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親族・相続

証券口座の残高増加をどう検証するか-入出金・運用損益・為替・税を分ける財産分与・相続実務(AI作成)

目次第1 証券口座の残高増加について最初に確認すること1 期首残高と期末残高の差額は運用益とは限らない2 残高増加から直ちに推認できない事項第2 残高増加を構成要素に分ける1 基本となる考え方2 収益と資金移動を区別する3 総資産と純資産を区別する第3 最初に収集する資料1 基準日の残高資料2 取引及び入出金を示す資料3 口座外の資料第4 取引を復元する手順1 対象範囲と基準を固定する2 キャッシュフロー台帳を作る3 取引の連続性を確認する第5 収益率を使う場合の注意点1 入出金がなければ年率換算できる2 時間加重収益率3 金額加重収益率第6 財産分与における使い方1 基準時残高と評価時を区別する2 特有財産の原資を追跡する第7 相続及び使途不明金調査における使い方1 死亡日前後の取引を分ける2 説明できない差額を直ちに責任額としない第8 実務チェックリスト1 資料取得時2 計算及び評価時第9 出典1 運用成果の測定2 裁判所及び税務資料
第1 証券口座の残高増加について最初に確認すること
1 期首残高と期末残高の差額は運用益とは限らない

証券口座の残高が短期間に大きく増えていても,その増加額の全部が値上がり益又は運用成果であるとは限らない。
給与等からの追加入金,他の証券口座からの移管,配当等の再投資,借入金による買付け及び為替変動が残高を増加させる一方,出金,手数料及び税金は残高を減少させる。

したがって,財産分与,相続,使途不明金又は資産形成の経過を検討するときは,期首残高と期末残高だけでなく,その間の外部入出金及び取引を日付ごとに復元する必要がある。

2 残高増加から直ちに推認できない事項

現在残高だけから,①本人が高い運用能力を有していたこと,②夫婦共同財産から拠出された金額,③婚前財産又は相続財産が維持されている範囲,④第三者による使込み又は資産隠匿,⑤税引後の実現利益を確定することはできない。

口座残高は調査の出発点であり,法的評価又は責任の結論ではない。
残高の増減と,入出金の権限,資金の出所,取引時の意思能力及び対価の帰属は,それぞれ別に確認する必要がある。

第2 残高増加を構成要素に分ける
1 基本となる考え方

検証の基本は,期末純資産額を,①期首純資産額,②外部からの純入金額,③運用損益に分けることである。
概念上は,「期末純資産額-期首純資産額-外部純入金額」が,その期間の運用損益に対応する。

もっとも,この単純式を正確に使うためには,評価日時,外貨換算レート,未収配当,未払手数料,信用取引その他の負債及び口座間移管を同じ基準でそろえなければならない。
口座間の振替を外部入金と誤認すると,運用損益も財産の出所も二重に計上される。

2 収益と資金移動を区別する

運用損益には,売却済みの実現損益だけでなく,保有中の株式・投資信託等の評価損益,受領した配当・分配金及び為替差損益が含まれ得る。
どの範囲を収益に含めたかを明示しなければ,異なる資料の数字を比較することはできない。

外部入出金には,預金口座からの入金,預金口座への出金,現物株式等の入出庫及び他社口座との移管を含める。
入出庫された有価証券は,移管日の時価と取得価額のいずれを使ったかを区別し,資産総額の復元と税務上の取得費の検討を混同しないようにする。

3 総資産と純資産を区別する

信用取引,証券担保ローンその他の借入れがある場合,保有有価証券の時価合計である総資産と,負債を差し引いた純資産は一致しない。
運用規模を示す総資産の増加を,そのまま本人に帰属する財産の増加と扱ってはならない。

外貨建て資産についても,外貨ベースの価格上昇と円換算時の為替変動を分ける。
円換算額を比較するときは,基準日及び換算レートの出所を記録する。

第3 最初に収集する資料
1 基準日の残高資料

期首及び期末について,残高証明書,取引残高報告書,月次又は年次の口座報告書を収集する。
財産分与では別居日等,相続では死亡日等が基準日となり得るため,必要な日付の資料が存在するかを早期に確認する。

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令和7年4月全国統一書式による後見等事務報告書・報酬付与申立事情説明書の書き方(AI作成)

第1 この記事の対象と結論
第2 令和7年4月の全国統一書式

1 全国で内容が統一された書式
2 各家庭裁判所の追加書式等は残る

第3 後見等事務報告書の書き方

1 報告書の目的
2 本人の心身・生活状況及び支援者
3 ①から㉑までの事務
4 本人の意思確認及び面談等
5 本人の財産状況と本人以外の人のための支出
6 後見人等自身に関する事項

