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国際刑事裁判所(ICC)関係者が米国制裁を法的に争う方法―OFAC再検討・個別ライセンス・連邦訴訟(AI作成)

第1 この記事の対象と結論

1 生活上の不利益ではなく法的救済を扱う

米国は,2025年2月6日付大統領令14203号に基づき,国際刑事裁判所(ICC)の裁判官,検察局関係者,ICCへ情報を提供した人権団体及び国連特別報告者を制裁対象に指定している。本記事は,2026年8月20日現在の公開資料に基づき,指定対象者,その家族,米国人の研究者・弁護士・NGO及びICCが,指定又はその執行をどのように争えるかを整理するものである。

指定の法的根拠及び経過,ICCの管轄権,国際法上の適法性並びにEU及び日本との関係は,国際刑事裁判所(ICC)関係者に対する米国制裁の総論―制度・指定状況・ICCの管轄権・国際法上の争点で扱っている。資産凍結の範囲,OFAC 50%ルール,クレジットカード,銀行,送金,Microsoftその他のクラウド,保険,住宅及び旅行への影響は,米国のICC関係制裁による生活・事業上の不利益とOFAC 50%ルールで詳しく扱っている。本記事では,これらの制度及び影響の説明を救済手段の選択に必要な範囲にとどめ,OFACへの申立てと米国連邦訴訟を中心に検討する。

OFACの公表を指定日ごとに確認すると,2026年8月20日現在,ICC裁判官9人,ICC検察局関係者4人,国連特別報告者1人及びパレスチナ人権団体3団体が指定されている。生成AIを用いて関連資料を抽出した上で,大統領令,連邦規則,OFAC文書及び裁判書類の原文と照合した。

2 救済手段は求める結果ごとに異なる

制裁に対する法的手段は,一つの訴訟に集約されない。①SDN指定自体の削除又は変更を求める31 C.F.R. §501.807の行政上の再検討,②生活費,弁護士費用,住居,家族関係又は特定業務を可能にする個別ライセンス,③宣言判決,差止め,取消し又は行政庁への差戻しを求める米国連邦訴訟,④査証・入国制限に対する別個の争訟,⑤銀行・クラウド等の自主的な契約停止を準拠法上争う手続を,求める結果に応じて組み合わせる必要がある。

公開された直接関係訴訟から最も明確に確認できる成果は,米国内の研究者,弁護士又は市民団体が,自ら予定する研究,助言,取材又は法律支援への制裁適用を修正第1条等により差し止めた例である。これに対し,指定された外国人本人が大統領令14203号に基づく指定全体の取消しを得る確立した勝訴モデルは,2026年8月20日現在,確認できない。

第2 争う前に四つの措置を切り分ける

1 指定,個別取引の凍結,民間企業の停止及び入国制限

第一は,国務長官等による個人又は団体の指定及びSDN Listへの掲載である。指定理由の事実又は法的評価を争う場合は,OFACの再検討とAPA訴訟が中心となる。

第二は,銀行,決済事業者その他の米国人が31 C.F.R. Part 528に従って行う個別財産・取引の凍結又は拒絶である。指定を直ちに取り消せなくても,対象取引を限定した個別ライセンスにより急迫した損害を避けられる場合がある。

第三は,米国法が直接禁止していない取引まで,銀行,カード会社,クラウドその他の民間事業者が契約又はリスク管理を理由に停止する場合である。この場合,OFACライセンスは制裁法上の禁止を解除しても,31 C.F.R. §528.502(c)により事業者へ契約継続義務を新たに発生させるものではないため,契約準拠法上の異議及びデータ移行等を別に検討する必要がある。

第四は,大統領令14203号4条に基づく査証・入国制限である。これはOFACによる資産凍結とは実施主体及び法的根拠が異なり,資産凍結に関するライセンス又は差止めによって当然に解除されない。

