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最高裁判所裁判官国民審査とは-投票方法・白票・罷免要件・審査公報・在外投票(AIリライト)

第1 最高裁判所裁判官国民審査の位置付け

1 この記事が扱う範囲

最高裁判所裁判官国民審査は,すでに任命されている最高裁判所裁判官について,国民が罷免の可否を投票する制度である。

最高裁昭和27年2月20日大法廷判決は,国民審査を任命を完成させる制度ではなく,裁判官の解職の制度であると位置付けた。

本記事は,国民審査の対象者,時期,投票方法,罷免要件,審査公報,期日前投票及び在外投票という制度全体を説明するものである。

特定の裁判官について判断材料を集める方法は「最高裁判所裁判官国民審査の判断方法」,制度の合憲性と裁判例は「最高裁判所裁判官国民審査制度の合憲性に関する最高裁判所の判決」,政府見解は「最高裁判所裁判官国民審査に関する内閣答弁書と政府見解」で扱う。

本記事で確認した法令及び公的資料の基準日は,令和8年8月29日である。

2 最高裁判所長官を含む全裁判官が対象となること

憲法6条2項により,最高裁判所長官は内閣の指名に基づいて天皇が任命し,憲法79条1項により,長官以外の最高裁判所裁判官は内閣が任命する。

任命手続は異なるものの,憲法79条2項の国民審査は最高裁判所の裁判官を対象とするため,最高裁判所長官も国民審査の対象となる。

第2 誰がいつ国民審査を受けるか

1 任命後最初の審査と10年後の再審査

憲法79条2項及び最高裁判所裁判官国民審査法2条によれば,最高裁判所裁判官は,任命後初めて行われる衆議院議員総選挙の際に国民審査を受ける。

その後は,最初の審査から10年を経過した後に初めて行われる衆議院議員総選挙の際に再び審査を受け,その後も同様である。

「10年」は裁判官の任期ではなく,再審査までの間隔である。

最高裁判所裁判官は,裁判所法50条により70歳で定年退官するため,再審査を受ける前に退官する場合もある。

2 衆議院議員総選挙と同じ日に行われること

国民審査は,衆議院議員総選挙の際に行われる。

国民審査法5条により,中央選挙管理会は,総選挙の公示日に,審査の期日,審査に付される裁判官の氏名及び告示番号を官報で告示する。

国民審査法4条により,衆議院議員の選挙権を有する者は国民審査権を有する。

したがって,国民審査は裁判官を選ぶ選挙ではないが,衆議院議員総選挙の有権者が同じ機会に投票する制度である。

第3 ×印,白票,無効票及び投票しない意思の区別

1 罷免を可とする裁判官には×印を付けること

国民審査法15条は,罷免を可とする裁判官については投票用紙の所定の欄に自ら×印を記載し,罷免を可としない裁判官については何も記載しない方式を定めている。

投票用紙上の行為法律上の取扱い
裁判官の欄に自ら×印を記載するその裁判官について罷免を可とする投票
裁判官の欄に何も記載しないその裁判官について罷免を可としない投票
○印,文字その他の事項を記載する原則として無効
投票用紙を受け取らない国民審査について投票しない

