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親族・相続

オーバーローンの自宅と財産分与―他の財産との通算,衡平調整と離婚後の返済(AI作成)

目次第1 自宅だけを見て財産分与なしと決めない1 オーバーローンと分与対象全体の評価2 すべての借金を差し引くわけではない第2 東京高裁令和6年8月21日判決1 通算と衡平調整の考え方2 この事件では財産分与を認めなかった第3 計算と生活への影響を分けて示す1 通算の計算例2 衡平調整を求めるなら事情を具体化する第4 金融機関への責任と夫婦間の清算1 家を渡す合意だけでローンから抜けられない2 別居後・離婚後の返済を記録する第5 期限と合意前の確認事項1 離婚日によって家裁への請求期間が違う2 資料と合意条項をそろえる第6 出典・確認範囲
第1 自宅だけを見て財産分与なしと決めない
1 オーバーローンと分与対象全体の評価

住宅ローンの残高が自宅の価額を上回る状態を,オーバーローンという。自宅だけなら差引きの価値はマイナスになるが,預貯金など他の分与対象財産があれば,それを含めた評価が必要となる。「住宅がオーバーローンなら,住宅とローンを計算から外して預金だけを半分にする」「住宅がオーバーローンなら,一切の財産分与ができない」と一律に扱うべきではない。
東京高等裁判所令和6年8月21日判決は,他の対象財産と住宅ローンを通算する考え方と,通算が当事者間の衡平を害する場合の調整を述べた。本記事は,この判決の掲載全文と,令和8年10月5日現在の民法を基に説明する。

財産全体の対象と清算金の基本的な計算は,財産分与の総合案内を参照されたい。
自宅の取得と老後の生活資金を併せて検討する場合は,熟年離婚の財産分与で,退職金の評価と支払原資,年金分割の違いを整理している。

2 すべての借金を差し引くわけではない

まず,住宅及びローンが財産分与の対象となるかを確認する。婚前取得,相続・贈与を原資とする部分,借入れの使途,婚姻中の取得・維持への協力等を整理する必要がある。配偶者の個人的な浪費や婚姻共同生活と無関係の借金まで,自動的に他方へ負担させる趣旨ではない。
登記持分,ローンの契約名義及び現実の返済割合も記録する。所有名義だけで財産分与の額が決まるわけではなく,現行民法768条3項は,取得・維持への寄与が異なることが明らかでないときは,寄与の程度を等しいものとする。

第2 東京高裁令和6年8月21日判決
1 通算と衡平調整の考え方

東京高等裁判所令和6年8月21日判決(令和6年(ネ)第710号,判例タイムズ1539号60頁)は,財産分与の対象不動産の評価額を住宅ローンが上回る場合,他の対象積極財産と評価額を通算し,分与額・方法を定める考え方を示した。
一方で,機械的な通算が当事者間の衡平を害する事情がある場合には,異なる額・方法を定めることにも合理性があるとした。自宅を取得して返済を続ける側は,完済後に負債のない不動産を保有し得るのに対し,他方は住居も積極財産も得られない場合があること等を踏まえた説明である。
これは一つの高裁判決の判断であり,全国のすべての事件で同じ計算方法が適用されると保証するものではない。通算の計算だけでなく,誰がどの資産と負担を引き受け,離婚後の生活がどうなるかを具体的に示す必要がある。

2 この事件では財産分与を認めなかった

本件では,自宅のローンが評価額の3倍を超え,対象財産全体の総評価額は約193万円の債務超過であった。裁判所は,退職金支給の不確実性等も検討し,財産分与申立ての却下を維持した。
判決は,婚姻破綻についての責任や住居を離れた経緯等も,本件の衡平調整の要否を判断する事情として検討している。しかし,これを「不貞をした配偶者には財産分与がない」「家を出た配偶者は分与を受けられない」という一般的な制裁の規則にすることはできない。
また,本判決自体は,ペアローン商品の契約構造を正面から判断した判決ではない。ペアローンの事件で参考にするときも,通算・衡平に関する考え方と,各ローン契約・保証契約の処理を分ける必要がある。

第3 計算と生活への影響を分けて示す
1 通算の計算例

以下は計算の仕組みを示す仮定例であり,裁判例の金額又は確定的な分与額ではない。自宅とローン及び預金の全額が分与対象となり,価額に争いがないと仮定する。

項目評価額自宅2000万円住宅ローンマイナス2500万円対象預金800万円通算後の純額300万円

この例では,住宅とローンだけの差額はマイナス500万円であるが,他の対象預金と通算すると純額は300万円となる。寄与を2分の1とする単純計算では,各人の純取得額の目安は150万円となる。ただし,現物を誰が取得するか,その人が既に保有している対象財産と負担は何かを踏まえて,清算金を計算する必要がある。各人に150万円を追加で払えばよいという意味ではない。

2 衡平調整を求めるなら事情を具体化する

通算結果と異なる分与を求める場合は,自宅の取得・居住継続,完済後の利益,離婚後の返済能力,双方の転居費用,収入,健康及び他の財産の状況を示す。負担だけでなく,保有資産や将来の利益を含む説明が必要である。
現行民法768条3項は,離婚後の財産上の衡平を図るため,対象財産と寄与,婚姻期間,生活水準,協力・扶助,年齢,心身の状況,職業,収入等を考慮すると定めている。「公平にしてほしい」という抽象的な希望にとどめず,通算結果のどの点がどの事情によって不均衡になるのかを明示する。

第4 金融機関への責任と夫婦間の清算
1 家を渡す合意だけでローンから抜けられない

夫婦間で,自宅を一方が取得し,その一方が残りのローンを払うと合意しても,金融機関に対する債務者や連帯保証人の地位が当然に変わるわけではない。民法472条の免責的債務引受には,債権者との契約又は債権者の承諾など,金融機関の関与が必要となる。

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別居3年で離婚できるか―婚姻破綻の判断事情,修復行動と第一審・控訴審の比較(AI作成)

目次第1 別居3年という法律上の基準はない1 生死不明の3年と別居期間は別である2 裁量棄却と有責配偶者の問題を分ける第2 同じ事件で第一審と控訴審の結論が分かれた例1 別居3年5か月で請求を棄却した第一審2 別居4年10か月で離婚を認めた控訴審第3 別居期間と一緒に確認する事情1 住所の違いと共同生活の実態2 修復希望と具体的な行動3 子との関係と離婚後の生活第4 相談・訴訟で準備する資料1 出来事と裏付けを時系列にする2 訴えを起こした時の資料を更新する第5 判決の集計を個別事件の勝訴率にしない第6 令和8年改正と古い判決の読み方第7 出典・関連記事
第1 別居3年という法律上の基準はない
1 生死不明の3年と別居期間は別である

相手方が離婚に応じない場合,「別居を3年続ければ裁判で離婚できる」と考えることがある。しかし,令和8年10月5日現在の民法770条に,別居3年を独立の離婚原因とする規定はない。同条1項3号の3年以上という期間は,配偶者の生死が明らかでない場合の要件である。所在や生存が分かっている配偶者との別居とは異なる。
別居を通じた婚姻破綻は,通常,同項4号の「その他婚姻を継続し難い重大な事由」の問題として検討する。期間だけでなく,同居していた期間,別居に至る経緯,別居後の生活・交流,修復の可能性などを具体的に見る必要がある。

2 裁量棄却と有責配偶者の問題を分ける

現行770条2項の裁量棄却は,同条1項1号から3号までの事由がある場合の規定である。4号の婚姻破綻については,重大な事由が認められるかという判断と,破綻について専ら又は主として責任を負う配偶者からの請求を信義則上認められるかという問題を区別する。
有責配偶者からの請求では,最高裁大法廷昭和62年9月2日判決の枠組みに従い,別居期間を双方の年齢・同居期間との対比で評価し,未成熟子の有無や,相手方を極めて苛酷な状態に置く等の特段の事情も検討する。同判決の結論は破棄差戻しである。有責性を争われている事件に,一般の別居事例の年数をそのまま当てはめることはできない。
詳しくは,有責配偶者からの離婚請求を参照されたい。

第2 同じ事件で第一審と控訴審の結論が分かれた例
1 別居3年5か月で請求を棄却した第一審

東京家庭裁判所立川支部平成27年1月20日判決(平成25年(家ホ)第235号)は,妻からの離婚請求を棄却した。判決が認定した別居期間は約3年5か月であり,それまでの同居期間は約10年であった。
第一審は,夫の修復希望,子と夫との良好な関係等を踏まえ,婚姻関係に回復可能性がないとまでは認めなかった。妻が主張した暴力等についても,その主張どおりの事実が認められた事案ではない。この判断を,「暴力があっても3年では離婚できない」という一般論へ広げることはできない。

2 別居4年10か月で離婚を認めた控訴審

同事件の控訴審である東京高等裁判所平成28年5月25日判決(平成27年(ネ)第1064号,判例タイムズ1432号97頁)は,離婚請求を棄却した部分を取り消し,離婚を認めた。
控訴審は,別居が約4年10か月に及んだこと,妻の強い離婚意思,夫に具体的な修復行動がないこと等を検討した。夫が婚姻継続を希望しながら,命じられた婚姻費用を十分に支払っていなかった点も,その希望を評価する事情となっている。
この比較からは,年月の経過に加えて,修復の言葉と実際の行動,生活費の負担等を証拠で示すことが重要といえる。「第一審で棄却されたから控訴しても同じ」「4年10か月に達すれば必ず認められる」という理解は,どちらも判決の検討内容に合わない。

第3 別居期間と一緒に確認する事情
1 住所の違いと共同生活の実態

別居の開始日は,住民票の異動日だけでなく,実際に共同生活を終えた経緯と資料で確認する。単身赴任,入院,介護等による一時的な住居の分離と,夫婦関係を解消するための別居は,住所が違うというだけでは同じ評価にならない。
家庭内別居を主張する場合も,寝室,食事,家事,家計,連絡及び子の世話の実態を説明する必要がある。途中で再同居した,旅行へ行った,家計を一部共同にしていた等の事情があれば,その目的と経過を併せて整理する。

2 修復希望と具体的な行動

婚姻の継続を希望する側は,いつ,どのような方法で話合いを提案し,関係悪化の原因を改善したのかを具体化する。離婚を求める側は,修復の提案があったか,応じなかった理由,話合いや調停を経ても関係が回復しなかった経過を説明する。
生活費については,合意・審判等で定められた額と,現実の支払日・支払額を区別する。支払が足りない場合には,収入減等の理由や,変更を求めた経過も確認する。婚姻費用の不足だけで直ちに婚姻破綻又は悪意の遺棄が成立するという一律の基準ではない。
DV,虐待,威圧又は保護命令等が関係する事件では,直接連絡や同居再開を安易に勧めるべきではない。連絡を避ける理由と安全確保の必要性を踏まえ,代理人や裁判所を通じて事実と意向を整理する。

3 子との関係と離婚後の生活

子の監護,親子交流,通学,健康及び生活費を確認する。子と片方の親が良好な関係を持つことと,夫婦関係が回復できることは,当然に同じ問題ではない。夫婦関係の評価と,子の生活をどう守るかをそれぞれ説明する。
別居後の住居,収入,療養,家計及び扶養の状況も整理する。有責配偶者からの請求では,離婚後の苛酷な状態を判断するため,経済的給付の内容と履行可能性が特に重要となる。

第4 相談・訴訟で準備する資料
1 出来事と裏付けを時系列にする

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財産分与の錯誤取消しと不動産の転売―課税の誤解,民法95条4項の第三者と登記,取消し後の買主(AI作成)

目次第1 この記事の結論第2 財産分与の課税と錯誤1 財産分与をした側に課税される2 課税の誤解は基礎事情の錯誤3 「表示されていた」といえるか4 重要性と重大な過失5 取消しの方法と効果第3 取消し前に買った第三者1 民法95条4項による保護2 登記まで要るか3 実務上の意味第4 取消し後に利害関係を持った者第5 保護された第三者と,取消し後に分与者から買った者1 問題の形2 二つの説明3 民法94条2項との関係4 実務上の帰結第6 財産分与をするときの確認事項第7 関連記事第8 出典1 法令2 裁判例3 公式資料4 確認状態
第1 この記事の結論

本記事は,離婚に伴う財産分与で不動産を相手方に譲渡した者が,自分に課税されないと誤解していたことを理由に財産分与を取り消した場合に,その不動産を買った第三者や,取消し後に元の所有者から買った者との関係がどうなるかを,民法の条文と判例に沿って整理するものである。
結論は次のとおりである。
①財産分与として不動産を譲渡した分与者には,譲渡所得課税がされる(最高裁昭和50年5月27日判決)。
②分与者が自分に課税されないことを契約の前提とし,相手方もそれを了解していた場合は,民法95条1項2号・2項の錯誤として取り消せることがある(最高裁平成元年9月14日判決は,改正前の民法の下で,黙示の表示を認めた)。
③取消し前にその不動産を買った善意無過失の第三者には,取消しを対抗できない(民法95条4項)。登記まで要するかは見解が分かれ,詐欺取消しについての判例は対抗要件を要しないとしている。
④取消し後に利害関係を持った者との関係は,登記の先後によることになる(詐欺取消しについての大審院昭和17年9月30日判決の判決要旨)。
⑤取消し前の第三者が保護された後に,分与者がさらに別の者へ売った場合の優劣は,第三者保護の仕組みをどう理解するかで結論が分かれる。

本記事は,令和6年司法試験論文式試験民事系科目第1問の設問2がこの事例を素材としたことを機に,同試験の出題の趣旨・採点実感と判決本文を照合して作成した。

第2 財産分与の課税と錯誤
1 財産分与をした側に課税される

最高裁昭和50年5月27日判決は,財産分与として不動産等の資産を譲渡した場合,分与者は分与義務の消滅という経済的利益を享受したものというべきであるとし,財産分与としてされた不動産の譲渡は譲渡所得課税の対象となるとした。
課税されるのは分与を受けた側ではなく,分与をした側である。
分与を受けた側の贈与税の扱いなどは,離婚時の財産分与と税金で詳しく扱っている。

2 課税の誤解は基礎事情の錯誤

分与者は,相手方に不動産を譲渡するという意思で財産分与をしており,意思と表示は一致しているから,民法95条1項1号の錯誤ではない。
自分に課税されないという認識が真実に反していた点は,同項2号の「法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤」に当たり得る。
財産分与を内容とする契約の意思表示も,売買の意思表示と同様に同条1項の適用を受ける。
採点実感は,この点を明示的に論じた答案が極めて少数であったとしている。

3 「表示されていた」といえるか

基礎事情の錯誤による取消しは,その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたときに限りすることができる(民法95条2項)。
「表示」の意味には見解があり,令和6年司法試験の出題の趣旨は,例えば,表意者が一方的に表示しただけでは足りず,その事情がなければ意思表示の効力が否定されることについて相手方の了解が必要とする見解を挙げ,どの考え方を採ってもよいとしている。
最高裁平成元年9月14日判決は,改正前の民法の下で,財産分与の際に夫が妻に課税されることを心配して気遣う発言をし,妻も自己に課税されるものと理解していたなどの事情の下では,他に特段の事情がない限り,夫は自己に課税されないことを当然の前提とし,かつ,その旨を黙示的には表示していたものといわざるをえないとして,原判決を破棄し差し戻した。
同判決は,錯誤の成立を最終的に認めたものではなく,要素の錯誤の成否や重大な過失の有無をさらに審理させたものである。

4 重要性と重大な過失

錯誤は,法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものでなければならない(民法95条1項柱書)。
分与者の資産や収入の状況と課税額の大きさは,重要性を判断する事情になる。
錯誤が表意者の重大な過失によるときは原則として取り消せないが,相手方が表意者と同一の錯誤に陥っていたときは,重大な過失があっても取り消せる(民法95条3項2号)。
相手方も,分与者には課税されないという点を同じように誤解していた場合は,この例外に当たり得る。ただし,同一の錯誤は重大な過失による取消制限の例外であり,重要性や基礎事情の表示まで不要にするものではない。

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他人の土地を無断で貸した者を所有者が相続したとき―賃借人は明渡しを拒めるか,損害賠償及び留置権(AI作成)

目次第1 この記事の結論第2 他人の物の賃貸借はどこまで有効か1 貸主と借主の間では有効2 所有者には賃借権を主張できない3 無権代理との違い第3 所有者が貸主を相続した場合1 地位は併存し,所有者は履行を拒める2 信義則に反する特別の事情3 無権代理と相続の判例との関係4 所有者が追認した場合第4 借主の救済―損害賠償1 履行不能と損害賠償2 履行を拒めることと責任を負うことは矛盾しない第5 留置権で明渡しを拒めるか1 物と債権の牽連関係2 他人物売買の判例3 相続で債務者と所有者が同じ人になっても変わらない4 同時履行の抗弁も使えない第6 実務上の確認事項1 借りる側2 所有者側第7 関連記事第8 出典1 法令2 裁判例3 公式資料4 確認状態
第1 この記事の結論

本記事は,所有者に無断で他人の土地や建物を自分の名で貸した者(例えば親の土地を子が勝手に貸した場合)が死亡し,所有者がその者を相続したときに,賃借人が所有者からの明渡請求を拒めるかを,最高裁判例と民法の条文に沿って整理するものである。
結論は次のとおりである。
①他人の物を自分の名で貸す契約(他人物賃貸借)も,貸主と借主の間では有効であるが,所有者に対しては,借主は賃借権を主張できない。
②所有者が貸主を相続しても,所有者としての地位と相続した貸主としての地位は併存し,所有者は,信義則に反すると認められるような特別の事情がない限り,貸主としての債務の履行を拒むことができると考えられる(最高裁大法廷昭和49年9月4日判決の考え方による)。
③所有者が履行を拒むと,相続した貸主の債務は履行不能となり,所有者は相続人として借主に損害賠償責任を負う。
④借主は,その損害賠償請求権を理由に,土地を留置して明渡しを拒むことはできない(最高裁昭和51年6月17日判決の考え方による)。
⑤所有者が貸したことを追認すれば,賃貸借は所有者との関係でも効力を持つ。

本記事は,令和6年司法試験論文式試験民事系科目第1問がこの事例を素材としたことを機に,同試験の出題の趣旨・採点実感と判決本文を照合して作成した。
実際の事件では,契約書,登記,相続関係及び当事者の言動を確認した上で個別に判断する必要がある。

第2 他人の物の賃貸借はどこまで有効か
1 貸主と借主の間では有効

民法561条は,他人の権利を売買の目的としたときは,売主はその権利を取得して買主に移転する義務を負うと定め,同法559条により,この規定は売買以外の有償契約にも準用される。
賃貸借(民法601条)も有償契約であるから,他人の物を自分の名で貸した貸主は,所有者から貸す権限を取得し,その権限に基づいて借主に使用収益させる義務を負う。
令和6年司法試験の出題の趣旨も,このような他人物賃貸借について,民法601条,559条による561条の準用を挙げている。

2 所有者には賃借権を主張できない

所有者は,他人物賃貸借の当事者ではない。
そのため,借主は,貸主に対して賃借権を主張できても,所有者に対しては,その賃借権を占有の権原として主張することができない。
借主が土地上に登記された建物を所有していても,借地借家法10条1項は,有効に成立した借地権を第三者に対抗するための規定であるから,賃貸する権限のない者から借りた場合の問題を解決しない。
採点実感も,同項を理由に所有者へ借地権を主張できるとする答案について,そもそも有効な占有権原が成立していないから第三者への対抗も問題にならないと指摘している。

3 無権代理との違い

貸主が所有者の代理人として契約したのであれば,無権代理(民法113条)の問題になり,所有者が追認しなければ所有者に効力を生じず,代理人は無権代理人の責任(民法117条)を負う。
これに対し,貸主が自分の名で契約したときは,貸主自身が賃貸人であり,無権代理ではない。
採点実感は,自分の名で貸した事例を無権代理の事案と捉える答案を,不良の例として挙げている。
契約書の賃貸人欄に誰の名前があるか,代理人として署名したのかを最初に確認する。

第3 所有者が貸主を相続した場合
1 地位は併存し,所有者は履行を拒める

最高裁大法廷昭和49年9月4日判決は,他人の権利の売主が死亡し,その権利者が売主を相続した場合について,権利者は相続により売主の義務ないし地位を承継するが,そのために権利者自身が売買契約を締結したことになるものではなく,権利が当然に買主に移転するものでもないとした。
その上で,権利者は,相続前と同様にその権利の移転について諾否の自由を保有し,信義則に反すると認められるような特別の事情のない限り,売主としての履行義務を拒否することができると判断した。

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損害賠償・養育費で使う賃金統計の選び方―民間給与実態統計と賃金センサス,平均・中央値の違い(AI作成)

目次第1 統計を選ぶ前に,何を確かめるか1 実収入と統計による推計を分ける2 本記事の対象と基準日第2 民間給与実態統計と賃金センサスの違い1 民間給与実態統計の「平均給与」2 賃金センサスの月額と賞与3 正社員と一般労働者は同じ区分ではない第3 平均・中央値と将来収入の読み方1 平均額は「多くの人の年収」とは限らない2 年齢別平均は同じ人を追跡した結果ではない第4 事件の種類に応じた使い方1 養育費・婚姻費用の収入推計2 交通事故の逸失利益3 財産分与・相続と世帯の貯蓄統計第5 主張・説明に使う前の確認事項第6 出典
第1 統計を選ぶ前に,何を確かめるか
1 実収入と統計による推計を分ける

交通事故の逸失利益,養育費又は婚姻費用の検討で「平均給与」を参照するときは,まず,何を確かめようとしているかを明らかにする必要がある。
現在の実収入,事故がなければ得られた将来収入,就労によって得ることのできる収入,世帯の家計状況は,それぞれ異なる問題である。
統計は比較や推計の補助資料であり,平均額を示しただけで当事者の年収又は将来収入が確定するものではない。

給与所得者の実収入については,源泉徴収票,給与・賞与明細,課税資料及び勤務先の資料を確認する。
裁判所の養育費・婚姻費用算定表の説明も,給与収入について源泉徴収票の「支払金額」等を確認する方法を説明している。
資料がない場合,資料の対象年が古い場合,転職・休職・副業等がある場合は,不足する情報を特定した上で統計との比較を行うことになる。

2 本記事の対象と基準日

本記事は,令和8年10月4日に確認した国税庁,厚生労働省,総務省及び裁判所の公表資料を基に,統計を取り違えないための確認手順を説明するものである。
個別事件でどの統計・区分を採用すべきかという判断は,事件の争点と証拠関係によって異なる。
統計の公表年だけで選択せず,対象年,観察期間,集計の単位及び金額の定義まで確認する必要がある。

第2 民間給与実態統計と賃金センサスの違い
1 民間給与実態統計の「平均給与」

国税庁の令和7年分民間給与実態統計調査によると,1年を通じて勤務した給与所得者の平均給与は487万円である。
これは,民間の事業所に勤務する給与所得者についての集計であり,全日本人の所得,公務員を含む全就業者の収入,個人事業主の事業所得又は世帯年収の平均ではない。

調査上の用語の説明では,給与は給料・手当と賞与から構成され,給与所得控除前の収入金額である。
非課税の通勤手当等は含まれないため,手取り額とも,支給項目を区別しない給与明細の総支給額とも,無条件に一致するとは限らない。
複数の勤務先がある人の実年収を確認するときは,各勤務先の資料を集め,重複計上や集計漏れを防ぐことが必要である。

民間給与実態統計調査は,事業所を抽出し,その事業所に属する給与所得者を調べる二段抽出である。
同一人が年中に複数の事業所に勤務してそれぞれから給与を得た場合,公表統計上も各事業所の給与所得者として複数人に数えられ得る。
この母集団,集計単位及び抽出率の読み方は,国税庁の税務統計の読み方―民間給与・会社・申告所得税の標本調査と税務調査事績(AI作成)で整理している。

2 賃金センサスの月額と賞与

賃金センサスは,厚生労働省の賃金構造基本統計調査を指す。
令和7年調査の概要によると,令和7年6月分の賃金等を調査し,賞与・期末手当等は原則として令和6年1月から12月までの1年間を対象としている。
同じ調査の中でも,月額と賞与の観察期間は一致していない。

概況の用語の定義にいう「賃金」は,6月分の所定内給与額の平均であり,超過労働給与を除いた所得税等控除前の金額である。
詳細表には異なる給与項目があるため,「所定内給与額」なのか「きまって支給する現金給与額」なのか,年間賞与等を加えるのかを,採用する表の見出しで確かめる必要がある。
概況の月額を単に12倍した金額を,賞与を含む年間給与と同じものとして扱ってはならない。

(続きを読む...)損害賠償・養育費で使う賃金統計の選び方―民間給与実態統計と賃金センサス,平均・中央値の違い(AI作成)

第十二回特別弔慰金の請求と記名国債―遺族の順位,令和10年3月の請求期限,相続人・成年後見人の手続と差押禁止(AI作成)

目次第1 制度の概要1 第十二回特別弔慰金の内容2 5年後にもう一度の支給が予定されている第2 誰が受けられるか1 公務扶助料や遺族年金を受ける人がいないこと2 遺族の順位3 同順位の遺族が複数いる場合第3 請求の手続1 提出先と裁定2 必要な書類第4 相続人と成年後見人の請求1 請求前に権利者が死亡した場合2 国債の記名者が死亡した場合3 成年後見人等の請求第5 記名国債と特別弔慰金の保護1 譲渡・担保・差押えの制限2 非課税と印紙税第6 不服申立てと裁判例1 審査請求2 却下処分の取消訴訟第7 弁護士が相談で確認すること第8 本記事で扱わない事項第9 出典・関連記事1 検討した資料2 法令3 裁判例4 関連記事
第1 制度の概要
1 第十二回特別弔慰金の内容

戦没者等の遺族に対する特別弔慰金は,先の大戦で公務等のため亡くなった軍人軍属等の遺族に対し,国として改めて弔慰の意を表すために支給されるものである。
根拠は,戦没者等の遺族に対する特別弔慰金支給法(昭和40年法律第100号。以下「法」という。)である。

令和7年法律第18号による改正により,令和7年4月1日を基準日とする第十二回特別弔慰金が支給されている。
厚生労働省の案内と法の規定によれば,その内容は次のとおりである。

項目内容根拠基準日令和7年4月1日法2条・3条額戦没者等1人につき27万5000円法5条1項交付の方法5年以内に償還する無利子の記名国債法5条1項・3項国債の発行日令和7年9月1日令和7年法律第18号附則2条2項償還令和8年から毎年1回,償還日(4月15日)以降に5万5000円ずつ厚生労働省の案内請求期間令和7年4月1日から令和10年3月31日まで厚生労働省の案内時効行使できる時から3年法9条

請求先は住所地の市区町村の援護担当課であり,郵送やマイナポータルの電子申請(請求書と現況申立書のみ)でも請求できる。
請求期間を過ぎると第十二回特別弔慰金を受けることができなくなるとされているので,確認日(令和8年10月4日)から見ると,残りは約1年半である。

2 5年後にもう一度の支給が予定されている

令和7年法律第18号は,附則1条ただし書により,法2条等の基準日を令和12年4月1日に改める改正を,同日から施行するとしている。
e-Gov法令検索に収録された令和12年4月1日施行の条文では,基準日が令和12年4月1日となり,額は同じく27万5000円,5年以内に償還する記名国債とされている。
財務省に提出された厚生労働省の令和7年度税制改正要望も,特別弔慰金を「5年償還の記名国債を5年ごとに2回交付」と説明し,今回発行する国債の推計件数を約60万件としている。

令和12年の支給の請求期間等は,確認日現在は公表されていない。

第2 誰が受けられるか
1 公務扶助料や遺族年金を受ける人がいないこと

特別弔慰金は,基準日において,その戦没者等の死亡に関し,恩給法の公務扶助料,戦傷病者戦没者遺族等援護法(以下「援護法」という。)の遺族年金等を受ける権利を有する遺族がいる場合には支給されない(法3条ただし書)。
厚生労働省の案内も,これらを受ける人(戦没者等の妻や父母等)がいない場合に,先順位の遺族1人に支給するとしている。

2 遺族の順位

法2条1項は,「戦没者等の遺族」を,基準日までに援護法による弔慰金を受ける権利を取得した者で,基準日に日本の国籍を有しているものとしている。
厚生労働省の案内は,戦没者等の死亡当時の遺族の順位を次のように整理している。
①令和7年4月1日までに援護法による弔慰金の受給権を取得した者
②戦没者等の子(死亡当時の胎児を含む。)
③戦没者等の父母,孫,祖父母,兄弟姉妹(死亡当時に生計関係を有していたか等の要件により順番が入れ替わる。)
④①から③以外の三親等内の親族(甥,姪等)。ただし,戦没者等の死亡時まで引き続き1年以上の生計関係を有していた者に限る。

条文の上では,弔慰金の受給権者が基準日に死亡している場合等に子を受給権者とみなし(法2条3項),子もいない場合に父母,孫,祖父母,兄弟姉妹の順で(法2条の2第1項・2項),さらにそれもいない場合に三親等内の親族のうち葬祭を行った者等の順で(同条3項),遺族とみなす仕組みになっている。
配偶者については,戦没者等の死亡後に遺族以外の者と婚姻した場合等に除かれる規定がある(法2条1項ただし書)。
先順位者が基準日に生死不明で,その後2年以上生死不明が続く場合には,次順位の者の申請により,その者を遺族とみなすことができる(法2条の3)。

