メインコンテンツへスキップ
       

弁護士の業務停止処分に関する取扱い(AIリライト)

第1 業務停止処分の意義と法的性質

1 業務停止処分とは何か

弁護士に対する懲戒は,戒告,2年以内の業務の停止,退会命令及び除名の4種類です(弁護士法57条1項)。

このうち業務の停止とは,対象弁護士に一定期間業務を行うことを禁止する処分をいいます。

業務の停止は,除名や退会命令と異なり,これによって弁護士の身分や弁護士となる資格を失わせるものではなく,依頼者との委任契約も当然に失効するものではありません。

もっとも,業務停止期間中に行われた弁護士業務は,それが新たな懲戒事由となりうることは当然として,それにとどまらず,行為そのものが違法な職務行為になると考えられています。

最高裁大法廷昭和42年9月27日判決(民集21巻7号1955頁)は,業務の停止について「一定期間、弁護士の業務に従事してはならない旨を命ずるものであって、この懲戒の告知を受けた弁護士は、その告知によって直ちに当該期間中、弁護士としての一切の職務を行なうことができないことになる」と判示しています。

2 業務停止によって停止される業務の範囲

弁護士業務には,当事者その他関係人(依頼者)の依頼に基づく事務と,官公署の委嘱による事務とがあります(弁護士法3条1項参照)。

(1) 依頼者その他関係人の依頼に基づく事務

対象弁護士が業務停止期間中に依頼者の依頼に基づく事務を処理できないこと,及び業務停止処分前に受任した事務を業務停止期間中に行ってはならないことはいうまでもありません。

すでに受任した事件の場合,弁護士は依頼者との関係では委任契約上の善管注意義務や事務処理義務を負いますが,業務停止処分のため法律事務の遂行が困難になった場合には,個々の事情に応じ債務不履行の問題が生じうることになります。

(2) 官公署の委嘱による事務

官公署の委嘱による事務は,概ね次の3類型に分けて考えることができます。

ア 委嘱内容が弁護士の法律的な事務処理を内容とする場合(国選弁護人,破産管財人,後見人等)です。この場合,業務停止処分を受けた対象弁護士は,業務停止期間中にこれら官公署から法律事務の委嘱を受けて法律事務を行うことはできず,また業務停止処分前に委嘱を受けた法律事務を業務停止期間中に行うこともできないと解されます。対象弁護士としては,自ら懲戒処分を受けたことを明らかにして委嘱された職務を辞任するよう申し出るべきであり(業務停止処分は,弁護士法24条にいう官公署が委嘱した事項を行うことを辞任すべき正当な理由となります。),委嘱官公署も委嘱を速やかに取り消すべきです。

イ 委嘱内容が必ずしも法律事務を内容とするものでなくとも,委嘱の根拠法規の法文上,委員が弁護士から選考される場合(司法試験委員会委員,司法修習委員会委員等)です。この場合,業務停止により当然に委嘱事務を行うことが禁止されるわけではありませんが,非行により業務停止処分を受けた弁護士がこのような職務を執ることはふさわしくないので,対象弁護士は速やかに辞任すべきであり,任命権者も委嘱を取り消すべきです。

ウ 委嘱の根拠法規自体は弁護士であることを明文の要件としていないが,実際の運用として弁護士が委員に選任されている場合(人権擁護委員,労働委員会委員,調停委員,鑑定委員等)です。この場合も,業務停止により当然に職務が禁止されるわけではありませんが,対象弁護士はこれら職務を辞任すべきであり,任命権者も委嘱を取り消すことが望ましいといえます。

(3) 弁理士及び税理士の業務

弁護士は,当然に,弁理士及び税理士の事務を行うことができます(弁護士法3条2項)。

まず,弁護士が登録なしに当然に弁理士や税理士の事務を行う場合は,あくまで弁護士としての業務の一態様としてこれらの事務を行うにすぎないので,弁護士の業務停止処分の効力により弁理士や税理士の業務も当然に禁止されると解されます。

