メインコンテンツへスキップ
       

国を被告とする訴訟で国側は何をしているか―訟務事務入門・訟務事務の手引・訟務事務心得集から読む指定代理人,答弁書,照会への対応及び上訴(AI作成)

第1 本記事の対象と資料

1 訟務事務と本記事の目的

国の利害に関係のある争訟について,国の立場から裁判所に申立てや主張・立証を行う事務を,訟務事務という(法務省大臣官房訟務部門「訟務事務入門(第6版)」PDF11頁)。
国家賠償請求訴訟,国を被告とする処分取消訴訟,国有財産や国の債権に関する訴訟では,国の代理人として,法務省の訟務部門の職員と,事件を所管する行政庁の職員が出廷する。
本記事は,法務省の訟務部門が職員向けに作成した資料から,国を相手方とする訴訟で国側が内部でどのような手続を踏んでいるかを整理し,原告側の代理人が手続を進める上で知っておくと役立つ点を説明する。

2 四つの資料

本記事が用いた資料は,次の4点である。
① 法務省大臣官房訟務部門「訟務事務入門(第6版)」(平成18年3月):初めて訟務事務に携わる職員向けの概説書であり,昭和63年3月の初版から改訂を重ねた版である。
② 法務省大臣官房訟務部門「訟務事務入門(書式編)(第3版)」(平成18年3月):①に対応する書式集である。
③ 大阪法務局訟務部「訟務事務の手引~訴訟業務を行う行政庁担当者へのアドバイス~」(平成20年3月):国の訴訟に関与する行政庁の担当者向けに,手続の流れと行政庁の準備事項を説明した資料である。
④ 「訟務事務心得集」(平成22年9月改訂):前書きによれば,各種手引から訟務官等に必要な事項を抜粋し,本省打合せ会等での指示・説明事項などを加えたものであり,全65条からなる。

③と④は多くの頁に黒塗り(不開示部分)がある。
本記事は,読み取ることのできた部分だけを用い,黒塗り部分の内容を推測していない。

3 資料の基準時と現行法との関係

いずれの資料も平成18年から平成22年までの時点のものであり,その後の法改正や組織改編は反映されていない。
資料が前提とする本省の組織は「法務省大臣官房訟務部門」であるが,平成27年4月10日に訟務局が設置され,現行の法務省組織令9条は「訟務局は、国の利害に関係のある争訟に関する事務をつかさどる。」と定めている(訟務局の沿革は歴代の法務省訟務局長を参照)。
また,民事訴訟法等の一部を改正する法律(令和4年法律第48号)が令和8年5月21日に全面施行されたことにより,訴訟記録の電子化等に伴って条番号が変わった規定がある。
本記事は,法令の条文を令和8年10月17日時点のe-Gov法令検索の現行条文で確認し,資料の記載と現行法が異なる点はその旨を明記した。
資料に記載された内部の運用が現在も同じであるかは,公表資料では確認できない。

第2 訟務制度と指定代理人

1 訟務制度の成り立ち

訟務事務入門(第6版)によれば,訟務制度は,訟務事務を専門に所掌する行政機関を設け,各省庁の訟務事務を集中させて,国として統一的・一元的に処理する制度である(PDF11頁)。
昭和22年12月17日に法務庁設置法と「国の利害に関係のある訴訟についての法務総裁の権限等に関する法律」が制定され,昭和23年2月15日の施行により訟務制度が創設された(同頁)。
それ以前は,各省庁が所管事務に関する民事訴訟及び行政訴訟を別々に処理していた。
同書は,訟務制度の根底にある理念を,法律による行政の原理を行政部門の内部において確保し実現することにあると説明している(PDF12頁)。

2 法務大臣権限法の仕組み

国の利害に関係のある訴訟についての法務大臣の権限等に関する法律(以下「権限法」という。)1条は,「国を当事者又は参加人とする訴訟については、法務大臣が、国を代表する。」と定めている。
同法2条1項は,法務大臣が所部の職員でその指定するものに訴訟を行わせることができると定め,同条2項は,行政庁の所管し又は監督する事務に係る訴訟について,必要があると認めるときは,当該行政庁の意見を聴いた上で,当該行政庁の職員で法務大臣の指定するものに訴訟を行わせることができると定めている。
国の訴訟で「指定代理人」と呼ばれるのは,これらの規定により指定された職員である。