3 同順位の遺族が複数いる場合

(続きを読む...)第十二回特別弔慰金の請求と記名国債―遺族の順位,令和10年3月の請求期限,相続人・成年後見人の手続と差押禁止(AI作成)

令和8年成年後見制度改正と金融機関の権限確認―代理権・同意権・特定補助及び経過措置(AI作成)

目次第1 金融取引では肩書と取引ごとの権限を分けて確認する第2 代理権・同意権・特定補助の違い1 本人を代理して取引をする権限2 本人の取引に同意する権限3 特定補助人の選任だけで包括的な代理権は生じない第3 旧制度の利用者に一律の切替えを求めない1 旧後見・旧保佐と旧補助で経過措置が違う2 証明書の肩書だけで処理しない第4 弁護士と金融機関が準備しておく記録1 任意代理の消滅事由を補助開始と区別する2 変更の記録と連絡を取引ごとに管理する3 通知の受領者と取引の代理人を区別する4 代理権確認と犯罪収益移転防止法上の確認を分ける第5 出典・関連記事と本記事の範囲1 公開された一次資料と関連記事2 本記事で扱わない事項
第1 金融取引では肩書と取引ごとの権限を分けて確認する

令和8年の成年後見制度改正は,後見・保佐・補助の三類型を補助に一元化し,必要な範囲で権限を付与する制度へ改めるものである。
金融機関が改正後の補助人から預金の払戻し等を求められたときは,補助人という肩書だけで代理取引を受け付けることはできない。
本人が取引をするのか,補助人が本人を代理するのかを区別し,対象となる取引が審判による権限の範囲に含まれるかを確認する必要がある。

本記事は,令和8年10月4日に確認した法務省の成立法と概要資料に基づき,改正後の制度と施行準備の確認事項を説明する。
令和8年法律第45号は同年6月24日に公布されたが,成年後見制度の主要な改正規定は,公布の日から起算して2年6月を超えない範囲内で政令で定める日から施行される。
公布日や遺言に関する先行施行日と,成年後見制度の施行日を混同してはならない。
本記事では具体的な政令指定日を確認できていないため,日付を断定しない。

第2 代理権・同意権・特定補助の違い
1 本人を代理して取引をする権限

改正後の民法11条では,家庭裁判所が必要と認めるときに,特定の法律行為について代理権を付与する。
したがって,口座に関する取引をまとめて一つの権限として扱う前に,代理行為目録等で,払戻し,振込み,口座の開設・解約,定期預金の取扱い等のうち何が認められているかを確かめる。
ある取引に代理権があることから,別の取引にも当然に代理権があるとはいえない。

2 本人の取引に同意する権限

改正後の民法9条は,必要がある場合に,同条2項の行為の一部について補助人の同意を要する旨の審判をする仕組みである。
同項には預貯金の預入れ・払戻しや借財・保証などが掲げられているが,補助開始の審判だけで,列挙された行為のすべてに同意が必要になるわけではない。
本人が取引を行い,補助人が必要な同意を与える場面と,補助人が代理人として取引を行う場面は,権限の根拠が異なる。
日用品の購入その他日常生活に関する行為は,同条の同意を要する行為から除外される。

3 特定補助人の選任だけで包括的な代理権は生じない

改正後の民法10条の特定補助は,事理を弁識する能力を欠く常況にあり,必要が認められる場合に付される。
同条5項による特定補助人の権限は,取消権の行使,意思表示の受領及び財産に関する保存行為であり,預金の払戻し等を包括的に代理する権限が当然に与えられる制度ではない。
代理による取引については,民法11条による代理権付与の有無と範囲を別途確認する。
また,特定補助による取消しの対象となる行為からも,日常生活に関する行為は除外される。

第3 旧制度の利用者に一律の切替えを求めない
1 旧後見・旧保佐と旧補助で経過措置が違う

令和8年法律第45号附則2条・3条によれば,施行日前に開始された後見・保佐は,附則の特則を除き,従前の制度が続く。
施行日に全員が自動的に新制度の補助へ移るわけではない。
新制度の補助開始の審判がされる場合には,従前の後見・保佐開始の審判を取り消す仕組みである。

これに対し,附則4条は,旧補助開始の審判と,旧制度による同意権・代理権の審判を,それぞれ改正後の対応する審判とみなす。

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離婚後の共同親権の国際比較-決定権・居住・DV対応の違い(AI作成)

目次

第1 共同親権を比較するための区別1 対象と比較の範囲2 責任・決定権と居住の比較表第2 日本の親権者指定と親権行使1 離婚時に共同・単独のいずれを定めるか2 双方が親権者となった後の行使方法第3 外国の決定権と居住の仕組み1 フランスの共同行使と交互居住2 ドイツの重要事項と日常事項3 イングランド・ウェールズの親の関与4 豪州の2024年改正と共同決定命令5 カリフォルニア州の法的監護と身体的監護第4 DV・虐待への対応の条件と効果1 調停提案の除外と接触の安全判断2 子の福祉への危険と安全の考慮3 カリフォルニア州の過去5年のDV認定第5 子の意向を考慮する仕組み第6 日本の離婚・養育費・取決め文書の関連記事第7 出典・参考資料1 法令2 行政機関の制度解説3 裁判所の制度解説・司法手続の運用資料
第1 共同親権を比較するための区別
1 対象と比較の範囲

離婚後の共同親権を比較するときは,①子について誰が法的な責任・権限を持つか,②どの事項を共同で決めるか,③子がどこで,どのような日程で暮らすかを分けて読む必要がある。
父母双方が権限を持つことから,居住時間を半分ずつにすることや,日常の行為まで常に双方の同意を得ることが当然に導かれるわけではない。

本記事は,令和8年10月3日を基準日として,日本,フランス,ドイツ,イングランド・ウェールズ,オーストラリアの連邦法及び米国カリフォルニア州の条文・公的解説を比較する。
英国全体,米国全州又は西オーストラリア州の別個の法制度へ一般化するものではなく,世界の採用率,制度の実効性及び子への心理的効果は対象としない。
外国法の日本語説明は原文の要約・仮訳であり,公定訳ではない。

2 責任・決定権と居住の比較表

フランスのautorité parentale,ドイツのelterliche Sorge,英国・豪州のparental responsibilityは,各法域の法律上の概念である。
カリフォルニア州ではlegal custodyとphysical custodyを区別するため,同じ「共同親権」という日本語だけで法律効果を揃えることはできない。

法域法的責任・決定権居住・時間との区別日本離婚時に双方又は一方を親権者に指定し,双方なら共同行使が基本で,単独行使の規定もある監護者・監護の分掌,親子交流及び費用分担は別に定めるフランス別離は親権行使の帰属規則を変えないが,子の利益のため単独行使も認められる交互居住又は一方の親の住所での居住を定め得るドイツ共同配慮を持つ別居父母の重要事項は合意を要し,日常事項とは扱いが異なる決定権の分担に関する規定だけでは,居住時間の割合は決まらないイングランド・ウェールズ政府案内は,重要決定への他方の関与と,日常決定の扱いを区別して説明する法律上の父母の関与に関する推定は,特定の時間配分を意味しない豪州連邦法各親の親責任は別離後も存続して裁判所命令に従い,重要事項の共同・単独決定命令が可能共同決定と平等な時間配分は異なり,司法長官省は平等な時間を過ごす法的権利はないと説明するカリフォルニア州裁判所案内は,重要決定に関するlegal custodyに共同・単独の形があると説明する居住に関するphysical custodyとは別の概念であり,生活日程は別に確認する

表は各制度の対応関係を示すものであり,共同の制度の有無だけによる優劣の評価ではない。
日常事項の単独決定,父母が合意できない場合の処理及び安全への対応は,以下の各規定と併せて読む。

第2 日本の親権者指定と親権行使
1 離婚時に共同・単独のいずれを定めるか
(1) 父母双方又は一方の指定

離婚後の親権に関する改正は,令和8年4月1日に施行された。
現行の民法819条1項・2項は,協議離婚又は裁判離婚の際に,父母の双方又は一方を親権者に定めるものとしている。

(2) 裁判所が単独親権にしなければならない場合

民法819条7項は,裁判所が親権者を指定する際,子の利益のため,父母と子の関係,父母相互の関係その他一切の事情を考慮するものとしている。
父又は母が子の心身に害悪を及ぼすおそれがある場合や,一方が他方から暴力等を受けるおそれの有無,協議が調わない理由その他の事情を考慮して親権の共同行使が困難と認める場合等,共同親権により子の利益を害すると認められるときは,父母の一方を親権者に定めなければならない。

したがって,共同行使の規定があることと,裁判所が親権者を指定する際に共同を一律に優先することは別の問題である。
親権者の指定は,日々の行為を誰が決めるかという次の問題とも区別される。

2 双方が親権者となった後の行使方法
(1) 共同行使と単独でできる行為

民法824条の2第1項・第2項では,双方が親権者である場合の共同行使を基本としつつ,監護・教育に関する日常の行為については単独行使を認めている。
子の利益のため急迫の事情がある場合も,一方が親権を行う。

(2) 合意できない特定事項の単独行使

共同で決めるべき特定事項について協議が調わない場合,民法824条の2第3項により,家庭裁判所は,父又は母の請求に基づき,子の利益のため必要と認めるときに一方が単独で親権を行使できる旨を定められる。

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遺言による金銭信託の受益権を放棄した場合―代替取得者・遺産分割協議・課税関係(AI作成)

目次第1 問題の所在と結論第2 銀行の遺言信託と遺言による信託第3 信託が効力を生ずる時期第4 受益権放棄と遺言の代替条項第5 相続人全員の協議で変更する場合第6 相続税・贈与税の検討順序第7 設例による整理第8 実務上の確認資料第9 関連記事と出典
第1 問題の所在と結論

遺言に「一定の金銭を信託し,甲を受益者とする」と書かれているとき,甲が受益権を放棄することと,信託銀行に遺言執行を依頼しないことは別の行為である。遺言が「甲が受益権を放棄した場合は信託を設定せず,その金銭を乙らに分ける」と定めていれば,代替条項の文言,信託の効力が生じた時期,受託者への通知と引受け,乙らの取得原因を順に確認する必要がある。受益権の放棄だけで,常に遺産全体が未分割に戻るとはいえない。

税務上も「遺言を執行しなかったから贈与税はない」「全員で協議したから常に相続税だけである」とは決められない。遺言の代替条項による被相続人からの取得なのか,成立後の信託に関する権利の無償移転なのか,信託終了による残余財産取得なのか,別の取得原因なのかを,民事上の経過とともに検討する。本記事は一般的な整理であり,代替条項を伴う遺言による信託の受益権全部放棄について,同一事実関係の税務判断を示した裁決・判決を確認したものではない。

第2 銀行の遺言信託と遺言による信託

銀行の商品名である「遺言信託」は,遺言書の保管・遺言執行等のサービスをいうことがある。他方,信託法3条2号の遺言による信託は,遺言により受託者に財産を管理・処分させ,受益者に受益権を与える制度である。一つの遺言に両方が登場することもあるため,銀行が「遺言執行者」なのか「受託者」なのかを条項ごとに特定する。遺言執行契約を解約しても,それだけで信託の設定条項や代替取得者の指定が消えるわけではない。

第3 信託が効力を生ずる時期

信託法4条2項は,遺言による信託は遺言の効力の発生によって効力を生ずると定める。受託者への送金を信託の成立時点と当然に捉えてはならない。受託者となるべき者が引き受けない場合は信託法5条の手続と遺言の代替条項を確認する。受託者の不引受けと受益者の放棄は当事者も法的効果も異なる。

信託法4条4項は,信託行為に停止条件又は始期が付されている場合,その成就又は到来によって信託が効力を生ずると定める。したがって,遺言の効力発生時に当然に信託が効力を生ずるという原則と,条項に基づく例外を区別する。受託者への送金前であるという事実だけでは,信託が未発効であることの根拠にならない。

第4 受益権放棄と遺言の代替条項

信託法99条1項は,受益者が信託行為の当事者である場合を除き,受託者に対する意思表示によって受益権を放棄できるとし,同条2項は放棄した者が初めから受益権を有しなかったものとみなす。したがって,放棄の相手方,時期,書面の到達を記録する必要がある。もっとも,この民事上の遡及効から,あらゆる税務関係が自動的に相続開始時に遡って決まると即断できない。

遺言に「受益者が放棄した場合は信託を設定しない」とあるときは,その文言が信託設定の条件・失効事由をどう定めるか,既に効力を生じた信託の扱いをどう整理するかが問題となる。さらに,代替条項が指定する取得者と割合を確認する。代替条項により他の相続人が金銭を取得するなら,単に「信託をやめる」案でも,遺産全体の取得割合が変わり得る。

遺言本文に「受益権を放棄した場合は信託を設定せず,金銭を指定した者に取得させる」とある一方,遺言に組み込まれた別紙信託条項に「受益権放棄により信託が終了し,残余財産を指定した者に分配する」とある場合,両条項の整合性を検討しなければならない。前者は遺言者からの直接の代替取得を,後者は効力を生じた信託の終了と残余財産の取得を示す読み方があり,同じ取得者・割合であっても取得原因は同じとは限らない。本文と別紙の一体性,適用順序,信託の効力発生条件,放棄の意思表示の到達及び執行状況を確認する。このような併存条項に対する判断を,文言の一部又は送金の有無だけで確定しない。

第5 相続人全員の協議で変更する場合

遺言と異なる最初の相続人全員の協議を行う場合,預貯金,証券,不動産を財産別に特定し,信託に充てる予定の金銭と受益権の扱いも明記する。遺言執行者への指図だけで,既に生じた受益権や受託者との法律関係を変更したことにはならない。必要な受益者・受託者の意思表示や信託行為の変更・終了の可否を別途検討する。

国税庁No.4176は「特定の相続人に全部の遺産を与える」遺言と異なる全員協議の例であり,金銭信託の代替条項と受益権放棄が組み合わさる事例を直接判断していない。金融資産だけ遺言どおり執行して残りを協議する場合には,財産ごとの取得時点・取得原因・金銭の移動を追える資料を残す。

第6 相続税・贈与税の検討順序

相続税法9条の2第1項は,受益者等が適正な対価を負担せずに信託に関する権利を取得した場合,信託の効力が生じた時に,委託者から贈与又は遺贈により取得したものとみなす。受益者が後に放棄し,別の人が対価なしで利益を受けるなら,同条2項・3項・4項のどの場面に当たるかを調べる。国税庁の相続税法基本通達9の2-4は,一部の権利の放棄・消滅後に他の受益者等が取得したものとみなされる場合を説明する。国税庁の解説は全部放棄にも同様の課税関係が生じ得ると述べる一方,信託の終了事由にもなり得るとする。

遺言の代替条項によって遺言者から直接金銭を取得する場合は,その相続又は遺贈について相続税を検討する。一方,受益者等の存する信託が終了し,他の者が適正な対価を負担せずに残余財産を受けるべき又は帰属すべき者となる場合には,相続税法9条の2第4項により,終了直前の受益者等からの贈与とみなされることが問題となる。終了直前の受益者等であった取得者が,従前の信託に関する権利に相当する残余財産を取得する部分は除かれる。従前の受益者等の死亡に基因する終了の場合は,みなし遺贈となる。遺言者の死亡後に受益者が放棄したというだけで,その終了が受益者等の死亡に基因するものになるわけではない。

相続税法基本通達9の2-5は,同項の対象を,信託行為で指定された残余財産受益者等に限定していない。受益権を他の相続人へ譲渡する契約がなくても,信託終了と残余財産取得によるみなし贈与の問題は残る。信託法99条2項の民事上の遡及効と,税法上の取得時点・移転元の判定を同一視しない。ただし,遺言本文の不設定条項と別紙の終了条項が併存する場合に,どちらの取得原因として取り扱うべきかを直接判断した同一事実関係の裁決・判決は,本記事で確認できていない。上記の一般規定だけから個別事案の贈与税を確定しない。

第7 設例による整理

遺言者が金銭の一部を信託してAを受益者とし,「Aが受益権を放棄するときは信託を設定せず,その金銭をA・B・Cに所定割合で取得させる」と定めたとする。まずAが放棄しなければ,原則としてAの受益権と受託者の地位を確認する。Aが放棄する場合は,放棄の意思表示と到達,代替条項の発動,金銭の帰属を確認する。B・Cが金銭を取得するなら,Aが放棄したこととB・Cが無償で利益を得たことの税法上の関係も検討する。A・B・Cがその後に遺産全体の別の配分を協議する場合は,先の取得と後の協議を時系列で記録する。

例えば,本文が放棄時の金銭の直接取得を定め,別紙が放棄による信託終了と同じ割合の残余財産分配を定める設例では,まず双方の条項を対照して取得原因を確定する。直接の相続・遺贈と整理できる場合は相続税の検討となり,既に効力を生じた信託の終了と整理される場合は相続税法9条の2第4項を検討する。金銭額に分配割合を掛けただけで,各取得者の贈与税の課税価格が直ちに確定するわけではない。信託終了直前の受益者等,従前の権利に相当する部分の除外,財産評価及び取得時点を確認する。

第8 実務上の確認資料

確認する資料は,①遺言全文と変更遺言,②信託設定条項・放棄時の代替条項,遺言本文と別紙信託条項の対応表,停止条件・始期及び終了条項,③遺言執行者と受託者の就職・引受け・辞退資料,④受益権放棄書と受託者への到達記録,⑤信託口座と一般の遺産口座の移動記録,⑥全員協議書案,⑦相続税評価資料と申告書の取得者別内訳である。協議前の段階では,放棄や送金を先行させることで選択肢が変わらないかを確かめる。

第9 関連記事と出典

関連記事:清算型遺言の清算金から信託を設定する場合,遺言を一部執行し残りを遺産分割協議で変更する場合,遺言と異なる遺産分割協議はできるか。

法令:信託法3条,4条,5条,99条,163条,164条,182条。相続税法9条の2。
国税庁:相続税法基本通達9の2関係,同通達9の2関係の解説,信託終了時の課税に関する通達解説,タックスアンサーNo.4176。

再婚禁止期間を理由とする国家賠償請求の後続裁判例―平成30年東京地裁・高裁判決、消滅時効と損害の立証(AI作成)

目次第1 平成27年大法廷判決の射程第2 平成30年東京地裁・高裁判決1 届出、請求と結論2 判決が判断していないこと第3 消滅時効を調べる順序1 適用法と起算点2 実務で集める資料第4 損害額と因果関係の立証第5 時期による戸籍実務と調査の限界

最高裁大法廷は平成27年12月16日、旧民法733条1項の再婚禁止期間のうち100日を超える部分が平成20年当時には違憲であったと判断した。しかし、国会がその時点まで改廃しなかったことについては国家賠償法上の違法性を否定し、賠償請求を棄却した。違憲判断と個別の賠償請求の成否は別の問題である。本稿は、判例秘書収録の判決本文で確認できた一つの後続訴訟の第一審・控訴審を紹介し、時効と損害立証の検討方法を示す。

第1 平成27年大法廷判決の射程

大法廷は、平成20年に前婚を解消した女性の事件で、100日超過部分の違憲性を認めた。他方、国会議員による立法不作為が国家賠償法1条1項上違法となるには、違憲性が明白であるのに正当な理由なく長期にわたって改廃を怠ったといえる場合などであるとし、平成20年当時についてその要件を満たさないと判断した。判決が慰謝料を算定したわけではなく、請求は棄却された。平成27年大法廷判決全文を参照されたい。

平成7年判決との違いは、再婚禁止期間の平成7年・平成27年最高裁判決と国家賠償で検討した。本稿で扱う平成30年の二判決は、これら最高裁判決とは別の事件であり、同じ訴訟の第一審と控訴審である。

第2 平成30年東京地裁・高裁判決
1 届出、請求と結論

東京地裁平成30年3月13日判決(平成27年(ワ)第28945号、判例秘書文献番号L07331663)によれば、女性は平成27年5月15日に離婚し、同年7月10日に新たな相手との婚姻届を提出したが受理されず、同年11月22日に婚姻した。7月10日の届出は離婚から約56日後であり、100日を経過する前である。この時点の不受理を、最高裁が違憲とした「100日超過部分」による不受理と表現してはならない。

女性、新たな配偶者及び子がそれぞれ100万円の慰謝料を請求したが、東京地裁は請求を棄却した。請求額の合計300万円は認容額ではない。判決は、100日経過後も再婚できなかったという主張も検討した上で、当該時期の立法不作為について国賠法上の違法性を認めなかった。

東京高裁平成30年9月27日判決(平成30年(ネ)第1602号、判例秘書文献番号L07320602)も控訴を棄却した。高裁判決の事件番号と年月日は東京高裁の特別保存事件一覧でも確認できる。ただし、同一覧は判決理由を掲載する資料ではない。本稿の地裁・高裁の認定及び判断は判例秘書収録の各判決本文による。

2 判決が判断していないこと

両判決は立法不作為の国賠法上の違法性を否定して請求を退けた。消滅時効の起算点や完成の有無を確定した事例でも、慰謝料の相当額を算定した事例でもない。したがって、「平成30年判決が時効は3年と判断した」「慰謝料を1人100万円と認定した」という紹介は誤りである。

平成27年(ワ)の事件番号から、訴えの提起年は平成27年と分かるが、提訴の具体的な月日をこの番号だけで確定できない。「平成27年大法廷判決後に提起された訴訟」とも断定しない。

第3 消滅時効を調べる順序
1 適用法と起算点

国家賠償法4条により、同法に特別の規定がない事項には民法を適用する。令和2年4月1日の改正民法施行前の不法行為に係る旧民法724条は、損害及び加害者を知った時から3年、行為時から20年という期間を定めていた。改正後の民法724条も一般の不法行為について主観的起算点から3年、行為時から20年を定め、724条の2は生命・身体侵害による損害賠償請求の主観的期間を5年とする。改正法附則の経過措置も確認する必要がある。

精神的苦痛を請求するというだけで724条の2の5年になるわけではない。また、最高裁の平成27年判決が出た日を一律に時効の起算日とする根拠もない。届出の不受理、100日経過後の取扱い、婚姻が成立した日、損害を認識した経緯、請求権者ごとの認識及び訴訟上の手続を時系列に置き、適用法・経過措置・時効の完成猶予や更新の有無を個別に調べる。

2 実務で集める資料

戸籍謄本、離婚届と婚姻届の写し、不受理証明又は窓口の記録、届出時の説明、再提出の記録、当事者間の連絡、婚姻が遅れたことによる具体的な不利益の資料を確保する。損害の発生・認識時期が争われるときは、単なる後日の陳述だけに依存しない。各請求権者について何をいつ知ったかを分けて記録する。

第4 損害額と因果関係の立証

違憲とされた規定が適用された事実だけで慰謝料額は決まらない。受理されなかった届出が100日以内か以後か、100日経過後に再届出したか、他の婚姻障害がなかったか、いつ婚姻できたか、どの不利益が行政の取扱い又は立法不作為と結び付くかを確認する。婚姻できなかった期間、生活上・身分上の影響、支出の領収書、精神的苦痛を裏付ける資料を整理し、請求権者ごとの損害と因果関係を主張立証する。

平成27年大法廷事件の請求額や平成30年東京訴訟の「各100万円」は当事者の請求であり、裁判所の賠償額の相場ではない。ここで確認した判決に認容例はなく、違法性が否定されたため、損害額についての裁判所の積極的な算定判断も得られない。

第5 時期による戸籍実務と調査の限界

平成27年大法廷判決後、法務省は改正までの間、離婚から100日経過後の婚姻届を受理する取扱いを市区町村に通知した。法務省の判決説明資料にその旨が記されている。平成28年6月7日に禁止期間は法定の100日に短縮され、令和6年4月1日に廃止された。過去の不受理を評価するときは、各届出日の法令と通知、実際の窓口対応を分ける。平成28年改正の法務省説明及び令和6年施行の法務省説明を参照されたい。

本稿の後続裁判例の確認範囲は、判例秘書で確認した前記一訴訟の二判決と、裁判所ウェブサイト等で確認できた資料である。未掲載判決や和解、訴訟外の解決を含め、全国の請求例がこれだけであるとは断定できない。両判決の本文は判例秘書で照合したが、裁判所ウェブサイトの判決全文は確認できていない。個別事件を扱う際は判決原本・訴訟記録と、適用時点の法令・通知を追加で確認する。

再婚禁止期間の平成7年・平成27年最高裁判決と国家賠償―違憲と立法不作為の違法性(AI作成)

目次第1 二つの判決の結論1 平成7年12月5日第三小法廷判決2 平成27年12月16日大法廷判決第2 平成7年判決の射程第3 平成27年判決の二段階の判断1 規定の違憲性2 国会議員の職務上の義務違反第4 多数意見と反対意見の分岐第5 国家賠償を検討する実務上の手順第6 法改正との関係と資料

再婚禁止期間をめぐる最高裁判決は、平成7年も平成27年も国への損害賠償請求を認めなかった。しかし、両判決の憲法判断は同じではない。平成7年判決は旧民法733条の合憲性を確定せず、平成27年判決は100日を超える部分を違憲とした上で国家賠償法上の違法性を否定した。この区別が、過去の立法不作為を論じる出発点となる。

第1 二つの判決の結論
1 平成7年12月5日第三小法廷判決

女性のみに6か月の再婚禁止期間を設けた当時の民法733条について、再婚届の不受理による精神的損害等を主張する当事者が、国会による改廃をしないことなどを理由に国家賠償を請求した。最高裁は請求を退けた。この判決で問題となった立法不作為の判断時点は平成元年である。請求棄却を「6か月の禁止は合憲」と言い換えてはならない。

2 平成27年12月16日大法廷判決

平成20年に前婚を解消した女性の請求について、最高裁は当時の6か月の禁止のうち100日を超える部分が、遅くとも同年当時には憲法14条1項・24条2項に違反していたとした。他方、当時の100日以内の部分は違憲としなかった。それでも国会による改廃の遅れは国家賠償法1条1項上違法と評価できないとして、賠償請求を棄却した。

第2 平成7年判決の射程

平成7年判決は、国会議員の立法行為について、憲法の一義的な文言に反する立法をあえて行うような例外的な場合でなければ国家賠償法上違法と評価されない、という先例の枠組みを引用した。そして、旧733条の元来の目的を、父性の推定の重複を避け、父子関係の紛争を予防する点に求めた上、改廃しないことが直ちにその例外に当たるとはいえないと判断した。判決文は6か月の期間のすべてについて憲法適合性を審査し、合憲と結論したものではない。

平成27年判決も、この先例を「立法不作為について国賠法上の違法性を否定した判断」として扱う。千葉勝美裁判官の補足意見は、平成7年判決が引用した「憲法の一義的な文言に反する」という例は、国賠法上の違法となる全ての場合を尽くしたものではないと説明している。両判決を、単純な合憲判決から違憲判決への変更と整理するのは不正確である。

第3 平成27年判決の二段階の判断
1 規定の違憲性

当時の民法772条では、前婚解消後300日以内と後婚成立後200日経過後に出生した子について父性の推定が重なり得た。この重複を避けるには計算上100日の禁止で足りる。大法廷は、旧法制定時に6か月という幅を設けたことまで不合理とはしなかったが、医療・科学技術や婚姻・家族の社会状況の変化を踏まえると、平成20年には100日を超える制約を正当化できなくなっていたと判断した。

2 国会議員の職務上の義務違反

規定が違憲でも、国会議員の立法行為・立法不作為が直ちに国家賠償法上違法になるわけではない。大法廷は、違憲であることが明白なのに国会が正当な理由なく長期にわたり改廃を怠った場合などに、個々の国民に対する職務上の法的義務違反として例外的に違法となり得るとした。

本件では、平成7年判決が違憲との判断を示さず立法不作為の国賠責任を否定していた。平成6年の改正要綱試案と平成8年の法律案要綱は100日への短縮を提案したが、100日超過部分が違憲であるとの前提で作成されたとはうかがわれない。その後も同部分を違憲とする司法判断はなかった。多数意見は、平成20年時点で違憲性が国会にとって明白だったとはいえず、国賠法上の違法性を否定した。

第4 多数意見と反対意見の分岐

山浦善樹裁判官は反対意見で、再婚禁止期間の全部が違憲であり、遅くとも平成13年には違憲となっていたと考えた。平成7年判決の判断時点は平成元年であり、平成20年を問う本件の妨げにならないという。科学技術の進歩、社会状況、諸外国の法改正、国際機関の勧告等から、平成20年より相当前に国会に違憲性が明白となり、改廃に技術的困難もなかったとして、立法不作為の違法性と過失を認め、賠償請求を認容すべきだと述べた。これは多数意見の結論ではない。

対立点は、婚姻の自由をどこまで制約できるかに加え、いつ、何を根拠に、違憲性が国会にとって明白になったと評価できるかにある。平成8年の100日短縮案を、政策提案とみるか、違憲状態の認識を裏付ける事情とみるかでも評価が分かれた。

