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日本の戦後賠償はいくらか―賠償,在外財産,経済協力及び個人請求権の法的整理(AIリライト)

第1 日本の戦後賠償はいくらか

1 結論

(1) 純粋な賠償額

日本がフィリピン,南ベトナム,ビルマ及びインドネシアの4か国に供与した純粋な意味での賠償額は,合計10億1208万ドル,円貨換算3643億4880万円である。

この金額は,外務省の「日本の具体的戦後処理」及び同ページ所掲の「賠償並びに戦後処理の一環としてなされた経済協力及び支払い等」により確認できる。

(2) 広義の戦後処理総額

外務省資料の最終行にある264億2864万8268ドル,1兆3525億2789万8145円は,純粋な賠償だけの総額ではない。

この数字は,賠償に中間賠償,在外財産の評価額,戦後処理に伴う無償経済協力,捕虜等への支払,私的請求権の解決,戦前債務及び戦後の借款を順次加えた,広義の戦後処理に関する累積額である。

したがって,「日本の戦後賠償はいくらか」という問いには,狭義の賠償は10億1208万ドルであり,借款まで含む外務省資料の最広義の累積額は264億2864万8268ドルであると答えるのが正確である。

2 金額を読む際の3つの注意点

(1) 異なる法的性質の金額を合算しないこと

賠償,無償経済協力,有償借款,私的請求権の解決及び在外財産の処分は,根拠条約,給付の相手方,返済義務及び会計上の性質が異なる。

合計額を示す場合には,何を含む数字であるかを明示しなければならない。

(2) 在外財産は現金支払額ではないこと

外務省資料の在外財産236億8100万ドルは,終戦時の在外財産に関する評価額であり,日本政府が同額の現金を相手国へ送金したことを意味しない。

この点を区別しないと,「支払った額」と「処分が認められた財産の評価額」が混在する。

(3) 現在価値への単純換算を避けること

戦後直後のドル額又は円額を現在価値に換算するには,物価,為替,国民所得,国家予算又は金価格のいずれを基準にするかを定める必要がある。

換算方法及び基準年を示さない「現在の何兆円相当」という表現は検証不能であるため,本記事では用いない。

3 戦後賠償,戦後補償及び戦後処理の区別

(1) 戦後賠償

本記事でいう「戦後賠償」は,主として,戦争により生じた国家間の賠償義務を平和条約又は賠償協定に基づいて履行することをいう。

その金額を論じるときは,条約上の義務額,供与方法及び履行完了時期を確認する必要がある。

(2) 戦後補償及び戦後処理

「戦後補償」は,戦争被害を受けた個人に対する国内法上,行政上又は任意の救済を含む,より広い文脈で用いられることが多い。

本記事では,賠償,在外財産の処分,請求権問題,経済協力,借款及び個人への給付を包括して指す場合に「戦後処理」と表記し,個別の法的性質を明示する。

第2 4か国に対する純粋な賠償

1 国別の金額

(1) フィリピン及び南ベトナム

サンフランシスコ平和条約14条(a)1を基礎として,フィリピンに5億5000万ドル,南ベトナム,すなわちベトナム共和国に3900万ドルの賠償が供与された。

円貨換算は,フィリピンが1980億円,南ベトナムが140億4000万円である。

(2) ビルマ及びインドネシア

個別の平和条約又は賠償協定に基づき,ビルマ,現在のミャンマーに2億ドル,インドネシアに2億2308万ドルの賠償が供与された。

円貨換算は,ビルマが720億円,インドネシアが803億880万円である。

相手国根拠の区分ドル額外務省資料の円貨額
フィリピンサンフランシスコ平和条約14条(a)1に基づく賠償協定5億5000万ドル1980億円
南ベトナム(ベトナム共和国)サンフランシスコ平和条約14条(a)1に基づく賠償協定3900万ドル140億4000万円
ビルマ個別の平和条約及び賠償・経済協力協定2億ドル720億円
インドネシア個別の平和条約及び賠償協定2億2308万ドル803億880万円
合計純粋な賠償10億1208万ドル3643億4880万円