次に,弁護士がその資格に基づき弁理士又は税理士として登録してこれらの業務を行う場合です。税理士法43条は,税理士が弁護士として業務の停止を受けている期間中は税理士業務を行ってはならない旨を規定しているので,登録税理士の業務は業務停止期間中停止されます。これに対し,弁理士法には他資格者の業務停止処分が弁理士の資格や業務に影響を及ぼす旨の規定がないため,弁護士の業務停止処分により当然に登録弁理士の業務が禁止されるとまでは断定できないとする見解があります(登録弁理士の業務停止を決定するのは弁理士に対する懲戒権限を有する経済産業大臣であるという理由によります。)。

(4) 弁護士会等の会務活動との関係

弁護士法57条にいう「業務」の停止の対象に,弁護士会及び日本弁護士連合会の会務活動が当然に含まれるかについては争いがあります。

この点については,弁護士法の文言上,当然に懲戒処分の効果として会務活動が禁止されるとまではいえないと考えられます。もっとも,会務に携わる会員が懲戒処分を受けた場合には,弁護士会が団体自治の観点から,会員に対する指導連絡監督権(弁護士法31条1項,45条2項)の行使として会務活動を禁止することは許されると解されています。

3 業務停止の期間とその計算方法

業務の停止の期間は,2年以内と定められています(弁護士法57条1項2号・2項2号)。

期間の計算は暦に従って行い(懲戒委員会規程77条1項),その始期は裁決書又は懲戒書送達の日から起算されます(同条2項)。例えば,1月10日に業務停止2月の処分を告知した場合は,告知された日も業務ができなくなるので初日が算入され,3月9日の経過をもって満了します。2月をはさむ場合は,はさまない場合よりも業務停止期間の日数が2日又は3日短くなります。

4 業務停止期間中の会費と登録取消し

会費については,業務停止期間中であっても弁護士の身分は維持されるので徴収されます。

なお,業務停止期間中であっても請求により登録取消しをすることはでき,この場合,業務停止の懲戒処分の効力は登録を取り消した時点で失効するとされています(昭和59年3月3日付け日弁連会長通知)。

第2 業務停止処分を受けた場合の取扱い

1 取扱いの基準

業務停止処分を受けた弁護士及び弁護士法人が取るべき措置に関する基準として,以下のものがあります。

(1) 弁護士の場合

被懲戒弁護士の業務停止期間中における業務規制等について弁護士会及び日本弁護士連合会のとるべき措置に関する基準(平成4年1月17日日弁連理事会議決)があります。

この基準は,日弁連の弁護士会に対する指導連絡監督権(弁護士法45条2項,31条1項)を根拠とするものであり,弁護士に対し直接的な拘束力を持つものではありません。その要点は,弁護士が業務停止の懲戒処分を受けた場合,業務停止の期間中,(ア)依頼者との委任契約を解除したり(業務停止期間が1か月以内の場合であり,依頼者が委任契約の継続を望む場合を除く。),(イ)顧問契約を解除したり,(ウ)補助弁護士(復代理人又は雇用する等した弁護士)の監督ができなくなったり,(エ)原則として事務所の使用ができなくなったり,(オ)法律事務所の表示を除去したり,(カ)弁護士の肩書等のある名刺等を使用できなくなったり,(キ)弁護士記章及び身分証明書を日弁連に返還したり,(ク)会務活動ができなくなったり,(ケ)公職等を辞任したりする必要がある,というものです。

(2) 弁護士法人の場合

弁護士法人の業務停止期間中における業務規制等について弁護士会及び日本弁護士連合会のとるべき措置に関する基準(平成13年12月20日日弁連理事会議決)があります。

被懲戒弁護士法人の社員等(被懲戒弁護士法人の社員又は使用人である弁護士。弁護士法30条の6第1項前段参照)は,被懲戒弁護士法人が解除すべき,又は解除した法律事件等を,個人として引き継いで行うことはできません。

ただし,被懲戒弁護士法人の他の社員の承諾があり,かつ依頼者が受任を求めるときはこの限りではないものの,当該社員等は,依頼者に対して委任を求める働きかけをしてはならず,受任する場合には,依頼者から業務停止にかかる説明を受けて委任した旨の書面を受領しなければなりません。

