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成年後見人は,家庭裁判所が選任した後は,本人(成年被後見人)の判断能力が回復しない限り,原則として途中で交代することはありません。
しかし,後見人に一定の事由があるときは,家庭裁判所が後見人を「解任」してその職を解くことができます。
この記事では,成年後見人の解任について,根拠となる民法846条の解任事由(3類型),解任を求められる人,家庭裁判所での手続,解任の効果,実務上の不正の実情,そして令和8年に成立した改正法による見直しまでを,条文と公的資料に即して整理します。保佐人・補助人・任意後見人にも同じ枠組みが及ぶ点は第3で扱います。
第1 成年後見人の解任とは
1 解任・辞任・欠格の区別
成年後見人が交代する場面は,「辞任」「解任」「欠けた場合の選任」の3つの規定の組合せで整理できます。
いずれも家庭裁判所が関与し,後見人が自由に辞めたり,本人や親族が自由に交代させたりできる仕組みにはなっていません。
- ① 辞任(民法844条)=後見人の側から離脱する場合です。「正当な事由があるとき」に,家庭裁判所の許可を得て任務を辞することができます。後見人が職業上の必要から遠隔地に転居して事務に支障が生じた場合,老齢・疾病で事務に支障が生じた場合,本人やその親族との間に不和が生じた場合などが,正当な事由の例として想定されています。
- ② 解任(民法846条)=後見人の意思に反してでも,家庭裁判所がその職を解く処分です。本記事の中心で,一定の解任事由が必要です。
- ③ 欠けた場合の選任(民法843条2項)=解任や辞任などで後見人が欠けたとき,家庭裁判所が職権又は請求によって新たな後見人を選任します。
辞任と解任は,「後見人自身の意思に沿うかどうか」で区別されます。
後見人は本人保護のために家庭裁判所から選ばれた者であり,自由な辞任も一方的な交代も認めると本人の利益を害するおそれがあるため,辞任には「正当な事由」,解任には後述の「解任事由」がそれぞれ要求されています。
2 誰が解任を求められるか(請求権者と職権)
民法846条は,解任を求めることができる者を,後見監督人,被後見人本人,その親族,検察官に限定しています。
これに加えて,家庭裁判所が職権で(請求を待たずに)解任することもできます。後見人の事務は家庭裁判所や後見監督人が監督しており(民法863条),監督の過程で問題が把握された場合に職権発動につながります。
市区町村長は,条文上,解任そのものの請求権者としては挙げられていません。
もっとも,成年後見の申立て自体は市区町村長申立ての事案が多く,実務では,本人・親族からの情報や監督を通じて家庭裁判所の職権解任が働くことになります。
第2 解任事由 ― 民法846条の3類型
解任の実体要件は,民法846条が定める次の3つに限られます。
民法846条(後見人の解任)は,「後見人に不正な行為,著しい不行跡その他後見の任務に適しない事由があるときは,家庭裁判所は,後見監督人,被後見人若しくはその親族若しくは検察官の請求により又は職権で,これを解任することができる」と定めています。
「不正な行為」と「著しい不行跡」は例示で,「その他後見の任務に適しない事由」が包括的な受け皿になっています。
1 不正な行為
法制審議会の部会資料は,「不正な行為」を「違法な行為又は社会的に非難されるべき行為」を意味するものと説明しています。
典型は,本人の預貯金の使い込み(業務上横領),自己の口座への振替,本人名義の不動産を無断で担保に入れる行為など,後見人としての権限を濫用して本人の財産に損害を与える行為です。
この「不正な行為」は,民事上の解任事由であると同時に,刑事責任にも直結します。
家庭裁判所から選任された成年後見人が本人の財物を横領した場合について,最高裁判所は,後見事務が公的性格を有することを理由に,後見人と本人との間に親族関係があっても刑法244条1項(親族間の犯罪に関する特例。いわゆる親族相盗例)は準用されず,その親族関係を量刑上酌むべき事情として考慮するのも相当でないとしました(最決平成24年10月9日)。
