第1 この記事の対象と基準日
1 この記事で扱う事項
この記事では,採用活動のうち,職業紹介と募集情報等提供の区別,求人情報の表示,社員紹介制度,公正な採用選考及び応募者の個人情報の取扱いを説明する。
法令及び行政資料は令和8年9月2日現在の内容に基づく。
募集後の面接,健康情報,内定,試用期間及び本採用拒否については,「中途採用における使用者側の留意点――募集・選考・内定・試用期間の実務(AI作成)」で詳しく説明している。
2 最初に区別すべき三つの場面
採用に関するサービスは,①求人者と求職者との雇用関係の成立をあっせんする職業紹介,②求人情報又は求職者情報を提供する募集情報等提供,③使用者が自ら労働者を募集する直接募集に大別できる。
名称が求人サイト,スカウト又は社員紹介であるかではなく,誰が,どの情報を,どのように選別,加工又は伝達し,雇用関係の成立にどこまで関与するかを確認する必要がある。
第2 職業紹介の定義及び許可・届出
1 職業紹介の定義
職業安定法4条1項は,職業紹介を,求人及び求職の申込みを受け,求人者と求職者との間における雇用関係の成立をあっせんすることと定義している。
単に求人情報を掲載するだけの場合と異なり,事業者が求人者又は求職者を選別し,両者の意思疎通を中継し,又は採用条件の調整に関与する場合は,職業紹介に該当する可能性がある。
厚生労働省の「職業紹介事業と募集情報等提供事業の区分」は,提供する情報を事業者の判断で選別すること,求人者又は求職者に応じて情報を加工すること及び意思疎通の内容を加工することなどを区分上の考慮要素として示している。
検索条件に従った機械的な絞込み又は利用者の閲覧履歴に基づく表示が直ちに職業紹介となるわけではないが,サービスの実態を個別に確認する必要がある。
2 有料職業紹介及び無料職業紹介
有料職業紹介事業を行うには,職業安定法30条に基づく厚生労働大臣の許可が必要である。
無料職業紹介事業についても同法33条の許可が原則であるが,学校等は33条の2,特別の法律により設立された法人等は33条の3,地方公共団体は29条に,届出等の特則が設けられている。33条の4は,公共職業安定所が学校等による職業紹介を援助する旨の規定である。
したがって,無償であれば常に許可又は届出が不要になるわけではない。
サービスの反復継続性,利用料その他の対価,事業者の関与方法及び適用される主体別の特則を確認する必要がある。
有料職業紹介の許可や届出手数料表があることと,特定の求人者に手数料の支払義務があることは別である。手数料に関する規制(職業安定法32条の3)及び明示義務(32条の13)を踏まえ,個別契約の料率,算定基礎,対象となる採用及び支払条件を確認する。手数料表の上限が,そのまま合意した料率になるわけではない。
派遣先が派遣労働者を直接雇用する場合の紹介手数料及びその他の費用については,派遣社員の直接雇用-雇用禁止条項,紹介手数料及び紹介予定派遣(AI作成)で説明している。
有料職業紹介における紹介手数料,直接採用・中抜き時の違約金,令和7年4月以後の明示義務及び条項例については,人材紹介の紹介手数料・違約金-直接採用条項の有効性と条項例(AI作成)で説明している。
3 職業紹介に関する最高裁判例
最高裁昭和29年3月11日判決(昭和27年(あ)第3626号,刑集8巻3号240頁)は,職業安定法上の雇用関係について,必ずしも民法上の雇用契約に限られないとの趣旨を示した。
職業紹介に該当するかを契約の名目だけで判断できないことを示す判例である。
最高裁平成6年4月22日判決(平成3年(オ)第1943号,民集48巻3号944頁)は,求人企業から依頼を受けて対象者を探索し,転職を勧誘して雇用関係の成立をあっせんするいわゆるスカウト行為が職業紹介に含まれ得ることを前提として,手数料に関する契約の効力を判断した。
同判決が参照した当時の定義規定は旧5条1項であり,現行法では4条1項に置かれている。
第3 募集情報等提供及び求人情報の表示
1 募集情報等提供事業
募集情報等提供とは,求人情報又は求職者情報を労働者になろうとする者又は求人者等に提供する事業であり,令和4年10月施行の改正職業安定法により規律が整備された。
求職者に関する情報を収集して募集情報等を提供する特定募集情報等提供事業者は,職業安定法43条の2に基づく届出を要する。
特定募集情報等提供事業者には,労働者になろうとする者への金銭等の提供に関する規制,事業概況報告,事業情報の公開,苦情処理及び個人情報の適正な管理等が課される。
