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民事訴訟の証拠収集法制見直し―早期開示・文書提出命令・秘密保護の現在地(AI作成)

第1 令和8年9月15日時点の現在地

公益社団法人商事法務研究会の「証拠収集手続の拡充等を中心とした民事訴訟法制の見直しのための研究会」は,令和8年2月に報告書を取りまとめ,同年4月28日に誤植訂正版を公表した。
同報告書は,民事訴訟における情報・証拠収集を,①準備としての収集,②立証としての収集,③専門家等の知見の収集,④秘密の保護という段階に分けて検討している。

令和7年度実務協議会(冬季)資料も,同研究会で文書等の早期開示制度や文書提出命令の見直し等が検討されていることを紹介している(PDF実頁14頁)。
もっとも,研究会報告書は立法上の検討資料であり,令和8年9月15日時点で同報告書の案がそのまま成立法又は施行済み制度になったことを示す資料ではない。

したがって,以下では,現行民事訴訟法に基づく制度と研究会の検討案を分けて説明する。
「早期開示を請求すれば相手方に提出義務がある」などと,検討案を現在の権利として主張することはできない。

第2 見直しが検討された背景

報告書は,平成8年改正による文書提出義務の一般義務化と当事者照会の新設,平成13年・15年の改正後も,真実解明のための手段を充実させる必要性が指摘されてきたと説明する。
また,情報・証拠収集制度の強化,既存制度の実効性及び秘密保護を一体として検討する必要性を挙げる(報告書PDF実頁2頁~3頁)。

証拠収集を広げれば,当事者が事案を早期に把握し,争点を絞りやすくなる。
一方,広すぎる開示義務は,探索的な要求,営業秘密・私生活上の秘密の流出,第三者の負担及び審理の遅延を生じさせ得る。
このため,開示の必要性,対象の特定,負担,除外事由及び秘密保護を組み合わせて制度設計することが課題となる。

第3 提訴前の証拠収集手続

1 現行法の入口

現行民事訴訟法132条の2以下は,訴え提起前の照会及び証拠収集の処分を定めている。
報告書は,これらの手続が実務上あまり利用されていないという認識を示し,提訴予告通知,申立期間,必要性及び当事者自身による収集困難性等の要件や効果を見直すかを引き続き検討するとした(報告書PDF実頁3頁~5頁)。

報告書は,提訴予告通知を不要とする案について制度趣旨や他制度との均衡に問題があり,具体的方向を見いだすまでに至らなかったことも明記している。
したがって,「提訴前手続が廃止される」「通知なしで相手方に開示を強制できるようになる」と確定的に説明することはできない。

2 被告の特定・送達先情報

報告書は,訴状送達前に,裁判所が官公署等へ被告の氏名・住所等を調査嘱託する新制度や,執行官が送達場所を調査する制度を提案している(報告書PDF実頁5頁~19頁)。
インターネット取引や詐欺被害で相手方の氏名・住所を把握しにくい事案を背景とする。

これも検討案である。
現時点の受任事件では,把握している相手方情報,弁護士会照会,住民票等の職務上請求,既存の調査嘱託,送達方法等を現行法に基づいて検討し,将来制度の利用を前提に提訴期限や保全を遅らせてはならない。

第4 提訴後の当事者間情報取得

1 三つの案

報告書は,提訴後の当事者間情報取得について,複数案を示している。
概要として,①現行の当事者照会への回答を裁判所が促し又は命ずる仕組み,②一定の場合に文書等の内容自体を早期に開示させる仕組み,③早期開示が相当な文書・事件類型を定めて裁判所が開示を命ずる仕組みが検討された(報告書PDF実頁20頁~32頁)。

報告書は一つの案を最終決定しておらず,各案の組合せや制度を設けない考え方も含めて引き続き検討するとしている。
対象文書,関連性,必要性,相手方の負担,濫用防止及び制裁をどのように定めるかが未確定である。

2 交通事故等で想定される利用場面

報告書は,交通事故の損害賠償請求のように類型的に想定される事案では,被告が把握する事故現場の客観状況や,原告の事故直後の通院状況・症状変遷に関する情報が,訴状・答弁書段階の主張と高い関連性を持ち得ると説明する(報告書PDF実頁30頁~31頁)。

ただし,これは制度設計上の例であって,事故に関する全資料の包括的開示義務を定めた現行規定ではない。
実務では,求める情報を争点と主要事実に結び付け,誰が保有し,どの既存手続で取得できるかを個別に整理する必要がある。

第5 文書提出命令の見直し

1 現行法の構造

現行民事訴訟法219条以下は,書証の申出と文書提出命令を定める。
同法220条は文書提出義務と除外事由を定め,221条は申立てにおける文書の表示,趣旨,所持者,証明すべき事実及び提出義務の原因の明示を求める。
文書を特定できないときの手続,イン・カメラ手続及び不提出の効果も現行法に規定されている。

文書提出命令は,相手方が持つと推測される資料を無限定に探索する制度ではない。
証明すべき事実,対象文書,所持及び提出義務を具体化し,除外事由や証拠調べの必要性を検討する必要がある。