第5 国家賠償を検討する実務上の手順

① まず、婚姻届の不受理等がいつ起き、どの時点の旧法が適用されたかを戸籍・届書等で確定する。平成7年事件の平成元年と平成27年事件の平成20年を混同しない。

② 次に、憲法上の制約の内容・違憲となった時期と、国会議員の職務上の義務違反を別々に検討する。先例、法制審議会資料、国会審議、司法判断、当時の科学的・社会的知見を時系列で整理し、違憲性の明白性と正当な理由のない不作為の期間を立証する。改正提案が存在した事実だけで、国賠責任が成立するわけではない。

③ 最後に、個別の届出経過、再婚できなかった期間、損害と因果関係、請求権の期間制限を検討する。平成27年判決は平成20年時点の立法不作為の違法性を否定したのであり、全ての時期・全ての事案について国賠責任の有無を一括して決めたものではない。一方、同判決の違憲判断だけを根拠に賠償が自動的に認められるわけでもない。

後続裁判例として、東京地裁平成30年3月13日判決(平成27年(ワ)第28945号、判例秘書文献番号L07331663)とその控訴審である東京高裁同年9月27日判決(平成30年(ネ)第1602号、同L07320602)がある。女性、新たな配偶者及び子は各100万円を請求したが、いずれも棄却された。これは一訴訟の二判決であり、請求額を認容額と取り違えてはならない。両判決は消滅時効の成否や慰謝料の相当額を判断していない。事実経過と判断の限界は再婚禁止期間を理由とする国家賠償請求の後続裁判例で詳述した。

時効を検討するときは、国家賠償法4条と適用時点の民法724条、改正法の経過措置を確認し、損害及び加害者を知った時期を請求権者ごとに検討する。平成27年大法廷判決の言渡日が一律に時効の起算日となるわけではない。精神的苦痛の請求というだけで民法724条の2の5年の期間が適用されるわけでもない。

第6 法改正との関係と資料

平成27年大法廷判決後は、改正前でも離婚から100日を経過した婚姻届を受理する取扱いが市区町村に通知された(法務省の判決説明資料)。平成28年改正で法定の期間は100日に短縮され、令和6年4月1日からは再婚禁止期間自体が廃止された。後の法改正と、過去の特定時点における国家賠償責任の成否は分けて論じる。現行の戸籍・父の推定については再婚禁止期間の廃止と父の推定、違憲判決の一覧は最高裁判所における違憲判決の一覧を参照されたい。

関連する平成15年度旧司法試験の問題文・出題趣旨・模範答案は、平成15年度旧司法試験論文式試験の模範答案―憲法・民法・刑法・商法・民事訴訟法・刑事訴訟法の全12問と出題趣旨を踏まえた解説に掲載している。

一次資料:最高裁平成7年12月5日第三小法廷判決(平成4年(オ)第255号、裁判集民事177号243頁。判例秘書収録本文・文献番号L05010101を令和8年10月1日に照合)。最高裁平成27年12月16日大法廷判決(平成25年(オ)第1079号、民集69巻8号2427頁)の判決全文。平成7年判決の公開掲載本文も参照できるが、本稿の本文確認は判例秘書収録本文に基づく。

特定財産承継遺言と異なる最初の相続人全員の協議――登記原因と課税関係(AI作成)

目次第1 検討の対象と結論1 「最初の協議」であることの意味2 本記事の資料上の限界第2 まず確認すべき判決・裁決1 最高裁平成3年4月19日判決――遺言による取得の時点2 さいたま地裁平成14年2月7日判決――最初の全員協議の民事上の効力3 最高裁平成22年12月16日判決――中間の権利移転を省略する登記の限界4 国税不服審判所の裁決――後のやり直しを「最初の協議」と混同しない第3 事例別にみた協議の位置付け1 特定財産承継遺言があり、執行・登記前に最初の全員協議をする場合2 全遺産を一人に取得させる遺言を、最初の分割で変更する場合3 一部の財産について遺言を執行し、残部だけを協議する場合4 遺言どおりの取得後、又は最初の分割後に変更する場合5 金銭信託の代替条項がある場合第4 登記原因の検討1 民事上の有効性と登記原因は別の確認事項である2 登記前に確認する資料第5 課税関係の検討1 真正な代償分割である場合2 別個の低額譲渡・贈与と評価される場合3 後の再分割・申告訂正の場合第6 実務上の確認順序1 合意前に作る資料第7 出典
第1 検討の対象と結論
1 「最初の協議」であることの意味

特定の財産を特定の相続人に「相続させる」と定めた遺言がある場合でも、相続開始後、相続人全員がその財産を別の相続人に取得させることについて最初に合意することがある。この合意を、有効な遺産分割として扱えるか、遺言によりいったん取得した相続人からの贈与・交換・譲渡として扱うべきかは、登記と税務の双方に影響する。
結論を先に述べると、「全員による最初の協議」という形式だけで登記原因や課税関係が一律に確定するわけではない。遺言の文言、対象財産の範囲、遺言執行の状況、全員の合意内容、対価の性質及び従前の申告・登記を分けて確認する必要がある。

2 本記事の資料上の限界

本記事で確認した裁判例・裁決には、特定財産承継遺言がある不動産について、最初の全員協議により別の相続人が代償金を支払って取得した事案の登記原因と相続税・贈与税・所得税のすべてを一体として確定したものはない。民事上の協議の効力を認めた判決を、直ちに税務又は登記の先例として扱うことはできない。
以下では、資料が直接判断した事項と、実務上検討すべき事項を区別する。

第2 まず確認すべき判決・裁決
1 最高裁平成3年4月19日判決――遺言による取得の時点

最高裁平成3年4月19日判決は、特定の遺産を特定の相続人に相続させる趣旨の遺言について、特段の事情がない限り、その遺産は被相続人の死亡時に直ちに当該相続人に承継されると判断した。後の協議を検討する出発点は、遺言によるこの権利移転である。
もっとも、この判決自体は、その後の相続人全員による最初の合意の効力、登記原因又は課税関係を判断したものではない。

2 さいたま地裁平成14年2月7日判決――最初の全員協議の民事上の効力

同判決の事案では、土地全部を一人の相続人に相続させる遺言があったが、相続人全員は、別の相続人に土地の74%、残る二人に各13%を帰属させる内容の協議をした。裁判所は、遺言が協議を禁じておらず、第三者の権利も害しないなどの事実関係の下で、協議の効力を認めた。判決は、その合意に贈与や交換を含む混合契約の性質があり得ることにも触れた上で、通常の遺産分割と同様に取り扱うことが適切と述べている。
これは当該協議の民事上の効力に関する判断である。登記申請の原因を一律に「遺産分割」とできることや、贈与税・譲渡所得税が生じないことまで判示したものではない。また、代償金を伴う事案の税務を判断したものでもない。

3 最高裁平成22年12月16日判決――中間の権利移転を省略する登記の限界

同判決は、贈与を受けた者が死亡して相続が生じた事案について、贈与と相続という中間の権利移転を飛ばし、最終取得者に「真正な登記名義の回復」を原因として直接移転登記をすることは認められないとした。
これは特定財産承継遺言と全員協議の事案ではない。したがって、同判決をそのまま当てはめることはできないが、実際に生じた権利移転と異なる登記原因を便宜的に選べないことを検討する資料となる。

4 国税不服審判所の裁決――後のやり直しを「最初の協議」と混同しない

平成17年12月15日裁決では、有効に成立した最初の遺産分割の後で、錯誤を理由に再分割したと主張された事案につき、贈与税の課税が維持された。平成23年12月6日裁決は、全財産を各2分の1とする遺言、相続税申告後の紛争及び遺留分をめぐる和解に関するもので、相続税法55条等の適用が争われた。
両裁決は「遺言と異なる最初の全員協議」そのものを判断したものではない。協議がいつ成立したのか、従前の申告・分割が何を前提にしていたかによって論点が変わることを示す資料である。

第3 事例別にみた協議の位置付け
1 特定財産承継遺言があり、執行・登記前に最初の全員協議をする場合

相続人全員の合意により遺言と異なる帰属を定める協議は、さいたま地裁判決のように民事上有効と評価され得る。ただし、遺言による死亡時の権利承継を踏まえると、合意の法的構成にはなお検討を要する。対象財産の取得者を変更した理由、他の遺産との調整、支払金の位置付け、第三者の権利及び遺言執行者の権限を確認すべきである。
協議書の表題を「遺産分割協議書」としたことだけで、登記及び税務の取扱いは決まらない。

2 全遺産を一人に取得させる遺言を、最初の分割で変更する場合

国税庁タックスアンサーNo.4176は、遺言で財産全部を一人の相続人に取得させることとされていたが、相続人全員の協議で遺言と異なる分割をした場合、取得財産について相続税の課税対象として扱い、相続人間の贈与税の問題は生じないと説明する。関連する質疑応答は、全財産の包括遺贈を題材にしている。
この説明を、特定の土地だけを取得させる遺言と、別途執行される預貯金等がある事案へ無条件に拡張することはできない。個別の遺言と協議の構造を示して税務上の確認を要する。

3 一部の財産について遺言を執行し、残部だけを協議する場合

預貯金等は遺言どおりに払い戻し、土地だけを別の相続人が金銭を支払って取得する場合、土地の移転を遺産全体の分割調整として説明できるかが問題となる。協議書に「代償金」と記載しただけでは、遺言に基づいて土地を承継した者からの別個の移転という評価を排除できない。

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被相続人の未納の国税は相続人がどう引き継ぐか―国税通則法5条の相続分による承継,遺産分割との関係,納付責任額,限定承認・相続放棄及び大阪国税局の承継マニュアル(AI作成)

目次第1 この記事の対象1 対象と基準日2 大阪国税局の「相続による納税義務の承継マニュアル」3 関連記事第2 相続人が引き継ぐ国税1 引き継ぐのは三種類の国税と滞納処分費2 誰が引き継ぐか第3 相続人が2人以上いるときの承継税額1 法定相続分・代襲相続分・指定相続分だけで按分する2 遺産分割は承継税額を変えない3 遺言による相続分の指定と遺留分第4 納付責任額1 相続で得た財産が承継税額より多い相続人の責任2 マニュアルの計算例3 他の相続人が納めた場合の納付責任4 相続税の連帯納付義務とは別の制度第5 限定承認・相続放棄・相続人不存在1 限定承認2 相続放棄3 相続人不存在・全員の相続放棄第6 相続財産に対する滞納処分1 単純承認をした相続人の固有財産2 遺産分割前の相続財産3 差押えの後の遺産分割第7 相続人の調査と通知1 国税側の相続人調査2 相続人への通知第8 マニュアルを読むときに注意する点1 令和3年7月以後の改正等2 表記の誤り等第9 相続人の側の実務の手順第10 出典1 法令2 通達3 裁判例4 公的資料第11 本記事で扱わない事項
第1 この記事の対象
1 対象と基準日

本記事は,被相続人が納めていなかった国税(所得税,消費税等)を相続人がどのように引き継ぐかについて,国税通則法5条の仕組み,相続人が2人以上いる場合の承継税額と納付責任額の計算,遺産分割・遺言との関係,限定承認・相続放棄・相続人不存在の場合の扱い及び相続財産への滞納処分を整理するものである。
令和8年10月1日時点で,国税通則法,国税徴収法,民法等の条文,国税庁の法令解釈通達,税務大学校の公表資料及び裁判例を確認して作成した。

2 大阪国税局の「相続による納税義務の承継マニュアル」

本記事の出発点は,大阪国税局徴収部徴収課が令和3年7月に作成した「相続による納税義務の承継マニュアル」である。
本ブログに掲載しているPDFは,表紙・凡例・目次を含めて46枚,本文の印字頁は1頁~42頁である。
第1章(相続の意義と効果),第2章(相続による納税義務の承継),第3章(具体的な相続人調査方法)及び第4章(納税義務の承継手続)から成り,徴収職員が滞納者の死亡を把握した後に相続人を調べ,承継税額と納付責任額を計算し,相続人に通知するまでの手順を説明している。

(1) 開示されていない部分

第3章の相続開始の事実の把握と相続人等の把握の手順(20頁~21頁),相続人等の調査の具体的な流れの一部(27頁~28頁),外国籍の被相続人の相続人調査フロー(18頁),被相続人について納税の猶予等を行っている場合等の取扱い(39頁)及び承継手続の具体的な流れ(42頁)等は黒塗りである。
本記事では,黒塗りの部分の内容を推測しない。

(2) 資料の性質

このマニュアルは国税局内部の事務の手引であり,法令解釈通達そのものではない。
本記事では,マニュアルの記載を国税通則法基本通達(徴収部関係)及び国税徴収法基本通達の現在の本文と照合し,食い違う点や令和3年7月以後の改正で読み替えが要る点を第8で挙げた。

3 関連記事

相続人のあることが明らかでない場合の税金は「相続財産清算人と税金―滞納国税の承継と差押え,清算人の報酬との優劣,準確定申告,固定資産税及び特別縁故者の相続税」で,限定承認をした場合のみなし譲渡所得等は「限定承認と税金――みなし譲渡,準確定申告,相続税及び住民税」で整理している。
被相続人の死亡年分の所得税の申告は「準確定申告-4か月の期限・必要書類・書き方・e-Taxと相続税」で,生前贈与と国税徴収法39条の第二次納税義務は「相続放棄と生前贈与スキームの限界」で扱っている。

第2 相続人が引き継ぐ国税
1 引き継ぐのは三種類の国税と滞納処分費

相続(包括遺贈を含む。)があった場合には,相続人(包括受遺者を含む。)又は民法951条の相続財産法人は,被相続人に課されるべき,又は被相続人が納付し,若しくは徴収されるべき国税(滞納処分費を含む。)を納める義務を承継する(国税通則法5条1項前段)。
相続税と違って財産を取得したことに課される税ではなく,被相続人が負っていた租税債務そのものを引き継ぐ制度である。
国税通則法基本通達(徴収部関係)は,三つの国税を次のように説明している(第5条関係4~6)。
①「課されるべき国税」は,相続開始の時において,被相続人について納付義務は成立しているが,納付すべき税額が確定していない国税である(例えば,死亡した年の所得税で申告がされていないもの)。
②「納付すべき国税」は,相続開始の時において,納付すべき税額が確定している国税である(例えば,申告済みで未納の所得税や,決定・更正を受けた税額)。
③「徴収されるべき国税」は,被相続人が源泉徴収義務者として徴収すべきであった源泉所得税等で,相続開始時までに徴収がされていないものである。

(1) 税務上の地位も引き継ぐ

承継によって,相続人は,被相続人の国税について申告,申請又は不服申立て等をする主体となり,税務署長がする更正・決定,納税の告知,督促,滞納処分及び還付の相手方となる(マニュアル14頁)。
被相続人に対して既にされていた納期限の延長,延納,納税の猶予,換価の猶予,滞納処分の停止,物納の許可,これらの申請及び担保の提供も,相続人はその状態のまま国税を承継する(国税通則法基本通達(徴収部関係)第5条関係7)。

(2) 被相続人が連帯納付義務者・第二次納税義務者であった場合

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相続人がいない遺産を国に引き継ぐ手続―最高裁家庭局長通知「国庫に帰属した相続財産の引継ぎについて」(昭和41年),引継ぎの時期と財務局への引継ぎ(AI作成)

目次第1 この記事の対象と資料1 この記事の対象2 資料の名称と入手の経緯第2 通知の内容1 家庭局長通知の本文2 別紙:大蔵省国有財産局長の要望3 要望の契機となった事案4 資料から分かることと分からないこと第3 当時の条文と現在の条文1 相続財産管理人から相続財産清算人へ2 公告の手続の変化第4 国庫に帰属する時期―最高裁昭和50年10月24日判決1 判決の内容2 事案3 実務上の意味第5 現在の引継ぎの手続1 不動産2 金銭3 共有持分4 引き継げない財産が残る場合第6 清算人と申立人が確認すべき事項1 清算人が引継ぎの前に確認すること2 申立人と関係者が知っておくこと第7 出典1 提供資料2 法令3 裁判例4 公的資料
第1 この記事の対象と資料
1 この記事の対象

本記事は,相続人のあることが明らかでない相続財産のうち,清算と特別縁故者への分与を経てなお残った財産を国に引き継ぐ手続について,昭和41年3月24日付けの最高裁判所家庭局長通知「国庫に帰属した相続財産の引継ぎについて」(家二第48号)を手掛かりに整理するものである。
通知の内容を紹介した上で,当時の条文と現在の条文の違い,国庫に帰属する時期についての最高裁判例,及び現在の引継ぎの手続を説明する。
令和8年10月6日時点のe-Gov法令検索,裁判所ウェブサイトの判例情報,法務省の不動産登記記録例,財務省の通達及び家庭裁判所の公開資料等を確認して作成した。

相続財産清算人の選任から国庫への引継ぎまでの手続の全体は「相続財産清算人とは」で,不動産が国庫に帰属した後の管理と処分は「国庫帰属した不動産のその後」で,それぞれ整理している。

2 資料の名称と入手の経緯

本記事で扱う資料は,最高裁判所家庭局長が家庭裁判所長に宛てた昭和41年3月24日家二第48号の通知「国庫に帰属した相続財産の引継ぎについて」であり,大蔵省国有財産局長の昭和41年3月8日付け要望書(蔵国有第565号)が別紙として付いている。
この文書は,平成31年1月10日付けの司法行政文書の開示の申出に対し,最高裁判所が平成31年2月8日付けの司法行政文書開示通知書(最高裁秘書第532号)で開示したものである(開示文書のPDF)。

開示通知書によれば,開示された文書は片面で1枚であり,相続人が存在しない物件の所在,権利関係等の個人識別情報が記載された部分は,行政機関情報公開法5条1号に定める不開示情報に相当するとして開示されていない。
そのため,別紙の「物件の所在、区分、数量」と「経緯」の欄は全部が黒塗りであり,個別の事案の内容は分からない。
「系図」の項目も見出しだけで,内容は付いていない。

第2 通知の内容
1 家庭局長通知の本文

家庭局長通知の本文は,大蔵省国有財産局長から別紙のとおり要望があったとした上で,次のことを家庭裁判所長に求めている。
① 家庭裁判所が民法952条の相続財産管理人を選任したときは,管理人に対し,その職務内容をはじめ,清算手続,家庭裁判所の監督権限,特別縁故者への相続財産処分制度及び国庫帰属財産の引継手続などを説明すること
② 国庫に帰属した財産を速やかに所轄財務局長等に引き継がせるよう,周知徹底を図ること

通知は,選任の際に管理人へ説明する事項として,清算の手続だけでなく,特別縁故者への分与の制度と,国庫に帰属する財産の引継ぎの手続までを挙げている。
特別縁故者への分与の制度は,昭和37年法律第40号による民法の改正で設けられたものであり(最高裁平成元年11月24日第二小法廷判決の判決理由),この通知は,その改正から約4年後に出されたものである。
本記事では,新しい制度の運用が始まって間もない時期に,選任の段階で手続の終わりまでを管理人に説明させることで,引継ぎの遅れを防ごうとしたものと考えられる。

2 別紙:大蔵省国有財産局長の要望

別紙の要望書(蔵国有第565号)は,最高裁判所事務総局家庭局長に宛てたもので,「相続人不存在財産について」という表題である。
要望書は,相続人不存在財産(不動産)が国庫に帰属する場合には,相続財産管理人から当該財産の所在地を管轄する財務局長に引き継ぐことになっているとした上で,所要の手続をとって国庫に帰属させるべき財産を,管轄の財務局長に引き継がないで放置するおそれがあることを指摘している。
そして,相続人不存在財産が生じた場合には,遅滞なく所要の手続をとり,国庫に帰属することとなったものは,速やかに当該財産の所在地を管轄する財務局長等に引き継ぐ手続をとるよう,周知徹底を求めている。

大蔵省国有財産局は,昭和39年の大蔵省設置法の改正(昭和39年法律第105号)で管財局を改めて置かれた局であり,昭和43年の行政機構の簡素化等のための総理府設置法等の一部を改正する法律(昭和43年法律第99号)13条により大蔵省設置法5条1項から削られ,国有財産の管理及び処分に関する事務は理財局が所掌することになった。
現在,国有財産の事務を所管するのは財務省理財局である。

3 要望の契機となった事案

要望書は,その契機として,相続財産管理人が民法957条の公告及び民法958条の公告の請求を行わないで,南九州財務局長に売払申請書を提出してきた事案があったことを挙げている。
南九州財務局は熊本に置かれていた財務局であり,昭和56年4月1日に廃止され,同日に九州財務局が置かれた(財務省大臣官房地方課『財務省財務局七十年史』(令和元年6月)の歴代財務局幹部職員名簿)。

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再婚禁止期間の廃止と父の推定―婚姻日・出生日で判定する戸籍と相談実務(AI作成)

目次第1 結論と確認する日付第2 再婚禁止期間の変遷第3 平成27年大法廷判決の読み方第4 出生時期による父の推定と経過措置第5 戸籍・相談実務での手順第6 関連判例・記事と出典

女性の再婚禁止期間は令和6年4月1日から廃止された。ただし、過去の婚姻と出生を調べる際は、再婚禁止期間の適用には婚姻日、改正後の嫡出推定の適用には子の出生日をそれぞれ確認する必要がある。両者を同じ基準日で処理すると、戸籍上の父を誤るおそれがある。本稿は令和8年10月1日現在の法令・公的資料を基準に、国内法が適用される典型例を整理する。

第1 結論と確認する日付

最初に、前婚の解消・取消日、再婚の届出日、子の出生日を戸籍と出生証明書で確かめる。離婚後300日以内の出生か、出生時までに再婚していたかも確認する。懐胎時期、当事者の国籍、認知・養子縁組の有無、父と推定される者の生死は、争う手続を選ぶ段階で別に確認する。

令和6年4月1日以後の婚姻には、改正前民法733条の女性の再婚禁止期間は適用されない。一方、改正民法772条の新しい父の推定は、原則として同日以後に生まれた子に適用される(令和4年法律第102号附則3条)。したがって、令和6年3月31日以前に生まれた子の父を、後の改正規定だけで決め直すことはできない。

第2 再婚禁止期間の変遷
1 平成28年6月6日まで

改正前民法733条1項は、女性について前婚の解消又は取消しの日から6か月の再婚禁止期間を定めていた。これは当時の民法772条が、前婚解消後300日以内と後婚成立後200日を経過した後の出生について父の推定が重なる事態を避ける趣旨と説明されていた。ただし、旧733条2項には前婚解消前から懐胎していた場合の出産後の例外があった。

ただし、法定の6か月という文言と、平成27年12月16日の大法廷判決後の戸籍事務上の取扱いは区別する。同判決後、平成28年改正法の施行前であっても、前婚解消・取消しから100日を経過した婚姻届を受理するよう市区町村に通知された(法務省の判決後の取扱い)。この時期の個別の届出の成否は、届出日と不受理・受理の記録で確認する。

2 平成28年6月7日から令和6年3月31日まで

平成28年法律第71号は、再婚禁止期間を6か月から100日に短縮し、平成28年6月7日に公布・施行された。前婚解消・取消しの時に懐胎していなかった場合、又はその後に出産した場合には、100日以内でも同期間の規定を適用しない。期間内の婚姻届については、当時必要とされた証明資料を含め、法務省の平成28年改正案内と当時の戸籍記録を確認する。

3 令和6年4月1日以後

令和4年法律第102号により女性の再婚禁止期間は廃止された。この廃止は、法務省の改正の概要によれば、令和6年4月1日以後にされる婚姻に適用される。前婚解消から100日以内という理由だけで、現在の婚姻届を旧733条に基づいて拒むことはできない。

第3 平成27年大法廷判決の読み方

最高裁平成27年12月16日大法廷判決(平成25年(オ)第1079号)は、平成20年に離婚した女性が国に賠償を求めた事件である。判決は、当時の6か月の再婚禁止期間のうち100日を超える部分は、平成20年当時には憲法14条1項・24条2項に違反するに至っていたとした。他方、当時の100日以内の部分は違憲としなかった。これは令和6年の全面廃止後の現行法について、100日間の禁止を認めた判断ではない。

同判決は、立法不作為について国家賠償法1条1項上の違法性を否定し、賠償請求を棄却した。規定の違憲性と国家賠償責任は別の判断である。判決は、平成7年の第三小法廷判決について、国会が733条を改廃しなかった立法不作為が直ちに国家賠償法上違法となる例外的な場合に当たらないと判断したものと説明し、同判決が733条を合憲と判示したとは扱っていない。判決が挙げた医療・科学技術や社会状況の変化も、違憲性の判断時点を読む際の事情であり、個々のDNA鑑定だけで法律上の父を決める趣旨ではない。

第4 出生時期による父の推定と経過措置
1 令和6年4月1日以後に生まれた子

改正民法772条は、婚姻前に懐胎して婚姻成立後に生まれた子も、その婚姻の夫の子と推定する。同条3項は、懐胎から出生までに二以上の婚姻をした場合、出生の直近の婚姻の夫の子と推定する。したがって、前婚解消後300日以内であっても、母が再婚した後に生まれた子は、原則として再婚後の夫の子と推定される。再婚していなければ、300日以内の出生について前夫の子との推定が問題になる。裁判所の嫡出否認調停案内も両者を区別している。

2 令和6年3月31日以前に生まれた子

新772条は出生に遡って適用されず、旧法の父の推定を確認する。子と母には施行日から1年間、施行日前出生の子について嫡出否認の訴えを提起できる特例が設けられた(同法附則4条2項)。この特例期間は令和7年3月31日までで、現在は経過している。ただし、それだけで全ての親子関係の救済手段がなくなるわけではない。嫡出推定が及ばない事情があれば、親子関係不存在確認など別の手続が問題になり得る。父による否認も、施行日前出生の子には従前の例によるため、個別の起算点と期間を確認する。

3 推定と血縁が食い違う場合

嫡出推定が及ぶ父子関係は、科学的証拠で生物学上の父子関係がないことが判明しただけでは、親子関係不存在確認の訴えで争えない(最高裁平成26年7月17日判決)。改正後は、子・母・一定の場合の前夫にも嫡出否認権が認められ、原則的な出訴期間は3年である。子には一定の要件の下で21歳までの特則もある。申立権者、起算点、代理行使の可否及び例外を、裁判所の案内と適用される条文で確認する。

第5 戸籍・相談実務での手順

① 戸籍全部事項証明書、離婚・婚姻の各受理日、出生証明書を集め、婚姻日と出生日を別々に区切って適用法を特定する。推定が及ぶかは、前婚解消日から300日以内か、再婚の有無・時期、懐胎時の外形的事情を整理して判断する。

② 出生届をまだ出していない場合は、戸籍に載る父の見込みを戸籍窓口又は法務局に確認する。離婚後に懐胎したことが医師の証明書で明らかな場合など、嫡出推定が及ばないことが戸籍事務上明白なときには、裁判を経ずに元夫の子としない取扱いが可能な場合がある。詳しくは法務省の無戸籍に関するFAQを参照する。

③ 推定が及ぶ場合は嫡出否認、外形的事情により推定が及ばない場合は親子関係不存在確認など、手続の入口を分ける。家事調停の申立て、合意に相当する審判の可否、訴えの相手方と期間を事案ごとに確認する。裁判所の無戸籍者向け案内は手続の違いを説明している。

④ 国籍が絡む場合は準拠法を先に調べる。ここで述べた民法772条以下を全件に機械的に当てはめない。生物学上の父の認知、養子縁組、相続も別個に検討する。裁判で親子関係が争われている間も、私的なDNA鑑定の結果だけで戸籍を訂正したり相続人から除外したりしない。

第6 関連判例・記事と出典

法令:民法772条、774条、777条、778条の2及び令和4年法律第102号附則。改正の適用関係は法務省「民法等の一部を改正する法律について」及び同省「改正の概要」、平成28年改正は同省の案内で確認した。

(続きを読む...)再婚禁止期間の廃止と父の推定―婚姻日・出生日で判定する戸籍と相談実務(AI作成)

遺言を一部執行し残りを遺産分割協議で変更する場合―代償金・税務・信託銀行報酬(AI作成)

目次第1 問題の所在と結論第2 最初に財産ごとに確認すること1 遺言による帰属と執行の対象2 遺言執行者の就職と契約上の範囲第3 協議の範囲と順序1 遺産全体について最初の協議をする場合2 金融資産を執行し,別の財産だけ協議する場合3 協議が成立しない場合4 遺言に金銭信託と放棄時の代替条項がある場合第4 代償金の性質と相続税1 真正な代償分割の場合2 評価方法による課税価格の違い第5 低額譲渡と評価される場合の税務第6 信託銀行報酬を含む三つの選択肢1 比較する三つの案2 報酬額と作業範囲を三列で照合する第7 協議書と税務申告に残す資料第8 関連記事第9 出典
第1 問題の所在と結論

