過払金と損益相殺

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平成2年度最高裁民事破棄判決等の実情―25件から学ぶ信義則・時間軸・危険管理と差戻審実務(AI作成)

目次第1 資料の性質と確認範囲1 年次解説は有力な索引であるが判決原文ではない2 25件という数字の読み方第2 25件の一覧第3 25件から見える四つの監査領域1 訴えの入口と手続の土台2 信義則・権利濫用を抽象的に使わない3 時効・時間軸を固定する4 危険管理と過失割合第4 裁判所ウェブサイトで全文を確認した代表4判決1 固定資産評価審査委員会の口頭審理―評価根拠をどこまで知らせるか2 共済組合の貸付金控除と否認―徴収の形式ではなく弁済の実質を見る3 スキー場のクレバス転落―管理者責任を結果責任にしない4 有責配偶者の離婚請求―別居期間を年数の比率だけで判断しない第5 破棄差戻し後まで見据える第6 旧法判例を現在の事件へ使う手順第7 受任後に作る四つの実務台帳第8 出典及び確認状態

平成2年度の最高裁民事破棄判決を読む意義は、個々の結論を覚えることではなく、原判決の判断のどの段階に誤りが入り、最高裁がどの範囲を是正し、何を事実審へ差し戻したかを確認することにある。本記事は、富越和厚「最高裁民事破棄判決の実情(1)~(5・完)―平成二年度―」を年度全体の索引として用い、裁判所ウェブサイトで全文を確認できた代表4判決を一次資料として照合した実務整理である。

第1 資料の性質と確認範囲
1 年次解説は有力な索引であるが判決原文ではない

年次解説は、当時の最高裁判所調査官が、平成2年度に言い渡された民事破棄判決を破棄事由ごとに分類し、判決文の関係部分を摘記して紹介したものである(判例時報1386号8頁、1387号6頁、1389号12頁、1390号3頁、1392号17頁)。一つの判決に二つ以上の破棄事由があるときは、主要な事由の箇所に分類し、他の事由の箇所では枝番を付けて紹介するという方式がとられている。

もっとも、年次解説の要約や摘記は判決原本そのものではない。個別事件へ引用するときは、事件番号・裁判年月日を手掛かりに、裁判所公式全文、判例集又は認証された判例データベースの本文へ戻る必要がある。

本記事で裁判所ウェブサイトの全文と書誌を確認したのは、第4で紹介する4判決である。残る21判決は年次解説の記述によるものであり、個別判決本文は未照合である。判例秘書による照合は行っていない。これは「掲載なし」を意味しない。

2 25件という数字の読み方

年次解説によれば、平成2年度に判決により終結した事件は1921件(裁判集民事登載69件、うち民集登載30件)であり、そのうち破棄判決は25件で、終結事件の1・3パーセントであった。内訳は、破棄差戻し14件、破棄自判11件である。差戻し・自判が一部かどうかは、原判決の主文全体ではなく、上告の範囲を基準としている。

破棄判決のうち、職権で破棄されたものが2件、上告理由に応えたものが24件である。破棄事由の内容では、訴訟法関係が2件、実体法関係が24件である。判文上の破棄事由では、法令の解釈適用の誤りが24件、理由不備が5件、審理不尽が8件である。複数の事由を持つ判決があるため、これらを合計しても25件にはならない。

この割合は、旧民事訴訟法下の特定年度に最高裁で判決終結した事件を分母とする歴史的統計である。現在の上告・上告受理申立ての「成功率」として用いてはならない。

第2 25件の一覧

年次解説の「破棄判決一覧表(言渡期日順)」及び各判決の紹介に基づき、言渡期日順に整理すると次のとおりである(判決日はいずれも平成2年)。内容欄は年次解説の内容見出しを要約したものである。

判決日・法廷事件番号内容結果1月18日・一小昭和59年(行ツ)第46号県立高校教諭に対する懲戒処分と懲戒権者の裁量権自判1月18日・一小昭和61年(行ツ)第138号固定資産の評価登録価格に対する不服と評価根拠の開示差戻し1月22日・二小昭和62年(オ)第452号土地の一番抵当権設定後に要件を充足した法定地上権の成否一部自判・一部差戻し1月22日・二小平成元年(オ)第1546号仮処分の違法執行を理由とする損害賠償請求差戻し2月20日・三小昭和59年(オ)第1088号改正前の割賦販売法下での抗弁の切断差戻し3月6日・三小昭和63年(オ)第960号過失相殺における過失割合の裁量違反差戻し3月20日・三小昭和63年(オ)第717号破産廃止から免責決定確定までの強制執行と不当利得自判4月12日・一小昭和59年(オ)第846号担保保存義務免除特約と信義則自判4月12日・一小昭和62年(行ツ)第22号住民訴訟の対象となる財産管理行為自判4月17日・三小昭和60年(オ)第1529号取締役選任の株主総会の不存在とその後の手続の瑕疵一部差戻し6月1日・二小昭和62年(オ)第134号詐害行為取消権の時効消滅自判6月5日・三小平成元年(オ)第854号試用期間付雇用契約の法的性質差戻し6月5日・三小昭和63年(行ツ)第152号錯誤による概算経費選択と実額経費による修正申告自判6月5日・三小昭和63年(オ)第357号仮登記権利者の本登記請求権の消滅時効と抵当権者の援用自判7月19日・一小昭和63年(オ)第1457号国家公務員共済組合の貸付金控除と否認権差戻し7月19日・一小昭和62年(オ)第1083号地方公務員共済組合の貸付金控除と否認権自判7月19日・一小平成元年(オ)第545号婿養子における婚姻関係の破綻と養親子関係の破綻差戻し7月20日・二小昭和60年(オ)第1576号日本で登録したポパイ商標権による損害賠償請求自判7月20日・二小昭和63年(オ)第1519号自白の取消要件、仮執行の結果の考慮、相殺と信義則差戻し9月27日・一小昭和63年(オ)第1570号約束手形への裏書と原因債務の保証一部差戻し11月8日・一小昭和60年(オ)第617号ベテランスキーヤーのクレバス転落とスキー場管理者の過失自判11月8日・一小昭和61年(オ)第255号無謀運転の自動車の県道から国鉄軌道敷への転落と国鉄の責任差戻し11月8日・一小昭和61年(オ)第256号同じ事故と県の責任自判11月8日・一小平成元年(オ)第1039号有責配偶者からの離婚請求で別居期間を考慮する趣旨差戻し12月13日・一小昭和63年(オ)第791号多摩川水害訴訟差戻し
第3 25件から見える四つの監査領域
1 訴えの入口と手続の土台

住民訴訟の対象となる財産管理行為が問題となった平成2年4月12日第一小法廷判決では、最高裁は職権で調査し、道路工事の施行決定は道路行政上の判断であって財務会計上の財産管理行為に当たらないとして、訴えを却下した。実体判断の前に、訴訟類型ごとの対象・要件が満たされているかを確かめる必要がある。