2 業務停止期間中に取るべき措置の具体的内容

前記(1)の基準を踏まえ,業務停止期間中に取るべき措置を項目ごとに整理すると,概ね次のとおりです。

(ア) 受任事件の解除(直ちに依頼者との委任契約を解除するとともに,継続する裁判所等への辞任の手続を執る。ただし,業務停止の期間が1か月以内であって依頼者が委任契約の継続を求める場合は,被懲戒弁護士は必ずしも委任契約を解除する必要はない。債務整理事件については,債権者に対し委任契約を解除したことを連絡し,送金先を通知する。)

(イ) 顧問契約の解除

(ウ) 期日変更申請等の禁止

(エ) 預り金の受領禁止

(オ) 依頼者等への引継ぎ

(カ) 弁護士報酬の相殺の禁止

(キ) 復代理人の選任等・監督の禁止

(ク) 法律事務所の管理行為等(賃貸借契約,雇用契約の継続は可能)

(ケ) 法律事務所の使用禁止(弁護士会等の承認を得て例外的に使用可能)

(コ) 法律事務所の表示(表札・看板等)の除去

(サ) 広告の除去

(シ) 弁護士の肩書等のある名刺等の使用禁止

(ス) 弁護士記章及び身分証明書の返還

(セ) 会務活動の禁止

(ソ) 公職等の辞任

(タ) 弁理士,税理士等の業務の禁止

(チ) 戸籍謄本等職務上請求用紙の返還(ただし業務停止の期間が1か月以内である場合にはこの限りではない)

(ツ) 弁護士会等との連絡の維持,指導及び監督の遵守

3 訴訟代理人の権限消滅の通知

訴訟代理人の権限の消滅は,本人又は訴訟代理人から相手方に通知しなければ,その効力を生じませんし(民事訴訟法59条・36条1項),訴訟代理権の消滅の通知をした者は,その旨を裁判所に書面で届け出なければなりません(民事訴訟規則23条3項)。

つまり,被懲戒弁護士は,辞任届を裁判所及び相手方の両方に提出しなければなりません。

4 弁護士法人の依頼者による個人受任をめぐる問題

弁護士法人の依頼者が,当該法人に事件を依頼した際,当該法人とは別に,当該法人所属の弁護士に共同で事件を個人受任してもらっている場合,当該弁護士に引き続き事件処理を依頼することができると思われますが,弁護士法人の業務停止の潜脱として許されないかもしれません。

また,この場合,当該弁護士が,業務停止にかかる説明を受けて委任した旨の書面を依頼者から受領する必要があるかどうかは,明らかではありません。

5 補助弁護士による事務所の使用

被懲戒弁護士が処分を受ける前に雇用した弁護士(補助弁護士)は,被懲戒弁護士の事務所を自己の法律事務所として使用することができます(被懲戒弁護士の業務停止期間中における業務規制等について弁護士会及び日本弁護士連合会のとるべき措置に関する基準第一の九)。

もっとも,補助弁護士が被懲戒弁護士の指示,監督を受けて執務することができないことは,同基準第一の七から明らかです。

6 期日変更申請・保証金の還付・復代理人の選任等の可否

被懲戒弁護士は,期日変更申請,訴訟書類の授受,保証金の還付,復代理人の選任等もできなくなると最高裁判所は考えています(平成29年10月11日付の,弁護士法人等の懲戒処分(業務停止)について(最高裁判所事務総局民事局第一課長等の事務連絡))。

保釈保証金,保全保証金,供託金の還付・取戻しや和解金等の受領も原則としてできませんが,還付・取戻しや受領をしなければ権利が保全できない,又は権利が消滅するような急迫の事情がある場合には,民法654条の応急処分として例外的に行いうると解されています。

7 自由と正義の懲戒公告と業務停止の実情

自由と正義2024年2月号71頁(懲戒処分の公告)に「業務停止1月の懲戒処分においては、依頼者から委任継続の意思を記載した確認書面を受領し、所属弁護士会に提出することを条件として、受任している事件の辞任を回避することが可能である」と書いてあります。