第4 報酬付与申立事情説明書の書き方

1 報酬を求める期間等
2 考慮してもらいたい事情の有無
3 事務ごとに別紙を作成する

第5 事情説明書別紙に書く六つの事項

1 事務内容及び現在の状況
2 本人が得た利益又は回避した不利益

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親が負担した建築資金は金銭贈与か建物贈与か―特別受益の認定・評価・証拠(AI作成)

目次第1 結論及び本記事の対象第2 贈与対象の認定を評価より先に行う1 特別受益に当たるための入口2 金銭又は代金債務の弁済による利益の贈与となる場合3 建物又は建物持分の贈与となる場合4 債務免除,持分及び使用利益を混同しない第3 東京高裁令和6年12月18日決定1 判例秘書による一次資料確認の状況2 不動産そのものではなく購入資金の贈与としたこと3 資金の流れを認定した証拠4 消費者物価指数による換算第4 金銭贈与の評価1 相続開始時の貨幣価値への換算2 建物の老朽化を金銭贈与へ持ち込まない第5 建物贈与の評価1 相続開始時の客観的価値2 親が建築後に建物を贈与した裁判例3 民法904条と受益者による状態変更4 相続税評価額と民事上の評価額は目的が違う第6 認定及び評価に用いる証拠1 契約及び所有帰属に関する資料2 資金の流れに関する資料3 贈与又は貸付けの意思に関する資料第7 遺産分割及び遺留分との関係1 遺産分割における具体的相続分2 遺留分算定における贈与第8 受任時の確認手順1 認定表を先に作成する2 主張書面と証拠説明書を対応させる第9 まとめ第10 出典・参考資料1 法令及び公的資料2 裁判例3 関連記事
第1 結論及び本記事の対象

親が子の住宅の建築代金又は購入代金を負担した場合,特別受益の額を計算する前に,何が誰から誰へ贈与されたのかを認定する必要がある。
子が契約当事者となって住宅を取得し,親が代金を援助したのであれば,通常は金銭又は代金債務の弁済による利益が贈与対象となる。
これに対し,親が取得した建物を後に子へ贈与したのであれば,贈与対象は建物である。

両者は評価対象が違うため,贈与時に同額の支出がされていても,相続開始時に持ち戻す特別受益額が異なり得る。
親から施工業者へ直接送金されたという一事だけで,金銭贈与又は建物贈与のいずれかに決まるものではない。

本記事は,民法903条及び904条による遺産分割上の特別受益を中心に,遺留分算定への影響,東京高等裁判所令和6年12月18日決定及び実務で確認すべき証拠を整理する。
個別事件では,給付の法的性質,持戻し免除の意思表示,評価方法及び期間制限を別々に検討する必要がある。

第2 贈与対象の認定を評価より先に行う
1 特別受益に当たるための入口

民法903条1項は,共同相続人の中に,被相続人から遺贈を受け,又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者がある場合の具体的相続分を定めている。
住宅の取得又は建築のための多額の援助は「生計の資本」と評価されることが多いが,金額,被相続人の資力,援助の目的,通常の扶養の範囲,他の相続人への援助及び返済合意の有無を確認しなければならない。

贈与ではなく貸付けであれば特別受益ではない。
返済期限,利息,返済実績,催告,借用書及び会計・税務処理の有無は,贈与か貸付けかを区別する資料となる。

2 金銭又は代金債務の弁済による利益の贈与となる場合

子が建築請負契約又は売買契約の当事者であり,子が建物又は不動産を取得する一方,親が子へ資金を渡し,又は子に代わって施工業者若しくは売主へ代金を支払った場合は,金銭又は代金債務の弁済による利益が贈与されたと認定されることがある。

この場合,取得した住宅の現在価値ではなく,贈与された金銭等を相続開始時の貨幣価値に換算することが出発点となる。
もっとも,親自身の持分取得に対応する支払,共同住宅の親使用部分に対応する負担又は親に対する反対給付があるときは,支払全額が子への贈与になるとは限らない。

3 建物又は建物持分の贈与となる場合

親が注文者又は買主となって建物を取得し,その後,子へ建物又は建物持分を贈与した場合は,贈与対象は建物又はその持分となる。
この場合,特別受益として評価するのは,原則として贈与時の建築費そのものではなく,相続開始時における贈与対象の客観的な交換価値である。