平成2年7月20日第二小法廷判決は、自白の取消しには反真実と錯誤が必要であるのにその検討を欠いた点、及び仮執行宣言付きの第一審判決に基づく強制執行による弁済を本案で考慮した点を違法とした。取締役選任決議の不存在が問題となった平成2年4月17日第三小法廷判決は、不存在の決議によって選任された取締役で構成された取締役会を起点として、後続の決議も連鎖的に不存在となる場面と、その例外となる特段の事情を扱った。

手続の土台に関する誤りは、実体法上の結論が正しくても判決を維持できなくする。受任時、争点整理終結時及び上訴前に、訴訟類型、当事者、自白の範囲、仮執行の有無及び前提となる決議・処分の効力を一覧にして点検するとよい。

2 信義則・権利濫用を抽象的に使わない

平成2年度は、信義則・権利濫用の使い方を誤った原判決が目立つ。相殺と信義則(7月20日)では、相殺適状後に生じた利息・損害金を自働債権とする相殺を信義則違反とした原審について、金利差だけでなく、具体的な取引内容、相手方からの相殺の可否、相殺されなかった事情等の検討が必要であるとされた。

改正前の割賦販売法下の抗弁の切断(2月20日)では、売買当事者間の合意解除を理由に購入者があっせん業者の請求を当然に拒むことはできないとしつつ、拒み得る旨の特別の合意や、あっせん業者に不履行の結果を帰せしめるのが信義則上相当な特段の事情があれば別であるとして、その審理を欠いた原判決が破棄された。担保保存義務免除特約(4月12日)では、特約がある以上、担保差替えによる担保価値の減少だけでは信義則違反・権利濫用とはならないとして、原判決が破棄された。逆に、ポパイ商標事件(7月20日)では、著名な漫画の主人公の人物像に無償でただ乗りする商標権の行使が権利の濫用とされた。

信義則・権利濫用を主張し、又はこれを争うときは、一般条項の名前を挙げるだけでは足りない。合意の内容、当事者の認識、取引経過、代替手段及び結果の重大性を具体的な事実として整理し、それぞれに証拠を付ける必要がある。

3 時効・時間軸を固定する

仮登記権利者の本登記請求権の消滅時効(6月5日)では、所有権移転請求権保全の仮登記に後れて抵当権の設定を受けた者が、予約完結権の消滅時効を援用できるとされ、援用権者を限定した大審院判例が変更された。詐害行為取消権の時効消滅(6月1日)では、先行した債権者代位訴訟の提起・取下げが詐害行為取消権の行使の実質を持たず、時効の進行に影響しないとされた。

破産廃止から免責決定確定までの強制執行(3月20日)では、免責の効力は遡及しないから、免責決定確定前の強制執行による弁済は法律上の原因を欠くものではないとされた。有責配偶者の離婚請求(11月8日)も、別居期間を単なる年数ではなく、時の経過が当事者の事情に与える影響として評価する判断である。

時間軸が争点となる事件では、権利の発生、行使、取下げ、決定、確定、強制執行及び弁済の日付を一つの表に並べ、どの時点の法律関係を前提にするかを固定する必要がある。

4 危険管理と過失割合

スキー場のクレバス転落(11月8日)、県道から国鉄軌道敷への車両転落(同日の2件)及び多摩川水害(12月13日)は、いずれも管理者の責任を結果から逆算しない判断である。国鉄線路への転落事故では、運転者の行動が通常予測できない極めて異常かつ無謀な運転行為であったとして、県道及び鉄道施設の設置・管理の瑕疵が否定された。多摩川水害では、工事実施基本計画に準拠して改修・整備がされた河川について、同計画に定める規模の洪水の通常の作用から予測される災害を防止するに足りる安全性を備えるべきであるとして、改修途上の河川と同視した原判決が破棄された。

過失割合の裁量違反(3月6日)は、医師の資格のない断食道場の開業者がインシュリン注射等を中止させた結果、糖尿病患者が死亡した事案である。最高裁は、開業者の過失の重大さに比べて原審の過失割合が著しく低いとして、裁量の範囲を逸脱した違法を認めた。年次解説によれば、差戻審では過失割合が逆転している。

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平成5年度最高裁民事破棄判決等の実情―60件から学ぶ証拠評価・手続保障・差戻審実務(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論第2 資料の位置付けと確認範囲第3 平成5年度の件数と読み方第4 破棄理由から学ぶ原判決の点検第5 証拠評価と事実認定の実務第6 手続法上の実務第7 実体法上の主要な学び1 無権代理人による本人の共同相続2 遺族年金と損益相殺的調整3 故意免責条項と予期しない死亡結果4 担保不動産競売と民事執行法184条第8 差戻審に備える実務第9 利用上の注意第10 関連記事第11 出典と一次資料の確認状況

瀧澤泉「最高裁民事破棄判決の実情(平成5年度)」全6回を手掛かりに,平成5年度の最高裁民事破棄判決60件から得られる訴訟実務上の学びを整理する。年次解説は優れた二次資料であるが,判決全文そのものではない。本記事は,一次資料で全文を確認した事件,書誌・判示事項だけを確認した事件及び年次解説だけで検討した事項を区別して表示する。

第1 本記事の対象と結論

平成5年度の破棄事例から得られる中心的な学びは,最高裁が単に「結論」を変更するのではなく,証拠から要件事実・因果関係・損害額へ進む「推論の橋」が欠けている原判決を破棄しているという点である。

上告理由又は上告受理申立て理由を検討するときは,「事実認定が間違っている」と述べるだけでは足りない。①原審が確定した生の事実,②原審が暗黙に用いた経験則,③その経験則を弱める反対事実,④反対事実を評価せず結論へ進んだ箇所,⑤補充審理すべき事項を順に示す必要がある。

第2 資料の位置付けと確認範囲

資料区分今回の確認範囲記事での扱い

裁判所公表の判決全文平成5年1月21日,3月24日及び3月30日の各最高裁判決事案,規範,当てはめ,主文及び個別意見を直接確認
公的・出版社の書誌・判示事項平成5年12月17日判決(民事執行法184条)事件番号,掲載誌及び判示事項の範囲で利用
平成5年度年次解説全6回を通読60件の所在,破棄理由の類型及び論点候補を把握する二次資料として利用
判例秘書検索照会0件,ヒット件数不明,本文確認0件未収録とは評価しない

年次解説には,前置きの事件紹介が背景・争点を常に正確に示すとは限らないこと,掲載する判決文は抜粋であること,解説・意見は執筆者個人の見解であることが明記されている。したがって,個別事件の主文,事件番号,原審,反対意見,補足意見及び現在の射程を訴訟書面で用いるときは,判決全文と現行法を確認する。

第3 平成5年度の件数と読み方

年次解説によれば,判決で終局した事件は2,492件,破棄判決は60件,その割合は2.41%である。内訳は,職権破棄1件,上告理由に応答した破棄59件,手続法上の問題16件,実体法上の問題44件と整理されている。破棄差戻し23件,破棄自判38件という分類には重なりがあるため,単純に合計して事件数とはしない。

2.41%は平成5年度の歴史的な母集団を説明する数字であり,現在の上告受理率,破棄率又は個別事件の成功率を示すものではない。また,破棄されたことと,当事者が差戻審で最終的に勝訴したことは同じではない。