制度の全体像及び届出様式は,厚生労働省の「募集情報等提供事業」で確認できる。
2 求人情報の的確な表示
職業安定法5条の4は,求人者,職業紹介事業者及び募集情報等提供事業者等に対し,求人等に関する情報について虚偽又は誤解を生じさせる表示をしてはならないと定めている。
また,正確かつ最新の内容に保つための措置を講じなければならない。
求人を終了したのに掲載を続けること,実際の業務と著しく異なる名称を用いること,又は固定残業代を基本給と区別せずに表示することは,応募者に誤解を生じさせる原因となる。
求人情報の掲載後も,募集の終了,労働条件の変更及び求人者からの訂正依頼を反映する運用が必要である。
3 令和6年4月から追加された明示事項
令和6年4月1日から,求人時に明示すべき労働条件として,①従事すべき業務の変更の範囲,②就業場所の変更の範囲及び③有期労働契約を更新する場合の基準が追加された。
更新上限がある場合は,通算契約期間又は更新回数の上限も明示する必要がある。
厚生労働省の「令和6年4月より,募集時等に明示すべき事項が追加されます」には,求人票の記載例が掲載されている。
求人広告,職業紹介事業者への求人申込み及び自社ウェブサイトの募集要項を同じ基準で点検するのが実務上有用である。
4 令和7年4月からの金銭等の提供及び利用料金の表示
令和7年4月1日から,募集情報等提供事業者が労働者になろうとする者に金銭又は有価物を提供することは,社会通念上相当と認められる程度を超えない少額の物品等を除き,原則として禁止されている。
この規制は求人情報サービスの利用を勧奨するための金銭等を対象とするものであり,使用者が自社の被用者に社員紹介の報奨を支給する場面とは法的根拠が異なる。
また,職業紹介事業者及び募集情報等提供事業者は,求人者に対し,利用料金,違約金等の額,発生条件及び解除方法を含む契約内容を分かりやすく事前に明示する必要がある。
詳細は,厚生労働省の「令和7年4月1日施行の改正省令等」で確認できる。
職業紹介事業者の違約金等について,厚生労働省の違約金規約の明示に関する案内は,契約後も,求人者が提示されたものと同一の文面を再読できる状態を求めている。単にウェブサイトの所在を案内し,同意ボタンを押してもらうだけで,同じ文面を再読できない運用は不十分である。
規約の版,提示日,適用される金額又は算定方法,発生条件,解除方法及び合意・変更の記録を残すことが有用である。名称が違約金であるかにかかわらず利用に関連して負担する金銭を確認し,明示義務への違反と,条項の私法上の有効性は分けて検討する。
5 インターネット上の募集広告に表示する事項
求人者がインターネット等で労働者の募集に関する情報を提供するときは,求人者の名称,住所及び連絡先,業務内容,就業場所並びに賃金を表示する必要がある。
会社名を伏せた募集,連絡先のない募集又は業務内容が判別できない募集は,表示事項を満たしているかを確認する必要がある。
厚生労働省の「労働者の募集広告には,募集主の氏名又は名称等の表示が必要です」は,必要な六つの表示事項を示している。
SNSへの短い投稿から募集ページへ誘導する場合も,リンク先だけでなく,募集広告自体に六つの情報を記載する必要がある。
第4 社員紹介制度
1 社員紹介と職業紹介事業の区別
社員紹介制度は,自社の被用者が知人等に応募を勧め,使用者が選考する仕組みであり,リファラル採用とも呼ばれる。
通常の社内制度として行われる限り,直ちに被用者が独立した職業紹介事業を行うことにはならないが,社外の者から反復継続して候補者を集める仕組み,成果報酬を目的とする仲介又は選考・条件交渉への広い関与がある場合は,制度の実態を改めて確認する必要がある。
社員紹介制度を社外の副業として展開させる場合,又はSNS等で不特定多数から候補者を募らせる場合は,自社募集の補助を超えて職業紹介に当たらないかが問題となり得る。
制度名や社内規程の有無だけでは結論を決められないため,疑義がある場合は都道府県労働局に事前に相談するのが安全である。
2 紹介した社員に対する報奨
職業安定法40条は,労働者の募集を行う者が,募集に従事する被用者等に対して,賃金,給料その他これらに準ずるもの又は同法36条2項の認可に係る報酬を除き,報酬を与えることを禁止している。
社員紹介の報奨を設ける場合は,名称を紹介料とするか手当とするかだけでなく,募集業務との関係,支給基準,金額,反復性及び賃金としての取扱いを総合して確認する必要がある。