遺言に預貯金・有価証券と不動産の取得者がそれぞれ指定されているとき,金融資産だけを遺言どおりに移し,不動産について相続人全員の協議で取得者を変更する案がある。この場合,金融資産を移した事実だけで不動産についての協議が無効になるわけではないが,「残りは未分割の遺産である」「代償金と書けば必ず相続税だけで済む」ともいえない。遺言の文言,遺産の帰属,遺言執行の進捗,協議の当事者と対象,金銭支払の実質を分けて確認する必要がある。

相続税について,国税庁の「No.4176 遺言書の内容と異なる遺産分割をした場合の相続税と贈与税」は,「特定の相続人に全部の遺産を与える旨の遺言」があり,相続人全員で異なる分割をした事例への回答である。複数の財産について取得者を定めた遺言の一部を執行し,別の財産だけについて協議する事例を直接扱っていない。この違いを踏まえずに贈与税の心配はないと断定すべきではない。

第2 最初に財産ごとに確認すること
1 遺言による帰属と執行の対象

まず,財産目録の各行について,①遺言のどの条項が取得者を定めるか,②遺言執行者は誰か,③実際に執行の対象となるか,④払戻し・名義変更・登記がどこまで進んだかを照合する。「その他一切の財産」などの残余財産条項も確認する。遺言の特定財産承継条項がある財産を,手続が済んでいないという理由だけで当然に未分割財産と扱うことはできない。

2 遺言執行者の就職と契約上の範囲

信託銀行が遺言で指定されていても,就職の有無,受任・辞退・辞任の段階,対象財産,すでに行った手続を確認する。銀行の一般的な案内でも,相続人と財産の状況を確認してから遺言執行者に就職し,調査対象は遺言執行対象財産に限ると説明されている(三菱UFJ信託銀行「お手続きの流れ」)。個別の遺言と契約の内容が優先するため,公開案内だけで当該銀行の義務や報酬を決めることはできない。

第3 協議の範囲と順序
1 遺産全体について最初の協議をする場合

相続人全員と必要な受遺者が,遺言と異なる取得関係を遺産全体について合意できる見込みがあるなら,執行前に協議書をまとめる方法がある。各財産の最終取得者,代償金,支払期限,費用負担,遺言執行者への連絡を一通の協議書と別紙財産一覧で示しやすい。ただし,遺言執行者が就職済みの場合はその権限との関係を先に整理し,銀行の辞退・辞任に要する条件と費用も確認する。

2 金融資産を執行し,別の財産だけ協議する場合

協議の対象を一部の財産に限ること自体は検討できるが,「遺言による金融資産の取得」と「別の財産の協議による取得」を時系列で説明できるようにする必要がある。協議書には対象財産と対象外財産を具体的に分け,先行する執行,遺言による取得,代償金の趣旨,残余財産の扱いを明記する。遺言で特定の人への帰属が既に定められている財産については,協議の名称だけで相続税上の取得原因まで確定するわけではない。

3 協議が成立しない場合

全員の合意が得られなければ,遺言の内容と遺言執行者の権限を基礎に手続を進めることになる。成立するか不明の段階で,協議が成立したことを前提に金融機関への指図,代償金の送金,登記を先行させるべきではない。法定の申告・登記の期限がある場合は,合意待ちと期限対応を別に管理する。

4 遺言に金銭信託と放棄時の代替条項がある場合

遺言に金融資産の取得者を指定するだけでなく,その一部から金銭信託を設定し,受益者が受益権を放棄したときの代替取得者まで定めている場合は,銀行の遺言執行サービスと信託法上の信託を分けて扱う。銀行に遺言執行を依頼しないだけでは,信託設定条項や代替条項は消えない。遺言による信託は遺言の効力発生により効力を生ずる(信託法4条2項)。受益権放棄は,受益者が信託行為の当事者である場合を除き,受託者への意思表示による(同法99条)。放棄時に別の相続人が金銭を取得する遺言なら,その者の金融資産の取得額も変わり得る。

受益権放棄後の課税は,遺言の代替条項に基づく被相続人からの取得か,成立後の信託に関する権利の移転かを検討する。相続税法9条の2及び国税庁の基本通達9の2関係を確認し,遺言全文,放棄の記録,銀行・受託者の地位,実際の金銭移動を税理士に示す。詳しくは遺言による金銭信託の受益権を放棄した場合を参照。

第4 代償金の性質と相続税
1 真正な代償分割の場合

国税庁の「No.4173 代償分割が行われた場合の相続税の課税価格の計算」は,現物を取得した人が他の共同相続人等に債務を負担する代償分割について,支払者の課税価格から代償財産の価額を控除し,受取者の課税価格に加算する取扱いを示す。代償金を支払者の固有の現金から出すこと自体は,この説明と矛盾しない。ただし,固有の現金で支払えば必ず代償分割になる,という意味ではない。代償金を支払うこと自体が贈与税を生じさせるわけでもない。代償金のない合意と代償金のある合意で,取得原因の判断を機械的に逆転させない。

民事上の代償金は,具体的相続分と現物取得額の差額と機械的に一致しなければならないものではない。寄与分・特別受益,評価の違い,紛争解決のための譲歩などを踏まえて合意する余地がある。一方,金額を自由に合意できるという民事上の問題と,その金銭が税務上も相続に伴う代償債務と認められるかという問題は別である。協議前に遺言で定められた帰属,遺産全体の取得額,評価資料,金額の算定経緯を確認する必要がある。

2 評価方法による課税価格の違い

代償金が対象財産の分割時の通常の取引価額を基に決められた場合,相続税の課税価格に算入する代償財産の額は,単純な支払額と異なり得る。国税庁No.4173は,相続開始時の相続税評価額と分割時の通常取引価額との割合を用いる例を示している。協議書には,時価,評価基準日,評価根拠,代償金の算定方法を残し,申告書との整合を税理士と確認する。

第5 低額譲渡と評価される場合の税務

遺言で特定の人が財産を取得した後,別の人に金銭と引換えに移したと評価されれば,後の移転は真正な代償分割と異なる課税関係になり得る。国税庁の「No.4423 個人から著しく低い価額で財産を譲り受けたとき」によれば,個人間で財産を著しく低い価額で譲り受けた場合,時価と対価との差額は贈与により取得したものとみなされる。判定は個々の事案による。法人向けの「時価の2分の1未満」という基準を,個人間取引の一律の安全基準にすることはできない。

土地については通常の取引価額がこの検討の出発点になる。ただし,見積もった時価から代償金を差し引いた全額が直ちに課税される,と計算することもできない。まず取得原因が相続に伴う分割なのか,遺言による取得後の有償移転なのかを検討し,土地の権利関係と評価の妥当性,遺産全体の配分と他の負担,金銭の実際の授受を調べる必要がある。有償移転と整理される場合には,譲渡した側の所得税・住民税の検討も別途必要となる。

第6 信託銀行報酬を含む三つの選択肢
1 比較する三つの案

①銀行が対象の金融資産について遺言を執行し,別財産は関係者が協議する案,②執行前に遺産全体について協議し,銀行の就職や対象変更を調整する案,③協議が不成立なら遺言どおり執行する案を並べる。①には金融機関との手続を任せる便益がある一方,協議書・登記・税務申告は別の担当者と費用が必要になり得る。②は法律関係を一通の協議書と一覧表で示しやすいが,全員の合意が前提である。③は合意不成立時の現実的な経路として残る。

2 報酬額と作業範囲を三列で照合する

報酬を比較するときは,①報酬計算の基礎に入る財産,②銀行が実際に執行する財産,③相続人・他の専門家に残る仕事と費用を分けて確認する。銀行が金融資産だけを扱うことが,直ちに不合理とはいえない。口座数や証券の種類,換価・送金の負担,銀行の専門性,合意成立の見込みによって便益が変わる。一方,高額の報酬に見合う作業がどこまで含まれるかは,個別契約で確かめなければならない。

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節税目的の養子縁組は無効か―最高裁平成29年1月31日判決と相続税上の養子数制限(AI作成)

目次

第1 本記事の対象と結論第2 最高裁平成29年1月31日判決1 民法802条1号2 最高裁の判断3 動機と法律行為の意思を分ける第3 養子縁組の民法上の効果第4 相続税上の養子数制限1 民法上の相続人と相続税計算上の人数は同じとは限らない2 実子として扱われる養子がある3 相続税法63条による否認第5 孫養子と相続税額の2割加算第6 縁組意思をめぐる主張立証1 証拠化する事項2 意思能力と縁組意思は別に検討する第7 相続対策として検討する際の注意第8 出典・参考資料
第1 本記事の対象と結論

本記事は,相続税の節税を主な目的として行われた養子縁組が民法上無効となるかを,最高裁平成29年1月31日第三小法廷判決(平成28年(受)第1255号),現行民法及び相続税法から整理するものである。
法令及び国税庁資料の基準日は令和8年10月1日である。

最高裁は,節税の動機と縁組意思は併存し得るため,専ら相続税の節税目的で養子縁組をしたというだけで,直ちに民法802条1号の「当事者間に縁組をする意思がないとき」に当たるとはいえないとした。

もっとも,民法上の縁組が有効であることと,相続税計算で養子をどの範囲まで法定相続人の数に算入できるかは別問題である。
税務上は養子数の制限,相続税額の2割加算及び相続税法63条による否認可能性を分けて確認する必要がある。

第2 最高裁平成29年1月31日判決

1 民法802条1号

民法802条1号は,人違いその他の事由によって当事者間に縁組をする意思がないとき,養子縁組を無効とする。
問題は,節税を目的とすることが,親子関係を作る意思と両立するかである。

2 最高裁の判断

最高裁は,養子縁組をすることによる相続税の節税効果を発生させることを動機として縁組をする場合でも,直ちに縁組意思がないとはいえず,節税の動機と縁組意思は併存し得るとした。
そして,専ら相続税の節税目的で縁組をしたというだけで,直ちに民法802条1号の無効事由に当たるとはいえないと判断した。

本判決は,「節税目的の養子縁組は常に有効」と判示したものではない。
個別の事実から当事者間に縁組意思がなかったと認められる場合は,同号による無効が問題となり得る。

3 動機と法律行為の意思を分ける

相続税額を下げたいという動機があっても,当事者が法律上の親子関係を成立させる意思を有していれば,両者は併存し得る。
逆に,届出の外形があり税務資料が作成されていても,当事者が親子関係を作る意思を欠いていたと立証されれば,縁組無効の余地は残る。

したがって,訴訟では「節税目的だったか」だけでなく,「届出時に法律上の親子関係を成立させる意思があったか」を,直接・間接事実から検討する。

第3 養子縁組の民法上の効果

民法809条は,養子が縁組の日から養親の嫡出子の身分を取得すると定める。
そのため,普通養子は原則として養親の子として相続人となり,実親との親族関係も原則として残る。

養子縁組の有効性を検討するときは,縁組意思だけでなく,年齢,配偶者の同意,未成年者を養子とする場合の家庭裁判所の許可その他の成立要件を個別に確認する。
本判決は,これら他の要件を不要とするものではない。

第4 相続税上の養子数制限

1 民法上の相続人と相続税計算上の人数は同じとは限らない

相続税法15条2項は,遺産に係る基礎控除などの計算に用いる「相続人の数」について,一定の普通養子を算入できる人数を制限している。
国税庁の説明によれば,被相続人に実子がいる場合は1人まで,実子がいない場合は2人までが原則である。

この制限は,人数を超える養子縁組を民法上無効にする制度ではない。
養子が民法上の相続人であることと,相続税の基礎控除,生命保険金・死亡退職金の非課税限度額及び相続税総額の計算で何人を算入するかを分ける必要がある。

2 実子として扱われる養子がある

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国境を越えて連れ去られた子の意思と人身保護請求―情報環境・心理的影響と返還決定(AI作成)

目次

第1 結論
第2 最高裁平成30年3月15日判決
第3 年齢だけでは自由意思を判断できない
第4 情報環境と心理的影響を検討する
第5 人身保護請求における拘束と顕著な違法性
第6 ハーグ条約の返還決定との関係
第7 証拠収集と子への配慮
第8 申立て・防御のチェックリスト
第9 出典と確認範囲

国境を越えて連れ去られた子が同居親のもとに残りたいと述べていても,年齢と発言だけで自由意思による滞在と決めることはできません。最高裁平成30年3月15日判決は,子が多面的・客観的な情報を得ているか,同居親の心理的影響を受けていないかを具体的に検討しました。

第1 結論

子の意思を扱う実務では,次の三層を分けます。

子が言葉として何を述べているか。
その判断の前提となる情報が多面的・客観的だったか。
監護親への依存,情報遮断,反復説明その他の心理的影響により,発言が自由意思に基づかない状態になっていないか。

また,ハーグ条約実施法による子の返還手続は,監護権の最終的な帰属を決める手続ではありません。常居所地国へ子を返すかを判断する手続と,親権・監護権の本案を混同しないことが重要です。

第2 最高裁平成30年3月15日判決

最高裁判所第一小法廷平成30年3月15日判決は,国外への子の返還を命じる確定決定があるのに返還が実現していない事案で,人身保護請求の成否を判断しました。

最高裁は,意思能力のある子が監護親のもとにとどまる意思を示していても,子が自由意思に基づいてそこにいるとはいえない特段の事情があれば,監護親による「拘束」を認め得るとしました。そして,返還決定に従わない監護の継続について顕著な違法性を検討し,原審を破棄して差し戻しました。

第3 年齢だけでは自由意思を判断できない

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共同相続人間の無償の相続分譲渡と特別受益―相続放棄との違い,債務を含む評価及び遺留分(AI作成)

目次

第1 結論
第2 相続分譲渡と相続放棄は異なる
第3 最高裁平成30年10月19日判決
第4 債務を含む相続分の評価
第5 譲渡人の相続における特別受益
第6 旧法の遺留分減殺と現行法の遺留分侵害額請求
第7 証拠収集と主張の組立て
第8 実務チェックリスト
第9 出典と確認範囲

共同相続人間で相続分を無償譲渡した場合,「最初の相続の遺産分割から抜けただけ」と考えると,後に生じる譲渡人の相続で特別受益を見落とすことがあります。最高裁平成30年10月19日判決は,相続分が積極財産と消極財産を包括することを前提に,財産的価値がない場合を除き,無償譲渡を民法903条1項の贈与として扱いました。

第1 結論

共同相続人の一人が他の共同相続人へ相続分を無償で譲渡したときは,次の二つの相続を分けて検討します。

最初の相続では,譲受人が譲渡人の相続分を取得し,遺産分割に参加します。
譲渡人が後に死亡したときは,譲受人が譲渡人の相続人である場合,無償譲渡の財産的価値が特別受益として持戻しの対象になるかを検討します。

相続放棄とは効果も手続も異なります。評価に当たっては最初の相続の不動産・預貯金だけでなく,債務その他の消極財産も確認し,「額面上の相続分割合」をそのまま贈与額にしません。

第2 相続分譲渡と相続放棄は異なる

相続分譲渡は,共同相続人が遺産全体に対して有する包括的な持分を他人へ移す行為です。遺産分割前に,共同相続人間で行われることも,第三者に対して行われることもあります。

これに対し,相続放棄は,家庭裁判所への申述によって初めから相続人でなかったものと扱われる制度です。原則として自己のために相続開始があったことを知った時から3か月以内という熟慮期間があり,単なる合意書への署名では足りません。

「私は遺産を要らない」との家族内合意が,相続放棄,相続分譲渡,遺産分割で取得をゼロとする合意のどれに当たるのかを,書面の題名だけでなく,作成時期,家庭裁判所の受理の有無,対価及び当事者の行動から確定します。

相続分の譲渡で遺産分割に参加する地位が移ることと,故人の債権者に対して譲渡人が免責されることは別です。

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性別の取扱いの変更審判―生殖不能要件違憲決定後の要件・申立て・必要資料(AI作成)

目次

第1 最高裁令和5年10月25日大法廷決定の結論第2 現在の要件をどう読むか第3 外観要件は別問題である第4 申立人・管轄・費用第5 申立てに必要な書類第6 申立て前の確認手順第7 審判後の取扱い第8 実務上の注意点第9 出典と確認範囲

最高裁大法廷は,令和5年10月25日,性別の取扱いの変更審判について,生殖腺がないこと又は生殖腺の機能を永続的に欠くことを求める要件を憲法13条に違反し無効と判断しました。ただし,外観要件まで多数意見が無効と判断したわけではありません。申立てでは,最高裁決定が無効とした要件,現在も裁判所案内に掲げられている要件,必要書類を分けて確認する必要があります。

第1 最高裁令和5年10月25日大法廷決定の結論

最高裁令和5年10月25日大法廷決定(令和2年(ク)第993号)は,性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律3条1項4号の生殖不能要件を,憲法13条に違反し無効としました。

この決定は,同じ4号の規定について「現時点では」憲法13条,14条1項に違反するものとはいえないとしていた最高裁平成31年1月23日第二小法廷決定(平成30年(ク)第269号,集民261号1頁)を変更したものです。

最高裁は,医学的知見の進展により,必要な治療を受けたかどうかが性別適合手術の有無だけで決まるものではなくなったと指摘しました。その上で,生殖腺除去手術を受けるか,性自認に従った法令上の性別の取扱いを受ける重要な法的利益を断念するかという過酷な二者択一を迫ることは,必要かつ合理的な制約ではないと判断しました。

条文が形式上残っていても,違憲無効とされた生殖不能要件を満たさないことを理由に性別変更審判を拒むことはできません。

第2 現在の要件をどう読むか

裁判所の「性別の取扱いの変更」案内は,令和8年10月1日現在,次の事項を掲げています。

2人以上の医師により,法律上の「性同一性障害者」に該当すると診断されていること
18歳以上であること
現に婚姻していないこと
現に未成年の子がいないこと
生殖腺がないこと又は生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあること
他の性別の性器の部分に近似する外観を備えていること

このうち5番目の生殖不能要件について,裁判所案内自体が,最高裁大法廷決定により憲法13条に違反し無効と判断されたと注記しています。実務では,単に条文又は古い書式を読むのではなく,この違憲無効判断を反映して要件を整理します。

第3 外観要件は別問題である

同法3条1項5号の外観要件は,「その身体について他の性別に係る身体の性器に係る部分に近似する外観を備えていること」を求めます。令和5年大法廷決定の多数意見は,原審がこの要件に関する申立人の主張を判断していなかったため,更に審理させる目的で事件を原審に差し戻しました。

反対意見には外観要件も違憲無効とする見解がありますが,多数意見の判断ではありません。現在の裁判所案内も外観要件を掲げています。そのため,「最高裁決定により性別適合手術に関する要件はすべてなくなった」と説明するのは正確ではありません。

外観要件への該当性,必要な医療資料及び申立先家庭裁判所の運用は,申立て時点で個別に確認します。令和5年大法廷決定後の差戻審や下級審実務を援用する場合は,報道や二次資料だけでなく,入手可能な裁判書本文で射程を確認する必要があります。

第4 申立人・管轄・費用

申立人:性別の取扱いの変更を求める本人です。

(続きを読む...)性別の取扱いの変更審判―生殖不能要件違憲決定後の要件・申立て・必要資料(AI作成)

養子縁組無効確認の訴えの利益―包括受遺者・相続人と最高裁平成31年3月5日判決(AI作成)

目次

第1 結論第2 養子縁組無効確認の訴えの入口1 無効事由と訴えの利益は別問題である2 判例が用いる基準第3 最高裁平成31年3月5日判決1 事案と原審の判断2 最高裁の判断3 民法990条との関係第4 包括受遺者・相続人・親族の区別1 包括受遺者2 相続人たる地位3 親族であることだけでも足りない第5 財産紛争との手続の切り分け第6 受任時の確認順序第7 本判決を使うときの注意第8 出典と確認状況1 一次資料2 専門誌目次で所在を確認した資料3 判例秘書
第1 結論

養子縁組無効確認の訴えを提起できるかは,その人が養子縁組の無効によって自己の身分関係上の地位に直接影響を受けるかで判断する。相続財産全部の包括受遺者であり,養子から遺留分請求を受ける可能性があるという財産上の利害だけでは,訴えの利益は直ちに認められない。

最高裁平成31年3月5日第三小法廷判決は,包括受遺者が常に養子縁組無効確認の訴えを提起できないとしたものではない。「包括受遺者である」という事実だけでは足りず,別に身分関係上の地位への直接影響があるかを検討すべきであるとした判決である。

第2 養子縁組無効確認の訴えの入口

1 無効事由と訴えの利益は別問題である

民法802条は,当事者間に縁組をする意思がないときなどを養子縁組の無効事由として定める。しかし,養子縁組に無効事由があるかという本案の問題と,ある第三者がその無効確認を求められるかという訴えの利益の問題は別である。

無効の主張が実体的に正しくても,原告が身分関係上の地位に直接影響を受けないなら,養子縁組無効確認の訴えは不適法となり得る。そのため,証拠収集より前に原告適格・訴えの利益を点検する必要がある。

2 判例が用いる基準

最高裁平成31年3月5日第三小法廷判決(平成30年(受)第1197号)は,最高裁昭和63年3月1日第三小法廷判決(昭和59年(オ)第236号,民集42巻3号157頁)を参照し,養子縁組が無効であることにより自己の身分関係に関する地位に直接影響を受けない者は,訴えにつき法律上の利益を有しないとした。

この基準では,原告が縁組当事者の財産に経済的利害を有するかだけでなく,養子縁組の存在又は不存在が原告自身の親族関係,相続人たる地位その他の身分関係を直接変えるかを確認する。

第3 最高裁平成31年3月5日判決

1 事案と原審の判断

原告は,養親の相続財産全部の包括遺贈を受けた者であった。原審は,原告が養子から遺留分減殺請求を受け得ることなどから,養親の相続に関する法的地位を有し,養子縁組無効確認の訴えの利益があるとした。

2 最高裁の判断

最高裁は,遺贈は遺言によって受遺者に財産権を与える意思表示であり,包括受遺者が養子から遺留分減殺請求を受けるとしても,養子縁組の無効によって影響を受けるのは財産上の権利義務にすぎないとした。

原告は養親との親族関係がなく,養子の側とも義兄という2親等の姻族関係があるにすぎなかった。そのため,養子縁組の無効により自己の身分関係上の地位に直接影響を受けず,訴えの利益を有しないと判断した。最高裁は原判決を破棄し,訴えを却下した第1審判決を維持する自判をした。

3 民法990条との関係

民法990条は,包括受遺者が相続人と同一の権利義務を有すると定める。しかし,同条により包括受遺者が相続財産に関して相続人に近い地位を持つことと,身分訴訟の訴えの利益を有することは同じではない。

包括受遺者という財産法上の地位を,身分関係上の地位と読み替えないことが本判決の要点である。

第4 包括受遺者・相続人・親族の区別

(続きを読む...)養子縁組無効確認の訴えの利益―包括受遺者・相続人と最高裁平成31年3月5日判決(AI作成)

財産分与審判で不動産の明渡しも命じられる場合―家事事件手続法154条2項4号と最高裁令和2年8月6日決定(AI作成)

第1 結論とこの記事の対象第2 最高裁令和2年8月6日決定の事案1 争われた点2 原審と最高裁の結論第3 明渡しを命じる法的根拠1 家事事件手続法154条2項4号2 財産分与を実効的にするための給付命令第4 命令できる場合とできない場合を分ける1 最高裁が示した場合2 当然に明渡しが命じられるわけではない3 第三者占有等は別に検討する第5 申立て・主張・証拠の組み立て1 対象不動産と占有関係を特定する2 分与の帰属と明渡しの必要性を一体で示す3 金銭給付・住宅ローン・明渡時期を調整する第6 審判後と強制執行を見据えた確認事項第7 関連記事第8 出典・確認状況

離婚後の財産分与審判で、夫婦の一方名義の不動産を他方が占有し、その不動産を占有者へ分与しないと判断される場合、家庭裁判所は、必要があると認めれば、占有者に対して名義人への明渡しを命じることができます。
最高裁令和2年8月6日第一小法廷決定は、明渡しは必ず民事訴訟で別に請求しなければならないという原審の理解を否定しました。ただし、財産分与審判をしただけで明渡命令が当然に付くという判断ではありません。

第1 結論とこの記事の対象

財産分与の対象、割合、金額の計算及び離婚後の請求期限を先に確認したい方は、財産分与とは?対象財産・計算方法・割合・請求期限を解説を参照してください。
この記事では、そのうち不動産の明渡しを財産分与審判で命じられる場合を説明します。

実務上の要点は、財産分与の対象・帰属・評価だけでなく、審判後に誰が不動産を占有し、どの給付を命じなければ判断した権利関係を実現できないかまで申立て段階から示すことです。

本記事は、離婚した当事者間の財産分与審判において、一方当事者名義の不動産を他方当事者が占有している場合を対象とします。賃借人、同居親族、会社その他の第三者が占有している場合や、所有権自体が第三者との間で争われている場合は、別の手続・当事者・請求原因を検討する必要があります。

第2 最高裁令和2年8月6日決定の事案
1 争われた点

抗告人と相手方は平成12年に婚姻し、平成29年に離婚しました。婚姻中に協力して得た財産として抗告人名義の建物等があり、その建物を相手方が占有していました。

財産分与の審判で、家庭裁判所がその建物を相手方へ分与しないと判断した場合に、家事事件手続法154条2項4号に基づいて、相手方に対し抗告人への建物明渡しを命じることができるかが争点となりました。

2 原審と最高裁の結論

原審は、明渡請求は所有権に基づくものとして民事訴訟で審理判断されるべきであり、家事審判では命じることができないとしました。

最高裁は、この判断を破棄し、東京高裁へ差し戻しました。財産分与の内容に沿った権利関係を実現するため必要と認められるときは、家庭裁判所が財産分与審判の中で明渡しを命じることができるとしたためです。

第3 明渡しを命じる法的根拠
1 家事事件手続法154条2項4号

家事事件手続法154条2項は、財産分与に関する処分の審判を含む一定の審判で、当事者に対し、金銭の支払、物の引渡し、登記義務の履行その他の給付を命じることができると定めています。

財産分与については、民法768条により、家庭裁判所が分与の額だけでなく方法も定めます。令和8年4月1日以後に離婚した場合は、離婚後に財産分与を求められる期間が原則5年となっており、同日前に離婚した場合の原則2年とは異なります。

2 財産分与を実効的にするための給付命令

最高裁は、財産分与審判が分与の要否・額・方法を定めるだけにとどまると、当事者は、その内容に沿った権利関係を実現するため、審判後に改めて給付訴訟等を提起しなければならないと指摘しました。

同号は、この迂遠な手続を避け、財産分与審判を実効的なものとする趣旨です。条文は、財産を他方へ分与する場合だけに給付命令を限定していません。そのため、他方当事者へ分与しない財産についても、判断した権利関係の実現に必要な給付を命じることができます。

第4 命令できる場合とできない場合を分ける
1 最高裁が示した場合

最高裁が明示したのは、①当事者双方が婚姻中の協力によって得た財産であり、②一方当事者の所有名義の不動産を、③他方当事者が占有し、④その不動産を他方当事者へ分与しないと判断した場合です。この場合に、その判断に沿った権利関係を実現するため必要と認められれば、他方当事者に名義人への明渡しを命じることができます。

2 当然に明渡しが命じられるわけではない

決定の文言は「命ずることができる」であり、「必ず命じなければならない」ではありません。明渡しの必要性、分与する金銭との関係、転居準備の要否、子その他の同居者の生活、合意や使用権原の有無など、個別事情に即した審理が必要です。

また、最高裁は原審を破棄して差し戻したものであり、自ら具体的な明渡時期や条件を定めたものではありません。破棄差戻しという手続結果と、差戻審での最終的な給付内容を混同しないことが必要です。

3 第三者占有等は別に検討する

同決定は、財産分与審判の当事者である元配偶者が占有していた事案です。第三者が独自の賃借権その他の権原を主張する場合、抵当権実行や任意売却が予定される場合、共有者がいる場合には、その第三者の手続保障と権利関係を別に検討します。

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無権代理人が本人を共同相続した場合―追認権,相続分と信義則(最高裁平成5年1月21日判決)(AI作成)

目次第1 結論第2 最高裁平成5年1月21日判決の事案第3 無権代理と追認の基本第4 無権代理人が本人を共同相続した場合第5 単独相続の場合との違い第6 当事者別の主張立証1 相手方・債権者側2 無権代理人以外の共同相続人側3 無権代理人側第7 保証・担保設定・売買での実務チェック第8 反対意見と判決の読み方第9 関連記事第10 出典と確認状況

無権代理人が本人を他の相続人と共同相続したとき,無権代理人の相続分だけ契約が当然に有効になるのか,追認権は誰が行使するのかを,最高裁平成5年1月21日第一小法廷判決の全文に基づいて整理する。法令は令和8年10月1日現在の民法を前提とする。

第1 結論

① 無権代理人が本人を他の相続人と共同相続した場合,追認権は,その性質上,共同相続人全員に不可分的に帰属する。
② 共同相続人全員が共同して追認しない限り,無権代理行為は本人との関係で有効にならない。
③ 無権代理人が承継した相続分に相当する部分だけが,何らの追認もなく当然に有効になるものでもない。
④ ただし,無権代理人以外の共同相続人全員が追認した場合に,無権代理人だけが追認を拒むことは,信義則上許されないことがある。
⑤ したがって,「無権代理人も相続人になった」という一事だけで債務の一部を認めたり否定したりせず,共同相続人の範囲,各人の追認・追認拒絶の意思表示,その時期及び信義則を基礎付ける事実を分けて確認する必要がある。

