最高裁判所裁判官国民審査


目次
1 総論
2 最高裁判所裁判官国民審査のタイミング
3 最高裁判所裁判官国民審査の投票等
4 最高裁判所裁判官国民審査公報
5 最高裁判所裁判官国民審査の在外投票
6 最高裁判所裁判官国民審査の期日前投票の開始日の変更
7 最高裁判所裁判官国民審査に関する外部HP
8 最高裁判所裁判官に関するHP
9 関連資料及び関連記事

1 総論
(1) 最高裁判所裁判官国民審査の制度は,既に任命されている最高裁判所の裁判官が,その職責にふさわしいかどうかを国民が審査する制度です(憲法79条2項ないし4項,裁判所法48条及び最高裁判所裁判官国民審査法)。
(2) 最高裁判所裁判官国民審査の制度は,国民が裁判官を罷免すべきか否かを決定する趣旨であって,裁判官の任命を完成させるか否かを審査するものではありません(最高裁大法廷昭和27年2月20日判決最高裁昭和47年7月25日判決参照)。
(3) 総務省自治行政局選挙部管理課選挙管理官は,国民審査に関する事務を行っています(総務省組織規則27条2項)。

2 最高裁判所裁判官国民審査のタイミング
(1) 最高裁判所の裁判官は任命された後に初めて行われる衆議院議員総選挙の投票日に国民審査を受け,この審査の日から10年を経過した後に初めて行われる衆議院議員総選挙の投票日に更に審査を受けます(憲法79条2項)。
(2) 憲法79条2項に基づき再審査を受けた最高裁判所裁判官は6人だけですし,再審査自体,昭和38年を最後に1度も実施されていません。
(3) 国民審査を受ける前に退官した最高裁判所裁判官は,①舌禍事件により昭和23年6月28日に依願退官した庄野理一(元 東弁弁護士),及び②昭和26年7月29日に死亡退官した穂積重遠(元 東京帝国大学法学部長)の2人だけです。
(4) 最高裁判所判事に任命されて既に国民審査を受けた者が最高裁判所長官に任命された場合,改めて国民審査を受ける必要はないと解されています(昭和47年3月14日の衆議院法務委員会における真田秀夫内閣法制局第一部長の答弁)。

3 最高裁判所裁判官国民審査の投票等
(1) 衆議院議員の総選挙がある人は,国民審査の投票をすることができます。
(2) 審査人である有権者は,投票所において,罷免を可とする裁判官については,投票用紙の当該裁判官に対する記載欄に自ら×の記号を記載し,罷免を可としない裁判官については、投票用紙の当該裁判官に対する記載欄に何等の記載をしないで,これを投票箱に入れなければなりません(最高裁判所裁判官国民審査法15条)。
(3) 罷免を可とする投票の数が罷免を可としない投票の数より多い最高裁判所裁判官は罷免されます(最高裁判所裁判官国民審査法32条)ものの,これまでに罷免された最高裁判所裁判官はいません。

4 最高裁判所裁判官国民審査公報
(1) 最高裁判所裁判官国民審査法53条,最高裁判所裁判官国民審査法施行令22条ないし30条,及び最高裁判所裁判官国民審査公報発行規程2条に基づき,最高裁判所裁判官国民審査公報が発行されています。
(2) 最高裁判所裁判官国民審査公報には,審査に付される裁判官の氏名,生年月日及び経歴並びに最高裁判所において関与した主要な裁判その他審査に関し参考となるべき事項が掲載されます(最高裁判所裁判官国民審査法施行令23条)。
(3) 首相官邸HPの「最高裁判所裁判官国民審査の概要について」によれば,審査公報の字数は1000字以内となっていますものの,その根拠となる条文はよく分かりません。
(4) 審査公報は,都道府県の選挙管理委員会の定めるところにより,市町村の選挙管理委員会が,当該市町村における有権者の属する各世帯に対して,審査の期日前2日までに,配布するものとされています(最高裁判所裁判官国民審査法施行令28条本文)。