2 賠償の方法と経済協力への接続

(1) 役務及び生産物による履行

サンフランシスコ平和条約14条(a)1は,生産,沈船引揚げその他の作業における日本人の役務を利用に供する方法を予定していた。

実際の賠償も,主として日本の生産物及び役務の供与により履行され,単純な現金一括送金ではなかった。

外務省の外交青書昭和52年版によれば,最後に残ったフィリピン向け賠償は1976年7月に完了し,これにより賠償協定に基づく支払義務はすべて完了した。

(2) 賠償と経済協力を区別する理由

賠償は戦争損害に関する条約上の義務であるのに対し,無償経済協力及び有償借款には,外交関係の正常化及び開発協力という別の目的と法的根拠がある。

もっとも,実際の履行では日本の生産物及び技術が供与され,アジア向け経済協力の出発点にもなったため,歴史的経緯を説明する際には両者の連続性も示す必要がある。

第3 在外財産その他を含む広義の戦後処理

1 外務省資料の累積表

(1) 264億2864万8268ドルの内訳

外務省資料は,次のように対象項目を追加した累積額を示している。

段階含まれる項目ドル累積額円貨累積額
I純粋な賠償10億1208万ドル3643億4880万円
III+中間賠償+在外財産247億3832万8997ドル7440億1295万8839円
IIIII+戦後処理に伴う経済協力及び支払等,借款を除く254億4372万2619ドル9979億5466万4219円
IVIII+捕虜及び一般市民抑留者への償い+私的請求権の解決254億8017万4005ドル1兆110億7716万3465円
VIV+戦前債務254億8204万8268ドル1兆117億5189万8145円
VIV+戦後処理に伴う借款264億2864万8268ドル1兆3525億2789万8145円

第VI段階は,第I段階の純粋な賠償を約26倍したものではなく,性質の異なる項目を加えた集計範囲の拡張である。

(2) 借款を含めることの意味

借款は返済を予定する有償資金であるため,無償の賠償額と同一視することはできない。

外務省資料の最終行を引用するときは,「賠償並びに戦後処理の一環としてなされた経済協力及び支払等に,借款まで含めた累積額」と表示する必要がある。

2 在外財産の処分

(1) 法的根拠

サンフランシスコ平和条約14条(a)2は,一定の除外財産を除き,各連合国がその管轄下にある日本国,日本国民等の財産,権利及び利益を差し押さえ,留置し,清算し,その他の方法で処分する権利を認めた。

外務省が掲げる約236億8100万ドルは,このような処理の対象となった終戦時の在外財産に関する評価額である。

(2) 地域別評価額

外務省資料に引用された1945年8月15日現在の「我国在外財産評価額推計」の主な内訳は,次のとおりである。

地域評価額
朝鮮702億5600万円
台湾425億4200万円
中国東北1465億3200万円
中国華北554億3700万円
中国華中・華南367億1800万円
その他の地域280億1400万円

これらは同一の法的根拠による一律の「賠償支払額」ではなく,地域ごとの法的処理を検討する際の歴史的評価額である。

3 捕虜への償い等

(1) 赤十字国際委員会への支払

サンフランシスコ平和条約16条に基づき,日本は日本軍の捕虜であった連合国軍隊の構成員に対する償いのため,赤十字国際委員会に英貨換算450万ポンドを支払った。

同条は,在外財産の処理及び捕虜であった者とその家族への分配を組み合わせた特別の仕組みである。

(2) 韓国への5億ドルの位置付け

1965年の日韓請求権・経済協力協定に基づく3億ドルの無償供与及び2億ドルの有償貸付けは,外務省資料でも純粋な賠償と区別して計上されている。

韓国政府による国内配分及び被害者給付の問題と,日本が供与した5億ドルの条約上の名目は,分けて論じる必要がある。

第4 日本とドイツの戦後処理を比較する方法

1 比較の前提

(1) 国家間賠償と被害者補償を分けること

日本とドイツを比較するときは,国家間の戦争賠償,海外資産等の財産処理,一般の戦争損害に対する国内措置及びナチスの不法による被迫害者への補償を分けなければならない。

日本の「賠償,在外財産,経済協力及び借款」を,ドイツの「ナチス被迫害者への個人補償」だけと比較して倍率を出す方法は,対象がそろっていない。

(2) ドイツにも国家間の財産処理等があったこと

ドイツについて「国に対する賠償を一切支払っていない」と断定することはできない。

占領初期には,工場設備の撤去及び解体,現物による取得並びに在外資産の処分が行われた一方,東西冷戦の下で包括的な平和条約による最終処理が長く延期された。

この経過は,外務省外交史料館の「外交史料館所蔵資料に見るドイツ戦後賠償の形成過程」に整理されている。

2 ドイツの被害者補償に関する最新統計

(1) 公的部門の累計給付

ドイツ連邦財務省が2026年5月に公表した資料によれば,ナチスの不法に関する公的部門の補償給付累計は,2025年12月31日までに870億3900万ユーロである。

