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第1号法定受託事務である国政選挙事務と選挙無効訴訟(AIリライト)

第1 国政選挙事務と第1号法定受託事務

1 第1号法定受託事務の意味

地方自治法2条9項1号は,第1号法定受託事務を,法律又はこれに基づく政令により都道府県,市町村又は特別区が処理することとされた事務のうち,国が本来果たすべき役割に係るものであり,かつ,国においてその適正な処理を特に確保する必要があるものとして法律又は政令に特に定めるものと定義している。

したがって,国と関係する地方公共団体の事務が当然に第1号法定受託事務となるわけではない。地方自治法別表第一又は個別法に基づく政令が指定した事務であるかを確認する必要がある。

2 国政選挙に関する事務

地方自治法別表第一の公職選挙法の項は,衆議院議員又は参議院議員の選挙に関して都道府県及び市町村が処理する事務,並びに選挙人名簿又は在外選挙人名簿に関して市町村が処理する事務等を第1号法定受託事務としている。

ここで第1号法定受託事務とされるのは,地方公共団体の選挙管理委員会等が処理する選挙管理事務である。公職選挙法204条の選挙無効訴訟それ自体が第1号法定受託事務なのではなく,第1号法定受託事務である国政選挙の管理事務の適法性を争う訴訟である。

3 他の第1号法定受託事務との比較

旅券,戸籍,生活保護,個人番号,基幹統計調査及び道路管理に関する地方公共団体の事務にも,第1号法定受託事務とされるものがある。ただし,各制度の事務が一律に該当するわけではなく,地方自治法別表第一又は個別法令が定める範囲に限られる。

例えば,現行統計法は「指定統計」ではなく「基幹統計」及び「基幹統計調査」という用語を用いており,地方公共団体が処理する統計事務のうち第1号法定受託事務となる範囲は統計法施行令4条が定めている。また,国道に関する事務も,指定区間外の国道の管理に関する事務のうち法律が指定したもの等に限られる。

第2 選挙無効訴訟の法的性質

1 行政事件訴訟法上の民衆訴訟

行政事件訴訟法5条は,民衆訴訟を,国又は公共団体の機関の法規に適合しない行為の是正を求める訴訟であり,選挙人たる資格その他自己の法律上の利益にかかわらない資格で提起するものと定義している。同法42条により,民衆訴訟は,法律に定める場合において,法律に定める者だけが提起できる。

最高裁平成26年7月9日第二小法廷決定は,公職選挙法204条の選挙無効訴訟が行政事件訴訟法5条の民衆訴訟であり,裁判所法3条1項の「法律上の争訟」ではなく,同項の「その他法律において特に定める権限」に含まれると判示している。この裁判の形式は,判決ではなく決定である。

2 国政選挙と地方選挙の手続の違い

国政選挙の効力に異議がある選挙人等は,公職選挙法204条に基づき,選挙の日から30日以内に直接,高等裁判所へ選挙無効訴訟を提起する。

これに対し,地方公共団体の議会の議員又は長の選挙については,同法202条に基づく選挙管理委員会への異議の申出及び審査の申立てを経た上で,同法203条に基づく訴訟を提起するのが原則である。国政選挙の204条訴訟と地方選挙の202条・203条の手続を区別する必要がある。

3 通常の選挙無効訴訟と議員定数訴訟

公職選挙法204条が本来予定するのは,選挙管理委員会等による選挙の管理執行上の違法を理由として,適法な再選挙を実施させるための訴訟である。

これに対し,一票の格差を理由とする議員定数訴訟では,選挙管理委員会が直ちに是正できる管理執行上の瑕疵ではなく,国会が定めた議員定数配分規定又は選挙区割りの憲法適合性が争われる。同じ204条訴訟を用いるものの,通常の選挙無効訴訟とは問題の構造が異なる。

