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親族・相続

保佐人・補助人の権限と実務――同意権・取消権・代理権,金融機関への届出及び令和8年改正(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論1 対象と基準日2 結論第2 保佐と補助の基本構造1 保佐2 補助3 権限の比較第3 同意権と取消権1 保佐人の法定の同意権2 同意権の拡張と補助人の同意権3 同意に代わる許可4 取消権とその行使5 携帯電話・スマートフォンの契約第4 代理権の付与と本人の同意1 代理権付与の審判2 代理行為目録3 代理権と同意権・取消権の関係4 財産管理権第5 保佐人・補助人の義務1 意思尊重義務と身上配慮義務2 善管注意義務と第三者に対する責任第6 選任直後の実務1 本人と関係者への説明2 金融機関への届出3 郵便物4 財産目録と裁判所への報告第7 居住用不動産・利益相反・複数選任1 居住用不動産の処分2 臨時保佐人・臨時補助人3 複数の保佐人・補助人第8 報酬の回収第9 能力の変化への対応と終了1 権限の追加と取消し2 類型の変更3 終了事務と死後事務第10 令和8年改正1 保佐の廃止と補助への一元化2 同意権(改正民法9条)3 特定補助(改正民法10条)4 代理権(改正民法11条)と審判の取消し(改正民法12条)5 意向の尊重(改正民法876条の11)6 その他の変更7 経過措置8 施行時に既存の保佐人・補助人が検討すべきこと第11 本書刊行後に変わった点と大阪家裁の運用1 本書刊行後に変わった点2 大阪家裁の運用第12 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 公的資料4 文献5 関連記事
第1 この記事の対象と結論
1 対象と基準日

本記事は,保佐人と補助人が,どのような権限を持ち,選任後に何をするのかを,同意権・取消権・代理権の三つの権限を軸に説明するものである。
基準日は令和8年9月19日であり,法令は令和8年9月18日にe-Gov法令検索で取得した現行条文による。
素材は,大阪弁護士会高齢者・障害者総合支援センター編『【全訂版】成年後見人の実務2023』(大阪弁護士協同組合,2023年。以下「本書」という。)の保佐人・補助人の章(149頁~184頁)と,能力の変化への対応(122頁~123頁)及び代理行為目録・同意行為目録の書式(259頁~262頁)である。
本書は2023年時点の記述なので,大阪家庭裁判所の運用は,現行の「成年後見人・保佐人・補助人ハンドブック(Q&A付き)」(令和8年2月1日版。以下「大阪家裁ハンドブック」という。)で確かめられたものと,本書の記載にとどまるものを分けて書く。

令和8年法律第45号(民法等の一部を改正する法律)により,法定後見は補助に一元化され,保佐は廃止される。
成年後見部分の施行日は,公布の日(令和8年6月24日)から起算して2年6月を超えない範囲内で政令で定める日であり,基準日現在は未施行である。
本記事の第2から第9までは現行法の説明であり,改正後の姿と,既存の保佐人・補助人が施行時に検討すべきことは第10で扱う。
改正全体の構造は令和8年成年後見制度改正と関係法律61本の整備で扱っている。

2 結論

①保佐人は,民法13条1項各号の行為について当然に同意権と取消権を持つが,代理権は審判で付与された範囲に限られる。
補助人は,審判で定められた同意権(民法13条1項の行為の一部に限る。)と代理権の一方又は双方を持つにとどまる。
②代理権の付与は,本人以外の請求によるときは本人の同意が要件である(民法876条の4第2項,876条の9第2項)。
代理権が付与されても本人は自らその行為をすることができ,本人の行為を取り消せるのは同意権の対象行為に限られる。
③同意権しかない保佐人・補助人も,元本の領収(預貯金の払戻し)が同意の対象であれば,金融機関へ届け出るべきである。
もっとも,大阪家裁後見センターは,保佐・補助で本人が通帳を渡さないなど非協力的な場合には,金融機関に届け出ずに本人に預貯金の管理を委ねる例が多く,同意権だけを持つ保佐人等が金融機関に届け出て預貯金を管理する例はほとんど見られないとしている(大阪家庭裁判所後見センター編『大阪家庭裁判所後見センターだより』(大阪弁護士協同組合,2025年)87頁~88頁)。
同書は,その場合の初回報告は判明した範囲で提出し,必要に応じて代理権付与の審判の取消しも検討するとしている。
④成年後見人の郵便物の回送嘱託(民法860条の2),財産目録の作成期間(民法853条)及び死後事務(民法873条の2)の規定は,保佐人・補助人に準用されていない。
⑤報酬付与の審判は,報酬の支払を命ずる審判ではなく,民事執行法22条の債務名義に当たらないから,本人の預貯金を管理していない保佐人・補助人は,本人を説得して任意に支払を受けるほかない。
⑥令和8年改正の施行後も,施行日前に開始した保佐は原則として従前の例によって続くが,保佐人の解任と意向の尊重には改正後の規定が適用され,保佐人は補助開始の審判を請求することができる。
既存の補助は改正後の補助とみなされ,同意権・代理権の一つ一つについて必要性が問われることになる。

第2 保佐と補助の基本構造
1 保佐

民法11条は,「精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分である者」について,家庭裁判所が保佐開始の審判をすることができると定める。
保佐開始の審判を受けた者は被保佐人とされ,保佐人が付される(民法12条)。
本書149頁は,「著しく不十分」とは,後見相当ではないが,支援を受けなければ契約等の意味・内容を自ら理解し判断することができず,法律行為を行うに当たって常に援助が必要な場合をいうと説明する。
大阪家裁ハンドブック4頁(Q2)も,日常の買い物程度のことは自分でできても,重要な行為をするときは常に支援が必要となる人を被保佐人と説明している。

2 補助

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後見等開始の審判前の保全処分――財産の管理者,後見命令及び職務執行停止(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論1 対象と基準日2 結論第2 審判前の保全処分の全体像1 なぜ保全処分が必要になるのか2 保全処分の種類と根拠条文3 共通の手続第3 虐待事案と市町村長申立て1 市町村長申立ての根拠2 保全処分との組合せ3 市町村長が申し立てられる保全処分第4 財産の管理者の選任1 要件と手続2 財産の管理者の権限3 財産の管理者の職務4 登記されないこと5 改任・終期・引継ぎ第5 事件の関係人に対する指示1 指示の内容2 指示の効力第6 後見命令・保佐命令・補助命令1 後見命令等を併せて申し立てる意味2 手続3 取り消すことのできる行為の範囲4 登記5 財産の管理者の役割と効力の終期第7 成年後見人等の解任を本案とする保全処分1 要件2 手続3 即時抗告の可否4 職務代行者の職務5 効力の終期と財産の引継ぎ第8 保全処分の取消し1 条文2 本書の説明と条文の文言第9 本書刊行後の変化と令和8年改正1 本書刊行後の現行法2 令和8年改正後の保全処分第10 大阪家裁の運用について第11 出典・参考資料1 法令2 公的資料3 文献4 関連記事
第1 この記事の対象と結論
1 対象と基準日

本記事は,後見・保佐・補助の開始の申立てから開始の審判が効力を生ずるまでの間に使う審判前の保全処分(財産の管理者の選任,事件の関係人に対する指示,後見命令・保佐命令・補助命令)と,成年後見人等の解任の申立てから解任の審判が効力を生ずるまでの間に使う審判前の保全処分(職務の執行停止,職務代行者の選任)を扱うものである。
基準日は令和8年9月19日であり,法令はe-Gov法令検索で取得した現行条文による。
素材は,大阪弁護士会高齢者・障害者総合支援センター編『【全訂版】成年後見人の実務2023』(大阪弁護士協同組合,2023年。以下「本書」という。)125頁~126頁及び205頁~216頁であり,本書の記述を条文と照合した結果を示す。
解任の事由そのものは成年後見人の解任理由で,後見人による横領の実情は成年後見人による横領──親族後見人と第三者後見人の比較を中心にで扱っているので,本記事では保全処分の手続と効果に絞る。

2 結論

①開始の審判の前に本人の財産を守る手段は,財産の管理者の選任,事件の関係人に対する指示及び後見命令等の3種類である(家事事件手続法126条,134条,143条)。
②財産の管理者を選任しただけでは本人の行為能力は制限されず,本人がした契約を取り消せるようにするには,後見命令等を併せて申し立てる必要がある。
後見命令等を申し立てられるのは本案の申立人に限られる。
③財産の管理者の権限は民法103条の保存・利用・改良行為が原則であり,それを超える行為には家庭裁判所の許可が必要である(家事事件手続法126条8項による民法28条の準用)。
④財産の管理者の選任と事件の関係人に対する指示は,認容・却下のいずれに対しても即時抗告ができず,財産の管理者の選任だけでは登記されない。
これに対し,後見命令等と職務執行停止・職務代行者選任は後見登記等ファイルに記録される(後見登記等に関する法律4条)。
⑤虐待事案では,市町村長が老人福祉法32条等に基づいて後見開始等の審判を申し立てると同時に,財産の管理者の選任等の保全処分を申し立てることが,厚生労働省の対応マニュアルでも有効な手段として示されている。
⑥本書の記述のうち,職務執行停止の審判に対する即時抗告の可否,後見命令の登記の時期及び保全処分の取消しの申立権者の3点は,条文の文言と食い違っているように読めるので,第7及び第8で条文に即して説明する。
⑦令和8年法律第45号による改正後は,後見命令・保佐命令は廃止され,補助開始の審判事件を本案とする「補助命令」と,特定補助人を付する処分に対応する「特定補助命令」に再編される(改正後の家事事件手続法126条2項・3項)。
補助人の事務の監督の審判事件を本案とする職務執行停止・職務代行者選任も新設される(同法128条)。

第2 審判前の保全処分の全体像
1 なぜ保全処分が必要になるのか

本書205頁は,後見等開始の申立てから開始の審判により成年後見人等が選任されるまでには1~数か月を要し,即時抗告があると審判が長期間確定しないこともあるとする。
即時抗告のできる審判は確定しなければ効力を生じないから(家事事件手続法74条2項ただし書),その間,選任された成年後見人等は職務を行うことができない。
その間に本人の財産が散逸し,又は第三者に侵害されるおそれがある場合に,開始の審判の効力が生ずるまでのつなぎとして使うのが審判前の保全処分である。
本書205頁は,活用例として,①年金の振込口座を親族等が管理していて年金が本人のために使われていない経済的虐待の事案,②本人が不適当な資産の費消や高額な取引をしてしまいそうな事案,③入院中の本人の多額の財産が自宅に置いたままになっている事案を挙げている。

2 保全処分の種類と根拠条文
保全処分後見保佐補助財産の管理者の選任・事件の関係人に対する指示126条1項134条1項143条1項後見命令・保佐命令・補助命令126条2項134条2項143条2項職務の執行停止・職務代行者の選任127条135条144条

いずれも家事事件手続法の条文であり,保佐と補助の規定は後見の規定を準用し,又は後見の規定と同じ構造で定められている。
本書205頁は,家事事件手続法上の保全処分はこれらに限られるが,必要とされる内容によっては民事保全法による保全処分の利用も考えられないわけではないとしている。

3 共通の手続
(1) 本案の係属

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後見制度支援信託と後見制度支援預貯金――仕組み,専門職後見人の職務及び最新の利用状況(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論1 対象と基準日2 結論第2 支援商品の仕組み1 支援信託2 支援預貯金3 指示書の位置付け4 両者の比較第3 導入の経緯と弁護士会の批判1 支援信託の開発2 本書が挙げる問題点3 日弁連・大阪弁護士会の意見と本格導入4 支援預貯金の開発第4 最新の利用状況(令和7年)1 年間の新規利用者数2 累計3 事件類型と金額の分布4 一時金交付の状況5 取扱金融機関の状況第5 保佐・補助への拡大(令和7年10月)1 最高裁判所の公表2 利用できる金融機関3 代理権型と同意権型の書式4 大阪家裁の案内第6 対象案件の選別と専門職後見人の選任1 検討対象となる三つの場面2 大阪家裁の基準額3 なぜ弁護士・司法書士が選任されるのか4 リレー方式・複数選任方式・監督人方式5 大阪弁護士会の推薦第7 検討のために選任された専門職後見人の職務1 初動2 利用に適さない事案3 親族後見人候補者の適性4 手元口座の額と定期交付金5 金融機関の選定6 報告書の提出と契約締結7 利用が相当でないと判断した場合8 辞任と引継ぎ第8 総合支援型後見監督人と支援商品1 大阪家裁の総合支援型後見監督人2 本書198頁・200頁が示す監督人の職務第9 利用開始後の後見事務1 一時金交付・払戻し2 定期交付額の変更・追加・解約3 家庭裁判所への報告第10 今後の拡大――本書の見通しと現状1 対象となる後見人の拡大2 基準額の引下げ3 類型の拡大第11 令和8年改正後の支援信託・支援預貯金1 改正法の概要と施行時期2 支援商品についての明文の手当ては見当たらない3 改正後の条文で関係しそうな規定4 施行日前に開始した後見・保佐の扱い第12 出典・参考資料1 法令2 公的資料3 文献4 関連記事
第1 この記事の対象と結論
1 対象と基準日

本記事は,後見制度支援信託(以下「支援信託」という。)と後見制度支援預貯金(以下「支援預貯金」といい,両者を合わせて「支援商品」という。)について,仕組み,導入の経緯,家庭裁判所が利用を検討させる案件の選び方,検討のために選任された弁護士・司法書士の職務の流れ,最新の利用状況及び令和8年改正後の見通しを整理するものである。
基準日は令和8年9月19日である。
法令は同日にe-Gov法令検索で確認した現行条文により,令和8年法律第45号(民法等の一部を改正する法律)による改正後の条文は法務省の新旧対照条文とe-Govの未施行版で確認した。
素材とした大阪弁護士会高齢者・障害者総合支援センター編『【全訂版】成年後見人の実務2023』(大阪弁護士協同組合,2023年。以下「本書」という。)は2023年時点の記述なので,その後に変わった点は最高裁判所,金融庁及び大阪家庭裁判所の公表資料で確かめ,確かめられなかった点はその旨を書く。

2 結論

①支援商品は,本人の金銭のうち日常の支払に必要な分だけを後見人の手元に残し,残りを信託銀行等への信託又は特別な預貯金にして,払戻しや解約に家庭裁判所の指示書を必要とする仕組みである。
法律で作られた制度ではなく,家庭裁判所の後見監督と金融機関の商品設計を組み合わせた運用である。
②令和7年の新規利用は支援信託615人,支援預貯金2,005人で,新規の主力はすでに支援預貯金に移っている(令和7年12月末までの累計は支援信託31,234人,支援預貯金13,511人)。
③令和7年10月から,一部の金融機関で保佐・補助でも支援預貯金を利用できるようになった。
もっとも,最高裁判所の案内では,令和7年10月1日現在で利用できるのは静岡県内の信用金庫に限られており,大阪で利用できる金融機関があるかは公表資料では確認できなかった。
④家庭裁判所が利用を検討させる案件では,原則として弁護士又は司法書士が後見人に選任され,利用の適否,手元に残す額,定期交付額,利用する金融機関を検討し,報告書を出して指示書を受け,契約後に辞任して親族後見人に引き継ぐ。
本書は,報告書の提出時期を選任後4か月(遅くとも6か月)を目安とする。
⑤大阪家裁が利用を検討させる流動資産の基準額について,本書は1200万円とし,将来は500万円程度まで下がると考えられているとする。
1200万円という数字は,大阪家裁本庁後見センターが令和5年10月に作成したとみられる「よくある質問(FAQ)」にも記載があるが,大阪家裁の現在の成年後見のページ及びハンドブックでは確認できず,500万円程度への引下げを示す公表資料も確認できなかった。
⑥令和8年改正法の新旧対照条文には,支援信託・支援預貯金・指示書に触れる規定はない。
施行日前に開始した後見・保佐は原則として従前の例によるので,既存の利用分はそのまま続くと考えられるが,施行後に新たに開始する補助で支援商品をどう使うかは,公表資料からは分からない。

第2 支援商品の仕組み
1 支援信託

最高裁判所事務総局家庭局「後見制度支援信託等の利用状況等について―令和7年1月~12月―」(以下「令和7年利用状況」という。)は,支援信託を,成年被後見人又は未成年被後見人の財産のうち,日常的な支払をするのに必要十分な金銭を預貯金等として後見人が管理し,通常使用しない金銭を信託銀行等に信託する仕組みであり,平成24年2月1日に導入されたと説明している。
信託財産を払い戻したり,信託契約を解約したりするには,あらかじめ家庭裁判所が発行する指示書が必要である。
支援信託の対象は成年後見と未成年後見だけであり,保佐,補助及び任意後見では利用できない。

信託協会の説明によれば,支援信託では元本補てん契約の付された指定金銭信託が使われ,これは預金保険制度の対象となる。
また,この信託は金銭しか信託できないので,支援信託で管理できる財産は金銭に限られる。
成年後見の場合の信託期間は原則として本人が亡くなるまでであり,本人が亡くなると信託は終了し,信託財産は相続財産として相続人に承継される。

本書138頁は,民法859条1項が後見人に本人の財産の包括的な管理権を与えていることを前提に,不正を防ぐには後見人による預貯金の払戻しを制限する必要があるという発想から支援信託が作られたと説明している。
民法859条1項は,「後見人は、被後見人の財産を管理し、かつ、その財産に関する法律行為について被後見人を代表する。」と定める。
後見人は本人の法定代理人として信託契約を結ぶので,信託契約を解約する権限も持つが,契約上,解約には家庭裁判所の指示書が必要とされているため,解約の理由と必要性が家庭裁判所のチェックを受けることになる(本書138頁)。

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成年後見人への郵便物の回送嘱託と開披――民法860条の2・860条の3の要件,大阪家裁の申立て及び令和8年改正(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論1 対象と基準日2 結論第2 制度の概要1 平成28年改正で新設された制度2 条文3 郵便局への転居届との違い4 対象となる郵便物等第3 回送嘱託が認められる場合1 「必要があると認めるとき」2 任意の方法で把握できる場合は認められない3 申立書の三つの類型4 6か月の上限と再度の申立て5 申立ての時期第4 申立ての手続1 申立人と申立先2 本人の陳述の聴取3 大阪家裁での必要書類と費用4 集配郵便局の特定5 審判の効力と不服申立て第5 回送された郵便物等の扱い1 開いて見ることができる2 事務に関しないものは速やかに交付する3 本人の閲覧請求4 受領の記録第6 変更と取消し1 事情変更による取消し・変更2 転居したときは変更の申立てが必要3 任務終了のときは必ず取り消される第7 回送嘱託と組み合わせる送付先の届出1 役所への送付先変更の届出2 年間計画表3 財産調査の手がかり第8 任務終了後の郵便物第9 保佐人・補助人・任意後見人の場合(現行法)1 回送嘱託は準用されていない2 代理権の範囲内での送付先変更第10 令和8年改正後1 回送嘱託は特定補助人だけの制度になる2 家事事件手続法の対応規定3 施行日前に開始した後見の扱い4 特定補助人でない補助人が郵便物を把握する方法第11 本書刊行後に変わった点と大阪家裁の運用1 申立書は全国共通の書式になった2 郵便料3 確認できなかった事項第12 出典・参考資料1 法令2 公的資料3 文献4 関連記事
第1 この記事の対象と結論
1 対象と基準日

本記事は,成年後見人が家庭裁判所の審判を得て成年被後見人宛ての郵便物等を自分の事務所に配達してもらう「回送嘱託」(民法860条の2)と,受け取った郵便物等の開披・交付・閲覧(民法860条の3)について,要件,手続,大阪家庭裁判所での申立ての方法,役所等への送付先の届出との使い分け,任務終了後の郵便物の扱い,保佐人・補助人との違い及び令和8年改正後の姿を整理するものである。
基準日は令和8年9月19日であり,法令は同日にe-Gov法令検索で確認した現行条文による。
素材として,大阪弁護士会高齢者・障害者総合支援センター編『【全訂版】成年後見人の実務2023』(大阪弁護士協同組合,2023年。以下「本書」という。)35頁~36頁,42頁,46頁,48頁,137頁及び162頁を用いた。
本書は2023年時点の記述であるから,現在の法令・書式・費用は,裁判所ウェブサイト,法務省ウェブサイト及びe-Govで確かめた範囲で書き,確かめられなかった点はその旨を示す。

2 結論

①郵便局への転居届(郵便法35条)は本人が住所又は居所を移したときに本人の新しい居場所へ転送する制度であり,成年後見人の事務所へ転送させることはできない。成年後見人が本人宛ての郵便物を直接受け取るには,家庭裁判所の回送嘱託の審判が必要である。
②回送嘱託は,成年後見人が任意の方法では本人宛ての郵便物等の存在と内容を把握できず,後見事務に支障が生ずる場合に限って認められる。施設や親族の協力で郵便物を受け取れる場合は認められない。
③嘱託の期間は6か月を超えることができず(民法860条の2第2項),変更の審判で伸長することもできない(同条3項ただし書)。再度の申立ては可能であるが,前回の期間内に財産・収支の状況を把握できなかった具体的事情を示す必要がある。
④成年後見人は受け取った郵便物等を開いて見ることができるが,後見事務に関しないものは速やかに本人に交付しなければならず,本人は閲覧を求めることができる(民法860条の3)。
⑤大阪家裁での申立ては,後見ポータルサイトの全国共通の申立書に,収入印紙800円分,郵便料(郵便切手なら1,440円分,現金・電子納付なら2,000円),本人の陳述書又は上申書と陳述聴取状況報告書等を添えて行う。
⑥回送嘱託は保佐人・補助人・任意後見人には認められていない。令和8年改正後は,法定後見が補助に一元化され,回送嘱託は「特定補助人」だけが利用できる制度(改正後の民法876条の16・876条の17)になる。特定補助人でない補助人は,代理権の範囲内での送付先変更の届出等,回送嘱託以外の方法で郵便物を把握することになる。

第2 制度の概要
1 平成28年改正で新設された制度

回送嘱託と開披の規定は,成年後見の事務の円滑化を図るための民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律(平成28年法律第27号)によって新設された。
同法は平成28年4月13日に公布され,附則が「この法律は、公布の日から起算して六月を経過した日から施行する。」と定めていることから,平成28年10月13日に施行された(法務省「「成年後見の事務の円滑化を図るための民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律」が平成28年10月13日に施行されました。」)。
同じ法律で,成年被後見人の死亡後の成年後見人の権限(民法873条の2)も新設されている。
死後事務については成年被後見人が死亡した後に元後見人ができること-民法873条の2の死後事務と事務管理で扱っている。

法務省の上記Q&Aは,新設の理由として,本人宛ての郵便物等には株式の配当通知,外貨預金の入出金明細,クレジットカードの利用明細等の財産に関するものが含まれ,成年後見人が同居の親族以外の者である場合に,本人が郵便物を自ら管理できないと財産管理に支障を来すおそれがあるとの指摘があったことを挙げている。
同時に,期間を制限するなど,本人の通信の秘密(憲法21条2項後段)に一定の配慮をしたと説明している。
憲法21条2項は,「検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。」と定めている。
本書35頁も,回送嘱託は通信の秘密に対する制約であるため期間は原則として6か月であると説明している。

2 条文

民法860条の2第1項は,「家庭裁判所は、成年後見人がその事務を行うに当たって必要があると認めるときは、成年後見人の請求により、信書の送達の事業を行う者に対し、期間を定めて、成年被後見人に宛てた郵便物又は民間事業者による信書の送達に関する法律(平成十四年法律第九十九号)第二条第三項に規定する信書便物(次条において「郵便物等」という。)を成年後見人に配達すべき旨を嘱託することができる。」と定める。
同条2項は「前項に規定する嘱託の期間は、六箇月を超えることができない。」と定める。
同条3項は,審判の後に事情の変更を生じたときは,成年被後見人,成年後見人若しくは成年後見監督人の請求により又は職権で,嘱託を取り消し,又は変更することができるとし,ただし書で「その変更の審判においては、同項の規定による審判において定められた期間を伸長することができない。」と定める。
同条4項は「成年後見人の任務が終了したときは、家庭裁判所は、第一項に規定する嘱託を取り消さなければならない。」と定める。

3 郵便局への転居届との違い

(続きを読む...)成年後見人への郵便物の回送嘱託と開披――民法860条の2・860条の3の要件,大阪家裁の申立て及び令和8年改正(AI作成)

成年後見人が本人の自宅を売却・賃貸・解約するときの居住用不動産処分許可(民法859条の3)(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論1 対象と基準日2 結論第2 民法859条の3の内容1 条文2 趣旨3 許可は効力要件である4 後見監督人がいる場合の同意第3 「居住の用に供する建物又はその敷地」1 生活実態による実質判断2 典型的な場面第4 「処分」の範囲1 条文に列挙された処分2 「これらに準ずる処分」3 施設の入所契約の解除4 遺産分割との関係5 迷ったら予防的に許可を得る第5 処分をするかどうかの判断1 処分を検討する場面2 相続税対策や親族のための建築・増改築3 本人の意思の確認第6 大阪家庭裁判所への許可申立て1 申立人と申立先2 申立てのタイミング3 費用4 必要書類5 申立書の記載事項第7 審理と審判1 審理の観点2 審判の主文3 不服申立てはできない4 審判の効力の発生第8 許可後の手続――登記と印鑑証明書1 登記申請には許可書を添付する2 家庭裁判所が作成する後見人の印鑑証明書第9 成年後見人が本人の自宅を買う場合1 利益相反行為になる2 特別代理人等も許可を得る必要がある3 大阪家庭裁判所での特別代理人選任申立ての費用第10 リバースモーゲージとリースバック1 不動産担保型生活資金2 民間のリバースモーゲージ3 許可が必要であること4 リースバック第11 売却後の税・年金・保険料1 譲渡所得の申告2 20歳前障害による障害基礎年金の支給停止3 社会保険料と収支予定第12 保佐人・補助人の場合(現行法)1 代理権が付与されている場合2 代理権がない場合3 本人が自ら処分する場合4 任意後見人には同じ規定がない第13 令和8年改正後の扱い1 民法876条の13への移動2 誰に及ぶか3 利益相反の規定4 施行日と経過措置第14 出典・参考資料1 法令2 公的資料3 文献4 関連記事
第1 この記事の対象と結論
1 対象と基準日

本記事は,成年後見人が,成年被後見人(以下「本人」という。)の自宅を売却し,賃貸し,借家の賃貸借契約を解除し,又は自宅に抵当権を設定するときに必要となる家庭裁判所の許可(民法859条の3)について,許可が必要な場面,大阪家庭裁判所への申立ての方法,審判とその後の登記手続,売却後の税・年金への影響,保佐人・補助人の場合及び令和8年改正後の扱いを整理するものである。
基準日は令和8年9月19日であり,法令は同日時点の現行条文をe-Gov法令検索で確認した。
令和8年法律第45号(民法等の一部を改正する法律)による改正後の条文は,法務省の新旧対照条文とe-Gov法令検索の未施行版で確認した。
素材として,大阪弁護士会高齢者・障害者総合支援センター編『【全訂版】成年後見人の実務2023』(大阪弁護士協同組合,2023年。以下「本書」という。)を用いた。
本書は2023年時点の記述であるから,大阪家庭裁判所の現在の運用は,同庁の成年後見のページと「成年後見人・保佐人・補助人ハンドブック(Q&A付き)」(令和8年2月1日版。以下「大阪家裁ハンドブック」という。)で確認できた範囲で書き,確認できなかった点は本書の記載として区別する。

2 結論

①成年後見人が本人に代わって本人の居住用の建物又はその敷地を売却,賃貸,賃貸借の解除,抵当権の設定その他これらに準ずる処分をするには,家庭裁判所の許可が必要であり,許可のない処分は無効と解されている。
②「居住用」は住民票上の住所ではなく生活の実態で判断され,施設入所中で現に住んでいない自宅や,過去に生活の本拠であった建物も含まれ得る。
③「これらに準ずる処分」には,贈与,使用貸借,建物の取壊し等が含まれると解されており,施設の入所契約の解除や,本人が相続人となる遺産分割にも許可の要否が問題となるものがある。判断に迷う場合は予防的に許可を得ておくのが安全である。
④大阪家庭裁判所では,事前に連絡票で相談した上で取引の交渉を進め,取引が成立する一歩前の段階で申し立てる運用である。現在の費用は収入印紙800円分と郵便切手110円分である。
⑤許可の審判に対しても却下の審判に対しても,即時抗告はできない。
⑥成年後見人自身が本人の自宅を買う場合は利益相反行為となり,特別代理人(又は後見監督人)による代理と許可の両方が問題となる。
⑦売却すると翌年に譲渡所得の申告が必要となり,所得の増加により20歳前障害による障害基礎年金の支給停止や社会保険料の増加が生じることがある。
⑧現行法では,保佐人・補助人も,居住用不動産の処分について代理権を付与されている場合に限り,同じ許可が必要である。令和8年改正後は,この規律は民法876条の13に移り,代理権を付与された補助人に適用される。

第2 民法859条の3の内容
1 条文

民法859条の3は,「成年後見人は、成年被後見人に代わって、その居住の用に供する建物又はその敷地について、売却、賃貸、賃貸借の解除又は抵当権の設定その他これらに準ずる処分をするには、家庭裁判所の許可を得なければならない。」と定める。
成年後見人は,本人の財産を管理し,財産に関する法律行為について本人を代表する包括的な権限を持つ(民法859条1項)。
本条は,その包括的な代理権のうち,居住用不動産の処分についてだけ,家庭裁判所の許可という制約を加えたものである。
家事事件手続法では,この許可は別表第一の11項(成年被後見人の居住用不動産の処分についての許可)の審判事項である。

2 趣旨

本書54頁は,本条について,居住関係の変化が本人の身上面(心身の状態や生活の状況等)に与える影響の重大さに鑑み,特に身上保護の観点から成年後見人の財産行為上の代理権を制限したものであると説明している。
大阪家裁ハンドブック19頁も,本人にとって居住環境が変われば,その心身や生活に重大な影響が生じることになるので,特に慎重を期すため裁判所の許可を得なければならないとされていると説明している。
つまり,この許可は,売却価格が適正かという財産上の観点だけでなく,住み慣れた家を失うことが本人の生活にどう影響するかという観点から審査される。
成年後見人は,事務を行うに当たって本人の意思を尊重し,その心身の状態及び生活の状況に配慮しなければならない(民法858条)から,本条はこの身上配慮義務を手続の面から担保するものといえる。

3 許可は効力要件である

本書55頁は,家庭裁判所の許可は処分行為の効力要件であるから,許可を欠く処分行為は無効であると解されているとしている。

(続きを読む...)成年後見人が本人の自宅を売却・賃貸・解約するときの居住用不動産処分許可(民法859条の3)(AI作成)

最高裁家庭局第二課長書簡「成年後見人等の選任及び報酬付与の在り方」(平成31年1月24日)の内容と現在の運用(AI作成)