8 懲戒処分件数の推移

日本弁護士連合会が公表している懲戒請求事案の集計によれば,弁護士会による懲戒処分の総数は,年間おおむね100件前後で推移しています。その内訳をみると,業務停止(1年未満)は年間おおむね20件台後半から40件台,業務停止(1年以上2年以下)は年間数件,退会命令及び除名はそれぞれ年間数件にとどまり,戒告が最も多くなっています。業務停止処分は,件数としては決してまれなものではなく,その大半が1年未満のものであることが分かります。

集計の詳細は,弁護士に対する懲戒請求事案集計報告(平成5年以降の分)を参照してください。

第3 業務停止を受けた弁護士が途中で辞任した場合の依頼者との法律関係

業務停止によって委任契約は当然には失効しませんが,業務停止期間中,被懲戒弁護士は業務に携わることができず依頼者の受任事件の事務処理を行えなくなるため,弁護士と依頼者の委任契約は社会通念上履行不能となる場合が多いといえます。この履行不能は弁護士の責めに帰すべき事由に基づくものと解されるので,依頼者は債務不履行を理由として委任契約を解除することができます。他方,弁護士からの解除は,民法651条の解除の規定によってのみなしうることになり,これが依頼者の不利な時期における解除にあたる場合には,弁護士に損害賠償義務が生じうることになります(同条2項)。

1 着手金の清算義務とみなし成功報酬

(1) 大阪高裁平成22年5月28日判決

着手金の全部又は一部を返還し,かつみなし成功報酬金は請求できないと思われること等について,大阪高裁平成22年5月28日判決は以下の判示をしています。

① 訴訟委任契約に伴う着手金は、弁護士への委任事務処理に対する報酬の一部の前払の性質を有するものであり、この訴訟委任契約が受任者である弁護士の債務不履行によって解除された場合には、原則として、受領した着手金を返還すべきであるところ、その契約の解除に至るまでの間に委任の趣旨に沿った事務処理が一部されたときは、同事務処理費用のほか、その委任契約全体に占めるその事務の重要性及びその事務量等を勘案して、その分に見合う額については返還することを要しないと解するのが相当である。

② 被控訴人は、着手金以外に、みなし成功報酬又は民法六四八条三項に基づき報酬の支払を求めているが、上記説示のとおり、甲・乙事件についての各委任契約は受任者である被控訴人の責めに帰すべき事由による本件解任により終了したのであるから、被控訴人が上記報酬の支払を求めることができないことは明らかである。

(2) 着手金の清算義務と協議のあり方

訴訟代理人としてなすべき業務がいまだ存在していた段階で業務停止により辞任する場合,対象弁護士は着手金の清算義務があります。

また,着手金返還の協議については,対象弁護士としてできる限りの協議を尽くしたうえで解決ができなかったとすれば,民事調停又は民事訴訟の方法を利用すべきであるという意見も認められることがありますが,十分な努力をせずに元依頼者に訴訟手続き等の負担を強いるのは,適切かつ妥当な対応とはいえません(平成28年4月11日付の日弁連懲戒委員会の議決(平成28年弁護士懲戒事件議決例集(第19集)21頁)参照。なお,事案につき,弁護士自治を考える会HPの「懲戒処分の要旨」参照)。

2 概算実費その他の預り金の清算

ア 弁護士は,委任の終了に当たり,委任契約に従い,金銭を清算したうえ,預り金及び預り品を遅滞なく返還しなければなりません(弁護士職務基本規程45条)。

イ 債務整理事務の委任を受けた弁護士が委任者から債務整理事務の費用に充てるためにあらかじめ交付を受けた金銭は,民法上は同法649条の規定する前払費用に当たるものと解されます。

そして,前払費用は,交付の時に委任者の支配を離れ,受任者がその責任と判断に基づいて支配管理し委任契約の趣旨に従って用いるものとして,受任者に帰属するものとなると解されます。受任者は,これと同時に,委任者に対し,受領した前払費用と同額の金銭の返還義務を負うことになりますところ,その後,これを委任事務の処理の費用に充てることにより同義務を免れ,委任終了時に,精算した残金を委任者に返還すべき義務を負うこととなります(最高裁平成15年6月12日判決)。

