第1 この記事の対象と結論
1 対象と基準日
本記事は,後見・保佐・補助を受けることになる本人自身が申立人となって後見等開始の審判を申し立てる場合(以下「本人申立て」という。)について,申立人である本人の手続行為能力,家庭裁判所による申立意思の確認,大阪家庭裁判所後見センターが提出を求めることがある「説明状況報告書」の書き方,申立て前に整えるべき診断書・本人情報シート等の資料,本人の能力に疑問がある場合の対応及び令和8年改正後の扱いを整理するものである。
基準日は令和8年9月19日であり,法令は同日時点の現行条文をe-Gov法令検索で確認した。
令和8年法律第45号(民法等の一部を改正する法律)による改正後の条文は,法務省が公表している同法律の法律案本文及び新旧対照条文で確認した。
素材として,大阪家庭裁判所後見センター編『大阪家庭裁判所後見センターだより』(大阪弁護士協同組合,2025年。以下「本書」という。)を用いた。
本書は,月刊大阪弁護士会に平成29年5月号から連載された「大阪家裁後見センターだより」の第1回から第41回までを内容ごとに並べ替えて書籍化したものである。
本書1頁は,書籍化に当たり現在では取扱いが変わっているもの等について若干の修正・加筆をしたが,おおむね連載内容のままであり,原則として初出当時の運用等を記載したものであることに注意を求めている。
そのため,本記事では本書の記述ごとに連載回と初出の号を示し,大阪家庭裁判所の現在の運用は,同庁の成年後見のページ,申立てのチェック表(令和8年2月1日版)及び同庁が掲載する書式で確認できた範囲で書き,確認できなかった点は本書の記載として区別する。
2 結論
①本人は後見・保佐・補助のいずれについても開始の審判の申立権者であり(民法7条,11条,15条1項),令和7年の全国の統計では申立人の約24.8%を本人が占め,最も多い。
②もっとも,後見開始の審判事件で本人が自ら手続行為をすることができるのは,本人が意思能力を有する限りにおいてであり,意思能力を欠く本人は自ら申し立てることも,弁護士に手続を委任することもできない(本書29頁)。
③大阪家庭裁判所後見センターは,本人申立てが適法であるためには,事理弁識能力を欠く常況にある本人の能力が一時的に回復し,少なくとも申立ての時点で意思能力があったと認められる必要があると考えており,普段の能力の程度と,専門職による説明の内容及びそれに対する本人の反応に着目して一件記録を調査している(本書30頁~32頁)。
④家庭裁判所は,手続行為能力とは別に,本人が申立ての内容と法律効果を理解した上で実際に申し立てる意思(申立意思)を有しているかも確認している(本書44頁~45頁)。
⑤そのための資料として,大阪家庭裁判所後見センターは,本人に何をどう説明し,本人がどう反応したかを具体的に記載した「説明状況報告書」の提出を求めることがあり,令和6年4月以降は親族申立てや保佐・補助の申立ても含めて,やや広い範囲で提出を求める方針を示している(本書53頁~57頁)。
⑥説明状況報告書には,後見人等の選任,権限,行為能力の制限,報酬及び継続性の5点について,説明内容と本人の応答をできるだけ問答形式で記載する(本書51頁~52頁)。
⑦説明が福祉的な利点に偏り本人に不利益な効果を説明した形跡がないもの,本人の反応がうなずきや「はい」にとどまるものは,意思能力や申立意思の認定が困難になりやすい(本書32頁~33頁,47頁)。
⑧本人の意思能力に疑義が残る場合には,親族申立てや市町村長申立てを検討すべきであるというのが大阪家庭裁判所後見センターの考え方である(本書34頁~35頁)。
⑨令和8年改正後も,本人は補助開始の審判の請求権者であり続けるが,後見・保佐は補助に一元化され,説明すべき法律効果の中身や,家庭裁判所が必要がなくなった審判を取り消すことができる点が変わる。
第2 本人申立ての位置付け
1 本人は申立権者である
民法7条は,「精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者については、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族、未成年後見人、未成年後見監督人、保佐人、保佐監督人、補助人、補助監督人又は検察官の請求により、後見開始の審判をすることができる。」と定める。
保佐開始(民法11条)と補助開始(民法15条1項)についても,請求権者の最初に「本人」が挙げられている。
申立先は本人の住所地を管轄する家庭裁判所であり(家事事件手続法117条1項),大阪家庭裁判所の成年後見のページは,申立先について「住民票のある住所ではありません」として,本人が現在住んでいる自宅,病院,介護施設などを基準としている。
2 本人申立ての件数
最高裁判所事務総局家庭局「成年後見関係事件の概況-令和7年1月~12月-」4頁によれば,後見開始,保佐開始,補助開始及び任意後見監督人選任事件の終局事件の申立人の関係別の総数42,829件のうち,本人は10,620件で約24.8%を占め,最も多い。
次いで市区町村長が10,139件(約23.7%),本人の子が約18.5%の順である。
なお,同概況の本人の件数には,比較的判断能力が保たれている保佐・補助の申立てや任意後見監督人選任の申立ても含まれるから,本人による後見開始の申立てがこれだけあるという意味ではない。
3 本人申立てが問題になる場面
身寄りのない人や親族が協力しない人については,親族申立てが期待できず,市町村長申立てには行政上の手続に時間を要することがあるため,本人申立てが選ばれることが多い。
本書34頁も,親族の協力に難がある事案が少なくないことや,市町村長申立てに至るための行政上の手続に時間を要することは後見センターも承知していると述べている。
独身の高齢者について申立人がいないという問題は,独身の高齢者に任意後見契約が必要な理由で扱っている。
第3 申立人である本人の手続行為能力
1 家事事件手続法118条の意味
家事事件の手続における手続行為能力については,民事訴訟法の規定が準用される(家事事件手続法17条1項,民事訴訟法28条)。