第4 破棄理由から学ぶ原判決の点検

原判決を点検するときは,次の5段階で読むと破棄理由を発見しやすい。

入口―当事者適格,訴えの利益,請求の趣旨,抗弁及び不利益変更禁止を確認する。
規範―条文の要件,判例の射程,旧法・現行法の別を確定する。
証拠―採用した証拠,排斥した証拠,証拠間の矛盾及び経験則を特定する。
当てはめ―認定事実から要件充足へ進む中間推論が説明されているかを確認する。
主文―認容額,遅延損害金,仮執行,差戻し又は自判の範囲が理由と整合するかを確認する。

特に,経験則違反を主張するときは,原審が用いた経験則を言語化し,それが一般的に成り立たない事情又は本件で例外となる事情を,記録中の証拠と結び付けて示す。別の事実認定もあり得るというだけでは,上告審で取り上げられる法令違反の形になりにくい。

第5 証拠評価と事実認定の実務

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マンション建替え補償金の差押えと混合供託―最高裁令和4年10月6日判決(AI作成)

目次

第1 結論
第2 最高裁令和4年10月6日判決の事案
第3 二つの供託義務が競合する理由

1 マンション再生円滑化法76条3項の供託
2 民事執行法156条2項の執行供託
3 混合供託が必要になる

第4 旧法76条3項だけの供託では足りない
第5 供託金の払渡しと優先関係
第6 第三債務者・差押債権者の実務
第7 法律名の変更と判決の読み方
第8 出典と確認範囲

マンション建替事業の補償金請求権について,担保権者保護のための法定供託義務があるだけでなく,複数の差押命令による差押えの競合が生じた場合,施行者である第三債務者は,双方の供託原因を記載した混合供託をしなければなりません。

最高裁令和4年10月6日第一小法廷判決は,当時の「マンションの建替え等の円滑化に関する法律」76条3項と民事執行法156条2項の各供託義務は併存し,一方の法条だけを根拠にした供託では,差押債権者に対抗できないと判断しました。

令和8年4月1日,法律名は「マンションの再生等の円滑化に関する法律」に変わりました。本記事では,判決当時の法律を「旧マンション建替円滑化法」,現行法を「マンション再生円滑化法」と表記し,判決の規律と現行法の確認を区別します。

第1 結論
最高裁令和4年10月6日判決(令和2年(受)第1462号)の要点は,次のとおりです。

(続きを読む...)マンション建替え補償金の差押えと混合供託―最高裁令和4年10月6日判決(AI作成)

財産開示手続の実施決定に対する執行抗告と請求異議―最高裁令和4年10月6日決定(AI作成)

目次

第1 結論
第2 最高裁令和4年10月6日決定の事案
第3 最高裁の判断

1 請求債権の不存在・消滅は執行抗告の理由にならない
2 破棄差戻しであり,本案の最終判断ではない

第4 債務者が採るべき手続

1 請求異議の訴え
2 執行停止の裁判と文書の提出
3 執行抗告で主張すべき事項との区別

第5 財産開示手続の現在の流れ
第6 弁護士実務のチェックリスト
第7 出典と確認範囲

財産開示手続の実施決定を受けた債務者が「債権は既に弁済した」と考えている場合でも,その主張を実施決定に対する執行抗告の理由にすることはできません。最高裁令和4年10月6日第一小法廷決定は,請求債権の存否は請求異議の訴えで判断されるべきであり,財産開示の執行裁判所が実施決定の手続で判断するものではないとしました。

実務上は,実施決定に対する不服申立てと,債務名義に表示された請求権の不存在・消滅を争う手続を混同しないことが重要です。債権の消滅を理由に財産開示を止める必要があるときは,請求異議の訴えを提起するだけでなく,執行停止の裁判を得て,民事執行法39条1項所定の文書を執行裁判所に提出するところまでを一体として検討します。

第1 結論
最高裁令和4年10月6日第一小法廷決定(令和3年(許)第16号)の実務上の要点は,次のとおりです。

(続きを読む...)財産開示手続の実施決定に対する執行抗告と請求異議―最高裁令和4年10月6日決定(AI作成)

平成6年度最高裁民事破棄判決等の実情―68件から学ぶ当事者・主張立証・証拠評価及び損害論(AI作成)

目次第1 本記事の対象と資料の読み方1 平成6年度の68件を横断する2 一次資料と年次解説を区別する第2 年度統計と数字の限界第3 当事者・請求・判断漏れの点検1 遺産確認訴訟と固有必要的共同訴訟2 主位的請求・予備的請求・黙示の主張第4 弁論主義と釈明の実務1 争いのない就労事実を裁判所が否定した事例2 弁論終結前に行う確認第5 証拠評価・経験則を分解する第6 損害と時効を時間軸に置く第7 登記・外観と契約解釈1 登記名義を残した建物譲渡人2 契約書を一通ずつ孤立して読まない第8 情報公開と住民訴訟の損害論1 知事交際費情報の公開・非公開2 違法性と地方公共団体の損害は別問題である第9 共同不法行為者の一人への免除第10 事件で再利用する破棄理由カード第11 現行法へ読み替えるときの注意第12 資料確認状況・出典・関連記事1 資料確認状況2 裁判所公式全文を確認した代表7判決3 関連記事

平成6年度の最高裁民事破棄判決等68件を横断すると,破棄理由は個別分野の法解釈だけではない。当事者を欠いたこと,予備的請求を判断しなかったこと,争いのない事実を否定したこと,証拠のない推論を置いたこと,損害・時効の時間軸を混同したことなど,現在の民事実務にもそのまま使える失敗類型が繰り返し現れる。

本記事は,高林龍「最高裁民事破棄判決の実情(1)~(6・完)―平成六年度―」を年度全体の索引として用い,裁判所公式全文を確認できた代表7判決で具体化する。68件すべてについて一次資料を確認したものではないため,資料の確認段階を明示し,個別事件で判例を引用する際の限界も示す。

第1 本記事の対象と資料の読み方
1 平成6年度の68件を横断する

起点資料は,高林龍「最高裁民事破棄判決の実情(1)~(6・完)―平成六年度―」(判例時報1522号,1523号,1525号,1526号,1529号及び1530号)である。同解説は,平成6年度の民事破棄事件を分野横断で並べ,原判決のどこが破棄理由になったかを読み取るのに適している。

年度を通じて読む目的は,個々の判例知識を増やすだけではない。受任時,第一審の弁論終結前,控訴理由書作成時,上告・上告受理申立て検討時及び差戻審準備時に,同じ種類の見落としを防ぐ監査項目へ変換することにある。

2 一次資料と年次解説を区別する

【年度解説確認】は,年次解説により事件の存在と破棄理由の概要を確認した段階を意味する。解説中に判決文の引用があっても,判決全文の一次資料確認と同じではない。

【裁判所公式全文確認済み】は,裁判所ウェブサイトの判決全文まで確認した段階を意味する。本記事では後記第12の2の7件がこれに当たる。判例集の頁,評釈の評価又はその後の判例変更まですべて確認したことを意味しない。

