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中国人強制連行・強制労働訴訟―二つの最高裁平成19年4月27日判決と西松建設和解(AI作成)

中国人強制連行・強制労働訴訟では,戦時中の加害行為に基づく個人の請求権と,昭和47年の日中共同声明第5項による請求権処理の法的効果が中心的な争点となった。
本記事では,最高裁平成19年4月27日の二判決,そのうち西松建設事件の事実関係,広島高裁判決,任意の救済及び二つの西松建設和解を区別して整理する。

第1 二つの最高裁平成19年4月27日判決

1 第一小法廷判決

最高裁平成19年4月27日第一小法廷判決(平成17年(受)第1735号,損害賠償等請求事件,集民224号325頁)は,日中戦争の遂行中に生じた中国国民の日本国又はその国民若しくは法人に対する請求権の帰すうについて判断した。

同判決は,昭和47年の日中共同声明第5項により,対象となる請求権は裁判上訴求する権能を失ったと判示した。
この判示事項と裁判要旨は,同日に言い渡された第二小法廷判決と同じ内容である。

2 第二小法廷判決

最高裁平成19年4月27日第二小法廷判決(平成16年(受)第1658号,損害賠償請求事件,民集61巻3号1188頁)は,西松建設の安野発電所事業場で強制労働に従事させられたとする中国人被害者らが,西松建設に損害賠償を求めた事件である。
この事件で国は共同被告となっていない。

第二小法廷判決も,日中戦争の遂行中に生じた中国国民の日本国又はその国民若しくは法人に対する請求権は,日中共同声明第5項によって裁判上訴求する権能を失ったと判示した。
原審の広島高裁判決を破棄し,被害者らの請求を棄却した。

二判決は,事件番号,原審及び具体的な当事者関係が異なる別事件である。
もっとも,裁判所公式サイトに掲げられた日中共同声明第5項に関する判示事項と裁判要旨は共通しているため,いずれか一方だけを「唯一の最高裁判決」として紹介するのは正確でない。

第二小法廷判決は民集に掲載され,強制連行・強制労働の具体的な事実関係,サンフランシスコ平和条約の請求権処理の枠組み及び任意の救済への付言を詳しく示している。
二判決の存在を示した上で,具体的な法理と事実関係の説明には第二小法廷判決を中心に用いるのが分かりやすい。

第2 日中共同声明第5項の法的効果

日中共同声明第5項は,中華人民共和国政府が中日両国国民の友好のために,日本国に対する戦争賠償の請求を放棄すると定めている。
文言には,中国国民個人の損害賠償請求権を明示した部分がない。

最高裁は,サンフランシスコ平和条約が,個人の請求権を実体的に消滅させるのではなく,裁判上訴求する権能を失わせる枠組みを採用したと解釈した。
その上で,日中平和友好条約前文が日中共同声明を両国関係の基礎とし,その諸原則を厳格に遵守すべきことを確認したこと等から,共同声明第5項にも同じ枠組みによる法的効果を認めた。

このため,最高裁判決を「個人の請求権が消滅した」と要約するのは正確でない。
個別具体的な請求権は実体法上消滅していないが,その請求権に基づいて裁判所へ訴えを提起し,判決による実現を求める権能を失ったという区別が必要である。

この法的構成,サンフランシスコ平和条約との関係及び学説上の評価は,最高裁平成19年4月27日判決とサンフランシスコ平和条約の請求権放棄(AIリライト)を参照されたい。

第3 第二小法廷判決が認定した強制連行・強制労働

日本政府は,昭和17年11月の閣議決定により,中国人労働者を日本へ移入する方針を決めた。
試験移入を経て,昭和19年2月には本格移入の実施要領等が定められた。

最高裁第二小法廷判決が認定したところによれば,試験移入と本格移入を合わせた中国人労働者の移入総数は3万8935人であり,送還時までの死亡者は6830人であった。
この数値は,第二小法廷判決が認定した本件の背景事実として引用するのが適切であり,調査対象又は集計方法を示さずに現在の統計として扱うべきではない。

本件の被害者らを含む中国人労働者360人は,昭和19年7月に青島から下関へ移送され,西松建設の安野発電所事業場で導水トンネルの掘削等に従事した。
被害者らは,日本へ渡航して西松建設の下で働くことを事前に知らされて承諾したものではなく,同社との間で雇用契約を締結したものでもなかった。

