目次
第1 日米地位協定と沖縄の関係1 基地の使用と米軍関係者の地位を定める協定2 「沖縄に70.3%」の分母と基準日第2 事件事故と刑事裁判権・起訴前の身柄1 日本で裁判できるかと,誰が身柄を確保するか2 1995年の運用改善と沖縄県の要請の違い第3 被害者の損害賠償と救済第4 PFASと基地への立入り・環境調査1 環境補足協定による立入りの範囲2 沖縄県の申請経緯と,まだ区別すべき事実第5 沖縄県が求める11項目の見直し第6 本文改定・補足協定・運用改善はどう違うか第7 騒音訴訟・普天間返還を調べるときの関連記事第8 主な一次資料
日米地位協定は,沖縄だけを対象とする協定ではありません。しかし,米軍専用施設・区域の面積が沖縄に集中しているため,基地の使用,事件事故の捜査,被害者の救済,環境調査といった制度が,沖縄の住民生活と密接に関わります。
本記事では,協定の規定と政府の説明を確認した上で,沖縄県が求める見直しの内容を整理します。県の要請は,現在そのまま行使できる権利を示したものではありません。また,刑事裁判権と身柄の確保,立入りの申請と許可・実施は,それぞれ区別して読む必要があります。
第1 日米地位協定と沖縄の関係
1 基地の使用と米軍関係者の地位を定める協定
日米地位協定は,日米安全保障条約6条に基づく施設・区域の使用や,日本における米軍関係者の地位を定めています。基地の管理だけでなく,刑事裁判権,損害賠償,出入国,課税などを扱うため,「基地内の問題」に限られる制度ではありません。
外務省は,米軍施設・区域も日本の領域であり,米国の領土ではないと説明しています。したがって,「沖縄の米軍基地は米国領である」という理解は適切ではありません。一方,日本の領域であることと,日本の行政機関が基地内で自由に調査・立入りを行えることは,同じではありません。
根拠は,外務省「日米地位協定Q&A」(問1・問4・問5)(https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/usa/sfa/qa.html)です。条文と制度全体は,日米地位協定の内容をわかりやすく解説で説明しています。
2 「沖縄に70.3%」の分母と基準日
沖縄県の令和8年4月「沖縄の米軍及び自衛隊基地(統計資料集)」1頁によると,令和7年1月1日現在,全国の米軍専用施設・区域の面積のうち,沖縄県にあるものが70.3%を占めます。これは,基地の数や沖縄県の面積に対する割合ではありません。
比較する対象全国沖縄県沖縄県の割合米軍専用施設・区域の面積262,624千㎡184,542千㎡70.3%米軍専用施設・区域の施設数76施設31施設40.8%共同使用を含む米軍施設・区域の面積980,099千㎡186,680千㎡19.0%
同じ「米軍基地の割合」でも,専用施設に限るか,共同使用を含めるかで数値が変わります。また,資料の公表時点は令和8年4月ですが,表の数値の基準日は令和7年1月1日です。
出典は,沖縄県「沖縄の米軍及び自衛隊基地(統計資料集)」1頁(https://www.pref.okinawa.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/039/499/r8_okinawa_kichi_toukeisiryousyu1.pdf)です。施設の法的根拠や全国との関係は,在日米軍基地の法的根拠,施設数,日米地位協定及び主要裁判例を参照してください。
第2 事件事故と刑事裁判権・起訴前の身柄
1 日本で裁判できるかと,誰が身柄を確保するか
日米地位協定17条は,日本の当局の裁判権も認めています。日米双方の裁判権が競合する場合,米軍関係者の公務執行中の犯罪などについては米側が第一次の権利を持ち,それ以外の犯罪については日本側が第一次の権利を持つという区分があります。公務外であっても,専ら米国の財産・安全や所定の米軍関係者の身体・財産だけに対する犯罪などの区分を確認する必要があります。
したがって,「米軍人の犯罪はすべて日本で裁判できない」という説明も,「沖縄で起きた事件ならすべて日本が優先する」という説明も正確ではありません。
身柄は,さらに別の問題です。17条5項(c)が米側の起訴前拘禁を定めるのは,日本が裁判権を行使すべき軍人・軍属の被疑者で,その身柄が米側にある場合です。外務省Q&Aは,日本の警察が公務外の事件で現行犯逮捕等をした場合,日本側が身柄を確保し続けると説明しています。
根拠は,協定17条(https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/usa/sfa/kyoutei/pdfs/17.pdf)及び外務省Q&A問9(https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/usa/sfa/qa.html)です。
2 1995年の運用改善と沖縄県の要請の違い
平成7年10月の日米合同委員会合意は,殺人・強姦という凶悪な犯罪の特定の場合に,日本が求める起訴前の身柄移転を米側が好意的に考慮することなどを定めています。すべての事件で,要請すれば直ちに引渡しを受けられるという規定ではありません。
これに対し,沖縄県は,日本側から起訴前の身柄移転の要請がある場合,速やかに応じる旨を協定に明記するよう求めています。現在の運用改善と,県が求める条文上の保障の違いは,改定論を読む際の重要な点です。
出典は,外務省「刑事裁判手続に係る日米合同委員会合意」(https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/usa/sfa/rem_keiji_01.html)及び沖縄県「要請事項」第17条関係(https://www.pref.okinawa.jp/heiwakichi/kichi/1017255/1017256/1017258.html)です。
第3 被害者の損害賠償と救済
刑事事件の処分がどうなるかと,被害者が損害賠償を受けられるかも,区別する必要があります。協定18条5項は,公務執行中の行為等による第三者の損害について,日本側が請求を処理する仕組みを定めています。同条6項の公務外の不法行為等では,日本側の査定と米側の支払判断を伴う別の手続が定められています。
民事訴訟の可否,行政上の請求処理,保険による支払,実際の回収は,同じ問いではありません。「制度があるから必ず十分な額を回収できる」とも,「米軍関係者が相手なら訴訟を起こせない」ともいえません。
沖縄県は,確定判決額に満たない支払となった場合の差額補填を日米両政府の責任で行うことや,給与等の差押えについて,協定への明記を求めています。政府が説明する既存の救済措置と,県が求める制度上の保障は区別して確認してください。
根拠は,協定18条(https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/usa/sfa/kyoutei/pdfs/18.pdf),外務省Q&A問11(https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/usa/sfa/qa.html)及び沖縄県「要請事項」第18条関係(https://www.pref.okinawa.jp/heiwakichi/kichi/1017255/1017256/1017258.html)です。
第4 PFASと基地への立入り・環境調査
1 環境補足協定による立入りの範囲