就業規則又は賃金規程に対象者,支給要件,支給時期及び返還の有無を定めることは,制度を明確に運用するために有用である。
もっとも,規程に記載すれば当然に職業安定法上適法になるわけではなく,実態が許可を要する職業紹介又は認可を要する委託募集に当たらないかを別に検討する必要がある。
3 中間搾取の禁止との関係
労働基準法6条は,法律に基づいて許される場合を除き,業として他人の就業に介入して利益を得ることを禁止している。
社員紹介制度では,社員が自社の募集を補助する範囲を超え,第三者の就業に継続的に介入して利益を得る仕組みになっていないかを確認する必要がある。
同条の「業として」及び「利益」は制度の実態によって判断されるため,報奨が少額又は単発であることだけを一律の安全基準とすることはできない。
職業安定法40条と労働基準法6条は規律する場面が異なるので,両方を分けて点検する必要がある。
第5 公正な採用選考
1 適性及び能力に基づく選考
厚生労働省は,公正な採用選考について,応募者に広く門戸を開き,本人の適性及び能力に基づいて採否を決めることを基本としている。
本籍,家族,住宅状況,思想信条その他本人に責任のない事項又は本来自由であるべき事項を把握することは,就職差別につながるおそれがあるとしている。
これは採用実務全体を方向付ける行政上の基本的な考え方であり,個々の質問が直ちに一律の私法上の違法又は無効となることを意味しない。
他方で,性別,年齢及び障害を理由とする取扱いについては,次の各法律に直接の規定がある。
2 性別,年齢及び障害に関する規制
男女雇用機会均等法5条は,労働者の募集及び採用について,性別にかかわりなく均等な機会を与えることを事業主に義務付けている。
同法7条及び関係省令は,形式上は性別を条件としなくても,一方の性に相当程度の不利益を与える一定の措置を,合理的な理由がない限り間接差別として禁止している。
労働施策総合推進法9条は,募集及び採用において,年齢にかかわりなく均等な機会を与えることを原則としている。
定年年齢との関係,法令上の年齢制限,無期雇用を前提とする若年者の長期的なキャリア形成,技能承継,芸術・芸能及び国の雇用施策の対象者などについては,同法施行規則1条の3に例外が定められているが,各例外には固有の条件がある。
障害者雇用促進法34条及び35条は,募集及び採用の機会の均等並びに障害を理由とする不当な差別的取扱いの禁止を定めている。
同法36条の2は,募集及び採用に際して,障害者からの申出に応じ,過重な負担とならない範囲で必要な措置を講ずることを事業主に求めている。
年齢制限禁止は,求人広告の表示だけでなく,応募受付,書類選考,面接及び採否判断に及ぶ。
民間の職業紹介事業者を通じた募集・採用にも適用されるため,求人票を年齢不問としながら,紹介会社に一定年齢以上を推薦しないよう指示することも,適法な例外がなければ許されない。
「35歳未満歓迎」などの表示も,実際に一定年齢以上を採用しないのであれば,実質的な年齢制限になる。
また,「年齢不問。ただし一定年齢以上は経験者に限る」という条件も,年齢層ごとに異なる応募資格を課すものであり,原則として認められない。
長期勤続によるキャリア形成を理由とする例外は,期間の定めのない労働契約であること,職業経験を不問とすること及び新卒者と同等の訓練・育成体制,配置及び処遇で育成することを要する。
したがって,経験者を即戦力として募集しながら,「35歳以下」等の上限も設けることは,通常,この例外によって正当化できない。
技能・ノウハウの継承を理由とする例外は,対象職種,30歳から49歳までの範囲にある5歳から10歳幅の年齢層及び前後の年齢層との人数比較を具体的に確認する必要がある。
単に若手が少ない,又は平均年齢を下げたいという理由では足りない。
有料職業紹介事業者は,年齢制限のある求人について例外事由を確認し,違法な制限である場合は是正を働きかけ,是正されない場合は求人を受理しない対応が求められる。
詳細は,採用時の年齢制限と人材紹介会社への指示-「35歳以下」等の条件が許される場合と許されない場合(AI作成)で説明する。
3 履歴書様式及び採用時の質問
厚生労働省は,公正な採用選考を促すため,「厚生労働省履歴書様式例」を公表している。
この様式例には,性別を任意記載とし,通勤時間,扶養家族数,配偶者及び配偶者の扶養義務の欄を設けないなどの特徴がある。