民事訴訟法31条は成年被後見人は法定代理人によらなければ訴訟行為をすることができないと定めるが,家事事件手続法118条は,後見開始の審判事件等においては,成年被後見人となるべき者及び成年被後見人は,民事訴訟法31条の規定にかかわらず,法定代理人によらずに自ら手続行為をすることができると定める。
保佐開始の審判事件については家事事件手続法129条が,補助開始の審判事件については同法137条が,118条を準用している。
本書29頁(連載第23回・令和3年2月号初出「本人の手続行為能力について」)は,118条の趣旨を,後見開始の審判事件は本人の利益の観点から処理されるものであるから,本人が意思能力を有する限り,自ら審理に関与し有効に手続行為をすることができるとするのが相当であると考えられたためであると説明し,金子修編『逐条解説家事事件手続法』(商事法務,平成25年)377頁を引用している。
そのため,本人が意思能力を欠いている場合には,自ら手続行為をすることはできない(本書29頁)。
また,本書29頁注3は,手続委任自体も単独の手続行為である以上,意思能力を欠いた本人が弁護士に手続を委任できないことは当然であり,そのような手続委任は無効であるとしている。
法律行為について民法3条の2が意思能力を有しない者の法律行為を無効とするのと同じ発想であり,弁護士が委任状を受け取っていても,その時点で本人に意思能力がなければ申立て自体が不適法となるおそれがある。
2 「一時的な回復」が必要であるという考え方
本書29頁~30頁は,民法7条が本人に後見開始の申立権を認めているのは,本人が事理弁識能力を欠く常況から一時的に回復したときに自ら申し立てることを想定しているにすぎず,申立人である本人がその心身の状態にかかわらず常に後見開始を申し立てることができるわけではないとする。
その根拠として,本書29頁注4は,松原正明ほか編『実務成年後見法』(勁草書房,令和2年)58頁と,旧禁治産制度の下でも本人の申立ては「本心の回復中」にのみ行うことができると考えられていたこと(我妻栄『新訂民法総則』(岩波書店,昭和40年)77頁)を挙げている。
そして,本人申立ては,本人自身が事理弁識能力を欠く常況にあることを理由とするもので,それを証明する診断書等も併せて提出されるから,本人申立てが適法といえるためには,本人の能力が一時的に回復し,少なくとも申立ての時点で意思能力が存在していたと認めることができる必要があるとしている(本書30頁)。
つまり,後見相当の診断書を添えた本人申立てでは,「普段は判断能力を欠く常況にある」ことと「申立ての時点では申立ての意味を理解できた」こととを,矛盾なく説明できるように記録を整える必要がある。
3 意思能力の判断枠組み
本書30頁は,手続行為に関する意思能力の有無は,具体的な手続行為ごとに,その手続行為の内容,結果の重大性のほか,本人の精神能力の状況,手続行為がされた状況からみて,その手続行為の意義を理解し得たかどうかによって判断されるとし,秋山幹男ほか『コンメンタール民事訴訟法Ⅰ〔第2版追補版〕』(日本評論社,平成26年)295頁を引用している。
同頁注5は,最高裁昭和29年6月11日第二小法廷判決(昭和27年(オ)第9号,民集8巻6号1055頁)が,同一人物による控訴の提起と控訴の取下げのそれぞれについて個別に訴訟能力を検討していることを紹介している。
裁判所ウェブサイトに掲載された裁判要旨によれば,同判決は,控訴の取下げにより自己の生活の根拠が脅かされる結果を理解できない者のした控訴の取下げは無効であるが,控訴の提起は有効と解すべきであるとしたもので,同じ人でも行為の内容と結果の重大さによって判断が分かれ得ることを示している。
4 本人が理解し得ることが求められる内容
後見開始の申立ては,後見開始の審判がされることを目的とするものであるから,本人が理解し得ることが求められる「申立ての意義」には,後見開始の審判によって生じる主要な法律効果が含まれる(本書30頁)。
大阪家庭裁判所後見センターは,少なくとも次の①~③がこれに当たり,事案によっては④も求められるとしている(本書30頁~31頁)。
①家庭裁判所が選任した成年後見人が付されること(民法8条,843条1項)
②成年後見人が包括的代理権を有すること(民法859条1項)
③日用品の購入その他日常生活に関する行為を除き,単独で有効な法律行為をすることができなくなること(民法9条)
④成年後見人に対して家庭裁判所が定めた報酬を支払う必要があること(民法862条)
民法862条は「家庭裁判所は、後見人及び被後見人の資力その他の事情によって、被後見人の財産の中から、相当な報酬を後見人に与えることができる。」と定めており,専門職が後見人に選任される場合には,本人の財産から報酬が支払われることになる。
報酬の目安は,成年後見人等の報酬額の目安で扱っている。
第4 大阪家庭裁判所後見センターの調査の着眼点
1 普段の能力の程度
大阪家庭裁判所後見センターは,本人申立てについて,申立ての時点で本人が事理弁識能力を欠く常況から申立ての意義を理解し得る程度に一時的に回復していたと認定できるかという観点から一件記録を調査している(本書31頁)。
その着眼点の第一は,本人が普段どの程度の見当識,意思疎通の能力,理解力・判断力及び記憶力を有しているかである(本書31頁)。
事理弁識能力を欠く常況といっても,保佐類型に近い事例から植物状態の事例まで様々であり,後見類型の中でも比較的高い能力を有している場合には一時的な回復は比較的容易に想定されるが,障害の程度が極めて大きい場合には申立ての意義を理解し得る程度まで回復することは困難であるとされている(本書31頁)。
2 専門職の説明内容と本人の反応
第二の着眼点は,専門職が本人申立てに先立って本人にした説明の内容と,それに対して本人が示した反応である(本書31頁~32頁)。
本書32頁は,これらは本人が申立ての意義を理解し得たかを直接にうかがい知る手掛りであり,本人の意思能力の認定に当たって極めて重要な意味を持つとする。
逆に,説明が十分でない場合や,必要な説明がされていても本人の反応が理解を示すのに足りない場合には,一時的な回復を認めることが困難になる(本書32頁)。
3 意思能力の認定が困難となる例