2 当事者と請求対象を対応させる

指定された外国人本人は,自らの指定,凍結財産及び入国制限を争う。米国人の研究者,弁護士及びNGOは,指定者の権利を代位するのではなく,自らの言論,結社,法律業務又は宗教活動への負担を争う。家族は,自らの扶養,通信,住居,旅行,学業又は職業上の損害を具体化する。ICCは,職員個人の訴訟とは別に,職員支援,代替基盤の整備,所在地国への機能保障要請及び国際機関としての対応を行う。

原告,処分及び求める救済の対応が曖昧であれば,原告適格,因果関係又は裁判による回復可能性が否定され得る。例えば,民間銀行だけの自主的判断で止まった取引について,OFAC職員に対する差止めだけを求めても,銀行がサービスを再開するとは限らない。

3 本人が最初に保存すべき証拠

本人側は,①指定公表とSDN Listの履歴,②OFAC Searchの結果,③銀行・カード・クラウド等の停止通知,④利用規約及び契約主体,⑤拒絶取引の日時・金額・通貨・資金経路,⑥残高及び凍結財産,⑦事業者との通信,⑧旅券・査証通知,⑨米国内の住居・口座・家族・契約,⑩中止された研究,助言,講演又は法律業務を時系列で保存する必要がある。

停止画面だけでは,Part 528による直接の凍結,カード網又は中継銀行での拒絶,契約解除及び過剰遵守を区別できない。まず本人が入手できる取引明細,エラー表示,電子メール及び異議申立て回答を保存し,事業者の内部スクリーニング記録は当然に開示される資料ではないことを前提に,追加開示の実益を判断する。

第3 OFACへの行政上の申立て

1 31 C.F.R. §501.807による指定の再検討

31 C.F.R. §501.807は,指定対象者及び50%以上所有された凍結法人に対し,指定根拠が不十分であること,又は指定原因となった事情が消滅したことを資料付きで主張し,行政上の再検討を求める手続を認める。申立てでは,事実誤認,別人との混同,指定基準との因果関係,依拠資料の古さ,所有関係の変更,公表理由と実際の行為との不一致その他の事情を,指定基準の各要素に対応させる必要がある。

ICC裁判官又は検察官の場合,辞任又は職務放棄を「改善措置」として示すことは,司法独立及びローマ規程上の職責と衝突する。そのため,職務をやめる提案ではなく,大統領令の指定基準の解釈,対象となった個別行為,公表理由の正確性,証拠の個別性及び反対証拠を中心に構成することになる。

OFACとの面談を求めることはできるが,実施するかはOFACの裁量である。新たな証拠又は事情を付して再申立てをすることもできるが,単に結論への不満を繰り返すのではなく,前回決定の理由へ応答する必要がある。

2 31 C.F.R. §501.801による個別ライセンス

31 C.F.R. §501.801に基づく個別ライセンス申請では,関係者,金額,期間,目的,取引経路,指定との関係及び必要性を具体的に示す。指定自体を残したままでも,弁護士費用,家族扶養,給与,保険,不動産の維持・売却,通信又は特定業務に必要な取引を限定して許可される場合がある。

2025年のIverson事件では,米国人のICC法律家が予定業務への制裁適用を争った後,OFACが個別ライセンスを発行し,訴えは任意に取り下げられた。L.C.事件でも,OFACは米国住宅の維持・売却及び未成年者との親子関係に関する個別ライセンスを発行した。これは,個別ライセンスが迅速な救済になり得る一方,原告の請求を全部又は一部不要にし,訴訟上の争いが成熟性又はムートネスの問題へ移ることも示す。

2026年8月18日に新たに指定された2人について,General License 12は同年9月17日午前0時1分(米国東部夏時間)まで一定の既存取引のwind-downを許可する。これは通常の生活サービスを恒久的に保障する許可ではないため,期限後に必要な取引は別途検討しなければならない。

3 法律サービスと弁護士費用は分けて確認する

31 C.F.R. §528.506は,米国法の遵守,米国の司法・行政手続,指定への異議及び制裁の執行に関する一定の法律サービスを一般許可する。§528.507は,米国外を起源とし,米国人の占有・管理下になく,他の凍結対象者からでもない資金による一定の弁護士報酬の支払を許可し,10年間の記録保存を求める。

