第1 解散命令を受けた法人が最初に確認すること
社会福祉法人が解散命令の取消訴訟を提起しても,そのことだけで処分の効力は止まらない。
事業基盤が本案判決までに失われるおそれがある場合には,取消訴訟と併せて行政事件訴訟法25条の執行停止を検討する必要がある。
受任直後は,処分書の名宛人,理由,到達日及び効力発生日を確認し,清算,利用者の移転,雇用及び契約関係について,いつ何が変わるかを整理する。
損害額の集計とともに,勝訴後も同じ事業を再開しにくくなる原因と,その変化が進む日程を把握することが重要である。
第2 解散と法人格の消滅を分けて考える
1 清算の目的の範囲で法人はなお存続する
社会福祉法46条1項6号は,所轄庁の解散命令を解散事由とする。
同法46条の3第1項は解散した社会福祉法人の清算を定め,同法46条の4は,解散した法人が清算の目的の範囲内で,清算結了までなお存続すると定める。
したがって,解散命令と同時に法人格が消滅したと説明するのは正確でない。
執行停止の申立てでは,清算のために法人が存続することと,従前の事業を継続するための法的地位や基盤に生じる影響を区別して示す。
許認可・指定,委託,補助金又は個々の契約への影響は,それぞれの根拠法令,条件及び契約条項を確認する必要がある。
2 何の停止を求めるかを特定する
行政事件訴訟法25条2項は,処分の効力,処分の執行又は手続の続行の全部又は一部の停止を定める。
同項ただし書により,効力停止は,執行又は手続の続行の停止で目的を達成できる場合には認められない。
解散による法的地位の変化が損害の原因となる場合には,清算の個々の行為を止めるだけで目的を達成できるかを検討する。
申立書には,止めたい法律上の効果と,その停止によって避けられる損害を対応させる。
別の処分や契約上の措置も問題となる場合には,解散命令の効力停止がそれらに及ぼす影響を個別に確認する。
第3 重大な損害を三つの判断要素に対応させる
1 損害の回復の困難の程度
行政事件訴訟法25条3項は,損害の回復の困難の程度を考慮すると定める。
法人については,取消判決後に施設,人員,利用者との契約,取引先との関係又は信用をどの程度回復できるかを説明する。
① 移転先での利用関係が定着し,元の施設へ戻ることが難しくなるか。
② 必要な職員が退職した場合に,配置の回復にどの程度の期間を要するか。
③ 契約が終了し,施設や設備が処分された場合に,同じ条件で再取得できるか。
これらは確認事項であり,移転,退職又は契約終了が必ず生じるという意味ではない。
通知書,契約書,相手方の回答及び再取得・再採用の見込みを示す資料によって,予測の根拠を具体化する。
2 損害の性質及び程度
同項は,損害の性質及び程度も勘案すると定める。
収入減少額や固定費に加え,事業継続に不可欠な人員・設備・契約が失われる範囲,代替手段及び再開に必要な期間を示す。
利用者や職員の不利益を挙げるときは,誰の損害を説明しているかを明らかにする。
第三者の不利益だけでは,直ちに申立人法人自身の損害とはいえない。
利用者の離脱,職員の退職又は取引の終了が,法人自身の契約関係,信用,収入又は運営体制の喪失につながる因果経過を示す必要がある。
3 処分の内容及び性質
同項は,処分の内容及び性質も勘案すると定める。
解散により清算へ移る法律上の効果,事業全体への影響,対象範囲及び継続期間を整理し,損害の評価と結び付ける。
回復の困難さだけを要件とせず,これらの事情を総合して「重大な損害」を説明する。
具体的な事実が複数の判断要素に関係するときは,各要素において何を意味するかを区別して記載すると,主張の重複を整理しやすい。
第4 契約・信用の喪失について参考となる裁判例
最高裁平成19年12月18日第三小法廷決定は,業務停止3月の懲戒処分について,停止期間中に期日が指定されていた訴訟事件が31件あることなどを踏まえ,社会的信用や業務に対する信頼の毀損による重大な損害を認めた原審の判断を是認した。
これは社会福祉法人の解散命令に関する決定ではなく,同じ結論が当然に導かれるものではない。
同決定の田原睦夫裁判官の補足意見は,業務全体の停止による顧客との信頼関係の毀損や,処分取消し後の金銭賠償による回復の限界などを詳しく説明している。
これらの詳細な説明は補足意見の記載として,多数意見が述べた内容と区別する必要がある。
実務上の参考となるのは,信用低下を抽象的に述べるだけでなく,進行中の業務の量,予定日,契約関係及び停止による影響を具体化する方法である。
法人についても,どの契約・人員・利用関係が,いつ,どのように失われるかを疎明資料に結び付ける。
第5 緊急の必要と停止した場合の影響を別に説明する
1 損害が進む日程と疎明資料をそろえる
行政事件訴訟法25条2項は,重大な損害を避けるための緊急の必要を要件とし,同条5項は執行停止の決定について疎明を求める。
重大な損害の説明に加え,裁判所の判断をいつまでに得る必要があるかを示す。
① 処分の効力発生日,清算に関する予定及び行政庁からの通知を確認する。
② 契約終了,職員退職,利用者移転又は資産処分の予定日を資料ごとに整理する。
③ 事実,その根拠資料,損害へのつながり,予測の不確実な部分を対応させる。
④ どの時点を過ぎると回復が難しくなるか,暫定的な代替手段で持ちこたえられるかを説明する。
契約が自動的に終了すると主張する場合には,該当条項と適用条件を確認する。
解散命令だけで全ての指定や契約が当然に失効すると扱うことは避け,別の判断や通知が必要かも確認する。
2 公共の福祉と本案の見通し
行政事件訴訟法25条4項は,公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるとき,又は本案について理由がないとみえるときは,執行停止をすることができないと定める。
事業を続けた場合の利用者の安全,運営上の問題及び行政庁の監督目的についても,客観的な資料を準備する。
改善措置,外部の確認,報告体制又は停止範囲の限定を提案するときは,実施可能性と効果を資料で示す。
法人の損害の大きさと,停止した場合の公共への影響をそれぞれ説明することが必要である。
本案では,解散命令の根拠条文と要件,認定事実,手続及び裁量判断を検討する。
社会福祉法56条8項の法令等違反を理由とする解散命令では,他の方法で監督目的を達成できないことが要件となるため,既に行った改善と代替措置を具体化する。
同項には正当な事由なく1年以上事業を行わない場合の規定もあるので,処分がどちらの根拠によるかを確認する。
第6 出典及び関連記事
本記事の法令部分は,令和8年10月4日に確認したe-Gov法令検索の行政事件訴訟法25条並びに社会福祉法46条,46条の3,46条の4及び56条に基づく。
裁判例は,裁判所公開の最高裁平成19年12月18日第三小法廷決定全文及びその原審である東京高裁平成19年7月19日決定全文を参照した。
疎明資料の集め方は,これらの規定及び決定の判断方法を踏まえた実務上の整理であり,裁判所が一律の提出書類として指定したものではない。
監督措置の全体像は社会福祉法人に対する改善命令・役員解職勧告・解散命令,執行停止の総論は行政処分の執行停止―重大な損害,緊急の必要,疎明資料及び裁判例も参照されたい。