第1 この記事の対象と結論
1 対象と資料
この記事は,裁判官や裁判所書記官が執務で使う有料の検索サービスについて,最高裁判所が毎年度の概算要求でいくらを要求し,どのような契約を結んでいたかを,公表資料と当ブログ掲載の資料で整理するものである。
対象は,最高裁判所の概算要求書(説明資料)で「裁判運営の改善経費」に並んでいる,法令・判例等検索システム,法律雑誌等検索システム及びWeb版図書情報システムの三つである。
使った資料は,令和2年度から令和8年度までの最高裁判所の概算要求書(説明資料),裁判所ウェブサイトに掲載されている令和4年度の一般会計歳出概算要求書,及び令和2年4月1日付けの契約書3通である。
本記事の基準日は令和8年9月19日である。
本記事は生成AIを用いて資料を照合し,資料に書かれた事実と,資料から考えられることを区別して整理したものである。
2 結論
三つのシステムは,いずれも最高裁判所が一括して契約し,全国の裁判所の職員が端末から利用する有料サービスである。
令和2年度から令和6年度までは5年間の契約が結ばれており,法令・判例等検索システムは第一法規株式会社,法律雑誌等検索システムは株式会社エル・アイ・シー,Web版図書情報システムは株式会社OPACが受注者であった。
概算要求上の年額は,令和3年度から令和6年度まで,法令・判例等検索システムが4026万円,法律雑誌等検索システムが2942万5000円で毎年同じであった。
これに対し,令和7年度の要求は4818万円弱と4356万円に増え,令和8年度の要求は4593万6000円と3960万円である。
令和7年度以降の契約の相手方及び契約期間は,本記事では確認できていない。
第2 三つのシステムの内容
1 法令・判例等検索システム
令和4年度の概算要求書(説明資料)160頁は,法令・判例等検索システムを「法令,判例及び文献情報を検索閲覧するシステム」と説明している。
同頁によれば,裁判官や書記官が各自の端末からアクセスし,裁判執務に必要な法規,判例,法律判例文献の著者名及び雑誌名等を入手するためのものであり,知的財産高等裁判所用のものが別に計上されている。
令和2年度からの契約書によれば,利用できるクライアント端末は2万6000台まで,サーバへの同時アクセス数は500台までとされていた。
2 法律雑誌等検索システム
同じ説明資料161頁は,法律雑誌等検索システムを,判例や法律雑誌に掲載された論文,評釈及び解説等を収録したデータベースであり,主要法律雑誌の判例評釈及び解説を原本性を保持したPDFデータとして収録し,判例と関連付けて検索閲覧できるものと説明している。
同頁は,これが法令・判例等検索システムにない機能であり,二つのシステムは相互に補完して利用するものと位置付けている。
令和2年度からの契約書によれば,利用できるクライアント端末は1万8000台まで,サーバへの同時アクセス数は500台までとされていた。
3 Web版図書情報システム
Web版図書情報システムは,下級裁判所の資料室や裁判官室等で管理している図書資料の情報を運営会社の蔵書検索サービスにアップロードし,職員がインターネット経由で図書の有無や配架場所を検索できるようにするものである。
管理対象の図書資料は,令和6年度までの説明資料では約230万冊,令和7年度以降の説明資料では約500万冊とされている。
第3 概算要求上の年額の推移
1 年度別の要求額
各年度の概算要求書(説明資料)の経費積算内訳に記載された単価を,知的財産高等裁判所用を合算して示すと,次のとおりである。
単価の欄は円単位であり,いずれも「一式」として計上されている。
| 年度 | 法令・判例等検索 | 法律雑誌等検索 | Web版図書情報 | 説明資料の頁 |
|---|---|---|---|---|
| 令和2年度 | 4200万1080円 | 2970万円 | 283万8000円 | Ⅰの1-138頁 |
| 令和3年度 | 4026万円 | 2942万5000円 | 105万6000円 | 146頁 |
| 令和4年度 | 4026万円 | 2942万5000円 | 105万6000円 | 167頁 |
| 令和5年度 | 4026万円 | 2942万5000円 | 105万6000円 | 157頁 |
| 令和6年度 | 4026万円 | 2942万5000円 | 105万6000円 | 172頁 |
| 令和7年度 | 4817万9999円 | 4356万円 | 99万円 | 155頁 |
| 令和8年度 | 4593万6000円 | 3960万円 | 172万2600円 | 153頁~154頁 |
例えば令和4年度の法令・判例等検索システムは,本体が4018万4125円,知的財産高等裁判所用が7万5875円であり,合計が4026万円となる。
令和3年度から令和6年度までは,本体と知的財産高等裁判所用の配分が年度ごとにわずかに動いているが,合計は毎年同じである。
2 要求と要望の区別
令和2年度と令和6年度の分は,説明資料上,通常の要求ではなく「要望」として計上されている。
令和2年度の分は「次期契約分」として要望7に,令和6年度の分は経費積算内訳【要望】の要望7に置かれている。
要望は,各年度の概算要求基準に基づいて設けられた特別の枠で要求されるものである。
同じ経費が年度によって要求と要望のいずれに計上されるかが変わるので,年度ごとの総額を比べるときは,両方を拾う必要がある。
3 成立予算との関係
概算要求書(説明資料)に記載されているのは,最高裁判所が要求した金額である。
成立予算の各目明細書は目の単位までしか記載されていないため,これらのシステムにいくらの予算が付いたかは,公表資料からは個別に確認できない。
ただし,翌年度の説明資料の経費積算内訳には,括弧書きで前年度予算額が記載されている。