目次第1 この記事の対象第2 書簡の位置付けと構成1 本文が述べていること2 別添の構成第3 後見人等の選任イメージ(別添1-1・1-2)1 検討の順序2 選任イメージの性格と注記3 中核機関の支援が期待できない場合の運用第4 専門職の関与が必要な事案と期待される役割(別添1-3)1 専門職を後見人に選任する事案2 専門職を監督人に選任する事案第5 新たな報酬算定基準の参考資料(別添1-4・1-5)1 たたき台としての位置付けと基本的な考え方2 事務の時期区分と基本的事務・付加的事務3 報酬の加減要素4 報告の在り方第6 専門職団体の意見(別添2-1~2-4)1 日本弁護士連合会2 日本司法書士会連合会3 成年後見センター・リーガルサポート4 日本社会福祉士会第7 現在の運用との比較1 選任の考え方2 報酬の算定3 報告書式と報酬実績の公表4 令和8年改正法との関係第8 出典・参考資料1 法令2 裁判所の文書・資料3 成年後見制度利用促進専門家会議の資料4 統計5 関連記事
第1 この記事の対象

本記事は,最高裁判所事務総局家庭局第二課長が平成31年1月24日付けで高等裁判所事務局長及び家庭裁判所事務局長に宛てた書簡の内容を,本文と別添ごとに整理するものである。
この書簡の写し(全61頁)は,本ブログに成年後見人等の選任及び報酬付与の在り方に関する文書(平成31年1月24日付の最高裁判所家庭局第二課長の書簡)として掲載している。
書簡自体には表題が付いておらず,「成年後見人等の選任及び報酬付与の在り方」は,本文が扱う二つの事項を示す名称として本ブログが付けたものである。

書簡は,後見人等の選任の考え方と報酬付与の在り方について,最高裁判所と専門職団体との議論の到達点を各家庭裁判所へ伝えたものであり,その後の運用改善の出発点となった。
他方で,書簡から7年以上が経過し,報酬の決め方は書簡の案どおりには進まなかった。
そこで本記事は,書簡の内容を紹介した上で,令和8年9月18日現在の公表資料により,現在の運用と同じ点と違う点を確認する。
生成AIを用いて書簡の全頁と関係資料を通読し,本文の記載を原資料と照合して構成した。

第2 書簡の位置付けと構成
1 本文が述べていること
(1) 選任と専門職の役割は「概ね共有」された

書簡の本文によれば,最高裁判所家庭局は,日本弁護士連合会,日本司法書士会連合会,公益社団法人成年後見センター・リーガルサポート及び公益社団法人日本社会福祉士会(以下「専門職団体」という。)との間で,成年後見制度利用促進基本計画を踏まえた後見人等の選任と専門職に期待する役割等について議論を重ねてきた。
その結果について,本文は,「後見人等の選任及び専門職に期待する役割についてその基本的な考え方が概ね共有されました」と述べ,その内容を別添1-1から1-3までに示している。
その上で本文は,各家庭裁判所に対し,専門職団体の単位会等との間で,後見人等の選任及び専門職に期待する役割について認識の共有に向けた協議を行うよう求めている。

(2) 報酬は最高裁の案に対する意見の段階にとどまった

報酬付与の在り方について,本文は,家庭局が作成した資料(別添1-4・1-5)に対して専門職団体から意見(別添2-1から2-4まで)が示された段階であるとしている。
本文は,「各家庭裁判所が後見事務の内容に応じた報酬の付与という基本的な方向性に基づいて検討をしていくことについて専門職団体の理解を得られた」とする一方で,具体的な後見事務の評価,評価の対象となる事務の内容や負担,その前提となる報告事務の在り方については様々な意見が示されているとし,各家庭裁判所に対して地域の実情を踏まえた意見交換等を求めている。
つまり,選任については考え方の共有まで進んだが,報酬については方向性の理解を得た段階にとどまっていたことが,書簡の本文から読み取れる。

2 別添の構成

書簡の記に掲げられた別添は,次のとおりである。
①別添1-1 基本計画を踏まえた裁判所における後見人等の選任イメージ
②別添1-2 「基本計画を踏まえた裁判所における後見人等の選任イメージ」の補足説明
③別添1-3 専門職の関与を必要とする事案と専門職に期待する役割
④別添1-4 新たな報酬算定基準検討のための参考資料
⑤別添1-5 「新たな報酬算定基準検討のための参考資料」の補足説明
⑥別添2-1 最高裁判所の後見人報酬に係る提案について(日本弁護士連合会作成)
⑦別添2-2 「新たな報酬算定基準検討のための参考資料」に関する意見(日本司法書士会連合会作成)
⑧別添2-3 最高裁判所「新たな報酬算定基準検討のための参考資料」及びその補足説明並びに「新たな後見報酬算定に向けた考え方(案)」に対する意見書(公益社団法人成年後見センター・リーガルサポート作成)
⑨別添2-4 「新たな報酬算定基準検討のための参考資料」(補足説明含む)への意見(公益社団法人日本社会福祉士会作成)

(続きを読む...)最高裁家庭局第二課長書簡「成年後見人等の選任及び報酬付与の在り方」(平成31年1月24日)の内容と現在の運用(AI作成)

病院での虐待と高齢者虐待防止法-病院が「養介護施設」に含まれないことの意味と相談・通報先(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論1 対象と基準日2 結論第2 高齢者虐待防止法の構造1 二つの類型2 「養介護施設」の列挙に病院はない3 通報義務と市町村の対応4 65歳未満の障害者のみなし規定5 国マニュアルの説明6 病院も「早期発見」の主体ではある7 統計の見方第3 障害者虐待防止法1 三つの類型2 医療機関は通報義務の類型にない3 附則2条の検討規定第4 精神科病院の特則-精神保健福祉法40条の2以下1 令和4年改正と施行日2 各条の内容3 「発見した者」は誰でもよい4 通報先は都道府県(指定都市では指定都市)5 「精神科病院」の範囲6 苦情との区別と退院等の請求7 公表状況と大阪府・大阪市の窓口第5 一般の病院で虐待が疑われるときの相談・通報先1 医療安全支援センター2 医療法25条の立入検査3 刑事4 民事5 市町村・地域包括支援センターに相談した場合6 身体拘束の違法性に関する裁判例第6 「病院に見えて」高齢者虐待防止法の対象になる施設第7 成年後見人・家族が訴えを受けたときの実務(私見)1 基本姿勢2 手順3 精神科病院での通報義務と後見人4 後見人の権限との関係5 家庭裁判所の関与6 訴えが事実でなかった場合7 診療記録の開示請求第8 出典・参考資料1 法令2 公的資料3 裁判例4 関連記事
第1 この記事の対象と結論
1 対象と基準日

本記事は,入院中の高齢者や障害者について,家族や成年後見人が「病院で虐待されている」と訴え,又はそのような訴えを受けた場面を念頭に,どの法律が適用され,どこに相談・通報すべきかを整理するものである。
想定している読者は,成年後見人,成年後見事件に関わる弁護士及び入院中の高齢者の家族である。
基準日は令和8年9月18日であり,法令は同日にe-Gov法令APIで取得した現行条文により,厚生労働省の公表資料は同日に取得したものにより確認した。
本記事は,公表されている条文と行政資料を整理した一般的な解説であり,個別の事案について虐待の有無を判断するものではない。
第7は筆者の私見を含む実務上の手順であり,その旨を明示している。

2 結論

①高齢者虐待防止法の「養介護施設従事者等による高齢者虐待」の対象施設は2条5項に限定列挙されており,医療法上の病院は含まれない。
②厚生労働省の国マニュアルも,医療機関における高齢者への虐待は高齢者虐待防止法の対象外であり,医療法に基づいて都道府県等が検査・指導を行うものと説明している。
③障害者虐待防止法でも,医療機関は通報義務の対象となる類型に入っておらず,医療機関の管理者に虐待防止措置を講じさせる規定(31条)と,附則2条の検討規定があるにとどまる。
④精神科病院については,令和4年の精神保健福祉法改正により,令和6年4月1日から,業務従事者による障害者虐待を受けたと思われる精神障害者を発見した者に都道府県(指定都市を含む。)への通報義務が課されている(40条の3)。
⑤精神科病院以外の病院で虐待が疑われるときは,医療安全支援センター,医療法25条の立入検査権限を持つ都道府県等,警察,民事上の責任追及を場面に応じて使い分けることになる。
⑥訴えを受けた後見人は,訴えを放置も鵜呑みもせず,内容を具体化し,記録し,病院に事実確認を求め,必要に応じて外部の窓口につなぎ,家庭裁判所に報告するのが基本である。

第2 高齢者虐待防止法の構造
1 二つの類型

高齢者虐待の防止,高齢者の養護者に対する支援等に関する法律(平成17年法律第124号。以下「高齢者虐待防止法」という。)は,「高齢者」を65歳以上の者と定義している(2条1項)。
同法の「高齢者虐待」は,「養護者による高齢者虐待」と「養介護施設従事者等による高齢者虐待」の二つに限られている(2条3項)。
「養護者」とは,高齢者を現に養護する者であって養介護施設従事者等以外のものをいう(2条2項)。
虐待の内容は,身体的虐待,介護等の放棄,心理的虐待,性的虐待及び経済的虐待であり,養護者によるものは2条4項,養介護施設従事者等によるものは2条5項に定められている。

2 「養介護施設」の列挙に病院はない

2条5項1号は,次の施設を「養介護施設」と定義している。
①老人福祉法5条の3に規定する老人福祉施設(老人デイサービスセンター,老人短期入所施設,養護老人ホーム,特別養護老人ホーム,軽費老人ホーム,老人福祉センター及び老人介護支援センター)
②老人福祉法29条1項に規定する有料老人ホーム
③介護保険法に規定する地域密着型介護老人福祉施設,介護老人福祉施設,介護老人保健施設及び介護医療院
④介護保険法115条の46第1項に規定する地域包括支援センター

2条5項2号は,老人居宅生活支援事業や介護保険法上の居宅サービス事業等を「養介護事業」と定義している。
この列挙の中に,医療法1条の5第1項に規定する「病院」や同条2項に規定する「診療所」は含まれていない。
他方で,介護老人保健施設と介護医療院は,医療法1条の2第2項では病院・診療所と並ぶ「医療提供施設」とされているが,高齢者虐待防止法の上では養介護施設に含まれる。

(続きを読む...)病院での虐待と高齢者虐待防止法-病院が「養介護施設」に含まれないことの意味と相談・通報先(AI作成)

DNA鑑定で兄弟・親子関係と相続は変わるか――戸籍上の身分関係と科学的証拠(AI作成)

目次第1 この記事の概要1 想定している場面2 基準日と資料の性質第2 法律上の親子関係・兄弟姉妹関係は何で決まるか1 実母子関係は分娩の事実で決まる2 実父子関係は嫡出推定か認知で決まる3 兄弟姉妹関係は親子関係から導かれる4 戸籍の記載の位置付け第3 最高裁平成26年7月17日の2つの判決1 2つの判決の書誌2 裁判要旨3 理由中の判示4 推定の及ばない子という例外5 射程第4 令和4年民法改正による嫡出推定・嫡出否認の見直し1 改正の概要と施行日2 民法772条(嫡出の推定)3 民法774条・775条(否認権者と訴えの相手方)4 民法777条・778条・778条の2(出訴期間)5 経過措置6 父が死亡している場合第5 嫡出推定が及ばない場合等の争い方1 親子関係不存在確認の訴え2 当事者の一方又は双方が死亡している場合の被告2の2 法定相続分に差異が生じる場合の確認の利益3 調停前置と合意に相当する審判4 長期間の親子としての実態と権利の濫用5 判決の効力と戸籍の訂正第6 相続への影響1 兄弟姉妹の相続順位と相続分2 生物学上のつながりの有無は相続権を左右しない3 「相続しない」ことの法的な意味第7 私的なDNA鑑定を求められたときの実務1 相手方の同意なしに検体を取ることの問題2 成年後見人には検体採取に同意する権限がない3 本人が死亡した後の検体4 費用と手続は鑑定を求める側が担う5 DNA鑑定は信用できるか―親子鑑定と兄弟鑑定の違い6 裁判で使う鑑定を依頼する前に確認すること第8 遺体・遺骨の引取りとの関係第9 国際的な親子関係では準拠法を先に確認する第10 まとめ第11 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 公的資料4 関連記事
第1 この記事の概要
1 想定している場面

相続や死後の手続の場面では,次のような申出を受けることがある。
① 「本当に血がつながっているのか確かめたい。DNA鑑定の結果次第で、死後の手続にも相続にも関わるかどうかを決めたい。」という親族の申出
② 「亡くなった父の子とされている人は、本当は父の子ではないのではないか。」と疑う相続人の申出
③ 「成年後見人として、本人の検体を採って鑑定に回してほしい。」という親族の依頼

この記事は,弁護士・成年後見人・相続の相談者を読者として,こうした申出を受けたときに,DNA鑑定の結果によって法律上の親子関係・兄弟姉妹関係と相続がどこまで変わるのかを整理するものである。
結論を先に書くと,DNA鑑定で示された血縁の有無だけで,法律上の親子関係や相続人の地位は変わらない。
また,嫡出推定が及ぶ父子関係は,科学的証拠によって生物学上の父子関係がないことが明らかであっても,親子関係不存在確認の訴えでは争えないというのが最高裁判例である。

鑑定を依頼する前に,知りたい血縁関係と,その結果によって変更したい法律上の関係を分けて整理すると,必要な手続が見えやすくなる。
主な確認先は次のとおりである。

相談の場面まず確認する事項本文の参照先DNA鑑定で血縁が否定された嫡出推定の有無と,利用できる訴え第3~第5亡くなった父の子かを争いたい相続関係,訴えの利益,当事者及び出訴期間第4の6・第5兄弟姉妹の相続分を確かめたい共通する法律上の父母と,親子関係を争う必要性第2・第6鑑定の依頼方法を決めたい対象者,同意・採取権限,検体の由来及び提出先第7
2 基準日と資料の性質

この記事の基準日は令和8年9月18日である。
法令は,e-Gov法令検索(法令API)で基準日に取得した現行の条文及び改正附則によった。
裁判例は,裁判所ウェブサイトの裁判例検索で存在と裁判要旨を確認したものを挙げ,同サイトに掲載のないものはその旨を明記した。
この記事は一般的な整理であり,個別の事件では,戸籍の記載,子の出生の時期,認知の有無,当事者の生死等によって使える手続が大きく異なる。

第2 法律上の親子関係・兄弟姉妹関係は何で決まるか
1 実母子関係は分娩の事実で決まる

最高裁昭和37年4月27日判決(昭和35年(オ)第1189号,民集16巻7号1247頁)の裁判要旨は,「母と非嫡出子間の親子関係は、原則として、母の認知をまたず、分娩の事実により当然発生する。」というものである。
民法779条は「嫡出でない子は、その父又は母がこれを認知することができる。」と定めているが,母子関係については,認知ではなく分娩の事実が基準になるということである。

2 実父子関係は嫡出推定か認知で決まる

婚姻中の夫婦の間に生まれた子について,民法772条1項は「妻が婚姻中に懐胎した子は、当該婚姻における夫の子と推定する。」と定めている。
同項後段は,婚姻前に懐胎した子であって婚姻成立後に生まれたものも同様としている。
懐胎の時期については,同条2項が,婚姻の成立の日から200日以内に生まれた子は婚姻前に懐胎したものと推定し,婚姻の成立の日から200日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から300日以内に生まれた子は婚姻中に懐胎したものと推定すると定めている。
他方,嫡出でない子の父子関係は,父の認知(民法779条)又は認知の訴え(民法787条)によって生じる。
つまり,実父子関係は,生物学上のつながりそのものではなく,嫡出推定又は認知という法律上の仕組みを通じて定まる。

3 兄弟姉妹関係は親子関係から導かれる

兄弟姉妹関係は,それ自体を独立に定める仕組みがあるわけではなく,共通の父又は母との法律上の親子関係から導かれる。

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親族が遺体・遺骨の引取りを拒む・条件を付ける・連絡がつかないとき-成年後見人の対応と意向照会書(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論1 対象と基準日2 結論第2 三つの場面の区別1 引取りを拒む場合2 条件を付ける場合3 連絡がつかない場合第3 民法873条の2の「相続人の意思に反することが明らかなとき」1 条文2 相続人の同意は要件ではない3 「引き取らない」と「火葬に反対する」は違う4 条件付きの拒否をどう読むか第4 DNA鑑定などの条件に後見人は応じるべきか1 後見人には検体採取に同意する権限がない2 法律上の親族関係は戸籍と裁判手続で決まる3 親族に渡すべきものは鑑定ではなく戸籍4 死亡後の遺体からの検体第5 連絡がつかない場合1 死後事務はできる2 本人の資力で道を分ける3 死亡届と火葬の時間軸第6 遺骨を引き取らない場合1 納骨まで3号許可で行える2 合祀すると取り出せなくなることがある3 後日に争いになったときの決着の道第7 危篤の段階でしておくこと1 意向照会書を送る2 意向照会書の文例3 短い期限だけを区切った通知の限界4 家庭裁判所への事前連絡と原資の確保5 病院・葬儀社・火葬場との事前調整第8 親族から苦情が寄せられているとき1 書面で問い,書面で答えてもらう2 虐待の訴えがあった場合第9 死亡後の流れと引継ぎ1 死亡後の流れ2 相続財産の受領を拒まれた場合3 令和8年改正後第10 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 文献4 関連記事
第1 この記事の対象と結論
1 対象と基準日

本記事は,成年被後見人が危篤となり,又は死亡したときに,相続人となる親族が,遺体や遺骨の引取りを拒み,引取りに条件を付け,又は連絡がつかないという場面で,成年後見人が何をどの順序で行うかを整理するものである。
基準日は令和8年9月18日であり,法令は同日にe-Gov法令検索で確認した現行条文による。
元後見人の死後事務の権限の全体像は成年被後見人が死亡した後に元後見人ができること-民法873条の2の死後事務と事務管理で,墓地埋葬法・葬祭扶助・遺骨の帰属・葬儀費用の負担は葬儀・火葬の実施で扱っている。
本記事はこれらと重複する説明を最小限にとどめ,親族が「動かない」「条件を付ける」「つかまらない」という場面に絞る。

2 結論

①親族が「引き取らない」と言っていることは,それだけでは,後見人が火葬や納骨をすることに反対する意思表示とは限らない。
②「DNA鑑定をしなければ引き取らない」といった条件には,後見人は応じる権限を持たない。法律上の親族関係は戸籍と裁判手続で決まり,鑑定結果だけで当然に変わるものではない。
③相続人と連絡がつかないことは,民法873条の2に基づく死後事務の妨げにならない。
④最も効果があるのは,本人の危篤の段階で,火葬への異議の有無,遺骨の引取りの有無,引き取らない場合の納骨の方法を分けて書面で尋ね,回答がないときの方針まで伝えておくことである。

第2 三つの場面の区別
1 引取りを拒む場合

親族が「自分は引き取らない」「関わりたくない」と言う場面である。
遠方に住んでいる,本人と長く疎遠だった,費用の負担を避けたいなど,理由はさまざまである。
この場面で問題になるのは,親族の言葉が「自分は動かない」という意味なのか,「火葬も納骨もするな」という意味なのかである。

2 条件を付ける場合

親族が「本当に血がつながっているか分からないので,DNA鑑定をしてくれなければ引き取らない」「こちらの指定する葬儀をしなければ引き取らない」などと,引取りに条件を付ける場面である。
条件の中身が,後見人の権限の中で実現できるものか,そもそも権限の外にあるものかを見分ける必要がある。
また,条件付きの拒否には,火葬そのものを止めてほしいという意思が含まれていることがあるので,その点を確かめる必要がある。

3 連絡がつかない場合

相続人の所在は分かっているが電話に出ない,郵便を送っても返事がない,死亡の連絡をしても応答がないという場面である。
「反対されている」のではなく「連絡が取れない」のであれば,扱いは大きく異なる。

第3 民法873条の2の「相続人の意思に反することが明らかなとき」
1 条文

民法873条の2は,「成年後見人は、成年被後見人が死亡した場合において、必要があるときは、成年被後見人の相続人の意思に反することが明らかなときを除き、相続人が相続財産を管理することができるに至るまで、次に掲げる行為をすることができる。ただし、第三号に掲げる行為をするには、家庭裁判所の許可を得なければならない。」と定める。
3号は「その死体の火葬又は埋葬に関する契約の締結その他相続財産の保存に必要な行為(前二号に掲げる行為を除く。)」である。
したがって,民法873条の2に基づいて火葬や納骨に関する契約を結ぶには家庭裁判所の許可(以下「3号許可」という。)が必要であり,かつ,相続人の意思に反することが明らかなときはできない。
ただし,大阪家裁後見センターは,時間的制約等から3号許可を得ずに応急処分(民法874条,654条)等を根拠として火葬契約を結んだ場合でも当然に違法となるわけではなく,これを違法視・問題視した事案も報告されていないとして,この点を誤解した3号許可の申立てに注意を促している(大阪家庭裁判所後見センター編『大阪家庭裁判所後見センターだより』(大阪弁護士協同組合,2025年)250頁)。

(続きを読む...)親族が遺体・遺骨の引取りを拒む・条件を付ける・連絡がつかないとき-成年後見人の対応と意向照会書(AI作成)

前妻・前夫との子がいる場合の法定相続情報一覧図―前配偶者の表示,線の引き方,前婚の子の戸籍と現住所の集め方(AI作成)

目次第1 前婚の子がいる相続で一覧図に載せる人1 前婚の子は相続人であり,前配偶者は相続人ではない2 前婚の子が相続人とならない場合と別の整理が要る場合第2 前配偶者の表示と線の引き方1 法務局の記載例から読み取れること2 前配偶者を図に表す三つの方法3 続柄と作成日の書き方4 前婚の子と後婚の子がいる架空例で点検する第3 前婚の子の戸籍を探す1 離婚しても子の戸籍は当然には移らない2 子が別の戸籍へ移る主な原因3 前婚の子の戸籍の取り方第4 前婚の子の現住所を確かめる1 住所の証明に使う書類の違い2 戸籍の附票を請求できる人3 住所を一覧図に書くかの判断第5 住民票と戸籍の附票の「本籍」「筆頭者」「世帯主」欄1 「本籍」「筆頭者」は戸籍の表示であり,世帯主とは別である2 本籍や筆頭者を省略した証明書でよいか第6 申出前の点検1 前妻・前夫の名前や戸籍も必要か2 連絡のない前婚の子を省略できるか第7 出典・参考資料1 法令2 法務局の記載例と手続案内3 国会の答弁書及び法務省の案内4 実務家の解説記事
第1 前婚の子がいる相続で一覧図に載せる人
1 前婚の子は相続人であり,前配偶者は相続人ではない
(1) 本記事の対象と前提

本記事は,被相続人に,離婚した前配偶者との間の子(以下「前婚の子」という。)がいる場合について,法定相続情報一覧図の書き方と,前婚の子の戸籍及び現住所の集め方を説明するものである。
令和8年9月25日現在の法令,法務局の記載例及び手続案内を前提とし,戸籍の基本的な読み方と一覧図全般の作り方は,「法定相続情報一覧図の作成方法―戸籍謄本の読み方と相続人の確認」で説明している。

(2) 前婚の子と前配偶者の法的地位

被相続人の子は相続人となり,被相続人の配偶者は常に相続人となる(民法887条1項・890条)。
子が数人あるときの各自の相続分は相等しいとされているから,前婚の子と,現在の配偶者との間の子(以下「後婚の子」という。)との間で,どの婚姻から生まれたかによって法定相続分は変わらない(民法900条4号)。

他方,離婚によって婚姻関係が終了した前配偶者は,被相続人の配偶者ではないから,相続人とならない。
一覧図に記載するのは,被相続人の氏名,生年月日,最後の住所及び死亡の年月日と,相続開始の時における同順位の相続人の氏名,生年月日及び被相続人との続柄であり(不動産登記規則247条1項),前配偶者の氏名や生年月日は記載事項に含まれない。

(3) 一覧図を申し出ることができる人

一覧図の保管及び写しの交付を申し出ることができるのは,相続人又は相続人の地位を相続により承継した者であり(不動産登記規則247条1項),前婚の子も後婚の子も,現在の配偶者も申出人になれる。
もっとも,申出には,前婚の子を含む相続人全員の戸籍の謄本,抄本又は記載事項証明書を添付する必要があるため(同条3項4号),前婚の子と連絡を取っていない相続人が申し出る場合でも,前婚の子の戸籍を取得する作業は省略できない。

2 前婚の子が相続人とならない場合と別の整理が要る場合
(1) 前婚の子が特別養子縁組をしている場合

前婚の子が特別養子縁組をしているときは,養子と実方の父母及びその血族との親族関係は終了する(民法817条の9本文)。
同条ただし書が親族関係を残すのは,民法817条の3第2項ただし書に規定する「他の一方」,つまり養親の配偶者であって子の実親である者とその血族に限られる。
したがって,例えば前配偶者の再婚相手が前婚の子と特別養子縁組をした場合,前配偶者との親族関係は残る一方,被相続人との親子関係は終了し,前婚の子は被相続人の相続人とならない。

これに対し,普通養子縁組は,養子と養親及びその血族との間に親族関係を生じさせるものであり(民法727条・809条),民法817条の9のように実方との親族関係を終了させる規定は置かれていない。
前婚の子の戸籍に縁組の記載があるときは,普通養子縁組か特別養子縁組かを身分事項から読み分けてから,一覧図に載せるかを判断する。

(2) 前婚の子が死亡している場合

前婚の子が被相続人の相続開始以前に死亡しているときは,その子(被相続人の孫)が代襲して相続人となり得る(民法887条2項)。
これに対し,被相続人の死亡後に前婚の子が死亡したときは数次相続となり,前婚の子を被相続人とする相続関係は別に整理する。
代襲相続の線の引き方と数次相続の扱いは,前記の一覧図作成の記事の第4の2及び第5の3で説明している。

第2 前配偶者の表示と線の引き方
1 法務局の記載例から読み取れること
(1) 前婚の子を題名とする記載例はない

法務局の「主な法定相続情報一覧図の様式及び記載例」(令和8年9月25日確認時点の更新日は2024年4月1日)には,配偶者及び子,子のみ,配偶者及び親,配偶者及び兄弟姉妹,代襲相続,旧民法下の相続,養子を含む場合等の記載例が掲載されている。
しかし,前婚の子がいる場合を題名とする記載例は掲載されていない。

(続きを読む...)前妻・前夫との子がいる場合の法定相続情報一覧図―前配偶者の表示,線の引き方,前婚の子の戸籍と現住所の集め方(AI作成)

遺留分減殺請求を受けた親子・夫婦を一人の弁護士が代理できるか―減殺の順序,受贈者自身の遺留分,利益相反の説明(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論1 対象とする場面2 結論第2 誰がどれだけ減殺を受けるかを決める規定1 遺贈は生前贈与より先に減殺される2 複数の遺贈は目的の価額の割合に応じて減殺される3 生前贈与は後の贈与から減殺される4 相続人に対する特別受益の贈与は時期を問わない5 相続人でない者への古い贈与は要件が異なる第3 受遺者・受贈者が共同相続人である場合1 遺贈についての平成10年2月26日判決2 生前贈与の扱いと判例タイムズ1345号の計算シート3 数値例4 計算の前提を確認する事項第4 家族の間で利害が分かれる場面1 遺贈を受けた者と生前贈与を受けた者2 新しい贈与の受贈者と古い贈与の受贈者3 相続人でない者への贈与4 価額弁償の対象と支払者5 無資力の損失6 特別受益と取得財産の主張第5 一人の弁護士が複数の被告を代理するときの規律1 受任時の説明義務2 現実に利害が対立したとき3 利益相反事件との関係4 受任時に説明しておく事項第6 委任契約と弁護士費用1 委任契約書に定める事項2 成功報酬金の算定基礎第7 受任時の確認手順第8 関連記事第9 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 日本弁護士連合会の会規4 文献
第1 この記事の対象と結論
1 対象とする場面

本記事は,令和元年7月1日より前に開始した相続について,遺留分権利者から遺留分減殺請求を受けた受遺者又は受贈者が複数いる場面を扱う。
典型例は,被相続人から遺言で財産を取得した子と,生前贈与を受けた他の家族が,同じ訴訟の被告になる場合である。
基準日は令和8年9月18日である。

平成30年法律第72号附則2条により,同法の施行日前に開始した相続の遺留分には,原則として改正前の民法(以下「旧民法」という。)が適用される。

2 結論

複数の受遺者・受贈者のうち誰がどれだけ減殺を受けるかは,旧民法1033条から1035条までの順序と,各処分の目的の価額によって決まる。
遺贈は生前贈与より先に減殺され,生前贈与は後の贈与から前の贈与へと減殺される。

もっとも,受遺者又は受贈者が共同相続人である場合は,その人自身の遺留分を考慮する必要がある。
最高裁は,相続人に対する遺贈について,受遺者の遺留分額を超える部分だけが旧民法1034条の「目的の価額」に当たるとした。
判例タイムズ1345号の論文は,相続人の一人に遺贈及び贈与がされた場合にはその総額から遺留分額を控除して遺留分超過額を算出すべきであるとし,同論文の計算シートは,生前贈与についても受贈者ごとの遺留分超過額を上限として減殺額を割り付けている。
そのため,贈与の日付が新しいというだけで,その受贈者が大きな負担を負うとは限らない。

家族が同じ訴訟の被告になっても,減殺の順序,評価,価額弁償の対象及び相続人でない者への贈与の扱いについて,被告の間で利害が分かれることがある。
一人の弁護士が複数の被告から受任することは直ちに禁じられるものではないが,弁護士職務基本規程32条により,受任に当たって辞任の可能性その他の不利益を及ぼすおそれを依頼者それぞれに説明しなければならない。

第2 誰がどれだけ減殺を受けるかを決める規定
1 遺贈は生前贈与より先に減殺される

旧民法1033条は,贈与は遺贈を減殺した後でなければ減殺することができないと定めていた。
遺言で財産を取得した家族と,生前贈与を受けた家族が同時に請求を受けている場合は,まず遺贈の側に侵害額を割り当てる。

特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」旨の遺言による取得も,最高裁平成10年2月26日第一小法廷判決(平成9年(オ)第802号,民集52巻1号274頁)により,遺贈と同様に扱われる。

2 複数の遺贈は目的の価額の割合に応じて減殺される

旧民法1034条は,遺贈はその目的の価額の割合に応じて減殺すると定め,遺言者が遺言に別段の意思を表示したときはその意思に従うとしていた。

3 生前贈与は後の贈与から減殺される

旧民法1035条は,贈与の減殺は後の贈与から順次前の贈与に対してすると定めていた。
遺贈を減殺しても侵害が残る場合は,相続開始に近い贈与から古い贈与へ遡って減殺額を割り当てる。

4 相続人に対する特別受益の贈与は時期を問わない

旧民法1030条は,減殺の基礎に算入する贈与を,原則として相続開始前の1年間にしたものに限り,当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をしたときは,1年前の日より前にしたものも算入するとしていた。

最高裁平成10年3月24日第三小法廷判決(平成9年(オ)第2117号,民集52巻2号433頁)は,旧民法903条1項の定める相続人に対する贈与は,減殺請求を認めることがその相続人に酷であるなどの特段の事情のない限り,旧民法1030条の要件を満たさないものであっても遺留分減殺の対象となるとした。

