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親族・相続

離婚慰謝料の遅延損害金はいつから発生するか―離婚成立時とした最高裁令和4年1月28日判決と請求の趣旨の書き方(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論第2 最高裁令和4年1月28日判決1 事案と原審の判断2 最高裁の理由3 主文と利率第3 離婚自体慰謝料と個別的有責行為の慰謝料1 同判決の「なお」書き2 個別の違法行為を理由とする慰謝料第4 不貞相手に対する慰謝料請求との違い1 最高裁平成31年2月19日判決2 起算日の違い第5 離婚の成立時と請求の趣旨の書き方1 離婚の成立時2 離婚訴訟で慰謝料を併せて請求する場合3 離婚後に慰謝料だけを請求する場合4 財産分与との関係第6 関連記事第7 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 公的資料
第1 本記事の対象と結論

本記事は,離婚に伴う慰謝料(いわゆる離婚慰謝料)の遅延損害金がいつから発生し,何%の利率になるか,また,訴状の請求の趣旨にどう書くかを扱う。
調査基準日は令和8年9月19日である。

結論は次のとおりである。
①離婚に伴う慰謝料として夫婦の一方が負担すべき損害賠償債務は,離婚の成立時に遅滞に陥る(最高裁令和4年1月28日判決)。
②婚姻関係が破綻した時期や有責行為の時期が令和2年4月1日より前であっても,離婚の成立が同日以後であれば,遅延損害金の利率は年3%である。
③離婚訴訟で離婚と慰謝料を併せて請求するときは,同判決の主文に倣い,「本判決確定の日の翌日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員」と書くことになる。
④暴力や不貞行為など,破綻の原因となった個別の違法行為を理由とする慰謝料は,同判決の対象外であり,不法行為一般の原則によれば,各行為による損害の発生時に遅滞に陥ると考えられる。
⑤不貞相手(第三者)に対しては,特段の事情がない限り離婚に伴う慰謝料そのものを請求できない(最高裁平成31年2月19日判決)ので,不貞相手に請求するのは通常は不貞行為を理由とする慰謝料である。

第2 最高裁令和4年1月28日判決
1 事案と原審の判断

最高裁判所第二小法廷令和4年1月28日判決(令和2年(受)第1765号,民集76巻1号78頁)は,夫婦の一方(上告人)が本訴で離婚を請求し,他方(被上告人)が反訴で離婚とともに離婚に伴う慰謝料及び「判決確定の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金」を請求した事案である。
夫婦は平成16年11月に婚姻の届出をし,平成29年3月に別居していた。

原審の大阪高裁は,離婚を認め,慰謝料を120万円の限度で認容した上で,遅延損害金の利率を年5分とした。
その理由は,慰謝料請求は婚姻関係を破綻させた責任を前提とするものであり,婚姻関係が破綻した時は改正民法(平成29年法律第44号)の施行日である令和2年4月1日より前であるから,改正前の民法所定の年5分によるというものであった。

2 最高裁の理由

最高裁は,原審の判断を是認できないとして,次のとおり述べた。
「離婚に伴う慰謝料請求は,夫婦の一方が,他方に対し,その有責行為により離婚をやむなくされ精神的苦痛を被ったことを理由として損害の賠償を求めるものであり,このような損害は,離婚が成立して初めて評価されるものであるから,その請求権は,当該夫婦の離婚の成立により発生するものと解すべきである。」

続けて,不法行為による損害賠償債務は損害の発生と同時に何らの催告を要することなく遅滞に陥るという最高裁判所第三小法廷昭和37年9月4日判決(昭和34年(オ)第117号,民集16巻9号1834頁)を引用し,「離婚に伴う慰謝料として夫婦の一方が負担すべき損害賠償債務は,離婚の成立時に遅滞に陥ると解するのが相当である。」とした。
裁判所HPの裁判要旨も「離婚に伴う慰謝料として夫婦の一方が負担すべき損害賠償債務は,離婚の成立時に遅滞に陥る。」である。

つまり,同判決は,不法行為の時に遅滞に陥るという原則を変えたのではなく,離婚に伴う慰謝料では「損害の発生」が離婚の成立時であることを明らかにしたものである。
不法行為の遅延損害金の起算日一般については,不法行為・交通事故の遅延損害金はいつから発生するかで扱う。

3 主文と利率

同判決の事案では,離婚は判決によって成立するので,最高裁は「離婚の成立時である本判決確定の時に遅滞に陥る」とし,改正法の施行日前に遅滞の責任を負った(改正法附則17条3項参照)ということはできないから,利率は改正後の民法404条2項所定の年3パーセントであるとした。
そして,主文1項で,上告人の不服申立ての範囲である20万円に対する年5分の遅延損害金を認容した部分を変更し,次のとおり命じた。
「上告人は,被上告人に対し,20万円に対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。」

民法404条2項は「法定利率は、年三パーセントとする。」と定め,民法419条1項は,金銭債務の不履行による損害賠償の額を「債務者が遅滞の責任を負った最初の時点における法定利率によって定める。」としている。
民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)附則17条3項は,「施行日前に債務者が遅滞の責任を負った場合における遅延損害金を生ずべき債権に係る法定利率については、新法第四百十九条第一項の規定にかかわらず、なお従前の例による。」と定める。
したがって,離婚の成立が令和2年4月1日以後であれば,破綻の原因となった行為がそれより前であっても,離婚に伴う慰謝料の遅延損害金は年3%となる。

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相続財産清算人と税金―滞納国税の承継と差押え,清算人の報酬との優劣,準確定申告,固定資産税及び特別縁故者の相続税(AI作成)

目次第1 この記事の対象1 対象と基準日2 関連記事第2 被相続人の税金は相続財産法人が引き継ぐ1 国税2 地方税第3 滞納処分と清算手続1 清算中でも滞納処分は妨げられない2 清算人の報酬は滞納処分で国税に優先しない3 差押えの解除4 清算人と申立人への影響5 清算人名義の預金口座に対する差押え6 清算手続で弁済する場合の国税と清算人の報酬第4 被相続人の所得税の準確定申告第5 固定資産税第6 不動産等の売却に伴う課税第7 特別縁故者が分与を受けた場合の相続税1 遺贈による取得とみなされる2 申告期限3 基礎控除と2割加算4 葬式費用等を支払っていた場合5 適用される相続税法は相続開始時のもの6 分与を受けた不動産を売却する場合第8 民法255条で他の共有者に帰属する場合第9 出典1 法令2 裁判例・裁決3 公的資料
第1 この記事の対象
1 対象と基準日

本記事は,相続人のあることが明らかでない場合に選任される相続財産清算人(民法952条)の手続で問題となる税金について,被相続人の滞納税の承継と差押え,清算人の報酬との優劣,被相続人の所得税の準確定申告,固定資産税,不動産の売却に伴う課税及び特別縁故者が分与を受けた場合の相続税を整理するものである。
令和8年9月19日時点の国税通則法,国税徴収法,地方税法,相続税法,消費税法,民法,国税庁及び国税不服審判所の公表資料並びに裁判例を確認して作成した。
個別の事案の課税関係は事実関係によって異なるため,実際の事件では所轄の税務署や地方公共団体に確認する必要がある。

2 関連記事

清算手続全体の流れは「相続人がいない場合の相続財産清算人」で,不動産を換価する場面は「相続財産清算人による不動産の任意売却」で整理している。
準確定申告一般は「準確定申告-4か月の期限・必要書類・書き方・e-Taxと相続税」で整理している。
相続人がいる場合を含め,被相続人の国税が相続人にどのように承継されるか(相続分による按分,納付責任額,限定承認・相続放棄の場合等)は「被相続人の未納の国税は相続人がどう引き継ぐか」で整理している。

第2 被相続人の税金は相続財産法人が引き継ぐ
1 国税

相続があった場合には,相続人又は民法951条の法人(相続財産法人)は,被相続人に課されるべき,又は被相続人が納付し,若しくは徴収されるべき国税(滞納処分費を含む。)を納める義務を承継する(国税通則法5条1項)。
相続人のあることが明らかでない場合には,相続財産は法人とされるから(民法951条),被相続人の所得税,消費税等の未納分は,相続財産法人が納める義務を負う。

2 地方税

地方税についても,相続人又は民法951条の法人は,被相続人に課されるべき,又は被相続人が納付し,若しくは納入すべき地方団体の徴収金を納付し,又は納入しなければならない(地方税法9条1項)。
住民税,固定資産税,国民健康保険税等の未納分も,相続財産法人が納める義務を負うことになる。

第3 滞納処分と清算手続
1 清算中でも滞納処分は妨げられない

国税不服審判所の令和6年10月4日裁決は,被相続人から滞納国税を納める義務を承継した相続財産法人について,家庭裁判所が選任した相続財産管理人(令和5年4月1日施行の民法改正前の名称。現在の相続財産清算人に当たる。)が開設した預金口座の預金債権を,原処分庁が滞納国税の徴収のために差し押さえた事案である。
同裁決は,相続財産法人に対する債権者は,相続財産管理人による清算が行われている場合であっても,相続財産法人に帰属する財産に対して強制執行や滞納処分を行うことが妨げられないとした。
また,破産手続では国税債権者は滞納処分の執行が制限される一方で破産管財人に交付要求をして配当等を受けるのに対し,相続財産管理人による清算手続では滞納処分の執行は制限されず,破産手続とは性質を異にするとして,清算手続を国税徴収法2条12号の強制換価手続に当たるものとは認めなかった。
国税通則法基本通達(徴収部関係)第5条関係21も,民法957条1項に規定する債権申出期間内であっても,相続財産に対しては滞納処分をすることができるとしている。

2 清算人の報酬は滞納処分で国税に優先しない

国税は,納税者の総財産について,国税徴収法第2章に別段の定めがある場合を除き,全ての公課その他の債権に先立って徴収する(国税徴収法8条)。
前記裁決の事案で,審査請求人(相続財産法人)は,相続財産管理人の報酬は相続財産に関する費用(民法885条)であり,民法929条ただし書の優先権を有する債権に当たり,また強制換価手続の費用の優先(国税徴収法9条)が準用されるなどとして,報酬が国税に優先するから,預金の残高が報酬を下回る以上,差押えは無益な差押え(国税徴収法48条2項)に当たると主張した。
同裁決は,民法885条や929条ただし書は滞納処分において相続財産管理人の報酬が国税に優先することの根拠にならず,国税徴収法9条も準用又は類推適用されないとして,この主張を退け,差押処分を適法とした。

これに対し,破産手続では,破産管財人の報酬は国税その他の公課に優先する。
最高裁第二小法廷昭和45年10月30日判決(昭和40年(オ)第1467号,民集24巻11号1667頁)は,旧破産法の下で,破産管財人の報酬は「破産財団ノ管理、換価及配当ニ関スル費用」に含まれ,破産財団をもってすべての財団債権を弁済することができない場合でも,国税その他の公課に優先して弁済を受けることができるとした。
現行の破産法152条2項も,破産財団が財団債権の総額を弁済するのに足りない場合に,破産財団の管理,換価及び配当に関する費用の請求権(同法148条1項2号)を他の財団債権に先立って弁済すると定めている。

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限定承認の手続と換価―申述,公告・催告,弁済の順序,競売・価額弁済及び無剰余取消し(AI作成)

目次第1 この記事の対象1 対象と基準日2 関連記事第2 限定承認とは1 限定承認の効果2 共同相続人全員でする必要がある3 限定承認を選ぶかどうか第3 限定承認の申述1 申述の期間2 申述先・費用・必要書類3 財産目録4 相続人が数人ある場合の相続財産清算人第4 相続債権者及び受遺者への公告・催告1 公告2 個別の催告3 公告・催告を怠った場合第5 弁済の順序1 申出期間の満了前2 申出期間の満了後3 受遺者は相続債権者の後4 申出をしなかった者5 不当な弁済の責任6 限定承認中の訴訟と強制執行第6 相続財産の換価1 換価は競売による2 鑑定人の評価による価額弁済3 剰余の見込みがない場合の競売の取消し4 競売によらずに売却した場合第7 限定承認の後に注意すべきこと1 財産の隠匿・消費2 死因贈与を受けていた相続人3 税金第8 出典1 法令2 裁判例3 公的資料
第1 この記事の対象
1 対象と基準日

本記事は,相続によって得た財産の限度でだけ被相続人の債務及び遺贈を弁済する限定承認(民法922条)について,申述から,相続債権者及び受遺者への公告・催告,弁済の順序,相続財産の換価(競売と鑑定人の評価による価額弁済)までの手続を整理するものである。
令和8年9月19日時点の民法,家事事件手続法,民事執行法,裁判所ウェブサイトの「相続の限定承認の申述」の案内,名古屋家庭裁判所の限定承認の申述に関する案内,令和7年司法統計年報並びに裁判例を確認して作成した。
申述先の家庭裁判所の運用や必要書類は変わることがあるため,実際の手続では申述先の案内を確認する必要がある。

2 関連記事

限定承認をした場合の所得税(みなし譲渡),準確定申告,相続税及び住民税は,「限定承認と税金」で整理している。
熟慮期間の起算点と伸長は「相続放棄の3か月はいつからか」で,限定承認後の財産の処分等が問題となる法定単純承認は「相続の法定単純承認(民法921条)の実務」で整理している。
相続人がいない場合に相続財産清算人がする換価の競売と任意売却の比較は,「相続財産清算人による不動産の任意売却」で整理している。

第2 限定承認とは
1 限定承認の効果

相続人は,相続によって得た財産の限度においてのみ被相続人の債務及び遺贈を弁済すべきことを留保して,相続の承認をすることができる(民法922条)。
相続人が限定承認をしたときは,その被相続人に対して有した権利義務は,消滅しなかったものとみなされる(民法925条)。
そのため,相続人が被相続人に対して貸金債権を持っていた場合でも,混同によって消滅せず,相続債権者の一人として清算に加わることになる。

裁判所の案内は,限定承認を,被相続人の債務がどの程度あるか不明であり,財産が残る可能性もある場合等に,相続人が相続によって得た財産の限度で被相続人の債務の負担を受け継ぐものと説明している。

2 共同相続人全員でする必要がある

相続人が数人あるときは,限定承認は,共同相続人の全員が共同してのみすることができる(民法923条)。
相続の放棄をした者は,その相続に関しては初めから相続人とならなかったものとみなされるから(民法939条),放棄をした者を除いた残りの相続人全員で限定承認をすることになる。
相続財産の処分は単純承認とみなされるから(民法921条1号),共同相続人の一人がこれに当たる行為をすると,全員でする限定承認の前提が崩れるおそれがある。
限定承認を検討する段階では,相続人全員が相続財産の処分を控える必要がある。

3 限定承認を選ぶかどうか

限定承認をすると,相続債権者への公告・催告,財産の換価,按分による弁済といった清算の手続を相続人自身が担うことになる。
また,限定承認に係る相続によって譲渡所得の基因となる資産等が移転した場合には,その時の価額で譲渡があったものとみなされ(所得税法59条1項1号),被相続人の所得税の問題が生じる(前記「限定承認と税金」参照)。
債務超過が明らかな場合は相続放棄が,財産が債務を明らかに上回る場合は単純承認が選ばれるのが通常であり,限定承認は,債務の全容が分からない場合や,自宅等の特定の財産を残したい場合に検討される。

令和7年司法統計年報(家事編)第2表によれば,全家庭裁判所における相続の限定承認の申述受理事件の新受件数は,平成17年の995件,平成27年の759件,令和元年の656件と推移し,令和7年は637件であった。
同じ年の相続の放棄の申述の受理事件は32万3524件であり,限定承認は相続放棄に比べて極めて少ない。
名古屋家庭裁判所の案内は,限定承認後の清算手続には原則として家庭裁判所が関与しないとし,必要があれば弁護士等の専門家に相談するよう勧めている。

第3 限定承認の申述
1 申述の期間

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成年後見人は本人の古い借金を返してよいか――債務の存否の確認,消滅時効の援用及び家庭裁判所への連絡票(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論1 対象と基準日2 結論第2 大阪家裁ハンドブックの記載と記載例1 ハンドブックの説明2 連絡票の記載例63 記載例6に書かれていないこと第3 債務が本当に存在するかを確かめる1 貸付けか贈与か2 確認に使う資料と聴取3 金額の食い違い第4 消滅時効が完成しているかを確かめる1 改正前の民法が適用される2 時効期間と起算点3 中断の事由を確かめる第5 後見人が返済し又は債務を認めると援用できなくなる1 時効完成後の承認2 承認後に再び10年が経過した場合3 後見人の行為は本人の行為になる第6 援用するか返済するかの判断1 後見人は本人に代わって時効を援用できる2 本人の意思を確かめる3 返済を選ぶ場合の位置付け4 善管注意義務と責任第7 家庭裁判所への連絡票1 事前に連絡する2 連絡票に書く事項3 書き方の例4 その後の報告5 他の家庭裁判所の扱い第8 貸主が後見人自身である場合第9 保佐人・補助人及び令和8年改正第10 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 公的資料4 文献5 関連記事
第1 この記事の対象と結論
1 対象と基準日

本記事は,成年後見人が,成年被後見人(以下「本人」という。)の親族等から「昔,本人にお金を貸した」と申し出を受けたときに,本人の財産から返済してよいか,返済する前に何を確かめ,家庭裁判所にどう連絡すべきかを整理するものである。
基準日は令和8年9月19日であり,法令は同日時点の現行条文と,平成29年法律第44号による改正前の条文を,いずれもe-Gov法令検索で確認した。
裁判例は,裁判所ウェブサイトの裁判例検索及び判例秘書で確認した。
家庭裁判所の運用は,大阪家庭裁判所が後見人等に交付している「成年後見人・保佐人・補助人ハンドブック(Q&A付き)」(令和8年2月1日版。以下「大阪家裁ハンドブック」という。)で確認できた範囲で書く。

2 結論

①成年後見人は本人の債務を本人の財産から返済しなければならないが,貸主が金融機関以外で契約書がない場合には,まず本当に債務があるのかを確かめる必要がある(大阪家裁ハンドブック17頁)。
②古い借金であれば,消滅時効が完成していないかを確かめる必要がある。
令和2年4月1日より前に生じた貸金債権の時効期間は改正前の民法によるから,10年である。
③時効完成後に後見人が返済し,又は債務を認めると,本人は時効完成を知らなかったとしても時効を援用できなくなる(最高裁昭和41年4月20日大法廷判決)。
④時効を援用するか,道義的な理由から返済するかは,本人の意思を踏まえて後見人が判断するが,時効を検討しないまま返済することは避けるべきである。
⑤返済する場合も援用する場合も,債務の内容,存否の判断,時効の検討結果,本人の意思及び後見人の方針を書いた連絡票を,事前に家庭裁判所へ出す。
⑥後見人自身が本人に対する貸付金を主張する場合には,自分への返済を自分だけで判断して実行することは避け,後見監督人がいなければ特別代理人の選任を申し立てて,債務の存否や時効の援用を特別代理人に判断させるのが安全である(第8)。

第2 大阪家裁ハンドブックの記載と記載例
1 ハンドブックの説明

大阪家裁ハンドブックは,本人の財産から支出できるものの一つとして,本人が第三者に対して負っている債務の返済を挙げている(16頁)。
他方で,本人が経済的に困っていた時期に身内から証書も作らずに受け取った金員のように,贈与なのか借金なのかがあいまいなものもあるとして,次のように述べている(17頁)。
「したがって、貸主が金融機関以外の場合で、正式な契約書等が残っていないような場合については、被後見人が本当に債務を負っているかどうか十分確認する必要があります。」
その上で,「いずれにせよ、被後見人の債務を返済する場合には、必ず、誰に対する、どのような債務につき、いくら返済するのかを簡潔に記載し、債務の存否を判断しかねる場合にはその旨も記載した上で、連絡票を用いて裁判所に連絡をしてください」としている(17頁)。

債務の返済は,事前に連絡票で裁判所に連絡すべき事項の一つとして挙げられており,添付資料は借用書の写しなどとされている(大阪家裁ハンドブック25頁,41頁)。

2 連絡票の記載例6

大阪家裁ハンドブックの書式集には,連絡票の記載例(No.6-2)があり,その記載例6は「債務を返済する場合」である。
内容は,本人が兄から昭和の時期に300万円を借りていたことが判明したこと,当時本人は離婚の慰謝料などで金が必要だったらしいこと,借用書は残っていないが昭和の時期に本人名義の口座へ250万円が振り込まれていることから,兄の話を信用して一括返済したい,というものである。

3 記載例6に書かれていないこと

記載例6は,連絡票の書き方の見本であり,法的な判断の見本として作られたものではないと考えられる。
そのまま自分の事案に当てはめると,少なくとも次の三つの確認が抜け落ちる。
①振り込まれた250万円が,貸付けなのか贈与なのか。
②申出の300万円と振込額の250万円の差額50万円の説明。

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相続財産清算人による不動産の任意売却―競売との比較,担保権・差押えの処理,売買契約の条項及び売れない場合(AI作成)

目次第1 この記事の対象1 対象と基準日2 関連記事第2 換価の方法―競売と任意売却1 法律が定める換価方法は競売である2 任意売却は権限外行為許可による3 両者の比較4 特別縁故者が現れ得る場合第3 担保権・差押えがある不動産1 担保権者が清算人の選任を申し立てる場合2 任意売却で担保権・差押えを消すには3 一般債権者が買主を紹介した場合4 マンションの滞納管理費等第4 任意売却の手順1 登記名義の変更2 不動産業者との媒介契約3 価格の相当性の資料4 許可の申立てと許可の範囲5 決済と報告第5 売買契約の条項1 家庭裁判所の許可2 契約不適合責任を負わない旨の特約3 手付と代金の支払方法4 建物内の残置物第6 税金の扱い1 被相続人の所得税の準確定申告2 滞納税がある場合3 売却に伴う課税第7 売れない場合1 選任審判の取消し2 国庫への引継ぎ第8 出典1 法令2 裁判例・裁決3 公的資料
第1 この記事の対象
1 対象と基準日

本記事は,相続人のあることが明らかでない場合に選任される相続財産清算人(民法952条)が,相続財産である不動産を換価する場面について,法律が定める競売と,家庭裁判所の許可を得てする任意売却とを比較し,担保権や差押えがある場合の処理,媒介契約,売買契約の条項,税金及び売れない場合の扱いを整理するものである。
令和8年9月19日時点の民法,民事執行法,家事事件手続法,建物の区分所有等に関する法律及び裁判所の公開資料(熊本家庭裁判所後見センター「相続財産の清算人の職務について」,大阪家庭裁判所及び名古屋家庭裁判所の相続財産清算人選任申立ての手引き),宅地建物取引業法,国税関係の法令並びに国税庁及び国税不服審判所の公表資料を確認して作成した。
家庭裁判所の運用は庁によって異なる部分があるため,実際の事件では選任した家庭裁判所に確認する必要がある。

2 関連記事

清算手続全体の流れは「相続人がいない場合の相続財産清算人」で,家庭裁判所の許可が要る行為と要らない行為の区別は「相続財産清算人の権限外行為許可」で整理している。
売れ残った不動産が国庫に引き継がれた後の扱いは「国庫帰属した不動産のその後」で整理している。

第2 換価の方法―競売と任意売却
1 法律が定める換価方法は競売である

相続財産清算人が相続債権者及び受遺者に弁済するために相続財産を売却する必要があるときは,これを競売に付さなければならない(民法957条2項が準用する932条本文)。
この競売は,民法の規定による換価のための競売であり,担保権の実行としての競売の例によって行われる(民事執行法195条)。
弁済のための競売は,法律が定める清算の職務であるから,家庭裁判所の権限外行為許可は問題とならない。

(1) 限定承認との違い

限定承認では,家庭裁判所が選任した鑑定人の評価に従って相続財産の価額を弁済し,競売を止めることができる(民法932条ただし書)。
これに対し,相続財産清算人の場合は,民法957条2項が932条ただし書を準用の対象から除いているため,この方法で競売を止めることはできない。
限定承認の手続全体は,「限定承認の手続と換価」で整理している。

(2) 相続債権者及び受遺者の参加

相続債権者及び受遺者は,自己の費用で,相続財産の競売又は鑑定に参加することができる(民法957条2項が準用する933条前段)。
参加の請求があったのに,その請求をした者を参加させないで競売をしたときは,その競売は,その請求をした者に対抗することができない(同条後段が準用する260条2項)。

(3) 剰余の見込みがない場合

担保不動産競売では,不動産の買受可能価額が手続費用と差押債権者に優先する債権の見込額の合計額に満たないときは,差押債権者が一定の申出や保証の提供等をしない限り,手続が取り消される(民事執行法188条が準用する63条)。
限定承認の場合の相続財産換価のための競売(民法932条)について,東京高裁平成5年12月24日決定(平成5年(ラ)第820号・判例タイムズ868号285頁。裁判所HP未掲載)は,民事執行法195条が相続財産の競売を担保権の実行としての競売の例によるとし,63条も何らの留保なく準用しているとして,無剰余取消しの規定が適用されるとした。
同決定は,限定承認の場合に先順位の抵当権者等が自ら競売を申し立てないのは,担保債権の十分な満足を得られないため不動産の値上がりを待っているなどの事情があるのが通常であり,その期待を無視して,限定承認の手続を終わらせる目的だけで無剰余の競売を進めるのは相当でないとも述べている。
その後,最高裁平成24年2月7日第三小法廷決定(平成23年(許)第31号・集民240号1頁)は,民法258条2項(当時。現在の同条3項)所定の競売を命ずる判決に基づく不動産競売について,民事執行法59条(売却に伴う担保権等の消滅)及び63条が準用されるとした。
もっとも,同決定の補足意見は,いわゆる形式的競売の中でも,競売の目的によって63条の準用の有無を異にする解釈があり得るとしている。
相続財産清算人がする換価のための競売は,民法957条2項が準用する932条本文に基づくもので,限定承認の場合と同じ条文による競売であるから,東京高裁平成5年決定の考え方によれば,63条が準用されることになる。
相続財産清算人(旧法の相続財産管理人)が申し立てた競売について無剰余取消しの可否を判断した裁判例は,判例秘書及び裁判所HPで確認した範囲では見当たらない。
このように解する場合,担保権が付いた不動産で剰余の見込みがなければ,清算人が申し立てた換価のための競売は取り消され得る。

(続きを読む...)相続財産清算人による不動産の任意売却―競売との比較,担保権・差押えの処理,売買契約の条項及び売れない場合(AI作成)

相続人が遺産を受け取らないとき――成年後見人の引継ぎ,受領の催告,供託,民法897条の2の相続財産管理人(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論1 対象と基準日2 結論第2 引継ぎの法的な構造1 管理の計算と引継ぎの義務2 相続人の1人に対して行えば足りる3 引き継ぐのは現金,動産及び徴表書類である4 どこまで相続人を探すか第3 受領を拒まれるまでにしておくこと1 円満な引継ぎの試みと原則への立ち返り2 大阪家庭裁判所への報告期限との関係3 相続人間の合意を待つ場合の中間報告4 引継ぎの前に清算しておくもの第4 受領の催告(弁済の提供)1 口頭の提供で足りる2 催告書に書くこと3 受領拒絶の効果と,それでも残る債務4 催告の回数と間隔第5 財産の種類ごとの出口1 預貯金・株式・不動産――徴表書類は引継ぎを要しない2 現金――弁済供託3 動産――寄託・換価・廃棄4 管理計算報告の債務第6 民法897条の2の相続財産管理人1 条文と旧918条2項との関係2 ただし書で使えない場面3 大阪家庭裁判所が想定する二つの類型4 要件その1――紛争性が極めて高いこと5 要件その2――選任の必要性6 スライド選任はしない7 申立てまでの手順8 大阪家庭裁判所の申立書式第7 相続人がいない・全員が放棄する見込みの場合1 民法952条の相続財産清算人2 大阪家庭裁判所の少額事案の運用(本書掲載)第8 保佐人・補助人の場合第9 本書の記述で現在は変わっている点第10 令和8年改正後の扱い1 後見・保佐の廃止と経過措置2 補助人の死後の権限と補助の計算3 出口の規定は変わらない第11 出典・参考資料1 法令2 公的資料3 文献4 関連記事
第1 この記事の対象と結論
1 対象と基準日

本記事は,成年被後見人等(以下「本人」という。)が死亡した後,成年後見人,保佐人又は補助人であった者(以下,本人の死亡後も含めて「後見人等」という。)が相続人に財産を引き継ごうとしたところ,相続人が受け取らない場合に,後見人等がどこまでの事務をし,どのような方法で引継ぎの義務から解放されるかを整理するものである。
具体的には,相続人1人に対する履行の提供,受領の催告,現金の弁済供託,通帳等の徴表書類の扱い,動産の寄託・換価・廃棄,民法897条の2第1項の相続財産管理人の選任,相続人がいない場合や財産が少額の場合の出口を扱う。
基準日は令和8年9月19日であり,法令は同日時点の現行条文をe-Gov法令検索で確認した。
令和8年法律第45号(民法等の一部を改正する法律)による改正後の条文は,法務省が公表している法律案本文及び新旧対照条文で確認した。

素材として,大阪家庭裁判所後見センター編『大阪家庭裁判所後見センターだより』(大阪弁護士協同組合,2025年。以下「本書」という。)226頁~239頁及び254頁~258頁を用いた。
本書は,月刊大阪弁護士会の連載(平成29年5月号~)を書籍化したものであり,原則として各回の初出当時の運用を記載し,一部だけを令和6年6月時点に修正している(本書1頁)。
本記事が扱う部分の初出は,連載第6回(平成30年4月号),第7回(平成30年6月号)及び第21回(令和2年10月号)である。
大阪家庭裁判所の現在の運用は,同庁の成年後見のページ,「成年後見人・保佐人・補助人ハンドブック(Q&A付き)」(令和8年2月1日版。以下「大阪家裁ハンドブック」という。)及び同庁が公開している申立書式で確認できた範囲で書き,確認できなかった点は本書の記載として区別する。

民法873条の2の死後事務(火葬契約,債務の弁済,3号許可)の全体は成年被後見人が死亡した後に元後見人ができることで,親族が遺体・遺骨の引取りを拒む場面は親族が遺体・遺骨の引取りを拒む・条件を付ける・連絡がつかないときで,死亡後に大阪家庭裁判所へ出す報告書類とその期限は本人死亡後に成年後見人が家庭裁判所へ出す報告書類――死亡の連絡,死亡時3点セット,収支報告書,引継書と期限で扱っている。
本記事は,これらと重複する説明を置かず,相続人が財産を受け取らない場面に絞る。
本書の該当部分には裁判例の引用がなく,令和8年9月19日に裁判所ウェブサイトの裁判例検索で「相続財産の保存に必要な処分」を全文検索した結果(2件)にも元後見人等の引継ぎを扱ったものはなかったため,本記事は条文と大阪家庭裁判所自身が公表した運用の説明及び書式を根拠とする。

2 結論

①後見人等は,任務終了から2か月以内に管理の計算をし(民法870条),相続人に財産を引き継ぐ義務を負うが,本書は,管理計算の報告も財産の引継ぎも相続人の1人に対して行えば足りると説明している。
②「引継ぎ」の対象は,現金,動産及び権利を徴表する書類(通帳,証書,鍵等)であり,預貯金や不動産の権利そのものは本人の死亡により既に相続人の共有となっている。
③相続人が受け取らないときは,引渡しの準備をしたことを通知して受領を催告すれば弁済の提供となり(民法493条ただし書),後見人等は以後,不履行の責任を負わない(民法492条)。ただし,引継ぎの債務そのものは消えない。
④現金は,受領拒絶を理由に弁済供託をすれば債務が消滅する(民法494条1項1号)。
⑤通帳・証書・登記関係書類等は権利の徴表にすぎないので,本書は引継ぎを要しないとし,一定期間の経過後に廃棄してよいとも回答している。
⑥動産だけは,受領拒絶が続く限り引継ぎの債務が残る。本書は,月1回程度の催告を重ねた上で,民法897条の2第1項の「相続財産の保存に必要な処分」として寄託・換価・廃棄を求める申立てをし,換価金から報酬を控除した残金を供託して終える道を示している。
⑦相続財産管理人の選任は,紛争性が極めて高く,かつ継続的な弁済や管理が必要な事案に限られる。代表者を決めさせるだけの選任は必要性が否定され,後見人等をそのまま管理人に選任すること(スライド選任)も想定されていない。
⑧民法897条の2は「いつでも」処分を命ずることができるが,相続人が1人で単純承認をしたとき,遺産の全部の分割がされたとき,及び相続財産の清算人が選任されているときは使えない(同条1項ただし書)。
⑨相続人がいないとみられる場合でも,本書は,最後報酬の支払後に本人名義の財産が30万円未満であれば相続財産清算人の選任を求めず,現金を供託して終える大阪家庭裁判所の運用を紹介している。ただし,この基準は現在の公開資料では確認できなかった。
⑩令和8年改正により後見・保佐は補助に一元化されるが,改正法の施行前に開始した後見・保佐には原則として従前の例が適用される。引継ぎの出口となる民法492条~494条,897条の2及び952条は改正されない。