【判例秘書未確認】は,令和8年10月1日の作業で会員ログインを完了できず,照会0件,ヒット件数不明,本文確認0件であることを意味する。「判例秘書に収録がない」という意味ではない。

第2 年度統計と数字の限界

年次解説によれば,判決で終局した事件は2484件,破棄事件は68件であり,単純計算では約2.74%である。内訳は,破棄差戻し40件,破棄自判30件で,同一事件の一部を差し戻し,他の一部を自判した事件があるため合計は68件を超える。職権破棄5件,上告理由に基づく破棄64件にも重複がある。

掲載状況は,民集20件,裁判集15件,いずれにも登載されないもの33件とされる。公刊物に登載されない事件がほぼ半数あることは,判例集掲載判例だけでは破棄理由の実務的な全体像を捉えにくいことを示す。

もっとも,この約2.74%は平成6年度の「判決で終局した事件」を分母とする歴史的な集計である。現在の上告成功率,受理申立ての通過率又は個別事件の見通しを示す数字ではない。旧民事訴訟法下の上告制度であることにも注意が必要である。

第3 当事者・請求・判断漏れの点検
1 遺産確認訴訟と固有必要的共同訴訟

【裁判所公式全文確認済み】最高裁平成6年1月25日判決(平成5年(オ)第641号)は,遺産確認の訴えが共同相続人全員について合一に確定すべき固有必要的共同訴訟であることを前提に,共同被告の一部に対する訴えの取下げは効力を生じないとした。

実務では,受任時だけでなく,審級移行時にも当事者を再点検する。相続開始後の死亡・数次相続,法人の合併・解散,代表者変更,処分庁と被告行政主体の区別及び訴訟承継を確認し,「実体法上の権利者」と「訴訟上全員の関与が必要な者」を分けて一覧化する。

2 主位的請求・予備的請求・黙示の主張

【年度解説確認】年次解説には,主位的請求を排斥しながら予備的請求を判断しなかった例,主張の名称にとらわれて黙示の合意又は取得時効等の実質的な主張を取り上げなかった例が含まれる。これらは,請求・抗弁・再抗弁・予備的主張と判決理由の対応を一行ずつ照合する必要を示す。

弁論終結前には,①請求の趣旨,②請求原因,③抗弁,④再抗弁,⑤主位・予備の関係,⑥各要件事実に対応する証拠,⑦裁判所に求める判断を一枚に並べる。判決受領後は,同じ表に主文と判断箇所を追記し,空欄を判断遺脱候補として確認する。

第4 弁論主義と釈明の実務
1 争いのない就労事実を裁判所が否定した事例

【裁判所公式全文確認済み】最高裁平成6年6月13日判決(平成3年(オ)第63号)は,歩合給のうち通常の労働時間の賃金部分と時間外・深夜割増賃金部分を判別できないことを理由に,歩合給の支給だけでは割増賃金を支払ったとはいえないとした。

同判決はそれだけでなく,午前2時以後も労働者が雇用契約に基づいて勤務したことが当事者間に争いがなかったのに,原審が会社の指揮命令による勤務ではないと認定した点を,弁論主義違反とした。法的評価を争う前に,基礎事実の自白・否認を固定する重要性を示す。

固定残業代の判別可能性と,この弁論主義の判示は,固定残業代が有効になる要件で詳しく扱っている。

2 弁論終結前に行う確認

日ごとの始業・終業,所定時刻後の業務,休憩・中抜け,指示又は黙認,業務との関連及び金額計算について,相手方が認めた範囲と争う範囲を区分する。裁判所が争いのない事実と異なる前提を示したときは,求釈明又は準備書面により弁論終結前に確認する。

依頼者の目的に対して主張された法律構成が十分でないときは,代替的構成を検討する。ただし,釈明義務に期待して主張を省略するのではなく,事実関係に即した請求原因・抗弁を当事者側から明示することが基本である。

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平成3年度最高裁民事破棄判決等の実情―39件から学ぶ手続入口・証拠推論・行政不作為及び差戻し実務(AI作成)

目次

第1 資料の性質と確認範囲

1 年次論文は有力な索引であるが判決原文ではない
2 39件という数字の読み方

第2 破棄理由を読む七つの順序

1 入口から救済まで順に監査する
2 請求・抗弁・理由・主文を横に並べる

第3 証拠評価は推論の鎖に分解する

1 基礎事実から法律効果までを可視化する
2 記録の不存在と事実の不存在を区別する

第4 代表判例から得られる三つの実務知見

1 行政処分の遅延―期間だけで国賠違法を決めない
2 予防接種後障害―因果関係と禁忌者該当性を分ける
3 共同不法行為者間の求償―外部責任と内部負担を分ける

第5 破棄差戻し後まで見据える

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平成4年度最高裁民事破棄判決等の実情―29件から学ぶ訴訟要件・証拠評価・主文設計(AI作成)

目次

第1 対象資料と数字の読み方

1 対象とした年次解説
2 29件・1・2%の意味

第2 一次資料の確認状況
第3 29件から見える五つの監査領域

1 訴訟要件・当事者・送達
2 行政訴訟の入口と訴えの利益
3 契約解釈・財産関係・家族関係
4 専門分野の評価要素
5 主文・計算・差戻し範囲

第4 公式全文を確認した代表5判決

1 宗教団体内部の懲戒処分
2 もんじゅ訴訟の原告適格
3 新株発行不存在確認の利益
4 未熟児網膜症と医療水準
5 受取人が先に死亡した生命保険

第5 29件の論点別実務マップ
第6 受任事件で使う監査手順

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平成7年度最高裁民事破棄判決等の実情―55件から学ぶ原判決監査と差戻審実務(AI作成)

目次

第1 対象資料と確認範囲

1 年次解説の位置付け
2 55件という数字の読み方

第2 平成7年度の破棄理由から見える四つの監査領域

1 訴訟要件・当事者・並行手続
2 請求・抗弁・予備的主張の判断漏れ
3 証拠から主要事実までの推論
4 実体法上の判断枠組み

第3 裁判所公式全文を確認した代表3判決

1 スキー接触事故と上方滑走者の注意義務
2 退院時の説明・療養指導と受診遅延
3 新規治療法の普及と医療水準

第4 受任事件で使う三つの作業表

1 破棄理由カード
2 判断漏れ点検表
3 並行手続表

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預金債権差押命令における債権特定―全店順位付け方式と将来入金部分の分離(AI作成)

目次

第1 結論
第2 預金債権を特定する法的基準
第3 全店一括順位付け方式が特定を欠く理由
第4 送達時残高と将来入金部分の分離
第5 申立書を作成する際の実務上の要点
第6 取扱店舗が分からない場合の調査手段
第7 申立前チェックリスト
第8 一次資料の確認状態と参考資料

預金債権の差押命令では,金融機関が調査すれば最終的に対象口座を見つけられるというだけでは足りない。差押えの効力が第三債務者への送達時に生ずることと整合するように,第三債務者が対象債権を十分迅速かつ確実に識別できる記載が必要である。本記事では,最高裁判所第三小法廷平成23年9月20日決定及び同平成24年7月24日決定の全文に基づき,全店一括順位付け方式,送達時残高,将来入金部分及び一部だけを維持できる場合を整理する。