一般に「白票」と呼ばれることがある無記載の投票用紙は,現行法上,すべての裁判官について罷免を可としない投票として数えられる。

無記載は,罷免の可否について意思を示さない棄権票として別集計されるものではない。

2 ×印以外の記載は原則として無効となること

国民審査法22条によれば,所定の投票用紙を用いない投票,×印以外の事項を記載した投票及び自ら×印を記載していない投票は無効である。

信任を示すために○印を書くと,罷免を可としない投票ではなく,原則として無効票となる点に注意が必要である。

同じ投票用紙に複数の裁判官が印刷されている場合,どの裁判官について記載されたか確認できない×印などは,その記載に対応する部分だけが無効となることがある。

各裁判官の罷免の可否は,一人ずつ区分して集計される。

3 国民審査だけ投票しない場合

国民審査について何らの意思表示もしたくない場合は,無記載の投票用紙を投函するのではなく,国民審査の投票用紙を受け取らない旨を投票所の係員に伝える必要がある。

例えば,埼玉県選挙管理委員会の案内は,国民審査の投票を希望しない場合,投票用紙を受け取らないことができると説明している。

もっとも,特定の裁判官についてだけ「罷免可」「罷免不可」のいずれにも数えない法定の棄権記号はない。

投票用紙を受け取った上で特定の裁判官の欄を空欄にすれば,その裁判官について罷免を可としない投票として扱われる。

第4 罷免を可とする投票の集計と罷免の要件

1 罷免可が罷免不可を上回ること

憲法79条3項は,投票者の多数が裁判官の罷免を可とするときは,その裁判官が罷免されると定めている。

これを受けた国民審査法32条1項は,罷免を可とする投票数が罷免を可としない投票数より多い裁判官について,罷免を可とされたものとする。

したがって,基準は投票率又は有権者全体の過半数ではなく,各裁判官についての罷免可票と罷免不可票の比較である。

ただし,投票者の総数が,選挙人名簿及び在外選挙人名簿の登録者総数の100分の1に達しないときは,罷免は行われない。

2 結果が確定した後の効果

罷免を可とされた裁判官は,審査無効訴訟等が提起されないまま所定の期間が経過したとき,又は訴訟が終結したときに罷免される。

国民審査法35条により,国民審査で罷免された者は,罷免の日から5年間,裁判官に任命されることができない。

各回の罷免可票,罷免不可票及び罷免可率は,選挙管理委員会等が公表する結果原表に基づいて確認する必要がある。

率の高低だけから,その裁判官の個別事件における判断理由又は有権者の動機を推測することはできない。

第5 審査公報と裁判官の判断材料

1 審査公報に掲載される事項

国民審査法53条は,都道府県の選挙管理委員会に,裁判官の氏名,経歴その他審査の参考となる事項を掲載した審査公報を発行させるものとしている。

同法施行令23条は,氏名,生年月日,経歴,最高裁判所において関与した主要な裁判その他の参考事項を掲載すると定めている。

同法施行令24条によれば,掲載文は原則として審査対象の裁判官が中央選挙管理会へ提出する。

掲載文が提出されないときは中央選挙管理会が作成し,その旨を付記するという例外がある。

2 現行法令には1000字の上限がないこと

少なくとも令和8年8月29日現在の国民審査法施行令22条から28条までには,審査公報の掲載文を「1000字以内」とする規定はない。

過去の規定又は古い資料に基づく字数制限の説明を,現行制度の説明として用いることはできない。

審査公報は法令が予定する公式資料であるが,掲載されるのは「関与した主要な裁判」であり,全関与事件の一覧ではない。

審査公報,最高裁判所の裁判官紹介ページ及び裁判所ウェブサイトの判決原文をどのように照合するかは,「最高裁判所裁判官国民審査の判断方法」で説明している。

第6 期日前投票,不在者投票及び在外投票

1 期日前投票の期間には例外があること

国民審査法16条の2により,国民審査の期日前投票は,原則として衆議院小選挙区選出議員選挙の期日前投票所で,その期日前投票と同時に行う。

ただし,審査の告示日が審査予定裁判官の通知日から4日以内である場合,国民審査の期日前投票は審査期日の7日前から前日までとなる。

したがって,衆議院議員総選挙の期日前投票を行える期間であっても,国民審査の投票がまだ始まっていない場合がある。

実際の開始日と投票場所は,対象回について中央選挙管理会又は住所地の選挙管理委員会が公表する案内を確認する必要がある。

病院等の指定施設,滞在地その他で行う不在者投票については,国民審査法26条が準用する公職選挙法上の手続による。

該当要件及び請求期限は投票方法によって異なるため,早めに選挙管理委員会へ確認するのが安全である。

2 在外投票ができること

最高裁令和4年5月25日大法廷判決は,当時の国民審査法が在外国民に国民審査権の行使を全く認めていなかったことは,憲法15条1項並びに79条2項及び3項に違反すると判示した。

この判決後,最高裁判所裁判官国民審査法の一部を改正する法律(令和4年法律第86号)が制定され,令和5年2月17日に施行された。

現在は,在外選挙人名簿に登録されている審査人が,在外公館投票,郵便等投票又は日本国内での投票により国民審査権を行使できる。

在外投票では,投票用紙に印刷された告示番号のうち,罷免を可とする裁判官に対応する欄へ×印を付ける。

氏名ではなく番号を用いるのは,短い選挙期間に海外へ投票用紙を送付する実務に対応するためであり,裁判官の氏名と告示番号は中央選挙管理会等がウェブサイトその他の方法で周知する。