第2 引継ぎの法的な構造
1 管理の計算と引継ぎの義務

民法870条は,「後見人の任務が終了したときは、後見人又はその相続人は、二箇月以内にその管理の計算(以下「後見の計算」という。)をしなければならない。ただし、この期間は、家庭裁判所において伸長することができる。」と定める。
保佐人と補助人にも,民法876条の5第3項及び876条の10第2項により同条が準用される。
後見監督人があるときは,後見の計算はその立会いをもってしなければならない(民法871条)。

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本人死亡後に成年後見人が家庭裁判所へ出す報告書類――死亡の連絡,死亡時3点セット,収支報告書,引継書と期限(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論1 対象と基準日2 素材とした本と,その記述の時点3 結論第2 本人の死亡で終わるものと残る義務1 後見等の終了と代理権の消滅2 相続人に対する管理の計算と引継ぎ3 家庭裁判所に対する報告4 法務局に対する終了登記第3 死亡直後の連絡1 大阪家庭裁判所の現在の案内2 本書の説明――「直ちに」と「連絡後2週間以内」第4 その後の書類を決める三つの分岐1 三つの分岐2 引継ぎが不要な場合3 本書が示す期限4 現在の期限は事務連絡で確認する第5 死亡時3点セットと報酬付与申立て1 死亡時3点セットの中身2 後見等事務報告書は定期報告と同じ書式で作る3 財産目録の基準日は死亡時4 報酬付与申立ての時期と費用5 死後事務についての付加報酬第6 死後収支報告書1 書式2 死亡時から引継時までの全ての収支を書く3 5万円を超える収支の裏付け資料4 財産が残らない場合第7 引継書と引継時の財産目録1 引継書の書式2 引継ぎの相手が相続人であることの説明3 引継書別紙の財産目録は引継時が基準日4 三つの書類の検算5 引継ぎの際の実務上の注意第8 4か月以内に引継ぎが終わらないとき1 進捗状況の報告2 連絡がないときの口座凍結の指示3 相続人間の紛争で合意を待つ場合の中間報告4 長期間が経過した後の相続債務の弁済第9 死後事務の許可申立てと報告との関係1 3号許可の申立て2 許可を得なかったことが当然に違法となるわけではない場面3 払戻しを求める金額は債務額に限る4 報酬の精算のための払戻し5 保佐人・補助人の場合第10 後見等監督人が選任されている場合1 書類は監督人を経由する2 監督人が確認すべきこと第11 本書の記述のうち現在は変わった点と確認できない点1 変わった点2 現在の公開資料では確認できない点第12 令和8年改正後の扱い1 補助への一元化と終了時の条文2 死後事務の規定3 施行日と経過措置第13 出典・参考資料1 法令2 公的資料3 文献4 関連記事
第1 この記事の対象と結論
1 対象と基準日

本記事は,成年被後見人,被保佐人又は被補助人(以下「本人」という。)が死亡した後に,成年後見人,保佐人又は補助人(以下「後見人等」という。)が大阪家庭裁判所へ提出する報告書類について,提出の順序,書類ごとの作り方,期限及び誤りやすい点を整理するものである。
基準日は令和8年9月19日であり,法令は同日時点の現行条文をe-Gov法令検索で確認した。
令和8年法律第45号(民法等の一部を改正する法律)による改正後の条文は,e-Gov法令検索の未施行版と法務省が公表した法律案本文で確認した。

本人死亡後に元後見人が何をどの根拠で行うことができるか(民法873条の2の死後事務,応急処分及び事務管理)は,成年被後見人が死亡した後に元後見人ができること-民法873条の2の死後事務と事務管理で扱っている。
相続人が遺産を受け取らない場合の受領の催告,供託及び相続財産管理人の選任は,相続人が遺産を受け取らないとき――成年後見人の引継ぎ,受領の催告,供託,民法897条の2の相続財産管理人で扱う。
遺体・遺骨の引取りをめぐる親族との調整は,親族が遺体・遺骨の引取りを拒む・条件を付ける・連絡がつかないとき及び成年後見人の死後事務と遺骨の引取りで扱っている。
本記事は,これらと重複する説明を置かず,家庭裁判所に対する報告の側だけを対象とする。

2 素材とした本と,その記述の時点

素材として,大阪家庭裁判所後見センター編『大阪家庭裁判所後見センターだより』(大阪弁護士協同組合,2025年。以下「本書」という。)を用いた。
本書は,月刊大阪弁護士会に平成29年5月号から連載された「大阪家裁後見センターだより」の第1回から第41回までを再編したものであり,本記事が主に扱うのは,連載第8回(平成30年8月号初出),第19回(令和2年6月号初出),第21回(令和2年10月号初出),第22回(令和2年12月号初出)と,書記官の視点による小窓3本(連載第11回・平成31年2月号,第16回・令和元年12月号,第29回・令和4年2月号の各初出)である(本書240頁~268頁)。
本書1頁は,書籍化に当たって現在では取扱いが変わっているもの等について若干の修正や加筆をしたが,原則として初出当時の運用等を記載した記事であることに注意するよう求めている。
そこで本記事は,大阪家庭裁判所の成年後見のページ(令和8年9月19日確認)と「成年後見人・保佐人・補助人ハンドブック(Q&A付き)」(令和8年2月1日版。以下「大阪家裁ハンドブック」という。)で現在も確認できる事項と,本書の記載にとどまる事項とを分けて書く。
なお,連載は第42回以降も続いており,第42回は本人死亡後の事務の監督を扱っているが(大阪家裁後見センターだよりの一覧参照),本書には収録されておらず,本記事の素材には含めていない。

3 結論

①本人が死亡すると後見等は終了し,後見人等の代理権は消滅するが,相続人に対しては2か月以内に管理の計算をして財産を引き継ぐ義務が残り,家庭裁判所に対しては引継ぎまでの報告が求められる。
②大阪家庭裁判所の現在の案内は,本人が亡くなったら,2週間以内に死亡診断書又は除籍謄本のコピーを添えて裁判所に亡くなった旨を連絡し,その他に必要な書類は追って送付される事務連絡に従う,というものである。
③本書が説明する流れは,死亡を証する書面の提出→死亡時3点セット(死亡時までの後見等事務報告書,死亡時を基準日とする財産目録,裏付け資料)を添付した報酬付与申立て→報酬付与審判→死後収支報告書,引継書及び引継時の財産目録の提出,である。
④本書が示す期限は,引継ぎが必要な事案で本人死亡から4か月以内,報酬付与申立てをした結果として財産が残らない事案で報酬付与審判から1か月以内,報酬付与申立てをしないで財産が残らない事案で本人死亡から2か月以内である。
ただし,大阪家庭裁判所は現在これらの期限を一般には公表しておらず,個別の事務連絡で案内するとしているから,実際の期限は事務連絡で確認する必要がある。
⑤誤りが多いのは,死亡時の財産目録の基準日を作成日にしてしまうこと,死後の収支報告書に手持現金の収支だけを書くこと,引継書別紙の財産目録に死亡時の目録を流用することである。
死亡時の財産目録の預貯金・現金の合計に死後収支報告書の収支を加減すると,引継時の財産目録の合計になるはずであり,この検算で誤りの多くは防げる。
⑥引継書,死後の収支報告書及び報酬付与申立ての書類は,大阪家庭裁判所の成年後見のページと裁判所の後見ポータルサイトに掲載されている最新の書式を使う。
⑦令和8年改正後は,後見・保佐が補助に一元化され,管理の計算は民法876条の23,死後事務は民法876条の26に規定されるが,施行日前に開始した後見・保佐は原則として従前の例による。

第2 本人の死亡で終わるものと残る義務
1 後見等の終了と代理権の消滅

代理権は本人の死亡によって消滅する(民法111条1項1号)。
本書254頁注4は,死亡と同時に法定後見が終了し,本人の権利義務は相続人に帰属し,後見人等は管理権限を失うという重大な効果が発生すると説明している。

(続きを読む...)本人死亡後に成年後見人が家庭裁判所へ出す報告書類――死亡の連絡,死亡時3点セット,収支報告書,引継書と期限(AI作成)

成年後見事件の記録の閲覧・謄写――家事事件手続法47条,親族・相続人からの請求と非開示の申出(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論1 対象と基準日2 結論第2 家事事件手続法47条の仕組み1 手続の非公開と記録の閲覧等2 許可を要しない審判書等の交付3 録音テープ等と執務上の制限4 手数料と申請書式第3 「当事者」からの申立て1 後見等事件の「当事者」は誰か2 原則許可と不許可事由3 却下に対する即時抗告第4 「利害関係を疎明した第三者」からの申立て1 誰が第三者として申し立てるか2 相当と認めるときの許可3 即時抗告はできない第5 事件ごとに記録が分かれることの意味1 積み重なる後見等事件2 当事者性は事件ごとに判断される3 事実の調査がされた部分4 最高裁令和4年6月20日決定5 後見等開始事件の申立人への当てはめ第6 後見人等の側からみた情報管理1 記録は見られる前提で作る2 不要な個人情報を出さない3 非開示の申出4 提出の都度の申出と既提出書面の特定5 申出の効果と限界第7 親族・相続人の側からみた閲覧謄写1 親族2 本人死亡後の相続人3 解任を求める場合第8 秘匿制度との違い1 家事事件手続法38条の22 非開示の申出との比較第9 本書の記述と現在の違い第10 今後の法改正1 令和8年改正2 民事関係手続のIT化第11 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 公的資料4 文献5 関連記事
第1 この記事の対象と結論
1 対象と基準日

本記事は,成年後見・保佐・補助(以下「後見等」という。)の事件記録を,後見人等,本人,親族,相続人等が家庭裁判所で閲覧し,又は謄写(コピー)する手続と,後見人等が提出書類に含まれる情報を一定の者に見せたくない場合に行う「非開示の申出」について,大阪家庭裁判所の運用を中心に説明するものである。
基準日は令和8年9月19日であり,法令は同日時点の現行条文をe-Gov法令検索で確認した。
令和8年法律第45号(民法等の一部を改正する法律)による改正後の条文は,法務省の新旧対照条文,法律案本文及びe-Gov法令検索の未施行版で確認した。

素材として,大阪家庭裁判所後見センター編『大阪家庭裁判所後見センターだより』(大阪弁護士協同組合,2025年。以下「本書」という。)309頁~317頁を用いた。
本書は,月刊大阪弁護士会の連載を再編したものであり,原則として各回の初出当時の運用を記載したものである(本書1頁)。
本記事で扱う部分は,連載第33回(令和4年12月号初出)の「事件記録の閲覧謄写について,非開示希望の申出について」(本書309頁~316頁)と,連載第20回(令和2年8月号初出)の小窓「非開示希望の申出」(本書317頁)である。
大阪家庭裁判所の現在の運用は,同庁の成年後見のページ,「成年後見人・保佐人・補助人ハンドブック(Q&A付き)」(令和8年2月1日版。以下「大阪家裁ハンドブック」という。),現在掲載されている「非開示の申出書(後見事件用)」等で確認できた範囲で書き,確認できなかった点は本書の記載として区別する。

2 結論

①後見等事件の記録は,家事事件手続法47条により,「当事者」又は「利害関係を疎明した第三者」が,家庭裁判所の許可を得て閲覧・謄写を請求できる。
②後見等事件で「当事者」に当たるのは基本的に申立人(及び参加人)であり,本人は申立人又は参加人でない限り当事者ではない。
当事者の申立ては原則として許可され(同条3項),却下されれば即時抗告ができる(同条8項)。
③後見人等,後見監督人等,本人,親族,相続人等は「利害関係を疎明した第三者」として申し立てることになり,家庭裁判所が相当と認めるときに許可される(同条5項)。
却下されても即時抗告はできない。
④本書によれば,弁護士が後見人等として申し立てた場合は相当広範囲で許可されている一方,親族の手続代理人として申し立てた場合とは許可される範囲が異なる。
⑤後見等の記録は,開始事件,監督事件,報酬付与事件等の事件ごとに作られ,当事者に当たるかどうかも事件ごとに判断される。
最高裁令和4年6月20日決定を踏まえると,開始事件の申立人であっても,開始後に後見人等が提出した財産目録や報告書については第三者として申し立てるにとどまると考えられる。
⑥大阪家裁ハンドブックは,本人や親族から閲覧謄写の請求があった場合,特別の事情がある場合を除いて裁判官が許可をすれば閲覧・コピーができるとし,後見人等に対し,見られる可能性を前提に書類を作成するよう求めている。
⑦開示されたくない情報(本人・親族の住所,居所,就業場所,虐待に至る経緯等)があるときは,大阪家庭裁判所の「非開示の申出書(後見事件用)」を提出する。
申出は書類を提出する都度必要であるが,現在の書式では,既に提出した書面を日付や名称で特定して申し出ることもできる。
⑧非開示の申出は,家庭裁判所が閲覧謄写の許否を判断する際の資料であって,必ず非開示になるわけではない。
⑨これとは別に,家事事件手続法38条の2により,民事訴訟法の住所・氏名等の秘匿制度が家事事件にも一部準用されている。
⑩令和8年改正は家事事件手続法47条の文言を変えていない。
他方,民事関係手続のIT化に伴う改正により,同条は「非電磁的家事審判事件記録」の閲覧等の規定に改められ,電磁的記録の閲覧等の規定(47条の2)が新設される予定である(基準日現在は未施行)。

第2 家事事件手続法47条の仕組み
1 手続の非公開と記録の閲覧等

家事事件手続法33条は,「家事事件の手続は、公開しない。ただし、裁判所は、相当と認める者の傍聴を許すことができる。」と定める。
後見等の事件記録には,本人の病状,財産,家族関係,施設や住所等の情報が多く含まれるから,誰でも自由に見られるものではない。

(続きを読む...)成年後見事件の記録の閲覧・謄写――家事事件手続法47条,親族・相続人からの請求と非開示の申出(AI作成)

任意後見と法定後見はどちらが優先するか――任意後見契約法10条1項・4条1項2号と裁判例(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論1 対象と基準日2 結論第2 優先関係を定める条文1 任意後見契約が先に登記されている場合2 法定後見が先に開始している場合3 任意後見契約が終了するかどうか4 併存を認めない理由5 利用の規模第3 前提問題――任意後見契約が有効であること1 有効な契約が任意後見監督人選任の前提となる2 公正証書と公証人の確認3 即効型で問題になりやすい4 有効性が争われた裁判例5 有効性の判断資料第4 「本人の利益のため特に必要」の意味1 特別の必要性2 立法担当者が挙げた例3 裁判例による類型化第5 裁判例の内容1 大阪高裁平成14年6月5日決定2 大阪高裁平成24年9月6日決定(第二の争点)3 福岡高裁平成29年3月17日決定4 高松高裁令和元年12月13日決定5 水戸家裁令和2年3月9日審判6 名古屋高裁平成26年2月7日決定7 結論の向き第6 大阪家裁後見センターの考え方1 受任者の適格性が中心となる2 親族間の対立だけでは足りない3 後見センターが挙げる2つの例4 相談を受けた弁護士の留意点第7 大阪家裁への任意後見監督人選任申立て1 申立先と手続の流れ2 必要書類3 法定後見の登記されていないことの証明書4 本書から変わった郵便料第8 令和8年改正後の優先関係1 施行時期2 任意後見開始の審判3 補助との関係4 経過措置第9 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 公的資料4 文献5 関連記事
第1 この記事の対象と結論
1 対象と基準日

本記事は,任意後見契約が登記されている本人について法定後見(後見・保佐・補助)の開始が申し立てられた場合,又は既に法定後見が開始している本人について任意後見監督人の選任が申し立てられた場合に,どちらの制度が優先するかを扱う。
中心となるのは,任意後見契約に関する法律(以下「任意後見契約法」という。)10条1項と4条1項2号にいう「本人の利益のため特に必要がある(である)と認めるとき」の意味と,その該当性が争われた裁判例である。
基準日は令和8年9月19日であり,条文は同日時点の現行条文をe-Gov法令検索で確認した。
令和8年法律第45号(民法等の一部を改正する法律。以下「改正法」という。)による改正後の条文は,e-Gov法令検索の未施行版と改正法の法律案本文で確認した。

素材として,大阪家庭裁判所後見センター編『大阪家庭裁判所後見センターだより』(大阪弁護士協同組合,2025年。以下「本書」という。)の第6章(任意後見)を用いた。
本書は,月刊大阪弁護士会の連載をまとめたもので,原則として各回の初出当時の運用を記載したものである(本書1頁)。
本記事で扱う回は,連載第9回(平成30年10月号初出,本書269頁~277頁),連載第10回(平成30年12月号初出,本書278頁~285頁),連載第38回(令和5年12月号初出,本書286頁~292頁)及び小窓「任意後見監督人選任申立てについて」(連載第10回初出,書籍化の際に令和6年6月時点の内容に更新,本書293頁)である。
大阪家庭裁判所の現在の運用は,同庁の「任意後見制度」のページ,「提出書類一覧表(任意後見)」(令和8年2月)及び「郵便切手及び予納金一覧(令和8年8月3日~)」で確認できた範囲で書き,確認できなかった点は本書の記載として区別する。

移行型の任意後見契約の仕組みや濫用防止策は移行型の任意後見契約―通常委任からの移行,濫用防止及び令和8年改正で,独身の高齢者が任意後見契約を結ぶ意味は独身の高齢者に任意後見契約が必要な理由で扱っているので,本記事では優先関係の判断に絞る。

2 結論

①任意後見契約が登記されていれば,任意後見監督人の選任の前後を問わず,家庭裁判所は「本人の利益のため特に必要があると認めるとき」に限り後見開始の審判等をすることができる(任意後見契約法10条1項)。
②既に法定後見が開始している本人について任意後見監督人の選任が申し立てられた場合は,法定後見の継続が「本人の利益のため特に必要であると認めるとき」を除き,任意後見監督人を選任して法定後見開始の審判を取り消す(同法4条1項2号・2項)。
③いずれの場面でも任意後見が原則であり,「特に必要」とは,任意後見契約の効力を否定して本人の自己決定が尊重されない結果となっても,なお法定後見を優先させるべき特別の必要性を意味すると本書は説明している(本書279頁)。
④裁判例は,代理権の範囲の不足,報酬の過大,受任者の不適格事由,契約の有効性への客観的な疑念,本人が法定後見を選ぶ意思を持っていることなど,任意後見契約によることが本人の保護に欠ける結果となる場合を「特に必要」に当たるとしている。
⑤実際に争われる事案の多くは親族間紛争であり,大阪家裁後見センターは,任意後見受任者の適格性に重点を置いて判断する例が多いとしている(本書290頁~291頁)。
もっとも,親族間に深刻な対立があるというだけでは,親族を任意後見人とすべきでない理由にはならないとも述べている(本書284頁注7)。
⑥本書が紹介する裁判例の結論は一方向ではなく,法定後見を優先させたもの(大阪高裁平成24年9月6日決定の判断内容,福岡高裁平成29年3月17日決定,水戸家裁令和2年3月9日審判)と,任意後見を優先させたもの(高松高裁令和元年12月13日決定)がある。
⑦大阪家裁への任意後見監督人選任申立ての郵便料は,本書の3,990円(令和6年6月現在)から,現在は郵便切手4,500円分,又は保管金5,000円と郵便切手1,100円分(本庁は切手不要)の選択制に変わっている。
⑧改正法の施行後は,任意後見の開始は「任意後見開始の審判」となり,法定後見は補助に一元化される。
登記された任意後見契約がある場合の補助開始は引き続き「本人の利益のため特に必要があると認めるとき」に限られる(改正後の任意後見契約法14条1項)が,現行10条3項に当たる規定は置かれておらず,補助と任意後見の併存を前提とした構造に変わる。

第2 優先関係を定める条文
1 任意後見契約が先に登記されている場合
(1) 10条1項

任意後見契約法10条1項は,「任意後見契約が登記されている場合には、家庭裁判所は、本人の利益のため特に必要があると認めるときに限り、後見開始の審判等をすることができる。」と定める。
「後見開始の審判等」は,後見開始,保佐開始又は補助開始の審判の総称である(同法4条2項)。
この規定は,任意後見監督人が選任される前(任意後見契約が発効する前)にも,選任された後にも適用される(本書278頁)。
任意後見契約が公正証書で締結され(同法3条),登記されている限り,法定後見の申立てをした親族の側が「特に必要」であることを示せなければ,法定後見は開始されない。

(続きを読む...)任意後見と法定後見はどちらが優先するか――任意後見契約法10条1項・4条1項2号と裁判例(AI作成)

相続財産清算人の権限外行為許可―許可が要る行為と要らない行為,類型別の留意点及び申立ての方法(AI作成)

目次第1 この記事の対象と権限の枠組み1 この記事の対象2 保存・利用・改良行為と処分行為3 清算人に固有の清算権限4 許可を得ずにした行為の効力第2 許可が要らないと解されている行為1 預金の照会・解約・払戻し2 貸金庫の開扉・点検・解約3 管理費用の支払・税金の納付・継続的契約の解約4 価値のない家財道具の廃棄5 判断に迷う場合と金融機関から許可を求められた場合第3 許可が要る行為の類型と留意点1 不動産の売却2 建物の取壊し3 動産・自動車の売却,譲渡,廃棄4 株式・投資信託の売却5 ゴルフ会員権6 出資金7 永代供養料・墓地の購入費用8 立替金・謝金の支払9 賃貸借契約の締結・解除10 訴訟行為11 債権の放棄第4 申立ての方法と許可後の報告1 申立先と費用2 申立書の書き方3 審判と不服申立て4 許可後の報告第5 出典1 法令2 裁判例3 公的資料・報告書
第1 この記事の対象と権限の枠組み
1 この記事の対象

本記事は,相続人のあることが明らかでない場合に選任される相続財産清算人(民法952条)が,相続財産を管理・換価する際に家庭裁判所の許可(権限外行為許可)を要するかどうかを,行為の類型ごとに整理するものである。
令和8年9月19日時点の民法,家事事件手続法,裁判所の公開資料(熊本家庭裁判所後見センター「相続財産の清算人の職務について」,大阪家庭裁判所の郵便料一覧),全国銀行協会の金融法務研究会の報告書等を確認して作成した。
許可の要否や運用は家庭裁判所によって異なる部分があるため,実際の事件では選任した家庭裁判所に確認する必要がある。
清算手続全体の流れは「相続人がいない場合の相続財産清算人」で整理している。

2 保存・利用・改良行為と処分行為

相続財産清算人には,不在者財産管理人に関する民法27条から29条までが準用される(民法953条)。
清算人は,民法103条に規定する権限を超える行為を必要とするときは,家庭裁判所の許可を得て,その行為をすることができる(同法28条)。
民法103条が定めるのは,①保存行為と,②代理の目的である物又は権利の性質を変えない範囲内で,その利用又は改良を目的とする行為である。

全国銀行協会の金融法務研究会の報告書は,一般的な理解として,保存行為とは財産の現状を維持するために必要な行為,利用行為とは収益を図る行為,改良行為とは財産の使用価値又は交換価値を増加させる行為をいうと整理している。
同報告書によれば,腐敗しやすい物を売却して金銭に換えること,未登記不動産の登記,時効の完成猶予の措置,弁済期が到来した債務の弁済は保存行為の例とされ,金銭を銀行に預け入れることは利用行為の例とされる。
他方,預金を株式に換えるなど,物又は権利の性質を変える行為は,利用・改良の目的であっても清算人の権限を超えるとされている。

3 清算人に固有の清算権限

相続財産清算人は,民法28条の枠組みとは別に,清算のための権限を持つ。
請求申出の期間が満了した後の相続債権者及び受遺者への弁済(民法957条2項,929条~931条)や,弁済のために必要な場合の相続財産の競売(同法957条2項,932条本文)は,法律が定める清算の職務であり,これらについて権限外行為許可は問題とならない。
ただし,弁済の順序や按分を誤れば清算人が損害賠償責任を負うことがある(同法957条2項,934条)。

4 許可を得ずにした行為の効力

権限を超える行為を家庭裁判所の許可なしにした場合は,無権代理行為となる(民法113条)。
前記の報告書は,旧法下の相続財産管理人について,取引の相手方は許可の有無を審判書の提示を求めることで容易に確認できるため,表見代理(民法110条)の「正当な理由」が認められるのは審判書が偽造された場合など特別な場合に限られるとの指摘を紹介している。
清算人と取引をする相手方は,許可を要する行為であれば,許可審判書の写しで許可の内容を確認しておくべきである。
表見代理(民法109条・110条)の要件と,実印や印鑑証明書を示された相手方の確認についての最高裁判例は,登記手続のために実印や権利証を預けた相手が無断で保証や担保設定をしたとき―表見代理(民法109条・110条)と最高裁判例で整理している。

第2 許可が要らないと解されている行為
1 預金の照会・解約・払戻し

被相続人名義の預金の残高照会は,財産目録の作成(民法953条,27条1項)のための調査であり,清算人の権限に含まれる。
預金の解約・払戻しについても,前記の報告書は,実務上,清算人の権限内の行為であり家庭裁判所の許可は不要と解されてきたと整理し,預貯金を金銭にすること自体は財産の現状を増減させない現状維持的な行為として,許可不要と解してよいとしている。
熊本家庭裁判所の資料も,相続財産の預貯金は清算人名義に変更するよう案内している。

これに対し,外貨預金や投資信託のように価格が変動する資産に振り替えたり,投資信託等を購入したりする行為は,権利の性質を変えるものとして権限外になるとされている。

2 貸金庫の開扉・点検・解約

(続きを読む...)相続財産清算人の権限外行為許可―許可が要る行為と要らない行為,類型別の留意点及び申立ての方法(AI作成)

本人による後見等開始の申立て――手続行為能力,申立意思の確認と説明状況報告書(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論1 対象と基準日2 結論第2 本人申立ての位置付け1 本人は申立権者である2 本人申立ての件数3 本人申立てが問題になる場面第3 申立人である本人の手続行為能力1 家事事件手続法118条の意味2 「一時的な回復」が必要であるという考え方3 意思能力の判断枠組み4 本人が理解し得ることが求められる内容第4 大阪家庭裁判所後見センターの調査の着眼点1 普段の能力の程度2 専門職の説明内容と本人の反応3 意思能力の認定が困難となる例4 制度利用の必要性が高いほどかかるバイアス第5 申立意思の確認1 手続行為能力とは別に申立意思を確認する理由2 受理面接・調査官調査と説明状況報告書第6 説明状況報告書1 名称と沿革2 提出を求められる場面の拡大3 記載すべき5点4 代理権・同意権の説明5 説明の方法の工夫6 本人の反応の確かめ方と記載7 様式はなく,問答形式で書く8 後見開始以外の事件での活用第7 申立て前に整えるべき資料1 申立関係書類の精査と補充書面2 診断書3 本人情報シート4 診断書と申立ての類型が一致しない場合5 保佐・補助の申立てで気を付けること第8 本人の意思能力に疑義が残る場合1 親族申立て・市町村長申立てへの切替え2 親族申立ての場合の本人への説明3 取下げの制限第9 大阪家庭裁判所の受理面接と審理の現在1 受理面接の運用の変遷2 鑑定3 費用第10 本書の記述のうち現在は変わった点第11 令和8年改正後の本人申立て1 補助への一元化と本人の請求権2 本人の同意3 手続の規定4 説明すべき法律効果の変化5 施行日と経過措置第12 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 公的資料4 文献5 関連記事
第1 この記事の対象と結論
1 対象と基準日

本記事は,後見・保佐・補助を受けることになる本人自身が申立人となって後見等開始の審判を申し立てる場合(以下「本人申立て」という。)について,申立人である本人の手続行為能力,家庭裁判所による申立意思の確認,大阪家庭裁判所後見センターが提出を求めることがある「説明状況報告書」の書き方,申立て前に整えるべき診断書・本人情報シート等の資料,本人の能力に疑問がある場合の対応及び令和8年改正後の扱いを整理するものである。
基準日は令和8年9月19日であり,法令は同日時点の現行条文をe-Gov法令検索で確認した。
令和8年法律第45号(民法等の一部を改正する法律)による改正後の条文は,法務省が公表している同法律の法律案本文及び新旧対照条文で確認した。

素材として,大阪家庭裁判所後見センター編『大阪家庭裁判所後見センターだより』(大阪弁護士協同組合,2025年。以下「本書」という。)を用いた。
本書は,月刊大阪弁護士会に平成29年5月号から連載された「大阪家裁後見センターだより」の第1回から第41回までを内容ごとに並べ替えて書籍化したものである。
本書1頁は,書籍化に当たり現在では取扱いが変わっているもの等について若干の修正・加筆をしたが,おおむね連載内容のままであり,原則として初出当時の運用等を記載したものであることに注意を求めている。
そのため,本記事では本書の記述ごとに連載回と初出の号を示し,大阪家庭裁判所の現在の運用は,同庁の成年後見のページ,申立てのチェック表(令和8年2月1日版)及び同庁が掲載する書式で確認できた範囲で書き,確認できなかった点は本書の記載として区別する。

2 結論

①本人は後見・保佐・補助のいずれについても開始の審判の申立権者であり(民法7条,11条,15条1項),令和7年の全国の統計では申立人の約24.8%を本人が占め,最も多い。
②もっとも,後見開始の審判事件で本人が自ら手続行為をすることができるのは,本人が意思能力を有する限りにおいてであり,意思能力を欠く本人は自ら申し立てることも,弁護士に手続を委任することもできない(本書29頁)。
③大阪家庭裁判所後見センターは,本人申立てが適法であるためには,事理弁識能力を欠く常況にある本人の能力が一時的に回復し,少なくとも申立ての時点で意思能力があったと認められる必要があると考えており,普段の能力の程度と,専門職による説明の内容及びそれに対する本人の反応に着目して一件記録を調査している(本書30頁~32頁)。
④家庭裁判所は,手続行為能力とは別に,本人が申立ての内容と法律効果を理解した上で実際に申し立てる意思(申立意思)を有しているかも確認している(本書44頁~45頁)。
⑤そのための資料として,大阪家庭裁判所後見センターは,本人に何をどう説明し,本人がどう反応したかを具体的に記載した「説明状況報告書」の提出を求めることがあり,令和6年4月以降は親族申立てや保佐・補助の申立ても含めて,やや広い範囲で提出を求める方針を示している(本書53頁~57頁)。
⑥説明状況報告書には,後見人等の選任,権限,行為能力の制限,報酬及び継続性の5点について,説明内容と本人の応答をできるだけ問答形式で記載する(本書51頁~52頁)。
⑦説明が福祉的な利点に偏り本人に不利益な効果を説明した形跡がないもの,本人の反応がうなずきや「はい」にとどまるものは,意思能力や申立意思の認定が困難になりやすい(本書32頁~33頁,47頁)。
⑧本人の意思能力に疑義が残る場合には,親族申立てや市町村長申立てを検討すべきであるというのが大阪家庭裁判所後見センターの考え方である(本書34頁~35頁)。
⑨令和8年改正後も,本人は補助開始の審判の請求権者であり続けるが,後見・保佐は補助に一元化され,説明すべき法律効果の中身や,家庭裁判所が必要がなくなった審判を取り消すことができる点が変わる。