法律サービスを提供できることと,凍結資金から報酬を支払えることは同じではない。凍結資金以外に費用の原資がない場合は,再検討又は司法審査に必要な弁護士費用として凍結資金を利用する個別ライセンスを検討する。和解金の支払,判決の執行及び凍結財産の移転も,一般的な法律サービス許可から当然に導かれない。

4 行政申立てと訴訟を並行させる場合

§501.807は固定提出期限を定めず,同条の文言上,再検討申立てを全ての訴訟に共通する必須の前置手続ともしていない。他方,APAによる審査は原則として最終的な行政作用と行政記録を対象とするため,OFACに反対証拠及び法的主張を提出し,回答理由を得ることは,後の司法審査の争点を具体化する上で重要である。

急迫した医療,住居,扶養,財産処分又は言論の萎縮があるときは,再検討の結論を待つことが適切とは限らない。指定の再検討,対象取引の個別ライセンス及び緊急差止めを並行して進めるかは,損害の時期,求める救済,既存ライセンス及び訴訟上の成熟性を比較して決める必要がある。

第4 米国連邦裁判所で争う方法

1 被告,管轄及び求める救済

連邦訴訟の被告は,通常,財務長官,OFAC長官,国務長官その他の実施官庁又は職員である。28 U.S.C. §1331による連邦問題管轄,5 U.S.C. §702§704及び§706によるAPA上の司法審査並びに28 U.S.C. §2201及び§2202による宣言判決が主な枠組みとなる。

求める救済は,①指定又は再検討拒否の取消し,②行政庁への差戻し,③特定の原告・行為に対する執行差止め,④非機密の理由又は記録の提示,⑤個別取引の許可に関する判断の促進を区別する必要がある。裁判所が大統領本人へ直接差止めを発することには別の司法権上の問題があるため,通常は命令を実施する官庁・職員に対する救済を設計する。

2 原告適格と外国人原告の限界

原告は,具体的かつ現実的又は切迫した損害,政府行為との因果関係及び裁判による回復可能性を示さなければならない。抽象的にICCを支持しているだけでは足りず,誰に,いつ,どのような研究,助言,資金,物品又は法律サービスを提供する予定であり,制裁のために何を中止したかを具体化する必要がある。

指定された外国人本人も,指定及び財産凍結についてAPA上の審査を求め得る。しかし,米国外の外国人に米国憲法上の権利が当然に全面適用されるわけではない。米国内の住居,口座,家族,契約,反復的な活動又は米国向け言論との結び付きは,修正第1条又は第5条の主張及び回復不能損害の評価に影響する。

これに対し,米国人の研究者,弁護士,家族又は団体は,指定者の権利を代位するのではなく,自らの言論,結社,宗教活動,扶養,住居又は職業上の損害を主張できる。この原告構成が,これまでのICC制裁訴訟で最も実際の差止めにつながっている。

3 仮差止めに必要な四つの要素

一時的差止命令又は予備的差止めでは,①本案勝訴の可能性,②回復不能損害,③衡平の比較及び④公共の利益が問題となる。政府が控訴中の執行停止を求める場合は,控訴の見込み,停止しなければ生じる損害,他方当事者への損害及び公共の利益が検討され,地裁で得た救済が控訴中に縮減されることもある。

回復不能損害は,制裁の存在だけでなく,具体的な言論計画の中止,住居の処分期限,医療・保険,家族との移動,凍結資金又は職業上の関係を資料で示す必要がある。事後的な金銭賠償だけでは回復できない理由と,求める差止めがその損害を実際に緩和する理由を対応させる。

4 主な請求原因

修正第1条は,米国内の学者,弁護士,NGO又は宗教団体が,指定者への助言,共同研究,取材,情報提供又は法律支援を行おうとする場合の中心的な請求である。規制が内容又は相手方に着目した言論規制であるか,禁止される行為の範囲が明確か,政府の利益に対して過大でないかが争われる。

IEEPAのBerman Amendmentsである50 U.S.C. §1702(b)は,価値移転を伴わない個人的通信及び情報・情報資料等を大統領の規制権限から除外する。もっとも,指定者と協働して行う有償の助言,クラウド,技術支援又は継続的サービスが,完成済みの情報資料と同じ扱いになるとは限らない。