3 訴訟復代理人の代理権は当然には消滅しないこと

訴訟代理人がその権限に基づいて選任した訴訟復代理人は独立して当事者本人の訴訟代理人となるものですから、選任後継続して本人のために適法に訴訟行為をなし得るものであって,訴訟代理人の死亡によって当然にその代理資格を失なうわけではありません(最高裁昭和36年11月9日判決)。

そのため,業務停止処分を受けた弁護士法人が外部の弁護士を訴訟復代理人にしている場合,当該復代理人の権限は業務停止処分を受けた弁護士法人の辞任によって当然に消滅するわけではないと思います(訴訟代理権は,一定の事由によっては消滅しないものとされています。民事訴訟法58条参照)。

4 消費者契約法により無効となる可能性がある条項

ア 業務停止を受けた弁護士の損害賠償責任を免除する条項は消費者契約法8条により,委任者が払う損害賠償の額を予定する条項は消費者契約法9条により,無効となることがあります。

イ 消費者庁HPの「逐条解説」に,消費者契約法の逐条解説が載っています。

5 依頼者等への引継ぎはできること

被懲戒弁護士は,委任契約及び顧問契約を解除する場合,依頼者及び当該事件を新たに取り扱う弁護士に対し誠実に法律事務の引継ぎをしなければなりません(被懲戒弁護士の業務停止期間中における業務規制等について弁護士会及び日本弁護士連合会のとるべき措置に関する基準(平成4年1月17日日弁連理事会議決)第二の五)。この引継ぎ義務は,委任契約終了時の報告義務(民法645条)に由来するものと解されます。

もっとも,本号の引継ぎには,被懲戒弁護士が依頼者の便宜を図って後任の弁護士を紹介することは含まれません。被懲戒弁護士が自己と親しい他の弁護士を紹介することは,実質的に復代理人の選任につながり,潜脱のおそれが強いからです。

第4 業務停止処分中にした行為の効力

弁護士業務を行うことを禁止された者が,懲戒処分の内容に違反して弁護士業務を行えば,この行為が弁護士法に反し違法であることは明らかです。そこで,業務停止処分中にした行為の効力について,民事訴訟における訴訟代理行為,刑事訴訟における訴訟行為,裁判外の私法行為に分けて整理します。

1 民事訴訟における訴訟代理行為の効力

(1) 学説

弁護士でなければ訴訟代理人となることができないという弁護士代理の原則(民事訴訟法54条1項本文)の解釈をめぐり,無資格者の訴訟行為の効力については,概ね次の学説があります。

ア 有効説(訴訟代理人を弁護士に限定したのは一種の弁論能力の制限にすぎず,裁判所が無資格者の訴訟関与を黙過して訴訟手続を進めた場合の訴訟行為は有効であるとする説)

イ 絶対無効説(弁護士資格を代理権の発生・存続の要件と解したうえで,無資格者の訴訟行為は絶対無効であって追認もできないとする説)

ウ 追認有効説(基本的には無効とするが,無権代理行為としての追認を認める説)

エ 折衷説(相手方が非弁護士であることを知っていたか否かを区別し,知らなかった場合は無効と解するとともに追認の可能性を認め,知っていた場合は有効と解する説)

(2) 判例

業務停止処分を受けた対象弁護士は,その告知の時から一切の職務を行うことができなくなるので,これに反してされた職務上の行為も違法であることを免れず,裁判所が懲戒の事実を知ったときは,当該弁護士を訴訟手続への関与を禁止し,訴訟手続から排除しなければなりません(最高裁大法廷昭和42年9月27日判決)。

もっとも,同判決は,裁判所がこの懲戒処分の事実を看過した場合においては,訴訟行為を直ちに無効ならしめるものではない旨を判示しました。その理由として,① その処分を無視した弁護士は更に弁護士会で処分すれば足りること,② 業務停止の懲戒は弁護士としての身分・資格そのものを剥奪するものではないこと,③ 懲戒手続は公開されず,処分を周知させる方法も講ぜられていないこと,④ 一般の信頼を保護し,裁判の安定を図り,訴訟経済に資するという公共的見地,を挙げています。