様式例の使用自体が法令上義務付けられているわけではないが,応募者の適性及び能力と関係のない情報を収集していないかを点検する基準になる。
面接質問,エントリーシート及び適性検査についても,職務上の必要性を説明できる範囲に限定するのが相当である。
第6 応募者の個人情報
1 職業安定法上の取扱い
職業安定法5条の5は,職業紹介事業者,求人者,募集情報等提供事業者等が個人情報を収集,保管又は使用する場合について,業務の目的を明らかにし,その目的の達成に必要な範囲内で行うことを原則としている。
本人の同意がある場合その他正当な事由がある場合の例外はあるが,取得できる情報を無制限に広げる根拠にはならない。
求人者は,採用選考の目的,取得する項目,利用する担当者,保管期間及び不採用者情報の削除方法をあらかじめ整理する必要がある。
採用代行業者又は求人サービスを利用する場合は,どの事業者がどの目的で情報を取得し,求人者へ提供するかも確認する必要がある。
2 要配慮個人情報及び第三者提供
個人情報保護法20条2項は,要配慮個人情報を取得する場合について,法定の例外を除き,あらかじめ本人の同意を得ることを原則としている。
病歴,犯罪の経歴及び犯罪により害を被った事実等は,要配慮個人情報に含まれる。
個人データを第三者に提供する場合は,同法27条により,本人同意その他の適法な根拠が必要となる。
職業安定法上の必要性と個人情報保護法上の取得・提供要件は別の問題であるため,一方だけを確認して足りるものではない。
3 身元調査,SNS及びAIを利用した選考
身元調査,公開SNSの閲覧又はAIによる応募者評価は,利用可能な情報を技術的に取得できることと,採用目的で適法かつ相当であることを分けて考える必要がある。
調査対象,職務との関連性,情報の正確性,本人への説明,差別的な基準の混入及び保存期間を確認しなければならない。
年齢制限については「採用時の年齢制限と人材紹介会社への指示-「35歳以下」等の条件が許される場合と許されない場合(AI作成)」で,犯罪歴に関する制度上の取扱いは「前科抹消があった場合の取扱い(AIリライト)」で,健康情報,SNS調査及び選考後の手続は前記の中途採用記事で説明している。
本件記事では,職業安定法上の収集目的及び必要範囲並びに個人情報保護法上の取得・提供要件を確認すべきことにとどめる。
第7 出典
1 法令及び省令
職業安定法
職業安定法施行規則
労働基準法
労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律
労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律施行規則
雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律
障害者の雇用の促進等に関する法律
個人情報の保護に関する法律
2 裁判例
最高裁昭和29年3月11日判決(昭和27年(あ)第3626号,刑集8巻3号240頁)
最高裁平成6年4月22日判決(平成3年(オ)第1943号,民集48巻3号944頁)
3 法令に基づく指針
4 所管行政機関の解説及び資料
厚生労働省「職業紹介事業」
厚生労働省「募集情報等提供事業」
厚生労働省「職業紹介事業と募集情報等提供事業の区分」
厚生労働省「公正な採用選考」
厚生労働省「公正採用選考Q&A」
厚生労働省「令和6年4月より,募集時等に明示すべき事項が追加されます」
厚生労働省「令和7年4月1日施行の改正省令等」
厚生労働省「労働者の募集広告には,募集主の氏名又は名称等の表示が必要です」
厚生労働省「採用選考の具体的な方法(厚生労働省履歴書様式例)」
厚生労働省「その募集・採用 年齢にこだわっていませんか?」
厚生労働省「労働者の募集及び採用における年齢制限禁止の義務化に係るQ&A」
東京労働局「令和8年度 職業紹介事業者の皆様へ 自主点検のススメ」
5 文献及び関連記事
後藤勝也ほか編著『ベンチャー企業の法務AtoZ―起業からIPOまで』中央経済社,2016年,311頁~312頁
中野明安・岩元昭博「社員紹介制度における法的な問題はどこにあるか」BUSINESS LAWYERS,2016年10月24日
中途採用における使用者側の留意点――募集・選考・内定・試用期間の実務(AI作成)
ヘッドハンティング・人材スカウト契約の中途解約と返金-成果が出ない場合の確認事項(AI作成)
前科抹消があった場合の取扱い(AIリライト)