最高裁平成19年4月27日判決が判示するところの,サンフランシスコ平和条約の枠組みにおける請求権放棄の趣旨等

Pocket

   最高裁平成19年4月27日判決は以下の判示をしています(判決文からの抜粋であり,ナンバリング及び改行を追加しました。)。

1 サンフランシスコ平和条約は,個人の請求権を含め,戦争の遂行中に生じたすべての請求権を相互に放棄することを前提として,日本国は連合国に対する戦争賠償の義務を認めて連合国の管轄下にある在外資産の処分を連合国にゆだね,役務賠償を含めて具体的な戦争賠償の取決めは各連合国との間で個別に行うという日本国の戦後処理の枠組みを定めるものであった。
   この枠組みは,連合国48か国との間で締結されこれによって日本国が独立を回復したというサンフランシスコ平和条約の重要性にかんがみ,日本国がサンフランシスコ平和条約の当事国以外の国や地域との間で平和条約等を締結して戦後処理をするに当たっても,その枠組みとなるべきものであった(以下,この枠組みを「サンフランシスコ平和条約の枠組み」という。)。
   サンフランシスコ平和条約の枠組みは,日本国と連合国48か国との間の戦争状態を最終的に終了させ,将来に向けて揺るぎない友好関係を築くという平和条約の目的を達成するために定められたものであり,この枠組みが定められたのは,平和条約を締結しておきながら戦争の遂行中に生じた種々の請求権に関する問題を,事後的個別的な民事裁判上の権利行使をもって解決するという処理にゆだねたならば,将来,どちらの国家又は国民に対しても,平和条約締結時には予測困難な過大な負担を負わせ,混乱を生じさせることとなるおそれがあり,平和条約の目的達成の妨げとなるとの考えによるものと解される。

2(1) サンフランシスコ平和条約の枠組みにおける請求権放棄の趣旨が,上記のように請求権の問題を事後的個別的な民事裁判上の権利行使による解決にゆだねるのを避けるという点にあることにかんがみると,ここでいう
請求権の「放棄」とは,請求権を実体的に消滅させることまでを意味するものではなく,当該請求権に基づいて裁判上訴求する権能を失わせるにとどまるものと解するのが相当である。
   したがって,サンフランシスコ平和条約の枠組みによって,戦争の遂行中に生じたすべての請求権の放棄が行われても,個別具体的な請求権について,その内容等にかんがみ,債務者側において任意の自発的な対応をすることは妨げられないものというべきであり,サンフランシスコ平和条約14条(b)の解釈をめぐって,吉田茂内閣総理大臣が,オランダ王国代表スティッカー外務大臣に対する書簡において,上記のような自発的な対応の可能性を表明していることは公知の事実である。
(2)   被上告人らは,国家がその有する外交保護権を放棄するのであれば格別,国民の固有の権利である私権を国家間の合意によって制限することはできない旨主張するが,国家は,戦争の終結に伴う講和条約の締結に際し,対人主権に基づき,個人の請求権を含む請求権の処理を行い得るのであって,上記主張は採用し得ない。

3 
「日本国とマレイシアとの間の1967年9月21日の協定」2条は,「マレイシア政府は,両国間に存在する良好な関係に影響を及ぼす第二次世界大戦の間の不幸な事件から生ずるすべての問題がここに完全かつ最終的に解決されたことに同意する。」というやや抽象的な表現となっており,表現としては唯一の例外といえるが,同協定がサンフランシスコ平和条約やそれ以後の前記二国間平和条約における請求権の処理と異なった請求権の処理を定めたものと解することはできず,この条項も,個人の請求権を含めて戦争の遂行中に生じたすべての請求権を相互に放棄するサンフランシスコ平和条約の枠組みに従う趣旨のものと解される。

4 日中共同声明5項の文言上,「請求」の主体として個人を明示していないからといって,サンフランシスコ平和条約の枠組みと異なる処理が行われたものと解することはできない。

5 日中共同声明は,サンフランシスコ平和条約の枠組みと異なる趣旨のものではなく,請求権の処理については,個人の請求権を含め,戦争の遂行中に生じたすべての請求権を相互に放棄することを明らかにしたものというべきである。

スポンサーリンク