第1 法制審議会の位置付け
1 法務大臣の諮問を受ける審議会
法制審議会は,法務省に置かれ,法務大臣の諮問に応じて,民事法,刑事法その他法務に関する基本的な事項を調査審議する合議制の機関である。
審議会等の一般的な根拠は国家行政組織法第8条,法務省に法制審議会を置くことと所掌事務は法務省組織令第54条及び第55条に定められている。
本記事は,令和8年9月14日を調査の基準日とし,同日に施行されている法令と公開された会議資料に基づいて,法制審議会の仕組みと資料の読み方を説明するものである。
2 答申は法律そのものではない
法制審議会の所掌事務は,調査審議して法務大臣に意見を述べることであり,答申自体が国民の権利義務を定める法律となるわけではない。
内閣提出法律案では,答申後に所管省庁が原案を作成し,内閣法制局の審査,閣議決定,国会の審議・議決を経る必要がある。
したがって,「答申が出た」ことと「改正法が成立した」ことは,必ず分けて確認する必要がある。
第2 委員,臨時委員及び幹事
1 20人以内という定数の意味
法制審議会令第1条及び第2条によれば,法制審議会は委員20人以内で組織され,委員は学識経験のある者のうちから法務大臣が任命する。
委員の任期は2年で,再任することができ,非常勤である。
この20人以内という定数は審議会の委員に関するものであり,特定の論点を審議する部会の参加者全体を20人以内に限る趣旨ではない。
2 臨時委員と幹事
法制審議会令第3条は,特別の事項を調査審議させるため必要があるときは臨時委員を置くことができるとし,臨時委員は当該事項の調査審議が終了したときに解任されるものとしている。
同令第5条による幹事は,学識経験のある者のうちから法務大臣が任命し,委員及び臨時委員を補佐する役割を担う。
そのため,部会の名簿を読むときは,「委員」,「臨時委員」及び「幹事」を同じ地位の構成員とみなさないことが重要である。
3 会長と議決方法
会長は,委員の互選に基づき,法務大臣が指名し,会務を総理して法制審議会を代表する。
会議の定足数は,委員及び議事に関係のある臨時委員の3分の1以上であり,議事は出席したこれらの者の過半数で決する。
可否同数のときは会長が決し,これらの規定は部会の議事にも準用されるため,法令上,全会一致は議決の要件ではない。
第3 総会と部会の役割
1 諮問の部会への付託
法務大臣から新しい諮問がされると,総会は,専門的な調査審議をする部会を設け,その諮問を付託することがある。
例えば,第201回会議では諮問第127号を会社法制(株式・株主総会等関係)部会に,諮問第128号を刑事法(危険運転による死傷事犯関係)部会に付託した。
第205回会議でも,諮問第130号を新設の刑事法(犯罪被害者関係)部会に付託し,部会から報告を受けた後に改めて総会で審議することとした。
2 部会の審議と総会への報告
法制審議会令第6条によれば,部会に属すべき委員,臨時委員及び幹事は,法制審議会の承認を経て会長が指名する。
部会では,論点ごとの資料や条文案を用いて審議し,中間試案,要綱案その他諮問に応じた文書を取りまとめる。
法制審議会議事規則第7条は,部会長が部会の会議の経過及び結果を審議会に報告しなければならないと定めている。
3 全会一致と賛成多数
第204回会議では,遺言制度,成年後見制度及び危険運転に関する3件の案が全会一致で採択された一方,刑事再審手続に関する答申案は賛成多数で採択された。
この会議結果は,実際には全会一致で取りまとめられる案も多いが,反対意見があること自体は答申を妨げないことを示している。
再審制度に関する審議内容と改正法の経過は,令和8年成立の刑事訴訟法改正(再審制度)で別に整理している。
第4 諮問から法律成立までの流れ
1 典型的な七つの段階
法制審議会が法改正を調査審議する場合の典型的な流れは,次のとおりである。
①法務大臣が諮問を発する。
②総会が諮問の審議方法を決め,必要に応じて部会に付託する。
③部会が論点を審議し,各回の資料や議事録が後日公開される。
④案件により,中間試案を取りまとめ,意見募集を行う。
⑤部会が意見募集の結果などを踏まえて要綱案等を取りまとめ,総会へ報告する。
⑥総会が審議・採決し,法務大臣に答申する。
⑦所管省庁の法律案原案作成,内閣法制局の審査,閣議決定及び国会審議を経て,両議院で可決されたときに法律が成立する。
ただし,中間試案と意見募集の有無,文書の名称及び審議回数は案件によって異なるため,この順序を一律の必須手順とは扱えない。
2 中間試案と意見募集
中間試案は審議途中の案であり,最終的な要綱や答申ではない。
例えば,会社法制(株式・株主総会等関係)部会は,令和8年3月18日に中間試案を取りまとめ,同年4月2日から5月22日まで実質的に意見を受け付けた。
この意見募集は,e-Gov上で「行政手続法に基づく手続」ではなく「任意の意見募集」として表示されており,公的なウェブサイトに掲載された意見募集をすべて行政手続法上の命令等意見公募手続とみなすことはできない。
