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成年後見事件における親族の意向の取扱い――選任,職務遂行及び解任の各場面における法的地位(AI作成)

第1 この記事が扱う対象

1 検討の対象と時点

成年後見事件では,本人の子や兄弟姉妹などの親族が,後見人の選任や後見人の対応について意見を述べる場面が少なくない。もっとも,親族の意向がどの程度の法的な重みを持つのかは,本人の意向や後見人自身の義務ほど正面から論じられることが多くない。本記事は,令和8年8月現在で確認できる民法及び家事事件手続法の条文,判例タイムズ掲載論文並びに厚生労働省の公表資料に基づき,後見人の選任,職務遂行及び解任という三つの場面それぞれについて,親族の意向がどのように扱われているかを整理するものである。対象は成年後見(保佐及び補助を含む法定後見)とし,令和8年6月24日に成立・公布された「民法等の一部を改正する法律」(令和8年法律第45号)による見直し後の位置づけにも触れる。同改正は成年後見制度に関する部分について公布から2年6月を超えない範囲で政令で定める日に施行されることとされており,本記事の時点では未施行である。生成AIを用いて条文本文及び公表資料を読み込み,原典と照合した上で構成した。

2 対象とする文献の基本情報

親族の意向の法的な位置づけについて,実務家の理論的な整理を示すものとして,小西洋(東京家庭裁判所判事,家事法研究会)「成年後見人の職務権限に関する研究〔家事法研究会〕 成年後見人等の財産に関する権限と限界」(判例タイムズ1406号16頁,2015年1月1日発行)がある。同論文は,成年後見人の財産管理に関する権限と限界を体系的に検討する中で,親族の意向の取扱いについて独立の項目を設けており,本記事は同論文の該当箇所(掲載誌21頁)を対象として引用する。同論文の公表から本記事の執筆時点までに約11年が経過しており,この間に平成28年の成年後見制度利用促進法の制定,令和8年の民法等改正など制度面の変化があったため,同論文が示した整理が現在どこまで妥当するかについても,第5及び第6で検討する。

第2 後見人の選任における親族の法的地位

1 選任の考慮要素(民法843条4項)

家庭裁判所が成年後見人を選任する際に考慮すべき事情は,民法843条4項が定めている。同項は,成年被後見人の心身の状態並びに生活及び財産の状況,成年後見人となる者の職業及び経歴並びに成年被後見人との利害関係の有無,成年被後見人の意見その他一切の事情を考慮しなければならないと定める。ここで法律が名指しで考慮要素として挙げているのは本人の意見であり,親族の意見は条文上明示されていない。親族の意向は,条文末尾の「その他一切の事情」に含まれ得るとしても,本人の意見と同列の法定考慮要素とはされていない。この構造は,保佐人の選任(民法876条の2第2項による843条2項から4項までの準用)及び補助人の選任(民法876条の7第2項による同準用)にも及ぶ。

2 陳述及び意見の聴取の対象(家事事件手続法120条)

家庭裁判所が成年後見人を選任する審判をする場合に意見を聴かなければならない者についても,家事事件手続法120条2項1号が「成年後見人となるべき者」と定めるにとどまる。同条1項が定める陳述聴取の対象も,後見開始の審判については「成年被後見人となるべき者」,成年後見人の解任の審判については「成年後見人」というように,本人又は後見人自身に限られている。親族は,同条が定める法定の陳述・意見聴取の対象に含まれていない。

3 選任の結果に対する不服申立ての不存在(家事事件手続法123条)

家事事件手続法123条1項は,後見関係の各種審判に対する即時抗告について定めており,どの審判にどの範囲の者が即時抗告できるかを個別に列挙する。同項が定める即時抗告権者の構成には,非対称な構造がある。後見開始の審判自体に対しては,民法7条に規定する者(本人,配偶者,四親等内の親族などの後見開始の申立権者)に即時抗告権が認められている(1号)。これに対し,成年後見人又は成年後見監督人の選任の審判については,同項に対応する号がなく,何人にも即時抗告の定めがない。すなわち,後見を始めること自体には親族を含む申立権者に不服申立ての手段があるが,家庭裁判所が実際に誰を後見人に選ぶかという結果そのものについては,法律上,不服を申し立てる手段が用意されていない。他方,成年後見人の解任の申立てを却下する審判については,申立人,成年後見監督人並びに成年被後見人及びその親族に即時抗告権が認められている(5号)。つまり,親族が「この後見人を選んでほしい」と望む方向には法的な手段がなく,「この後見人を辞めさせてほしい」という請求が却下されたときに限って,親族に不服申立ての手段が与えられているという非対称な構造になっている。