第1 結論

結論は,次のとおりである。

① 銀行の全店舗を順位付けし,先順位店舗の預金から請求額に満つるまで順次差し押さえる方式は,大規模金融機関について差押債権の特定を欠く。

② 問題は,銀行に調査能力があるかどうかだけではなく,差押命令が送達された時点で対象債権を十分迅速かつ確実に識別できるかどうかである。

③ 特定された普通預金口座について,送達時に存在する残高と,送達後1年間の入金によって生ずる部分とを分けて表示した事案では,後者だけが特定を欠くとされ,前者は維持された。

④ 平成24年決定は,あらゆる将来預金債権の差押えを一律に禁止したものではない。当該銀行が継続的に入出金を監視して差押範囲を管理するシステムを備えていないことなど,事案の事情を前提とした判断である。

⑤ 申立実務では,取扱店舗を明示し,店舗内で預金種別・口座番号等による順位を定め,複数店舗を対象とするときは店舗ごとに上限額を割り付けるのが安全である。

第2 預金債権を特定する法的基準
1 差押えの効力は第三債務者への送達時に生ずる

民事執行法145条5項は,債権差押えの効力が差押命令を第三債務者に送達した時に生ずると定めている。旧資料では同条4項と記載されていることがあるが,現在は改正により項番号が変わっている。

この効力発生時を前提とすると,差押命令の送達後に金融機関が長時間をかけて全店を検索し,事後的に差押対象を決めるような記載は,制度の構造と整合しにくい。

2 平成23年9月20日決定の基準

最高裁判所第三小法廷平成23年9月20日決定(平成23年(許)第34号,民集65巻6号2710頁)は,差し押さえる債権の特定について,第三債務者が,直ちにとはいえないまでも,差押えの効力が送達時に生ずることにそぐわない事態とならない程度に速やかに,かつ,確実に,対象債権を識別できるものでなければならないとした。

したがって,「物理的に検索可能である」,「最終的には口座を発見できる」,又は「銀行内部のシステムを使えば処理できる可能性がある」という事情だけでは足りない。送達時点の効力と実際の識別作業との関係を具体的に検討する必要がある。

第3 全店一括順位付け方式が特定を欠く理由

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外国判決の承認における間接管轄―侵害発生地・予見可能性と最高裁平成26年4月24日判決(AI作成)

目次

第1 外国判決を日本で承認・執行するための要件
第2 間接管轄とは何か
第3 最高裁平成26年4月24日判決
第4 不法行為地管轄の判断
第5 損害賠償請求と差止請求を分ける
第6 外国判決を扱う際の実務チェック
第7 判決の射程と注意点
第8 参考資料

外国裁判所の判決を日本で承認し、又は執行するには、外国裁判所が日本法の観点から裁判権を有していたこと、すなわち「間接管轄」が必要となる。最高裁平成26年4月24日第一小法廷判決は、不法行為に基づく損害賠償及び差止めを命じた米国判決について、間接管轄の判断方法を示した。本記事では、直接管轄との違い、損害賠償請求と差止請求の区別及び主張立証の組み立て方を整理する。

第1 外国判決を日本で承認・執行するための要件

民事訴訟法118条は、外国裁判所の確定判決について、次の要件を全て満たす場合にその効力を認める。

① 法令又は条約により外国裁判所の裁判権が認められること
② 敗訴被告が訴訟開始に必要な呼出し若しくは命令の送達を受けたこと、又は送達を受けなくても応訴したこと
③ 判決の内容及び訴訟手続が日本の公の秩序又は善良の風俗に反しないこと
④ 相互の保証があること

外国判決に基づいて日本で強制執行する場合は、これらの要件に加えて、民事執行法24条に基づく執行判決を得る必要がある。外国判決の内容を実質的に再審理する手続ではないが、118条各号の要件は日本の裁判所が審査する。

送達及び手続的公序については、外国欠席判決の承認と手続的公序―判決書不送達・控訴機会・ウェブ公開(AI作成)で説明している。

第2 間接管轄とは何か
1 直接管轄との違い

日本の裁判所に新たな訴えを提起できるかという問題は「直接管轄」である。これに対し、既に外国裁判所がした判決を日本で承認する場面で、その外国裁判所に裁判権があったと認められるかという問題が「間接管轄」である。

両者は参照する国際裁判管轄規定に共通部分があるが、問題となる時点と目的が異なる。直接管轄についての条文を機械的に当てはめるだけでなく、その外国判決を日本で承認することが適当かという観点を含めて検討する必要がある。

2 最高裁が示した判断枠組み

最高裁平成26年4月24日判決は、人事に関する訴え以外の訴えについて、間接管轄の有無は、基本的に日本の民事訴訟法が定める国際裁判管轄の規定に準拠しつつ、個々の事案の具体的事情に即し、外国判決を日本で承認することが適当かという観点から、条理に照らして判断するとした。

したがって、外国判決の国名、被告の住所又は契約書の管轄条項の一つだけで結論を出すのではなく、請求ごとに管轄原因と具体的事実を対応させる必要がある。

第3 最高裁平成26年4月24日判決
1 事案の概要

(続きを読む...)外国判決の承認における間接管轄―侵害発生地・予見可能性と最高裁平成26年4月24日判決(AI作成)

平成9年度最高裁民事破棄判決の実情―72件から学ぶ理由不備・経験則違反・主文設計の実務(AI作成)

目次

第1 本記事の対象と資料の位置付け第2 平成9年の破棄判決の概況第3 72件から学ぶ5つの実務原則1 「理由不備・理由齟齬」の二つの用法を分ける2 経験則違反は推論の飛躍を特定する3 請求・抗弁・主文の対応表を作る4 形式要件の後に制度目的と具体的事情を見る5 古い判例は規範と旧制度を分離する第4 裁判所公式本文で確認した3判決第5 上告・判決点検での使い方第6 一次資料・判例秘書・二次資料の確認状態第7 出典・関連記事

平成9年中の最高裁民事破棄判決72件を,原審がどのような理由で破棄されたかという観点から整理する。個々の結論を並べるのではなく,理由不備・理由齟齬の読み分け,経験則違反,請求・抗弁と主文の対応及び旧法から現行法への接続という,現在の事件処理に再利用できる実務原則を抽出する。

第1 本記事の対象と資料の位置付け

入口とした資料は,野山宏「平成9年度最高裁民事破棄判決の実情(1)~(6・完)」(判例時報1636号,1638号,1639号,1641号,1642号及び1644号)の全6回・合計109頁である。論文名は「年度」であるが,対象は平成9年1月から12月までに言い渡された民事・行政・労働事件である。

同論文は,72件の所在,原審判断及び破棄理由を把握するための有力な二次資料である。しかし,判決そのものではない。本記事では,論文から把握した年度全体の件数・類型と,裁判所ウェブサイトの判決情報・本文で確認した3事件とを区別する。

72件はすべて旧民事訴訟法が適用された事件である。また,旧破産法その他の改正前法令を前提とする事件も含まれる。判決から思考方法を学ぶことと,当時の条文番号又は制度を現行事件へ直接適用することは別である。

