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親族・相続

「任せる」「託す」と書かれた遺言は有効か―遺言の解釈の基準,有効・無効とされた裁判例,金融機関が払戻しを拒んだ場合の対応及び作成時の注意(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 本記事の対象2 結論第2 遺言の解釈の基準1 最高裁昭和58年3月18日判決2 遺言で定められる事項は法律で決まっている3 文言の本来の意味第3 遺贈又は承継の趣旨と解された裁判例1 大阪高裁平成25年9月5日判決(「全てまかせます」)2 東京地裁令和2年11月16日判決(「すべて委託します」)3 東京地裁令和4年11月10日判決(「すべてたくします」)第4 遺言としての効力が否定された裁判例1 大阪高裁令和3年11月5日判決(「全てをまかせる」)2 東京地裁平成15年10月23日判決(手紙形式の書面)3 東京地裁令和4年4月28日判決(「託します」)第5 一部だけ無効とされた裁判例1 東京地裁平成15年3月25日判決(遺産の分配を一任する条項)第6 結論を分けた事情1 判断に用いられた事情の一覧2 読み方の注意第7 金融機関が払戻しを拒んだ場合の対応1 金融機関の立場2 相続人全員の了解を書面で得る3 払戻請求訴訟を起こす4 遺言執行者の選任を申し立てる5 払戻しを受けた後に遺言の効力が否定される危険第8 遺言を作る側の注意1 「遺贈する」又は「相続させる」と書く2 対象財産と相手方を特定する3 遺言執行者を指定し,権限を書く4 公正証書遺言又は法務局保管を検討する第9 関連記事第10 出典1 法令2 裁判例
第1 本記事の対象と結論
1 本記事の対象

本記事は,自筆証書遺言に「財産を○○に任せる」「全てまかせます」「すべてたくします」「すべて委託します」のように,財産を与えるのか,管理や処理を頼むだけなのかがはっきりしない言葉が書かれている場合に,その遺言がどのように解釈されるかを扱う。
あわせて,このような遺言を示しても金融機関が預貯金の払戻しに応じない場合の対応と,遺言を作る側の注意点を整理する。
調査基準日は令和8年9月26日である。
条文はe-Gov法令検索で確認し,最高裁判例は裁判所ウェブサイトで確認した。
下級審の裁判例はいずれも裁判所ウェブサイトに掲載されていないため,判例秘書で判決文を確認した。

2 結論

①遺言の解釈では,文言を形式的に判断するだけでなく,遺言書の全記載との関連,遺言書作成当時の事情及び遺言者の置かれていた状況などを考慮して,遺言者の真意を探究する(最高裁昭和58年3月18日判決)。
②「任せる」「託す」「委託する」は,言葉の本来の意味では「頼む」「預ける」に近く,それだけで財産を与える意味になるわけではない。
③それでも,遺言者と相手方の関係,世話の実情,生前の言動,遺言書のほかの記載等から,財産の全部又は預貯金を遺贈する趣旨,又は相続させる趣旨と解された裁判例が複数ある(大阪高裁平成25年9月5日判決,東京地裁令和2年11月16日判決,東京地裁令和4年11月10日判決)。
④他方で,財産や死後に関する言葉が無く,「二代目」と宣言したメモや,生前の財産管理等を任せる念書である可能性が残るとして,遺言として無効とされた裁判例もある(大阪高裁令和3年11月5日判決)。
⑤遺言として有効でも,遺産の分配方法を一任する旨の条項が遺産分割の方法の指定の委託と解され,委託の相手が包括受遺者であったために,その部分だけ無効とされた裁判例もある(東京地裁平成15年3月25日判決)。
⑥金融機関は,このような遺言だけでは払戻しに応じないことがある。
相続人全員の了解を書面で得るか,受遺者等が金融機関を被告として払戻請求訴訟を起こすこと等が考えられる。
⑦遺言を作る側は,「遺贈する」又は「相続させる」と書き,対象財産と遺言執行者を明記すれば,このような解釈の争いを避けやすくなる。

第2 遺言の解釈の基準
1 最高裁昭和58年3月18日判決

最高裁昭和58年3月18日第二小法廷判決(昭和55年(オ)第973号,集民138号277頁)について,裁判所ウェブサイトに掲載された裁判要旨は,次のとおりである。
「遺言の解釈にあたつては、遺言書の文言を形式的に判断するだけでなく、遺言者の真意を探究すべきものであり、遺言書の特定の条項を解釈するにあたつても、当該条項と遺言書の全記載との関連、遺言書作成当時の事情及び遺言者の置かれていた状況などを考慮して当該条項の趣旨を確定すべきである。」
本記事で紹介する大阪高裁平成25年9月5日判決と大阪高裁令和3年11月5日判決はこの判決を参照しており,東京地裁の令和2年11月16日判決,令和4年11月10日判決及び平成15年3月25日判決も同じ趣旨の一般論を述べたうえで判断している。

2 遺言で定められる事項は法律で決まっている

遺言は,法律が定める事項についてだけ効力を持つ。
財産に関して遺言でできる主なことは,次のとおりである。
①包括又は特定の名義で財産の全部又は一部を処分すること,すなわち遺贈(民法964条)
②共同相続人の相続分を定め,又はこれを定めることを第三者に委託すること(民法902条1項)
③遺産の分割の方法を定め,若しくはこれを定めることを第三者に委託すること(民法908条1項)
④遺言執行者を指定し,又はその指定を第三者に委託すること(民法1006条1項)
なお,遺産の分割の方法の指定として特定の財産を共同相続人に承継させる遺言は,民法1014条2項で「特定財産承継遺言」と呼ばれている。

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相続させる遺言に基づく相続登記を弁護士が代理する方法―申請人の選び方,添付情報,委任状,登記識別情報及び国籍等の申出(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 本記事の対象2 結論第2 登記申請の前提となる法律関係1 相続開始時に直ちに承継する2 登記をしなければ第三者に対抗できない3 申請義務と期限4 遺言の作成日で遺言執行者の権限が分かれる第3 弁護士が登記申請を代理できる根拠1 弁護士法3条1項と司法書士法73条1項2 東京高裁平成7年11月29日判決3 法務省の取扱いと実務上の注意第4 誰を申請人とするか1 受益相続人の単独申請を弁護士が代理する方法2 遺言執行者が申請する方法3 二つの方法の比較第5 受任したときに確認すること1 遺言書2 受益者と相続関係3 不動産の特定と登記記録4 他の相続人が先に登記をしていないか第6 添付情報1 添付情報の一覧2 出生から死亡までの戸籍は要らない3 原本の還付第7 申請書の書き方1 受益相続人の単独申請を弁護士が代理する場合2 遺言執行者が申請する場合第8 委任状の書き方1 委任事項2 押印と印鑑証明書3 登記識別情報を受け取るための特別の委任第9 登録免許税1 税率と計算2 免税措置は申請書に書かないと受けられない第10 申請の方法1 書面申請2 オンライン申請(特例方式)第11 登記が完了した後第12 関連記事第13 出典1 法令2 裁判例3 法務省・法務局の資料4 その他
第1 本記事の対象と結論
1 本記事の対象

本記事は,特定の不動産を特定の相続人に「相続させる」旨の遺言(民法1014条2項の特定財産承継遺言)がある場合に,その不動産の相続による所有権移転登記を,弁護士が代理人として申請する方法を扱う。
以下,遺言によって不動産を取得した相続人を「受益相続人」という。
調査基準日は令和8年9月26日である。
条文はe-Gov法令検索で,最高裁判例は裁判所ウェブサイトで全文を確認し,東京高裁平成7年11月29日判決は判例秘書で全文を確認した。
申請書・委任状の記載は,法務局が公表している記載例を基礎にしている。

「相続させる」遺言の性質,判例の流れ及び遺言執行者の権限の実体法上の整理は,相続させる遺言と特定財産承継遺言――違い,効力,登記及び遺言執行者の権限で扱っている。
本記事は,その整理を前提に,登記申請の実務に絞って説明する。

本記事の申請書・委任状の説明は,遺言で指定された受益相続人が遺言どおりに不動産を取得する場合を対象とする。相続人全員が最初の協議で別の相続人を取得者とする場合は,協議の民事上の効力と登記原因・申請経路を別に確認する必要があり,本記事の記載例をそのまま使えない。特定財産承継遺言と異なる最初の全員協議の登記原因と課税関係では,さいたま地裁平成14年2月7日判決の射程と税務上の未確定事項を整理した。

2 結論

①弁護士は,弁護士法3条1項に基づき,相続登記の申請を代理人として行うことができる。
②弁護士が関与する申請の形は,受益相続人の単独申請を任意代理する方法,弁護士自身が遺言執行者として申請する方法,遺言執行者から委任を受けて申請する方法の三つである。
③遺言執行者による申請は,令和元年7月1日以後に作成された遺言に限られる。
④添付情報は,遺言書,被相続人の死亡の記載のある戸籍,受益相続人が相続人であることが分かる戸籍,住民票の写し,委任状等であり,被相続人の出生から死亡までの戸籍は要らない。
⑤委任状には受益相続人の記名押印が要るが,印鑑証明書は要らない。
⑥登記識別情報を弁護士が受け取るには,委任状に受領の特別の委任を書く。
⑦令和8年10月5日以後に申請する場合は,受益相続人の「国籍等」も申請情報とし,国籍等を証する情報を提供する。

第2 登記申請の前提となる法律関係
1 相続開始時に直ちに承継する

最高裁平成3年4月19日第二小法廷判決(平成元年(オ)第174号,民集45巻4号477頁)は,特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」趣旨の遺言は,遺贈と解すべき特段の事情がない限り,遺産分割の方法を指定したものと解すべきであるとした。
そして,特段の事情のない限り,何らの行為を要せずして,被相続人の死亡の時に直ちに相続により承継されるとした。
そのため,登記原因は「相続」であり,原因日付は,遺言書の作成日ではなく,被相続人の死亡日である。

登記実務は,平成3年判決より前から,特定の不動産を特定の相続人に「相続させる」旨の遺言書を添付してする「相続」を原因とする所有権移転登記の申請を認めていたとされる(昭和47年4月17日民事甲第1442号民事局長通達とされるもの。遺産分割の方法を指定する旨の遺言公正証書を添付した申請についても,昭和47年8月21日民事甲第3565号民事局長回答があるとされる。)。
本記事では,この2件の原典を確認できておらず,司法書士事務所のウェブサイトにおける紹介によっている。
同じウェブサイトは,この形の遺言は,遺産分割協議を経ずに特定の遺産を特定の相続人に承継させたいという遺言者の要望に応えるため,公証実務で考案されたものと説明している。
いずれにしても,受益相続人は,遺産分割協議書を添付することなく,遺言書を添付して単独で相続登記を申請することができる。

2 登記をしなければ第三者に対抗できない

民法899条の2第1項は,相続による権利の承継は,遺産の分割によるものかどうかにかかわらず,法定相続分を超える部分については,登記その他の対抗要件を備えなければ第三者に対抗することができないと定める。

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法定相続情報一覧図の申出書の書き方と窓口持参―郵送交付・原本返却・代理人申出(AI作成)

目次第1 申出書・一覧図・添付書面を分けて考える第2 申出先の法務局を選ぶ1 法定相続情報一覧図はどこで取得できるか2 法定相続情報一覧図はすぐにもらえるか第3 申出書を書く1 申出人・被相続人・利用目的2 必要通数と受取方法3 日付と一覧図の作成日第4 窓口持参と郵送交付を区別する1 申出方法と受取方法は別に選ぶ2 窓口持参・郵送交付の場合3 窓口受取の場合4 申出方法と受取方法の組合せ第5 戸籍等の原本と本人確認資料をそろえる1 戸籍・除籍・住民票等2 申出人の本人確認資料3 返却される書類と返却されない書類第6 弁護士等が代理して申し出る場合第7 任意の戸籍チェック表を付ける場合1 法定の添付書面ではない2 記載する内容3 記載しない内容と綴じる位置第8 窓口へ持参する前の点検表第9 出典・参考資料

法定相続情報一覧図の申出では、法務局へ書類を持参する方法と、審査後に一覧図の写し及び戸籍等の返却を郵送で受ける方法とを組み合わせることができる。
申出書の「窓口で受取・郵送」は、申出書をどう提出するかではなく、完成後の一覧図の写しと返却書類をどう受け取るかを選ぶ欄である。

本記事は、令和8年9月25日現在の不動産登記規則、法務局の現行申出書及び手続案内を前提に、窓口へ持参する場合の申出書の書き方、原本、本人確認、代理人書類及び任意の戸籍チェック表を整理する。
一覧図そのものの作り方は「法定相続情報一覧図の作成方法―戸籍謄本の読み方と相続人の確認」、前婚の子がいる場合は「前妻・前夫との子がいる場合の法定相続情報一覧図」を参照されたい。

第1 申出書・一覧図・添付書面を分けて考える

申出時に提出する書類は、大きく分けると、①法定相続情報一覧図の保管及び交付の申出書、②申出人又は代理人が作成した法定相続情報一覧図、③戸除籍謄本、住民票の除票、相続人の戸籍、本人確認資料等の添付書面である。
法務局は、戸籍の束を受け取って一から一覧図を作るのではなく、申出人側が作った一覧図と添付書面を照合する。

不動産登記規則247条は、申出書の記載事項と添付書面を定めている。
そのため、提出用の一覧図には法定の記載事項を記載し、戸籍の読み方、疑問点、相続分の計算、遺産分割の方針等を記した内部メモとは分ける。

法定相続情報一覧図は、戸籍上の法定相続関係を証明する制度であり、遺産分割の結果、相続放棄の有無、遺言の内容又は各財産の取得者まで証明するものではない。
利用先によっては、一覧図の写し以外に遺産分割協議書、相続放棄申述受理証明書、印鑑証明書等が必要になる。

第2 申出先の法務局を選ぶ

申出は、次のいずれかの地を管轄する登記所にすることができる(不動産登記規則247条1項)。

被相続人の死亡時の本籍地被相続人の最後の住所地申出人の住所地被相続人名義の不動産の所在地

被相続人名義の不動産所在地を選ぶ場合は、申出書に不動産所在事項又は不動産番号を記載する。
最寄りの法務局であれば常に受け付けられるわけではないので、上記4類型のいずれに基づく申出かを決め、管轄を確認する。

窓口へ持参する場合でも、法務局によっては手続案内や受付の予約を案内していることがある。
予約の要否、受付時間、交付までのおおよその日数は、申出先の登記所へ事前に確認するとよい。

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清算型遺言の清算金から信託を設定する場合―遺言執行者・受託者・受益者の役割,受託者への引渡し,代替条項及び課税(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論1 この記事の対象と基準日2 結論の要約第2 「遺言信託」という言葉の二つの意味1 銀行サービスとしての遺言信託2 財産管理制度としての信託第3 信託を設定する方法と時期1 生前に設定した信託へ拠出する場合2 遺言による信託(信託法3条2号)の場合3 相続開始後に信託契約を締結する場合4 受託者となるべき者が引き受けない場合第4 遺言執行者・受託者・受益者の役割1 三者の根拠と任務2 同じ者が遺言執行者と受託者を兼ねる場合第5 相続開始から完了報告までの手順1 遺言執行者の就職と受託者の引受けの確認2 預貯金・有価証券の換価3 費用・債務・税金の留保額の確定4 受託者への指定額の引渡し5 残額の分配6 引継資料・通知・完了報告第6 遺言を作成するときに置いておく条項1 信託銀行が就職又は受託を辞退した場合の代替条項2 清算金が不足する場合の減額順序3 受益者の先死亡と判断能力の低下4 信託の終了と残余財産の帰属5 受益者が受益権を放棄する場合の代替条項第7 課税と信託業法1 信託に関する権利の相続税2 国税庁の質疑応答事例の位置付け3 換価による譲渡所得4 受託者と信託業法5 受益権放棄後の課税関係第8 出典1 法令2 裁判例3 所管行政機関の資料4 業界団体の解説・文献
第1 この記事の対象と結論
1 この記事の対象と基準日
(1) 想定する遺言

本記事は,遺言者が遺産を換価し,費用及び債務を支払った後の金銭(以下「清算金」という。)のうち一定額を信託の財産とし,残額を相続人又は受遺者に分配するよう定めた遺言を扱う。
例えば,「遺言執行者は,遺言者の預貯金及び有価証券を換価し,その換価金から遺言者の債務,遺言執行費用及び遺言執行者の報酬を控除した残額のうち,第○条に定める額をBに信託する。Bは,これをCの生活費等に充てるため管理し,Cに給付する。残額は,D及びEに各2分の1の割合で取得させる。」という形の遺言である(本記事で作成した一般的な例である)。
清算型遺言一般の実現方法,信託銀行が遺言執行者への就職を辞退した場合の手続及び換価による譲渡所得の帰属は,清算型遺言(財産を換金して分ける遺言)の実現方法で扱っており,本記事は,清算金の一部を信託へ回す場合に固有の問題を取り上げる。

(2) 資料と基準日

本記事は,令和8年9月25日時点でe-Gov法令検索に掲載されている信託法,民法,相続税法,信託業法等の条文,裁判所ウェブサイトに掲載された最高裁判所の判決,国税庁の質疑応答事例及び信託協会の公開資料に基づいて整理したものであり,AIを用いて作成した。
条文の文言から直接導けない部分は,「本記事では~と整理する」「~と考えられる」という形で示す。

2 結論の要約

①信託銀行が商品名として用いる「遺言信託」は,遺言書の保管や遺言の執行を中心とするサービスであり,その契約だけで信託法上の信託が設定されるわけではない。
②遺言で信託を設定する場合(信託法3条2号),信託は遺言の効力の発生によって効力を生ずる(同法4条2項)から,遺言執行者が受託者へ送金することは信託を成立させる行為ではなく,信託財産となる金銭を受託者に移転する遺言の執行である。
③受託者に指定された者は引受けを義務付けられず,引受けの催告に確答しなければ引受けをしなかったものとみなされる(信託法5条2項)から,予備的な受託者を遺言で定めておくことが考えられる。
④遺言執行者は,換価,費用・債務・税金の留保額の確定,受託者への引渡し及び残額の分配の順に執行し,計算書,振込記録,受領書及び完了報告を残す。
⑤清算金が予定額に足りない場合の減額順序,受益者の先死亡と判断能力の低下,信託の終了事由及び残余財産の帰属は,遺言で定めておかないと法律の補充規定や解釈に委ねられる。
⑥遺言による信託の受益者は,信託に関する権利を遺言者から遺贈により取得したものとみなされる(相続税法9条の2第1項)。

第2 「遺言信託」という言葉の二つの意味
1 銀行サービスとしての遺言信託

信託協会の解説ページは,「遺言信託」を,信託銀行等が遺言書作成の相談から遺言書の保管,遺言の執行までの相続手続を支援するサービスとして説明している。
このサービスの中核である遺言の執行は,金融機関の信託業務の兼営等に関する法律(以下「兼営法」という。)1条1項4号が,認可を受けた金融機関の営むことができる業務として掲げる「財産に関する遺言の執行」に当たる。
そのため,信託銀行と「遺言信託」の契約をしただけでは,遺言者の財産が受託者に移るわけではなく,信託法上の信託財産や受益権は生じない。
信託銀行の遺言信託を利用するときの費用や辞退の問題は,信託銀行の遺言執行とはで扱っている。

2 財産管理制度としての信託

信託法2条1項は,信託を,同法3条各号の方法により,特定の者が一定の目的に従い財産の管理又は処分等をすべきものとすることと定義している。
信託財産は受託者に属する財産であり(同法2条3項),受託者は信託行為の定めに従い信託財産の管理又は処分等をすべき義務を負い(同条5項),受益者は受益権を有する(同条6項・7項)。
本記事で「信託」というときは,この信託法上の信託を指す。
銀行サービス,遺言による信託及び遺言代用信託の違い全般は,遺言信託の記事で説明している。

第3 信託を設定する方法と時期
1 生前に設定した信託へ拠出する場合

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遺言書を開示した信託銀行はいつ遺言執行者に就任するのか―指定,死亡通知,就職の審査,就職通知及び任務開始の違い(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論1 この記事の対象2 結論第2 指定から執行完了までの5段階1 5段階の整理2 信託銀行の公開案内での書き方第3 就職の承諾が任務開始の基準となること1 民法1007条の定め2 開示や資料提出は就職の承諾を意味しないこと第4 就職の承諾前でも相続人の処分は制限されること1 最高裁昭和62年4月23日判決2 承諾前でも制限される理由3 現行民法1013条2項ただし書4 制限が及ぶ範囲第5 相続人側が確認し,働きかけられること1 日付を分けて確認する2 民法1008条の催告3 辞退された場合の家庭裁判所による選任4 就職後の辞任には家庭裁判所の許可が必要であること第6 出典1 法令2 裁判例3 法務省の公表資料4 文献5 信託銀行及び業界団体の公開案内
第1 この記事の対象と結論
1 この記事の対象

信託銀行の遺言信託を利用した遺言者が亡くなると,信託銀行は保管していた遺言書を相続人等に開示し,その後,遺言執行者として相続手続を進めるのが一般的な流れである。
もっとも,遺言書で信託銀行が遺言執行者に指定されていても,遺言書を開示した時点で,その銀行が遺言執行者として任務を開始しているとは限らない。
本記事は,信託銀行がいつ遺言執行者に就任するのかを,民法の用語である「就職」を用いて,遺言書での指定,死亡連絡と遺言書の開示,就職の審査,就職の承諾と通知及び任務の遂行という段階に分けて説明する。
本記事は,令和8年9月25日時点でe-Gov法令検索に掲載されている民法の条文,裁判所ウェブサイトに掲載された最高裁判所の判決,法務省の公表資料,立案担当者の解説書並びに信託銀行及び信託協会の公開案内に基づいて作成した。

2 結論

遺言執行者として任務を行う義務が生じる基準は,遺言書の開示ではなく,指定された者が就職を承諾した時である(民法1007条1項)。
他方で,相続人が相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができないという制限(民法1013条1項)について,最高裁判所は,指定された者が就職を承諾する前であっても及ぶとしている(最高裁昭和62年4月23日第一小法廷判決)。
そのため,遺言書の開示から就職の承諾までの間は,信託銀行がまだ遺言執行者として執行事務を始めていない一方で,相続人も遺言の内容に反する処分を自由にはできない期間となる。
相続人側は,遺言書の開示日,就職を承諾した日,就職通知書の日付及び遺言の内容の通知を別々に確認し,就職の判断が長引く場合には民法1008条の催告を検討することになる。

第2 指定から執行完了までの5段階
1 5段階の整理

信託銀行が遺言執行者に指定された場合の流れを,本記事では次の5段階に整理する。
このうち②と③は,指定された信託銀行が就職を承諾する前の段階である。

段階主な出来事民法上の位置付け相続人側が確認すること①遺言書で指定遺言者が公正証書遺言で信託銀行を遺言執行者に指定し,銀行が遺言書を保管する遺言で遺言執行者を指定することができる(1006条1項)。遺言の効力は遺言者の死亡の時から生ずる(985条1項)遺言書の写し,遺言信託の約定書②死亡連絡・遺言開示通知人が死亡を連絡し,銀行が相続人等に遺言書を開示する就職の承諾前。ただし,相続人の処分の制限(1013条)は既に及ぶ開示を受けた日,開示を受けた相続人等の範囲③就職の審査相続人の確定,財産の変動,遺言内容の実現可能性を銀行が調査する就職の承諾前。承諾するか辞退するかの判断過程審査の見込み期間,提出を求められた資料④就職承諾・就職通知銀行が就職を承諾し,相続人に就職を通知する承諾により直ちに任務を行う義務が生じ(1007条1項),任務の開始時に遅滞なく遺言の内容を通知する(同条2項)就職を承諾した日,通知書の日付,遺言の内容の記載の有無⑤財産調査・換価・分配・完了報告財産調査,財産目録の作成・交付,換価・名義変更・分配,完了の報告財産目録の作成・交付(1011条1項),遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務(1012条1項)財産目録,執行の対象となる財産の範囲,費用

表の各段階は,次の2で紹介する信託銀行の公開案内に記載された流れを,民法の条文に対応させて並べたものである。
銀行ごとの手続の細部や所要期間は,遺言信託の約定書及び銀行からの個別の案内で確認することになる。
就職した後の財産目録,換価・名義変更,税務等の具体的な進み方は,信託銀行の遺言執行は何か月かかるかで説明している。
①の段階で遺言者と家族が確認しておくべき費用や辞退の条件は信託銀行の遺言執行とはで,⑤の段階で株式・投資信託等を売却して分配する際の問題は遺言執行者が相続株式・有価証券を売却して分配する際の実務上の問題点で扱っている。
遺言で清算金の一部を信託へ拠出するよう定めている場合は,遺言執行者の就職とは別に受託者の引受けも確認する必要があり,その手順は清算型遺言の清算金から信託を設定する場合で説明している。

2 信託銀行の公開案内での書き方
(1) 開示と就職を別の項目にしている例

三菱UFJ信託銀行の「遺言信託[遺心伝心]」の手続の流れの案内は,遺言の執行の段階として「ご逝去のご通知」,「遺言書の開示」,「遺言執行者への就職」及び「財産調査へのご協力」を順に別の項目として掲げている。
同案内は,通知人から逝去の通知を受けると相続人等関係者に保管している遺言書を開示するとした上で,就職については「相続人確定・財産変動等、遺言内容の実現性を調査・確認のうえ、遺言執行者に就職いたします。」と記載している。
この案内の上でも,遺言書の開示と遺言執行者への就職の間には,相続人の確定や遺言内容の実現性の調査という段階が置かれている。

(2) 開示と就任を一つの項目にまとめている例

三井住友信託銀行の遺言信託の案内は,「遺言書のご披露と遺言執行者就任」を一つの項目とし,遺言書の内容を相続人・受遺者に披露した「その後」に遺言執行者に就任すると記載している。
信託協会の遺言信託の案内も,相続開始後の流れとして,信託銀行等が遺言書の内容を相続人などに披露し,遺言執行者となって執行業務を始めることを一つの項目で説明している。

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死亡保険金が特別受益に準じて持戻しの対象となる「特段の事情」―最高裁平成16年10月29日決定と下級審の肯定例・否定例(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論1 この記事の対象2 結論の要約第2 最高裁平成16年10月29日決定1 事案2 判示3 特段の事情の考慮要素4 当てはめ第3 下級審の判断例1 肯定例①:保険金が遺産の総額とほぼ同額だった例2 肯定例②:婚姻期間の短い妻が保険金を受け取った例3 否定例:保険金が遺産の6%余りにとどまった例4 3件の比較第4 持戻しの対象となった場合の計算第5 周辺の論点1 遺留分との関係2 相続税の扱いとは別の問題である3 受取人の変更の時期と経緯第6 主張・立証の進め方1 持戻しを求める側2 持戻しを争う側3 生前に保険を使って特定の相続人へ多く残したいとき4 受取人変更の有効性自体が争われる場合第7 出典1 法令2 裁判例
第1 この記事の対象と結論
1 この記事の対象
(1) 問題となる場面

被相続人が自分を保険契約者・被保険者とし,相続人の一人を死亡保険金受取人とする生命保険に加入していた場合,受取人になった相続人だけが多額の保険金を受け取り,他の相続人との間に不公平が生じることがある。
遺産分割の場面で,他の相続人がその保険金を特別受益として持ち戻すべきだと主張することは多い。
本記事は,最高裁判所がこの問題について示した判断の枠組みと,その後に持戻しを認めた例・認めなかった例を整理する。

(2) 本記事の資料と基準日

本記事は,令和8年9月25日時点でe-Gov法令検索に掲載されている民法・相続税法の条文,裁判所ウェブサイトに掲載された最高裁判所の裁判例及び判例秘書で全文を確認した下級審の裁判例に基づいて整理したものである。
下級審の3件はいずれも裁判所ウェブサイトに掲載されていないので,判例秘書の判例番号を併記する。

2 結論の要約

死亡保険金請求権は,受取人の固有の権利であり,原則として民法903条1項の特別受益に当たらない。
ただし,保険金受取人である相続人と他の相続人との間の不公平が到底是認することができないほど著しいと評価すべき特段の事情があれば,同条の類推適用により,保険金が特別受益に準じて持戻しの対象となる。
特段の事情の有無は,保険金の額,その額の遺産の総額に対する比率,同居の有無や介護等への貢献の度合いなどの被相続人との関係,各相続人の生活実態等を総合して判断される。
下級審では,保険金が遺産の総額とほぼ同額であった例と,婚姻期間の短い妻の特別受益額が遺産の約61%に当たった例で持戻しが認められ,遺産の6%余りにとどまり,受取人が被相続人と長年同居して入通院の世話をしていた例では認められなかった。

第2 最高裁平成16年10月29日決定
1 事案

最高裁判所第二小法廷平成16年10月29日決定(平成16年(許)第11号,民集58巻7号1979頁)は,両親(決定文では甲・乙)の遺産分割について,子の一人が受け取った死亡保険金が特別受益に当たるかが争われた事案である。
遺産分割の対象として残っていた土地の評価額は,第1審の鑑定の結果によれば合計1149万円であった。
受取人となった子は,乙を保険契約者・被保険者とする2口の養老保険について,合計約574万円(500万2465円と73万7824円)の死亡保険金を受け取っていた。
この子は,甲・乙のために自宅を増築して甲・乙を住まわせ,認知症の状態になった甲の介護を乙が行うのを手伝っていた。
他の子らは,両親と同居していなかった。

2 判示

同決定は,被相続人が自己を保険契約者及び被保険者とし,共同相続人の一人又は一部の者を保険金受取人と指定して締結した養老保険契約に基づく死亡保険金請求権は,保険金受取人が自らの固有の権利として取得するのであって,保険契約者又は被保険者から承継取得するものではなく,これらの者の相続財産に属するものではないとした。
また,死亡保険金請求権は,被保険者が死亡した時に初めて発生するものであり,保険契約者の払い込んだ保険料と等価関係に立つものではなく,被保険者の稼働能力に代わる給付でもないから,実質的に保険契約者又は被保険者の財産に属していたものとみることはできないとした。
その上で,死亡保険金請求権又はこれを行使して取得した死亡保険金は,民法903条1項に規定する遺贈又は贈与に係る財産には当たらないとした。

もっとも,同決定は,保険料は被相続人が生前保険者に支払ったものであり,被相続人の死亡により保険金受取人である相続人に死亡保険金請求権が発生すること等に鑑み,「保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生ずる不公平が民法903条の趣旨に照らし到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合には,同条の類推適用により,当該死亡保険金請求権は特別受益に準じて持戻しの対象となると解するのが相当である。」とした。

3 特段の事情の考慮要素

同決定は,特段の事情の有無について,「保険金の額,この額の遺産の総額に対する比率のほか,同居の有無,被相続人の介護等に対する貢献の度合いなどの保険金受取人である相続人及び他の共同相続人と被相続人との関係,各相続人の生活実態等の諸般の事情を総合考慮して判断すべきである。」とした。
同居の有無と介護等への貢献の度合いは,被相続人との関係を示す事情の例として挙げられている。

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余命宣告を受けた後に特定の相続人へ多くのお金を残す方法―一時払終身保険,遺言代用信託,生前贈与及び遺言の比較(非課税枠・特別受益・遺留分)(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論1 この記事の対象2 結論の要約第2 「生前に渡す」と「死亡時に渡す」の区別1 生前に渡す手段は贈与である2 死亡時に確実に渡す手段第3 終身保険を使う場合1 死亡保険金は受取人の固有の権利である2 相続税の非課税枠3 原則として特別受益に当たらない4 原則として遺留分の算定にも入らない5 余命宣告を受けた後に加入できるか6 既に加入している保険の受取人を変更する第4 遺言代用信託を使う場合1 仕組み2 相続税に非課税枠はない3 特別受益と遺留分4 遺言代用信託が向いている場面第5 生前贈与を使う場合1 暦年課税の贈与と加算期間2 相続時精算課税3 民法上の扱い第6 数値例による比較1 前提2 比較表第7 手段の選び方1 比較の一覧2 組合せの例3 余命宣告を受けた後に急ぐべきこと第8 出典1 法令2 裁判例3 所管行政機関の解説4 商品資料
第1 この記事の対象と結論
1 この記事の対象
(1) 問題となる場面

