目次
第1 単独申立てと管轄権の成立は別である第2 平和条約第22条の前段と後段1 対象となる紛争と付託の条件2 後段の非当事国とはICJ規程の非当事国である第3 ICJの管轄権に対する同意の示し方1 特別合意・条約・選択条項受諾宣言2 相手国の事後同意を待つ申立て第4 1951年と2015年の日本の宣言1 第22条に基づく1951年の宣言2 2015年の宣言の時間的限定と留保3 多国間条約留保と慣習国際法上の請求第5 竹島を国際司法裁判所に提訴できるか1 第21条の利益は第22条への同意と異なる2 日本の付託提案と2012年の政府答弁3 韓国側の説明と領有権判断の区別第6 管轄権と判決の効力をめぐる誤読1 相手国が欠席しても自動勝訴にはならない2 別の国を被告にしても第三国を当然には拘束しない第7 関連記事第8 出典1 条約・裁判所規程・規則2 決議・宣言・政府答弁3 裁判所の制度解説・政府の立場
第1 単独申立てと管轄権の成立は別である
制度の全体像は,国際司法裁判所とは―役割・管轄権・国際刑事裁判所との違いを参照。判決等の効力は,国際司法裁判所の判決・暫定措置・勧告的意見の拘束力で解説している。
サンフランシスコ平和条約第22条は,一方の紛争当事国の要請による国際司法裁判所(ICJ)への付託を定めている。
しかし,これを,日本に関係するすべての領土問題について,相手国の同意に関係なく裁判を進められる規定と読むことはできない。
単独で申立てを行うことと,その紛争についてICJの管轄権が成立することは別である。
管轄権の基礎となる同意は,紛争発生後の合意だけでなく,あらかじめ締結した条約や受諾宣言によって示される場合もある(ICJ規程第36条)。
本記事は,2026年8月30日を基準として,第22条の対象,日本の二つの宣言及び竹島をめぐる政府の説明を整理するものであり,領土帰属そのものや特定の訴訟の成否を判断するものではない。
外国語原文については,その内容を仮訳・要約して説明する。
以下では,申立て,管轄権,本案を次のように分けて読む。
段階確認する問題導けない結論申立て・付託どの手続・根拠で申立書を提出するか。提出しただけで本案審理が進むとは限らない。管轄権当事国の同意とその範囲・条件が成立するか。管轄権がないことは領有権の正否の判断ではない。本案事実と適用される国際法から権利・義務を判断する。自国の権利が明白という主張だけで管轄権は成立しない。
2026年10月11日の追補では,日本の2015年宣言,国連の受諾宣言一覧及び外務省の提訴提案に関する説明を再確認した。以下の旧来の資料の基準日は上記のとおりであり,個別の領土帰属を判断するものではない。
第2 平和条約第22条の前段と後段
1 対象となる紛争と付託の条件
平和条約第22条前段は,この条約のいずれかの当事国が,条約の解釈又は実施に関する紛争が生じたと認める場合を扱う。
その上で,特別請求権裁判所への付託又は他の合意された方法で解決されない紛争を,いずれかの紛争当事国の要請により,ICJへ決定のため付託する旨を定めている。
確認事項は,①当該国との関係で条約及び管轄条項が適用されるか,②争いが条約の解釈又は実施に関するものか,③他の合意された解決方法との関係で条件を満たすか,という点である。
領土条項の解釈が対象となる余地はあるが,「領土問題である」という理由だけでこれらの条件を省略することはできない。
条文が対象とするのは,他の合意された方法で「解決されない」紛争であり,他の方法が一切「存在しない」場合と同じではない。
また,条文の文言だけから,考え得るすべての外交手段を必ず試し尽くす義務を導くこともできず,当事国間の具体的な合意を確認することになる。
一方の国が条約紛争だと主張しても,その主張だけで管轄権が確定するわけではない。
管轄権の有無に争いがある場合は,ICJ自身が判断する(ICJ規程第36条6項)。
2 後段の非当事国とはICJ規程の非当事国である
第22条後段は,日本国及びまだICJ規程の当事国でない連合国が,条約批准時に,一定の一般的宣言書をICJの書記へ寄託することを定めている。
ここで区別されているのは,ICJ規程の当事国であるかどうかであり,平和条約に参加していない国も一律に第22条の管轄を受け入れなければならないという規定ではない。
ICJ規程第35条1項は,同規程の当事国に裁判所が開かれることを定める。
また,ICJの説明によれば,国連加盟国は当然にICJ規程の当事国となるが,この利用資格と,特定の紛争について裁判を受ける同意とは別である。
日本と韓国が国連加盟国であることだけで,竹島問題についての管轄権が成立するわけではない。
第3 ICJの管轄権に対する同意の示し方
1 特別合意・条約・選択条項受諾宣言
ICJ規程第36条は,当事国が付託する事件や条約に規定された事項についての管轄権と,宣言による管轄権の受諾を規定している。
ICJの管轄根拠に関する解説も踏まえると,主な経路は次のとおりである。
経路同意の示し方一方からの申立てとの関係特別合意特定の紛争をICJに委ねることに合意する。合意に基づいて付託する。条約の管轄条項一定の紛争をICJに委ねることを条約で定める。条項が適用される場合には,一方から申立てられることがある。選択条項受諾宣言規程第36条2項に基づき,同じ義務を受け入れる国との間で管轄権を受諾する。双方の宣言が適用される範囲と留保を確認する。事後の同意一方の申立て後に,相手国が当該事件の管轄権を受諾する。同意がまだない段階では,次項の規則第38条5項が問題となる。
第22条を根拠とする付託は,条約の管轄条項による経路として検討する。
有効な事前同意があれば,紛争の発生後に新たな合意を結ぶことが常に必要になるわけではない。
逆に,選択条項受諾宣言をしていない国でも,特別合意など別の同意根拠が成立する余地はある。
2 相手国の事後同意を待つ申立て
ICJ規則第38条5項は,相手国がまだ示していない同意を管轄権の基礎とする申立てを想定している。
この場合,申立書は相手国へ送付されるが,同国が当該事件について管轄権を受諾するまでは,一般事件表に記載されず,手続上の措置も取られない。
したがって,申立書を提出して相手国に同意を求めることと,本案審理が進むことは区別される。
これは同意を待つ場合の規定であり,既に有効な条約上の管轄根拠がある事件まで,相手国の新たな同意がなければ常に進行できないという意味ではない。
第4 1951年と2015年の日本の宣言
第22条に基づく1951年の宣言と,ICJ規程第36条2項に基づく2015年の選択条項受諾宣言は,法的根拠も対象も異なる。
「特別の合意なしに受諾する」という共通する表現だけで,同じ制度として扱うことはできない。
比較項目1951年の宣言2015年の宣言根拠平和条約第22条及び同条が参照する安保理決議の仕組みICJ規程第36条2項対象の中心平和条約の解釈又は実施に関する紛争宣言が定める範囲の紛争主な限定今後生じる,合意された方法等で解決されない条約紛争相互主義,時間的限定,平和的手段による未解決性及び留保寄託先ICJの書記国連事務総長
1 第22条に基づく1951年の宣言
第22条後段が参照する国連安全保障理事会決議9(1946年10月15日)は,ICJ規程の当事国でない国が裁判所書記に行う宣言とその条件を定めている。
日本の宣言原文は,国連条約集第137巻・登録番号1842の4頁(PDF14頁)に収録されている。
(続きを読む...)サンフランシスコ平和条約第22条と国際司法裁判所-領土問題を一方的に提訴できるのか(AI作成)