3 試案,補足説明及び要綱案の作成主体
資料を引用するときは,表題だけでなく,誰が取りまとめ,誰の責任で作成した文書かを確認する必要がある。
上記の会社法制の中間試案は部会が取りまとめたものであるが,その「補足説明」は,事務当局である法務省民事局参事官室の責任で作成されたものである。
両者は関連資料であっても決定主体と文書の位置付けが異なるため,補足説明の記載を部会の正式な決定として引用しないようにする。
4 答申後の政府案と国会審議
内閣法制局の「法律ができるまで」によれば,内閣提出法律案の原案は所管省庁が作成し,閣議の前にすべて内閣法制局の審査を受ける。
その後,閣議決定を経て国会に提出され,原則として両議院で可決されたときに法律となる。
政府は,令和7年6月11日の衆議院法務委員会で,過去30年間に法制審議会の答申に対応する法案が提出されなかった例が2件あると答弁しており,答申から法案提出までも自動的に進むわけではない。
第5 会議の非公開と議事録の公開
1 会議は非公開が原則である
法制審議会議事規則第3条は,「会議は,公開しない。」と定め,同規則第7条第1項はこの規定を部会の議事に準用している。
他方,審議会が調査審議に関係があると認めた者や,議長が必要と認めた者に説明又は意見を求めることはできる。
したがって,議事録や配布資料が後日ウェブサイトで公開されることと,一般の傍聴を認めることは別の問題である。
2 議事録と発言者名の取扱い
法制審議会議事規則第6条は,議事録を幹事が作成すると定めている。
平成23年6月6日の第165回会議で決定された公開方法によれば,総会と部会のいずれについても,発言者名を明らかにした議事録の公開が原則である。
ただし,発言者等の権利利益の保護や,率直な意見交換又は意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれなどを考慮し,発言者名等を明らかにしないことができる場合もある。
第6 法制審議会と内閣法制局の違い
1 制度内容の調査審議と法律案の審査
法制審議会は,法務大臣の諮問を受け,改正すべき制度の内容を調査審議し,意見を述べる機関である。
これに対し,内閣法制局は,各省庁が立案した内閣提出法律案について,憲法や他の現行法制との関係,立法内容の法的妥当性,立案の意図の法文への反映,条文の表現・配列及び用字・用語を法律的・立法技術的に審査する。
両者は共に立法過程に関係するが,法制審議会は主として政策・制度の内容を審議する段階,内閣法制局は主として政府が国会に提出する法律案を審査する段階を担っている。
第7 法制審議会の資料を調べる手順
1 諮問番号から総会と部会をたどる
特定の法改正に関する法制審議会資料を調べるときは,まず諮問番号を確定し,総会の一覧から諮問が出された会議と,答申が決定された会議を探すとよい。
次に,付託先の部会ページで,第1回会議,中間試案の取りまとめ,意見募集,要綱案の取りまとめ及び最後の会議を時系列で確認する。
会社法改正については,会社法制部会の審議と過去の会社法改正の経緯で個別に整理している。
2 現在の審議状況は最終開催日で確認する
法務省の審議会メニューに部会名が表示されていても,それだけで現在活動中であるとは判定できない。
令和8年9月14日現在,会社法制(株式・株主総会等関係)部会は同年8月26日の第17回会議まで,刑事法(犯罪被害者関係)部会は同年7月30日の第1回会議まで公開されている。
他方,生殖補助医療関連親子法制部会の会議一覧は平成15年9月16日の第19回会議で止まっており,メニューの掲載と近時の開催を区別する必要がある。
3 文書の決定段階を区別する
部会資料には,事務当局の検討資料,委員等から提出された資料,中間試案,補足説明,要綱案及び答申など,決定主体と確定度の異なる文書が並んでいる。
ファイル名に「案」とあるかだけではなく,当該会議の議事概要又は議事録を読み,説明のために配布されたのか,審議・採決されたのか,意見募集後に修正されたのかを確認する。
その確認をすることで,審議途中の選択肢を法制審議会の最終意見として引用することや,答申を成立法の内容と同一視することを避けられる。
第8 出典・参考資料
1 法令
①国家行政組織法第8条
②法務省組織令第54条及び第55条
③法制審議会令第1条から第7条まで
2 法務省の会議規則・会議資料
①法制審議会概要
②法制審議会議事規則
③法制審議会第165回会議
④法制審議会第201回会議
⑤法制審議会第204回会議
⑥法制審議会第205回会議
⑦会社法制(株式・株主総会等関係)部会
⑧刑事法(犯罪被害者関係)部会第1回会議
⑨生殖補助医療関連親子法制部会
3 意見募集・立法手続の公的資料
①e-Govパブリック・コメント「会社法制(株式・株主総会等関係)の見直しに関する中間試案」に関する意見募集
②内閣法制局「法律ができるまで」
③第217回国会衆議院法務委員会第22号(令和7年6月11日)