第2 平成9年の破棄判決の概況

年次論文の集計によれば,平成9年中に判決で終結した民事事件は2973件,破棄判決は72件であり,破棄率は2.42%であった。72件の内訳は破棄差戻し35件,破棄自判37件である。職権破棄は5件,上告理由に応答した破棄は67件であり,民集登載28件,裁判集民事登載17件,いずれにも登載されなかったもの27件とされる。

この2.42%は,個別事件の「最高裁で勝てる確率」ではない。分母には事件類型,主張された上告理由及び審理状況の異なる事件が含まれる。破棄率は年度全体の概況であり,具体的事件では原判決の法令解釈,手続,事実認定の推論及び主文を個別に監査する必要がある。

第3 72件から学ぶ5つの実務原則
1 「理由不備・理由齟齬」の二つの用法を分ける

最高裁判決又は年次論文で用いられる「理由不備」「理由齟齬」は,常に旧民事訴訟法395条6号の絶対的上告理由を意味するわけではない。実体法の解釈適用を誤った結果,原判決の理由付けが不十分又は整合しないという慣用的な表現もある。

年次論文が同号の絶対的上告理由として整理したものは,第6事件から第8事件までの3件である。残る事件の判決文に「理由不備」等の文言があっても,その一語だけで絶対的上告理由と評価してはならない。①主文を導く理由が欠けるのか,②理由同士又は理由と主文が論理的に両立しないのか,③単なる法令解釈・事実認定の誤りに伴う表現なのかを分ける必要がある。

2 経験則違反は推論の飛躍を特定する

医療,労災,転落事故及び契約書の信用性等を扱う事件では,別の証拠評価も可能であると述べるだけでは足りない。原審の推論を,基礎事実,中間推認及び最終認定に分け,どの矢印が経験則又は専門知見に反するのかを示す。

専門家意見については,結論又は肩書だけでなく,前提事実,使用資料,競合原因,医学的・技術的な推論過程及び反対資料への応答を確認する。記録に検査所見がない場合も,検査・問診が実施されなかった結果である可能性を点検し,記録の不存在を直ちに症状の不存在と同一視しない。

3 請求・抗弁・主文の対応表を作る

平成9年の破棄事件には,複数請求の一部について理由を示さなかったもの,支払済みと認定しながら請求を認容したもの,価額弁償の抗弁と主文の対応が問題となったもの,相殺に供する自働債権の特定又は充当順序を欠いたものが含まれる。

最終準備書面と判決点検では,請求ごとの訴訟物,請求原因,抗弁,再抗弁,証拠,認定,金額計算及び主文を一表にする。相殺,既払金,価額弁償,遅延損害金,一部認容・棄却及び仮執行宣言まで照合することにより,実体判断が妥当でも生じ得る主文設計の不整合を発見しやすくなる。

4 形式要件の後に制度目的と具体的事情を見る

借地権の対抗力,保険約款,ゴルフ会員権及び契約解釈等では,登記・登録又は契約文言の形式確認が出発点となる。しかし,そこで検討を止めず,当事者の認識,取引経緯,権利者側の必要性,相手方の信頼及び制度目的を具体的事実に落とす必要がある。

形式要件を軽視するのではなく,形式要件を確認した後に,権利濫用,信義則,契約解釈その他の規範が働く具体的事情を主張立証するという順序が重要である。

(続きを読む...)平成9年度最高裁民事破棄判決の実情―72件から学ぶ理由不備・経験則違反・主文設計の実務(AI作成)

薬剤性疾患の原因薬剤を一つに特定できない場合の医療過誤訴訟―最高裁平成9年2月25日判決と因果関係・経験則違反(AI作成)

目次

第1 最高裁平成9年2月25日判決の概要第2 原因薬剤を一つに特定できない場合の因果関係第3 発症時期と記録欠落の評価第4 検査・治療を受けられるようにする配慮義務第5 主張立証を組み立てる7項目第6 患者側で確認する資料第7 医療側で確認する資料第8 経験則違反として上訴理由にする場合第9 資料の確認状態第10 出典・関連記事

薬剤性疾患では,複数の薬剤が同じ副作用を起こし得るため,原因薬剤を一つに特定できないことがある。最高裁平成9年2月25日判決は,鑑定の結論だけから唯一の起因剤と発症日を限定した原審判断を経験則違反とし,複数薬剤,検査所見の欠落及び診療経過を総合して因果関係と医師の義務を検討する必要を示した。

第1 最高裁平成9年2月25日判決の概要

最高裁平成9年2月25日第三小法廷判決(平成7年(オ)第1205号,民集51巻2号502頁)は,顆粒球減少症の副作用を有する複数の薬剤を長期間投与された患者について,薬剤と同症の因果関係,発症時期及び開業医の診療上の義務を扱った。

原審は,鑑定に依拠してネオマイゾンを唯一単独の起因剤とし,発症日を4月13日から14日朝と認定した。最高裁は,鑑定の内容,医学文献,投薬経過,症状及び診療経過を総合すると,そのように限定した認定には経験則違反があるとして原判決を破棄し,差し戻した。

第2 原因薬剤を一つに特定できない場合の因果関係

鑑定は,複数の薬剤のいずれも起因剤と断定するには難点があり,ネオマイゾンが最も疑われるが確証はないとした。また,複数薬剤の相互作用による発症はあり得るが,当該患者について医学的に具体的に証明されていないと述べるにとどまった。

最高裁は,この鑑定が複数薬剤の相互作用による発症の蓋然性を否定するものではなく,医学文献にも,病因論には未完成な部分が多く,個々の症例で起因剤を決定することは困難なことが多いとの記載があることを重視した。鑑定だけから一薬剤を唯一単独の原因とすることはできないとした。

この判決は,候補薬剤を列挙すれば因果関係の立証が不要になるというものではない。民事訴訟上は,投薬全体と発症との関係について,全証拠を総合し,通常人が疑いを差し挟まない程度の高度の蓋然性を示す必要がある。他方,自然科学的に一つの薬剤まで確定できないことを,直ちに因果関係不存在と同一視してはならない。

第3 発症時期と記録欠落の評価

原審鑑定は,4月14日より前の病歴に同症発症を確認できる検査所見・症候がないこと等から,発症日を4月13日から14日朝と推測した。しかし,最高裁は,それ以前に検査所見等がないのは,医師が同症特有の症状に注意した問診・診察をしなかった結果にすぎない可能性を指摘した。

診療録に記載がない場合は,症状が存在しなかったのか,質問・検査をしなかったのか,実施したが記録しなかったのかを分ける必要がある。相手方の検査・観察義務違反が情報不足を生じさせた可能性があるのに,その不足を当然に患者側の立証不足として扱うと,推論の前提を誤ることがある。

時系列表には,薬剤ごとの開始・中止・増減,発疹,発熱,咽頭痛その他の症状,白血球・顆粒球等の検査,受診時の問診・診察,紹介又は転送の検討及び病状悪化を日単位で記載する。