第3 国政選挙の選挙無効訴訟の原告,被告及び管轄

1 原告となることができる者

公職選挙法204条によれば,選挙の効力に異議がある選挙人のほか,選挙の種類に応じて,次の者が原告となることができる。ここでいう選挙人は,実際に投票した者に限られず,棄権した者も含むと解されている(宇賀克也『行政法概説Ⅱ〔第7版〕行政救済法』有斐閣,令和3年,403頁)。

① 衆議院小選挙区選出議員の選挙では,公職の候補者又は候補者届出政党である。

② 参議院選挙区選出議員の選挙では,公職の候補者である。

③ 衆議院比例代表選出議員の選挙では,衆議院名簿届出政党等である。

④ 参議院比例代表選出議員の選挙では,参議院名簿届出政党等又は公職の候補者たる参議院名簿登載者である。ただし,特定枠名簿登載者は除かれる。

2 被告となる選挙管理機関

被告は,選挙の種類に応じて次のとおり異なる。したがって,「一票の格差訴訟の被告は都道府県選挙管理委員会である」という説明は,小選挙区選挙又は参議院選挙区選挙については当てはまるものの,比例代表選挙については正確でない。

① 衆議院小選挙区選出議員又は参議院選挙区選出議員の選挙では,当該選挙に関する事務を管理する都道府県選挙管理委員会である。

② 参議院合同選挙区選挙では,参議院合同選挙区選挙管理委員会である。

③ 衆議院又は参議院の比例代表選出議員の選挙では,中央選挙管理会である。

3 出訴期間及び専属管轄

国政選挙の選挙無効訴訟の出訴期間は,選挙の日から30日以内である。地方選挙のような選挙管理委員会への異議申出等を前置せず,高等裁判所へ直接提起する。

公職選挙法217条により,訴訟は,被告となる選挙管理委員会の所在地を管轄する高等裁判所の専属管轄となる。衆議院又は参議院の比例代表選出議員の選挙に関する訴訟は,東京高等裁判所の専属管轄である。

第4 選挙無効の要件と主張できる無効原因

1 公職選挙法205条の二つの要件

公職選挙法205条1項により,選挙を無効とするためには,①選挙の規定に違反することがあること,及び②その違反が選挙の結果に異動を及ぼすおそれがあること,の双方が必要である。

最高裁昭和27年12月4日第一小法廷判決は,①について,主として選挙管理の任にある機関が選挙の管理執行手続に関する明文の規定に違反した場合,又は明文の規定がなくても選挙の自由公正の原則が著しく阻害された場合をいうと判示した。

最高裁昭和51年9月30日第一小法廷判決は,選挙管理委員会が候補者の政見に介入し,選挙の自由公正を著しく阻害した事案について①を認めた。また,②は結果が変わることの確実性までは必要とせず,その可能性があれば足りると判示した。

2 選挙管理と関係しない制度上の違憲主張

204条訴訟は法律が特に認めた民衆訴訟であるため,選挙制度に関係するあらゆる憲法問題を無効原因として主張できるわけではない。

最高裁平成26年7月9日第二小法廷決定は,選挙人が受刑者等に対する選挙権制限規定の違憲を主張することは204条訴訟では予定されていないとした。最高裁平成29年10月31日第三小法廷判決は参議院議員の被選挙権年齢を満30年以上とする規定について,最高裁平成31年2月28日第一小法廷決定は満18歳及び満19歳の日本国民に衆議院議員の選挙権を認める規定について,同様に204条訴訟の無効原因とはならないとした。

もっとも,これらの判例は,選挙法規の違憲を理由とする主張を一律に排除したものではない。議員定数配分規定の違憲を理由とする一票の格差訴訟については,次のとおり特別の判例法理が形成されている。

第5 迅速審理,執行不停止及び再選挙の制限

1 100日裁判及び優先審理

公職選挙法213条は,選挙関係訴訟の判決について,事件を受理した日から100日以内にするよう努めるものとし,他の訴訟の順序にかかわらず速やかに裁判しなければならないと定めている。これは努力義務であるが,選挙結果を早期に確定する必要を反映した特則である。

