第1 この記事の対象と確認順序
1 「高すぎる・低すぎる」と感じる原因を分ける
婚姻費用算定表の結果が高すぎる又は低すぎると感じても,そのことだけでは,表の選択,収入の入力,帯の読み方又は個別事情のどこに原因があるかは分からない。
本記事では,①比較している金額,②使用した表と子の年齢,③双方の収入,④帯と標準費用,⑤特別事情,⑥既存の合意・調停・審判,⑦必要資料と手続の順に確認する。
本記事は,裁判所の算定表・説明資料,現行法令及び裁判例を生成AIで整理し,法令,数値及び判旨を原資料と照合した上で,結果に違和感がある場合の確認順序を示すものである。
個別の分担額は,算定の基準時,合意の有無,監護状況及び提出資料によって変わるため,本記事だけで確定するものではない。
2 算定表の基本的な見方との役割分担
表10から表19までの使い分け,具体例,基礎収入及び生活費指数の計算は,婚姻費用算定表の見方,計算方法と特別事情(AI作成)で説明している。
本記事は計算方法を重ねて解説するのではなく,いったん得られた結果を再点検するための記事である。
第2 比較している金額をそろえる
1 表の月額,合意額,審判額及び実際の支払額は別である
最初に,算定表の帯が示す月額と,夫婦が合意した月額,調停又は審判で定まった月額,実際の振込額及び未払残額を区別する必要がある。
住宅ローン,家賃,学費又は保険料が別に直接支払われている場合は,その支払が婚姻費用に含まれるのか,合意書,調停調書又は審判書の文言と支払対象期間を確認する。
同じ「月額」を比較しているように見えても,賞与月の加算,一時金,過去分の分割払又は複数月分の精算が含まれていれば,算定表の1か月分とは比較できない。
まず対象月ごとに,定期金,直接払い及び既払額を分けて一覧にするのがよい。
2 令和8年の2万円及び8万円は算定表の金額ではない
令和8年4月1日に施行された法定養育費の子1人当たり月額2万円は,離婚後に養育費の取決め等がない場合の補充的な制度であり,別居中の婚姻費用算定表の標準額ではない。
また,子の監護費用について一般先取特権が及ぶ子1人当たり月額8万円という額は,先取特権の対象となる上限であって,婚姻費用の分担額又は支払上限ではない。
第3 表と子の人数・年齢を確認する
1 婚姻費用は表10から表19までを使う
夫婦だけの場合は表10,子1人の場合は表11又は表12,子2人の場合は表13から表15まで,子3人の場合は表16から表19までを用いる。
離婚後の養育費表1から表9までを使うと,別居中の配偶者本人の生活費が計算から抜けるため,結果は婚姻費用の額にならない。
表の選択では,人数だけでなく,どちらが子を監護しているかを確認する。
夫婦がそれぞれ子を監護している場合,子が4人以上の場合,又は別の扶養対象者がいる場合は,既製の表へそのまま当てはめられないことがある。
夫婦が子を1人ずつ監護する場合の一般式,支払方向及び年齢構成別の具体例は,「夫婦が子を1人ずつ監護する場合の婚姻費用|子の分属と双方負担の個別計算(AI作成)」で説明している。
2 15歳以上の区分と固定額の変更を区別する
新たに婚姻費用を算定する時点で子が15歳以上であれば,15歳以上の子に対応する表を選ぶ。
生活費指数は0歳から14歳までの子が62,15歳以上の子が85であり,この違いが表11と表12などの区分に反映されている。
もっとも,子が15歳になっただけで,既存の合意,調停又は審判に記載された固定額が当然に増額されるわけではない。
どの時点から変更するかは,合意の文言,事情変更及び変更を求めた時期を区別して検討する必要があり,一度決まった婚姻費用は増額・減額できるか|事情変更・申立時期・必要資料(AI作成)で説明している。
第4 収入の入れ方と資料の時点を確認する
1 縦軸と横軸,給与と自営の欄を確認する