2025年中の給付額は17億2800万ユーロである。

このうち,連邦補償法に基づく累計は490億1400万ユーロであり,同法に関連する追加制度を含む累計は490億2800万ユーロと整理されている。

強制労働者その他の被害者を対象とした「記憶・責任・未来」財団は,2007年の最終支払までに約170万人へ47億ユーロ超を給付した。

(2) 申請件数及び継続給付

1953年10月1日から1987年12月31日までの申請は438万4138件であり,認定201万4142件,不認定124万6571件,取下げ等112万3425件である。

ここでいう件数は申請件数であって申請者数ではなく,1人が複数の申請をした場合がある。

2025年12月31日現在の連邦補償法に基づく継続給付は5635件,月額合計472万9000ユーロ,平均月額約839ユーロであり,制度が現在も継続していることが分かる。

3 単純な優劣比較を避けるべき理由

(1) 比較対象と基準時が異なること

日本側の数字はドル,円及び複数年代の協定額を含み,ドイツ側の数字はマルク又はユーロ建ての長期累計である。

対象制度,通貨,基準時及び名目額と実質額の区別をそろえない限り,「日本はドイツの何倍を支払った」又は「何分の1しか支払っていない」という結論は導けない。

(2) 検証不能な二次情報を採用しないこと

NAVERまとめの当該ページは現在利用できず,掲載されていたマルク額及び現在価値換算の根拠も検証できない。

そのため,本記事では同ページの数値を採用せず,ドイツ連邦財務省の2026年公表資料に置き換えた。

第5 国家賠償法施行前の行為の取扱い

1 国家賠償法附則6項

(1) 条文

国家賠償法の制定時法文の附則6項は,「この法律施行前の行為に基づく損害については,なお従前の例による。」と定める。

国家賠償法は1947年10月27日に公布され,同日施行されたため,戦時中の公権力の行使に基づく損害には,同法1条を遡及適用しないのが出発点となる。

(2) 最高裁昭和25年4月11日判決

最高裁昭和25年4月11日第三小法廷判決は,昭和24年(オ)第268号,裁判集民事3号225頁であり,戦時中に警察官が防空法に基づき家屋を除却した事案を扱った。

同判決は,国家賠償法施行前には,公務員による違法な公権力の行使について国の賠償責任を認める一般的な法令上の根拠がなく,大審院判例も国の責任を否定してきたとの立場を示した。

2 国家無答責の法理を扱う際の注意

(1) 最高裁判例の射程

最高裁昭和25年判決は,防空法に基づく家屋除却という具体的な権力的作用を扱った判決であり,あらゆる戦争被害又は戦後補償問題を一括して処理した判決ではない。

個別事件では,行為の性質,適用法令,国の私経済作用又は非権力的作用に当たるか,国以外の主体に対する請求かを検討する必要がある。

(2) 学説上の批判及び下級審の議論

旧憲法下で国家無答責が一貫した実体法上の原則であったかについては,私経済作用及び非権力的作用をめぐる裁判例の展開も踏まえ,学説上の批判及び異論がある。

したがって,実務上は「最高裁判例が採用する法理」と「その歴史的根拠及び射程に対する学説上の評価」を分けて記載するのが安全である。

3 行為時法に関する一般判例

(1) 最高裁平成15年4月18日判決

最高裁平成15年4月18日第二小法廷判決は,平成11年(受)第1519号,民集57巻4号366頁であり,証券取引における損失保証契約の公序良俗違反を扱った判決である。

同判決は,民事上の法律行為の効力は特別の規定がない限り行為当時の法令に照らして判断するとの一般論を述べ,その参照判例として最高裁昭和35年4月18日大法廷決定,昭和29年(ク)第223号,民集14巻6号905頁を挙げた。

(2) 戦後補償裁判との関係

最高裁平成15年判決は戦後補償又は国家賠償の判決ではないため,戦時中の国の行為について国家無答責を直接判示した先例として引用してはならない。

同判決は,行為時法による判断という一般的な時間的適用関係を補助的に確認する資料にとどまる。

第6 平和条約による請求権放棄と個人請求権

1 サンフランシスコ平和条約の枠組み

(1) 第14条の賠償及び請求権放棄

サンフランシスコ平和条約14条(a)は,日本が戦争中に生じさせた損害及び苦痛について賠償を支払うべきことを承認しつつ,日本の資源が完全賠償と他の債務の同時履行には十分でないことも確認した。