本書32頁~33頁は,手続行為能力に疑義が生じる事案が散見されるとして,しばしば見られる事例を次のように紹介している。
(1) 本人の能力が極めて低い事例
長谷川式認知症スケール(HDS-R)やMMSEの検査が実施できない程度に能力が低下している場合や,実施できてもその点数が極めて低い場合である(本書32頁)。
(2) 法律効果の説明が不足している事例
一つは,説明が後見制度の福祉的意義に偏り,成年後見人が本人に代わって財産管理を行ったり,医療機関や福祉施設との間で必要な法律行為を行ったりすることの説明に終始していて,後見の開始によって行為能力を喪失することを説明した形跡がうかがえない場合である(本書32頁)。
本書32頁~33頁は,近時は身上保護が重視され後見制度の福祉的意義が前面に押し出される傾向があるが,後見開始の審判には行為能力を喪失するという権利の制約の一面があることは否定できず,後見センターとしてはこの一面も理解した上で制度を利用してほしいと考えていると述べている。
もう一つは,福祉的意義の説明としても漠然としすぎている場合であり,例えば申立関係書類に表れる本人への説明が「後のことは,○○先生にお任せすることにしていいですね。」といった,成年後見人の役割を何ら具体的に説明していないものである(本書33頁)。
(3) 本人の反応に問題がある事例
一つは,説明に対する本人の反応が,うなずく動作をしたり「はい」と述べたりしたにとどまる場合であり,本書33頁は,特に認知症の高齢者のこのような言動は必ずしも理解の表れとは評価できず,単に呼びかけに反応したにとどまることも多いと指摘する。
もう一つは,申立関係書類の中で本人の理解に関する記載が矛盾していたり,「説明したが理解できていない」旨の記載があったりする場合である(本書33頁)。
4 制度利用の必要性が高いほどかかるバイアス
本書33頁~34頁は,上記の事例に一つでも当てはまれば当然に意思能力が否定されるわけではなく,諸般の要素の総合考慮で決まるとしつつ,制度利用の必要性が高く感じられる事案ほど,利用者や支援する専門職の側に一刻も早く開始の審判を得ようとするバイアスがかかりがちであり,本人申立ての事案ではこのバイアスが感じられる事案が比較的多いと指摘している。
例えば,本人の預金が第三者に引き出されている疑いがあり急ぐ場合でも,本人申立てである以上,能力と説明の記録は省略できず,急ぐための手当ては審判前の保全処分である(後見等開始の審判前の保全処分参照)。
第5 申立意思の確認
1 手続行為能力とは別に申立意思を確認する理由
本書44頁~45頁(連載第25回・令和3年6月号初出「説明等報告書面について」)によれば,大阪家庭裁判所後見センターは,本人の手続行為能力とは別に,本人の申立意思,すなわち申立ての内容や申立てが認容された際に生じる法律効果を理解した上で実際に申立てをしようとする意思の有無も調査している。
本書44頁注4は,手続行為能力とは別に申立意思を確認する意味は,本人の意思とは関係なく本人の名義を用いて行われた申立てを排除することにあり,特に申立権を有しない者が本人の名義を用いて行った申立ては,申立権者を限定した法の趣旨に反すると説明している。
例えば,四親等内の親族に当たらない知人が,本人名義の申立書と委任状を用意して本人に署名だけさせたような場合を排除する趣旨である。
同注は,これは本人申立ての場合に本人の陳述聴取を省略できることとは別個の問題であるとしている。
家事事件手続法120条1項は,後見開始の審判をする場合には成年被後見人となるべき者の陳述を聴かなければならないと定めつつ,括弧書きで「申立人を除く」としており,保佐(同法130条1項1号)と補助(同法139条1項1号)も同様である。
本人が申立人であれば陳述聴取の規定は適用されないが,申立意思の確認まで不要になるわけではない。
2 受理面接・調査官調査と説明状況報告書
本書45頁は,手続行為能力と申立意思の調査には受理面接や家庭裁判所調査官による調査が有効な手段であるとしつつ,弁護士が本人の手続代理人である場合には,弁護士が本人に申立ての内容や法律効果を本人の能力に応じて分かりやすく説明し,理解を得て申立意思を確認し,やり取りを通じて手続行為能力の有無を見極めてから委任状への署名押印を求めているものと承知しているとする。
そこで,手続代理人からその説明内容と本人の反応を具体的に報告してもらうことで,有力な資料が得られると考え,説明状況報告書の提出を求めることがある(本書45頁)。
適切な内容の説明状況報告書が提出されることで,受理面接や調査官調査を経ることなく開始の審判をすることができると見込まれる事案も一定数存在し,迅速な審理にもつながるとされている(本書45頁)。
なお,本書16頁注2(連載第5回・平成30年2月号初出)は,受理面接を省略する書面審理の運用を紹介した際に,本人申立ての場合は申立意思の確認等のために受理面接を実施するが,申立てに関与している専門職に本人の陳述書や説明状況報告書を提出してもらって実質的には書面審理とすることもあると述べていた。
その後,受理面接を原則とする運用自体が改められたことは,後記第9の1のとおりである。
第6 説明状況報告書
1 名称と沿革
説明状況報告書を扱う本書の記事は,次の3本である。
①連載第25回(令和3年6月号初出)「説明等報告書面について」(本書44頁~50頁)
②連載第28回(令和3年12月号初出)の小窓「説明等報告書面の記載内容」(本書51頁~52頁)
③連載第40回(令和6年4月号初出)「説明状況報告書について」(本書53頁~58頁)
連載第25回は,新型コロナウイルス感染症の拡大を契機に提出を求めることが増えたこの書面を「説明等報告書面」と呼んでいたが(本書44頁),書籍化の際の注で現在は「説明状況報告書」と呼ぶとされ(本書44頁注3,51頁),両者に違いはない(本書53頁注1)。
2 提出を求められる場面の拡大
連載第40回は,第二期成年後見制度利用促進基本計画が本人の意思決定支援を重視していることを踏まえ,従前よりもやや広い範囲で説明状況報告書の提出を求めることとしたと述べている(本書53頁)。
