目次第1 この記事の対象と結論1 対象と基準日2 結論第2 保佐と補助の基本構造1 保佐2 補助3 権限の比較第3 同意権と取消権1 保佐人の法定の同意権2 同意権の拡張と補助人の同意権3 同意に代わる許可4 取消権とその行使5 携帯電話・スマートフォンの契約第4 代理権の付与と本人の同意1 代理権付与の審判2 代理行為目録3 代理権と同意権・取消権の関係4 財産管理権第5 保佐人・補助人の義務1 意思尊重義務と身上配慮義務2 善管注意義務と第三者に対する責任第6 選任直後の実務1 本人と関係者への説明2 金融機関への届出3 郵便物4 財産目録と裁判所への報告第7 居住用不動産・利益相反・複数選任1 居住用不動産の処分2 臨時保佐人・臨時補助人3 複数の保佐人・補助人第8 報酬の回収第9 能力の変化への対応と終了1 権限の追加と取消し2 類型の変更3 終了事務と死後事務第10 令和8年改正1 保佐の廃止と補助への一元化2 同意権(改正民法9条)3 特定補助(改正民法10条)4 代理権(改正民法11条)と審判の取消し(改正民法12条)5 意向の尊重(改正民法876条の11)6 その他の変更7 経過措置8 施行時に既存の保佐人・補助人が検討すべきこと第11 本書刊行後に変わった点と大阪家裁の運用1 本書刊行後に変わった点2 大阪家裁の運用第12 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 公的資料4 文献5 関連記事
第1 この記事の対象と結論
1 対象と基準日
本記事は,保佐人と補助人が,どのような権限を持ち,選任後に何をするのかを,同意権・取消権・代理権の三つの権限を軸に説明するものである。
基準日は令和8年9月19日であり,法令は令和8年9月18日にe-Gov法令検索で取得した現行条文による。
素材は,大阪弁護士会高齢者・障害者総合支援センター編『【全訂版】成年後見人の実務2023』(大阪弁護士協同組合,2023年。以下「本書」という。)の保佐人・補助人の章(149頁~184頁)と,能力の変化への対応(122頁~123頁)及び代理行為目録・同意行為目録の書式(259頁~262頁)である。
本書は2023年時点の記述なので,大阪家庭裁判所の運用は,現行の「成年後見人・保佐人・補助人ハンドブック(Q&A付き)」(令和8年2月1日版。以下「大阪家裁ハンドブック」という。)で確かめられたものと,本書の記載にとどまるものを分けて書く。
令和8年法律第45号(民法等の一部を改正する法律)により,法定後見は補助に一元化され,保佐は廃止される。
成年後見部分の施行日は,公布の日(令和8年6月24日)から起算して2年6月を超えない範囲内で政令で定める日であり,基準日現在は未施行である。
本記事の第2から第9までは現行法の説明であり,改正後の姿と,既存の保佐人・補助人が施行時に検討すべきことは第10で扱う。
改正全体の構造は令和8年成年後見制度改正と関係法律61本の整備で扱っている。
2 結論
①保佐人は,民法13条1項各号の行為について当然に同意権と取消権を持つが,代理権は審判で付与された範囲に限られる。
補助人は,審判で定められた同意権(民法13条1項の行為の一部に限る。)と代理権の一方又は双方を持つにとどまる。
②代理権の付与は,本人以外の請求によるときは本人の同意が要件である(民法876条の4第2項,876条の9第2項)。
代理権が付与されても本人は自らその行為をすることができ,本人の行為を取り消せるのは同意権の対象行為に限られる。
③同意権しかない保佐人・補助人も,元本の領収(預貯金の払戻し)が同意の対象であれば,金融機関へ届け出るべきである。
もっとも,大阪家裁後見センターは,保佐・補助で本人が通帳を渡さないなど非協力的な場合には,金融機関に届け出ずに本人に預貯金の管理を委ねる例が多く,同意権だけを持つ保佐人等が金融機関に届け出て預貯金を管理する例はほとんど見られないとしている(大阪家庭裁判所後見センター編『大阪家庭裁判所後見センターだより』(大阪弁護士協同組合,2025年)87頁~88頁)。
同書は,その場合の初回報告は判明した範囲で提出し,必要に応じて代理権付与の審判の取消しも検討するとしている。
④成年後見人の郵便物の回送嘱託(民法860条の2),財産目録の作成期間(民法853条)及び死後事務(民法873条の2)の規定は,保佐人・補助人に準用されていない。
⑤報酬付与の審判は,報酬の支払を命ずる審判ではなく,民事執行法22条の債務名義に当たらないから,本人の預貯金を管理していない保佐人・補助人は,本人を説得して任意に支払を受けるほかない。
⑥令和8年改正の施行後も,施行日前に開始した保佐は原則として従前の例によって続くが,保佐人の解任と意向の尊重には改正後の規定が適用され,保佐人は補助開始の審判を請求することができる。
既存の補助は改正後の補助とみなされ,同意権・代理権の一つ一つについて必要性が問われることになる。
第2 保佐と補助の基本構造
1 保佐
民法11条は,「精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分である者」について,家庭裁判所が保佐開始の審判をすることができると定める。
保佐開始の審判を受けた者は被保佐人とされ,保佐人が付される(民法12条)。
本書149頁は,「著しく不十分」とは,後見相当ではないが,支援を受けなければ契約等の意味・内容を自ら理解し判断することができず,法律行為を行うに当たって常に援助が必要な場合をいうと説明する。
大阪家裁ハンドブック4頁(Q2)も,日常の買い物程度のことは自分でできても,重要な行為をするときは常に支援が必要となる人を被保佐人と説明している。
2 補助