5 相続人でない者への古い贈与は要件が異なる

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遺留分減殺請求の訴額の算定―不動産の持分移転登記請求,土地の2分の1,建物,訴額と価額弁償額・弁護士費用の違い(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論1 対象とする訴訟2 結論第2 訴額算定の法令上の枠組み1 訴えで主張する利益によって算定する2 昭和31年の民事局長通知3 平成6年の民事局長通知と土地の2分の14 手数料額への当てはめ第3 遺留分減殺による持分移転登記請求の訴額1 基本の算式2 数値例3 手引が示す追加の2分の14 請求の趣旨と訴額の対応第4 訴状の訴額から評価額を逆算するときの注意1 固定資産税評価額の年度2 換地・分筆・合筆3 未知数を一つ置けば必ず一致する第5 訴額と区別すべき金額1 四つの金額の違い2 固定資産税評価額と時価3 訴額に相当する金銭を支払えば終わるわけではない4 弁護士費用の算定基礎第6 現行法の遺留分侵害額請求の訴額第7 訴状を作成し,又は受け取ったときの確認手順1 訴状を作成する側2 訴状を受け取った側第8 関連記事第9 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 公的資料4 文献
第1 この記事の対象と結論
1 対象とする訴訟

本記事は,令和元年7月1日より前に開始した相続について,遺留分権利者が受遺者又は受贈者に対し,遺留分減殺を原因とする不動産の持分移転登記手続を求める訴訟の「訴訟物の価額」(以下「訴額」という。)を扱う。
基準日は令和8年9月18日であり,条文は同日にe-Gov法令検索で確認した。

平成30年法律第72号附則2条は,同法の施行日前に開始した相続について,原則として従前の例によると定めている。
そのため,訴えの提起が令和8年であっても,相続開始が令和元年6月30日以前であれば,旧法の遺留分減殺請求として,金銭ではなく不動産の持分そのものが請求の対象になることがある。

2 結論

訴額の出発点は,昭和31年12月12日民事甲第412号民事局長通知の「所有権移転登記請求権 目的たる物の価格」であり,固定資産税評価額のある不動産はその価格による。
土地については,平成6年3月28日民二第79号民事局長通知により,受付事務の取扱いとして固定資産税評価額に2分の1を乗じた額を基準とする。
建物には,この土地の2分の1の取扱いはない。

遺留分減殺による持分移転登記請求では,こうして求めた目的物の価額に,各原告が求める持分割合を乗じ,原告が複数であれば合算するのが基本である。
もっとも,『三訂版 事例からみる訴額算定の手引』は,遺留分減殺による持分移転登記請求を「抹消に代わる移転登記」と位置付け,更に2分の1を乗じる計算を示している。
他方,判例タイムズ1345号のモデル訴状は,通常の所有権移転登記の形で請求の趣旨を示しており,受付実務が一つに定まっているとまではいえない。

訴額は,申立手数料を計算するための額である。
遺留分侵害額,価額弁償の額及び弁護士費用の算定基礎とは,基準も時点も異なる。
訴状の訴額に相当する金銭を支払えば紛争が終わるわけではない。

第2 訴額算定の法令上の枠組み
1 訴えで主張する利益によって算定する

民事訴訟法8条1項は,訴額を「訴えで主張する利益によって算定する」と定める。
民事訴訟費用等に関する法律4条1項は,手数料の算出の基礎となる訴額も,民事訴訟法8条1項及び9条により算定するとしている。

一つの訴えで数個の請求をする場合は,民事訴訟法9条1項本文により,その価額を合算する。
ただし,訴えで主張する利益が各請求について共通である場合は,同項ただし書により合算しない。

2 昭和31年の民事局長通知

昭和31年12月12日民事甲第412号民事局長通知「訴訟物の価額の算定基準について」は,所有権について「目的たる物の価格」とし,地方税法349条による固定資産税の課税標準となる価格があるものはその価格,その他のものは取引価格によるとしている。
同通知は,所有権移転登記請求権についても「目的たる物の価格」とし,所有権に基づく物の引渡(明渡)請求権については「目的たる物の価格の二分の一」としている。

同通知は,各裁判所の受付事務の取扱いが分かれていたことから参考資料として作成されたものであり,訴額に争いがあるとき等の基準となるものではないと明記している。
また,価格の認定については,固定資産税の課税標準となる価格を証明する書面を提出させる等の方法により当事者に証明させるとしている。

3 平成6年の民事局長通知と土地の2分の1

平成6年3月28日民二第79号民事局長通知「土地を目的とする訴訟の訴訟物の価額の算定基準について」は,平成6年度の評価替えで宅地の固定資産税評価額が大きく上昇することを踏まえ,同年4月1日から当分の間,土地を目的とする訴訟の受付事務の取扱いとして,固定資産税評価額に2分の1を乗じて得た金額を基準とすることが妥当であるとした。

(続きを読む...)遺留分減殺請求の訴額の算定―不動産の持分移転登記請求,土地の2分の1,建物,訴額と価額弁償額・弁護士費用の違い(AI作成)

小規模企業共済の共済金と相続―死亡時の受給権者の順位,相続放棄,相続税の非課税枠,生前受取の課税及び承継通算(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 本記事の対象と基準日2 結論の要旨第2 共済金の種類と支給事由1 法律上の共済金と解約手当金2 中小機構の案内上の「共済金A」「共済金B」「準共済金」第3 共済契約者が死亡したときの受給権者1 遺族の範囲と順位2 同順位の受給権者が複数いる場合3 受給権者がいない場合と欠格第4 共済金は相続財産か1 遺族に直接発生する権利2 相続放棄と共済金3 遺産分割・遺言執行との関係4 既に発生していた受給権と分割受取中の残額第5 相続税の取扱い1 みなし相続財産としての退職手当金等2 非課税限度額3 相続人以外の者や相続放棄者が受け取った場合4 所得税は課されない第6 生前に受け取る共済金等の所得税1 一括受取は退職所得2 分割受取は公的年金等の雑所得3 65歳未満の任意解約等は一時所得4 掛金は小規模企業共済等掛金控除の対象第7 死亡した年の準確定申告1 期限と掛金控除2 死亡の年に生前受け取っていた共済金第8 共済金の請求手続と期限1 請求手続と添付書類2 時効と完成猶予第9 事業を承継する配偶者・子の承継通算1 承継通算の要件2 承継通算を選んだ場合の課税第10 出典1 法令2 所管行政機関の通達・解説・文書回答3 共済契約の運営機関の資料
第1 本記事の対象と結論
1 本記事の対象と基準日

本記事は,小規模企業共済に加入していた個人事業主又は会社等の役員が死亡した場合に,誰が共済金を受け取り,それが相続財産や相続税とどう関係するかを,小規模企業共済法,所得税法,相続税法及び独立行政法人中小企業基盤整備機構(以下「中小機構」という。)の公表資料に基づいて整理するものであり,AIを用いて作成した。
法令は令和8年9月17日時点でe-Gov法令検索に掲載されている現行条文により,中小機構及び国税庁の資料は同日に各ウェブサイトで確認した内容による。
生前に共済金等を受け取った場合の所得税と,死亡した年の準確定申告との関係も,相続手続に関係する範囲で扱う。

2 結論の要旨

共済契約者の死亡による共済金は,民法の相続人ではなく,小規模企業共済法10条が定める順位の遺族が受け取る。
①第1順位は配偶者であり,届出をしていない事実上の配偶者を含む。
②共済金の請求権は遺族に直接発生する権利であり,中小機構は,相続財産に属さないため相続を放棄しても受給権者であれば請求できると説明している。
③相続税では,共済金は死亡退職金と同じ「退職手当金等」として相続又は遺贈により取得したものとみなされ,相続人が取得した分には,500万円に法定相続人の数を乗じた非課税限度額がある。
④相続人以外の者や相続を放棄した者が受け取った共済金には,この非課税限度額の適用がない。
⑤生前に一括で受け取った共済金は退職所得,分割で受け取った共済金は公的年金等の雑所得となり,65歳未満での任意解約による解約手当金は一時所得となる。
⑥事業の全部を相続した配偶者又は子は,相続開始から1年以内であれば,共済金を請求せずに掛金納付月数を引き継ぐ承継通算を選べる。

第2 共済金の種類と支給事由
1 法律上の共済金と解約手当金
(1) 共済金

小規模企業共済法9条1項は,共済契約者に事業の廃止等の事由が生じた場合であって掛金納付月数が6か月以上のときは,中小機構は「その者(第一号又は第二号に掲げる事由が死亡によるものであるときは、その遺族)に共済金を支給する。」と定めている。
支給事由は,個人事業の廃止(会社等の役員の場合は会社等の解散),会社等の役員の疾病,負傷若しくは死亡による退任又は65歳以上での退任,及び65歳以上で掛金納付月数が180か月以上の共済契約者の請求である。
共済金は一時金として支給するのが原則であり(同法9条の2),共済契約者の請求による分割払も認められているが,事業の廃止等の支給事由が生じた日に60歳未満であるときは分割払を選べない(同法9条の3第1項ただし書2号)。

(2) 解約手当金

共済契約者は,いつでも共済契約を解除することができ(小規模企業共済法7条3項),個人事業主が同一の事業を営む会社を設立するため事業を廃止したとき等は,共済契約が解除されたものとみなされる(同条4項)。
共済契約が解除された場合であって掛金納付月数が12か月以上のときは,中小機構は共済契約者に解約手当金を支給する(同法12条1項)。

2 中小機構の案内上の「共済金A」「共済金B」「準共済金」

中小機構は,請求事由に応じて,共済金等を「共済金A」「共済金B」「準共済金」「解約手当金」の4種類に分けて案内している。
これらは法律上の用語ではなく,中小機構の案内上の区分であり,受け取る金額の水準が区分ごとに異なる。

区分個人事業主の主な請求事由会社等の役員の主な請求事由共済金A個人事業の廃業,共済契約者の死亡会社等の解散共済金B65歳以上で180か月以上払い込んだ場合の老齢給付疾病・負傷又は65歳以上での退任,共済契約者の死亡,老齢給付準共済金法人成りの結果,加入資格がなくなった場合法人の解散や疾病・負傷によらない65歳未満での退任解約手当金任意解約,機構解約任意解約,機構解約

共済契約者の死亡は,個人事業主では共済金A,会社等の役員では共済金Bの請求事由として案内されている。
いずれも,死亡による共済金は遺族が請求し,分割受取や一括・分割併用受取は選べない。

第3 共済契約者が死亡したときの受給権者

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清算型遺言(財産を換金して分ける遺言)の実現方法―遺言執行者がいない場合・信託銀行が就職を辞退した場合の手続,登記及び課税(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 本記事の対象と基準日2 結論の要旨第2 清算型遺言の法的性質1 清算型遺言の典型的な文言2 特定遺贈・包括遺贈・相続分の指定のいずれと解されるか3 性質の違いが影響する場面第3 遺言執行者の権限と相続人の処分の制限1 遺言執行者がいる場合の換金と分配2 指定された者が就職を承諾する前の相続人の処分3 就職前の辞退と就職後の辞任第4 遺言執行者がいない場合の二つの方法1 家庭裁判所に遺言執行者の選任を申し立てる方法2 相続人と取得する人の全員で換金・分配する方法第5 金融機関での手続1 預金2 証券会社3 弁護士が取得者の一部の代理人となる場合第6 不動産を換金する場合の登記1 相続登記を経てから買主に移転する2 遺言執行者がいない場合の相続登記と贈与税3 売買契約の条項第7 換金と課税1 譲渡所得は誰の所得になるか2 被相続人の準確定申告との関係3 相続税第8 出典1 法令2 裁判例3 裁判所の手続案内4 国税庁の質疑応答事例・研究論文5 金融機関の公開資料
第1 本記事の対象と結論
1 本記事の対象と基準日

本記事は,遺産の全部又は一部を売却・解約して金銭に換え,債務や費用を支払った残りを定めた割合で分けるよう定めた遺言(以下「清算型遺言」という。)を,遺言執行者がいない場合や,指定された信託銀行等が就職を辞退した場合にどう実現するかを,民法,家事事件手続法,不動産登記法,所得税法,国税庁の公表資料及び金融機関の公開資料に基づいて整理するものであり,AIを用いて作成した。
法令は令和8年9月17日時点でe-Gov法令検索に掲載されている現行条文により,裁判例は裁判所ウェブサイトで個別ページ及び全文を確認したものに限って用いる。
金融機関の必要書類は同日に各社のウェブサイトで確認した内容であり,手続の細部は変更され得るため,実際には各社の最新の案内で確認する必要がある。

2 結論の要旨

清算型遺言は,遺言執行者が就職していれば遺言執行者が換金と分配を行う。
遺言執行者が指定されていない場合や,指定された者が就職を辞退した場合のように,遺言執行者がいない場合には,遺言で財産を取得する人だけでなく,遺贈を履行する義務を負う法定相続人全員(遺言で何も取得しない相続人を含む。)と取得者全員が協力することにより,換金・分配できる場合がある。
ただし,遺言執行者に指定された者がまだ就職を承諾していないだけの場合は,「遺言執行者がいない場合」と同じには扱えず,就職するか辞退するかを確認する必要がある。
①清算型遺言は,一律に特定遺贈又は包括遺贈と決まるものではなく,遺言の趣旨により,包括遺贈や,相続分の指定及び遺産分割方法の指定と解されることがある。
②遺言執行者に指定された者が就職を承諾する前でも,民法1013条の「遺言執行者がある場合」に当たるとした最高裁判例があるため,指定された者が就職を辞退したことを書面で確認してから相続人側の手続に移るのが安全である。
③遺言執行者がいない場合は,家庭裁判所に遺言執行者の選任を申し立てるか,相続人全員と取得する人全員の書類で金融機関や登記の手続を進めるかを選ぶことになる。
④金融機関は,遺言書があって遺言執行者がいない場合の書類を別に定めていることが多いが,分ける割合や承継人が明確でない場合は,法定相続人全員の書類を求める扱いがある。
⑤遺言執行者が遺産を換金した場合の譲渡所得について,国税庁の質疑応答事例は,法定相続分に応じて各相続人が申告する必要があるとしているが,これは同事例の個別の事実関係を前提とした回答であり,すべての清算型遺言に当然に当てはまるものではなく,受遺者に帰属するとする研究論文の見解もある。

第2 清算型遺言の法的性質
1 清算型遺言の典型的な文言

清算型遺言は,例えば「遺言者の有する一切の財産を換価し,その換価金から遺言者の債務及び遺言執行に関する費用を弁済した残金を,Aに2分の1,B及びCに各4分の1の割合で取得させる。」という形で書かれる(本記事で作成した例である)。
遺産そのものではなく,換金した後の金銭を分けることを定めている点で,特定の不動産や預金を特定の人に承継させる遺言とは構造が異なる。
遺産の一部だけを換金の対象とし,自宅などの特定の財産は別の条項で特定の人に承継させる形の遺言もある。

2 特定遺贈・包括遺贈・相続分の指定のいずれと解されるか
(1) 民法の規定

民法964条は,「遺言者は、包括又は特定の名義で、その財産の全部又は一部を処分することができる。」と定め,民法990条は,「包括受遺者は、相続人と同一の権利義務を有する。」と定めている。
また,民法902条1項は遺言による相続分の指定を,民法908条1項は遺言による遺産の分割の方法の指定を認めている。

(2) 国税庁の研究論文の整理

国税庁税務大学校の研究論文である小柳誠「換価遺言が行われた場合の課税関係について」(税大論叢85号,平成28年6月30日)は,清算型遺言(同論文の用語では換価遺言)について,「一義的には、換価遺言の場合は、その目的物は、換価代金すなわち金銭と考えられるから、これは相続財産自体でなく、不特定物であり、この点のみで考えれば、換価遺言は、一応、不特定物遺贈と考えられる。」としている。
その上で,同論文は,「しかしながら、債務の清算に着目し、遺言の趣旨の解釈を行うと包括遺贈との性質決定にもなりうる。また、相続人に対する換価遺言の場合では、相続分の指定及び遺産分割の方法を指定したと解する場合があり得る。」とし,「結局、換価遺言も特定遺贈か、包括遺贈かなどと一義的に解するのではなく、個々の場面における遺言者の遺言の趣旨に照らし、相続人、受遺者に及ぼす法的効果として妥当する法的性質決定が必要である。」と結論付けている。
同論文は研究者個人の論文であり,国税庁の公式見解ではないが,清算型遺言の性質を一律に決められないことを確認する資料として参考になる。

3 性質の違いが影響する場面

清算型遺言をどう性質決定するかは,債務を誰が負担するか,取得者が相続人以外の者である場合に相続人と同一の権利義務を持つか(民法990条),遺言執行者の有無や権限の範囲をどう考えるかに影響する。

(続きを読む...)清算型遺言(財産を換金して分ける遺言)の実現方法―遺言執行者がいない場合・信託銀行が就職を辞退した場合の手続,登記及び課税(AI作成)

遺言による生命保険金受取人の変更―保険法44条・73条の要件,保険会社への通知,遺言執行者の役割並びに遺留分及び特別受益(AI作成)

目次第1 結論の要旨と本記事の対象1 結論の要旨2 本記事の対象と基準日第2 保険法の条文1 保険金受取人の変更の原則(43条・72条)2 遺言による変更(44条・73条)3 被保険者の同意(45条・74条)第3 適用時期―平成22年4月1日以後に締結された契約1 施行日と経過措置の原則2 施行日前に締結された契約第4 遺言の要件と記載内容1 遺言の方式と効力発生時期2 契約と新受取人の特定3 遺言の撤回と生前の変更との関係第5 保険会社への通知(対抗要件)1 通知をする者2 遺言執行者による通知3 通知の前に旧受取人へ支払われた場合第6 遺留分・特別受益・相続税1 遺留分2 特別受益3 相続税第7 実務上の注意点1 生前の変更手続と遺言による変更の比較2 遺言の文案例3 遺言執行者を指定しておく意味4 受取人が先に死亡した場合5 期間制限6 相続放棄との関係第8 出典1 法令2 裁判例3 立法資料・所管行政機関の説明4 文献
第1 結論の要旨と本記事の対象
1 結論の要旨
(1) 遺言で変更できる場合と効力

生命保険の死亡保険金の受取人は,保険契約者が遺言で変更することができる(保険法44条1項)。
傷害疾病定額保険契約(死亡保険金を含む医療保険等)についても同じ規定がある(保険法73条1項)。
遺言による変更は,遺言が民法の方式を満たしていれば,遺言者の死亡の時に効力を生ずる(民法960条,985条1項)。
ただし,この規定が直接適用されるのは,保険法の施行日である平成22年4月1日以後に締結された保険契約である(保険法附則2条本文)。

(2) 保険会社への通知と遺言執行者

遺言による変更は,遺言の効力が生じた後に「保険契約者の相続人」が保険会社に通知しなければ,保険会社に対抗することができない(保険法44条2項)。
法務省の立案担当者の解説は,この通知は相続人の1人がすれば足り,遺言執行者が通知することもできるとしている。
通知の前に保険会社が旧受取人へ保険金を支払ってしまうと,新受取人は保険会社に支払を求めることができず,旧受取人との間で清算を求めることになると考えられる。

(3) 遺留分・特別受益・相続税

死亡保険金請求権は受取人の固有の権利であり,受取人の変更は遺留分減殺の対象となる遺贈又は贈与に当たらないとした最高裁判決がある。
特別受益についても,原則として持戻しの対象ではないが,著しい不公平がある特段の事情があれば民法903条の類推適用により持戻しの対象となる。
相続税では,新受取人が相続人であるか否かにより,非課税限度額の適用の有無が変わる(相続税法3条1項1号,12条1項6号)。

2 本記事の対象と基準日

本記事は,遺言で保険金受取人を変えたい保険契約者,変更後又は変更前の受取人となる人,他の相続人,遺言執行者を読者として想定し,遺言による保険金受取人の変更の要件,通知の方法,相続上の紛争及び税金の扱いを,法令,裁判例及び法務省の立案資料で確認できた範囲で整理したものである。
法令は,令和8年9月17日時点でe-Gov法令検索に掲載されている現行条文を確認した。
遺言執行者が相続財産の目録にこの保険金を記載するかどうかは,姉妹記事の遺言執行者の財産目録で扱う。

第2 保険法の条文
1 保険金受取人の変更の原則(43条・72条)
(1) 保険法43条の条文

保険法43条は,生命保険契約について次のとおり定めている。
1項「保険契約者は、保険事故が発生するまでは、保険金受取人の変更をすることができる。」
2項「保険金受取人の変更は、保険者に対する意思表示によってする。」
3項「前項の意思表示は、その通知が保険者に到達したときは、当該通知を発した時にさかのぼってその効力を生ずる。ただし、その到達前に行われた保険給付の効力を妨げない。」

(2) 変更の権限を持つ者

傷害疾病定額保険契約についての保険法72条も,「保険事故」を「給付事由」とするほかは同じ内容である。
変更する権限を持つのは「保険契約者」であり,被保険者や保険金受取人ではない。

(続きを読む...)遺言による生命保険金受取人の変更―保険法44条・73条の要件,保険会社への通知,遺言執行者の役割並びに遺留分及び特別受益(AI作成)

被保険者の死亡後に支払われる入院給付金・手術給付金は誰のものか―相続財産性,約款の請求者条項,指定代理請求人,相続放棄及び相続税(AI作成)

目次第1 結論と本記事の対象第2 入院給付金等の請求権は誰に帰属するか1 給付事由の発生により被保険者に生じる金銭債権2 死亡保険金との違い3 受取人が被保険者以外の者である場合第3 約款の被保険者死亡時の請求者条項1 日本生命の約款2 第一生命の約款と朝日生命の案内3 請求者・支払先の条項は請求権の帰属を変えるか第4 指定代理請求人は請求権の帰属を変えない1 指定代理請求制度の内容2 被保険者の死亡後の扱い第5 遺産分割と保険会社への請求手続1 金銭債権の当然分割と預貯金債権との区別2 保険会社への請求手続と必要書類第6 相続放棄との関係1 相続放棄をした者は給付金を取得しない2 受領と法定単純承認第7 税金の取扱い1 被保険者が生前に受け取る場合2 被保険者の死亡後に支払われる場合第8 請求期限と遺言執行者の財産目録1 消滅時効2 遺言執行者の財産目録への記載第9 出典1 法令2 裁判例3 国税庁の通達4 保険会社の約款・案内5 公益財団法人の資料
第1 結論と本記事の対象

入院・手術の後,給付金を請求しないまま被保険者が死亡した場合,その給付金は,原則として被保険者の相続財産となる。
給付金の請求権は,入院・手術という給付事由が生じた時点で受取人である被保険者に発生しており,死亡保険金のように受取人が自分の固有の権利として取得するものではないからである(民法896条)。

結論を先に整理すると,次のとおりである。
①被保険者が受取人である入院給付金・手術給付金の請求権は,死亡前の入院・手術によって既に発生していれば,被保険者の相続財産となる。
②大手生命保険会社の約款には,被保険者の死亡後は法定相続人の1人が他の法定相続人を代理して請求すると定めるものがあり,請求の窓口を1人にまとめても,請求権が相続人に帰属することは変わらないと考えられる。
③指定代理請求人は,受取人に代わって請求する代理人にすぎず,給付金を自分のものとして取得する者ではない。
④相続放棄をした者は,この給付金を相続によって取得しない。
相続放棄を検討している者が受け取って使えば,法定単純承認(民法921条1号)が問題になり得る。
⑤被保険者が生前に受け取れば所得税は非課税であるが,死亡後に支払われたものは本来の相続財産として相続税の課税対象となり,死亡保険金の非課税限度額は使えない。
⑥請求権は,保険法及び約款により,行使できる時から3年で時効により消滅する。

本記事は,入院給付金等を受け取らないまま家族が亡くなった相続人,遺言執行者及びこれらから相談を受ける弁護士を対象とし,令和8年9月17日時点の法令,裁判例,国税庁の通達及び保険会社が公開している約款に基づいて整理する。
約款は保険会社・商品・契約時期ごとに異なるため,本記事で引用する約款は例であり,実際の請求では,手元の保険証券に対応する約款を確認することになる。

第2 入院給付金等の請求権は誰に帰属するか
1 給付事由の発生により被保険者に生じる金銭債権
(1) 保険法と約款上の位置付け

医療保険のように,人の傷害疾病に基づき一定の保険給付を行う契約は,保険法上「傷害疾病定額保険契約」に当たる(保険法2条9号)。
保険法は,保険給付を受ける者として契約で定めるものを「保険金受取人」と呼んでおり(同条5号),入院給付金・手術給付金の受取人は,約款で被保険者と定められているのが通常である。
例えば,第一生命の「総合医療一時金保険(無解約返還金)(2021)給付約款」6条2項は,「総合入院給付金の受取人を被保険者(第1項の規定が適用される場合には、保険契約者)以外の者に変更することはできません。」と定めている。

(2) 死亡前の入院・手術による請求権は相続される

入院給付金等の請求権は,約款所定の入院・手術という給付事由が生じた時点で,受取人である被保険者に金銭債権として発生する。
その後,請求しないまま被保険者が死亡した場合,既に発生していた請求権は,民法896条により,相続人が「被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する」対象に含まれる。
高度障害保険金,通院給付金等も,被保険者が受取人とされ,死亡前に支払事由が生じていたのであれば,同じように考えることになる。
国税庁の相続税法基本通達3-7(注)も,死亡を伴わない傷害疾病を保険事故として被保険者に支払われる保険金・給付金が死亡後に支払われた場合,「当該被保険者たる被相続人の本来の相続財産になる」としている。

2 死亡保険金との違い
(1) 受取人固有の権利となる死亡保険金

死亡保険金は,被保険者の死亡によって,契約で指定された受取人が自分の権利として取得する。
最高裁昭和40年2月2日第三小法廷判決(昭和36年(オ)第1028号,民集19巻1号1頁)は,受取人を「被保険者死亡の場合はその相続人」と指定した養老保険について,特段の事情のない限り,保険金請求権は「右相続人たるべき者の固有財産となり、被保険者の遺産より離脱している」とした。
これに対し,入院給付金等は,被保険者本人を受取人として生前に発生した請求権であるから,受取人の固有財産ではなく,被保険者の遺産に属する点で異なる。

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遺言執行者の財産目録には何を載せるか―死亡保険金・入院給付金・死亡退職金・未支給年金と特定財産に関する遺言(AI作成)

目次第1 結論と本記事の対象1 結論2 本記事の対象と基準日第2 遺言執行者の目録作成義務と他の義務との区別1 民法1011条の目録作成・交付義務2 遺言内容の通知義務及び報告義務との違い第3 目録に載せる範囲―相続財産と特定財産に関する遺言1 目録の対象は「相続財産」である2 特定財産に関する遺言では,その財産に限られる3 信託銀行の財産目録と全遺産は一致しないことがある第4 相続財産に当たるもの・当たらないもの1 一覧表2 死亡保険金3 入院給付金・手術給付金4 死亡退職金5 未支給年金と遺族年金6 確定拠出年金(iDeCoを含む)の死亡一時金第5 相続財産に属しないものを「参考」として記載する理由と記載例1 参考欄を設ける理由2 管理処分権が及ぶと誤解させない書き方3 記載例第6 目録の作り方の実務1 基準日と記載事項2 金額未確定の債権と債務の記載3 交付の方法と記録第7 目録が交付されない・内容が不十分な場合の相続人の手段1 報告請求と目録の作成方法の指定2 善管注意義務と解任請求第8 遺言で保険金受取人を変更している場合第9 出典1 法令2 裁判例3 行政機関の通達4 関連記事
第1 結論と本記事の対象
1 結論

遺言執行者が民法1011条1項に基づいて作成・交付する目録の対象は「相続財産」であり,相続人等が保険契約や支給規程に基づいて自己固有の権利として取得するものは,同条の目録に記載すべき財産ではない。
結論を先にまとめると,次のとおりである。
①特定の相続人を受取人とする生命保険の死亡保険金請求権は,受取人の固有の権利であり,相続財産の目録に載せる義務はない。
②被保険者本人が受け取るはずだった入院給付金・手術給付金の請求権は,本人が生前に取得していた権利として相続財産に属し,目録に載せる対象となる。
③死亡退職金,未支給年金,遺族年金及び確定拠出年金(iDeCoを含む)の死亡一時金は,支給規程又は法律が受給者の範囲を定めている限り,相続とは別に受給者が取得するものであり,相続財産の目録に載せる義務はない。
④遺言が相続財産のうち特定の財産に関するものである場合,目録を作成する義務はその財産についてだけ生じる(民法1014条1項)。
⑤相続財産に属しないものでも,相続税申告,特別受益及び遺留分の検討のため,「参考(相続財産に属しないもの)」として区分して記載しておくことは,実務上の工夫として考えられる。

2 本記事の対象と基準日

本記事は,遺言執行者に就いた弁護士,遺言執行者から目録を受け取る相続人及び受遺者を読者として,目録に何を載せ,何を載せないかを条文と最高裁判例に即して説明するものであり,AIを用いて作成した。
法令は令和8年9月17日時点でe-Gov法令検索に掲載されている現行条文により,裁判例は裁判所ウェブサイトで個別ページ及び全文を確認したものに限って用いる。
遺言執行者が指定されている場合に相続人が受ける制約や解任手続の全体像は,遺言執行者が指定されている場合の相続人の注意点で扱っているため,本記事では目録に関係する範囲に絞る。

第2 遺言執行者の目録作成義務と他の義務との区別
1 民法1011条の目録作成・交付義務
(1) 遅滞なく作成して相続人に交付する義務

民法1011条1項は,「遺言執行者は、遅滞なく、相続財産の目録を作成して、相続人に交付しなければならない。」と定めている。
条文は「遅滞なく」とするだけで,何日以内という期限を定めていない。
交付の相手方は条文上「相続人」であるが,包括受遺者は相続人と同一の権利義務を有する(民法990条)ため,包括受遺者にも交付しておくことが考えられる。

(2) 相続人の請求による立会い又は公証人による作成

民法1011条2項は,「遺言執行者は、相続人の請求があるときは、その立会いをもって相続財産の目録を作成し、又は公証人にこれを作成させなければならない。」と定めている。
遺言執行者が単独で作った目録の正確性に相続人が疑問を持つ場合,相続人は,この規定により,立会いの下での作成又は公証人による作成を求めることができる。
東京地裁平成25年2月27日判決(平成23年(ワ)第23673号)は,公証人に調製させた相続財産目録に記載のなかった特許権の共有持分について,遺言執行者がその後これを相続財産と認識した事案で,当初の目録作成時点での義務違反は否定しつつ,公正証書に新たな目録作成を予定する旨の陳述があったことにも照らして,「本件特許権を記載した相続財産目録を新たに作成する義務があったというべき」とした。
ただし,同判決は,遺言執行者としての一般的な義務違反から直ちに不法行為上の義務違反が導かれるものではないとして,遺言執行者に対する損害賠償請求を棄却している。

2 遺言内容の通知義務及び報告義務との違い

目録の交付は,遺言内容の通知や事務処理状況の報告とは根拠条文も内容も異なる。

義務根拠内容時期遺言内容の通知民法1007条2項遺言の内容を相続人に知らせる任務開始後,遅滞なく相続財産の目録の作成・交付民法1011条相続財産の目録を作成して相続人に交付する遅滞なく事務処理状況の報告民法1012条3項・645条請求があれば事務処理の状況を報告し,任務終了後は経過及び結果を報告する請求時及び任務終了後