行政事件訴訟法11条1項により国を被告として提起された処分取消訴訟等については,権限法5条1項により,処分をした行政庁が所部の職員でその指定するものに訴訟を行わせることができる。
この場合も,行政庁は法務大臣の指揮を受ける(権限法6条1項)。
また,権限法3条及び5条3項は,法務大臣又は行政庁が弁護士を訴訟代理人に選任することを妨げないとしている。

権限法8条本文は,指定された者は「当該訴訟について、代理人の選任以外の一切の裁判上の行為をする権限を有する。」と定めている。

3 訟務局と法務局訟務部

現行の法務省組織令48条は,訟務局に訟務企画課,民事訟務課,行政訟務課,租税訟務課及び訟務支援課の5課を置き,同令65条1項は,法務局に訟務部を置くと定めている。
訟務事務入門(第6版)によれば,法務局・地方法務局は,原則として管轄区域内の裁判所に係属する事件を担当し,本省は,最高裁判所に係属する事件や国政に重大な影響を及ぼす事件等を共同で処理する(PDF26頁)。
同書は,法務局及び地方法務局の訟務部門の職員を指定代理人とし,事件を所管する行政庁の職員を併せて指定する理由として,件数が多い国の訴訟を統一的に処理する必要と,行政法規に精通した者が処理することの有用性を挙げている(PDF27頁~28頁)。

4 指定代理人の権限の限界

訟務事務入門(第6版)は,弁済の受領は裁判上の行為ではないので指定代理人の権限に含まれないと解されるとして,指定代理人は相手方から任意弁済金を受領することはできないとしている(PDF30頁)。
同書によれば,指定代理人は特別授権があっても代理人の選任をすることはできず,上訴を含めて審級の制限はないと解されるものの,実務上は審級ごとに指定がされる(同頁)。

訟務事務心得集43条は,「終結した事件でも,指定代理人が異動した場合には訴訟代理権限消滅通知を提出すること。」と定めている。
その解説は,判決言渡し時までに異動した指定代理人について,訴訟代理権消滅通知を裁判所及び相手方代理人に提出し,判決書に代理人として記載されないよう裁判所に申し入れることが必要であるとしている。
原告側に指定代理人の交代を知らせる書面が届くのは,このような運用によるものである。

第3 訴状が届いてから答弁書を提出するまで

1 訴状の送達と行政庁への事実調査の依頼

訟務事務入門(第6版)によれば,国を被告とする訴訟の訴状は裁判所から法務大臣に送達され,本省から担当の法務局又は地方法務局に事件が移送されるとともに,本省から所管行政庁に事実調査が依頼される(PDF35頁)。
訟務事務の手引の資料編には,本省から所管行政庁の長に宛てて,事件の担当局を示し,調査事項を調査の上,期限までに回報するよう求める「争訟事件の係属について(通知)」の様式が掲載されている(PDF59頁~60頁)。

(1) 行政庁に訴状が直接届いた場合

訟務事務の手引は,国を被告とする民事・行政事件の訴状が行政庁に直接送達された場合,行政庁には受領する権限がないとして,受け取らずに法務局へ相談するよう行政庁に求めている(PDF10頁)。
同手引は,抗告訴訟以外で行政庁を被告とする訴訟の訴状については受け取るよう求めている(同頁)。
処分取消訴訟については,行政事件訴訟法11条6項が,処分をした行政庁は国を被告とする訴訟について裁判上の一切の行為をする権限を有すると定めており,訟務事務入門(第6版)は,この規定により行政庁も訴状を受領できるとしている(PDF35頁)。