第3 後見人の職務遂行と親族――「他人」という整理

1 意思尊重及び身上配慮義務の対象(民法858条)

後見人が就任した後の職務遂行についても,法律が名宛人とするのは本人である。民法858条は,成年後見人は成年被後見人の生活,療養看護及び財産の管理に関する事務を行うに当たっては成年被後見人の意思を尊重し,かつ,その心身の状態及び生活の状況に配慮しなければならないと定める。同条が定める意思尊重及び身上配慮の対象は成年被後見人であって,親族への説明や情報提供に関する規定は置かれていない。

2 判例タイムズ掲載論文が示す実務上の整理

前記の小西判事の論文は,この条文構造を踏まえ,親族の意向の位置づけについて実務家の立場から整理を示している。同論文によれば,親族の意向は,本人との関係ではあくまで第三者(他人)の意向であって,それ自体が後見人の業務に法的な影響を与えるものではない。したがって,後見人が親族の意向に反する対応をすること自体は差し支えなく,親族に対して業務の内容を説明したり情報を開示したりすることも,法律上の義務ではないとされる。もっとも,同論文は,これを理由に親族への対応を一切不要とするものではなく,業務を円滑に進めるために,事実上,親族の意向を確認し配慮することはあり得るとも述べている。法的義務の不存在と,実務上の事実上の配慮とを区別する整理であるといえる。同論文はさらに,本人の意向と後見人の判断とが対立する場面では家庭裁判所が何らかの対応を示す必要があるとしつつ,親族などの第三者が家庭裁判所に対して後見人への指導を求めても,本人の利益に反する事情がない限り,家庭裁判所が第三者の利益のために後見人を指導することはないという整理も示している。

第4 解任の場面における親族の位置づけ

後見人の交代を求める場面に限っては,親族に法律上の役割が認められている。民法846条は,後見人に不正な行為,著しい不行跡その他後見の任務に適しない事由があるときは,家庭裁判所が,後見監督人,被後見人若しくはその親族若しくは検察官の請求により又は職権で,これを解任することができると定めており,親族は解任の請求権者として明記されている。前記のとおり,この請求が却下されたときは,本人及びその親族に即時抗告権も認められる(家事事件手続法123条1項5号)。したがって,親族の意向が法的な意味を持つ場面は,後見人を選ぶ場面ではなく,後見人を辞めさせる場面に限られているということになる。解任事由の3類型(不正な行為,著しい不行跡,その他後見の任務に適しない事由)や解任の手続の詳細,保佐人・補助人・任意後見人への準用関係については,成年後見人の解任理由(AI作成)で扱っているため,本記事では立ち入らない。

第5 家庭裁判所の運用における転換――「身近な親族」を優先する選任方針

1 平成31年専門家会議が示した選任の基本的考え方

第2で確認したとおり,法律の条文自体は,親族の意向に選任場面での法的な地位を与えていない。もっとも,家庭裁判所の運用のレベルでは,これとは別の動きがある。厚生労働省が公表した第2回成年後見制度利用促進専門家会議(平成31年3月18日開催)の資料3「適切な後見人の選任のための検討状況等について」は,最高裁判所と日本弁護士連合会,日本司法書士会連合会,公益社団法人成年後見センター・リーガルサポート及び公益社団法人日本社会福祉士会という専門職団体との間で共有された,後見人等の選任の基本的な考え方を示している。それによれば,本人の利益保護の観点からは,後見人となるにふさわしい親族等の身近な支援者がいる場合は,これらの身近な支援者を後見人に選任することが望ましいとされ,中核機関による支援機能が不十分な場合には専門職後見監督人による親族等後見人の支援を検討すること,選任後も後見人の選任形態等を定期的に見直し状況の変化に応じて柔軟に交代・追加選任等を行うことが,あわせて示されている。この考え方は,平成31年1月に各家庭裁判所へ情報提供されており,法令や規則ではなく,最高裁判所と専門職団体の協議を経た運用上の指針という位置づけである。

