目次
第1 この記事の対象と既存記事との役割分担1 令和元年7月1日より前に開始した相続を扱うこと2 この記事が扱う範囲3 既存記事との役割分担第2 算定式と計算シート1 最高裁が示した算定式2 東京地方裁判所プラクティス委員会が提案した計算シート3 計算シートが選択した説第3 遺留分算定の基礎となる財産1 式と入力欄の対応2 生前贈与を加算する範囲3 金銭の贈与を相続開始時の貨幣価値に引き直すこと4 相続債務の控除5 相続税の申告書から数値を転記するときの注意第4 個別的遺留分額1 総体的遺留分率に法定相続分を乗じること2 計算シートの模擬事案が前提とする法定相続分第5 遺留分侵害額1 計算シートの算定順序2 未処理遺産を分配する基準第6 減殺額と減殺率1 減殺の対象となるのは遺留分超過受遺額であること2 受遺額からみた減殺率3 判決が用いた分母には幅があること4 持分を分数にするときの乗算第7 計算シートの用語が判決の別紙に現れること1 判決文に現れる計算シート由来の用語2 計算過程を検算する際の着眼点第8 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 公的資料4 文献
第1 この記事の対象と既存記事との役割分担
1 令和元年7月1日より前に開始した相続を扱うこと
民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律(平成30年法律第72号)の附則第2条は「この法律の施行の日(以下「施行日」という。)前に開始した相続については、この附則に特別の定めがある場合を除き、なお従前の例による。」と定める。
遺留分に関する改正規定は同法附則第1条ただし書の各号に掲げられておらず、原則的な施行期日によることになる。
法務省は原則的な施行期日を2019年7月1日と公表しており、同法の公布日は平成30年7月13日である。
したがって、被相続人の死亡日が令和元年7月1日より前であれば、金銭債権化された遺留分侵害額請求ではなく、物権的効果を生ずる遺留分減殺請求として処理する。
判定の基準は相続開始日であって、判決の年でも権利行使の年でもない。
現に、判決日が令和6年や令和7年であっても、相続開始日が施行日前であるために旧法が適用される事案は珍しくない。
2 この記事が扱う範囲
この記事は、旧法の遺留分減殺請求において、基礎財産、個別的遺留分額、遺留分侵害額及び減殺率という四つの数値を、どの順序でどのように出すかという算定過程そのものを扱う。
個別の財産をどう評価するか、争点整理をどう進めるかといった問題は扱わない。
3 既存記事との役割分担
減殺の順序、すなわち遺贈・死因贈与・生前贈与のどれから先に減殺するかという問題は、旧法の遺留分減殺請求の順序―遺贈・死因贈与・生前贈与と通知の先後で扱っている。
遺産をいつの時点の価額で評価するかは旧法事案の遺留分減殺請求における遺産の評価基準時で、減殺の結果生じた共有関係をどう解消するかは改正前の遺留分減殺請求によって共有となった不動産の解消方法で扱っている。
この記事は、それらの前提となる金額の算出に絞る。
令和元年7月1日以後に開始した相続については権利の性質が金銭債権に変わっており、その計算方法は遺留分侵害額請求の計算方法―旧法の減殺請求と何が変わったかで扱っている。
葬儀費用を遺留分の計算から差し引けるかについては,通常の葬儀費用と被相続人の債務との区別,遺言・合意・生前契約及び相続税上の取扱いを,遺留分の計算で葬儀費用を差し引けるか-遺言・合意・相続税との違い(AI作成)で説明している。
第2 算定式と計算シート
1 最高裁が示した算定式
最高裁判所第三小法廷平成8年11月26日判決(民集第50巻10号2747頁)は、遺留分侵害額の算定について、被相続人が相続開始の時に有していた財産全体の価額に贈与した財産の価額を加え、その中から債務の全額を控除して基礎財産額を確定し、これに遺留分の割合と法定相続分の割合を乗じ、遺留分権利者が特別受益を得ているときはその価額を控除し、相続によって得た財産があるときはその額を控除して、負担すべき相続債務があるときはその額を加算するという順序を示している。
旧法の計算は、この四段階を順に踏むことに尽きる。
2 東京地方裁判所プラクティス委員会が提案した計算シート
(続きを読む...)旧法の遺留分減殺請求の計算方法―基礎財産・侵害額・減殺率と判例タイムズ1345号の計算シート(AI作成)