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家庭裁判所が選任した遺言執行者の報酬の目安-現行法と旧基準(AI作成)

第1 結論と対象範囲

民法1018条は,家庭裁判所が選任した遺言執行者の報酬について,全国一律の金額表又は料率を定めていない。
家庭裁判所は,相続財産の状況その他の事情を考慮して報酬を定めるため,令和8年9月4日現在の法令及び確認できた公表資料からは,遺産額だけで個別の審判額を正確に予測することはできない。

実務書には,弁護士である遺言執行者について,平成16年4月に廃止された旧日弁連報酬等基準規程を参考にし,これを若干減額して決定していた時期があるとの記載がある。
旧基準を機械的に当てはめると,執行対象の価額が1000万円なら44万円,5000万円なら104万円,1億円なら154万円となるが,これは現在の家庭裁判所の基準額,最低額又は予測額ではない。

したがって,現在の報酬の見通しを立てる際は,遺産額に一定割合を掛けるだけでは足りない。
財産の種類及び評価額,執行した事務の内容,期間,難易度,紛争対応,支出した費用並びに執行結果を示す資料を準備するのが有用である。

本記事は,家庭裁判所が選任した遺言執行者に対する報酬付与を中心に扱う。
遺言で指定された専門家又は信託銀行の契約上の報酬は,家庭裁判所が定める報酬との違いを説明する範囲に限って取り上げる。

第2 選任の審判と報酬付与の審判は別である

1 家庭裁判所が遺言執行者を選任する場合

遺言執行者がいないとき,又はいったん就任した遺言執行者が辞任,解任又は死亡等によっていなくなったときは,家庭裁判所は,利害関係人の請求により遺言執行者を選任することができる(民法1010条)。
裁判所ウェブサイトの「遺言執行者の選任」も,申立人は相続人,遺言者の債権者又は受遺者等の利害関係人であり,申立先は遺言者の最後の住所地の家庭裁判所であると案内している。

2 選任時に報酬額まで当然に決まるわけではない

遺言執行者の選任は,家事事件手続法別表第一の104の項の事件であり,遺言執行者に対する報酬の付与は,同表105の項の別事件である。
したがって,家庭裁判所が遺言執行者を選任したという事実だけから,報酬額が確定したことにはならない。

報酬付与事件の管轄は,相続を開始した地を管轄する家庭裁判所にある(家事事件手続法209条1項)。
相続開始地は,被相続人の住所である(民法883条)ため,通常は遺言者の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に申し立てることになる。

第3 報酬の決まり方

1 遺言に報酬の定めがある場合

民法1018条1項は,家庭裁判所が相続財産の状況その他の事情によって遺言執行者の報酬を定めることができるとする一方,遺言者が遺言に報酬を定めたときはこの限りでないと定めている。
家庭裁判所が遺言執行者を選任した場合であっても,遺言書に報酬条項があれば,まずその内容を確認する必要がある。
確認すべきなのは,報酬額又は算定方法だけでなく,その条項が誰の報酬について定めたものかである。

報酬条項には,遺言者が指定した特定の者を遺言執行者とすることを前提として,その者の報酬の算定方法だけを定めているものがある。
家庭裁判所が別の者を遺言執行者に選任した場合に,このような条項が同項ただし書にいう「遺言者がその遺言に報酬を定めたとき」に当たるかどうかは,条項の文言及び遺言全体から判断することになる。
ただし書に当たらないと解される場合には,同項本文により家庭裁判所が報酬を定めるから,報酬付与の申立てでは,条項の文言そのものを資料として示す必要がある。

遺言に報酬額の定めがない場合について,松川正毅・窪田充見編『新基本法コンメンタール相続』(日本評論社,2016年)232頁は,無報酬を推認させる特段の事情がない限り,遺言執行者は家庭裁判所に報酬付与を申し立てることができると説明している。
同書は,相続人と遺言執行者との合意によって別に報酬額等を取り決めることも差し支えないと説明している。

2 家庭裁判所が考慮する事情

民法1018条1項が明示するのは,「相続財産の状況その他の事情」である。
同項は,遺産額に対する固定割合や上限・下限を定めていない。

第一東京弁護士会司法研究委員会編『新版遺言執行の法律と実務』(ぎょうせい,新版3版,2005年)92頁は,報酬を決める際の事情として,①相続財産の状況,②遺言執行の状況,③遺言執行の難易,④遺言執行に要した期間,⑤遺言執行者と遺言者及び相続人との身分関係,⑥遺言執行者の生活状況等を挙げている。
同書は,中途で任務が終了した場合には,終了理由並びに遺言執行者の有責・無責も調整対象になると説明している。

『新基本法コンメンタール相続』232頁は,相続財産の価額及び種類,管理期間,執行行為の具体的内容・範囲並びに難易度等の一切の事情を斟酌して相当な報酬額を定めることができると説明している。
これらは公表された全国一律の算定式ではなく,考慮要素についての実務書及び注釈書の説明である。

第4 旧日弁連報酬等基準規程による歴史的な参考額

1 旧基準の内容

旧日弁連報酬等基準規程は,遺言執行の手数料について,執行対象の価額に応じた累進方式を採用していた。
しかし,同規程は平成16年4月1日に廃止されており,現在の弁護士報酬にも,現在の家庭裁判所の報酬付与審判にも直接適用されない。

執行対象の価額の部分旧基準の手数料
300万円以下の部分30万円
300万円を超え3000万円以下の部分2%
3000万円を超え3億円以下の部分1%
3億円を超える部分0.5%