第2 最高裁平成5年1月21日判決の事案

本人の子は,本人から代理権を与えられていないのに,預かっていた本人の実印を用い,本人名義で850万円の貸金債務を連帯保証する契約を締結した。本人はその後死亡し,妻と無権代理人である子が各2分の1の割合で共同相続した。

原審は,無権代理人が相続した本人の地位の限度では,本人が自ら契約したのと同様の効果が生じるとして,無権代理人に請求額の2分の1を支払うよう命じた。

最高裁はこの判断を破棄し,請求を棄却した。共同相続人全員による追認の主張立証がない以上,無権代理人の2分の1の相続分に相当する部分についても,連帯保証契約が当然に有効になったとはいえないとしたためである。

第3 無権代理と追認の基本

民法113条1項は,代理権を有しない者が他人の代理人としてした契約は,本人が追認をしなければ本人に対して効力を生じないと定める。追認は,相手方に対してしなければ,相手方が追認の事実を知ったときを除き,相手方に対抗することができない(同条2項)。

相手方は,本人に対し,相当の期間を定めて追認するかどうかを確答するよう催告でき,期間内に確答がなければ追認を拒絶したものとみなされる(民法114条)。本人が追認しない間,相手方は,契約時に無権代理であることを知っていた場合を除き,契約を取り消すことができる(同法115条)。

無権代理人は,代理権を証明し,又は本人の追認を得た場合を除き,相手方の選択に従い,履行又は損害賠償の責任を負う(民法117条1項)。もっとも,相手方の悪意・過失や無権代理人の行為能力について同条2項の例外がある。本人に対する契約上の請求と無権代理人に対する117条の請求は,根拠と要件を分けて検討する必要がある。

第4 無権代理人が本人を共同相続した場合

最高裁は,追認には,本人に対して効力を生じていなかった法律行為を,本人との関係で有効にする効果があることを出発点とした。そのため,共同相続が生じたときの追認権は,相続分に応じて分割される金銭債権のようなものではなく,共同相続人全員に不可分的に帰属するとした。

この不可分性から,次の順序で結論が導かれる。

本人が死亡し,追認権を複数の相続人が承継する。
共同相続人全員が共同して追認権を行使しない限り,無権代理行為は有効にならない。
無権代理人が共同相続人の一人であっても,その相続分だけが当然に有効になるわけではない。
他の共同相続人全員が追認した場合には,無権代理人だけの追認拒絶が信義則に反しないかを検討する。

連帯保証債務が相続により法定相続分に応じて承継され得ることと,追認前の無権代理行為が相続分の限度で当然に有効になるかは別問題である。まず契約が本人との関係で有効になったかを確定し,その後に相続による債務承継を検討する。

第5 単独相続の場合との違い

無権代理人が本人を単独相続した場合については,最高裁昭和40年6月18日第二小法廷判決(民集19巻4号986頁)が,本人が自ら法律行為をしたのと同様の法律上の地位を生じるとした。

共同相続の場合には,無権代理人以外の相続人が本人の保護のための追認権を承継している。無権代理人の事情だけで契約の一部を有効とすると,他の相続人の追認権を害するため,平成5年判決は単独相続の法理をそのまま相続分ごとに分割して適用しなかった。

したがって,相続関係の調査では,戸籍により法定相続人を確定するだけでなく,相続放棄,相続分の譲渡,遺産分割,数次相続及び遺言の有無を確認し,追認時点で追認権を有する者を確定する必要がある。

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有責配偶者からの離婚請求―別居期間は何年なら認められるのか,最高裁平成2年11月8日判決から考える(AI作成)

目次

第1 昭和62年大法廷判決の基本枠組み
第2 最高裁平成2年11月8日判決
第3 別居年数だけでは決まらない
第4 判断の基準時は現在に近い
第5 離婚請求者側の主張立証
第6 相手方配偶者側の主張立証
第7 有責性と財産・生活保障を混同しない
第8 受任時のチェックリスト
第9 現行民法との関係
第10 出典及び確認状況

不貞行為や一方的な別居等によって婚姻関係の破綻について主として責任を負う配偶者から離婚を請求する場合,「別居が何年続けば離婚できるか」という質問を受けることが多い。しかし,最高裁判例は,別居期間だけで自動的に結論を出す年数基準を採用していない。

最高裁昭和62年9月2日大法廷判決が示した枠組みを前提に,最高裁平成2年11月8日判決は,原審が約8年の別居期間を短いとした判断を破棄し,口頭弁論終結時の事情を十分に審理すべきであるとした。重要なのは,別居年数,夫婦の年齢・同居期間,未成熟子の有無,離婚後の生活の苛酷性及び離婚請求者が行ってきた経済的配慮等を総合することである。

第1 昭和62年大法廷判決の基本枠組み

最高裁大法廷昭和62年9月2日判決・昭和61年(オ)第260号は,有責配偶者からの離婚請求であっても,夫婦が相当の長期間別居し,その間に未成熟の子が存在せず,相手方配偶者が離婚によって精神的,社会的又は経済的に極めて苛酷な状態に置かれる等の著しく社会正義に反する特段の事情がないときは,請求を認容し得るとした。

「相当の長期間」は固定された年数ではない。夫婦の年齢,同居期間,別居に至った経緯,別居後の交流及び生活関係等と比較して評価される。未成熟子がいるか否かも重要であるが,それだけが独立した機械的要件ではなく,子の監護・生活の実情を含む全体事情の中で検討される。

第2 最高裁平成2年11月8日判決

最高裁第一小法廷平成2年11月8日判決・平成元年(オ)第1039号は,有責配偶者である夫からの離婚請求について,原審が,別居期間約8年は同居期間及び当事者の年齢との対比で短く,請求は許されないと判断した事案である。

最高裁は,別居期間が約8年に及んでいること等を踏まえ,別居期間だけを形式的に比較して請求を排斥するのではなく,原審口頭弁論終結時における諸事情を審理判断すべきであるとした。そして,離婚により相手方配偶者が精神的,社会的又は経済的に極めて苛酷な状態に置かれるか等の点について審理が尽くされていないとして,原判決を破棄し,事件を原審へ差し戻した。

この判決は,「別居8年なら必ず離婚が認められる」としたものではない。最高裁は離婚を自判で認容せず,総合判断に必要な事実の審理が不足しているとしたのである。

第3 別居年数だけでは決まらない

別居期間は重要な事情であるが,開始日と年数を数えるだけでは足りない。次の事情を同じ時間軸に並べる必要がある。

① 婚姻日,同居期間及び実質的に共同生活が失われた時期
② 別居開始の経緯,別居を継続させた事情及び修復に向けた協議
③ 当事者の年齢,健康状態,就労能力及び収入
④ 未成熟子の年齢,監護状況,教育費及び親子交流

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死亡直前の生命保険金受取人変更は有効か―意思能力,本人確認,変更請求書,保険会社の記録及び立証方法(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論第2 受取人変更の法律上の要件1 生命保険契約2 保険者への通知と到達時期3 被保険者の同意4 古い契約と約款第3 意思能力と署名の真正は別の争点である第4 保険会社から収集する資料第5 医療・介護記録と関係者の供述第6 変更前後の経過を一つの時系列にする第7 争う側・有効性を主張する側の進め方第8 遺言による変更及び特別受益との区別第9 出典・参考資料

死亡直前に生命保険金受取人が変更されている場合,変更後の受取人が保険金を受け取ったという結果だけで有効性を判断することはできない。契約者による変更の意思表示,保険者への通知,被保険者の同意,意思能力及び署名・手続の真正を分け,変更請求書,受付記録,通話録音,本人確認資料,担当者記録及び診療録を時間順に照合する必要がある。

第1 この記事の対象と結論

本記事は,保険契約者が生前に生命保険金受取人を変更したとされる場面を扱う。遺言による受取人変更は別の要件があるため,第8で区別する。

主な検討順序は,次のとおりである。

契約日,保険種類,契約者,被保険者,変更前後の受取人及び約款を確定する。
誰が,いつ,どの方法で変更の意思表示をしたかを確定する。
保険者へ通知が到達した日時と,死亡等の保険事故の日時を比較する。
被保険者の同意が必要な契約では,その有無と時期を確認する。
変更時の意思能力と,署名・押印・オンライン操作を本人が行ったかを別々に検討する。

保険会社所定の書式や本人確認手続を経ていることは有効性を支える重要な事情になり得るが,それだけで意思能力又は本人性に関する反対証拠が排除されるわけではない。他方,死亡直前という時期だけで直ちに無効になるものでもない。

第2 受取人変更の法律上の要件
1 生命保険契約

保険法43条1項は,保険契約者は保険事故が発生するまでは保険金受取人を変更できると定める。同条2項によれば,受取人変更は保険者に対する意思表示によってする。ただし,契約上の権利関係は契約日,保険種類,約款及び特約によって確認する必要がある。

2 保険者への通知と到達時期

保険法43条3項は,受取人変更の意思表示が保険者に到達した場合,その通知を発した時に遡って効力を生ずるとする。ただし,その到達前に保険者が変更前の受取人へ保険給付をしたときは,その給付の効力を妨げない。

したがって,変更請求書の日付だけでなく,投函又は送信の日時,保険会社の受付日時,審査完了日,変更通知の発送日及び被保険者の死亡日時を分けて確認する。電話で問い合わせただけなのか,変更の意思表示として受け付けられたのかも記録から判断する。

3 被保険者の同意

保険法45条は,他人を被保険者とする死亡保険契約において保険金受取人を変更する場合,原則として被保険者の同意を要求する。契約者と被保険者が同一人か,別人かを先に確認し,同意書,電話確認又はオンライン記録の有無を調べる。

4 古い契約と約款

保険法は平成22年4月1日に施行された。施行前に締結された契約については,経過措置,旧商法及び約款が問題となることがある。現在の保険法の条文だけで処理せず,契約締結時と変更時の約款を取り寄せる。

第3 意思能力と署名の真正は別の争点である

民法3条の2は,法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは,その法律行為は無効とすると定める。受取人変更でも,変更の意味と結果を理解して判断できたかが問題となる。

意思能力の有無と,変更請求書等を本人が作成又は承認したかは別の争点である。本人に判断能力があっても第三者が無断で署名した可能性はあり,反対に,身体が不自由で代筆を用いたことだけで本人の意思が否定されるわけでもない。次の事項を分けて整理する。

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賃貸アパートの所有者が死亡した直後の相続実務―家賃,管理会社,敷金,火災保険,修繕及び税務(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論第2 最初に確認する権利関係1 遺言書,登記及び相続人を確認する2 遺言執行者の有無と権限を確認する第3 死亡後の家賃は誰に帰属するか1 遺産分割前の賃料債権2 遺言で取得者が定まっている場合3 管理口座と精算表を分ける第4 管理会社及び入居者への連絡第5 敷金,修繕及び賃貸借契約1 敷金返還債務2 必要な修繕と大きな方針変更3 新規契約,更新及び解約第6 火災保険その他の継続契約

1 契約の存続と支払方法を分ける
2 賃貸物件に付随する契約と貸与設備

第7 所得税及び相続税1 準確定申告2 死亡後の不動産所得3 相続税申告第8 実務上の進め方第9 出典・参考資料

賃貸アパートの所有者が死亡した直後は,所有権の承継だけでなく,毎月発生する家賃,管理会社との委託関係,入居者から預かった敷金,修繕,火災保険及び税務を止めずに処理する必要がある。本記事は,相続開始直後から遺産分割又は遺言執行が落ち着くまでに確認すべき事項を,民法,最高裁判例,国税庁及び保険会社の公表資料に基づいて整理する。

第1 この記事の対象と結論

最初にすべきことは,管理会社へ一人の相続人を新所有者として届け出ることではない。①遺言書の有無と内容,②法定相続人,③土地・建物の登記,④賃貸借契約及び管理委託契約,⑤家賃の入金口座,⑥敷金台帳,⑦借入金,⑧火災保険,⑨遺言執行者の指定及び就職の有無を確認する必要がある。

権利関係が確定するまでの間も,入居者の安全確保,漏水等の緊急修繕,家賃の受領及び帳簿の保存は必要である。そこで,相続人間で暫定的な管理担当者,入金口座,支出の範囲及び報告方法を文書で定め,所有権の帰属,収益の帰属及び管理実務を混同しないことが重要である。

第2 最初に確認する権利関係
1 遺言書,登記及び相続人を確認する

民法896条によれば,相続人は,相続開始の時から,被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。共同相続の場合,相続財産は相続人の共有に属する(民法898条)。もっとも,特定の不動産を特定の相続人に相続させる遺言,遺贈又は遺産分割方法の指定がある場合には,法定相続分だけを前提に管理を始めることはできない。

登記事項証明書だけでは,相続開始後の実体上の帰属まで分からない。遺言書,戸籍,固定資産課税資料,売買契約書,借地契約書,金融機関の担保資料及び遺産分割協議の有無を合わせて確認する。土地と建物の承継先が異なる可能性があるときは,建物所有者が土地を使用する根拠と条件も別に確認する。

2 遺言執行者の有無と権限を確認する

遺言執行者が指定されていても,指定された者が就職を承諾して任務を開始したかは別に確認する。遺言執行者の権限は,遺言の内容と対象財産の範囲によって決まる。遺言執行者であることだけから,遺言の対象外の賃貸物件について恒常的な管理,賃貸借の更新又は売却を当然に行えるとは限らない。

相続人が管理する場合も,遺言執行者が管理する場合も,管理会社に対しては,戸籍又は法定相続情報一覧図,遺言書,遺言執行者の就職通知,登記事項証明書等のうち何を提出したかを記録し,誰がどの権限で指示を出しているかを明確にする。

第3 死亡後の家賃は誰に帰属するか
1 遺産分割前の賃料債権

最高裁判所第一小法廷平成17年9月8日判決は,遺産である賃貸不動産から相続開始後に生じた賃料債権は遺産とは別個の財産であり,各共同相続人が相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得し,後の遺産分割の影響を受けないとした。

したがって,遺言等によって取得者が定まっていない未分割の賃貸不動産について,一人の相続人が管理上まとめて家賃を受領しても,その全額がその相続人の固有収入になるわけではない。後日の精算に備え,月別・物件別に収入,管理料,修繕費,固定資産税その他の支出を記録する必要がある。

精算表には,物件・対象月ごとの賃料総額,管理会社による控除,実際の入金額,各相続人への帰属割合及び送金済額を分けて記録する。
これは管理と申告をつなぐための実務上の提案であり,口座の残金を分けた日が当然に所得の計上日になるという意味ではない。
国税庁の未分割遺産に関する回答が示すとおり,特定の相続人が管理していても,遺言がなく未分割の共有である間は,各共同相続人が法定相続分に応じて申告することを確認する。

2 遺言で取得者が定まっている場合

特定財産承継遺言等により相続開始時から不動産の取得者が定まる場合は,前記判決が扱った未分割共有の事案と同じ処理になるとは限らない。遺言の文言,遺留分侵害額請求の有無,登記及び賃貸借契約上の地位を確認した上で,死亡後の家賃の帰属を判断する。

3 管理口座と精算表を分ける

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認知症者が第三者に損害を与えた場合の家族・成年後見人等の責任―民法714条とJR東海事件(AI作成)

目次

第1 結論
第2 民法713条・714条・709条の関係
第3 JR東海事件の事案と結論
第4 家族・成年後見人が当然に責任を負うわけではない
第5 法定監督義務者に準ずべき者の判断要素
第6 民法709条による自己の過失責任
第7 被害者側・家族側の主張立証
第8 成年後見制度改正との関係
第9 確認資料と未確認事項

認知症その他の精神上の障害により責任能力を欠く人が第三者へ損害を与えても,同居の配偶者,子又は成年後見人が,その肩書だけで民法714条の賠償責任を負うわけではありません。

最高裁平成28年3月1日判決は,まず法定の監督義務者に当たる法的根拠を確認し,それがない場合には,監督を引き受けたと評価できる特段の事情があるかを具体的な生活・介護状況から判断するという枠組みを示しました。もっとも,家族自身に具体的な危険を防止すべき注意義務違反があれば,民法709条の責任が別に問題となります。

第1 結論

本人に責任能力がなければ,本人は民法713条により原則として賠償責任を負いません。
民法714条は,責任無能力者を監督する法定の義務を負う者又は法定の監督義務者に代わって監督する者の責任を定めます。
配偶者,子,成年後見人又は介護に関与する親族というだけで,当然に714条責任を負うものではありません。
法定の監督義務者でなくても,監督を引き受けたとみるべき特段の事情がある者には,714条1項が類推適用されることがあります。
714条の責任主体でなくても,家族又は事業者自身の具体的な過失があれば,709条責任は別に成立し得ます。

第2 民法713条・714条・709条の関係
1 本人の責任能力―民法713条

民法713条本文は,精神上の障害により自己の行為の責任を弁識する能力を欠く状態で他人に損害を加えた者は,賠償責任を負わないと定めています。診断名だけで決まるものではなく,加害行為時に,当該行為の責任を理解する能力があったかが問題です。

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相続した株式を遺言執行者が売却した場合の税金―法定相続分による申告と確定申告の方法(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論1 この記事の対象2 結論3 最初に確認する順序第2 誰が譲渡所得を申告するか1 国税庁が法定相続分による申告とした事例2 法定相続分が常に結論となるわけではないこと3 遺言執行者本人の所得にはならないこと4 売却後に疑問が生じた場合第3 各相続人の譲渡所得の計算1 基本式と按分2 取得費は相続税評価額ではないこと3 相続税の取得費加算は各人ごとに計算すること4 上場株式等と一般株式等を分けること5 税率第4 遺言執行者が作成・交付する資料1 共通計算書2 各人に渡す資料3 売却代金の分配と所得税第5 各相続人による確定申告の具体的方法1 申告前の準備2 確定申告書等作成コーナー又はe-Taxを利用する場合3 書面で提出する場合4 申告期限と納付第6 計算例1 法定相続分で申告する例2 分配割合と申告割合が異なる可能性第7 特に注意を要する場合1 特定口座と源泉徴収2 NISA口座の株式3 譲渡損失4 相続した非上場株式を発行会社へ売る場合5 限定承認,国外居住者及び外国証券第8 関連する記事1 遺言執行者による換価実務2 換金指定のある遺言と現物取得第9 出典1 法令2 国税庁の質疑応答・解説・手引き3 研究資料
第1 この記事の対象と結論
1 この記事の対象

本記事は,被相続人が所有していた株式を遺言執行者が売却し,その代金を相続人又は受遺者に分配する場面を対象とする。
遺言執行者が売却名義人であるため遺言執行者が一括して申告するのか,各相続人が法定相続分で申告するのか,遺言で定めた分配割合によるのかが問題となる。

2 結論

国税庁の質疑応答事例には,遺言執行者が遺産である不動産及び有価証券を換価した事案について,譲渡所得は法定相続分に応じて各相続人が申告するとしたものがある。
したがって,当該事例と同様に,売却時まで株式が共同相続人に帰属し,遺言執行者の処分の効果が相続人に直接生ずると整理できる事案では,各相続人が法定相続分に応じて確定申告するのが基本となる。遺言執行者が遺言執行者名義で一括申告するものではない。
もっとも,この結論は遺言執行者が売却したという一点だけから常に導かれるものではない。遺言が特定の者に換価代金のみを遺贈する趣旨か,包括遺贈か,相続分又は遺産分割方法を指定したものかによって,売却時の権利帰属と所得の帰属が異なり得る。

3 最初に確認する順序

①遺言の全文と遺言執行者の権限,②売却時に株式が誰に帰属していたか,③譲渡所得の申告者と割合,④各人に配分する売却代金・取得費・売却費用,⑤各人固有の取得費加算・損益通算等の順に確認する。
分配割合をそのまま申告割合と考えたり,相続税評価額を取得費と考えたりすると誤りやすい。

第2 誰が譲渡所得を申告するか
1 国税庁が法定相続分による申告とした事例

国税庁「遺言に基づき遺産の換価代金で特定公益信託を設定した場合の相続税及び譲渡所得の課税関係」は,遺言執行者が遺産である不動産及び有価証券を売却した事例について,遺産の換価処分は遺言執行者の職務として行われ,その権限内の行為は相続人に直接効力を生ずることを理由に,「法定相続分に応じて各相続人が申告する必要があります」と回答している。
この事例に従う場合,各相続人は自分の法定相続分だけを自分の確定申告書に計上する。遺言執行者は,各人が同じ基礎資料に基づいて申告できるように,共通の計算書と証拠資料を交付する。

2 法定相続分が常に結論となるわけではないこと

前記の国税庁ページは,照会された事実関係を前提とする一般的な回答であり,具体的な取引では異なる課税関係が生ずることがあると明記している。
小柳誠「換価遺言が行われた場合の課税関係について」(税務大学校論叢85号)は,換価遺言を一律に捉えず,不特定物である金銭の遺贈,包括遺贈又は相続分・遺産分割方法の指定のいずれと解するかを検討する必要があるとする。そして,金銭の遺贈と解される類型では,受遺者を譲渡所得の納税義務者とする見解を示している。
これは税務大学校の研究論文であり,前記の質疑応答事例と同じ位置付けの公式回答ではない。しかし,遺言の型によって納税義務者の検討が変わることを示す重要な資料である。

3 遺言執行者本人の所得にはならないこと

遺言執行者は,遺言の内容を実現するために株式を管理・処分する者であり,売却代金を自分のために取得する者ではない。
したがって,遺言執行者が注文を出し,売却代金を遺言執行者名義の管理口座で受領したという外形だけで,遺言執行者個人の譲渡所得になるものではない。遺言執行者自身が相続人又は受遺者でもある場合は,その者として帰属する部分を個人の申告に含める。

4 売却後に疑問が生じた場合

既に売却済みでも,まず遺言書,遺言執行者の就職・権限を示す書類,証券会社の相続手続書類,売却報告書,換価代金の分配計算書及び相続関係を揃える。
申告期限前に税理士又は所轄税務署へ事実関係を具体的に示して確認し,誰がどの割合で申告するかを相続人間で統一して記録する。同じ売却について重複申告又は申告漏れが生じないようにする。

第3 各相続人の譲渡所得の計算
1 基本式と按分

国税庁タックスアンサーNo.1463によれば,株式等の譲渡所得等は,譲渡価額から取得費と委託手数料等を差し引いて計算する。
法定相続分で申告する事案では,各人の譲渡価額,取得費及び売却に直接要した費用を同じ法定相続分で按分するのが出発点となる。すなわち,「各人の譲渡所得等=売却代金×申告割合-被相続人の取得費×申告割合-売却手数料等×申告割合」である。

(続きを読む...)相続した株式を遺言執行者が売却した場合の税金―法定相続分による申告と確定申告の方法(AI作成)

国際養育費の請求と回収―準拠法・日本の裁判管轄・外国裁判の承認と強制執行(AI作成)

目次

第1 最初に決める四つの事項1 相手が国外へ移住した場合はどうするか第2 誰の権利を,どの手続で行使するか第3 日本の裁判所に国際裁判管轄があるか第4 養育費の準拠法を決める第5 外国の養育費裁判を日本で使う第6 日本の判断を外国で回収に使う場合第7 日本国内の財産から回収する場合第8 受任時にそろえる資料第9 関連記事第10 出典と調査範囲

国際的な養育費事件では,「どの国の法で支払義務を判断するか」が分かっても,直ちにお金を回収できるわけではない。誰が誰に請求するのか,日本の裁判所に管轄があるのか,既存の外国裁判を利用できるのか,債務者の財産がどの国にあるのかを順に確認する。本記事は,令和8年10月1日現在の日本法と裁判所の公開資料を基礎に,受任から回収までの判断順序を整理する。

第1 最初に決める四つの事項

最初に,①請求権者と相手方,②新たな取決め又は裁判が必要か,③日本と外国のどちらで裁判をし,どちらの財産から回収するか,④適用される法律と既存裁判の効力を記録する。国際裁判管轄,準拠法,外国裁判の承認,強制執行は別の判断である。日本法が準拠法となっても日本で裁判できるとは限らず,日本で裁判できても外国にある給与や預金を日本の執行手続だけで差し押さえることはできない。

1 相手が国外へ移住した場合はどうするか

海外へ移住したという事実だけでは,請求や回収の可否は決まらない。
養育費を定めた文書の有無,日本又は外国で請求するための管轄,適用される法,外国での承認・執行及び財産所在地を順に確認する必要がある。

外国の国内の徴収・立替制度が,日本に住む親子にも同じ条件で利用できるとは限らない。
また,日本は確認日現在の2007年ハーグ養育費条約の締約状況表(https://www.hcch.net/en/instruments/conventions/status-table/?cid=131)に締約当事者として掲載されていないため,相手国が締約国であることだけで中央当局間の経路を前提にしない。

各国の制度の役割を横断して比較したい場合は,養育費法制の国際比較を参照されたい。
本記事の第3以下では,個別の請求と回収に必要な法的段階を説明する。

第2 誰の権利を,どの手続で行使するか

離婚に伴い監護親が他方の親へ子の監護費用の分担を求める場合,子自身の扶養料請求権を行使する場合,既にある外国裁判に基づいて支払を求める場合では,権利者,申立人,必要な書類及び手続が異なる。受任時には,合意書,調停調書,審判書,判決書のどれがあるか,その文書で誰が債権者とされ,どの期間・金額の支払が命じられているかを先に読む。

扶養義務の準拠法に関する法律6条は,扶養権利者のためにその権利を行使できる者の範囲等を扶養義務の準拠法に委ねる。親権者や監護者であるというだけで,常に自己名義で子の扶養請求権を行使できると決めない。外国の親権・監護裁判の効力,子の手続行為能力,法定代理及び利益相反も区別して調べる。日本の家事事件での申立人は,監護費用分担の手続か子の扶養請求の手続かに応じて確認する。

第3 日本の裁判所に国際裁判管轄があるか

離婚訴訟に子の監護費用の分担に関する裁判を附帯して求める場合は,人事訴訟法3条の4を確認する。これとは別に養育費又は扶養について審判を求める場合,家事事件手続法3条の10は,申立人でない扶養義務者,又は扶養権利者(監護費用分担では子の監護者若しくは子)の住所が日本国内にあることを管轄原因とする。住所がないか知れないときは居所を確認する。調停の国際裁判管轄は同法3条の13,特別の事情による申立ての却下は同法3条の14で別に確認する。

ここでいう管轄の住所・居所と,後述する準拠法の連結点である常居所を混同しない。子が日本国籍であること,日本に一時滞在したことだけで日本の管轄を断定せず,住所の資料,転居の経緯,相手方の所在,証拠の所在地をそろえる。日本に国際裁判管轄があると分かった後も,どの家庭裁判所へ申し立てるかという国内の土地管轄を別に確認する。神戸家庭裁判所の案内も,離婚に伴う養育費の管轄と準拠法を分けて示している。

第4 養育費の準拠法を決める

親子間の扶養義務の準拠法は,親権等の親子関係を扱う通則法32条から直ちに決めず,扶養義務の準拠法に関する法律2条を確認する。扶養権利者の常居所地法が第一順位であり,その法によって扶養を受けられなければ当事者の共通本国法,それでも扶養を受けられなければ日本法へ進む。単に前順位法による金額が低いという理由で,次の法を自由に選べるわけではない。

子が重国籍の場合,扶養法には通則法38条1項のような国籍一本化規定がない。共通に有する国籍の法が共通本国法となり得ること,その判断が同法2条1項ただし書の解釈であることを確認する。扶養法2条2項は重国籍者の特則ではなく,日本法へ進むための規定である。外国法で扶養を受けられるかを判断する際は,成年年齢,教育中の子への扶養,障害,期間及び権利行使者を,条文の施行日とともに調べる。詳しくは国際扶養の準拠法を参照されたい。

第5 外国の養育費裁判を日本で使う

外国に養育費を命じる裁判があるときは,新たな日本の本案裁判を起こす前に,その裁判の確定性,給付を命じる部分,債権者・債務者,対象期間を確認する。家事事件手続法79条の2は,外国裁判所の家事事件についての確定した裁判等につき,性質に反しない限り民事訴訟法118条を準用する。同条の承認要件は,外国裁判所の裁判権,敗訴者への適法な呼出し又は応訴,内容と手続の公序,相互の保証である。外国で裁判を得たことだけで日本における効力を断定しない。

承認され得ることと,その裁判に基づき日本で強制執行できることも別である。民事執行法24条による執行判決の要否・管轄を確認する。家事事件の裁判に係る執行判決を求める訴えは,原則として家庭裁判所が管轄する。執行判決を得た後,国内の給与・預金等について債務名義に基づく執行を検討する。外国の文書が判決・審判・公的機関の判断のどれに当たるか,給付部分が確定しているかは,原文と外国法資料で確認する。