国を相手方とする手続の送達場所については,国立病院を送達場所として証拠保全決定正本等が送達された事件の裁判例がある。
広島高裁平成3年1月31日判決(平成2年(ネ)第84号,判例秘書の判例番号 L04620028)は,権限法1条により国を代表する権限は法務大臣にあるとして,国を相手方とする証拠保全手続の呼出状等は法務大臣の住所又は事務所に送達すべきものとし,指定代理人に指定されていない国立病院長への送達は違法であるとした。
同判決は,法務大臣が権限法2条2項により国立病院長等を指定代理人とした場合には,その病院も送達場所となると解されるとも述べている。
最高裁平成3年12月5日第一小法廷判決(平成3年(オ)第652号,判例秘書の判例番号 L04610093)は,この原審の判断を正当として是認し,上告を棄却した。
訟務事務の手引(PDF10頁)及び訟務事務入門(第6版)(PDF35頁)は,これらの判決を,国を被告とする事件の訴状が法務局又は地方法務局に直接送達された場合も送達として有効であることの根拠として挙げているが,判決の事案は訴状ではなく証拠保全手続の書類の送達である。

(2) 国側の書面ができるまで

訟務事務の手引によれば,指定代理人となった行政庁の職員は,法務局の担当者との打合せへの出席,裁判所に提出する書面の原案(行政庁案)の作成,期日への出席等を行う(PDF42頁)。
答弁書案,書証及び証拠説明書案は,法務局で作成・決裁を経た上で裁判所に提出される(PDF18頁)。
国側の書面は,所管行政庁の調査と原案,法務局の起案と決裁という複数の段階を経て提出される。

2 答弁書の型

訟務事務入門(第6版)は,答弁書の提出期限は通常は第1回口頭弁論期日の1週間くらい前であり,法律上は被告の答弁は必ずしも書面でしなくてもよいが,「訟務の実務では必ず書面を提出します。」としている(PDF49頁)。

(1) 認否の留保と「不知」の扱い

同書は,国や行政庁自身の行為であっても,答弁書の段階ではすべてを調査できないことがあるとして,「事実関係を調査中につき答弁(認否)を留保する。」等とする扱いを示している(PDF53頁)。
他方で,同書は,「被告(国や行政庁)自身の行為については,不知と記載しないように注意する必要があります。」とし,自己の行為を知らないということは通常あり得ず,かえってその事実の存在を推認させる資料となりかねないことを理由に挙げている(同頁)。

(2) 仮執行免脱の申立て

同書によれば,国を被告とする財産権上の請求,特に金銭の給付を求める訴訟で仮執行宣言の申立てがされている場合,国は,原則として,答弁書で仮執行宣言を相当としない旨を主張し,担保を条件とする仮執行免脱の申立て及び仮執行開始時期の猶予申立てをし,その旨を説明した上申書を提出するとされている(平成15年4月30日付け法務省訟企第350号官房訟務企画課長通知。PDF52頁)。
仮執行免脱の宣言は,民事訴訟法259条3項が「裁判所は、申立てにより又は職権で、担保を立てて仮執行を免れることができることを宣言することができる。」と定めるものである。
国家賠償請求訴訟の原告側は,認容判決に仮執行宣言が付されても,国が担保を立てて仮執行を免れる可能性を前提に,判決後の回収の見通しを立てる必要がある。

3 原告側から見た答弁書段階の留意点

国の普通裁判籍は,訴訟について国を代表する官庁の所在地により定まる(民事訴訟法4条6項)。
国を被告とする訴状には,当事者を「国 代表者法務大臣」と表示するのが訟務事務入門(書式編)の書式例でも用いられている形である。

本記事の考えとして,国側の答弁書は行政庁の調査回報と法務局の決裁を経るため,第1回口頭弁論期日には認否を留保した答弁書が提出されることが少なくない。
原告側は,訴状に主要事実と重要な間接事実を具体的に記載した上で,第1回期日において認否と反論の提出時期を裁判所の進行協議で具体的に定めてもらうことが,審理の遅れを防ぐ上で有用と考えられる。

