第1 法務省訟務局の役割
1 国の利害に関係する訴訟を扱う組織
法務省訟務局(しょうむきょく)は,国の利害に関係する民事・行政の争訟を扱う法務省の内部部局である。
国が当事者となる訴訟について,国側の主張・立証などを統一的・一元的に行う訟務制度の中で,本省の訟務部門を担っている。
扱う事件は,法務省自身の業務をめぐるものに限られない。
他の省庁が行った行政処分の適法性が争われる事件,国家賠償請求,租税に関する事件なども関係する。
2 「国の弁護士」という説明の意味
訟務部門は,国の立場から訴訟活動を行うという意味で,いわば「国の弁護士」と説明されることがある。
この説明は役割を表すものであり,訟務部門の職員全員が弁護士として登録しているという意味ではない。
国と個人・企業との間の紛争において,訟務部門は国側の立場で活動する。
私人から国に対する請求を受任する法律事務所とは,訴訟における立場が異なる。
第2 訟務局の仕事内容
1 民事・行政・租税の訴訟事務
法務省の業務紹介は,民事訟務課が国家賠償請求訴訟や大規模な集団訴訟など,行政訟務課が行政処分の適法性をめぐる訴訟など,租税訟務課が所得税・法人税等に関する訴訟を担当すると説明している。
訟務局の仕事を理解するときは,事件の分野による担当の違いと,関係省庁との協力関係を合わせて見る必要がある。
実際の訴訟事務には,事実関係の確認,証拠の整理,法令・裁判例の調査,主張書面の検討,関係省庁との調整などがある。
訟務検事については,行政庁の担当者から事情を聴き取り,裁判所へ提出する書面や証人尋問の準備を行うことも法務省が紹介している。
2 予防司法支援
訟務部門の仕事は,訴訟が起きてからの対応だけではない。
行政機関が抱える法律問題について,照会に応じて法律的な見解や助言・協力を提供し,紛争の発生を未然に防ぐ役割もある。
法務省は,このような取組を予防司法支援制度として説明している。
国の訴訟対応と,行政機関が適法に仕事を進めるための支援は,関連する訟務の仕事である。
第3 本省の訟務局と地方の訟務組織
1 本省に置かれる5課
法務省組織令48条は,訟務局に訟務企画課,民事訟務課,行政訟務課,租税訟務課及び訟務支援課を置いている。
各課の所掌事務は,同令49条から53条までに定められている。
| 課 | 担当する事務の概要 |
|---|---|
| 訟務企画課 | 訟務に関する基本事項の企画・立案,訟務局の事務の総合調整等。 |
| 民事訟務課 | 国の利害に関係する民事の争訟。行政訟務課・租税訟務課の所掌に属するものを除く。 |
| 行政訟務課 | 国の利害に関係する行政の争訟(租税訟務課の所掌を除く。)と,民事の争訟のうち労働関係に係るもの。 |
| 租税訟務課 | 国の利害に関係する租税の賦課処分・徴収に関する争訟。 |
| 訟務支援課 | 争訟に関する一般的な情報の収集・整理・分析と,その結果の提供による関係機関への支援。 |
2 法務局訟務部・地方法務局訟務部門
法務本省の訟務局のほか,地方の実施機関として,法務局の訟務部と地方法務局の訟務部門がある。
したがって,訟務に関する事件を全て東京の本省訟務局だけで処理しているわけではない。
法務省は,訟務検事を本省訟務局と全国8か所の法務局に配置していると説明している。
この「8か所」は訟務検事の配置先に関する説明であり,地方の訟務組織全体が8部署しかないという意味に読み替えるべきではない。
第4 訟務検事・訟務官・指定代理人
1 訟務検事とは
訟務検事は,国が当事者となる民事・行政訴訟で,国の代理人として活動する法曹である。
刑事事件の捜査・公判に従事する検察官とは担当する仕事の分野が異なり,「検事」という呼称だけから,その人が刑事事件の捜査を担当しているとは判断できない。
裁判官出身者が訟務の仕事に就く場合もあるが,裁判官出身の行政省庁勤務者全体を訟務検事と同一視することはできない。
出向中の身分,勤務先と人数及び判検交流との関係は,行政機関等への出向裁判官―身分,勤務先,人数及び判検交流との関係(AIリライト)で整理している。
2 訟務官と指定代理人を区別する
訟務官という職名と,指定代理人という訴訟上の立場は,同じ分類の言葉ではない。
国の利害に関係のある訴訟についての法務大臣の権限等に関する法律2条は,法務大臣が所部の職員等を指定して国の訴訟を行わせる仕組みを定めている。
同法3条には,法務大臣が弁護士を選任して国の訴訟を行わせる仕組みもある。
訴訟書類の「指定代理人」という表示だけで,その人の職名や弁護士登録の有無まで判断することはできない。
第5 訟務局の沿革と局長の調べ方
1 廃止・復活を伴う組織の変遷
法務省の政策評価懇談会議事録によれば,訟務局は昭和27年に設置され,昭和43年に廃止,昭和51年に復活した後,平成13年に再び廃止され,平成27年4月10日に再度設置された。