民法1012条3項は,受任者の善管注意義務(同法644条),報告義務(同法645条),受取物の引渡し等(同法646条),金銭の消費についての責任(同法647条)及び費用償還請求等(同法650条)の規定を遺言執行者に準用している。
目録は執行開始時点の財産の全体を示す書面であるのに対し,報告は執行の途中経過や結果を示すものであるから,目録を交付した後も,払戻しや名義変更の進み具合は報告として別に伝えることになる。

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家事事件の住所・氏名秘匿と非開示希望―DV事件で提出前に確認すべきこと(AI作成)

目次

1 提出後ではなく提出前に確認する
2 四つの方法は目的が異なる
2-1 不要な情報のマスキング
2-2 送達場所等の届出
2-3 住所・氏名等の秘匿制度
2-4 非開示希望
3 住所・氏名等の秘匿申立て
4 非開示希望の対象と限界
5 秘匿決定と非開示希望の違い
6 住所を推知させる情報の例
7 提出前チェックリスト
8 決定後及び関連事件でも管理を続ける
9 不服申立て及び閲覧請求
10 関連記事
11 一次資料その他

1 提出後ではなく提出前に確認する

家事事件で住所、勤務先、通院先、子の学校等を相手方に知られると危険が生じる場合、書面を裁判所へ提出する前に情報管理を検討する必要がある。提出後に秘匿を申し立てても、既に閲覧又は謄写された情報を回収することはできない。
実務上は、①不要な情報を最初から記載しない又はマスキングする、②送達場所等の届出を適切に行う、③住所・氏名等の秘匿制度を申し立てる、④その他の情報について非開示を希望する、という方法を区別して検討する。

2 四つの方法は目的が異なる
2-1 不要な情報のマスキング

証拠又は添付資料に事件の判断に不要な住所、電話番号、勤務先、通院先、学校名、店舗名、位置情報等が含まれる場合、その部分を提出用写しで見えないようにする方法が基本となる。
黒塗りを画像の上に置いただけの電子ファイルは、コピー又は編集により元の文字が読めることがある。紙面及び電子データの双方で復元できない状態かを確認する必要がある。

2-2 送達場所等の届出

現住所と異なる安全な場所へ送達を受けたい場合、送達場所及び送達受取人の届出を検討する。ただし、送達場所を届け出ただけで、記録中の現住所その他の情報が当然に秘匿されるわけではない。

2-3 住所・氏名等の秘匿制度

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離婚訴訟の標準審理モデル―財産分与を含む事件を長期化させない準備(AI作成)

目次

1 東京家裁の審理モデルの位置付け
2 人事訴訟の平均審理期間
3 訴状提出前のチェックポイント
4 第1回口頭弁論期日と段階的な審理
4-1 有責配偶者からの離婚請求
5 財産分与の審理準備
5-1 財産一覧表
5-2 基準時と評価時
5-3 特有財産と混在財産
5-4 不動産、ローン及び退職金
6 子に関する争点と家庭裁判所調査官
7 本人尋問と和解
8 代理人が作成する進行管理表
9 令和6年モデル利用時の注意
10 関連記事
11 一次資料その他

1 東京家裁の審理モデルの位置付け

東京家庭裁判所家事第6部は、令和6年4月26日付けで「東京家裁人訴部における離婚訴訟の審理モデル」を公表した。同モデルは、東京三弁護士会との意見交換を経て、審理の計画性及び質を高め、離婚訴訟の不必要な長期化を防ぐために作成された実務資料である。
ただし、同モデルは法令、最高裁判例又は全国一律の処理基準ではない。東京家裁における一つの審理運営モデルであり、個別事件では担当裁判体の訴訟指揮及び事件の内容に従う。

2 人事訴訟の平均審理期間

最高裁判所事務総局家庭局「家庭裁判所の現状と課題」によれば、令和6年に終局した人事訴訟事件の平均審理期間は14.8か月であった。離婚事件では、財産分与の申立てがある事件が19.2か月、申立てがない事件が12.9か月であった。
平成27年は、財産分与の申立てがある事件が15.5か月、ない事件が10.8か月であり、いずれも長期化している。もっとも、これらは全国の既済事件の平均値であり、個別事件の終結時期を保証するものではない。

最高裁判所事務総局「裁判の迅速化に係る検証に関する報告書(第11回)」(令和7年7月)によれば、財産分与の申立てがある離婚訴訟は、判決で終局した場合の平均審理期間が23.4か月、和解で終局した場合が18.5か月であり、判決の方がおおむね5か月程度長い(同報告書178頁)。
同報告書は、離婚訴訟の既済事件に占める財産分与の申立てがある事件の割合が平成27年の31.7%から令和6年の41.6%に増えていることから、これが人事訴訟全体の平均審理期間を押し上げている原因の一つであると推測している(同報告書182頁)。
他方、親権者を指定すべき子がいる離婚事件といない離婚事件の平均審理期間の差は、1か月に満たない(同報告書179頁)。

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家事調停はどのくらいかかるか―平均審理期間,期日間隔及び代理人ができること(AI作成)

目次

1 家事調停の期間を考える際の結論
2 令和6年の平均審理期間及び平均期日間隔
3 申立てから第1回期日までに行うこと
4 期日と期日の間に代理人が行うこと
5 事件を長期化させやすい事情
6 ウェブ会議と期日間隔
7 平均値を依頼者への説明に使う際の注意
8 調停が成立しない場合の見通し
9 関連記事
10 一次資料その他

1 家事調停の期間を考える際の結論

① 夫婦関係調整調停について、令和6年の全国平均は、平均審理期間が6.8か月、平均期日間隔が1.9か月であった。ただし、これは既済事件の平均値であり、申立てから終局までの標準期限を示すものではない。
② 期日間の約2か月は、単なる待ち時間ではない。必要資料の収集、主張の整理、相手方提案の検討及び次回期日の進行準備に使う期間である。
③ 離婚、婚姻費用、親子交流、財産分与等の争点が重なる事件では、事実関係及び資料を争点ごとに分け、次回期日までの宿題を具体化することが長期化防止につながる。
④ 本記事の数値は、最高裁判所事務総局家庭局「家庭裁判所の現状と課題」(令和7年度実務協議会(冬季)、令和8年2月)の令和6年統計を基礎とする。同文書は裁判所自身の運用認識を示す司法行政資料であるが、法令でも判例でもない。

2 令和6年の平均審理期間及び平均期日間隔

同文書によれば、夫婦関係調整調停の平均審理期間は、平成20年の4.3か月から令和6年の6.8か月へ延びた。また、平均期日間隔は、平成20年の1.4か月から令和6年の1.9か月へ延びた。
平均審理期間は、申立てから成立、不成立、取下げ等による終局までに要した期間の平均である。平均期日間隔は、各期日の間隔を平均したものであり、「必ず2か月おきに指定される」という規則ではない。
実際の期間は、争点の数、当事者の出頭状況、提出資料の量、子に関する調査の要否、裁判所及び代理人の日程、ウェブ会議利用の可否等によって変わる。

最高裁判所事務総局「裁判の迅速化に係る検証に関する報告書(第11回)」(令和7年7月)も、令和6年の統計を分析している。同報告書によれば、夫婦関係調整調停や婚姻費用分担事件を含む婚姻関係事件の平均審理期間は7.0か月、平均期日回数は3.6回、平均期日間隔は1.9か月であった。
同報告書の資料4-2によれば、婚姻関係事件の平均審理期間は、双方に手続代理人がいる事件で9.9か月、申立人側のみに代理人がいる事件で6.4か月、相手方側のみに代理人がいる事件で7.6か月、双方とも本人の事件で4.6か月であり、代理人の付き方によって大きく異なる。
同じ年の遺産分割事件の平均審理期間は12.1か月、子の監護事件は8.3か月であった。

第11回迅速化検証報告書における令和6年の平均審理期間は、次のように整理できる。
夫婦関係調整調停だけの6.8か月と、より広い婚姻関係事件の7.0か月は、対象範囲が異なる数値である。

事件類型平均審理期間対象範囲・出典婚姻関係事件7.0か月夫婦関係調整、婚姻費用分担等。報告書157頁~158頁遺産分割事件12.1か月調停・審判の両手続を経た事件も、通じて1件として計上。152頁~153頁子の監護事件8.3か月養育費、監護者指定、子の引渡し、面会交流等。164頁~165頁

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遺留分の計算で葬儀費用を差し引けるか-遺言・合意・相続税との違い(AI作成)

目次第1 葬儀費用を遺留分の計算から差し引けるか1 通常の葬儀費用は被相続人の債務ではない2 死亡後の預金残高から計算しない第2 遺留分額と遺留分侵害額の計算1 基礎財産の計算2 葬儀費用200万円を差し引いた場合の差額3 遺留分侵害額の計算第3 合意,生前契約又は遺言がある場合1 相続開始後の合意2 被相続人の生前契約3 遺産から葬儀費用を支弁する遺言4 遺言執行費用との区別第4 葬儀費用の負担者と遺留分計算の違い1 費用の最終負担は別の法律問題である2 確認できた費用負担に関する裁判例第5 相続税の葬式費用控除との違い1 相続税法は債務と葬式費用を分けている2 税務上の控除対象となる費用第6 紛争になった場合に確認する資料と期限1 最初に確認する資料2 遺留分侵害額請求の期間制限3 旧法の裁判例を参照する場合第7 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 所管行政機関の解説4 職能団体の会員による解説及びその他の文献5 関連記事
第1 葬儀費用を遺留分の計算から差し引けるか
1 通常の葬儀費用は被相続人の債務ではない

本記事は,令和8年9月15日現在の日本法に基づき,死亡後に遺族が支出した葬儀費用を遺留分の計算へ反映できるかを扱うものである。
通常の葬儀費用については,被相続人が死亡時に負担していた債務として,遺留分の基礎財産から当然に控除することはできないと考えられる。

民法1043条1項は,相続開始時の財産に一定の贈与を加え,債務の全額を控除して遺留分の基礎財産を算定する仕組みを定めている。
相続は死亡によって開始し,相続人は被相続人の権利義務を承継するため,ここで確認すべき債務は,被相続人が死亡時に負っていた債務である(民法882条,896条及び1043条)。

遺族が死亡後に葬儀社と契約して負担した費用は,この意味での被相続人の債務とは区別される。
ただし,生前契約,関係者の合意又は遺言による支弁の指定がある場合には,後記第3のとおり別の検討が必要となる。

2 死亡後の預金残高から計算しない

死亡時に4000万円の預金があった場合,その後に葬儀費用200万円を払い出して残高が3800万円になっても,死亡時の財産額が当然に3800万円へ変わるわけではない。
遺留分の基礎財産は相続開始時を基準にするため,死亡後の口座残高だけから計算することはできない。

預金からの出金が認められるか,葬儀費用を最終的に誰が負担するか,その費用を当事者間で精算できるかは,遺留分の基礎財産とは分けて判断する問題である。
被相続人の債務一般の計算と主張立証については,遺留分侵害額請求の基礎財産から控除される「被相続人の債務」の効果的な主張立証方法(AI作成)で説明している。

第2 遺留分額と遺留分侵害額の計算
1 基礎財産の計算

遺留分の基礎財産は,「相続開始時の財産+算入対象となる贈与-被相続人の債務」によって求める(民法1043条1項)。
贈与の算入には期間等の制限があるため,死亡時の積極財産だけを確認して計算が完了するわけではない(民法1044条)。

基礎財産に総体的遺留分率と遺留分権利者の法定相続分を乗じると,その者の遺留分額が求められる(民法1042条)。
直系尊属だけが相続人である場合の総体的遺留分率は3分の1であり,それ以外の場合は2分の1である。

2 葬儀費用200万円を差し引いた場合の差額

死亡時の財産が4000万円で,被相続人の債務及び算入対象となる贈与がなく,相続人が子2人だけであるとする。
一方の子が遺言によって全財産を取得し,他方の子に遺贈,贈与その他の受益がなく,葬儀費用の控除を認める特別の事情もない場合,財産を取得しない子の遺留分割合は4分の1である。

葬儀費用を差し引かない計算は4000万円×4分の1=1000万円であり,200万円を差し引く計算は3800万円×4分の1=950万円である。
この設例における遺留分額の差は50万円であり,葬儀費用200万円がそのまま遺留分の請求額から控除されるわけではない。

3 遺留分侵害額の計算

実際の遺留分侵害額は,遺留分額から,請求する者が受けた遺贈又は一定の贈与及び遺産分割で取得すべき遺産の価額を控除し,その者が承継する被相続人の債務を加算して求める(民法1046条2項)。
基礎財産を求める段階の債務控除と,個別の侵害額を求める段階の債務加算を分ける必要がある。

死亡後の葬儀費用を支払った事実だけでは,その費用が民法1046条2項3号の加算対象になるわけではない。
費用負担に関する別の請求権が成立する場合も,遺留分の法定計算へ組み込むのか,最終的な支払額を別途精算するのかを区別することになる。

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資産額と「実際に払える額」は違う-和解・財産分与・代償分割の支払能力チェック(AI作成)

第1 資産額と支払能力は同じではない

1 この記事が扱う場面
2 六つの確認軸

第2 資産別に「実際に使える額」を確認する

1 預貯金
2 上場株式・投資信託その他の金融資産
3 不動産
4 保険、退職金、事業及び法人関係財産

第3 収入と一括払いの原資を分ける

1 高収入でも一括払いできるとは限らない
2 分割払いは各月の資金繰りを確認する

第4 手続ごとの確認事項

1 民事訴訟上の和解
2 離婚に伴う財産分与
3 遺産分割における代償分割

第5 支払能力を裏付ける資料

(続きを読む...)資産額と「実際に払える額」は違う-和解・財産分与・代償分割の支払能力チェック(AI作成)

給与収入が低くても金融資産が多い場合の婚姻費用・養育費-配当・売却益・含み益・元本の扱い(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論1 対象と調査基準日2 金融資産を算定へ反映する基本的な考え方第2 算定表と資産の関係1 算定表の出発点は双方の年収である2 婚姻費用では民法が資産を明示している3 資産と収入を分けて主張する第3 配当・利息・投資信託の分配金1 継続する株式配当2 特有財産から生じた収益3 利息及び投資信託の分配金第4 株式等の実現益と含み益1 売却代金と売却益を区別する2 一時的な実現益3 反復継続する売買益4 未実現の含み益第5 金融資産の元本と本来得られる収入1 元本取崩しの原則と例外2 受給できるのに受給していない収入3 一人会社の内部留保と私的支出4 金融資産を考慮する三つの段階第6 婚姻費用と養育費で同じ結論になるとは限らない1 共通する出発点2 婚姻費用における資産3 養育費における資産第7 資料収集と主張の組み立て1 まず集める資料2 複数年の集計と二重評価の防止3 相手方が保有する資料の取得4 主張の順序と追加調査の停止基準第8 関連する山中弁護士ブログの記事1 算定表及び高額所得者2 算定結果が不自然な場合3 変動収入・投資信託分配金・非給与所得の換算4 一人会社の役員報酬・貸付金と非課税世帯第9 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 裁判所の司法研究及び説明資料4 法務省委託の調査研究報告書5 投資信託の分配金に関する公表資料
第1 この記事の対象と結論
1 対象と調査基準日
(1) 低所得・高資産の事案

本記事は,給与収入は低いものの,多額の株式,投資信託,債券又は預貯金を有する当事者について,婚姻費用又は養育費を算定するときに何を収入として扱うかを説明するものである。
金融資産から生じる配当・利息,売却によって確定した利益,売却前の含み益及び金融資産の元本は,それぞれ性質が異なるため,分けて検討する必要がある。

(2) 高額所得者の記事との違い

本記事の調査基準日は令和8年9月14日であり,同日現在の法令,裁判所公表資料及び確認できた裁判例を対象としている。
現実の年間収入が算定表の上限を超える場合は「高額所得者の婚姻費用(AI作成)」及び「養育費算定表の上限を超える高額所得者の計算方法-年収2000万円超の裁判例と実務(AI作成)」が扱う問題であり,本記事の低所得・高資産の問題とは区別される。

2 金融資産を算定へ反映する基本的な考え方
(1) 収入となるもの

現実に反復継続して受け取る配当は,算定の基礎となる収入へ含められることがある。
株式等の売却益は,売却代金全額ではなく,取得費及び手数料等を踏まえた損益を確認した上で,一時的な資産処分か,給与に代わる継続的な収益かを検討することになる。

(2) 直ちに年収とならないもの

含み益は売却前の評価差額であり,金融資産の元本は配当等を生み出す資産そのものであるから,いずれも配当と同じ意味での年間収入ではない。
本記事で確認した裁判例及び裁判所公表資料には,金融資産の時価へ一定の期待利回り又は取崩率を掛け,その金額を一律に年収とする標準的な算定式は示されていない。

第2 算定表と資産の関係
1 算定表の出発点は双方の年収である

裁判所の「養育費・婚姻費用算定表について(説明)」によれば,算定表は,縦軸を義務者の年収,横軸を権利者の年収とし,子の人数及び年齢等に応じた標準額を示すものである。
給与所得者については源泉徴収票の「支払金額」を,自営業者については確定申告書の「課税される所得金額」に実際には支出されていない控除等を加えた額を,それぞれ年収認定の出発点としている。

源泉徴収票又は所得証明書だけでは,申告不要又は非課税の配当,証券口座内で受け取った分配金及び株式等の譲渡損益を把握できないことがある。
金融資産が問題となる事案では,税務書類に加えて証券会社の資料及び生活口座への入出金を確認する必要がある。

2 婚姻費用では民法が資産を明示している

民法760条は,夫婦が「その資産,収入その他一切の事情を考慮して」婚姻から生ずる費用を分担すると定めている。
したがって,婚姻費用では資産も考慮事情となるが,この条文から資産時価の一定割合を算定表の年収欄へ入力する計算方法が当然に導かれるわけではない。

3 資産と収入を分けて主張する

金融資産に関する主張は,①通常の年間収入となる配当・利息,②継続性の評価を要する実現益,③未実現の含み益,④元本,⑤本来受け取ることができる収入の順に分けると,争点を明確にできる。
資産を保有しているという一事だけで年収を決めるのではなく,どの金額がいつ現金化され,生活費へ充てられていたかを示す必要がある。

第3 配当・利息・投資信託の分配金
1 継続する株式配当

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NISAは離婚時の財産分与の対象か――婚前株式・値上がり・配当・再投資の立証(AI作成)

目次

結論――NISAではなく取得時期・原資・寄与・立証で考える
財産分与の法的枠組み
婚前株式・投資信託の値上がり
配当・分配金・再投資とNISA
混在,移管及び口座変更
裁判例からみる特有財産の立証
依頼者から集める資料
主張立証と計算表の作り方
婚姻費用との違い
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出典と確認範囲

婚前から保有していた株式・投資信託を結婚後も持ち続けた場合や,NISA口座で買い増し・配当再投資をした場合,離婚時の財産分与では何が対象になるのでしょうか。

結論からいえば,NISA口座に入っているかどうかだけでは決まりません。銘柄又は取引単位ごとに,①いつ取得したか,②原資は何か,③婚姻中に夫婦の協力による取得・維持・増加があったか,④婚前部分を客観資料で追跡できるかを確認する必要があります。

本記事は,上場株式,公募投資信託及びNISAを中心に,値上がり,配当・分配金,再投資,口座移管及び婚前・婚姻後資金の混在を整理したものです。非上場の自社株式については「経営者の離婚と自社株式の財産分与」を参照してください。

第1 結論――NISAではなく取得時期・原資・寄与・立証で考える

1 判断の順序

本記事は,株式・投資信託という財産類型の取得・運用・立証を扱います。
預貯金を中心とする婚前資金,相続・贈与及びへそくりの確認は,特有財産の証明方法を参照してください。
財産全体の対象一覧,清算額の計算及び請求期限は,財産分与の総合案内で説明しています。

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証券口座の残高増加をどう検証するか-入出金・運用損益・為替・税を分ける財産分与・相続実務(AI作成)

目次第1 証券口座の残高増加について最初に確認すること1 期首残高と期末残高の差額は運用益とは限らない2 残高増加から直ちに推認できない事項第2 残高増加を構成要素に分ける1 基本となる考え方2 収益と資金移動を区別する3 総資産と純資産を区別する第3 最初に収集する資料1 基準日の残高資料2 取引及び入出金を示す資料3 口座外の資料第4 取引を復元する手順1 対象範囲と基準を固定する2 キャッシュフロー台帳を作る3 取引の連続性を確認する第5 収益率を使う場合の注意点1 入出金がなければ年率換算できる2 時間加重収益率3 金額加重収益率第6 財産分与における使い方1 基準時残高と評価時を区別する2 特有財産の原資を追跡する第7 相続及び使途不明金調査における使い方1 死亡日前後の取引を分ける2 説明できない差額を直ちに責任額としない第8 実務チェックリスト1 資料取得時2 計算及び評価時第9 出典1 運用成果の測定2 裁判所及び税務資料
第1 証券口座の残高増加について最初に確認すること
1 期首残高と期末残高の差額は運用益とは限らない

証券口座の残高が短期間に大きく増えていても,その増加額の全部が値上がり益又は運用成果であるとは限らない。
給与等からの追加入金,他の証券口座からの移管,配当等の再投資,借入金による買付け及び為替変動が残高を増加させる一方,出金,手数料及び税金は残高を減少させる。

したがって,財産分与,相続,使途不明金又は資産形成の経過を検討するときは,期首残高と期末残高だけでなく,その間の外部入出金及び取引を日付ごとに復元する必要がある。

2 残高増加から直ちに推認できない事項

現在残高だけから,①本人が高い運用能力を有していたこと,②夫婦共同財産から拠出された金額,③婚前財産又は相続財産が維持されている範囲,④第三者による使込み又は資産隠匿,⑤税引後の実現利益を確定することはできない。

口座残高は調査の出発点であり,法的評価又は責任の結論ではない。
残高の増減と,入出金の権限,資金の出所,取引時の意思能力及び対価の帰属は,それぞれ別に確認する必要がある。

第2 残高増加を構成要素に分ける
1 基本となる考え方

検証の基本は,期末純資産額を,①期首純資産額,②外部からの純入金額,③運用損益に分けることである。
概念上は,「期末純資産額-期首純資産額-外部純入金額」が,その期間の運用損益に対応する。

もっとも,この単純式を正確に使うためには,評価日時,外貨換算レート,未収配当,未払手数料,信用取引その他の負債及び口座間移管を同じ基準でそろえなければならない。
口座間の振替を外部入金と誤認すると,運用損益も財産の出所も二重に計上される。

2 収益と資金移動を区別する

運用損益には,売却済みの実現損益だけでなく,保有中の株式・投資信託等の評価損益,受領した配当・分配金及び為替差損益が含まれ得る。
どの範囲を収益に含めたかを明示しなければ,異なる資料の数字を比較することはできない。

外部入出金には,預金口座からの入金,預金口座への出金,現物株式等の入出庫及び他社口座との移管を含める。
入出庫された有価証券は,移管日の時価と取得価額のいずれを使ったかを区別し,資産総額の復元と税務上の取得費の検討を混同しないようにする。

財産調査のための円換算評価額と,所得税の所得計算で認識する損益は別である。
外貨を円へ換えていないことだけで,課税上の損益がすべて未実現であるとは判断できない。反対に,基準日の円換算残高が増えたことだけで,その増加額の全部を課税所得とすることもできない。

国税庁の質疑応答事例は,米ドル建預金の元本を同じ米ドルのまま別の銀行へ移す設例について,外貨の保有状態に実質的な変化がなく,その移動による為替差損益を認識しないとしている。
一方,別通貨への交換又は外貨を対価とする資産購入は,同一通貨の預金元本の移動と同じ扱いにせず,外貨の取得経過と取引内容を個別に確認する必要がある。預金利息の受領も元本移動とは区別する。

外国株式の売却に関する国税庁の質疑応答事例では,株式の保有期間中の為替相場変動による損益は円換算した株式譲渡損益に含まれ,別途,雑所得として計上する必要はないとされている。
株式購入に使用した外貨の購入前の値上がりと,株式購入後の保有期間中の為替変動は,発生した期間と対象資産が違う。株式譲渡損益に含めた同じ為替変動を,重ねて雑所得へ計上しない。

3 総資産と純資産を区別する

信用取引,証券担保ローンその他の借入れがある場合,保有有価証券の時価合計である総資産と,負債を差し引いた純資産は一致しない。
運用規模を示す総資産の増加を,そのまま本人に帰属する財産の増加と扱ってはならない。

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令和7年4月全国統一書式による後見等事務報告書・報酬付与申立事情説明書の書き方(AI作成)

第1 この記事の対象と結論
第2 令和7年4月の全国統一書式

1 全国で内容が統一された書式
2 各家庭裁判所の追加書式等は残る

第3 後見等事務報告書の書き方

1 報告書の目的
2 本人の心身・生活状況及び支援者
3 ①から㉑までの事務
4 本人の意思確認及び面談等
5 本人の財産状況と本人以外の人のための支出
6 後見人等自身に関する事項
7 大阪家裁後見センターが指摘する記載の課題(第51回)

第4 報酬付与申立事情説明書の書き方

1 報酬を求める期間等
2 考慮してもらいたい事情の有無
3 事務ごとに別紙を作成する

第5 事情説明書別紙に書く六つの事項

1 事務内容及び現在の状況

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親が負担した建築資金は金銭贈与か建物贈与か―特別受益の認定・評価・証拠(AI作成)

目次第1 結論及び本記事の対象第2 贈与対象の認定を評価より先に行う1 特別受益に当たるための入口2 金銭又は代金債務の弁済による利益の贈与となる場合3 建物又は建物持分の贈与となる場合4 債務免除,持分及び使用利益を混同しない5 新築と増築・改築・リフォームを分ける第3 東京高裁令和6年12月18日決定1 判例秘書による一次資料確認の状況2 不動産そのものではなく購入資金の贈与としたこと3 資金の流れを認定した証拠4 消費者物価指数による換算第4 金銭贈与の評価1 相続開始時の貨幣価値への換算2 建物の老朽化を金銭贈与へ持ち込まない第5 建物贈与の評価1 相続開始時の客観的価値2 親が建築後に建物を贈与した裁判例3 民法904条と受益者による状態変更4 相続税評価額と民事上の評価額は目的が違う第6 認定及び評価に用いる証拠1 契約及び所有帰属に関する資料2 資金の流れに関する資料3 贈与又は貸付けの意思に関する資料第7 遺産分割及び遺留分との関係1 遺産分割における具体的相続分2 遺留分算定における贈与第8 受任時の確認手順1 認定表を先に作成する2 主張書面と証拠説明書を対応させる第9 まとめ第10 出典・参考資料1 法令及び公的資料2 裁判例3 関連記事
第1 結論及び本記事の対象

親が子の住宅の建築代金又は購入代金を負担した場合,特別受益の額を計算する前に,何が誰から誰へ贈与されたのかを認定する必要がある。
子が契約当事者となって住宅を取得し,親が代金を援助したのであれば,通常は金銭又は代金債務の弁済による利益が贈与対象となる。
これに対し,親が取得した建物を後に子へ贈与したのであれば,贈与対象は建物である。

両者は評価対象が違うため,贈与時に同額の支出がされていても,相続開始時に持ち戻す特別受益額が異なり得る。
親から施工業者へ直接送金されたという一事だけで,金銭贈与又は建物贈与のいずれかに決まるものではない。

本記事は,民法903条及び904条による遺産分割上の特別受益を中心に,遺留分算定への影響,東京高等裁判所令和6年12月18日決定及び実務で確認すべき証拠を整理する。
個別事件では,給付の法的性質,持戻し免除の意思表示,評価方法及び期間制限を別々に検討する必要がある。

第2 贈与対象の認定を評価より先に行う
1 特別受益に当たるための入口

民法903条1項は,共同相続人の中に,被相続人から遺贈を受け,又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者がある場合の具体的相続分を定めている。
住宅の取得又は建築のための多額の援助は「生計の資本」と評価されることが多いが,金額,被相続人の資力,援助の目的,通常の扶養の範囲,他の相続人への援助及び返済合意の有無を確認しなければならない。

贈与ではなく貸付けであれば特別受益ではない。
返済期限,利息,返済実績,催告,借用書及び会計・税務処理の有無は,贈与か貸付けかを区別する資料となる。

2 金銭又は代金債務の弁済による利益の贈与となる場合

子が建築請負契約又は売買契約の当事者であり,子が建物又は不動産を取得する一方,親が子へ資金を渡し,又は子に代わって施工業者若しくは売主へ代金を支払った場合は,金銭又は代金債務の弁済による利益が贈与されたと認定されることがある。

この場合,取得した住宅の現在価値ではなく,贈与された金銭等を相続開始時の貨幣価値に換算することが出発点となる。
もっとも,親自身の持分取得に対応する支払,共同住宅の親使用部分に対応する負担又は親に対する反対給付があるときは,支払全額が子への贈与になるとは限らない。

3 建物又は建物持分の贈与となる場合

親が注文者又は買主となって建物を取得し,その後,子へ建物又は建物持分を贈与した場合は,贈与対象は建物又はその持分となる。
この場合,特別受益として評価するのは,原則として贈与時の建築費そのものではなく,相続開始時における贈与対象の客観的な交換価値である。

登記が子名義であることは重要な資料であるが,建物取得の経緯,契約当事者,代金負担,完成時の所有帰属及び引渡しを含む事情を総合して判断する必要がある。
土地と建物の名義又は負担者が異なる場合は,建物だけでなく,敷地利用権,土地持分の贈与又は使用利益も切り分けて検討する。

親が建築計画を主導し,又は建築費の一部を負担したとしても,それだけで親が完成建物を取得したことにはならない。
東京地裁平成29年1月13日判決(平成27年(ワ)第21869号,判例秘書L07232077,裁判所HP未掲載)は,父が当初の建築計画を主導し,一部費用も負担したものの,融資及び建築名義等を子へ切り替えた事案で,建物が当然に父の所有となるものではないとした一方,父が負担した設計料等は別個の特別受益となり得るとした。

したがって,「親が建てた建物」という表現から直ちに建物贈与と分類せず,建築請負契約の注文者,代金債務者,融資の債務者,建築確認上の建築主,引渡しを受けた者,完成時の登記名義人及び各当事者の出捐を区別して,完成時の所有帰属を認定する必要がある。

4 債務免除,持分及び使用利益を混同しない

親がいったん子へ住宅資金を貸し付け,後に返済を免除したのであれば,問題となる給付は当初の貸付金ではなく,免除時の債権又は免除による利益である可能性がある。
また,二世帯住宅では,親子それぞれの建物持分,建築費の負担,土地の使用利益及び親に対する生活支援等が併存し得るため,単純な床面積比又は負担額の差だけで贈与額を決めるべきではない。

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配当・年金・投資利益を婚姻費用・養育費の給与年収へ換算する方法-職業費の二重控除を防ぐ(AI作成)