例えば令和8年度の説明資料では,令和7年度の予算額として,法令・判例等検索システム(知的財産高等裁判所用を除く。)4809万1052円,法律雑誌等検索システム(同)4344万3840円,Web版図書情報システム99万円が括弧内に示されている。
これらは令和7年度の要求額と同じ金額である。
第4 令和2年度から令和6年度までの契約
1 三つの契約書
当ブログに掲載している三つの契約書は,いずれも令和2年4月1日付けで,発注者は最高裁判所(支出負担行為担当官・最高裁判所事務総局経理局長)であり,利用期間は令和2年4月1日から令和7年3月31日までの5年間である。
| システム | 受注者 | 5年間の金額 | 年額 |
|---|---|---|---|
| 法令・判例等検索システム | 第一法規株式会社 | 2億130万円 | 4026万円 |
| 法律雑誌等検索システム | 株式会社エル・アイ・シー | 1億4712万5000円 | 2942万5000円 |
| Web版図書情報システム | 株式会社OPAC | 706万2000円 | (下記参照) |
法令・判例等検索システムと法律雑誌等検索システムの契約書は,年度ごとの内訳として毎年度同額を定めており,その年額が令和3年度から令和6年度までの概算要求上の年額と円単位で一致する。
仮に契約上の上限の端末数で利用したとすれば,端末1台当たりの年額は,法令・判例等検索システムが約1548円,法律雑誌等検索システムが約1635円となる。
2 Web版図書情報システムの初期費用
Web版図書情報システムの契約金額706万2000円は,契約書別表の支払内訳書によれば,初期費用178万2000円と,5年分の月額費用528万円との合計である。
月額費用の年額は105万6000円であり,令和3年度から令和6年度までの概算要求上の年額と一致する。
令和2年度の要望額283万8000円は,初期費用178万2000円と1年分の105万6000円との合計に当たる。
3 国庫債務負担行為
令和3年度から令和6年度までの説明資料は,三つのシステムについて,いずれも「複数年度にわたる契約を締結する必要があるため,併せて5箇年の国庫債務負担行為によることを要求しており」,当該年度が何年目であるかを記載している。
令和4年度の説明資料160頁及び161頁では,令和4年度が3年目とされている。
第5 令和7年度以降の変化
1 要求の記載の変化
令和7年度の説明資料150頁以下では,三つのシステムについて5箇年の国庫債務負担行為の記載がなくなり,法令・判例等検索システムと法律雑誌等検索システムの要求額が大きく増えている。
令和8年度の説明資料148頁でも,法令・判例等検索システム及び法律雑誌等検索システムの要求要旨には国庫債務負担行為の記載がない。
他方,令和8年度の説明資料149頁は,Web版図書情報システムについて「併せて3箇年の国庫債務負担行為によることを要求しており、令和8年度はその1年目である」としている。
同システムの令和8年度の要求額は172万2600円であり,令和7年度の99万円から増えている。
2 確認できていないこと
令和7年度以降の三つのシステムの受注者,契約期間,端末数及び契約金額は,本記事では確認できていない。
裁判所における主なシステムによれば,令和8年度の調達予定には法令・判例等検索システムと法律雑誌等検索システムが別案件として掲げられている。
そのため,令和2年度から令和6年度までの受注者を,現在の提供事業者であるかのように扱うことはできない。
第6 資料の読み方
1 歳出概算要求書との対応
裁判所ウェブサイトに掲載されている令和4年度一般会計歳出概算要求書の33頁の備考欄には,(総務局経費)の雑役務費として,三つのシステムが千円単位で記載されている。
説明資料の各項目の右欄にある「明細書頁」の「33」はこの頁を指しており,説明資料はそれを円単位の単価と要求の理由に分けて説明している。
2 読むときの注意
概算要求書(説明資料)の単価は,最高裁判所が要求した金額であり,実際の契約金額や支出額とは限らない。
令和2年度の要望額(法令・判例等検索システム4200万1080円)と同年度からの契約の年額(4026万円)とは一致していない。
また,経費積算内訳の括弧内の金額は前年度予算額であり,当該年度の要求額ではない。
第7 関連記事
最高裁判所の概算要求書(説明資料)の入手先,構成及びバックナンバーは,最高裁判所の概算要求書(説明資料)で扱っている。
裁判所の業務システムの全体像は,裁判所における主なシステム―J・NET,RoootS,TreeeS,mints,NAVIUS及びKEITAS(AIリライト)を参照されたい。
民事裁判のシステムは,最高裁判所が開発しているmints,RoootS及びTreeeS(AIリライト)で扱っている。
判例データベースの利用規約と生成AIとの関係は,判例データベースを法律事務所の生成AI・RAGに使えるか―判決本文・判例要旨・利用規約の分け方(AI作成)で扱っている。
同じ説明資料の単価表の例として,司法研修所の概算要求書単価表がある。
第8 出典
1 最高裁判所の概算要求書(説明資料)
令和2年度(説明資料Ⅰ)1-128頁,1-129頁及び1-138頁
令和3年度 138頁,139頁及び146頁
令和4年度 160頁,161頁及び167頁
令和5年度 152頁,153頁及び157頁
令和6年度 163頁,164頁及び172頁
令和7年度 150頁及び155頁
令和8年度 148頁,149頁,153頁及び154頁
いずれも最高裁判所の概算要求書(説明資料)に掲載したものであり,頁は各頁の下部に印刷された頁番号による。
2 契約書
法令・判例等検索システムの利用に関する契約書(令和2年4月1日付け,受注者第一法規株式会社)
法律雑誌等検索システムの利用に関する契約書(令和2年4月1日付け,受注者株式会社エル・アイ・シー)
WEB版図書情報システムの利用に関する契約書(令和2年4月1日付け,受注者株式会社OPAC)