APAでは,指定が法律上の権限を超えるか,恣意的・専断的であるか,手続に欠陥があるかを行政記録に基づいて争う。修正第5条の適正手続,曖昧性,財産権及び宗教団体によるRFRAの主張も,原告の地位,政府が示した理由及び具体的損害に応じて選択される。

5 行政記録,機密情報及び裁判所の審査密度

国家安全保障及び外交判断には裁判所の敬譲が働くが,審査が消滅するわけではない。Zevallos v. Obama, 793 F.3d 106(D.C. Cir. 2015)は,OFAC判断のAPA審査を極めて敬譲的に行いつつ,行政記録が判断を支えるかを検討した。Fares v. Smith, 901 F.3d 315(D.C. Cir. 2018)は,機密情報を含む場合でも,実行可能な範囲の理由通知,反論の機会及び裁判所による審査が適正手続の中心となることを示した。

他方,Al Haramain Islamic Foundation, Inc. v. U.S. Department of the Treasury, 686 F.3d 965(9th Cir. 2012)は,指定理由の一部しか通知しなかった点を適正手続上不十分とした。これらは別の制裁制度及び事実関係に関する判例であり,ICC制裁の結論を直接決めるものではないが,非機密要約,反論機会,機密記録の取扱い及びAPA審査の実務的な到達点を示す。

第5 ICC制裁を直接争う連邦訴訟

1 公開資料で確認できた9件

公開資料で確認できた,大統領令13928号又は14203号に基づくICC制裁を直接争う連邦訴訟は,次の9件である。これは各事件の訴状,裁判所意見,判決又は公開ドケットで確認した集計であり,PACERの非公開資料を含む全裁判所横断検索によって絶対的な不存在を証明したものではない。

事件裁判所・事件番号2026年8月20日現在の到達点
Open Society Justice Initiative事件S.D.N.Y. No. 1:20-cv-08121-KPF旧大統領令下の言論・法律支援について2021年1月4日に予備的差止め。旧令撤回後に終了
Smith事件D. Me. No. 1:25-cv-00158-NT2025年7月18日,原告の研究・助言等への執行を予備的に差止め。終局判断は未確認
Rona事件S.D.N.Y. No. 1:25-cv-03114-JMF2025年7月30日,内容に基づく言論規制が厳格審査を満たさないと判断。同年8月18日に永久差止めの終局判決
Iverson事件D.D.C. No. 1:25-cv-01353個別ライセンス発行後,2025年5月13日に任意取下げ
L.C.事件D.D.C. No. 1:26-cv-00688-RJL,D.C. Cir. No. 26-51722026年5月13日に地裁が予備的差止め。控訴裁判所が同年6月26日に大部分を控訴中停止
ICC裁判官3人の事件S.D.N.Y. No. 1:26-cv-05305-JMF2026年6月24日提訴。本案判断未確認
DAWN事件S.D.N.Y. No. 1:26-cv-059572026年7月15日提訴。本案判断未確認
Doe事件D.D.C. No. 1:26-cv-02221-JEB2026年7月28日に仮名訴訟申立てを却下。その後の継続状況は未確認
American Friends Service Committee事件S.D.N.Y. No. 1:26-cv-068302026年8月11日提訴。修正第1条,IEEPA,APA,RFRA等を主張し係属中

2 差止めが認められた事件の共通点

Open Society Justice Initiative,Smith及びRonaの各事件では,米国側の原告が,指定対象者と予定していた研究,助言,法律支援又は情報交換を具体化し,自らの言論活動への執行を争った。裁判所は,指定対象者本人の指定を全面的に取り消すのではなく,原告及び特定活動に対する執行を差し止める形で救済を限定した。

この構造では,原告自身の修正第1条上の損害,予定行為の具体性及び差止めによる回復可能性を示しやすい。他方,差止めの効力が原告以外へ一般化されるとは限らず,指定者本人のカード,銀行口座又はクラウドが当然に回復するわけでもない。