目次第1 非給与所得を換算する必要がある理由1 算定表の給与欄と自営業欄は同じ金額を意味しない2 換算は所得の実質をそろえる作業である第2 令和元年版標準算定方式の構造1 基礎収入2 職業費3 税引前額を出発点とする第3 株式配当を給与収入へ換算した裁判例1 東京家庭裁判所令和元年9月6日審判2 具体的な計算式3 保有株数減少後の換算4 特有財産からの配当第4 給与を事業所得型へ換算して合算した裁判例1 福岡家庭裁判所令和4年9月13日審判2 具体的な計算式3 この方法の意味第5 三つの換算方法1 非給与所得を給与収入へ換算する方法2 給与を事業所得型へ換算する方法3 所得類型ごとに基礎収入を計算して合算する方法第6 所得別の注意点1 株式配当2 投資信託の分配金3 年金4 不動産所得5 証券売買益及び暗号資産所得第7 換算で生じやすい誤り1 税引後入金額をそのまま使う2 すべてを給与額へ単純加算する3 事業所得から職業費を二重控除する4 古い裁判例の係数をそのまま使う第8 計算書の作り方1 所得ごとの台帳2 複数案を示す場合3 端数処理第9 提出資料1 給与及び年金2 配当及び投資利益3 事業及び不動産第10 関連する山中弁護士ブログの記事1 算定表及び給与収入2 金融資産及び事業所得第11 出典・参考資料1 裁判所公表資料2 裁判例
第1 非給与所得を換算する必要がある理由
1 算定表の給与欄と自営業欄は同じ金額を意味しない
(1) 対象と調査基準日

本記事は令和8年9月14日を調査基準日とし,令和元年版の標準算定方式及び判例秘書で全文確認した裁判例を基礎として,給与,配当,年金及び投資利益を同じ算定で扱う場合の換算方法を説明する。
裁判例が用いた係数の再現と,別の年収帯又は事案へ応用するときの限界を区別する。

(2) 給与欄へ単純加算する問題

婚姻費用及び養育費の算定表には,給与所得者の年収目盛りと自営業者の年収目盛りがある。
給与収入には通常,勤務のための被服費,交通費,交際費等の職業費が必要であるのに対し,株式配当,預金利息又は年金の受給には同じ意味での職業費を要しない。
このため,給与収入と配当等を額面のまま足し,合計額を給与年収欄へ入れると,配当等からも給与所得者の職業費相当額を控除する結果となることがある。
反対に,必要経費を控除する前の売上高を自営業収入へ加えると,実際の支払能力を過大に認定することになる。

2 換算は所得の実質をそろえる作業である

換算の目的は,税務上の所得区分を変更することではなく,異なる所得から生活費へ回すことのできる基礎収入を同じ物差しで比較することにある。
給与所得,事業所得,配当,年金及び投資利益のどれについても,公租公課,職業費及び特別経費をどの段階で控除済みかを確認する必要がある。
本記事で示す裁判例の係数は,各決定時の算定方式及び当該年収帯に基づくものである。
別の年収帯又は令和元年版算定表へ係数だけを機械的に移植することは適切ではない。

第2 令和元年版標準算定方式の構造
1 基礎収入

基礎収入は,総収入から公租公課,職業費及び特別経費に相当する標準的な割合を控除し,生活費へ配分できる部分として推計される金額である。
令和元年版の基礎収入割合は,給与所得者について総収入の38%から54%,自営業者について48%から61%であり,収入帯によって異なる。
給与所得者と自営業者の割合が異なるのは,確定申告上の事業所得では一定の必要経費が既に控除されている一方,給与の支払金額からは職業費が控除されていないことなどによる。

2 職業費

職業費とは,給与所得者が就労のために通常必要とする被服費,交通費,通信費,交際費等を統計的に推計したものである。
当事者が現実に同額を支出したことを前提とする実額控除ではない。
配当又は年金に給与所得者と同じ職業費は通常必要ない。
したがって,これらを給与収入相当額へ換算するときは,職業費が不要であることを反映する必要がある。

3 税引前額を出発点とする

配当又は利息が源泉徴収されている場合,預金又は証券口座への入金額は税引後額である。
算定表の給与年収が所得税等を控除する前の支払金額を用いることとの整合上,原則として税引前の配当又は利息額を確認する。
年間取引報告書,配当金計算書又は支払通知書により,税引前額,源泉徴収税額及び実受取額を分ける。

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投資信託の普通分配金・特別分配金は婚姻費用・養育費の収入になるか-元本払戻金と二重計上(AI作成)

目次第1 投資信託の分配金に関する結論1 普通分配金と特別分配金を分ける2 同じ分配金でも投資家ごとに区分が異なる第2 普通分配金と元本払戻金の仕組み1 普通分配金2 元本払戻金(特別分配金)3 個別元本が変動する場合第3 国税庁及び資産運用業協会の説明1 国税庁の取扱い2 資産運用業協会の説明第4 普通分配金と特別分配金を扱った裁判例1 東京高等裁判所平成27年1月26日判決2 家事事件への射程3 家事事件の直接裁判例の確認状況第5 婚姻費用・養育費での具体的な処理1 普通分配金を収入へ算入する場合2 元本払戻金を所得へ算入しない場合3 元本取崩しとして別枠で考慮する場合第6 再投資型及び分配金なし型の投資信託1 普通分配金を再投資した場合2 分配金なし型の含み益第7 上場投資信託等との違い1 すべての商品に同じ区分があるわけではない2 外国投資信託及び外貨建て商品第8 必要資料1 最低限確認する資料2 一覧表の作り方第9 主張書面での整理1 普通分配金を算入する側2 元本払戻金であると反論する側3 共通する注意第10 関連する山中弁護士ブログの記事1 金融資産全体の扱い2 算定表への換算第11 出典・参考資料1 所管行政機関及び業界団体の資料2 裁判例
第1 投資信託の分配金に関する結論
1 普通分配金と特別分配金を分ける
(1) 対象と調査基準日

本記事は令和8年9月14日を調査基準日とし,追加型株式投資信託の普通分配金及び元本払戻金(特別分配金)を婚姻費用・養育費で区別する方法を扱う。
商品性及び税務上の区分は国税庁及び資産運用業協会の公表資料で確認し,家事事件への接続は判例秘書で確認した裁判例の射程を超えない範囲に限定する。

(2) 分配金の算定上の区分

投資信託の分配金には,課税対象となる普通分配金と,元本の一部払戻しに相当する元本払戻金(特別分配金)がある。
婚姻費用又は養育費では,分配金の受取総額をそのまま年間収入とせず,分配金計算書により両者を区別する必要がある。
普通分配金は,現実に受領し,今後も反復継続すると見込まれる場合,配当又は利息に近い非稼働所得として収入算入を検討する。
元本払戻金は投資元本の返還であるから,原則として年間所得へ機械的に加算せず,資産の取崩しとして別に検討する。

2 同じ分配金でも投資家ごとに区分が異なる

普通分配金と元本払戻金の区分は,ファンド全体で一律に決まるものではない。
同じファンドから同じ日に同じ金額の分配を受けても,投資家ごとの購入価額である個別元本が異なれば,ある投資家には全額が普通分配金となり,別の投資家には一部又は全部が元本払戻金となることがある。
商品名,分配率又は運用報告書だけでは個人の区分を確定できない。
販売会社が発行する分配金計算書及び個別元本の記録を確認する必要がある。

第2 普通分配金と元本払戻金の仕組み
1 普通分配金

追加型株式投資信託について,分配後の基準価額が投資家の個別元本を下回らない部分は,原則として普通分配金となる。
普通分配金は税法上課税対象とされ,株式投資信託では配当所得として扱われるのが通常である。
普通分配金を現金で受け取らず,自動再投資した場合でも,いったん普通分配金を受領した上で再投資したものとして課税される。
したがって,生活口座への現金入金がないという理由だけで,普通分配金の発生を見落とさないようにする。

2 元本払戻金(特別分配金)

分配後の基準価額が投資家の個別元本を下回る部分に対応する分配は,元本払戻金となる。
これは投資元本の一部返還であるため非課税とされ,受領後の個別元本は元本払戻金相当額だけ減額される。
元本払戻金を再投資する場合も,経済的には元本の一部払戻しを受けた後に新たな口数を購入することになる。
再投資したという事情によって,元本払戻金が収益へ変わるわけではない。

3 個別元本が変動する場合

同じ投資信託を異なる価格で追加購入した場合,個別元本は原則として移動平均により修正される。
相続,贈与,特別分配又は口座移管がある場合も,販売会社の記録上の個別元本を確認する必要がある。

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変動する収入を婚姻費用・養育費で何年平均するか-歩合給・事業所得・証券売買益・暗号資産(AI作成)

目次第1 変動収入の平均期間に関する結論1 3年平均又は5年平均という一律のルールはない2 通常の確認順序第2 算定表が前提とする年間収入1 算定表は双方の総収入を出発点とする2 過去の実績と将来予測を区別する第3 期間選択の参考となる裁判例1 反復する暗号資産取引益を算入した審判2 構造変化後の資料から年額を推計した審判3 一時的な株式売却を収入から除外した決定4 現在の保有株数から将来配当を推計した審判第4 平均期間の選び方1 単年度を用いる場合2 3年平均を主位的試算とする場合3 5年平均を併記する場合4 中央値を併記する場合第5 所得類型ごとの調整後年間収入1 給与及び賞与2 事業所得3 証券売買益4 暗号資産取引益第6 具体的な計算方法1 単純平均2 現在の元本規模による補助試算3 感応度表を作る第7 給与収入と変動所得を合算する際の注意1 総収入を単純加算できない場合がある2 同じ利益を二重に評価しない第8 提出資料と主張の組み立て1 共通資料2 高い収入を主張する側3 低い収入を主張する側第9 関連する山中弁護士ブログの記事1 算定表及び給与年収2 金融資産及び事業所得第10 出典・参考資料1 裁判所公表資料2 裁判例
第1 変動収入の平均期間に関する結論
1 3年平均又は5年平均という一律のルールはない
(1) 対象と調査基準日

本記事は令和8年9月14日を調査基準日とし,令和元年版の標準算定方式及び判例秘書で全文確認した裁判例を基礎として,変動収入から現在及び近い将来の年間収入を推計する方法を扱う。
税務上の所得計算そのものではなく,婚姻費用又は養育費の算定に用いる収入期間の選択を対象とする。

(2) 固定的な平均期間の不存在

婚姻費用及び養育費は,父母又は夫婦の現在及び近い将来の収入を基礎として定めるものである。
歩合給,賞与,事業所得,証券売買益又は暗号資産取引益の変動が大きい場合でも,常に過去3年又は5年の平均を採用するという法令又は裁判例上の一律のルールはない。
複数年平均は,単年度の例外的な増減をならし,今後の支払能力を推計するための方法である。
したがって,何年分を使うかは,過去の収入が現在の就労状況,事業規模又は投資規模と同質であるかを確認して決める必要がある。

2 通常の確認順序

まず,直近1年の収入が通常年を代表しているかを確認する。
一時的な賞与,臨時受注,保有資産の一括売却又は相場の急騰等が含まれるときは,直近3年の推移を確認し,必要に応じて5年平均及び中央値も併記する。
他方,転職,退職,休職,事業廃止,投資元本の大幅な増減その他の構造変化がある場合は,古い年度を長く平均するほど現在の稼得能力から離れることがある。
この場合は,構造変化後の12か月又は24か月,直近の給与明細,事業計画,現在の保有資産等を用いて年額を推計することになる。

第2 算定表が前提とする年間収入
1 算定表は双方の総収入を出発点とする

裁判所の令和元年版算定表は,給与所得者については原則として源泉徴収票の「支払金額」を,自営業者については確定申告書の「課税される所得金額」を出発点とする。
ただし,自営業者については,青色申告特別控除等の現実に支出されていない控除を加算するなど,算定用の総収入へ修正する必要がある。
算定表へ入力するのは過去の税額を確定するための所得ではなく,今後の生活費負担能力を把握するための年間収入である。
このため,課税証明書又は確定申告書の数字が存在するだけで,その年度が当然に採用年度となるわけではない。

2 過去の実績と将来予測を区別する

過去の収入は,現在及び将来の収入を認定するための証拠である。
審理時点で既に退職しているのに退職前の高額給与をそのまま使うことも,反対に,意図的又は一時的な減収をそのまま固定することも適切ではない。
期間選択では,①勤務又は事業の継続性,②報酬又は取引を本人が調整できる程度,③季節変動,④一時的要因,⑤減収時期と申立時期との関係,⑥現在の契約及び保有資産を確認する。

第3 期間選択の参考となる裁判例
1 反復する暗号資産取引益を算入した審判

福岡家庭裁判所令和4年9月13日審判(令和4年(家)第3142号,判例時報2606号85頁,裁判所HP未掲載,判例秘書L07760034)は,令和3年分の確定申告書に暗号資産取引による雑所得443万2423円が記載されていた事案を扱った。
同審判は,暗号資産の売却又は交換を反復し,その都度利益を得ていたことから,その所得を一回的又は偶発的なものではないとして婚姻費用算定の基礎に含めた。

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相続人に認知症・精神障害等で判断能力を欠く人がいる場合の遺産分割―協議の無効,代筆の危険,成年後見の申立て及び特別代理人(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論の要旨1 本記事の対象2 結論の要旨第2 判断能力を欠く相続人を含めた遺産分割協議の効力1 遺産分割協議は共同相続人全員でする2 意思能力を欠く者の法律行為は無効である3 認知症の診断があるだけで意思能力がないとは限らない4 家族が代わりに署名押印することはできない第3 遺産分割を進める三つの方法1 後見開始等の申立てをして成年後見人等と協議し,又は調停をする方法2 特別代理人の選任を求める方法3 遺産分割審判を最初から申し立てる方法第4 判断能力の程度による違い1 後見相当の場合2 保佐相当の場合3 補助相当の場合4 任意後見契約がある場合第5 後見開始等の申立ての進め方1 申立てができる親族2 申立てができる親族がいない場合の市町村長申立て3 申立先,鑑定及び本人の陳述聴取4 申立ての取下げの制限と費用5 成年後見人の選任と遺産分割への関与第6 手続中に注意すべき期限と資金1 相続税の申告期限2 預貯金の払戻し3 相続放棄を検討する場合第7 出頭が難しいだけの相続人との違い第8 令和8年成年後見制度改正の影響第9 出典1 法令2 裁判例3 裁判所及び行政機関の公表資料4 文献
第1 本記事の対象と結論の要旨
1 本記事の対象

本記事は,共同相続人の中に,認知症,精神疾患又は知的障害等のため判断能力を欠き,又は欠いている疑いがある人がいる場合に,遺産分割をどのように進めるかを,令和8年9月11日時点の法令,裁判例及び家庭裁判所の公表資料に基づいて整理するものである。
主な対象は,その相続人がまだ家庭裁判所から後見開始等の審判を受けていない場面である。
判断能力の程度や手続の段階によって取るべき方法が異なるため,協議の効力,手続の選び方,判断能力の程度による違い,後見開始等の申立て,手続中の期限及び令和8年成年後見制度改正の影響を順に扱う。

本記事は亡くなった人の遺産分割を扱うものであり,親が生存している間に,その親本人の預金から介護費や入院費を支払う場面とは区別する必要がある。
生存中の預金管理と銀行への相談については,認知症の親の預金は引き出せるか―介護費・入院費と銀行への相談(AI作成)を参照されたい。

2 結論の要旨

結論は次のとおりである。
①判断能力を欠く相続人を加えて遺産分割協議をしても,その相続人の意思表示は無効であり(民法3条の2),協議は有効に成立しないと考えられる。
②家族であっても,成年者を代理して遺産分割協議書に署名押印する権限は当然には生じず,権限なく本人名義で署名押印すれば私文書偽造罪(刑法159条)の成否が問題となり得る。
③遺産分割を進める本筋は,その相続人について後見開始等の申立てをし,家庭裁判所が選任した成年後見人等との間で協議又は調停をする方法である。
④家事事件手続法19条及び民事訴訟法35条の特別代理人は,文言上は未成年者又は成年被後見人を対象とする制度であり,後見開始の審判を受けていない人についても選任し得るとする解釈と高裁の決定はあるものの,遺産分割について家庭裁判所の公表資料が案内しているのは成年後見手続である。
⑤遺産分割審判を最初から申し立てることはできるが,それによって相続人の判断能力の問題が解消されるわけではない。
⑥後見開始等の申立ては,本人の配偶者や四親等内の親族等がすることができ,申立てをする親族がいない場合には市町村長による申立てが問題となる。

第2 判断能力を欠く相続人を含めた遺産分割協議の効力
1 遺産分割協議は共同相続人全員でする

民法907条1項は,共同相続人は,遺言で分割が禁じられた場合等を除き,いつでも,その協議で遺産の全部又は一部の分割をすることができると定めている。
遺産分割協議は共同相続人全員でしなければならず,家庭裁判所の遺産分割調停でも,申立人は他の共同相続人全員を相手方とする必要がある(裁判所職員総合研修所監修『家事事件手続法下における書記官事務の運用に関する実証的研究-家事調停事件及び別表第二審判事件を中心に-』253頁)。
したがって,判断能力を欠く相続人を除外して,残りの相続人だけで遺産分割協議を成立させることはできない。

民法907条2項は,「遺産の分割について、共同相続人間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、各共同相続人は、その全部又は一部の分割を家庭裁判所に請求することができる。」と定めている。
判断能力を欠く相続人がいて協議ができない場合も家庭裁判所の手続を利用することになるが,後記第3の3のとおり,家庭裁判所の手続でもその相続人の能力の問題は残る。

2 意思能力を欠く者の法律行為は無効である

民法3条の2は,「法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は、無効とする。」と定めている。
遺産分割協議に加わる各相続人の合意は意思表示であるから,協議の時点で意思能力を欠いていた相続人の意思表示は無効となる。
その結果,共同相続人全員の有効な合意がないことになり,協議は有効に成立しないと考えられる。

このような協議に基づいて相続登記や預貯金の払戻しがされても,後に協議の無効が主張されれば,その前提が争われることになる。
遺産分割協議の効力が争われる場面としては,このほかに錯誤による取消しがあり,遺産分割協議における錯誤取消し―旧法の要素の錯誤,裁判例と実務対応で整理している。

3 認知症の診断があるだけで意思能力がないとは限らない

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大学の学費は特別受益になるか―きょうだいの一人だけが大学へ進学した場合と医学部・歯学部の裁判例(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論の見取図1 対象とする場面2 結論の見取図第2 学費が特別受益になるかを考える枠組み1 「生計の資本としての贈与」と扶養義務の関係2 学説の二つの見解3 家庭裁判所の実務書の説明4 大学進学の現状5 裁判例が示す基準第3 きょうだいの一人だけが大学へ進学した場合1 特別受益とされなかった例2 特別受益に当たることを前提に算定を求めた例3 二つの事案の違い第4 医学部・歯学部など学費が特に多額の場合1 歯学部の学費を特別受益とした例2 医学部・歯学部の学費を特別受益としなかった例3 高卒のきょうだいがいる場合への当てはめ4 学費以外の費用と,誰が負担したか第5 特別受益に当たり得ても持戻しが免除されることがある第6 孫の学費を祖父母が負担した場合第7 金額の算定,期限と確認する資料1 特別受益とされた場合の金額2 期限3 確認する資料第8 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 文献4 統計
第1 本記事の対象と結論の見取図
1 対象とする場面

本記事は,3人の子のうち2人は高校を卒業して就職し,1人だけが親に大学の学費を出してもらったという場合に,その学費が民法903条1項の特別受益として遺産分割で考慮されるかを,令和8年9月11日時点の法令と裁判例に基づいて整理するものである。
遺留分の計算でも,相続人に対する生計の資本としての贈与は基礎となる財産に算入されるため(民法1044条1項・3項),同じ問題が生じる。
子の人数が3人であること自体は結論に関係せず,判断を分けるのは,学費の額,親の資産や社会的地位,学費が支出された当時の事情,他の子との比較である。

2 結論の見取図

裁判例と実務書を踏まえると,結論は次のように整理できる。
①大学の学費は,親の資産や社会的地位からみてその程度の教育を受けさせるのが普通といえる範囲では親の扶養義務の履行とされ,本記事で確認した裁判例でも特別受益を否定したものが多い。
②きょうだいのうち一人だけが大学へ進学したという事実だけで,直ちに特別受益とされるわけではない。
③私立大学の医学部や歯学部のように学費が特に多額の場合には,特別受益とされた裁判例がある一方,家業の承継や他のきょうだいの学歴を理由に否定した裁判例もある。
④特別受益に当たり得る場合でも,親が持戻しを免除する意思を有していたと認められることがある。

第2 学費が特別受益になるかを考える枠組み
1 「生計の資本としての贈与」と扶養義務の関係

民法903条1項は,共同相続人のうち,被相続人から遺贈を受け,又は「婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者」があるときは,その贈与の価額を相続財産に加えて相続分を計算すると定めている。
他方で,直系血族は互いに扶養をする義務を負う(民法877条1項)。
大学の学費は,卒業後の生活の基礎となる点で「生計の資本」に当たり得るが,親が子に教育を受けさせる費用は扶養の一内容でもあるため,どこまでが扶養でどこからが遺産の前渡しかが問題となる。

親が離婚した場合に子の大学の学費を養育費に加算できるかという別の問題は,私立学校・大学・留学の学費は養育費に加算できるか―標準教育費と超過分の計算で扱っている。

2 学説の二つの見解

松川正毅・窪田充見編『新基本法コンメンタール 相続』(日本評論社,2016年)の民法903条の解説(木村敦子執筆)は,教育費用として特別受益性が特に問題となるのは大学以上の高等教育であるとした上で,二つの見解を紹介している(同書71頁)。
一つは,高等教育の費用は生活費の源泉及び生活能力の取得のためのものであるから,常に生計の資本としての贈与に当たるとする見解である。
もう一つは,被相続人の資力や社会的地位,他の兄弟との比較から,具体的に被相続人の扶養義務に含まれるかどうかを判断した上で,通常の学資と考えられるものは特別受益に該当しないとする見解であり,同書はこちらが有力に主張されているとしている。

3 家庭裁判所の実務書の説明

片岡武・管野眞一編著『第4版 家庭裁判所における遺産分割・遺留分の実務』(日本加除出版,2021年。以下「片岡・管野編著」という。)は,高等教育を受けるための学資とは基本的には入学金や授業料等をいい,その間の生活費や下宿代,留学時の渡航費用などを必ずしも含むものではないとしている(同書243頁~244頁)。
同書は,高校卒業後の専門学校,大学,留学等の学資は,私立の医科・薬科等の大学の入学金・授業料のように特別に多額なものでない限り,子の資質・能力等に応じた親の子に対する扶養義務の履行に基づく支出とみることができるとしている(同書244頁)。
また,扶養の範囲内とはいえないものの,相続人全員が大学教育を受け,ほぼ同額の受益を受けている場合には,「特別受益として考慮しない」とするのが相当であるとしている(同書244頁)。

田村洋三・小圷眞史編著『第3版 実務相続関係訴訟』(日本加除出版,2020年。以下「田村・小圷編著」という。)は,高等学校や大学の学費については,高学歴化の時代で多くの者が進学することから,扶養義務の履行にすぎないとして特別受益と見ない考え方が強くなっているようであるが,医学部など高額な費用を要する場合は特別受益と考える扱いが多いようであると説明している(同書27頁)。

4 大学進学の現状

文部科学省が令和7年12月26日に公表した学校基本統計(学校基本調査の結果)の確定値によれば,令和7年度の大学(学部)進学率(過年度卒を含む)は58.6%,大学・短期大学のほか高等専門学校4年次や専門学校を含む高等教育機関への進学率は85.4%である。
ここでいう大学(学部)進学率は,大学(学部)の入学者を3年前の中学校等の卒業者の数で割ったものである。

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公正証書遺言と異なる口約束は遺言の効力に影響するか―撤回の方式,生前処分との抵触及び口頭の死因贈与(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論の要旨1 本記事の対象2 結論の要旨3 遺言が効力を生ずるのは死亡の時である第2 口約束で公正証書遺言を撤回し,又は変更することはできない1 撤回は遺言の方式による2 「遺言は変えない」「書き換える」という約束の効力3 公正証書遺言の正本を破棄しても撤回にはならないと解されている4 口頭の遺言は原則として効力がない第3 遺言後の生前処分による撤回擬制1 民法1023条2項の定め2 「抵触」の意味――最高裁昭和56年11月13日判決3 確定的な法律効果が必要――最高裁昭和43年12月24日判決4 遺言者本人の行為であることが必要5 撤回されるのは抵触する部分に限られる第4 口約束の中身ごとの検討1 単なる希望や予定の表明にとどまる場合2 売買の約束をした場合3 生前贈与の約束をした場合4 「自分が死んだら譲る」という約束をした場合第5 口頭の死因贈与と公正証書遺言の優劣1 死因贈与は口頭でも成立するが,承諾が必要である2 遺言の後に口頭で死因贈与をした場合3 遺言の前に口頭で死因贈与をしていた場合4 負担付死因贈与で負担が履行されている場合――最高裁昭和57年4月30日判決5 裁判上の和解でされた死因贈与――最高裁昭和58年1月24日判決6 書面によらない死因贈与の解除第6 口約束の立証1 口頭の死因贈与の成立が否定された例――大阪地裁令和2年3月27日判決2 主張する側と争う側が確認する事項第7 約束を実現したい場合にとるべき方法第8 出典1 法令2 裁判例3 文献
第1 本記事の対象と結論の要旨
1 本記事の対象

本記事は,公正証書遺言を作成した人が,遺言の内容と異なる不動産の処分を口頭で約束していた場合に,その約束が公正証書遺言の効力に影響するかを,令和8年9月11日時点の民法と裁判例に基づいて整理するものである。
典型的には,「自宅は長男に相続させる」との公正証書遺言がある一方で,親が生前に次男へ「この家はお前にやる」と話していたという場面である。

2 結論の要旨

結論は,口約束の法的な中身と,遺言との先後関係によって次のように分かれる。
①口約束が「遺言をやめる」「遺言を書き直す」という意思の表明にとどまる場合は,遺言の方式によっていない以上,公正証書遺言は撤回されない。
②遺言の後に,売買,贈与又は死因贈与の契約が口頭で成立し,それが遺言と両立しない場合は,両立しない部分について遺言は撤回されたものとみなされる(民法1023条2項)。
③もっとも,意思が表明されただけで法律効果が確定的に生じていない場合は,撤回されたものとはみなされない。
④遺言の前に口頭の死因贈与が成立していた場合は,後の遺言が優先するのが原則であるが,負担付死因贈与で受贈者が負担を履行していた場合などは,後の遺言によって覆らないことがある。
⑤口約束は証拠が残りにくく,約束の成立そのものが認められないことがある。

3 遺言が効力を生ずるのは死亡の時である

遺言は,遺言者の死亡の時からその効力を生ずる(民法985条1項)。
そのため,公正証書遺言を作成した後も遺言者は生前に財産を処分することができ,その処分と遺言との関係を定めているのが民法1022条から1026条までの規定である。

第2 口約束で公正証書遺言を撤回し,又は変更することはできない
1 撤回は遺言の方式による

民法1022条は,「遺言者は、いつでも、遺言の方式に従って、その遺言の全部又は一部を撤回することができる。」と定めている。
遺言の撤回は遺言そのものではないが,遺言の方式によらなければならず,これは遺言の要式行為性を貫いたものと説明されている(松川正毅・窪田充見編『新基本法コンメンタール 相続』236頁〔久保野恵美子〕)。
したがって,遺言者が家族や受遺者に対して「あの遺言はなかったことにする」と口頭で述べても,それだけで公正証書遺言が撤回されることはない。

撤回に用いる方式は撤回される遺言と同じである必要はなく,公正証書遺言を自筆証書遺言の方式で撤回することもできる(同書236頁,田村洋三・小圷眞史編著『第3版 実務相続関係訴訟』244頁)。
遺言は民法に定める方式に従わなければすることができず(民法960条),普通の方式は自筆証書,公正証書又は秘密証書である(民法967条)。

2 「遺言は変えない」「書き換える」という約束の効力

民法1026条は,「遺言者は、その遺言を撤回する権利を放棄することができない。」と定めている。
注釈書は,遺言者が受遺者その他の者と撤回しない旨を約束しても,遺言者はこれに拘束されず,矛盾する遺言をしたり,遺贈の目的物を受遺者以外の者に譲渡したりして遺言を撤回することができると説明している(前掲『新基本法コンメンタール 相続』244頁~245頁)。
反対に,「遺言を書き換えて家はお前に渡す」と約束しただけでは,遺言が書き換えられたことにはならない。

3 公正証書遺言の正本を破棄しても撤回にはならないと解されている

遺言者が故意に遺言書を破棄したときは,破棄した部分について遺言を撤回したものとみなされる(民法1024条)。
しかし,公正証書遺言の原本は公証人が保管しており,遺言者が手元の正本を破棄しただけでは撤回事由にならないと解されている(前掲『新基本法コンメンタール 相続』241頁)。
約束の相手の前で正本を破ってみせたとしても,それだけでは公正証書遺言は撤回されないと考えられる。

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実家に独身のまま無償で住み続けた子は特別受益者になるか―同居・別居・土地利用で分かれる判断(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論の見取図1 対象とする場面2 判断を分ける四つの場面第2 無償居住で問題となる利益1 特別受益は「生計の資本としての贈与」に限られる2 使用借権と賃料相当額は区別される第3 親と同居していた場合は原則として特別受益にならない1 同居の子は占有補助者にとどまる2 使用借主の家族として同居していたにすぎない場合3 親の土地に建てた家で親と同居していた場合第4 特別受益に当たり得る場面1 親の住まいから独立した住戸を無償で使っていた場合2 親の土地に自分の家を建てて住んでいた場合3 家賃だけでなく生活費の援助も受けていた場合第5 特別受益に当たるとしても結論が動く事情1 持戻し免除の意思表示2 介護・扶養との関係と寄与分第6 親の死亡後も住み続ける場合第7 期限と主張立証の進め方1 遺産分割の10年と遺留分の期間2 特別受益を主張する側が確認する資料3 住み続けた側の反論第8 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 文献
第1 本記事の対象と結論の見取図
1 対象とする場面

本記事は,親(被相続人)名義の実家に,子が家賃を払わずに住み続けていた場合に,その居住の利益が民法903条1項の特別受益として遺産分割や遺留分の計算に反映されるかを,令和8年9月11日時点の法令と裁判例に基づいて整理するものである。
独身のまま実家に残った子が典型的な場面であるが,独身であること自体は法律上の要件ではなく,判断を分けるのは,親と同じ家で暮らしていたのか,親の住まいから独立した部分を独占していたのか,親の財産がどれだけ減ったのかという事情である。
配偶者の居住については配偶者短期居住権等の別の制度があるため,本記事は子の居住を対象とする。

2 判断を分ける四つの場面

裁判例と実務書を踏まえると,場面ごとの結論は次のように整理できる。
①親と同じ家で暮らしていた場合は,原則として特別受益にならない。
②親の住まいから独立した住戸を独占して無償で使い,親がその住戸を賃貸に出せた場合には,特別受益とされた裁判例がある。
③親の土地に自分名義の家を建てて住んでいた場合は,土地の使用借権が特別受益とされることがある。
④家賃を免れただけでなく生活費の援助も受けていた場合は,援助の額によって特別受益となることがある。