第4 検査・治療を受けられるようにする配慮義務

最高裁は,顆粒球減少症の副作用を有する多種の薬剤を長期間継続的に投与された患者に,薬疹の可能性のある発疹を認めた場合,開業医は,自院又は他の診療機関で必要な検査・治療を速やかに受けられるよう相応の配慮をすべき義務があるとした。

これは,すべての発疹について常に高次医療機関へ転送すべき義務を一般化した判決ではない。投薬内容,副作用の重大性,症状,検査可能性,自院の設備・専門性,紹介先へのアクセス及び時間的緊急性を具体的に評価する必要がある。

義務違反と結果との因果関係も別に検討する。検査又は紹介がされていれば,いつ診断でき,どの薬剤を中止し,どの治療を開始でき,死亡又は重篤化をどの程度回避できたかを反実仮想として示す。

第5 主張立証を組み立てる7項目

投薬の特定:薬剤名,用量,開始・中止日,処方医及び併用薬を確定する。
既知の副作用:診療時点の添付文書,文献及びガイドラインを確認する。
症状の時系列:発疹,発熱,感染徴候及び血液検査値を日付順に並べる。
専門意見の前提:鑑定・意見書が前提とする投薬日,症状及び検査値が記録と一致するかを確認する。
競合原因:基礎疾患,感染症,他薬剤,相互作用その他の代替原因を検討する。

(続きを読む...)薬剤性疾患の原因薬剤を一つに特定できない場合の医療過誤訴訟―最高裁平成9年2月25日判決と因果関係・経験則違反(AI作成)

国際海難後の保険金回収――直接請求・保険法22条の先取特権・差押え・外国倒産(AI作成)

目次第1 保険金回収の四つの経路第2 保険者への直接請求第3 保険法22条の先取特権第4 保険金請求権の差押え第5 外国倒産手続との交錯第6 東京高裁平成29年決定第7 依頼を受けたときの確認順序第8 資料と関連記事
第1 保険金回収の四つの経路

国際海難で船主に損害賠償を請求する被害者は,責任保険の存在を知っても,その保険金を当然に自己へ支払わせられるわけではない。
まず,①被害者が保険者に自己の権利として請求する直接請求,②被保険者の保険給付請求権に対する先取特権,③被保険者の保険金請求権の差押え,④船主の倒産手続における債権届出を区別する必要がある。
各経路では権利者,請求の相手方,根拠法,必要な証拠及び倒産手続の影響が異なる。

第2 保険者への直接請求

直接請求権とは,被害者が保険者に対して自己の名で保険金相当額等を請求できる権利をいう。
その有無は保険約款だけで決まらず,保険者に適用される法令の規定も確認する。
船主に対する損害賠償請求権が成立することと,保険者への直接請求権が成立することも別の問題である。

国際事件では,直接請求権を不法行為に結び付けるか,保険契約に結び付けるかで準拠法が分かれ得る。
日本の法の適用に関する通則法には,責任保険者に対する被害者の直接請求の準拠法を一義的に指定する専用規定はない。
従って,事故責任の準拠法,保険契約の準拠法及び当該外国法上の法定請求権を別々に確認し,選んだ法性決定の理由を示す必要がある。
保険契約が担保する事故の範囲,限度額,免責及び訴訟条項も調査する。

第3 保険法22条の先取特権

保険法22条1項は,責任保険契約の被保険者に事故に係る損害賠償請求権を有する者に,被保険者の保険給付請求権について先取特権を認める。
先取特権は,被害者自身の保険者への直接請求権と同一ではない。
同条2項は被保険者が保険給付請求権を行使できる範囲を制限し,同条3項はその譲渡,質入れ及び差押えを原則禁止しつつ例外を定める。

国内の責任保険なら,日本法上の先取特権の成否と実行方法を検討する。
国際事件では,日本の保険法22条だけを読んで外国法準拠の保険金請求権に先取特権が成立すると決めることはできない。
後記の東京高裁決定は,先取特権の客体である保険金請求権の準拠法と,被担保債権である損害賠償請求権の準拠法を累積適用し,いずれの法も対応する先取特権を認める必要があるとした。
これは同決定の対象事案における判断であり,あらゆる責任保険契約について最高裁が確立した基準として扱うべきではない。

第4 保険金請求権の差押え

差押えの対象は,船主が保険者に対して有する保険金請求権である。
被害者が保険者を直接の損害賠償債務者として訴えることとは異なる。
先取特権を実行する差押えなら,担保権の存在を証する資料が問題となる(民事執行法193条)。
保険法22条3項の差押禁止と例外,保険金請求権の帰属・発生・履行期,第三債務者である保険者及び日本での執行管轄をそれぞれ確認する。

東京高裁平成29年6月30日決定では,債権者が保険法22条1項の先取特権に基づいて船主の保険金請求権を差し押さえたが,同高裁は先取特権の成立を否定し,保険者らに関する差押命令を取り消した。
この結果から,直接請求権まで否定されたと読むことはできない。
同決定は先取特権の存否で結論に達し,その他の争点を判断していない。

第5 外国倒産手続との交錯

船主について外国で再生・破産手続が始まったときは,その国の債権届出期限と,日本における承認援助手続の有無を直ちに調べる。
外国倒産処理手続の承認援助に関する法律22条は外国手続の承認決定を定め,同法28条は承認と同時又はその後に債務者の財産に対する強制執行等の禁止を命じ得る。
承認決定が存在することと,どの範囲の強制執行等が禁止されたかは,決定主文及び命令の効力発生時を分けて確認する。

東京高裁決定の対象事件でも,韓国の回生手続の開始後に日本で承認決定と強制執行等禁止の援助処分がされた。
被害者は韓国で損害賠償債権を届け出る一方,日本で保険金請求権の差押えを申し立てていた。
ただし,高裁は先取特権の不成立を理由に差押命令を取り消しており,倒産援助命令とあらゆる直接請求・差押えとの優先関係を一般的に判示したものではない。
外国倒産手続がある事件では,直接請求権の帰属,保険金請求権が債務者財産に当たるか及び禁止命令の文言を個別に検討する。

第6 東京高裁平成29年決定

東京高裁平成29年6月30日決定(平成29年(ラ)第310号,判例タイムズ1446号掲載本文の写し)は,日本籍漁船と韓国籍貨物船の公海上の衝突後,英国法を準拠法とする保険金請求権に対する先取特権が争われた事件である。
高裁は,事故位置について,海上保安部の弁護士法23条の2照会への回答を重視し,実況見分時に電子海図搭載型レーダーを48マイルレンジで表示して位置を指示したことの精度を吟味した。
緯度経度の測地系も確認し,事故は日本領海外であると認定した。

同高裁は,公海には通則法17条本文の属地的な結果発生地法がないとして,この異国籍船衝突による損害賠償請求権に日本法と韓国法を累積適用した。
さらに,先取特権の客体である保険金請求権の英国法も合わせ,三国の法が先取特権を認める必要があるとした。
英国法と韓国法に直接請求制度があるとの債権者の主張に対しては,それを日本の保険法22条の先取特権と同視できないと判示した。
外国法の記述は当時の同決定の認定に基づくもので,現在の外国法の内容を本記事が独自に確定する趣旨ではない。