中国の人民法院の判決又は調解書に養育費の支払が定められている場合も,日本で当然に執行できるわけではない。
家事事件手続法79条の2,民事訴訟法118条及び民事執行法24条を確認し,身分関係の部分と金銭給付の部分を分けて検討する必要があるため,詳しくは中国の養育費(抚养费)の法制度―金額・支払終期・未払いと日中間の請求・執行を参照されたい。

フィリピンのFamily Courtその他の裁判所が養育費を命じた場合も,日本で当然に執行できるわけではない。
家事事件手続法79条の2,民事訴訟法118条及び民事執行法24条により,外国裁判所の裁判権,通知・応訴,公序,相互の保証,確定及び執行判決を確認する必要があるため,詳しくはフィリピン法の養育費―金額・請求時期・何歳まで・日比間の承認と執行を参照されたい。

第6 日本の判断を外国で回収に使う場合

債務者の給与や預金が外国にしかないときは,日本の調停調書や審判・判決を得るだけでは回収工程は終わらない。執行先国でその判断が承認又は執行の対象になるか,同国の手続,必要な確定証明・送達記録・翻訳及び現地代理人を確認する。日本の執行判決や差押命令を外国の財産へそのまま及ぼすとは説明しない。

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戸籍の名字の異字体を正字体に戻す方法―申出・氏の変更許可・戸籍訂正の区別(AI作成)

目次第1 結論―文字の関係によって手続が三つに分かれる1 最初に確認すべき三つの経路2 「異体字」という呼び方だけでは決められない理由第2 同じ字種の正字へ直す市区町村への申出1 申出で処理できる範囲2 自治体が示している具体例3 個別の文字を窓口で確認する方法第3 申出人,提出先及び変更の効果1 申出人と提出先2 一つの戸籍ごとの確認3 一度直した文字を元へ戻す場合第4 別の字種へ変える場合の氏の変更許可1 戸籍法107条の手続になる場合2 申立人,申立先,費用及び資料3 許可後の届出第5 現在の戸籍記載自体が誤っている場合の戸籍訂正1 市区町村長による戸籍法24条の訂正2 家庭裁判所の許可を得る戸籍法113条の訂正第6 手続を進める順序1 現在の文字と希望する文字を固定する2 本籍地へ確認する質問3 変更後に確認する事項第7 よくある疑問1 「髙」を「高」にする場合も申出だけで済むか2 正字へ直せば全ての名義が自動的に変わるか3 電子手続で異体字を入力できない問題とは同じか第8 まとめ第9 出典及び確認日1 法令2 裁判所及び自治体の公式案内3 行政研究資料及び文字情報

戸籍の名字に使われている異字体を一般的な正字へ直したい場合,最初から家庭裁判所へ申し立てるとは限りません。
現在の文字と希望する文字が戸籍実務上で同じ字種の対応関係にあれば,市区町村への申出で処理できることがあります。
別の字種への変更であれば氏の変更許可,現在の戸籍記載そのものが誤っていれば戸籍訂正が問題となるため,三つの経路を区別する必要があります。

第1 結論―文字の関係によって手続が三つに分かれる
1 最初に確認すべき三つの経路

戸籍の文字を正字へ直す手続は,おおむね次のように整理できます。
ただし,個々の文字がどの類型に当たるかは見た目だけでは決められないため,本籍地の市区町村に現在の一字と希望する一字を示して確認する必要があります。

確認結果主な手続主な窓口・根拠同じ字種の俗字・誤字・旧字体から対応する正字・通用字体へ直す場合市区町村長の職権訂正を促す申出又は更正の申出原則として本籍地の市区町村現在の氏の記載は正しいが,別の字種の氏へ変えたい場合氏の変更許可を得た後の届出戸籍法107条,住所地の家庭裁判所出生届などの原始資料と異なる文字が記載されたなど,現在の戸籍に錯誤・遺漏がある場合市区町村長による訂正又は家庭裁判所の許可を得た戸籍訂正戸籍法24条・113条
2 「異体字」という呼び方だけでは決められない理由

日常用語では,旧字体,俗字,誤字,別体,フォントのデザイン差及び外字をまとめて「異体字」と呼ぶことがあります。
しかし,戸籍実務では,その呼び方よりも,二つの文字が同じ字種に属する対応字であるか,異なる字種であるかが重要です。

戸籍の文字は法務省の通達や文字情報に基づいて扱われており,漢字辞典やパソコンの変換候補だけで手続を確定することはできません。
令和6年5月にも誤字俗字・正字一覧表の一部改正が公表資料で確認できるため,特定の文字の組合せは現在の窓口運用で確認するのが安全です。

第2 同じ字種の正字へ直す市区町村への申出
1 申出で処理できる範囲

戸籍に氏又は名が俗字等若しくは誤字で記載されており,対応する同じ字種の正字等へ直す場合は,市区町村長限りで文字を訂正できる取扱いがあります。
また,通用字体と異なる字体を通用字体へ改める更正の申出として扱われる場合もあります。

この申出は,新しい氏を自由に選ぶための届出ではありません。
市区町村長に対して,現在の戸籍文字と対応正字との関係を確認した上で職権訂正を求める手続であり,対応関係に疑義があれば法務局への照会が行われることがあります。

2 自治体が示している具体例

岸和田市の公式案内は,氏の文字である「澤」を「沢」に,「邊」を「辺」に直す例を,申出によって変更できる例として掲げています。
同案内は,誤字から正字,俗字から正字,旧字体から通用字体への変更が可能である一方,「埜」から「野」のように字種・字体が全く異なる文字への変更は氏又は名の変更になると説明しています。

豊川市の公式案内も,誤字や俗字を正しい字に訂正でき,旧字体を対応する新字体へ訂正できると案内しています。
鹿嶋市の公式案内は,「濱」などの旧字体を正字又は通用字体へ直す申出を例示しています。

3 個別の文字を窓口で確認する方法

相談時には,「異体字を普通の字にしたい」とだけ伝えるのではなく,①戸籍全部事項証明書に記載された現在の文字,②希望する文字,③その文字が記載された経緯,④筆頭者と配偶者の状況を示すと,手続の分類を確認しやすくなります。
細かなはね,点,線の長短などはフォントによって見え方が変わるため,戸籍証明書の字形と希望字形を紙面で並べて示すのが実務的です。

法務省の「戸籍統一文字情報」は文字を調べる手掛かりになりますが,検索結果だけで申出の可否が決まるわけではありません。
最終的には,本籍地の市区町村が現行の通達・一覧表に照らして判断します。

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公正証書遺言と異なる遺産分割協議が相続税の申告期限までに成立しない場合の申告方法(AI作成)

目次第1 結論1 申告期限までに協議が成立しなくても申告期限は延びない2 申告内容は「遺言で取得済みか,真に未分割か」で決まる第2 公正証書遺言があっても,その内容を先に分類する1 公正証書という方式だけでは申告方法は決まらない2 遺言によって取得者が確定している財産3 遺言が相続分だけを定め,個々の財産が未分割である場合4 遺言の対象外となる財産第3 申告期限時点の状況別の申告方法1 遺言と異なる協議が成立している場合2 遺言で全部の取得者が確定し,協議が未成立の場合3 取得者が確定した財産と未分割財産が混在する場合4 遺言が相続分又は包括遺贈の割合だけを定める場合第4 未分割申告と分割見込書1 相続税法55条による仮の計算2 配偶者の税額軽減と小規模宅地等の特例3 申告期限後3年以内の分割見込書を付ける範囲第5 申告後に遺言と異なる合意が成立した場合1 真に未分割であった財産の後日分割2 遺言で取得済みであった財産の分け直し3 平成23年12月6日裁決が示す注意点第6 申告期限までに行う実務上の確認第7 設例による整理1 全財産を長男に相続させる遺言2 長男3分の2,長女3分の1とする遺言3 自宅だけを配偶者に相続させる遺言第8 よくある誤解第9 関連記事第10 出典1 法令・裁判例・裁決2 国税庁資料3 文献
第1 結論
1 申告期限までに協議が成立しなくても申告期限は延びない

公正証書遺言と異なる分け方を相続人らが話し合っていても,相続税の申告期限までに合意が成立しなければ,予定している分け方で申告することはできない。

相続税の申告期限は,原則として,相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内である。

協議中であること,遺産分割調停を申し立てたこと又は遺言執行者との調整が続いていることだけでは,この期限は延長されない。

2 申告内容は「遺言で取得済みか,真に未分割か」で決まる

申告期限時点で遺言と異なる合意が成立していない場合には,まず,遺言によって既に取得者が確定している財産と,なお共同相続人間で分割されていない財産とを分ける。

遺言によって取得者が確定している財産は,原則として遺言どおりに取得したものとして申告する。

これに対し,真に未分割である財産は,相続税法55条により,民法に規定する相続分又は包括遺贈の割合に従って各人が取得したものとして課税価格を計算する。

したがって,「協議が成立していないから,遺産全部を一律に法定相続分で申告する」という処理は正確でない。

第2 公正証書遺言があっても,その内容を先に分類する
1 公正証書という方式だけでは申告方法は決まらない

公正証書遺言は遺言の方式であり,公正証書であること自体から相続税申告の取得割合が決まるわけではない。

申告方法を決めるのは,遺言の各条項が,①特定の財産を特定の相続人に相続させる特定財産承継遺言,②特定遺贈,③包括遺贈,④相続分の指定,⑤遺産分割方法の指定,⑥残余財産条項のいずれに当たるかである。

遺言の表題や一部の文言だけでなく,遺言全文,予備的条項,債務・費用の負担及び遺言執行者の権限まで確認する必要がある。

2 遺言によって取得者が確定している財産

最高裁判所第二小法廷平成3年4月19日判決(平成元年(オ)第174号,民集45巻4号477頁)は,特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」趣旨の遺言について,特段の事情のない限り,何らの行為を要せず,被相続人の死亡時に直ちに当該相続人へ承継されると判示した。

また,特定遺贈は受遺者が放棄すれば遺言者の死亡時に遡って効力を失うが,放棄されていない限り,遺贈の目的財産は遺言に基づいて取得される。

「全財産を長男に相続させる」,「自宅不動産を妻に相続させる」,「全財産を甲に包括遺贈する」など,遺言によって取得者が確定する財産は,単に別の分け方を交渉中であるという理由で未分割財産にはならない。

3 遺言が相続分だけを定め,個々の財産が未分割である場合

「長男の相続分を3分の2,長女の相続分を3分の1とする」など,割合だけを指定し,個々の財産の取得者を定めていない遺言では,個々の遺産はなお未分割となり得る。

その場合,相続税法55条による仮の計算では,遺言による指定相続分を含む民法上の相続分又は包括遺贈の割合を確認する。

法定相続分を機械的に用いるのではなく,遺言による割合指定と包括遺贈の有無を先に確認する必要がある。

4 遺言の対象外となる財産

遺言作成後に取得した財産,記載漏れの預金,遺言条項の解釈上対象に含まれない財産その他の残余財産について,取得者を定める条項がなければ,その部分は未分割となり得る。

他方,死亡保険金,死亡退職金その他の相続税法上のみなし相続財産は,相続税の課税対象となっても,通常の遺産分割の対象とは限らない。

遺言の対象財産,民法上の遺産及び相続税の課税財産の三つを同じ一覧に混在させないことが重要である。

第3 申告期限時点の状況別の申告方法
1 遺言と異なる協議が成立している場合

(続きを読む...)公正証書遺言と異なる遺産分割協議が相続税の申告期限までに成立しない場合の申告方法(AI作成)

旧法の遺留分減殺訴訟における価額弁償の抗弁―誰が選択するか,条件付判決,金銭判決及び評価基準時(AI作成)

目次第1 結論第2 本記事が扱う旧法事案第3 価額弁償の抗弁の基本構造第4 訴訟の三つの分岐第5 平成9年最高裁判決の条件付判決第6 遺留分権利者が価額弁償請求権を行使した場合第7 裁判所の釈明・鑑定と当事者の選択第8 価額弁償額の評価基準時第9 主張立証で確認すべき事項第10 関連記事及び出典
第1 結論

令和元年6月30日までに開始した相続へ適用される旧法の遺留分減殺訴訟では,裁判所が当事者に代わって「現物返還ではなく金銭で解決する」と選択することはできない。

受遺者又は受贈者が旧民法1041条の価額弁償を選択し,裁判所が定める額を速やかに支払う意思を表明してその額の確定を求めた場合,裁判所は,その額が支払われなかったことを条件として現物返還請求を認容する条件付判決をすることができる。これは単純な「引換給付判決」ではない。

他方,受遺者又は受贈者が価額を弁償する旨を表明しただけで,遺留分権利者が価額弁償請求権を行使していない場合,裁判所は無条件の金銭支払を命じることができない。金銭請求権を確定的に取得するには,遺留分権利者による権利行使の意思表示が必要である。

第2 本記事が扱う旧法事案

平成30年法律第72号附則2条により,令和元年7月1日の施行日前に開始した相続には原則として従前の例が適用される。本記事は,旧民法1031条以下の遺留分減殺請求と旧民法1041条の価額弁償を扱う。

令和元年7月1日以後に開始した相続では,民法1046条により当初から遺留分侵害額に相当する金銭請求権が生じるため,本記事の物権的減殺,現物返還及び価額弁償の抗弁という構造は適用されない。

第3 価額弁償の抗弁の基本構造

旧法の遺留分減殺請求には物権的効力があり,減殺の意思表示によって,侵害の限度で目的物の所有権又は共有持分が遺留分権利者へ帰属する。したがって,訴訟の出発点は現物返還又は持分移転登記である。

旧民法1041条は,減殺を受ける受遺者又は受贈者に,目的物の価額を弁償して返還義務を免れる選択肢を与えた。価額弁償は裁判所の裁量による代償分割ではなく,受遺者又は受贈者が行使する抗弁である。

第4 訴訟の三つの分岐
当事者の意思表示権利関係判決の形受遺者等が価額弁償の抗弁を出さない遺留分権利者は現物の権利を有する現物返還・持分移転登記受遺者等が裁判所の定める額を速やかに支払う意思を表明し,額の確定を求める支払までは現物返還請求権が残る不払を条件とする現物返還の条件付判決さらに遺留分権利者が価額弁償請求権を行使する現物の権利を遡って失い,金銭請求権を確定的に取得する金銭支払判決
第5 平成9年最高裁判決の条件付判決

最高裁平成9年2月25日第三小法廷判決(平成6年(オ)第1746号,民集51巻2号448頁)は,受遺者が事実審口頭弁論終結前に,裁判所が定めた価額を速やかに支払う意思を表明し,その額の確定を求めたときは,その主張を価額弁償の抗弁として扱うことができるとした。

同判決が示した主文は,受遺者が裁判所の定めた額を支払わなかったことを条件として,遺留分権利者の現物返還請求を認容するものである。支払と登記を同時履行とする通常の引換給付とは,条件の置き方が異なる。

第6 遺留分権利者が価額弁償請求権を行使した場合

最高裁平成20年1月24日第一小法廷判決(平成18年(受)第1572号,民集62巻1号63頁)は,受遺者等が価額を弁償する旨を表明し,遺留分権利者が価額弁償請求権を行使したとき,遺留分権利者は目的物の所有権及び現物返還請求権を遡って失い,これに代わる価額弁償請求権を確定的に取得するとした。

最高裁令和7年7月10日第一小法廷判決(令和6年(受)第2号)は,受遺者が価額弁償の意思を表明していても,遺留分権利者が価額弁償請求権を行使していない場合,裁判所は無条件の金銭支払を命じることができないと明確にした。

第7 裁判所の釈明・鑑定と当事者の選択

裁判所が,価額弁償の可能性,評価基準時,鑑定の要否又は和解による金銭解決について見解を示すことはある。しかし,その釈明・争点整理・証拠採否だけで,受遺者等の価額弁償の抗弁又は遺留分権利者の価額弁償請求権行使がされたことにはならない。

訴訟記録上は,誰が,いつ,どの意思表示をし,どの請求又は抗弁として陳述したかを区別する必要がある。裁判所が現在価額の鑑定を検討しているという事情だけから,現物返還の法律関係が金銭債権へ変わったと扱うことはできない。

第8 価額弁償額の評価基準時

最高裁昭和51年8月30日第二小法廷判決(昭和50年(オ)第920号,民集30巻7号768頁)は,現実に価額弁償がされる場合はその時の目的物価額により,訴訟で裁判所が額を定める場合はこれに最も近い事実審口頭弁論終結時の価額によるとした。

この基準時は,遺留分侵害の有無及び減殺割合を計算する相続開始時評価とは別である。地価が相続開始後に上昇又は下落していても,両者の評価目的を混同してはならない。

第9 主張立証で確認すべき事項

実務上は,①相続開始日,②減殺の意思表示と到達日,③減殺によって取得した権利の内容,④受遺者等の価額弁償の意思表示,⑤裁判所の定める額を速やかに支払う意思と額の確定を求める陳述,⑥遺留分権利者による価額弁償請求権行使,⑦評価対象,評価時点及び評価資料を時系列で整理する。

準備書面では,「価額弁償の抗弁」「条件付判決を求める陳述」「価額弁償請求権を行使する意思表示」を同じものとして記載せず,主体,時点及び法律効果を分ける必要がある。

第10 関連記事及び出典

評価基準時の全体像は,旧法事案の遺留分減殺請求における遺産の評価基準時を参照されたい。減殺請求後に換地処分があった土地については,相続開始後に遺留分減殺請求をし,その後に換地処分があった土地の評価基準時(AI作成)で説明している。

(続きを読む...)旧法の遺留分減殺訴訟における価額弁償の抗弁―誰が選択するか,条件付判決,金銭判決及び評価基準時(AI作成)

親子交流は調停と審判のどちらで決めるか―間接強制ができる定め方,試行的実施及び統計(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論1 対象とする場面2 結論の要点第2 親子交流を定める手続1 協議,調停及び審判2 交流の試行的実施第3 調停と審判の終わり方1 全国の統計(令和7年)2 東京家庭裁判所の説明第4 間接強制ができる定め方(最高裁平成25年3月28日決定)1 判断基準2 間接強制が認められた定め(平成24年(許)第48号)3 間接強制が認められなかった定め4 子が交流を拒んでいる場合第5 取決めが守られないときの手段1 履行勧告2 間接強制3 定めの変更第6 調停で決めるか審判で決めるか1 調停で決める場合の注意点2 審判を求める場合の注意点第7 関連記事第8 出典1 法令2 裁判例3 統計・裁判所の資料
第1 この記事の対象と結論
1 対象とする場面

本記事は,別居や離婚によって子と離れて暮らす親と子との交流(親子交流)を,家庭裁判所の調停で決めるか審判で決めるかを考える際に,知っておくべき法令,最高裁の判断及び統計を整理する。
令和6年の民法等の改正(令和6年法律第33号。令和8年4月1日施行)により,民法766条1項の「父又は母と子との面会及びその他の交流」は「父又は母と子との交流」と改められ,裁判所の手続案内でも「親子交流調停」の語が用いられている。
本記事の統計と裁判例は改正前のものであり,そこでは「面会交流」の語が使われているので,引用する箇所ではその語をそのまま用いる。

以下,最高裁の決定にならい,子を監護している親を「監護親」,子を監護していない親を「非監護親」という。
本記事の条文は,令和8年9月28日時点の現行法をe-Gov法令検索で確認した。

2 結論の要点

①令和7年に全国の家庭裁判所で終局した面会交流の事件1万2135件のうち,調停成立は6508件(53.6%),審判による認容は1495件(12.3%)であった。
②調停調書でも審判でも,面会交流の日時又は頻度,各回の時間の長さ,子の引渡しの方法等が具体的に定められ,監護親がすべき給付が特定されていれば,間接強制ができる(最高裁平成25年3月28日決定)。
③最高裁は同時に,面会交流は柔軟に対応できる条項に基づき,監護親と非監護親の協力の下で実施されることが望ましいとも述べている。
そのため,取決めでは,協力による柔軟な実施と,守られない場合に備えた特定とをどう両立させるかが問題になる。
④改正法により,審判事件と調停事件で家庭裁判所が当事者に交流の試行的実施を促す規定が設けられた(家事事件手続法152条の3,258条3項)。
⑤取決めが守られないときは,履行勧告,間接強制,定めの変更の申立てを使い分けることになる。

第2 親子交流を定める手続
1 協議,調停及び審判
(1) 民法の定め

民法766条1項は,父母が協議上の離婚をするときは,「子の監護をすべき者又は子の監護の分掌、父又は母と子との交流、子の監護に要する費用の分担その他の子の監護について必要な事項は、その協議で定める。この場合においては、子の利益を最も優先して考慮しなければならない。」と定める。
同条2項は,協議が調わないとき又は協議をすることができないときは,家庭裁判所が同項の事項を定めるとする。
離婚前の別居中の交流など,766条の場合のほかの交流については,民法817条の13第1項・2項が,父母の協議で定め,協議が調わないときは家庭裁判所が父又は母の請求により定めるとしている。
祖父母等の父母以外の親族と子との交流は,祖父母等と子との交流―最高裁令和3年3月29日決定と民法766条の2で扱っている。

(2) 調停から審判へ

家庭裁判所の手続は,通常,親子交流調停の申立てから始まる。
裁判所の「親子交流調停」の案内は,「話合いがまとまらず調停が不成立になった場合には審判手続が開始され、裁判官が、一切の事情を考慮して、判断(審判)をすることになります。」と説明している。
家事調停の申立てから終了までの流れは,家事調停の申立て,進行,ウェブ会議及び終了後の手続で扱っている。

2 交流の試行的実施

家事事件手続法152条の3第1項は,「家庭裁判所は、子の監護に関する処分の審判事件(子の監護に要する費用の分担に関する処分の審判事件を除く。)において、子の心身の状態に照らして相当でないと認める事情がなく、かつ、事実の調査のため必要があると認めるときは、当事者に対し、子との交流の試行的実施を促すことができる。」と定める。
同条2項により,家庭裁判所は,交流の方法,日時,場所,家庭裁判所調査官その他の者の立会いの有無を定め,子の心身に有害な影響を及ぼす言動の禁止等の条件を付けることができ,同条3項により,結果の報告を求めることができる。
この規定は,子の監護に関する処分の調停事件(養育費に関するものを除く。)と離婚調停事件に準用される(同法258条3項)。

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遺産分割調停・遺留分調停で固定資産評価証明書をどう取るか-統一様式が使えない理由と相続人・共有者・相手方名義の場合(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論1 対象とする手続と基準日2 結論第2 弁護士の統一様式が使えない理由1 統一様式の根拠は申立人自身の請求権である2 家事調停・審判は対象の申立てに入っていない3 遺留分侵害額請求の訴えも対象外と考えられる第3 誰の名義の,どの年度の証明書が必要か1 固定資産税の名義は1月1日で決まる2 手続ごとに求められる年度3 発行できる年度には限りがある第4 自分で取れる場合1 被相続人に関する年度を相続人として取る2 遺産共有中の不動産を共有者として取る3 代理人弁護士が依頼者の委任を受けて取る第5 相手方名義の不動産で自分では取れない場合1 自分では取れないと考えられる理由2 相手方に提出を求める3 調停委員会に調査嘱託又は文書送付嘱託を求める4 弁護士会照会は回答を得にくい5 評価証明書が取れなくても手続は進められる第6 申請前に確認する事項第7 関連記事第8 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 公文書4 裁判所の案内・説明資料5 自治体の案内6 職能団体の資料
第1 この記事の対象と結論
1 対象とする手続と基準日

本記事は,遺産分割調停・審判と,遺留分侵害額の請求調停で,不動産の固定資産評価証明書をどのように取得するかを扱う。
遺留分侵害額の請求調停は,令和元年7月1日以後に開始した相続についての手続である。
法令は令和8年9月28日現在の条文により,裁判所と自治体の案内は同日に確認した内容による。

裁判所の全国共通の案内は,遺産分割調停について「不動産登記事項証明書及び固定資産評価証明書」を,遺留分侵害額の請求調停について「不動産登記事項証明書,固定資産評価証明書」を,それぞれ標準的な申立添付書類として掲げている(裁判所「遺産分割調停」,裁判所「遺留分侵害額の請求調停」)。
ところが,訴訟の準備であれば弁護士が所有者の委任なしに評価証明書を取れる「統一様式」は,家事調停では使えない。
そのため,家事調停では,誰の名義の,どの年度の証明書が必要かによって,取り方を組み立て直す必要がある。

2 結論

結論は,次のとおりである。
①弁護士の統一様式は,遺産分割調停・審判と遺留分侵害額の請求調停のためには使えない。
②被相続人が納税義務者であった年度(死亡した年の年度等)の証明書は,相続人として,自分で請求できる。
③遺産分割前で相続登記がされていない不動産は,共同相続人の一人として,自分で請求できる場合が多い。
④相続登記又は遺贈・贈与の登記により相手方の名義になった後の年度の証明書は,自分では取れないと考えられる。
その場合は,相手方に提出を求めるか,調停委員会の手続(調査嘱託等)を求めることになり,弁護士会照会は回答を得にくい。
⑤評価証明書は評価の資料の一つにすぎず,取れない物件があっても,登記事項証明書で物件を特定し,評価の合意又は鑑定へ進むことができる。

第2 弁護士の統一様式が使えない理由
1 統一様式の根拠は申立人自身の請求権である

弁護士が所有者の委任状なしに評価証明書を取れるのは,地方税法382条の3と地方税法施行令52条の15の表第4号によるものである。
地方税法382条の3は,「市町村長は、第二十条の十の規定によるもののほか、政令で定める者の請求があつたときは、これらの者に係る固定資産として政令で定めるものに関して固定資産課税台帳に記載をされている事項のうち政令で定めるものについての証明書を交付しなければならない。」と定める。

施行令52条の15の表第4号は,「民事訴訟費用等に関する法律(昭和四十六年法律第四十号)別表第一の一〇の項ロ及び一三の項から一四の二の項まで並びに別表第二の一の項から七の項まで及び一一の項の上欄に掲げる申立てをしようとする者」を掲げ,対象となる固定資産を「当該申立ての目的である固定資産」に限っている。
つまり,この制度は,一定の申立てをしようとする人自身に,申立ての目的となる不動産の証明書を請求する権利を認めたものである。
日本弁護士連合会が定める「固定資産評価証明書の交付申請書」(統一様式)は,弁護士が代理人としてこの請求をするための書式である。

2 家事調停・審判は対象の申立てに入っていない
(1) 政令が掲げる申立て

政令が掲げる申立ては,訴えの提起,控訴・上告,請求の変更,反訴,参加,支払督促,民事保全,借地非訟,民事調停及び労働審判と,これらの一部の申立ての変更である。
家事審判と家事調停の申立ては,民事訴訟費用等に関する法律別表第一の15の項・15の2の項に掲げられているが,政令はこれらの項を掲げていない。
遺産分割調停・審判も遺留分侵害額の請求調停も家事事件であるから,申立人は,この制度による請求権を持たないことになる。

(2) 日本弁護士連合会と自治体の案内

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国際扶養の準拠法―常居所地法・共通本国法・日本法(AI作成)

目次第1 扶養は独立して準拠法を決める第2 三段階の連結第3 成年年齢との関係第4 重国籍と共通本国法第5 実務上の確認事項第6 出典

国際的な親子間の扶養料請求では,親権者,法定代理人,子の成年年齢及び扶養義務の準拠法を分けて考える必要がある。本記事は,扶養義務の準拠法に関する法律を中心に,令和8年9月28日現在の日本法を整理する。

第1 扶養は独立して準拠法を決める

親権等の親子間の法律関係は法の適用に関する通則法32条によるが,扶養義務については同法43条1項により同条の適用が除外され,特別法である「扶養義務の準拠法に関する法律」による。子の国籍法が成年年齢を16歳とすることや,一方の親が単独親権者であることだけで,扶養請求の準拠法と結論を決めることはできない。

第2 三段階の連結

扶養義務の準拠法に関する法律2条1項本文は,扶養権利者の常居所地法を第一順位とする。同法によって扶養を受けられないときは,当事者の共通本国法を第二順位とする。同項ただし書及び2項により,これらの法によっても扶養を受けられないときは日本法による。

この段階的連結は,第一順位の法を適用した結果が不利なら自由に次の法を選べる制度ではない。「扶養を受けることができない」場合に限って次順位へ進む。扶養の要件,権利者・義務者の範囲,程度,期間,変更・消滅等を各準拠法について確認する必要がある。

第3 成年年齢との関係

外国法が親の扶養義務を「未成年子」に限り,成年年齢を16歳と定める場合でも,16歳以上の子が扶養を受けられないと直ちに結論づけない。「未成年子」の該当性を扶養準拠法の実体要件として判断するのか,別個の先決問題として子の本国法等により判断するのかを検討する。前者の構成で扶養が認められなければ扶養法2条の次順位法を確認し,後者の構成なら別に定まる成年年齢と扶養準拠法上の要件を組み合わせて検討する。外国法が具体的な年齢を定めるのか,「未成年者」という概念を用いるのかも条文と解釈資料で確認する。