余命宣告を受けた人が,同居して介護をしてくれた子,障害のある子,配偶者等,特定の相続人に他の相続人より多くのお金を残したいと考えることがある。
その手段としては,終身保険(特に保険料を一度に払い込む一時払終身保険)の保険金受取人をその相続人にする方法,信託銀行の遺言代用信託(例えば三菱UFJ信託銀行の「ずっと安心信託」)を使う方法,生前贈与をする方法及び遺言を書く方法が考えられる。
本記事は,これらの手段を,相続税の非課税枠,特別受益,遺留分,余命宣告後に実際に利用できるか等の観点から比べる。

(2) 本記事の資料と基準日

本記事は,令和8年9月25日時点でe-Gov法令検索に掲載されている民法・保険法・相続税法・租税特別措置法・信託法の条文,裁判所ウェブサイトに掲載された最高裁判所の裁判例,判例秘書で確認した下級審の裁判例,国税庁のタックスアンサー並びに保険会社及び信託銀行が公表している商品資料に基づいて整理したものである。
商品の内容(加入年齢,金額の上限,手数料等)は改定されることがあるので,申込みの前に最新の約款と商品概要を確かめる必要がある。

2 結論の要約

特定の相続人に多く渡すことが目的であれば,保険に加入できる限り,被相続人が保険契約者・被保険者・保険料負担者となり,その相続人を死亡保険金受取人とする終身保険が有利である。
死亡保険金は受取人の固有の権利であり,相続人が受け取る死亡保険金には「500万円×法定相続人の数」の非課税枠があり,原則として特別受益にも遺留分の算定にも入らないからである。
ただし,余命宣告を受けた後は告知が必要な保険には通常は加入できず,告知不要型の一時払終身保険でも,入院中の人や余命宣告を受けた人の申込みを引き受けないと明記している商品が多い。
そのため,余命宣告を受けた後は,既に加入している保険の受取人を変更できないかを先に確かめるべきである。
遺言代用信託は,死亡後すぐに指定した相続人へお金を渡す手段としては有用であるが,非課税枠はなく,特別受益や遺留分の対象となる可能性があるので,多く渡す手段としては保険より弱い。
生前贈与は,相続開始前の一定期間の贈与が相続税の計算に加算され,民法上も特別受益や遺留分の算定の対象となるので,余命宣告を受けた後の手段としては効果が小さい。

第2 「生前に渡す」と「死亡時に渡す」の区別
1 生前に渡す手段は贈与である

存命中にまとまったお金を相続人に渡せば,それは贈与であり,贈与税と,相続開始前の贈与の加算の問題が生じる。
民法上も,生計の資本としての贈与は特別受益となり得る(民法903条1項)。
詳しくは第5で説明する。

2 死亡時に確実に渡す手段

終身保険と遺言代用信託は,どちらも生前に手配しておき,本人の死亡時に指定した相続人へお金が届く仕組みである。
遺言も死亡時に効力を生じるが,遺言執行や遺産分割の手続を経るので,預貯金を受け取るまでに時間がかかることがある。
「生前にまとまったお金を渡したい」という相談の多くは,実際には「生きているうちに手配して,死亡したら確実に特定の相続人へ渡したい」という意味であるから,本記事では主に死亡時に渡す手段を比べる。

第3 終身保険を使う場合
1 死亡保険金は受取人の固有の権利である

保険法42条は,「保険金受取人が生命保険契約の当事者以外の者であるときは、当該保険金受取人は、当然に当該生命保険契約の利益を享受する。」と定める。
最高裁判所第二小法廷平成16年10月29日決定(平成16年(許)第11号,民集58巻7号1979頁)は,被相続人が自己を保険契約者及び被保険者とし,共同相続人の一人を保険金受取人と指定した養老保険契約に基づく死亡保険金請求権について,保険金受取人が自らの固有の権利として取得するのであって,相続財産に属するものではないとした。

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遺言で換金して分けるとされた株式・投資信託を現物で受け取れるか―遺言の型,全員の合意,遺言執行者の権限及び税金(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論1 この記事の対象2 結論の要約第2 換金を指示する遺言の型1 遺産分割の方法として換金を指定する遺言2 清算型遺贈3 型を見分ける手掛かり第3 証券と換金の実務上の前提1 株式・投資信託は当然には分割されない2 被相続人名義の口座では売却しない3 遺言執行者の換金権限第4 現物で受け取るための要件1 相続人全員と受遺者全員の合意2 遺言執行者がいる場合3 遺言執行者がいない清算型遺贈4 価額の基準を合意する5 遺言の存在を知った上で合意したことを明らかにする6 清算金の一部を信託へ拠出する遺言の場合第5 税金の違い1 相続税と贈与税2 遺言執行者が換金した場合の譲渡所得3 現物で受け取って後で売る場合4 NISA口座の資産第6 手続の進め方1 協議前の確認2 協議書に書く事項3 関連記事第7 出典1 法令2 裁判例3 所管行政機関の解説・質疑応答及び研究資料4 文献
第1 この記事の対象と結論
1 この記事の対象
(1) 問題となる場面

遺言書に,「有価証券を売却し,その代金を長男と長女に2分の1ずつ相続させる」,「遺言執行者において一切の財産を換価し,債務と費用を控除した残額を甲・乙・丙に遺贈する」等と書かれていることがある。
相続人の側では,相場が下がっているので今は売りたくない,長期保有の株式をそのまま持ち続けたい,売却による税金を避けたい等の理由から,換金せずに株式や投資信託のまま受け取りたいと考えることがある。
本記事は,このような場合に現物で受け取ることができるか,誰の合意が要るか,遺言執行者の権限がどうなるか,税金がどう変わるかを整理する。

(2) 本記事の資料と基準日

本記事は,令和8年9月25日時点でe-Gov法令検索に掲載されている民法・所得税法・租税特別措置法の条文,裁判所ウェブサイトに掲載された最高裁判所の判決,国税庁の質疑応答事例,立案担当者の解説書及び実務書に基づいて整理したものである。
遺言と異なる遺産分割一般の要件と裁判例は,遺言と異なる遺産分割協議はできるかで詳しく説明している。

2 結論の要約

換金を指示した遺言があっても,相続人全員と受遺者全員が合意すれば,株式や投資信託を現物で受け取る内容の遺産分割をすることは可能と考えられる。
遺言執行者が就職している場合には,相続人及び受遺者全員の合意だけで換金の指示を変更するのではなく,遺言執行者を協議に加え,その明示の同意を得る必要があると考えるべきである。
証券会社がその方法による移管を受け付けるか,及び課税関係がどうなるかも,実行前に確認しなければならない。
遺言執行者がいない清算型遺贈では,遺贈を履行する義務を負う相続人全員の協力が要る。
税金の面では,遺言執行者が換金すれば,その譲渡所得を誰が申告するかが問題となり,現物で受け取って後で売れば,受け取った人が被相続人の取得費を引き継いで譲渡所得を申告することになる。

第2 換金を指示する遺言の型
1 遺産分割の方法として換金を指定する遺言

民法908条1項は,「被相続人は、遺言で、遺産の分割の方法を定め、若しくはこれを定めることを第三者に委託し、又は相続開始の時から五年を超えない期間を定めて、遺産の分割を禁ずることができる。」と定める。
相続人に対して「株式を換金してその代金を2分の1ずつ相続させる」とする遺言は,遺産分割の方法として換価分割を指定したものと読める場合がある。

2 清算型遺贈

「遺言執行者において,不動産・有価証券・預貯金その他一切の財産を換価売却し,債務・費用を控除した残額を遺贈する」という遺言は,一般に清算型遺贈と呼ばれる。
実務書は,このような遺言は遺言執行者の権限が一切の財産に及ぶので包括遺贈の一種であると考えられるとした上で,実質的には遺言の効力発生時点において割合的包括遺贈の効力が発生しており,遺贈義務のみが法定相続人あるいは相続財産法人に帰属すると解釈し,換価売却して現金化してから遺贈義務を果たすのが清算型遺贈の本質であると考えるべきであるとしている(遺言・相続実務問題研究会編,野口大・藤井伸介編集代表『事案から学ぶ 履行困難な遺言執行の実務』日本加除出版,2023年,229頁~230頁)。
同書は,預貯金・有価証券・動産類については,遺言執行者の権限により預貯金を解約し,有価証券についても解約あるいは売却することにより換価作業を行えるとしている(同書231頁)。

3 型を見分ける手掛かり

次の点を遺言全文から確かめる。
①「相続させる」「遺贈する」「取得させる」のどの文言か
②換金の対象が特定の銘柄・口座か,一切の財産か
③換金の主体として遺言執行者が指定されているか
④代金の受取人が相続人だけか,相続人でない者を含むか

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遺言と異なる遺産分割協議はできるか―相続人・受遺者全員の合意,遺言執行者の同意,分割の禁止及び贈与税(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論1 この記事の対象2 結論の要約第2 遺言の型によって法律構成が変わる1 特定遺贈――受遺者が放棄すれば遺産に戻る2 包括遺贈――受遺者は遺産分割の当事者になる3 「相続させる」遺言――相続開始時に承継が済んでいる第3 合意に加わる人1 相続人全員2 受遺者3 相続人でない受遺者に財産を取得させる場合第4 遺言執行者がいる場合1 条文2 遺言執行者の同意を得た合意を有効とした裁判例3 遺言執行者の同意がない協議の扱い4 実務書の説明5 遺言執行者の立場と判断第5 遺言による分割の禁止第6 遺言の存在を知らずに協議した場合第7 税務・登記・金融機関の手続1 相続税と贈与税2 登記3 金融機関4 遺言による信託と受益権がある場合第8 手続の進め方1 協議前の確認2 協議書の書き方3 関連記事第9 出典1 法令2 裁判例3 所管行政機関の解説・質疑応答4 文献
第1 この記事の対象と結論
1 この記事の対象
(1) 問題となる場面

遺言書があるのに,相続人全員が,遺言とは違う分け方を望むことがある。
例えば,「全財産を長男に相続させる」という遺言があるが,長男も含めて母に自宅を残したい場合や,「株式を換金して分けよ」という遺言があるが,相続人が株式をそのまま受け取りたい場合である。
このような場合に,相続人全員の話合いで遺言と異なる遺産分割をすることができるか,誰の合意が要るか,遺言執行者がいるときはどうなるか,贈与税がかかるかが問題になる。

(2) 本記事の資料と基準日

本記事は,令和8年9月25日時点でe-Gov法令検索に掲載されている民法の条文,裁判所ウェブサイトに掲載された最高裁判所の判決,判例秘書に収録された下級審判決の全文,国税庁の質疑応答事例及び実務書に基づいて整理したものである。
東京地裁平成13年6月28日判決等は判例秘書の判例番号で特定する。さいたま地裁平成14年2月7日判決は,裁判所ウェブサイトで判決全文を確認した。

2 結論の要約
(1) 五つの確認事項

遺言と異なる遺産分割を検討するときは,次の順序で確認する。
①遺言が,特定遺贈,包括遺贈,「相続させる」遺言(特定財産承継遺言)のいずれに当たるか
②合意に加わる必要がある人は誰か(相続人全員のほか,受遺者を含むか)
③遺言執行者がいるか,いる場合にその同意を得られるか
④遺言で遺産の分割が禁じられていないか
⑤相続税・贈与税,登記及び金融機関の手続をどうするか

(2) 短い結論

相続人全員と受遺者全員が合意すれば,遺言と異なる内容で遺産を分けることは,実務上広く行われている。
遺言執行者がいない場合は,この合意だけで足りると整理されている。
遺言執行者がいる場合は,遺言執行者の同意を得て協議するのが安全である。
遺言執行者の同意がない協議の効力については,下級審の判断が分かれている。
国税庁が贈与税を課さないと回答したのは,特定の相続人へ遺産全部を与える遺言があり,相続人全員で異なる分割をした事例である。複数の条項を持つ遺言の一部を先に執行し,残る財産だけについて取得者を変える場合まで,同じ取扱いと断定することはできない。
申告期限までに協議が成立しない場合には,遺言によって取得者が確定した財産と真に未分割の財産を区別し,前者は原則として遺言どおり,後者は相続税法55条により申告する。

第2 遺言の型によって法律構成が変わる
1 特定遺贈――受遺者が放棄すれば遺産に戻る
(1) 条文

民法986条1項は,「受遺者は、遺言者の死亡後、いつでも、遺贈の放棄をすることができる。」と定め,同条2項は,「遺贈の放棄は、遺言者の死亡の時にさかのぼってその効力を生ずる。」と定める。
民法995条は,遺贈が放棄によってその効力を失ったときは,受遺者が受けるべきであったものは,遺言者が別段の意思を表示した場合を除き,相続人に帰属すると定める。

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親と未成年の子の利益相反と特別代理人―遺産分割・相続放棄・担保提供の判断基準と代理権の濫用(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 本記事の対象2 結論第2 親権者の代理権と利益相反の規律1 親権者の代理権2 民法826条3 父母が共同で親権を行う場合4 成年後見人への準用第3 利益相反行為の判断基準―外形で判断する1 判例の基準2 外形で判断することの意味3 昭和42年判決の事案第4 典型的な場面の判断1 遺産分割協議2 相続放棄3 担保の提供・保証4 親から子への贈与を受ける場合第5 特別代理人を選任せずにした行為の効力1 無権代理行為となる2 成年に達した後の追認3 選任された特別代理人自身が利益相反する場合第6 利益相反に当たらない場合の代理権の濫用1 民法107条2 親権者の代理権の濫用に関する判例3 現行法の下での読み方4 代理行為の時点の目的と,代金を使い込まれた場合の子の救済第7 特別代理人の選任の申立て1 申立ての概要2 申立ての前に確認すること3 手続の場面で求められる例4 未成年の子による扶養料請求第8 関連記事第9 出典1 法令2 裁判例3 裁判所の手続案内
第1 本記事の対象と結論
1 本記事の対象

本記事は,親権者である父又は母が未成年の子を代理して法律行為をする場面のうち,親と子の利益が相反するため家庭裁判所に特別代理人の選任を請求しなければならないのはどのような場合かを扱う。
典型は,父が死亡して母と未成年の子が共同相続人となった場合の遺産分割協議,子の相続放棄,及び親の借入れのために子の不動産に担保を設定する場合である。
あわせて,利益相反行為に当たらない場合でも問題となる代理権の濫用を扱う。

調査基準日は令和8年9月25日である。
条文はe-Gov法令検索の現行条文を,裁判例は裁判所HPの裁判例検索で全文を確認した最高裁判例を,申立ての手続は裁判所HPの手続案内を用いた。
成年後見人と本人の利益相反(民法860条による826条の準用)は,相続人に認知症・精神障害等で判断能力を欠く人がいる場合の遺産分割及び成年後見人は本人の古い借金を返してよいかで扱っている。

2 結論

①親権を行う者とその子との利益が相反する行為については,親権を行う者は,子のために特別代理人を選任することを家庭裁判所に請求しなければならない(民法826条1項)。
②利益相反行為に当たるかどうかは,行為の外形で決すべきであり,親権者の意図や行為の実質的な効果を問題とすべきではないとするのが判例である。
③親権者と未成年の子が共同相続人となった場合に,親権者が子を代理して遺産分割協議をすることは,親権者と子の利益相反行為となる。
親権者が数人の子を代理して遺産分割協議をする場合も,子同士の利益相反が問題となる。親権者自身が共同相続人であるときは各子について特別代理人を要し,親権者が相続人でないときは親権者が代理する一人を除く各子について別々の特別代理人を要する。
④親権者が特別代理人を選任せずに利益相反行為をしたときは無権代理行為となり,子が成年に達した後に追認すれば効力を生じる。
⑤外形上は利益相反行為に当たらない行為(子の名義での借入れ,第三者の債務のための担保提供等)でも,代理権の濫用として子に効果が及ばないことがある(民法107条)。
ただし,判例は,親権者の広範な裁量を前提に,濫用に当たる場合を限定している。
⑥特別代理人の選任は,子の住所地の家庭裁判所に申し立てる。
申立てには,遺産分割協議書案など利益相反に関する資料を付ける。

第2 親権者の代理権と利益相反の規律
1 親権者の代理権

民法824条本文は,「親権を行う者は、子の財産を管理し、かつ、その財産に関する法律行為についてその子を代表する。」と定める。
親権は,成年に達しない子について,その子の利益のために行使しなければならない(同法818条1項)。
親権者は,子の財産に関する法律行為について広い代理権を持つが,その代理権には,次の利益相反行為の規律と,代理権の濫用の規律(第6)による制限がある。

2 民法826条

民法826条1項は,「親権を行う父又は母とその子との利益が相反する行為については、親権を行う者は、その子のために特別代理人を選任することを家庭裁判所に請求しなければならない。」と定める。
同条2項は,「親権を行う者が数人の子に対して親権を行う場合において、その一人と他の子との利益が相反する行為については、親権を行う者は、その一方のために特別代理人を選任することを家庭裁判所に請求しなければならない。」と定める。
1項は親と子の利益相反,2項は同じ親権に服する子どうしの利益相反を対象とする。

3 父母が共同で親権を行う場合

父母は,その双方が親権者であるときは,原則として共同して親権を行う(民法824条の2第1項)。

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特別寄与料の請求―請求できる親族とできない人,相手方と負担額,6か月・1年の期間制限及び相続税(AI作成)

目次第1 特別寄与料とは何か1 相続人ではない親族の貢献に報いる金銭請求2 寄与分との違い第2 請求できる親族と請求できない人1 被相続人の親族であること2 除かれる人3 相続人の配偶者が介護した場合第3 特別の寄与の要件1 無償の療養看護その他の労務の提供2 財産の維持又は増加3 「特別の寄与」の程度4 相続開始後の行為は含まれない第4 誰に,いくら請求できるか1 請求の相手方は相続人である2 相続人ごとの負担額3 遺言で相続分がないとされた相続人4 金額の決まり方と上限第5 期間制限と手続1 6か月と1年の期間制限2 協議,調停及び審判3 遺産分割とは別の手続である第6 相続税1 特別寄与料を受け取る側2 特別寄与料を支払う側第7 請求する側と請求される側の確認事項1 請求する側2 請求される側第8 関連記事第9 出典1 法令2 裁判例3 裁判所の資料
第1 特別寄与料とは何か
1 相続人ではない親族の貢献に報いる金銭請求

被相続人の親族が,無償で療養看護その他の労務を提供し,被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした場合,その親族は,相続の開始後,相続人に対し,寄与に応じた額の金銭の支払を請求することができる(民法1050条1項)。
この金銭を「特別寄与料」といい,請求する親族を「特別寄与者」という。
典型例は,亡くなった親の介護を長年担ってきた長男の妻のように,介護の担い手ではあったものの相続人ではない親族である。

本記事は,令和8年9月25日現在の法令及び確認できた裁判例に基づき,特別寄与料を請求できる人とできない人,請求の相手方と負担額,期間制限,手続及び相続税を整理するものである。
裁判所の特別の寄与に関する処分調停の案内のとおり,令和元年7月1日より前に開始した相続については,この申立てはできない。

2 寄与分との違い

相続人自身の貢献は,遺産分割の中で具体的相続分を修正する寄与分(民法904条の2)によって考慮される。
これに対し,特別寄与料は,遺産分割に参加して遺産の一部を取得する制度ではなく,相続人に対して金銭の支払を求める制度である。
特別寄与料が認められても,特別寄与者が土地の持分その他の遺産を当然に取得するわけではない。

項目寄与分特別寄与料主張できる人共同相続人相続人ではない被相続人の親族(相続放棄をした者,相続欠格者及び廃除された者を除く。)対象となる行為事業に関する労務の提供,財産上の給付,療養看護その他の方法(民法904条の2第1項)無償の療養看護その他の労務の提供に限られる効果遺産分割における具体的相続分の修正相続人に対する金銭の支払請求手続遺産分割の手続の中で主張し,審判では寄与分を定める処分の申立てが必要協議が調わなければ,家庭裁判所の特別の寄与に関する処分(調停・審判)期間相続開始から10年を経過した後の遺産分割では原則として考慮されない(民法904条の3)相続の開始及び相続人を知った時から6か月,相続開始の時から1年

寄与分の主張方法は,遺産分割における寄与分の主張方法―費用対効果・証拠・申立時期で扱っている。

第2 請求できる親族と請求できない人
1 被相続人の親族であること

特別寄与者は,被相続人の親族でなければならない。
親族とは,6親等内の血族,配偶者及び3親等内の姻族である(民法725条)。

子の配偶者は1親等の姻族であるから,長男の妻が義理の親を介護した場合は,親族の要件を満たす。
被相続人に子がいて兄弟姉妹が相続人とならない場合の兄弟姉妹,子が生存していて相続人とならない孫なども,親族に当たる。
後記第3の3の静岡家庭裁判所の審判も,被相続人の子2人が相続人である事案で,被相続人の弟が申し立てたものである。

他方,内縁の配偶者,友人,近所の人,事業者等は,親族ではないから,どれほど献身的に介護をしても特別寄与者にはならない。
相続人がいない場合の特別縁故者への財産分与(民法958条の2)は別の制度であり,相続財産清算人とはで扱っている。

2 除かれる人

民法1050条1項は,特別寄与者から「相続人、相続の放棄をした者及び第八百九十一条の規定に該当し又は廃除によってその相続権を失った者」を除いている。
したがって,次の人は特別寄与料を請求できない。

① 相続人(自らの貢献は寄与分として主張する。)
② 相続の放棄をした者
③ 相続欠格者(民法891条)
④ 廃除によって相続権を失った者(民法892条,893条)

(続きを読む...)特別寄与料の請求―請求できる親族とできない人,相手方と負担額,6か月・1年の期間制限及び相続税(AI作成)

信託銀行の遺言執行は何か月かかるか―就任・財産目録・換価・精算の流れ(AI作成)

目次第1 信託銀行の遺言執行は何か月かかるか1 一律の期間はない2 四つの節目で予定を確認する3 遅延要因と法定期限を分ける第2 最初に分ける四つの担当領域第3 相続開始後の手続とスケジュール1 死亡通知から就職まで2 就職後から財産目録まで3 名義変更・換価から完了報告まで第4 銀行の財産目録と全遺産は一致しない1 三つの財産範囲2 目録に載ることと銀行が処理することは別である第5 預貯金・有価証券の換価と名義変更1 遺言の内容が出発点となる2 換価の時期と価格3 現物で受け取る場合の準備第6 不動産登記と遺言作成日の確認第7 債務・税務・保険等は別工程で管理する1 債務承継2 税務申告と納税資金3 保険・年金・家財等第8 相続人の協力が得られない場合第9 費用・追加財産・完了後の確認第10 弁護士が確認するチェックリスト第11 関連記事第12 出典・参考資料1 法令・法務省資料2 裁判例3 税務資料4 信託協会・金融機関の公式資料

信託銀行の遺言執行には一律の法定期間がなく,死亡通知から就職,財産目録,換価・名義変更,精算・完了までの各段階が,資料,財産の種類,相続人の協力及び紛争の有無によって数か月単位で変わり得る。
相続税の10か月期限その他の法定期限と,銀行が示す予定日は別に管理する必要がある。

第1 信託銀行の遺言執行は何か月かかるか
1 一律の期間はない

本記事は,令和8年10月16日現在の法令及び公開資料に基づき,銀行又は信託銀行が商品として提供する「遺言信託」のうち,相続開始後に信託銀行が遺言執行者へ就職する場面を扱う。
遺言によって信託法上の信託を設定する制度や,遺言のない相続について相続人全員から委任を受ける遺産整理業務とは異なる。

何か月で終わるかは,死亡通知の日だけでは算定できない。
信託銀行が就職を承諾するまでの審査期間,財産調査,預貯金・有価証券の換価又は名義変更,不動産登記,税務,相続人の協力及び紛争の有無を確認する必要がある。

2 四つの節目で予定を確認する

工程表は,①死亡通知・遺言開示から就職承諾まで,②就職通知から財産目録まで,③換価・名義変更から精算まで,④交付から完了報告までの四つに分けて確認する。
各節目について,開始条件,担当者,必要資料及び予定日を書面で確かめると,遅れている工程を特定しやすい。

特に,遺言書で信託銀行が指定されていても,相続開始後の調査と就職承諾を経るまで,その銀行が遺言執行者として任務を開始したとは限らない。
遺言書の開示日,就職を承諾した日,就職通知書の日付及び任務開始の通知を区別する必要がある。

3 遅延要因と法定期限を分ける

遺言執行が延びる主な要因は,戸籍・財産資料の不足,未知の口座・債務,有価証券の受取口座,不動産登記,相続人間の照会,税務及び紛争である。
銀行が調査・処理する遺言執行対象財産が,被相続人の全財産又は相続税申告対象財産と一致しない場合もある。

相続放棄の熟慮期間,準確定申告及び相続税申告等の法定期限は,銀行の完了予定日を待って自動的に延びるわけではない。
銀行の工程とは別に,弁護士,税理士,司法書士及び相続人の担当期限を管理すべきである。

就職に至るまでの段階と,就職の承諾前でも相続人の処分が制限される関係は,遺言書を開示した信託銀行はいつ遺言執行者に就任するのか―指定,死亡通知,就職の審査,就職通知及び任務開始の違いで説明している。

第2 最初に分ける四つの担当領域
担当領域主な内容確認事項信託銀行(就職前の指定された銀行)死亡の受付,遺言の開示,資料の確認,遺言内容の実現可能性の審査,就職の判断就職承諾の有無及びその日付,審査の見込み期間,辞退した場合の対応信託銀行(就職後の遺言執行者)就職通知,執行対象財産の調査・目録作成,預貯金等の解約・売却・名義変更,換価代金の管理・清算・分配,完了報告遺言書及び約定上の対象財産,対象外業務,費用,予定日司法書士相続・遺贈による不動産登記その他の登記申請誰が委任者になるか,登録免許税及び司法書士報酬税理士準確定申告,相続税申告,換価後の譲渡所得等申告義務,資料の受渡し,納税資金及び各期限相続人・受遺者又は弁護士債務承継,保険金・年金等の請求,公共料金等の口座変更,遺留分・遺言無効その他の紛争銀行の対象外であることを前提に,担当者と期限を別に置く

この表は一般的な整理であり,具体的な担当範囲は,遺言書,信託銀行との約定,最新の手数料規定及び各専門職との委任契約によって確認する必要がある。

第3 相続開始後の手続とスケジュール
1 死亡通知から就職まで

遺言者が死亡したときは,あらかじめ定めた死亡通知人又は家族が,遺言書を保管する信託銀行へ連絡する。
銀行は,遺言書を開示し,相続人・受遺者,財産の変動,後日付の遺言の有無及び遺言内容の実現可能性等を調査した上で,遺言執行者への就職を判断する。

民法1007条1項は,指定された者が就職を承諾したときは直ちに任務を行うことを定め,同条2項は,任務を開始したときは遅滞なく遺言の内容を相続人へ通知することを定める。
これとは別に,民法1008条は,相続人その他の利害関係人が相当の期間を定めて就職承諾の有無を確答するよう催告できることを定めている。

銀行の就職判断を待つ間も,相続放棄・限定承認は原則として自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月,準確定申告は原則4か月,相続税申告・納付は原則10か月という別の期限が進む。

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国際離婚の手続選択と日本の国際裁判管轄・準拠法―調停・訴訟・財産分与・慰謝料を分ける(AI作成)

目次
第1 結論―管轄と準拠法は別に調べる
第2 最初に請求単位へ分解する
第3 日本の裁判所に国際裁判管轄があるか
第4 調停・審判・訴訟の選択
第5 離婚に適用される法律
第6 財産分与・慰謝料・子の事項は別に確認する
第7 外国法と証拠の準備
第8 受任時チェックリスト
第9 関連記事
第10 出典と調査範囲

第1 結論―管轄と準拠法は別に調べる

国際離婚では、「日本の裁判所が事件を扱えるか」という国際裁判管轄と、「離婚の成否をどの国の法律で判断するか」という準拠法は別問題である。日本に国際裁判管轄があっても外国法を適用することがあり、反対に日本法が準拠法となり得ても、日本の裁判所に管轄がなければ日本で訴訟を進めることはできない。

さらに、離婚そのもの、財産分与、慰謝料、親権・監護、養育費、婚姻費用では、管轄・準拠法・手続が同じとは限らない。実務では、夫婦関係を一括して「国際離婚事件」と呼ぶ前に、請求ごとの入口を作る必要がある。

第2 最初に請求単位へ分解する
検討単位最初に確認する事項
離婚の成立裁判離婚、調停・審判、協議離婚のどの方法が可能か
財産分与対象財産、所在地、取得時期、名義、外国の夫婦財産制
慰謝料等離婚請求との関連、行為地・結果発生地、請求相手
子に関する事項子の常居所、現在地、監護状況、国際的な連れ去りの有無
扶養・養育費権利者・義務者の常居所、既存合意・裁判、執行先財産
外国裁判の効力承認・執行が必要か、送達と防御機会、公序、確定性

この分解により、「離婚は日本でできるが、外国不動産の処理や外国での執行には別の対応が必要」という結論も明瞭になる。

婚姻自体の有効性が争われる場合は,離婚の前に,婚姻の成立・方式,無効・取消しのどの問題かを区別する。
婚姻の成立・方式は通則法24条によるものであり,離婚についての27条をそのまま適用しない。
日本法上の重婚は取消事由で,取消しは将来効である(民法732条・744条・748条1項)。

国際結婚の成立と税務申告への接続は,国際結婚は日本で有効か―成立・方式・重婚と配偶者控除の確認順序で整理する。

第3 日本の裁判所に国際裁判管轄があるか

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人口減少社会で増える可能性のある法律実務―相続・空き家・成年後見・事業承継・外国人雇用(AI作成)

目次

第1 人口統計は入口であって結論ではない第2 共通する四段階の確認第3 相続人不存在・所有者不明不動産第4 空き家と管理責任第5 成年後見・医療・介護第6 事業承継・廃業第7 外国人雇用第8 裁判所支部と司法アクセス第9 分野ごとの需要と弁護士全体の業務量第10 法律相談の確認表第11 出典・参考資料
第1 人口統計は入口であって結論ではない

人口減少と高齢化は,相続,空き家,成年後見,事業承継,外国人雇用及び司法アクセスに共通する背景である。
しかし,人口統計だけで個別事件の権利義務や法的需要が決まるわけではない。
本記事は,公的統計から相談・立証へ進む際の「証拠の橋渡し」を整理するものであり,各分野の裁判例の検討は含まない。

国立社会保障・人口問題研究所の地域別将来推計人口は,2020年国勢調査を基準に,2050年までの市区町村別人口を男女・5歳階級別に推計している。
地域の年齢構成を検討する資料であり,世帯数や独居の状況は世帯推計など別の資料で補う。

ただし,これは将来推計であり,個々の市区町村の政策,特定の家庭の状況又は個別事件の結果を予言するものではない。
法律実務では,人口指標と,当事者に生じた生活上・事業上の出来事,その法的地位,利用可能な手続を順に結ぶ必要がある。

第2 共通する四段階の確認

人口統計から個別の相談へ進むときは,次の四段階を順に確認する。
①人口・社会指標:人口,年齢構成,世帯数,住宅,事業所,外国人雇用等の変化を確認する。
②具体的な出来事:死亡,認知機能の低下,空き家化,後継者不在,雇用開始等が実際に起きたかを確認する。
③法的地位:相続人,所有者,管理者,成年被後見人,会社・個人事業主,使用者・労働者,在留資格等を確認する。
④手続と証拠:登記,相続財産清算,後見申立て,事業譲渡,雇用管理,訴訟・調停等の選択肢と必要資料を確認する。

人口統計は第1段階の背景資料として有用であるが,第2段階以下を省略する根拠にはならない。

第3 相続人不存在・所有者不明不動産

単身高齢者の増加や親族関係の希薄化は,相続人の調査,遺言,死後事務及び相続財産清算の相談を考える背景となる。
しかし,「独居」であることと「相続人がいない」ことは同じではない。

