弁護士の業務停止処分に関する取扱い

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目次
1 業務停止処分を受けた場合の取扱い
2 業務停止を受けた弁護士が途中で辞任した場合の依頼者との法律関係
3 業務停止処分中の訴訟行為は有効であること
4 委任契約終了時の一般的な義務
5 業務停止の効力発生時期に関する解釈の変遷
6 その他


1 業務停止処分を受けた場合の取扱い

(1) 業務停止処分を受けた弁護士及び弁護士法人が取るべき措置に関する基準として以下のものがあります。
① 弁護士の場合
   被懲戒弁護士の業務停止期間中における業務規制等について弁護士会及び日本弁護士連合会のとるべき措置に関する基準(平成4年1月17日日弁連理事会議決)
→ 弁護士が業務停止の懲戒処分を受けた場合,業務停止の期間中,①依頼者との委任契約を解除したり(業務停止期間が1ヶ月以内の場合であり,依頼者が委任契約の継続を望む場合を除く。),②顧問契約を解除したり,③補助弁護士(=復代理人又は雇傭する等した弁護士)の監督ができなくなったり,④原則として事務所の使用ができなくなったり,⑤法律事務所の表示を除去したり,⑥弁護士の肩書等のある名刺等を使用できなくなったり,⑦弁護士記章及び身分証明書を日弁連に返還したり,⑧会務活動ができなくなったり,⑨公職等を辞任したりする必要があります。
② 弁護士法人の場合
   弁護士法人の業務停止期間中における業務規制等について弁護士会及び日本弁護士連合会のとるべき措置に関する基準(平成13年12月20日日弁連理事会議決)
→ 被懲戒弁護士法人の社員等(=被懲戒弁護士法人の社員又は使用人である弁護士(第二のAの5後段。なお,弁護士法30条の6第1項前段参照))は,被懲戒弁護士法人が解除すべき,又は解除した法律事件等を,個人として引き継いで行うことはできません。
   ただし,被懲戒弁護士法人の他の社員の承諾があり,かつ,依頼者が受任を求めるときはこの限りではないものの,当該社員等は,依頼者に対して委任を求める働きかけをしてはならず,受任する場合,依頼者から,業務停止にかかる説明を受けて委任した旨の書面を受領しなければなりません(第二のAの9参照)。
(2) 訴訟代理人の権限の消滅は,本人又は訴訟代理人から相手方に通知しなければ,その効力を生じませんし(民事訴訟法59条・36条1項),訴訟代理権の権限の消滅の通知をした者は,その旨を裁判所に書面で届け出なければなりません(民事訴訟規則23条3項)。
   つまり,被懲戒弁護士は,辞任届を裁判所及び相手方の両方に提出しなければなりません。
(3) 弁護士法人の依頼者が,当該法人に事件を依頼した際,当該法人とは別に,当該法人所属の弁護士に共同で事件を個人受任してもらっている場合,当該弁護士に引き続き事件処理を依頼することができると思いますが,弁護士法人の業務停止の潜脱として許されないかも知れません。
   また,この場合,当該弁護士が,業務停止にかかる説明を受けて委任した旨の書面を依頼者から受領する必要があるかどうかは不明です。
(4) 被懲戒弁護士が処分を受ける前に雇用した弁護士(補助弁護士)は,被懲戒弁護士の事務所を自己の法律事務所として使用することができます( 被懲戒弁護士の業務停止期間中における業務規制等について弁護士会及び日本弁護士連合会のとるべき措置に関する基準 第一の九)。
(5) 被懲戒弁護士は,期日変更申請,訴訟書類の授受,保証金の還付,復代理人の選任等もできなくなると最高裁判所は考えています(平成29年10月11日付の,弁護士法人等の懲戒処分(業務停止)について(最高裁判所事務総局民事局第一課長等の事務連絡))。
(6)ア 業務停止期間中に準備書面に対する受領書をFAXで返しただけで業務停止1月となった事例が弁護士自治を考える会HPの2016年11月15日の記事に載っています。
イ 業務停止期間中に裁判所から届いた保護命令を依頼者に郵送しただけで業務停止2月となった事例が弁護士自治を考える会HPの2017年12月21日の記事に載っています。