第4 提訴前・訴訟中の照会と国の対応

1 提訴予告通知と提訴前照会

民事訴訟法132条の2第1項は,訴えの提起を予告する通知を書面でした者が,予告通知をした日から4か月以内に限り,訴えを提起した場合の主張又は立証を準備するために必要であることが明らかな事項について,相手方に書面で照会をすることができると定めている。
訟務事務入門(第6版)は,予告通知により訴えの提起の蓋然性が高いことが示され,いわば訴訟係属状態に準じた状態が生じ,当事者は予告通知に基づく照会に応ずべき訴訟法上の義務があると解されることから,予告通知事件を本省に報告すべき重要な事件として扱うとしている(PDF20頁)。
訟務事務の手引も,同じ理由から,予告通知には権限法の適用があると解されているとしている(PDF56頁)。

(1) 提訴前照会への回答

訟務事務入門(第6版)は,提訴前照会に対しては訴訟法上回答義務があると解されるから誠実に対応しなければならないとした上で,正当な理由なく回答しなかった場合について,法律上は特段の制裁が予定されているわけではないものの,「国側の対応としては適当なものではないとして,非難を受ける可能性があります。」としている(PDF80頁)。
ただし,同書は,「訴えを提起する目的ではなく,他の目的でするような濫用的な照会であることが明らかなときには,回答の必要はありません。」としている(同頁)。

(2) 担当する法務局と提訴予定裁判所

訟務事務入門(第6版)によれば,予告通知の担当局は平成16年3月15日付けの訟務総括審議官通達で定められ,予告通知に提訴予定裁判所が記載されているときは,その裁判所に管轄がないなどの事情がない限り,その所在地を管轄区域とする法務局又は地方法務局が処理を担当する(PDF79頁)。
同書は,提訴予定裁判所は予告通知の記載事項ではないが,国側としても担当法務局を早期に確定したいという事情があると説明している(PDF78頁)。
本記事の考えとして,国に予告通知をする原告側は,提訴予定裁判所と提訴予定時期を記載しておくと,国側の担当局が早く決まり,照会への対応も円滑になると考えられる。
提訴前の照会と証拠収集処分の要件は,民事訴訟で相手方・第三者の資料を集める方法で説明している。

2 当事者照会

民事訴訟法163条1項は,当事者は,訴訟の係属中,相手方に対し,主張又は立証を準備するために必要な事項について,相当の期間を定めて,書面で回答するよう照会をすることができると定めている。
訟務事務入門(第6版)は,当事者照会に応答する行為は将来の訴訟追行に重大な影響を及ぼすおそれのある訴訟上の行為であるとして,国の利害に関係のある訴訟については「この回答についても法務大臣の指揮権が及ぶこととなります。」とし,照会があった場合は速やかに法務局等に連絡を取るよう行政庁を指導しておく必要があるとしている(PDF70頁)。
訟務事務の手引も,「国が当事者照会を受けた場合,拒絶理由の有無,訴訟追行に及ぼす影響等を勘案しながら,回答の要否,内容を検討することとしています。」としている(PDF56頁)。
本記事の考えとして,国に対する当事者照会は,所管行政庁に直接送るのではなく,相手方の代理人である指定代理人に送付し,法務局での検討に要する期間を見込んで回答期間を定めるのが相当である。
照会書の作り方と不回答への対応は,当事者照会の作り方と不回答への対応で説明している。

3 取消訴訟における釈明処分

行政事件訴訟法23条の2第1項1号は,裁判所が,被告である国に所属する行政庁に対し,処分の内容,根拠となる法令の条項,処分の原因となる事実その他処分の理由を明らかにする資料の提出を求めることができると定め,同条2項は,審査請求に係る事件の記録についても同様の処分を定めている。
訟務事務入門(第6版)は,釈明処分に応じなかった場合の制裁規定はないが,「正当な理由がある場合を除き,釈明処分に積極的に協力しこれに応ずる姿勢が求められます。」としている(PDF74頁)。
同書は,応じない正当な理由の例として,対象資料に民事訴訟法の文書提出義務の除外事由が認められる場合を挙げている(同頁)。
取消訴訟の原告側は,処分理由や審査請求の記録を早期に得るため,釈明処分の申立てを検討する余地がある。