2 自己利用文書等の見直し

報告書は,専ら文書所持者の利用に供するための文書に関する提出義務の除外について,私生活上の文書や意思形成過程の文書を例示しつつ,当事者間の衡平又は適正な審理との調整を検討している(報告書PDF実頁37頁~43頁)。
また,文書提出義務の除外事由に関する主張立証の在り方も論点とする。

報告書は最高裁平成11年11月12日決定等に言及するが,本記事作成では当該決定の裁判所ウェブサイト又は判例秘書による判決全文確認をしていない。
そのため,本記事は当該決定の具体的判示を独立の根拠として引用せず,報告書が検討の前提に置いたという範囲にとどめる。

3 文書を特定する手続

現行法にも,申立人が文書の表示又は趣旨を明らかにすることが著しく困難な場合に,文書を識別できる事項を示して,所持者へ明らかにするよう求める制度がある。
報告書は,所持者が正当な理由なく明らかにしない場合に文書が特定されたものとみなす仕組み等を検討した(報告書PDF実頁43頁~49頁)。

もっとも,識別可能な範囲に複数文書が含まれる場合の必要性・所持の扱い,所持者の負担及び正当な理由の範囲には未解決点が残る。
制度が実効的であることと,広すぎる提出命令を避けることの均衡が課題である。

第6 専門家その他の第三者の知見

報告書は,法律問題,経験則,業界慣行等について,裁判所が第三者から知見を収集する新たな手続も検討する(報告書PDF実頁49頁~57頁)。
複雑な技術・取引分野で共通の知見を得る利点がある一方,必要性,費用,当事者の意見提出,不服申立て及び複数事件での利用方法等が論点となる。

現行の専門委員,鑑定,調査嘱託等と,検討中の新制度を混同してはならない。
個別事件では,必要な知見が事実認定,経験則又は法律問題のどれに関するものかを特定し,現在利用できる証拠方法・手続を選ぶ。

第7 秘密保持命令と第三者の秘密保護

1 検討案の内容

報告書は,当事者又は第三者の私生活上の重大な秘密や営業秘密について,裁判所が訴訟追行目的以外の使用又は命令を受けていない者への開示を禁ずる秘密保持命令を発する制度を提案する。
違反への刑罰又は過料,取消し,不服申立て,第三者による閲覧等の制限の拡張も検討対象である(報告書PDF実頁57頁~70頁)。

現行民事訴訟法92条は訴訟記録の閲覧等制限を定めるが,報告書は,当事者が相手方提出資料から得た情報を二次利用することを一般的に制限する明文規定がないこと等を背景として挙げる(報告書PDF実頁62頁~63頁)。

2 現行実務での対応

新制度が施行されるまでは,現行法の閲覧等制限,秘匿決定,営業秘密に関する個別法,契約上又は私法上の義務等を事案ごとに検討する。
資料を提出する側は,立証に必要な範囲,マスキングの可否,第三者情報,提出方法及び閲覧等制限申立ての要否を確認する。

既存記事「民事裁判における証拠の目的外使用禁止――導入検討の経緯と予想される影響(AI作成)」も参照されたい。

第8 弁護士実務で今から準備できること

法制化の有無にかかわらず,事件受任時から,①証明すべき主要事実,②自分側が保有する資料,③相手方・第三者が保有すると考える資料,④資料を特定する情報,⑤取得手段,⑥秘密・個人情報,⑦保存期限・散逸可能性を一覧化することは有用である。

相手方へ任意開示を求める場合は,対象期間,作成主体,文書・データの種類,関連する争点及び必要性を具体化する。
電子データについては,アカウント,保存場所,ファイル形式,検索語及び削除・上書きの可能性も確認する。

制度検討の進展は,法制審議会への諮問,要綱案,法案提出,成立,公布,施行日及び経過措置を分けて追う。
研究会報告書が公表されたことだけで,依頼者に新たな請求権が発生したと説明してはならない。

第9 一次資料と裁判例の確認状態

本記事は,現行制度の条文についてe-Gov法令検索を参照し,将来制度について商事法務研究会の令和8年2月報告書を参照した。
報告書が引用する個別裁判例の判決本文は今回の確認範囲に含まれない。

判例秘書は認証済み検索を実施しておらず,検索結果及び判決本文を確認していない。
今後,自己利用文書,文書特定手続,閲覧等制限又は目的外使用の法的効果を個別事件へ適用する場合は,具体的命題を定めて判例秘書及び裁判所ウェブサイトで判決本文を追加確認する必要がある。

第10 出典

① 民事局・行政局「民事・行政事件の現状と課題」(令和7年度実務協議会(冬季)資料)PDF実頁14頁
https://yamanaka-bengoshi.jp/wp-content/uploads/2026/09/民事・行政事件の現状と課題(令和7年度実務協議会(冬季)に関する文書).pdf

② 公益社団法人商事法務研究会「証拠収集手続の拡充等を中心とした民事訴訟法制の見直しのための研究会報告書」(令和8年2月,同年4月28日誤植訂正版)
https://www.shojihomu.or.jp/public/library/4197/report0802_1.pdf

③ 同研究会資料等一覧
https://www.shojihomu.or.jp/list/shoko-minso

④ 民事訴訟法(e-Gov法令検索)
https://laws.e-gov.go.jp/law/408AC0000000109