第1 この記事の対象と基準日1 離婚実務の論点を分けて考える2 令和8年9月27日現在の制度を基準とする第2 離婚の方法と裁判離婚の原因1 協議離婚・調停離婚・裁判離婚2 裁判上の離婚原因3 離婚届をめぐる事故を防ぐ第3 離婚前に決める事項と合意書1 確認事項を一覧化する2 合意は履行できる内容にする第4 子の親権・監護・親子交流1 離婚後の親権者2 親権の共同・単独行使3 親子交流と父母以外の親族第5 養育費1 合意又は裁判で定める養育費2 法定養育費3 先取特権と履行確保4 収入資料の提出第6 別居中の婚姻費用1 婚姻中の生活費2 既存の合意がある場合第7 財産分与・住宅・事業資産・年金分割1 財産分与の対象と期間2 裁判所に分与を求めた財産の特定3 情報開示命令と支払原資4 自宅・住宅ローン・会社関係財産5 将来の退職金・確定拠出年金6 年金分割第8 離婚慰謝料1 離婚自体の損害と個別の不法行為2 不貞相手など第三者への請求3 離婚に伴う慰謝料の遅延損害金第9 証拠と安全への配慮1 先に時系列と資料一覧を作る2 DV・虐待・住所秘匿第10 子の移動・引渡し1 実力による連れ去りを避ける2 引渡し・返還の裁判例は手続を区別する第11 関連記事第12 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 裁判所・法務省・日本年金機構・内閣府
離婚を進める前には,手続の選択だけでなく,子の生活,別居中と離婚後の費用,財産・債務,安全確保を同時に整理する必要があります。
この記事では,令和8年4月1日施行後の制度を基準に,合意書や裁判手続へ進む前に確認すべき事項をまとめます。
第1 この記事の対象と基準日
1 離婚実務の論点を分けて考える
離婚事件では,離婚するかどうかだけでなく,子の親権・監護,親子交流,養育費,別居中の婚姻費用,財産分与,年金分割,慰謝料などを分けて検討する必要があります。
同じ夫婦の問題でも,合意で決められる事項,家庭裁判所が判断する事項,別の民事訴訟で扱うことがある事項では,手続と必要な証拠が異なります。
最初に,①子の安全と生活,②別居中と離婚後の生活費,③財産と債務,④暴力・不貞などの損害,⑤住所や連絡先の秘匿の必要性に分けると,優先順位を付けやすくなります。
2 令和8年9月27日現在の制度を基準とする
この記事は,令和8年9月27日現在の法令と公的資料を基準にしています。
父母の離婚後の親権,法定養育費,養育費債権の先取特権,財産分与の期間などに関する令和6年法律第33号は,令和8年4月1日に施行されました。
離婚日が施行日の前か後かによって,法定養育費の有無,財産分与を求められる期間などが異なります。
古い解説を利用するときは,説明の基準日と経過措置を確認する必要があります。
第2 離婚の方法と裁判離婚の原因
1 協議離婚・調停離婚・裁判離婚
夫婦が離婚と条件について合意できる場合は,離婚届による協議離婚ができます。
合意できない場合又は直接の話合いが難しい場合は,家庭裁判所の夫婦関係調整調停を利用し,調停でも解決しないときは離婚訴訟を検討します。
離婚訴訟を提起する前には,原則として家庭裁判所の調停を経ます。
離婚調停では,離婚そのもののほか,親権者の指定,親子交流,養育費,財産分与,年金分割,慰謝料などを一緒に話し合うことができます。
手続の全体像は,裁判所の「夫婦関係や男女関係に関する調停」で確認できます。
双方が第三者を介した任意の話合いを希望する場合は,民間事業者によるADRを利用できることがあります。もっとも,取扱分野,費用,合意の執行可能性及びDV等がある場合の適否は事業者と事案によって異なります。家庭裁判所の調停との違い,認証ADRの特定和解及び安全面の確認事項は,離婚・家事事件の民間ADRに関する記事で整理しています。
2 裁判上の離婚原因
民法770条1項は,裁判上の離婚原因として,①配偶者に不貞な行為があったとき,②配偶者から悪意で遺棄されたとき,③配偶者の生死が3年以上明らかでないとき,④その他婚姻を継続し難い重大な事由があるときを定めています。