社人研の2024年の全国世帯推計では,2050年の単独世帯割合は44.3%とされている。
これは全年齢の単独世帯の推計であって,高齢単独世帯の割合でも,相続人がいない人の割合でもない。
相談では,戸籍上の親族関係,同居人,実際の支援者,緊急連絡先,委任の内容,支払口座及び死亡後の引継先を別々に確認する。
緊急連絡先として指定されていることだけから,財産処分や契約解除の代理権があると扱わないことも大切である。

実務では,戸籍による相続関係の調査,遺言の有無,相続放棄,債権債務,不動産・預貯金の管理状況を個別に確認する。
相続人不存在の場合の手続は,相続人がいない場合の相続財産清算人選任申立ての流れで整理している。

第4 空き家と管理責任

総務省統計局の令和5年住宅・土地統計調査では,空き家は900万2千戸であった。
このうち「賃貸・売却用及び二次的住宅を除く空き家」は385万6千戸である。

もっとも,900万2千戸の全てを放置空き家,危険家屋又は所有者不明土地と呼ぶことはできない。
賃貸用,売却用,別荘等も空き家総数に含まれるためである。

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家族の「違和感」と服薬・介護記録は遺言能力の証拠になるか―介護者負担と回顧バイアスを踏まえた評価(AI作成)

◯山中弁護士への事件のご相談・ご依頼は「遺言・相続のお問い合わせ」から可能です。

家族が「最近,何かおかしい」と感じたことや,服薬を家族が管理していたことは,遺言能力を検討する重要な端緒になります。しかし,家族の印象や「薬を一人で飲めなかった」という一事から,直ちに遺言能力の有無を決めることはできません。観察された具体的行動を,遺言日に近い時期の診療・看護・介護・薬局等の業務記録と照合し,別の原因でも説明できないかを検討する必要があります。

目次

第1 結論―家族の違和感は「入口」であり,それだけで結論にはならない
第2 遺言能力は遺言時・遺言内容ごとに判断する
第3 家族の供述を「具体的行動」に分解する

1 抽象的評価と観察事実を分ける
2 利害関係,回顧バイアス及び介護者負担を点検する

第4 診察室の受け答えと日常生活上の機能を照合する
第5 服薬失敗・家族管理には複数の原因がある

1 本人側・治療側・介護側の原因を分ける
2 介護者負担と服薬継続に関する研究の読み方

第6 証拠価値が高い記録と集め方
第7 法律相談・証拠保全のチェックリスト
第8 準備書面では両方向の仮説を検討する
第9 出典・参考資料

第1 結論―家族の違和感は「入口」であり,それだけで結論にはならない

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外国籍・国外財産がある相続と遺言―国際裁判管轄・準拠法・反致・遺言方式(AI作成)

目次第1 最初に五つの問題を分ける第2 日本の裁判所に国際裁判管轄があるか第3 相続の準拠法と反致1 相続は被相続人の本国法による2 反致は外国法の抵触規則まで確認する第4 遺言の成立・効力と方式を分ける第5 国外財産は現地手続を別に確認する第6 受任時の資料と確認表第7 実務上の注意点第8 一次資料と確認状況
第1 最初に五つの問題を分ける

外国籍の被相続人,国外居住の相続人又は国外財産がある相続事件では,次の五つを分けて検討する必要がある。

① 日本の裁判所に国際裁判管轄があるか
② 日本国内のどの家庭裁判所又は地方裁判所が管轄するか
③ 相続又は遺言の成立・効力にどの国の実質法を適用するか
④ 遺言の方式がどの国の法に適合すれば有効か
⑤ 財産所在地国で名義変更,検認,遺産管理又は税務手続が必要か

日本の裁判所が手続を行うことと,日本民法が相続関係を規律することは同じではない。
また,日本法上有効な遺産分割協議書又は審判があっても,外国の不動産登記,金融機関又は裁判所がそのまま受け付けるとは限らない。

第2 日本の裁判所に国際裁判管轄があるか

家事事件手続法3条の11は,相続に関する審判事件について,相続開始時に被相続人の住所が日本国内にある場合を基本的な管轄原因とする。
住所がない又は知れない場合の居所,さらに一定の場合における日本国内の最後の住所も規定しているため,住民票だけでなく,生活の本拠を示す居住,家族,職業,資産及び在留関係の資料を確認する。

国際裁判管轄が日本にあることが分かっても,国内土地管轄は別に決める。
遺産分割審判は相続開始地を管轄する家庭裁判所が基本であり,遺産の範囲又は所有権を争う民事訴訟とは手続が異なる。詳細は,遺産分割調停・審判の管轄,移送と自庁処理(AI作成)で説明している。

国外財産があることだけで,日本の家庭裁判所の国際裁判管轄が当然に失われるわけではない。
反対に,日本国内に財産があることだけで,あらゆる相続審判について日本の管轄が当然に生じるとも限らない。申立ての種類と家事事件手続法3条の11の各要件を対応させる必要がある。

第3 相続の準拠法と反致
1 相続は被相続人の本国法による

法の適用に関する通則法36条は,相続は被相続人の本国法によると定める。
したがって,被相続人が外国籍である事件では,相続人の範囲・順位,相続分,遺留分に相当する制度,相続の承認・放棄及び遺産の承継方法について,原則としてその外国法の内容を確認する。

「日本に長く居住していた」「財産の大半が日本にある」「相続人が全員日本人である」という事情だけから,日本民法が当然に適用されるとはいえない。
重国籍,地域により法が異なる国及び人的に法が異なる国については,通則法38条及び40条に従い,本国法としてどの法を選ぶかを先に確定する。

2 反致は外国法の抵触規則まで確認する

通則法41条は,当事者の本国法によるべき場合に,その国の法に従えば日本法によるべきときは,日本法によると定める。これが反致である。
反致を判断するには,外国の相続実体法だけでなく,その国の国際私法又は抵触法を確認しなければならない。

外国法が,動産は被相続人の住所地法,不動産は所在地法とするなど財産ごとに準拠法を分けている場合,日本にある財産について日本法への反致が成立することがある。
ただし,国名だけから一律に結論を出してはならない。外国法の改正日,施行日,地域差,国籍・住所・常居所の定義及び個別の財産分類を一次資料又は現地専門家により確認する必要がある。

第4 遺言の成立・効力と方式を分ける

通則法37条は,遺言の成立及び効力を,その成立当時における遺言者の本国法によるとする。遺言の取消しについては,取消し当時の本国法も問題となる。

(続きを読む...)外国籍・国外財産がある相続と遺言―国際裁判管轄・準拠法・反致・遺言方式(AI作成)

相続した非公開会社株式の議決権行使―準共有株式・会社法106条・決議取消し・後続決議(AI作成)

被相続人が保有していた非公開会社の株式は,遺産分割が終わるまで共同相続人の準共有となる。相続人の一人が株式全部について単独で議決権を行使しても,会社が認めさえすれば有効になるとは限らない。

本記事では,会社法106条の権利行使者,準共有者間の意思決定,決議取消し及び後続総会が開かれた場合の訴えの利益を整理する。

目次
第1 遺産分割前の株式は準共有となる
第2 会社法106条の権利行使者
第2の2 準共有者の原告適格
第3 会社の同意だけでは足りない
第4 持分価格の過半数で決める
第5 株主総会決議取消し
第6 後続総会と訴えの利益
第7 会社側・相続人側の実務対応
第8 出典・関連記事

第1 遺産分割前の株式は準共有となる

相続人が複数いる場合,相続財産は遺産分割まで共同相続人の共有に属する。株式も同様であり,各相続人が株式数を法定相続分どおりに当然取得するのではなく,一株ごとに準共有する状態になる。

そのため,株主名簿に被相続人の氏名が残っているかだけでなく,相続人の範囲,法定相続分,遺言,遺産分割の有無及び会社への通知を確認する。

第2 会社法106条の権利行使者

会社法106条本文は,株式が二人以上の共有に属するときは,共有者が権利を行使する者一人を定め,会社へその氏名又は名称を通知しなければ,株式についての権利を行使できないと定める。

権利行使者は株式の所有者になる者ではなく,準共有者全体を代表して株主権を行使する者である。会社へ通知した後も,議決権,配当,株主提案その他の権利について,準共有者間の意思決定が問題となる。

準共有者の原告適格は別に確認する

株式の準共有持分を有することと,会社訴訟を提起できる原告適格があることは同じではない。最高裁平成2年12月4日第三小法廷判決(平成元年(オ)第573号・民集44巻9号1165頁)は,旧商法203条2項の権利行使者の指定・通知を欠く共同相続人は,特段の事情がない限り,株主総会決議不存在確認の訴えの原告適格を有しないとした。

同判決は不存在確認訴訟についての判例であり,具体的な訴訟類型と現行会社法の条文を確認する必要がある。それでも,準共有株式をめぐる会社訴訟では,①原告適格,②訴えの利益,③本案の取消事由・無効又は不存在を順に分け,持分保有だけで①を即断しないことが重要である。

第3 会社の同意だけでは足りない

会社法106条ただし書は,会社が同意した場合の例外を置く。しかし,会社が任意に選んだ相続人へ議決権行使を認めれば常に適法になるという規定ではない。

最高裁平成27年2月19日第一小法廷判決(平成25年(受)第650号・民集69巻1号25頁)は,権利行使者の指定・通知を欠く場合,議決権行使が民法の共有に関する規定に従ったものでなければ,会社が同意しても適法にならないとした。

会社側は,出席者が相続人であることだけで受け付けず,遺産分割の有無,権利行使者の指定資料,準共有者の持分及び意思決定方法を確認する必要がある。

会社の同意の効果と,その議決権行使が適法かは分ける。
会社法106条ただし書による同意は本文の指定・通知の規律を外すものであり,民法の共有に関する意思決定まで代替するものではない。
共有者間の意思決定を欠くため議決権行使が不適法となる場合にも,そのことと会社の同意自体が効力を生じないことを同一視しない。

第4 持分価格の過半数で決める

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相続開始後も同居配偶者は自宅に住み続けられるか―配偶者短期居住権・共有持分・使用貸借・明渡し(AI作成)

相続開始時に被相続人所有の建物で暮らしていた配偶者は,死亡直後に当然退去しなければならないわけではない。配偶者短期居住権に加え,配偶者自身の共有持分や,被相続人との間で成立していた使用貸借が居住の根拠となることがある。

本記事では,明渡しの可否を一つの制度だけで決めず,居住の根拠,存続期間,用途変更及び使用料を順番に確認する。

目次
第1 最初に確認する四つの居住根拠
第2 配偶者短期居住権1 成立要件2 存続期間3 従前の用法と無断改築
第3 配偶者に共有持分がある場合
第4 黙示の使用貸借
第5 明渡しと使用料を分けて考える
第6 相談時に確保する資料
第7 出典・関連記事

第1 最初に確認する四つの居住根拠

同居配偶者に対する明渡請求では,少なくとも次の四つを確認する。

民法1037条以下の配偶者短期居住権
遺産分割又は遺贈で取得した配偶者居住権
配偶者自身の所有権又は共有持分
被相続人との間の使用貸借,賃貸借その他の契約

一つの権利が消滅しても,他の権利まで当然に消滅するものではない。したがって,「配偶者短期居住権が終わった」という理由だけで明渡しの結論を出さず,競合する権原を一つずつ検討する必要がある。

第2 配偶者短期居住権
1 成立要件

民法1037条1項は,配偶者が,被相続人の財産に属した建物に相続開始時に無償で居住していた場合,原則としてその居住部分を無償で使用できる配偶者短期居住権を定める。

確認すべき中心事実は,①法律上の配偶者であること,②建物が相続開始時に被相続人の財産に属していたこと,③相続開始時に居住していたこと,④使用が無償であったことである。建物の一部だけに居住していたときは,原則としてその部分が対象になる。

2 存続期間

配偶者を含む共同相続人間で居住建物を遺産分割する場合は,建物の帰属が確定した日又は相続開始から6か月を経過する日のいずれか遅い日まで存続する。

それ以外の場合は,居住建物取得者が消滅の申入れをした日から6か月を経過する日までである。死亡から常に6か月で終了するわけではないため,遺産分割の対象か,誰が建物を取得したか,消滅の申入れがいつされたかを時系列で確認する。

3 従前の用法と無断改築

民法1038条1項は,配偶者に対し,従前の用法に従い,善良な管理者の注意をもって居住建物を使用するよう求める。同条2項は,居住建物取得者の承諾を得なければ,第三者に居住建物を使用させることができないと定める。

同条3項は,配偶者が同条1項又は2項に違反したとき,居住建物取得者が配偶者短期居住権を消滅させる意思表示をできると定める。条文上,相当期間を定めた是正催告は消滅の要件ではない。また,譲渡禁止は民法1041条が準用する1032条2項に基づく。

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高齢者施設から入院した後の退所・再入所―特養の3か月基準,有料老人ホームの契約及び成年後見人の対応(AI作成)

目次第1 問題の所在と結論1 本記事が扱う場面2 結論の要旨第2 最初に確認する施設の種類と書類1 同じ「老人ホーム」でも法的な枠組みが異なること2 入院直後に確保すべき書類第3 指定介護老人福祉施設の入院期間中の取扱い1 入院後おおむね3か月以内の基準2 満床は当然に「やむを得ない事情」にならないこと3 退院可能となったときの速やかな再入所への努力第4 有料老人ホームの契約解除と入院中の費用1 入居契約が判断の出発点になること2 事業者側の解除条件の限界3 入院中の費用と前払金第5 成年後見人が関与するとき1 契約上の行為と医療同意を区別すること2 居住用不動産の処分許可との関係3 後見人が署名前に確認すべきこと第6 救急搬送・看取り方針と施設契約1 看取り方針があっても契約問題は別に残ること2 施設契約に記載しておくべき連携事項第7 紛争になったときの確認事項1 時系列を作ること2 施設へ求める説明3 相談先第8 弁護士が依頼者から聴取すべき事項第9 出典・参考資料1 法令2 厚生労働省資料
第1 問題の所在と結論
1 本記事が扱う場面

特別養護老人ホーム,有料老人ホームその他の高齢者施設の入所者が病院へ入院したとき,施設から「長期入院になるので退所してほしい」,「退院しても元の施設へ戻れない」又は「入院中も居室料等がかかる」と説明されることがある。本人又は家族は,入院すれば施設契約が当然に終了するのか,退院時に再入所できるのか,どの費用を負担するのかを短期間で判断しなければならない。

しかし,取扱いは施設の種類によって異なる。指定介護老人福祉施設については介護保険法上の運営基準があり,有料老人ホームについては入居契約,重要事項説明書及び都道府県等の指導指針の確認が中心となる。「3か月」という言葉も,特養の入院期間中の取扱いと,有料老人ホームの前払金に関する短期解約特例とで意味が異なる。

本記事は,法令及び厚生労働省資料に基づき,入院後の退所,再入所,契約解除,費用,救急搬送方針及び成年後見人の対応を整理するものである。
初回整理の基準日は令和8年9月22日であり,その後に公表された資料を引用する箇所は,当該資料の公表日又は版を示して追補している。
施行前の改正法に関する説明は,現在適用される施設基準や契約上の取扱いと区別して読む必要がある。

2 結論の要旨

第一に,入院しただけで施設との契約が当然に終了するとは限らない。契約終了には,法令上の基準,入居契約の解除条項,意思表示及び所定の手続を確認する必要がある。

第二に,指定介護老人福祉施設では,入院後おおむね3か月以内に退院することが明らかに見込まれるときは,本人及び家族の希望等を考慮し,やむを得ない事情がある場合を除いて円滑に再入所できるようにしなければならない。単に当初の退院予定日に満床であるという施設側の事情だけでは,「やむを得ない事情」には当たらないと解釈されている。

第三に,特別養護老人ホームには,協力医療機関等から退院可能となった入所者を速やかに再入所させられるよう努める規定もある。3か月を超えたことだけから,再入所への配慮が直ちに消滅すると整理すべきではない。

第四に,有料老人ホームでは一律の再入所ルールではなく,入居契約の内容が出発点となる。事業者側の解除条件が入居者の権利を不当に狭めていないか,入院中の費用,居室保持,退院後の受入条件及び前払金の返還を個別に確認する必要がある。

第2 最初に確認する施設の種類と書類
1 同じ「老人ホーム」でも法的な枠組みが異なること

「施設」又は「老人ホーム」という呼び方だけでは,適用される基準を判断できない。少なくとも,①指定介護老人福祉施設として介護保険法上の指定を受けた特別養護老人ホーム,②介護付き又は住宅型の有料老人ホーム,③サービス付き高齢者向け住宅,④介護老人保健施設,⑤介護医療院等を区別する必要がある。

本記事が詳しく扱うのは,指定介護老人福祉施設としての特養と,有料老人ホームである。サービス付き高齢者向け住宅は,建物賃貸借,生活支援サービス及び介護サービスの契約が分かれていることがあるため,契約ごとの終了条件を確認する必要がある。

2 入院直後に確保すべき書類

施設へは,少なくとも次の書類の交付又は写しの提供を求める。

①入居契約書又は施設利用契約書

②重要事項説明書及び管理規程

③料金表並びに入院中の費用に関する定め

④契約解除,退所及び再入所に関する規程

⑤施設サービス計画,緊急時対応方針及び協力医療機関との連携方法

⑥施設から退所又は契約解除を求める書面,その理由及び根拠条項

口頭で「3か月を超えれば自動退所」と説明された場合でも,直ちに同意書へ署名せず,どの法令又は契約条項に基づく説明かを確認することが重要である。

第3 指定介護老人福祉施設の入院期間中の取扱い
1 入院後おおむね3か月以内の基準

指定介護老人福祉施設の人員,設備及び運営に関する基準19条は,入所者について病院又は診療所への入院が必要となり,入院後おおむね3か月以内に退院することが明らかに見込まれるときは,本人及び家族の希望等を勘案して必要に応じ適切な便宜を供与し,やむを得ない事情がある場合を除き,退院後に円滑に再入所できるようにしなければならないと定める。

「おおむね3か月」は,入院した瞬間から3か月分の居室を必ず空けておくという意味でも,3か月を1日超えれば再入所の可能性がなくなるという意味でもない。まず,主治医への確認等により,3か月以内の退院が明らかに見込まれるかを判断するための基準である。

(続きを読む...)高齢者施設から入院した後の退所・再入所―特養の3か月基準,有料老人ホームの契約及び成年後見人の対応(AI作成)

DNARは何を意味するか―心肺蘇生,救急搬送,再入院,抗菌薬,輸液及び人工呼吸器の個別確認(AI作成)

目次第1 問題の所在と結論1 本記事が扱う問題2 結論の要旨第2 DNARが対象とするもの1 心停止時の心肺蘇生2 DNARと終末期医療は同義でないこと3 Partial DNARを用いないこと第3 個別に確認すべき治療・対応1 救急搬送2 再入院3 気管挿管及び人工呼吸器4 抗菌薬5 輸液6 人工的水分・栄養補給7 苦痛緩和第4 本人意思を確認する手順1 本人による決定を基本とすること2 ACPとして繰り返し話し合うこと3 本人の意思を確認できない場合4 成年後見人の役割第5 救急現場とDNAR記録1 施設内方針だけで救急隊の活動は決まらないこと2 事前に地域の手順を確認すること第6 意思確認票の作り方1 一つの包括的な欄にまとめないこと2 各項目に記録する事項3 原本,写し及び更新履歴第7 紛争予防及び事後検証のための記録第8 弁護士が相談を受けたときの確認事項第9 出典・参考資料1 公的ガイドライン等2 裁判例
第1 問題の所在と結論
1 本記事が扱う問題

DNAR(Do Not Attempt Resuscitation)は,心停止時に心肺蘇生を試みないという方針である。ところが,実務では「DNARだから救急車を呼ばない」,「DNARだから抗菌薬や輸液もしない」,「看取り希望だから再入院させない」など,心肺蘇生以外の治療方針まで一括して決めたものとして扱われることがある。

日本集中治療医学会は,DNAR指示は心停止時にのみ有効であり,心肺蘇生不開始以外の医療・看護は別に議論すべきであると勧告している。本人の意思を正確に反映するためには,救急搬送,再入院,気管挿管・人工呼吸器,抗菌薬,輸液,人工的水分・栄養補給及び苦痛緩和を個別に確認しなければならない。

本記事は,厚生労働省,日本集中治療医学会及び総務省消防庁の資料に基づき,DNARの範囲,意思決定の手順,救急現場との接続及び記録の方法を整理するものである。
初回整理の基準日は令和8年9月22日であり,同月28日に公表された4学会合同ガイドラインのQ&A集に関する記述は,その後の資料に基づく追補である。

2 結論の要旨

第一に,DNARが直接決めるのは,心停止時に心肺蘇生を開始しないことだけである。心停止前の酸素投与,抗菌薬,輸液,栄養,人工呼吸器又はICU入室等を自動的に差し控え又は中止する根拠にはならない。

第二に,DNARと人生の最終段階における治療の差控え・中止は別の合意形成を要する。本人の病状,治療目標,期待できる効果及び負担を示し,各治療項目について判断する必要がある。

第三に,救急隊が現場で蘇生を中止できるかは,地域のメディカルコントロール協議会及び消防本部の手順によって異なる。施設内のDNAR記録があるだけで,119番通報後に当然に蘇生又は搬送が行われないとは限らない。

第四に,意思確認書は選択肢へ一度チェックを付けるだけの書面ではなく,誰が,いつ,どの病状と説明を前提に決め,どの場面で再確認するかを記録する必要がある。

【抗がん剤を希望しないことと、急変時の入院を希望しないことは同じか】

抗がん剤についての選択から、救急搬送、再入院、感染症への治療その他の対応まで一括して推定しない。
何を目的とする、どの治療についての希望であったかを、病状と説明の内容に即して確認する。

日本集中治療医学会の勧告は、DNARを心停止時の心肺蘇生に関する指示とし、他の医療・看護を自動的に差し控える扱いと区別している。
家族が説明を求める際にも、「延命はしない」という一言を、次のように具体化すると確認しやすい。

話合いの場面確認する内容治療を希望しないと伝えたとき対象の治療、目的、期待される効果・負担、希望しない理由及び代わりに希望するケア自宅で過ごしたいと伝えたとき急変時にも自宅を希望するのか、入院を検討する条件、連絡先と実際に利用できる体制病状又は希望が変わったとき本人の現在の意向、再説明した内容、変更した方針及び共有先本人が意思を伝えられないとき過去の発言とその前提、本人の意思を推定する手掛かり、医療・ケアチームとの話合い

以前の方針がある場合にも、その対象と前提を確かめ、現在の病状や本人の意向に応じて話合いを更新する。
本人の意思確認が難しい場合に、家族の希望だけで全て決められると説明したり、以前の書面だけで確認が不要と説明したりしない。
本人意思の確認と見直しについては厚生労働省のガイドライン、予後説明との関係についてはがん終末期の急変と予後説明・ACPを参照されたい。

第2 DNARが対象とするもの
1 心停止時の心肺蘇生

DNARは,「心停止が起きたとき,心肺蘇生を試みない」という医療方針である。ここでいう心肺蘇生には,胸骨圧迫,電気的除細動,蘇生薬の投与,気道確保その他の蘇生処置が含まれる。

「急変時には何もしない」という曖昧な指示に置き換えてはならない。心停止前の呼吸困難,発熱,脱水,意識障害,出血又は疼痛には,原因と本人の意向に応じた診察・治療が必要となり得る。

2 DNARと終末期医療は同義でないこと

日本集中治療医学会の勧告は,DNARと終末期医療を同義とせず,それぞれの合意形成を別個に行うよう求めている。終末期にDNARを選択することはあるが,DNARがある患者について心肺蘇生以外の治療を差し控え又は中止する場合は,改めてその治療方針について合意形成を行う。

厚生労働省の「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」は,本人の意思決定を基本とし,医療・ケアの開始,不開始,内容の変更及び中止を,医療・ケアチームが医学的妥当性と適切性を踏まえて慎重に判断する枠組みを示している。DNARの記載だけでこの過程を省略することはできない。

3 Partial DNARを用いないこと

日本集中治療医学会は,胸骨圧迫は行うが気管挿管は行わないなど,心肺蘇生の一部だけを実施する「Partial DNAR」を行わないよう勧告している。心停止時の蘇生処置は一つの救命行為として評価し,実施するか,DNARとするかを決める。

(続きを読む...)DNARは何を意味するか―心肺蘇生,救急搬送,再入院,抗菌薬,輸液及び人工呼吸器の個別確認(AI作成)

胃瘻後に入退院を繰り返すときの本人意思―ACP,家族の関与,治療の差控え・中止及び成年後見人の役割(AI作成)

目次第1 問題の所在と結論1 本記事が扱う場面2 結論の要旨第2 分けて考えるべき四つの問題1 胃瘻の使用と急性疾患の治療は同じ問題ではないこと2 導入しないこと,変更すること及び中止すること3 救急時の一時的な治療と長期方針4 DNARと他の治療方針を混同しないこと第3 本人の意思を中心に置く判断手順1 現在の意思を確認できるか2 ACPと事前の意思表示を現在の判断に結び付けること3 本人の意思を確認できない場合の家族等の役割4 家族等がいない場合又は意見が対立する場合第4 胃瘻の導入後に再評価すべき事項1 造設時の目的を確認すること2 反復入院を再評価の合図にすること3 継続・変更・中止を検討する観点第5 成年後見人と家族ができること・できないこと1 成年後見人には一般的な医療同意権がないこと2 成年後見人が担い得る実務上の役割3 同意書又は確認書への署名を求められたとき第6 弁護士が相談を受けたときの資料と質問1 最初に集める資料2 医療・ケアチームに確認する事項3 本人・家族・後見人に確認する事項4 時系列表で残すべき事項第7 判断を誤らないための留意点1 高齢又は認知症だけを理由に治療を控えないこと2 治療の差控え・中止と積極的安楽死を区別すること3 ガイドラインの限界4 不明な点を不明なまま区別すること第8 治療の差控え・中止に関する裁判例と法的責任1 川崎協同病院事件の最高裁決定2 東京地方裁判所平成31年1月18日判決3 民事責任を検討するときの観点4 ガイドラインに沿うために必要な記録第9 胃瘻,誤嚥性肺炎,抗菌薬治療及び予後について医学文献が示すこと1 対象疾患を分ける必要があること2 胃瘻は誤嚥性肺炎を完全には防がないこと3 抗菌薬は生存と安楽に同じ影響を与えるとは限らないこと4 反復感染と予後の説明第10 施設退所・再入所,救急搬送及び看取り方針と契約1 施設類型を最初に確認すること2 特別養護老人ホームにおける入院後の再入所3 有料老人ホーム等では契約条項を確認すること4 救急搬送方針は施設内の実行手順まで決めること第11 実務書式の使い方1 一枚の包括同意書にまとめないこと2 治療項目別意思確認票3 「説明を受けた」確認書4 定期的な更新と版管理第12 出典・参考資料1 厚生労働省の資料2 日本老年医学会の資料3 裁判例・法制度4 施設契約・救急搬送5 医学文献6 救急・集中治療の学会ガイドライン
第1 問題の所在と結論
1 本記事が扱う場面

胃瘻(いろう)を造設した後も,誤嚥性肺炎,尿路感染症,脱水その他の急性疾患によって入退院を繰り返すことがある。このときは,「胃瘻を続けるか」という一つの問いだけでなく,①今回の感染症等をどこまで治療するか,②救急搬送や再入院を今後も繰り返すか,③人工的水分・栄養補給の方法及び量を維持・変更するか,④心肺蘇生,気管挿管,人工呼吸器等を行うか,⑤療養場所を病院,施設又は自宅のどこにするかという複数の問題が同時に生じる。

胃瘻の造設時に家族が同意書へ署名していても,その一枚の書面によって将来のすべての医療方針が決まるわけではない。本人の状態,治療の見込み及び負担は変化し,本人の意思も変化し得るため,各分岐点で説明,話合い,方針決定及び記録を繰り返す必要がある。

本記事は,厚生労働省の「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」,日本老年医学会の人工的水分・栄養補給に関するガイドライン及び同学会の「立場表明2025」等を基礎に,胃瘻後の反復入院を念頭に置いて意思決定の順序と弁護士が確認すべき記録を整理するものである。
初回整理の基準日は令和8年9月22日であり,同月28日に公表された4学会合同ガイドラインのQ&A集に関する記述は,その後の資料に基づく追補である。

2 結論の要旨

第一に,判断の出発点は家族又は成年後見人の希望ではなく,本人の現在の意思である。本人が医療の内容を完全には理解できなくても,苦痛,生活場所,大切にしたいこと等を表明できる場合があるため,意思決定能力を一括して否定してはならない。

第二に,本人の現在の意思を確認できない場合,家族等は本人に代わって自分の希望を決める者ではなく,本人の従前の言動,人生観及び価値観を医療・ケアチームに伝える者として関与する。日本老年医学会の「立場表明2025」は,この役割を「代理決定」ではなく「代弁」と整理している。

第三に,胃瘻の導入,継続,減量,方法変更及び中止は,医学的効果だけでなく,本人の苦痛,生活の質,療養場所及び本人が大切にしてきたことを含めて検討する。反復入院は,造設時の判断を機械的に維持する理由ではなく,治療目標と本人意思を再確認する重要な契機となる。

第四に,成年後見人には一般的な医療同意権がない。もっとも,本人の意思の推定に役立つ情報の提供,説明の場への参加,診療契約や費用の処理,医療・介護・福祉関係者の連絡調整及び記録の確保は,後見事務として重要な役割になり得る。

第2 分けて考えるべき四つの問題
1 胃瘻の使用と急性疾患の治療は同じ問題ではないこと

胃瘻から栄養を投与している本人が肺炎を発症した場合,胃瘻の継続と肺炎に対する抗菌薬,酸素投与又は入院治療は別の医療行為である。胃瘻を維持する方針であっても再入院を望まないことがあり,反対に胃瘻の投与量を見直しながら今回の感染症は治療することもあり得る。

したがって,「延命治療をするか」という抽象的な二択でまとめず,個々の医療行為について,目的,期待できる効果,負担,代替手段及び行わない場合の見通しを確認する必要がある。

2 導入しないこと,変更すること及び中止すること

厚生労働省のガイドラインは,人生の最終段階における医療・ケア行為について,開始,不開始,内容の変更及び中止を挙げ,いずれも医療・ケアチームが医学的妥当性と適切性を基に慎重に判断すべきものとしている。

日本老年医学会の平成24年ガイドラインも,人工的水分・栄養補給(AHN)の導入だけでなく,導入後の減量・中止について同じ意思決定プロセスを基本とする。ただし,これらのガイドラインが開始,不開始,変更及び中止を同一の手続で検討対象にしていることは,個別事案における法的責任が当然に同じになるという意味ではない。事実経過,説明内容,医学的評価及び記録を個別に検討する必要がある。

3 救急時の一時的な治療と長期方針

予期しない急変時には,治療効果を直ちに見通せないことがある。日本老年医学会の「立場表明2025」は,このような場合に,一定期間だけ治療を試み,あらかじめ定めた時点と評価項目により効果を見直す「time-limited trial(期間を区切った治療の試行)」を示している。

この方法を採る場合は,開始時に,①何を目標とするか,②いつ見直すか,③どの状態なら継続するか,④どの状態なら縮小又は終了を検討するか,⑤苦痛をどのように緩和するかを共有する必要がある。単に「とりあえず治療する」とだけ記録すると,惰性的な継続又は早すぎる打切りの双方を防ぎにくい。

4 DNARと他の治療方針を混同しないこと

心肺停止時に心肺蘇生を試みないというDNARの方針は,抗菌薬,酸素,輸液,胃瘻栄養,苦痛緩和その他の治療を一律に行わないという意味ではない。どの医療行為を行い,どの医療行為を差し控えるかは,それぞれについて目的と本人の意向を確認する必要がある。

第3 本人の意思を中心に置く判断手順
1 現在の意思を確認できるか

成年後見が開始していること,認知症の診断があること,又は発語が乏しいことだけで,医療に関する意思を表明できないとは限らない。説明の言葉を簡単にする,写真や図を用いる,痛みや不快の少ない時間帯に尋ねる,普段から本人を知る支援者に同席してもらうなど,意思表明を支える工夫を先に行うべきである。

