目次第1 本記事の対象と結論第2 最高裁令和4年1月28日判決1 事案と原審の判断2 最高裁の理由3 主文と利率第3 離婚自体慰謝料と個別的有責行為の慰謝料1 同判決の「なお」書き2 個別の違法行為を理由とする慰謝料第4 不貞相手に対する慰謝料請求との違い1 最高裁平成31年2月19日判決2 起算日の違い第5 離婚の成立時と請求の趣旨の書き方1 離婚の成立時2 離婚訴訟で慰謝料を併せて請求する場合3 離婚後に慰謝料だけを請求する場合4 財産分与との関係第6 関連記事第7 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 公的資料
第1 本記事の対象と結論
本記事は,離婚に伴う慰謝料(いわゆる離婚慰謝料)の遅延損害金がいつから発生し,何%の利率になるか,また,訴状の請求の趣旨にどう書くかを扱う。
調査基準日は令和8年9月19日である。
結論は次のとおりである。
①離婚に伴う慰謝料として夫婦の一方が負担すべき損害賠償債務は,離婚の成立時に遅滞に陥る(最高裁令和4年1月28日判決)。
②婚姻関係が破綻した時期や有責行為の時期が令和2年4月1日より前であっても,離婚の成立が同日以後であれば,遅延損害金の利率は年3%である。
③離婚訴訟で離婚と慰謝料を併せて請求するときは,同判決の主文に倣い,「本判決確定の日の翌日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員」と書くことになる。
④暴力や不貞行為など,破綻の原因となった個別の違法行為を理由とする慰謝料は,同判決の対象外であり,不法行為一般の原則によれば,各行為による損害の発生時に遅滞に陥ると考えられる。
⑤不貞相手(第三者)に対しては,特段の事情がない限り離婚に伴う慰謝料そのものを請求できない(最高裁平成31年2月19日判決)ので,不貞相手に請求するのは通常は不貞行為を理由とする慰謝料である。
第2 最高裁令和4年1月28日判決
1 事案と原審の判断
最高裁判所第二小法廷令和4年1月28日判決(令和2年(受)第1765号,民集76巻1号78頁)は,夫婦の一方(上告人)が本訴で離婚を請求し,他方(被上告人)が反訴で離婚とともに離婚に伴う慰謝料及び「判決確定の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金」を請求した事案である。
夫婦は平成16年11月に婚姻の届出をし,平成29年3月に別居していた。
原審の大阪高裁は,離婚を認め,慰謝料を120万円の限度で認容した上で,遅延損害金の利率を年5分とした。
その理由は,慰謝料請求は婚姻関係を破綻させた責任を前提とするものであり,婚姻関係が破綻した時は改正民法(平成29年法律第44号)の施行日である令和2年4月1日より前であるから,改正前の民法所定の年5分によるというものであった。
2 最高裁の理由
最高裁は,原審の判断を是認できないとして,次のとおり述べた。
「離婚に伴う慰謝料請求は,夫婦の一方が,他方に対し,その有責行為により離婚をやむなくされ精神的苦痛を被ったことを理由として損害の賠償を求めるものであり,このような損害は,離婚が成立して初めて評価されるものであるから,その請求権は,当該夫婦の離婚の成立により発生するものと解すべきである。」
続けて,不法行為による損害賠償債務は損害の発生と同時に何らの催告を要することなく遅滞に陥るという最高裁判所第三小法廷昭和37年9月4日判決(昭和34年(オ)第117号,民集16巻9号1834頁)を引用し,「離婚に伴う慰謝料として夫婦の一方が負担すべき損害賠償債務は,離婚の成立時に遅滞に陥ると解するのが相当である。」とした。
裁判所HPの裁判要旨も「離婚に伴う慰謝料として夫婦の一方が負担すべき損害賠償債務は,離婚の成立時に遅滞に陥る。」である。
つまり,同判決は,不法行為の時に遅滞に陥るという原則を変えたのではなく,離婚に伴う慰謝料では「損害の発生」が離婚の成立時であることを明らかにしたものである。
不法行為の遅延損害金の起算日一般については,不法行為・交通事故の遅延損害金はいつから発生するかで扱う。
3 主文と利率
同判決の事案では,離婚は判決によって成立するので,最高裁は「離婚の成立時である本判決確定の時に遅滞に陥る」とし,改正法の施行日前に遅滞の責任を負った(改正法附則17条3項参照)ということはできないから,利率は改正後の民法404条2項所定の年3パーセントであるとした。
そして,主文1項で,上告人の不服申立ての範囲である20万円に対する年5分の遅延損害金を認容した部分を変更し,次のとおり命じた。
「上告人は,被上告人に対し,20万円に対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。」
民法404条2項は「法定利率は、年三パーセントとする。」と定め,民法419条1項は,金銭債務の不履行による損害賠償の額を「債務者が遅滞の責任を負った最初の時点における法定利率によって定める。」としている。
民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)附則17条3項は,「施行日前に債務者が遅滞の責任を負った場合における遅延損害金を生ずべき債権に係る法定利率については、新法第四百十九条第一項の規定にかかわらず、なお従前の例による。」と定める。
したがって,離婚の成立が令和2年4月1日以後であれば,破綻の原因となった行為がそれより前であっても,離婚に伴う慰謝料の遅延損害金は年3%となる。
(続きを読む...)離婚慰謝料の遅延損害金はいつから発生するか―離婚成立時とした最高裁令和4年1月28日判決と請求の趣旨の書き方(AI作成)