すなわち,親族が成年後見人となって本人の財産を使い込んだ場合でも,刑が免除されたり軽くなったりする扱いは認められません。同じ判断は,これに先立つ未成年後見人の事案でも示されていました(最決平成20年2月18日)。
2 著しい不行跡
「著しい不行跡」について,前記の部会資料は「品行や操行が甚だしく悪いこと」を意味すると説明しています。
後見人の素行の著しい悪さが本人の財産管理などに危険を生じさせる場合を想定した類型ですが,これだけを理由に解任される例は多くなく,実際には次の包括条項とあわせて問題になります。
3 その他後見の任務に適しない事由
「その他後見の任務に適しない事由」は,前2類型に当たらなくても,後見の任務を果たすのに適さない事情があれば解任できるという包括的な受け皿です。
実務では,次のような事情がこれに当たり得ると考えられています。
- ① 家庭裁判所の求めに応じず,財産の調査・財産目録の作成・後見事務の報告などを行わない(報告義務や監督〔民法863条〕への非協力)。
- ② 財産管理がずさんで,必要な支出を怠るなど,管理が不適切である。
- ③ 本人との利益相反を放置し,臨時後見人の選任などの必要な措置を採らない。
- ④ 病気・高齢・所在不明に近い状態などにより,職務の遂行が客観的に困難になっている。
利益相反に関しては,古い事案ながら参考になる裁判例があります。
成年後見制度の前身である禁治産制度のもとで,大阪高等裁判所は,後見人の欠格・解任の判断に関し,形式上は本人を当事者とする訴訟であっても,本人との間に実質的な利益相反関係がなければ問題となる「訴訟」には含まれないと判断しました(大阪高決昭和52年2月8日)。
形式ではなく実質的な利益相反の有無で判断するという発想は,現在の運用を考えるうえでも示唆的です。ただし,この事案が扱ったのは当時の民法846条の号(現在の民法847条4号の欠格事由に相当します)であり,現行の民法846条は号を持たない単一の解任規定になっている点に注意が必要です。
4 なぜ解任事由は限定されているか
前記の部会資料は,これらが解任事由とされている理由を,「判断能力……の不十分な本人の保護という成年後見人等の職責の重要性及び権限濫用による被害の重大性に鑑みたもの」と説明しています。
裏を返せば,後見人の地位の安定(安易に解任されないこと)と本人保護との均衡として,解任は一定の重い事由に限定されています。この「限定」が,第7で述べる令和8年改正の見直しの出発点になりました。
第3 保佐人・補助人・任意後見人などへの広がり
解任の規律は,成年後見人に固有のものではなく,判断能力を補う他の担い手にも横断的に及びます。
- ① 保佐人・補助人=民法846条を含む844条から847条までの規定が,それぞれ準用されます(保佐人につき民法876条の2第2項,補助人につき民法876条の7第2項)。解任事由も手続の基本も後見人と同じです。
- ② 後見監督人=民法852条により,846条・847条などが準用されます。成年後見監督人も同じ枠組みで解任され得ます。
- ③ 任意後見人=任意後見契約に関する法律8条が独自に定めています。解任事由(不正な行為,著しい不行跡,その他その任務に適しない事由)は法定後見と同じですが,請求できるのは任意後見監督人・本人・その親族・検察官に限られ,家庭裁判所の職権による解任は規定されていません。この点が,職権解任のある法定後見(民法846条)との違いです。
第4 解任の手続
成年後見人の解任は,家事事件手続法にいう別表第一の審判事件として,家庭裁判所が扱います。
後見人にとっては職を失う処分であるため,手続保障と暫定的な措置,不服申立ての各段階が用意されています。
1 後見人の陳述聴取
家庭裁判所は,成年後見人を解任する審判をする場合には,その成年後見人の陳述を聴かなければなりません(家事事件手続法120条1項4号)。
解任される側の言い分を聴かずに一方的に職を解くことはできない仕組みです。
2 審判前の保全処分(職務執行停止・職務代行者)
解任の審判が確定するまでには時間がかかり,その間に本人の財産が更に損なわれるおそれがあります。
