第1 33条の条文と説明の対象
1 資力の乏しい依頼希望者への説明
弁護士職務基本規程33条は,費用を負担する資力に乏しい者にも裁判を受ける機会が保障されるよう,事案に応じて法律扶助・訴訟救助等の制度を説明することを定める。
制度の説明,援助を利用できるかどうかの審査,弁護士が事件を受任するかどうかは,それぞれ別の問題である。
法テラスを利用すれば,弁護士費用が必ず免除されるわけでもない。
日弁連の現行規程における33条の本文は,次のとおりである。
「弁護士は、依頼者に対し、事案に応じ、法律扶助制度、訴訟救助制度その他の資力の乏しい者の権利保護のための制度を説明し、裁判を受ける権利が保障されるように努める。」
日本弁護士連合会弁護士倫理委員会編著『解説 弁護士職務基本規程』第4版134頁は,資力に欠ける依頼希望者に制度の内容を説明し,可能な限り利用を勧めるべきことを述べている。
支払能力の不足だけを理由とする単純な受任拒絶は,33条の趣旨に沿う態度とはいえないという説明である。
受任後の依頼者への案内だけに限定して捉えるべきではない。
2 82条2項による位置付け
82条2項は,33条を弁護士の職務の行動指針又は努力目標を定めたものとして解釈し適用することを定める。
制度説明が不十分だったという一点から,あらゆる事件で直ちに懲戒されるという関係ではない。
他方,努力目標であることは,制度説明を省いてよいという意味でもない。
費用の説明,委任契約の内容及び依頼者との協議には,29条・30条・36条等の具体的な規律も関係する。
33条の位置付けだけでこれらの問題を一括して処理せず,説明した内容と依頼者の希望,事件の進め方を確認する必要がある。
規程全体と82条については,弁護士職務基本規程の現行条文・主要論点を参照されたい。
第2 法律扶助と訴訟救助の違い
1 無料法律相談・代理援助・書類作成援助
法テラスの民事法律扶助業務の案内は,法律相談援助による無料相談と,代理援助・書類作成援助による弁護士・司法書士費用の立替えを区別している。
代理援助は代理人による手続の準備・追行等を支える制度であり,書類作成援助では本人が手続を行うことを前提に提出書類の作成を援助する。
相談が無料であることから,依頼後の費用もすべて無料になるとはいえない。
どの援助を利用できるかは,資力,事件の内容等についての審査による。
制度の対象と利用条件は援助の種類に応じて確認し,相談者が利用を希望していることだけから,援助決定や特定の弁護士による受任を約束しない。
2 裁判所への訴訟救助申立て
裁判所の訴訟費用についての案内は,資力の乏しい者のため,訴訟費用の支払を猶予する訴訟上の救助を説明している。
弁護士報酬を当然に無料にする制度として,法テラスの援助と混同してはならない。
対象費用,申立てに必要な資料及び要件を,具体的な裁判手続に即して確認する必要がある。
| 制度 | 主な役割 | 費用説明で区別する点 |
|---|---|---|
| 法律相談援助 | 要件を満たす者への無料法律相談 | 無料相談と受任後の費用立替えは別である |
| 代理援助・書類作成援助 | 弁護士・司法書士費用の立替え | 立替えは免除と異なり,返済・免除の条件を確認する |
| 訴訟上の救助 | 裁判手続における費用の支払猶予等 | 対象となる訴訟費用と弁護士報酬を区別する |
第3 受任前に説明する事項
1 制度の対象・審査と申込み先
資力の問題があるときは,まず相談者が何を依頼したいのか,事件の種類,現在の手続段階及び期限を確認する。
その上で,利用を検討できる制度,申込み先,審査及び必要書類を,理解度に応じて説明する。
月収だけを聞いて援助の利用可否を即断したり,審査前に必ず利用できると保証したりしない。
収入・資産の数値基準や申込書式は,最新の公式案内を確認する必要がある。
制度全体の規律については,法テラスの業務方法書及び民事法律扶助の細則も参照されたい。