同条(b)は,条約に別段の定めがある場合を除き,連合国がすべての賠償請求権,戦争遂行中の日本国及び日本国民の行動から生じた連合国及びその国民の他の請求権並びに占領の直接軍事費に関する請求権を放棄すると定めた。

(2) 第16条及び第19条

第16条は日本軍の元捕虜とその家族への償いを定め,第19条(a)は日本国及び日本国民側の連合国及びその国民に対する戦争関連請求権の放棄を定めた。

請求権放棄条項の解釈では,国家の外交的保護権,個人の実体的請求権及び裁判上訴求する権能を区別する必要がある。

2 東京高裁平成13年10月11日判決

(1) 事案及び判断

東京高裁平成13年10月11日判決,平成11年(ネ)第247号,判例タイムズ1072号88頁及び訟務月報48巻9号2123頁は,旧オランダ領東インドで日本軍の捕虜又は民間人抑留者であったオランダ人が日本国に損害賠償を求めた事件である。

同判決は,サンフランシスコ平和条約14条(b)により個人の請求権も実体的に消滅したとの理解を示し,請求を退けた。

裁判長は浅生重機裁判官であり,同判決は裁判所ウェブサイト未掲載である。

最高裁は平成16年3月30日に上告を棄却し,上告受理申立てを受理しない旨を決定したが,請求権放棄の法的効果について理由を示した最高裁判決ではない。

(2) 現在の実務での位置付け

同判決の長い一般論を現在の法理としてそのまま引用することは適切でない。

その後の最高裁平成19年4月27日判決は,サンフランシスコ平和条約の枠組みにおける請求権放棄について,実体的請求権の消滅ではなく裁判上訴求する権能の喪失と整理したからである。

3 最高裁平成19年4月27日判決

(1) 実体的な請求権そのものを消滅させないこと

最高裁平成19年4月27日第二小法廷判決は,平成16年(受)第1658号,民集61巻3号1188頁であり,中国人の強制連行及び強制労働に関する損害賠償請求事件である。

同判決は,平和条約の枠組みにおける請求権放棄は,請求権を実体的に消滅させるものではないとした。

(2) 裁判上訴求する権能を失わせること

他方で,同判決は,請求権に基づいて裁判上訴求する権能が失われ,その結果,裁判による強制的な実現を求めることができないとした。

実務では,「請求権が存在するか」と「裁判で強制できるか」を別々に検討しなければならない。

(3) 任意の履行及び救済努力

同判決の整理によれば,債務者が任意に履行することまで妨げられるものではなく,任意の給付には給付保持力がある。

最高裁は,本件被害者が受けた被害が極めて大きいことを踏まえ,関係者が被害救済に向けて努力することが期待される旨も付言した。

第7 在外財産の国内補償と抑留経験のある最高裁判事

1 在外財産喪失に対する国内補償

(1) 最高裁昭和43年11月27日大法廷判決

最高裁昭和43年11月27日大法廷判決は,昭和40年(オ)第417号,民集22巻12号2808頁であり,平和条約14条(a)2(I)により日本国民が在外資産を喪失したことについて,憲法29条3項に基づき国へ直接補償を請求することを否定した。

この問題の詳細は,在外財産補償問題を参照されたい。

(2) 対外処理と国内補償を分けること

相手国が在外財産を処分できるという国際法上の問題と,財産を失った日本国民に日本政府が補償義務を負うかという国内法上の問題は別である。

在外財産の評価額を戦後賠償の総額に含める場合でも,国内補償請求の成否を同じ数字から直接導くことはできない。

2 終戦直後に抑留生活を送った最高裁判事

(1) 5人の経歴

任命年月日は,最高裁判所の「最高裁判所判事一覧表」により確認できる。

① 斎藤朔郎は1962年5月29日に最高裁判事へ任命され,1945年5月から満州国司法部次長を務めた後,ハバロフスクで抑留され,1948年10月に大阪で弁護士登録をし,1949年4月に裁判官へ復帰した(人物項目)。

