第1 訴訟上の救助は,裁判費用の支払を猶予する制度である
訴訟上の救助は,訴訟に必要な費用を支払う資力がない人等のため,裁判所が申立てにより裁判費用の支払を猶予するなどの制度である。裁判を利用するための費用が問題になるときは,弁護士への依頼費用と裁判所に納める費用を分けて,利用できる制度を確認する。
救助は費用の一律免除ではない。また,自分で依頼した弁護士の着手金・成功報酬が,救助決定によって当然に無料になる制度でもない。法テラスの民事法律扶助との違いを,第6で説明する。
本記事は,令和8年10月12日に確認した民事訴訟法82条から86条,民事訴訟規則30条及び裁判所の公式案内を基礎に,民事訴訟の救助申立てを説明する。訴訟費用の全体像も参照されたい。
第2 申立てが認められるための要件
1 資力がないこと,又は生活に著しい支障が生じること
民事訴訟法82条1項は,訴訟の準備・追行に必要な費用を支払う資力がない者,又は支払によって生活に著しい支障を生ずる者を対象とする。
失業中・生活保護受給中であるという属性だけで,すべての事件の救助が自動的に認められるわけではない。収入・資産・生活費と,その事件で必要になる費用の関係を示す必要がある。一定の収入があっても,費用を支払えば生活に著しい支障を生じる事情を具体的に説明することが考えられる。
2 勝訴の見込みがないとはいえないこと
同項ただし書は,勝訴の見込みがないとはいえないときに限るとしている。救助の申立てだけを提出し,本案の請求・防御の内容や根拠を説明しないまま判断を求めるのでは不十分である。
訴状・答弁書等の内容,主要な事実,証拠及び法的な根拠を整理する。ただし,救助が認められたことは,本案での勝訴を保証するものではない。救助の判断と,本案の最終判断を区別する。
3 審級ごとに判断される
救助の決定は審級ごとにされる(同条2項)。第一審で救助を受けたことだけで,控訴・上告の費用もすべて自動的に猶予されるとは扱わない。上訴する場合は,その審級における救助申立てと手数料・期限を確認する。
第3 救助の対象となる費用
民事訴訟法83条1項は,救助決定の定めるところに従い,訴訟及び強制執行について,次の効力を認めている。
| 対象 | 確認すること |
|---|---|
| 裁判費用,執行官の手数料・職務執行費用の支払猶予 | 申立手数料等のうち,何が決定の対象となったかを確認する。 |
| 裁判所が付添いを命じた弁護士の報酬・費用の支払猶予 | 自分で依頼した通常の弁護士との契約報酬を,一律に猶予する規定ではない。 |
| 訴訟費用の担保の免除 | 担保提供が問題となる事件で,決定の対象を確認する。 |
救助決定の効力は,救助を受けた本人のためにのみ生じる(同条2項)。共同原告の一人に救助が付与されたことから,他の原告にも同じ効果が生じるとはいえない。
対象費用の種類・審級・範囲を決定書等で確認する。「裁判費用」と「弁護士費用」を一括して,依頼後の支出がすべて不要になると説明しない。
第4 申立書と疎明資料をどう準備するか
1 求める救助と理由を具体的に記載する
民事訴訟規則30条は,書面による申立てと,救助の事由の疎明を求めている。申立書では,事件・申立人・求める救助の範囲を特定し,必要な費用と,それを支払えない事情又は支払うと生活に著しい支障が生じる事情を説明する。
提訴時に申し立てる場合には,本案の訴状等との関係を明らかにする。係属中の事件では事件番号・担当部を確認する。提出先・書式・必要資料の通数は,事件を扱う裁判所の最新案内に従う。
2 資料は現在の経済状態と結び付ける
資力の疎明として準備を検討する資料には,給与・年金等の収入を示す資料,預貯金等の資産資料,住居費・扶養・医療費等の支出資料,生活保護等の受給を示す資料などがある。これらは事情に応じた準備例であり,全国一律の必須書類一覧ではない。
過去の確定申告書だけでは現在の失業・収入減少が分からない場合には,退職・休業等の時期と現在の状況を補足する。必要な裁判費用と,手元の資金・毎月の生活維持費がどのような関係にあるかを,資料のどこから確認できるかが分かるように整理する。