同回は,申立てを準備する場面も意思決定支援を実践すべき場面であり,申立手続を代理する弁護士は,本人を支える「チーム」の一員として,本人に必要な情報を提供し,本人の意思や考えを引き出しながら手続に関与していくことになるとし,申立代理人自らが候補者となる場合はなおさらであるとしている(本書54頁)。
その上で,説明状況報告書の活用について,次のように整理している(本書55頁~57頁)。
①本人申立てで手続代理人が関与した場合には,説明状況報告書の活用が考えられる。
②親族申立てであっても,開始の審判には本人の陳述聴取(後見開始の場合は心身の障害により陳述を聴くことができない場合を除く。家事事件手続法120条1項ただし書)や本人の同意が必要であり,開始後は意思決定支援を踏まえた事務を行うことに変わりはないから,説明状況報告書を有効に活用できる事案がある。
③本人との間で有意なやり取りができない場合や,十分な知識を持った専門職が申立手続に関与していない場合,本人への説明の場にいなかった場合には,説明状況報告書は作成できないか,適切なものが作成できるとは限らないので,家庭裁判所調査官による調査などを活用することが考えられる。
④ただし,言葉によるやり取りができないというだけで陳述聴取が不能であるとはいえず,首を振る,うなずくなどの非言語的反応により有意なやり取りができる場合もあり,その場合は説明や質問の際の具体的状況と本人の反応の様子を記載することが考えられる(本書55頁注12)。
⑤したがって,本人申立てか親族申立てか,後見か保佐・補助かにかかわらず,専門職が申立手続に関与しており,かつ,本人と有意なやり取りができるときには,説明状況報告書の提出を求めることがある。
⑥もっとも,例えば親族間に対立がある場合に,一方の親族が,本人の生活を支援してきた支援者との関係が希薄なまま本人の同意が得られたとして申し立てるときには,チームとしての意思決定支援が行われたとはいえないなど,事案によって意味合いが異なるので,⑤に当たることだけで一律に作成を求めることまでは予定していない。
なお,説明状況報告書の提出を求める範囲を広げたことは,令和8年9月19日時点の大阪家庭裁判所の成年後見のページ及び申立てのチェック表には記載がなく,本書の記載によってしか確認できない。
3 記載すべき5点
連載第28回は,説明状況報告書には,主に次の5点についての本人への説明内容と,それに対する本人の反応を記載するよう求めている(本書51頁~52頁)。
| 項目 | 後見の場合 | 保佐・補助の場合 |
|---|---|---|
| ①後見人等の選任 | 家庭裁判所が選任した成年後見人が付されること | 家庭裁判所が選任した保佐人・補助人が付されること |
| ②後見人等の権限 | 成年後見人が包括的代理権を有すること | 付与を求める代理権及び同意権の内容 |
| ③行為能力の制限 | 日用品の購入その他日常生活に関する行為を除き単独で有効な法律行為ができなくなること | 法定された重要な法律行為又は審判により同意権の対象となった法律行為は単独で有効にできなくなること |
| ④報酬の支払 | 本人の財産から家庭裁判所が定めた額の報酬を支払う必要が生じ得ること | 同左 |
| ⑤後見等の継続性 | 判断能力が回復して開始の審判が取り消されない限り本人が死亡するまで効果が続くこと | 同左 |
連載第40回は,後見の場合の主要な法律効果の①について,家庭裁判所が成年後見人を選任するため,希望する候補者がいても必ずしも候補者が選ばれるとは限らないことと言い換えている(本書57頁注15)。
連載第25回も,専門的な課題のある事案や本人の財産が多額又は複雑な事案では,本人が希望する親族が後見人に選任されず,又は後見監督人が選任され得ることなど,事案の特徴に応じて更なる説明が必要となることがあるとしている(本書46頁~47頁注10)。
後見の継続性については,後見ポータルサイトの申立時の留意事項も,申立てのきっかけとなったことが解決した後も,本人の能力が回復されるか本人が亡くなるまで手続は続き,家族の意思や本人の希望でやめることはできないと明記している。
本書47頁は,提出される書面には,成年後見人が本人に代わって必要な法律行為を行うことについては一応の説明がされていても,後見等の効果が継続すること,本人の行為能力が制限されること,専門職後見人に報酬を支払う必要が生じ得ることなど,本人に不利益な法律効果を説明した形跡が見られないものが多くあると指摘している。
同頁注11は,報酬や継続性に関する本人の理解不足から,後見開始後にトラブルが生じる事案がまま見られるとする。
本人に不利益な効果こそ丁寧に説明し,その説明と本人の応答を記録に残すことが求められている。
4 代理権・同意権の説明
保佐・補助の開始と同時に代理権付与や同意権付与を申し立てる場合,代理権や同意権の一般的な意義を説明するだけでは足りず,付与を求める個別の代理権・同意権の内容を一つ一つ説明して理解を得ることが必要であり,特に同意権付与は本人の行為能力を制限するものであるから,なおさら丁寧な説明が求められる(本書47頁)。
本書49頁~50頁は,本人には必要な申立てをしておく旨だけを伝えて一応の了解を得たにとどまる事案が散見されるとし,本書48頁注13は,必要性が記録上明らかでない代理権・同意権の申立てほど説明が不足する傾向があると指摘している。
連載第40回も,代理権・同意権については個別の内容をその必要性とともに説明し,本人が了承したことを記載するよう求め,概括的な説明や一部の権限だけの説明では足りないとしている(本書57頁)。
5 説明の方法の工夫
本書48頁は,理解力や判断力が低下している本人に説明するには,法的概念を平易な言葉で説明する以上の工夫が求められるとして,次の例を挙げている。
①本人が安心して説明を受けられる場面(面接場所や同席者)を設定する。
②本人が理解しやすいコミュニケーション方法を福祉関係者等の支援者から確認し,それを活用して説明する。
③本人にとって身近な具体例を挙げたり,本人向けの説明シートやイラスト等を活用したりする。
④本人の体調や気分に波がある場合には,調子のよい時に説明する。