登記が子名義であることは重要な資料であるが,建物取得の経緯,契約当事者,代金負担,完成時の所有帰属及び引渡しを含む事情を総合して判断する必要がある。
土地と建物の名義又は負担者が異なる場合は,建物だけでなく,敷地利用権,土地持分の贈与又は使用利益も切り分けて検討する。

親が建築計画を主導し,又は建築費の一部を負担したとしても,それだけで親が完成建物を取得したことにはならない。
東京地裁平成29年1月13日判決(平成27年(ワ)第21869号,判例秘書L07232077,裁判所HP未掲載)は,父が当初の建築計画を主導し,一部費用も負担したものの,融資及び建築名義等を子へ切り替えた事案で,建物が当然に父の所有となるものではないとした一方,父が負担した設計料等は別個の特別受益となり得るとした。

したがって,「親が建てた建物」という表現から直ちに建物贈与と分類せず,建築請負契約の注文者,代金債務者,融資の債務者,建築確認上の建築主,引渡しを受けた者,完成時の登記名義人及び各当事者の出捐を区別して,完成時の所有帰属を認定する必要がある。

4 債務免除,持分及び使用利益を混同しない

親がいったん子へ住宅資金を貸し付け,後に返済を免除したのであれば,問題となる給付は当初の貸付金ではなく,免除時の債権又は免除による利益である可能性がある。
また,二世帯住宅では,親子それぞれの建物持分,建築費の負担,土地の使用利益及び親に対する生活支援等が併存し得るため,単純な床面積比又は負担額の差だけで贈与額を決めるべきではない。

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配当・年金・投資利益を婚姻費用・養育費の給与年収へ換算する方法-職業費の二重控除を防ぐ(AI作成)

目次第1 非給与所得を換算する必要がある理由1 算定表の給与欄と自営業欄は同じ金額を意味しない2 換算は所得の実質をそろえる作業である第2 令和元年版標準算定方式の構造1 基礎収入2 職業費3 税引前額を出発点とする第3 株式配当を給与収入へ換算した裁判例1 東京家庭裁判所令和元年9月6日審判2 具体的な計算式3 保有株数減少後の換算4 特有財産からの配当第4 給与を事業所得型へ換算して合算した裁判例1 福岡家庭裁判所令和4年9月13日審判2 具体的な計算式3 この方法の意味第5 三つの換算方法1 非給与所得を給与収入へ換算する方法2 給与を事業所得型へ換算する方法3 所得類型ごとに基礎収入を計算して合算する方法第6 所得別の注意点1 株式配当2 投資信託の分配金3 年金4 不動産所得5 証券売買益及び暗号資産所得第7 換算で生じやすい誤り1 税引後入金額をそのまま使う2 すべてを給与額へ単純加算する3 事業所得から職業費を二重控除する4 古い裁判例の係数をそのまま使う第8 計算書の作り方1 所得ごとの台帳2 複数案を示す場合3 端数処理第9 提出資料1 給与及び年金2 配当及び投資利益3 事業及び不動産第10 関連する山中弁護士ブログの記事1 算定表及び給与収入2 金融資産及び事業所得第11 出典・参考資料1 裁判所公表資料2 裁判例
第1 非給与所得を換算する必要がある理由
1 算定表の給与欄と自営業欄は同じ金額を意味しない
(1) 対象と調査基準日

本記事は令和8年9月14日を調査基準日とし,令和元年版の標準算定方式及び判例秘書で全文確認した裁判例を基礎として,給与,配当,年金及び投資利益を同じ算定で扱う場合の換算方法を説明する。
裁判例が用いた係数の再現と,別の年収帯又は事案へ応用するときの限界を区別する。

(2) 給与欄へ単純加算する問題

婚姻費用及び養育費の算定表には,給与所得者の年収目盛りと自営業者の年収目盛りがある。
給与収入には通常,勤務のための被服費,交通費,交際費等の職業費が必要であるのに対し,株式配当,預金利息又は年金の受給には同じ意味での職業費を要しない。
このため,給与収入と配当等を額面のまま足し,合計額を給与年収欄へ入れると,配当等からも給与所得者の職業費相当額を控除する結果となることがある。
反対に,必要経費を控除する前の売上高を自営業収入へ加えると,実際の支払能力を過大に認定することになる。