3 指定者本人及び家族の事件は未確定である

L.C.事件の2026年5月13日地裁意見は,指定者の家族を含む原告らに予備的差止めを認めたが,D.C. Circuitは同年6月26日,地裁命令の大部分を控訴中停止した。この経過は,地裁で緊急救済を得ても,政府の控訴及び執行停止申立てにより救済範囲が変わり得ることを示す。

ICC裁判官3人の事件,DAWN事件及びAmerican Friends Service Committee事件は,それぞれ指定者本人又は米国側団体の権利を本格的に争うが,2026年8月20日現在,本案判断を確認できない。Doe事件は仮名訴訟の要件に関する判断までであり,制裁の適法性を判断した事件ではない。

第6 原告の立場ごとの主張と実務上の選択

1 指定された外国人本人

指定された外国人本人は,§501.807の再検討及びAPAによる行政記録審査を中心に置く。指定基準のどの要素を争うか,公表理由のどの事実が誤っているか,どの反対証拠が無視されたかを特定し,指定全体の取消し,行政庁への差戻し又は理由提示のいずれを求めるかを分ける。

生活上の急迫損害については,指定全体の取消訴訟を待たず,取引ごとの個別ライセンスを並行して求める。修正第1条又は第5条を主張する場合は,米国内の住居,家族,口座,契約,継続的活動及び言論との結び付きを具体的に立証する必要がある。

2 米国人の支援者,研究者,弁護士及びNGO

米国人の支援者は,指定者の権利を代位するのではなく,自らの言論,結社,法律業務又は宗教活動への負担を主張する。相手方,内容,時期,方法及び報酬の有無まで具体化した計画があるほど,現在の萎縮と裁判による回復可能性を示しやすい。

まず,情報・情報資料,個人的通信,旅行又は法律サービスの法定除外・一般許可に該当するかを確認する。許可範囲が不明な行為について個別ライセンス又はOFACへの照会を行い,なお現実的な民刑事執行の危険が残る場合に,修正第1条,IEEPA,APA又はRFRAによる差止めを検討する。

3 家族及びICC

家族は,自らの送金,扶養,通信,旅行,住居,学業,職業又は言論への損害を立証する。共同口座,共有不動産,未成年者,米国市民権及び発行済みライセンスの範囲が救済設計に影響する。L.C.事件はこの経路を認めた地裁判断であるが,控訴中の停止により射程は確定していない。

ICCは,職員の弁護士費用,通信及び決済の支援,所在地国への機能保障要請,締約国会議への報告,代替IT・決済基盤の整備及び外交的抗議を組み合わせ得る。もっとも,ICC自身の制度的措置と,個人のOFAC指定を削除する米国内手続は区別しなければならない。

4 銀行,カード会社及びクラウド事業者への異議

民間事業者への異議では,契約主体,準拠法,制裁条項,解約条項,通知,異議申立制度及び取引の米国接点を確認する。会社がU.S. personに当たり,又は取引が米国金融システムへ入る場合,履行請求はOFAC上の禁止に阻まれ得る。

米国法が禁止していない取引まで一律に停止した場合は,停止がOFACの直接義務ではなく企業のリスク判断であることを示し,契約上の根拠,通知義務,比例性,消費者法,差別禁止法,データ返還及び代替措置の可否を準拠法ごとに検討する。OFACから許可を得ることと,民間事業者に再契約又はアカウント復旧を求めることは,別の問題である。

第7 査証,EU法及び国際法による補充的な手段

1 査証・入国制限は資産凍結と別に争う

大統領令14203号4条による入国停止は,OFACの資産凍結とは別の措置である。Department of State v. Muñoz, 602 U.S. 899(2024)等が示すように,査証拒否に対する司法審査は原則として限定的であり,米国市民に外国人配偶者の入国を求める一般的な基本権が当然に認められるわけではない。

査証措置を争う場合は,移民国籍法上の根拠,公表理由,適用された例外,米国内の家族又は機関自身の具体的権利及び政府理由の法的十分性を特定する。資産凍結の差止めを得ても,査証措置が自動的に消滅するとは限らない。