本書48頁は,工夫を尽くしたことが分かる記載をするよう求め,同頁注14は,いつ,どこで,誰が立ち会って,誰が本人に説明したかを記載することは最低限必要であるとする。
本人向けの説明シートとしては,本書46頁~47頁注9が,後見サイトの「申立ての手引」22頁~26頁の「別紙 説明シート」を本人申立ての際にも積極的に活用してほしいとしていた。
現在,大阪家庭裁判所の成年後見のページには,本人以外の人が後見開始を申し立てる場合に提出する「本人の陳述書」と並んで,説明シート「後見開始について」が掲載されている。
このシートは,振り仮名とイラスト付きで,後見人の役割と仕事,後見監督人,後見人等を裁判所が選ぶこと,本人のお金から報酬を支払うことがあること,いったん後見人が付くと自分で財産を管理できるようになるまで後見人が付くことを説明している。
他方,令和8年9月19日に同シートを確認した限りでは,本人が単独で有効な法律行為をすることができなくなるという行為能力の制限については記載がない。
本人申立てで説明状況報告書を作成するときは,このシートを使う場合でも,行為能力の制限を別に説明し,その説明と本人の応答を記載する必要があると考えられる。
6 本人の反応の確かめ方と記載
本書49頁は,本人が申立ての内容を理解したか,申立てを行う意思があるかを確認する工夫として,次の例を挙げている。
①手続代理人の説明内容を,本人の言葉で説明してもらい,理解の程度を確かめる。
②一度の説明や意思確認で終わらず,しばらく経ってから(又は後日)同じ質問をして,同じ答えが繰り返し出てくるかを確かめる。
③前の質問と逆の質問(「後見人をつけない方がいいですか」など)をしたときに,一貫性のある答えが返ってくるかを確かめる。
④本人が「YES」の応答ばかりする場合は,答えが明らかに「NO」である質問を挟み,本人が否定できるかを確認する。
⑤「YES」や「NO」では答えられない質問を挟み,その際の応答を確認する。
説明状況報告書には,これらを実践した際の本人の反応のほか,本人が申立ての内容を理解していることを示す具体的なエピソードを記載すると,家庭裁判所が的確に心証を形成できるとされている(本書49頁)。
言語的な表現が難しい場合には,本人の表情や身振りなどの非言語的な反応を記載するとともに,本人がそのような反応を示す日常的な場面から,その反応にどのような意味があるといえるかを評価することが重要である(本書49頁注17)。
同席者等の助言を受けて本人が意思を表明した場合には,その場面を明らかにすることが重要になることもある(本書49頁)。
7 様式はなく,問答形式で書く
大阪家庭裁判所後見センターは,説明状況報告書には事案に応じた個別具体的な内容を記載してほしいことから定型の様式は用意しておらず(本書52頁),連載第40回の時点でも,説明内容や応答の詳細さは類型や本人の能力・状態によって異なるため標準的な書式を示すことは予定しておらず,個別の事件で記載方法に不明な点があれば担当書記官に問い合わせるよう求めている(本書58頁)。
記載の方法としては,本人への説明内容とそれに対する本人の応答が明確になるよう,できるだけ問答形式で記載することが求められ(本書52頁),手続代理人と本人との間の重要なやり取りを部分的にでも逐語調で記載すると,説明の内容と本人の反応が具体的に明らかになるとされている(本書48頁注16)。
「本人に対し,成年後見制度について説明し,その了解を得ました。」のような抽象的な記載では資料として不足し(本書45頁),内容が抽象的な場合には補充を求められ,説明等が不十分な場合には本人調査が行われるなど速やかな開始の審判が得られない可能性がある(本書52頁)。
例えば,面談の日時・場所・同席者を冒頭に記載した上で,「弁護士:〇〇さんが一人で契約をしても,後から取り消されることになります。」「本人:自分で買い物ができなくなるのは困る。」「弁護士:日用品の買い物は今までどおりできます。」「本人:それならいい。銀行のことは任せたい。」のように,本人の懸念とそれへの説明を含めて再現すると,理解の程度が伝わりやすい。
8 後見開始以外の事件での活用
連載第40回は,居住用不動産の処分許可申立事件や郵便物等の配達の嘱託申立事件など,本人の意向を確認する事件類型でも,説明状況報告書の果たす役割は大きいとしている(本書58頁)。
居住用不動産の処分許可は成年後見人が本人の自宅を売却・賃貸・解約するときの居住用不動産処分許可で,郵便物の回送嘱託の申立てで大阪家庭裁判所が求める陳述聴取状況報告書は成年後見人への郵便物の回送嘱託と開披で扱っている。
第7 申立て前に整えるべき資料
1 申立関係書類の精査と補充書面
本書34頁は,弁護士が本人の手続代理人として後見開始を申し立てる際には,申立書の提出に当たって申立関係書類を再度精査し,本人の手続行為能力に疑義がないかを検討してほしいとしている。
申立関係書類には,医師,親族,福祉関係者等が作成するものもあり,これらの人は本人の心身の状況を同じ時点で観察しているわけでも,法律的な観点から情報を取捨選択して書面に記載しているわけでもないため,書類を一体として見ると,本人の意思能力を認定する要素となる事実について記載が矛盾していたり,事実が不足していたりすることが往々にしてある(本書34頁)。
例えば,意思能力の存在を否定する方向の事実が記載されているのに,それを覆すに足りる事実の記載がない場合である(本書34頁)。
そのため,必要に応じて,記載の矛盾を解消し,不足した事実を補うための書面(形式は問わない。)を作成するよう求められている(本書34頁)。
2 診断書
大阪家庭裁判所の申立てのチェック表(令和8年2月1日版)は,診断書(成年後見制度用)は発行から3か月以内のものを用意するよう求めている。
本書22頁~27頁(連載第16回・令和元年12月号初出「診断書について」)及び38頁~40頁(連載第34回・令和5年2月号初出「保佐・補助の開始申立て」)は,診断書について次の点を確認するよう求めている。
①平成31年4月から運用が始まった新しい書式の診断書を使う(本書24頁)。
②診断名として,本人の判断能力に影響する精神上の障害を記載してもらう(本書39頁)。