第二小法廷判決は,被害者らが精神的・肉体的苦痛を受けたこと,西松建設が強制労働によって利益を得たこと等を踏まえ,関係者が被害救済に向けた努力をすることを期待すると付言した。
法的請求を裁判で実現できないという結論と,被害の重大性及び任意の救済への期待は区別して理解する必要がある。

第4 広島高裁平成16年7月9日判決

広島高裁平成16年7月9日判決(平成14年(ネ)第321号,損害賠償請求事件,高裁判例集57巻3号1頁)は,西松建設と被害者らの間に雇用契約関係に準ずる法律関係が成立したとして,同社の安全配慮義務違反を認めた。

同判決は,消滅時効の援用が著しく正義に反し,条理にもとるとして権利濫用に当たるとし,日華平和条約又は日中共同声明による個人の損害賠償請求権の放棄も否定した。
その上で,被害者ら5人に各550万円を支払うよう命じた。

もっとも,広島高裁判決は,最高裁平成19年4月27日第二小法廷判決によって破棄された。
高裁判決の安全配慮義務及び消滅時効に関する判断と,最高裁による日中共同声明第5項の判断を混同してはならない。

第5 大阪高裁令和2年2月4日判決

大阪高裁令和2年2月4日判決(平成31年(ネ)第535号,損害賠償等請求控訴事件)は,中国から日本へ強制連行され,日本各地の事業場で強制労働に従事させられたとする者ら及び承継人らが,国に対して損害賠償等を求めた事件である。

同判決は,最高裁平成19年4月27日第二小法廷判決に従い,日中共同声明第5項によって裁判上訴求する権能を失ったとした原判決の判断を是認した。
また,強制連行・強制労働という先行行為があったとしても,戦後に侵害を回復するための金銭支払義務が当然に別個発生し,その不履行が新たな損害賠償請求権の根拠になるとはいえないとした。

さらに,昭和29年から昭和35年にかけての国会答弁について,具体的事実を摘示して被害者らの社会的評価を低下させるものとは認められないとして,名誉毀損の成立を否定した。

第6 任意の救済と西松建設和解

1 任意の対応は妨げられないこと

最高裁第二小法廷判決は,裁判上訴求する権能が失われても,債務者側が個別具体的な請求権について任意かつ自発的な対応をすることまでは妨げられないと述べた。
被害救済のための和解,基金への拠出又は謝罪は,裁判で強制できる請求権の有無とは別の次元にある。

2 安野事業場に関する平成21年の和解

第二小法廷判決の対象となった安野発電所事業場に関しては,西松建設と中国人労働者側との間で,平成21年10月23日に東京簡易裁判所で和解が成立したと報じられている。
中華人民共和国駐日本国大使館の掲載記事によれば,西松建設は謝罪,記念碑の建立及び2億5000万円の拠出を約束した。

3 信濃川事業場に関する平成22年の和解

西松建設の別の事業場である信濃川発電所に関しては,平成22年4月26日,東京簡易裁判所における訴え提起前の和解が成立したと報じられている。
同日の和解を伝える記事によれば,西松建設は歴史的責任を認めて謝罪し,元労働者183人に関する解決のため1億2800万円を拠出する内容であった。

安野事業場の最高裁事件と,信濃川事業場に関する平成22年4月26日の和解は,同じ西松建設の中国人強制労働問題に関係するが,対象事業場,対象者及び和解内容が異なる。
両者の日付及び金額を混同しないことが重要である。

第7 外務省の調査報告書

外務省外交史料館は,昭和21年に作成された「華人労務者就労事情調査報告書」全5冊の複製を所蔵している。
同報告書は,中国人労働者の移入及び就労状況を調べる際の基礎資料である。

所蔵資料の概要及び利用方法は,外務省外交史料館の戦後70年関連資料で案内されている。
判決認定の数値と報告書の原資料を区別し,引用時にはどの資料に基づく数値かを示すべきである。

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第9 出典

① 最高裁平成19年4月27日第一小法廷判決・平成17年(受)第1735号・集民224号325頁。
② 最高裁平成19年4月27日第二小法廷判決・平成16年(受)第1658号・民集61巻3号1188頁。
③ 広島高裁平成16年7月9日判決・平成14年(ネ)第321号・高裁判例集57巻3号1頁。
④ 大阪高裁令和2年2月4日判決・平成31年(ネ)第535号。
⑤ 外務省「日本国政府と中華人民共和国政府の共同声明」(昭和47年9月29日)。
⑥ 外務省外交史料館「戦後70年関連資料」。
⑦ 横藤田誠・中坂恵美子『人権入門〔第4版〕』法律文化社,2021年,209頁~211頁。