2 EU Blocking Statuteと所在地国法

EU Blocking StatuteであるCouncil Regulation (EC) No 2271/96は,附属書に掲げた第三国法について,外国判決の効力否定,損害回復及び遵守制限等を定める。しかし,2026年8月20日現在の附属書は主としてキューバ及びイラン関係の米国法を対象とし,大統領令14203号を掲載していない。したがって,EU法が既にICC制裁への遵守を一般的に禁止しているとはいえない。

オランダはICCの所在地国として,受入国協定及び国内法に基づく機能保障を検討し得る。他方,米国企業又は米国金融網にOFAC違反となるサービス提供を命じられるかは別問題であり,オランダ又はEU加盟国の裁判所が大統領令14203号に基づくサービス停止を違法とした公刊確定判決は確認できない。

3 ローマ規程70条及び国連特権免除条約

ローマ規程70条1項(d)はICC職員に職務を行わせない目的での妨害,威迫又は不正な影響力を,同項(e)は職務遂行を理由とする報復を対象とする。制裁理由が裁判官の投票又は検察官の捜査と結び付けて公表されていることから,同条との関係を検討する根拠はある。

もっとも,国家が公的に発動した経済制裁を70条違反と認定した公刊ICC事件は確認できない。主観的要件,非締約国の公務員への管轄権,公的資格,逮捕及び執行には未解決の問題があり,70条手続がOFAC指定を直接解除するものでもない。

国連特別報告者については,国連特権免除条約6条22節及び国際司法裁判所の勧告的意見に基づく「任務中の専門家」の免除が問題となる。米国が同条約の当事国である点はICC特権免除協定の場合と異なるが,OFACの行政指定が同条約のlegal processに当たるかを確定した裁判例はなく,L.C.事件の控訴審も係属中である。

第8 実行する順序と訴訟へ進まない基準

1 低負担の初動

指定者本人又は家族は,①指定公表,SDN List,停止通知,拒絶取引,契約,残高,家族関係,米国内資産及び予定活動を保存し,②医療,住居,扶養,給与,弁護士費用又はデータ保全について法定除外,一般許可及び既存ライセンスを確認し,③停止した事業者へ契約主体,停止理由,制裁条項及び復旧・データ移行手続の説明を求める。

この段階の目的は,全ての事業者と直ちに争うことではなく,どの損害がOFACの措置により,どの損害が第三者の自主判断により生じたかを切り分けることである。緊急性の低い取引まで一括してライセンス申請又は訴訟へ入れると,必要性及び救済の焦点が不明確になる。

2 行政手続と緊急救済

次に,①許可が不足する具体的取引について,金額,期間,関係者及び決済経路を限定して個別ライセンスを申請し,②§501.807の再検討で,指定理由の事実誤認,法的欠陥,事情変更及び反対証拠を行政記録へ入れる。

医療,住居,扶養,消滅し得るデータ又は具体的な言論機会について回復不能損害が迫り,ライセンス又は行政手続で間に合わない場合に,実施官庁・職員を被告とする一時的差止命令又は予備的差止めを検討する。米国内の支援者,家族又は団体に独自の損害がある場合は,それぞれの権利に基づく原告構成を検討する。

3 高負担の本案訴訟へ進む条件と停止基準

本案訴訟の実益が高いのは,①現在又は目前の回復不能損害が資料で示せる,②相手方官庁及び求める救済を特定できる,③米国内の資産,家族,契約又は言論との結び付きがある,④個別ライセンスでは損害が解消しない,⑤行政記録の具体的な事実又は法的欠陥を示せる場合である。

反対に,米国接点のない外国企業の自主的な契約停止だけが問題である場合,OFAC指定訴訟より契約準拠法上の異議が先になる。予定する言論又は取引が抽象的で,現在の執行危険を示せない場合は原告適格が弱くなる。個別ライセンスで必要な取引が実行でき,指定全体を争う追加利益が具体化できない場合も,高負担の本案訴訟を直ちに進めない理由となる。