(3) 検討

もっとも,右判例の理由付けに対しては,学説上,次のような批判が加えられています。すなわち,①の点については,業務停止違反の訴訟行為それ自体の効力を無効としなければ業務停止違反を防止することはできないこと,②の点については,前述した業務停止の懲戒制度としての趣旨を没却すること,③の点については,その後日弁連の取扱いが変わり種々の周知方法が採られ,また弁護士会等が業務規制等の諸方策を講じているため,この理由はもはや妥当しなくなったこと,④の点については,懲戒処分の公益性や依頼者本人の保護等を考慮すれば,公共的見地のみをもって違法な訴訟代理行為を有効と解するのは妥当でないこと,が指摘されています。

2 刑事訴訟における訴訟行為の効力

刑事訴訟法は,被告人に弁護人依頼権を保障し,弁護人は弁護士であることを要求しています(刑事訴訟法31条1項)。この弁護人依頼権は憲法37条3項によって保障されているものであり,弁護人となるための弁護士資格は憲法上の要請として極めて公益性の高いものです。

したがって,除名・退会命令によって弁護士でなくなった者はもちろん,業務停止の処分を受けた対象弁護士についても,弁護士の業務行為を行いうる資格を停止された者であって,その関与は無効と解すべきであり,原則として被告人による追認も認められないと解されます。民事訴訟における取扱いとは結論を異にする点に注意が必要です。

3 裁判外でされる代理人としての私法行為の効力

除名・退会命令によって弁護士でなくなった者が代理人として私法行為を行う場合には,特に報酬を得る目的や業務性を失わせる事情がない限り,弁護士でない者が報酬を得る目的で業として法律事務を取り扱うものとして,弁護士法72条に違反することになります。同条は高度の公益的規定と解されるので,同条に違反する行為は公の秩序(民法90条)に違反するものとして無効と解されます(最高裁昭和38年6月13日判決・民集17巻5号744頁参照)。

これに対し,業務停止処分を受けた対象弁護士は,弁護士たる身分を失ってはいないので,業務停止期間中にした代理人としての私法行為は,「弁護士でない者」を要件とする弁護士法72条違反となるものではありません。もっとも,業務停止処分の趣旨を徹底するという見地からすれば,除名・退会命令の場合と同様に,業務停止処分違反の私法行為は公序良俗違反として無効と解すべきであると考えられます(ただし,業務停止期間経過後に,弁護士が改めて有効に代理行為をすることができる可能性は残ります)。

4 委任契約終了時の一般的な義務

(1) 弁護士は,委任の終了に当たり,事件処理の状況又はその結果に関し,必要に応じ法的助言を付して,依頼者に説明しなければなりません(弁護士職務基本規程44条)。

(2) 委任契約や準委任契約においては,受任者は委任者の求めに応じて委任事務等の処理の状況を報告すべき義務を負いますところ(民法645条,656条),これは,委任者にとって,委任事務等の処理状況を正確に把握するとともに,受任者の事務処理の適切さについて判断するためには,受任者から適宜上記報告を受けることが必要不可欠であるためと解されます(最高裁平成21年1月22日判決)。

第5 業務停止の効力発生時期に関する解釈の変遷

懲戒は,懲戒の処分が懲戒を受ける弁護士に告知されたときに,その効力を生じます(告知時説)。「告知されたとき」とは,言渡期日に弁護士が出頭した場合は言渡しのとき,不出頭の場合は懲戒書が対象弁護士に送達されたときをいい,公示送達の方法によった場合は所定の期間を経過したときをいいます。もっとも,現在の告知時説に至るまでには,次のような解釈の変遷がありました。

1 確定時説 ― 旧弁護士法から現行弁護士法へ

旧弁護士法58条は「本法二規定スルモノノ外懲戒二付テハ判事懲戒法ヲ準用ス」と規定し,判事懲戒法46条は「懲戒裁判所ノ裁判ハ確定ノ後二非サレハ之ヲ執行スルコトヲ得ス」と規定していたため,弁護士の懲戒処分の効力発生時期が確定時であることは法文上明確でした。