算定表の縦軸は婚姻費用を支払う義務者の年収,横軸は受け取る権利者の年収である。
軸を逆にすると,同じ二人の収入でも別の帯を読むことになる。
給与所得者は,源泉徴収票の「支払金額」という控除前の総収入を用い,手取額を入力しない。
自営業者は,確定申告書の「課税される所得金額」を出発点とし,青色申告特別控除その他の実際の支出を伴わない控除等を加えるため,申告書の売上又は預金残高をそのまま年収欄へ入れるものではない。
給与収入と事業所得が併存する場合は,給与欄の数字と自営欄の数字をそのまま足すのではなく,同じ基準へ換算して合算する必要がある。
換算を省いた自動計算結果は,入力値が正しく見えても再点検を要する。
2 過去の年収が現在の通常収入を示すか確認する
源泉徴収票及び課税証明書は過去の一定期間の収入を示すため,退職,転職,休職,賞与の変動又は事業の急変があった場合に,現在の通常収入をそのまま表すとは限らない。
直近資料だけを機械的に採用せず,変更時期,変更理由,継続可能性及び変更後の給与明細,雇用契約書,離職票,事業帳簿等を確認する。
収入減少が任意の退職又は就労抑制によると主張される場合も,直ちに従前収入又は平均賃金を基礎とするのではない。
年齢,健康状態,育児負担,職歴,資格,離職経緯,就職活動及び求人状況から,現実に得られる収入を個別に検討する必要があり,詳細は無職・退職・休職と潜在的稼働能力(AI作成)を参照されたい。
3 相手方が収入資料を提出しない場合
相手方が源泉徴収票又は確定申告書を提出しない場合は,手元にある課税証明書,過去の給与資料,勤務先・職種,生活状況,事業口座その他の客観資料を先に整理する。
資料がないことだけから高い収入又はゼロ収入を当然に認定することはできない。
家事事件手続法152条の2は,家庭裁判所が必要と認めるときに,当事者へ収入及び資産の状況に関する情報の開示を命ずる制度を定めている。
これは相手方の勤務先又は金融機関から申立人が無条件に資料を取得できる制度ではなく,裁判所の必要性判断を経る点に注意を要し,具体的な資料と手順は相手が収入資料を出さない場合の婚姻費用|収入の推計・情報開示命令・必要資料(AI作成)で説明している。
第5 帯の読み方と標準費用を確認する
1 帯の中央額が常に原則となるわけではない
算定表の交点は通常1万円から2万円の幅を持つ帯で示されるため,帯内のどこを採るかによって単一額は変わる。
裁判所の説明資料は,双方の年収を表へ当てはめ,交差する帯の額を標準的な婚姻費用の月額として示すが,帯の中央額を常に採用するという規則は設けていない。
年収目盛の近い方を選ぶ公式の設例はあるものの,すべての境界事案で切上げ,切捨て又は線形補間を行う一律の規則ではない。
自動計算機が単一額だけを表示する場合は,使用表,年収の丸め方及び帯内の金額の選び方を確認する必要がある。
2 算定表に織り込み済みの費用を二重に調整しない
標準算定方式の基礎収入は,総収入から公租公課,職業費及び特別経費の標準額を控除して算出する概念である。
所得税,社会保険料,通勤費,通常の住居費その他の実額を一つずつ総収入から控除すると,算定表に織り込み済みの負担を二重に控除することがある。
子の生活費指数にも標準的な教育費が含まれているため,私立学校の費用を検討する場合は,私学費全額を当然に上乗せせず,標準部分との重複を除く必要がある。
反対に,現実の家計支出が標準額より多いというだけで,その全額が特別事情として加算又は控除されるものでもない。
第6 特別事情による修正の必要性を確認する
1 表による結果が著しく不公平となる事情か確認する
裁判所の説明資料は,算定表と異なる額を定めるのは,表によることが著しく不公平となる特別な事情がある場合に限られると説明している。