③診断書の作成日や神経心理学的検査の実施日が申立時点から相当以前の場合は,新たな診断書を取り付ける(本書39頁)。
④HDS-RやMMSEなどの神経心理学的検査を実施し,その結果(実施できない場合はその旨)を記載してもらう(本書25頁,39頁)。
⑤検査の結果や判定の根拠と判断能力についての意見に隔たりがあるときは,その理由を記載してもらう(本書26頁,39頁~40頁)。
⑥診断書の記載と本人情報シート等の他の資料の記載に隔たりがあるときは,本人情報シートの原本を医師に提供して,判定の根拠となる事実関係に誤りがないかを確認してもらう(本書26頁,40頁)。
本人申立てでは,例えば,診断書に意思疎通が困難とある一方で説明状況報告書には本人が詳細に理解を示したとある場合,その違いが状態の波によるのか説明の工夫によるのかを面談の日時や状況とともに説明しておかなければ,一時的な回復を認めてもらうことは難しいと考えられる。
3 本人情報シート
本人情報シートは,福祉関係者が本人の生活状況等を記載して医師に伝えるためのツールとして,平成31年4月から導入されたものであり,大阪家庭裁判所後見センターはその原本を医師に提供し,写しを申立ての際に提出するよう求めている(本書22頁~24頁)。
申立てのチェック表(令和8年2月1日版)も「本人情報シート(コピー)」を提出書類に挙げている。
本書25頁は,本人情報シートは本人の身近で職務上の立場から支援している人(介護支援専門員,相談支援専門員,病院・施設の相談員,地域包括支援センターや権利擁護支援センターの職員等)が作成することが望ましく,本人やその親族が作成することは想定していないとする。
後見ポータルサイトに掲載された「本人情報シートの位置付け」(本人情報シート作成の手引27頁)も同じ趣旨を述べた上で,本人情報シートの提出が難しい場合には添付することなく後見等開始の申立てを行うことは可能であるが,多くの事案で医師が診断する際の補助資料として提供されることが望ましいとしている。
4 診断書と申立ての類型が一致しない場合
本書36頁~37頁(連載第34回)によれば,大阪家庭裁判所後見センターは,後見・保佐・補助の3類型はそれぞれ別の申立てであると考えており,本人の精神状況が申立ての類型より重度又は軽度と認められても他の類型の審判をすることはなく,申立人にその旨を伝えて申立ての趣旨の変更(家事事件手続法50条1項)を促し,申立人が応じない場合には申立てを却下することになる。
保佐開始の申立てについて本人が後見相当であると認められる場合に,少なくとも保佐相当であるとして保佐開始の審判をすることは,民法11条ただし書(補助については15条1項ただし書)により禁じられているからである(本書36頁)。
診断書の意見と申立ての類型が異なる場合,ほとんどの事案で申立ての趣旨の変更か診断書の追完を検討してもらい,必要に応じて鑑定を行うことになるので,申立て前に類型を再検討するか,診断書の再取得を検討するよう求められている(本書26頁~27頁)。
大阪家庭裁判所の成年後見のページには,「趣旨変更(後見→保佐)」から「趣旨変更(補助→保佐)」までの6種類の書式が掲載されている。
本人申立てで趣旨を変更する場合,例えば後見から保佐に変更するなら,改めて本人に保佐の効果を説明して申立意思を確認し直すことが必要になると考えられる。
5 保佐・補助の申立てで気を付けること
保佐・補助の開始と同時に代理権付与を申し立てる場合,付与を求める代理権の範囲を具体的に特定して必要性・相当性を明らかにし,代理行為目録も一つ一つ本人の意向を確認しながら厳選してチェックするよう求められている(本書40頁~41頁)。
本人以外の者が請求する場合に必要な本人の同意(民法15条2項,17条2項,876条の4第2項,876条の9第2項)について,本書42頁~43頁は,本人の意思に基づき補助開始の審判の意味を理解している必要があるとしている。
本人申立てであれば同意の規定は働かないが,付与を求める権限の一つ一つを本人が理解していることが,申立意思の確認の中身になる。
選任後の保佐人・補助人の権限は,保佐人・補助人の権限と実務で扱っている。
第8 本人の意思能力に疑義が残る場合
1 親族申立て・市町村長申立てへの切替え
本書34頁~35頁は,本人の意思能力に疑義が残る場合には,本人以外に後見開始の申立権を有する者による申立てを検討してほしいとしている。
親族の協力に難がある事案が少なくないことや,市町村長申立てに至るための行政上の手続に時間を要することは承知しているが,後見開始の審判には本人の権利を制約する側面があることは否定できず,だからこそ家庭裁判所において適正な手続を履践することが求められているのであり,その要請を軽視することは相当でないというのがその理由である(本書34頁~35頁)。
市町村長は,65歳以上の者(老人福祉法32条),知的障害者(知的障害者福祉法28条)及び精神障害者(精神保健及び精神障害者福祉に関する法律51条の11の2)について,その福祉を図るため特に必要があると認めるときは,後見・保佐・補助開始等の審判の請求をすることができる。
市町村長申立ての実情や虐待事案での保全処分との組合せは後見等開始の審判前の保全処分で,申立費用・報酬の自治体助成は成年後見制度利用支援事業とはで扱っている。
2 親族申立ての場合の本人への説明
親族申立てに切り替えた場合でも,本人への説明が不要になるわけではない。
大阪家庭裁判所の申立てのチェック表は,本人以外の人が後見開始を申し立てる場合に「陳述書」の提出を求めている。
同庁が掲載する「本人の陳述書」の書式は,後見人が選ばれること,候補者が後見人に選ばれること及び必要に応じて後見監督人が選ばれることについて,賛成・反対・特に意見はないのいずれかを本人が選んで理由を書く形式であり,本人に手続の説明をする際には説明シート「後見開始について」を参考にするよう注記している。
同じ注記は,説明をしても本人が手続を理解できない場合や,本人に手続を知らせていない場合には,陳述書の提出は不要であるとしている。
前記第6の2のとおり,親族申立てでも専門職が関与し本人と有意なやり取りができる事案では,説明状況報告書の提出を求められることがある。