子の扶養請求権の存否,子のために権利を行使できる者,親権・法定代理権及び日本の裁判所での手続行為能力は,問題ごとに分けて確認する。扶養法6条は,扶養権利者のために権利を行使できる者の範囲等を扶養義務の準拠法に委ねる。親権等の親子間の法律関係には通則法32条が関わり,日本での申立ての方式や手続上の代理には日本の手続法も関わる。日本国籍を含む重国籍者の本国法を通則法によって決める場面では,同法38条1項ただし書も確認する。

第4 重国籍と共通本国法

扶養義務には通則法38条1項の国籍一本化規定をそのまま適用せず,扶養法にも同様の規定はない。扶養法2条1項ただし書の「当事者の共通本国法」は,両当事者が共通に国籍を有する国があればその国の法を指すと解される。これは同項ただし書の解釈であり,扶養法2条2項に重国籍者の特則があるわけではない。同条2項は,先順位の法によっても扶養を受けられない場合に日本法を適用する規定である。

例えば,子が日本国籍と甲国籍を有し,父が甲国籍だけを有する場合,共通本国法として甲国法が第二順位になり得る。子が日本国籍を含むため能力について日本法が本国法になることと,扶養の第二順位に甲国法が現れることは矛盾しない。問題ごとに適用法令が異なるためである。

第5 実務上の確認事項

①扶養権利者・義務者の国籍と重国籍の組合せ。
②権利者の常居所地。短期滞在先と生活の本拠を区別する。
③第一順位法で扶養を受けられるか。年齢だけでなく,教育中の子,障害のある成年子等の規律も調べる。
④共通本国法の有無と,重国籍者が共通に有する国籍。
⑤日本法に進む要件を満たすか。
⑥扶養法6条による権利行使者,親権・法定代理,利益相反,外国の親権・監護裁判の承認を分けて確認する。
⑦外国法の条文,判例,運用及び日本語訳を提出できる形で準備する。

請求・回収までの手順は、関連記事「国際養育費の請求と回収―準拠法・日本の裁判管轄・外国裁判の承認と強制執行」を参照されたい。

中国法が準拠法となる場合,最高人民法院の婚姻家庭編解釈(一)49条は,子の実際の必要,父母双方の負担能力及び現地の実際の生活水準から養育費を定め,固定収入がある場合の20~30%を一般的な基準とする。
この割合を機械的な定額とせず,支払終期,教育費・医療費,増額及び日中間の承認・執行も分けて確認する必要があるため,詳しくは中国の養育費(抚养费)の法制度―金額・支払終期・未払いと日中間の請求・執行を参照されたい。

扶養権利者である子の常居所がフィリピンにある場合,扶養義務の準拠法に関する法律2条1項本文により,まずフィリピン法による扶養請求の可否を検討する。
子又は親がフィリピン国籍であることだけで当然にフィリピン法が適用されるわけではなく,常居所を先に確定する。
フィリピン家族法194条・201条~203条は,養育費の費目,義務者の資力と権利者の必要に応じた金額,増減及び請求時期を定め,成年後の教育費も問題となるため,詳しくはフィリピン法の養育費―金額・請求時期・何歳まで・日比間の承認と執行を参照されたい。

例えば,イギリスの養育費のうちイングランド及びウェールズ法では,CMSの常居所要件とFamily Courtの権限を区別し,Children Act 1989 Schedule 1は定期金,一時金及び財産に関する命令を定める。
CMSと裁判所の対象年齢は同じではないため,詳しくはイギリスの養育費の法制度―CMSの計算・対象年齢・不払い・日本からの請求を参照されたい。

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国際親子関係の準拠法―嫡出推定・嫡出否認・重国籍・出訴期間(AI作成)

目次第1 準拠法を決める単位第2 嫡出親子関係の成立第3 嫡出否認第4 重国籍者の本国法第5 実務上の確認事項第6 出典

国際的な親子関係では,DNA上の父子関係だけでなく,どの国の法が嫡出推定を置き,誰が,どの方法・期間で否認できるかを確定しなければならない。本記事は,令和8年9月28日現在の法の適用に関する通則法を基礎に整理する。

第1 準拠法を決める単位

離婚の準拠法,嫡出親子関係の成立・否認の準拠法,認知の準拠法,親権等の親子間の法律関係の準拠法は同じとは限らない。離婚が成立した国又は親子関係を争う裁判所の所在地だけで準拠法を決めてはならない。

第2 嫡出親子関係の成立

通則法28条1項は,夫婦の一方の本国法で,子の出生時に子が嫡出となるべきときは,その子を嫡出である子とする。夫と妻のいずれか一方の本国法が嫡出性を認めれば足りる選択的連結であり,子の身分の安定を図る規定である。

どの期間に生まれた子を夫の子と推定するか,推定が及ばない場合があるかは,この準拠法によって判断する。出生時の夫婦双方の国籍を確認し,それぞれの国の嫡出推定規定を調査する必要がある。

第3 嫡出否認

嫡出否認は嫡出推定と表裏の関係にあるため,通則法28条の問題と解される。双方の本国法が子を嫡出とする場合,嫡出性を否定するには,原則として双方の法により否認が可能でなければならないと解されている。否認権者,否認原因,権利行使期間とその起算点,推定の及ばない子の扱いは,指定された法の内容を確認する。他方,日本の裁判所に訴える場合の訴状・送達等の手続は日本の手続法に従うため,外国法上の権利行使要件と日本の訴訟手続を分ける。

例えば,一方の法が母にも否認権を認め,出生を知った時から90日以内と定め,他方の法が母又は子にも否認権を認めて3年の期間を定めるときは,誰がいつ提訴したかを両法について検討する。片方の法の期間だけを満たしても,もう片方の法による嫡出性が残れば,否認請求が認められないことがある。

日本法については,令和4年法律第102号による改正後の民法772条以下と経過措置を確認する。現在の民法777条は原則3年の出訴期間を定めるが,出生時期によって改正前法が適用される可能性がある。

第4 重国籍者の本国法

通則法38条1項は,当事者が二つ以上の国籍を有するとき,原則として常居所を有する国が国籍国の一つであればその国の法を本国法とし,そうでなければ最も密接な関係がある国の法を本国法とする。ただし,日本国籍を含む重国籍者については日本法を本国法とする。

したがって,日本国籍と外国国籍を有する子又は親については,外国に常居所があっても,通則法上の本国法は日本法となる。ただし,扶養義務の準拠法については別の「扶養義務の準拠法に関する法律」が適用されるため,通則法38条をそのまま当てはめない。

第5 実務上の確認事項

①出生時の父母の婚姻関係と国籍,重国籍の有無。
②出生証明書,戸籍,婚姻・離婚の成立日。
③各国法の嫡出推定期間,否認権者,出訴期間及び起算点。
④外国法上の裁判手続と,日本の人事訴訟・家事事件の国際裁判管轄。
⑤反致を扱うときは通則法41条の要件とただし書の適用除外を確認する。試験問題が反致の検討を不要と指定している場合は,その指定を答案に明示する。当事者の契約だけで親子の身分関係の抵触規則を排除したと扱わない。
⑥日本法の改正前後を分けるための出生年月日。

第6 出典

①e-Gov法令検索「法の適用に関する通則法」28条,29条,30条,38条,41条。
②e-Gov法令検索「民法」772条~778条の2。
③e-Gov法令検索「人事訴訟法」。
④法務省「無戸籍でお困りの方へ・よくある御質問」。
⑤小出邦夫編著『一問一答 新しい国際私法』(商事法務,平成18年)138頁~140頁(設問135・136)。
⑥東京家庭裁判所令和3年1月4日審判(令和2年(家イ)第8523号。裁判所ウェブサイト未掲載)。判例の位置付けは北澤安紀「嫡出否認に関する準拠法」令和4年度重要判例解説283頁以下で確認した。

所有不動産記録証明制度とは―請求方法,必要書類,手数料及び検索漏れの注意点(AI作成)

目次第1 所有不動産記録証明制度の概要1 令和8年2月2日に始まった全国横断検索2 証明書に記載される情報第2 請求できる人1 所有権の登記名義人2 相続人その他の一般承継人3 代理人第3 請求先と請求方法1 全国の登記所へ請求できる2 書面請求3 オンライン請求第4 必要書類1 登記名義人本人が請求する場合2 相続人その他の一般承継人が請求する場合3 原本還付と補正への対応第5 検索条件と手数料1 氏名又は名称と住所による検索2 異体字と同名異人3 検索条件1件・1通ごとの手数料第6 検索結果に現れない主な場合1 登記上の氏名・住所と検索条件が一致しない場合2 制度上の検索対象外又は未反映の場合3 「該当なし」は不動産不存在の証明ではない第7 証明書を取得した後の調査1 物件ごとの登記事項証明書を確認する2 名寄帳等と組み合わせる3 相続財産調査の中で位置付ける第8 関連記事1 不動産登記制度に関する記事2 法務省の制度案内第9 出典1 法令・告示2 所管行政機関の解説・運用資料
第1 所有不動産記録証明制度の概要
1 令和8年2月2日に始まった全国横断検索

所有不動産記録証明制度は,特定の人又は法人が所有権の登記名義人として記録されている不動産を登記官が検索し,その結果を一覧にした証明書を交付する制度である。
令和6年4月1日に始まった相続登記の申請義務化に伴い,相続人が被相続人名義の不動産を把握しやすくし,相続登記の漏れを防ぐため,令和8年2月2日に施行された。

本記事は,令和8年9月28日現在の法令及び法務省資料を基準に,請求できる人,請求方法,必要書類,手数料及び検索結果を読む際の注意点を説明する。

2 証明書に記載される情報

証明書には,請求人の資格・氏名又は名称・住所,検索に用いた氏名又は名称・ローマ字氏名・住所・会社法人等番号,検索条件に該当した不動産の管轄登記所・種別・所在事項・不動産番号等が記載される。
証明書は検索結果の一覧であり,各不動産の持分,抵当権,差押え,信託その他の権利関係を網羅する登記事項証明書ではない。

第2 請求できる人
1 所有権の登記名義人

所有権の登記名義人は,自分を検索対象者として証明書の交付を請求できる。
自然人だけでなく,所有権の登記名義人である法人も対象となる。

2 相続人その他の一般承継人

所有権の登記名義人の相続人その他の一般承継人は,被相続人又は被承継人を検索対象者として請求できる。
相続人からの請求では,請求人自身の本人確認に加え,被相続人との相続関係を戸籍謄本,法定相続情報一覧図の写し等で明らかにする必要がある。

3 代理人

本人又は相続人その他の一般承継人は,代理人を通じて請求できる。
委任による代理人の場合,請求人の実印を押した委任状と請求人の印鑑証明書が必要となる。

第3 請求先と請求方法
1 全国の登記所へ請求できる

請求は,法務局・地方法務局の本局,支局及び出張所で取り扱われる。
検索対象となる不動産の所在地を管轄する登記所に限られないため,遠隔地の不動産を調べる場合でも,利用しやすい登記所を請求先に選べる。

2 書面請求

書面請求は,窓口への提出又は郵送によって行う。
郵送による受領を希望するときは,返送用封筒と切手を提出する必要がある。

書面の請求書では,一つの検索条件欄に複数の氏名又は住所をまとめて記載せず,現在の氏名・住所と過去の氏名・住所を別々の検索条件として記載する。

3 オンライン請求

オンライン請求は,登記・供託オンライン申請システムの申請用総合ソフトで「所有不動産記録証明書交付請求書」を選択し,必要事項を入力して電子署名を付して送信する。
必要書類も全てオンラインで提供する必要があり,証明書は郵送又は指定した登記所の窓口で受領できる。

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相続開始後に遺留分減殺請求をし,その後に換地処分があった土地の評価基準時(AI作成)

目次第1 本件の結論1 相続開始,減殺請求,換地処分の順に検討する2 換地後の価格を相続開始時へ遡らせるわけではない第2 旧法の遺留分減殺請求が適用される範囲1 適用法は減殺請求日ではなく相続開始日で決まる2 減殺請求後は目的土地について共有持分が生じる第3 遺留分を計算するための従前地の評価1 基礎財産は相続開始時に評価する2 相続開始時の事業段階を価格へ反映する第4 減殺請求後の換地処分による権利の移行1 従前地の法律関係は換地へ移る2 遺留分権利者の共有持分も換地へ移る3 清算金は原則として同じ持分割合で按分される第5 換地処分後に価額弁償をする場合1 価額弁償の基準時は相続開始時ではない2 換地処分後は換地の持分を評価する3 清算金の二重計上を避ける第6 事案によって結論が変わる分岐1 金銭解決が裁判所の職権で選ばれるわけではない2 換地が定められなかった場合3 減殺請求前に処分があった場合第7 主張立証及び鑑定で準備する資料1 二つの評価書を区別する2 換地関係資料を時系列でそろえる第8 関連記事1 旧法の評価基準時及び計算方法2 訴額との区別第9 まとめ1 本件では二つの基準時を使い分ける第10 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 土地区画整理事業及び清算金の取扱資料
第1 本件の結論

本記事は,土地区画整理事業中の土地について,相続開始後に旧法の遺留分減殺請求がされ,その後に換地処分が行われた場合の評価を扱う。制度の仕組みは土地区画整理事業の総合解説を参照されたい。現行法の遺留分侵害額請求へ,旧法の物権的効果や価額弁償の説明をそのまま当てはめることはできない。

以下の四つの段階を分けると,遺留分の計算と価額弁償の評価基準時が異なることを把握しやすい。

段階本記事で区別する問題相続開始遺留分の算定に用いる財産と,相続開始時の従前地の評価。遺留分減殺請求旧法の減殺請求によって生じる従前地の法律関係と持分。換地処分・公告従前地から換地への法律関係の移行と,公告翌日の清算金の確定。価額弁償価額弁償の対象となる換地の評価と,清算金の別処理・二重計上の防止。
1 相続開始,減殺請求,換地処分の順に検討する

本記事が扱うのは,①被相続人の死亡により相続が開始し,②遺留分権利者が土地について旧法上の遺留分減殺請求を行い,③その後に土地区画整理事業の換地処分が効力を生じた場合である。
調査基準日は令和8年9月29日であり,令和元年6月30日までに開始した相続へ適用される改正前民法を前提とする。

結論として,土地の評価基準時は,評価の目的によって二つに分かれる。
遺留分侵害の有無及び減殺の割合を決めるための評価は相続開始時であり,その時点の従前地を評価する。
これに対し,換地処分後に旧民法1041条の価額弁償によって現物返還を免れる場合は,原則として現実の弁償時の換地を評価し,訴訟では事実審口頭弁論終結時の換地を評価する。

清算金については,換地処分時までに減殺請求による共有関係が成立していれば,その共有所有権について生じる交付清算金又は徴収清算金は,原則として従前地の共有持分と同じ割合で各共有者に按分される。
ただし,清算金が減殺請求時に土地とともに「移動」するのではなく,換地処分の公告日の翌日に,各共有者と施行者との間で持分割合に応じた独立の債権又は債務として確定するという関係である。

評価の目的評価対象評価基準時遺留分侵害及び減殺割合の計算相続開始時の従前地相続開始時減殺後の権利の帰属従前地から移行する換地の持分換地処分の効力発生時に権利の客体が換地へ移るため,新たな減殺割合の計算はしない旧民法1041条の価額弁償換地処分後の換地の持分現実の弁償時。訴訟では事実審口頭弁論終結時換地計画で定められた清算金共有持分に対応して別個に確定する清算金債権又は債務換地処分の公告日の翌日。原則として同日時点の共有持分割合で按分
2 換地後の価格を相続開始時へ遡らせるわけではない

相続開始時評価では,後に成立した換地の現在価格を用いるのではなく,相続開始時に存在した従前地の客観的交換価値を求める。
相続開始時に土地区画整理事業が既に進行していた場合は,当時の事業計画,仮換地指定,使用収益制限及び市場の認識が従前地の価格形成要因になり得るが,その後の換地処分によって判明した結果を当然に相続開始時へ遡及させるものではない。

換地処分後の価額弁償では,反対に,既に権利の客体が従前地から換地へ移っているため,存在しない従前地の現在価格を仮定するのではなく,換地の現実の価額を基礎とするのが相当である。
ただし,この結論は遺留分法と土地区画整理法を組み合わせた解釈であり,本件と同じ時系列を直接判断した公刊裁判例は,本記事で確認した範囲では見当たらなかった。

第2 旧法の遺留分減殺請求が適用される範囲
1 適用法は減殺請求日ではなく相続開始日で決まる

平成30年法律第72号による遺留分制度の改正は,原則として令和元年7月1日に施行された。
同法附則2条により,施行日前に開始した相続については原則として従前の例によるため,被相続人が令和元年6月30日までに死亡した場合は,減殺請求又は換地処分が同年7月1日以後であっても旧法事案となり得る。

令和元年7月1日以後に開始した相続では,民法1046条により遺留分侵害額に相当する金銭の支払請求が生じるだけであり,土地の共有持分を物権的に取得する旧法の構造は採られていない。
したがって,本記事の「減殺請求後に持分が換地へ移る」という説明は,改正前民法が適用される相続に限られる。

2 減殺請求後は目的土地について共有持分が生じる

旧法上,遺留分減殺請求の意思表示が効力を生じると,遺留分を侵害する限度で目的物について遺留分権利者の権利が生じる。
最高裁令和7年7月10日第一小法廷判決(令和6年(受)第2号,遺留分減殺請求事件)は,旧法事案について,価額弁償請求権が確定的に取得されるまでは,遺留分権利者が減殺によって取得した共有持分権及びこれに基づく現物返還請求権を有することを前提としている。

本件では,換地処分の前に減殺請求がされているため,換地処分時には受遺者又は受贈者だけでなく,遺留分権利者も従前地の持分権者となっていることを出発点とする。
減殺請求前に受遺者が土地を第三者へ売却した場合とは,評価対象及び適用される法理が異なる。

(続きを読む...)相続開始後に遺留分減殺請求をし,その後に換地処分があった土地の評価基準時(AI作成)

未成年子による扶養料請求の法定代理と利益相反―単独親権・共同親権・特別代理人の実務(AI作成)

目次

第1 結論
第2 最初に区別すべき二つの請求
第3 未成年の子に手続行為能力はあるか
第4 誰が法定代理人になるか
第5 相手方と親権者の組合せによる類型別整理
第6 四つの「代理人」を区別する
第7 兄弟姉妹・並行請求・和解における利益相反
第8 共同親権施行後の注意点
第9 申立前の実務チェックリスト
第10 子の意思の把握
第11 国際扶養事件では準拠法を別に確認する
第13 まとめ

◯以下の記事も参照してください。
・ 父母間の養育費合意は子自身の扶養料請求を妨げるか―免除条項・事情変更・二重請求の整理(AI作成)
・ 親と未成年の子の利益相反と特別代理人―遺産分割・相続放棄・担保提供の判断基準と代理権の濫用(AI作成)
・ 訴訟能力,訴状等の受送達者,審判前の保全処分及び特別代理人(AIリライト)

第1 結論

未成年の子が父又は母に民法877条以下の扶養料を請求する場合,申立人は子であり,金銭給付を求める通常の扶養請求では,子は法定代理人を通じて手続を行うのが原則である。子と同居している,日常の監護をしている,又は離婚時に監護者と定められたというだけで,その親に当然に法定代理権が生じるわけではない。まず親権者又は未成年後見人を確認する必要がある。

次に,法定代理人となるべき者と子との間に利益相反がないかを確認する。典型例は,子が扶養料を請求する相手方自身が親権者である場合である。この場合,その親が子を代理して自分を相手に申し立てることはできず,民法826条の特別代理人が問題となる。共同親権者の一方だけが相手方である場合も,「他方の親だけで足りる」と即断せず,非利益相反の親と特別代理人との共同代理の要否を検討する。

弁護士を選任しても,その前提となる法定代理権の欠缺又は利益相反が当然に治癒されるわけではない。また,民法826条の特別代理人,家事事件手続法19条の手続上の特別代理人及び同法22条・23条の手続代理人は,根拠・選任主体・権限が異なる。

第2 最初に区別すべき二つの請求

請求権利主体・当事者主な根拠通常の申立人

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父母間の養育費合意は子自身の扶養料請求を妨げるか―免除条項・事情変更・二重請求の整理(AI作成)

◯以下の記事も参照してください。
・ 養育費の取り決め方―共同養育計画書・合意書・公正証書・調停調書の違い(AI作成)
・ 養育費算定表の見方,計算方法及び法定養育費との違い(AI作成)
・ 養育費は18歳・20歳・大学卒業のいつまでか―未成熟子と支払終期(AI作成)
・ 未成年子による扶養料請求の法定代理と利益相反―単独親権・共同親権・特別代理人の実務(AI作成)

目次

第1 結論―父母間の合意と子自身の権利は同じではない
第2 養育費分担請求と扶養料請求の法的な違い

1 父母間の養育費分担
2 子自身の扶養料請求
3 権利を処分できないことと具体額が残ることは別問題である

第3 父母間の合意が子自身の請求に及ぼす影響

1 原則―父母だけの合意で子の抽象的な権利を消滅させることはできない
2 実際に扶養が履行されていれば具体的な不足額がないことがある
3 同じ費用の二重取得は認められない

第4 合意条項ごとの検討

1 定額の養育費合意
2 養育費を支払わない旨の合意
3 清算条項・今後請求しない旨の条項
4 大学費用・医療費等の特別費用

第5 事情変更と見直し
第6 家裁裁判例から見た判断要素

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子の引渡しの間接強制と権利濫用―最高裁平成31年決定と令和4年決定の違い(AI作成)

第1 結論第2 子の引渡しを実現する手続1 子の引渡しを命ずる審判と強制執行2 間接強制と直接的な引渡しの実施3 人身保護請求とは区別する第3 最高裁平成31年4月26日決定1 事案の経過2 最高裁の判断3 射程第4 最高裁令和4年11月30日決定1 事案の経過2 最高裁の判断3 宇賀克也裁判官の補足意見第5 二つの決定の違い第6 申立て・抗告で確認する事項1 拒絶の言葉だけで結論を出さない2 時系列と働き掛けを具体化する3 手続ごとの判断対象を混同しない第7 関連記事第8 出典
第1 結論

子が引渡しを拒んでいることは,子の引渡しを命ずる審判を債務名義とする間接強制を直ちに妨げる理由にはなりません。
もっとも,直接的な引渡しの実施が子の心身への重大な悪影響のおそれを理由に不能となり,人身保護請求でも子が自由意思に基づいて現在の監護者の下にとどまっていると判断された後に,金銭の支払で監護者を心理的に圧迫することは,過酷な執行として権利濫用となることがあります。

最高裁平成31年4月26日決定・平成30年(許)第13号は,先行する引渡執行と人身保護請求の具体的な経過を踏まえて,間接強制の申立てを権利濫用としました。
これに対し,最高裁令和4年11月30日決定・令和3年(許)第17号は,審判確定後約2か月の間に子が2回拒絶したにとどまる事案で,権利濫用とした原決定を破棄しました。

二つの決定は,子の拒絶意思を重視するか否かという抽象的な対立ではありません。
子の拒絶の現れ方,子への影響,先行手続の結果,現在の監護者が引渡しのためにした働き掛けなどを,具体的な時系列に沿って比較した判断です。

第2 子の引渡しを実現する手続
1 子の引渡しを命ずる審判と強制執行

家庭裁判所が子の監護者を定め,現在の監護者に子の引渡しを命じても,審判の確定だけで現実の監護が移るわけではありません。
任意の引渡しが実現しないときは,確定審判等を債務名義として強制執行を申し立てることになります。

強制執行の場面でも,子は単なる物ではありません。
引渡しを命じられた者は,子の年齢,発達の程度その他の事情を踏まえ,子の心身に有害な影響を及ぼさないよう配慮しつつ,合理的に必要な行為をして引渡しを実現する義務を負います。

2 間接強制と直接的な引渡しの実施

民事執行法174条1項は,子の引渡しの強制執行について,①執行裁判所が執行官に子の引渡しを実施させる方法と,②同法172条1項の間接強制の方法を定めています。

間接強制は,債務者が一定期間内に引渡しをしないとき,遅延期間に応じた一定額の金銭を債権者に支払うよう命じ,心理的な圧力によって履行を促す方法です。
執行官による引渡しの実施は,間接強制決定の確定後2週間が経過した場合,間接強制をしても監護を解く見込みがない場合,又は子の急迫の危険を防止するため直ちに執行する必要がある場合のいずれかで申し立てることができます。

間接強制と執行官による引渡しの実施は,申立要件,執行の方法及び子への影響が異なります。
一方の手続で生じた事情を他方で援用するときは,いつ,誰が,何を観察し,どの理由で手続が終わったのかを明確にします。

3 人身保護請求とは区別する

人身保護請求は,現在の監護が人身保護法上の拘束に当たり,その拘束が顕著に違法であるかなどを審理する別の手続です。
子の引渡しの審判,強制執行及び人身保護請求では,判断対象と判断時点が同じではありません。

もっとも,先行する人身保護請求で子の判断能力,意思の強固さ,現在の監護者からの影響の有無が具体的に審理された場合,その認定経過は,後の間接強制が過酷な執行となるかを判断する重要な事情になり得ます。

第3 最高裁平成31年4月26日決定
1 事案の経過

最高裁平成31年4月26日決定の事案では,家庭裁判所が母を3人の子の監護者と指定し,父に子らの引渡しを命じる審判が確定しました。
執行官による引渡しの際,二男と長女は母へ引き渡されましたが,当時9歳3か月の長男は明確に拒絶して泣きじゃくり,呼吸困難に陥りそうになりました。執行官は,執行を続けると長男の心身に重大な悪影響を及ぼすおそれがあるとして,長男について執行不能で終了しました。

その後,母は父らを拘束者として人身保護請求をしました。
長男は,当時9歳7か月で,弟妹と離れて暮らすのは嫌であるものの父らの下での生活を続けたいと述べました。裁判所は,長男が十分な判断能力に基づく強固な意思を明確に表示し,その意思は父らの影響によるものではなく自由意思であるとして,人身保護請求を棄却しました。

2 最高裁の判断

最高裁は,子が引渡しを拒絶する意思を表明していることは,直ちに間接強制を妨げる理由ではないという一般論を示しました。
しかし,本件では,引渡執行が子の心身への重大な悪影響のおそれを理由に不能となり,人身保護請求でも自由意思に基づく強固な拒絶意思が認定されていました。

最高裁は,この経過の下では,子の心身に有害な影響を及ぼさずに引渡しを実現するため父がすべき合理的な行為を具体的に想定することは困難であるとしました。
父に1日1万円の支払を命じて心理的に圧迫することは過酷な執行であり,間接強制の申立ては権利濫用に当たるとして,申立てを却下しました。

3 射程

この決定は,子が拒絶すれば間接強制はできないという一般ルールを定めたものではありません。
直接的な引渡しの実施で身体的不調が現れ,その後の人身保護請求で自由意思に基づく強固な意思が認定されたという,積み重なった事情の下での判断です。

第4 最高裁令和4年11月30日決定
1 事案の経過

最高裁令和4年11月30日決定の事案では,家庭裁判所が母を子らの監護者と指定し,父に引渡しを命じる審判が令和3年3月29日に確定しました。
同年4月5日,二男は母へ引き渡されましたが,長男は約2時間の説得にも応じず,母の下に行くと父に会えなくなると述べ,母を押しのけるなどして拒絶しました。

同年5月30日の弟との面会時にも,長男は母の姿を見て反発し,母に抱かれることを拒み,泣きながら父宅へ帰ることを強く求めました。
母は同年6月9日に間接強制を申し立て,原々審は,父に長男を引き渡すよう命じるとともに,履行しないときは1日2万円を支払うよう命じました。

2 最高裁の判断

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祖父母等と子との交流―最高裁令和3年3月29日決定と民法766条の2(AI作成)

◯以下の記事も参照してください。
・ 離婚に関するメモ書き
・ 家事調停に関するメモ書き
・ 平成21年度から令和6年度までの許可抗告事件の分析(AI作成)
・ 平成21年度から令和6年度までの最高裁民事破棄判決の分析(AI作成)

目次

第1 結論の要点
第2 最高裁令和3年3月29日決定(旧法)

1 祖父母と子との面会交流
2 祖母を監護者に指定する申立て
3 二つの決定を混同しないこと

第3 令和8年施行の民法766条の2

1 原則は父又は母による申立て
2 親族自身が申し立てられる場合
3 交流を定める実体要件

第4 申立てと立証の実務

1 最初に確認する事項
2 子の利益に関する資料
3 申立先・費用・書類

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固定資産評価証明書を所有者以外が取得できる場合-請求できる人,資格及び必要書類(AI作成)