第5 期日における国側の対応

1 期日に臨む姿勢

訟務事務入門(第6版)は,期日に指定代理人の都合がつかない場合の期日変更申請について,「国側の姿勢としては,安易に期日変更の申立てをするのは避けるべきです。」とし,都合がつかないときは他の指定代理人が出廷するとしている(PDF62頁)。
同書は,当事者の発言は裁判所に対して行い,「相手方と直接議論の応酬をするなどということは厳に慎むべきです。」としている(PDF65頁)。
訟務事務心得集26条の解説は,「指定代理人の言動は,国又は行政庁の見解として取り扱われる」ことを理由に慎重な言動を求め,同心得集28条の一言は,「訟務官の発言は国の発言です。」として,期日に臨むに当たって期日想定を作成するよう求めている。
本記事の考えとして,期日で国側に即答を求めても,持ち帰って検討するとの回答になることが多いと考えられるから,期日で確認したい事項は,事前に準備書面や進行に関する意見書で示しておくのが有用である。

2 期日経過報告書と調書の確認

訟務事務の手引は,期日経過報告を,指揮監督権限を有する上級庁に事件の進行状況及び審理状況を報告するために作成する報告文書と位置付けている(PDF51頁)。
同手引の記載要領は,期日の結果について,準備書面の陳述や証拠の申出など訴訟上意味のある行為があった「続行」と,事実上のやり取りにとどまった「延期」とを区別するよう求めている(PDF85頁~86頁)。
訟務事務心得集50条は,「期日経過報告書は,期日終了後すぐに書くこと。特に裁判官の訴訟指揮は必ず書き留めること。」と定めている。

同心得集52条の解説は,裁判所が「調書に記録する」とした事項が国の認識どおりに記載されているかを確認するため,期日調書を謄写すべきであるとし,主張や争点に関わる誤りがあれば調書異議を申し出る必要があるとしている。
同条は根拠として民事訴訟法160条2項を挙げるが,現行の民事訴訟法では,口頭弁論について電子調書が作成され,その内容に対する異議は160条3項に定められている。
原告側にとっても,裁判所の釈明や合意事項は調書に記載してもらい,その記載を確認しておくことが,国側の担当者の交代があっても審理の経過を共有する手段となる。

第6 判決後の国側の手続

1 判決言渡しと確定

訟務事務入門(第6版)によれば,判決言渡期日には担当官が必ず出廷し,内容の聞き漏らしを防ぐため2名以上で出廷するのが望ましいとされ,判決の主文を確認した後,直ちに本省の所管課に判決結果を速報する(PDF99頁)。
訟務事務心得集44条は,「判決言渡し期日が指定,変更された場合は,必ず速報すること。」と定めている。

2 上訴の求指示

訟務事務入門(第6版)によれば,法務局が処理を担当した事件は訟務総括審議官に,地方法務局が単独で処理した事件は監督法務局長に,上訴の提起について指示を求め,その際には所管行政庁の上訴に関する意見書の写しを添付する(PDF101頁)。
訟務事務の手引の資料編には,所管行政庁の長から法務局長に宛てて上訴を要するか否かを伝える「〇〇事件の判決に対する上訴の要否について」の様式が掲載されている(PDF102頁)。
上訴期間は判決書の送達を受けた日から2週間であるから(民事訴訟法285条),国側は,この期間内に,行政庁の意見,法務局の意見及び上級庁の指示という段階を経て上訴の要否を決めることになる。
訟務事務入門(第6版)は,控訴状について,「国側控訴事件の場合,時間的制約等から,必要的記載事項のみにとどめている例が多いようです。」としている(PDF108頁)。
本記事の考えとして,国が控訴するか否かは控訴期間の終盤まで判明しないことがあるから,原告側は,判決確定を前提とする手続を進める前に,裁判所で上訴の有無を確認する必要がある。

3 仮執行宣言付判決への対応

訟務事務入門(第6版)は,仮執行宣言付きの判決で国が敗訴した場合,免脱宣言が付されていれば担保を供託して執行の停止又は取消しを求め,免脱宣言が付されていなければ民事訴訟法403条による強制執行停止の申立てをするとしている(PDF102頁~107頁)。
同書は,相手方が仮執行をした事件で上訴する場合には,上訴の提起と同時に,民事訴訟法260条2項に基づく原状回復の申立てをするとしている(PDF105頁)。
同項は,本案判決を変更する場合には,裁判所は,被告の申立てにより,仮執行の宣言に基づき被告が給付したものの返還及び仮執行により又はこれを免れるために被告が受けた損害の賠償を原告に命じなければならないと定めている。