本人が治療の詳細を理解できなくても,「病院へ行くのはつらい」,「施設に戻りたい」,「口から少しでも食べたい」,「苦しい処置は避けたい」といった意向を表明できることがある。その意向は,治療方針を組み立てる重要な資料となる。

2 ACPと事前の意思表示を現在の判断に結び付けること

厚生労働省は,人生会議(ACP)を,望む医療やケアについて前もって考え,家族等や医療・ケアチームと繰り返し話し合い,共有する取組と説明している。ACPは一度作成した書面そのものではなく,対話と見直しの過程である。

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信託銀行の遺言執行とは―流れ・期間・費用・できることとできないこと(AI作成)

目次第1 信託銀行の遺言執行とは何か1 用語と本記事の対象2 信託銀行が行う手続3 信託銀行だけでは完結しない手続4 本記事の結論第2 契約前に疑うべき三つの前提1 銀行が担当する範囲2 相続開始後の就任判断3 費用4 遺言内容の実行可能性第3 契約後に遺言者が見直す事項1 遺言内容と財産の変化2 判断能力が低下する前の対応3 家族への情報共有第4 相続開始前に家族が準備する事項1 死亡通知を行う者と連絡先2 資料と相談先3 紛争の兆候第5 相続開始後に家族が確認する事項1 銀行への通知と就任確認2 範囲,費用及び予定の書面化3 遺言執行と紛争対応を分ける4 三つの財産範囲を照合する5 換価・名義変更と受取口座を確認する6 債務・税務・対象外手続を別に管理する第6 信託法上の遺言信託を用いる場合1 受託者の引受けと後継者2 管理,給付及び報告3 終了条件と変更可能性第7 契約書と遺言書のチェックリスト1 遺言者が確認する事項2 家族が確認する事項3 弁護士への事前相談が特に有用な場合第8 信託銀行の遺言信託に内在する構造的な問題1 費用と担当業務が対応しているか分かりにくい2 サービスが必要な局面ほど業務対象外になり得る3 商品提供者の提案を独立して検証する仕組みがない4 銀行が関与しなくなっても複雑な法的効果は残る第9 銀行サービスの利点と限界1 信託銀行の遺言執行の費用はいくらか2 遺言信託の主なデメリットは何か3 遺言と信託はどちらが優先するか4 遺言執行は何か月かかるか第10 関連記事第11 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 信託協会の資料4 金融機関の公式資料
第1 信託銀行の遺言執行とは何か
1 用語と本記事の対象

信託銀行の「遺言信託」は,通常,信託銀行が遺言書作成の相談,遺言書の保管及び相続開始後の遺言執行を組み合わせて提供するサービスをいう。
遺言によって財産を信託する信託法上の制度とは異なる。

信託協会のQ&Aも,金融機関が用いる「遺言信託」は,通常,信託法上の信託契約ではなく,遺言書作成の相談,遺言書の保管及び遺言執行等を組み合わせたサービスであると説明している。
制度の全体像と用語の違いについては,遺言信託(AI作成)を参照されたい。

2 信託銀行が行う手続

相続開始後は,死亡通知,遺言書の開示,就任可否の審査,就職通知,財産調査・財産目録,預貯金・有価証券の換価又は名義変更,不動産の名義変更,精算,交付及び完了報告という順で進むのが基本である。
ただし,遺言書で信託銀行が指定されていても,死亡通知又は遺言開示だけで直ちに就職したとは限らない。

所要期間に一律の法定日数はなく,財産の種類,戸籍・口座資料,相続人の協力,有価証券の受取口座,不動産登記,税務及び紛争の有無によって変わる。
具体的な工程は,信託銀行の遺言執行は何か月かかるか―就任・財産目録・換価・精算の流れで説明している。

3 信託銀行だけでは完結しない手続

信託銀行が扱う遺言執行対象財産は,被相続人の全遺産又は相続税申告対象財産と一致しないことがある。
税務申告,不動産登記,債務承継,保険・年金等の請求,遺言無効・遺留分等の紛争は,税理士,司法書士,弁護士又は相続人が別に処理する場合がある。

このため,信託銀行の手数料だけで総費用を比較してはならない。
契約時,保管中,執行時の報酬に,税理士・司法書士・弁護士の費用,実費及び対象外業務の負担を加えて確認する必要がある。

4 本記事の結論

信託銀行の遺言執行には,書類保管,管理口座,定型的な財産事務及び組織としての継続性という利点がある。
他方で,契約しただけで就職,紛争解決,税務申告,登記及び全財産の調査が保証されるわけではない。

遺言者は,対象財産,就任辞退の条件,費用及び代替執行者を契約前に確認し,家族は,死亡時の連絡先,必要資料及び銀行が担当しない手続を準備する必要がある。
本記事は,令和8年10月16日現在の法令及び公開資料を前提に,これらを時系列で整理する。

第2 契約前に疑うべき三つの前提
1 銀行が担当する範囲
(1) 財産に関する事務

銀行の遺言執行サービスは,預貯金,有価証券及び不動産等の財産に関する遺言を対象とするのが通常である。
認知,未成年後見人の指定その他の身分行為は,銀行が遺言執行者として処理できる財産事務とは別に考える必要がある。

契約前には,①対象財産,②相続人及び受遺者への通知,③財産目録の作成,④預貯金等の解約又は名義変更,⑤不動産の移転登記の手配,⑥遺言執行の完了報告のうち,どこまでが基本業務に含まれるかを確認する必要がある。
「遺言執行を任せる」という説明だけでは,実際の担当範囲は確定しない。
商品名に「信託」又は「相続サポート」と付いていても,家族間の利害調整まで引き受けるワンストップサービスであるとは限らない。

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主要な国内暗号資産交換業者の死亡時手続比較―現物移管・円換価・必要書類(AI作成)

目次
第1 結論―各社の違いは「暗号資産のまま移すか、円に換えるか」に表れる
第2 本記事の対象と確認方法
第3 主要サービスの比較表
第4 各社の死亡時手続
1 bitFlyer2 Coincheck3 bitbank4 BITPOINT5 Binance Japan6 OKJ7 メルカリ/メルコイン
第5 必要書類を集める際の注意点
第6 弁護士が受任直後に確認する事項
第7 代表相続人と遺産分割を混同しない
第8 死亡後に交換業者が円換価した場合の所得税
1 死亡前の売却と死亡後の売却を分ける2 死亡後の換価は誰の所得になるか3 取得価額は被相続人の購入額ではなく死亡時評価額4 相続税評価額と所得税の取得価額は同じとは限らない5 換価損益の計算と損失の扱い6 換価前後の遺産分割で帰属が変わり得る7 交換業者と税理士へ確認する資料
第9 公開案内が見つからない事業者への照会事項
第10 調査上の限界と更新確認
第11 関連記事
第12 出典・参考資料

第1 結論―各社の違いは「暗号資産のまま移すか、円に換えるか」に表れる

暗号資産交換業者の口座名義人が死亡した場合、相続人が被相続人のID及びパスワードを使って売却又は送付するのではなく、各事業者の相続窓口へ連絡し、所定書類を提出するのが基本である。

ただし、手続の経済的な結果は各社で異なる。令和8年9月22日時点の公式案内を比較すると、主に次の三つに分かれる。

①暗号資産をそのまま代表相続人の口座へ移管する方式
②事業者が暗号資産を売却し、日本円を代表相続人へ払い戻す方式
③相続窓口は公開されているものの、資産の交付方法は個別案内とされている方式

価格変動が大きい暗号資産では、現物移管か円換価か、換価の時点を誰が決めるかによって相続人の受取額が変わり得る。そのため、戸籍及び印鑑証明書の準備だけでなく、凍結時点、未約定注文、信用取引、ステーキング又は貸暗号資産、取引履歴及び死亡日残高の扱いを最初に確認する必要がある。

第2 本記事の対象と確認方法

本記事は、金融庁の登録業者情報を参照した上で、一般利用者向けの死亡・相続手続を公式ウェブサイトで確認できた主要サービスを比較したものである。全登録業者について、非公開の社内手続又は個別回答まで調査したものではない。

表中の「確認済み」は各社の公式FAQ、公式サポート又は所定書式に記載された事項である。「個別確認」は、公開ページで結論が示されていない事項である。検索で案内を発見できなかったことは、その事業者に相続手続が存在しないことの証明にはならない。

また、BITPOINTサービスとSBI VCトレードのVCTRADEサービスは、同じグループの案内ページでも手続が異なる旨が明記されているため、本記事ではBITPOINTの案内をVCTRADEへ流用していない。

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医師など高収入共働き夫婦の離婚実務―婚姻費用,養育費,財産分与,医療法人及び監護の整理(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 高収入共働きの離婚が複雑になる理由2 結論第2 最初に四つの時点を固定する1 別居開始時2 財産形成の基準時3 婚姻費用・養育費の収入基準年4 離婚成立と請求期限第3 婚姻費用と養育費の収入評価1 給与収入の合算2 事業所得と経費3 高額所得と算定表の範囲4 教育費・住宅費・特別費用第4 財産分与の資産一覧1 個人名義の金融資産2 不動産と住宅ローン3 医療機器,診療所及び事業資産第5 医療法人・関係会社と個人財産の区別1 法人財産はそのまま夫婦の財産ではない2 医療法人の類型を確認する3 家族労働と役員報酬第6 子の監護と勤務体制1 勤務表を具体化する2 監護と収入の二重計上を避ける3 子を情報の運び手にしない第7 資料保全と開示の実務1 収入資料2 資産・負債・法人資料第8 合意書・調停条項の確認1 支払条項2 財産分与と税・法人手続第9 関連記事第10 出典・参考資料1 法令2 裁判所の資料
第1 本記事の対象と結論
1 高収入共働きの離婚が複雑になる理由

医師,歯科医師,経営者,士業その他の専門職同士の共働き夫婦では,両方に高い収入があるため争点が少ないように見える。実際には,給与収入と事業収入の併存,日当直・スポット勤務の変動,当直回数の変化,可変給与,法人からの報酬,留保金,非上場株式,退職金,借入金,教育費,夜間・休日勤務と監護の分担等が重なる。

2 結論

この類型では,「高収入者だから算定表より高くなる」又は「共働きだから生活費は各自負担である」と単純化しないことが重要である。①現在の生活費の分担,②子の居所・監護・医療・教育,③収入の評価,④婚姻中に形成された財産,⑤個人と会社・医療法人の財産の区別,⑥将来のキャリアと監護体制を別々の表にし,その後に相互の影響を確認する。

第2 最初に四つの時点を固定する
1 別居開始時

婚姻費用,住宅ローン,子の居所,生活費の支払及び面会交流について,別居を開始した日の前後で事実関係が大きく変わる。別居日だけでなく,合意の有無,住所の変更,子の引渡し,鍵と財産の移動及び生活費の支払開始日を時系列にする。

2 財産形成の基準時

財産分与では,夫婦の協力による財産形成が実質的に終了した時点が問題となる。長期別居の後に大きな収入,株式価値の変動,施設の開業,借入又は資産移転があると,「どの時点の財産が分与対象か」と「いつの価値で評価するか」を分けて検討する必要がある。

3 婚姻費用・養育費の収入基準年

確定申告書や源泉徴収票は過去一年間の収入を示すが,当直回数,勤務先,雇用形態又は休業の変化がある場合,過去一年だけで将来の基礎収入を評価できないことがある。数年分の収入及び最近の勤務実態を並べ,一時的な要因と継続的な変化を分ける。

4 離婚成立と請求期限

婚姻費用は婚姻中の生活保持の問題であり,離婚後の養育費とは別である。財産分与は離婚後に請求期間があるため,調停,裁判又は公正証書で合意する場合に,未解決の財産が残っていないかを確認する。

第3 婚姻費用と養育費の収入評価
1 給与収入の合算

複数の病院・クリニックから給与を得ている場合,主たる勤務先の源泉徴収票だけでは収入の全体が分からない。住民税課税証明書,確定申告書,青色申告決算書,支払調書,給与明細,賞与明細及び当直・非常勤先の支払記録を総合する。

2 事業所得と経費

開業医,個人事業主又は自営業者では,売上ではなく事業上の必要経費を控除した所得が出発点となる。ただし,税務上の経費が生活費分担の計算で常に全額控除されるとは限らない。減価償却,事業専従者給与,親族・関係会社への支払,家事関連費との按分及び一時的な投資を個別に見る。

3 高額所得と算定表の範囲

裁判所が公表する養育費・婚姻費用算定表は,父母又は夫婦の収入と子の人数・年齢に応じた標準額を迅速に把握するための道具である。収入が表の上限を大きく超える場合,上限値を用いるか,標準算定方式を応用するか,実際の生活状況や貯蓄部分をどう評価するかが問題となる。自動的な答えはなく,個別事情と最新の裁判実務を確認する必要がある。

4 教育費・住宅費・特別費用

私立学校,学習塾,留学,医学部等への進学,習い事,高額の医療費又は住居費は,標準的な生活費にどこまで含まれるかが問題となる。婚姻中の合意,従前の支出,子の意向と適性,父母の収入・資産及び今後の支払能力を資料で示す。

第4 財産分与の資産一覧
1 個人名義の金融資産

預貯金,株式,投資信託,外貨,暗号資産,保険の解約返戻金,確定拠出年金,企業年金,職員共済,退職金見込額及び従業員持株会等を一覧にする。婚姻前財産,相続・贈与で取得した財産及びそれらの代償財産は,婚姻中に両方で形成した財産と区別する。

2 不動産と住宅ローン

登記名義,取得時期,頭金の原資,現在価値,ローン残高,団体信用生命保険,事業での利用,売却可能性及び離婚後の居住者を整理する。所有名義とローンの債務者を分け,財産分与の合意だけで金融機関に対する債務者が当然に変わらないことに注意する。

3 医療機器,診療所及び事業資産

(続きを読む...)医師など高収入共働き夫婦の離婚実務―婚姻費用,養育費,財産分与,医療法人及び監護の整理(AI作成)

親が元気なうちの実家じまい・生前整理―処分同意,重要書類,デジタル遺品及び家族間記録のチェックリスト(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 「実家じまい」に含まれる別々の行為2 結論第2 まず確認する三つの権利1 家財・預貯金・不動産の所有者2 本人が自分で決める能力3 子や受任者の代理権第3 捨てる前に分ける五つの群1 法律関係を示す重要書類2 金銭的価値のある動産3 個人情報・職務上の秘密を含む物4 思い出と家族史料5 危険物・規制品・廃棄方法が特殊な物第4 デジタル資産とアカウント1 一覧化するもの2 パスワードをそのまま家族に渡すときの問題第5 家族間で残す書面1 処分リストと保留リスト2 立替費用と売却代金の収支表3 本人の希望と法的効力の区別第6 業者を使うときの契約チェック1 見積りと業務範囲2 処分と買取の許可第7 本人の死後に変わること1 遺産の所有権と相続放棄2 死後事務委任と賃貸住宅の残置物第8 実行順序のチェックリスト1 初期確認2 作業実施と完了後第9 関連記事第10 出典・参考資料1 法令2 公的資料
第1 本記事の対象と結論
1 「実家じまい」に含まれる別々の行為

実家じまいや生前整理と呼ばれる作業には,家財の選別・廃棄,貴重品の売却,重要書類の保管,デジタルアカウントの整理,不動産の売却・賃貸,介護施設への転居,遺言・任意後見・財産管理等が含まれ得る。これらは便利な一つの作業名でまとめられているが,所有権,代理権,契約の目的及び判断能力という法的論点は別々である。

2 結論

親が元気なうちに行うべきことは,単に物の数を減らすことではない。①誰の所有物か,②誰がどこまで処分を決められるか,③捨ててはいけない書類・資産・思い出は何か,④死後に必要な手続を誰が行うか,⑤家族間で何を合意したかを書面化することである。

特に,判断能力が低下した後に子が親の名義で売却・解約・廃棄を行うことは,家族だから自由にできるわけではない。早い段階で本人の意思と権限を確認することに生前整理の法的な意味がある。

第2 まず確認する三つの権利
1 家財・預貯金・不動産の所有者

実家にある物がすべて親の所有物とは限らない。配偶者や子の所有物,預かった物,借りた物,共有物が混じっていることがある。不動産は登記事項証明書,固定資産税の納税通知書及び売買契約書等を突き合わせる。名義と実質的な所有関係が食い違う可能性がある場合は,処分前に個別の法律判断が必要である。

2 本人が自分で決める能力

生前整理の合意や売買契約が有効であるためには,本人がその行為の意味と結果を判断できることが必要である。診断名があるかどうかだけで決まるものではなく,処分する財産の重要性,契約の複雑さ,説明を受けた状況及び当時の理解の程度が問題となる。

家や高額の動産の売却,贈与,信託,遺言等は,日常的な処分よりも後の紛争が大きい。説明の過程,本人の言葉,同席者,日付及び関係資料を残す意義が大きい。

3 子や受任者の代理権

家族関係だけで他人の財産を処分する代理権は生じない。子が親の代わりに契約をする場合,委任状又は代理権授与契約で,対象財産,可能な行為,有効期間,代金の受領方法及び報告方法を明確にする。

実印,印鑑登録証明書,権利証・登記識別情報等を預けた相手が,預けた目的を越えて本人名義の保証契約や担保設定をした場合でも,本人が表見代理(民法109条・110条)によって責任を負うことがある。登記手続のために実印等を預けた場合の表見代理の成否と最高裁判例は,登記手続のために実印や権利証を預けた相手が無断で保証や担保設定をしたとき―表見代理(民法109条・110条)と最高裁判例で整理している。

代理権を与えた後に本人の判断能力が低下した場合も,受任者は本人の利益のために権限の範囲内で行動しなければならない。広範な財産管理に備えるなら,任意後見契約その他の制度を検討する。

第3 捨てる前に分ける五つの群
1 法律関係を示す重要書類

不動産の権利証・登記識別情報,売買契約書,借地・借家関係の契約書,保険証券,年金関係書類,借入・保証・投資関係資料,遺言書,民事信託・任意後見・死後事務委任の契約書,裁判・調停・和解の書類等は,他の紙類と分ける。原本と写しを区別し,保管場所の一覧を作る。

2 金銭的価値のある動産

貴金属,宝飾品,書画,古美術,切手,コイン,高級時計,ブランド品等は,親族内の感覚だけで価値の有無を決めない。所有者の確認後,写真,概要,査定先,査定額,売却先,手数料及び代金の入金先を記録する。

3 個人情報・職務上の秘密を含む物

他人の手紙,写真,医療・介護記録,業務書類,名簿,印鑑及びストレージ媒体は,普通の家庭ごみと同じように捨てない。シュレッダー,溶解,安全なデータ消去等,情報の内容と媒体に合った方法を選ぶ。

4 思い出と家族史料

写真,日記,手紙,賞状,位牌,家系図及び手作り品等は,市場価値がなくても他の家族にとって代替のきかない意味を持つ。捨てる権限と保存する希望を分け,家族で必要な確認期間を置く。

5 危険物・規制品・廃棄方法が特殊な物

火器,刀剣,薬品,注射針,農薬,消火器,金庫,ピアノ,家電リサイクル法の対象品等は,処理方法を自治体又は適正な受入先に確認する。家庭から出る廃棄物の収集・運搬を業者に任せる場合は,実際に積込み・運搬を行う者が,排出地の市町村の一般廃棄物収集運搬業の許可又は市町村の委託を受けているかを確認する(廃棄物処理法7条1項。専ら再生利用の目的となる一般廃棄物のみを扱う場合等の例外がある。)。許可業者も収集・運搬を他人に委託できないから(同条14項),許可業者と提携しているという説明だけでは足りない。

第4 デジタル資産とアカウント
1 一覧化するもの

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デジタル遺品・オンラインアカウントは相続人がどこまで処理できるか―端末・クラウド・SNS・暗号資産の違い(AI作成)

目次
第1 結論―「アカウントを相続する」と一括りにしない
第2 最初に端末・契約・データ・財産価値を分ける1 端末2 オンラインアカウント及び利用契約3 保存データ及び通信内容4 金銭債権及び暗号資産
第3 死亡直後に行う確認と避ける操作
第4 日本法上の主な論点1 相続の対象はサービスごとに異なる2 パスワードを知っていることとアクセス権限は同じではない3 通信内容には第三者の秘密も含まれる4 証拠保全と共同相続人の調整
第5 主要サービスの公式手続1 Apple Account2 Googleアカウント3 Facebook
第6 暗号資産・購入コンテンツ・継続課金
第7 米国RUFADAAとの比較
第8 相続人及び生前の本人が残す実務資料
第9 関連記事
第10 出典・参考資料

第1 結論―「アカウントを相続する」と一括りにしない

デジタル遺品について,相続人ができることは一律ではない。
スマートフォン又はパソコンという端末の所有権,サービスの利用契約,クラウド上の写真及び文書,メール又はメッセージの通信内容,売掛金又はポイント等の財産的利益,暗号資産並びに購入コンテンツの利用権を分けて確認する必要がある。

相続人であることだけから,被相続人のID及びパスワードを使ってあらゆるサービスへログインできるとは限らない。
サービスの利用規約,生前に設定された意思表示,提供事業者の死亡者向け公式手続,アクセス制御の状態,通信相手の秘密及び相続財産の管理に必要な範囲を確認し,公式手続で取得又は閉鎖できるものはその手続を先に用いる方が安全である。

本記事は,日本における一般的な論点と主要サービスの令和8年9月22日時点の公式案内を整理するものであり,個別サービスの権利移転又はログインの適法性を一律に断定するものではない。

第2 最初に端末・契約・データ・財産価値を分ける
1 端末

スマートフォン,パソコン,外付け記録媒体及び認証用の機器は有体物であり,相続財産としての所有関係を検討できる。
しかし,端末を所有することと,端末内又はクラウド上の暗号化データを復号し,第三者のサービスへログインできることは別である。

2 オンラインアカウント及び利用契約

オンラインアカウントは,単なる「物」ではなく,サービス事業者との契約上の地位,認証情報及び利用機能の組合せである。
死亡時の終了,譲渡禁止,遺族による閉鎖又は指定連絡先への限定的なデータ提供等が利用規約及び公式手続で定められていることがある。

3 保存データ及び通信内容

写真,文書及びバックアップのような保存データと,電子メール又はメッセージの内容を分ける。
通信内容には被相続人だけでなく,送信者,受信者その他の第三者の秘密又は個人情報が含まれるため,相続財産の調査に必要であるというだけで,無制限に閲覧・共有してよいとはいえない。

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未登記建物は誰のものか――固定資産課税台帳の名義,遺言の対象,遺産分割及び表題登記(AI作成)

目次第1 結論第2 未登記建物とは何か1 表題登記の申請義務2 表題部所有者と所有権の登記名義人3 所有権の保存の登記第3 固定資産課税台帳の名義は所有権の証明ではない1 地方税法の定め2 死亡した者の名義が残っている場合3 使用者を所有者とみなす場合4 名義・台帳・登記の対応5 物理的建物・登記・課税台帳・増改築部分の対応表第4 誰が原始取得したか1 自分の費用と材料で建てた場合2 親が資金を出した場合3 増築及び改築4 借地の上にある建物第5 未登記建物を譲渡した場合1 対抗要件2 贈与又は売買をしたまま登記をしていない場合第6 遺言の対象に含まれるか1 「その余の不動産」型の条項2 物件の表示と実際の建物の食い違い3 付言事項が手掛かりになること第7 遺産分割及び遺留分での扱い1 遺産に属するかどうかを先に決める2 評価3 相続登記の申請義務との関係第8 登記の手続第9 実務の確認手順第10 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 公的資料
第1 結論

相続の場面では,登記記録に現れない建物が出てくることがある。
古い母屋,増築した離れ,作業場,倉庫,農機具小屋などである。

未登記であることは,所有者がいないことを意味しない。
建物は,建築によって誰かが所有権を原始取得しており,登記はその公示にすぎない。
したがって,未登記建物についても,①誰が原始取得したか,②その後に贈与,売買又は相続で移転したか,③遺言の対象に含まれるか,を順に確定する必要がある。

固定資産課税台帳(家屋補充課税台帳)に誰の名義で登録されているかは,手掛かりにはなるが,所有権の帰属を決めるものではない。
遺言の物件の表示と実際の建物が合わないことも多い。
本記事では,条文に即して確認の順序を示す。

第2 未登記建物とは何か
1 表題登記の申請義務

不動産登記法47条1項は,「新築した建物又は区分建物以外の表題登記がない建物の所有権を取得した者は,その所有権の取得の日から一月以内に,表題登記を申請しなければならない。」と定めている。

この申請を正当な理由なく怠ったときは,同法164条1項により十万円以下の過料に処せられる。
もっとも,実際には表題登記がされないまま何十年も経過している建物がある。

2 表題部所有者と所有権の登記名義人

不動産登記法27条は,建物の表示に関する登記の登記事項を定めており,その3号は,「所有権の登記がない不動産…については,所有者の氏名又は名称及び住所並びに所有者が二人以上であるときはその所有者ごとの持分」を掲げている。
この欄に記録された者が表題部所有者である。

表題部所有者は,権利部に記録される所有権の登記名義人とは別の概念である。
表題登記だけがされている建物は,権利部が存在しない状態であり,所有権の移転の登記をすることができない。

3 所有権の保存の登記

不動産登記法74条1項は,所有権の保存の登記を申請できる者を,①表題部所有者又はその相続人その他の一般承継人,②所有権を有することが確定判決によって確認された者,③収用によって所有権を取得した者に限っている。

そのため,表題登記がない建物について権利の登記をするには,まず表題登記をして表題部所有者を記録し,その上で保存の登記を申請するという二段階の手続を踏む。
相続人が申請するときは,被相続人を表題部所有者とする表題登記をした上で,相続を原因として保存の登記をする方法が採られることが多い。

第3 固定資産課税台帳の名義は所有権の証明ではない
1 地方税法の定め

地方税法343条1項は,固定資産税を「固定資産の所有者」に課するとしている。
同条2項は,その「所有者」について,「土地又は家屋については,登記簿又は土地補充課税台帳若しくは家屋補充課税台帳に所有者…として登記又は登録がされている者をいう。」と定めている。

未登記の建物は登記簿に記録がないため,家屋補充課税台帳に登録された者が「所有者」として扱われる。
これは課税のための擬制であって,私法上の所有権の帰属を決めるものではない。

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相続税の申告書を遺留分の基礎財産表に使えない理由――相続時精算課税,農地等の納税猶予,小規模宅地等の特例及び債務控除の読み替え(AI作成)

目次第1 結論第2 相続税の申告書に載っている財産の範囲1 課税価格の計算は民法上の遺産の範囲と一致しない2 「取得者」欄は遺言又は遺産分割の結果を書いたものである第3 相続開始の時に被相続人が所有していなかった財産が混ざる1 相続時精算課税に係る贈与財産2 農地等の贈与税の納税猶予に係る農地等3 暦年課税の生前贈与加算と3年から7年への経過措置4 税法上のみなし規定は民法上の性質を変えない第4 課税価格の評価額は民法上の時価ではない1 小規模宅地等の特例2 農業投資価格3 路線価及び固定資産税評価額第5 みなし相続財産と非課税財産1 生命保険金及び死亡退職手当金2 特別受益の問題とは別である第6 債務控除欄の読み替え1 葬式費用は相続税では控除できるが遺留分では控除できない2 申告書に計上しなかった債務を後から主張する場合第7 申告書から遺留分の基礎財産表を作る手順第8 相続税の申告書を書証にするときの注意第9 関連記事第10 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 公的資料
第1 結論

相続事件で遺産の全体像をつかもうとするとき,相続税の申告書又は税理士が作成した財産の一覧表が最初に手に入ることが多い。
しかし,相続税の申告書は相続税の課税価格を計算するための書類であって,遺留分を算定するための財産の一覧表ではない。
両者は,載せる財産の範囲,価額の求め方及び控除する債務の範囲のいずれにおいても一致しない。

民法1043条1項は,遺留分を算定するための財産の価額を「被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与した財産の価額を加えた額から債務の全額を控除した額とする。」と定めている(令和元年7月1日前に開始した相続では,同じ内容の旧民法1029条1項による。)。
これに対し,相続税の課税価格には,被相続人が相続開始の時に所有していなかった財産が,複数のみなし規定によって入り込む。
課税価格に算入する価額も,小規模宅地等の特例その他の政策的な評価によって取引価格から離れることがある。

そのため,申告書の数字をそのまま計算シートへ書き写すと,次の4種類の誤りが同時に起こり得る。
①遺留分の基礎財産に入れてはならない財産を入れる。
②遺贈と生前贈与を取り違えて,減殺又は負担の順序を誤る。
③価額を過小又は過大に見積もる。
④控除できない葬式費用を控除する。

本記事では,申告書のどの欄がどの理由で使えないのかを条文に即して整理し,申告書を読み替えて遺留分の基礎財産表を作る手順を示す。

読み替えの要点は,①税務上の加算財産と相続開始時の所有財産を分ける,②特例による減額を戻した税務評価額についても民事上の時価を別に確認する,③税務上控除できる費用と遺留分の計算で控除する債務を分ける,という三点である。
比較表と手順は第7にまとめた。

第2 相続税の申告書に載っている財産の範囲
1 課税価格の計算は民法上の遺産の範囲と一致しない

相続税の課税価格は,相続又は遺贈により取得した財産の価額を基礎としつつ,次のものを加減して計算する。
①相続税法3条1項によって相続又は遺贈により取得したものとみなされる財産(生命保険金,死亡退職手当金等)を加える。
②相続時精算課税に係る贈与財産の価額を加える(相続税法21条の15第1項,21条の16第1項)。
③相続開始前の一定期間内(後記3のとおり,相続開始日に応じて3年以内から7年以内まで)の贈与財産の価額を加える(相続税法19条1項)。
④租税特別措置法70条の5第1項により相続で取得したものとみなされる農地等を加える。
⑤相続税法12条1項の非課税財産を除く。
⑥相続税法13条1項の債務及び葬式費用を控除する。

このうち②③④は,相続開始の時には既に受贈者のものになっていた財産である。
⑤は課税上除かれるだけであって,民法上の扱いは別に考える必要がある。
⑥には,民法上は相続債務でないものが含まれている。

2 「取得者」欄は遺言又は遺産分割の結果を書いたものである

財産の明細に付された「取得者」欄は,その財産を誰が取得したかを申告する欄であって,遺言の条項をそのまま写したものではない。

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妻が払った夫名義の住宅ローンは取り戻せるか―同居中・別居後・離婚後の3段階と財産分与・立替金の請求(AI作成)

目次第1 この記事が扱う場面と結論1 想定する場面2 結論の要約3 基準日と資料の性質第2 払った時期を3つに分ける第3 同居中に払った分1 夫婦の協力による財産形成として清算される2 妻の特有財産から払った分は別に考慮される第4 別居後,離婚前に払った分1 婚姻費用は増えないのが原則である2 財産分与では,別居時の残高で計算される3 財産分与の中で主張する方法4 夫に対する立替金として別に請求する方法5 「養育費(婚姻費用)から払った」ことの意味第5 離婚後に払った分1 元夫の債務を代わりに払ったことになる2 元夫に請求する根拠3 共有名義・連帯保証の場合の裁判例4 時効に注意する第6 調停・和解で決めておくこと1 住宅をどちらが取得するか2 清算条項の範囲を確かめる3 財産分与の請求期間第7 手元に集める資料第8 出典1 法令2 裁判例3 裁判所の資料4 関連記事
第1 この記事が扱う場面と結論
1 想定する場面

本記事は,夫の単独名義の自宅に妻と子が住み,その住宅ローンを妻が払ってきた(又は払っている)場合に,払った分を夫との間でどう精算するかを扱う。
妻が自分の給与から払う場合のほか,夫から受け取った婚姻費用や養育費をローンの返済に回している場合も含む。
夫婦の役割が逆の場合(妻名義の住宅のローンを夫が払う場合)も,考え方は同じである。

別居中の婚姻費用の計算で住宅ローンをどう扱うかは,別記事「別居中の婚姻費用と住宅ローン-誰が住み,誰が返済するかで変わる計算方法」で扱っている。
本記事は,その先の問題,すなわち「払った分は最終的に誰のものになり,どの手続で取り戻すか」を扱う。
夫婦がペアローンや連帯債務でローンを組んでいる場合は,別記事「ペアローンを組んだ夫婦の離婚と財産分与――評価,連帯保証・求償の帰趨及び課税」を参照されたい。