2 立替え・返済・免除と私選契約の費用差
代理援助等の説明では,立替えの対象となる費用,返済の取扱い,免除に関する手続・条件及び自己負担となり得る費用を区別する。
法テラスの生活保護受給者に関するFAQも,生活保護の受給だけで立替金が当然に免除される制度ではないと説明している。
相談者に対して「法テラスなら費用はかからない」と一括して案内することは避けるべきである。
私選契約を選ぶ場合には,その契約の報酬・費用,支払時期,追加費用が生じる条件及び中途終了時の清算を説明する。
制度利用の場合との比較は,実際に選択できる条件を基に行い,援助の審査結果や免除の結果を推測して費用差を示さない。
契約内容については,弁護士の委任契約書を参照されたい。
第4 受任の自由と制度説明
1 支払能力の不足を理由とする受任判断
『解説』第4版55頁は,20条の解説において,事件の受任の諾否は原則として弁護士の自由であることを説明する。
この受任判断と,134頁に示された資力の乏しい依頼希望者への制度説明は,併せて考える必要がある。
受任しない結論となる場合でも,事案に応じて制度の内容と相談先を伝えることによって,別の援助や弁護士へのアクセスにつながることがある。
制度説明をすることが,無償で事件を引き受ける義務や,どの弁護士も必ず法テラスを利用して受任する義務を意味するわけではない。
逆に,受任の自由だけを理由に,費用を払えない者には選択肢を何も示さなくてよいと考えるのも適切ではない。
依頼内容,利用を検討できる制度,弁護士側の受任判断を分けて説明することが有用である。
2 受任しない場合の通知と相談先の案内
34条は,事件の依頼があったとき,その諾否を速やかに通知することを定める。
援助の利用を検討している間に,誰が事件を担当するのか不明な状態を長く続けると,依頼希望者が他の弁護士を探す機会を失いかねない。
制度の案内と,受任するかどうかの通知を区別し,担当が決まったという誤解を生じさせないことが重要である。
申立てや不服申立て等の期限が迫っている場合には,制度の審査待ちによってその期限が当然に止まると案内しない。
期限,差し迫った対応の必要性及び受任の可否を確認し,受任しない場合は速やかに知らせる。
詳細は,弁護士が依頼を断るときの通知義務を参照されたい。
第5 法テラス不利用の懲戒事例から分かること
1 単位会の戒告と日弁連の不懲戒
法テラス不利用について単位弁護士会で戒告となり,日弁連で不懲戒となった事例では,山梨県弁護士会の原処分と,令和2年7月17日発効の日弁連の取消裁決を区別する必要がある。
公表された理由の要旨では,制度利用の説明,和解についての説明・協議,援助申込書の書換え等が問題となっている。
単位会の処分理由だけを,そのまま最終的な懲戒判断として扱うことはできない。
日弁連の裁決の理由の要旨は,法テラス利用の可否を検討すべき立場にあったことを述べる一方,説明についての証拠,私選契約の内容,分割払い及び報酬請求権の放棄による不利益の程度等を考慮している。
『自由と正義』2019年6月号80頁~81頁の処分公告と2020年9月号128頁~129頁の取消裁決公告の原文を確認した。公告の理由の要旨に基づく検討であり,議決書・裁決書全文の確認とは区別する。
(1) 説明・協議についての指摘はすべて取り消されたわけではない
原公告を読むと,日弁連は,遡り加入を和解条項に入れなかった点について双方の認識のずれを考慮しつつ,説明・報告と協議が不十分であるという単位会の判断を必ずしも不当とはしていない。
法テラス不利用についても,利用の可否を検討すべき立場にありながら慎重さを欠いたことを指摘している。申込書の書換えは,メール等から承諾を認めて懲戒事由を否定した問題であり,三つの問題を同じ理由で処理したものではない。
(2) 分割払いと報酬放棄は具体的な酌量事情である