確認順序は,①その費用又は負担が表に含まれるか,②標準部分を超える現実の負担があるか,③必要性及び相当性があるか,④誰が支払っているか,⑤給付金又は保険金等を控除したか,⑥超過分をどの割合で分担するか,である。
相手方から特別事情を主張された側は,費用が実際に発生しているかだけでなく,対象期間,支払者,標準額との重複及び合意の有無を確認する。
特別事情を主張する側は,家計全体の不満ではなく,算定表の前提を外れる具体的事実と,その金額及び継続期間を示す資料を提出する必要がある。
2 住宅ローン,私学費及び医療費
住宅ローンは,返済額を全額控除すると資産形成部分まで相手方へ負担させることがある一方,義務者が権利者と子の住居費を直接負担している事情を全く見ないのも相当でない場合がある。
居住者,所有名義,返済者,別居後の二重住居費及び合意内容を分けて検討し,詳細は別居中の婚姻費用と住宅ローン|誰が住み,誰が返済するかで変わる計算方法(AI作成)を参照されたい。
私学費及び高額な医療費では,進学又は治療の必要性,夫婦の承諾,収入・資産,実際の支払額,公立学校相当額,保険給付及び公的助成を確認する。
標準部分を除いた超過額の扱いは事案ごとに異なり,婚姻費用に私立学校・大学の学費と高額医療費を加算できるか|特別費用の分担方法(AI作成)で説明している。
3 高額所得,扶養関係及び別居原因
双方又は一方の収入が算定表の上限を超える場合,表の上限額が請求額の上限になるわけではないが,単一の計算式で一律に処理できるわけでもない。
生活費として費消される部分と貯蓄等に回る部分を区別する必要があり,高額所得者の婚姻費用(AI作成)を参照されたい。
再婚,養子縁組,認知,他の未成熟子,双方による子の分担監護等があると,表の前提となる扶養関係が変わる。
また,別居原因を理由に婚姻費用を制限できるかは,権利者本人の生活費と未成熟子の生活費を分けて検討する必要があり,詳細は不貞・無断別居をした配偶者は婚姻費用を請求できるか|有責性と子の生活費(AI作成)で説明している。
第7 既存の合意・調停・審判と事情変更を確認する
1 再計算だけでは既存の固定額は自動的に変わらない
過去に合意,公正証書,調停又は審判で婚姻費用が定まっている場合,現在の算定表へ収入を入れ直した結果が違うだけで,固定額が当然に変更されるわけではない。
当時の収入及び生活状況と現在を比較し,収入,監護関係,扶養対象者,健康,住居又は子の進学等に重要な変化があるか,その変化が合意時に予測されていたかを確認する。
増額又は減額を求める側は,従前の合意書,調停調書又は審判書,当時の収入資料,現在の収入資料及び事情が変わった時期を示す資料をそろえる。
既存額を一方的に変更すると未払又は過払の争いを生むため,変更合意又は家庭裁判所の手続によって整理するのが原則である。
2 最高裁令和7年9月4日判決と合意の扱い
最高裁第一小法廷令和7年9月4日判決(令和6年(受)第239号,民集79巻6号2637頁)は,婚姻費用の分担内容を定める合意の無効確認だけを求める民事訴訟は確認の利益を欠き,不適法であると判断した。
その理由として,婚姻費用分担の審判では,家庭裁判所が合意の存否,効力及び内容を含む一切の事情を考慮し,新たな分担額及び支払始期を定めることができるとした。
したがって,合意の有効性又は解釈に争いがある場合も,算定表だけを再計算して結論を出すのではなく,合意成立の資料,合意内容,当時の事情及びその後の変化を婚姻費用分担の手続で具体的に示す必要がある。
この判決は,合意に基づくあらゆる請求について民事訴訟が常に許されないと判示したものではなく,合意無効確認の訴えの適否に関する射程を超えて一般化すべきではない。
3 変更時点と既払額を期間別に整理する
事情変更が認められる場合も,いつから新しい額とするかは,再計算日だけで決まらない。