2 結論の要約

本記事の対象は,相手名義のローンを自分が払った分の精算である。
夫婦全体で分ける財産と清算金の基本は,財産分与の総合案内を参照されたい。
返済原資が婚前の貯金又は相続・贈与資金であると主張する場合は,特有財産の証明方法で取得・移動・基準日の対応を確認する。

払った時期によって,問題になる手続と考え方が次のとおり分かれる。
①同居中に払った分は,夫婦の協力による財産形成として,財産分与の中で2分の1ずつ清算されるのが原則である。
②別居後,離婚前に払った分は,財産分与の計算では住宅ローンが別居時の残高で評価されるため,そのままでは反映されない。財産分与の「一切の事情」として主張するか,夫に対する立替金等の請求として別に請求するかを検討する。
③離婚後に払った分は,元夫の債務を代わりに払ったものであり,財産分与とは別の民事上の請求(事務管理,不当利得等)の問題になる。
④調停や和解で離婚するときは,払った分と今後払う分の扱いを条項に書いておかないと,清算条項によって後から請求できなくなるおそれがある。

3 基準日と資料の性質

本記事は,令和8年9月20日時点の民法の条文(e-Gov法令検索で確認した令和8年6月24日施行版)に基づく。
財産分与の実務の説明は,東京家庭裁判所家事第6部「東京家裁人訴部における離婚訴訟の審理モデル」について(令和6年4月26日。以下「審理モデル」という。)に基づく。
本記事で紹介する下級審の裁判例は,いずれも裁判所HPの裁判例検索には掲載されておらず(裁判所HP未掲載),判例秘書(LLI/DB)で本文を確認したものである(令和8年9月20日確認)。
夫の単独名義の住宅のローンを妻が払った分の精算を正面から判断した裁判例は,判例秘書でも見当たらなかったため,本記事には,共有名義の事案の裁判例や,条文と審理モデルからの整理を含む。
整理の部分は,「本記事では~と整理する」等の表現で区別している。

第2 払った時期を3つに分ける

調停や交渉で話がかみ合わなくなる原因の多くは,時期の違う支払を一まとめにして議論することにある。
まず,通帳や償還予定表を見ながら,払った時期を次の3つに分けて一覧表にする。

払った時期問題になる手続基本的な考え方同居中財産分与夫婦の協力による財産形成として清算される別居後・離婚前婚姻費用,財産分与,立替金等の請求婚姻費用は増えないのが原則である。財産分与ではローンを別居時の残高で評価するため,別途の主張が要る離婚後財産分与とは別の民事上の請求元夫の債務を代わりに払ったものとして,事務管理,不当利得等で請求する

財産分与では,対象となる財産を確定する基準時は原則として別居時,その財産を評価する基準時は原則として口頭弁論終結時とされている(審理モデル9頁の脚注12)。

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エホバの証人の輸血はどう変わったか―成分輸血・輸血拒否と成人・子どもの対応(AI作成)

目次第1 エホバの証人の輸血に関するよくある質問1 エホバの証人の輸血は今どうなっているか2 エホバの証人が輸血を拒否する理由は何か3 輸血したらどうなるか―信者本人と医師の責任4 輸血の代わりになる方法はあるか第2 エホバの証人が公表した輸血方針の変更1 公表された文書2 変更の内容3 個人の決定の扱いと事前指示書4 図表「Products Derived From Whole Blood」第3 国内の血液製剤から見た変更の意味1 全血製剤はほとんど供給されていない2 献血された血液の使い道第4 成人患者の輸血拒否に関する裁判例1 最高裁平成12年2月29日判決2 大分地裁昭和60年12月2日決定3 方針変更後に意思確認で注意すべき点第5 子どもへの輸血と親権者の拒否1 ガイドラインの年齢区分2 行政機関の位置付け3 三つの手続と選び方4 審判例5 方針変更が子どもの事案に与える影響6 緊急性別の対応と医療機関が伝える事項第6 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 行政機関の通知・Q&A・事務連絡4 医学会等の指針5 統計・公的機関の資料6 宗教団体の公表資料
第1 エホバの証人の輸血に関するよくある質問

本記事は,エホバの証人が公表した輸血方針と,成人患者の意思確認及び子どもへの輸血をめぐる法的枠組みを整理するものである。
宗教団体の公表資料と医学会の資料は令和8年10月16日現在の掲載内容を確認した。
法令・裁判例の記述は,第6の出典欄に示す資料と確認範囲による。
宗教上の取扱い,医学的な適応及び法律上の責任は区別して考える必要がある。

1 エホバの証人の輸血は今どうなっているか

エホバの証人は,令和8年9月18日,他人の血液に由来する赤血球,白血球,血漿及び血小板を治療に用いるかどうかを,各信者が個人として決めることとする方針を公表した。
全血の輸血を受けない立場は維持されているから,「すべての輸血が一律に認められた」と理解するのは正確ではない。
現在は日本語の公式発表も掲載されており,成分,分画及び自己の血液の使用についての説明を確認できる。
第2以下で英語の解説記事を日本語で示す部分は,本記事による仮訳である。

2 エホバの証人が輸血を拒否する理由は何か

同団体は,聖書の「血を避ける」とする命令に基づいて,全血の輸血を受けないと説明している。
従前はこの原則を主要4成分にも当てはめていたが,令和8年9月の公表では,主要4成分を受け入れるかどうかも個人の判断に委ねるとした。
したがって,信者であることだけを理由に,赤血球製剤等をすべて拒むと推測することはできない。
教義の当否ではなく,同団体の現在の公表内容と,目の前の患者本人の意思を分けて確認する必要がある。

3 輸血したらどうなるか―信者本人と医師の責任

信者本人については,同団体の公表文書は,成分又は分画を受け入れるかどうかは個人の決定であり,会衆はその決定に関与しないと説明している。
これは成分・分画に関する説明であり,全血の扱いと混同して「輸血を受ければ必ず宗教上の不利益を受ける」又は「どの輸血でも宗教上の扱いは同じ」と断定することはできない。

医師の法的責任は別の問題である。
最高裁平成12年2月29日判決は,患者の固い輸血拒否の意思を知りながら,救命のためには輸血するという病院の方針を説明せずに手術した事案について,患者の意思決定をする権利を侵害したと判断した。
同判決だけから「輸血すれば常に違法」又は「救命目的なら常に免責」と一般化することはできない。
成人本人の意思,拒む製剤の範囲,病院の方針,説明及び緊急性を具体的に確認することになる。

4 輸血の代わりになる方法はあるか

日本輸血・細胞治療学会の輸血療法実践ガイド8頁は,輸血を行わない代替療法の選択肢として自己血輸血を挙げる一方,輸血が必要な理由,他の治療では不十分な理由及び輸血を行わない場合についても説明する項目としている。
自己血輸血等を検討できる場合はあるが,どの病状・出血でも輸血に代わる方法があるという意味ではない。
利用できる方法,期待される効果,限界及び受入先の体制は,担当医から個別に説明を受ける必要がある。
患者本人が受け入れる製剤・方法を確認することと,その方法だけで安全に治療できるかという医学的判断は,別に検討しなければならない。

成人患者への説明文書と同意書は病院が「相対的無輸血」の方針を採るときの説明と同意書で,親権者が子どもへの輸血を拒む場合の対応は第5で扱う。

第2 エホバの証人が公表した輸血方針の変更

(続きを読む...)エホバの証人の輸血はどう変わったか―成分輸血・輸血拒否と成人・子どもの対応(AI作成)

遺産分割調停・審判はどのくらいかかるか―調停に代わる審判と二期日指定(令和6年)(AI作成)

目次第1 この記事の対象と資料1 使用する資料と対象期間2 数え方の注意第2 遺産分割事件の平均審理期間1 令和6年の平均と分布2 平均審理期間の推移第3 期間を左右する事情1 手続代理人弁護士の関与2 当事者の人数3 遺産の額・特別受益・寄与分4 期日の回数と間隔第4 終局の仕方と期間1 終局区分ごとの割合と期間2 調停に代わる審判の活用第5 期日間隔を縮める家庭裁判所の取組1 実情調査で紹介された取組2 代理人の側の工夫と課題第6 大阪家庭裁判所管内の数値第7 依頼者への説明と代理人の準備第8 関連記事第9 出典1 法令2 統計・データ
第1 この記事の対象と資料
1 使用する資料と対象期間

本記事は,最高裁判所事務総局「裁判の迅速化に係る検証に関する報告書(第11回)」(令和7年7月)の家事事件の統計を基に,家庭裁判所の遺産分割事件(調停及び審判)がどのくらいの期間で終わっているかを整理するものである。
対象は令和6年に終局した事件であり,統計は令和7年4月15日現在の数値である。
主に,報告書152頁~156頁(遺産分割事件の概況),185頁~193頁(実情調査の結果等),資料4-1・4-2(事件類型別の数値),資料4-4・4-5(家庭裁判所管内別の数値)及び資料5の表42~表44(遺産額・特別受益・寄与分別の数値)を使った。

2 数え方の注意

遺産分割事件の既済件数と審理期間は,調停が不成立になって審判に移行した事件のように,調停と審判の両方を経た事件も1件として数えている(報告書152頁【図10】の注)。
したがって,平均審理期間は,最初の申立てから調停又は審判で終わるまでの期間と考えてよい。
他方,新受件数は,調停としての係属と審判としての係属を別々に数えている。

報告書の本文が「前回」と書くときは第10回報告書,すなわち令和4年の数値を指す。
平均期日間隔は,平均審理期間を平均期日回数で割った数値である(報告書155頁【表16】の注)。

第2 遺産分割事件の平均審理期間
1 令和6年の平均と分布

令和6年の遺産分割事件の既済件数は1万5379件で,平均審理期間は12.1月であった(報告書153頁,資料4-1)。
同じ年の民事第一審訴訟の平均審理期間(9.2月)より長い。
新受件数(調停と審判を別々に数えたもの)は1万9550件で,前回(1万6687件)から約17%増えた。

審理期間件数割合6月以内5361件34.9%6月超1年以内5016件32.6%1年超2年以内3575件23.2%2年超3年以内958件6.2%3年超469件3.0%

1年を超える事件は32.5%であり,おおむね3件に1件が1年を超えている。
前回(令和4年)は,6月以内が32.8%,1年超が35.0%であったから,短い側へ少し移っている。

2 平均審理期間の推移

報告書によれば,平均審理期間は,令和元年までの数年間は12月を下回っていたが,令和2年に大きく長くなって12月を上回り,令和4年から緩やかに短くなっている(報告書152頁~153頁)。
資料4-5の数値では,令和2年12.7月,令和3年13.2月,令和4年12.9月,令和5年12.5月,令和6年12.1月である。

報告書は,令和4年以降の短縮の要因として,新型コロナウイルス感染症の影響が落ち着いたことのほか,各家庭裁判所が同感染症の拡大を契機に進めてきた調停運営改善の取組の効果が現れてきたことが考えられるとしている(報告書153頁)。

第3 期間を左右する事情
1 手続代理人弁護士の関与

遺産分割事件のうち,当事者のいずれかに手続代理人弁護士が付いた事件は1万2336件(80.2%)であった(資料4-1)。
報告書は,関与率が長らく6割台であったものが15年ほど前から上がり,平成30年頃から80%前後で高止まりしているとしている(報告書155頁)。

平均審理期間は,代理人の関与がある事件で13.2月,関与がない事件で7.9月であった(資料4-2)。
報告書も,関与がある事件の方が平均審理期間が長いという傾向に変化はないとしている。

(続きを読む...)遺産分割調停・審判はどのくらいかかるか―調停に代わる審判と二期日指定(令和6年)(AI作成)

判断能力を欠く人に対する時効の完成猶予―民法158条の類推適用と最高裁平成26年3月14日判決(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 本記事の対象2 結論第2 民法158条の内容1 条文2 改正前民法との関係3 規定の趣旨第3 最高裁平成26年3月14日判決1 事案2 判断3 日付で見た当てはめ4 判断の射程第4 平成10年6月12日判決との関係1 除斥期間への民法158条の法意の適用2 両判決の違い3 現行民法724条2号との関係第5 実務上の対応1 時効の満了前に後見開始を申し立てる2 審判前の保全処分3 就職から6か月以内に権利を行使する4 後見人に対する権利(民法158条2項)5 債務者の側が判断能力を欠く場合第6 その他の権利者側の事情による完成猶予1 夫婦間の権利(民法159条)2 相続財産(民法160条)3 天災等(民法161条)第7 関連記事第8 出典・参考資料1 法令2 裁判例
第1 本記事の対象と結論
1 本記事の対象

本記事は,認知症や精神障害等で判断能力を欠く人が権利を持っている場合に,その権利の消滅時効がどのように扱われるかを,民法158条と最高裁判所第二小法廷平成26年3月14日判決を中心に整理するものである。
あわせて,民法159条から161条までの権利者側の事情による完成猶予と,除斥期間について民法158条の法意を用いた最高裁判所第二小法廷平成10年6月12日判決との関係にも触れる。
調査基準日は令和8年9月19日であり,条文はe-Gov法令検索で取得した現行民法等の本文と照合し,判決は裁判所ウェブサイトの詳細頁と全文で確認した。
消滅時効全体の見取り図は消滅時効に関するメモ書きにある。

2 結論

民法158条1項は,時効の期間の満了前6か月以内の間に未成年者又は成年被後見人に法定代理人がないときは,法定代理人が就職した時等から6か月を経過するまで,その人に対して時効は完成しないと定める。
後見開始の審判をまだ受けていない人は,判断能力を欠いていても,条文上の「成年被後見人」には当たらない。
しかし,平成26年判決は,時効の期間の満了前6か月以内の間に精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある人に法定代理人がない場合において,少なくとも,時効の期間の満了前の申立てに基づき後見開始の審判がされたときは,民法158条1項の類推適用により,成年後見人が就職した時から6か月を経過するまでの間は,その人に対して時効は完成しないとした。
この救済を受けるには,①満了前6か月以内に判断能力を欠く常況にあったこと,②満了前に後見開始の申立てがされたこと,③その申立てに基づいて後見開始の審判がされたことが必要であり,④成年後見人は就職から6か月以内に権利を行使しなければならない。
時効の満了前に申立てがされていない場合に類推適用が認められるかは,平成26年判決の判断の外にある。
したがって,判断能力を欠く親族の権利について時効の満了が迫っているときは,満了前に後見開始の申立てをしておくことが決定的に重要である。

第2 民法158条の内容
1 条文

民法158条1項は「時効の期間の満了前六箇月以内の間に未成年者又は成年被後見人に法定代理人がないときは、その未成年者若しくは成年被後見人が行為能力者となった時又は法定代理人が就職した時から六箇月を経過するまでの間は、その未成年者又は成年被後見人に対して、時効は、完成しない。」と定める。
同条2項は「未成年者又は成年被後見人がその財産を管理する父、母又は後見人に対して権利を有するときは、その未成年者若しくは成年被後見人が行為能力者となった時又は後任の法定代理人が就職した時から六箇月を経過するまでの間は、その権利について、時効は、完成しない。」と定める。
いずれも,時効の完成を猶予する規定であり,時効期間を振り出しに戻す更新の効果はない。
完成猶予と更新の区別は,時効の完成猶予と更新の違い―旧法の中断・停止との対応関係と事由の一覧で整理している。

2 改正前民法との関係

改正前民法158条は,見出しが「時効の停止」であったほかは,現行民法158条と同じ文言である。
平成29年法律第44号附則10条2項は,施行日(令和2年4月1日)前に改正前民法158条から161条までの時効の停止の事由が生じた場合におけるこれらの事由の効力については,なお従前の例によるとしている。
もっとも,民法158条の文言は改正の前後で変わっていないから,平成26年判決の考え方は現行法の下でもそのまま参考になる。

3 規定の趣旨

平成26年判決は,民法158条1項の趣旨について,成年被後見人等は法定代理人を有しない場合には時効中断の措置を執ることができないのであるから,法定代理人を有しないにもかかわらず時効の完成を認めるのは成年被後見人等に酷であるとして,これを保護するところにあると述べている。
同判決は,さらに,同項が成年被後見人等だけを掲げているのは,その該当性や法定代理人の選任の有無・時期が形式的・画一的に確定し得る事実であり,時効を援用しようとする者の予見可能性を不当に奪うものとはいえないからであると説明している。
この二つの観点,すなわち権利者保護の必要性と,時効を援用しようとする者の予見可能性が,類推適用の可否を分ける基準になっている。

第3 最高裁平成26年3月14日判決
1 事案

(続きを読む...)判断能力を欠く人に対する時効の完成猶予―民法158条の類推適用と最高裁平成26年3月14日判決(AI作成)

離婚慰謝料の遅延損害金はいつから発生するか―離婚成立時とした最高裁令和4年1月28日判決と請求の趣旨の書き方(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論第2 最高裁令和4年1月28日判決1 事案と原審の判断2 最高裁の理由3 主文と利率第3 離婚自体慰謝料と個別的有責行為の慰謝料1 同判決の「なお」書き2 個別の違法行為を理由とする慰謝料第4 不貞相手に対する慰謝料請求との違い1 最高裁平成31年2月19日判決2 起算日の違い第5 離婚の成立時と請求の趣旨の書き方1 離婚の成立時2 離婚訴訟で慰謝料を併せて請求する場合3 離婚後に慰謝料だけを請求する場合4 財産分与との関係第6 関連記事第7 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 公的資料
第1 本記事の対象と結論

本記事は,離婚に伴う慰謝料(いわゆる離婚慰謝料)の遅延損害金がいつから発生し,何%の利率になるか,また,訴状の請求の趣旨にどう書くかを扱う。
調査基準日は令和8年9月19日である。

結論は次のとおりである。
①離婚に伴う慰謝料として夫婦の一方が負担すべき損害賠償債務は,離婚の成立時に遅滞に陥る(最高裁令和4年1月28日判決)。
②婚姻関係が破綻した時期や有責行為の時期が令和2年4月1日より前であっても,離婚の成立が同日以後であれば,遅延損害金の利率は年3%である。
③離婚訴訟で離婚と慰謝料を併せて請求するときは,同判決の主文に倣い,「本判決確定の日の翌日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員」と書くことになる。
④暴力や不貞行為など,破綻の原因となった個別の違法行為を理由とする慰謝料は,同判決の対象外であり,不法行為一般の原則によれば,各行為による損害の発生時に遅滞に陥ると考えられる。
⑤不貞相手(第三者)に対しては,特段の事情がない限り離婚に伴う慰謝料そのものを請求できない(最高裁平成31年2月19日判決)ので,不貞相手に請求するのは通常は不貞行為を理由とする慰謝料である。

第2 最高裁令和4年1月28日判決
1 事案と原審の判断

最高裁判所第二小法廷令和4年1月28日判決(令和2年(受)第1765号,民集76巻1号78頁)は,夫婦の一方(上告人)が本訴で離婚を請求し,他方(被上告人)が反訴で離婚とともに離婚に伴う慰謝料及び「判決確定の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金」を請求した事案である。
夫婦は平成16年11月に婚姻の届出をし,平成29年3月に別居していた。

原審の大阪高裁は,離婚を認め,慰謝料を120万円の限度で認容した上で,遅延損害金の利率を年5分とした。
その理由は,慰謝料請求は婚姻関係を破綻させた責任を前提とするものであり,婚姻関係が破綻した時は改正民法(平成29年法律第44号)の施行日である令和2年4月1日より前であるから,改正前の民法所定の年5分によるというものであった。

2 最高裁の理由

最高裁は,原審の判断を是認できないとして,次のとおり述べた。
「離婚に伴う慰謝料請求は,夫婦の一方が,他方に対し,その有責行為により離婚をやむなくされ精神的苦痛を被ったことを理由として損害の賠償を求めるものであり,このような損害は,離婚が成立して初めて評価されるものであるから,その請求権は,当該夫婦の離婚の成立により発生するものと解すべきである。」

続けて,不法行為による損害賠償債務は損害の発生と同時に何らの催告を要することなく遅滞に陥るという最高裁判所第三小法廷昭和37年9月4日判決(昭和34年(オ)第117号,民集16巻9号1834頁)を引用し,「離婚に伴う慰謝料として夫婦の一方が負担すべき損害賠償債務は,離婚の成立時に遅滞に陥ると解するのが相当である。」とした。
裁判所HPの裁判要旨も「離婚に伴う慰謝料として夫婦の一方が負担すべき損害賠償債務は,離婚の成立時に遅滞に陥る。」である。

つまり,同判決は,不法行為の時に遅滞に陥るという原則を変えたのではなく,離婚に伴う慰謝料では「損害の発生」が離婚の成立時であることを明らかにしたものである。
不法行為の遅延損害金の起算日一般については,不法行為・交通事故の遅延損害金はいつから発生するかで扱う。

3 主文と利率

同判決の事案では,離婚は判決によって成立するので,最高裁は「離婚の成立時である本判決確定の時に遅滞に陥る」とし,改正法の施行日前に遅滞の責任を負った(改正法附則17条3項参照)ということはできないから,利率は改正後の民法404条2項所定の年3パーセントであるとした。
そして,主文1項で,上告人の不服申立ての範囲である20万円に対する年5分の遅延損害金を認容した部分を変更し,次のとおり命じた。
「上告人は,被上告人に対し,20万円に対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。」

民法404条2項は「法定利率は、年三パーセントとする。」と定め,民法419条1項は,金銭債務の不履行による損害賠償の額を「債務者が遅滞の責任を負った最初の時点における法定利率によって定める。」としている。
民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)附則17条3項は,「施行日前に債務者が遅滞の責任を負った場合における遅延損害金を生ずべき債権に係る法定利率については、新法第四百十九条第一項の規定にかかわらず、なお従前の例による。」と定める。
したがって,離婚の成立が令和2年4月1日以後であれば,破綻の原因となった行為がそれより前であっても,離婚に伴う慰謝料の遅延損害金は年3%となる。

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相続財産清算人と税金―滞納国税の承継と差押え,清算人の報酬との優劣,準確定申告,固定資産税及び特別縁故者の相続税(AI作成)

目次第1 この記事の対象1 対象と基準日2 関連記事第2 被相続人の税金は相続財産法人が引き継ぐ1 国税2 地方税第3 滞納処分と清算手続1 清算中でも滞納処分は妨げられない2 清算人の報酬は滞納処分で国税に優先しない3 差押えの解除4 清算人と申立人への影響5 清算人名義の預金口座に対する差押え6 清算手続で弁済する場合の国税と清算人の報酬第4 被相続人の所得税の準確定申告第5 固定資産税第6 不動産等の売却に伴う課税第7 特別縁故者が分与を受けた場合の相続税1 遺贈による取得とみなされる2 申告期限3 基礎控除と2割加算4 葬式費用等を支払っていた場合5 適用される相続税法は相続開始時のもの6 分与を受けた不動産を売却する場合第8 民法255条で他の共有者に帰属する場合第9 出典1 法令2 裁判例・裁決3 公的資料
第1 この記事の対象
1 対象と基準日

本記事は,相続人のあることが明らかでない場合に選任される相続財産清算人(民法952条)の手続で問題となる税金について,被相続人の滞納税の承継と差押え,清算人の報酬との優劣,被相続人の所得税の準確定申告,固定資産税,不動産の売却に伴う課税及び特別縁故者が分与を受けた場合の相続税を整理するものである。
令和8年9月19日時点の国税通則法,国税徴収法,地方税法,相続税法,消費税法,民法,国税庁及び国税不服審判所の公表資料並びに裁判例を確認して作成した。
個別の事案の課税関係は事実関係によって異なるため,実際の事件では所轄の税務署や地方公共団体に確認する必要がある。

2 関連記事

清算手続全体の流れは「相続財産清算人とは」で,不動産を換価する場面は「相続財産清算人による不動産の任意売却」で整理している。
準確定申告一般は「準確定申告-4か月の期限・必要書類・書き方・e-Taxと相続税」で整理している。
相続人がいる場合を含め,被相続人の国税が相続人にどのように承継されるか(相続分による按分,納付責任額,限定承認・相続放棄の場合等)は「被相続人の未納の国税は相続人がどう引き継ぐか」で整理している。

第2 被相続人の税金は相続財産法人が引き継ぐ
1 国税

相続があった場合には,相続人又は民法951条の法人(相続財産法人)は,被相続人に課されるべき,又は被相続人が納付し,若しくは徴収されるべき国税(滞納処分費を含む。)を納める義務を承継する(国税通則法5条1項)。
相続人のあることが明らかでない場合には,相続財産は法人とされるから(民法951条),被相続人の所得税,消費税等の未納分は,相続財産法人が納める義務を負う。

2 地方税

地方税についても,相続人又は民法951条の法人は,被相続人に課されるべき,又は被相続人が納付し,若しくは納入すべき地方団体の徴収金を納付し,又は納入しなければならない(地方税法9条1項)。
住民税,固定資産税,国民健康保険税等の未納分も,相続財産法人が納める義務を負うことになる。

第3 滞納処分と清算手続
1 清算中でも滞納処分は妨げられない

国税不服審判所の令和6年10月4日裁決は,被相続人から滞納国税を納める義務を承継した相続財産法人について,家庭裁判所が選任した相続財産管理人(令和5年4月1日施行の民法改正前の名称。現在の相続財産清算人に当たる。)が開設した預金口座の預金債権を,原処分庁が滞納国税の徴収のために差し押さえた事案である。
同裁決は,相続財産法人に対する債権者は,相続財産管理人による清算が行われている場合であっても,相続財産法人に帰属する財産に対して強制執行や滞納処分を行うことが妨げられないとした。
また,破産手続では国税債権者は滞納処分の執行が制限される一方で破産管財人に交付要求をして配当等を受けるのに対し,相続財産管理人による清算手続では滞納処分の執行は制限されず,破産手続とは性質を異にするとして,清算手続を国税徴収法2条12号の強制換価手続に当たるものとは認めなかった。
国税通則法基本通達(徴収部関係)第5条関係21も,民法957条1項に規定する債権申出期間内であっても,相続財産に対しては滞納処分をすることができるとしている。

2 清算人の報酬は滞納処分で国税に優先しない

国税は,納税者の総財産について,国税徴収法第2章に別段の定めがある場合を除き,全ての公課その他の債権に先立って徴収する(国税徴収法8条)。
前記裁決の事案で,審査請求人(相続財産法人)は,相続財産管理人の報酬は相続財産に関する費用(民法885条)であり,民法929条ただし書の優先権を有する債権に当たり,また強制換価手続の費用の優先(国税徴収法9条)が準用されるなどとして,報酬が国税に優先するから,預金の残高が報酬を下回る以上,差押えは無益な差押え(国税徴収法48条2項)に当たると主張した。
同裁決は,民法885条や929条ただし書は滞納処分において相続財産管理人の報酬が国税に優先することの根拠にならず,国税徴収法9条も準用又は類推適用されないとして,この主張を退け,差押処分を適法とした。

これに対し,破産手続では,破産管財人の報酬は国税その他の公課に優先する。
最高裁第二小法廷昭和45年10月30日判決(昭和40年(オ)第1467号,民集24巻11号1667頁)は,旧破産法の下で,破産管財人の報酬は「破産財団ノ管理、換価及配当ニ関スル費用」に含まれ,破産財団をもってすべての財団債権を弁済することができない場合でも,国税その他の公課に優先して弁済を受けることができるとした。
現行の破産法152条2項も,破産財団が財団債権の総額を弁済するのに足りない場合に,破産財団の管理,換価及び配当に関する費用の請求権(同法148条1項2号)を他の財団債権に先立って弁済すると定めている。

(続きを読む...)相続財産清算人と税金―滞納国税の承継と差押え,清算人の報酬との優劣,準確定申告,固定資産税及び特別縁故者の相続税(AI作成)

限定承認の手続と換価―申述,公告・催告,弁済の順序,競売・価額弁済及び無剰余取消し(AI作成)

目次第1 この記事の対象1 対象と基準日2 関連記事第2 限定承認とは1 限定承認の効果2 共同相続人全員でする必要がある3 限定承認を選ぶかどうか第3 限定承認の申述1 申述の期間2 申述先・費用・必要書類3 財産目録4 相続人が数人ある場合の相続財産清算人第4 相続債権者及び受遺者への公告・催告1 公告2 個別の催告3 公告・催告を怠った場合第5 弁済の順序1 申出期間の満了前2 申出期間の満了後3 受遺者は相続債権者の後4 申出をしなかった者5 不当な弁済の責任6 限定承認中の訴訟と強制執行第6 相続財産の換価1 換価は競売による2 鑑定人の評価による価額弁済3 剰余の見込みがない場合の競売の取消し4 競売によらずに売却した場合第7 限定承認の後に注意すべきこと1 財産の隠匿・消費2 死因贈与を受けていた相続人3 税金第8 出典1 法令2 裁判例3 公的資料
第1 この記事の対象
1 対象と基準日

本記事は,相続によって得た財産の限度でだけ被相続人の債務及び遺贈を弁済する限定承認(民法922条)について,申述から,相続債権者及び受遺者への公告・催告,弁済の順序,相続財産の換価(競売と鑑定人の評価による価額弁済)までの手続を整理するものである。
令和8年9月19日時点の民法,家事事件手続法,民事執行法,裁判所ウェブサイトの「相続の限定承認の申述」の案内,名古屋家庭裁判所の限定承認の申述に関する案内,令和7年司法統計年報並びに裁判例を確認して作成した。
申述先の家庭裁判所の運用や必要書類は変わることがあるため,実際の手続では申述先の案内を確認する必要がある。

2 関連記事

限定承認の意味,相続放棄・単純承認との違い,具体例,メリット・デメリット及び費用の全体像は,「限定承認とは―相続放棄との違い,メリット・デメリット,費用及び手続」で整理している。
限定承認をした場合の所得税(みなし譲渡),準確定申告,相続税及び住民税は,「限定承認と税金」で整理している。
熟慮期間の起算点と伸長は「相続放棄の3か月はいつからか」で,限定承認後の財産の処分等が問題となる法定単純承認は「相続の法定単純承認(民法921条)の実務」で整理している。
相続人がいない場合に相続財産清算人がする換価の競売と任意売却の比較は,「相続財産清算人による不動産の任意売却」で整理している。

第2 限定承認とは
1 限定承認の効果

相続人は,相続によって得た財産の限度においてのみ被相続人の債務及び遺贈を弁済すべきことを留保して,相続の承認をすることができる(民法922条)。
相続人が限定承認をしたときは,その被相続人に対して有した権利義務は,消滅しなかったものとみなされる(民法925条)。
そのため,相続人が被相続人に対して貸金債権を持っていた場合でも,混同によって消滅せず,相続債権者の一人として清算に加わることになる。

裁判所の案内は,限定承認を,被相続人の債務がどの程度あるか不明であり,財産が残る可能性もある場合等に,相続人が相続によって得た財産の限度で被相続人の債務の負担を受け継ぐものと説明している。

2 共同相続人全員でする必要がある

相続人が数人あるときは,限定承認は,共同相続人の全員が共同してのみすることができる(民法923条)。
相続の放棄をした者は,その相続に関しては初めから相続人とならなかったものとみなされるから(民法939条),放棄をした者を除いた残りの相続人全員で限定承認をすることになる。
相続財産の処分は単純承認とみなされるから(民法921条1号),共同相続人の一人がこれに当たる行為をすると,全員でする限定承認の前提が崩れるおそれがある。
限定承認を検討する段階では,相続人全員が相続財産の処分を控える必要がある。

3 限定承認を選ぶかどうか

限定承認をすると,相続債権者への公告・催告,財産の換価,按分による弁済といった清算の手続を相続人自身が担うことになる。
また,限定承認に係る相続によって譲渡所得の基因となる資産等が移転した場合には,その時の価額で譲渡があったものとみなされ(所得税法59条1項1号),被相続人の所得税の問題が生じる(前記「限定承認と税金」参照)。
債務超過が明らかな場合は相続放棄が,財産が債務を明らかに上回る場合は単純承認が選ばれるのが通常であり,限定承認は,債務の全容が分からない場合や,自宅等の特定の財産を残したい場合に検討される。