第2 本人申立ての位置付け
1 本人は申立権者である

民法7条は,「精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者については、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族、未成年後見人、未成年後見監督人、保佐人、保佐監督人、補助人、補助監督人又は検察官の請求により、後見開始の審判をすることができる。」と定める。
保佐開始(民法11条)と補助開始(民法15条1項)についても,請求権者の最初に「本人」が挙げられている。
申立先は本人の住所地を管轄する家庭裁判所であり(家事事件手続法117条1項),大阪家庭裁判所の成年後見のページは,申立先について「住民票のある住所ではありません」として,本人が現在住んでいる自宅,病院,介護施設などを基準としている。

2 本人申立ての件数

最高裁判所事務総局家庭局「成年後見関係事件の概況-令和7年1月~12月-」4頁によれば,後見開始,保佐開始,補助開始及び任意後見監督人選任事件の終局事件の申立人の関係別の総数42,829件のうち,本人は10,620件で約24.8%を占め,最も多い。
次いで市区町村長が10,139件(約23.7%),本人の子が約18.5%の順である。
なお,同概況の本人の件数には,比較的判断能力が保たれている保佐・補助の申立てや任意後見監督人選任の申立ても含まれるから,本人による後見開始の申立てがこれだけあるという意味ではない。

3 本人申立てが問題になる場面

(続きを読む...)本人による後見等開始の申立て――手続行為能力,申立意思の確認と説明状況報告書(AI作成)

成年後見人等の辞任と交代――正当な事由,後任選任の同時申立て,市民後見人へのリレー(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論1 対象と基準日2 結論第2 辞任と交代の法的な枠組み1 辞任には正当な事由と家庭裁判所の許可が必要である2 辞任した後見人等は後任の選任を請求しなければならない3 「交代」は辞任と選任の組合せである4 辞任した後見人等に残る義務第3 「正当な事由」はどう判断されるか1 本書が示す4つの場面2 大阪家裁ハンドブックと申立書の記載3 本人が転居しても管轄は開始した家庭裁判所にある第4 大阪家庭裁判所への辞任許可と後任選任の申立て1 同時申立てが原則である2 費用3 添付資料4 本人の陳述聴取――陳述書と上申書5 候補者の意見聴取6 不服申立て第5 後任の後見人等がすること1 初回の財産目録と収支予定2 引継ぎの実際第6 大阪家庭裁判所が進める交代の考え方1 第二期成年後見制度利用促進基本計画2 交代の3つの類型3 交代の時期を最初に共有する4 「課題の解決」の意味5 身上保護が困難な事案での交代第7 専門職後見人の追加選任1 根拠条文2 親族後見人の事務に問題がある場合3 不正が疑われる事案で追加選任された専門職後見人の事務4 スポット的な選任5 複数の専門職後見人が選任された場合と課題解決後の辞任6 後見監督人から見た辞任と追加選任第8 市民後見人へのリレー1 大阪家庭裁判所管内の市民後見人2 市民後見人の選任に適した事案3 現行の書式「市民後見人へのリレーについて(専門職後見人へのお尋ね)」4 リレーの手順5 首長申立てでリレーを前提に専門職を推薦する運用6 リレーが進まない理由と後見センターの考え7 連載第49回による補足――大阪府下の市民後見人の活動と選任されない事案第9 令和8年改正後の辞任と交代1 施行の時期2 改正後の条番号3 解任事由3号が交代の道具になる4 既存の成年後見人・保佐人への経過措置5 お尋ねの書式と市民後見人のリレーはどうなるか第10 出典・参考資料1 法令2 公的資料3 文献4 関連記事
第1 この記事の対象と結論
1 対象と基準日

本記事は,家庭裁判所が選任した成年後見人・保佐人・補助人(以下「後見人等」という。)が途中で辞任し,別の者と交代する場面について,辞任の要件である「正当な事由」,大阪家庭裁判所への辞任許可と後任選任の同時申立て,本人の陳述聴取,専門職後見人の追加選任及び市民後見人へのリレーを取り上げるものである。
基準日は令和8年9月19日であり,法令は同日時点の現行条文をe-Gov法令APIで取得して確認した。
令和8年法律第45号(民法等の一部を改正する法律)による改正後の条文は,法務省の新旧対照条文と法律案本文で確認した。
素材として,大阪家庭裁判所後見センター編『大阪家庭裁判所後見センターだより』(大阪弁護士協同組合,2025年。以下「本書」という。)の169頁~180頁,302頁~308頁及び156頁~161頁を用いた。
本書は,月刊大阪弁護士会の連載を書籍にまとめたものであり,本書1頁は,原則として初出当時の運用を記載した記事であることに注意するよう求めている。
そのため,本記事では本書の記述ごとに連載の回と初出号を示し,大阪家庭裁判所の現在の運用は,同庁の成年後見のページ(令和8年9月19日取得),「成年後見人・保佐人・補助人ハンドブック(Q&A付き)」(令和8年2月1日版。以下「大阪家裁ハンドブック」という。)及び同ページ掲載の書式で確認できた範囲で書く。
解任については成年後見人の解任理由で扱っているので,本記事では辞任と交代に必要な限度でだけ触れる。

2 結論

①後見人等は,正当な事由があるときに限り,家庭裁判所の許可を得て辞任することができる(民法844条,876条の2第2項,876条の7第2項)。
②辞任によって新たな後見人等を選任する必要が生じたときは,辞任した後見人等は遅滞なく後任の選任を請求しなければならない(民法845条)。大阪家庭裁判所は,辞任許可の申立てと同時に後任選任の申立てをするよう求めている。
③本書(連載第15回・令和元年10月号初出)は,後見人等の遠隔地への転居・老齢・疾病を原則として正当な事由とし,専門職が関与すべき課題が解決して親族や市民後見人に引き継げる場合も一般に正当な事由があるとする。他方で,本人や親族との信頼関係が築けないことは,それだけで直ちに正当な事由になるのではなく,総合的に判断するとしている。
④後任の選任には本人の陳述聴取が手続要件であり,大阪家庭裁判所は,本人が陳述できれば「本人の陳述書」,意思疎通ができない等の場合は「上申書」を添付するよう求めている。
⑤現在の費用は,辞任許可と後任選任を同時に申し立てる場合,収入印紙1,600円分,登記用収入印紙1,400円分及び郵便切手5,500円分(候補者1人の場合)である。
⑥本書(連載第31回・令和4年6月号初出)は,後見人等の交代を3つの類型に分け,専門職が課題を解決した後に親族や市民後見人へ引き継ぐことを「リレー」と呼び,専門職後見人に辞任の可否と時期の検討を求める機会が増えるとしていた。
⑦この考え方は,令和7年4月1日版の書式「市民後見人へのリレーについて(専門職後見人へのお尋ね)」として具体化されており,現在,大阪家庭裁判所は,専門職の成年後見人に対し,定期報告と報酬付与申立ての際にこの書式を提出するよう求めている。
⑧親族後見人の事務に問題がある場合,大阪家庭裁判所は,辞任・解任までの間などに専門職後見人を追加選任して権限を分掌させることがある。本書はこれをリレーの「テイクオーバーゾーン」に例えている。
⑨令和8年改正後は,辞任は改正後の民法876条の3,後任選任の請求は876条の4に移る。施行日前に開始した成年後見の成年後見人の辞任は従前の例によるが,解任は改正後の民法876条の5によるから,「本人の利益のため特に必要があるとき」(同条1項3号)という解任事由が,交代のもう一つの道具になる。

第2 辞任と交代の法的な枠組み
1 辞任には正当な事由と家庭裁判所の許可が必要である

民法844条は,「後見人は、正当な事由があるときは、家庭裁判所の許可を得て、その任務を辞することができる。」と定める。
保佐人と補助人にも同条が準用される(民法876条の2第2項,876条の7第2項)。
成年後見監督人・保佐監督人・補助監督人にも同条が準用されるから(民法852条,876条の3第2項,876条の8第2項),監督人の辞任にも正当な事由と許可が必要である。

本書169頁(連載第15回・令和元年10月号初出)は,後見人等は,本人の心身の状態や生活・財産の状況,後見人等となる者の職業・経歴,利害関係の有無,本人の意見その他一切の事情を考慮して(民法843条4項等),後見等の事務の適任者として選任されているから,自由な辞任を認めると本人の利益が害されるおそれがあり,そのため辞任には正当な事由と家庭裁判所の許可が必要とされていると説明する。
大阪家裁ハンドブック(Q22)も,後見人は本人の保護のため裁判所から適任者と認められて選任されたのだから,自由に辞任できることにすると本人の利益を害するおそれがあると説明している。

2 辞任した後見人等は後任の選任を請求しなければならない

民法845条は,「後見人がその任務を辞したことによって新たに後見人を選任する必要が生じたときは、その後見人は、遅滞なく新たな後見人の選任を家庭裁判所に請求しなければならない。」と定める。
保佐人・補助人にも同条が準用される(民法876条の2第2項,876条の7第2項)。

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大阪家裁の総合支援型後見監督人――対象,9か月の支援期間,到達点,延長と「横滑り」(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論1 対象と基準日2 結論第2 前提となる後見監督人の職務と従来型の監督1 後見監督人の職務と権限2 大阪家裁の従来の選任類型3 監督人が指導・助言をする際の留意点第3 総合支援型後見監督人の理念1 定義と運用開始2 なぜ家庭裁判所が親族後見人を支援するのか3 中核機関等の支援との違い4 「見張る人」から「支援する人」へ第4 対象事案,選任の手続及び報酬1 対象事案2 選任される専門職3 申立てから開始まで4 報酬第5 親族後見人の「到達点」1 到達点の位置付け2 到達点の内容(現行の文言)3 本書の文言との違い4 「後見人に求められる後見事務のポイント」第6 当初支援期間(9か月)の流れ1 選任直後2 初回報告3 初回報告から2回目報告まで4 2回目報告5 当初支援期間中に本人が死亡した場合第7 当初支援期間の終了と延長1 当初想定された延長の類型2 裁判所が判断する5つの類型3 運用の実績4 延長17件はいずれも支援商品の契約支援5 期間の経過前に支援を終えることは予定されていない6 9か月という期間の根拠第8 支援商品との関係1 報告書兼指示書を出す時期2 リレー方式との区別3 現行の書式第9 「横滑り」の可否1 問題の所在2 定期確認型への横滑りは原則として認めない3 個別課題支援型への横滑りは認めることがある4 専門職後見人への横滑りも原則として認めない第10 アンケートに見る実情と監督人の心構え1 アンケートの概要2 親族後見人への説明3 意思決定支援はどこまで求められるか4 報告事務の到達水準――「きれいな」報告は求めない5 支援商品の説明第11 本書の記述と現在の資料の対照第12 令和8年改正後の総合支援型後見監督人1 改正の内容2 同意権の規定の変化3 経過措置第13 出典・参考資料1 法令2 公的資料3 文献4 関連記事
第1 この記事の対象と結論
1 対象と基準日

本記事は,大阪家庭裁判所が令和4年2月から運用している「総合支援型後見監督人」について,その理念,対象事案,9か月の当初支援期間の流れ,親族後見人の「到達点」,支援期間の延長,支援商品(後見制度支援信託及び後見制度支援預貯金)との関係,監督人の「横滑り」の可否及び令和8年改正後の見通しを整理するものである。
基準日は令和8年9月19日である。
法令は同日時点の現行条文をe-Gov法令検索で確認し,令和8年法律第45号(民法等の一部を改正する法律)による改正後の条文と附則は,法務省が公表した新旧対照条文と法律案本文で確認した。
素材は,大阪家庭裁判所後見センター編『大阪家庭裁判所後見センターだより』(大阪弁護士協同組合,2025年。以下「本書」という。)181頁~225頁である。
本書は月刊大阪弁護士会の連載をまとめたもので,原則として各回の初出当時の運用を記載している(本書1頁)。
本記事の範囲は,連載第27回(令和3年10月号),第28回(令和3年12月号),第29回(令和4年2月号),第30回,第39回(令和6年2月号)及び第41回前編・後編(令和6年6月号・7月号)の各初出記事である。
第30回の初出号は本文の表示が読み取れないが,同じ回の小窓(本書66頁)が令和4年4月号初出とされているから,同号と考えられる。
大阪家庭裁判所の現在の運用は,同庁の成年後見のページ(令和8年9月19日取得。以下「大阪家裁ページ」という。),「【総合支援型後見監督版】成年後見人・保佐人・補助人ハンドブック」(令和8年5月1日版。以下「総合支援型ハンドブック」という。),案内書面「後見開始の申立てをお考えの方へ~後見人支援のご案内~」(令和4年2月1日版。以下「後見人支援のご案内」という。)及び同ページ掲載の書式で確認し,確認できなかった点は本書の記載にとどまるものとして区別する。
後見監督人一般の選任基準,職務及び責任は後見監督人とは――選任基準,職務,責任及び令和8年改正による制度再編で,大阪家裁後見センターの組織と沿革は大阪家裁後見センター――組織の位置付け,沿革及び独自の運用実務で扱っているので,本記事では総合支援型に固有の事項を中心に書く。

2 結論

①総合支援型後見監督人は,初めて後見人となった親族後見人の後見事務全般を監督するほか,積極的・能動的に指導・助言・相談対応を行って親族後見人を総合的に支援する専門職の後見監督人であり,大阪家庭裁判所は令和4年2月1日以降に申し立てられた後見開始事件でこれを選任する運用を続けている。
②法律上の制度ではなく,民法の後見監督人(民法849条)の職務の範囲内で行う運用上の工夫であり,監督人の「支援」は監督事務に付随する事実行為と位置付けられている。
③対象は,親族の後見人候補者がいる後見類型の事案のうち,本人の流動資産が比較的高額な事案である。
本書にも大阪家庭裁判所の現行の公表資料にも,流動資産の基準額は書かれていない。
④当初支援期間は9か月であり,監督人は審判確定日から2か月と1週間以内に初回の監督事務報告書を,9か月後に2回目の監督事務報告書を提出し,2回目の報告で親族後見人が「到達点」に達したかどうかと今後の後見体制について意見を述べる。
⑤到達点は,意思決定支援,財産管理事務,身上保護事務,報告事務及び地域における相談窓口理解の5つの観点で定められており,専門職の後見人と同程度の水準を求めるものではない。
地域における相談窓口理解の到達点は,令和8年5月版の総合支援型ハンドブックで表現が具体化されている。
⑥支援期間は,後見開始の審判確定から最長2年の範囲で延長されることがあるが,本書によれば,延長された17件はいずれも到達点に達した後の支援商品の契約支援が理由であった。
当初支援期間の経過前に到達と判断して支援を終えることは予定されていない。
⑦支援商品の報告書兼指示書は,到達点に達したことを前提とするので,早くても2回目報告の直前に,到達の判断理由と併せて提出すべきものとされている。
⑧支援終了後に同じ専門職を定期確認型の監督人又は専門職後見人として続けさせる「横滑り」は,特段の事情がない限り認められず,個別課題支援型の監督人への横滑りは事情により認められている。
⑨令和8年改正により後見類型は廃止されて補助に一元化され,成年後見監督人も補助監督人に一元化されるが,施行日前に後見開始の審判を受けた本人とその成年後見人・成年後見監督人には原則として従前の例が適用される。
改正後の対象事案をどう定めるかについて,大阪家庭裁判所の公表資料は基準日現在見当たらない。

第2 前提となる後見監督人の職務と従来型の監督
1 後見監督人の職務と権限

家庭裁判所は,必要があると認めるときは,被後見人,その親族若しくは後見人の請求により又は職権で,後見監督人を選任することができる(民法849条)。
後見監督人の職務は,後見人の事務を監督すること,後見人が欠けた場合に遅滞なくその選任を家庭裁判所に請求すること,急迫の事情がある場合に必要な処分をすること,及び利益相反行為について被後見人を代表することである(民法851条)。

(続きを読む...)大阪家裁の総合支援型後見監督人――対象,9か月の支援期間,到達点,延長と「横滑り」(AI作成)

成年後見人は本人の財産から何に支出できるか――親族の交通費・祝い金・扶養・贈与と大阪家裁の考え方(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論1 対象と基準日2 結論第2 支出の法的な枠組み1 包括的な財産管理権と代理権2 意思の尊重,身上配慮及び善管注意義務3 支出金額の予定と後見事務の費用4 家庭裁判所の監督と解任5 保佐人・補助人の場合第3 後見センターの監督の考え方の転換1 平成27年頃までの運用2 現在の考え方3 弁護士が選任される場面と裁量第4 本人の生活の質を高める支出1 原則として制約しない2 具体例第5 親族のための支出1 見舞いの旅費,外出同行の交通費・食事代2 孫・甥・姪への祝い金やお年玉3 生前贈与と保険契約4 親族の扶養5 贈与・祝儀を中止し又は減額できる場合第6 本書と大阪家裁ハンドブックの違いをどう読むか1 対象者の違い2 実務上の目安3 連絡票の書き方第7 事前の手続が必要な場面1 遺産分割と相続放棄2 居住用不動産の処分と利益相反3 債務の返済と消滅時効第8 定期報告での記載1 自主報告方式と報告遅滞2 想定上の現預貯金額との乖離3 本人以外の人のための支出の欄4 臨時支出と後見人等の報酬5 定期収支の変動と二重計上第9 本書の記述のうち現在変わった点第10 令和8年改正後の扱い1 補助への一元化と支出金額の予定2 意向の把握と尊重3 報告,解任及び金銭の消費4 経過措置第11 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 公的資料4 文献5 関連記事
第1 この記事の対象と結論
1 対象と基準日

本記事は,成年後見人等が,成年被後見人等(以下「本人」という。)の財産から,本人以外の親族のための支出や,本人の生活の質を高めるための支出をすることができるかについて,民法の枠組み,大阪家庭裁判所後見センター(以下「後見センター」という。)の考え方及び定期報告での記載の仕方を整理するものである。
基準日は令和8年9月19日であり,法令は同日時点の現行条文をe-Gov法令検索で確認した。
令和8年法律第45号(民法等の一部を改正する法律)による改正後の条文は,法務省が公表した法律案本文と新旧対照条文で確認した。

素材として,大阪家庭裁判所後見センター編『大阪家庭裁判所後見センターだより』(大阪弁護士協同組合,2025年。以下「本書」という。)を用いた。
本書は,月刊大阪弁護士会の連載(平成29年5月号~)を再編したものであり,原則として各回の初出当時の運用を記載し,書籍化の際に一部だけを令和6年6月時点に修正したものである(本書1頁)。
支出の考え方を正面から扱うのは連載第1回(平成29年5月号初出。本書71頁~76頁)であり,本書71頁の冒頭には,同回が主に後見等監督の基本的理念を説明した内容である旨の注記がある。
そのため,本記事では,本書の記述がいつの時点のものかを示し,現在の大阪家裁の運用は,同庁の成年後見のページと「成年後見人・保佐人・補助人ハンドブック(Q&A付き)」(令和8年2月1日版。以下「大阪家裁ハンドブック」という。)で確認できた範囲で書く。

2 結論

①成年後見人は本人の財産を包括的に管理し,財産に関する法律行為について本人を代表する(民法859条1項)。何に支出してよいかを個別に列挙した条文はなく,支出の当否は,本人の意思の尊重・身上配慮(民法858条)と善管注意義務(民法869条,644条)の枠内での後見人の裁量の問題となる。
②後見センターは,連載第1回(平成29年5月号初出)で,後見等監督の対象は解任事由の存否であり,就職の初めに提出された収支予定(民法861条1項)の範囲内の支出の当否まで積極的に調査する必要はないとの考え方を示した(本書73頁)。
③同回は,専門職後見人等について,個室入院,介護用品,親族の見舞いの旅費や外出同行の交通費・食事代,財産に余裕がある場合の孫等への祝い金・お年玉は,連絡票による事前の相談なしに後見人の判断で支出してよいとし,毎年の生前贈与,本人を契約者とする保険契約及び親族の扶養は事前の相談も考えられるとした(本書74頁~76頁)。
④他方,現在の大阪家裁ハンドブックは,主に親族後見人を念頭に,本人の生活費・扶養義務を負う配偶者や未成年の子の生活費・債務の返済・後見事務費を支出できるものとして挙げ,常識的な範囲の香典や祝儀は支出してよい場合が多いとしつつ,50万円以上の支出は事前に連絡票で連絡し,配偶者や子,孫などへの贈与・貸付けは原則として認められないとしている(大阪家裁ハンドブック16頁~17頁,41頁)。専門職に限って事前相談を不要とする取扱いは,現在の公表資料では確認できなかった。
⑤事前相談が不要な支出でも,事後の報告は必要である。令和7年4月からの全国統一書式の定期報告書は,本人以外の人(親族や後見人等を含む)のために支出したものの有無を問い,いつ,誰のために,いくらを,どのような目的で,どのような理由で相当と判断して支出したかを支出ごとに記載させる。
⑥令和8年改正後は法定後見が補助に一元化され,補助の節には現行民法861条1項(支出金額の予定)に相当する規定は置かれていない。他方,補助人には意向の把握・尊重義務(改正後の民法876条の11)と毎年の報告義務(同法876条の21)が課される。

第2 支出の法的な枠組み
1 包括的な財産管理権と代理権

民法859条1項は,「後見人は、被後見人の財産を管理し、かつ、その財産に関する法律行為について被後見人を代表する。」と定める。
本人の財産から誰かに金銭を支払うこと,本人の名で贈与をすること,本人を契約者として保険契約を結ぶことは,いずれもこの包括的な権限の範囲内の行為である。
民法には,後見人が本人の財産から何に支出してよいかを列挙した規定はない。
居住用不動産の処分(民法859条の3)のように家庭裁判所の許可を要する行為や,利益相反行為(民法860条,826条)のように特別代理人等を要する行為を除けば,支出するかどうかは後見人が判断することになる。

2 意思の尊重,身上配慮及び善管注意義務

民法858条は,「成年後見人は、成年被後見人の生活、療養看護及び財産の管理に関する事務を行うに当たっては、成年被後見人の意思を尊重し、かつ、その心身の状態及び生活の状況に配慮しなければならない。」と定める。
また,民法869条は644条を後見について準用しており,後見人は善良な管理者の注意をもって後見の事務を処理する義務を負う。
支出の当否は,本人の意思(推定的意思を含む。)と本人の生活の質,本人の財産の今後の見通しとを比べて判断することになる。

大阪家裁ハンドブック16頁(Q10)も,生活費の支出について,支出の必要性,本人の財産の総額,今後の収入の見込み,金額等から見た相当性を中長期的な展望に立って検討するよう求める一方で,これは現在ある財産をなるべく減らさないことだけを考えれば足りるという意味ではなく,本人の意向を踏まえ,本人がよりよい生活を送るためにはどうすればよいかという意識をもって判断するよう求めている。

3 支出金額の予定と後見事務の費用

民法861条1項は,「後見人は、その就職の初めにおいて、被後見人の生活、教育又は療養看護及び財産の管理のために毎年支出すべき金額を予定しなければならない。」と定め,同条2項は,「後見人が後見の事務を行うために必要な費用は、被後見人の財産の中から支弁する。」と定める。

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成年後見人等が就任したら最初にすること――大阪家裁への初回報告(財産目録・収支予定表)の期限と作り方(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論1 対象と基準日2 結論第2 就任直後の数週間にすること1 後見人等としての活動を始める時期2 後見人等であることの証明3 財産の引継ぎと調査4 基本事件番号と連絡票第3 初回報告の法的根拠1 成年後見人――民法853条・861条1項2 保佐人・補助人――民法863条による運用3 目録作成前の権限と債権債務の申出4 初回報告を求める趣旨第4 提出期限1 本書が記載する期限2 現行の公式資料で確認できる範囲3 起算点4 期限に間に合わないとき5 初回報告の後の定期報告第5 提出する書類1 現行の書類の組合せ2 添付資料3 後見等事務報告書(初回報告)の内容4 総合支援型後見監督人が選任されている場合第6 財産目録の作り方1 「不明」ばかりの目録は相当でない2 全体像の完全な解明までは求められない3 本人の財産が事実上の管理者の手元にある場合4 保佐人・補助人が本人から通帳を受け取れない場合5 多額の現金・貸金庫・施設預け金6 預り金口座での管理7 相続財産目録第7 収支予定表の作り方1 客観資料に基づいて作る2 特に裏付けが必要な費目3 記載の方法4 後見人等の報酬は支出予定に入れない5 本人の意思を踏まえた方針第8 就任直後の本人の状況把握1 申立ての段階で集めておく情報2 本人の意思・意向を報告に書く3 課題の進捗を報告する4 申立て前の説明不足が就任後に影響すること第9 本書の記述のうち現在は変わった点・確認できなかった点第10 令和8年改正後の初回報告1 財産目録の作成義務は特定補助人へ2 支出金額の予定と裁判所への報告3 意向の把握4 施行日と経過措置第11 出典・参考資料1 法令2 公的資料3 文献4 関連記事
第1 この記事の対象と結論
1 対象と基準日

本記事は,大阪家庭裁判所(以下「大阪家裁」という。)で成年後見人,保佐人又は補助人(以下「後見人等」という。)に選任された者が,就任直後に行う財産調査と,最初に家庭裁判所へ提出する報告(以下「初回報告」という。)について,法的根拠,提出期限,提出書類,財産目録と収支予定表の作り方及び令和8年改正後の扱いを整理するものである。
基準日は令和8年9月19日であり,法令は同日時点の現行条文をe-Gov法令検索で確認した。
令和8年法律第45号(民法等の一部を改正する法律)による改正後の条文は,法務省の新旧対照条文及び法律案本文で確認した。

素材として,大阪家庭裁判所後見センター編『大阪家庭裁判所後見センターだより』(大阪弁護士協同組合,2025年。以下「本書」という。)を用いた。
本書は,月刊大阪弁護士会に平成29年5月号から連載された記事を再編したものであり,本書1頁によれば,書籍化に当たって一部を修正・加筆したものの,原則として初出当時の運用を記載したものである。
そのため,本記事では,本書の記述を引くときは連載の回と初出号を示し,現在の運用は,大阪家裁の成年後見のページ(令和8年9月19日閲覧)及び「成年後見人・保佐人・補助人ハンドブック(Q&A付き)」令和8年2月1日版(以下「大阪家裁ハンドブック」という。)で確認できた範囲で書く。
現行資料で確認できなかった点は,本書の記載にとどまるものとして区別する。

後見等事務報告書の各欄の書き方は令和7年4月全国統一書式による後見等事務報告書・報酬付与申立事情説明書の書き方で,大阪家裁後見センターの組織と沿革は大阪家裁後見センター――組織の位置付け,沿革及び独自の運用実務で扱っているので,本記事では初回報告に固有の事項に絞る。

2 結論

①成年後見人は,遅滞なく本人の財産の調査に着手し,1か月以内に調査を終えて財産目録を作成しなければならず(民法853条1項),就任の初めに毎年支出すべき金額を予定しなければならない(民法861条1項)。
②保佐人・補助人にはこれらの規定が準用されていないが,大阪家裁は,民法863条1項(民法876条の5第2項,876条の10第1項で準用)を根拠に,預貯金に関する代理権を付与された保佐人・補助人にも初回報告を求めている(本書83頁~84頁)。
③提出期限は,審判書謄本に同封される「手続の流れ」に記載される(大阪家裁ハンドブック34頁)。本書(連載第40回・令和6年4月号初出)によれば,自薦の後見人等は審判確定日から1か月以内,専門職団体の推薦による後見人等は1か月と3週間以内,総合支援型後見監督人は2か月と1週間以内である。このうち現行の公式資料で確認できたのは,大阪家裁ハンドブックQ6の「後見人就任後、1か月以内」と,総合支援型後見監督人の「審判確定日から2か月と1週間以内」である。
④財産目録の作成期間の伸長を家庭裁判所に申し立てることができるのは成年後見人(及び未成年後見人)だけであり,保佐人・補助人・監督人は,間に合わない事情と提出見込み時期を連絡票で知らせる。
⑤現在の初回報告は,後見等事務報告書(初回報告),財産目録(未分割の相続財産があれば相続財産目録を含む。),収支予定表及び添付資料の組合せである。本書の時点の「初回財産目録等」(財産目録と収支予定表)に,報告書が加わっている。
⑥大阪家裁は,財産の全体像を完全に解明することまでは求めないが,預貯金や現金の大半を「不明」とし,今後の調査の見通しも示さない財産目録は相当でないとする(本書86頁)。
⑦事実上の管理者から通帳の引渡しを受けられないことだけを理由に初回報告が大幅に遅れることも相当でなく,金融機関への通知と取引履歴の取得,年金受取口座の変更,郵便物の回送嘱託等を検討する(本書86頁~87頁)。
⑧収支予定表は通帳,保険証券,領収書等の客観資料に基づいて作り,後見人等の報酬は支出予定に入れず,受け取った時点の臨時支出として報告する(本書89頁,97頁,108頁)。
⑨初回報告の報告書では,本人の生活や財産についての方針が本人の意思に沿っているかを選択肢で答え,本人との面談等の状況も記載するから,就任直後から本人と支援者に会って意思・意向を把握しておく必要がある。
⑩令和8年改正後は,財産目録の作成義務は特定補助人に限って民法876条の15に置かれ,支出金額の予定の規定は補助には置かれない。ただし,施行日前に後見開始の審判を受けた本人の成年後見人には,原則として従前の例による(改正法附則2条1項)。

第2 就任直後の数週間にすること
1 後見人等としての活動を始める時期

後見開始の審判は,即時抗告をすることができる審判であるから,確定しなければ効力を生じない(家事事件手続法74条2項ただし書,123条1項1号)。
即時抗告の期間は2週間であり(家事事件手続法86条1項),審判の告知を受ける者でない者による即時抗告の期間は,成年後見人に選任される者が審判の告知を受けた日から進行する(同法123条2項)。
大阪家裁ハンドブック(Q5,9頁)も,後見人が審判書謄本を受け取ってから2週間が経過した後に正式に後見人として活動することができ,不服申立てがあれば裁判所から別途連絡がある,と説明している。
保佐・補助の場合は,本人と保佐人・補助人のうち遅く審判書謄本を受け取った日から2週間とされている(同頁)。

2 後見人等であることの証明

後見人等であることは,法務局で登記事項証明書の交付を受けて証明するのが原則である(大阪家裁ハンドブックQ5,9頁)。

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相続人が行方不明の場合の不在者財産管理人―所在調査,申立て,遺産分割,売却,供託及び管理の終わり方(AI作成)

目次第1 この記事の対象と不在者財産管理人の位置付け1 この記事の対象2 不在者とは3 似た制度との違い第2 申立て前の所在調査1 連絡が取れないだけでは足りない2 調査の方法第3 選任の申立て1 申立人と申立先2 添付書類3 費用と予納金4 管理人になる者第4 管理人の権限と職務1 保存行為と権限外行為2 財産目録の作成と報告第5 遺産分割への参加1 法定相続分の確保が原則である2 帰来時弁済型の遺産分割3 相続放棄が問題となる場合4 不在者が相続した財産を売却する場合の注意第6 不在者の不動産の売却第7 管理の終わり方1 選任処分の取消し2 供託と公告3 管理人の報酬第8 出典1 法令2 裁判例3 公的資料
第1 この記事の対象と不在者財産管理人の位置付け
1 この記事の対象

本記事は,相続人の一人が行方不明で遺産分割が進まない場合などに家庭裁判所が選任する不在者財産管理人(民法25条1項)について,申立て前の所在調査,選任の申立て,管理人の権限,遺産分割への参加,不動産の売却,供託による管理の終了までの流れを整理するものである。
令和8年9月19日時点の民法,家事事件手続法,裁判所HPの案内(大阪家庭裁判所の令和8年1月5日版の手引き及び令和8年8月3日からの郵便料一覧を含む。),法務省の通達及び裁判例を確認して作成した。
申立ての費用や予納金の額は家庭裁判所ごとに異なり,改定されることもあるため,申立ての前に申立先の裁判所の案内で確認する必要がある。