第7 判決以外の終了と付随手続

1 訴えの取下げへの同意

民事訴訟法261条2項本文は,相手方が本案について準備書面を提出するなどした後の訴えの取下げは,相手方の同意を得なければ効力を生じないと定めている。
訟務事務入門(第6版)は,被告の同意の方式に明文の規定はないが,「国の場合には,必ず書面で行うようにします。」としている(PDF116頁)。
同書によれば,国が同意するときは,所管行政庁から同意するか否かの回答を文書で徴し,内部決裁を経て同意書を提出する(同頁)。
訟務事務心得集36条の解説も,取下げから2週間以内に異議を述べないと同意したものとみなされるため,国が同意権者である場合は,必ず積極的な意思(同意又は不同意)を書面で表明する必要があるとしている。
同解説は根拠として民事訴訟法261条5項を挙げるが,現行の民事訴訟法では,同意の擬制は261条6項に定められている。

2 訴訟上の和解

訟務事務入門(第6版)は,和解の勧告を受けたときは,勝訴の可能性,現に係属中の同種事件に与える影響及び行政に及ぼす影響等を慎重に検討し,所管行政庁の意見も徴した上で決めるとしている(PDF118頁~119頁)。
同書は,裁判所が定める和解条項(民事訴訟法265条)について,当事者の受諾の有無を問わず和解が成立したとみなされることから,「和解をするについて種々制約のある国側としては,同制度を利用することは困難と考えられます。」としている(PDF118頁)。

国の債権に関する和解について,同書は,国の債権の管理等に関する法律31条に基づく和解の範囲や財務大臣との協議を説明した上で,清算条項を「原告と被告との間には他に何らの債権,債務がないことを確認する。」とすると租税債権等まで清算するように誤解されるおそれがあるとして,冒頭に「本件に関して」という文言を入れるなどの注意を求めている(PDF119頁~121頁)。
本記事の考えとして,国との和解を目指す原告側は,国側が所管行政庁の意見聴取と上級庁の判断を経る必要があることを前提に,和解案の検討期間を確保した期日の設定を求めるのが現実的である。

3 行政処分の執行停止

行政事件訴訟法25条6項は,執行停止の決定は口頭弁論を経ないですることができるが,あらかじめ当事者の意見を聴かなければならないと定めている。
訟務事務入門(第6版)によれば,裁判所から行政庁に執行停止の申立書と共に求意見書が送達されるのが通例であり,意見書の提出期限は3日程度から長くても2週間程度までが普通である(PDF160頁)。
同書は,執行停止事件のほとんどが書面審理で済まされているとして,意見書と疎明資料の提出が行政庁にとって主張・立証の唯一の機会であると説明している(同頁)。
同条8項は,執行停止の決定に対する即時抗告はその決定の執行を停止する効力を有しないと定めている。

4 地方公共団体等の事件

権限法7条1項は,地方公共団体,独立行政法人その他政令で定める公法人が,その事務に関する訴訟について,法務大臣に所部の職員に訴訟を行わせることを求めることができると定め,同条3項は,法務大臣は国の利害を考慮して必要があると認めるときに職員を指定して訴訟を行わせることができると定めている。
訟務事務入門(第6版)は,この訴訟実施請求の宛先を「必ず『法務大臣』としなければなりません。」としている(PDF124頁)。

大阪高裁昭和43年10月31日判決(昭和42年(行コ)第2号,昭和42年(行コ)第13号,判例秘書の判例番号 L02320542)は,県教育委員会の請求により法務大臣が権限法7条3項に基づいて指定した者の訴訟代理権が争われた事件で,同条の規定の体裁及び文言並びに行為の性質から考えると,「訴訟を行なわせることの必要の有無についての判断は大臣の自由な裁量にゆだねられていると解するのを相当とする。」とした。
同判決は,国と地方公共団体等との間に直接の利害関係が存しない限り法務大臣は指定を行ってはならないと解するのは正当ではないとし,教育委員会は地方公共団体の執行機関であるから地方公共団体として同条1項の請求をすることができるとしている。