歴代の局長や相当職の在任期間を見るときは,局長個人の就任日と,組織の設置・廃止の日を区別する必要がある。
歴任者の一覧と個別の経歴は,歴代の法務省訟務局長(AI作成)を参照されたい。
2 局長・課長の氏名は基準日とともに確認する
今回確認した法務省の「法務省幹部一覧」は,令和8年9月18日現在の訟務局長を坂本三郎と記載している。
特定の日付の名簿はその基準日における在職状況を示す資料であるため,その後の異動を調べる場合は,新しい公式名簿や発令資料と照合する必要がある。
法務・検察幹部の役職,生年月日又は生年月及び修習期を横断して調べる場合は,法務・検察幹部名簿(令和8年10月1日現在)―ポスト・生年月日・修習期で探す(AI作成)を参照できる。
第6 よくある質問
1 法務省と法務局の違いは何か
法務省は国の中央行政機関であり,法務局・地方法務局は法務省の地方組織である。
訟務については,本省の訟務局に対し,地方の実施機関として法務局訟務部・地方法務局訟務部門が置かれている。
2 東京法務局訟務部とは何か
東京法務局訟務部は,地方の訟務組織である東京法務局の訟務担当部門である。
法務本省の訟務局とは所属する組織が異なり,東京法務局の職員名簿と本省訟務局の職員名簿も区別して読む必要がある。
3 訟務局長は誰か
今回確認した令和8年9月18日現在の法務省公式幹部一覧では,訟務局長は坂本三郎である。
閲覧時点の最新の在職状況は,法務省の公式幹部一覧の基準日と,その後の人事異動を確認する必要がある。
4 「訟務」の読み方は何か
「訟務」は「しょうむ」,「訟務局」は「しょうむきょく」と読む。
国の利害に関係する争訟について,国の立場から裁判所で申立てや主張・立証などをする活動をいう。
第7 公開・開示資料を読むときの注意
1 組織図・幹部名簿・職員名簿で分かることは異なる
組織図は組織の構成,幹部名簿は掲載対象となる役職者の氏名,職員名簿や電話番号一覧表はそれぞれの基準日時点の掲載情報を調べる資料である。
資料の題名,作成部署及び基準日を確かめ,別の時点の資料を組み合わせて現在の組織や在職者を推定しないことが必要である。
とりわけ,過去の電話番号一覧表に掲載された番号は,現在も同じ部署につながるとは限らない。
連絡先を調べる場合は,現在の公式案内で確認する必要がある。
2 古い訴訟の手引・執務資料の読み方
当ブログでは,歴代局長の記事の後半に,訟務関係の規程,各種訴訟の手引,執務資料等へのリンクを掲載している。
これらの資料は,作成当時の制度や運用を調べる際の手掛かりとなる。
作成年月が古い資料については,現在の法令やその後の改訂との関係を別に確認する必要がある。
原本の一部が開示されていない場合は,読めた範囲を超えて資料全体の内容を推測しないことも必要である。
訟務事務入門(第6版)(平成18年3月),訟務事務の手引(平成20年3月)及び訟務事務心得集(平成22年9月改訂)の読み取れる部分から国側の訴訟手続の流れを整理し,現行法との違いを確認した記事として,国を被告とする訴訟で国側は何をしているか―訟務事務入門・訟務事務の手引・訟務事務心得集から読む指定代理人,答弁書,照会への対応及び上訴がある。
第8 出典
本記事の制度説明は,以下の法令・法務省等の公開資料を基礎としている。
幹部の氏名は,本文に明示した名簿の基準日に対応する。
法務省「訟務制度とその役割」―訟務の意味,本省・地方の組織及び予防司法支援。
https://www.moj.go.jp/shoumu/shoumukouhou/kanbou_shomu_index.html
法務省「訟務局」―訟務検事の仕事内容・配置先。
https://www.moj.go.jp/keiji1/kenji_m09
法務省だより「あかれんが」第92号「法務省で働くひと・しごと紹介」―Q1・Q3。
https://www.moj.go.jp/KANBOU/KOHOSHI/no92/10.html
法務省組織令―9条,48条から53条まで。
https://laws.e-gov.go.jp/law/412CO0000000248
国の利害に関係のある訴訟についての法務大臣の権限等に関する法律―2条・3条。
https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000194
法務省「法務省幹部一覧」―令和8年9月18日現在の訟務局欄。
https://www.moj.go.jp/hisho/kouhou/kanbu.html
法務省政策評価懇談会(第43回)議事録―PDF実頁26の訟務局の説明。
https://www.moj.go.jp/content/001156622.pdf#page=26
大阪法務局「訟務業務紹介」―国の代理人としての役割。
https://houmukyoku.moj.go.jp/osaka/static/gyoumusyokaisyomu.htm