2 不在者とは

従来の住所又は居所を去った者(不在者)がその財産の管理人を置かなかったときは,家庭裁判所は,利害関係人又は検察官の請求により,その財産の管理について必要な処分を命ずることができる(民法25条1項)。
不在者財産管理人は,この処分として選任される管理人である。
大阪家庭裁判所の手引きは,不在者を,これまで住んでいた場所(住所,居所)からいなくなって,容易に戻ってくる見込みのない者と説明している。

不在者は,必ずしも生死不明であることを要しない。
生死不明の者であっても,死亡が証明されるか失踪宣告が確定するまでは,不在者として扱われる。
他方,親権者等の法定代理人や不在者自身が置いた管理人がいる場合には,この制度は利用できない。

3 似た制度との違い

相続人がいない場合に相続財産全体を清算するのは相続財産清算人であり,相続財産の保存を目的とするのは民法897条の2の相続財産管理人である。
特定の土地又は建物だけを管理・処分すれば足りる場合には,所有者不明土地・建物管理命令(民法264条の2以下)を利用できることもある。
ただし,所有者不明土地・建物管理人は所有者本人の一般的な代理人ではないため,行方不明の相続人に代わって遺産分割協議に参加することはできない。
制度の違いは「相続財産清算人,相続財産管理人及び不在者財産管理人の違いと代位による相続登記」で,相続人がいない場合の手続は「相続人がいない場合の相続財産清算人」で,それぞれ整理している。

不在者の生死が7年間明らかでないときは,家庭裁判所は,利害関係人の請求により失踪の宣告をすることができ,失踪の宣告を受けた者はその期間が満了した時に死亡したものとみなされる(民法30条1項,31条)。
失踪宣告によって相続が開始すれば,不在者の相続人が手続を進めることになるため,不在者財産管理人の選任と失踪宣告のどちらが目的に合うかを最初に検討する必要がある。

失踪宣告では,死亡したものとみなされる時点が,審判の日ではなく7年の期間が満了した時になる(民法31条)。
そのため,不在者が行方不明となってから7年が満了した後に被相続人が死亡していたときは,失踪宣告を受けた不在者は被相続人より先に死亡したものとされて相続人とならず,不在者に子があれば,その子が代襲して相続人となる(民法887条2項)。
これに対し,不在者財産管理人を選任する場合は,不在者は生存している者として扱われ,不在者自身が相続人となる。
どちらの手続を選ぶかによって相続人の顔ぶれが変わるため,不在者が行方不明となった時期と被相続人が死亡した時期を並べて確認する必要がある。

行方不明の相続人が外国籍で外国に住んでいた場合には,日本の裁判所が失踪宣告をすることができるのは,日本所在の財産や,日本法による相続等の日本に関係がある法律関係の範囲に限られることがある(法の適用に関する通則法6条2項)。
他方,不在者財産管理人の選任は,不在者の財産が日本国内にあれば,日本の裁判所に申し立てることができる(家事事件手続法3条の2)。
失踪宣告を受けた場合の相続税の申告期限,財産評価の基準日及び外国が関わる場合の扱いは,「失踪宣告と相続・相続税―死亡とみなされる時点,相続人の変動,申告期限,取消し及び外国が関わる場合」で説明している。

第2 申立て前の所在調査
1 連絡が取れないだけでは足りない

大阪家庭裁判所の手引きは,単に最近連絡がない,連絡が取れないというだけでは,直ちに不在者とはいえないとしている。

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相続人がいない場合の相続財産清算人―選任の申立て,公告,財産の調査・換価,弁済の順序,特別縁故者及び国庫帰属(AI作成)

目次第1 この記事の対象と相続財産清算人が選任される場面1 この記事の対象2 相続人のあることが明らかでないとき3 似た名称の制度との違い第2 選任の申立て1 申立てができる者と申立先2 申立ての目的ごとの注意3 費用と予納金第3 公告と期間1 相続人捜索の公告と請求申出の公告2 期間の関係第4 清算人による財産の調査と管理1 権限の範囲2 財産調査の方法3 不動産の管理と売却第5 相続債権者及び受遺者への弁済1 請求申出期間中の扱い2 期間満了後の弁済の順序3 債務超過の場合第6 特別縁故者への分与1 申立期間と申立人自身の期間管理2 特別縁故者に当たる者3 清算人の意見と不服申立て4 清算人の意見を作るための証拠整理第7 残余財産の行方と手続の終わり1 国庫への引継ぎ2 共有持分と区分所有建物3 処分できない財産が残る場合4 清算人の報酬第8 出典1 法令2 裁判例3 公的資料4 参考文献
第1 この記事の対象と相続財産清算人が選任される場面
1 この記事の対象

本記事は,相続人のあることが明らかでない場合に家庭裁判所が選任する相続財産清算人(民法952条)について,選任の申立てから,公告,財産の調査・換価,相続債権者等への弁済,特別縁故者への分与を経て,残余財産の国庫への引継ぎに至るまでの流れを整理するものである。
令和8年9月19日時点の民法,家事事件手続法,裁判所HPの案内(大阪家庭裁判所の令和8年1月5日版の手引きを含む。)及び最高裁判例を確認して作成した。
申立ての費用や予納金の額は家庭裁判所ごとに異なり,改定されることもあるため,申立ての前に申立先の裁判所の案内で確認する必要がある。

2 相続人のあることが明らかでないとき

相続人のあることが明らかでないときは,相続財産は法人とされる(民法951条)。
この場合,家庭裁判所は,利害関係人又は検察官の請求によって,相続財産清算人を選任しなければならない(同法952条1項)。
戸籍上相続人がいない場合のほか,相続人全員が相続放棄をした結果,相続する者がいなくなった場合も含まれる。

もっとも,相続人がいなくても,相続財産の全部について包括遺贈を受けた者(全部包括受遺者)がいる場合は,「相続人のあることが明らかでないとき」に当たらない(最高裁平成9年9月12日第二小法廷判決・平成6年(オ)第2052号・民集51巻8号3887頁)。
したがって,申立ての前に,遺言の有無と,全部包括受遺者がいないかどうかを確認する必要がある。

相続放棄をした者は,放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは,相続人又は相続財産清算人に引き渡すまでの間,自己の財産におけるのと同一の注意をもってその財産を保存しなければならない(民法940条1項)。
相続人全員が放棄した後に,占有している財産の引渡し先を作るために清算人の選任が申し立てられることもある。

3 似た名称の制度との違い

相続財産清算人は,相続財産全体を調査・管理し,清算して,残余があれば国庫に引き継ぐ清算機関である。
これに対し,民法897条の2の相続財産管理人は相続財産の保存を目的とする機関であり,不在者財産管理人(民法25条)は所在不明の人の財産を管理する機関である。
特定の土地又は建物だけが問題となる場合には,所有者不明土地・建物管理命令(民法264条の2以下)を利用できることもある。
これらの違いと選び方は,「相続財産清算人,相続財産管理人及び不在者財産管理人の違いと代位による相続登記」で整理している。
破産管財人との違いは,「相続財産清算人と破産管財人の違い」で,相続人の一部が行方不明の場合の手続は,「相続人が行方不明の場合の不在者財産管理人」で,それぞれ整理している。

第2 選任の申立て
1 申立てができる者と申立先

申立てができるのは,利害関係人又は検察官である(民法952条1項)。
大阪家庭裁判所の手引きは,利害関係人の例として,受遺者(全部包括受遺者を除く。),相続債権者,相続債務者,特別縁故者,事務管理者,国・地方公共団体及び後見人等を挙げている。

申立先は,相続が開始した地(被相続人の最後の住所地)を管轄する家庭裁判所である(家事事件手続法203条1号)。
添付書類としては,被相続人に相続人がないことを明らかにする戸籍謄本等(被相続人の出生から死亡まで,父母の出生から死亡までの戸籍等),被相続人の住民票除票又は戸籍附票,申立人の利害関係を証する資料,被相続人の財産目録とその裏付け資料,相続放棄があった場合の相続放棄申述受理証明書等が求められる。
大阪家庭裁判所本庁では,清算人は,原則として申立人の推薦を受けず,事件に利害関係のない大阪弁護士会所属の弁護士が選任されると案内されている。

2 申立ての目的ごとの注意

大阪家庭裁判所の手引きは,申立ての目的に応じて,次の点に注意するよう案内している。

(1) 担保権者が債権回収のために申し立てる場合

(続きを読む...)相続人がいない場合の相続財産清算人―選任の申立て,公告,財産の調査・換価,弁済の順序,特別縁故者及び国庫帰属(AI作成)

成年後見人と生活保護――申請の代理,世帯分離,資産の保有及び63条返還(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論1 対象と基準日2 結論第2 生活保護の仕組みと最低生活費1 保護の要件と世帯単位の原則2 8種類の扶助と給付の方法3 生活扶助の構造4 入院したときの入院患者日用品費5 冬季加算6 障害者加算7 住宅扶助8 入院・入所中の住宅扶助の継続第3 保護の申請と成年後見人1 要否判定と開始時の手持金2 申請と14日・30日3 成年後見人による申請の代理第4 世帯認定と世帯分離1 同一世帯の原則2 入院・入所者の世帯分離3 生活保持義務関係の範囲4 配偶者だけが保護を受ける場合5 住宅扶助の世帯人員第5 資産の活用と保有の容認1 原則2 居住用不動産3 要保護世帯向け不動産担保型生活資金4 保険5 自動車6 保護費のやりくりによって生じた預貯金第6 扶養義務者による扶養と扶養照会1 扶養は保護の要件ではない2 扶養照会を行わない場合3 後見人の対応第7 保護費の支給と一時扶助1 経常的な保護費2 一時扶助3 転居費用と通院移送費第8 収入認定と自立更生控除1 届出義務2 臨時的収入の控除3 自立更生のために充てられる額第9 63条返還1 条文と趣旨2 収入認定か63条返還か3 遺産分割と63条返還4 返還額の決定と自立更生のための控除5 遡及して受給した年金6 78条の徴収との違い第10 市長申立ての手続費用の本人負担1 家事事件手続法28条2 財産目録の作成前は支払えない3 生活保護を受けている本人の場合4 大阪家裁の運用について第11 生活扶助基準の引下げを違法とした最高裁判決第12 令和8年改正後の変化1 補助への一元化と代理権2 生活保護法の改正3 申請代理の扱いは未定4 市町村長申立て第13 本書(2023年)の記載と現在の違い第14 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 公的資料4 文献5 関連記事
第1 この記事の対象と結論
1 対象と基準日

本記事は,成年被後見人の収入や資産では生活が成り立たないときに,成年後見人が生活保護をどう使い,受給中に何に気を付けるかを整理するものである。
素材は,大阪弁護士会高齢者・障害者総合支援センター編『【全訂版】成年後見人の実務2023』(大阪弁護士協同組合,2023年。以下「本書」という。)61頁~69頁の「生活保護」の節と,37頁~38頁の市長申立ての手続費用の記述である。
基準日は令和8年9月19日である。
生活保護法等の条文は同日時点の現行条文をe-Gov法令検索で確認し,保護の基準の金額は厚生労働省の法令等データベースに収録された「生活保護法による保護の基準」(昭和38年厚生省告示第158号)と厚生労働省の公表資料で確認できたものだけを書いた。
本書の金額は2022年時点のものであり,その後に改定されているので,本書の数値はそのまま引用しない。
確認できなかった金額は数値を書かず,仕組みだけを説明する。

2 結論

①成年後見人は,成年被後見人の代理人として生活保護の申請をすることができる。
厚生労働省は,令和3年9月1日付けの事務連絡で「生活保護問答集」の問9-2を改め,令和3年10月1日から,成年後見人による申請を生活保護法7条に基づく有効な申請として扱っている。
ただし,被保佐人・被補助人の保佐人・補助人はこの取扱いの対象外である。
②申請に対する決定は原則14日以内,特別な理由があるときは30日以内であり,30日以内に通知がなければ却下されたものとみなすことができる(生活保護法24条5項・7項)。
③本人が長期入院・施設入所をしている場合,配偶者等の出身世帯と分けて本人だけに保護を適用する「世帯分離」が認められることがある。
④居住用不動産,保険,自動車,保護費のやりくりで貯めた預貯金は,一定の要件の下で保有したまま保護を受けられる。
保護費と年金を原資とする預貯金を収入認定した保護変更処分を違法とした秋田地裁平成5年4月23日判決と,学資保険の満期保険金の収入認定を違法とした最高裁平成16年3月16日判決がある。
⑤扶養照会は,「扶養義務の履行が期待できない」親族には行わないのが原則であり,令和3年2月の改正で,例えば10年程度の音信不通は著しい関係不良とみなしてよいとされた。
⑥保険金・賠償金・遺産等を受け取ったときは,収入認定又は生活保護法63条の返還の対象になるが,自立更生のために充てる額は控除され得る。
課長通知は,成年後見人等の申立てや報酬に必要な経費を,自立更生計画なしで収入認定から除く扱いを定めている。
⑦市長申立てで本人負担とされた手続費用は,財産目録の作成が終わるまで支払えず,本人に資力がなければ分割・猶予・免除の交渉と成年後見制度利用支援事業の利用を検討する。
⑧令和8年の民法改正の施行後は,成年後見は補助に一元化される。
生活保護法30条3項と81条も改正されるが,同法7条は変わらず,補助人による保護の申請を厚生労働省がどう扱うかは,基準日現在,公表されていない。

第2 生活保護の仕組みと最低生活費
1 保護の要件と世帯単位の原則

生活保護法4条1項は,「保護は、生活に困窮する者が、その利用し得る資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われる。」と定める。
同条2項は,「民法(明治二十九年法律第八十九号)に定める扶養義務者の扶養及び他の法律に定める扶助は、すべてこの法律による保護に優先して行われるものとする。」と定める。
同法10条は,「保護は、世帯を単位としてその要否及び程度を定めるものとする。但し、これによりがたいときは、個人を単位として定めることができる。」と定めている。
保護の額は,厚生労働大臣の定める基準で計算した最低生活費から,年金等の収入を差し引いた差額である(同法8条1項)。
厚生労働省の「生活保護制度」のページも,「最低生活費から収入を差し引いた差額が保護費として支給」されると説明している。

(続きを読む...)成年後見人と生活保護――申請の代理,世帯分離,資産の保有及び63条返還(AI作成)

保佐人・補助人の権限と実務――同意権・取消権・代理権,金融機関への届出及び令和8年改正(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論1 対象と基準日2 結論第2 保佐と補助の基本構造1 保佐2 補助3 権限の比較第3 同意権と取消権1 保佐人の法定の同意権2 同意権の拡張と補助人の同意権3 同意に代わる許可4 取消権とその行使5 携帯電話・スマートフォンの契約第4 代理権の付与と本人の同意1 代理権付与の審判2 代理行為目録3 代理権と同意権・取消権の関係4 財産管理権第5 保佐人・補助人の義務1 意思尊重義務と身上配慮義務2 善管注意義務と第三者に対する責任第6 選任直後の実務1 本人と関係者への説明2 金融機関への届出3 郵便物4 財産目録と裁判所への報告第7 居住用不動産・利益相反・複数選任1 居住用不動産の処分2 臨時保佐人・臨時補助人3 複数の保佐人・補助人第8 報酬の回収第9 能力の変化への対応と終了1 権限の追加と取消し2 類型の変更3 終了事務と死後事務第10 令和8年改正1 保佐の廃止と補助への一元化2 同意権(改正民法9条)3 特定補助(改正民法10条)4 代理権(改正民法11条)と審判の取消し(改正民法12条)5 意向の尊重(改正民法876条の11)6 その他の変更7 経過措置8 施行時に既存の保佐人・補助人が検討すべきこと第11 本書刊行後に変わった点と大阪家裁の運用1 本書刊行後に変わった点2 大阪家裁の運用第12 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 公的資料4 文献5 関連記事
第1 この記事の対象と結論
1 対象と基準日

本記事は,保佐人と補助人が,どのような権限を持ち,選任後に何をするのかを,同意権・取消権・代理権の三つの権限を軸に説明するものである。
基準日は令和8年9月19日であり,法令は令和8年9月18日にe-Gov法令検索で取得した現行条文による。
素材は,大阪弁護士会高齢者・障害者総合支援センター編『【全訂版】成年後見人の実務2023』(大阪弁護士協同組合,2023年。以下「本書」という。)の保佐人・補助人の章(149頁~184頁)と,能力の変化への対応(122頁~123頁)及び代理行為目録・同意行為目録の書式(259頁~262頁)である。
本書は2023年時点の記述なので,大阪家庭裁判所の運用は,現行の「成年後見人・保佐人・補助人ハンドブック(Q&A付き)」(令和8年2月1日版。以下「大阪家裁ハンドブック」という。)で確かめられたものと,本書の記載にとどまるものを分けて書く。

令和8年法律第45号(民法等の一部を改正する法律)により,法定後見は補助に一元化され,保佐は廃止される。
成年後見部分の施行日は,公布の日(令和8年6月24日)から起算して2年6月を超えない範囲内で政令で定める日であり,基準日現在は未施行である。
本記事の第2から第9までは現行法の説明であり,改正後の姿と,既存の保佐人・補助人が施行時に検討すべきことは第10で扱う。
改正全体の構造は令和8年成年後見制度改正と関係法律61本の整備で扱っている。

2 結論

①保佐人は,民法13条1項各号の行為について当然に同意権と取消権を持つが,代理権は審判で付与された範囲に限られる。
補助人は,審判で定められた同意権(民法13条1項の行為の一部に限る。)と代理権の一方又は双方を持つにとどまる。
②代理権の付与は,本人以外の請求によるときは本人の同意が要件である(民法876条の4第2項,876条の9第2項)。
代理権が付与されても本人は自らその行為をすることができ,本人の行為を取り消せるのは同意権の対象行為に限られる。
③同意権しかない保佐人・補助人も,元本の領収(預貯金の払戻し)が同意の対象であれば,金融機関へ届け出るべきである。
もっとも,大阪家裁後見センターは,保佐・補助で本人が通帳を渡さないなど非協力的な場合には,金融機関に届け出ずに本人に預貯金の管理を委ねる例が多く,同意権だけを持つ保佐人等が金融機関に届け出て預貯金を管理する例はほとんど見られないとしている(大阪家庭裁判所後見センター編『大阪家庭裁判所後見センターだより』(大阪弁護士協同組合,2025年)87頁~88頁)。
同書は,その場合の初回報告は判明した範囲で提出し,必要に応じて代理権付与の審判の取消しも検討するとしている。
④成年後見人の郵便物の回送嘱託(民法860条の2),財産目録の作成期間(民法853条)及び死後事務(民法873条の2)の規定は,保佐人・補助人に準用されていない。
⑤報酬付与の審判は,報酬の支払を命ずる審判ではなく,民事執行法22条の債務名義に当たらないから,本人の預貯金を管理していない保佐人・補助人は,本人を説得して任意に支払を受けるほかない。
⑥令和8年改正の施行後も,施行日前に開始した保佐は原則として従前の例によって続くが,保佐人の解任と意向の尊重には改正後の規定が適用され,保佐人は補助開始の審判を請求することができる。
既存の補助は改正後の補助とみなされ,同意権・代理権の一つ一つについて必要性が問われることになる。

第2 保佐と補助の基本構造
1 保佐

民法11条は,「精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分である者」について,家庭裁判所が保佐開始の審判をすることができると定める。
保佐開始の審判を受けた者は被保佐人とされ,保佐人が付される(民法12条)。
本書149頁は,「著しく不十分」とは,後見相当ではないが,支援を受けなければ契約等の意味・内容を自ら理解し判断することができず,法律行為を行うに当たって常に援助が必要な場合をいうと説明する。
大阪家裁ハンドブック4頁(Q2)も,日常の買い物程度のことは自分でできても,重要な行為をするときは常に支援が必要となる人を被保佐人と説明している。

2 補助

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後見等開始の審判前の保全処分――財産の管理者,後見命令及び職務執行停止(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論1 対象と基準日2 結論第2 審判前の保全処分の全体像1 なぜ保全処分が必要になるのか2 保全処分の種類と根拠条文3 共通の手続第3 虐待事案と市町村長申立て1 市町村長申立ての根拠2 保全処分との組合せ3 市町村長が申し立てられる保全処分第4 財産の管理者の選任1 要件と手続2 財産の管理者の権限3 財産の管理者の職務4 登記されないこと5 改任・終期・引継ぎ第5 事件の関係人に対する指示1 指示の内容2 指示の効力第6 後見命令・保佐命令・補助命令1 後見命令等を併せて申し立てる意味2 手続3 取り消すことのできる行為の範囲4 登記5 財産の管理者の役割と効力の終期第7 成年後見人等の解任を本案とする保全処分1 要件2 手続3 即時抗告の可否4 職務代行者の職務5 効力の終期と財産の引継ぎ第8 保全処分の取消し1 条文2 本書の説明と条文の文言第9 本書刊行後の変化と令和8年改正1 本書刊行後の現行法2 令和8年改正後の保全処分第10 大阪家裁の運用について第11 出典・参考資料1 法令2 公的資料3 文献4 関連記事
第1 この記事の対象と結論
1 対象と基準日

本記事は,後見・保佐・補助の開始の申立てから開始の審判が効力を生ずるまでの間に使う審判前の保全処分(財産の管理者の選任,事件の関係人に対する指示,後見命令・保佐命令・補助命令)と,成年後見人等の解任の申立てから解任の審判が効力を生ずるまでの間に使う審判前の保全処分(職務の執行停止,職務代行者の選任)を扱うものである。
基準日は令和8年9月19日であり,法令はe-Gov法令検索で取得した現行条文による。
素材は,大阪弁護士会高齢者・障害者総合支援センター編『【全訂版】成年後見人の実務2023』(大阪弁護士協同組合,2023年。以下「本書」という。)125頁~126頁及び205頁~216頁であり,本書の記述を条文と照合した結果を示す。
解任の事由そのものは成年後見人の解任理由で,後見人による横領の実情は成年後見人による横領──親族後見人と第三者後見人の比較を中心にで扱っているので,本記事では保全処分の手続と効果に絞る。

2 結論

①開始の審判の前に本人の財産を守る手段は,財産の管理者の選任,事件の関係人に対する指示及び後見命令等の3種類である(家事事件手続法126条,134条,143条)。
②財産の管理者を選任しただけでは本人の行為能力は制限されず,本人がした契約を取り消せるようにするには,後見命令等を併せて申し立てる必要がある。
後見命令等を申し立てられるのは本案の申立人に限られる。
③財産の管理者の権限は民法103条の保存・利用・改良行為が原則であり,それを超える行為には家庭裁判所の許可が必要である(家事事件手続法126条8項による民法28条の準用)。
④財産の管理者の選任と事件の関係人に対する指示は,認容・却下のいずれに対しても即時抗告ができず,財産の管理者の選任だけでは登記されない。
これに対し,後見命令等と職務執行停止・職務代行者選任は後見登記等ファイルに記録される(後見登記等に関する法律4条)。
⑤虐待事案では,市町村長が老人福祉法32条等に基づいて後見開始等の審判を申し立てると同時に,財産の管理者の選任等の保全処分を申し立てることが,厚生労働省の対応マニュアルでも有効な手段として示されている。
⑥本書の記述のうち,職務執行停止の審判に対する即時抗告の可否,後見命令の登記の時期及び保全処分の取消しの申立権者の3点は,条文の文言と食い違っているように読めるので,第7及び第8で条文に即して説明する。
⑦令和8年法律第45号による改正後は,後見命令・保佐命令は廃止され,補助開始の審判事件を本案とする「補助命令」と,特定補助人を付する処分に対応する「特定補助命令」に再編される(改正後の家事事件手続法126条2項・3項)。
補助人の事務の監督の審判事件を本案とする職務執行停止・職務代行者選任も新設される(同法128条)。

第2 審判前の保全処分の全体像
1 なぜ保全処分が必要になるのか

本書205頁は,後見等開始の申立てから開始の審判により成年後見人等が選任されるまでには1~数か月を要し,即時抗告があると審判が長期間確定しないこともあるとする。
即時抗告のできる審判は確定しなければ効力を生じないから(家事事件手続法74条2項ただし書),その間,選任された成年後見人等は職務を行うことができない。
その間に本人の財産が散逸し,又は第三者に侵害されるおそれがある場合に,開始の審判の効力が生ずるまでのつなぎとして使うのが審判前の保全処分である。
本書205頁は,活用例として,①年金の振込口座を親族等が管理していて年金が本人のために使われていない経済的虐待の事案,②本人が不適当な資産の費消や高額な取引をしてしまいそうな事案,③入院中の本人の多額の財産が自宅に置いたままになっている事案を挙げている。

2 保全処分の種類と根拠条文
保全処分後見保佐補助財産の管理者の選任・事件の関係人に対する指示126条1項134条1項143条1項後見命令・保佐命令・補助命令126条2項134条2項143条2項職務の執行停止・職務代行者の選任127条135条144条

いずれも家事事件手続法の条文であり,保佐と補助の規定は後見の規定を準用し,又は後見の規定と同じ構造で定められている。
本書205頁は,家事事件手続法上の保全処分はこれらに限られるが,必要とされる内容によっては民事保全法による保全処分の利用も考えられないわけではないとしている。

3 共通の手続
(1) 本案の係属

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後見制度支援信託と後見制度支援預貯金――仕組み,専門職後見人の職務及び最新の利用状況(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論1 対象と基準日2 結論第2 支援商品の仕組み1 支援信託2 支援預貯金3 指示書の位置付け4 両者の比較第3 導入の経緯と弁護士会の批判1 支援信託の開発2 本書が挙げる問題点3 日弁連・大阪弁護士会の意見と本格導入4 支援預貯金の開発第4 最新の利用状況(令和7年)1 年間の新規利用者数2 累計3 事件類型と金額の分布4 一時金交付の状況5 取扱金融機関の状況第5 保佐・補助への拡大(令和7年10月)1 最高裁判所の公表2 利用できる金融機関3 代理権型と同意権型の書式4 大阪家裁の案内第6 対象案件の選別と専門職後見人の選任1 検討対象となる三つの場面2 大阪家裁の基準額3 なぜ弁護士・司法書士が選任されるのか4 リレー方式・複数選任方式・監督人方式5 大阪弁護士会の推薦第7 検討のために選任された専門職後見人の職務1 初動2 利用に適さない事案3 親族後見人候補者の適性4 手元口座の額と定期交付金5 金融機関の選定6 報告書の提出と契約締結7 利用が相当でないと判断した場合8 辞任と引継ぎ第8 総合支援型後見監督人と支援商品1 大阪家裁の総合支援型後見監督人2 本書198頁・200頁が示す監督人の職務第9 利用開始後の後見事務1 一時金交付・払戻し2 定期交付額の変更・追加・解約3 家庭裁判所への報告第10 今後の拡大――本書の見通しと現状1 対象となる後見人の拡大2 基準額の引下げ3 類型の拡大第11 令和8年改正後の支援信託・支援預貯金1 改正法の概要と施行時期2 支援商品についての明文の手当ては見当たらない3 改正後の条文で関係しそうな規定4 施行日前に開始した後見・保佐の扱い第12 出典・参考資料1 法令2 公的資料3 文献4 関連記事
第1 この記事の対象と結論
1 対象と基準日

本記事は,後見制度支援信託(以下「支援信託」という。)と後見制度支援預貯金(以下「支援預貯金」といい,両者を合わせて「支援商品」という。)について,仕組み,導入の経緯,家庭裁判所が利用を検討させる案件の選び方,検討のために選任された弁護士・司法書士の職務の流れ,最新の利用状況及び令和8年改正後の見通しを整理するものである。
基準日は令和8年9月19日である。
法令は同日にe-Gov法令検索で確認した現行条文により,令和8年法律第45号(民法等の一部を改正する法律)による改正後の条文は法務省の新旧対照条文とe-Govの未施行版で確認した。
素材とした大阪弁護士会高齢者・障害者総合支援センター編『【全訂版】成年後見人の実務2023』(大阪弁護士協同組合,2023年。以下「本書」という。)は2023年時点の記述なので,その後に変わった点は最高裁判所,金融庁及び大阪家庭裁判所の公表資料で確かめ,確かめられなかった点はその旨を書く。

2 結論

①支援商品は,本人の金銭のうち日常の支払に必要な分だけを後見人の手元に残し,残りを信託銀行等への信託又は特別な預貯金にして,払戻しや解約に家庭裁判所の指示書を必要とする仕組みである。
法律で作られた制度ではなく,家庭裁判所の後見監督と金融機関の商品設計を組み合わせた運用である。
②令和7年の新規利用は支援信託615人,支援預貯金2,005人で,新規の主力はすでに支援預貯金に移っている(令和7年12月末までの累計は支援信託31,234人,支援預貯金13,511人)。
③令和7年10月から,一部の金融機関で保佐・補助でも支援預貯金を利用できるようになった。
もっとも,最高裁判所の案内では,令和7年10月1日現在で利用できるのは静岡県内の信用金庫に限られており,大阪で利用できる金融機関があるかは公表資料では確認できなかった。
④家庭裁判所が利用を検討させる案件では,原則として弁護士又は司法書士が後見人に選任され,利用の適否,手元に残す額,定期交付額,利用する金融機関を検討し,報告書を出して指示書を受け,契約後に辞任して親族後見人に引き継ぐ。
本書は,報告書の提出時期を選任後4か月(遅くとも6か月)を目安とする。
⑤大阪家裁が利用を検討させる流動資産の基準額について,本書は1200万円とし,将来は500万円程度まで下がると考えられているとする。
1200万円という数字は,大阪家裁本庁後見センターが令和5年10月に作成したとみられる「よくある質問(FAQ)」にも記載があるが,大阪家裁の現在の成年後見のページ及びハンドブックでは確認できず,500万円程度への引下げを示す公表資料も確認できなかった。
⑥令和8年改正法の新旧対照条文には,支援信託・支援預貯金・指示書に触れる規定はない。
施行日前に開始した後見・保佐は原則として従前の例によるので,既存の利用分はそのまま続くと考えられるが,施行後に新たに開始する補助で支援商品をどう使うかは,公表資料からは分からない。

第2 支援商品の仕組み
1 支援信託

最高裁判所事務総局家庭局「後見制度支援信託等の利用状況等について―令和7年1月~12月―」(以下「令和7年利用状況」という。)は,支援信託を,成年被後見人又は未成年被後見人の財産のうち,日常的な支払をするのに必要十分な金銭を預貯金等として後見人が管理し,通常使用しない金銭を信託銀行等に信託する仕組みであり,平成24年2月1日に導入されたと説明している。
信託財産を払い戻したり,信託契約を解約したりするには,あらかじめ家庭裁判所が発行する指示書が必要である。
支援信託の対象は成年後見と未成年後見だけであり,保佐,補助及び任意後見では利用できない。

信託協会の説明によれば,支援信託では元本補てん契約の付された指定金銭信託が使われ,これは預金保険制度の対象となる。
また,この信託は金銭しか信託できないので,支援信託で管理できる財産は金銭に限られる。
成年後見の場合の信託期間は原則として本人が亡くなるまでであり,本人が亡くなると信託は終了し,信託財産は相続財産として相続人に承継される。

本書138頁は,民法859条1項が後見人に本人の財産の包括的な管理権を与えていることを前提に,不正を防ぐには後見人による預貯金の払戻しを制限する必要があるという発想から支援信託が作られたと説明している。
民法859条1項は,「後見人は、被後見人の財産を管理し、かつ、その財産に関する法律行為について被後見人を代表する。」と定める。
後見人は本人の法定代理人として信託契約を結ぶので,信託契約を解約する権限も持つが,契約上,解約には家庭裁判所の指示書が必要とされているため,解約の理由と必要性が家庭裁判所のチェックを受けることになる(本書138頁)。