2 業務停止を受けた弁護士が途中で辞任した場合の依頼者との法律関係
(1) 着手金の全部又は一部を返還し,かつ,みなし成功報酬金は請求できないと思われること等
ア   大阪高裁平成22年5月28日判決は以下の判示をしています。
① 訴訟委任契約に伴う着手金は、弁護士への委任事務処理に対する報酬の一部の前払の性質を有するものであり、この訴訟委任契約が受任者である弁護士の債務不履行によって解除された場合には、原則として、受領した着手金を返還すべきであるところ、その契約の解除に至るまでの間に委任の趣旨に沿った事務処理が一部されたときは、同事務処理費用のほか、その委任契約全体に占めるその事務の重要性及びその事務量等を勘案して、その分に見合う額については返還することを要しないと解するのが相当である。
② 被控訴人は、着手金以外に、みなし成功報酬又は民法六四八条三項に基づき報酬の支払を求めているが、上記説示のとおり、甲・乙事件についての各委任契約は受任者である被控訴人の責めに帰すべき事由による本件解任により終了したのであるから、被控訴人が上記報酬の支払を求めることができないことは明らかである。
イ 訴訟代理人としてなすべき業務が未だ存在していた段階で業務停止により辞任する場合,対象弁護士は着手金の清算義務があります。
   また,着手金返還の協議については,対象弁護士としてできる限りの協議を尽くしたうえで解決ができなかったとすれば,民事調停又は民事訴訟の方法を利用すべきであるという意見も認められることもありますが,十分な努力をせずに元依頼者に訴訟手続き等の負担を強いるのは,適切かつ妥当な対応とはいえません(平成28年4月11日付の日弁連懲戒委員会の議決(平成28年弁護士懲戒事件議決例集(第19集)21頁)参照。なお,事案につき,弁護士自治を考える会HPの「懲戒処分の要旨」参照)。
(2) 概算実費その他の預り金の清算

ア 弁護士は,委任の終了に当たり,委任契約に従い,金銭を清算したうえ,預り金及び預り品を遅滞なく返還しなければなりません(弁護士職務基本規程45条)。
イ   
債務整理事務の委任を受けた弁護士が委任者から債務整理事務の費用に充てるためにあらかじめ交付を受けた金銭は,民法上は同法649条の規定する前払費用に当たるものと解されます。
   そして,前払費用は,交付の時に,委任者の支配を離れ,受任者がその責任と判断に基づいて支配管理し委任契約の趣旨に従って用いるものとして,受任者に帰属するものとなると解されます。
   受任者は,これと同時に,委任者に対し,受領した前払費用と同額の金銭の返還義務を負うことになりますところ,その後,これを委任事務の処理の費用に充てることにより同義務を免れ,委任終了時に,精算した残金を委任者に返還すべき義務を負うこととなります(最高裁平成15年6月12日判決)。
(3) 訴訟復代理人の代理権は当然には消滅しないこと
   訴訟代理人がその権限に基づいて選任した訴訟復代理人は独立して当事者本人の訴訟代理人となるものですから、選任後継続して本人のために適法に訴訟行為をなし得るものであって,訴訟代理人の死亡によって当然にその代理資格を失なうわけではありません(最高裁昭和36年11月9日判決)。
   そのため,業務停止処分を受けた弁護士法人が外部の弁護士を訴訟復代理人にしている場合,当該復代理人の権限は業務停止処分を受けた弁護士法人の辞任によって当然に消滅するわけではないと思います。
(4) 消費者契約法により無効となる可能性がある条項
ア   業務停止を受けた弁護士の損害賠償責任を免除する条項は消費者契約法8条により,委任者が払う損害賠償の額を予定する条項は消費者契約法9条により無効となることがあります。
イ 消費者庁HPの「逐条解説」に,消費者契約法の逐条解説が載っています。
(5) 依頼者等に対する引継ぎはできること
   被懲戒弁護士は,委任契約及び顧問契約を解除する場合,依頼者及び当該事件を新たに取り扱う弁護士に対し誠実に法律事務の引継ぎをしなければなりません(被懲戒弁護士の業務停止期間中における業務規制等について弁護士会及び日本弁護士連合会のとるべき措置に関する基準(平成4年1月17日日弁連理事会議決)第二の五)。
   