従前の「配偶者が強度の精神病にかかり,回復の見込みがないとき」という独立の離婚原因は,令和8年4月1日に削除されました。
民法770条2項は,同条1項1号から3号までの事由がある場合であっても,一切の事情を考慮して婚姻の継続を相当と認めるときに離婚請求を棄却できると定めています。4号については,婚姻を継続し難い重大な事由が認められるかという判断と,有責配偶者からの請求を信義則上認められるかという問題を区別します。
別居3年で自動的に離婚できる規定はありません。同項3号の3年は生死不明の期間であり,別居期間とは別です。修復の希望と具体的な行動,婚姻費用の支払,子との関係等を,別居の経緯及び長さと併せて検討します。別居3年5か月で棄却した第一審と,4年10か月で認容した控訴審の比較は,別居3年で離婚できるかで説明しています。
旧離婚原因の適用については,令和6年法律第33号附則5条に注意が必要です。施行日前に控訴審の口頭弁論が終結した事件,又は第一審判決に対して上告権を留保して控訴しない旨の合意をした事件については従前の例によります。提訴日が施行日前であるというだけで旧法適用とは決まりません。
3 離婚届をめぐる事故を防ぐ
署名済みの離婚届を相手方に渡した後で離婚意思を撤回した場合や,無断提出のおそれがある場合は,不受理申出を検討します。
不受理申出は届出の受理を防ぐ制度であり,親権,養育費,財産分与などの条件を決める制度ではありません。
手続の詳細は,離婚届の不受理申出に関する記事で整理しています。
第3 離婚前に決める事項と合意書
1 確認事項を一覧化する
未成年の子がいる場合は,親権を父母双方又は一方のどちらに定めるか,子の主たる生活場所,監護の分担,親子交流の方法,養育費,進学・医療などの臨時費用を確認します。
夫婦間では,別居中の婚姻費用,預貯金・不動産・保険・退職金・有価証券などの財産分与,住宅ローンその他の債務,年金分割,慰謝料を整理します。
氏の選択,住民票,健康保険,児童手当,学校・保育所への連絡などの行政上の手続も必要ですが,法的紛争の解決とは分けて期限と担当者を確認するのが安全です。
2 合意は履行できる内容にする
金銭の合意では,金額だけでなく,支払開始日,支払日,終期,振込先,振込手数料,臨時費用の負担,事情変更時の協議方法を明確にします。
親子交流では,子の年齢と生活に応じ,日時,場所,引渡方法,連絡方法,学校行事,病気時の対応などを具体化します。
親子交流を調停調書や審判で定める場合,交流の日時又は頻度,各回の時間の長さ,子の引渡しの方法等が具体的に定められていないと,約束が守られないときに間接強制をすることができません(最高裁平成25年3月28日決定)。
定め方と,調停・審判のどちらで決めるかは,親子交流の調停と審判に関する記事で説明しています。
私的な合意書,執行認諾文言付きの公正証書,調停調書,審判書又は判決書では,強制執行の可否と方法が異なります。
公正証書を作成するだけで銀行などの第三者との契約が変更されるわけではないため,住宅ローンや連帯保証を処理するときは債権者の承諾を別に確認します。
離婚協議書に署名していても,協議離婚の届出時に離婚意思があるか,財産分与等の金銭条項が有効に成立しているか,書面が婚姻破綻を示す証拠になるかは別問題です。最高裁昭和34年8月7日判決(昭和32年(オ)第508号,民集13巻10号1251頁,判例秘書L01410164の掲載全文確認)は,提出時に離婚意思がないことが明らかな協議離婚届について離婚の効力を否定しました。同判決だけで金銭条項もすべて無効になる,又は書面に証拠価値がないとはいえません。合意の内容・条件,署名の真正,説明及び意思変更の経緯を確認します。
第4 子の親権・監護・親子交流
(続きを読む...)離婚の手続と決めること-親権・養育費・財産分与・慰謝料(AIリライト)