3 取下げの制限
後見開始の申立ては,審判がされる前であっても,家庭裁判所の許可を得なければ取り下げることができず(家事事件手続法121条1号),保佐開始と補助開始の申立ても同様である(同法133条,142条)。
本書14頁(連載第5回・平成30年2月号初出)は,申立人から,自分が後見人等に選任されないなら取り下げたい,福祉的な制度と思っていて報酬が発生するとは思わなかった,といった声があり,誤解を理由とする申立ての取下げは許可できない結果,専門職後見人の選任に親族が不満を抱き非協力的になる例も見られると述べている。
後見ポータルサイトの申立時の留意事項も,申立書を提出した後は家庭裁判所の許可を得なければ取り下げることはできないこと,希望した人が後見人等に選ばれなかったとの理由では不服申立てはできないことを明記している。
本人申立てでも,後から本人が取下げを望む事態を避けるには,申立て前に不利益な効果を伝えておくことが重要である。
第9 大阪家庭裁判所の受理面接と審理の現在
1 受理面接の運用の変遷
大阪家庭裁判所後見センターは,かつては原則として事前予約の上で受理面接を行い,平成30年2月からは一定の後見開始事件について受理面接を省略する書面審理を始めた(本書5頁,15頁~16頁)。
その後,令和2年8月号初出の連載第20回で受理面接を原則とする運用を当分の間取りやめ(本書5頁),令和4年10月号初出の連載第32回の小窓は,本庁・支部とも申立前の予約は取らず,直接聴取する必要がある事案についてのみ担当書記官から日程調整の連絡をしているとする(本書12頁)。
書籍化の際の加筆(本書5頁注4,16頁注5)も,令和6年6月時点で,必要に応じて受理面接を実施し,その場合は申立て後に知らせて日程調整をしていると説明している。
この沿革は大阪家裁後見センター――組織の位置付け,沿革及び独自の運用実務でも触れている。
現在の申立てのチェック表(令和8年2月1日版)も,受理面接が行われる場合があることを前提とした記載をしている。
本人申立てでは,説明状況報告書が不十分であれば,受理面接や調査官調査による本人調査が行われて審理に時間を要することになる(前記第5の2,第6の7)。
2 鑑定
家事事件手続法119条1項は,「家庭裁判所は、成年被後見人となるべき者の精神の状況につき鑑定をしなければ、後見開始の審判をすることができない。ただし、明らかにその必要がないと認めるときは、この限りでない。」と定め,保佐開始にも準用されている(同法133条)。
補助開始については,鑑定は必須ではないが,医師その他適当な者の意見を聴かなければならない(同法138条)。
本書22頁は,大阪家庭裁判所後見センターは鑑定の要否を適切に選別するために診断書の提出を求めており,多くの事案で鑑定をすることなく開始の審判を行っているとする。
前記の概況9頁によれば,令和7年の成年後見関係事件の終局事件のうち鑑定を実施したものは全体の約3.4%であった。
大阪家庭裁判所の申立てのチェック表は,鑑定料相当額(金10万円程度)は申立時に納める必要はなく,申立て後に鑑定が必要になった場合に裁判所の連絡に従って納めるものとしている。
同庁の「鑑定についてのおたずね」(医師に鑑定を引き受けるか等を尋ねる書面)は,全事件共通の提出書類とされている。
3 費用
大阪家庭裁判所の申立てのチェック表(令和8年2月1日版)によれば,申立手数料の収入印紙は800円分(保佐・補助で同意権・代理権の付与が加わる場合はその分増額),登記用の収入印紙は2,600円分である。
郵便料金は,郵便切手4,500円分を納めるか,保管金(後見5,000円,保佐・補助6,000円)と郵便切手1,100円分(本庁は不要)を納めるかを選ぶものとされている。
第10 本書の記述のうち現在は変わった点
本書のうち本記事の範囲の記述について,令和8年9月19日時点の公式資料と照合した結果は次のとおりである。
①名称:「説明等報告書面」は現在「説明状況報告書」と呼ばれている(前記第6の1)。
②受理面接:連載第5回の書面審理の5要件と専用書式(書面審理希望チェックリスト等)は,受理面接を原則とする運用自体が改められたため,現在の大阪家庭裁判所の成年後見のページには案内がない。
③説明シートの掲載場所:本書46頁注9の「申立ての手引」22頁~26頁の「別紙 説明シート」は,現在は大阪家庭裁判所の成年後見のページに説明シート「後見開始について」として単独で掲載されている(同シートの各頁には22頁~26頁の頁番号が残っている)。
④後見ポータルサイトのURL:本書22頁注2のアドレスは,現在は https://www.courts.go.jp/saiban/koukenp00/index.html である。
⑤手続説明の動画:本書12頁が紹介する制度説明の動画は後見ポータルサイトに引き続き掲載されているが,同サイトは,後見制度又は保佐制度を利用する人に対する権利制限に関する規定が削除されるなどの見直しが行われた旨の注記を付けている。
⑥大阪家庭裁判所後見センターの意思能力の調査の着眼点(連載第23回)は,現在の公式資料には記載がない。
第11 令和8年改正後の本人申立て
1 補助への一元化と本人の請求権
令和8年法律第45号による改正後の民法7条1項は,「精神上の理由により事理を弁識する能力が不十分である者については、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族、未成年後見人、未成年後見監督人、補助開始の審判を請求することができる者として公正証書によって本人の指定した者又は検察官の請求により、補助開始の審判をすることができる。」と定める。
後見と保佐は廃止されて補助に一元化されるが,本人が請求権者であることは変わらない。
また,本人が公正証書で指定した者が請求権者に加わる(改正後の民法7条1項,8条)。
改正の全体像は令和8年成年後見制度改正と関係法律61本の整備で扱っている。
2 本人の同意
改正後の民法7条2項は,本人以外の者の請求により補助開始の審判をするには本人の同意がなければならないとしつつ,「ただし、本人がその意思を表示することができない場合は、この限りでない。」と定める。