第7 依頼を受けたときの確認順序

第一に,衝突地点の座標・測地系,領海線,航海日誌,AIS,レーダーの距離設定及び海上保安部の資料を保全する。
第二に,各船の旗国,船主・運航者,損害船が事故後最初に到達した港,保険者及び保険約款を特定する。
第三に,船主への損害賠償,保険者への直接請求,保険金請求権の先取特権と差押えの準拠法・管轄を別表で整理する。
第四に,外国倒産の開始日,債権届出期限,日本の承認・援助命令の主文及び効力発生時を確認する。
第五に,直接請求又は担保権の根拠外国法について,条文,判例,適用時点及び請求要件を示す資料を準備する。

第8 資料と関連記事

本記事は,東京高裁平成29年6月30日決定の判例タイムズ掲載本文の写し,e-Gov法令検索の保険法22条,民事執行法193条及び外国倒産処理手続の承認援助に関する法律22条・28条を基礎とする。
公海衝突の管轄と準拠法は公海上の船舶衝突に関する記事,設例への当てはめは令和8年度司法試験・国際関係法(私法系)第1問の記事を参照されたい。
本記事は一般的な検討手順であり,個別事案の保険約款・外国法・倒産命令の内容は資料ごとに確認を要する。

平成8年度最高裁民事破棄判決等の実情―47件から学ぶ原判決の誤りと上告・差戻審実務(AI作成)

目次

第1 対象資料と確認範囲

1 年次解説の位置付け
2 数字を読む際の注意

第2 47件から見える破棄の三つの型

1 手続の土台が崩れている型
2 証拠から結論までの推論が飛躍する型
3 実体法の規範又は当てはめを誤る型

第3 判例秘書で本文を確認した代表7判決

1 医療過誤と医薬品添付文書
2 非疾患の身体的特徴と既往疾患
3 共同相続人による建物の無償使用
4 公の施設の利用拒否
5 税理士会の政治献金
6 誤振込と預金債権

第4 上告・原判決監査で用いる三つの作業表

1 請求・当事者・手続段階表
2 原審判断の推論表

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大阪地裁管内での取立奥書の廃止と債権回収額の管理(AI作成)

目次第1 対象と結論第2 取立奥書と配当奥書を分ける1 取立奥書は運用上の記載2 配当等を受けた場合の規則は別に残る第3 取立届と回収額の記録1 取立届は引き続き提出する2 事件ごとに残額を計算する第4 次の執行申立てで確認すること第5 電子債務名義との関係第6 実務上の確認順序第7 出典
第1 対象と結論

大阪地方裁判所管内(本庁、堺支部及び岸和田支部)では、令和8年6月1日以降、債権者に還付する債務名義に、取立て、転付命令又は譲渡命令があった旨の奥書を添付しない運用になった。
これは大阪地裁第14民事部の案内に明記されている。
債務名義に取立額が書かれなくなっても、受け取った金額や請求可能な残額がなくなるわけではない。債権者は、事件ごとの回収記録と残額計算を自分で保管し、次の執行申立てで既回収額を反映する必要がある。

第2 取立奥書と配当奥書を分ける
1 取立奥書は運用上の記載

取立奥書とは、還付する債務名義の正本に、取立てがあった旨を記載又は添付する従前の運用である。
『月刊大阪弁護士会』2026年7月号116頁は、取立奥書には明文の根拠規定がなく、二重取立てを避けるための実務上の便宜があったと説明する。
同頁は、転付命令・譲渡命令があった場合の奥書も含めて、大阪地裁でこの運用を廃止すると述べている。

2 配当等を受けた場合の規則は別に残る

民事執行規則62条3項・4項は、一部配当等を受けた債権者に債務名義正本を交付する場合の記載と、事件特定情報を提供した場合の適用除外を定めている。
大阪地裁の取立奥書廃止の案内は、この規則に基づく配当等の記載を一律に廃止したと述べるものではない。取立てと配当等を同じ「奥書」として処理しないことが重要である。

第3 取立届と回収額の記録
1 取立届は引き続き提出する

奥書を添付しないことと、第三債務者からの取立てを裁判所へ届け出ることは別の問題である。
裁判所の債権執行案内は、第三債務者から支払を受けたとき、取立(完了)届を用いて直ちに届け出るよう案内する。書式一覧にも取立(完了)届がある。
一部取立てか全額取立てか、第三債務者が支払った日と金額、差押事件番号を確認して届け出る。

2 事件ごとに残額を計算する

回収台帳には、少なくとも①債務名義の種類・作成庁・事件番号、②執行事件番号と第三債務者、③判決等に表示された元金・利息・遅延損害金・執行費用、④取立て・配当・任意弁済の日付と金額、⑤充当の結果と未回収額、⑥通帳・取立届・配当関係書類など裏付資料の所在を記録する。
同じ入金を取立てと任意弁済に二重計上せず、費用・利息・元金への充当は債務名義と個別事情に即して計算する。残額の数字だけを残すより、各入金から残額に至る計算過程を保存する方が、次の申立てや債務者への説明に役立つ。

第4 次の執行申立てで確認すること

裁判所の債権差押申立書式には、請求債権目録を含む申立書と、電子的に作成された債務名義に基づく申立書が用意されている。
次の申立てでは、債務名義に表示された債権額をそのまま再請求せず、これまでの取立て、配当等及び任意弁済を反映した請求額・残額を確認する。必要な記載や資料は申立先の裁判所の現行案内と担当窓口で確認する。
奥書が付かないことを「回収額を記録しなくてよい」「全額を再び請求できる」という意味に読んではならない。

第5 電子債務名義との関係

116頁の寄稿は、電子債務名義について事件特定情報を提供する場合との処理をそろえることを、取立奥書廃止の背景として挙げる。
裁判所の債権執行案内は、電子的に作成された債務名義に基づく申立てで事件特定情報提供書面が必要となる場合や、記録事項証明書が不要となる場合を分けて説明している。
紙の債務名義、電子的に作成された債務名義、事件特定情報の提供の有無で必要書類が異なるため、次回の執行では債務名義の形態を最初に確認する。

第6 実務上の確認順序

まず債務名義と執行事件を特定し、各回収の原資料を集める。次に取立届の提出状況と配当・任意弁済を照合し、元金、附帯請求及び費用の残額を計算する。最後に申立先の最新書式と添付資料を確認する。
大阪地裁管内の取立奥書廃止は地域と対象を限定した運用変更である。他庁の取扱い、個々の債務名義の効力及び残額の法的評価を、この案内だけから一般化しない。

第7 出典

1 大阪地方裁判所第14民事部「執行部(第14民事部)」(令和8年6月1日以降の奥書運用に関するお知らせ)。
2 「取立奥書の運用廃止〜民事執行手続の全面IT化に先駆けて」『月刊大阪弁護士会』2026年7月号116頁。
3 最高裁判所「民事執行規則」62条3項・4項。
4 裁判所「債権執行(債務名義に基づく差押え)」及び「債権執行手続で使う書式」。
5 民事執行法155条。