第1 罪名別の勾留率・保釈率を読む前提
令和8年9月の開示文書の表2は,地方裁判所の通常第一審で終局した人員を罪名別に分け,勾留人員と保釈人員を示している。
令和6年の全体では,終局人員4万7558人,勾留人員3万3947人,保釈人員1万956人であり,勾留率は71.4%,保釈率は32.3%である。
この表の勾留率は終局人員を分母とし,保釈率は勾留人員を分母とする。
保釈率は,保釈請求をした人のうち許可された割合ではない。
罪名別の数字を比較するときも,この分母の違いを維持する必要がある。
第2 令和6年の主要罪名別比較
表2から,終局人員,勾留率及び保釈率を抜き出すと次のとおりである。
| 罪名 | 終局人員 | 勾留率 | 保釈率 |
|---|---|---|---|
| 傷害 | 1778人 | 88.5% | 36.8% |
| 業務上過失致死傷(注) | 3948人 | 6.4% | 68.9% |
| 窃盗・常習累犯窃盗 | 1万2172人 | 84.8% | 21.0% |
| 強盗・強盗致死傷 | 433人 | 97.2% | 8.8% |
| 詐欺 | 3308人 | 83.6% | 31.8% |
| 恐喝 | 286人 | 95.8% | 48.9% |
| 覚醒剤取締法違反 | 4876人 | 98.6% | 29.4% |
| 道路交通法違反 | 5659人 | 21.2% | 45.6% |
| 出入国管理及び難民認定法違反 | 2176人 | 98.2% | 2.2% |
(注)表2の罪名欄の表記であり,同表の注記によれば,平成19年以降は自動車運転過失致死傷を,平成26年以降は自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律5条の過失運転致死傷を含む。
表の差は大きいが,罪名だけが原因で差が生じたことを示すものではない。
罪名ごとに,身柄事件となる事案の構成,証拠関係,共犯者の有無,住居・在留・就労状況,保釈請求の有無等が異なり得るからである。
第3 窃盗・詐欺・強盗・恐喝
令和6年の保釈率は,窃盗・常習累犯窃盗が21.0%,詐欺が31.8%,強盗・強盗致死傷が8.8%,恐喝が48.9%である。
同じ財産犯又は経済的被害を伴う犯罪であっても,表の割合はそろわない。
しかし,例えば「詐欺なら31.8%の確率で保釈される」「恐喝の方が強盗より保釈されやすい」と個別事件に当てはめることはできない。
表2は,起訴事実の内容,被害額,組織性,共犯関係,被害弁償,前科,認否,保釈請求の内容又は保釈条件を調整していないからである。
個別事件では,罪証隠滅又は逃亡のおそれを基礎付ける事情と,関係者への接触禁止,住居・監督体制その他の条件で危険を抑えられるかを具体的に検討する必要がある。
第4 交通事件―勾留率と保釈率を別々に読む
業務上過失致死傷(過失運転致死傷を含む。)の勾留率は6.4%,保釈率は68.9%であり,道路交通法違反の勾留率は21.2%,保釈率は45.6%である。
ここで,保釈率の分母になるのは,そもそも勾留された人だけである。
業務上過失致死傷では終局人員の多くが勾留されていないため,保釈率68.9%を終局人員全体の68.9%が保釈されたという意味に読んではならない。
交通事件でも,酒気帯び・無免許・ひき逃げの有無,前科,事故後の行動,住居・就労,認否等によって個別事情は異なる。
罪名欄の大分類だけから身柄見通しを断定することはできない。
第5 覚醒剤事犯―勾留率98.6%,保釈率29.4%
表8は,覚醒剤事犯とそれ以外の事件を分けている。
令和6年の覚醒剤事犯は,終局人員4876人,勾留人員4806人,勾留率98.6%,保釈人員1414人,保釈率29.4%であり,全通常第一審事件に占める割合は10.3%である。
これに対し,覚醒剤事犯以外の事件は,終局人員4万2682人,勾留率68.3%,保釈率32.7%である。
「覚醒剤事犯でも勾留人員の約3割が保釈された」という表現はできる。
しかし,個別事件について「保釈される確率が29.4%」と予測することはできない。
前科,共犯,入手経路,証拠関係,住居,監督,治療・生活再建計画,請求時期その他の条件が統制されていないためである。
第6 入管法違反―保釈率2.2%の限界
出入国管理及び難民認定法違反の令和6年の終局人員は2176人,勾留率は98.2%,保釈率は2.2%である。
表2に掲げられた主要罪名の中でも低い割合である。
もっとも,この数字だけでは,個々の事件で保釈が認められなかった理由は分からない。
罪名のほか,住居,在留資格,出国可能性,旅券,家族・就労関係,監督者,起訴事実の内容等の事情が混在し得る。
表2は,国籍又は在留状況そのものの因果効果を測定した資料ではない。
外国人の集計には,表4の「通訳翻訳人が付いた外国人事件」と表5の外国人区分という異なる母集団もある。
罪名別の表2と外国人別の表4・表5を,対象範囲を確認せずに結び付けてはならない。
第7 刑事訴訟法上は罪名だけで決まらない
刑事訴訟法89条は権利保釈の原則と除外事由を定め,同法90条は裁判所が適当と認めるときに職権で保釈を許す裁量保釈を定めている。
個別の保釈判断では,罪名だけでなく,法定の除外事由,罪証隠滅・逃亡のおそれを基礎付ける具体的事情,身体拘束による不利益,保釈条件で危険を抑えられるか等が問題になる。
したがって,罪名別統計の適切な使い方は,事件類型ごとの全体像を知り,個別事件で追加確認すべき事情を見つけることである。
表の割合だけで保釈請求の可否や結果を決めることではない。
保釈制度全体は,被告人の保釈で,統計の分母と保釈許可率との違いは,保釈率の読み方―勾留率・保釈許可率との違いと令和6年の統計で説明している。
第8 統計利用上の限界
表2及び表8を利用するときは,次の点を明示する必要がある。
①地裁通常第一審で令和6年中に終局した人員の集計であり,現在係属中の事件の横断調査ではない。
②保釈率の分母は勾留人員であり,保釈請求をした人又は請求件数ではない。
③罪名以外の条件をそろえた比較ではない。
④保釈請求の有無,回数,時期,保釈条件,保証金額及び判断理由は表から分からない。
⑤同じ罪名でも具体的な起訴事実,証拠関係及び被告人の生活基盤は異なる。
このため,罪名別保釈率は全国統計として引用できるが,個別事件の結果を予測する確率としては用いない。
第9 一次資料及び関連記事
1 一次資料
①表2 通常第一審における罪名別終局人員の身柄処遇状況(令和8年9月の開示文書)
②表8 覚醒剤事犯とそれ以外の事件に関する保釈率比較(令和8年9月の開示文書)
③刑事訴訟法(e-Gov法令検索)
④法務省・令和7年版犯罪白書「被告人の勾留と保釈」