5 最高裁判所裁判官国民審査の在外投票
(1) 令和4年11月の改正前の取扱い
ア 最高裁判所裁判官国民審査の場合,国民審査に付される最高裁判所裁判官の名前が印刷された投票用紙が必要となりますところ,それを,公示日から投開票日までの間にすべての在外公館に配布することは不可能ですから,在外投票が認められていませんでした(withnews HP「最高裁判事の国民審査 海外でできない超アナログな事情」参照)。
イ 国政選挙(衆議院議員選挙及び参議院議員選挙)の場合,以下の改正がなされてきました(外務省HPの「在外選挙制度導入とその後の制度改正」参照)。
① 平成12年5月,比例代表選出議員選挙に関する在外選挙が開始しました。
② 最高裁大法廷平成17年9月14日判決を受けた平成18年の公職選挙法の改正により,平成19年6月,衆議院小選挙区選出議員選挙及び参議院選挙区選出議員選挙に関する在外選挙が開始しました。
③ 平成28年6月,選挙権年齢が満18歳以上に引き下げられました。
ウ 最高裁大法廷令和4年5月25日判決は,「最高裁判所裁判官国民審査法が在外国民(国外に居住していて国内の市町村の区域内に住所を有していない日本国民)に最高裁判所の裁判官の任命に関する国民の審査に係る審査権の行使を全く認めていないことは、憲法15条1項、79条2項、3項に違反する。」と判示しました。
(2) 令和4年11月の改正後の取扱い
ア 第210回国会において,最高裁判所裁判官国民審査法の一部を改正する法律(令和4年法律第86号)が成立し、令和4年11月18日に公布され,令和5年2月17日に施行されました。
イ 最高裁判所裁判官国民審査法の一部を改正する法律(令和4年法律第86号)は,「令和4年5月25日の最高裁判所大法廷判決において、在外国民に対して最高裁判所裁判官国民審査における投票を認めていない現行制度は違憲であると判示されたことを受け、在外国民による在外国民審査を可能とする等の措置を講ずる。」というものでした(総務省HPの「最高裁判所裁判官国民審査関係法令」に載ってある「最高裁判所裁判官国民審査法の一部を改正する法律(在外国民審査制度の創設等)の概要」参照)。
ウ 以下の資料を掲載しています。
・ 最高裁判所裁判官国民審査法の一部を改正する法律案(在外投票制度の創設等)御説明資料(令和4年8月の総務省自治行政局選挙部選挙課の文書)
・ 令和4年11月の最高裁判所裁判官国民審査法改正に関する国会答弁資料(令和4年10月31日の衆議院倫理選挙特別委員会)
・ 令和4年11月の最高裁判所裁判官国民審査法改正に関する国会答弁資料(令和4年11月9日の参議院倫理選挙特別委員会)

6 最高裁判所裁判官国民審査の期日前投票の開始日の変更
(1)   平成29年1月1日以降,最高裁判所裁判官国民審査の期日前投票の開始日は,原則として,衆議院議員総選挙と同様,総選挙の公示日の翌日(通常は選挙期日前11日)となりました(最高裁判所裁判官国民審査法16条の2)(総務省HPの「公職選挙法及び国民審査法の一部改正について」及び「最高裁判所裁判官国民審査関係法令」参照)。
(2) 国民審査においても,衆議院議員総選挙と同様,審査期日(投票日)に仕事や旅行,レジャー,冠婚葬祭等の用務があるなど一定の事由に該当すると見込まれる方は期日前投票(不在者投票)をすることができます(総務省HPの「最高裁判所裁判官国民審査についてのよくある質問」参照)。

7 最高裁判所裁判官国民審査に関する外部HP
(1)ア 総務省HPの「衆議院議員総選挙・最高裁判所裁判官国民審査 速報結果」に,平成17年9月11日執行の第20回最高裁判所裁判官国民審査「以降の」結果が載っています。
イ 公職選挙法6条2項は,「中央選挙管理会は選挙の結果を選挙人に対してすみやかに知らせるように努めなければならない。」と定めています。
(2) 総務省HPに「最高裁判所裁判官国民審査についてのよくある質問」が載っています。
(3) 衆議院HPに,制定時の最高裁判所裁判官国民審査法(昭和22年11月20日法律第136号)が掲載されています。
(4) 沖縄県民は,他の都道府県の人と比べて,国民審査を棄権する人が多いです(外部HPの「なぜ沖縄県民は国民審査を棄権するのか」参照)。