現行弁護士法が制定された後も,日弁連の運用上,弁護士の懲戒処分の効力発生時期は確定時であるとされていました。

昭和37年10月1日施行の行政不服審査法34条1項は,「審査請求は,処分の効力,処分の執行又は手続の続行を妨げない」と規定しています。また,このときの弁護士法改正により,懲戒処分を受けた弁護士は上級行政庁たる日弁連に対して審査請求をすることができるとされ,弁護士の懲戒処分も一般行政庁の行う懲戒処分と同様に扱われることとなりました。そのため,弁護士の懲戒処分も一般の行政処分と同様に告知によって直ちにその効力を生ずるのではないかといわれるようになりました。

しかし,日弁連は,昭和40年12月24日付の「弁護士に対する『懲戒処分の効力発生時期』について」と題する通達において,戒告及び業務停止の効力発生時期は確定時であると主張しました。その論拠は,概ね,① 懲戒処分は弁護士の権利身分に重大な影響を及ぼすものであるから特に慎重明確な手続を経て行われることを必要とし,この精神は現行弁護士法も引き継いでいること,② 弁護士法17条3号が退会命令,除名について「確定したとき」と規定しているのはその思想の表れであること,③ 除名の効力は確定をまち業務停止の効力は即時に発生すると解すると,かえって除名よりも軽い業務停止の場合に直ちに業務が停止されるという奇妙な結果を招くこと,④ 弁護士法は行政不服審査法1条2項にいう「特別の定め」をした法律に該当すること,というものでした。

2 告知時説への転換 ― 最高裁大法廷昭和42年9月27日判決

最高裁大法廷昭和42年9月27日判決は,弁護士に対する懲戒処分は告知時に効力が生ずるという解釈を全員一致で採用し,従前の日弁連の見解と対立する意見を表明しました。

すなわち,同判決は,弁護士会又は日弁連が行う懲戒は広い意味での行政処分に属するものと解すべきであり,このような特定の相手方に対する処分である懲戒については,当該懲戒が当該弁護士に告知された時にその効力を生ずるものと解すべきであって,この点については他の一般の行政処分と区別すべき理由はないとしました。そして,執行停止に関する特別の規定が設けられているのも,処分がその告知によって直ちにその効力を生ずることを当然の前提としていることを示すものであるとしました。

この判決により,日弁連は,昭和43年1月20日の理事会において,懲戒処分は当該会員にこれを告知した時に直ちに効力を発生することを承認し,以後,告知時説による取扱いをするようになりました。

その後,最高裁昭和50年6月27日判決も,「行政処分は、原則として、それが相手方に告知された時にその効力を発生するものと解すべきである」と判示しています。

3 告知時説に対するその後の批判

告知時説は最高裁の採用する見解であり,学説の賛同を得,日弁連もこれに従いましたが,その後も告知時説に対しては,次のような批判がされています。すなわち,① 弁護士懲戒制度は他に類例をみない自治的懲戒制度をとっており,「他の一般行政処分と区別すべき理由」があること,② 取消しの可能性がある状態のまま処分の効力を生じさせると,訴訟という継続性を有する厳格な手続を遂行する責務を負う弁護士の職務遂行上の地位を著しく不安定にすること,③ 弁護士法17条3号は単なる事後的公証行為とはいえないこと,④ 告知時説に立つと異議申出制度の主要な部分が空文化すること,が挙げられています。

第6 業務停止処分と執行停止・効力停止

1 執行不停止の原則と執行停止・効力停止の仕組み

弁護士会の懲戒処分は,その告知によって効力を生じ,審査請求又は取消訴訟の提起があっても,その効力は当然には影響を受けません(執行不停止の原則)。

そこで,懲戒処分を受けた弁護士がその効力を止めるには,審査請求がされている段階では日弁連に対する申立て又は職権による効力の停止(懲戒委員会規程46条1項)を,取消訴訟の段階では裁判所に対する執行停止(行政事件訴訟法25条2項・29条)を求める必要があります。執行停止は,当該裁決又は処分によって生ずる重大な損害を避けるため緊急の必要があることが要件とされています(同法25条2項)。