目次第1 所有者以外でも取得できる場合がある1 結論と記事の対象2 「取得できる人」の四つの意味第2 地方税法上の交付制度1 本人に関する証明と第三者への証明は根拠が異なる2 評価証明書と課税台帳の閲覧は別の制度である第3 対価を支払う借地人・借家人等1 土地の使用又は収益を目的とする権利を有する人2 家屋の使用又は収益を目的とする権利を有する人3 契約書と対価の支払資料第4 処分権者と裁判手続の申立人1 総務省令で定める処分権者2 法令が対象とする裁判手続3 競売の申立人が必要とする証明書第5 相続,年途中の取得及び財産管理1 1月2日以降に所有者となった人2 相続人,受遺者及び遺言執行者3 財産管理人等第6 代理人,法定代理人及び法人関係者1 委任を受けた代理人2 同居親族3 成年後見人等と法人関係者第7 専門職及び登記関係の限定ルート1 弁護士・司法書士の統一様式2 税理士の税務代理権限証書3 登記官の交付依頼書第8 その立場だけでは取得できない人1 親族,利用者及び購入希望者2 債権者,不動産関係者及び専門職第9 取得できる範囲と申請前の確認1 対象不動産の範囲2 申請前にそろえる情報と資料3 自治体へ確認するときの伝え方第10 出典・参考資料1 法令2 所管自治体・弁護士会の解説・申請案内3 関連する記事
第1 所有者以外でも取得できる場合がある
1 結論と記事の対象

固定資産評価証明書は,不動産の所在地や評価額等を証明する書類であり,登記事項証明書のように誰でも自由に取得できる資料ではない。
しかし,所有者本人の委任がなくても,法律上の資格又は申立ての目的に基づいて取得できる人がいる。

令和8年9月27日現在,所有者以外による取得は,①対価を支払う借地人・借家人等の直接請求,②法令で定める管財人等又は一定の裁判手続を始める人の直接請求,③相続人・法定代理人・財産管理人等による所有者側の地位又は権限に基づく請求,④委任を受けた代理人又は限定目的の特別書式による請求に分けると理解しやすい。
同じ「所有者以外」であっても,請求の根拠,取得できる不動産の範囲及び必要書類は同じではない。

本記事は,固定資産課税台帳に記載された価格等の証明書のうち,一般に「固定資産評価証明書」と呼ばれるものを中心に扱う。
評価証明書,公課証明書及び名寄帳の違いは,固定資産評価証明書と名寄帳の違い-相続・登記・訴訟での使い分け(AI作成)で説明している。

2 「取得できる人」の四つの意味

第一は,所有者の同意や委任を必要とせず,自分の法律上の資格で直接請求できる人である。
対価を支払う土地・家屋の使用収益権者,総務省令で定める処分権者及び一定の裁判手続を始める人がこれに当たる。

第二は,相続,成年後見,財産管理その他の法的地位により,所有者側の権利又は管理権限を示して請求する人である。
第三は,所有者又は納税義務者から委任を受けた代理人であり,親族,宅地建物取引業者又は専門職であるという肩書だけでは足りない。

第四は,訴額の算定,税務代理又は登記官の交付依頼等の限定された目的について,自治体が指定する書式と資料を用いる人である。
弁護士,司法書士又は税理士であること自体が,不動産一般を調査する権限になるわけではない。

第2 地方税法上の交付制度
1 本人に関する証明と第三者への証明は根拠が異なる

地方税法20条の10は,地方税に関する証明書を請求者本人に関するものに限って交付する制度を定めている。
これに対し,同法382条の3は,同条の政令で定める人が請求したときに,その人に関係する固定資産について,政令で定める登録事項の証明書を交付する制度を置いている。

したがって,「所有者本人でない」という理由だけで一律に交付を拒まれるわけではない。
他方,請求者が対象不動産と無関係であれば,不動産の所在地を知っているだけで取得することはできない。

2 評価証明書と課税台帳の閲覧は別の制度である

地方税法382条の2は固定資産課税台帳の閲覧を,同法382条の3は登録事項の証明書の交付を定めている。
両制度には共通する請求者区分があるものの,必要な情報が証明書であるのか,台帳の閲覧で足りるのかを申請前に区別する必要がある。

自治体によって,評価証明書の名称,記載事項,手数料,郵送・電子申請の可否及び請求権を確認する書類が異なる。
以下で示す法令上の請求資格と,個々の自治体が定める申請方法を分けて確認する必要がある。

第3 対価を支払う借地人・借家人等
1 土地の使用又は収益を目的とする権利を有する人

地方税法施行令52条の15は,土地について賃借権その他の使用又は収益を目的とする権利を有し,その権利について対価を支払う人に,対象土地の登録事項証明書を請求する資格を認めている。

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令和8年成年後見制度改正の施行準備―権限・必要性台帳,年次見直し及び旧後見・旧保佐から新補助への移行(AI作成)

目次第1 施行前から準備すべき理由1 包括的な制度区分から個別の権限設計へ移る2 開始後も権限の必要性を見直す第2 権限・必要性台帳の作り方1 課題を行為単位で記録する2 事実・評価・未確認事項を分ける第3 必要な保護を三つに分ける1 特定の行為に対する同意権・取消権2 特定補助3 代理権第4 本人の意向を手続と記録に組み込む1 意向尊重は一度の意見聴取ではない2 本人の意向と安全確保が衝突する場合第5 旧後見・旧保佐・旧補助の経過措置1 旧後見・旧保佐は自動的に新補助へ移らない2 旧補助は新補助とみなされる3 旧事件にも適用される新しい職務規律がある第6 年次見直しと終了支援1 毎年の報告を権限監査の機会にする2 終了後の支援を先に設計する第7 任意後見との併存を検討する第8 施行前の実務チェックリスト第9 出典と未確定事項1 確認した一次資料2 実務参考資料とその限界3 令和8年9月27日現在の未確定事項

令和8年法律第45号による成年後見制度の改正では,法定後見が「補助」に一元化され,家庭裁判所が必要な同意権・取消権,特定補助又は代理権を個別に定める仕組みに変わる。補助人には本人の意向を把握・尊重する義務と年1回の報告義務が置かれ,不要になった権限を外し,必要に応じて補助人を交代させる制度も整備される。

もっとも,令和8年9月27日現在,成年後見関係改正の具体的施行日は確定していない。この記事は,公布済みの法律と関係法律整備法から確認できる事項を基礎に,相談・申立て・受任中事件について今から作成できる「権限・必要性台帳」と,施行後の見直し手順を整理するものである。改正内容の全体像は,令和8年成年後見制度改正と関係法律61本の整備で説明している。

第1 施行前から準備すべき理由
1 包括的な制度区分から個別の権限設計へ移る

改正前は,本人の判断能力の程度に応じて後見・保佐・補助を選ぶ制度である。改正後は補助に一元化され,具体的な法律行為について,どの保護がなぜ必要かを示す必要がある。

したがって,「認知症だから後見」「財産が多いから保佐」という説明では足りない。預金払戻し,不動産売却,遺産分割,施設契約又は訴訟行為等の課題ごとに,本人だけでは何が難しく,どの権限があれば不利益を防げるかを記録する必要がある。

2 開始後も権限の必要性を見直す

改正法は,判断能力の回復だけでなく,個別の権限又は特定補助の必要性がなくなった場合にも,審判の全部又は一部を取り消すことができる。補助人は年1回,家庭裁判所が命じた事項を報告し,家庭裁判所は必要に応じて職権で取消しを行うことができる。

このため,申立時だけでなく,受任中も「現在必要な権限」「不要になった権限」「新たに必要となった権限」を説明できる記録が重要となる。

第2 権限・必要性台帳の作り方
1 課題を行為単位で記録する

本人の生活上又は財産上の課題を,次の項目に分けて記録する。

①対象となる法律行為又は生活上の課題
②現時点で本人ができることと,支援があればできること
③支援がない場合に生じる具体的な不利益
④本人への説明方法,表明された意向及び反対理由
⑤家族,福祉サービス,日常生活自立支援事業,財産管理契約等の代替手段
⑥必要と考える権限と,それより制限の少ない手段では足りない理由
⑦裏付け資料と情報源
⑧見直し時期と,終了・追加・交代を検討する条件

「将来何か起きるかもしれない」という抽象的な不安と,期限のある契約,滞納,財産被害又は現に進行する手続等の具体的な必要性を区別する。

2 事実・評価・未確認事項を分ける

台帳には,観察できた事実,申立人・親族・支援者の説明,弁護士の法的評価及び未確認事項を混在させない。例えば,「本人は契約を理解できない」とだけ書くのではなく,説明した情報,質問への回答,選択肢の比較,援助後の理解,過去の同種取引及び医学資料を分けて残す。

判断能力,同意能力及び意思表示能力は,場面と時点によって異なり得る。診断名だけから必要な権限を決めず,対象行為との関係を示す必要がある。

第3 必要な保護を三つに分ける
1 特定の行為に対する同意権・取消権

通常の補助では,重要な財産上の行為のうち家庭裁判所が定めた行為について,補助人に同意権が付与され,本人が補助人の同意なく行った行為を取り消すことができる。

本人以外の者が申し立てる場合は,本人が意思表示できないときを除き,本人の同意が必要である。対象行為を広く書くのではなく,現に保護が必要な行為と期間を具体化する。

2 特定補助

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離婚・家事事件の民間ADR――家庭裁判所の調停との違い,強制執行及びDV対応(AI作成)

目次

第1 民間ADRと家庭裁判所の家事調停

1 民間ADRとは何か
2 裁判所の調停との主な違い

第2 離婚・家事事件で利用できる場面

1 離婚条件,養育費及び親子交流
2 事業者ごとに取扱範囲が異なる

第3 民間ADRを選びやすい場合と家庭裁判所を選ぶべき場合

1 民間ADRを検討しやすい場合
2 裁判所又は保護手続を優先すべき場合

第4 成立した合意の効力と強制執行

1 合意書は当然に債務名義になるわけではない
2 認証ADRの特定和解と家事事件の例外
3 離婚そのものと届出

第5 申立て前に確認する事項

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交通事故で成年後見制度が必要になった場合の費用は損害になるか―申立費用,申立代理人費用,後見人・監督人報酬(AI作成)

目次

第1 この記事の結論と対象
第2 区別すべき三つの費用1 申立てに要する実費2 申立代理人の弁護士費用3 選任後の後見人・監督人報酬
第3 裁判例から分かること
第4 請求の組み立て方
第5 立証資料と二重計上の防止
第6 成年後見制度の改正との関係
第7 調査範囲と出典

第1 この記事の結論と対象

交通事故によって被害者の判断能力が低下し,示談,訴訟,保険金の受領又は多額の賠償金の管理のために成年後見制度を利用する場合,その費用が直ちに全額,交通事故による損害になるわけではない。事故との相当因果関係,制度利用の必要性,現実の支出又は将来支出の蓋然性,金額及び期間の相当性を,費目ごとに立証する必要がある。

特に,①申立手数料・登記手数料・郵便料・診断書料・鑑定費用等の申立実費,②申立代理人の弁護士費用,③選任後の成年後見人又は成年後見監督人の継続的な報酬は,法的根拠と判断要素が異なる。家庭裁判所が本人の財産から後見人報酬を支給する審判をすることと,加害者に不法行為損害として賠償を命じることも別の問題である。

成年後見人等の報酬額そのものについては,成年後見人等の報酬額の目安を参照されたい。本記事は,その金額を交通事故の損害に計上できるかという別の問題を扱う。

第2 区別すべき三つの費用
1 申立てに要する実費

後見開始の申立てには,収入印紙,登記手数料,郵便料,診断書料等が必要になり,事案によっては鑑定費用も生じる。事故前には必要でなかった申立てが,事故による高次脳機能障害,遷延性意識障害その他の精神上の障害のために必要になったことを示せれば,相当因果関係のある損害として認められる余地がある。

もっとも,申立時に支出した額を領収書で示すだけでなく,事故による障害と判断能力低下との関係,家族が本人を当然に代理できないこと,示談・訴訟又は賠償金管理のために法定代理人が必要であったことも整理する必要がある。

2 申立代理人の弁護士費用

申立代理人に支払う弁護士費用は,裁判所に納める実費とは別である。申立ての難易度,親族関係,財産の内容,緊急性,申立代理人が行った事務及び報酬額の相当性を示す必要があり,申立てをしたという事実だけから全額が当然に認められるものではない。

3 選任後の後見人・監督人報酬

後見人報酬は,民法862条に基づき,家庭裁判所が後見人及び本人の資力その他の事情を考慮し,本人の財産から相当額を与えるものである。大阪家庭裁判所の「報酬額のめやす」も,個別審判を拘束する料金表ではない。

そのため,交通事故損害の算定で,大阪家裁の月額目安に平均余命を機械的に乗じることは相当でない。専門職後見人又は監督人が将来にわたり必要か,親族後見で足りないか,管理財産や後見事務がどの程度複雑か,誰が選任される蓋然性があるか,制度利用がいつまで続くかを個別に検討する。将来分を一時金で請求する場合には,中間利息控除も問題となる。

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固定資産評価証明書と名寄帳の違い-相続・登記・訴訟での使い分け(AI作成)

目次第1 固定資産評価証明書と名寄帳の役割1 評価証明書は特定物件の登録価格等を証明する2 名寄帳は所有者ごとの物件を市町村内で確認する第2 地方税法上の位置付け1 固定資産課税台帳には登記物件と未登記物件がある2 証明書の交付と課税台帳の閲覧は別の制度である3 名寄帳は固定資産課税台帳に基づいて作られる第3 記載内容と使い分け1 両者の違い2 評価額,課税標準額及び税額は異なる第4 相続・登記・訴訟での選び方1 相続財産を調べる場合2 相続登記その他の登記をする場合3 訴訟又は民事執行で価額を示す場合4 売買価格又は市場価格を知りたい場合第5 名寄帳に物件が載らない主な場合1 不動産が他の市町村にある場合2 非課税物件が帳票に含まれない場合3 単独名義と共有名義が分かれている場合4 1月2日以後に取得した場合5 未登記建物又は課税上の名義が異なる場合第6 請求前に確認する事項1 必要な記載事項から書類を選ぶ2 年度,名義及び請求資格を確認する第7 出典・参考資料1 法令2 所管行政機関及び法務局の解説・運用資料3 自治体の交付・閲覧案内
第1 固定資産評価証明書と名寄帳の役割
1 評価証明書は特定物件の登録価格等を証明する

固定資産評価証明書は,土地又は家屋について固定資産課税台帳に登録された事項を市町村長が証明する書類である。
登記の登録免許税,訴訟物の価額その他の場面で,特定物件の評価額を示す必要があるときに用いられる。

本記事の調査基準日は令和8年9月27日であり,同月24日に施行されている地方税法,同月27日までに公表された国税庁,法務省,法務局及び自治体の資料を確認した。
証明書の名称,記載事項,請求資格,手数料及び交付方法は自治体により異なるため,本記事では全国に共通する法的な骨格と複数の自治体で確認できる代表的な運用を区別して説明する。

2 名寄帳は所有者ごとの物件を市町村内で確認する

名寄帳は,固定資産課税台帳に基づき,土地又は家屋を所有者ごとにまとめた帳簿である。
ある市町村内で,その人に課税上ひも付けられた物件を探し,所在,面積,評価額,課税標準額等を一覧で確認するときに用いられる。

固定資産税の納税通知書そのものではなく,通常はこれに同封される課税明細書に物件ごとの情報が記載される。
課税明細書に載る不動産と名寄帳に載る不動産は,同じ年度,納税義務者及び課税区域について見れば,通常は大部分が重なる。

しかし,両者は同一の帳票ではないため,自治体の出力範囲,非課税又は免税点未満の物件の扱い,単独名義と共有名義の区分,課税区域等により,記載される不動産が一致しないことがある。
相続財産を調査するときは,納税通知書に同封された課税明細書だけで調査を終えず,名寄帳及び登記事項証明書等と突き合わせて確認する必要がある。

相続財産を調査するときは,名寄帳で候補物件を探し,登記事項証明書で権利関係を確認し,提出先から証明を求められる物件について評価証明書を取得するという順序が考えられる。
名寄帳に記載がないことは,全国に不動産がないことの証明にはならない。

第2 地方税法上の位置付け
1 固定資産課税台帳には登記物件と未登記物件がある

地方税法341条は,土地課税台帳,土地補充課税台帳,家屋課税台帳,家屋補充課税台帳及び償却資産課税台帳を固定資産課税台帳と定義しており,同法380条は市町村にその備付けを求めている。
同法381条によれば,登記簿に登記された土地及び家屋は土地課税台帳又は家屋課税台帳に,登記されていない土地及び家屋は土地補充課税台帳又は家屋補充課税台帳に登録される。

この仕組みにより,課税対象として把握された未登記建物が名寄帳に現れることがある。
ただし,固定資産課税台帳は課税のための帳簿であり,記載された名義だけで私法上の所有権が最終的に決まるものではない。

2 証明書の交付と課税台帳の閲覧は別の制度である

地方税法20条の10は地方団体の徴収金に関する証明書の交付を定め,同法382条の3は一定の請求者に対する固定資産課税台帳登録事項の証明書交付を定めている。
これに対し,同法382条の2は,納税義務者その他の一定の者に固定資産課税台帳の関係部分を閲覧させる制度を定めている。

地方税法施行令52条の14及び52条の15は,有償で借りている土地又は家屋の使用者,固定資産を処分する権利を有する者等について,対象となる固定資産の範囲で閲覧又は証明書交付を請求できる場合を定めている。
同令52条の15の表第4号は,民事訴訟費用等に関する法律の別表に掲げる訴えの提起等の申立てをしようとする人にも,申立ての目的である固定資産の証明書の交付を認めている。
実際の請求では,請求者の立場と物件との関係を示す資料を自治体の案内で確認する必要がある。

所有者本人の委任がない場合に誰がどの根拠で請求できるか,取得できる不動産の範囲及び必要書類は,固定資産評価証明書を所有者以外が取得できる場合-請求できる人,資格及び必要書類で整理している。

3 名寄帳は固定資産課税台帳に基づいて作られる

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養子縁組前の子と兄弟姉妹の代襲相続―「共通する親の直系卑属」と最高裁令和6年11月12日判決(AI作成)

被相続人より先に兄弟姉妹が死亡していても,その子であるおい・めいが常に代襲相続人になるわけではありません。最高裁令和6年11月12日第三小法廷判決は,おい・めいが「被相続人とその兄弟姉妹の共通する親の直系卑属」でない場合には,兄弟姉妹を代襲して相続人になることができないと判断しました。

この問題は,死亡した兄弟姉妹が被相続人の親と養子縁組をし,その兄弟姉妹に縁組前から子がいた場合に生じます。戸籍を読む際には,死亡の先後だけでなく,養子縁組日と子の出生年月日を対照する必要があります。

第1 最高裁令和6年11月12日判決の結論
第2 判決の事案
第3 兄弟姉妹の代襲相続と養子縁組の法的関係

1 兄弟姉妹の子が代襲する基本ルール
2 養子縁組による親族関係は縁組の日から生じる
3 「共通する親の直系卑属」の意味

第4 縁組日と出生日の組合せ
第5 戸籍・相続登記・法定相続情報一覧図の確認方法
第6 相続放棄を検討するときの注意
第7 判決の射程と実務上の注意
第8 出典・参考資料

第1 最高裁令和6年11月12日判決の結論

最高裁令和6年11月12日第三小法廷判決(令和5年(行ヒ)第165号,民集78巻6号1377頁)は,次のように判断しました。

被相続人とその兄弟姉妹の共通する親の直系卑属でない者は,被相続人の兄弟姉妹を代襲して相続人となることができない。

したがって,戸籍上「死亡した兄弟姉妹の子」であることだけでは足りません。その子が,被相続人と兄弟姉妹を結び付ける共通の親から見ても直系卑属であるかを確認する必要があります。

第2 判決の事案

判決で問題となった親族関係は,次のようなものでした。

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敷地権の登記がないマンションの相続登記―土地の共有持分と専有部分,登記の目的,課税価格及び登記事項証明書(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 本記事の対象2 結論第2 敷地権とは1 敷地権の意味2 敷地権の登記があるときの効力3 敷地権の登記がないのはどのような場合か4 敷地権の登記の有無の確かめ方第3 登記記録の読み方と登記事項証明書の取り方1 建物の登記記録2 土地の登記記録3 登記事項証明書の種類4 敷地が複数の筆にわたる場合第4 申請書の書き方1 登記の目的2 不動産の表示3 相続人が複数いる場合4 敷地権付き区分建物との比較第5 課税価格と登録免許税1 税率と端数処理2 土地は持分の価格3 どの年度の価格を使うか4 計算例5 土地の免税措置第6 添付情報第7 遺言書と遺産分割協議書の注意点1 土地の共有持分も漏れなく記載する2 遺言書に持分の記載がない場合第8 関連記事第9 出典1 法令2 法務省・法務局の資料
第1 本記事の対象と結論
1 本記事の対象

本記事は,マンション(区分建物)の専有部分と,その敷地の共有持分を相続した場合に,建物の登記記録に「敷地権」の登記がないときの相続登記の申請方法を扱う。
敷地権の登記があるマンションでは,建物について相続登記をすれば敷地の権利にも効力が及ぶので,申請書は建物一つ分で足りる。
これに対し,敷地権の登記がないマンションでは,建物と土地が別々の登記記録になっており,土地の共有持分についても相続登記をしなければならない。
調査基準日は令和8年9月26日である。
条文はe-Gov法令検索で,法務局の資料は原本を取得して確認した。

2 結論

①敷地権の登記がないマンションでは,専有部分の建物と,敷地の土地の共有持分の両方について相続登記を申請する。
②被相続人が建物を単独で所有し,土地を共有持分で有していた場合,一つの申請書で申請するときの登記の目的は「所有権移転及び○○持分全部移転」とする(○○は被相続人の氏名)。
③土地については,不動産の表示に移転する持分を書く。
④登録免許税の課税価格は,土地については持分の価格であり,建物の価格と合計して1000円未満を切り捨てる。
⑤昭和59年1月1日より前からある専有部分は,法務大臣の指定がない限り,規約で分離して処分することができると定められたものとみなされたため,敷地権の登記がないことがある。
⑥共有者が多い土地の登記事項証明書は頁数が多くなるので,被相続人の持分を確かめるには,所有者証明書や何区何番事項証明書も使える。
⑦遺言書や遺産分割協議書では,建物だけでなく土地の共有持分も漏れなく記載する。

第2 敷地権とは
1 敷地権の意味

区分所有法22条1項は,敷地利用権が数人で有する所有権その他の権利である場合には,区分所有者は,その有する専有部分とその専有部分に係る敷地利用権とを分離して処分することができないと定める。
ただし,規約に別段の定めがあるときは,この限りでない(同項ただし書)。

不動産登記法は,区分建物の敷地利用権(登記されたものに限る。)で,区分所有法22条1項本文により専有部分と分離して処分することができないものを「敷地権」といい,建物の表示に関する登記の登記事項としている(不動産登記法44条1項9号)。
登記官は,区分建物の表題部に敷地権を最初に登記するときは,敷地の土地の登記記録に,職権で,その権利が敷地権である旨の登記をする(同法46条)。

2 敷地権の登記があるときの効力

敷地権付き区分建物についての所有権に係る権利に関する登記は,敷地権である旨の登記をした土地の敷地権についてされた登記としての効力を有する(不動産登記法73条1項本文)。
そのため,敷地権の登記があるマンションを相続したときは,建物について相続登記を一件申請すれば,敷地権についても登記がされたのと同じ効力が生じる。
敷地権である旨の登記をした土地には,原則として敷地権の移転の登記をすることができないので(同条2項本文),土地の登記記録に個々の区分所有者の持分移転の登記が重ねられることはない。

3 敷地権の登記がないのはどのような場合か

敷地権は,登記された敷地利用権で,専有部分と分離して処分することができないものに限られる(第2の1)。
そのため,敷地利用権が登記されていない場合や,規約で分離して処分することができると定めている場合には,敷地権の登記はされない。

古いマンションで敷地権の登記がないことが多いのは,昭和58年の区分所有法の改正の経過措置による。

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弁護士が遺言執行者に就任した後の預貯金・国債・年金保険の手続―就任通知・財産目録,口座の照会と取引経過,ゆうちょ銀行の流れ,非課税貯蓄の死亡届出及び報酬の精算(AI作成)

目次第1 この記事の対象と確認の方法1 対象2 確認の方法と結論の要旨第2 就任直後の法律上の義務1 任務の開始,相続人への通知及び財産目録2 権利義務,委任規定の準用及び行為の効果3 特定財産承継遺言と預貯金の払戻し・解約4 相続人の処分の制限(民法1013条)第3 金融機関への連絡・照会と口座の停止1 死亡の連絡で口座が止まること2 口座の照会と取引経過の開示3 遺言執行者が手続をするときの書類第4 ゆうちょ銀行の相続手続の流れ1 六つのステップ2 相続確認表,必要書類及び払戻金の受取方法3 民営化前の郵便貯金第5 個人向け国債1 相続人の口座への移管と中途換金の特例第6 非課税貯蓄(マル優・特別マル優)の死亡届出1 非課税貯蓄者死亡届出書2 死亡後の利子の課税第7 年金保険(保証期間付きの個人年金)1 年金受取人が死亡した場合の手続2 相続税と所得税の扱い第8 報酬・執行費用の精算と執行の終了1 遺言執行者の報酬2 執行費用3 執行の終了と報告第9 実務チェックリスト1 就任から精算までの確認事項第10 関連記事第11 出典1 法令2 裁判例3 官公庁・金融機関の公表資料4 弁護士会の告示
第1 この記事の対象と確認の方法
1 対象
(1) 弁護士個人が遺言執行者として金融機関とやり取りする場面

本記事は,遺言で指定され,又は家庭裁判所で選任されて遺言執行者に就任した弁護士が,被相続人名義の預貯金,個人向け国債及び年金保険について金融機関とやり取りする場面を扱う。
読者として想定しているのは,遺言執行者に就任した弁護士その他の専門家と,遺言執行者に手続を任せる相続人及び受遺者である。
信託銀行が遺言執行者に就任した場合の流れは,信託銀行の遺言執行は何か月かかるかで扱っている。

(2) この記事で扱わないこと

遺言の文言が「任せる」「託す」のようにあいまいで,金融機関が払戻しに応じない場面は,「任せる」「託す」と書かれた遺言は有効か―遺言の解釈の基準,有効・無効とされた裁判例,金融機関が払戻しを拒んだ場合の対応及び作成時の注意で扱う。
相続人の代理人として銀行口座の相続手続をする場面は,弁護士が代理人として被相続人の銀行口座の相続手続をする方法で扱っている。
証券口座の株式・投資信託は,遺言執行者が相続株式・有価証券を売却して分配する際の実務上の問題点に譲る。
遺言書を発見した後の検認の要否,遺言執行者の就任・選任,財産別手続及び遺言どおりに執行できない場合を含む全体像は,遺言書の執行とは―見つけた後の検認,遺言執行者,財産別の手続及び執行できない場合を参照されたい。

2 確認の方法と結論の要旨
(1) 確認の方法と資料の性質

令和8年9月26日に,民法,家事事件手続法,所得税法,同法施行令,租税特別措置法,同法施行令及び相続税法の条文をe-Gov法令検索(法令API)で取得し,平成30年法律第72号の附則は民法の附則として取得した。
裁判例は,裁判所HPの裁判例検索で書誌,判示事項及び裁判要旨を確認し,判決全文のPDFを読んだものだけを挙げる。
金融機関の手続は,同日時点の各金融機関の公式ページ及び公式ページに掲載されたPDFの記載だけを書き,各ページのURLを本文と出典に示す。
金融機関の手続は予告なく変わることがあるので,以下の記載は令和8年9月26日時点のものであり,着手の際には各金融機関の案内を取り直す必要がある。

(2) 結論の要旨

①遺言執行者は,就職を承諾したら直ちに任務を開始し,遅滞なく遺言の内容を相続人に通知し,相続財産の目録を作成して相続人に交付しなければならない(民法1007条,1011条1項)。
②特定財産承継遺言の目的が預貯金債権であれば,遺言執行者は払戻しを請求でき,預貯金債権の全部が目的であれば解約の申入れもできる(民法1014条3項)が,令和元年7月1日(施行日)前にされた遺言には同条2項から4項までは適用されない(平成30年法律第72号附則8条2項)。
③ゆうちょ銀行,三井住友銀行,みずほ銀行及び三菱UFJ銀行の公式ページには,名義人の死亡の連絡を受けると口座の入出金を止める旨の記載がある。
④共同相続人の一人は,被相続人名義の預金口座の取引経過の開示を単独で求めることができる(最高裁平成21年1月22日判決)が,遺言執行者自身の開示請求権について判断した最高裁判例は確認できなかった。
ただし,三菱UFJ銀行,三井住友銀行及びみずほ銀行の公式ページは,遺言執行者を取引明細等の証明書の依頼者として挙げている。
⑤非課税貯蓄(障害者等のマル優・特別マル優)の預金者が死亡したときは,相続人が非課税貯蓄者死亡届出書を金融機関に提出する(所得税法施行令46条1項)。
死亡後に支払を受けるべき利子のうち死亡した日までの期間に対応する部分を超える利子には,原則として非課税の規定が適用されない(所得税基本通達10-21)。
⑥報酬は,遺言に定めがあればそれにより,定めがなければ家庭裁判所が定めることができる(民法1018条1項,家事事件手続法別表第一の105項)。

第2 就任直後の法律上の義務
1 任務の開始,相続人への通知及び財産目録
(1) 任務の開始と通知(民法1007条)

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