2 選挙の執行は停止しないこと

公職選挙法214条により,選挙関係の異議申出,審査申立て又は訴訟が提起されても,選挙の執行は停止しない。選挙前の差止めではなく,選挙後にその効力を争う制度として設計されている。

3 出訴期間中又は係属中の再選挙等

公職選挙法33条の2第7項は,204条の選挙無効訴訟又は208条の当選無効訴訟について,出訴期間中又は訴訟係属中は,再選挙又は補欠選挙を行うことができないと定めている。係属中だけでなく,出訴期間中も含まれる点に注意を要する。

4 判決等の通知及び証明書

公職選挙法220条により,選挙関係訴訟が提起され,又は係属しなくなったときは,裁判所の長から総務大臣及び関係する選挙管理機関等へ通知が行われる。判決が確定したときは,その内容を証明する書面又は電子記録が総務大臣及び関係する選挙管理機関等へ送付される。

第6 一票の格差訴訟と事情判決の法理

1 公職選挙法204条を用いる理由

最高裁昭和51年4月14日大法廷判決は,204条訴訟が選挙人にとって選挙の適否を訴訟上争う唯一の機会であり,他に公職選挙法の違憲を主張して是正を求める機会がないことを重視した。その上で,議員定数配分規定が投票価値の平等に違反することを,204条訴訟の無効原因として主張することを認めた。

これは,選挙管理委員会が是正できる個別の管理執行上の瑕疵とは異なり,国会による法改正を必要とする問題について,憲法上の救済の機会を確保する判例法理である。

2 行政事件訴訟法31条を準用しないこととの関係

公職選挙法219条は,選挙関係訴訟に行政事件訴訟法31条の事情判決制度を準用しないと定めている。そのため,通常の選挙管理上の違反について公職選挙法205条の要件が満たされる場合,公益上の事情を理由として選挙を有効のままにすることは予定されていない。

もっとも,最高裁昭和51年4月14日大法廷判決は,議員定数配分規定そのものが違憲であり,法改正をしなければ適法な再選挙を実施できない事案について,行政事件訴訟法31条そのものではなく,その基礎にある一般的な法の基本原則を用いた。同判決は,請求を棄却しながら,主文で選挙が違法であると宣言したものであり,この判例法理が一般に「事情判決の法理」と呼ばれている。

3 近時の最高裁判例との関係

令和6年10月27日施行の衆議院議員総選挙について,最高裁令和7年9月26日第二小法廷判決・令和7年(行ツ)第117号は小選挙区の区割りに関する請求を棄却し,同日第二小法廷判決・令和7年(行ツ)第156号は東京都選挙区の比例代表選挙に関する請求を棄却した。

一票の格差訴訟の判例の推移及び「合憲」「違憲状態」「違憲」の区別については,一票の格差とは何か|違憲状態・違憲判決の違いと最高裁判例一覧(AIリライト)で詳しく説明している。

第7 法務大臣及び総務省の関与

1 第1号法定受託事務に関する訴訟の報告

国の利害に関係のある訴訟についての法務大臣の権限等に関する法律6条の2により,地方公共団体の行政庁を当事者又は参加人とする第1号法定受託事務に関する訴訟が提起されたときは,地方公共団体は法務大臣に直ちに報告しなければならない。

法務大臣は,法令等の解釈,参考判例,具体的な主張・立証方法等について,助言,勧告,資料提出要求及び指示をすることができる。実務上の報告先は,地方公共団体の所在地を管轄する法務局又は地方法務局の訟務部門である(法務省「法定受託事務に関する訴訟の報告制度」)。

2 法務大臣に対する訴訟実施請求

同法7条1項により,地方公共団体は,その事務に関する訴訟について,法務大臣に訴訟を行うことを求めることができる。この訴訟実施請求は,第1号法定受託事務に関する訴訟だけに限定された制度ではなく,6条の2の報告制度とは区別される。