補助人の同意を要する旨の審判(改正後の民法9条3項)と補助人に代理権を付与する旨の審判(改正後の民法11条2項)も同様である。
補助開始の審判は,同意を要する旨の審判(改正後の民法9条1項),特定補助人を付する旨の審判(改正後の民法10条1項)又は代理権付与の審判(改正後の民法11条1項)のいずれかをする必要がある場合に,これらと同時にしなければならない(改正後の民法7条3項)。
3 手続の規定
改正後の家事事件手続法118条は,補助開始の審判事件等において,補助開始の審判を受ける者となるべき者(未成年者に限る。)及び補助開始の審判を受けた者(未成年者及び特定補助人を付する処分の審判を受けた者に限る。)は,法定代理人によらずに自ら手続行為をすることができると定める。
改正後の民事訴訟法31条が「成年被後見人」に代えて「特定補助人を付する処分の審判を受けた者」を訴訟無能力者としていることに対応した規定である。
もっとも,自ら手続行為をするには意思能力が必要であるという本書29頁の考え方は,条文の仕組みが変わっても当てはまると考えられる。
改正後の家事事件手続法119条は,補助開始の審判には医師その他適当な者の意見を聴かなければならないとし(1項),特定補助人を付する処分の審判には原則として鑑定を要するが,医師2人以上の意見を聴いて明らかにその必要がないと認めるときは鑑定を要しないとする(2項)。
現行法の後見開始(家事事件手続法119条1項ただし書)では,明らかに必要がないと認めるときは鑑定を要しないとだけ定めているから,特定補助人を付する処分の審判で鑑定を省略するには医師2人以上の意見が必要となる点が変わる。
本人の陳述聴取(申立人を除く。)の例外は「精神上の理由により」陳述を聴くことができないときとなり(改正後の同法120条1項),補助開始の申立ても許可がなければ取り下げることができない(改正後の同法121条1号)。
4 説明すべき法律効果の変化
改正後は,事理弁識能力を欠く常況にある者についても,補助開始の審判に加えて特定補助人を付する旨の審判がされる構造になる(改正後の民法10条1項)。
特定補助人の権限は,取消権の行使,本人に対する意思表示の受領及び本人の財産に関する保存行為であり(改正後の民法10条5項),現行の成年後見人のような包括的代理権はない。
代理権は,必要があると認めるときに特定の法律行為について付与される(改正後の民法11条1項)。
また,家庭裁判所は,必要がなくなったと認めるときは,同意を要する旨の審判,特定補助人を付する旨の審判及び代理権付与の審判の全部又は一部を取り消すことができ,これらを全て取り消す場合には補助開始の審判も取り消さなければならない(改正後の民法12条)。
そのため,説明状況報告書に記載すべき5点のうち,②後見人等の権限,③行為能力の制限及び⑤後見等の継続性の説明内容は,施行後は,求める審判の種類ごとの効果と,必要がなくなれば取り消され得ることを踏まえて組み直す必要がある。
施行後の家庭裁判所の書式や運用は,令和8年9月19日時点では公表されていない。
5 施行日と経過措置
改正法の成年後見に関する部分は,公布の日(令和8年6月24日)から起算して2年6月を超えない範囲内において政令で定める日から施行される(附則1条)。
施行日前にされた後見開始の審判の請求で,施行日前に審判が確定していないものは,施行日以後は改正後の民法7条1項による補助開始の審判の請求とみなされる(附則2条8項)。
保佐開始の審判の請求(附則3条3項)と補助開始等の審判の請求(附則4条3項)も同様である。
施行日の前後にまたがる本人申立てでは,本人に説明した法律効果と,施行後に実際にされる審判の効果とがずれるおそれがあるから,施行日が決まった段階で説明と申立ての趣旨を見直す必要があると考えられる。
第12 出典・参考資料
1 法令
民法(3条の2,7条,8条,9条,11条,15条,17条,843条,859条,862条,876条の4,876条の9) e-Gov法令検索
家事事件手続法(17条,50条,117条,118条,119条,120条,121条,129条,130条,133条,137条,138条,139条,142条) e-Gov法令検索
民事訴訟法(28条,31条) e-Gov法令検索
老人福祉法(32条) e-Gov法令検索
知的障害者福祉法(28条) e-Gov法令検索
精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(51条の11の2) e-Gov法令検索
民法等の一部を改正する法律(令和8年法律第45号)による改正後の民法(7条~12条)及び家事事件手続法(118条~121条),同法附則1条~4条 法務省(法律案本文)
法務省「民法等の一部を改正する法律 新旧対照条文」 法務省
法務省「民法等の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律 新旧対照条文」(民事訴訟法31条) 法務省
2 裁判例
最高裁昭和29年6月11日第二小法廷判決(昭和27年(オ)第9号,民集8巻6号1055頁) 裁判所
3 公的資料
大阪家庭裁判所「成年後見制度(後見・保佐・補助)」 裁判所
大阪家庭裁判所「申立てに際してご用意いただく書類等(チェック表)」(令和8年2月1日版) 裁判所
大阪家庭裁判所「本人の陳述書」書式 裁判所
大阪家庭裁判所 説明シート「後見開始について」 裁判所
大阪家庭裁判所「鑑定についてのおたずね」 裁判所
裁判所 後見ポータルサイト「成年後見制度(後見・保佐・補助)の概要を知りたい方へ」 裁判所
裁判所「後見開始」 裁判所
裁判所「本人情報シートの位置付け」(本人情報シート作成の手引27頁~28頁) 裁判所
最高裁判所事務総局家庭局「成年後見関係事件の概況-令和7年1月~12月-」4頁,9頁 裁判所
4 文献
大阪家庭裁判所後見センター編『大阪家庭裁判所後見センターだより』(大阪弁護士協同組合,2025年)1頁,5頁,12頁~16頁,22頁~58頁
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