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成年後見人への郵便物の回送嘱託と開披――民法860条の2・860条の3の要件,大阪家裁の申立て及び令和8年改正(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論1 対象と基準日2 結論第2 制度の概要1 平成28年改正で新設された制度2 条文3 郵便局への転居届との違い4 対象となる郵便物等第3 回送嘱託が認められる場合1 「必要があると認めるとき」2 任意の方法で把握できる場合は認められない3 申立書の三つの類型4 6か月の上限と再度の申立て5 申立ての時期第4 申立ての手続1 申立人と申立先2 本人の陳述の聴取3 大阪家裁での必要書類と費用4 集配郵便局の特定5 審判の効力と不服申立て第5 回送された郵便物等の扱い1 開いて見ることができる2 事務に関しないものは速やかに交付する3 本人の閲覧請求4 受領の記録第6 変更と取消し1 事情変更による取消し・変更2 転居したときは変更の申立てが必要3 任務終了のときは必ず取り消される第7 回送嘱託と組み合わせる送付先の届出1 役所への送付先変更の届出2 年間計画表3 財産調査の手がかり第8 任務終了後の郵便物第9 保佐人・補助人・任意後見人の場合(現行法)1 回送嘱託は準用されていない2 代理権の範囲内での送付先変更第10 令和8年改正後1 回送嘱託は特定補助人だけの制度になる2 家事事件手続法の対応規定3 施行日前に開始した後見の扱い4 特定補助人でない補助人が郵便物を把握する方法第11 本書刊行後に変わった点と大阪家裁の運用1 申立書は全国共通の書式になった2 郵便料3 確認できなかった事項第12 出典・参考資料1 法令2 公的資料3 文献4 関連記事
第1 この記事の対象と結論
1 対象と基準日

本記事は,成年後見人が家庭裁判所の審判を得て成年被後見人宛ての郵便物等を自分の事務所に配達してもらう「回送嘱託」(民法860条の2)と,受け取った郵便物等の開披・交付・閲覧(民法860条の3)について,要件,手続,大阪家庭裁判所での申立ての方法,役所等への送付先の届出との使い分け,任務終了後の郵便物の扱い,保佐人・補助人との違い及び令和8年改正後の姿を整理するものである。
基準日は令和8年9月19日であり,法令は同日にe-Gov法令検索で確認した現行条文による。
素材として,大阪弁護士会高齢者・障害者総合支援センター編『【全訂版】成年後見人の実務2023』(大阪弁護士協同組合,2023年。以下「本書」という。)35頁~36頁,42頁,46頁,48頁,137頁及び162頁を用いた。
本書は2023年時点の記述であるから,現在の法令・書式・費用は,裁判所ウェブサイト,法務省ウェブサイト及びe-Govで確かめた範囲で書き,確かめられなかった点はその旨を示す。

2 結論

①郵便局への転居届(郵便法35条)は本人が住所又は居所を移したときに本人の新しい居場所へ転送する制度であり,成年後見人の事務所へ転送させることはできない。成年後見人が本人宛ての郵便物を直接受け取るには,家庭裁判所の回送嘱託の審判が必要である。
②回送嘱託は,成年後見人が任意の方法では本人宛ての郵便物等の存在と内容を把握できず,後見事務に支障が生ずる場合に限って認められる。施設や親族の協力で郵便物を受け取れる場合は認められない。
③嘱託の期間は6か月を超えることができず(民法860条の2第2項),変更の審判で伸長することもできない(同条3項ただし書)。再度の申立ては可能であるが,前回の期間内に財産・収支の状況を把握できなかった具体的事情を示す必要がある。
④成年後見人は受け取った郵便物等を開いて見ることができるが,後見事務に関しないものは速やかに本人に交付しなければならず,本人は閲覧を求めることができる(民法860条の3)。
⑤大阪家裁での申立ては,後見ポータルサイトの全国共通の申立書に,収入印紙800円分,郵便料(郵便切手なら1,440円分,現金・電子納付なら2,000円),本人の陳述書又は上申書と陳述聴取状況報告書等を添えて行う。
⑥回送嘱託は保佐人・補助人・任意後見人には認められていない。令和8年改正後は,法定後見が補助に一元化され,回送嘱託は「特定補助人」だけが利用できる制度(改正後の民法876条の16・876条の17)になる。特定補助人でない補助人は,代理権の範囲内での送付先変更の届出等,回送嘱託以外の方法で郵便物を把握することになる。

第2 制度の概要
1 平成28年改正で新設された制度

回送嘱託と開披の規定は,成年後見の事務の円滑化を図るための民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律(平成28年法律第27号)によって新設された。
同法は平成28年4月13日に公布され,附則が「この法律は、公布の日から起算して六月を経過した日から施行する。」と定めていることから,平成28年10月13日に施行された(法務省「「成年後見の事務の円滑化を図るための民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律」が平成28年10月13日に施行されました。」)。
同じ法律で,成年被後見人の死亡後の成年後見人の権限(民法873条の2)も新設されている。
死後事務については成年被後見人が死亡した後に元後見人ができること-民法873条の2の死後事務と事務管理で扱っている。

法務省の上記Q&Aは,新設の理由として,本人宛ての郵便物等には株式の配当通知,外貨預金の入出金明細,クレジットカードの利用明細等の財産に関するものが含まれ,成年後見人が同居の親族以外の者である場合に,本人が郵便物を自ら管理できないと財産管理に支障を来すおそれがあるとの指摘があったことを挙げている。
同時に,期間を制限するなど,本人の通信の秘密(憲法21条2項後段)に一定の配慮をしたと説明している。
憲法21条2項は,「検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。」と定めている。
本書35頁も,回送嘱託は通信の秘密に対する制約であるため期間は原則として6か月であると説明している。

2 条文

民法860条の2第1項は,「家庭裁判所は、成年後見人がその事務を行うに当たって必要があると認めるときは、成年後見人の請求により、信書の送達の事業を行う者に対し、期間を定めて、成年被後見人に宛てた郵便物又は民間事業者による信書の送達に関する法律(平成十四年法律第九十九号)第二条第三項に規定する信書便物(次条において「郵便物等」という。)を成年後見人に配達すべき旨を嘱託することができる。」と定める。
同条2項は「前項に規定する嘱託の期間は、六箇月を超えることができない。」と定める。
同条3項は,審判の後に事情の変更を生じたときは,成年被後見人,成年後見人若しくは成年後見監督人の請求により又は職権で,嘱託を取り消し,又は変更することができるとし,ただし書で「その変更の審判においては、同項の規定による審判において定められた期間を伸長することができない。」と定める。
同条4項は「成年後見人の任務が終了したときは、家庭裁判所は、第一項に規定する嘱託を取り消さなければならない。」と定める。

3 郵便局への転居届との違い

(続きを読む...)成年後見人への郵便物の回送嘱託と開披――民法860条の2・860条の3の要件,大阪家裁の申立て及び令和8年改正(AI作成)

成年後見人が本人の自宅を売却・賃貸・解約するときの居住用不動産処分許可(民法859条の3)(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論1 対象と基準日2 結論第2 民法859条の3の内容1 条文2 趣旨3 許可は効力要件である4 後見監督人がいる場合の同意第3 「居住の用に供する建物又はその敷地」1 生活実態による実質判断2 典型的な場面第4 「処分」の範囲1 条文に列挙された処分2 「これらに準ずる処分」3 施設の入所契約の解除4 遺産分割との関係5 迷ったら予防的に許可を得る第5 処分をするかどうかの判断1 処分を検討する場面2 相続税対策や親族のための建築・増改築3 本人の意思の確認第6 大阪家庭裁判所への許可申立て1 申立人と申立先2 申立てのタイミング3 費用4 必要書類5 申立書の記載事項第7 審理と審判1 審理の観点2 審判の主文3 不服申立てはできない4 審判の効力の発生第8 許可後の手続――登記と印鑑証明書1 登記申請には許可書を添付する2 家庭裁判所が作成する後見人の印鑑証明書第9 成年後見人が本人の自宅を買う場合1 利益相反行為になる2 特別代理人等も許可を得る必要がある3 大阪家庭裁判所での特別代理人選任申立ての費用第10 リバースモーゲージとリースバック1 不動産担保型生活資金2 民間のリバースモーゲージ3 許可が必要であること4 リースバック第11 売却後の税・年金・保険料1 譲渡所得の申告2 20歳前障害による障害基礎年金の支給停止3 社会保険料と収支予定第12 保佐人・補助人の場合(現行法)1 代理権が付与されている場合2 代理権がない場合3 本人が自ら処分する場合4 任意後見人には同じ規定がない第13 令和8年改正後の扱い1 民法876条の13への移動2 誰に及ぶか3 利益相反の規定4 施行日と経過措置第14 出典・参考資料1 法令2 公的資料3 文献4 関連記事
第1 この記事の対象と結論
1 対象と基準日

本記事は,成年後見人が,成年被後見人(以下「本人」という。)の自宅を売却し,賃貸し,借家の賃貸借契約を解除し,又は自宅に抵当権を設定するときに必要となる家庭裁判所の許可(民法859条の3)について,許可が必要な場面,大阪家庭裁判所への申立ての方法,審判とその後の登記手続,売却後の税・年金への影響,保佐人・補助人の場合及び令和8年改正後の扱いを整理するものである。
基準日は令和8年9月19日であり,法令は同日時点の現行条文をe-Gov法令検索で確認した。
令和8年法律第45号(民法等の一部を改正する法律)による改正後の条文は,法務省の新旧対照条文とe-Gov法令検索の未施行版で確認した。
素材として,大阪弁護士会高齢者・障害者総合支援センター編『【全訂版】成年後見人の実務2023』(大阪弁護士協同組合,2023年。以下「本書」という。)を用いた。
本書は2023年時点の記述であるから,大阪家庭裁判所の現在の運用は,同庁の成年後見のページと「成年後見人・保佐人・補助人ハンドブック(Q&A付き)」(令和8年2月1日版。以下「大阪家裁ハンドブック」という。)で確認できた範囲で書き,確認できなかった点は本書の記載として区別する。

2 結論

①成年後見人が本人に代わって本人の居住用の建物又はその敷地を売却,賃貸,賃貸借の解除,抵当権の設定その他これらに準ずる処分をするには,家庭裁判所の許可が必要であり,許可のない処分は無効と解されている。
②「居住用」は住民票上の住所ではなく生活の実態で判断され,施設入所中で現に住んでいない自宅や,過去に生活の本拠であった建物も含まれ得る。
③「これらに準ずる処分」には,贈与,使用貸借,建物の取壊し等が含まれると解されており,施設の入所契約の解除や,本人が相続人となる遺産分割にも許可の要否が問題となるものがある。判断に迷う場合は予防的に許可を得ておくのが安全である。
④大阪家庭裁判所では,事前に連絡票で相談した上で取引の交渉を進め,取引が成立する一歩前の段階で申し立てる運用である。現在の費用は収入印紙800円分と郵便切手110円分である。
⑤許可の審判に対しても却下の審判に対しても,即時抗告はできない。
⑥成年後見人自身が本人の自宅を買う場合は利益相反行為となり,特別代理人(又は後見監督人)による代理と許可の両方が問題となる。
⑦売却すると翌年に譲渡所得の申告が必要となり,所得の増加により20歳前障害による障害基礎年金の支給停止や社会保険料の増加が生じることがある。
⑧現行法では,保佐人・補助人も,居住用不動産の処分について代理権を付与されている場合に限り,同じ許可が必要である。令和8年改正後は,この規律は民法876条の13に移り,代理権を付与された補助人に適用される。

第2 民法859条の3の内容
1 条文

民法859条の3は,「成年後見人は、成年被後見人に代わって、その居住の用に供する建物又はその敷地について、売却、賃貸、賃貸借の解除又は抵当権の設定その他これらに準ずる処分をするには、家庭裁判所の許可を得なければならない。」と定める。
成年後見人は,本人の財産を管理し,財産に関する法律行為について本人を代表する包括的な権限を持つ(民法859条1項)。
本条は,その包括的な代理権のうち,居住用不動産の処分についてだけ,家庭裁判所の許可という制約を加えたものである。
家事事件手続法では,この許可は別表第一の11項(成年被後見人の居住用不動産の処分についての許可)の審判事項である。

2 趣旨

本書54頁は,本条について,居住関係の変化が本人の身上面(心身の状態や生活の状況等)に与える影響の重大さに鑑み,特に身上保護の観点から成年後見人の財産行為上の代理権を制限したものであると説明している。
大阪家裁ハンドブック19頁も,本人にとって居住環境が変われば,その心身や生活に重大な影響が生じることになるので,特に慎重を期すため裁判所の許可を得なければならないとされていると説明している。
つまり,この許可は,売却価格が適正かという財産上の観点だけでなく,住み慣れた家を失うことが本人の生活にどう影響するかという観点から審査される。
成年後見人は,事務を行うに当たって本人の意思を尊重し,その心身の状態及び生活の状況に配慮しなければならない(民法858条)から,本条はこの身上配慮義務を手続の面から担保するものといえる。

3 許可は効力要件である

本書55頁は,家庭裁判所の許可は処分行為の効力要件であるから,許可を欠く処分行為は無効であると解されているとしている。

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最高裁家庭局第二課長書簡「成年後見人等の選任及び報酬付与の在り方」(平成31年1月24日)の内容と現在の運用(AI作成)

目次第1 この記事の対象第2 書簡の位置付けと構成1 本文が述べていること2 別添の構成第3 後見人等の選任イメージ(別添1-1・1-2)1 検討の順序2 選任イメージの性格と注記3 中核機関の支援が期待できない場合の運用第4 専門職の関与が必要な事案と期待される役割(別添1-3)1 専門職を後見人に選任する事案2 専門職を監督人に選任する事案第5 新たな報酬算定基準の参考資料(別添1-4・1-5)1 たたき台としての位置付けと基本的な考え方2 事務の時期区分と基本的事務・付加的事務3 報酬の加減要素4 報告の在り方第6 専門職団体の意見(別添2-1~2-4)1 日本弁護士連合会2 日本司法書士会連合会3 成年後見センター・リーガルサポート4 日本社会福祉士会第7 現在の運用との比較1 選任の考え方2 報酬の算定3 報告書式と報酬実績の公表4 令和8年改正法との関係第8 出典・参考資料1 法令2 裁判所の文書・資料3 成年後見制度利用促進専門家会議の資料4 統計5 関連記事
第1 この記事の対象

本記事は,最高裁判所事務総局家庭局第二課長が平成31年1月24日付けで高等裁判所事務局長及び家庭裁判所事務局長に宛てた書簡の内容を,本文と別添ごとに整理するものである。
この書簡の写し(全61頁)は,本ブログに成年後見人等の選任及び報酬付与の在り方に関する文書(平成31年1月24日付の最高裁判所家庭局第二課長の書簡)として掲載している。
書簡自体には表題が付いておらず,「成年後見人等の選任及び報酬付与の在り方」は,本文が扱う二つの事項を示す名称として本ブログが付けたものである。

書簡は,後見人等の選任の考え方と報酬付与の在り方について,最高裁判所と専門職団体との議論の到達点を各家庭裁判所へ伝えたものであり,その後の運用改善の出発点となった。
他方で,書簡から7年以上が経過し,報酬の決め方は書簡の案どおりには進まなかった。
そこで本記事は,書簡の内容を紹介した上で,令和8年9月18日現在の公表資料により,現在の運用と同じ点と違う点を確認する。
生成AIを用いて書簡の全頁と関係資料を通読し,本文の記載を原資料と照合して構成した。

第2 書簡の位置付けと構成
1 本文が述べていること
(1) 選任と専門職の役割は「概ね共有」された

書簡の本文によれば,最高裁判所家庭局は,日本弁護士連合会,日本司法書士会連合会,公益社団法人成年後見センター・リーガルサポート及び公益社団法人日本社会福祉士会(以下「専門職団体」という。)との間で,成年後見制度利用促進基本計画を踏まえた後見人等の選任と専門職に期待する役割等について議論を重ねてきた。
その結果について,本文は,「後見人等の選任及び専門職に期待する役割についてその基本的な考え方が概ね共有されました」と述べ,その内容を別添1-1から1-3までに示している。
その上で本文は,各家庭裁判所に対し,専門職団体の単位会等との間で,後見人等の選任及び専門職に期待する役割について認識の共有に向けた協議を行うよう求めている。

(2) 報酬は最高裁の案に対する意見の段階にとどまった

報酬付与の在り方について,本文は,家庭局が作成した資料(別添1-4・1-5)に対して専門職団体から意見(別添2-1から2-4まで)が示された段階であるとしている。
本文は,「各家庭裁判所が後見事務の内容に応じた報酬の付与という基本的な方向性に基づいて検討をしていくことについて専門職団体の理解を得られた」とする一方で,具体的な後見事務の評価,評価の対象となる事務の内容や負担,その前提となる報告事務の在り方については様々な意見が示されているとし,各家庭裁判所に対して地域の実情を踏まえた意見交換等を求めている。
つまり,選任については考え方の共有まで進んだが,報酬については方向性の理解を得た段階にとどまっていたことが,書簡の本文から読み取れる。

2 別添の構成

書簡の記に掲げられた別添は,次のとおりである。
①別添1-1 基本計画を踏まえた裁判所における後見人等の選任イメージ
②別添1-2 「基本計画を踏まえた裁判所における後見人等の選任イメージ」の補足説明
③別添1-3 専門職の関与を必要とする事案と専門職に期待する役割
④別添1-4 新たな報酬算定基準検討のための参考資料
⑤別添1-5 「新たな報酬算定基準検討のための参考資料」の補足説明
⑥別添2-1 最高裁判所の後見人報酬に係る提案について(日本弁護士連合会作成)
⑦別添2-2 「新たな報酬算定基準検討のための参考資料」に関する意見(日本司法書士会連合会作成)
⑧別添2-3 最高裁判所「新たな報酬算定基準検討のための参考資料」及びその補足説明並びに「新たな後見報酬算定に向けた考え方(案)」に対する意見書(公益社団法人成年後見センター・リーガルサポート作成)
⑨別添2-4 「新たな報酬算定基準検討のための参考資料」(補足説明含む)への意見(公益社団法人日本社会福祉士会作成)

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病院での虐待と高齢者虐待防止法-病院が「養介護施設」に含まれないことの意味と相談・通報先(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論1 対象と基準日2 結論第2 高齢者虐待防止法の構造1 二つの類型2 「養介護施設」の列挙に病院はない3 通報義務と市町村の対応4 65歳未満の障害者のみなし規定5 国マニュアルの説明6 病院も「早期発見」の主体ではある7 統計の見方第3 障害者虐待防止法1 三つの類型2 医療機関は通報義務の類型にない3 附則2条の検討規定第4 精神科病院の特則-精神保健福祉法40条の2以下1 令和4年改正と施行日2 各条の内容3 「発見した者」は誰でもよい4 通報先は都道府県(指定都市では指定都市)5 「精神科病院」の範囲6 苦情との区別と退院等の請求7 公表状況と大阪府・大阪市の窓口第5 一般の病院で虐待が疑われるときの相談・通報先1 医療安全支援センター2 医療法25条の立入検査3 刑事4 民事5 市町村・地域包括支援センターに相談した場合6 身体拘束の違法性に関する裁判例第6 「病院に見えて」高齢者虐待防止法の対象になる施設第7 成年後見人・家族が訴えを受けたときの実務(私見)1 基本姿勢2 手順3 精神科病院での通報義務と後見人4 後見人の権限との関係5 家庭裁判所の関与6 訴えが事実でなかった場合7 診療記録の開示請求第8 出典・参考資料1 法令2 公的資料3 裁判例4 関連記事
第1 この記事の対象と結論
1 対象と基準日

本記事は,入院中の高齢者や障害者について,家族や成年後見人が「病院で虐待されている」と訴え,又はそのような訴えを受けた場面を念頭に,どの法律が適用され,どこに相談・通報すべきかを整理するものである。
想定している読者は,成年後見人,成年後見事件に関わる弁護士及び入院中の高齢者の家族である。
基準日は令和8年9月18日であり,法令は同日にe-Gov法令APIで取得した現行条文により,厚生労働省の公表資料は同日に取得したものにより確認した。
本記事は,公表されている条文と行政資料を整理した一般的な解説であり,個別の事案について虐待の有無を判断するものではない。
第7は筆者の私見を含む実務上の手順であり,その旨を明示している。

2 結論

①高齢者虐待防止法の「養介護施設従事者等による高齢者虐待」の対象施設は2条5項に限定列挙されており,医療法上の病院は含まれない。
②厚生労働省の国マニュアルも,医療機関における高齢者への虐待は高齢者虐待防止法の対象外であり,医療法に基づいて都道府県等が検査・指導を行うものと説明している。
③障害者虐待防止法でも,医療機関は通報義務の対象となる類型に入っておらず,医療機関の管理者に虐待防止措置を講じさせる規定(31条)と,附則2条の検討規定があるにとどまる。
④精神科病院については,令和4年の精神保健福祉法改正により,令和6年4月1日から,業務従事者による障害者虐待を受けたと思われる精神障害者を発見した者に都道府県(指定都市を含む。)への通報義務が課されている(40条の3)。
⑤精神科病院以外の病院で虐待が疑われるときは,医療安全支援センター,医療法25条の立入検査権限を持つ都道府県等,警察,民事上の責任追及を場面に応じて使い分けることになる。
⑥訴えを受けた後見人は,訴えを放置も鵜呑みもせず,内容を具体化し,記録し,病院に事実確認を求め,必要に応じて外部の窓口につなぎ,家庭裁判所に報告するのが基本である。

第2 高齢者虐待防止法の構造
1 二つの類型

高齢者虐待の防止,高齢者の養護者に対する支援等に関する法律(平成17年法律第124号。以下「高齢者虐待防止法」という。)は,「高齢者」を65歳以上の者と定義している(2条1項)。
同法の「高齢者虐待」は,「養護者による高齢者虐待」と「養介護施設従事者等による高齢者虐待」の二つに限られている(2条3項)。
「養護者」とは,高齢者を現に養護する者であって養介護施設従事者等以外のものをいう(2条2項)。
虐待の内容は,身体的虐待,介護等の放棄,心理的虐待,性的虐待及び経済的虐待であり,養護者によるものは2条4項,養介護施設従事者等によるものは2条5項に定められている。

2 「養介護施設」の列挙に病院はない

2条5項1号は,次の施設を「養介護施設」と定義している。
①老人福祉法5条の3に規定する老人福祉施設(老人デイサービスセンター,老人短期入所施設,養護老人ホーム,特別養護老人ホーム,軽費老人ホーム,老人福祉センター及び老人介護支援センター)
②老人福祉法29条1項に規定する有料老人ホーム
③介護保険法に規定する地域密着型介護老人福祉施設,介護老人福祉施設,介護老人保健施設及び介護医療院
④介護保険法115条の46第1項に規定する地域包括支援センター

2条5項2号は,老人居宅生活支援事業や介護保険法上の居宅サービス事業等を「養介護事業」と定義している。
この列挙の中に,医療法1条の5第1項に規定する「病院」や同条2項に規定する「診療所」は含まれていない。
他方で,介護老人保健施設と介護医療院は,医療法1条の2第2項では病院・診療所と並ぶ「医療提供施設」とされているが,高齢者虐待防止法の上では養介護施設に含まれる。

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DNA鑑定で兄弟・親子関係と相続は変わるか――戸籍上の身分関係と科学的証拠(AI作成)

目次第1 この記事の概要1 想定している場面2 基準日と資料の性質第2 法律上の親子関係・兄弟姉妹関係は何で決まるか1 実母子関係は分娩の事実で決まる2 実父子関係は嫡出推定か認知で決まる3 兄弟姉妹関係は親子関係から導かれる4 戸籍の記載の位置付け第3 最高裁平成26年7月17日の2つの判決1 2つの判決の書誌2 裁判要旨3 理由中の判示4 推定の及ばない子という例外5 射程第4 令和4年民法改正による嫡出推定・嫡出否認の見直し1 改正の概要と施行日2 民法772条(嫡出の推定)3 民法774条・775条(否認権者と訴えの相手方)4 民法777条・778条・778条の2(出訴期間)5 経過措置6 父が死亡している場合第5 嫡出推定が及ばない場合等の争い方1 親子関係不存在確認の訴え2 当事者の一方又は双方が死亡している場合の被告2の2 法定相続分に差異が生じる場合の確認の利益3 調停前置と合意に相当する審判4 長期間の親子としての実態と権利の濫用5 判決の効力と戸籍の訂正第6 相続への影響1 兄弟姉妹の相続順位と相続分2 生物学上のつながりの有無は相続権を左右しない3 「相続しない」ことの法的な意味第7 私的なDNA鑑定を求められたときの実務1 相手方の同意なしに検体を取ることの問題2 成年後見人には検体採取に同意する権限がない3 本人が死亡した後の検体4 費用と手続は鑑定を求める側が担う5 鑑定の精度について第8 遺体・遺骨の引取りとの関係第9 国際的な親子関係では準拠法を先に確認する第10 まとめ第11 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 公的資料4 関連記事
第1 この記事の概要
1 想定している場面

相続や死後の手続の場面では,次のような申出を受けることがある。
① 「本当に血がつながっているのか確かめたい。DNA鑑定の結果次第で、死後の手続にも相続にも関わるかどうかを決めたい。」という親族の申出
② 「亡くなった父の子とされている人は、本当は父の子ではないのではないか。」と疑う相続人の申出
③ 「成年後見人として、本人の検体を採って鑑定に回してほしい。」という親族の依頼

この記事は,弁護士・成年後見人・相続の相談者を読者として,こうした申出を受けたときに,DNA鑑定の結果によって法律上の親子関係・兄弟姉妹関係と相続がどこまで変わるのかを整理するものである。
結論を先に書くと,DNA鑑定で示された血縁の有無だけで,法律上の親子関係や相続人の地位は変わらない。
また,嫡出推定が及ぶ父子関係は,科学的証拠によって生物学上の父子関係がないことが明らかであっても,親子関係不存在確認の訴えでは争えないというのが最高裁判例である。

2 基準日と資料の性質

この記事の基準日は令和8年9月18日である。
法令は,e-Gov法令検索(法令API)で基準日に取得した現行の条文及び改正附則によった。
裁判例は,裁判所ウェブサイトの裁判例検索で存在と裁判要旨を確認したものを挙げ,同サイトに掲載のないものはその旨を明記した。
この記事は一般的な整理であり,個別の事件では,戸籍の記載,子の出生の時期,認知の有無,当事者の生死等によって使える手続が大きく異なる。

第2 法律上の親子関係・兄弟姉妹関係は何で決まるか
1 実母子関係は分娩の事実で決まる

最高裁昭和37年4月27日判決(昭和35年(オ)第1189号,民集16巻7号1247頁)の裁判要旨は,「母と非嫡出子間の親子関係は、原則として、母の認知をまたず、分娩の事実により当然発生する。」というものである。
民法779条は「嫡出でない子は、その父又は母がこれを認知することができる。」と定めているが,母子関係については,認知ではなく分娩の事実が基準になるということである。

2 実父子関係は嫡出推定か認知で決まる

婚姻中の夫婦の間に生まれた子について,民法772条1項は「妻が婚姻中に懐胎した子は、当該婚姻における夫の子と推定する。」と定めている。
同項後段は,婚姻前に懐胎した子であって婚姻成立後に生まれたものも同様としている。
懐胎の時期については,同条2項が,婚姻の成立の日から200日以内に生まれた子は婚姻前に懐胎したものと推定し,婚姻の成立の日から200日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から300日以内に生まれた子は婚姻中に懐胎したものと推定すると定めている。
他方,嫡出でない子の父子関係は,父の認知(民法779条)又は認知の訴え(民法787条)によって生じる。
つまり,実父子関係は,生物学上のつながりそのものではなく,嫡出推定又は認知という法律上の仕組みを通じて定まる。

3 兄弟姉妹関係は親子関係から導かれる

兄弟姉妹関係は,それ自体を独立に定める仕組みがあるわけではなく,共通の父又は母との法律上の親子関係から導かれる。
したがって,「兄弟かどうか」という疑いは,法律的には,「その人と共通の親との間に法律上の親子関係があるかどうか」という問題に置き換えて考えることになる。
父母の双方を同じくするか一方のみを同じくするかも,法律上の父母を基準に判断される。

ここまでの分娩・嫡出推定・認知の説明は実親子関係に関するものであり,養子縁組による親族関係は別に確認する。民法727条により,養子と養親及びその血族との間には縁組の日から血族間と同一の親族関係が生じる。普通養子縁組では実方との親族関係も残るが,特別養子縁組では民法817条の9所定の例外を除き実方の父母及び血族との親族関係が終了する。相続人を確定するときは,戸籍で縁組の種類と成立日を調べ,養子縁組前に生まれた子と兄弟姉妹・代襲相続の問題も区別する。

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親族が遺体・遺骨の引取りを拒む・条件を付ける・連絡がつかないとき-成年後見人の対応と意向照会書(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論1 対象と基準日2 結論第2 三つの場面の区別1 引取りを拒む場合2 条件を付ける場合3 連絡がつかない場合第3 民法873条の2の「相続人の意思に反することが明らかなとき」1 条文2 相続人の同意は要件ではない3 「引き取らない」と「火葬に反対する」は違う4 条件付きの拒否をどう読むか第4 DNA鑑定などの条件に後見人は応じるべきか1 後見人には検体採取に同意する権限がない2 法律上の親族関係は戸籍と裁判手続で決まる3 親族に渡すべきものは鑑定ではなく戸籍4 死亡後の遺体からの検体第5 連絡がつかない場合1 死後事務はできる2 本人の資力で道を分ける3 死亡届と火葬の時間軸第6 遺骨を引き取らない場合1 納骨まで3号許可で行える2 合祀すると取り出せなくなることがある3 後日に争いになったときの決着の道第7 危篤の段階でしておくこと1 意向照会書を送る2 意向照会書の文例3 短い期限だけを区切った通知の限界4 家庭裁判所への事前連絡と原資の確保5 病院・葬儀社・火葬場との事前調整第8 親族から苦情が寄せられているとき1 書面で問い,書面で答えてもらう2 虐待の訴えがあった場合第9 死亡後の流れと引継ぎ1 死亡後の流れ2 相続財産の受領を拒まれた場合3 令和8年改正後第10 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 文献4 関連記事
第1 この記事の対象と結論
1 対象と基準日

本記事は,成年被後見人が危篤となり,又は死亡したときに,相続人となる親族が,遺体や遺骨の引取りを拒み,引取りに条件を付け,又は連絡がつかないという場面で,成年後見人が何をどの順序で行うかを整理するものである。
基準日は令和8年9月18日であり,法令は同日にe-Gov法令検索で確認した現行条文による。
元後見人の死後事務の権限の全体像は成年被後見人が死亡した後に元後見人ができること-民法873条の2の死後事務と事務管理で,墓地埋葬法・葬祭扶助・遺骨の帰属・葬儀費用の負担は葬儀・火葬の実施で扱っている。
本記事はこれらと重複する説明を最小限にとどめ,親族が「動かない」「条件を付ける」「つかまらない」という場面に絞る。

2 結論

①親族が「引き取らない」と言っていることは,それだけでは,後見人が火葬や納骨をすることに反対する意思表示とは限らない。
②「DNA鑑定をしなければ引き取らない」といった条件には,後見人は応じる権限を持たない。法律上の親族関係は戸籍と裁判手続で決まり,鑑定結果だけで当然に変わるものではない。
③相続人と連絡がつかないことは,民法873条の2に基づく死後事務の妨げにならない。
④最も効果があるのは,本人の危篤の段階で,火葬への異議の有無,遺骨の引取りの有無,引き取らない場合の納骨の方法を分けて書面で尋ね,回答がないときの方針まで伝えておくことである。

第2 三つの場面の区別
1 引取りを拒む場合

親族が「自分は引き取らない」「関わりたくない」と言う場面である。
遠方に住んでいる,本人と長く疎遠だった,費用の負担を避けたいなど,理由はさまざまである。
この場面で問題になるのは,親族の言葉が「自分は動かない」という意味なのか,「火葬も納骨もするな」という意味なのかである。