令和7年司法統計年報(家事編)第2表によれば,全家庭裁判所における相続の限定承認の申述受理事件の新受件数は,平成17年の995件,平成27年の759件,令和元年の656件と推移し,令和7年は637件であった。
同じ年の相続の放棄の申述の受理事件は32万3524件であり,限定承認は相続放棄に比べて極めて少ない。
名古屋家庭裁判所の案内は,限定承認後の清算手続には原則として家庭裁判所が関与しないとし,必要があれば弁護士等の専門家に相談するよう勧めている。

第3 限定承認の申述

(続きを読む...)限定承認の手続と換価―申述,公告・催告,弁済の順序,競売・価額弁済及び無剰余取消し(AI作成)

成年後見人は本人の古い借金を返してよいか――債務の存否の確認,消滅時効の援用及び家庭裁判所への連絡票(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論1 対象と基準日2 結論第2 大阪家裁ハンドブックの記載と記載例1 ハンドブックの説明2 連絡票の記載例63 記載例6に書かれていないこと第3 債務が本当に存在するかを確かめる1 貸付けか贈与か2 確認に使う資料と聴取3 金額の食い違い第4 消滅時効が完成しているかを確かめる1 改正前の民法が適用される2 時効期間と起算点3 中断の事由を確かめる第5 後見人が返済し又は債務を認めると援用できなくなる1 時効完成後の承認2 承認後に再び10年が経過した場合3 後見人の行為は本人の行為になる第6 援用するか返済するかの判断1 後見人は本人に代わって時効を援用できる2 本人の意思を確かめる3 返済を選ぶ場合の位置付け4 善管注意義務と責任第7 家庭裁判所への連絡票1 事前に連絡する2 連絡票に書く事項3 書き方の例4 その後の報告5 他の家庭裁判所の扱い第8 貸主が後見人自身である場合第9 保佐人・補助人及び令和8年改正第10 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 公的資料4 文献5 関連記事
第1 この記事の対象と結論
1 対象と基準日

本記事は,成年後見人が,成年被後見人(以下「本人」という。)の親族等から「昔,本人にお金を貸した」と申し出を受けたときに,本人の財産から返済してよいか,返済する前に何を確かめ,家庭裁判所にどう連絡すべきかを整理するものである。
基準日は令和8年9月19日であり,法令は同日時点の現行条文と,平成29年法律第44号による改正前の条文を,いずれもe-Gov法令検索で確認した。
裁判例は,裁判所ウェブサイトの裁判例検索及び判例秘書で確認した。
家庭裁判所の運用は,大阪家庭裁判所が後見人等に交付している「成年後見人・保佐人・補助人ハンドブック(Q&A付き)」(令和8年2月1日版。以下「大阪家裁ハンドブック」という。)で確認できた範囲で書く。

2 結論

①成年後見人は本人の債務を本人の財産から返済しなければならないが,貸主が金融機関以外で契約書がない場合には,まず本当に債務があるのかを確かめる必要がある(大阪家裁ハンドブック17頁)。
②古い借金であれば,消滅時効が完成していないかを確かめる必要がある。
令和2年4月1日より前に生じた貸金債権の時効期間は改正前の民法によるから,10年である。
③時効完成後に後見人が返済し,又は債務を認めると,本人は時効完成を知らなかったとしても時効を援用できなくなる(最高裁昭和41年4月20日大法廷判決)。
④時効を援用するか,道義的な理由から返済するかは,本人の意思を踏まえて後見人が判断するが,時効を検討しないまま返済することは避けるべきである。
⑤返済する場合も援用する場合も,債務の内容,存否の判断,時効の検討結果,本人の意思及び後見人の方針を書いた連絡票を,事前に家庭裁判所へ出す。
⑥後見人自身が本人に対する貸付金を主張する場合には,自分への返済を自分だけで判断して実行することは避け,後見監督人がいなければ特別代理人の選任を申し立てて,債務の存否や時効の援用を特別代理人に判断させるのが安全である(第8)。

第2 大阪家裁ハンドブックの記載と記載例
1 ハンドブックの説明

大阪家裁ハンドブックは,本人の財産から支出できるものの一つとして,本人が第三者に対して負っている債務の返済を挙げている(16頁)。
他方で,本人が経済的に困っていた時期に身内から証書も作らずに受け取った金員のように,贈与なのか借金なのかがあいまいなものもあるとして,次のように述べている(17頁)。
「したがって、貸主が金融機関以外の場合で、正式な契約書等が残っていないような場合については、被後見人が本当に債務を負っているかどうか十分確認する必要があります。」
その上で,「いずれにせよ、被後見人の債務を返済する場合には、必ず、誰に対する、どのような債務につき、いくら返済するのかを簡潔に記載し、債務の存否を判断しかねる場合にはその旨も記載した上で、連絡票を用いて裁判所に連絡をしてください」としている(17頁)。

債務の返済は,事前に連絡票で裁判所に連絡すべき事項の一つとして挙げられており,添付資料は借用書の写しなどとされている(大阪家裁ハンドブック25頁,41頁)。

2 連絡票の記載例6

大阪家裁ハンドブックの書式集には,連絡票の記載例(No.6-2)があり,その記載例6は「債務を返済する場合」である。
内容は,本人が兄から昭和の時期に300万円を借りていたことが判明したこと,当時本人は離婚の慰謝料などで金が必要だったらしいこと,借用書は残っていないが昭和の時期に本人名義の口座へ250万円が振り込まれていることから,兄の話を信用して一括返済したい,というものである。

3 記載例6に書かれていないこと

記載例6は,連絡票の書き方の見本であり,法的な判断の見本として作られたものではないと考えられる。
そのまま自分の事案に当てはめると,少なくとも次の三つの確認が抜け落ちる。
①振り込まれた250万円が,貸付けなのか贈与なのか。
②申出の300万円と振込額の250万円の差額50万円の説明。

(続きを読む...)成年後見人は本人の古い借金を返してよいか――債務の存否の確認,消滅時効の援用及び家庭裁判所への連絡票(AI作成)

相続財産清算人による不動産の任意売却―競売との比較,担保権・差押えの処理,売買契約の条項及び売れない場合(AI作成)

目次第1 この記事の対象1 対象と基準日2 関連記事第2 換価の方法―競売と任意売却1 法律が定める換価方法は競売である2 任意売却は権限外行為許可による3 両者の比較4 特別縁故者が現れ得る場合第3 担保権・差押えがある不動産1 担保権者が清算人の選任を申し立てる場合2 任意売却で担保権・差押えを消すには3 一般債権者が買主を紹介した場合4 マンションの滞納管理費等第4 任意売却の手順1 登記名義の変更2 不動産業者との媒介契約3 価格の相当性の資料4 許可の申立てと許可の範囲5 決済と報告第5 売買契約の条項1 家庭裁判所の許可2 契約不適合責任を負わない旨の特約3 手付と代金の支払方法4 建物内の残置物第6 税金の扱い1 被相続人の所得税の準確定申告2 滞納税がある場合3 売却に伴う課税第7 売れない場合1 選任審判の取消し2 国庫への引継ぎ第8 出典1 法令2 裁判例・裁決3 公的資料4 文献
第1 この記事の対象
1 対象と基準日

本記事は,相続人のあることが明らかでない場合に選任される相続財産清算人(民法952条)が,相続財産である不動産を換価する場面について,法律が定める競売と,家庭裁判所の許可を得てする任意売却とを比較し,担保権や差押えがある場合の処理,媒介契約,売買契約の条項,税金及び売れない場合の扱いを整理するものである。
令和8年9月19日時点の民法,民事執行法,家事事件手続法,建物の区分所有等に関する法律及び裁判所の公開資料(熊本家庭裁判所後見センター「相続財産の清算人の職務について」,大阪家庭裁判所及び名古屋家庭裁判所の相続財産清算人選任申立ての手引き),宅地建物取引業法,国税関係の法令並びに国税庁及び国税不服審判所の公表資料を確認して作成した。
家庭裁判所の運用は庁によって異なる部分があるため,実際の事件では選任した家庭裁判所に確認する必要がある。

2 関連記事

清算手続全体の流れは「相続財産清算人とは」で,家庭裁判所の許可が要る行為と要らない行為の区別は「相続財産清算人の権限外行為許可」で整理している。
売れ残った不動産が国庫に引き継がれた後の扱いは「国庫帰属した不動産のその後」で整理している。

第2 換価の方法―競売と任意売却
1 法律が定める換価方法は競売である

相続財産清算人が相続債権者及び受遺者に弁済するために相続財産を売却する必要があるときは,これを競売に付さなければならない(民法957条2項が準用する932条本文)。
この競売は,民法の規定による換価のための競売であり,担保権の実行としての競売の例によって行われる(民事執行法195条)。
弁済のための競売は,法律が定める清算の職務であるから,家庭裁判所の権限外行為許可は問題とならない。

(1) 限定承認との違い

限定承認では,家庭裁判所が選任した鑑定人の評価に従って相続財産の価額を弁済し,競売を止めることができる(民法932条ただし書)。
これに対し,相続財産清算人の場合は,民法957条2項が932条ただし書を準用の対象から除いているため,この方法で競売を止めることはできない。
限定承認の手続全体は,「限定承認の手続と換価」で整理している。

(2) 相続債権者及び受遺者の参加

相続債権者及び受遺者は,自己の費用で,相続財産の競売又は鑑定に参加することができる(民法957条2項が準用する933条前段)。
参加の請求があったのに,その請求をした者を参加させないで競売をしたときは,その競売は,その請求をした者に対抗することができない(同条後段が準用する260条2項)。

(3) 剰余の見込みがない場合

担保不動産競売では,不動産の買受可能価額が手続費用と差押債権者に優先する債権の見込額の合計額に満たないときは,差押債権者が一定の申出や保証の提供等をしない限り,手続が取り消される(民事執行法188条が準用する63条)。
限定承認の場合の相続財産換価のための競売(民法932条)について,東京高裁平成5年12月24日決定(平成5年(ラ)第820号・判例タイムズ868号285頁。裁判所HP未掲載)は,民事執行法195条が相続財産の競売を担保権の実行としての競売の例によるとし,63条も何らの留保なく準用しているとして,無剰余取消しの規定が適用されるとした。
同決定は,限定承認の場合に先順位の抵当権者等が自ら競売を申し立てないのは,担保債権の十分な満足を得られないため不動産の値上がりを待っているなどの事情があるのが通常であり,その期待を無視して,限定承認の手続を終わらせる目的だけで無剰余の競売を進めるのは相当でないとも述べている。
その後,最高裁平成24年2月7日第三小法廷決定(平成23年(許)第31号・集民240号1頁)は,民法258条2項(当時。現在の同条3項)所定の競売を命ずる判決に基づく不動産競売について,民事執行法59条(売却に伴う担保権等の消滅)及び63条が準用されるとした。
もっとも,同決定の補足意見は,いわゆる形式的競売の中でも,競売の目的によって63条の準用の有無を異にする解釈があり得るとしている。
相続財産清算人がする換価のための競売は,民法957条2項が準用する932条本文に基づくもので,限定承認の場合と同じ条文による競売であるから,東京高裁平成5年決定の考え方によれば,63条が準用されることになる。
相続財産清算人(旧法の相続財産管理人)が申し立てた競売について無剰余取消しの可否を判断した裁判例は,判例秘書及び裁判所HPで確認した範囲では見当たらない。
このように解する場合,担保権が付いた不動産で剰余の見込みがなければ,清算人が申し立てた換価のための競売は取り消され得る。

(続きを読む...)相続財産清算人による不動産の任意売却―競売との比較,担保権・差押えの処理,売買契約の条項及び売れない場合(AI作成)

相続人が遺産を受け取らないとき――成年後見人の引継ぎ,受領の催告,供託,民法897条の2の相続財産管理人(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論1 対象と基準日2 結論第2 引継ぎの法的な構造1 管理の計算と引継ぎの義務2 相続人の1人に対して行えば足りる3 引き継ぐのは現金,動産及び徴表書類である4 どこまで相続人を探すか第3 受領を拒まれるまでにしておくこと1 円満な引継ぎの試みと原則への立ち返り2 大阪家庭裁判所への報告期限との関係3 相続人間の合意を待つ場合の中間報告4 引継ぎの前に清算しておくもの第4 受領の催告(弁済の提供)1 口頭の提供で足りる2 催告書に書くこと3 受領拒絶の効果と,それでも残る債務4 催告の回数と間隔第5 財産の種類ごとの出口1 預貯金・株式・不動産――徴表書類は引継ぎを要しない2 現金――弁済供託3 動産――寄託・換価・廃棄4 管理計算報告の債務第6 民法897条の2の相続財産管理人1 条文と旧918条2項との関係2 ただし書で使えない場面3 大阪家庭裁判所が想定する二つの類型4 要件その1――紛争性が極めて高いこと5 要件その2――選任の必要性6 スライド選任はしない7 申立てまでの手順8 大阪家庭裁判所の申立書式第7 相続人がいない・全員が放棄する見込みの場合1 民法952条の相続財産清算人2 大阪家庭裁判所の少額事案の運用(本書掲載)第8 保佐人・補助人の場合第9 本書の記述で現在は変わっている点第10 令和8年改正後の扱い1 後見・保佐の廃止と経過措置2 補助人の死後の権限と補助の計算3 出口の規定は変わらない第11 出典・参考資料1 法令2 公的資料3 文献4 関連記事
第1 この記事の対象と結論
1 対象と基準日

本記事は,成年被後見人等(以下「本人」という。)が死亡した後,成年後見人,保佐人又は補助人であった者(以下,本人の死亡後も含めて「後見人等」という。)が相続人に財産を引き継ごうとしたところ,相続人が受け取らない場合に,後見人等がどこまでの事務をし,どのような方法で引継ぎの義務から解放されるかを整理するものである。
具体的には,相続人1人に対する履行の提供,受領の催告,現金の弁済供託,通帳等の徴表書類の扱い,動産の寄託・換価・廃棄,民法897条の2第1項の相続財産管理人の選任,相続人がいない場合や財産が少額の場合の出口を扱う。
基準日は令和8年9月19日であり,法令は同日時点の現行条文をe-Gov法令検索で確認した。
令和8年法律第45号(民法等の一部を改正する法律)による改正後の条文は,法務省が公表している法律案本文及び新旧対照条文で確認した。

素材として,大阪家庭裁判所後見センター編『大阪家庭裁判所後見センターだより』(大阪弁護士協同組合,2025年。以下「本書」という。)226頁~239頁及び254頁~258頁を用いた。
本書は,月刊大阪弁護士会の連載(平成29年5月号~)を書籍化したものであり,原則として各回の初出当時の運用を記載し,一部だけを令和6年6月時点に修正している(本書1頁)。
本記事が扱う部分の初出は,連載第6回(平成30年4月号),第7回(平成30年6月号)及び第21回(令和2年10月号)である。
大阪家庭裁判所の現在の運用は,同庁の成年後見のページ,「成年後見人・保佐人・補助人ハンドブック(Q&A付き)」(令和8年2月1日版。以下「大阪家裁ハンドブック」という。)及び同庁が公開している申立書式で確認できた範囲で書き,確認できなかった点は本書の記載として区別する。

民法873条の2の死後事務(火葬契約,債務の弁済,3号許可)の全体は成年被後見人が死亡した後に元後見人ができることで,親族が遺体・遺骨の引取りを拒む場面は親族が遺体・遺骨の引取りを拒む・条件を付ける・連絡がつかないときで,死亡後に大阪家庭裁判所へ出す報告書類とその期限は本人死亡後に成年後見人が家庭裁判所へ出す報告書類――死亡の連絡,死亡時3点セット,収支報告書,引継書と期限で扱っている。
本記事は,これらと重複する説明を置かず,相続人が財産を受け取らない場面に絞る。
本書の該当部分には裁判例の引用がなく,令和8年9月19日に裁判所ウェブサイトの裁判例検索で「相続財産の保存に必要な処分」を全文検索した結果(2件)にも元後見人等の引継ぎを扱ったものはなかったため,本記事は条文と大阪家庭裁判所自身が公表した運用の説明及び書式を根拠とする。

2 結論

①後見人等は,任務終了から2か月以内に管理の計算をし(民法870条),相続人に財産を引き継ぐ義務を負うが,本書は,管理計算の報告も財産の引継ぎも相続人の1人に対して行えば足りると説明している。
②「引継ぎ」の対象は,現金,動産及び権利を徴表する書類(通帳,証書,鍵等)であり,預貯金や不動産の権利そのものは本人の死亡により既に相続人の共有となっている。
③相続人が受け取らないときは,引渡しの準備をしたことを通知して受領を催告すれば弁済の提供となり(民法493条ただし書),後見人等は以後,不履行の責任を負わない(民法492条)。ただし,引継ぎの債務そのものは消えない。
④現金は,受領拒絶を理由に弁済供託をすれば債務が消滅する(民法494条1項1号)。
⑤通帳・証書・登記関係書類等は権利の徴表にすぎないので,本書は引継ぎを要しないとし,一定期間の経過後に廃棄してよいとも回答している。
⑥動産だけは,受領拒絶が続く限り引継ぎの債務が残る。本書は,月1回程度の催告を重ねた上で,民法897条の2第1項の「相続財産の保存に必要な処分」として寄託・換価・廃棄を求める申立てをし,換価金から報酬を控除した残金を供託して終える道を示している。
⑦本書が紹介する,元後見人等の引継ぎをめぐる親族間紛争型では,紛争性が極めて高く,かつ継続的な弁済や管理が必要な事案が選任の対象とされている。代表者を決めさせるだけの選任やスライド選任を認めないという説明も,この引継ぎの場面に関するものである。
⑧民法897条の2は「いつでも」処分を命ずることができるが,相続人が1人で単純承認をしたとき,遺産の全部の分割がされたとき,及び相続財産の清算人が選任されているときは使えない(同条1項ただし書)。
⑨相続人がいないとみられる場合でも,本書は,最後報酬の支払後に本人名義の財産が30万円未満であれば相続財産清算人の選任を求めず,現金を供託して終える大阪家庭裁判所の運用を紹介している。ただし,この基準は現在の公開資料では確認できなかった。
⑩令和8年改正により後見・保佐は補助に一元化されるが,改正法の施行前に開始した後見・保佐には原則として従前の例が適用される。引継ぎの出口となる民法492条~494条,897条の2及び952条は改正されない。

第2 引継ぎの法的な構造
1 管理の計算と引継ぎの義務

民法870条は,「後見人の任務が終了したときは、後見人又はその相続人は、二箇月以内にその管理の計算(以下「後見の計算」という。)をしなければならない。ただし、この期間は、家庭裁判所において伸長することができる。」と定める。
保佐人と補助人にも,民法876条の5第3項及び876条の10第2項により同条が準用される。
後見監督人があるときは,後見の計算はその立会いをもってしなければならない(民法871条)。

(続きを読む...)相続人が遺産を受け取らないとき――成年後見人の引継ぎ,受領の催告,供託,民法897条の2の相続財産管理人(AI作成)

本人死亡後に成年後見人が家庭裁判所へ出す報告書類――死亡の連絡,死亡時3点セット,収支報告書,引継書と期限(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論1 対象と基準日2 素材とした本と,その記述の時点3 結論第2 本人の死亡で終わるものと残る義務1 後見等の終了と代理権の消滅2 相続人に対する管理の計算と引継ぎ3 家庭裁判所に対する報告4 法務局に対する終了登記第3 死亡直後の連絡1 大阪家庭裁判所の現在の案内2 本書の説明――「直ちに」と「連絡後2週間以内」第4 その後の書類を決める三つの分岐1 三つの分岐2 引継ぎが不要な場合3 本書が示す期限4 現在の期限は事務連絡で確認する第5 死亡時3点セットと報酬付与申立て1 死亡時3点セットの中身2 後見等事務報告書は定期報告と同じ書式で作る3 財産目録の基準日は死亡時4 報酬付与申立ての時期と費用5 死後事務についての付加報酬第6 死後収支報告書1 書式2 死亡時から引継時までの全ての収支を書く3 5万円を超える収支の裏付け資料4 財産が残らない場合第7 引継書と引継時の財産目録1 引継書の書式2 引継ぎの相手が相続人であることの説明3 引継書別紙の財産目録は引継時が基準日4 三つの書類の検算5 引継ぎの際の実務上の注意第8 4か月以内に引継ぎが終わらないとき1 進捗状況の報告2 連絡がないときの口座凍結の指示3 相続人間の紛争で合意を待つ場合の中間報告4 長期間が経過した後の相続債務の弁済第9 死後事務の許可申立てと報告との関係1 3号許可の申立て2 許可を得なかったことが当然に違法となるわけではない場面3 払戻しを求める金額は債務額に限る4 報酬の精算のための払戻し5 保佐人・補助人の場合第10 後見等監督人が選任されている場合1 書類は監督人を経由する2 監督人が確認すべきこと第11 本書の記述のうち現在は変わった点と確認できない点1 変わった点2 現在の公開資料では確認できない点第12 令和8年改正後の扱い1 補助への一元化と終了時の条文2 死後事務の規定3 施行日と経過措置第13 出典・参考資料1 法令2 公的資料3 文献4 関連記事
第1 この記事の対象と結論
1 対象と基準日

本記事は,成年被後見人,被保佐人又は被補助人(以下「本人」という。)が死亡した後に,成年後見人,保佐人又は補助人(以下「後見人等」という。)が大阪家庭裁判所へ提出する報告書類について,提出の順序,書類ごとの作り方,期限及び誤りやすい点を整理するものである。
基準日は令和8年9月19日であり,法令は同日時点の現行条文をe-Gov法令検索で確認した。
令和8年法律第45号(民法等の一部を改正する法律)による改正後の条文は,e-Gov法令検索の未施行版と法務省が公表した法律案本文で確認した。

本人死亡後に元後見人が何をどの根拠で行うことができるか(民法873条の2の死後事務,応急処分及び事務管理)は,成年被後見人が死亡した後に元後見人ができること-民法873条の2の死後事務と事務管理で扱っている。
相続人が遺産を受け取らない場合の受領の催告,供託及び相続財産管理人の選任は,相続人が遺産を受け取らないとき――成年後見人の引継ぎ,受領の催告,供託,民法897条の2の相続財産管理人で扱う。
遺体・遺骨の引取りをめぐる親族との調整は,親族が遺体・遺骨の引取りを拒む・条件を付ける・連絡がつかないとき及び成年後見人の死後事務と遺骨の引取りで扱っている。
本記事は,これらと重複する説明を置かず,家庭裁判所に対する報告の側だけを対象とする。

2 素材とした本と,その記述の時点

素材として,大阪家庭裁判所後見センター編『大阪家庭裁判所後見センターだより』(大阪弁護士協同組合,2025年。以下「本書」という。)を用いた。
本書は,月刊大阪弁護士会に平成29年5月号から連載された「大阪家裁後見センターだより」の第1回から第41回までを再編したものであり,本記事が主に扱うのは,連載第8回(平成30年8月号初出),第19回(令和2年6月号初出),第21回(令和2年10月号初出),第22回(令和2年12月号初出)と,書記官の視点による小窓3本(連載第11回・平成31年2月号,第16回・令和元年12月号,第29回・令和4年2月号の各初出)である(本書240頁~268頁)。
本書1頁は,書籍化に当たって現在では取扱いが変わっているもの等について若干の修正や加筆をしたが,原則として初出当時の運用等を記載した記事であることに注意するよう求めている。
そこで本記事は,大阪家庭裁判所の成年後見のページ(令和8年9月19日確認)と「成年後見人・保佐人・補助人ハンドブック(Q&A付き)」(令和8年2月1日版。以下「大阪家裁ハンドブック」という。)で現在も確認できる事項と,本書の記載にとどまる事項とを分けて書く。
なお,連載は第42回以降も続いており,第42回は本人死亡後の事務の監督を扱っているが(大阪家裁後見センターだよりの一覧参照),本書には収録されておらず,本記事の素材には含めていない。

3 結論

①本人が死亡すると後見等は終了し,後見人等の代理権は消滅するが,相続人に対しては2か月以内に管理の計算をして財産を引き継ぐ義務が残り,家庭裁判所に対しては引継ぎまでの報告が求められる。
②大阪家庭裁判所の現在の案内は,本人が亡くなったら,2週間以内に死亡診断書又は除籍謄本のコピーを添えて裁判所に亡くなった旨を連絡し,その他に必要な書類は追って送付される事務連絡に従う,というものである。
③本書が説明する流れは,死亡を証する書面の提出→死亡時3点セット(死亡時までの後見等事務報告書,死亡時を基準日とする財産目録,裏付け資料)を添付した報酬付与申立て→報酬付与審判→死後収支報告書,引継書及び引継時の財産目録の提出,である。
④本書が示す期限は,引継ぎが必要な事案で本人死亡から4か月以内,報酬付与申立てをした結果として財産が残らない事案で報酬付与審判から1か月以内,報酬付与申立てをしないで財産が残らない事案で本人死亡から2か月以内である。
ただし,大阪家庭裁判所は現在これらの期限を一般には公表しておらず,個別の事務連絡で案内するとしているから,実際の期限は事務連絡で確認する必要がある。
⑤誤りが多いのは,死亡時の財産目録の基準日を作成日にしてしまうこと,死後の収支報告書に手持現金の収支だけを書くこと,引継書別紙の財産目録に死亡時の目録を流用することである。
死亡時の財産目録の預貯金・現金の合計に死後収支報告書の収支を加減すると,引継時の財産目録の合計になるはずであり,この検算で誤りの多くは防げる。
⑥引継書,死後の収支報告書及び報酬付与申立ての書類は,大阪家庭裁判所の成年後見のページと裁判所の後見ポータルサイトに掲載されている最新の書式を使う。
⑦令和8年改正後は,後見・保佐が補助に一元化され,管理の計算は民法876条の23,死後事務は民法876条の26に規定されるが,施行日前に開始した後見・保佐は原則として従前の例による。

第2 本人の死亡で終わるものと残る義務
1 後見等の終了と代理権の消滅

代理権は本人の死亡によって消滅する(民法111条1項1号)。
本書254頁注4は,死亡と同時に法定後見が終了し,本人の権利義務は相続人に帰属し,後見人等は管理権限を失うという重大な効果が発生すると説明している。

(続きを読む...)本人死亡後に成年後見人が家庭裁判所へ出す報告書類――死亡の連絡,死亡時3点セット,収支報告書,引継書と期限(AI作成)

成年後見事件の記録の閲覧・謄写――家事事件手続法47条,親族・相続人からの請求と非開示の申出(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論1 対象と基準日2 結論第2 家事事件手続法47条の仕組み1 手続の非公開と記録の閲覧等2 許可を要しない審判書等の交付3 録音テープ等と執務上の制限4 手数料と申請書式第3 「当事者」からの申立て1 後見等事件の「当事者」は誰か2 原則許可と不許可事由3 却下に対する即時抗告第4 「利害関係を疎明した第三者」からの申立て1 誰が第三者として申し立てるか2 相当と認めるときの許可3 即時抗告はできない第5 事件ごとに記録が分かれることの意味1 積み重なる後見等事件2 当事者性は事件ごとに判断される3 事実の調査がされた部分4 最高裁令和4年6月20日決定5 後見等開始事件の申立人への当てはめ第6 後見人等の側からみた情報管理1 記録は見られる前提で作る2 不要な個人情報を出さない3 非開示の申出4 提出の都度の申出と既提出書面の特定5 申出の効果と限界第7 親族・相続人の側からみた閲覧謄写1 親族2 本人死亡後の相続人3 解任を求める場合第8 秘匿制度との違い1 家事事件手続法38条の22 非開示の申出との比較第9 本書の記述と現在の違い第10 今後の法改正1 令和8年改正2 民事関係手続のIT化第11 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 公的資料4 文献5 関連記事
第1 この記事の対象と結論
1 対象と基準日

本記事は,成年後見・保佐・補助(以下「後見等」という。)の事件記録を,後見人等,本人,親族,相続人等が家庭裁判所で閲覧し,又は謄写(コピー)する手続と,後見人等が提出書類に含まれる情報を一定の者に見せたくない場合に行う「非開示の申出」について,大阪家庭裁判所の運用を中心に説明するものである。
基準日は令和8年9月19日であり,法令は同日時点の現行条文をe-Gov法令検索で確認した。
令和8年法律第45号(民法等の一部を改正する法律)による改正後の条文は,法務省の新旧対照条文,法律案本文及びe-Gov法令検索の未施行版で確認した。

素材として,大阪家庭裁判所後見センター編『大阪家庭裁判所後見センターだより』(大阪弁護士協同組合,2025年。以下「本書」という。)309頁~317頁を用いた。
本書は,月刊大阪弁護士会の連載を再編したものであり,原則として各回の初出当時の運用を記載したものである(本書1頁)。
本記事で扱う部分は,連載第33回(令和4年12月号初出)の「事件記録の閲覧謄写について,非開示希望の申出について」(本書309頁~316頁)と,連載第20回(令和2年8月号初出)の小窓「非開示希望の申出」(本書317頁)である。
大阪家庭裁判所の現在の運用は,同庁の成年後見のページ,「成年後見人・保佐人・補助人ハンドブック(Q&A付き)」(令和8年2月1日版。以下「大阪家裁ハンドブック」という。),現在掲載されている「非開示の申出書(後見事件用)」等で確認できた範囲で書き,確認できなかった点は本書の記載として区別する。

2 結論

①後見等事件の記録は,家事事件手続法47条により,「当事者」又は「利害関係を疎明した第三者」が,家庭裁判所の許可を得て閲覧・謄写を請求できる。
②後見等事件で「当事者」に当たるのは基本的に申立人(及び参加人)であり,本人は申立人又は参加人でない限り当事者ではない。
当事者の申立ては原則として許可され(同条3項),却下されれば即時抗告ができる(同条8項)。
③後見人等,後見監督人等,本人,親族,相続人等は「利害関係を疎明した第三者」として申し立てることになり,家庭裁判所が相当と認めるときに許可される(同条5項)。
却下されても即時抗告はできない。
④本書によれば,弁護士が後見人等として申し立てた場合は相当広範囲で許可されている一方,親族の手続代理人として申し立てた場合とは許可される範囲が異なる。
⑤後見等の記録は,開始事件,監督事件,報酬付与事件等の事件ごとに作られ,当事者に当たるかどうかも事件ごとに判断される。
最高裁令和4年6月20日決定を踏まえると,開始事件の申立人であっても,開始後に後見人等が提出した財産目録や報告書については第三者として申し立てるにとどまると考えられる。
⑥大阪家裁ハンドブックは,本人や親族から閲覧謄写の請求があった場合,特別の事情がある場合を除いて裁判官が許可をすれば閲覧・コピーができるとし,後見人等に対し,見られる可能性を前提に書類を作成するよう求めている。
⑦開示されたくない情報(本人・親族の住所,居所,就業場所,虐待に至る経緯等)があるときは,大阪家庭裁判所の「非開示の申出書(後見事件用)」を提出する。
申出は書類を提出する都度必要であるが,現在の書式では,既に提出した書面を日付や名称で特定して申し出ることもできる。
⑧非開示の申出は,家庭裁判所が閲覧謄写の許否を判断する際の資料であって,必ず非開示になるわけではない。
⑨これとは別に,家事事件手続法38条の2により,民事訴訟法の住所・氏名等の秘匿制度が家事事件にも一部準用されている。
⑩令和8年改正は家事事件手続法47条の文言を変えていない。
他方,民事関係手続のIT化に伴う改正により,同条は「非電磁的家事審判事件記録」の閲覧等の規定に改められ,電磁的記録の閲覧等の規定(47条の2)が新設される予定である(基準日現在は未施行)。

第2 家事事件手続法47条の仕組み
1 手続の非公開と記録の閲覧等

家事事件手続法33条は,「家事事件の手続は、公開しない。ただし、裁判所は、相当と認める者の傍聴を許すことができる。」と定める。
後見等の事件記録には,本人の病状,財産,家族関係,施設や住所等の情報が多く含まれるから,誰でも自由に見られるものではない。