3 業務停止処分中の訴訟行為は有効であること
   弁護士業務を停止され,弁護士活動をすることを禁止されている者の訴訟行為であっても,その事実が公にされていないような事情のもとにおいては,一般の信頼を保護し,裁判の安定を図り,訴訟経済に資するという公共的見地から当該弁護士のした訴訟行為は有効とされています(最高裁大法廷昭和42年9月27日判決)。
   
4 委任契約終了時の一般的な義務
(1) 弁護士は,委任の終了に当たり,事件処理の状況又はその結果に関し,必要に応じ法的助言を付して,依頼者に説明しなければなりません(弁護士職務基本規程44条)。
(2) 委任契約や準委任契約においては,受任者は委任者の求めに応じて委任事務等の処理の状況を報告すべき義務を負いますところ(民法645条,656条),これは,委任者にとって,委任事務等の処理状況を正確に把握するとともに,受任者の事務処理の適切さについて判断するためには,受任者から適宜上記報告を受けることが必要不可欠であるためと解されます(最高裁平成21年1月22日判決)。
   
5 業務停止の効力発生時期に関する解釈の変遷
(1) 旧弁謹士法58条は「本法二規定スルモノノ外懲戒二付テハ判事懲戒法ヲ準用ス」と規定し,判事懲戒法46条は「懲戒裁判所ノ裁判ハ確定ノ後二非サレハ之ヲ執行スルコトヲ得ス」と規定していたため,弁護士の懲戒処分の効力発生時期が確定時であることは法文上明確でした。
(2) 現行弁護士法が制定された後も,日弁連の運用上,弁護士の懲戒処分の効力発生時期が確定時であるとされていました。
(3) 昭和37年10月1日施行の行政不服審査法34条1項は,「審査請求は,処分の効力,処分の執行又は手続の続行を妨げない」と規定しています。
   また,このときの弁護士法改正により,懲戒処分を受けた弁護士は上級行政庁たる日弁連に対して審査請求をすることができるとされ,弁護士の懲戒処分も一般行政庁の行う懲戒処分と同様に扱われることとなりました。
   そのため、弁護士の懲戒処分も一般の行政処分と同様に告知によって直ちにその効力を生ずるのではないかといわれるようになりました。
   しかし,日弁連は,昭和40年12月24日付の「弁護士に対する『懲戒処分の効力発生時期』について」と題する通達において,戒告及び業務停止の効力発生時期は確定時であると主張しました。
(4) 最高裁大法廷昭和42年9月27日判決は,弁護士に対する懲戒処分は告知時に効力が生ずるという解釈を全員一致で採用し,従前の日弁連の見解と対立する意見を表明しました。
   そのため,日弁連は,昭和43年1月20日の理事会において,懲戒処分は,当該会員にこれを告知した時に直ちに効力を発生することを承認し、以後、告知時説による取扱いをするようになりました。
(5) 弁護士懲戒手続の研究と実務(第3版)194頁ないし199頁に詳しい経緯が書いてあります。
   
6 その他
(1) 債務整理ナビ「担当弁護士が業務停止した場合にすべき3つのこと|依頼案件はどうなる? 」が載っています。
(2) 東京地裁平成27年9月18日判決(判例時報2294号65頁)は,約20億円の赤字を抱え,代表者からの借入等で資金繰りを回す状態であった弁護士法人(平成23年3月1日設立)による整理解雇について,解雇回避努力義務が不十分であるなどとして,事務員(元裁判所書記官であり,東京高裁から懲戒免職処分を受けたものの,そのことを秘して弁護士法人に採用された人です。)の整理解雇は無効であると判断しました。

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