2 最高裁平成19年12月18日決定と田原睦夫裁判官の補足意見

業務停止処分について執行停止が問題となった事例として,最高裁平成19年12月18日決定があります。この事件では,原審である東京高裁平成19年7月19日決定(判例時報1994号25頁)が,「依頼者との委任契約の解除等によって生じる弁護士としての社会的信用の低下、業務上の信頼関係の毀損は、業務停止という本件懲戒処分によって生じる申立人自身の被る損害であり、その損害の性質から、本案で勝訴しても完全に回復することは困難であり、また、損害を金銭賠償によって完全に補填することも困難である」として業務停止処分の執行停止を認め,最高裁がこれに対する抗告を棄却して執行停止を確定させました。

同決定における田原睦夫裁判官の補足意見には,以下の記載があります。

弁護士業務は,その性質上,高い信用の保持と業務の継続性が求められるところ,多数の訴訟案件,交渉案件を受任している弁護士が数か月間にわたる業務停止処分を受けた場合,その間,法廷活動,交渉活動,弁護活動はもちろんのこと,顧問先に係る業務を始めとして一切の法律相談活動はできず,業務停止処分により,従前の依頼者は他の弁護士に法律業務を依頼せざるを得なくなるが,進行中の事件の引継ぎは容易ではない。また,懲戒を受けた弁護士の信用は大きく失墜する。そして,業務停止期間が終了しても,いったん他の弁護士に依頼した元の依頼者が再度依頼するとは限らず,また,失墜した信用の回復は容易ではない。

業務停止処分を受けた弁護士が受ける上記の状況によって生ずる有形無形の損害は,後にその処分が取り消された場合に,金銭賠償によっては容易に回復し得ないものである。

3 戒告処分の執行停止の可否

これに対し,戒告処分については,それが当該弁護士に告知された時にその効力が生じ,告知によって完結するので,執行停止によってその効力を止める余地はないと解されています。戒告の公告を差し止めることを目的としても,公告は懲戒処分の効力等ではないから執行停止は認められません(最高裁決定・判例時報1822号55頁)。業務停止処分と戒告処分とでは,執行停止・効力停止による救済の可否が異なる点に注意が必要です。

第7 参考 ― 普通地方公共団体の議会の議員の出席停止の懲罰と司法審査

(1) 普通地方公共団体の議会の議員の場合,除名処分の適否は司法審査の対象となる(最高裁大法廷昭和35年3月9日判決参照)ものの,出席停止の懲罰の適否は司法審査の対象とならないとされていました(最高裁大法廷昭和35年10月19日判決)。

しかし,最高裁大法廷令和2年11月25日判決は判例変更をして,普通地方公共団体の議会の議員に対する出席停止の懲罰も司法審査の対象になると判示しました。

(2) 県議会議長の県議会議員に対する発言の取消命令の適否は,司法審査の対象とはなりません(最高裁平成30年4月26日判決)。

(3) 普通地方公共団体の議会又は議長の処分又は裁決に係る普通地方公共団体を被告とする訴訟については,議長が当該普通地方公共団体を代表します(地方自治法105条の2)。

第8 関連記事その他

(1) 債務整理ナビ「担当弁護士が業務停止した場合にすべき3つのこと|依頼案件はどうなる?」が載っています。

(2) 東京地裁平成27年9月18日判決(判例時報2294号65頁)は,約20億円の赤字を抱え,代表者からの借入等で資金繰りを回す状態であった弁護士法人(平成23年3月1日設立)による整理解雇について,解雇回避努力義務が不十分であるなどとして,事務員(元裁判所書記官であり,東京高裁から懲戒免職処分を受けたものの,そのことを秘して弁護士法人に採用された人です。)の整理解雇は無効であると判断しました。

(3) 免職された公務員が免職処分の取消訴訟の係属中に死亡した場合,その取消判決によって回復される当該公務員の給料請求権等を相続する者が右訴訟を承継します(最高裁昭和49年12月10日判決)。

(4) 税理士に対する懲戒処分の効力は,当該処分が確定したときに発生すると解されていた(最高裁昭和50年6月27日判決)ものの,昭和55年4月14日法律第14号による税理士法改正の結果,当該処分が告知されたときに発生することとなりました。

(5) 以下の記事も参照してください。