(続きを読む...)成年後見事件の記録の閲覧・謄写――家事事件手続法47条,親族・相続人からの請求と非開示の申出(AI作成)

任意後見と法定後見はどちらが優先するか――任意後見契約法10条1項・4条1項2号と裁判例(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論1 対象と基準日2 結論第2 優先関係を定める条文1 任意後見契約が先に登記されている場合2 法定後見が先に開始している場合3 任意後見契約が終了するかどうか4 併存を認めない理由5 利用の規模第3 前提問題――任意後見契約が有効であること1 有効な契約が任意後見監督人選任の前提となる2 公正証書と公証人の確認3 即効型で問題になりやすい4 有効性が争われた裁判例5 有効性の判断資料第4 「本人の利益のため特に必要」の意味1 特別の必要性2 立法担当者が挙げた例3 裁判例による類型化第5 裁判例の内容1 大阪高裁平成14年6月5日決定2 大阪高裁平成24年9月6日決定(第二の争点)3 福岡高裁平成29年3月17日決定4 高松高裁令和元年12月13日決定5 水戸家裁令和2年3月9日審判6 名古屋高裁平成26年2月7日決定7 結論の向き第6 大阪家裁後見センターの考え方1 受任者の適格性が中心となる2 親族間の対立だけでは足りない3 後見センターが挙げる2つの例4 相談を受けた弁護士の留意点第7 大阪家裁への任意後見監督人選任申立て1 申立先と手続の流れ2 必要書類3 法定後見の登記されていないことの証明書4 本書から変わった郵便料第8 令和8年改正後の優先関係1 施行時期2 任意後見開始の審判3 補助との関係4 経過措置第9 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 公的資料4 文献5 関連記事
第1 この記事の対象と結論
1 対象と基準日

本記事は,任意後見契約が登記されている本人について法定後見(後見・保佐・補助)の開始が申し立てられた場合,又は既に法定後見が開始している本人について任意後見監督人の選任が申し立てられた場合に,どちらの制度が優先するかを扱う。
中心となるのは,任意後見契約に関する法律(以下「任意後見契約法」という。)10条1項と4条1項2号にいう「本人の利益のため特に必要がある(である)と認めるとき」の意味と,その該当性が争われた裁判例である。
基準日は令和8年9月19日であり,条文は同日時点の現行条文をe-Gov法令検索で確認した。
令和8年法律第45号(民法等の一部を改正する法律。以下「改正法」という。)による改正後の条文は,e-Gov法令検索の未施行版と改正法の法律案本文で確認した。

素材として,大阪家庭裁判所後見センター編『大阪家庭裁判所後見センターだより』(大阪弁護士協同組合,2025年。以下「本書」という。)の第6章(任意後見)を用いた。
本書は,月刊大阪弁護士会の連載をまとめたもので,原則として各回の初出当時の運用を記載したものである(本書1頁)。
本記事で扱う回は,連載第9回(平成30年10月号初出,本書269頁~277頁),連載第10回(平成30年12月号初出,本書278頁~285頁),連載第38回(令和5年12月号初出,本書286頁~292頁)及び小窓「任意後見監督人選任申立てについて」(連載第10回初出,書籍化の際に令和6年6月時点の内容に更新,本書293頁)である。
大阪家庭裁判所の現在の運用は,同庁の「任意後見制度」のページ,「提出書類一覧表(任意後見)」(令和8年2月)及び「郵便切手及び予納金一覧(令和8年8月3日~)」で確認できた範囲で書き,確認できなかった点は本書の記載として区別する。

移行型の任意後見契約の仕組みや濫用防止策は移行型の任意後見契約―通常委任からの移行,濫用防止及び令和8年改正で,独身の高齢者が任意後見契約を結ぶ意味は独身の高齢者に任意後見契約が必要な理由で扱っているので,本記事では優先関係の判断に絞る。

2 結論

①任意後見契約が登記されていれば,任意後見監督人の選任の前後を問わず,家庭裁判所は「本人の利益のため特に必要があると認めるとき」に限り後見開始の審判等をすることができる(任意後見契約法10条1項)。
②既に法定後見が開始している本人について任意後見監督人の選任が申し立てられた場合は,法定後見の継続が「本人の利益のため特に必要であると認めるとき」を除き,任意後見監督人を選任して法定後見開始の審判を取り消す(同法4条1項2号・2項)。
③いずれの場面でも任意後見が原則であり,「特に必要」とは,任意後見契約の効力を否定して本人の自己決定が尊重されない結果となっても,なお法定後見を優先させるべき特別の必要性を意味すると本書は説明している(本書279頁)。
④裁判例は,代理権の範囲の不足,報酬の過大,受任者の不適格事由,契約の有効性への客観的な疑念,本人が法定後見を選ぶ意思を持っていることなど,任意後見契約によることが本人の保護に欠ける結果となる場合を「特に必要」に当たるとしている。
⑤実際に争われる事案の多くは親族間紛争であり,大阪家裁後見センターは,任意後見受任者の適格性に重点を置いて判断する例が多いとしている(本書290頁~291頁)。
もっとも,親族間に深刻な対立があるというだけでは,親族を任意後見人とすべきでない理由にはならないとも述べている(本書284頁注7)。
⑥本書が紹介する裁判例の結論は一方向ではなく,法定後見を優先させたもの(大阪高裁平成24年9月6日決定の判断内容,福岡高裁平成29年3月17日決定,水戸家裁令和2年3月9日審判)と,任意後見を優先させたもの(高松高裁令和元年12月13日決定)がある。
⑦大阪家裁への任意後見監督人選任申立ての郵便料は,本書の3,990円(令和6年6月現在)から,現在は郵便切手4,500円分,又は保管金5,000円と郵便切手1,100円分(本庁は切手不要)の選択制に変わっている。
⑧改正法の施行後は,任意後見の開始は「任意後見開始の審判」となり,法定後見は補助に一元化される。
登記された任意後見契約がある場合の補助開始は引き続き「本人の利益のため特に必要があると認めるとき」に限られる(改正後の任意後見契約法14条1項)が,現行10条3項に当たる規定は置かれておらず,補助と任意後見の併存を前提とした構造に変わる。

第2 優先関係を定める条文
1 任意後見契約が先に登記されている場合
(1) 10条1項

任意後見契約法10条1項は,「任意後見契約が登記されている場合には、家庭裁判所は、本人の利益のため特に必要があると認めるときに限り、後見開始の審判等をすることができる。」と定める。
「後見開始の審判等」は,後見開始,保佐開始又は補助開始の審判の総称である(同法4条2項)。
この規定は,任意後見監督人が選任される前(任意後見契約が発効する前)にも,選任された後にも適用される(本書278頁)。
任意後見契約が公正証書で締結され(同法3条),登記されている限り,法定後見の申立てをした親族の側が「特に必要」であることを示せなければ,法定後見は開始されない。

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相続財産清算人の権限外行為許可―許可が要る行為と要らない行為,類型別の留意点及び申立ての方法(AI作成)

目次第1 この記事の対象と権限の枠組み1 この記事の対象2 保存・利用・改良行為と処分行為3 清算人に固有の清算権限4 許可を得ずにした行為の効力第2 許可が要らないと解されている行為1 預金の照会・解約・払戻し2 貸金庫の開扉・点検・解約3 管理費用の支払・税金の納付・継続的契約の解約4 価値のない家財道具の廃棄5 判断に迷う場合と金融機関から許可を求められた場合第3 許可が要る行為の類型と留意点1 不動産の売却2 建物の取壊し3 動産・自動車の売却,譲渡,廃棄4 株式・投資信託の売却5 ゴルフ会員権6 出資金7 永代供養料・墓地の購入費用8 立替金・謝金の支払9 賃貸借契約の締結・解除10 訴訟行為11 債権の放棄第4 申立ての方法と許可後の報告1 申立先と費用2 申立書の書き方3 審判と不服申立て4 許可後の報告第5 出典1 法令2 裁判例3 公的資料・報告書
第1 この記事の対象と権限の枠組み
1 この記事の対象

本記事は,相続人のあることが明らかでない場合に選任される相続財産清算人(民法952条)が,相続財産を管理・換価する際に家庭裁判所の許可(権限外行為許可)を要するかどうかを,行為の類型ごとに整理するものである。
令和8年9月19日時点の民法,家事事件手続法,裁判所の公開資料(熊本家庭裁判所後見センター「相続財産の清算人の職務について」,大阪家庭裁判所の郵便料一覧),全国銀行協会の金融法務研究会の報告書等を確認して作成した。
許可の要否や運用は家庭裁判所によって異なる部分があるため,実際の事件では選任した家庭裁判所に確認する必要がある。
清算手続全体の流れは「相続財産清算人とは」で整理している。

2 保存・利用・改良行為と処分行為

相続財産清算人には,不在者財産管理人に関する民法27条から29条までが準用される(民法953条)。
清算人は,民法103条に規定する権限を超える行為を必要とするときは,家庭裁判所の許可を得て,その行為をすることができる(同法28条)。
民法103条が定めるのは,①保存行為と,②代理の目的である物又は権利の性質を変えない範囲内で,その利用又は改良を目的とする行為である。

全国銀行協会の金融法務研究会の報告書は,一般的な理解として,保存行為とは財産の現状を維持するために必要な行為,利用行為とは収益を図る行為,改良行為とは財産の使用価値又は交換価値を増加させる行為をいうと整理している。
同報告書によれば,腐敗しやすい物を売却して金銭に換えること,未登記不動産の登記,時効の完成猶予の措置,弁済期が到来した債務の弁済は保存行為の例とされ,金銭を銀行に預け入れることは利用行為の例とされる。
他方,預金を株式に換えるなど,物又は権利の性質を変える行為は,利用・改良の目的であっても清算人の権限を超えるとされている。

3 清算人に固有の清算権限

相続財産清算人は,民法28条の枠組みとは別に,清算のための権限を持つ。
請求申出の期間が満了した後の相続債権者及び受遺者への弁済(民法957条2項,929条~931条)や,弁済のために必要な場合の相続財産の競売(同法957条2項,932条本文)は,法律が定める清算の職務であり,これらについて権限外行為許可は問題とならない。
ただし,弁済の順序や按分を誤れば清算人が損害賠償責任を負うことがある(同法957条2項,934条)。

4 許可を得ずにした行為の効力

権限を超える行為を家庭裁判所の許可なしにした場合は,無権代理行為となる(民法113条)。
前記の報告書は,旧法下の相続財産管理人について,取引の相手方は許可の有無を審判書の提示を求めることで容易に確認できるため,表見代理(民法110条)の「正当な理由」が認められるのは審判書が偽造された場合など特別な場合に限られるとの指摘を紹介している。
清算人と取引をする相手方は,許可を要する行為であれば,許可審判書の写しで許可の内容を確認しておくべきである。
表見代理(民法109条・110条)の要件と,実印や印鑑証明書を示された相手方の確認についての最高裁判例は,登記手続のために実印や権利証を預けた相手が無断で保証や担保設定をしたとき―表見代理(民法109条・110条)と最高裁判例で整理している。

第2 許可が要らないと解されている行為
1 預金の照会・解約・払戻し

被相続人名義の預金の残高照会は,財産目録の作成(民法953条,27条1項)のための調査であり,清算人の権限に含まれる。
預金の解約・払戻しについても,前記の報告書は,実務上,清算人の権限内の行為であり家庭裁判所の許可は不要と解されてきたと整理し,預貯金を金銭にすること自体は財産の現状を増減させない現状維持的な行為として,許可不要と解してよいとしている。
熊本家庭裁判所の資料も,相続財産の預貯金は清算人名義に変更するよう案内している。

これに対し,外貨預金や投資信託のように価格が変動する資産に振り替えたり,投資信託等を購入したりする行為は,権利の性質を変えるものとして権限外になるとされている。

2 貸金庫の開扉・点検・解約

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本人による後見等開始の申立て――手続行為能力,申立意思の確認と説明状況報告書(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論1 対象と基準日2 結論第2 本人申立ての位置付け1 本人は申立権者である2 本人申立ての件数3 本人申立てが問題になる場面第3 申立人である本人の手続行為能力1 家事事件手続法118条の意味2 「一時的な回復」が必要であるという考え方3 意思能力の判断枠組み4 本人が理解し得ることが求められる内容第4 大阪家庭裁判所後見センターの調査の着眼点1 普段の能力の程度2 専門職の説明内容と本人の反応3 意思能力の認定が困難となる例4 制度利用の必要性が高いほどかかるバイアス第5 申立意思の確認1 手続行為能力とは別に申立意思を確認する理由2 受理面接・調査官調査と説明状況報告書第6 説明状況報告書1 名称と沿革2 提出を求められる場面の拡大3 記載すべき5点4 代理権・同意権の説明5 説明の方法の工夫6 本人の反応の確かめ方と記載7 記載事項のひな型と,具体的な問答の記載8 後見開始以外の事件での活用第7 申立て前に整えるべき資料1 申立関係書類の精査と補充書面2 診断書3 本人情報シート4 診断書と申立ての類型が一致しない場合5 保佐・補助の申立てで気を付けること第8 本人の意思能力に疑義が残る場合1 親族申立て・市町村長申立てへの切替え2 親族申立ての場合の本人への説明3 取下げの制限第9 大阪家庭裁判所の受理面接と審理の現在1 受理面接の運用の変遷2 鑑定3 費用第10 本書の記述のうち現在は変わった点第11 令和8年改正後の本人申立て1 補助への一元化と本人の請求権2 本人の同意3 手続の規定4 説明すべき法律効果の変化5 施行日と経過措置第12 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 公的資料4 文献5 関連記事
第1 この記事の対象と結論
1 対象と基準日

本記事は,後見・保佐・補助を受けることになる本人自身が申立人となって後見等開始の審判を申し立てる場合(以下「本人申立て」という。)について,申立人である本人の手続行為能力,家庭裁判所による申立意思の確認,大阪家庭裁判所後見センターが提出を求めることがある「説明状況報告書」の書き方,申立て前に整えるべき診断書・本人情報シート等の資料,本人の能力に疑問がある場合の対応及び令和8年改正後の扱いを整理するものである。
基準日は令和8年9月19日であり,法令は同日時点の現行条文をe-Gov法令検索で確認した。
令和8年法律第45号(民法等の一部を改正する法律)による改正後の条文は,法務省が公表している同法律の法律案本文及び新旧対照条文で確認した。

素材として,大阪家庭裁判所後見センター編『大阪家庭裁判所後見センターだより』(大阪弁護士協同組合,2025年。以下「本書」という。)を用いた。
本書は,月刊大阪弁護士会に平成29年5月号から連載された「大阪家裁後見センターだより」の第1回から第41回までを内容ごとに並べ替えて書籍化したものである。
本書1頁は,書籍化に当たり現在では取扱いが変わっているもの等について若干の修正・加筆をしたが,おおむね連載内容のままであり,原則として初出当時の運用等を記載したものであることに注意を求めている。
そのため,本記事では本書の記述ごとに連載回と初出の号を示し,大阪家庭裁判所の現在の運用は,同庁の成年後見のページ,申立てのチェック表(令和8年2月1日版)及び同庁が掲載する書式で確認できた範囲で書き,確認できなかった点は本書の記載として区別する。
書籍化後の運用の変更は,同庁が執筆する連載第51回及び第52回(令和8年10月号)によって補っている。

2 結論

①本人は後見・保佐・補助のいずれについても開始の審判の申立権者であり(民法7条,11条,15条1項),令和7年の全国の統計では申立人の約24.8%を本人が占め,最も多い。
②もっとも,後見開始の審判事件で本人が自ら手続行為をすることができるのは,本人が意思能力を有する限りにおいてであり,意思能力を欠く本人は自ら申し立てることも,弁護士に手続を委任することもできない(本書29頁)。
③大阪家庭裁判所後見センターは,本人申立てが適法であるためには,事理弁識能力を欠く常況にある本人の能力が一時的に回復し,少なくとも申立ての時点で意思能力があったと認められる必要があると考えており,普段の能力の程度と,専門職による説明の内容及びそれに対する本人の反応に着目して一件記録を調査している(本書30頁~32頁)。
④家庭裁判所は,手続行為能力とは別に,本人が申立ての内容と法律効果を理解した上で実際に申し立てる意思(申立意思)を有しているかも確認している(本書44頁~45頁)。
⑤そのための資料として,大阪家庭裁判所後見センターは,本人に何をどう説明し,本人がどう反応したかを具体的に記載した「説明状況報告書」の提出を求めることがあり,令和6年4月以降は親族申立てや保佐・補助の申立ても含めて,やや広い範囲で提出を求める方針を示している(本書53頁~57頁)。
⑥説明状況報告書には,後見人等の選任,権限,行為能力の制限,報酬及び継続性の5点について,説明内容と本人の応答をできるだけ問答形式で記載する(本書51頁~52頁)。
⑦説明が福祉的な利点に偏り本人に不利益な効果を説明した形跡がないもの,本人の反応がうなずきや「はい」にとどまるものは,意思能力や申立意思の認定が困難になりやすい(本書32頁~33頁,47頁)。
⑧本人の意思能力に疑義が残る場合には,親族申立てや市町村長申立てを検討すべきであるというのが大阪家庭裁判所後見センターの考え方である(本書34頁~35頁)。
⑨令和8年改正後も,本人は補助開始の審判の請求権者であり続けるが,後見・保佐は補助に一元化され,説明すべき法律効果の中身や,家庭裁判所が必要がなくなった審判を取り消すことができる点が変わる。

第2 本人申立ての位置付け
1 本人は申立権者である

民法7条は,「精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者については、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族、未成年後見人、未成年後見監督人、保佐人、保佐監督人、補助人、補助監督人又は検察官の請求により、後見開始の審判をすることができる。」と定める。
保佐開始(民法11条)と補助開始(民法15条1項)についても,請求権者の最初に「本人」が挙げられている。
申立先は本人の住所地を管轄する家庭裁判所であり(家事事件手続法117条1項),大阪家庭裁判所の成年後見のページは,申立先について「住民票のある住所ではありません」として,本人が現在住んでいる自宅,病院,介護施設などを基準としている。

2 本人申立ての件数

最高裁判所事務総局家庭局「成年後見関係事件の概況-令和7年1月~12月-」4頁によれば,後見開始,保佐開始,補助開始及び任意後見監督人選任事件の終局事件の申立人の関係別の総数42,829件のうち,本人は10,620件で約24.8%を占め,最も多い。
次いで市区町村長が10,139件(約23.7%),本人の子が約18.5%の順である。
なお,同概況の本人の件数には,比較的判断能力が保たれている保佐・補助の申立てや任意後見監督人選任の申立ても含まれるから,本人による後見開始の申立てがこれだけあるという意味ではない。

(続きを読む...)本人による後見等開始の申立て――手続行為能力,申立意思の確認と説明状況報告書(AI作成)

成年後見人等の辞任と交代――正当な事由,後任選任の同時申立て,市民後見人へのリレー(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論1 対象と基準日2 結論第2 辞任と交代の法的な枠組み1 辞任には正当な事由と家庭裁判所の許可が必要である2 辞任した後見人等は後任の選任を請求しなければならない3 「交代」は辞任と選任の組合せである4 辞任した後見人等に残る義務第3 「正当な事由」はどう判断されるか1 本書が示す4つの場面2 大阪家裁ハンドブックと申立書の記載3 本人が転居しても管轄は開始した家庭裁判所にある第4 大阪家庭裁判所への辞任許可と後任選任の申立て1 同時申立てが原則である2 費用3 添付資料4 本人の陳述聴取――陳述書と上申書5 候補者の意見聴取6 不服申立て第5 後任の後見人等がすること1 初回の財産目録と収支予定2 引継ぎの実際第6 大阪家庭裁判所が進める交代の考え方1 第二期成年後見制度利用促進基本計画2 交代の3つの類型3 交代の時期を最初に共有する4 「課題の解決」の意味5 身上保護が困難な事案での交代第7 専門職後見人の追加選任1 根拠条文2 親族後見人の事務に問題がある場合3 不正が疑われる事案で追加選任された専門職後見人の事務4 スポット的な選任5 複数の専門職後見人が選任された場合と課題解決後の辞任6 後見監督人から見た辞任と追加選任第8 市民後見人へのリレー1 大阪家庭裁判所管内の市民後見人2 市民後見人の選任に適した事案3 現行の書式「市民後見人へのリレーについて(専門職後見人へのお尋ね)」4 リレーの手順5 首長申立てでリレーを前提に専門職を推薦する運用6 リレーが進まない理由と後見センターの考え7 連載第49回による補足――大阪府下の市民後見人の活動と選任されない事案第9 令和8年改正後の辞任と交代1 施行の時期2 改正後の条番号3 解任事由3号が交代の道具になる4 既存の成年後見人・保佐人への経過措置5 お尋ねの書式と市民後見人のリレーはどうなるか第10 出典・参考資料1 法令2 公的資料3 文献4 関連記事
第1 この記事の対象と結論
1 対象と基準日

本記事は,家庭裁判所が選任した成年後見人・保佐人・補助人(以下「後見人等」という。)が途中で辞任し,別の者と交代する場面について,辞任の要件である「正当な事由」,大阪家庭裁判所への辞任許可と後任選任の同時申立て,本人の陳述聴取,専門職後見人の追加選任及び市民後見人へのリレーを取り上げるものである。
基準日は令和8年9月19日であり,法令は同日時点の現行条文をe-Gov法令APIで取得して確認した。
令和8年法律第45号(民法等の一部を改正する法律)による改正後の条文は,法務省の新旧対照条文と法律案本文で確認した。
素材として,大阪家庭裁判所後見センター編『大阪家庭裁判所後見センターだより』(大阪弁護士協同組合,2025年。以下「本書」という。)の169頁~180頁,302頁~308頁及び156頁~161頁を用いた。
本書は,月刊大阪弁護士会の連載を書籍にまとめたものであり,本書1頁は,原則として初出当時の運用を記載した記事であることに注意するよう求めている。
そのため,本記事では本書の記述ごとに連載の回と初出号を示し,大阪家庭裁判所の現在の運用は,同庁の成年後見のページ(令和8年9月19日取得),「成年後見人・保佐人・補助人ハンドブック(Q&A付き)」(令和8年2月1日版。以下「大阪家裁ハンドブック」という。)及び同ページ掲載の書式で確認できた範囲で書く。
解任については成年後見人の解任理由で扱っているので,本記事では辞任と交代に必要な限度でだけ触れる。

2 結論

①後見人等は,正当な事由があるときに限り,家庭裁判所の許可を得て辞任することができる(民法844条,876条の2第2項,876条の7第2項)。
②辞任によって新たな後見人等を選任する必要が生じたときは,辞任した後見人等は遅滞なく後任の選任を請求しなければならない(民法845条)。大阪家庭裁判所は,辞任許可の申立てと同時に後任選任の申立てをするよう求めている。
③本書(連載第15回・令和元年10月号初出)は,後見人等の遠隔地への転居・老齢・疾病を原則として正当な事由とし,専門職が関与すべき課題が解決して親族や市民後見人に引き継げる場合も一般に正当な事由があるとする。他方で,本人や親族との信頼関係が築けないことは,それだけで直ちに正当な事由になるのではなく,総合的に判断するとしている。
④後任の選任には本人の陳述聴取が手続要件であり,大阪家庭裁判所は,本人が陳述できれば「本人の陳述書」,意思疎通ができない等の場合は「上申書」を添付するよう求めている。
⑤現在の費用は,辞任許可と後任選任を同時に申し立てる場合,収入印紙1,600円分,登記用収入印紙1,400円分及び郵便切手5,500円分(候補者1人の場合)である。
⑥本書(連載第31回・令和4年6月号初出)は,後見人等の交代を3つの類型に分け,専門職が課題を解決した後に親族や市民後見人へ引き継ぐことを「リレー」と呼び,専門職後見人に辞任の可否と時期の検討を求める機会が増えるとしていた。
⑦この考え方は,令和7年4月1日版の書式「市民後見人へのリレーについて(専門職後見人へのお尋ね)」として具体化されており,現在,大阪家庭裁判所は,専門職の成年後見人に対し,定期報告と報酬付与申立ての際にこの書式を提出するよう求めている。
⑧親族後見人の事務に問題がある場合,大阪家庭裁判所は,辞任・解任までの間などに専門職後見人を追加選任して権限を分掌させることがある。本書はこれをリレーの「テイクオーバーゾーン」に例えている。
⑨令和8年改正後は,辞任は改正後の民法876条の3,後任選任の請求は876条の4に移る。施行日前に開始した成年後見の成年後見人の辞任は従前の例によるが,解任は改正後の民法876条の5によるから,「本人の利益のため特に必要があるとき」(同条1項3号)という解任事由が,交代のもう一つの道具になる。

第2 辞任と交代の法的な枠組み
1 辞任には正当な事由と家庭裁判所の許可が必要である

民法844条は,「後見人は、正当な事由があるときは、家庭裁判所の許可を得て、その任務を辞することができる。」と定める。
保佐人と補助人にも同条が準用される(民法876条の2第2項,876条の7第2項)。
成年後見監督人・保佐監督人・補助監督人にも同条が準用されるから(民法852条,876条の3第2項,876条の8第2項),監督人の辞任にも正当な事由と許可が必要である。

本書169頁(連載第15回・令和元年10月号初出)は,後見人等は,本人の心身の状態や生活・財産の状況,後見人等となる者の職業・経歴,利害関係の有無,本人の意見その他一切の事情を考慮して(民法843条4項等),後見等の事務の適任者として選任されているから,自由な辞任を認めると本人の利益が害されるおそれがあり,そのため辞任には正当な事由と家庭裁判所の許可が必要とされていると説明する。
大阪家裁ハンドブック(Q22)も,後見人は本人の保護のため裁判所から適任者と認められて選任されたのだから,自由に辞任できることにすると本人の利益を害するおそれがあると説明している。

2 辞任した後見人等は後任の選任を請求しなければならない

民法845条は,「後見人がその任務を辞したことによって新たに後見人を選任する必要が生じたときは、その後見人は、遅滞なく新たな後見人の選任を家庭裁判所に請求しなければならない。」と定める。
保佐人・補助人にも同条が準用される(民法876条の2第2項,876条の7第2項)。

(続きを読む...)成年後見人等の辞任と交代――正当な事由,後任選任の同時申立て,市民後見人へのリレー(AI作成)

大阪家裁の総合支援型後見監督人――対象,9か月の支援期間,到達点,延長と「横滑り」(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論1 対象と基準日2 結論第2 前提となる後見監督人の職務と従来型の監督1 後見監督人の職務と権限2 大阪家裁の従来の選任類型3 監督人が指導・助言をする際の留意点第3 総合支援型後見監督人の理念1 定義と運用開始2 なぜ家庭裁判所が親族後見人を支援するのか3 中核機関等の支援との違い4 「見張る人」から「支援する人」へ第4 対象事案,選任の手続及び報酬1 対象事案2 選任される専門職3 申立てから開始まで4 報酬第5 親族後見人の「到達点」1 到達点の位置付け2 到達点の内容(現行の文言)3 本書の文言との違い4 「後見人に求められる後見事務のポイント」第6 当初支援期間(9か月)の流れ1 選任直後2 初回報告3 初回報告から2回目報告まで4 2回目報告5 当初支援期間中に本人が死亡した場合第7 当初支援期間の終了と延長1 当初想定された延長の類型2 裁判所が判断する5つの類型3 運用の実績4 延長17件はいずれも支援商品の契約支援5 期間の経過前に支援を終えることは予定されていない6 9か月という期間の根拠第8 支援商品との関係1 報告書兼指示書を出す時期2 リレー方式との区別3 現行の書式第9 「横滑り」の可否1 問題の所在2 定期確認型への横滑りは原則として認めない3 個別課題支援型への横滑りは認めることがある4 専門職後見人への横滑りも原則として認めない第10 アンケートに見る実情と監督人の心構え1 アンケートの概要2 親族後見人への説明3 意思決定支援はどこまで求められるか4 報告事務の到達水準――「きれいな」報告は求めない5 支援商品の説明第11 本書の記述と現在の資料の対照第12 令和8年改正後の総合支援型後見監督人1 改正の内容2 同意権の規定の変化3 経過措置第13 出典・参考資料1 法令2 公的資料3 文献4 関連記事
第1 この記事の対象と結論
1 対象と基準日

本記事は,大阪家庭裁判所が令和4年2月から運用している「総合支援型後見監督人」について,その理念,対象事案,9か月の当初支援期間の流れ,親族後見人の「到達点」,支援期間の延長,支援商品(後見制度支援信託及び後見制度支援預貯金)との関係,監督人の「横滑り」の可否及び令和8年改正後の見通しを整理するものである。
基準日は令和8年9月19日である。
法令は同日時点の現行条文をe-Gov法令検索で確認し,令和8年法律第45号(民法等の一部を改正する法律)による改正後の条文と附則は,法務省が公表した新旧対照条文と法律案本文で確認した。
素材は,大阪家庭裁判所後見センター編『大阪家庭裁判所後見センターだより』(大阪弁護士協同組合,2025年。以下「本書」という。)181頁~225頁である。
本書は月刊大阪弁護士会の連載をまとめたもので,原則として各回の初出当時の運用を記載している(本書1頁)。
本記事の範囲は,連載第27回(令和3年10月号),第28回(令和3年12月号),第29回(令和4年2月号),第30回,第39回(令和6年2月号)及び第41回前編・後編(令和6年6月号・7月号)の各初出記事である。
第30回の初出号は本文の表示が読み取れないが,同じ回の小窓(本書66頁)が令和4年4月号初出とされているから,同号と考えられる。
大阪家庭裁判所の現在の運用は,同庁の成年後見のページ(令和8年9月19日取得。以下「大阪家裁ページ」という。),「【総合支援型後見監督版】成年後見人・保佐人・補助人ハンドブック」(令和8年5月1日版。以下「総合支援型ハンドブック」という。),案内書面「後見開始の申立てをお考えの方へ~後見人支援のご案内~」(令和4年2月1日版。以下「後見人支援のご案内」という。)及び同ページ掲載の書式で確認し,確認できなかった点は本書の記載にとどまるものとして区別する。
後見監督人一般の選任基準,職務及び責任は後見監督人とは――選任基準,職務,責任及び令和8年改正による制度再編で,大阪家裁の申立先・報告書・窓口は大阪家庭裁判所後見センターの利用案内―申立先・必要書類・報告書・窓口で扱っているので,本記事では総合支援型に固有の事項を中心に書く。

親族後見人を支援する総合支援型後見監督人と,市民後見人の養成・登録は対象が異なる。市民後見人として活動を始めたい方は,大阪で市民後見人になるには―養成講座・受講要件・登録と活動支援を参照されたい。

2 結論

①総合支援型後見監督人は,初めて後見人となった親族後見人の後見事務全般を監督するほか,積極的・能動的に指導・助言・相談対応を行って親族後見人を総合的に支援する専門職の後見監督人であり,大阪家庭裁判所は令和4年2月1日以降に申し立てられた後見開始事件でこれを選任する運用を続けている。
②法律上の制度ではなく,民法の後見監督人(民法849条)の職務の範囲内で行う運用上の工夫であり,監督人の「支援」は監督事務に付随する事実行為と位置付けられている。
③対象は,親族の後見人候補者がいる後見類型の事案のうち,本人の流動資産が比較的高額な事案である。
本書にも大阪家庭裁判所の現行の公表資料にも,流動資産の基準額は書かれていない。
④当初支援期間は9か月であり,監督人は審判確定日から2か月と1週間以内に初回の監督事務報告書を,9か月後に2回目の監督事務報告書を提出し,2回目の報告で親族後見人が「到達点」に達したかどうかと今後の後見体制について意見を述べる。
⑤到達点は,意思決定支援,財産管理事務,身上保護事務,報告事務及び地域における相談窓口理解の5つの観点で定められており,専門職の後見人と同程度の水準を求めるものではない。
地域における相談窓口理解の到達点は,令和8年5月版の総合支援型ハンドブックで表現が具体化されている。
⑥支援期間は,後見開始の審判確定から最長2年の範囲で延長されることがあるが,本書によれば,延長された17件はいずれも到達点に達した後の支援商品の契約支援が理由であった。
当初支援期間の経過前に到達と判断して支援を終えることは予定されていない。
⑦支援商品の報告書兼指示書は,到達点に達したことを前提とするので,早くても2回目報告の直前に,到達の判断理由と併せて提出すべきものとされている。
⑧支援終了後に同じ専門職を定期確認型の監督人又は専門職後見人として続けさせる「横滑り」は,特段の事情がない限り認められず,個別課題支援型の監督人への横滑りは事情により認められている。
⑨令和8年改正により後見類型は廃止されて補助に一元化され,成年後見監督人も補助監督人に一元化されるが,施行日前に後見開始の審判を受けた本人とその成年後見人・成年後見監督人には原則として従前の例が適用される。
改正後の対象事案をどう定めるかについて,大阪家庭裁判所の公表資料は基準日現在見当たらない。