旧基準は,特に複雑又は特殊な事情がある場合には弁護士と受遺者との協議により定める額とし,遺言執行に裁判手続を要する場合には別に弁護士報酬を請求できるとしていた。
旧基準の全文は,当ブログの「日弁連の,報酬等基準規程(平成7年9月11日会規第38号)」に掲載している。

2 旧基準を単純計算した場合

次の金額は,旧基準の各料率を累進的に単純適用した歴史的な参考額である。
現在の家庭裁判所が次の金額を採用するとの意味ではない。

執行対象の価額旧基準による単純計算額
300万円30万円
1000万円44万円
3000万円84万円
5000万円104万円
1億円154万円
3億円354万円
5億円454万円

例えば,執行対象の価額が5000万円の場合は,300万円以下の部分の30万円,300万円を超え3000万円以下の部分の54万円,3000万円を超え5000万円以下の部分の20万円を合計し,104万円となる。

3 現在の目安として使う場合の限界

『新版遺言執行の法律と実務』92頁~93頁は,従前,遺言執行者が弁護士である場合に旧日弁連基準を参考にして若干減額し,弁護士である場合とそれ以外の場合とで差があったようであると記載している。
これは平成16年当時の実務についての記述であり,令和8年現在の運用又は全国の家庭裁判所の統一基準を示すものではない。

インターネット上の「遺産額の1%から3%」等の説明には,遺言で指定された専門家又は信託銀行等が契約・報酬規程に基づいて受け取る報酬を説明するものが含まれる。
家庭裁判所が選任した遺言執行者に対する報酬付与審判の予測と,民間の専門家報酬の相場は区別する必要がある。
当職の私的受任に関する料金は,「相続事件(遺産分割・遺留分・遺言)の弁護士費用の基準」に別途掲載している。

第5 誰が,いつ報酬を支払うか

1 原則として遺言執行後に支払う

民法1018条2項は,同法648条2項及び3項等を遺言執行者の報酬に準用している。
したがって,期間によって報酬を定めた場合等を除き,原則として任務を履行した後に報酬を請求し,任務が中途で終了したときは,既にした履行の割合に応じて報酬を請求できる場合がある。

2 報酬は相続財産の負担となる

民法1021条は,遺言の執行に関する費用を相続財産の負担とする一方,それによって遺留分を減ずることはできないと定めている。
『新版遺言執行の法律と実務』87頁~88頁は,遺言執行者の報酬を遺言執行費用に含めて説明している。

ただし,民法上,相続財産の負担となることと,相続税の計算で債務控除できることは同じではない。
国税不服審判所平成13年12月25日裁決(裁決事例集62号412頁)は,遺言執行費用は被相続人の債務ではないとして,相続税の課税価格の計算上の控除を認めなかった。

第6 報酬付与の申立てで示すべき資料

名古屋家庭裁判所の申立添付書類等一覧表は,遺言執行者に対する報酬付与の申立てについて,遺言執行報告書,遺産目録及び遺産に関する資料等を掲げている。
同一覧表では,収入印紙は遺言執行者1名につき800円とされているが,郵便料は改定され得るため,申立先の家庭裁判所の最新案内を確認する必要がある。

報酬額の審理に備えるには,①財産目録及び評価資料,②就任から終了までの時系列,③日付・所要時間・相手方・結果を記載した業務記録,④預貯金の解約,登記,換価,債務弁済及び分配等の完了資料,⑤紛争又は特殊事情への対応資料,⑥立替費用の領収書を整理するのが有用である。
遺産額だけでなく,何を,どの程度の手間をかけて実現したかが分かるようにすることが重要である。

なお,遺言執行者の報酬付与審判については,即時抗告を認める特別の規定がない(家事事件手続法85条1項,209条~215条)。
法制審議会民法(成年後見等関係)部会第11回会議の部会資料834頁も,同じ整理を示しているため,考慮してほしい事情と裏付資料は申立ての段階で整理して提出するのが実務的である。

第7 関連記事

遺言執行者の権限,相続人による処分の制限,報告請求及び解任については,「遺言執行者が指定されている場合の相続人の注意点」で整理している。
遺言信託と弁護士への依頼の費用構造の違いについては,「遺言執行者は信託銀行より弁護士に依頼する方が合理的か」を参照されたい。

第8 出典

1 法令

民法(明治29年法律第89号)648条,648条の2,883条,1010条,1018条及び1021条(e-Gov法令検索,令和8年9月4日確認)
家事事件手続法(平成23年法律第52号)85条,209条,214条及び別表第一105の項(e-Gov法令検索,令和8年9月4日確認)

2 裁決

国税不服審判所平成13年12月25日裁決(裁決事例集62号412頁)

3 裁判所及び法務省の資料

裁判所「遺言執行者の選任」(令和8年9月4日確認)
名古屋家庭裁判所「申立添付書類等一覧表」18頁(令和8年9月4日確認)
名古屋家庭裁判所「郵便切手及び予納金一覧(令和8年4月1日~)」4頁(令和8年9月4日確認)
④法務省法制審議会民法(成年後見等関係)部会第11回会議・部会資料8「成年後見制度の見直しに向けた検討⑺」34頁

4 職能団体の旧規程

①日本弁護士連合会「報酬等基準規程(平成7年9月11日会規第38号)」(平成16年4月1日廃止。当ブログ掲載資料の遺言執行欄を確認)

5 その他の文献

①第一東京弁護士会司法研究委員会編『新版遺言執行の法律と実務』(ぎょうせい,新版3版,2005年)87頁~93頁
②松川正毅・窪田充見編『新基本法コンメンタール相続』(日本評論社,2016年)232頁