② 村上朝一は1968年11月19日に最高裁判事へ任命され,1973年5月21日に最高裁長官へ就任し,戦時中は陸軍司政官としてジャカルタに派遣され,終戦後に抑留された(人物項目)。

③ 宮崎梧一は1980年2月6日に最高裁判事へ任命され,終戦時は陸軍法務中尉であり,モスクワ郊外で抑留された後,1948年に弁護士登録をした(人物項目)。

④ 島谷六郎は1984年5月8日に最高裁判事へ任命され,戦時中は海軍法務官であり,中国の海南島で終戦を迎え,約2年間の捕虜生活を経て帰国後に弁護士登録をした(人物項目)。

⑤ 高島益郎は1984年12月17日に最高裁判事へ任命され,終戦後に北朝鮮で捕虜となり,ソ連で抑留され,帰国後は外務省で勤務し,駐ソ連大使を務めた(人物項目)。

(2) 経歴資料の扱い

上記の経歴は,『最高裁全裁判官―人と判決』の人物紹介を基礎とする。

抑留経験は各裁判官の経歴上の事実であり,特定の裁判判断に影響したことを示すものではない。

戦後処理問題懇談会報告は,終戦後も続いた強制抑留の労苦に言及しており,被抑留者に関する記述では個別の被害経験への配慮が必要である。

第8 弁護士実務の検討手順

1 訴訟要件及び準拠法の確認

(1) 当事者及び対象行為の特定

最初に,請求者の国籍及び法的承継関係,被告が国,企業又は個人のいずれであるか,行為地,行為時及び行為主体を特定する。

同じ「戦後補償訴訟」でも,国の公権力行使,企業の雇用又は不法行為,財産処分及び条約上の請求では適用法が異なる。

(2) 条約と国内法の接続

請求の根拠を条約に求める場合は,当該条約が個人に直接の権利を付与するか,国内裁判で直接適用できるか,国内実施法があるかを確認する。

国内法に基づく場合は,国家賠償法の時間的適用,民法の適用関係,除斥期間又は消滅時効及び相互保証を個別に検討する。

2 請求権放棄条項の確認

(1) 対象範囲と法的効果

対象となる平和条約,二国間協定又は共同声明を特定し,人的範囲,物的範囲,時間的範囲及び相互主義の有無を条文から確認する。

その上で,外交的保護権の放棄,実体的請求権の消滅,裁判上訴求する権能の喪失及び国内法上の処理を混同しない。

(2) 任意救済の余地

裁判上の強制的実現ができない場合でも,企業又は国による任意の給付,基金,和解及び立法上の救済まで当然に禁止されるとは限らない。

最高裁平成19年判決の法理を前提にするときも,権利行使阻害と任意履行の可否を分けて依頼者へ説明する必要がある。

3 金額資料の確認

(1) 協定額と履行額の区別

協定上の義務額,実際の履行額,財産評価額,無償資金,有償借款及び民間支払を別欄に整理する。

同じ国について賠償と借款が併存する場合は,二重計上を避ける。

(2) 通貨及び基準時の明示

原通貨,円貨換算の出典,換算時点及び名目額か実質額かを明示する。

現在価値を示す必要があるときは,採用する物価指数等,基準年及び計算式を併記する。

第9 関連資料及び関連記事

1 公的資料

(1) 日韓関係及び引揚げ資料

日本弁護士連合会の「戦後補償のための日韓共同資料室」には,日本の法令,裁判例その他の資料及び韓国の法令,裁判例その他の資料が掲載されている。

アジア歴史資料センターアジ歴グロッサリー及び「公文書に見る終戦―復員・引揚の記録―」は,終戦時の行政及び引揚げを一次史料から確認する入口になる。

NHKスペシャル「忘れられた戦後補償」(2020年8月15日放送)も,戦争被害と国内補償をめぐる政策的経緯を概観する番組である。

(2) 戦後処理問題に関する総務省資料

旧独立行政法人平和祈念事業特別基金の公表文書には,恩給欠格者問題,戦後強制抑留者問題及び在外財産問題に関する資料がまとめられている。

「② 戦後処理問題に関する経緯」は1967年6月27日から2006年12月22日までの経緯を整理し,「④ 戦後処理問題に係る施策の概要」は問題及び関係施策の概要を整理している。