第2 無償居住で問題となる利益
1 特別受益は「生計の資本としての贈与」に限られる

民法903条1項は,共同相続人のうち,被相続人から遺贈を受け,又は「婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者」がいるときに,その価額を相続財産に加えて相続分を計算すると定めている。
実家に住まわせることは,所有権を移すものではなく,無償で使用させる使用貸借(民法593条)の関係である。
そのため,無償居住が特別受益になるかは,親から子へ何が「贈与」されたといえるのか,すなわち使用借権そのものか,免れた家賃の累計かという形で問題になる。

2 使用借権と賃料相当額は区別される

遺産分割の実務書である片岡武・管野眞一編著『第4版 家庭裁判所における遺産分割・遺留分の実務』(以下「片岡・管野編著」という。)は,特別受益は遺産の前渡しを考慮する制度であるから,相続開始時の遺産の減少分である使用借権相当額が特別受益額であり,遺産の価値と関わらない地代相当額は特別受益額とはならないという見解に実務が立っていると説明している(同書258頁)。
東京地方裁判所平成15年11月17日判決(平成13年(ワ)第16810号,家月57巻4号67頁,判タ1152号241頁)も,土地を無償で使用していた相続人について,使用期間中の使用による利益は使用貸借権の価格に織り込まれているとして,使用貸借権とは別に使用料を加算することを否定した。

したがって,「何十年分の家賃相当額をそのまま足し戻す」という主張は,土地の使用については,上記の実務書と判決のいずれも採っていない。
他方,後記第4の1の東京地方裁判所平成30年12月27日判決は,建物の独立した住戸の無償使用について,使用期間の賃料相当額を基に特別受益の額を算定しており,土地の場合とは算定方法が異なる。
親に固定資産税相当額や相場より安い家賃を払っていた場合に,それが賃料といえるか,使用貸借にとどまるかは,使用貸借と賃貸借の区別-固定資産税程度の支払,相場より安い地代・家賃は賃料かで扱っている。

第3 親と同居していた場合は原則として特別受益にならない
1 同居の子は占有補助者にとどまる

片岡・管野編著は,相続人が被相続人の建物で被相続人と同居していたが,単なる占有補助者であって独立の占有権原があると認められない場合は,使用借権が認められないから特別受益にならないとしている(同書261頁)。

同書は,独立の占有が認められる場合でも,建物については賃料相当額が特別受益になる場合はないとの見解を示している(同書260頁~261頁)。
その理由として,建物の使用貸借は恩恵的要素が強く遺産の前渡しという性格が定型的に薄いこと,建物の使用借権は対抗力がなく明渡しも容易で経済的価値に乏しいこと,賃料相当額を合計すると遺産の総額と比べて過大になることなどを挙げている。

さらに同書は,被相続人の強い希望による同居,被相続人の療養看護や生活支援のための同居,家業従事の都合による同居は,単純に相続人の利益のためとは言い難く,特別受益に該当しないことがあるとしている(同書262頁)。

2 使用借主の家族として同居していたにすぎない場合

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養育費のワンストップ執行手続とは-財産開示から給与差押えまでの一括申立てと,銀行口座が対象外である理由(AI作成)

第1 結論第2 制度の位置付けと施行時期1 改正前は三つの申立てを別々にする必要があった2 令和6年法律第33号による新設と経過措置第3 利用できる債権者1 対象となる請求権2 債務名義を有する債権者3 子の監護費用の先取特権を証する文書を提出した債権者第4 財産開示手続から入る場合1 申立ての要件と手続の流れ2 開示された給与債権に対する差押え3 債務者が財産を開示しなかった場合の市町村への情報提供命令第5 給与債権に係る情報取得手続から入る場合1 情報の提供を命じられる第三者2 3年以内に財産開示期日が実施されていること3 手続の流れ第6 差し押さえるべき給与債権を特定できない場合第7 銀行口座(預貯金)は対象外である1 条文と裁判所の書式による限定2 預貯金が対象から外された経緯3 国会答弁の表現の変化4 預貯金を差し押さえたい場合の手順第8 申立ての前後で注意すべき点1 ワンストップ執行手続を使わない場合の意思表示2 手数料の納付時期と額3 債務者に手続が知られる時点4 取下げの制限5 市町村の情報の基準時と自営業者の限界6 消滅時効との関係第9 どちらの入口を選ぶか第10 出典1 法令2 公文書(法制審議会資料・国会会議録)3 所管行政機関及び裁判所の解説・運用資料
第1 結論

令和8年4月1日から,養育費,婚姻費用その他の扶養義務等に係る請求権に基づいて財産開示手続又は給与債権に係る第三者からの情報取得手続を申し立てると,その申立てと同時に,これらの手続で判明した給与債権に対する差押命令の申立てもしたものとみなされるようになった(民事執行法167条の17第1項)。
裁判所は,この仕組みを「ワンストップ執行手続」と呼んでいる。

財産開示手続から入った場合に,債務者が財産を開示しなかったときは,債権者が別段の意思を表示しない限り,執行裁判所は,債務者の住所のある市町村に対し,勤務先等の給与に関する情報の提供を命じなければならない(同条2項)。
これにより,財産開示,勤務先の特定及び給与の差押えを,1回の申立てで連続して進めることができる。

もっとも,差押命令の申立てをしたものとみなされるのは,給与債権(民事執行法206条1項各号に規定する債権)に限られる。
銀行口座の預貯金はワンストップ執行手続の対象外であり,差押命令を別に申し立てる必要がある。
金融機関や取扱店舗等の必要な情報が不足する場合は,預貯金債権に係る第三者からの情報取得手続(同法207条)の利用も検討する。
財産開示から勤務先の特定,銀行口座の差押えまでを1回の申立てで行えるという理解は,銀行口座の部分について条文と一致しない。

本記事は,令和8年9月11日時点の法令,裁判所の手続案内及び公表されている立法資料に基づき,この制度を利用できる債権者,二つの入口(財産開示手続と情報取得手続),給与債権に限られた経緯及び申立ての前後で注意すべき点を整理するものである。
養育費の回収方法全体(履行勧告,給与差押えの範囲,将来分の差押え,消滅時効等)は養育費を払わない場合の回収方法―履行勧告・給与差押え・先取特権・ワンストップ執行(AI作成)で,先取特権の要件と上限額は養育費債権の先取特権とは―対象範囲,子1人当たり月額8万円の上限及び差押え(AI作成)で説明している。

第2 制度の位置付けと施行時期
1 改正前は三つの申立てを別々にする必要があった

強制執行を申し立てるには,差し押さえる財産を特定する必要がある。
相手の勤務先や財産が分からない場合は,財産開示手続や第三者からの情報取得手続を使って財産を調べ,判明した財産に対する差押えを改めて申し立てることになる。
法務省民事局長は,令和6年4月5日の衆議院法務委員会で,これらの手続についてそれぞれ別個に申立てをしなければならず,一人親家庭にとっての負担となっているとの指摘があると答弁しており,ワンストップ執行手続はこの申立ての負担を軽減するために設けられた。

2 令和6年法律第33号による新設と経過措置

民事執行法167条の17は,民法等の一部を改正する法律(令和6年法律第33号)による改正で新設された。
同法は令和6年5月24日に公布され,167条の17は令和8年4月1日に施行された。

同法附則7条は,改正後の167条の17(193条2項において準用する場合を含む。)の規定は,施行日以後に申し立てられる民事執行の事件について適用すると定めている。
基準は申立ての日であるから,令和8年3月31日以前に成立した調停調書や公正証書に基づく場合でも,令和8年4月1日以後に申し立てるのであれば,この仕組みを利用できると考えられる。
東京地方裁判所民事執行センターの書式案内も,令和8年3月31日までの養育費に関する調停調書,審判書,公正証書等がある場合を,債務名義に基づく申立書の例として挙げている。

これに対し,子の監護費用の先取特権は,施行日以後に生じた各期の定期金についてのみ適用される(同法附則3条1項)。
そのため,先取特権に基づいてワンストップ執行手続を利用する場合に請求できるのは,令和8年4月1日以後に生じた分に限られる。

第3 利用できる債権者
1 対象となる請求権

対象となるのは,民事執行法151条の2第1項各号に掲げる義務に係る請求権であり,具体的には次の四つである。
①夫婦間の協力及び扶助の義務(民法752条)
②婚姻から生ずる費用の分担の義務(民法760条)

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独身の高齢者に任意後見契約が必要な理由―申立人の不在,受任者の選び方及び令和8年改正(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論の要旨1 本記事の対象2 結論の要旨第2 独身の高齢者に起きること1 一人暮らしの高齢者は増え続けている2 判断能力が低下すると本人名義の手続が滞る3 申立人がいなければ市区町村長の申立てに頼ることになる第3 任意後見契約が独身の高齢者に適する理由1 受任者と代理権の範囲を自分で決められる2 登記された任意後見契約は法定後見に優先する3 権限は契約に書いた範囲に限られる第4 独身の高齢者が任意後見契約でつまずきやすい点1 契約しても発効しないまま終わることがある2 受任者が先に亡くなり,又は衰えることがある3 任意後見監督人の報酬がかかる4 葬儀などの死亡後の事務は任意後見の範囲外である5 医療行為への同意と身元保証も解決しない第5 任意後見契約と組み合わせるもの1 見守りと財産管理の委任2 死後事務委任契約と遺言3 公的支援と民間の事業者4 契約の手順と費用第6 令和8年改正で独身の高齢者に何が変わるか1 施行時期と既存の契約への適用2 発効の申立てを託す人を公正証書で指定できる3 受任者が欠けたときの次順位を決められる4 任意後見監督人を選任しない場合がある5 補助が始まっても任意後見契約は終了しない第7 独身の高齢者が任意後見契約を結ぶときの確認事項第8 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 所管行政機関の資料・行政ガイドライン4 統計・調査5 職能団体の資料6 文献

第1 本記事の対象と結論の要旨

1 本記事の対象

本記事は,配偶者も子もいない高齢者,又は親族はいても日常的に頼れる関係にない高齢者(以下「独身の高齢者」という。)について,判断能力の低下に備えて任意後見契約を結ぶ必要があるかを扱う。
初回整理は令和8年9月10日時点の法令及び公表資料に基づき,同月11日に加筆した部分は同日時点の資料による。
その後に公表された資料を引用する箇所は,当該資料の公表日又は版を示して追補している。
令和8年6月24日に公布された民法等の一部を改正する法律(令和8年法律第45号)は,成年後見制度の部分がまだ施行されていないため,現行法による説明と改正後の説明を分けて記載する。

移行型の任意後見契約の仕組み,通常委任の段階の濫用防止条項及び移行型に関する裁判例は,移行型の任意後見契約―通常委任からの移行,濫用防止及び令和8年改正で扱っている。
本記事は,独身であることによって生じる問題,すなわち判断能力が低下したときに誰が本人のために動くのかという点に絞って検討する。

2 結論の要旨

独身の高齢者にとって,任意後見契約の必要性は高い。
判断能力が低下した後に預貯金の管理や施設入所の契約を本人に代わって行う人を,配偶者や子のいる人のように家族の中に見込むことができないためである。
任意後見契約がないまま判断能力が低下すると,本人が自ら申し立てるか,親族や市区町村長が申し立てるまで法定後見は始まらず,申立てがされても後見人等は家庭裁判所が選ぶ。

もっとも,任意後見契約は結んだだけでは効力を生じない。
現行法では,家庭裁判所が任意後見監督人を選任して初めて効力を生じ,その申立てができるのは本人,配偶者,四親等内の親族及び任意後見受任者に限られる。
独身の高齢者の場合,申立てを担えるのが事実上受任者だけということがあり,受任者が同世代であれば本人より先に亡くなることもある。
任意後見は本人の死亡で終わり,医療行為への同意や身元保証も引き受けない。

そのため,独身の高齢者が任意後見契約を結ぶときは,受任者の年齢と代わりの受任者,判断能力の低下に誰が気付き誰が申立てをするか,代理権の範囲,監督人報酬を含む費用及び死亡後の事務を,併せて設計することが考えられる。
令和8年改正法が施行されると,発効の申立てを託す人を公正証書で指定し,次順位の受任者を定めることができるようになり,これらの問題の一部に制度上の手当てがされる。

第2 独身の高齢者に起きること

1 一人暮らしの高齢者は増え続けている

内閣府の令和8年版高齢社会白書によれば,65歳以上の一人暮らしの者が65歳以上人口に占める割合は,令和2年に男性15.0%,女性22.1%であり,令和32年には男性26.1%,女性29.3%になると見込まれている。
65歳以上の一人暮らしの者の数も,令和2年の約672万人から,令和32年には約1,084万人になると推計されている。

この統計の「一人暮らし」は単独世帯等を指し,未婚の人や子のいない人の数を直接示すものではない。
配偶者と死別して子と別居している人が含まれる一方,未婚でもきょうだいと同居している人は含まれない。
それでも,判断能力が低下したときに同じ家で異変に気付く家族がいない高齢者が増えていることは,この統計から読み取れる。

2 判断能力が低下すると本人名義の手続が滞る

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証券口座の相続-共同相続人の一人だけで取引履歴を取得できるか(AI作成)

目次第1 結論1 共同相続人の一人による請求2 情報の取得と証券の処分は別である第2 単独請求を認める法的な考え方1 相続による契約上の地位の承継2 最高裁平成21年1月22日判決3 証券会社への適用は判例の射程を踏まえて判断する4 帳簿の保存義務と開示請求権は同じではない第3 どの資料をどこへ請求するか1 口座開設先を調べる資料2 残高証明書と取引履歴3 請求期間と対象口座を特定する4 残高証明書,取引履歴及び申告資料は役割が異なる第4 証券会社に対する実際の請求手続1 一般に準備する書類2 公表されている証券会社の取扱例3 相続手続依頼書とは分けて請求する4 「遺言執行者でなければ交付できない」と言われた場合第5 請求が制限され得る場面1 保存期間を経過した記録2 生前に口座契約が終了していた場合3 第三者の情報及び権利濫用4 相続資格に争いがある場合第6 個人情報保護法及び守秘義務との関係1 死亡した本人だけの情報2 生存する個人の情報が含まれる場合第7 取得した取引履歴の使い方1 相続財産及び取得費の確認2 資産移動に疑問がある場合3 関連する本ブログの記事第8 請求前の確認事項出典・参考資料1 法令2 裁判例3 公的機関の資料4 証券会社の公開資料5 参考文献
第1 結論
1 共同相続人の一人による請求

被相続人が証券会社に有していた口座については,共同相続人の一人が,被相続人の死亡及び自らが相続人であることを証明し,他の共同相続人全員の同意を得ずに,顧客勘定元帳その他の取引履歴を請求できるのが原則であると考えられる。
もっとも,最高裁判所が直接判断したのは預金口座の取引経過であり,証券会社に対する請求について同じ結論を示した最高裁判例は,令和8年9月10日現在,裁判所ウェブサイトでは確認できない。
そのため,法的な根拠と証券会社の公開手続を併せて確認し,会社ごとの書式,対象期間,手数料及び本人確認方法に従って請求する必要がある。

2 情報の取得と証券の処分は別である

取引履歴又は残高証明書を取得することと,被相続人名義の株式,投資信託,債券又は預り金を移管し,売却し,又は払い出すことは別の手続である。
共同相続された株式等は遺産分割前には準共有となるものが多く,共同相続人の一人が資料を単独で取得できるとしても,その者だけで口座内の資産全部を処分できるわけではない。
相続放棄又は限定承認を検討している場合も,財産調査と処分を区別する必要がある。

第2 単独請求を認める法的な考え方
1 相続による契約上の地位の承継

民法896条は,相続人が相続開始時から被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継することを原則とし,同法898条は,相続人が数人あるときは相続財産が共同相続人の共有に属すると定めている。
所有権以外の財産権を数人で有する場合には共有に関する規定が準用され(民法264条),保存行為は各共有者が単独ですることができる(同法252条5項)。
被相続人が証券会社との取引契約に基づいて有していた報告請求の地位も共同相続人に承継され,取引状況を把握するための資料請求は,その地位を保存する行為として単独行使できると考える余地がある。

2 最高裁平成21年1月22日判決

最高裁平成21年1月22日第一小法廷判決(平成19年(受)第1919号預金取引記録開示請求事件,民集63巻1号228頁)は,預金契約に含まれる委任事務又は準委任事務の処理状況を把握するため,金融機関は預金者に取引経過を開示する義務を負うとした。
同判決は,預金者の死亡後,共同相続人の一人が,共同相続人全員に帰属する預金契約上の地位に基づき,他の共同相続人全員の同意なしに取引経過開示請求権を単独で行使できると判示した。
また,開示の相手方が共同相続人にとどまる限り,預金者のプライバシー又は金融機関の守秘義務の問題が生ずる余地はないとしつつ,請求の態様,対象又は範囲によっては権利濫用となり得ることも付言した。

3 証券会社への適用は判例の射程を踏まえて判断する

証券取引口座の契約関係にも,売買等の受託,保管,振替及び金銭の受払いに関する事務処理と,その結果を顧客へ報告する関係が含まれる。
そのため,取引状況の把握に必要な資料を相続人の一人が請求する場面では,前記最高裁判決の考え方が証券会社にも及ぶと解することができる。
もっとも,証券取引口座の契約内容及び金融商品の種類は預金契約と同一ではなく,証券会社に対する単独請求を直接認めた最高裁判例も確認できないため,本記事では「原則として単独請求できると考えられる」と整理する。

4 帳簿の保存義務と開示請求権は同じではない

金融商品取引法46条の2は,金融商品取引業者に帳簿書類の作成及び保存を義務付けている。
金融商品取引業等に関する内閣府令157条及び164条は,顧客勘定元帳を帳簿書類の一つとして掲げ,その記載事項と保存期間を定めている。
これらの規定は,証券会社が記録を作成し保存する根拠であるが,それだけで相続人に対する私法上の開示請求権を直接定めたものではないため,契約上の地位の承継及び各社の手続と区別して理解する必要がある。

第3 どの資料をどこへ請求するか
1 口座開設先を調べる資料

被相続人が利用していた証券会社が分からない場合,証券保管振替機構に登録済加入者情報の開示を請求できる。
同機構の公開案内は,法定相続人が複数いる場合でも,そのうち一人から請求できるとしている。
ただし,この開示で分かるのは開示時点の口座開設先であり,銘柄,保有数量,残高及び取引履歴は含まれないため,判明した各証券会社へ改めて照会する必要がある。

2 残高証明書と取引履歴

残高証明書は,死亡日その他の基準日に被相続人口座に存在した資産を把握する資料である。
これに対し,顧客勘定元帳,取引明細又は取引履歴は,売買,入出庫,入出金,配当,分配金,償還及び手数料等の経過を確認する資料であり,残高証明書だけでは分からない取得価額又は資金移動を調べる際に必要となる。
書類名,記載範囲及び交付形式は証券会社によって異なるため,「取引履歴一式」とだけ書かず,必要な資料名と項目を確認するのが適切である。

勧誘時の説明に疑問がある場合は,取引履歴に加え,取引当時の商品説明資料,契約締結前交付書面及び交付・閲覧の記録等についても,保存の有無と取得方法を照会する。
現在ウェブに掲載されている資料と,取引当時に提供された資料は区別し,商品名,契約日及び資料の版を対応させて整理する。

これらの資料について,取引履歴と同じ条件で当然にすべての開示を受けられると扱うことはできない。
資料ごとに保存の有無,任意交付の可否,請求の根拠及び必要な手続を確認する。

交付書面の役割や未受領時に確認する事項は,証券会社の契約締結前交付書面とは―交付義務・読むべき項目・電子交付と目論見書の違いを参照されたい。

3 請求期間と対象口座を特定する

請求書には,被相続人の氏名,生年月日,住所,支店名及び口座番号のほか,対象期間,金融商品の種類並びに必要な取引項目を具体的に記載する。
例えば,死亡日前後の資産移動を調べるのか,被相続人の取得費を調べるのかによって,必要な期間と資料は異なる。
複数の口座区分がある場合は,特定口座,一般口座,NISA口座,外国証券口座,信用取引口座及び預り金のいずれを対象とするかも確認する必要がある。

4 残高証明書,取引履歴及び申告資料は役割が異なる

残高証明書は,原則として基準日時点の預り残高を確認する資料であり,その時点の残高が零であっても,過去の取引や資金移動がなかったことまでは示さない。
受渡未了の取引,別口座,口座外管理の商品又は証明対象外サービスがないかも,証明書の注記と証券会社への照会で確認する。

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精神科病院入院中の成年被後見人が他科を受診するときの付添い――後見人の義務、病院との役割分担、介護保険・障害福祉・自費サービス(AI作成)

目次第1 結論と検討の対象第2 最初に「付添い」の内容を分ける1 移送と介助は別の機能である2 医療同意とも区別する第3 成年後見人の義務と限界1 民法858条及び859条2 最高裁平成28年3月1日第三小法廷判決3 大阪家裁後見センターだよりの整理第4 精神科病院との役割分担1 病院に最初に確認すべき事項2 他医療機関受診に関する診療上の連携3 全国一律の付添い分担規定は確認できない第5 介護保険の通院等乗降介助1 居宅が始点又は終点となることが基本である2 老健からの受診例をそのまま当てはめない3 実際の確認先第6 障害福祉サービス1 通院等介助にも居宅起点・終点の制約がある2 入院中の重度訪問介護と移送を混同しない3 65歳以上では介護保険との関係も確認する第7 地域の外出支援と自費サービス1 寝屋川市の外出援助サービス2 自費の付添いサービス3 移送部分には道路運送法上の確認が必要である第8 費用負担と後見事務の記録1 本人の必要性と財産から判断する2 記録に残す事項第9 実務上の手順1 病院との打合せ2 公的サービスの照会3 自費サービスの選定4 受診後の引継ぎ第10 判例及び一次資料の到達点第11 出典1 法令及び裁判例2 行政資料3 文献
第1 結論と検討の対象

本記事は,令和8年9月10日現在の法令及び公的資料に基づき,精神科病院に入院中の成年被後見人が整形外科等の他の医療機関を受診するとき,誰が付添いを担うのかを整理するものである。
結論からいえば,成年後見人であるというだけで,後見人本人が車椅子を押し,移動中及び待合室で見守り,診察に付き添う事実行為まで当然に行う義務を負うわけではない。
もっとも,本人が必要な診療を安全に受けられるよう,病院と必要な支援内容を確認し,利用可能なサービスを調査し,必要な契約及び支払を行うことは,後見事務となり得る。

付添い方法は,精神疾患の診断名だけで決めるべきではない。
本人ごとの歩行・移乗能力,転倒又は離院のおそれ,意思疎通の方法,服薬及び急変時の対応,入院形態並びに受診先が求める支援を確認して決める必要がある。

第2 最初に「付添い」の内容を分ける
1 移送と介助は別の機能である

「病院への付添い」という一語には,複数の異なる仕事が含まれる。
少なくとも,①精神科病院から受診先までの車両による移送,②病室から車両まで及び車両から診察室までの歩行・車椅子・移乗介助,③車内及び待合室での見守り,④受付・保険資格確認・会計,⑤診察時の意思疎通支援,⑥診療情報及び処方内容の受渡し,⑦急変又は離院時の対応に分けて考える必要がある。

これらを一人又は一事業者が全部担わなければならないわけではない。
例えば,移送は許可又は登録のあるタクシー等,乗降及び待合室の支援は自費の付添い事業者,診療情報の作成及び帰院後の治療継続は入院先病院という分担も考えられる。

2 医療同意とも区別する

診察に同席して説明を聞くことと,医的侵襲に同意することは別である。
成年後見人には一般的な医療同意権がないと整理されており,後見人が付添いに行くことから直ちに手術,注射その他の医療行為への同意権が生じるわけではない。
この点は,別稿「成年後見人の医療行為の同意」で詳しく扱っている。

第3 成年後見人の義務と限界
1 民法858条及び859条

民法858条は,成年後見人が生活,療養看護及び財産管理に関する事務を行うに当たり,本人の意思を尊重し,心身の状態及び生活の状況に配慮すべきことを定めている。
同法859条1項は,成年後見人が本人の財産を管理し,その財産に関する法律行為について本人を代表することを定めている。

したがって,受診の必要性,安全な実施方法,本人の意向及び費用負担を確認し,必要なサービス契約を締結し,本人の財産から適正な費用を支払うことは,成年後見人の職務に含まれ得る。
他方,条文に「療養看護」とあることから,後見人が自ら介護職又は看護職の代わりとなり,身体介護や継続的見守りを行う義務まで直ちに導くことはできない。

2 最高裁平成28年3月1日第三小法廷判決

最高裁平成28年3月1日第三小法廷判決(平成26年(受)第1434号・第1435号)は,認知症高齢者の鉄道事故をめぐる民法714条の監督義務者責任を扱った判決である。
同判決は,民法858条が成年後見人に事実行為として本人の現実の介護を行うことや本人の行動を監督することを求めるものではない旨を判示した。

この判決は,他科受診の付添い義務を直接判断したものではない。
しかし,「身上配慮義務」と「本人に対する現実の介護・行動監督」を区別する必要があることを示す一次資料として重要である。

3 大阪家裁後見センターだよりの整理

大阪家裁後見センターだより第32回「第二期計画下における身上保護事務について」は,身上保護事務は契約等の法律行為に関する事項である限り,一身専属的な事項を除いて身上監護に関するあらゆる事項(法律行為に当然伴う事実行為を含む。)を対象とする一方,身体に対する強制を伴う事項(健康診断の受診の強制・入院の強制,施設への入所の強制,介護の強制等),一身専属的な事項及び現実の介護・看護行為(事実行為としての介護・看護)は身上保護事務に含まれないという共通の理解を示している(大阪家庭裁判所後見センター編『大阪家庭裁判所後見センターだより』(大阪弁護士協同組合,2025年)137頁~138頁)。

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生命保険契約照会制度-死亡・認知判断能力低下・災害時の利用方法と注意点(AI作成)

目次

第1 生命保険契約照会制度の結論1 制度の役割2 令和8年9月10日現在の重要な運用状況第2 照会できる三つの場面1 死亡した場合2 認知判断能力が低下した場合3 災害で死亡又は行方不明になった場合第3 誰が申請できるか1 死亡照会の申請者2 認知判断能力低下時の申請者3 申請者の人数第4 調査対象となる契約と対象外の契約1 調査対象2 対象外の契約等3 本制度だけでは分からないこと第5 申請前に確認すべき手掛かり1 自宅及び取引履歴を確認する2 推測できる会社へ直接問い合わせる第6 申請方法,必要書類及び費用1 基準日現在の書面申請2 死亡照会の主な必要書類3 認知判断能力低下時の主な必要書類4 回答までの期間5 WEB申請が再開された場合第7 回答を受けた後の対応1 各生命保険会社へ連絡する2 請求権者と相続財産を区別する3 保険金請求権の消滅時効4 税務上の扱いを別に確認する第8 利用実績と利用料改定1 申請件数2 数値から分かることと分からないこと第9 令和8年7月公表のシステム事案第10 実務上のチェックリスト第11 出典1 法令2 生命保険協会の利用規約3 生命保険協会の運用案内・公表資料4 行政機関の解説5 独立行政法人・専門機関等の解説6 関連記事
第1 生命保険契約照会制度の結論
1 制度の役割

生命保険契約照会制度は,家族の死亡又は認知判断能力の低下などにより生命保険契約の手掛かりが失われた場合に,一般社団法人生命保険協会が会員会社へ一括照会し,対象者が契約者又は被保険者となっている契約の有無を回答する制度である。
東日本大震災後に設けられた災害地域生保契約照会制度を平時にも拡張し,令和3年7月1日に開始された。
本稿は令和8年9月10日を調査基準日とし,同日現在の申請要件及び運用状況,令和3年度から令和6年度までの利用実績並びに個別契約で別途確認すべき時効及び税務を扱う。

この制度は,生命保険協会が利用規約に基づいて会員会社へ照会する業界の仕組みである。
契約があるとの回答を受けても,保険金額,受取人,契約の効力又は請求権の有無まで確定するわけではなく,その後に各生命保険会社へ連絡する必要がある。

2 令和8年9月10日現在の重要な運用状況

生命保険協会は,システム上の不備について安全性を確認するため,令和8年7月27日から生命保険契約照会制度のWEB申請を停止している。
令和8年9月10日現在,平時の照会は書面申請を利用することになり,利用料は照会対象者1名につき7000円である。

書面申請は申込みが集中し,通常より時間を要すると案内されている。
WEB申請が再開された場合の利用料は照会対象者1名につき6000円であるが,再開時期を含む最新状況は,生命保険協会の案内で確認する必要がある。

第2 照会できる三つの場面
1 死亡した場合

家族が死亡し,生命保険会社が分からない場合に利用できる。
対象者が契約者又は被保険者である契約の有無が照会され,申請者が死亡保険金等を請求できる可能性があるときは,その旨も回答対象となる。

遺品から保険証券その他の手掛かりが見付かる場合や,契約先と考えられる生命保険会社が分かる場合は,まずその会社へ直接問い合わせるのが原則である。
本制度は契約先が分からない場合の一括照会を補う仕組みであり,既知の契約先への個別照会に代わるものではない。

2 認知判断能力が低下した場合

医師の診断により認知判断能力の低下が認められ,生命保険契約の有無が分からない場合に利用できる。
単に高齢であることや,家族が財産状況を把握したいという事情だけでは足りない。

法定代理人又は任意後見人のほか,一定の条件の下で三親等内の親族や代理人が申請できる。
後見人等がいない者による申請では,生命保険協会の利用規約上,緊急の資金需要があること,より先順位の推定相続人に結果を伝える意思があること,対象者の財産を管理する意思があることなどについて同意が求められる。

3 災害で死亡又は行方不明になった場合

災害救助法が適用された地域で家族等が被災して死亡又は行方不明となり,家屋等の流失又は焼失等により生命保険契約に関する請求が困難となった場合は,災害地域生保契約照会制度を利用できる。
この場合は電話で申し込み,利用料は無料である。

原則として,対象者の配偶者,親,子若しくは兄弟姉妹,又はこれらの法定代理人若しくは任意代理人が申請でき,特段の事情がある場合は生命保険協会がその他の者からの照会を受け付ける。
通常は書類の提出を要せず,生命保険協会は原則として受付日から14営業日以内に書面で回答するとしている。

第3 誰が申請できるか

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被相続人の死亡後もスマホを法定相続人が使い続ける方法(AI作成)

目次

第1 使い続けるために分けて考える三つの対象

1 端末・回線・アカウント
2 最初に相続放棄の可能性を確認する

第2 スマホ本体を取得する方法

1 被相続人所有の端末
2 共同相続人がいる場合

第3 携帯電話回線と電話番号を承継する方法

1 携帯電話会社の承継手続
2 主要事業者の手続の違い

第4 相続放棄とスマホの取扱い

1 三か月の熟慮期間
2 継続使用と法定単純承認

第5 端末ロックとデータの処理

1 iPhone

(続きを読む...)被相続人の死亡後もスマホを法定相続人が使い続ける方法(AI作成)

永代供養とは何か-「永代」の意味,費用,合祀,返金及び改葬の注意点(AI作成)