2 条件を付ける場合

親族が「本当に血がつながっているか分からないので,DNA鑑定をしてくれなければ引き取らない」「こちらの指定する葬儀をしなければ引き取らない」などと,引取りに条件を付ける場面である。
条件の中身が,後見人の権限の中で実現できるものか,そもそも権限の外にあるものかを見分ける必要がある。
また,条件付きの拒否には,火葬そのものを止めてほしいという意思が含まれていることがあるので,その点を確かめる必要がある。

3 連絡がつかない場合

相続人の所在は分かっているが電話に出ない,郵便を送っても返事がない,死亡の連絡をしても応答がないという場面である。
「反対されている」のではなく「連絡が取れない」のであれば,扱いは大きく異なる。

第3 民法873条の2の「相続人の意思に反することが明らかなとき」
1 条文

民法873条の2は,「成年後見人は、成年被後見人が死亡した場合において、必要があるときは、成年被後見人の相続人の意思に反することが明らかなときを除き、相続人が相続財産を管理することができるに至るまで、次に掲げる行為をすることができる。ただし、第三号に掲げる行為をするには、家庭裁判所の許可を得なければならない。」と定める。
3号は「その死体の火葬又は埋葬に関する契約の締結その他相続財産の保存に必要な行為(前二号に掲げる行為を除く。)」である。
したがって,民法873条の2に基づいて火葬や納骨に関する契約を結ぶには家庭裁判所の許可(以下「3号許可」という。)が必要であり,かつ,相続人の意思に反することが明らかなときはできない。
ただし,大阪家裁後見センターは,時間的制約等から3号許可を得ずに応急処分(民法874条,654条)等を根拠として火葬契約を結んだ場合でも当然に違法となるわけではなく,これを違法視・問題視した事案も報告されていないとして,この点を誤解した3号許可の申立てに注意を促している(大阪家庭裁判所後見センター編『大阪家庭裁判所後見センターだより』(大阪弁護士協同組合,2025年)250頁)。

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前妻・前夫との子がいる場合の法定相続情報一覧図―前配偶者の表示,線の引き方,前婚の子の戸籍と現住所の集め方(AI作成)

目次第1 前婚の子がいる相続で一覧図に載せる人1 前婚の子は相続人であり,前配偶者は相続人ではない2 前婚の子が相続人とならない場合と別の整理が要る場合第2 前配偶者の表示と線の引き方1 法務局の記載例から読み取れること2 前配偶者を図に表す三つの方法3 続柄と作成日の書き方第3 前婚の子の戸籍を探す1 離婚しても子の戸籍は当然には移らない2 子が別の戸籍へ移る主な原因3 前婚の子の戸籍の取り方第4 前婚の子の現住所を確かめる1 住所の証明に使う書類の違い2 戸籍の附票を請求できる人3 住所を一覧図に書くかの判断第5 住民票と戸籍の附票の「本籍」「筆頭者」「世帯主」欄1 「本籍」「筆頭者」は戸籍の表示であり,世帯主とは別である2 本籍や筆頭者を省略した証明書でよいか第6 申出前の点検第7 出典・参考資料1 法令2 法務局の記載例と手続案内3 国会の答弁書及び法務省の案内4 実務家の解説記事
第1 前婚の子がいる相続で一覧図に載せる人
1 前婚の子は相続人であり,前配偶者は相続人ではない
(1) 本記事の対象と前提

本記事は,被相続人に,離婚した前配偶者との間の子(以下「前婚の子」という。)がいる場合について,法定相続情報一覧図の書き方と,前婚の子の戸籍及び現住所の集め方を説明するものである。
令和8年9月25日現在の法令,法務局の記載例及び手続案内を前提とし,戸籍の基本的な読み方と一覧図全般の作り方は,「法定相続情報一覧図の作成方法―戸籍謄本の読み方と相続人の確認」で説明している。

(2) 前婚の子と前配偶者の法的地位

被相続人の子は相続人となり,被相続人の配偶者は常に相続人となる(民法887条1項・890条)。
子が数人あるときの各自の相続分は相等しいとされているから,前婚の子と,現在の配偶者との間の子(以下「後婚の子」という。)との間で,どの婚姻から生まれたかによって法定相続分は変わらない(民法900条4号)。

他方,離婚によって婚姻関係が終了した前配偶者は,被相続人の配偶者ではないから,相続人とならない。
一覧図に記載するのは,被相続人の氏名,生年月日,最後の住所及び死亡の年月日と,相続開始の時における同順位の相続人の氏名,生年月日及び被相続人との続柄であり(不動産登記規則247条1項),前配偶者の氏名や生年月日は記載事項に含まれない。

(3) 一覧図を申し出ることができる人

一覧図の保管及び写しの交付を申し出ることができるのは,相続人又は相続人の地位を相続により承継した者であり(不動産登記規則247条1項),前婚の子も後婚の子も,現在の配偶者も申出人になれる。
もっとも,申出には,前婚の子を含む相続人全員の戸籍の謄本,抄本又は記載事項証明書を添付する必要があるため(同条3項4号),前婚の子と連絡を取っていない相続人が申し出る場合でも,前婚の子の戸籍を取得する作業は省略できない。

2 前婚の子が相続人とならない場合と別の整理が要る場合
(1) 前婚の子が特別養子縁組をしている場合

前婚の子が特別養子縁組をしているときは,養子と実方の父母及びその血族との親族関係は終了する(民法817条の9本文)。
同条ただし書が親族関係を残すのは,民法817条の3第2項ただし書に規定する「他の一方」,つまり養親の配偶者であって子の実親である者とその血族に限られる。
したがって,例えば前配偶者の再婚相手が前婚の子と特別養子縁組をした場合,前配偶者との親族関係は残る一方,被相続人との親子関係は終了し,前婚の子は被相続人の相続人とならない。

これに対し,普通養子縁組は,養子と養親及びその血族との間に親族関係を生じさせるものであり(民法727条・809条),民法817条の9のように実方との親族関係を終了させる規定は置かれていない。
前婚の子の戸籍に縁組の記載があるときは,普通養子縁組か特別養子縁組かを身分事項から読み分けてから,一覧図に載せるかを判断する。

(2) 前婚の子が死亡している場合

前婚の子が被相続人の相続開始以前に死亡しているときは,その子(被相続人の孫)が代襲して相続人となり得る(民法887条2項)。
これに対し,被相続人の死亡後に前婚の子が死亡したときは数次相続となり,前婚の子を被相続人とする相続関係は別に整理する。
代襲相続の線の引き方と数次相続の扱いは,前記の一覧図作成の記事の第4の2及び第5の3で説明している。

第2 前配偶者の表示と線の引き方
1 法務局の記載例から読み取れること
(1) 前婚の子を題名とする記載例はない

法務局の「主な法定相続情報一覧図の様式及び記載例」(令和8年9月25日確認時点の更新日は2024年4月1日)には,配偶者及び子,子のみ,配偶者及び親,配偶者及び兄弟姉妹,代襲相続,旧民法下の相続,養子を含む場合等の記載例が掲載されている。
しかし,前婚の子がいる場合を題名とする記載例は掲載されていない。

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遺留分減殺請求を受けた親子・夫婦を一人の弁護士が代理できるか―減殺の順序,受贈者自身の遺留分,利益相反の説明(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論1 対象とする場面2 結論第2 誰がどれだけ減殺を受けるかを決める規定1 遺贈は生前贈与より先に減殺される2 複数の遺贈は目的の価額の割合に応じて減殺される3 生前贈与は後の贈与から減殺される4 相続人に対する特別受益の贈与は時期を問わない5 相続人でない者への古い贈与は要件が異なる第3 受遺者・受贈者が共同相続人である場合1 遺贈についての平成10年2月26日判決2 生前贈与の扱いと判例タイムズ1345号の計算シート3 数値例4 計算の前提を確認する事項第4 家族の間で利害が分かれる場面1 遺贈を受けた者と生前贈与を受けた者2 新しい贈与の受贈者と古い贈与の受贈者3 相続人でない者への贈与4 価額弁償の対象と支払者5 無資力の損失6 特別受益と取得財産の主張第5 一人の弁護士が複数の被告を代理するときの規律1 受任時の説明義務2 現実に利害が対立したとき3 利益相反事件との関係4 受任時に説明しておく事項第6 委任契約と弁護士費用1 委任契約書に定める事項2 成功報酬金の算定基礎第7 受任時の確認手順第8 関連記事第9 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 日本弁護士連合会の会規4 文献
第1 この記事の対象と結論
1 対象とする場面

本記事は,令和元年7月1日より前に開始した相続について,遺留分権利者から遺留分減殺請求を受けた受遺者又は受贈者が複数いる場面を扱う。
典型例は,被相続人から遺言で財産を取得した子と,生前贈与を受けた他の家族が,同じ訴訟の被告になる場合である。
基準日は令和8年9月18日である。

平成30年法律第72号附則2条により,同法の施行日前に開始した相続の遺留分には,原則として改正前の民法(以下「旧民法」という。)が適用される。

2 結論

複数の受遺者・受贈者のうち誰がどれだけ減殺を受けるかは,旧民法1033条から1035条までの順序と,各処分の目的の価額によって決まる。
遺贈は生前贈与より先に減殺され,生前贈与は後の贈与から前の贈与へと減殺される。

もっとも,受遺者又は受贈者が共同相続人である場合は,その人自身の遺留分を考慮する必要がある。
最高裁は,相続人に対する遺贈について,受遺者の遺留分額を超える部分だけが旧民法1034条の「目的の価額」に当たるとした。
判例タイムズ1345号の論文は,相続人の一人に遺贈及び贈与がされた場合にはその総額から遺留分額を控除して遺留分超過額を算出すべきであるとし,同論文の計算シートは,生前贈与についても受贈者ごとの遺留分超過額を上限として減殺額を割り付けている。
そのため,贈与の日付が新しいというだけで,その受贈者が大きな負担を負うとは限らない。

家族が同じ訴訟の被告になっても,減殺の順序,評価,価額弁償の対象及び相続人でない者への贈与の扱いについて,被告の間で利害が分かれることがある。
一人の弁護士が複数の被告から受任することは直ちに禁じられるものではないが,弁護士職務基本規程32条により,受任に当たって辞任の可能性その他の不利益を及ぼすおそれを依頼者それぞれに説明しなければならない。

第2 誰がどれだけ減殺を受けるかを決める規定
1 遺贈は生前贈与より先に減殺される

旧民法1033条は,贈与は遺贈を減殺した後でなければ減殺することができないと定めていた。
遺言で財産を取得した家族と,生前贈与を受けた家族が同時に請求を受けている場合は,まず遺贈の側に侵害額を割り当てる。

特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」旨の遺言による取得も,最高裁平成10年2月26日第一小法廷判決(平成9年(オ)第802号,民集52巻1号274頁)により,遺贈と同様に扱われる。

2 複数の遺贈は目的の価額の割合に応じて減殺される

旧民法1034条は,遺贈はその目的の価額の割合に応じて減殺すると定め,遺言者が遺言に別段の意思を表示したときはその意思に従うとしていた。

3 生前贈与は後の贈与から減殺される

旧民法1035条は,贈与の減殺は後の贈与から順次前の贈与に対してすると定めていた。
遺贈を減殺しても侵害が残る場合は,相続開始に近い贈与から古い贈与へ遡って減殺額を割り当てる。

4 相続人に対する特別受益の贈与は時期を問わない

旧民法1030条は,減殺の基礎に算入する贈与を,原則として相続開始前の1年間にしたものに限り,当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をしたときは,1年前の日より前にしたものも算入するとしていた。

最高裁平成10年3月24日第三小法廷判決(平成9年(オ)第2117号,民集52巻2号433頁)は,旧民法903条1項の定める相続人に対する贈与は,減殺請求を認めることがその相続人に酷であるなどの特段の事情のない限り,旧民法1030条の要件を満たさないものであっても遺留分減殺の対象となるとした。

5 相続人でない者への古い贈与は要件が異なる

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遺留分減殺請求の訴額の算定―不動産の持分移転登記請求,土地の2分の1,建物,訴額と価額弁償額・弁護士費用の違い(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論1 対象とする訴訟2 結論第2 訴額算定の法令上の枠組み1 訴えで主張する利益によって算定する2 昭和31年の民事局長通知3 平成6年の民事局長通知と土地の2分の14 手数料額への当てはめ第3 遺留分減殺による持分移転登記請求の訴額1 基本の算式2 数値例3 手引が示す追加の2分の14 請求の趣旨と訴額の対応第4 訴状の訴額から評価額を逆算するときの注意1 固定資産税評価額の年度2 換地・分筆・合筆3 未知数を一つ置けば必ず一致する第5 訴額と区別すべき金額1 四つの金額の違い2 固定資産税評価額と時価3 訴額に相当する金銭を支払えば終わるわけではない4 弁護士費用の算定基礎第6 現行法の遺留分侵害額請求の訴額第7 訴状を作成し,又は受け取ったときの確認手順1 訴状を作成する側2 訴状を受け取った側第8 関連記事第9 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 公的資料4 文献
第1 この記事の対象と結論
1 対象とする訴訟

本記事は,令和元年7月1日より前に開始した相続について,遺留分権利者が受遺者又は受贈者に対し,遺留分減殺を原因とする不動産の持分移転登記手続を求める訴訟の「訴訟物の価額」(以下「訴額」という。)を扱う。
基準日は令和8年9月18日であり,条文は同日にe-Gov法令検索で確認した。

平成30年法律第72号附則2条は,同法の施行日前に開始した相続について,原則として従前の例によると定めている。
そのため,訴えの提起が令和8年であっても,相続開始が令和元年6月30日以前であれば,旧法の遺留分減殺請求として,金銭ではなく不動産の持分そのものが請求の対象になることがある。

2 結論

訴額の出発点は,昭和31年12月12日民事甲第412号民事局長通知の「所有権移転登記請求権 目的たる物の価格」であり,固定資産税評価額のある不動産はその価格による。
土地については,平成6年3月28日民二第79号民事局長通知により,受付事務の取扱いとして固定資産税評価額に2分の1を乗じた額を基準とする。
建物には,この土地の2分の1の取扱いはない。

遺留分減殺による持分移転登記請求では,こうして求めた目的物の価額に,各原告が求める持分割合を乗じ,原告が複数であれば合算するのが基本である。
もっとも,『三訂版 事例からみる訴額算定の手引』は,遺留分減殺による持分移転登記請求を「抹消に代わる移転登記」と位置付け,更に2分の1を乗じる計算を示している。
他方,判例タイムズ1345号のモデル訴状は,通常の所有権移転登記の形で請求の趣旨を示しており,受付実務が一つに定まっているとまではいえない。

訴額は,申立手数料を計算するための額である。
遺留分侵害額,価額弁償の額及び弁護士費用の算定基礎とは,基準も時点も異なる。
訴状の訴額に相当する金銭を支払えば紛争が終わるわけではない。

第2 訴額算定の法令上の枠組み
1 訴えで主張する利益によって算定する

民事訴訟法8条1項は,訴額を「訴えで主張する利益によって算定する」と定める。
民事訴訟費用等に関する法律4条1項は,手数料の算出の基礎となる訴額も,民事訴訟法8条1項及び9条により算定するとしている。

一つの訴えで数個の請求をする場合は,民事訴訟法9条1項本文により,その価額を合算する。
ただし,訴えで主張する利益が各請求について共通である場合は,同項ただし書により合算しない。

2 昭和31年の民事局長通知

昭和31年12月12日民事甲第412号民事局長通知「訴訟物の価額の算定基準について」は,所有権について「目的たる物の価格」とし,地方税法349条による固定資産税の課税標準となる価格があるものはその価格,その他のものは取引価格によるとしている。
同通知は,所有権移転登記請求権についても「目的たる物の価格」とし,所有権に基づく物の引渡(明渡)請求権については「目的たる物の価格の二分の一」としている。

同通知は,各裁判所の受付事務の取扱いが分かれていたことから参考資料として作成されたものであり,訴額に争いがあるとき等の基準となるものではないと明記している。
また,価格の認定については,固定資産税の課税標準となる価格を証明する書面を提出させる等の方法により当事者に証明させるとしている。

3 平成6年の民事局長通知と土地の2分の1

平成6年3月28日民二第79号民事局長通知「土地を目的とする訴訟の訴訟物の価額の算定基準について」は,平成6年度の評価替えで宅地の固定資産税評価額が大きく上昇することを踏まえ,同年4月1日から当分の間,土地を目的とする訴訟の受付事務の取扱いとして,固定資産税評価額に2分の1を乗じて得た金額を基準とすることが妥当であるとした。

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小規模企業共済の共済金と相続―死亡時の受給権者の順位,相続放棄,相続税の非課税枠,生前受取の課税及び承継通算(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 本記事の対象と基準日2 結論の要旨第2 共済金の種類と支給事由1 法律上の共済金と解約手当金2 中小機構の案内上の「共済金A」「共済金B」「準共済金」第3 共済契約者が死亡したときの受給権者1 遺族の範囲と順位2 同順位の受給権者が複数いる場合3 受給権者がいない場合と欠格第4 共済金は相続財産か1 遺族に直接発生する権利2 相続放棄と共済金3 遺産分割・遺言執行との関係4 既に発生していた受給権と分割受取中の残額第5 相続税の取扱い1 みなし相続財産としての退職手当金等2 非課税限度額3 相続人以外の者や相続放棄者が受け取った場合4 所得税は課されない第6 生前に受け取る共済金等の所得税1 一括受取は退職所得2 分割受取は公的年金等の雑所得3 65歳未満の任意解約等は一時所得4 掛金は小規模企業共済等掛金控除の対象第7 死亡した年の準確定申告1 期限と掛金控除2 死亡の年に生前受け取っていた共済金第8 共済金の請求手続と期限1 請求手続と添付書類2 時効と完成猶予第9 事業を承継する配偶者・子の承継通算1 承継通算の要件2 承継通算を選んだ場合の課税第10 出典1 法令2 所管行政機関の通達・解説・文書回答3 共済契約の運営機関の資料
第1 本記事の対象と結論
1 本記事の対象と基準日

本記事は,小規模企業共済に加入していた個人事業主又は会社等の役員が死亡した場合に,誰が共済金を受け取り,それが相続財産や相続税とどう関係するかを,小規模企業共済法,所得税法,相続税法及び独立行政法人中小企業基盤整備機構(以下「中小機構」という。)の公表資料に基づいて整理するものであり,AIを用いて作成した。
法令は令和8年9月17日時点でe-Gov法令検索に掲載されている現行条文により,中小機構及び国税庁の資料は同日に各ウェブサイトで確認した内容による。
生前に共済金等を受け取った場合の所得税と,死亡した年の準確定申告との関係も,相続手続に関係する範囲で扱う。

2 結論の要旨

共済契約者の死亡による共済金は,民法の相続人ではなく,小規模企業共済法10条が定める順位の遺族が受け取る。
①第1順位は配偶者であり,届出をしていない事実上の配偶者を含む。
②共済金の請求権は遺族に直接発生する権利であり,中小機構は,相続財産に属さないため相続を放棄しても受給権者であれば請求できると説明している。
③相続税では,共済金は死亡退職金と同じ「退職手当金等」として相続又は遺贈により取得したものとみなされ,相続人が取得した分には,500万円に法定相続人の数を乗じた非課税限度額がある。
④相続人以外の者や相続を放棄した者が受け取った共済金には,この非課税限度額の適用がない。
⑤生前に一括で受け取った共済金は退職所得,分割で受け取った共済金は公的年金等の雑所得となり,65歳未満での任意解約による解約手当金は一時所得となる。
⑥事業の全部を相続した配偶者又は子は,相続開始から1年以内であれば,共済金を請求せずに掛金納付月数を引き継ぐ承継通算を選べる。

第2 共済金の種類と支給事由
1 法律上の共済金と解約手当金
(1) 共済金

小規模企業共済法9条1項は,共済契約者に事業の廃止等の事由が生じた場合であって掛金納付月数が6か月以上のときは,中小機構は「その者(第一号又は第二号に掲げる事由が死亡によるものであるときは、その遺族)に共済金を支給する。」と定めている。
支給事由は,個人事業の廃止(会社等の役員の場合は会社等の解散),会社等の役員の疾病,負傷若しくは死亡による退任又は65歳以上での退任,及び65歳以上で掛金納付月数が180か月以上の共済契約者の請求である。
共済金は一時金として支給するのが原則であり(同法9条の2),共済契約者の請求による分割払も認められているが,事業の廃止等の支給事由が生じた日に60歳未満であるときは分割払を選べない(同法9条の3第1項ただし書2号)。

(2) 解約手当金

共済契約者は,いつでも共済契約を解除することができ(小規模企業共済法7条3項),個人事業主が同一の事業を営む会社を設立するため事業を廃止したとき等は,共済契約が解除されたものとみなされる(同条4項)。
共済契約が解除された場合であって掛金納付月数が12か月以上のときは,中小機構は共済契約者に解約手当金を支給する(同法12条1項)。

2 中小機構の案内上の「共済金A」「共済金B」「準共済金」

中小機構は,請求事由に応じて,共済金等を「共済金A」「共済金B」「準共済金」「解約手当金」の4種類に分けて案内している。
これらは法律上の用語ではなく,中小機構の案内上の区分であり,受け取る金額の水準が区分ごとに異なる。

区分個人事業主の主な請求事由会社等の役員の主な請求事由共済金A個人事業の廃業,共済契約者の死亡会社等の解散共済金B65歳以上で180か月以上払い込んだ場合の老齢給付疾病・負傷又は65歳以上での退任,共済契約者の死亡,老齢給付準共済金法人成りの結果,加入資格がなくなった場合法人の解散や疾病・負傷によらない65歳未満での退任解約手当金任意解約,機構解約任意解約,機構解約

共済契約者の死亡は,個人事業主では共済金A,会社等の役員では共済金Bの請求事由として案内されている。
いずれも,死亡による共済金は遺族が請求し,分割受取や一括・分割併用受取は選べない。

第3 共済契約者が死亡したときの受給権者

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清算型遺言(財産を換金して分ける遺言)の実現方法―遺言執行者がいない場合・信託銀行が就職を辞退した場合の手続,登記及び課税(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 本記事の対象と基準日2 結論の要旨第2 清算型遺言の法的性質1 清算型遺言の典型的な文言2 特定遺贈・包括遺贈・相続分の指定のいずれと解されるか3 性質の違いが影響する場面第3 遺言執行者の権限と相続人の処分の制限1 遺言執行者がいる場合の換金と分配2 指定された者が就職を承諾する前の相続人の処分3 就職前の辞退と就職後の辞任第4 遺言執行者がいない場合の二つの方法1 家庭裁判所に遺言執行者の選任を申し立てる方法2 相続人と取得する人の全員で換金・分配する方法第5 金融機関での手続1 預金2 証券会社3 弁護士が取得者の一部の代理人となる場合第6 不動産を換金する場合の登記1 相続登記を経てから買主に移転する2 遺言執行者がいない場合の相続登記と贈与税3 売買契約の条項第7 換金と課税1 譲渡所得は誰の所得になるか2 被相続人の準確定申告との関係3 相続税第8 出典1 法令2 裁判例3 裁判所の手続案内4 国税庁の質疑応答事例・研究論文5 金融機関の公開資料
第1 本記事の対象と結論
1 本記事の対象と基準日

本記事は,遺産の全部又は一部を売却・解約して金銭に換え,債務や費用を支払った残りを定めた割合で分けるよう定めた遺言(以下「清算型遺言」という。)を,遺言執行者がいない場合や,指定された信託銀行等が就職を辞退した場合にどう実現するかを,民法,家事事件手続法,不動産登記法,所得税法,国税庁の公表資料及び金融機関の公開資料に基づいて整理するものであり,AIを用いて作成した。
法令は令和8年9月17日時点でe-Gov法令検索に掲載されている現行条文により,裁判例は裁判所ウェブサイトで個別ページ及び全文を確認したものに限って用いる。
金融機関の必要書類は同日に各社のウェブサイトで確認した内容であり,手続の細部は変更され得るため,実際には各社の最新の案内で確認する必要がある。

2 結論の要旨

清算型遺言は,遺言執行者が就職していれば遺言執行者が換金と分配を行う。
遺言執行者が指定されていない場合や,指定された者が就職を辞退した場合のように,遺言執行者がいない場合には,遺言で財産を取得する人だけでなく,遺贈を履行する義務を負う法定相続人全員(遺言で何も取得しない相続人を含む。)と取得者全員が協力することにより,換金・分配できる場合がある。
ただし,遺言執行者に指定された者がまだ就職を承諾していないだけの場合は,「遺言執行者がいない場合」と同じには扱えず,就職するか辞退するかを確認する必要がある。
①清算型遺言は,一律に特定遺贈又は包括遺贈と決まるものではなく,遺言の趣旨により,包括遺贈や,相続分の指定及び遺産分割方法の指定と解されることがある。
②遺言執行者に指定された者が就職を承諾する前でも,民法1013条の「遺言執行者がある場合」に当たるとした最高裁判例があるため,指定された者が就職を辞退したことを書面で確認してから相続人側の手続に移るのが安全である。
③遺言執行者がいない場合は,家庭裁判所に遺言執行者の選任を申し立てるか,相続人全員と取得する人全員の書類で金融機関や登記の手続を進めるかを選ぶことになる。
④金融機関は,遺言書があって遺言執行者がいない場合の書類を別に定めていることが多いが,分ける割合や承継人が明確でない場合は,法定相続人全員の書類を求める扱いがある。
⑤遺言執行者が遺産を換金した場合の譲渡所得について,国税庁の質疑応答事例は,法定相続分に応じて各相続人が申告する必要があるとしているが,これは同事例の個別の事実関係を前提とした回答であり,すべての清算型遺言に当然に当てはまるものではなく,受遺者に帰属するとする研究論文の見解もある。

第2 清算型遺言の法的性質
1 清算型遺言の典型的な文言

清算型遺言は,例えば「遺言者の有する一切の財産を換価し,その換価金から遺言者の債務及び遺言執行に関する費用を弁済した残金を,Aに2分の1,B及びCに各4分の1の割合で取得させる。」という形で書かれる(本記事で作成した例である)。
遺産そのものではなく,換金した後の金銭を分けることを定めている点で,特定の不動産や預金を特定の人に承継させる遺言とは構造が異なる。
遺産の一部だけを換金の対象とし,自宅などの特定の財産は別の条項で特定の人に承継させる形の遺言もある。

2 特定遺贈・包括遺贈・相続分の指定のいずれと解されるか
(1) 民法の規定

民法964条は,「遺言者は、包括又は特定の名義で、その財産の全部又は一部を処分することができる。」と定め,民法990条は,「包括受遺者は、相続人と同一の権利義務を有する。」と定めている。
また,民法902条1項は遺言による相続分の指定を,民法908条1項は遺言による遺産の分割の方法の指定を認めている。

(2) 国税庁の研究論文の整理

国税庁税務大学校の研究論文である小柳誠「換価遺言が行われた場合の課税関係について」(税大論叢85号,平成28年6月30日)は,清算型遺言(同論文の用語では換価遺言)について,「一義的には、換価遺言の場合は、その目的物は、換価代金すなわち金銭と考えられるから、これは相続財産自体でなく、不特定物であり、この点のみで考えれば、換価遺言は、一応、不特定物遺贈と考えられる。」としている。
その上で,同論文は,「しかしながら、債務の清算に着目し、遺言の趣旨の解釈を行うと包括遺贈との性質決定にもなりうる。また、相続人に対する換価遺言の場合では、相続分の指定及び遺産分割の方法を指定したと解する場合があり得る。」とし,「結局、換価遺言も特定遺贈か、包括遺贈かなどと一義的に解するのではなく、個々の場面における遺言者の遺言の趣旨に照らし、相続人、受遺者に及ぼす法的効果として妥当する法的性質決定が必要である。」と結論付けている。
同論文は研究者個人の論文であり,国税庁の公式見解ではないが,清算型遺言の性質を一律に決められないことを確認する資料として参考になる。

3 性質の違いが影響する場面

清算型遺言をどう性質決定するかは,債務を誰が負担するか,取得者が相続人以外の者である場合に相続人と同一の権利義務を持つか(民法990条),遺言執行者の有無や権限の範囲をどう考えるかに影響する。

(続きを読む...)清算型遺言(財産を換金して分ける遺言)の実現方法―遺言執行者がいない場合・信託銀行が就職を辞退した場合の手続,登記及び課税(AI作成)

遺言による生命保険金受取人の変更―保険法44条・73条の要件,保険会社への通知,遺言執行者の役割並びに遺留分及び特別受益(AI作成)

目次第1 結論の要旨と本記事の対象1 結論の要旨2 本記事の対象と基準日第2 保険法の条文1 保険金受取人の変更の原則(43条・72条)2 遺言による変更(44条・73条)3 被保険者の同意(45条・74条)第3 適用時期―平成22年4月1日以後に締結された契約1 施行日と経過措置の原則2 施行日前に締結された契約第4 遺言の要件と記載内容1 遺言の方式と効力発生時期2 契約と新受取人の特定3 遺言の撤回と生前の変更との関係第5 保険会社への通知(対抗要件)1 通知をする者2 遺言執行者による通知3 通知の前に旧受取人へ支払われた場合第6 遺留分・特別受益・相続税1 遺留分2 特別受益3 相続税第7 実務上の注意点1 生前の変更手続と遺言による変更の比較2 遺言の文案例3 遺言執行者を指定しておく意味4 受取人が先に死亡した場合5 期間制限6 相続放棄との関係第8 出典1 法令2 裁判例3 立法資料・所管行政機関の説明4 文献
第1 結論の要旨と本記事の対象
1 結論の要旨
(1) 遺言で変更できる場合と効力

生命保険の死亡保険金の受取人は,保険契約者が遺言で変更することができる(保険法44条1項)。
傷害疾病定額保険契約(死亡保険金を含む医療保険等)についても同じ規定がある(保険法73条1項)。
遺言による変更は,遺言が民法の方式を満たしていれば,遺言者の死亡の時に効力を生ずる(民法960条,985条1項)。
ただし,この規定が直接適用されるのは,保険法の施行日である平成22年4月1日以後に締結された保険契約である(保険法附則2条本文)。

(2) 保険会社への通知と遺言執行者

遺言による変更は,遺言の効力が生じた後に「保険契約者の相続人」が保険会社に通知しなければ,保険会社に対抗することができない(保険法44条2項)。
法務省の立案担当者の解説は,この通知は相続人の1人がすれば足り,遺言執行者が通知することもできるとしている。
通知の前に保険会社が旧受取人へ保険金を支払ってしまうと,新受取人は保険会社に支払を求めることができず,旧受取人との間で清算を求めることになると考えられる。

(3) 遺留分・特別受益・相続税

死亡保険金請求権は受取人の固有の権利であり,受取人の変更は遺留分減殺の対象となる遺贈又は贈与に当たらないとした最高裁判決がある。
特別受益についても,原則として持戻しの対象ではないが,著しい不公平がある特段の事情があれば民法903条の類推適用により持戻しの対象となる。
相続税では,新受取人が相続人であるか否かにより,非課税限度額の適用の有無が変わる(相続税法3条1項1号,12条1項6号)。

2 本記事の対象と基準日

本記事は,遺言で保険金受取人を変えたい保険契約者,変更後又は変更前の受取人となる人,他の相続人,遺言執行者を読者として想定し,遺言による保険金受取人の変更の要件,通知の方法,相続上の紛争及び税金の扱いを,法令,裁判例及び法務省の立案資料で確認できた範囲で整理したものである。
法令は,令和8年9月17日時点でe-Gov法令検索に掲載されている現行条文を確認した。
遺言執行者が相続財産の目録にこの保険金を記載するかどうかは,姉妹記事の遺言執行者の財産目録で扱う。