権限法6条の2第1項は,地方公共団体を被告とする第一号法定受託事務に関する訴訟が提起されたときは,当該地方公共団体が法務大臣に直ちに報告しなければならないと定めている。
訟務事務入門(第6版)は,その典型例として,生活保護の申請を拒否した処分の取消訴訟のほか,衆議院議員又は参議院議員の選挙の効力に関して都道府県選挙管理委員会を被告として提起される民衆訴訟を挙げている(PDF126頁)。
選挙無効訴訟と権限法の関係は,選挙無効訴訟とはで説明している。

第8 国を相手方とする事件で原告側の代理人が確認すること

以下は,資料の記載を踏まえた本記事の整理である。
① 国を被告とする訴状の当事者は「国 代表者法務大臣」とし,取消訴訟では行政事件訴訟法11条4項により処分をした行政庁も記載する。
② 提訴予告通知をするときは,提訴予定裁判所と提訴予定時期を記載し,照会事項は民事訴訟法132条の2第1項ただし書の除外事由に当たらないよう具体化する。
③ 当事者照会は指定代理人に送付し,法務局での検討期間を見込んだ回答期間を定める。
④ 第1回口頭弁論期日では,認否・反論の提出時期を具体的に定めてもらう。
⑤ 取消訴訟では,処分理由資料や審査請求記録について,行政事件訴訟法23条の2の釈明処分の申立てを検討する。
⑥ 金銭の支払を求める事件では,国が仮執行免脱を申し立てることを前提に,判決後の回収と執行の見通しを立てる。
⑦ 判決後は,控訴期間の満了を待って裁判所で上訴の有無を確認してから,確定を前提とする手続に進む。

第9 関連記事

① 歴代の法務省訟務局長
② 行政機関等への出向裁判官―身分,勤務先,人数及び判検交流との関係
③ 当事者照会の作り方と不回答への対応―質問の特定・拒絶理由・求釈明・提出命令
④ 民事訴訟で相手方・第三者の資料を集める方法―弁護士会照会・調査嘱託・文書送付嘱託・文書提出命令の使い分け
⑤ 選挙無効訴訟とは―提訴できる人・期限・無効になる条件と一票の格差
⑥ 厚生労働省労働基準局の,労災保険に係る訴訟に関する対応の強化について

第10 出典

1 資料

① 法務省大臣官房訟務部門「訟務事務入門(第6版)」(平成18年3月)PDF11頁~160頁
② 法務省大臣官房訟務部門「訟務事務入門(書式編)(第3版)」(平成18年3月)
③ 大阪法務局訟務部「訟務事務の手引~訴訟業務を行う行政庁担当者へのアドバイス~」(平成20年3月)PDF10頁~102頁
④ 「訟務事務心得集」(平成22年9月改訂)26条,28条,36条,43条,44条,50条及び52条

2 法令(令和8年10月17日時点のe-Gov法令検索の現行条文)

① 国の利害に関係のある訴訟についての法務大臣の権限等に関する法律1条~3条,5条,6条,6条の2,7条及び8条
② 民事訴訟法4条,132条の2,160条,163条,259条,260条,261条,265条,285条及び403条
③ 行政事件訴訟法11条,23条の2及び25条
④ 法務省組織令9条,48条及び65条

3 裁判例(判例秘書で本文を確認。いずれも裁判所HP未掲載)

① 最高裁平成3年12月5日第一小法廷判決(平成3年(オ)第652号,判例秘書の判例番号 L04610093)
② 広島高裁平成3年1月31日判決(平成2年(ネ)第84号,判例秘書の判例番号 L04620028)
③ 大阪高裁昭和43年10月31日判決(昭和42年(行コ)第2号,昭和42年(行コ)第13号,判例秘書の判例番号 L02320542)