第2 前提となる後見監督人の職務と従来型の監督
1 後見監督人の職務と権限

家庭裁判所は,必要があると認めるときは,被後見人,その親族若しくは後見人の請求により又は職権で,後見監督人を選任することができる(民法849条)。

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成年後見人は本人の財産から何に支出できるか――親族の交通費・祝い金・扶養・贈与と大阪家裁の考え方(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論1 対象と基準日2 結論第2 支出の法的な枠組み1 包括的な財産管理権と代理権2 意思の尊重,身上配慮及び善管注意義務3 支出金額の予定と後見事務の費用4 家庭裁判所の監督と解任5 保佐人・補助人の場合第3 後見センターの監督の考え方の転換1 平成27年頃までの運用2 現在の考え方3 弁護士が選任される場面と裁量第4 本人の生活の質を高める支出1 原則として制約しない2 具体例第5 親族のための支出1 見舞いの旅費,外出同行の交通費・食事代2 孫・甥・姪への祝い金やお年玉3 生前贈与と保険契約4 親族の扶養5 贈与・祝儀を中止し又は減額できる場合第6 本書と大阪家裁ハンドブックの違いをどう読むか1 対象者の違い2 実務上の目安3 連絡票の書き方第7 事前の手続が必要な場面1 遺産分割と相続放棄2 居住用不動産の処分と利益相反3 債務の返済と消滅時効第8 定期報告での記載1 自主報告方式と報告遅滞2 想定上の現預貯金額との乖離3 本人以外の人のための支出の欄4 臨時支出と後見人等の報酬5 定期収支の変動と二重計上第9 本書の記述のうち現在変わった点第10 令和8年改正後の扱い1 補助への一元化と支出金額の予定2 意向の把握と尊重3 報告,解任及び金銭の消費4 経過措置第11 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 公的資料4 文献5 関連記事
第1 この記事の対象と結論
1 対象と基準日

本記事は,成年後見人等が,成年被後見人等(以下「本人」という。)の財産から,本人以外の親族のための支出や,本人の生活の質を高めるための支出をすることができるかについて,民法の枠組み,大阪家庭裁判所後見センター(以下「後見センター」という。)の考え方及び定期報告での記載の仕方を整理するものである。
基準日は令和8年9月19日であり,法令は同日時点の現行条文をe-Gov法令検索で確認した。
令和8年法律第45号(民法等の一部を改正する法律)による改正後の条文は,法務省が公表した法律案本文と新旧対照条文で確認した。

素材として,大阪家庭裁判所後見センター編『大阪家庭裁判所後見センターだより』(大阪弁護士協同組合,2025年。以下「本書」という。)を用いた。
本書は,月刊大阪弁護士会の連載(平成29年5月号~)を再編したものであり,原則として各回の初出当時の運用を記載し,書籍化の際に一部だけを令和6年6月時点に修正したものである(本書1頁)。
支出の考え方を正面から扱うのは連載第1回(平成29年5月号初出。本書71頁~76頁)であり,本書71頁の冒頭には,同回が主に後見等監督の基本的理念を説明した内容である旨の注記がある。
そのため,本記事では,本書の記述がいつの時点のものかを示し,現在の大阪家裁の運用は,同庁の成年後見のページと「成年後見人・保佐人・補助人ハンドブック(Q&A付き)」(令和8年2月1日版。以下「大阪家裁ハンドブック」という。)で確認できた範囲で書く。

2 結論

①成年後見人は本人の財産を包括的に管理し,財産に関する法律行為について本人を代表する(民法859条1項)。何に支出してよいかを個別に列挙した条文はなく,支出の当否は,本人の意思の尊重・身上配慮(民法858条)と善管注意義務(民法869条,644条)の枠内での後見人の裁量の問題となる。
②後見センターは,連載第1回(平成29年5月号初出)で,後見等監督の対象は解任事由の存否であり,就職の初めに提出された収支予定(民法861条1項)の範囲内の支出の当否まで積極的に調査する必要はないとの考え方を示した(本書73頁)。
③同回は,専門職後見人等について,個室入院,介護用品,親族の見舞いの旅費や外出同行の交通費・食事代,財産に余裕がある場合の孫等への祝い金・お年玉は,連絡票による事前の相談なしに後見人の判断で支出してよいとし,毎年の生前贈与,本人を契約者とする保険契約及び親族の扶養は事前の相談も考えられるとした(本書74頁~76頁)。
④他方,現在の大阪家裁ハンドブックは,主に親族後見人を念頭に,本人の生活費・扶養義務を負う配偶者や未成年の子の生活費・債務の返済・後見事務費を支出できるものとして挙げ,常識的な範囲の香典や祝儀は支出してよい場合が多いとしつつ,50万円以上の支出は事前に連絡票で連絡し,配偶者や子,孫などへの贈与・貸付けは原則として認められないとしている(大阪家裁ハンドブック16頁~17頁,41頁)。専門職に限って事前相談を不要とする取扱いは,現在の公表資料では確認できなかった。
⑤事前相談が不要な支出でも,事後の報告は必要である。令和7年4月からの全国統一書式の定期報告書は,本人以外の人(親族や後見人等を含む)のために支出したものの有無を問い,いつ,誰のために,いくらを,どのような目的で,どのような理由で相当と判断して支出したかを支出ごとに記載させる。
⑥令和8年改正後は法定後見が補助に一元化され,補助の節には現行民法861条1項(支出金額の予定)に相当する規定は置かれていない。他方,補助人には意向の把握・尊重義務(改正後の民法876条の11)と毎年の報告義務(同法876条の21)が課される。

第2 支出の法的な枠組み
1 包括的な財産管理権と代理権

民法859条1項は,「後見人は、被後見人の財産を管理し、かつ、その財産に関する法律行為について被後見人を代表する。」と定める。
本人の財産から誰かに金銭を支払うこと,本人の名で贈与をすること,本人を契約者として保険契約を結ぶことは,いずれもこの包括的な権限の範囲内の行為である。
民法には,後見人が本人の財産から何に支出してよいかを列挙した規定はない。
居住用不動産の処分(民法859条の3)のように家庭裁判所の許可を要する行為や,利益相反行為(民法860条,826条)のように特別代理人等を要する行為を除けば,支出するかどうかは後見人が判断することになる。

2 意思の尊重,身上配慮及び善管注意義務

民法858条は,「成年後見人は、成年被後見人の生活、療養看護及び財産の管理に関する事務を行うに当たっては、成年被後見人の意思を尊重し、かつ、その心身の状態及び生活の状況に配慮しなければならない。」と定める。
また,民法869条は644条を後見について準用しており,後見人は善良な管理者の注意をもって後見の事務を処理する義務を負う。
支出の当否は,本人の意思(推定的意思を含む。)と本人の生活の質,本人の財産の今後の見通しとを比べて判断することになる。

大阪家裁ハンドブック16頁(Q10)も,生活費の支出について,支出の必要性,本人の財産の総額,今後の収入の見込み,金額等から見た相当性を中長期的な展望に立って検討するよう求める一方で,これは現在ある財産をなるべく減らさないことだけを考えれば足りるという意味ではなく,本人の意向を踏まえ,本人がよりよい生活を送るためにはどうすればよいかという意識をもって判断するよう求めている。

3 支出金額の予定と後見事務の費用

民法861条1項は,「後見人は、その就職の初めにおいて、被後見人の生活、教育又は療養看護及び財産の管理のために毎年支出すべき金額を予定しなければならない。」と定め,同条2項は,「後見人が後見の事務を行うために必要な費用は、被後見人の財産の中から支弁する。」と定める。

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成年後見人等が就任したら最初にすること――大阪家裁への初回報告(財産目録・収支予定表)の期限と作り方(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論1 対象と基準日2 結論第2 就任直後の数週間にすること1 後見人等としての活動を始める時期2 後見人等であることの証明3 財産の引継ぎと調査4 基本事件番号と連絡票第3 初回報告の法的根拠1 成年後見人――民法853条・861条1項2 保佐人・補助人――民法863条による運用3 目録作成前の権限と債権債務の申出4 初回報告を求める趣旨第4 提出期限1 本書が記載する期限2 現行の公式資料で確認できる範囲3 起算点4 期限に間に合わないとき5 初回報告の後の定期報告第5 提出する書類1 現行の書類の組合せ2 添付資料3 後見等事務報告書(初回報告)の内容4 総合支援型後見監督人が選任されている場合第6 財産目録の作り方1 「不明」ばかりの目録は相当でない2 全体像の完全な解明までは求められない3 本人の財産が事実上の管理者の手元にある場合4 保佐人・補助人が本人から通帳を受け取れない場合5 多額の現金・貸金庫・施設預け金6 預り金口座での管理7 相続財産目録第7 収支予定表の作り方1 客観資料に基づいて作る2 特に裏付けが必要な費目3 記載の方法4 後見人等の報酬は支出予定に入れない5 本人の意思を踏まえた方針第8 就任直後の本人の状況把握1 申立ての段階で集めておく情報2 本人の意思・意向を報告に書く3 課題の進捗を報告する4 申立て前の説明不足が就任後に影響すること第9 本書の記述のうち現在は変わった点・確認できなかった点第10 令和8年改正後の初回報告1 財産目録の作成義務は特定補助人へ2 支出金額の予定と裁判所への報告3 意向の把握4 施行日と経過措置第11 出典・参考資料1 法令2 公的資料3 文献4 関連記事
第1 この記事の対象と結論
1 対象と基準日

本記事は,大阪家庭裁判所(以下「大阪家裁」という。)で成年後見人,保佐人又は補助人(以下「後見人等」という。)に選任された者が,就任直後に行う財産調査と,最初に家庭裁判所へ提出する報告(以下「初回報告」という。)について,法的根拠,提出期限,提出書類,財産目録と収支予定表の作り方及び令和8年改正後の扱いを整理するものである。
基準日は令和8年9月19日であり,法令は同日時点の現行条文をe-Gov法令検索で確認した。
令和8年法律第45号(民法等の一部を改正する法律)による改正後の条文は,法務省の新旧対照条文及び法律案本文で確認した。

素材として,大阪家庭裁判所後見センター編『大阪家庭裁判所後見センターだより』(大阪弁護士協同組合,2025年。以下「本書」という。)を用いた。
本書は,月刊大阪弁護士会に平成29年5月号から連載された記事を再編したものであり,本書1頁によれば,書籍化に当たって一部を修正・加筆したものの,原則として初出当時の運用を記載したものである。
そのため,本記事では,本書の記述を引くときは連載の回と初出号を示し,現在の運用は,大阪家裁の成年後見のページ(令和8年9月19日閲覧)及び「成年後見人・保佐人・補助人ハンドブック(Q&A付き)」令和8年2月1日版(以下「大阪家裁ハンドブック」という。)で確認できた範囲で書く。
現行資料で確認できなかった点は,本書の記載にとどまるものとして区別する。

後見等事務報告書の各欄の書き方は令和7年4月全国統一書式による後見等事務報告書・報酬付与申立事情説明書の書き方で,大阪家裁の申立先・報告書・窓口は大阪家庭裁判所後見センターの利用案内―申立先・必要書類・報告書・窓口で扱っているので,本記事では初回報告に固有の事項に絞る。

2 結論

①成年後見人は,遅滞なく本人の財産の調査に着手し,1か月以内に調査を終えて財産目録を作成しなければならず(民法853条1項),就任の初めに毎年支出すべき金額を予定しなければならない(民法861条1項)。
②保佐人・補助人にはこれらの規定が準用されていないが,大阪家裁は,民法863条1項(民法876条の5第2項,876条の10第1項で準用)を根拠に,預貯金に関する代理権を付与された保佐人・補助人にも初回報告を求めている(本書83頁~84頁)。
③提出期限は,審判書謄本に同封される「手続の流れ」に記載される(大阪家裁ハンドブック34頁)。本書(連載第40回・令和6年4月号初出)によれば,自薦の後見人等は審判確定日から1か月以内,専門職団体の推薦による後見人等は1か月と3週間以内,総合支援型後見監督人は2か月と1週間以内である。このうち現行の公式資料で確認できたのは,大阪家裁ハンドブックQ6の「後見人就任後、1か月以内」と,総合支援型後見監督人の「審判確定日から2か月と1週間以内」である。
④財産目録の作成期間の伸長を家庭裁判所に申し立てることができるのは成年後見人(及び未成年後見人)だけであり,保佐人・補助人・監督人は,間に合わない事情と提出見込み時期を連絡票で知らせる。
⑤現在の初回報告は,後見等事務報告書(初回報告),財産目録(未分割の相続財産があれば相続財産目録を含む。),収支予定表及び添付資料の組合せである。本書の時点の「初回財産目録等」(財産目録と収支予定表)に,報告書が加わっている。
⑥大阪家裁は,財産の全体像を完全に解明することまでは求めないが,預貯金や現金の大半を「不明」とし,今後の調査の見通しも示さない財産目録は相当でないとする(本書86頁)。
⑦事実上の管理者から通帳の引渡しを受けられないことだけを理由に初回報告が大幅に遅れることも相当でなく,金融機関への通知と取引履歴の取得,年金受取口座の変更,郵便物の回送嘱託等を検討する(本書86頁~87頁)。
⑧収支予定表は通帳,保険証券,領収書等の客観資料に基づいて作り,後見人等の報酬は支出予定に入れず,受け取った時点の臨時支出として報告する(本書89頁,97頁,108頁)。
⑨初回報告の報告書では,本人の生活や財産についての方針が本人の意思に沿っているかを選択肢で答え,本人との面談等の状況も記載するから,就任直後から本人と支援者に会って意思・意向を把握しておく必要がある。
⑩令和8年改正後は,財産目録の作成義務は特定補助人に限って民法876条の15に置かれ,支出金額の予定の規定は補助には置かれない。ただし,施行日前に後見開始の審判を受けた本人の成年後見人には,原則として従前の例による(改正法附則2条1項)。

第2 就任直後の数週間にすること
1 後見人等としての活動を始める時期

後見開始の審判は,即時抗告をすることができる審判であるから,確定しなければ効力を生じない(家事事件手続法74条2項ただし書,123条1項1号)。
即時抗告の期間は2週間であり(家事事件手続法86条1項),審判の告知を受ける者でない者による即時抗告の期間は,成年後見人に選任される者が審判の告知を受けた日から進行する(同法123条2項)。
大阪家裁ハンドブック(Q5,9頁)も,後見人が審判書謄本を受け取ってから2週間が経過した後に正式に後見人として活動することができ,不服申立てがあれば裁判所から別途連絡がある,と説明している。
保佐・補助の場合は,本人と保佐人・補助人のうち遅く審判書謄本を受け取った日から2週間とされている(同頁)。

2 後見人等であることの証明

後見人等であることは,法務局で登記事項証明書の交付を受けて証明するのが原則である(大阪家裁ハンドブックQ5,9頁)。

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相続人が行方不明の場合の不在者財産管理人―所在調査,申立て,遺産分割,売却,供託及び管理の終わり方(AI作成)

目次第1 この記事の対象と不在者財産管理人の位置付け1 この記事の対象2 不在者とは3 似た制度との違い4 不在者財産管理人と失踪宣告はどちらを選ぶか第2 申立て前の所在調査1 連絡が取れないだけでは足りない2 調査の方法第3 選任の申立て1 申立人と申立先2 添付書類3 費用と予納金4 管理人になる者第4 管理人の権限と職務1 保存行為と権限外行為2 財産目録の作成と報告第5 遺産分割への参加1 法定相続分の確保が原則である2 帰来時弁済型の遺産分割3 相続放棄が問題となる場合4 不在者が相続した財産を売却する場合の注意第6 不在者の不動産の売却第7 管理の終わり方1 選任処分の取消し2 供託と公告3 管理人の報酬第8 出典1 法令2 裁判例3 公的資料
第1 この記事の対象と不在者財産管理人の位置付け
1 この記事の対象

本記事は,相続人の一人が行方不明で遺産分割が進まない場合などに家庭裁判所が選任する不在者財産管理人(民法25条1項)について,申立て前の所在調査,選任の申立て,管理人の権限,遺産分割への参加,不動産の売却,供託による管理の終了までの流れを整理するものである。
令和8年9月19日時点の民法,家事事件手続法,裁判所HPの案内(大阪家庭裁判所の令和8年1月5日版の手引き及び令和8年8月3日からの郵便料一覧を含む。),法務省の通達及び裁判例を確認して作成した。
申立ての費用や予納金の額は家庭裁判所ごとに異なり,改定されることもあるため,申立ての前に申立先の裁判所の案内で確認する必要がある。

2 不在者とは

従来の住所又は居所を去った者(不在者)がその財産の管理人を置かなかったときは,家庭裁判所は,利害関係人又は検察官の請求により,その財産の管理について必要な処分を命ずることができる(民法25条1項)。
不在者財産管理人は,この処分として選任される管理人である。
大阪家庭裁判所の手引きは,不在者を,これまで住んでいた場所(住所,居所)からいなくなって,容易に戻ってくる見込みのない者と説明している。

不在者は,必ずしも生死不明であることを要しない。
生死不明の者であっても,死亡が証明されるか失踪宣告が確定するまでは,不在者として扱われる。
他方,親権者等の法定代理人や不在者自身が置いた管理人がいる場合には,この制度は利用できない。

3 似た制度との違い

相続人がいない場合に相続財産全体を清算するのは相続財産清算人であり,相続財産の保存を目的とするのは民法897条の2の相続財産管理人である。
特定の土地又は建物だけを管理・処分すれば足りる場合には,所有者不明土地・建物管理命令(民法264条の2以下)を利用できることもある。
ただし,所有者不明土地・建物管理人は所有者本人の一般的な代理人ではないため,行方不明の相続人に代わって遺産分割協議に参加することはできない。
制度の違いは「相続財産清算人,相続財産管理人及び不在者財産管理人の違いと代位による相続登記」で,相続人がいない場合の手続は「相続財産清算人とは」で,それぞれ整理している。

不在者の生死が7年間明らかでないときは,家庭裁判所は,利害関係人の請求により失踪の宣告をすることができ,失踪の宣告を受けた者はその期間が満了した時に死亡したものとみなされる(民法30条1項,31条)。
失踪宣告によって相続が開始すれば,不在者の相続人が手続を進めることになるため,不在者財産管理人の選任と失踪宣告のどちらが目的に合うかを最初に検討する必要がある。

4 不在者財産管理人と失踪宣告はどちらを選ぶか

不在者財産管理人の選任と失踪宣告は,行方不明者が関係する相続で検討されるが,法的な効果が異なる。
まず,必要としているのが不在者の財産管理・遺産分割への参加なのか,死亡したものとみなすことなのかを整理する。

確認点不在者財産管理人失踪宣告制度の役割不在者の財産を管理する生死不明の者を法律上死亡したものとみなす不在者の扱い死亡したものとはみなされない普通失踪では7年間の満了時,危難失踪では危難が去った時に死亡したものとみなす遺産分割への関与管理人が家庭裁判所の許可を得て不在者に代わって加わる死亡とみなされる時点に応じて相続人を確定する時間に関する確認失踪宣告の7年間という要件とは別に,管理人選任の要件と必要性を検討する普通失踪は7年間,危難失踪は危難が去った後1年間の生死不明が要件

例えば,行方不明となった相続人について,7年間が満了した後に被相続人が死亡していた場合,普通失踪の宣告を受けると,行方不明の相続人は被相続人より先に死亡したものとみなされる。
その者が被相続人の子又は兄弟姉妹であって,その者に子があれば,代襲相続が問題となる。
これに対し,不在者財産管理人を選任する場合は,不在者は死亡したものとはみなされず,不在者を相続人として遺産分割を進めるため,どちらの手続を選ぶかで相続人の顔ぶれが変わり得る。

行方不明の相続人が外国籍で外国に住んでいた場合には,日本の裁判所が失踪宣告をすることができるのは,日本所在の財産や,日本法による相続等の日本に関係がある法律関係の範囲に限られることがある(法の適用に関する通則法6条2項)。
他方,不在者財産管理人の選任は,不在者の財産が日本国内にあれば,日本の裁判所に申し立てることができる(家事事件手続法3条の2)。
失踪宣告を受けた場合の相続税の申告期限,財産評価の基準日及び外国が関わる場合の扱いは,「失踪宣告と相続・相続税―死亡とみなされる時点,相続人の変動,申告期限,取消し及び外国が関わる場合」で説明している。

(続きを読む...)相続人が行方不明の場合の不在者財産管理人―所在調査,申立て,遺産分割,売却,供託及び管理の終わり方(AI作成)

相続財産清算人とは―選任が必要な場合・申立て・費用・期間・手続の流れ(AI作成)

目次第1 この記事の対象と相続財産清算人が選任される場面1 この記事の対象2 相続人のあることが明らかでないとき3 似た名称の制度との違い第2 選任の申立て1 申立てができる者と申立先2 申立ての目的ごとの注意3 費用と予納金第3 公告と期間1 相続人捜索の公告と請求申出の公告2 期間の関係第4 清算人による財産の調査と管理1 権限の範囲2 財産調査の方法3 不動産の管理と売却第5 相続債権者及び受遺者への弁済1 請求申出期間中の扱い2 期間満了後の弁済の順序3 債務超過の場合第6 特別縁故者への分与1 申立期間と申立人自身の期間管理2 特別縁故者に当たる者3 清算人の意見と不服申立て4 清算人の意見を作るための証拠整理第7 残余財産の行方と手続の終わり1 国庫への引継ぎ2 共有持分と区分所有建物3 処分できない財産が残る場合4 清算人の報酬第8 よくある質問1 相続財産清算人は何をする人ですか2 どのような場合に選任が必要ですか3 利害関係人には誰が含まれますか4 費用と予納金はいくらですか5 清算人を選任しないとどうなりますか6 相続放棄をした人も申し立てられますか7 選任から終了までどのくらいかかりますか8 選任を証明する書類は何ですか9 選任後は何をしますか第9 出典1 法令2 裁判例3 公的資料4 参考文献
第1 この記事の対象と相続財産清算人が選任される場面
1 この記事の対象

相続財産清算人は,相続人のあることが明らかでない遺産について家庭裁判所に選任され,財産の調査・管理・換価,債権者等への弁済,特別縁故者への分与への対応及び残余財産の国庫への引継ぎを行う者である。
本記事は,選任が必要となる場合,申立人・申立先,費用・予納金,公告期間,選任後の職務及び手続終了までの全体像を説明する。
令和8年10月16日時点の民法,家事事件手続法,裁判所ウェブサイトの案内(大阪家庭裁判所の令和8年1月5日版の手引きを含む。)及び最高裁判例を確認して作成した。
一般的な情報提供を目的とするものであり,個別の申立てでは相続関係,財産・負債,申立目的及び管轄家庭裁判所の最新の運用を確認する必要がある。

2 相続人のあることが明らかでないとき

相続人のあることが明らかでないときは,相続財産は法人とされる(民法951条)。
この場合,家庭裁判所は,利害関係人又は検察官の請求によって,相続財産清算人を選任しなければならない(同法952条1項)。
戸籍上相続人がいない場合のほか,相続人全員が相続放棄をした結果,相続する者がいなくなった場合も含まれる。

もっとも,相続人がいなくても,相続財産の全部について包括遺贈を受けた者(全部包括受遺者)がいる場合は,「相続人のあることが明らかでないとき」に当たらない(最高裁平成9年9月12日第二小法廷判決・平成6年(オ)第2052号・民集51巻8号3887頁)。
したがって,申立ての前に,遺言の有無と,全部包括受遺者がいないかどうかを確認する必要がある。

相続放棄をした者は,放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは,相続人又は相続財産清算人に引き渡すまでの間,自己の財産におけるのと同一の注意をもってその財産を保存しなければならない(民法940条1項)。
相続人全員が放棄した後に,占有している財産の引渡し先を作るために清算人の選任が申し立てられることもある。

3 似た名称の制度との違い

相続財産清算人は,相続財産全体を調査・管理し,清算して,残余があれば国庫に引き継ぐ清算機関である。
これに対し,民法897条の2の相続財産管理人は相続財産の保存を目的とする機関であり,不在者財産管理人(民法25条)は所在不明の人の財産を管理する機関である。
特定の土地又は建物だけが問題となる場合には,所有者不明土地・建物管理命令(民法264条の2以下)を利用できることもある。
これらの違いと選び方は,「相続財産清算人,相続財産管理人及び不在者財産管理人の違いと代位による相続登記」で整理している。
破産管財人との違いは,「相続財産清算人と破産管財人の違い」で,相続人の一部が行方不明の場合の手続は,「相続人が行方不明の場合の不在者財産管理人」で,それぞれ整理している。

民法897条の2の保存型管理人については,相続財産管理人の選任申立てで,要件,必要書類,費用及び管理終了を説明している。

第2 選任の申立て
1 申立てができる者と申立先

申立てができるのは,利害関係人又は検察官である(民法952条1項)。
大阪家庭裁判所の手引きは,利害関係人の例として,受遺者(全部包括受遺者を除く。),相続債権者,相続債務者,特別縁故者,事務管理者,国・地方公共団体及び後見人等を挙げている。

申立先は,相続が開始した地(被相続人の最後の住所地)を管轄する家庭裁判所である(家事事件手続法203条1号)。
添付書類としては,被相続人に相続人がないことを明らかにする戸籍謄本等(被相続人の出生から死亡まで,父母の出生から死亡までの戸籍等),被相続人の住民票除票又は戸籍附票,申立人の利害関係を証する資料,被相続人の財産目録とその裏付け資料,相続放棄があった場合の相続放棄申述受理証明書等が求められる。
大阪家庭裁判所本庁では,清算人は,原則として申立人の推薦を受けず,事件に利害関係のない大阪弁護士会所属の弁護士が選任されると案内されている。

2 申立ての目的ごとの注意

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成年後見人と生活保護――申請の代理,世帯分離,資産の保有及び63条返還(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論1 対象と基準日2 結論第2 生活保護の仕組みと最低生活費1 保護の要件と世帯単位の原則2 8種類の扶助と給付の方法3 生活扶助の構造4 入院したときの入院患者日用品費5 冬季加算6 障害者加算7 住宅扶助8 入院・入所中の住宅扶助の継続第3 保護の申請と成年後見人1 要否判定と開始時の手持金2 申請と14日・30日3 成年後見人による申請の代理第4 世帯認定と世帯分離1 同一世帯の原則2 入院・入所者の世帯分離3 生活保持義務関係の範囲4 配偶者だけが保護を受ける場合5 住宅扶助の世帯人員第5 資産の活用と保有の容認1 原則2 居住用不動産3 要保護世帯向け不動産担保型生活資金4 保険5 自動車6 保護費のやりくりによって生じた預貯金第6 扶養義務者による扶養と扶養照会1 扶養は保護の要件ではない2 扶養照会を行わない場合3 後見人の対応第7 保護費の支給と一時扶助1 経常的な保護費2 一時扶助3 転居費用と通院移送費第8 収入認定と自立更生控除1 届出義務2 臨時的収入の控除3 自立更生のために充てられる額第9 63条返還1 条文と趣旨2 収入認定か63条返還か3 遺産分割と63条返還4 返還額の決定と自立更生のための控除5 遡及して受給した年金6 78条の徴収との違い第10 市長申立ての手続費用の本人負担1 家事事件手続法28条2 財産目録の作成前は支払えない3 生活保護を受けている本人の場合4 大阪家裁の運用について第11 生活扶助基準の引下げを違法とした最高裁判決第12 令和8年改正後の変化1 補助への一元化と代理権2 生活保護法の改正3 申請代理の扱いは未定4 市町村長申立て第13 本書(2023年)の記載と現在の違い第14 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 公的資料4 文献5 関連記事
第1 この記事の対象と結論
1 対象と基準日

本記事は,成年被後見人の収入や資産では生活が成り立たないときに,成年後見人が生活保護をどう使い,受給中に何に気を付けるかを整理するものである。
素材は,大阪弁護士会高齢者・障害者総合支援センター編『【全訂版】成年後見人の実務2023』(大阪弁護士協同組合,2023年。以下「本書」という。)61頁~69頁の「生活保護」の節と,37頁~38頁の市長申立ての手続費用の記述である。
基準日は令和8年9月19日である。
生活保護法等の条文は同日時点の現行条文をe-Gov法令検索で確認し,保護の基準の金額は厚生労働省の法令等データベースに収録された「生活保護法による保護の基準」(昭和38年厚生省告示第158号)と厚生労働省の公表資料で確認できたものだけを書いた。
本書の金額は2022年時点のものであり,その後に改定されているので,本書の数値はそのまま引用しない。
確認できなかった金額は数値を書かず,仕組みだけを説明する。

2 結論

①成年後見人は,成年被後見人の代理人として生活保護の申請をすることができる。
厚生労働省は,令和3年9月1日付けの事務連絡で「生活保護問答集」の問9-2を改め,令和3年10月1日から,成年後見人による申請を生活保護法7条に基づく有効な申請として扱っている。
ただし,被保佐人・被補助人の保佐人・補助人はこの取扱いの対象外である。
②申請に対する決定は原則14日以内,特別な理由があるときは30日以内であり,30日以内に通知がなければ却下されたものとみなすことができる(生活保護法24条5項・7項)。
③本人が長期入院・施設入所をしている場合,配偶者等の出身世帯と分けて本人だけに保護を適用する「世帯分離」が認められることがある。
④居住用不動産,保険,自動車,保護費のやりくりで貯めた預貯金は,一定の要件の下で保有したまま保護を受けられる。
保護費と年金を原資とする預貯金を収入認定した保護変更処分を違法とした秋田地裁平成5年4月23日判決と,学資保険の満期保険金の収入認定を違法とした最高裁平成16年3月16日判決がある。
⑤扶養照会は,「扶養義務の履行が期待できない」親族には行わないのが原則であり,令和3年2月の改正で,例えば10年程度の音信不通は著しい関係不良とみなしてよいとされた。
⑥保険金・賠償金・遺産等を受け取ったときは,収入認定又は生活保護法63条の返還の対象になるが,自立更生のために充てる額は控除され得る。
課長通知は,成年後見人等の申立てや報酬に必要な経費を,自立更生計画なしで収入認定から除く扱いを定めている。
⑦市長申立てで本人負担とされた手続費用は,財産目録の作成が終わるまで支払えず,本人に資力がなければ分割・猶予・免除の交渉と成年後見制度利用支援事業の利用を検討する。
⑧令和8年の民法改正の施行後は,成年後見は補助に一元化される。
生活保護法30条3項と81条も改正されるが,同法7条は変わらず,補助人による保護の申請を厚生労働省がどう扱うかは,基準日現在,公表されていない。

第2 生活保護の仕組みと最低生活費
1 保護の要件と世帯単位の原則

生活保護法4条1項は,「保護は、生活に困窮する者が、その利用し得る資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われる。」と定める。
同条2項は,「民法(明治二十九年法律第八十九号)に定める扶養義務者の扶養及び他の法律に定める扶助は、すべてこの法律による保護に優先して行われるものとする。」と定める。
同法10条は,「保護は、世帯を単位としてその要否及び程度を定めるものとする。但し、これによりがたいときは、個人を単位として定めることができる。」と定めている。
保護の額は,厚生労働大臣の定める基準で計算した最低生活費から,年金等の収入を差し引いた差額である(同法8条1項)。
厚生労働省の「生活保護制度」のページも,「最低生活費から収入を差し引いた差額が保護費として支給」されると説明している。

(続きを読む...)成年後見人と生活保護――申請の代理,世帯分離,資産の保有及び63条返還(AI作成)