第1 結論
養子縁組無効確認の訴えを提起できるかは,その人が養子縁組の無効によって自己の身分関係上の地位に直接影響を受けるかで判断する。相続財産全部の包括受遺者であり,養子から遺留分請求を受ける可能性があるという財産上の利害だけでは,訴えの利益は直ちに認められない。
最高裁平成31年3月5日第三小法廷判決は,包括受遺者が常に養子縁組無効確認の訴えを提起できないとしたものではない。「包括受遺者である」という事実だけでは足りず,別に身分関係上の地位への直接影響があるかを検討すべきであるとした判決である。
第2 養子縁組無効確認の訴えの入口
1 無効事由と訴えの利益は別問題である
民法802条は,当事者間に縁組をする意思がないときなどを養子縁組の無効事由として定める。しかし,養子縁組に無効事由があるかという本案の問題と,ある第三者がその無効確認を求められるかという訴えの利益の問題は別である。
無効の主張が実体的に正しくても,原告が身分関係上の地位に直接影響を受けないなら,養子縁組無効確認の訴えは不適法となり得る。そのため,証拠収集より前に原告適格・訴えの利益を点検する必要がある。
2 判例が用いる基準
最高裁平成31年3月5日第三小法廷判決(平成30年(受)第1197号)は,最高裁昭和63年3月1日第三小法廷判決(昭和59年(オ)第236号,民集42巻3号157頁)を参照し,養子縁組が無効であることにより自己の身分関係に関する地位に直接影響を受けない者は,訴えにつき法律上の利益を有しないとした。
この基準では,原告が縁組当事者の財産に経済的利害を有するかだけでなく,養子縁組の存在又は不存在が原告自身の親族関係,相続人たる地位その他の身分関係を直接変えるかを確認する。
第3 最高裁平成31年3月5日判決
1 事案と原審の判断
原告は,養親の相続財産全部の包括遺贈を受けた者であった。原審は,原告が養子から遺留分減殺請求を受け得ることなどから,養親の相続に関する法的地位を有し,養子縁組無効確認の訴えの利益があるとした。
2 最高裁の判断
最高裁は,遺贈は遺言によって受遺者に財産権を与える意思表示であり,包括受遺者が養子から遺留分減殺請求を受けるとしても,養子縁組の無効によって影響を受けるのは財産上の権利義務にすぎないとした。
原告は養親との親族関係がなく,養子の側とも義兄という2親等の姻族関係があるにすぎなかった。そのため,養子縁組の無効により自己の身分関係上の地位に直接影響を受けず,訴えの利益を有しないと判断した。最高裁は原判決を破棄し,訴えを却下した第1審判決を維持する自判をした。
3 民法990条との関係
民法990条は,包括受遺者が相続人と同一の権利義務を有すると定める。しかし,同条により包括受遺者が相続財産に関して相続人に近い地位を持つことと,身分訴訟の訴えの利益を有することは同じではない。
包括受遺者という財産法上の地位を,身分関係上の地位と読み替えないことが本判決の要点である。
第4 包括受遺者・相続人・親族の区別
1 包括受遺者
包括受遺者であることだけでは足りない。遺留分,遺贈の減殺又は侵害額請求,登記,遺産の管理などの不利益は,通常,財産上の権利義務への影響として整理される。
もっとも,包括受遺者が別の親族関係又は相続人たる地位も有し,養子縁組の無効がその身分関係上の地位へ直接影響する場合は,その別の事情を検討する必要がある。
2 相続人たる地位
養子縁組の有無により,原告自身が法定相続人となるか,法定相続分が変わるかという問題は,単なる受遺者の財産的利益とは区別される。もっとも,「相続財産が増える」という結果だけでなく,法定相続人たる地位そのものが直接変動するかを示さなければならない。
3 親族であることだけでも足りない
親族関係があるという形式だけで訴えの利益が生じるわけではない。何親等であるか,当該縁組の無効によって原告の親族関係又は相続上の身分がどのように変わるかを具体的に示す必要がある。
第5 財産紛争との手続の切り分け
養子縁組の効力が相続財産,遺留分又は登記の帰結を左右する場合でも,直ちに身分訴訟を選ぶことはできない。まず,求める最終結果が,身分関係の対世的な確定なのか,具体的な財産給付,登記,相続分又は遺留分の判断なのかを区別する。
財産上の紛争であれば,具体的な請求権又は法律関係に即した訴訟・家事手続を検討する。その手続で養子縁組の効力をどのように主張し得るか,別途の身分判決を要するかは,請求類型と判例を確認して判断する。訴えの利益がない身分訴訟を,財産紛争の前提確認のためだけに提起しないことが重要である。
第6 受任時の確認順序
①戸籍全部事項証明書,改製原戸籍及び除籍を収集し,養親・養子・原告の身分関係を図示する。
②遺言書,検認調書,公正証書謄本及び遺言執行者の資料から,原告が包括受遺者,特定受遺者又は相続人のいずれであるかを確定する。
③養子縁組が無効となった場合に,原告自身の親族関係,法定相続人たる地位又は法定相続分が直接変わるかを書き出す。
④遺留分侵害額請求,遺贈,所有権移転登記その他の財産上の不利益は,身分上の影響と別欄にする。
⑤求める最終結果に対応する請求類型,管轄,当事者及び必要的共同訴訟の問題を確認する。
⑥訴えの利益を基礎付ける事実と,養子縁組の無効事由を基礎付ける事実を分けて主張立証する。
第7 本判決を使うときの注意
本判決は旧遺留分減殺請求制度の事案であり,現在は遺留分侵害額請求制度へ改められている。ただし,本判決の中心は,旧制度の効果そのものではなく,財産上の影響と身分関係上の直接影響を区別する点にある。
また,本判決は,包括受遺者であることから「直ちに」訴えの利益があるとはいえないとした。包括受遺者が別の身分上の地位を有する場合まで一律に否定したものではない。
第8 出典と確認状況
1 一次資料
①最高裁平成31年3月5日第三小法廷判決全文(平成30年(受)第1197号,破棄自判)
②e-Gov法令検索「民法」(802条及び990条)
2 専門誌目次で所在を確認した資料
判例時報2421号は「養親の相続財産全部の包括受遺者が提起する養子縁組の無効の訴えと訴えの利益の有無」を掲載し,「家庭の法と裁判」vol.21(2019年8月号)は同判決を最高裁判例として掲載している。これらは目次で所在を確認したものであり,本記事の判旨は裁判所公表全文に基づく。
3 判例秘書
2026年10月1日時点で判例秘書INTERNETの認証済み検索画面に到達できず,検索実績は0件である。判例秘書への収録,判例ID,原審全文及び評釈リンクは未確認であり,不収録と判断したものではない。