個人情報を含む資料については,提出が必要な範囲,取扱い,秘匿等の制度を担当部・弁護士に確認する。必要な事情まで読めなくなるように,自己判断で全面的に黒塗りにしない。
3 電子提出と費用納付の案内を確認する
書面による申立ての規定は,電子提出を禁じる意味ではない。電子提出の可否・義務は,民事訴訟法132条の10・132条の11と新旧法事件の区分で確認する。
裁判所の「民事訴訟フェーズ3に向けた準備の手引」は,訴え提起と同時に救助を申し立てる場合は新規申立てフォームの添付書類へ申立書をアップロードし,係属中の救助申立ては記録一覧の「関連事件の申立て」を用いる方法を示している。実際の提出場所と担当部の案内を確認する。
救助を申し立てたという理由だけで,裁判所から届く納付命令・期限を放置しない。申立て中の費用の扱い,追加資料の期限及び決定後の納付の要否を担当部へ確認する。却下決定に不服がある場合には,民事訴訟法86条に基づく即時抗告とその期間を確認する。
第5 共同原告の手数料と,猶予後の支払
1 共同原告の救助は,訴え提起手数料の按分額で判断する
最高裁令和5年10月19日第一小法廷決定(令和5年(許)第1号)は,豪雨被災を理由に32名が共同して損害賠償請求訴訟を提起し,救助を申し立てた事案を扱った。
各原告の請求価額を合算して訴額を定める場合,救助の付与対象となる訴え提起手数料は,手数料総額を各原告の請求価額に応じて按分した額に限られる。資力要件で考慮する必要費用も,その按分額である。最高裁は,手数料全額を各原告について考慮した原決定を破棄し,更なる審理のために差し戻した。
この決定の対象は,通常の弁護士報酬の按分ではなく,訴え提起手数料である。共同原告それぞれの救助対象と資力を整理し,全員の手数料全額を一人ずつの必要費用に重ねて計上しない。
2 支払猶予と免除を混同しない
救助を受けた者が資力の要件を欠くことが判明し,又は欠くに至ったときは,民事訴訟法84条により救助決定の取消しと猶予費用の支払が問題になる。状況が変わった場合には,従前の資料だけを前提に猶予が続くと考えない。
最高裁平成19年12月4日第三小法廷決定(平成19年(許)第7号)は,救助を受けた者の全部敗訴と,その者への訴訟費用の全部負担が確定した場合,救助決定は当然に効力を失い,裁判所は84条による取消しをせずに猶予費用の支払を命じられるとした。救助は支払猶予であり,この場合まで支払免除の効果が続く制度ではない。
同法85条には,費用を負担することとされた相手方から猶予費用を直接取り立てる制度がある。敗訴・勝訴の結果と費用負担の裁判によって,その後の取立てが問題になる。救助を得たから裁判終了後も一切支払が生じないと判断せず,決定とその後の裁判所の通知を確認する。
第6 法テラスの民事法律扶助との違い
| 制度 | 主な内容 | 確認先 |
|---|---|---|
| 訴訟上の救助 | 裁判費用等の支払猶予・担保免除。裁判所が審級ごとに判断する。 | 事件を扱う裁判所 |
| 法テラスの法律相談援助 | 要件を満たす者への無料法律相談。 | 法テラス |
| 法テラスの代理援助・書類作成援助 | 弁護士・司法書士費用等の立替え。返済・猶予・免除には別の条件・手続がある。 | 法テラス・担当専門家 |
法テラスの援助を受けたことと,裁判所から救助決定を受けたことは同じではない。双方の利用を検討する場合は,それぞれの対象費用と審査を確認する。無料相談が使えることだけで,依頼後の弁護士費用もすべて免除されると考えない。
弁護士による制度の説明と受任判断は,弁護士職務基本規程33条―法律扶助・訴訟救助の説明と受任判断で扱っている。
第7 出典と関連記事
① 民事訴訟法82条から86条,132条の10・132条の11。
② 裁判所民事訴訟規則30条。
③ 裁判所訴訟費用について。
④ 裁判所民事訴訟フェーズ3に向けた準備の手引の各種申立てと提出場所の対応表。
⑤ 最高裁令和5年10月19日第一小法廷決定(令和5年(許)第1号)。
⑥ 最高裁平成19年12月4日第三小法廷決定(平成19年(許)第7号)。