第2 保険法の条文
1 保険金受取人の変更の原則(43条・72条)
(1) 保険法43条の条文

保険法43条は,生命保険契約について次のとおり定めている。
1項「保険契約者は、保険事故が発生するまでは、保険金受取人の変更をすることができる。」
2項「保険金受取人の変更は、保険者に対する意思表示によってする。」
3項「前項の意思表示は、その通知が保険者に到達したときは、当該通知を発した時にさかのぼってその効力を生ずる。ただし、その到達前に行われた保険給付の効力を妨げない。」

(2) 変更の権限を持つ者

傷害疾病定額保険契約についての保険法72条も,「保険事故」を「給付事由」とするほかは同じ内容である。
変更する権限を持つのは「保険契約者」であり,被保険者や保険金受取人ではない。

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被保険者の死亡後に支払われる入院給付金・手術給付金は誰のものか―相続財産性,約款の請求者条項,指定代理請求人,相続放棄及び相続税(AI作成)

目次第1 結論と本記事の対象第2 入院給付金等の請求権は誰に帰属するか1 給付事由の発生により被保険者に生じる金銭債権2 死亡保険金との違い3 受取人が被保険者以外の者である場合第3 約款の被保険者死亡時の請求者条項1 日本生命の約款2 第一生命の約款と朝日生命の案内3 請求者・支払先の条項は請求権の帰属を変えるか第4 指定代理請求人は請求権の帰属を変えない1 指定代理請求制度の内容2 被保険者の死亡後の扱い第5 遺産分割と保険会社への請求手続1 金銭債権の当然分割と預貯金債権との区別2 保険会社への請求手続と必要書類第6 相続放棄との関係1 相続放棄をした者は給付金を取得しない2 受領と法定単純承認第7 税金の取扱い1 被保険者が生前に受け取る場合2 被保険者の死亡後に支払われる場合第8 請求期限と遺言執行者の財産目録1 消滅時効2 遺言執行者の財産目録への記載第9 出典1 法令2 裁判例3 国税庁の通達4 保険会社の約款・案内5 公益財団法人の資料
第1 結論と本記事の対象

入院・手術の後,給付金を請求しないまま被保険者が死亡した場合,その給付金は,原則として被保険者の相続財産となる。
給付金の請求権は,入院・手術という給付事由が生じた時点で受取人である被保険者に発生しており,死亡保険金のように受取人が自分の固有の権利として取得するものではないからである(民法896条)。

結論を先に整理すると,次のとおりである。
①被保険者が受取人である入院給付金・手術給付金の請求権は,死亡前の入院・手術によって既に発生していれば,被保険者の相続財産となる。
②大手生命保険会社の約款には,被保険者の死亡後は法定相続人の1人が他の法定相続人を代理して請求すると定めるものがあり,請求の窓口を1人にまとめても,請求権が相続人に帰属することは変わらないと考えられる。
③指定代理請求人は,受取人に代わって請求する代理人にすぎず,給付金を自分のものとして取得する者ではない。
④相続放棄をした者は,この給付金を相続によって取得しない。
相続放棄を検討している者が受け取って使えば,法定単純承認(民法921条1号)が問題になり得る。
⑤被保険者が生前に受け取れば所得税は非課税であるが,死亡後に支払われたものは本来の相続財産として相続税の課税対象となり,死亡保険金の非課税限度額は使えない。
⑥請求権は,保険法及び約款により,行使できる時から3年で時効により消滅する。

本記事は,入院給付金等を受け取らないまま家族が亡くなった相続人,遺言執行者及びこれらから相談を受ける弁護士を対象とし,令和8年9月17日時点の法令,裁判例,国税庁の通達及び保険会社が公開している約款に基づいて整理する。
約款は保険会社・商品・契約時期ごとに異なるため,本記事で引用する約款は例であり,実際の請求では,手元の保険証券に対応する約款を確認することになる。

第2 入院給付金等の請求権は誰に帰属するか
1 給付事由の発生により被保険者に生じる金銭債権
(1) 保険法と約款上の位置付け

医療保険のように,人の傷害疾病に基づき一定の保険給付を行う契約は,保険法上「傷害疾病定額保険契約」に当たる(保険法2条9号)。
保険法は,保険給付を受ける者として契約で定めるものを「保険金受取人」と呼んでおり(同条5号),入院給付金・手術給付金の受取人は,約款で被保険者と定められているのが通常である。
例えば,第一生命の「総合医療一時金保険(無解約返還金)(2021)給付約款」6条2項は,「総合入院給付金の受取人を被保険者(第1項の規定が適用される場合には、保険契約者)以外の者に変更することはできません。」と定めている。

(2) 死亡前の入院・手術による請求権は相続される

入院給付金等の請求権は,約款所定の入院・手術という給付事由が生じた時点で,受取人である被保険者に金銭債権として発生する。
その後,請求しないまま被保険者が死亡した場合,既に発生していた請求権は,民法896条により,相続人が「被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する」対象に含まれる。
高度障害保険金,通院給付金等も,被保険者が受取人とされ,死亡前に支払事由が生じていたのであれば,同じように考えることになる。
国税庁の相続税法基本通達3-7(注)も,死亡を伴わない傷害疾病を保険事故として被保険者に支払われる保険金・給付金が死亡後に支払われた場合,「当該被保険者たる被相続人の本来の相続財産になる」としている。

2 死亡保険金との違い
(1) 受取人固有の権利となる死亡保険金

死亡保険金は,被保険者の死亡によって,契約で指定された受取人が自分の権利として取得する。
最高裁昭和40年2月2日第三小法廷判決(昭和36年(オ)第1028号,民集19巻1号1頁)は,受取人を「被保険者死亡の場合はその相続人」と指定した養老保険について,特段の事情のない限り,保険金請求権は「右相続人たるべき者の固有財産となり、被保険者の遺産より離脱している」とした。
これに対し,入院給付金等は,被保険者本人を受取人として生前に発生した請求権であるから,受取人の固有財産ではなく,被保険者の遺産に属する点で異なる。

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遺言執行者の財産目録には何を載せるか―死亡保険金・入院給付金・死亡退職金・未支給年金と特定財産に関する遺言(AI作成)

目次第1 結論と本記事の対象1 結論2 本記事の対象と基準日第2 遺言執行者の目録作成義務と他の義務との区別1 民法1011条の目録作成・交付義務2 遺言内容の通知義務及び報告義務との違い第3 目録に載せる範囲―相続財産と特定財産に関する遺言1 目録の対象は「相続財産」である2 特定財産に関する遺言では,その財産に限られる3 信託銀行の財産目録と全遺産は一致しないことがある第4 相続財産に当たるもの・当たらないもの1 一覧表2 死亡保険金3 入院給付金・手術給付金4 死亡退職金5 未支給年金と遺族年金6 確定拠出年金(iDeCoを含む)の死亡一時金第5 相続財産に属しないものを「参考」として記載する理由と記載例1 参考欄を設ける理由2 管理処分権が及ぶと誤解させない書き方3 記載例第6 目録の作り方の実務1 基準日と記載事項2 金額未確定の債権と債務の記載3 交付の方法と記録第7 目録が交付されない・内容が不十分な場合の相続人の手段1 報告請求と目録の作成方法の指定2 善管注意義務と解任請求第8 遺言で保険金受取人を変更している場合第9 出典1 法令2 裁判例3 行政機関の通達4 関連記事
第1 結論と本記事の対象
1 結論

遺言執行者が民法1011条1項に基づいて作成・交付する目録の対象は「相続財産」であり,相続人等が保険契約や支給規程に基づいて自己固有の権利として取得するものは,同条の目録に記載すべき財産ではない。
結論を先にまとめると,次のとおりである。
①特定の相続人を受取人とする生命保険の死亡保険金請求権は,受取人の固有の権利であり,相続財産の目録に載せる義務はない。
②被保険者本人が受け取るはずだった入院給付金・手術給付金の請求権は,本人が生前に取得していた権利として相続財産に属し,目録に載せる対象となる。
③死亡退職金,未支給年金,遺族年金及び確定拠出年金(iDeCoを含む)の死亡一時金は,支給規程又は法律が受給者の範囲を定めている限り,相続とは別に受給者が取得するものであり,相続財産の目録に載せる義務はない。
④遺言が相続財産のうち特定の財産に関するものである場合,目録を作成する義務はその財産についてだけ生じる(民法1014条1項)。
⑤相続財産に属しないものでも,相続税申告,特別受益及び遺留分の検討のため,「参考(相続財産に属しないもの)」として区分して記載しておくことは,実務上の工夫として考えられる。

2 本記事の対象と基準日

本記事は,遺言執行者に就いた弁護士,遺言執行者から目録を受け取る相続人及び受遺者を読者として,目録に何を載せ,何を載せないかを条文と最高裁判例に即して説明するものであり,AIを用いて作成した。
法令は令和8年9月17日時点でe-Gov法令検索に掲載されている現行条文により,裁判例は裁判所ウェブサイトで個別ページ及び全文を確認したものに限って用いる。
遺言執行者が指定されている場合に相続人が受ける制約や解任手続の全体像は,遺言執行者が指定されている場合の相続人の注意点で扱っているため,本記事では目録に関係する範囲に絞る。

第2 遺言執行者の目録作成義務と他の義務との区別
1 民法1011条の目録作成・交付義務
(1) 遅滞なく作成して相続人に交付する義務

民法1011条1項は,「遺言執行者は、遅滞なく、相続財産の目録を作成して、相続人に交付しなければならない。」と定めている。
条文は「遅滞なく」とするだけで,何日以内という期限を定めていない。
交付の相手方は条文上「相続人」であるが,包括受遺者は相続人と同一の権利義務を有する(民法990条)ため,包括受遺者にも交付しておくことが考えられる。

(2) 相続人の請求による立会い又は公証人による作成

民法1011条2項は,「遺言執行者は、相続人の請求があるときは、その立会いをもって相続財産の目録を作成し、又は公証人にこれを作成させなければならない。」と定めている。
遺言執行者が単独で作った目録の正確性に相続人が疑問を持つ場合,相続人は,この規定により,立会いの下での作成又は公証人による作成を求めることができる。
東京地裁平成25年2月27日判決(平成23年(ワ)第23673号)は,公証人に調製させた相続財産目録に記載のなかった特許権の共有持分について,遺言執行者がその後これを相続財産と認識した事案で,当初の目録作成時点での義務違反は否定しつつ,公正証書に新たな目録作成を予定する旨の陳述があったことにも照らして,「本件特許権を記載した相続財産目録を新たに作成する義務があったというべき」とした。
ただし,同判決は,遺言執行者としての一般的な義務違反から直ちに不法行為上の義務違反が導かれるものではないとして,遺言執行者に対する損害賠償請求を棄却している。

2 遺言内容の通知義務及び報告義務との違い

目録の交付は,遺言内容の通知や事務処理状況の報告とは根拠条文も内容も異なる。

義務根拠内容時期遺言内容の通知民法1007条2項遺言の内容を相続人に知らせる任務開始後,遅滞なく相続財産の目録の作成・交付民法1011条相続財産の目録を作成して相続人に交付する遅滞なく事務処理状況の報告民法1012条3項・645条請求があれば事務処理の状況を報告し,任務終了後は経過及び結果を報告する請求時及び任務終了後

民法1012条3項は,受任者の善管注意義務(同法644条),報告義務(同法645条),受取物の引渡し等(同法646条),金銭の消費についての責任(同法647条)及び費用償還請求等(同法650条)の規定を遺言執行者に準用している。
目録は執行開始時点の財産の全体を示す書面であるのに対し,報告は執行の途中経過や結果を示すものであるから,目録を交付した後も,払戻しや名義変更の進み具合は報告として別に伝えることになる。

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家事事件の住所・氏名秘匿と非開示希望―DV事件で提出前に確認すべきこと(AI作成)

目次

1 提出後ではなく提出前に確認する
2 四つの方法は目的が異なる
2-1 不要な情報のマスキング
2-2 送達場所等の届出
2-3 住所・氏名等の秘匿制度
2-4 非開示希望
3 住所・氏名等の秘匿申立て
4 非開示希望の対象と限界
5 秘匿決定と非開示希望の違い
6 住所を推知させる情報の例
7 提出前チェックリスト
8 決定後及び関連事件でも管理を続ける
9 不服申立て及び閲覧請求
10 関連記事
11 一次資料その他

1 提出後ではなく提出前に確認する

家事事件で住所、勤務先、通院先、子の学校等を相手方に知られると危険が生じる場合、書面を裁判所へ提出する前に情報管理を検討する必要がある。提出後に秘匿を申し立てても、既に閲覧又は謄写された情報を回収することはできない。
実務上は、①不要な情報を最初から記載しない又はマスキングする、②送達場所等の届出を適切に行う、③住所・氏名等の秘匿制度を申し立てる、④その他の情報について非開示を希望する、という方法を区別して検討する。

2 四つの方法は目的が異なる
2-1 不要な情報のマスキング

証拠又は添付資料に事件の判断に不要な住所、電話番号、勤務先、通院先、学校名、店舗名、位置情報等が含まれる場合、その部分を提出用写しで見えないようにする方法が基本となる。
黒塗りを画像の上に置いただけの電子ファイルは、コピー又は編集により元の文字が読めることがある。紙面及び電子データの双方で復元できない状態かを確認する必要がある。

2-2 送達場所等の届出

現住所と異なる安全な場所へ送達を受けたい場合、送達場所及び送達受取人の届出を検討する。ただし、送達場所を届け出ただけで、記録中の現住所その他の情報が当然に秘匿されるわけではない。

2-3 住所・氏名等の秘匿制度

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離婚訴訟の標準審理モデル―財産分与を含む事件を長期化させない準備(AI作成)

目次

1 東京家裁の審理モデルの位置付け
2 人事訴訟の平均審理期間
3 訴状提出前のチェックポイント
4 第1回口頭弁論期日と段階的な審理
4-1 有責配偶者からの離婚請求
5 財産分与の審理準備
5-1 財産一覧表
5-2 基準時と評価時
5-3 特有財産と混在財産
5-4 不動産、ローン及び退職金
6 子に関する争点と家庭裁判所調査官
7 本人尋問と和解
8 代理人が作成する進行管理表
9 令和6年モデル利用時の注意
10 関連記事
11 一次資料その他

1 東京家裁の審理モデルの位置付け

東京家庭裁判所家事第6部は、令和6年4月26日付けで「東京家裁人訴部における離婚訴訟の審理モデル」を公表した。同モデルは、東京三弁護士会との意見交換を経て、審理の計画性及び質を高め、離婚訴訟の不必要な長期化を防ぐために作成された実務資料である。
ただし、同モデルは法令、最高裁判例又は全国一律の処理基準ではない。東京家裁における一つの審理運営モデルであり、個別事件では担当裁判体の訴訟指揮及び事件の内容に従う。

2 人事訴訟の平均審理期間

最高裁判所事務総局家庭局「家庭裁判所の現状と課題」によれば、令和6年に終局した人事訴訟事件の平均審理期間は14.8か月であった。離婚事件では、財産分与の申立てがある事件が19.2か月、申立てがない事件が12.9か月であった。
平成27年は、財産分与の申立てがある事件が15.5か月、ない事件が10.8か月であり、いずれも長期化している。もっとも、これらは全国の既済事件の平均値であり、個別事件の終結時期を保証するものではない。

最高裁判所事務総局「裁判の迅速化に係る検証に関する報告書(第11回)」(令和7年7月)によれば、財産分与の申立てがある離婚訴訟は、判決で終局した場合の平均審理期間が23.4か月、和解で終局した場合が18.5か月であり、判決の方がおおむね5か月程度長い(同報告書178頁)。
同報告書は、離婚訴訟の既済事件に占める財産分与の申立てがある事件の割合が平成27年の31.7%から令和6年の41.6%に増えていることから、これが人事訴訟全体の平均審理期間を押し上げている原因の一つであると推測している(同報告書182頁)。
他方、親権者を指定すべき子がいる離婚事件といない離婚事件の平均審理期間の差は、1か月に満たない(同報告書179頁)。

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家事調停はどのくらいかかるか―平均審理期間,期日間隔及び代理人ができること(AI作成)

目次

1 家事調停の期間を考える際の結論
2 令和6年の平均審理期間及び平均期日間隔
3 申立てから第1回期日までに行うこと
4 期日と期日の間に代理人が行うこと
5 事件を長期化させやすい事情
6 ウェブ会議と期日間隔
7 平均値を依頼者への説明に使う際の注意
8 調停が成立しない場合の見通し
9 関連記事
10 一次資料その他

1 家事調停の期間を考える際の結論

① 夫婦関係調整調停について、令和6年の全国平均は、平均審理期間が6.8か月、平均期日間隔が1.9か月であった。ただし、これは既済事件の平均値であり、申立てから終局までの標準期限を示すものではない。
② 期日間の約2か月は、単なる待ち時間ではない。必要資料の収集、主張の整理、相手方提案の検討及び次回期日の進行準備に使う期間である。
③ 離婚、婚姻費用、親子交流、財産分与等の争点が重なる事件では、事実関係及び資料を争点ごとに分け、次回期日までの宿題を具体化することが長期化防止につながる。
④ 本記事の数値は、最高裁判所事務総局家庭局「家庭裁判所の現状と課題」(令和7年度実務協議会(冬季)、令和8年2月)の令和6年統計を基礎とする。同文書は裁判所自身の運用認識を示す司法行政資料であるが、法令でも判例でもない。

2 令和6年の平均審理期間及び平均期日間隔

同文書によれば、夫婦関係調整調停の平均審理期間は、平成20年の4.3か月から令和6年の6.8か月へ延びた。また、平均期日間隔は、平成20年の1.4か月から令和6年の1.9か月へ延びた。
平均審理期間は、申立てから成立、不成立、取下げ等による終局までに要した期間の平均である。平均期日間隔は、各期日の間隔を平均したものであり、「必ず2か月おきに指定される」という規則ではない。
実際の期間は、争点の数、当事者の出頭状況、提出資料の量、子に関する調査の要否、裁判所及び代理人の日程、ウェブ会議利用の可否等によって変わる。

最高裁判所事務総局「裁判の迅速化に係る検証に関する報告書(第11回)」(令和7年7月)も、令和6年の統計を分析している。同報告書によれば、夫婦関係調整調停や婚姻費用分担事件を含む婚姻関係事件の平均審理期間は7.0か月、平均期日回数は3.6回、平均期日間隔は1.9か月であった。
同報告書の資料4-2によれば、婚姻関係事件の平均審理期間は、双方に手続代理人がいる事件で9.9か月、申立人側のみに代理人がいる事件で6.4か月、相手方側のみに代理人がいる事件で7.6か月、双方とも本人の事件で4.6か月であり、代理人の付き方によって大きく異なる。
同じ年の遺産分割事件の平均審理期間は12.1か月、子の監護事件は8.3か月であった。

第11回迅速化検証報告書における令和6年の平均審理期間は、次のように整理できる。
夫婦関係調整調停だけの6.8か月と、より広い婚姻関係事件の7.0か月は、対象範囲が異なる数値である。

事件類型平均審理期間対象範囲・出典婚姻関係事件7.0か月夫婦関係調整、婚姻費用分担等。報告書157頁~158頁遺産分割事件12.1か月調停・審判の両手続を経た事件も、通じて1件として計上。152頁~153頁子の監護事件8.3か月養育費、監護者指定、子の引渡し、面会交流等。164頁~165頁

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遺留分の計算で葬儀費用を差し引けるか-遺言・合意・相続税との違い(AI作成)

目次第1 葬儀費用を遺留分の計算から差し引けるか1 通常の葬儀費用は被相続人の債務ではない2 死亡後の預金残高から計算しない第2 遺留分額と遺留分侵害額の計算1 基礎財産の計算2 葬儀費用200万円を差し引いた場合の差額3 遺留分侵害額の計算第3 合意,生前契約又は遺言がある場合1 相続開始後の合意2 被相続人の生前契約3 遺産から葬儀費用を支弁する遺言4 遺言執行費用との区別第4 葬儀費用の負担者と遺留分計算の違い1 費用の最終負担は別の法律問題である2 確認できた費用負担に関する裁判例第5 相続税の葬式費用控除との違い1 相続税法は債務と葬式費用を分けている2 税務上の控除対象となる費用第6 紛争になった場合に確認する資料と期限1 最初に確認する資料2 遺留分侵害額請求の期間制限3 旧法の裁判例を参照する場合第7 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 所管行政機関の解説4 職能団体の会員による解説及びその他の文献5 関連記事
第1 葬儀費用を遺留分の計算から差し引けるか
1 通常の葬儀費用は被相続人の債務ではない

本記事は,令和8年9月15日現在の日本法に基づき,死亡後に遺族が支出した葬儀費用を遺留分の計算へ反映できるかを扱うものである。
通常の葬儀費用については,被相続人が死亡時に負担していた債務として,遺留分の基礎財産から当然に控除することはできないと考えられる。

民法1043条1項は,相続開始時の財産に一定の贈与を加え,債務の全額を控除して遺留分の基礎財産を算定する仕組みを定めている。
相続は死亡によって開始し,相続人は被相続人の権利義務を承継するため,ここで確認すべき債務は,被相続人が死亡時に負っていた債務である(民法882条,896条及び1043条)。

遺族が死亡後に葬儀社と契約して負担した費用は,この意味での被相続人の債務とは区別される。
ただし,生前契約,関係者の合意又は遺言による支弁の指定がある場合には,後記第3のとおり別の検討が必要となる。

2 死亡後の預金残高から計算しない

死亡時に4000万円の預金があった場合,その後に葬儀費用200万円を払い出して残高が3800万円になっても,死亡時の財産額が当然に3800万円へ変わるわけではない。
遺留分の基礎財産は相続開始時を基準にするため,死亡後の口座残高だけから計算することはできない。

預金からの出金が認められるか,葬儀費用を最終的に誰が負担するか,その費用を当事者間で精算できるかは,遺留分の基礎財産とは分けて判断する問題である。
被相続人の債務一般の計算と主張立証については,遺留分侵害額請求の基礎財産から控除される「被相続人の債務」の効果的な主張立証方法(AI作成)で説明している。

第2 遺留分額と遺留分侵害額の計算
1 基礎財産の計算

遺留分の基礎財産は,「相続開始時の財産+算入対象となる贈与-被相続人の債務」によって求める(民法1043条1項)。
贈与の算入には期間等の制限があるため,死亡時の積極財産だけを確認して計算が完了するわけではない(民法1044条)。

基礎財産に総体的遺留分率と遺留分権利者の法定相続分を乗じると,その者の遺留分額が求められる(民法1042条)。
直系尊属だけが相続人である場合の総体的遺留分率は3分の1であり,それ以外の場合は2分の1である。

2 葬儀費用200万円を差し引いた場合の差額

死亡時の財産が4000万円で,被相続人の債務及び算入対象となる贈与がなく,相続人が子2人だけであるとする。
一方の子が遺言によって全財産を取得し,他方の子に遺贈,贈与その他の受益がなく,葬儀費用の控除を認める特別の事情もない場合,財産を取得しない子の遺留分割合は4分の1である。

葬儀費用を差し引かない計算は4000万円×4分の1=1000万円であり,200万円を差し引く計算は3800万円×4分の1=950万円である。
この設例における遺留分額の差は50万円であり,葬儀費用200万円がそのまま遺留分の請求額から控除されるわけではない。

3 遺留分侵害額の計算

実際の遺留分侵害額は,遺留分額から,請求する者が受けた遺贈又は一定の贈与及び遺産分割で取得すべき遺産の価額を控除し,その者が承継する被相続人の債務を加算して求める(民法1046条2項)。
基礎財産を求める段階の債務控除と,個別の侵害額を求める段階の債務加算を分ける必要がある。

死亡後の葬儀費用を支払った事実だけでは,その費用が民法1046条2項3号の加算対象になるわけではない。
費用負担に関する別の請求権が成立する場合も,遺留分の法定計算へ組み込むのか,最終的な支払額を別途精算するのかを区別することになる。

(続きを読む...)遺留分の計算で葬儀費用を差し引けるか-遺言・合意・相続税との違い(AI作成)

資産額と「実際に払える額」は違う-和解・財産分与・代償分割の支払能力チェック(AI作成)

第1 資産額と支払能力は同じではない

1 この記事が扱う場面
2 六つの確認軸

第2 資産別に「実際に使える額」を確認する

1 預貯金
2 上場株式・投資信託その他の金融資産
3 不動産
4 保険、退職金、事業及び法人関係財産

第3 収入と一括払いの原資を分ける

1 高収入でも一括払いできるとは限らない
2 分割払いは各月の資金繰りを確認する

第4 手続ごとの確認事項

1 民事訴訟上の和解
2 離婚に伴う財産分与
3 遺産分割における代償分割

第5 支払能力を裏付ける資料

(続きを読む...)資産額と「実際に払える額」は違う-和解・財産分与・代償分割の支払能力チェック(AI作成)

資産額と「実際に払える額」は違う-和解・財産分与・代償分割の支払能力チェック(AI作成)

第1 資産額と支払能力は同じではない1 この記事が扱う場面2 六つの確認軸第2 資産別に「実際に使える額」を確認する1 預貯金2 上場株式・投資信託その他の金融資産3 不動産4 保険、退職金、事業及び法人関係財産第3 収入と一括払いの原資を分ける1 高収入でも一括払いできるとは限らない2 分割払いは各月の資金繰りを確認する第4 手続ごとの確認事項1 民事訴訟上の和解2 離婚に伴う財産分与3 遺産分割における代償分割第5 支払能力を裏付ける資料1 支払う側が準備する資料2 受け取る側が確認する事項第6 合意・条項で不履行に備える1 担保と保証2 免除・清算・保全処分の時期3 不履行時の効果第7 開示は目的・相手・時期・範囲を設計する第8 支払能力の最終チェックリスト第9 関連記事第10 出典・参考資料1 法令2 裁判所・法務省の資料3 裁判例
第1 資産額と支払能力は同じではない
1 この記事が扱う場面

訴訟上の和解、離婚に伴う財産分与及び遺産分割における代償分割では、「相手には資産があるから支払える」「年収が高いから一括払いできる」と考えてしまうことがある。
しかし、保有資産の名目額と、合意した期限までに現実に支払へ充てられる額は一致しない。

本記事は、令和8年9月15日現在の法令及び公的資料を基準に、支払能力を、①名目額、②時価、③換価可能性、④所有・処分権限、⑤負担控除後の正味額、⑥支払期限までの資金化という六つの観点から確認する方法を整理する。
個別事件の相当な支払額又は分与額を示すものではない。

2 六つの確認軸

第1は、資料に記載された名目額である。
預貯金残高、証券口座の評価額、固定資産評価額、保険の解約返戻金見込額などは、同じ「金額」でも基準日と意味が異なる。

第2は、現在の時価である。
不動産の固定資産評価額や取得価格は、現在の売却価格と同じではない。
上場株式等も日々価格が変動する。

第3は、必要な時期までに換価できるかである。
資産価値があっても、売却、解約、融資又は名義変更に時間がかかれば、直近の支払期限には使えない。

第4は、誰が所有し、誰が処分を決められるかである。
法人の預金は代表者個人の預金ではなく、共有財産は一人の判断だけで処分できないことがある。

第5は、担保債務、税金、売却費用その他の負担を控除した正味額である。
総資産が大きくても、これらを控除すると支払原資が小さくなることがある。

第6は、支払う意思と手続を具体化できるかである。
支払口座、換価手続、融資申込み、社内決裁等が決まっていなければ、「支払える」という説明だけで期限どおりの履行を見込むことはできない。

第2 資産別に「実際に使える額」を確認する
1 預貯金

預貯金は流動性が高いが、残高証明書又は通帳の一時点の残高だけでは足りないことがある。
既に支払が予定されている税金、給与、買掛金、生活費、借入返済等を確認し、口座名義、基準日、差押え又は担保の有無も確認する。

事業用口座と生活用口座が混在している場合は、残高全額を自由に使える個人資産として扱わず、入出金の性質を分ける必要がある。

2 上場株式・投資信託その他の金融資産

金融資産については、評価額だけでなく、取得価額、含み損益、売却手数料、税金、受渡日、担保設定及び出金制限を確認する。
NISA口座であることは非課税投資枠の取扱いに関係するが、売却後の資金をいつ出金できるかは金融機関の手続にも左右される。

証券口座の残高増加を検討するときは、値上がり益だけでなく、入金、移管、配当再投資及び為替変動を分ける必要がある。

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給与収入が低くても金融資産が多い場合の婚姻費用・養育費-配当・売却益・含み益・元本の扱い(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論1 対象と調査基準日2 金融資産を算定へ反映する基本的な考え方第2 算定表と資産の関係1 算定表の出発点は双方の年収である2 婚姻費用では民法が資産を明示している3 資産と収入を分けて主張する第3 配当・利息・投資信託の分配金1 継続する株式配当2 特有財産から生じた収益3 利息及び投資信託の分配金第4 株式等の実現益と含み益1 売却代金と売却益を区別する2 一時的な実現益3 反復継続する売買益4 未実現の含み益第5 金融資産の元本と本来得られる収入1 元本取崩しの原則と例外2 受給できるのに受給していない収入3 一人会社の内部留保と私的支出4 金融資産を考慮する三つの段階第6 婚姻費用と養育費で同じ結論になるとは限らない1 共通する出発点2 婚姻費用における資産3 養育費における資産第7 資料収集と主張の組み立て1 まず集める資料2 複数年の集計と二重評価の防止3 相手方が保有する資料の取得4 主張の順序と追加調査の停止基準第8 関連する山中弁護士ブログの記事1 算定表及び高額所得者2 算定結果が不自然な場合3 変動収入・投資信託分配金・非給与所得の換算4 一人会社の役員報酬・貸付金と非課税世帯第9 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 裁判所の司法研究及び説明資料4 法務省委託の調査研究報告書5 投資信託の分配金に関する公表資料
第1 この記事の対象と結論
1 対象と調査基準日
(1) 低所得・高資産の事案

本記事は,給与収入は低いものの,多額の株式,投資信託,債券又は預貯金を有する当事者について,婚姻費用又は養育費を算定するときに何を収入として扱うかを説明するものである。
金融資産から生じる配当・利息,売却によって確定した利益,売却前の含み益及び金融資産の元本は,それぞれ性質が異なるため,分けて検討する必要がある。

(2) 高額所得者の記事との違い

本記事の調査基準日は令和8年9月14日であり,同日現在の法令,裁判所公表資料及び確認できた裁判例を対象としている。
現実の年間収入が算定表の上限を超える場合は「高額所得者の婚姻費用(AI作成)」及び「養育費算定表の上限を超える高額所得者の計算方法-年収2000万円超の裁判例と実務(AI作成)」が扱う問題であり,本記事の低所得・高資産の問題とは区別される。

2 金融資産を算定へ反映する基本的な考え方
(1) 収入となるもの

現実に反復継続して受け取る配当は,算定の基礎となる収入へ含められることがある。
株式等の売却益は,売却代金全額ではなく,取得費及び手数料等を踏まえた損益を確認した上で,一時的な資産処分か,給与に代わる継続的な収益かを検討することになる。

(2) 直ちに年収とならないもの

含み益は売却前の評価差額であり,金融資産の元本は配当等を生み出す資産そのものであるから,いずれも配当と同じ意味での年間収入ではない。
本記事で確認した裁判例及び裁判所公表資料には,金融資産の時価へ一定の期待利回り又は取崩率を掛け,その金額を一律に年収とする標準的な算定式は示されていない。

第2 算定表と資産の関係
1 算定表の出発点は双方の年収である

裁判所の「養育費・婚姻費用算定表について(説明)」によれば,算定表は,縦軸を義務者の年収,横軸を権利者の年収とし,子の人数及び年齢等に応じた標準額を示すものである。
給与所得者については源泉徴収票の「支払金額」を,自営業者については確定申告書の「課税される所得金額」に実際には支出されていない控除等を加えた額を,それぞれ年収認定の出発点としている。

源泉徴収票又は所得証明書だけでは,申告不要又は非課税の配当,証券口座内で受け取った分配金及び株式等の譲渡損益を把握できないことがある。
金融資産が問題となる事案では,税務書類に加えて証券会社の資料及び生活口座への入出金を確認する必要がある。