変更事情が生じた日,増額又は減額を求めた日,調停申立日,既払額,家賃等の直接払い及び相手方への通知内容を月ごとに並べる必要がある。
まだ婚姻費用を具体的に請求していない場合は,資料が全てそろうまで待つことにより過去分の扱いに影響することがある。
請求方法,申立先,必要書類及び支払始期は,別居中の生活費(婚姻費用)はいつから請求できるか|請求方法・必要書類・調停・審判(AI作成)を参照されたい。
第8 資料と手続の優先順位
1 最初に集める資料
低い負担で先に確認すべき資料は,①夫婦及び子の年齢・同居状況が分かる戸籍等,②双方の源泉徴収票,確定申告書,課税証明書及び直近の給与明細,③合意書,調停調書又は審判書,④別居日及び請求日が分かる書面,⑤婚姻費用,家賃,住宅ローン,学費等の支払記録,⑥収入又は扶養関係が変わった時期を示す資料である。
横浜家庭裁判所の令和8年4月版「婚姻費用(増減額)陳述書」も,従前額,当時と現在の収入,就労状況,扶養関係,住宅ローン及び私学費を分けて記載する形式になっている。
資料は「合意又は審判当時」「事情が変わった時」「現在」の三つに分けると,入力ミス,単なる家計上の不満及び法律上の事情変更を区別しやすい。
医療費又は私学費等を主張する場合は,請求書だけでなく,支払者,対象期間,助成・保険給付及び相手方の承諾を示す資料も確認する。
2 家庭裁判所の手続へ進む場合
話合いがまとまらない場合又は話合いができない場合は,相手方の住所地を管轄する家庭裁判所又は当事者が合意で定める家庭裁判所へ婚姻費用分担請求調停を申し立てることができる。
調停が不成立になると審判手続へ移り,裁判官が双方の収入,資産,支出その他一切の事情を考慮して判断する。
申立て後は,最初から大量の家計明細,鑑定又は第三者調査を求めるのではなく,算定表,標準的な収入資料及び争いのある特別事情を示す資料から提出する。
正しい表と収入資料を用いても同じ帯となり,標準部分を超える特別事情もなく,追加資料によって結論が変わる具体的可能性を示せない場合は,それ以上の高負担な調査を行わないことも合理的である。
第9 出典・参考資料
1 法令
①民法760条,766条の3及び308条の2。
②家事事件手続法39条,152条の2及び258条3項。
③民法第三百八条の二の規定による子の監護費用の先取特権に係る額の算定等に関する省令(令和7年法務省令第56号)1条,2条及び附則。
2 裁判例
①最高裁第一小法廷令和7年9月4日判決,令和6年(受)第239号,婚姻費用の合意無効確認請求事件,民集79巻6号2637頁。
3 裁判所公表資料
①裁判所「平成30年度司法研究(養育費,婚姻費用の算定に関する実証的研究)の報告について」(令和元年12月23日公表)。
②裁判所「養育費・婚姻費用算定表について(説明)」1頁~5頁。
③裁判所「婚姻費用の分担請求調停」。
④横浜家庭裁判所「婚姻費用(増減額)陳述書」(令和8年4月版)1頁~9頁。
4 関連記事
①婚姻費用算定表の見方,計算方法と特別事情(AI作成)。
②一度決まった婚姻費用は増額・減額できるか|事情変更・申立時期・必要資料(AI作成)。
③相手が収入資料を出さない場合の婚姻費用|収入の推計・情報開示命令・必要資料(AI作成)。
④別居中の婚姻費用と住宅ローン|誰が住み,誰が返済するかで変わる計算方法(AI作成)。
⑤婚姻費用に私立学校・大学の学費と高額医療費を加算できるか|特別費用の分担方法(AI作成)。
⑥無職・退職・休職と潜在的稼働能力(AI作成)。
⑦高額所得者の婚姻費用(AI作成)。
⑧不貞・無断別居をした配偶者は婚姻費用を請求できるか|有責性と子の生活費(AI作成)。
⑨別居中の生活費(婚姻費用)はいつから請求できるか|請求方法・必要書類・調停・審判(AI作成)。