8 最高裁判所裁判官に関するHP
(1) 「幹部裁判官の定年予定日」にあるとおり,最高裁判所裁判官の定年は70歳です(憲法79条5項,裁判所法50条)から,誕生日の前日に定年退官となります。
(2) 最高裁判所長官に関する親任式,及び最高裁判所判事に関する認証官任命式については,「幹部裁判官の後任候補者」を参照してください。
(3)ア 最高裁判所裁判官の投票行動については,外部HPの「投票行動.com」に載っています。
イ 最高裁判所判事の仕事ぶりについては,外部HPの「裁判官と学者の間で」(藤田宙靖 元最高裁判所判事)が参考になります。
(4)ア 昭和22年8月4日の最高裁発足の経緯については,外部HPの「最高裁のルーツを探る-裁判所法案起草から三淵コート成立まで-」が参考になります。
イ 日本国憲法が施行された昭和22年5月3日から同年8月3日までの間,大審院長が最高裁判所長官を代行し,大審院判事が最高裁判所判事を代行していました(裁判所法施行令12条のほか,「最高裁判所発足時の裁判官任命諮問委員会,及び最高裁判所裁判官任命諮問委員会設置法案等」参照)。
(5) 裁判所HPの「最高裁判所大法廷等の写真」に,大法廷,第一小法廷裁判官,第二小法廷裁判官及び第三小法廷裁判官の写真が載っています。
(6) 投票行動.com HP「最高裁判所」に,最高裁判所裁判官の投票行動が載っています。


9 関連記事その他
(1) 最高裁大法廷令和4年5月25日判決は,「最高裁判所裁判官国民審査法が在外国民に審査権の行使を全く認めていないことは、憲法15条1項、79条2項、3項に違反する」と判示しました。
(2) 期外の園部逸夫 元最高裁判所判事(学者枠)は,大阪空港訴訟に関する最高裁大法廷昭和56年12月16日判決を取り扱った「誰のための司法か~團藤重光 最高裁・事件ノート~」(令和5年4月15日初放送)に出演した際,團藤重光最高裁判所判事(元東京大学法学部長の刑事法学者)に関して以下の発言をしました。
  やっぱり団藤さんはね,学者出身ということが非常に引っかかったと思いますよ。まあ団藤さんがいろいろおっしゃる気持ちも分かるけど,そう簡単には受け入れられないという,そういうふうに思う実務裁判官がいてもおかしくないだろうと思いますよね。
だからやっぱり裁判所というところはなかなか難しいので外からすっと入ってきた人っていうのはちょっと正直言って難しいです。そう簡単にはね,受け入れられ,表は受け入れていますよ。表は受け入れているけど,中身は本当は受け入れられていない。

(3)ア 以下の資料を掲載しています。
・ 最高裁判所長官の任命と国民審査の要否
・ 最高裁判所長官に対する国民審査について
 公職選挙法及び最高裁判所裁判官国民審査法の一部を改正する法律(平成28年12月2日法律第94号)に関する,最高裁判所裁判官国民審査法の新旧対照表
イ 以下の記事も参照してください。
・ 罷免を可とする比率が高かった最高裁判所裁判官
・ 令和 3年10月31日執行の第25回最高裁判所裁判官国民審査
・ 平成29年10月22日執行の第24回最高裁判所裁判官国民審査
・ 平成26年12月14日執行の第23回最高裁判所裁判官国民審査
・ 平成24年12月16日執行の第22回最高裁判所裁判官国民審査
・ 平成21年 8月30日執行の第21回最高裁判所裁判官国民審査
・ 平成17年 9月11日執行の第20回最高裁判所裁判官国民審査
・ 平成15年11月 9日執行の第19回最高裁判所裁判官国民審査
・ 平成12年 6月25日執行の第18回最高裁判所裁判官国民審査
・ 平成 8年10月20日執行の第17回最高裁判所裁判官国民審査
・ 平成 5年 7月18日執行の第16回最高裁判所裁判官国民審査
・ 平成 2年 2月18日執行の第15回最高裁判所裁判官国民審査
(4) 衆議院の解散関係の記事
・ 衆議院の解散
・ 衆議院の解散は司法審査の対象とならないこと
・ 日本国憲法下の衆議院の解散一覧
・ 一票の格差是正前の解散は可能であることに関する政府答弁
・ 閉会中解散は可能であることに関する内閣法制局長官の答弁
 国会制定法律の一覧へのリンク
・ 衆議院の解散に関する内閣答弁書


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