そこで家庭裁判所は,解任の審判事件が係属している場合において本人の利益のため必要があるときは,申立て又は職権により,解任の審判が効力を生ずるまでの間,後見人の職務の執行を停止し,又は職務代行者を選任することができます(家事事件手続法127条1項)。
職務執行を停止する審判は,停止される後見人・他の後見人・職務代行者に告知することで効力を生じ(同条2項),職務代行者には本人の財産の中から相当な報酬を与えることができます(同条4項)。この保全処分は成年後見監督人の解任事件にも準用されます(同条5項)。
3 不服申立て(即時抗告)
解任の審判とその却下に対しては,それぞれ即時抗告ができます。
- ① 解任された成年後見人は,解任の審判に対して即時抗告ができます(家事事件手続法123条1項4号)。
- ② 解任を認めなかった(却下の)審判に対しては,申立人,成年後見監督人,成年被後見人及びその親族が即時抗告ができます(同項5号)。
即時抗告は,2週間の不変期間内にしなければなりません(家事事件手続法86条1項)。
期間の起算点は,審判の告知を受ける者かどうかによって異なります(同条2項)。
第5 解任の効果
解任は,後見人の地位を失わせるだけにとどまりません。
- ① 欠格=家庭裁判所で解任(免職)された者は,以後,後見人・保佐人・補助人となることができません(民法847条2号「家庭裁判所で免ぜられた法定代理人,保佐人又は補助人」)。財産管理などの適格性に問題があると裁判所に認定された者だからです。
- ② 新たな後見人の選任=後見人が欠けることになるため,家庭裁判所が職権又は請求により後見人を選任します(民法843条2項)。
- ③ 損害賠償・刑事責任=不正な行為による解任の場合,本人(新たな後見人)からの損害賠償請求や,業務上横領罪(刑法253条)の刑事責任が問題になります。前記のとおり,親族であっても親族相盗例による免除・減軽は認められません。
第6 数字で見る後見人の不正(最高裁の実情調査)
「不正な行為」による解任がどの程度あるのかは,最高裁判所事務総局家庭局の実情調査で数値化されています。
次は,家庭裁判所が各年(1月から12月)に不正事例への一連の対応を終えたものとして把握した件数と被害額です(いずれも概数)。ピークだった平成26年と,近年の令和の各年を示します。
| 年 | 件数(総数) | 被害額 | うち専門職の件数 |
|---|---|---|---|
| 平成26年(ピーク) | 831 | 約56億7千万円 | 22 |
| 令和元年(平成31年含む) | 201 | 約11億2千万円 | 32 |
| 令和2年 | 185 | 約7億9千万円 | 30 |
| 令和3年 | 169 | 約5億3千万円 | 9 |
| 令和4年 | 191 | 約7億5千万円 | 20 |
| 令和5年 | 184 | 約7億円 | 29 |
| 令和6年 | 188 | 約7億9千万円 | 27 |
| 令和7年 | 178 | 約7億9千万円 | 26 |
この数字からは,2つのことが読み取れます。
第1に,不正の件数・被害額は平成26年(831件・約56億7千万円)を境に大きく減少し,近年は年180件前後・被害額7億円から8億円台で推移しています。第2に,不正の大半は親族の後見人によるものであり,弁護士・司法書士などの専門職による件数は各年の総数のごく一部にとどまります。
件数の減少の背景としては,後見制度支援信託・支援預貯金の普及や,専門職後見人・後見監督人の活用が指摘されています。すなわち,専門職の起用と監督の強化が,不正(=解任の最大のきっかけ)の予防として機能していると考えられます。
この調査は,各年に家庭裁判所が対応を終えた件数であって,不正行為そのものが当該年に行われたことを示すものではありません。また,平成23年10月及び平成24年4月に報告対象事件の定義が変更されているため単純な年別比較はできず,数値はいずれも概数です。
第7 令和8年改正による解任事由の見直し