2 書籍及び参考ページ

(1) 日本の戦後賠償に関する書籍

永野慎一郎・近藤正臣編『日本の戦後賠償―アジア経済協力の出発』は,韓国,インドネシア,フィリピン,ビルマ,ベトナム,ラオス,カンボジア,シンガポール,マレーシア,タイ,台湾,中国,南アジア及びオーストラリア人捕虜に関する戦後処理を扱う。

自由と正義1993年9月号の「特集 戦後補償をめぐる問題」は,ドイツ,インドネシアその他の制度及び訴訟を比較する資料である。

(2) 関連するウェブページ

Wikipediaには,「日本の戦争賠償と戦後補償」及び「日本の戦後補償条約一覧」がある。

これらは調査の入口として利用できるが,金額及び法的結論は条約,法令,裁判例及び官公庁資料で再確認する必要がある。

3 関連記事

(1) 戦後補償裁判及び請求権放棄

(2) 日韓及び日中関係

4 既存の関連投稿

(1) 掲載上の注意

次の外部投稿は関連資料として掲載するものであり,投稿中の評価又は表現を本記事の法的結論として採用するものではない。

(2) Xの埋込投稿

第10 出典

1 一次資料

(1) 日本の一次資料

① 外務省「日本の具体的戦後処理(賠償,財産・請求権問題)」及び同所掲「賠償並びに戦後処理の一環としてなされた経済協力及び支払い等」

② 国立公文書館「日本国との平和条約及び関係文書・御署名原本」及び外務省「サンフランシスコ平和条約の関連条項」

③ 衆議院「国家賠償法」制定時法文,昭和22年法律第125号。

④ 最高裁判所「最高裁判所判事一覧表」

⑤ 最高裁昭和25年4月11日第三小法廷判決,昭和24年(オ)第268号,裁判集民事3号225頁。

⑥ 最高裁昭和35年4月18日大法廷決定,昭和29年(ク)第223号,民集14巻6号905頁。

⑦ 最高裁昭和43年11月27日大法廷判決,昭和40年(オ)第417号,民集22巻12号2808頁。

⑧ 東京高裁平成13年10月11日判決,平成11年(ネ)第247号,判例タイムズ1072号88頁,訟務月報48巻9号2123頁,裁判所ウェブサイト未掲載。

⑨ 最高裁平成15年4月18日第二小法廷判決,平成11年(受)第1519号,民集57巻4号366頁。

⑩ 最高裁平成19年4月27日第二小法廷判決,平成16年(受)第1658号,民集61巻3号1188頁。

(2) ドイツの一次資料

① ドイツ連邦財務省『Wiedergutmachung―Provisions relating to compensation for National Socialist injustice』2026年5月版,25頁~31頁。

② 外務省外交史料館「外交史料館所蔵資料に見るドイツ戦後賠償の形成過程」

2 書籍及び判例解説

(1) 戦後賠償及び国際法

① 永野慎一郎・近藤正臣編『日本の戦後賠償―アジア経済協力の出発』勁草書房,1999年11月,4頁~21頁,66頁~67頁。

② 高崎宗司『検証 日韓会談』岩波書店,1996年12月,4頁~5頁,120頁~121頁,209頁~214頁。

③ 加納雄大『東南アジア外交―ポスト冷戦期の軌跡』信山社,2020年11月,49頁~50頁。

④ 中野徹也『条約法』法律文化社,2025年1月,48頁。

⑤ 『自由と正義』44巻9号「特集 戦後補償をめぐる問題」1993年9月,31頁~36頁,52頁~54頁。

⑥ 田村光彰『ナチス・ドイツの強制労働と戦後処理―国際関係における真相の解明と「記憶・責任・未来」基金』社会評論社,2006年6月,162頁~169頁。

⑦ 野村二郎『最高裁全裁判官―人と判決』三省堂,1986年9月,102頁~107頁,147頁~148頁,238頁,266頁,270頁。

(2) 国家賠償法及び請求権放棄

① 宇賀克也・小幡純子編著『条解国家賠償法』弘文堂,2019年3月,686頁~689頁。

② 西埜章『国家賠償法コンメンタール』第3版,勁草書房,2020年6月,47頁,58頁,61頁~62頁。

③ 法曹会編『最高裁判所判例解説民事篇 平成19年度(上)』法曹会,2010年10月,421頁~422頁。

④ 岡田正則『行政法II―行政救済法』日本評論社,2024年9月,19頁。

⑤ 高橋和之編『新・判例ハンドブック憲法』第3版,日本評論社,2024年4月,180頁。