第7 制度の理解に重要な最高裁判例

1 最高裁昭和27年2月20日大法廷判決

最高裁昭和27年2月20日大法廷判決は,国民審査が裁判官の解職制度であることを示し,罷免を可としない者が投票用紙に何も記載しない現行方式を憲法に違反しないと判断した。

事件番号は昭和24年(オ)第332号であり,民集6巻2号122頁に掲載されている。

この判決は,無記載票をどのように扱うかという現行制度の基礎を示す。

もっとも,制度に関するその後の裁判例と議論の全体は,「最高裁判所裁判官国民審査制度の合憲性に関する最高裁判所の判決」を参照されたい。

2 最高裁令和4年5月25日大法廷判決

最高裁令和4年5月25日大法廷判決は,国民審査権を,憲法15条1項が定める公務員の選定及び罷免の権利の一つと位置付けた。

事件番号は令和2年(行ツ)第255号及び同年(行ヒ)第290号ないし第292号であり,民集76巻4号711頁に掲載されている。

同判決は,在外国民に国民審査権の行使を全く認めない当時の制度を違憲と判断し,違法確認請求及び国家賠償請求についても判断した。

この判決と令和4年改正は,現在の在外投票制度を理解する前提となる。

第8 各回の国民審査と関連記事

1 第27回から第15回までの国民審査

当ブログで個別記事を作成している第15回以降の国民審査は,次のとおりである。

各回の記事では,審査対象となった裁判官,審査公報,投開票結果その他の資料を確認できる。

回次執行日個別記事
第27回令和8年2月8日個別記事
第26回令和6年10月27日個別記事
第25回令和3年10月31日個別記事
第24回平成29年10月22日個別記事
第23回平成26年12月14日個別記事
第22回平成24年12月16日個別記事
第21回平成21年8月30日個別記事
第20回平成17年9月11日個別記事
第19回平成15年11月9日個別記事
第18回平成12年6月25日個別記事
第17回平成8年10月20日個別記事
第16回平成5年7月18日個別記事
第15回平成2年2月18日個別記事

2 関連する制度別記事

①判断材料の集め方は,「最高裁判所裁判官国民審査の判断方法」で説明している。

②投票方式と制度の合憲性に関する裁判例は,「最高裁判所裁判官国民審査制度の合憲性に関する最高裁判所の判決」で整理している。

③国民審査の情報提供,三択式投票及び再審査の間隔に関する政府見解は,「最高裁判所裁判官国民審査に関する内閣答弁書と政府見解」で整理している。

④過去の罷免可率は,「罷免を可とする比率が高かった最高裁判所裁判官」で整理している。

ただし,罷免可率は投票結果を示すものであり,裁判官の判断内容又は投票者の動機を直接示すものではない。

第9 出典・参考資料

1 法令

e-Gov法令検索「日本国憲法」

e-Gov法令検索「最高裁判所裁判官国民審査法」

e-Gov法令検索「最高裁判所裁判官国民審査法施行令」

e-Gov法令検索「裁判所法」

2 裁判例

最高裁昭和27年2月20日大法廷判決・昭和24年(オ)第332号・民集6巻2号122頁・裁判所ウェブサイト

最高裁令和4年5月25日大法廷判決・令和2年(行ツ)第255号及び同年(行ヒ)第290号ないし第292号・民集76巻4号711頁・裁判所ウェブサイト

3 国会資料・選挙管理委員会資料

最高裁判所裁判官国民審査法の一部を改正する法律(令和4年法律第86号)・衆議院

第210回国会政治倫理の確立及び公職選挙法改正に関する特別委員会第3号・令和4年10月26日・衆議院

最高裁判所裁判官の国民審査における情報提供の充実と実効性確保に関する質問に対する答弁書・令和6年11月22日・衆議院

第51回衆議院議員総選挙及び第27回最高裁判所裁判官国民審査のお知らせ・埼玉県選挙管理委員会