2 婚姻費用では民法が資産を明示している

民法760条は,夫婦が「その資産,収入その他一切の事情を考慮して」婚姻から生ずる費用を分担すると定めている。
したがって,婚姻費用では資産も考慮事情となるが,この条文から資産時価の一定割合を算定表の年収欄へ入力する計算方法が当然に導かれるわけではない。

3 資産と収入を分けて主張する

金融資産に関する主張は,①通常の年間収入となる配当・利息,②継続性の評価を要する実現益,③未実現の含み益,④元本,⑤本来受け取ることができる収入の順に分けると,争点を明確にできる。
資産を保有しているという一事だけで年収を決めるのではなく,どの金額がいつ現金化され,生活費へ充てられていたかを示す必要がある。

第3 配当・利息・投資信託の分配金
1 継続する株式配当

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婚前の株式・投資信託・NISAと財産分与――値上がり,配当,再投資,混在及び立証(AI作成)

婚前から保有していた株式・投資信託を結婚後も持ち続けた場合や,NISA口座で買い増し・配当再投資をした場合,離婚時の財産分与では何が対象になるのでしょうか。

結論からいえば,NISA口座に入っているかどうかだけでは決まりません。銘柄又は取引単位ごとに,①いつ取得したか,②原資は何か,③婚姻中に夫婦の協力による取得・維持・増加があったか,④婚前部分を客観資料で追跡できるかを確認する必要があります。

本記事は,上場株式,公募投資信託及びNISAを中心に,値上がり,配当・分配金,再投資,口座移管及び婚前・婚姻後資金の混在を整理したものです。非上場の自社株式については「経営者の離婚と自社株式の財産分与」を参照してください。

目次

結論――NISAではなく取得時期・原資・寄与・立証で考える
財産分与の法的枠組み
婚前株式・投資信託の値上がり
配当・分配金・再投資とNISA
混在,移管及び口座変更
裁判例からみる特有財産の立証
依頼者から集める資料
主張立証と計算表の作り方
婚姻費用との違い
関連記事
出典と確認範囲

第1 結論――NISAではなく取得時期・原資・寄与・立証で考える

1 判断の順序

株式等の財産分与では,口座の名義又は税制上の区分から結論を出すのではなく,次の順序で確認するのが安全です。

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証券口座の残高増加をどう検証するか-入出金・運用損益・為替・税を分ける財産分与・相続実務(AI作成)

目次第1 証券口座の残高増加について最初に確認すること1 期首残高と期末残高の差額は運用益とは限らない2 残高増加から直ちに推認できない事項第2 残高増加を構成要素に分ける1 基本となる考え方2 収益と資金移動を区別する3 総資産と純資産を区別する第3 最初に収集する資料1 基準日の残高資料2 取引及び入出金を示す資料3 口座外の資料第4 取引を復元する手順1 対象範囲と基準を固定する2 キャッシュフロー台帳を作る3 取引の連続性を確認する第5 収益率を使う場合の注意点1 入出金がなければ年率換算できる2 時間加重収益率3 金額加重収益率第6 財産分与における使い方1 基準時残高と評価時を区別する2 特有財産の原資を追跡する第7 相続及び使途不明金調査における使い方1 死亡日前後の取引を分ける2 説明できない差額を直ちに責任額としない第8 実務チェックリスト1 資料取得時2 計算及び評価時第9 出典1 運用成果の測定2 裁判所及び税務資料
第1 証券口座の残高増加について最初に確認すること
1 期首残高と期末残高の差額は運用益とは限らない

証券口座の残高が短期間に大きく増えていても,その増加額の全部が値上がり益又は運用成果であるとは限らない。
給与等からの追加入金,他の証券口座からの移管,配当等の再投資,借入金による買付け及び為替変動が残高を増加させる一方,出金,手数料及び税金は残高を減少させる。

したがって,財産分与,相続,使途不明金又は資産形成の経過を検討するときは,期首残高と期末残高だけでなく,その間の外部入出金及び取引を日付ごとに復元する必要がある。

2 残高増加から直ちに推認できない事項

現在残高だけから,①本人が高い運用能力を有していたこと,②夫婦共同財産から拠出された金額,③婚前財産又は相続財産が維持されている範囲,④第三者による使込み又は資産隠匿,⑤税引後の実現利益を確定することはできない。

口座残高は調査の出発点であり,法的評価又は責任の結論ではない。
残高の増減と,入出金の権限,資金の出所,取引時の意思能力及び対価の帰属は,それぞれ別に確認する必要がある。

第2 残高増加を構成要素に分ける
1 基本となる考え方

検証の基本は,期末純資産額を,①期首純資産額,②外部からの純入金額,③運用損益に分けることである。
概念上は,「期末純資産額-期首純資産額-外部純入金額」が,その期間の運用損益に対応する。

もっとも,この単純式を正確に使うためには,評価日時,外貨換算レート,未収配当,未払手数料,信用取引その他の負債及び口座間移管を同じ基準でそろえなければならない。
口座間の振替を外部入金と誤認すると,運用損益も財産の出所も二重に計上される。

2 収益と資金移動を区別する

運用損益には,売却済みの実現損益だけでなく,保有中の株式・投資信託等の評価損益,受領した配当・分配金及び為替差損益が含まれ得る。
どの範囲を収益に含めたかを明示しなければ,異なる資料の数字を比較することはできない。

外部入出金には,預金口座からの入金,預金口座への出金,現物株式等の入出庫及び他社口座との移管を含める。
入出庫された有価証券は,移管日の時価と取得価額のいずれを使ったかを区別し,資産総額の復元と税務上の取得費の検討を混同しないようにする。

財産調査のための円換算評価額と,所得税の所得計算で認識する損益は別である。
外貨を円へ換えていないことだけで,課税上の損益がすべて未実現であるとは判断できない。反対に,基準日の円換算残高が増えたことだけで,その増加額の全部を課税所得とすることもできない。

国税庁の質疑応答事例は,米ドル建預金の元本を同じ米ドルのまま別の銀行へ移す設例について,外貨の保有状態に実質的な変化がなく,その移動による為替差損益を認識しないとしている。
一方,別通貨への交換又は外貨を対価とする資産購入は,同一通貨の預金元本の移動と同じ扱いにせず,外貨の取得経過と取引内容を個別に確認する必要がある。預金利息の受領も元本移動とは区別する。

外国株式の売却に関する国税庁の質疑応答事例では,株式の保有期間中の為替相場変動による損益は円換算した株式譲渡損益に含まれ,別途,雑所得として計上する必要はないとされている。
株式購入に使用した外貨の購入前の値上がりと,株式購入後の保有期間中の為替変動は,発生した期間と対象資産が違う。株式譲渡損益に含めた同じ為替変動を,重ねて雑所得へ計上しない。

3 総資産と純資産を区別する

信用取引,証券担保ローンその他の借入れがある場合,保有有価証券の時価合計である総資産と,負債を差し引いた純資産は一致しない。
運用規模を示す総資産の増加を,そのまま本人に帰属する財産の増加と扱ってはならない。

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令和7年4月全国統一書式による後見等事務報告書・報酬付与申立事情説明書の書き方(AI作成)

第1 この記事の対象と結論
第2 令和7年4月の全国統一書式

1 全国で内容が統一された書式
2 各家庭裁判所の追加書式等は残る

第3 後見等事務報告書の書き方

1 報告書の目的
2 本人の心身・生活状況及び支援者
3 ①から㉑までの事務
4 本人の意思確認及び面談等
5 本人の財産状況と本人以外の人のための支出
6 後見人等自身に関する事項
7 大阪家裁後見センターが指摘する記載の課題(第51回)

第4 報酬付与申立事情説明書の書き方

1 報酬を求める期間等
2 考慮してもらいたい事情の有無
3 事務ごとに別紙を作成する

第5 事情説明書別紙に書く六つの事項

1 事務内容及び現在の状況

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親が負担した建築資金は金銭贈与か建物贈与か―特別受益の認定・評価・証拠(AI作成)

目次第1 結論及び本記事の対象第2 贈与対象の認定を評価より先に行う1 特別受益に当たるための入口2 金銭又は代金債務の弁済による利益の贈与となる場合3 建物又は建物持分の贈与となる場合4 債務免除,持分及び使用利益を混同しない5 新築と増築・改築・リフォームを分ける第3 東京高裁令和6年12月18日決定1 判例秘書による一次資料確認の状況2 不動産そのものではなく購入資金の贈与としたこと3 資金の流れを認定した証拠4 消費者物価指数による換算第4 金銭贈与の評価1 相続開始時の貨幣価値への換算2 建物の老朽化を金銭贈与へ持ち込まない第5 建物贈与の評価1 相続開始時の客観的価値2 親が建築後に建物を贈与した裁判例3 民法904条と受益者による状態変更4 相続税評価額と民事上の評価額は目的が違う第6 認定及び評価に用いる証拠1 契約及び所有帰属に関する資料2 資金の流れに関する資料3 贈与又は貸付けの意思に関する資料第7 遺産分割及び遺留分との関係1 遺産分割における具体的相続分2 遺留分算定における贈与第8 受任時の確認手順1 認定表を先に作成する2 主張書面と証拠説明書を対応させる第9 まとめ第10 出典・参考資料1 法令及び公的資料2 裁判例3 関連記事
第1 結論及び本記事の対象

親が子の住宅の建築代金又は購入代金を負担した場合,特別受益の額を計算する前に,何が誰から誰へ贈与されたのかを認定する必要がある。
子が契約当事者となって住宅を取得し,親が代金を援助したのであれば,通常は金銭又は代金債務の弁済による利益が贈与対象となる。
これに対し,親が取得した建物を後に子へ贈与したのであれば,贈与対象は建物である。

両者は評価対象が違うため,贈与時に同額の支出がされていても,相続開始時に持ち戻す特別受益額が異なり得る。
親から施工業者へ直接送金されたという一事だけで,金銭贈与又は建物贈与のいずれかに決まるものではない。

本記事は,民法903条及び904条による遺産分割上の特別受益を中心に,遺留分算定への影響,東京高等裁判所令和6年12月18日決定及び実務で確認すべき証拠を整理する。
個別事件では,給付の法的性質,持戻し免除の意思表示,評価方法及び期間制限を別々に検討する必要がある。

第2 贈与対象の認定を評価より先に行う
1 特別受益に当たるための入口

民法903条1項は,共同相続人の中に,被相続人から遺贈を受け,又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者がある場合の具体的相続分を定めている。
住宅の取得又は建築のための多額の援助は「生計の資本」と評価されることが多いが,金額,被相続人の資力,援助の目的,通常の扶養の範囲,他の相続人への援助及び返済合意の有無を確認しなければならない。

贈与ではなく貸付けであれば特別受益ではない。
返済期限,利息,返済実績,催告,借用書及び会計・税務処理の有無は,贈与か貸付けかを区別する資料となる。

2 金銭又は代金債務の弁済による利益の贈与となる場合

子が建築請負契約又は売買契約の当事者であり,子が建物又は不動産を取得する一方,親が子へ資金を渡し,又は子に代わって施工業者若しくは売主へ代金を支払った場合は,金銭又は代金債務の弁済による利益が贈与されたと認定されることがある。

この場合,取得した住宅の現在価値ではなく,贈与された金銭等を相続開始時の貨幣価値に換算することが出発点となる。
もっとも,親自身の持分取得に対応する支払,共同住宅の親使用部分に対応する負担又は親に対する反対給付があるときは,支払全額が子への贈与になるとは限らない。

3 建物又は建物持分の贈与となる場合

親が注文者又は買主となって建物を取得し,その後,子へ建物又は建物持分を贈与した場合は,贈与対象は建物又はその持分となる。
この場合,特別受益として評価するのは,原則として贈与時の建築費そのものではなく,相続開始時における贈与対象の客観的な交換価値である。

登記が子名義であることは重要な資料であるが,建物取得の経緯,契約当事者,代金負担,完成時の所有帰属及び引渡しを含む事情を総合して判断する必要がある。
土地と建物の名義又は負担者が異なる場合は,建物だけでなく,敷地利用権,土地持分の贈与又は使用利益も切り分けて検討する。

親が建築計画を主導し,又は建築費の一部を負担したとしても,それだけで親が完成建物を取得したことにはならない。
東京地裁平成29年1月13日判決(平成27年(ワ)第21869号,判例秘書L07232077,裁判所HP未掲載)は,父が当初の建築計画を主導し,一部費用も負担したものの,融資及び建築名義等を子へ切り替えた事案で,建物が当然に父の所有となるものではないとした一方,父が負担した設計料等は別個の特別受益となり得るとした。

したがって,「親が建てた建物」という表現から直ちに建物贈与と分類せず,建築請負契約の注文者,代金債務者,融資の債務者,建築確認上の建築主,引渡しを受けた者,完成時の登記名義人及び各当事者の出捐を区別して,完成時の所有帰属を認定する必要がある。

4 債務免除,持分及び使用利益を混同しない

親がいったん子へ住宅資金を貸し付け,後に返済を免除したのであれば,問題となる給付は当初の貸付金ではなく,免除時の債権又は免除による利益である可能性がある。
また,二世帯住宅では,親子それぞれの建物持分,建築費の負担,土地の使用利益及び親に対する生活支援等が併存し得るため,単純な床面積比又は負担額の差だけで贈与額を決めるべきではない。

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配当・年金・投資利益を婚姻費用・養育費の給与年収へ換算する方法-職業費の二重控除を防ぐ(AI作成)

目次第1 非給与所得を換算する必要がある理由1 算定表の給与欄と自営業欄は同じ金額を意味しない2 換算は所得の実質をそろえる作業である第2 令和元年版標準算定方式の構造1 基礎収入2 職業費3 税引前額を出発点とする第3 株式配当を給与収入へ換算した裁判例1 東京家庭裁判所令和元年9月6日審判2 具体的な計算式3 保有株数減少後の換算4 特有財産からの配当第4 給与を事業所得型へ換算して合算した裁判例1 福岡家庭裁判所令和4年9月13日審判2 具体的な計算式3 この方法の意味第5 三つの換算方法1 非給与所得を給与収入へ換算する方法2 給与を事業所得型へ換算する方法3 所得類型ごとに基礎収入を計算して合算する方法第6 所得別の注意点1 株式配当2 投資信託の分配金3 年金4 不動産所得5 証券売買益及び暗号資産所得第7 換算で生じやすい誤り1 税引後入金額をそのまま使う2 すべてを給与額へ単純加算する3 事業所得から職業費を二重控除する4 古い裁判例の係数をそのまま使う第8 計算書の作り方1 所得ごとの台帳2 複数案を示す場合3 端数処理第9 提出資料1 給与及び年金2 配当及び投資利益3 事業及び不動産第10 関連する山中弁護士ブログの記事1 算定表及び給与収入2 金融資産及び事業所得第11 出典・参考資料1 裁判所公表資料2 裁判例
第1 非給与所得を換算する必要がある理由
1 算定表の給与欄と自営業欄は同じ金額を意味しない
(1) 対象と調査基準日

本記事は令和8年9月14日を調査基準日とし,令和元年版の標準算定方式及び判例秘書で全文確認した裁判例を基礎として,給与,配当,年金及び投資利益を同じ算定で扱う場合の換算方法を説明する。
裁判例が用いた係数の再現と,別の年収帯又は事案へ応用するときの限界を区別する。

(2) 給与欄へ単純加算する問題

婚姻費用及び養育費の算定表には,給与所得者の年収目盛りと自営業者の年収目盛りがある。
給与収入には通常,勤務のための被服費,交通費,交際費等の職業費が必要であるのに対し,株式配当,預金利息又は年金の受給には同じ意味での職業費を要しない。
このため,給与収入と配当等を額面のまま足し,合計額を給与年収欄へ入れると,配当等からも給与所得者の職業費相当額を控除する結果となることがある。
反対に,必要経費を控除する前の売上高を自営業収入へ加えると,実際の支払能力を過大に認定することになる。

2 換算は所得の実質をそろえる作業である

換算の目的は,税務上の所得区分を変更することではなく,異なる所得から生活費へ回すことのできる基礎収入を同じ物差しで比較することにある。
給与所得,事業所得,配当,年金及び投資利益のどれについても,公租公課,職業費及び特別経費をどの段階で控除済みかを確認する必要がある。
本記事で示す裁判例の係数は,各決定時の算定方式及び当該年収帯に基づくものである。
別の年収帯又は令和元年版算定表へ係数だけを機械的に移植することは適切ではない。

第2 令和元年版標準算定方式の構造
1 基礎収入

基礎収入は,総収入から公租公課,職業費及び特別経費に相当する標準的な割合を控除し,生活費へ配分できる部分として推計される金額である。
令和元年版の基礎収入割合は,給与所得者について総収入の38%から54%,自営業者について48%から61%であり,収入帯によって異なる。
給与所得者と自営業者の割合が異なるのは,確定申告上の事業所得では一定の必要経費が既に控除されている一方,給与の支払金額からは職業費が控除されていないことなどによる。

2 職業費

職業費とは,給与所得者が就労のために通常必要とする被服費,交通費,通信費,交際費等を統計的に推計したものである。
当事者が現実に同額を支出したことを前提とする実額控除ではない。
配当又は年金に給与所得者と同じ職業費は通常必要ない。
したがって,これらを給与収入相当額へ換算するときは,職業費が不要であることを反映する必要がある。

3 税引前額を出発点とする

配当又は利息が源泉徴収されている場合,預金又は証券口座への入金額は税引後額である。
算定表の給与年収が所得税等を控除する前の支払金額を用いることとの整合上,原則として税引前の配当又は利息額を確認する。
年間取引報告書,配当金計算書又は支払通知書により,税引前額,源泉徴収税額及び実受取額を分ける。

(続きを読む...)配当・年金・投資利益を婚姻費用・養育費の給与年収へ換算する方法-職業費の二重控除を防ぐ(AI作成)

投資信託の普通分配金・特別分配金は婚姻費用・養育費の収入になるか-元本払戻金と二重計上(AI作成)

目次第1 投資信託の分配金に関する結論1 普通分配金と特別分配金を分ける2 同じ分配金でも投資家ごとに区分が異なる第2 普通分配金と元本払戻金の仕組み1 普通分配金2 元本払戻金(特別分配金)3 個別元本が変動する場合第3 国税庁及び資産運用業協会の説明1 国税庁の取扱い2 資産運用業協会の説明第4 普通分配金と特別分配金を扱った裁判例1 東京高等裁判所平成27年1月26日判決2 家事事件への射程3 家事事件の直接裁判例の確認状況第5 婚姻費用・養育費での具体的な処理1 普通分配金を収入へ算入する場合2 元本払戻金を所得へ算入しない場合3 元本取崩しとして別枠で考慮する場合第6 再投資型及び分配金なし型の投資信託1 普通分配金を再投資した場合2 分配金なし型の含み益第7 上場投資信託等との違い1 すべての商品に同じ区分があるわけではない2 外国投資信託及び外貨建て商品第8 必要資料1 最低限確認する資料2 一覧表の作り方第9 主張書面での整理1 普通分配金を算入する側2 元本払戻金であると反論する側3 共通する注意第10 関連する山中弁護士ブログの記事1 金融資産全体の扱い2 算定表への換算第11 出典・参考資料1 所管行政機関及び業界団体の資料2 裁判例
第1 投資信託の分配金に関する結論
1 普通分配金と特別分配金を分ける
(1) 対象と調査基準日

本記事は令和8年9月14日を調査基準日とし,追加型株式投資信託の普通分配金及び元本払戻金(特別分配金)を婚姻費用・養育費で区別する方法を扱う。
商品性及び税務上の区分は国税庁及び資産運用業協会の公表資料で確認し,家事事件への接続は判例秘書で確認した裁判例の射程を超えない範囲に限定する。

(2) 分配金の算定上の区分

投資信託の分配金には,課税対象となる普通分配金と,元本の一部払戻しに相当する元本払戻金(特別分配金)がある。
婚姻費用又は養育費では,分配金の受取総額をそのまま年間収入とせず,分配金計算書により両者を区別する必要がある。
普通分配金は,現実に受領し,今後も反復継続すると見込まれる場合,配当又は利息に近い非稼働所得として収入算入を検討する。
元本払戻金は投資元本の返還であるから,原則として年間所得へ機械的に加算せず,資産の取崩しとして別に検討する。

2 同じ分配金でも投資家ごとに区分が異なる

普通分配金と元本払戻金の区分は,ファンド全体で一律に決まるものではない。
同じファンドから同じ日に同じ金額の分配を受けても,投資家ごとの購入価額である個別元本が異なれば,ある投資家には全額が普通分配金となり,別の投資家には一部又は全部が元本払戻金となることがある。
商品名,分配率又は運用報告書だけでは個人の区分を確定できない。
販売会社が発行する分配金計算書及び個別元本の記録を確認する必要がある。

第2 普通分配金と元本払戻金の仕組み
1 普通分配金

追加型株式投資信託について,分配後の基準価額が投資家の個別元本を下回らない部分は,原則として普通分配金となる。
普通分配金は税法上課税対象とされ,株式投資信託では配当所得として扱われるのが通常である。
普通分配金を現金で受け取らず,自動再投資した場合でも,いったん普通分配金を受領した上で再投資したものとして課税される。
したがって,生活口座への現金入金がないという理由だけで,普通分配金の発生を見落とさないようにする。

2 元本払戻金(特別分配金)

分配後の基準価額が投資家の個別元本を下回る部分に対応する分配は,元本払戻金となる。
これは投資元本の一部返還であるため非課税とされ,受領後の個別元本は元本払戻金相当額だけ減額される。
元本払戻金を再投資する場合も,経済的には元本の一部払戻しを受けた後に新たな口数を購入することになる。
再投資したという事情によって,元本払戻金が収益へ変わるわけではない。

3 個別元本が変動する場合

同じ投資信託を異なる価格で追加購入した場合,個別元本は原則として移動平均により修正される。
相続,贈与,特別分配又は口座移管がある場合も,販売会社の記録上の個別元本を確認する必要がある。

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変動する収入を婚姻費用・養育費で何年平均するか-歩合給・事業所得・証券売買益・暗号資産(AI作成)

目次第1 変動収入の平均期間に関する結論1 3年平均又は5年平均という一律のルールはない2 通常の確認順序第2 算定表が前提とする年間収入1 算定表は双方の総収入を出発点とする2 過去の実績と将来予測を区別する第3 期間選択の参考となる裁判例1 反復する暗号資産取引益を算入した審判2 構造変化後の資料から年額を推計した審判3 一時的な株式売却を収入から除外した決定4 現在の保有株数から将来配当を推計した審判第4 平均期間の選び方1 単年度を用いる場合2 3年平均を主位的試算とする場合3 5年平均を併記する場合4 中央値を併記する場合第5 所得類型ごとの調整後年間収入1 給与及び賞与2 事業所得3 証券売買益4 暗号資産取引益第6 具体的な計算方法1 単純平均2 現在の元本規模による補助試算3 感応度表を作る第7 給与収入と変動所得を合算する際の注意1 総収入を単純加算できない場合がある2 同じ利益を二重に評価しない第8 提出資料と主張の組み立て1 共通資料2 高い収入を主張する側3 低い収入を主張する側第9 関連する山中弁護士ブログの記事1 算定表及び給与年収2 金融資産及び事業所得第10 出典・参考資料1 裁判所公表資料2 裁判例
第1 変動収入の平均期間に関する結論
1 3年平均又は5年平均という一律のルールはない
(1) 対象と調査基準日

本記事は令和8年9月14日を調査基準日とし,令和元年版の標準算定方式及び判例秘書で全文確認した裁判例を基礎として,変動収入から現在及び近い将来の年間収入を推計する方法を扱う。
税務上の所得計算そのものではなく,婚姻費用又は養育費の算定に用いる収入期間の選択を対象とする。

(2) 固定的な平均期間の不存在

婚姻費用及び養育費は,父母又は夫婦の現在及び近い将来の収入を基礎として定めるものである。
歩合給,賞与,事業所得,証券売買益又は暗号資産取引益の変動が大きい場合でも,常に過去3年又は5年の平均を採用するという法令又は裁判例上の一律のルールはない。
複数年平均は,単年度の例外的な増減をならし,今後の支払能力を推計するための方法である。
したがって,何年分を使うかは,過去の収入が現在の就労状況,事業規模又は投資規模と同質であるかを確認して決める必要がある。

2 通常の確認順序

まず,直近1年の収入が通常年を代表しているかを確認する。
一時的な賞与,臨時受注,保有資産の一括売却又は相場の急騰等が含まれるときは,直近3年の推移を確認し,必要に応じて5年平均及び中央値も併記する。
他方,転職,退職,休職,事業廃止,投資元本の大幅な増減その他の構造変化がある場合は,古い年度を長く平均するほど現在の稼得能力から離れることがある。
この場合は,構造変化後の12か月又は24か月,直近の給与明細,事業計画,現在の保有資産等を用いて年額を推計することになる。

第2 算定表が前提とする年間収入
1 算定表は双方の総収入を出発点とする

裁判所の令和元年版算定表は,給与所得者については原則として源泉徴収票の「支払金額」を,自営業者については確定申告書の「課税される所得金額」を出発点とする。
ただし,自営業者については,青色申告特別控除等の現実に支出されていない控除を加算するなど,算定用の総収入へ修正する必要がある。
算定表へ入力するのは過去の税額を確定するための所得ではなく,今後の生活費負担能力を把握するための年間収入である。
このため,課税証明書又は確定申告書の数字が存在するだけで,その年度が当然に採用年度となるわけではない。

2 過去の実績と将来予測を区別する

過去の収入は,現在及び将来の収入を認定するための証拠である。
審理時点で既に退職しているのに退職前の高額給与をそのまま使うことも,反対に,意図的又は一時的な減収をそのまま固定することも適切ではない。
期間選択では,①勤務又は事業の継続性,②報酬又は取引を本人が調整できる程度,③季節変動,④一時的要因,⑤減収時期と申立時期との関係,⑥現在の契約及び保有資産を確認する。

第3 期間選択の参考となる裁判例
1 反復する暗号資産取引益を算入した審判

福岡家庭裁判所令和4年9月13日審判(令和4年(家)第3142号,判例時報2606号85頁,裁判所HP未掲載,判例秘書L07760034)は,令和3年分の確定申告書に暗号資産取引による雑所得443万2423円が記載されていた事案を扱った。
同審判は,暗号資産の売却又は交換を反復し,その都度利益を得ていたことから,その所得を一回的又は偶発的なものではないとして婚姻費用算定の基礎に含めた。

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相続人に認知症・精神障害等で判断能力を欠く人がいる場合の遺産分割―協議の無効,代筆の危険,成年後見の申立て及び特別代理人(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論の要旨1 本記事の対象2 結論の要旨第2 判断能力を欠く相続人を含めた遺産分割協議の効力1 遺産分割協議は共同相続人全員でする2 意思能力を欠く者の法律行為は無効である3 認知症の診断があるだけで意思能力がないとは限らない4 家族が代わりに署名押印することはできない第3 遺産分割を進める三つの方法1 後見開始等の申立てをして成年後見人等と協議し,又は調停をする方法2 特別代理人の選任を求める方法3 遺産分割審判を最初から申し立てる方法第4 判断能力の程度による違い1 後見相当の場合2 保佐相当の場合3 補助相当の場合4 任意後見契約がある場合第5 後見開始等の申立ての進め方1 申立てができる親族2 申立てができる親族がいない場合の市町村長申立て3 申立先,鑑定及び本人の陳述聴取4 申立ての取下げの制限と費用5 成年後見人の選任と遺産分割への関与第6 手続中に注意すべき期限と資金1 相続税の申告期限2 預貯金の払戻し3 相続放棄を検討する場合第7 出頭が難しいだけの相続人との違い第8 令和8年成年後見制度改正の影響第9 出典1 法令2 裁判例3 裁判所及び行政機関の公表資料4 文献
第1 本記事の対象と結論の要旨
1 本記事の対象

本記事は,共同相続人の中に,認知症,精神疾患又は知的障害等のため判断能力を欠き,又は欠いている疑いがある人がいる場合に,遺産分割をどのように進めるかを,令和8年9月11日時点の法令,裁判例及び家庭裁判所の公表資料に基づいて整理するものである。
主な対象は,その相続人がまだ家庭裁判所から後見開始等の審判を受けていない場面である。
判断能力の程度や手続の段階によって取るべき方法が異なるため,協議の効力,手続の選び方,判断能力の程度による違い,後見開始等の申立て,手続中の期限及び令和8年成年後見制度改正の影響を順に扱う。

2 結論の要旨

結論は次のとおりである。
①判断能力を欠く相続人を加えて遺産分割協議をしても,その相続人の意思表示は無効であり(民法3条の2),協議は有効に成立しないと考えられる。
②家族であっても,成年者を代理して遺産分割協議書に署名押印する権限は当然には生じず,権限なく本人名義で署名押印すれば私文書偽造罪(刑法159条)の成否が問題となり得る。
③遺産分割を進める本筋は,その相続人について後見開始等の申立てをし,家庭裁判所が選任した成年後見人等との間で協議又は調停をする方法である。
④家事事件手続法19条及び民事訴訟法35条の特別代理人は,文言上は未成年者又は成年被後見人を対象とする制度であり,後見開始の審判を受けていない人についても選任し得るとする解釈と高裁の決定はあるものの,遺産分割について家庭裁判所の公表資料が案内しているのは成年後見手続である。
⑤遺産分割審判を最初から申し立てることはできるが,それによって相続人の判断能力の問題が解消されるわけではない。
⑥後見開始等の申立ては,本人の配偶者や四親等内の親族等がすることができ,申立てをする親族がいない場合には市町村長による申立てが問題となる。

第2 判断能力を欠く相続人を含めた遺産分割協議の効力
1 遺産分割協議は共同相続人全員でする

民法907条1項は,共同相続人は,遺言で分割が禁じられた場合等を除き,いつでも,その協議で遺産の全部又は一部の分割をすることができると定めている。
遺産分割協議は共同相続人全員でしなければならず,家庭裁判所の遺産分割調停でも,申立人は他の共同相続人全員を相手方とする必要がある(裁判所職員総合研修所監修『家事事件手続法下における書記官事務の運用に関する実証的研究-家事調停事件及び別表第二審判事件を中心に-』253頁)。
したがって,判断能力を欠く相続人を除外して,残りの相続人だけで遺産分割協議を成立させることはできない。

民法907条2項は,「遺産の分割について、共同相続人間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、各共同相続人は、その全部又は一部の分割を家庭裁判所に請求することができる。」と定めている。
判断能力を欠く相続人がいて協議ができない場合も家庭裁判所の手続を利用することになるが,後記第3の3のとおり,家庭裁判所の手続でもその相続人の能力の問題は残る。

2 意思能力を欠く者の法律行為は無効である

民法3条の2は,「法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は、無効とする。」と定めている。
遺産分割協議に加わる各相続人の合意は意思表示であるから,協議の時点で意思能力を欠いていた相続人の意思表示は無効となる。
その結果,共同相続人全員の有効な合意がないことになり,協議は有効に成立しないと考えられる。

このような協議に基づいて相続登記や預貯金の払戻しがされても,後に協議の無効が主張されれば,その前提が争われることになる。
遺産分割協議の効力が争われる場面としては,このほかに錯誤による取消しがあり,遺産分割協議における錯誤取消し―旧法の要素の錯誤,裁判例と実務対応で整理している。

3 認知症の診断があるだけで意思能力がないとは限らない

意思能力の有無は,病名だけで一律に決まるものではない。
片岡武・管野眞一編著『第4版 家庭裁判所における遺産分割・遺留分の実務』488頁は,遺言能力に関する説明の中で,意思無能力かどうかは,問題となる個々の法律行為ごとに,その難易や重大性なども考慮して,行為の結果を正しく認識できていたかを中心に判断されるべきものであると説明している。

(続きを読む...)相続人に認知症・精神障害等で判断能力を欠く人がいる場合の遺産分割―協議の無効,代筆の危険,成年後見の申立て及び特別代理人(AI作成)