2 第二期成年後見制度利用促進基本計画における権利擁護支援チーム

この運用上の転換は,令和4年3月25日に閣議決定された第二期成年後見制度利用促進基本計画にも引き継がれている。同計画は,地域連携ネットワークの三つの仕組みの一つとして「権利擁護支援チーム」を位置づけ,権利擁護支援チームとは,権利擁護支援が必要な人を中心に,本人の状況に応じ,本人に身近な親族等や地域,保健・福祉・医療の関係者などが協力して日常的に本人を見守り,本人の意思及び選好や価値観を継続的に把握し,必要な権利擁護支援の対応を行う仕組みであると定義している。同計画はまた,本人と本人に身近な親族等がともに身近な親族等による後見人等の選任を望むなど,身近な親族等が後見人等になることがふさわしい場合の親族後見人への支援は最も重要な支援の一つであるとも述べている。第2で確認した法律上の枠組みそのものは変わっていないが,制度の運用を方向づける行政計画のレベルでは,親族を地域における権利擁護支援の担い手として明確に位置づける方向へと重心が移っていることが分かる。この転換の背景には,成年後見人による不正の大半が親族後見人によるものであるという最高裁判所事務総局家庭局の実情調査の結果があり,専門職後見人の活用が不正防止の観点から進められてきた経緯との調整が,第二期計画の課題として残されている。不正の実情に関する数値は,成年後見人の解任理由(AI作成)の第6でまとめている。

第6 令和8年改正後の位置づけと他の場面との比較

1 令和8年改正における意向尊重規定の対象

令和8年法律第45号による改正は,法定後見を基本的に「補助」の制度へ一元化した上で,補助人の職務遂行に際して本人の意向を把握する義務を明確化し,家庭裁判所が補助人の選任時に考慮すべき要素の冒頭に本人の意見を位置づけるなど,本人の意向の尊重を強化する内容を含んでいる。もっとも,これらの規定はいずれも本人の意向に関するものであり,親族の意向に新たな法的地位を与える規定は見当たらない。第2及び第3で確認した構造,すなわち,選任の考慮要素,陳述・意見聴取の対象及び職務遂行における意思尊重義務の名宛人が一貫して本人とされているという構造は,令和8年改正後も維持される。改正の全体像及び解任事由の見直しについては,成年後見人の解任理由(AI作成)の第7で整理している。

2 医療同意の場面における同型の構造

親族の意向に法的な地位が与えられていないという構造は,選任及び職務遂行の場面に限られない。手術や輸血などの医的侵襲に対する同意の場面でも,同様の構造がある。現行法には,後見人だけでなく親族にも,本人に代わって医的侵襲に同意する権限を与える明文の規定が存在しない。厚生労働省が公表しているガイドラインも,成年後見人等の第三者が医療に係る意思決定・同意ができるとする規定はなく,これが後見人等の業務に含まれているとはいえないとしており,本人の意思を推定するための手がかりとして家族等の意見を聴くことはあっても,家族の同意それ自体に法的な効力を認めるものではない。この点の詳細は,成年後見人の医療行為の同意(AI作成)で扱っている。財産管理の場面と医療の場面とでは規律の根拠となる条文も制度趣旨も異なるが,親族の意向が法律上の権利としては構成されておらず,事実上の関与にとどまるという点では,共通した構造を見て取ることができる。

出典・参考資料

1 法令

民法(明治29年法律第89号)7条・843条・846条・858条・876条の2・876条の7(e-Gov法令検索)

家事事件手続法(平成23年法律第52号)120条・123条(e-Gov法令検索)

③民法等の一部を改正する法律(令和8年法律第45号。成年後見制度・遺言制度の見直し)

2 公的資料

①厚生労働省「第2回成年後見制度利用促進専門家会議」(平成31年3月18日開催)資料3「適切な後見人の選任のための検討状況等について」(厚生労働省)

②「第二期成年後見制度利用促進基本計画 ~尊厳のある本人らしい生活の継続と地域社会への参加を図る権利擁護支援の推進~」(令和4年3月25日閣議決定。厚生労働省)

③厚生労働省「身寄りがない人の入院及び医療に係る意思決定が困難な人への支援に関するガイドライン」(令和元年6月3日医政総発0603第1号。厚生労働省)

3 文献

①小西洋「成年後見人の職務権限に関する研究〔家事法研究会〕 成年後見人等の財産に関する権限と限界」判例タイムズ1406号16頁~21頁(2015年1月1日発行。判例タイムズ電子復刻版で確認)