また,地方公共団体が訴訟実施請求をしたときは,同条2項により当該事務を所管する大臣にも通知しなければならない。国政選挙事務をめぐる訴訟では,総務大臣との制度上の接点が生じる。

3 総務省選挙部の訟務専門官

総務省組織規則27条は,自治行政局選挙部管理課に訟務専門官1人を置き,選挙等に係る争訟に関する調査,助言その他の専門的事項に関する事務を行わせると定めている。

この規定は,国政選挙の管理事務をめぐる訴訟について,地方公共団体の選挙管理委員会,法務省の訟務部門及び総務省の選挙部門に制度上の接点があることを示している。

第8 関連記事及び参考資料

1 一票の格差及び選挙区割り

① 一票の格差とは何か|違憲状態・違憲判決の違いと最高裁判例一覧(AIリライト)

② 一票の格差是正に関する公職選挙法改正の一覧

③ 衆議院議員総選挙における,一票の格差に関する最高裁判決の一覧(昭和時代及び平成時代)(AIリライト)

④ 参議院議員通常選挙における,一票の格差に関する最高裁判決の一覧(昭和時代及び平成時代)(AIリライト)

2 高等裁判所及び訟務資料

① 高等裁判所支部とは|6支部の一覧・担当区域・取り扱う事務と沿革(AIリライト)

② 訟務事務心得集(平成22年9月改訂)

第9 出典・参考資料

1 法令

① 地方自治法

② 公職選挙法

③ 行政事件訴訟法

④ 国の利害に関係のある訴訟についての法務大臣の権限等に関する法律

⑤ 総務省組織規則

⑥ 統計法及び統計法施行令

2 裁判例

① 最高裁昭和27年12月4日第一小法廷判決・昭和27年(オ)第601号・民集6巻11号1103頁

② 最高裁昭和51年4月14日大法廷判決・昭和49年(行ツ)第75号・民集30巻3号223頁

③ 最高裁昭和51年9月30日第一小法廷判決・昭和51年(行ツ)第49号・民集30巻8号838頁

④ 最高裁平成26年7月9日第二小法廷決定・平成26年(行ツ)第96号,平成26年(行ヒ)第101号・裁判集民事247号39頁

⑤ 最高裁平成29年10月31日第三小法廷判決・平成29年(行ツ)第67号・裁判集民事257号1頁

⑥ 最高裁平成31年2月28日第一小法廷決定・平成30年(行ツ)第171号,平成30年(行ヒ)第183号

⑦ 最高裁令和7年9月26日第二小法廷判決・令和7年(行ツ)第117号

⑧ 最高裁令和7年9月26日第二小法廷判決・令和7年(行ツ)第156号

3 公的資料

① 法務省「法定受託事務に関する訴訟の報告制度

② 大阪法務局「大阪法務局パンフレット」(令和8年)

4 文献

① 宇賀克也『行政法概説Ⅱ〔第7版〕行政救済法』有斐閣,令和3年,403頁~404頁

② 室井力・芝池義一・浜川清・本多滝夫編『コンメンタール行政法Ⅱ 行政事件訴訟法・国家賠償法〔第3版〕』日本評論社,令和8年,482頁

③ 安達敏男・吉川樹士・須田啓介・安重洋介『国家賠償法実務ハンドブック』日本加除出版,平成31年,60頁

④ 山岸敬子「選挙無効訴訟・事情判決・間接強制―裁判遵守の公益性保護―」『法科大学院論集』19号,平成29年,47頁~70頁

⑤ 棟居快行「選挙無効訴訟と国会の裁量―衆議院の選挙区割りをめぐる最高裁平成25年11月20日大法廷判決を素材として―」国立国会図書館調査及び立法考査局『レファレンス』平成26年11月号,5頁~27頁