費用が相応の範囲であったこと,着手金を月額1万円の分割払いとしたこと,報酬請求権の放棄を依頼者が受け入れたことで金銭的な不利益がないか僅少となったことが,不懲戒の判断に関係している。
これらは本件の事情であり,説明を省いてよいという一般則でも,報酬放棄によって説明不足が必ず解消されるという一般則でもない。制度の説明と利用希望の確認は,契約を結ぶ時点で行う必要がある。
2 一律の利用義務を導かない
この取消裁決から,資力基準を満たす者については全事件で法テラスを使わなければ懲戒される,という一般的な命題を導くことはできない。
他方,利用を希望していた依頼者の意思,説明した選択肢,合意した費用及び実際の不利益を確認せず,不利用には何の問題もないと一般化することもできない。
33条の制度説明と,29条・22条・36条等の説明・意思尊重・協議を,事実に即して検討する必要がある。
事件ごとの報酬請求と懲戒の判断については,弁護士報酬の請求と懲戒を参照されたい。
第6 相談時に確認する事項とよくある疑問
1 希望・資力・期限・費用負担の確認
相談記録には,単に「説明済み」と書くだけでなく,選択に関係する事項を残すことが有用である。
次の表は,法律上の書式を示すものではなく,説明と意思確認を具体化するための記録項目の例である。
| 確認事項 | 記録の例 | 誤解を防ぐ点 |
|---|---|---|
| 依頼の希望 | 相談のみ,書類作成,代理人による交渉・手続等 | 援助の種類と依頼する業務を対応させる |
| 制度利用の意向 | 法テラスを希望するか,既に申込みをしたか | 希望があることと援助決定を区別する |
| 期限と担当 | 手続期限,誰が何を担当するか,受任諾否の回答 | 審査待ちと受任済みを混同しない |
| 費用と選択 | 立替え・返済・免除条件,私選契約の説明,選んだ理由 | 無料相談を費用全額免除と扱わない |
記録すべき資力情報は制度利用の判断に必要な範囲にとどめ,事件情報として適切に管理する。
相談者が説明を理解できているかを確かめ,書面での案内が必要な場合には申込み先や確認事項が分かる形で示す。
2 利用できない場合と他の選択肢
法テラスを利用できない場合でも,分割払い,依頼業務の範囲を限定する契約,他の相談窓口等が選択肢となることがある。
いずれも,具体的な事件と提供者の条件によって利用可能性が異なるため,利用できると確約せず,負担と対応範囲を確認する。
代理を依頼せず本人で手続を行う場合には,期限や必要な対応を理解できるかも検討する。
相談者としては,①どの制度を検討できるか,②無料となる部分と立替えとなる部分,③審査中の担当,④利用できなかった場合の費用と対応を確認するとよい。
支払能力の不足があっても,まず相談先に費用面の事情を伝え,利用可能な制度の説明を求めることが重要である。
第7 出典と関連する解説
1 規程・解説書・公式制度案内
① 日本弁護士連合会「弁護士職務基本規程」,20条,22条,29条,30条,33条,34条,36条及び82条。
② 日本弁護士連合会弁護士倫理委員会編著『解説 弁護士職務基本規程』第4版(令和8年),55頁,134頁~135頁及び249頁~250頁。同書の説明は解説書の見解であり,日弁連の公式見解と同一視しない。
③ 法テラス「民事法律扶助業務」,無料相談と代理援助・書類作成援助の区別。
④ 法テラス生活保護受給者に係る免除についてのFAQ。
⑤ 裁判所「訴訟費用について」。
⑥ 『自由と正義』令和元年6月号81頁~82頁及び令和2年9月号128頁~129頁に公表された処分・裁決の理由の要旨。本文で案内した事例記事に収録されている。
2 受任通知・法テラス事例・報酬の解説
規程全体は弁護士職務基本規程の総合解説,受任の回答は依頼を断るときの通知義務,受任時の説明と処理中の協議は説明義務・報告義務を参照されたい。
費用に関する個別の懲戒事例は弁護士報酬の請求と懲戒で扱っている。