目次

第1 永代供養の意味とこの記事の対象

1 対象,基準日及び結論

2 永代供養は法律上の施設名ではない

第2 「永代」と個別安置・合祀の関係

1 「永代」は永久の個別安置を意味しない

2 直接合祀と一定期間後の合祀

3 合祀後の遺骨は取り戻せるとは限らない

第3 墓じまいから永代供養へ移る手続

1 改葬許可を受ける

2 行政手続と現在の墓地との契約を分ける

3 祭祀承継者との調整

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成年後見人の死後事務と遺骨の引取り-大阪市立斎場の保管,誓約書及び合同埋蔵(AI作成)

第1 この記事の対象と結論1 対象と基準日2 結論第2 大阪市の要綱が対象とする遺骨1 すべての身寄りのない遺骨が対象になるわけではないこと2 遺体の火葬と火葬後の遺骨は別の段階であること第3 保管から合同埋蔵までの流れ1 火葬の日から1年間の保管2 南霊園への引継ぎ3 慰霊祭と合同埋蔵4 保管中の参拝第4 誰が遺骨を引き取ることができるか1 行旅死亡人又は生活保護の取扱いによる場合2 親族による引取り3 施設長,病院長又は成年後見人等による引取り4 瓜破霊園合葬式墓地の使用許可を受けていた場合5 親族以外の関係人による引取り第5 成年後見人等が引き取る場合の注意点1 斎場使用申込時の申出を記録に残すこと2 誓約書等の内容は公開資料だけでは確定できないこと3 大阪市の引渡要件と民法上の死後事務権限を分けること4 家庭裁判所の公開案内が明示している範囲5 保佐人,補助人その他の者第6 実務上の確認事項1 斎場使用申込時2 火葬後の保管中3 南霊園への引継ぎが近い場合第7 公開資料だけでは確定できない事項1 斎場への個別確認が必要な事項2 日程を「法律上の権利行使期限」と扱わないこと3 判例の位置付け第8 出典・参考資料1 法令2 大阪市の例規及び要綱3 裁判所の手続案内4 関連記事
第1 この記事の対象と結論
1 対象と基準日

本記事は,大阪市立斎場で火葬された後,引き取る人がいないため斎場で保管される遺骨について,引渡し,保管及び合同埋蔵の流れを整理するものである。
令和8年9月9日に閲覧した大阪市の例規,要綱及び裁判所の公開資料を基準とする。
大阪市例規データベースは,内容現在を令和8年4月1日と表示している。

2 結論

大阪市の制度では,引取り手のない遺骨が直ちに合同埋蔵されるわけではない。
対象となる遺骨は斎場で一定期間保管され,所定の時点で南霊園に引き継がれた後,無縁堂に合同埋蔵される。
親族のほか,所定の場合には成年後見人等や親族以外の関係人も引取りを申し出ることができるが,申出の時期や誓約書等の条件が異なる。

大阪市の要綱に基づいて遺骨の引渡しを受けられることと,死亡後に納骨その他の契約を締結する民法上の権限があることは別問題である。
成年後見人であった人にとっては,成年被後見人が死亡した後に元後見人ができること-民法873条の2の死後事務と事務管理(AI作成)も併せて確認対象となる。

第2 大阪市の要綱が対象とする遺骨
1 すべての身寄りのない遺骨が対象になるわけではないこと

大阪市立斎場保管遺骨取扱要綱が対象とするのは,大阪市の行旅死亡人関係の細則その他これに準じる規定に基づいて大阪市立斎場で火葬され,引き取る人がいない,又は引き取る人が分からないため保管された遺骨である。
したがって,大阪市内に身寄りのない人が死亡した場合の遺骨をすべて一律に扱う要綱ではない。
実際の案件では,誰の依頼で,どの制度に基づいて,どの大阪市立斎場で火葬されたかが最初の確認事項となる。

2 遺体の火葬と火葬後の遺骨は別の段階であること

墓地,埋葬等に関する法律9条は,死体の埋葬又は火葬を行う人がいない,又は分からない場合の市町村長の対応を定めている。
これに対し,本記事で扱う大阪市の要綱は,火葬が済んだ後に斎場で保管されている遺骨の取扱いを定めるものである。
本記事では,火葬前の手続と火葬後の引取りを分けて検討する。

第3 保管から合同埋蔵までの流れ
1 火葬の日から1年間の保管

大阪市例規データベースに掲載されている大阪市行旅病人及行旅死亡人取扱法施行細則10条は,市立斎場において火葬した遺骨について,火葬の日から1年間保管し,その後に適宜の処置をする旨を定めている。
この1年という期間は,国の行旅病人及行旅死亡人取扱法ではなく,大阪市の細則に置かれた基準である。

2 南霊園への引継ぎ

大阪市立斎場保管遺骨取扱要綱2条によれば,斎場で保管している遺骨は,保管期間の経過後,最初に到来する9月1日以降に処理することが原則である。
斎場から南霊園へ遺骨と火葬許可証が引き継がれる。

「火葬から1年後に直ちに合同埋蔵される」という仕組みではなく,1年経過後の最初の9月1日が行政上の節目となる。
引取りを検討している場合は,火葬日だけでなく,この日程を斎場へ事前に確認することが重要である。

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同居の配偶者が死亡した後1週間に相続人がすること-手続・生活・遺産保全の全チェックリスト(AI作成)

目次

第1 一週間の考え方と優先順位1 本記事の対象2 一週間で優先する六つの仕事3 一週間で結論を出さない方がよい事項第2 当日から死亡診断書等の受領まで1 死亡確認前と死亡確認後を分ける2 病院・施設等で受け取り,確認する物3 本人の意思を直ちに確認する場面(1)臓器・組織提供及び献体(2)葬送,宗教及び連絡の希望4 同居家族の生命と生活を先に守る第3 死亡届,火葬許可及び証明書1 死亡届の7日という法定期限2 届出先と添付書類3 火葬許可と24時間の規律4 提出後に残す記録第4 遺体の搬送,葬儀,連絡及び費用1 搬送と安置を先に決める2 葬儀契約は明細と総額で確認する3 支払と証拠を分けて残す4 訃報と個人情報を管理する第5 遺言,遺産,負債及び証拠の保全1 最初は動かさずに記録する(1)家の中と持出品(2)郵便物と取引の手掛かり2 相続放棄の可能性があれば避ける行為3 遺言書は探すが,封印された物を開けない4 銀行口座と当面の生活費(1)カード,暗証番号及びオンラインバンキングを使わない(2)遺産分割前の預貯金払戻し制度第6 住まい,家族,勤務先及び公的給付1 住まいを失わず,契約を止め過ぎない(1)持家,賃貸住宅及び公営住宅(2)住宅ローン,保険,公共料金及び防犯2 子ども,要介護者及びペット3 勤務先と事業関係4 健康保険,年金,生命保険及び固有の給付第7 スマートフォン,デジタル契約及び郵便物1 端末を初期化せず,電源と状態を保つ2 メール・SNS・クラウド・暗号資産を一斉解約しない3 郵便物は現住所で管理する第8 事情があるときだけ直ちに分岐する事項1 事故,犯罪,医療,労災又は第三者の関与2 個人事業,会社経営又は専門資格3 多額の負債,相続人間の対立又は家に危険物がある場合4 国外,外国籍又は家族関係が複雑な場合第9 一週間の実行チェックリストと後日の期限1 当日から翌日2 2日目から3日目3 4日目から7日目4 一週間後に管理する主な期限第10 出典・参考資料1 法令2 裁判所・法務省の手続案内3 行政機関・制度実施主体の案内4 制度実施団体・事業者の案内
第1 一週間の考え方と優先順位
1 本記事の対象

本記事は,令和8年9月8日現在,日本国内で同居の配偶者が死亡し,生存配偶者が相続人となる通常の場面を対象とする。
死亡直後から7日目までに全員が行う事項と,該当するときだけ行う事項を分け,法定期限,生活上の必要及び証拠・財産の保全を一つの時系列に整理する。

「死亡後1週間以内」の法定期限として最も重要なのは,原則として死亡の事実を知った日から7日以内の死亡届である。
健康保険,年金,相続放棄,税務,相続登記等には別の期限又は個別の手続があるため,一週間ですべてを終える必要はないが,窓口と必要資料を確認し,後日の期限を記録するところまでは進めておくとよい。

2 一週間で優先する六つの仕事

一週間の優先順位は,①死亡確認と死亡診断書又は死体検案書の受領,②死亡届と火葬許可,③遺体の搬送・安置と葬儀,④同居家族の生活維持,⑤遺言・財産・証拠の保全,⑥期限一覧と連絡先の作成,の順で考えると整理しやすい。
一人で抱えず,手続担当,葬儀担当,連絡担当及び記録担当を分け,同じ情報を共有できる一冊のノート又は表を作るのが実用的である。

記録には,日時,相手方,電話番号,担当者名,話した内容,提出物,受領物,支払額,支払者及び次の期限を残す。
死亡診断書等,請求書,領収書,名刺及び画面は,原本の所在を決めた上で写し又は写真も保存する。

3 一週間で結論を出さない方がよい事項

遺産分割,相続放棄の最終判断,不動産・自動車・株式の名義変更,故人の契約の一斉解約及び大量の遺品処分は,通常,一週間以内に完了させる事項ではない。
資産,負債,遺言及び他の相続人を確認しないまま財産を動かすと,後に相続放棄や遺産分割で問題となり得るため,最初の一週間は「処分」よりも「保全と一覧化」を優先する。

第2 当日から死亡診断書等の受領まで
1 死亡確認前と死亡確認後を分ける

反応や呼吸がなく,医師による死亡確認が済んでいない場合は,直ちに119番へ連絡し,通信指令員の指示に従う。
在宅療養中で主治医又は訪問看護の緊急連絡方法が決まっている場合でも,状況が判断できなければ救急へ連絡し,自己判断で遺体を動かさない。

病院,施設又は在宅で医師が死亡を確認した後は,死亡診断書又は死体検案書が作成される。
厚生労働省は,生前に診療していた傷病に関連する死亡と認められる場合に死亡診断書,それ以外の場合に死体検案書を交付するという区別を示しているが,いずれも死亡を医学的・法律的に証明する文書であり,効力に違いはない。

事故,自殺の疑い,死因不明,発見まで時間が経過した場合その他の異状が考えられるときは,医師又は警察の手続が優先する。
現場,衣類,薬,容器,端末,写真,防犯カメラ及び関係者との通信を片付けたり消去したりせず,警察や医師の指示を受ける。

2 病院・施設等で受け取り,確認する物

死亡診断書又は死体検案書は,氏名,生年月日,死亡日時,死亡場所及び作成医師の記載を確認し,死亡届へ提出する前に全面の鮮明な写しを複数確保する。
提出後の原本確保,記載事項証明書及び誤記訂正については,弁護士のための死亡診断書の実務で詳しく説明している。

診察券,預り品,現金,鍵,眼鏡,補聴器,義歯,携帯電話及び充電器等を受け取るときは,受領品をその場で照合する。
入院費,施設利用料,遺体搬送費その他の請求については,請求書と明細を分けて受け取り,誰が何を立て替えたかを記録する。

3 本人の意思を直ちに確認する場面
(1)臓器・組織提供及び献体

臓器・組織提供又は献体に関する意思表示カード,運転免許証,マイナンバーカード,登録証,大学への申込書等がある場合は,直ちに医療機関へ申し出る。
実施できる時間と条件が限られるため,後で検討する事項として先送りせず,本人の意思が不明な場合を含め,医療機関の担当者から説明を受ける。

(2)葬送,宗教及び連絡の希望

エンディングノート,葬儀の生前契約,墓地・納骨堂の契約,菩提寺,宗教上の希望,連絡してほしい人及び連絡を控えてほしい人を確認する。
本人の希望は重要であるが,法的拘束力の有無,費用負担及び家族間の合意は別問題であるため,見つけた資料を保全して関係者と共有する。

4 同居家族の生命と生活を先に守る

乳幼児,未成年者,要介護者,障害者,服薬中の家族及びペットについて,その日の食事,薬,通院,送迎,介護,預け先及び連絡先を確保する。
故人だけが担っていた世話,支払又は連絡を紙に書き出し,少なくとも一週間を乗り切る担当者を決める。

生存配偶者自身も,睡眠不足や強い動揺の中で運転,契約又は多額の支払をしないよう,可能であれば信頼できる人に同席を頼む。
急な胸痛,呼吸困難,自傷のおそれその他の緊急症状があれば,手続よりも救急又は医療機関への相談を優先する。

第3 死亡届,火葬許可及び証明書
1 死亡届の7日という法定期限

戸籍法86条1項により,死亡の届出は,届出義務者が死亡の事実を知った日から7日以内にしなければならない。
同居していた生存配偶者は同居の親族に当たり,戸籍法87条1項の第一順位の届出義務者となるが,同条は,順位にかかわらず届出をすることができるとも定めている。

届出人の資格,提出を他人に託す場合及び例外的な届出人については,死亡届の届出人で詳しく説明している。
葬儀社が書類提出を補助する場合でも,届出人欄に誰がどの資格で記載するかを確認し,控えを残す。

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成年被後見人が死亡した後に元後見人ができること-民法873条の2の死後事務と事務管理(AI作成)

第1 この記事の対象と結論1 対象,基準日及び他の記事との分担2 結論第2 本人の死亡で消えるもの,残るもの1 代理権は消滅する2 民法873条の2の死後事務3 民法874条が準用する654条の応急処分4 民法697条以下の事務管理5 三つの関係――873条の2は上限ではない第3 民法873条の2の柱書の要件1 「必要があるとき」2 「相続人の意思に反することが明らかなとき」3 「相続人が相続財産を管理することができるに至るまで」第4 1号及び2号――家庭裁判所の許可を要しない行為1 1号の保存行為2 2号の弁済3 払戻しが必要になった時点で3号許可が要る第5 3号許可の対象――「相続財産の保存に必要な行為」1 判定の基準2 火葬,埋葬及び納骨3 残置動産の廃棄と借家の明渡し4 後見人報酬及び後見事務費の精算5 申立ての実際第6 葬儀ができないときの経路1 3号許可の対象外とされる理由2 大阪家庭裁判所の取扱い3 事務管理による経路4 親族から依頼された場合第7 原資の確保1 死亡前の引出し2 死亡後の払戻し3 年金受給口座と残す口座第8 管理計算と引継ぎ1 管理の計算2 引継ぎは相続人1人で足りる3 相続人の調査4 受領を拒絶された場合5 相続財産管理人と相続財産清算人第9 監督,報酬及び終了登記第10 保佐人及び補助人第11 令和8年法律第45号による改正1 民法876条の26の構造2 施行日前に開始した後見の扱い第12 実務上の確認手順と停止基準1 死亡の連絡を受けた時点で確認する事項2 根拠を選ぶ順序3 高負担の手続へ進まない基準4 結論を左右し得る不確実な要素第13 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 家庭裁判所の資料4 文献5 関連記事
第1 この記事の対象と結論
1 対象,基準日及び他の記事との分担

本記事は,成年被後見人が死亡した直後に,成年後見人であった者が何を,どの根拠で,どの順序で行うことができるかを整理するものである。
調査の基準日は令和8年9月7日であり,法令は同日現在のe-Gov法令検索で確認した現行条文による。
引用する家庭裁判所の資料は平成29年から平成30年までに公表されたもの,実務書は令和5年に発行されたものであり,資料の対象期間はこの範囲である。
令和8年法律第45号による改正法は本記事の作成時点で施行されておらず,改正後の姿は第11で別に扱う。

火葬許可証の交付手続そのものは火葬許可証で,遺骨の帰属及び葬儀費用の終局的な負担者は葬儀・火葬の実施で,本人の生前に締結する契約は死後事務委任契約の効力,内容及び作成時の注意点で扱っている。
本記事はこれらと重複する説明を置かず,後見人の側の判断だけを対象とする。

この論点には,参照できる裁判例がほとんどない。
裁判所ウェブサイトの裁判例検索を令和8年9月7日に行ったところ,全文検索の語を「民法873条の2」としたときの該当件数は0件,「八百七十三条の二」としたときも0件であった。
「873条の2」では2件が該当したが,いずれも著作権に関する知的財産の事件であって条文の引用として一致したものではない。
同じ検索式で「成年後見人」を検索すると102件が該当するから,検索の仕組み自体は動いている。
裁判所ウェブサイトに掲載がないことは裁判例が存在しないことの証明にはならないが,公開されている範囲で民法873条の2の解釈が正面から争われた例は見当たらないため,本記事は条文と,家庭裁判所自身が公表した運用の説明及び実務書の記述を根拠として組み立てている。

2 結論

本人の死亡により後見は終了し,成年後見人の代理権は消滅する。
それでも元後見人が死後の事務を行うことができる根拠は,①民法873条の2の死後事務,②民法874条が準用する同法654条の応急処分,③民法697条以下の事務管理の三つに分かれる。
どの根拠で動いているかによって,家庭裁判所の許可の要否,費用の求償先及び裁判所への報告の内容が変わる。

実務上の分岐点は三つである。
第一に,凍結された預貯金口座から金銭を払い戻す必要があるかどうかであり,払戻しが必要になった時点で民法873条の2第3号の家庭裁判所の許可(以下「3号許可」という。)が必要になる。
第二に,葬儀を行うかどうかであり,葬儀は3号許可の対象とされていないため,葬儀を行うのであれば事務管理の構成によることになる。
第三に,相続人が引継ぎを受けるかどうかであり,引継ぎは相続人の1人に対して行えば足りるが,その1人すら受け取らないときは弁済供託又は相続財産管理人の選任という別の出口が要る。

第2 本人の死亡で消えるもの,残るもの
1 代理権は消滅する

民法111条1項1号は,代理権が本人の死亡によって消滅すると定める。
民法653条1号も,委任が委任者又は受任者の死亡によって終了すると定めている。
大阪家庭裁判所家事第4部後見係「大阪家裁後見センターだより」第3回(月刊大阪弁護士会2017年10月号54頁~55頁)も,後見人は被後見人の死亡により代理権等の権限を失うことを出発点として説明している。
したがって,本人が死亡した後の元後見人の行為は,いずれも例外規定の上に立つことになる。

2 民法873条の2の死後事務

民法873条の2は,「成年被後見人の死亡後の成年後見人の権限」という見出しの下に,「成年後見人は、成年被後見人が死亡した場合において、必要があるときは、成年被後見人の相続人の意思に反することが明らかなときを除き、相続人が相続財産を管理することができるに至るまで、次に掲げる行為をすることができる。ただし、第三号に掲げる行為をするには、家庭裁判所の許可を得なければならない。」と定める。
掲げられている行為は,①相続財産に属する特定の財産の保存に必要な行為(1号),②相続財産に属する債務(弁済期が到来しているものに限る。)の弁済(2号),③その死体の火葬又は埋葬に関する契約の締結その他相続財産の保存に必要な行為(前2号に掲げる行為を除く。)(3号)の三つである。
この規定は,成年後見の事務の円滑化を図るための民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律(平成28年法律第27号。以下「円滑化法」という。)により新設され,平成28年10月13日に施行された。

3 民法874条が準用する654条の応急処分

民法874条は,民法654条及び655条を後見について準用する。
民法654条は,「委任が終了した場合において、急迫の事情があるときは、受任者又はその相続人若しくは法定代理人は、委任者又はその相続人若しくは法定代理人が委任事務を処理することができるに至るまで、必要な処分をしなければならない」と定めている。
条文の文言が「しなければならない」である以上,これは権限であると同時に義務であり,家庭裁判所の許可を要しない。

4 民法697条以下の事務管理

民法697条1項は,義務なく他人のために事務の管理を始めた者が,その事務の性質に従い,最も本人の利益に適合する方法によって事務の管理をしなければならないと定める。
元後見人が相続人らのために事務管理を行い,その費用を民法702条1項の有益費償還請求により清算する,という構成である。
大阪弁護士会高齢者・障害者総合支援センター編「【全訂版】成年後見人の実務2023」(大阪弁護士協同組合,2023年)131頁~132頁は,この方法によれば裁判所の許可を得る必要はなく,事後的な報告で足りるとする。
もっとも,民法697条2項及び700条ただし書があるため,相続人の意思に反する対応はできない。

5 三つの関係――873条の2は上限ではない

重要なのは,民法873条の2が従前の対応を制限する規定ではないという点である。
前記「大阪家裁後見センターだより」第3回は,円滑化法の施行以前も,後見終了時の応急処分(民法654条)や相続人全員のための事務管理(民法697条)を根拠として一定の範囲の死後事務を行うことは可能であると解されていたとした上で,円滑化法は従前から行うことのできていた行為を制限する趣旨とは解されないので,応急処分等の要件を満たす行為は施行後も家庭裁判所の許可なくして適法に行うことが可能であるとする。
前記「【全訂版】成年後見人の実務2023」128頁も,民法873条の2は保存行為の範囲内で成年後見人に権限があることを確認したものであって,これらが成年後見人の義務となるものではなく,従前の事務管理法理等による対応が否定されるものでもないと述べている。
したがって,3号許可が得られないことは,元後見人が何もできないことを意味しない。

第3 民法873条の2の柱書の要件
1 「必要があるとき」

前記「大阪家裁後見センターだより」第3回は,「必要があるとき」とは,相続人ではなく後見人が当該事務を行わなければならない場合をいうとする。
同回が挙げる例は,入院費等の支払を請求されているが,相続人の連絡先が不明で,成年後見人が支払をしないと相当期間債務の支払がされないこととなる場合である。
相続人が現に対応できる状況であれば,この要件は満たされない。

2 「相続人の意思に反することが明らかなとき」

同回は,これを,後見人が死後事務を行うことについて相続人が明確に反対の意思表示をしている場合をいうとし,相続人が不存在の場合や存否が明らかでない場合,相続人と連絡が取れない場合はこれに当たらないとする。
他方,相続人が複数いる場合には,一人でも反対の意思表示を明らかにしているときはこれに当たると考えられる旨が,同回の注に記されている。
前記「【全訂版】成年後見人の実務2023」128頁~129頁も,相続人の意思を確認することは求められていないから,相続人はいるがすぐに連絡が取れないなどの場合であれば死後事務を行うことは可能であるとする。
実務上は,「連絡が取れない」のか「反対されている」のかを,時期と方法を含めて記録の上で区別しておくことが要点になる。

親族が遺体や遺骨を「引き取らない」と述べている場合も,それだけでは,後見人が死後事務を行うことへの明確な反対の意思表示とは限らない。
自分では遺体を引き取らず火葬も手配しないという意思と,後見人が火葬や納骨をすることに反対する意思とは,別のものだからである。
「DNA鑑定をしなければ引き取らない」のように条件を付けた拒否も同様であり,「鑑定が済むまで火葬するな」とまで明言されたかどうかを,親族の言葉どおりに記録しておくことになる。
この場面の具体的な対応と,危篤の段階で送る意向照会書の文例は,親族が遺体・遺骨の引取りを拒む・条件を付ける・連絡がつかないとき-成年後見人の対応と意向照会書(AI作成)で扱っている。

3 「相続人が相続財産を管理することができるに至るまで」

同書128頁は,相続人に引継ぎができる状況となったときは速やかに引継ぎをしてその後の対応は相続人に委ねるべきであるから,死後事務を行うことができるのはそれまでに限られるとする。
民法873条の2の権限は,引継ぎまでの暫定的なものである。

第4 1号及び2号――家庭裁判所の許可を要しない行為
1 1号の保存行為

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弁護士による民事信託(家族信託)業務の流れ-受任・意思確認から監督・清算まで(AI作成)

目次

第1 本記事の対象と結論第2 受任-依頼者,目的及び制度選択を確定する1 依頼者及び利害関係を特定する2 依頼の目的を事実に置き換える3 他の制度及び受託者候補を検討する第3 意思確認-委託者本人の能力及び真意を記録する1 委託者本人と独立して面談する2 能力確認と契約内容の説明を記録する第4 契約-権限,変更,交代及び終了を一体として設計する1 ひな型を個別の財産及び目的に合わせる2 終了制限は目的との対応を具体化する3 公正証書及び専門職との連携を決める第5 実装-財産移転,登記,口座及び税務提出を完了する1 契約締結と財産移転を区別する2 信託口口座の取扱いを事前に確認する3 税務提出の担当及び期限を決める第6 運用-分別管理,帳簿,報告及び監督を続ける1 受託者の法定義務を運用へ落とし込む2 弁護士の受任範囲を明確にする3 信託監督人及び受益者代理人の要否を検討する第7 変更・交代-契約後の事情変更に備える1 信託の変更手続を確認する2 受託者の任務終了と後継者への引継ぎを分ける第8 終了・清算-残余財産の給付と最終計算まで行う1 終了事由及び終了時点を確定する2 終了後の清算手続を完了する3 最終計算の承認と記録保存を確認する出典1 法令2 所管行政機関の手続案内3 職能団体のガイドライン
第1 本記事の対象と結論

本記事は,弁護士が民事信託(家族信託)の相談を受けた後,受任,委託者本人の意思確認,契約設計,財産移転,運用,受託者交代,終了及び清算をどの順序で確認するかを整理するものである。
調査の基準日は令和8年9月6日であり,同日現在の信託法,国税庁の手続案内及び日本弁護士連合会の公開ガイドラインを確認し,AIを利用して作成した。

民事信託業務は,契約書を作成して署名押印すれば完了するものではない。
信託の効力発生とは別に,対象財産の移転,登記,口座,帳簿,税務提出,受託者の監督,交代時の引継ぎ及び終了後の清算を実装する必要があるからである。

本記事は一般的な業務工程を示すものであり,個別の契約条項,課税関係又は金融機関の取扱いを一律に示すものではない。
民事信託の制度選択自体に伴う難しさについては,家族信託(民事信託)が難しい4つの理由で説明している。

第2 受任-依頼者,目的及び制度選択を確定する
1 依頼者及び利害関係を特定する

最初に,誰が弁護士への依頼者であり,誰の意思と利益を中心に信託を設計するのかを委任契約書及び面談記録で特定する。
親族から相談が持ち込まれた場合でも,委託者となる本人,受託者候補,他の推定相続人及び受益予定者の利害が常に一致するとは限らない。

日本弁護士連合会の「民事信託業務に関するガイドライン」3頁~5頁は,委託者本人との面談,親族等から不当な影響を受けていないことの確認及び他の制度との比較検討を重視している。
複数の当事者から共同で依頼を受ける場合は,利益相反が現にあるか,将来顕在化し得るか,情報を相互に共有できるかを受任前に確認する必要がある。

2 依頼の目的を事実に置き換える

「認知症対策」「財産を守りたい」又は「家族に迷惑を掛けたくない」という抽象的な希望だけでは,受託者へ与える権限も信託の終了条件も決められない。
管理を継続したい財産,想定する期間,収益の使途,売却又は借入れの必要性,受益者の生活費,承継先及び終了後の帰属先を事実レベルで確認する。

確認すべき資料は,①対象財産の一覧,②不動産登記事項証明書,③預貯金及び有価証券の残高資料,④賃貸借契約及び借入資料,⑤家族関係を示す戸籍等並びに⑥既存の遺言,任意後見契約又は贈与契約である。
資料を集める目的は,財産額を増やして見せることではなく,信託へ入れる財産,残す財産及び信託外で処理する事項を分けることにある。

3 他の制度及び受託者候補を検討する

本人の財産管理だけが目的であれば任意後見又は法定後見,死亡後の承継だけが目的であれば遺言,生前の権利移転が目的であれば贈与で足りる場合がある。
民事信託とこれらの制度は排他的ではなく,身上保護,信託外財産及び遺言執行を補うために併用することもある。

受託者候補については,年齢及び家族関係だけでなく,対象財産を管理する時間と能力,帳簿作成,利益相反への対応,長期継続の可能性,報酬及び後継者候補を確認する。
日弁連ガイドライン5頁~6頁は,受託者候補の適格性を検討し,受託者の法的義務と責任を具体的に説明することを求めている。

第3 意思確認-委託者本人の能力及び真意を記録する
1 委託者本人と独立して面談する

委託者の判断能力と信託設定意思は,親族の説明だけで確定しない。
少なくとも重要な局面では委託者本人と面談し,信託する財産,受託者へ移る権限,受益者,信託期間,変更・終了条件及び残余財産の帰属について,本人自身の言葉で理解と意思を確認する。

親族が同席すると本人の発言が影響を受けるおそれがあるときは,日弁連ガイドライン4頁が示すように,本人だけと面談する機会を設ける。
通訳,補助者又は医療情報が必要な場合でも,本人の意思を代替するのではなく,意思決定を支援して理解の有無を確認するという位置付けを明確にする。

(続きを読む...)弁護士による民事信託(家族信託)業務の流れ-受任・意思確認から監督・清算まで(AI作成)

民事信託(家族信託)の税金はいつ発生するか-設定・運用・受益者変更・相続・終了の時系列(AI作成)

目次

第1 結論-税金は受託者への名義変更だけで決まらない第2 課税関係の全体像1 受益者等課税信託の基本2 時系列表第3 設定時の税金1 委託者と受益者が同じ自益信託2 委託者と受益者が異なる他益信託3 不動産を信託する場合の流通税4 紙の信託契約書の印紙税第4 運用中の税金及び受託者の手続1 所得税は受益者に帰属する2 消費税及び固定資産税3 信託不動産の損失制限4 信託の計算書第5 受益者又は受益権割合が変わった時1 新たな受益者が生じた場合2 受益者別調書及び贈与税申告第6 先順位の受益者が死亡した時1 次順位の受益者へのみなし遺贈2 受益者連続型信託の評価3 小規模宅地等の特例第7 信託が終了した時1 残余財産の取得と贈与税又は相続税2 不動産取得税及び登録免許税3 取得費及び所有期間の引継ぎ4 空き家の3000万円特別控除5 終了時の受益者別調書第8 設計及び運用時の確認順序出典1 法令2 法令解釈通達及び改正説明3 国税庁の手続案内及びタックスアンサー4 国税庁の質疑応答事例5 東京国税局の文書回答事例6 財務省の税制資料
第1 結論-税金は受託者への名義変更だけで決まらない

民事信託(家族信託)の税務では,受託者名義に変えたかどうかだけでなく,誰が信託の経済的利益を受ける地位を取得し,その地位がいつ移ったかを見る必要がある。
委託者が自ら受益者となる自益信託では,設定時に受益権の経済的な移転がないため,相続税法9条の2第1項による贈与税又は相続税は通常生じないが,これを「家族信託は非課税である」と言い換えることはできない。

課税又は手続が問題となる主な時点は,①他人を受益者とする信託の設定時,②信託財産から所得が生じた時,③受益者又は受益権割合が変わった時,④先順位の受益者が死亡した時,⑤信託終了後に残余財産を取得した時,⑥不動産の登記又は紙の契約書を作成した時である。
贈与税,相続税及び所得税のほか,消費税,登録免許税,不動産取得税,固定資産税,印紙税並びに受託者の法定調書を別々に確認しなければならない。

本記事は,令和8年9月6日現在の法令及び国税庁等の公開資料に基づき,個人を委託者,受託者及び受益者とする一般的な受益者等課税信託を時系列で整理するものである。
法人課税信託,集団投資信託,退職年金等信託,受益者等が存しない信託,国外財産を含む信託及び個別の税額計算は対象外であり,具体的な申告では最新の法令と事実関係を税理士等に確認する必要がある。