ここまで述べたとおり,現行法では解任事由が「不正な行為」「著しい不行跡」「その他後見の任務に適しない事由」に限定されているため,不正はないが本人の利益にかなわないという場面では交代させにくいという課題が指摘されてきました。
法制審議会の部会資料は,遺産分割の協議のために選任された後見人が,協議の終了後に本人の身上保護のための関係機関の連携会議などに関与しないにもかかわらず,財産管理は適切に行っているとして辞任に応じない事例を挙げ,現行の解任事由がない場合でも後見人の職を解くべきときの要件を検討する必要があるとしていました。
この検討を経て,令和8年6月24日に「民法等の一部を改正する法律」(令和8年法律第45号)が成立・公布されました。
成年後見制度に関する部分は,公布から2年6月を超えない範囲で政令で定める日に施行されることとされており,本記事の時点では未施行です。改正の主な内容は次のとおりです。
- ① 法定後見の一元化=判断能力の程度に応じた「後見・保佐・補助」の3類型のうち,後見・保佐を廃止し,基本的に「補助」の制度に一元化します。特定の行為ごとに,個別に代理権を付与し,又は同意を要する審判をする仕組みへと改められます。
- ② 解任事由の追加=補助人の解任事由に「本人の利益のため特に必要があるとき」が加えられます。これにより,不正な行為がなくても,本人と面談しないなどで本人が適切な保護を受けられないときは,解任・交代が可能になります。従来は後見人・保佐人・補助人の側の事情(不正な行為・著しい不行跡など)に限られていた解任の入口が,本人の利益の観点からも開かれることになります。
- ③ 本人の意向の尊重=補助人に本人の意向を把握する義務が明確化され,選任時に家庭裁判所が考慮すべき要素の冒頭に「本人の意見」が位置づけられます。
経過措置として,既存の後見・保佐は基本的に現行法の内容で利用を継続できますが,解任事由(本人の利益のため特に必要な場合)と本人の意向の尊重に関する規律については,改正後の民法が適用されるものとされています。
したがって,解任理由の考え方は,従来の「後見人の側の非違(不正・不行跡・任務への不適格)」を中心とするものから,「本人の利益に照らした交代の必要性」を含むものへと,軸が広がっていくことになります。改正法の条文の細目は,施行に向けて公表される政令・省令や新旧対照条文で確認する必要があります。
出典
1 法令
- 民法(明治29年法律第89号)843条・844条・845条・846条・847条・852条・859条・863条・876条の2・876条の7(e-Gov法令検索で現行条文を確認)
- 任意後見契約に関する法律(平成11年法律第150号)4条・8条(e-Gov法令検索)
- 家事事件手続法(平成23年法律第52号)86条・120条・123条・127条(e-Gov法令検索)
- 刑法(明治40年法律第45号)244条1項・253条(e-Gov法令検索)
- 民法等の一部を改正する法律(令和8年法律第45号。成年後見制度・遺言制度の見直し)
2 裁判例
- 最高裁判所第二小法廷決定平成24年10月9日(平成24年(あ)第878号・業務上横領被告事件)刑集66巻10号981頁。成年後見人による横領と刑法244条1項の準用の有無等(裁判所ウェブサイト)
- 最高裁判所第一小法廷決定平成20年2月18日(平成19年(あ)第1230号・業務上横領被告事件)刑集62巻2号37頁。未成年後見人の事案(裁判所ウェブサイト)
- 大阪高等裁判所決定昭和52年2月8日(昭和49年(ラ)第212号・後見人解任並びに後見人選任申立却下審判に対する即時抗告申立事件)家庭裁判月報29巻9号82頁。旧民法846条5号の解釈(判例秘書で全文確認済み。裁判所ウェブサイト未掲載)
3 公的資料
- 法制審議会 民法(成年後見等関係)部会 部会資料4「成年後見人等の交代等(辞任・解任を含む。)……」(法務省・PDF)
- 法務省民事局「民法等の一部を改正する法律(成年後見及び遺言の制度の見直し)について」(法務省)
4 統計
- 最高裁判所事務総局家庭局「後見人等による不正事例」(裁判所ウェブサイト。件数・被害額はPDF資料による)