4 2026年8月20日現在の未解決事項

2026年8月18日に指定された2人について,個別の再検討申立て,ライセンス申請又は新規訴訟は,指定後2日の調査時点では確認できない。ICC裁判官3人の事件,DAWN事件及びAmerican Friends Service Committee事件の本案判断,Doe事件の匿名申立て却下後の状態,L.C.事件の控訴審本案,EU Blocking Statuteの附属書改正並びにICCによる70条捜査の有無は,今後の公表資料で更新を要する。

また,公開資料で確認できた直接関係訴訟は9件であるが,PACERの非公開資料を含む全裁判所横断検索は実施していない。米国外の銀行又はクラウド事業者に対する各国法上の非公開紛争,仲裁及び未公刊判断も網羅できないため,個別事件では契約準拠法及び現地の裁判・ADR資料を追加確認する必要がある。

第9 出典・参考資料

1 米国法令・OFAC資料

Executive Order 14203, Imposing Sanctions on the International Criminal Court(2025年2月6日,90 Fed. Reg. 9369)
International Criminal Court-Related Sanctions Regulations, 31 C.F.R. Part 528(2026年8月20日確認)
31 C.F.R. §501.801(Licensing)
31 C.F.R. §501.807(Procedures governing delisting)
OFAC「International Criminal Court-Related Sanctions」
OFAC「International Criminal Court-related Designations; Issuance of General License」(2026年8月18日)及びGeneral License 12
⑦Administrative Procedure Actの5 U.S.C. §702§704及び§70628 U.S.C. §1331§2201及び§2202

2 ICC制裁を直接争う米国訴訟

Open Society Justice Initiative v. Trump, 510 F. Supp. 3d 198(S.D.N.Y. 2021)
Smith v. Trump, D. Me. No. 1:25-cv-00158-NT, Doc. 30(2025年7月18日)
Rona v. Trump, S.D.N.Y. No. 1:25-cv-03114-JMF, Doc. 70(2025年7月30日)及びDoc. 78終局判決(同年8月18日)
Iverson v. Trump, D.D.C. No. 1:25-cv-01353, Complaint(2025年5月5日,RECAP収録)
L.C. et al. v. Trump, D.D.C. No. 1:26-cv-00688-RJL, Doc. 48(2026年5月13日)及びD.C. Cir. No. 26-5172控訴中停止命令(同年6月26日)
U.S. District Court for the Southern District of New York, No. 1:26-cv-05305-JMF, Complaint(2026年6月24日)
DAWN et al. v. Trump, S.D.N.Y. No. 1:26-cv-05957, Complaint(2026年7月15日)
Doe v. Trump, D.D.C. No. 1:26-cv-02221-JEB, Doc. 6(2026年7月28日)
American Friends Service Committee et al. v. Trump, S.D.N.Y. No. 1:26-cv-06830, Complaint(2026年8月11日)

3 一般的なOFAC司法審査及び差止めの基準

Zevallos v. Obama, 793 F.3d 106(D.C. Cir. 2015)
Fares v. Smith, 901 F.3d 315(D.C. Cir. 2018)
Al Haramain Islamic Foundation, Inc. v. U.S. Department of the Treasury, 686 F.3d 965(9th Cir. 2012)
Winter v. Natural Resources Defense Council, Inc., 555 U.S. 7(2008)Nken v. Holder, 556 U.S. 418(2009)Agency for International Development v. Alliance for Open Society International, Inc., 591 U.S. 430(2020)及びDepartment of State v. Muñoz, 602 U.S. 899(2024)

4 ICC・国際法・EU資料

ローマ規程2025年統合版70条
ICC手続証拠規則2024年版162条,163条及び165条
Convention on the Privileges and Immunities of the United Nations6条22節,ICJ, Applicability of Article VI, Section 22 of the Convention on the Privileges and Immunities of the United Nations, Advisory Opinion, I.C.J. Reports 1989, p.177,及びICJ, Difference Relating to Immunity from Legal Process of a Special Rapporteur of the Commission on Human Rights, Advisory Opinion, I.C.J. Reports 1999, p.62
Council Regulation (EC) No 2271/96及びEuropean Commission「Blocking Statute」