第2 課税関係の全体像
1 受益者等課税信託の基本

所得税法13条は,受益者等課税信託について,信託財産に属する資産及び負債を受益者が有し,信託財産に帰せられる収益及び費用を受益者の収益及び費用とみなして所得税法を適用するものとしている。
消費税法14条も,原則として,信託財産に属する資産を受益者が有するものとみなし,信託財産に係る取引を受益者の取引として扱う。

したがって,受託者が家賃を受け取り,費用を支払っていても,所得税及び消費税の課税主体は受託者であるとは限らない。
受益者等課税信託では,受益者が信託財産を直接保有して取引したものに近い形で課税関係を確認することになるが,受託者には後述する法定調書の提出義務が別に生じ得る。

2 時系列表

①設定時は,自益信託か他益信託か,不動産を信託するか,紙の信託契約書を作成するかを確認する。
②運用中は,賃料,配当,譲渡益その他の所得を誰に帰属させるか,消費税の課税事業者か,不動産所得の損失制限があるかを確認する。
③受益者変更時は,新たな受益者が対価を負担したか,変更が前の受益者の死亡に基因するか,受益権割合が動いたかを確認する。
④相続時は,次順位の受益者へのみなし遺贈,受益者連続型信託の評価,相続税額の加算,債務控除及び小規模宅地等の特例を確認する。
⑤終了時は,残余財産を取得する者の従前の受益権,取得原因,不動産の登記,取得費の引継ぎ及び空き家特例を確認する。

第3 設定時の税金
1 委託者と受益者が同じ自益信託

相続税法9条の2第1項は,信託の効力が生じた場合に,適正な対価を負担せずに受益者等となる者があるときは,その者が委託者から信託に関する権利を贈与により取得したものとみなし,委託者の死亡に基因する場合は遺贈により取得したものとみなしている。
委託者と受益者が同一であり,受益権が他人へ移らない通常の自益信託では,この規定による贈与税又は相続税は設定時には通常生じない。

もっとも,自益信託であることは,設定から終了まで全ての税がかからないことを意味しない。
不動産の信託登記,紙の信託契約書,運用益,受益者の変更及び終了時の残余財産取得については,それぞれ別の課税関係がある。

2 委託者と受益者が異なる他益信託

委託者以外の者が適正な対価を負担せずに受益者となる他益信託では,信託の効力が生じた時に,受益者が信託に関する権利を委託者から贈与により取得したものとみなされる。
委託者の死亡により信託の効力が生じるときは,贈与ではなく遺贈による取得とみなされる。

課税時期は,受託者が信託財産を換価し,又は受益者へ金銭を交付した時に限られない。
信託の効力発生により経済的利益を受ける受益者等となった時点で課税関係を検討する必要がある。

3 不動産を信託する場合の流通税

登録免許税法7条1項により,委託者から受託者への信託のための財産権移転の登記は登録免許税を課されないが,信託の登記そのものは別に課税される。
財務省の令和8年の案内によれば,土地の所有権の信託登記は,令和11年3月31日まで税率が1000分の3に軽減されているが,建物その他の登記は別に確認する必要がある。

地方税法73条の7第3号は,委託者から受託者に信託財産を移す場合の不動産取得について,所定の例外を除き不動産取得税を課さないとしている。
したがって,不動産取得税が課されないことと,信託登記の登録免許税が生じることとは両立する。

4 紙の信託契約書の印紙税

国税庁の印紙税額一覧表では,信託行為に関する契約書は第12号文書とされ,1通につき200円である。
文書の名称ではなく内容及び作成形態によって課税文書への該当性が決まるため,電子契約や関連契約書を含め,実際に作成する文書ごとに確認する必要がある。

契約書の種類ごとの判断の順序と,写し・電子契約の扱いは,契約書の収入印紙は必要かで整理している。

第4 運用中の税金及び受託者の手続
1 所得税は受益者に帰属する

受益者等課税信託では,賃料,配当,利子,譲渡益その他の収益及び対応する費用は,原則として受益者に帰属する。
受託者の口座に入金されたままで受益者へ現金が交付されていなくても,そのことだけで受益者への所得課税を免れるものではない。

受益者が確定申告を要するか,所得区分,必要経費及び源泉徴収をどう扱うかは,信託財産と取引の内容によって異なる。
信託を設定したこと自体が,受益者の一般的な所得税の申告期限又は計算方法を別制度に置き換えるものではない。

2 消費税及び固定資産税

消費税法14条により,受益者等課税信託の信託財産に係る取引は原則として受益者の取引と扱われるため,賃貸その他の取引の課税・非課税,受益者の課税事業者該当性及びインボイス対応を受益者側で確認する必要がある。
信託を利用したことだけで,課税売上げが非課税になるものではない。

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弁護士が代理人として被相続人の銀行口座の相続手続をする方法(AI作成)

目次第1 結論1 弁護士への委任と預金を処分できる根拠は別である2 標準的な手順第2 受任時に確定する事項1 依頼者の地位と利益相反2 委任状で特定する事項3 遺言,相続放棄及び債務の確認第3 被相続人の銀行口座を探す方法1 個別資料から取引銀行を特定する2 相続時預貯金口座照会を利用する3 死亡通知による取引制限に備える第4 相続関係と提出書類を整える方法1 戸籍と法定相続情報一覧図2 銀行ごとに変わる共通書類3 原本管理第5 残高と取引履歴を確認する方法1 死亡日残高と現在残高を分ける2 共同相続人1人による取引履歴の請求3 取得範囲を目的に合わせる
4 取引履歴・残高証明・払戻請求書・印鑑届を区別する第6 払戻しの法的根拠を選ぶ方法1 選択肢の一覧2 相続人全員による共同請求と遺産分割協議3 遺言執行者による手続4 遺産分割前の単独払戻し第7 銀行へ提出して払戻しを受ける方法1 提出前照会をする2 銀行別提出セットを作る3 払戻金と完了書類を管理する第8 例外的な事案で追加確認する事項1 未成年者,判断能力及び海外居住者2 相続放棄,行方不明者及び相続人不存在3 借入金,貸金庫及び金融商品第9 代理人弁護士の実務チェックリスト第10 出典1 法令2 裁判例3 公的機関及び金融機関の資料
第1 結論

本記事は,2026年9月6日現在の日本法及び公開資料に基づき,国内の個人名義の預貯金について,相続人,受遺者又は遺言執行者等から委任を受けた弁護士が行う口座探索,残高・取引履歴の取得,解約,払戻し及び完了管理を扱う。
証券口座の移管・換価及び相続税の申告計算は対象外とし,各銀行の書式,手数料,証明書の有効期間及び取扱いは,提出時に改めて確認する必要がある。

親が生存している間の介護費・入院費の支払は,本記事で扱う死亡後の口座の相続手続とは別に考える。
親本人の意思確認や代理権,支払の目的を整理して銀行へ相談する場面については,認知症の親の預金は引き出せるか―介護費・入院費と銀行への相談(AI作成)を参照されたい。

1 弁護士への委任と預金を処分できる根拠は別である

弁護士が相続人等の代理人として被相続人名義の銀行口座を調査し,相続手続書類を提出することは可能である。
もっとも,委任状は弁護士が本人に代わって行動できる範囲を示す書面であり,依頼者が預金全額を単独で取得できることを証明する書面ではない。

銀行口座の相続手続では,①弁護士が誰を代理し,何を委任されたかという代理権,②相続人全員の共同請求,遺産分割協議,遺言,遺言執行者の権限,調停調書又は審判書,民法909条の2による単独払戻し等の預金を処分できる根拠,③銀行所定の相続届,本人確認書類,印鑑登録証明書等の受付要件を分けて確認する必要がある。
弁護士が1人の共同相続人から委任を受けただけの場合,その弁護士が相続人全員を代理したことにはならず,原則として預金全額の解約及び払戻しを単独で行うことはできない。

2 標準的な手順

標準的な手順は,①依頼者の地位と委任範囲を確定する,②遺言,相続人,債務及び相続放棄の方針を確認する,③口座を探索する,④各銀行へ死亡の事実を連絡して専用書式と必要書類一覧を取り寄せる,⑤法定相続情報一覧図等を整える,⑥死亡日残高及び必要な取引履歴を取得する,⑦相続人全員の共同請求,遺産分割協議,遺言執行,裁判手続又は遺産分割前の払戻しの中から根拠を選ぶ,⑧銀行ごとに一式を提出する,⑨払戻金,返却原本及び手続完了書類を管理して依頼者へ報告する,という順序である。

各銀行の必要書類及び有効期限は同じではない。
例えば,三菱UFJ銀行は遺言書及び遺産分割協議書の有無等によって必要書類をAからDに分け,三井住友銀行は遺言書も遺産分割協議書もない場合に原則として相続人全員の署名・実印及び印鑑登録証明書を求め,みずほ銀行は代理人による手続について委任状,代理人の実印及び印鑑登録証明書を案内している。
したがって,共通書類だけを先に完成させるのではなく,対象銀行の相続担当部署から当該事案用の案内を取得してから署名,押印及び証明書の取得を進めるのが安全である。

第2 受任時に確定する事項
1 依頼者の地位と利益相反

最初に,依頼者が相続人,受遺者,遺言執行者,相続財産清算人その他のいずれであるかを確定する。
共同相続人の1人からの依頼であるか,相続人全員からの共同依頼であるかによって,取得できる資料及び行える払戻しの範囲が異なるためである。

相続人全員から依頼を受ける場合でも,預金の帰属,生前又は死後の出金,特別受益,寄与分,遺言の有効性又は分割割合に争いがないかを確認する。
対立が現実化したときは,同じ弁護士が複数の相続人を代理し続けられるかを改めて検討する必要がある。

2 委任状で特定する事項

銀行所定の委任状があるときはその書式を用い,委任事項を抽象的な「相続手続一切」にとどめない方がよい。
委任状又は別紙では,必要に応じて,①死亡の届出及び相続手続の開始,②口座の有無,取引店,預貯金の種類及び口座番号の照会,③死亡日その他の基準日の残高証明書及び取引履歴の申請・受領,④相続手続書類の作成・提出・補正,⑤預貯金契約の解約及び払戻請求,⑥払戻金の受領及び振込先口座,⑦原本還付及び完了書類の受領,⑧銀行からの連絡の受領を特定する。

ゆうちょ銀行の相続用委任状の記載例も,書類の提出,完了後の書類等の受領,払戻金の受領,不備返却書類の受領及び電話連絡を別々の委任事項としている。
これは,窓口へ書類を持参する権限と,預金を解約して払戻金を受け取る権限とが同じではないことを示す実務例である。

3 遺言,相続放棄及び債務の確認

預金の全額払戻しを進める前に,公正証書遺言,法務局保管の自筆証書遺言及び家庭内保管の遺言書の有無を確認する。
自筆証書遺言については,法務局保管制度を利用したもの等を除き,家庭裁判所の検認を要する場合がある。

借入金,保証債務,未払税金その他の債務が不明であり,相続放棄又は限定承認を検討する余地があるときは,預金の払戻し及び費消を先行させない。
資産調査と相続放棄の熟慮期間の管理は並行して行い,期限が迫るときは期間伸長の申立ても検討する。

第3 被相続人の銀行口座を探す方法
1 個別資料から取引銀行を特定する

まず,通帳,キャッシュカード,銀行からの郵便物,電子メール,確定申告書,給与・年金の振込記録,公共料金・クレジットカード・家賃等の引落資料及び他口座の振込履歴から,金融機関名と取引店を特定する。
口座番号が分からなくても,金融機関と本人特定情報を示して名寄せ及び残高証明の可否を問い合わせる余地がある。

死亡後に被相続人のキャッシュカード,暗証番号又はインターネットバンキングの認証情報を使用して出金することは避けるべきである。
権限及び取得額をめぐる紛争を生じさせるだけでなく,死亡時残高と死亡後取引の証拠関係を不明確にするため,正式な相続手続又は法定の払戻制度を用いるのが原則である。

なお,相続開始前の準備としては,将来の被相続人となる親本人の了解を得ながら,取引銀行・支店,年金の入金口座,定期的な引落し及び資料の保管場所を確認しておくことが考えられる。
これは将来の調査の手掛かりを残すための準備であり,資料を保管する家族に預金の処分権限を与えるものではない。

2 相続時預貯金口座照会を利用する

令和7年度から開始された相続時預貯金口座照会では,相続人又は包括受遺者が,受付金融機関を通じて預金保険機構へ申込み,被相続人が生前にマイナンバーを付番し,制度の適用対象となる金融機関が管理する預貯金口座について,金融機関名,店舗名,預貯金の種類及び口座番号等の通知を受けることができる。
他の共同相続人の同意は不要であり,代理人が申し込む場合は,相続人本人と代理人の本人確認書類に加え,委任状その他の代理権確認資料を提出する。

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最高裁令和8年6月17日決定と民事信託の終了制限-信託法164条の適用排除条項及び受託者解任(AI作成)

目次

第1 本決定の結論と記事の対象第2 信託の終了,受託者の解任及び清算の区別1 信託法164条の原則と別段の定め2 信託法58条4項による受託者解任3 信託終了後の清算第3 本件の事実関係と原審の判断1 30年間の信託と終了制限条項2 原審の判断第4 最高裁が示した二段階の合理的必要性1 第1段階-条項自体の効力2 第2段階-終了申入れ時の任務継続3 補足意見が挙げた検討要素第5 本決定が判断していない事項と射程1 本件条項の効力を最終判断していない2 信託終了又は受託者解任を命じていない3 直接の射程と未確定の事項第6 民事信託契約の作成及び運用に与える影響1 信託目的と終了制限との対応を明らかにする2 期間及び制限手段を検討する3 終了申入れ時に必要性を再評価する4 受託者の固有利益及び終了後の手続を分けて確認する出典・参考資料1 法令・条約・告示2 裁判例・行政処分・弁護士懲戒3 その他の文献
第1 本決定の結論と記事の対象

本記事は,最高裁令和8年6月17日第三小法廷決定(令和6年(許)第30号・受託者解任申立て却下決定に対する抗告棄却決定に対する許可抗告事件)を対象とし,信託法164条1項の適用排除条項と受託者解任との関係を整理するものである。
調査の基準日は令和8年9月6日であり,同日までに確認できた公開資料及び同日現在の信託法に基づき,AIを利用して作成した。
対象は本決定の事案,判示事項,射程及び民事信託契約の作成・運用上の留意点であり,個別の信託契約の有効性を判断するものではない。

本決定は,信託法164条1項の適用を排除する条項が,同条3項の「別段の定め」として常に有効になるとはしなかった。
条項自体が効力を有するには,信託目的の達成のために合理的に必要と認められることを要するとしたのである。
さらに,条項が有効であっても,終了申入れの時点で受託者が申入れを拒絶して任務を続けることについて,別に合理的必要性を要するとした。

もっとも,最高裁は,本件条項を無効とし,信託が終了したと判断し,又は受託者を解任したものではない。
原決定を破棄し,二つの合理的必要性について審理を尽くさせるため,事件を東京高等裁判所へ差し戻した。

第2 信託の終了,受託者の解任及び清算の区別
1 信託法164条の原則と別段の定め

信託法164条1項は,委託者及び受益者が,いつでも,その合意により信託を終了できると定めている。
委託者と受益者が同一人である自益信託では,双方の地位を兼ねる者の意思により終了の合意を成立させられることになる。

他方,同条3項は,信託行為に別段の定めがあるときは,その定めによるとしている。
本件の中心的な問題は,終了権を排除する文言があれば常に別段の定めとして効力を有するのか,それとも信託の本質から効力を制限されるのかという点であった。

2 信託法58条4項による受託者解任

信託法58条1項は,委託者及び受益者の合意による受託者の解任を認め,同条3項は信託行為による別段の定めを認めている。
これとは別に,同条4項は,受託者が任務違反により信託財産に著しい損害を与えた場合その他重要な事由があるときに,裁判所が委託者又は受益者の申立てによって受託者を解任できると定めている。

信託の終了は信託関係を清算段階へ移行させる制度であるのに対し,受託者の解任は特定の受託者の任務を終了させる制度である。
両者は別の制度であるが,本件では,終了申入れを拒絶して任務を続けたことが58条4項の重要な事由に当たるかという形で接続した。

3 信託終了後の清算

信託法176条は,信託が終了しても,清算が結了するまでは信託が存続するものとみなしている。
終了後の受託者は清算受託者となり,現務の結了,債権の取立て,債務の弁済及び残余財産の給付等を行う(同法177条以下)。
そのため,信託を終了できるかという問題と,終了後に誰がどのように清算するかという問題も区別する必要がある。

第3 本件の事実関係と原審の判断
1 30年間の信託と終了制限条項

最高裁決定全文によれば,抗告人は,平成29年5月23日,保有する外国会社の株式を兄である相手方へ信託し,自らを委託者兼受益者,相手方を受託者とする信託契約を締結した。
信託目的は,会社価値の毀損を防止し,会社全体の利益の最大化を図ることとされ,信託期間は30年間とされた。

契約には,委託者兼受益者が信託期間中に契約を解除できない旨の条項があった。
抗告人は令和2年8月及び9月,信託法164条1項に基づいて信託を終了する旨を通知したが,相手方は同条3項の別段の定めがあるとして終了を認めず,その後も受託者の任務を続けた。

2 原審の判断

抗告人は,信託法58条4項に基づく受託者の解任を申し立てた。
原審の東京高等裁判所令和6年9月10日決定(令和5年(ラ)第639号)は,終了制限条項が164条3項の別段の定めに当たり,終了通知によって信託は終了しないと判断した。
その上で,相手方が終了を認めず任務を続けても,58条4項の重要な事由はないとして,申立てを却下すべきものとした。

第4 最高裁が示した二段階の合理的必要性
1 第1段階-条項自体の効力

最高裁は,信託法164条3項が,信託の種類,目的等に応じて終了事由を柔軟に定められるようにする趣旨であるとした。
もっとも,信託の本質に反する定めまで許されるものではないとした。

信託では,財産権の名義を受託者へ移す一方,受託者は受益者のために管理・処分を行い,受託者自身が利益を享受する立場にはない。
最高裁は,専ら受託者の利益を図る目的の信託を定義から除く信託法2条1項と,受託者の利益享受を禁ずる同法8条を,この本質を示す規定として挙げた。

終了制限条項は,委託者兼受益者が通常は自由に信託を終了できる地位を制限し,その意思に反して受託者が任務を続けることを可能にするため,類型的かつ抽象的に利益相反のおそれがある。
そこで最高裁は,利益相反行為を扱う信託法31条1項及び2項を参照し,同条2項4号と同様に,信託目的の達成のために合理的に必要であることを終了制限条項にも要求した。

2 第2段階-終了申入れ時の任務継続

条項が契約締結時に有効であったとしても,その後の事情が変われば,受託者が終了申入れを拒絶して任務を続ける必要性は失われ得る。
最高裁は,終了申入れがされた時点で任務を続けることが信託目的の達成のために合理的に必要である場合に限り,受託者が申入れを拒絶して任務を続けることが許されるとした。

したがって,条項自体の効力と,終了申入れ後にその条項を根拠として任務を続けることの許容性とは,別々に審査される。
この二段階の判断枠組みは,契約締結時と終了申入れ時の事情を分けて確認することを求めるものである。

3 補足意見が挙げた検討要素

補足意見は,本件の「会社価値の毀損防止・利益最大化」という信託目的は抽象的であり,合理的必要性を判断する直接の指針になりにくいと指摘した。
その上で,信託契約締結の経緯,契約内容及び当事者が意図した実質的効果を踏まえ,信託目的の内容を理解する必要があると述べた。

(続きを読む...)最高裁令和8年6月17日決定と民事信託の終了制限-信託法164条の適用排除条項及び受託者解任(AI作成)

証券口座の相続手続を弁護士が代理する方法-口座調査,必要書類,移管・売却(AI作成)

目次

第1 弁護士代理による証券口座の相続手続の全体像1 本記事の対象2 手続は三種類の書類を分けて考える3 弁護士に委任しても相続人本人の対応が残る場合第2 証券口座と保有資産の調査1 口座の手掛かりがある場合2 証券保管振替機構による口座開設先の調査3 特別口座及び残高証明書第3 誰が取得するかを確定する書類1 共同相続された株式等は当然には人数割りされない2 遺言がない場合又は遺産分割協議による場合3 遺言又は家庭裁判所の手続による場合4 法定相続情報一覧図と原本返却第4 代理権と証券会社所定書類1 委任状に記載する権限2 相続手続依頼書と受入口座3 複数の相続人への配分と端数第5 移管後の売却と完了確認1 売却の時点と指示の記録2 相続税評価額,取得費及び売却代金は別の金額である3 手続完了を示す資料第6 先に別問題を確認すべき場合1 相続放棄又は限定承認を検討している場合2 NISA,外国証券及び非上場株式第7 弁護士へ依頼する際の確認事項1 初回に整理する情報2 手続を止めて法的判断を先に行う場面3 証券口座の相続についてよくある質問出典・参考資料1 法令・裁判例2 制度運営機関及び職能団体の運用資料3 証券会社の相続手続案内4 国税庁の解説
第1 弁護士代理による証券口座の相続手続の全体像

結論として,証券口座の相続は,①口座の所在,②死亡日残高,③取得者,④受入口座,⑤必要書類,⑥商品別の移管又は換金,⑦完了資料の順に確認する。
株式,投資信託,MRF,NISA口座内資産及び預り金では処理が異なるため,口座全体を一括して「名義変更」又は「現金化」と考えないことが重要である。

1 本記事の対象

本記事は,法定相続人又は遺産分割によって証券を取得する相続人から委任を受けた弁護士が,証券会社に対する口座調査,残高証明書の取得,相続手続書類の提出,証券の移管及び売却に関与する場合を対象とする。
調査の基準日は令和8年9月6日であり,証券会社の必要書類及び受付方法は変更されるため,実際の手続では各社がその時点で交付する案内を確認する必要がある。

弁護士が遺言執行者として有価証券を換価して受遺者等へ分配する場合は,権限の根拠及び利益相反の検討が異なる。
その場合は,遺言執行者が相続株式・有価証券を売却して分配する際の実務上の問題点を参照されたい。

2 手続は三種類の書類を分けて考える

証券口座の相続手続で提出する資料は,①誰が証券を取得するかを示す相続資格・取得根拠の資料,②弁護士が誰を代理し,何を行うかを示す委任状及び本人確認資料,③証券会社が事務処理のために定める相続手続依頼書,移管先口座の届出その他の所定書類に分けて考えると整理しやすい。
戸籍がそろっていても取得者が確定していなければ移管できず,遺産分割協議書があっても代理権の範囲又は所定書類が不足すれば手続は止まる。

一般的な順序は,①口座の所在を調べる,②死亡日現在の残高を確定する,③証券の取得者を確定する,④取得者名義の受入口座を準備する,⑤委任状及び証券会社所定書類を提出する,⑥証券及び預り金の移管を確認する,⑦売却する場合は具体的な売却指示と完了資料を残す,というものである。

3 弁護士に委任しても相続人本人の対応が残る場合

弁護士は,委任状の範囲内で,証券会社への照会,必要書類の取り寄せ,残高証明書の請求,書類の作成補助・提出及び進行管理を行うことができる。
もっとも,証券会社はマネー・ローンダリング対策,税務上の届出及び適合性確認等のため,受入口座の開設時に取得者本人による本人確認,申告又は操作を求めることがある。
したがって,「弁護士へ依頼すれば相続人は一度も証券会社へ対応しなくてよい」とは限らない。

第2 証券口座と保有資産の調査
1 口座の手掛かりがある場合

証券会社名の手掛かりとしては,取引残高報告書,年間取引報告書,配当金計算書,株主総会関係書類,証券会社からの郵便物,登録メールアドレスの受信記録及び預貯金口座の入出金履歴がある。
証券会社が判明しているときは,死亡の連絡だけで終えず,①口座の有無,②死亡日現在の残高証明書の発行方法,③相続関係書類の一覧,④代理人による請求の可否と必要な委任状,⑤原本の返却方法を一度に確認するのが効率的である。

共同相続人の一人だけで顧客勘定元帳その他の取引履歴を請求できるかについては,証券口座の相続-共同相続人の一人だけで取引履歴を取得できるか(AI作成)を参照されたい。

代理人による口座情報の照会については,証券会社ごとに書類が異なる。
例えば,野村證券の相続手続案内は,弁護士等の代理人が口座の有無を確認する場合について,相続人の実印を押した委任状原本及び印鑑登録証明書原本等を案内している。

2 証券保管振替機構による口座開設先の調査

証券会社が分からないときは,証券保管振替機構の登録済加入者情報の開示請求を利用できる場合がある。
同機構の令和8年8月版案内によれば,法定相続人の任意代理人も請求でき,開示時点で振替株式等の口座が開設されている証券会社・信託銀行等の一覧を確認できる。

この開示で分かるのは口座管理機関の名称であり,銘柄,取引履歴及び保有残高ではない。
開示結果を得た後,各証券会社等へ個別に残高を照会する必要がある。

また,外国株式,国債,社債及び同機構の取扱対象でない非上場株式等は,この開示の対象外である。
そのため,開示結果に該当がないことだけで,被相続人に有価証券がなかったと結論付けることはできない。

(続きを読む...)証券口座の相続手続を弁護士が代理する方法-口座調査,必要書類,移管・売却(AI作成)

養育費債権の先取特権とは―対象範囲,子1人当たり月額8万円の上限及び差押え(AI作成)

第1 子の監護費用の先取特権とは第2 先取特権の対象となる債権1 確定期限の定めがある定期金債権であること2 養育費だけでなく婚姻費用等も対象になり得る第3 上限は子1人当たり月額8万円である第4 優先順位と効力第5 債務名義がなくても差押えを申し立てられる1 私的な合意書がある場合2 法定養育費の場合第6 差押財産が分からない場合第7 令和8年4月1日前の取決めと未払分第8 申立て前の確認事項第9 出典

養育費債権の先取特権は,養育費等のうち子1人当たり月額8万円までの部分に認められる一般先取特権である。
私的な合意書しかない場合でも,先取特権の存在を証する文書を提出できれば,債務名義を取得せずに担保権実行として差押えを申し立てられる。

第1 子の監護費用の先取特権とは

子の監護費用の先取特権は,養育費等の一定部分について,原則として一般債権者に優先して弁済を受けることができる権利である(民法306条3号・308条の2)。
令和8年4月1日以後に生じた各期の定期金に適用される。

この制度により,父母間の私的な合意書しかない場合でも,その書面によって先取特権の存在を証明できれば,担保権実行として給与や預貯金等の差押えを申し立てることができる。
ただし,先取特権が養育費の額を決めるわけではなく,養育費債権が成立していること,確定した支払期限があること及び未払となったことが前提である。

第2 先取特権の対象となる債権
1 確定期限の定めがある定期金債権であること

先取特権が及ぶのは,民法308条の2が掲げる義務に係る確定期限の定めのある定期金債権のうち,子の監護に要する費用として相当な額である。
支払額だけでなく,「毎月末日限り」など各回の支払期限を明確に決めておくことが重要である。

一括払いの解決金,臨時の学費又は医療費などが当然に同条の定期金債権に含まれるとは限らない。
合意内容が定期金債権に当たるかは,書面の文言と支払設計を確認して判断する必要がある。

2 養育費だけでなく婚姻費用等も対象になり得る

対象となる義務は,夫婦間の協力及び扶助,婚姻費用の分担,離婚後の子の監護費用並びに親族間の扶養である。
したがって,離婚後の養育費のほか,婚姻費用分担金又は扶養料のうち子の監護に要する費用に対応する部分も対象になり得る。

婚姻費用の先取特権と回収方法は,婚姻費用が支払われない場合-履行勧告・給与差押え・令和8年の先取特権(AI作成)で説明している。

第3 上限は子1人当たり月額8万円である

省令1条は,先取特権が及ぶ額を,月額8万円に定期金によって扶養を受けるべき子の数を乗じた額としている。
子が2人であれば月額16万円,3人であれば月額24万円が上限となる。

この8万円は,家庭裁判所が認定すべき養育費の標準額でも,義務者が常に支払うべき額でもない。
合意又は審判による養育費が子1人当たり月額5万円であれば,先取特権の対象もその債権額を超えない。
反対に,子1人について月額10万円の養育費債権があっても,先取特権が及ぶのは月額8万円までであり,残る月額2万円については先取特権による優先権がない。

上限を超える部分も養育費債権として消滅するわけではない。
超過部分を含めて強制執行するためには,調停誸書,審判書又は執行認諾文言付き公正証書などの債務名義を確認する実益がある。

第4 優先順位と効力

一般先取特権が競合する場合の順位は,民法306条各号の順序による(民法329条1項)。
子の監護費用は,共益の費用及び雇用関係に次ぐ順位であり,葬式の費用及び日用品の供給より先順位となる。

先取特権があるからといって,常に全額を回収できるわけではない。
差し押さえた財産の価額,他の担保権又は先取特権の有無,租税その他の優先関係及び手続費用によって,実際の配当額は変わる。

一般先取特権は,債務者の総財産に及ぶが,不動産については登記をした第三者との関係に制限がある(民法336条)。
実務では,給与又は預貯金に対する債権差押えが中心になるため,対象財産と他の差押えの有無を確認する必要がある。

第5 債務名義がなくても差押えを申し立てられる
1 私的な合意書がある場合

債権を目的とする担保権の実行は,担保権の存在を証する文書が提出されたときに開始する(民事執行法193条1項)。
裁判所の家事事件Q&Aも,父母間の私的な合意書だけがある場合でも,月額8万円に子の数を乗じた額を上限として担保権実行を申し立てられると案内している。

申立てでは,合意書だけでなく,父母と子の関係,支払期限,未払の発生及び子の人数等を示す資料が必要となる。
口頭合意しかなく,先取特権の存在を証する文書を提出できない場合は,直ちに同じ方法で差押えができるとは限らないため,調停その他の方法による債務名義の取得を検討すべきである。

令和8年4月23日の参議院法務委員会では,最高裁判所事務総局民事局長が,父母間で取り決めた養育費の支払を求める担保権実行には担保権の存在を証する文書の提出が必要であり,提出された文書がこれに当たるかは個別の事案ごとに執行裁判所が判断すると答弁した。
同局長は,民事執行法上,印鑑が必要であるという法律上の要件にはなっていないとも答弁している。
押印がないことだけで申立てを断念する必要はないが,当事者,子,月額及び支払期限が読み取れない書面や,作成の真正が争われやすい書面では,執行裁判所の判断が分かれ得るため,提出前に記載内容を確認する必要がある。

養育費の合意書,公正証書及び調停調書の違いは,養育費の取り決め方―共同養育計画書・合意書・公正証書・調停調書の違い(AI作成)で説明している。

2 法定養育費の場合

法定養育費にも先取特権が及ぶため,養育費を取り決めずに離婚した場合でも,令和8年4月1日以後の離婚等で要件を満たせば担保権実行を申し立てることができる。
執行裁判所は,法定養育費について必要があると認めるときは,差押命令を発する前に債務者を審尋できる(民事執行法193条3項)。

法定養育費の発生要件,月額及び支払期間は,法定養育費とは―請求要件,子1人当たり月額2万円及び支払期間(AI作成)を参照されたい。

第6 差押財産が分からない場合

(続きを読む...)養育費債権の先取特権とは―対象範囲,子1人当たり月額8万円の上限及び差押え(AI作成)