2 換算は所得の実質をそろえる作業である

換算の目的は,税務上の所得区分を変更することではなく,異なる所得から生活費へ回すことのできる基礎収入を同じ物差しで比較することにある。
給与所得,事業所得,配当,年金及び投資利益のどれについても,公租公課,職業費及び特別経費をどの段階で控除済みかを確認する必要がある。
本記事で示す裁判例の係数は,各決定時の算定方式及び当該年収帯に基づくものである。
別の年収帯又は令和元年版算定表へ係数だけを機械的に移植することは適切ではない。

第2 令和元年版標準算定方式の構造
1 基礎収入

基礎収入は,総収入から公租公課,職業費及び特別経費に相当する標準的な割合を控除し,生活費へ配分できる部分として推計される金額である。
令和元年版の基礎収入割合は,給与所得者について総収入の38%から54%,自営業者について48%から61%であり,収入帯によって異なる。
給与所得者と自営業者の割合が異なるのは,確定申告上の事業所得では一定の必要経費が既に控除されている一方,給与の支払金額からは職業費が控除されていないことなどによる。

2 職業費

職業費とは,給与所得者が就労のために通常必要とする被服費,交通費,通信費,交際費等を統計的に推計したものである。
当事者が現実に同額を支出したことを前提とする実額控除ではない。
配当又は年金に給与所得者と同じ職業費は通常必要ない。
したがって,これらを給与収入相当額へ換算するときは,職業費が不要であることを反映する必要がある。

3 税引前額を出発点とする

配当又は利息が源泉徴収されている場合,預金又は証券口座への入金額は税引後額である。
算定表の給与年収が所得税等を控除する前の支払金額を用いることとの整合上,原則として税引前の配当又は利息額を確認する。
年間取引報告書,配当金計算書又は支払通知書により,税引前額,源泉徴収税額及び実受取額を分ける。

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投資信託の普通分配金・特別分配金は婚姻費用・養育費の収入になるか-元本払戻金と二重計上(AI作成)

目次第1 投資信託の分配金に関する結論1 普通分配金と特別分配金を分ける2 同じ分配金でも投資家ごとに区分が異なる第2 普通分配金と元本払戻金の仕組み1 普通分配金2 元本払戻金(特別分配金)3 個別元本が変動する場合第3 国税庁及び資産運用業協会の説明1 国税庁の取扱い2 資産運用業協会の説明第4 普通分配金と特別分配金を扱った裁判例1 東京高等裁判所平成27年1月26日判決2 家事事件への射程3 家事事件の直接裁判例の確認状況第5 婚姻費用・養育費での具体的な処理1 普通分配金を収入へ算入する場合2 元本払戻金を所得へ算入しない場合3 元本取崩しとして別枠で考慮する場合第6 再投資型及び分配金なし型の投資信託1 普通分配金を再投資した場合2 分配金なし型の含み益第7 上場投資信託等との違い1 すべての商品に同じ区分があるわけではない2 外国投資信託及び外貨建て商品第8 必要資料1 最低限確認する資料2 一覧表の作り方第9 主張書面での整理1 普通分配金を算入する側2 元本払戻金であると反論する側3 共通する注意第10 関連する山中弁護士ブログの記事1 金融資産全体の扱い2 算定表への換算第11 出典・参考資料1 所管行政機関及び業界団体の資料2 裁判例
第1 投資信託の分配金に関する結論
1 普通分配金と特別分配金を分ける
(1) 対象と調査基準日

本記事は令和8年9月14日を調査基準日とし,追加型株式投資信託の普通分配金及び元本払戻金(特別分配金)を婚姻費用・養育費で区別する方法を扱う。
商品性及び税務上の区分は国税庁及び資産運用業協会の公表資料で確認し,家事事件への接続は判例秘書で確認した裁判例の射程を超えない範囲に限定する。

(2) 分配金の算定上の区分

投資信託の分配金には,課税対象となる普通分配金と,元本の一部払戻しに相当する元本払戻金(特別分配金)がある。
婚姻費用又は養育費では,分配金の受取総額をそのまま年間収入とせず,分配金計算書により両者を区別する必要がある。
普通分配金は,現実に受領し,今後も反復継続すると見込まれる場合,配当又は利息に近い非稼働所得として収入算入を検討する。
元本払戻金は投資元本の返還であるから,原則として年間所得へ機械的に加算せず,資産の取崩しとして別に検討する。

2 同じ分配金でも投資家ごとに区分が異なる

普通分配金と元本払戻金の区分は,ファンド全体で一律に決まるものではない。
同じファンドから同じ日に同じ金額の分配を受けても,投資家ごとの購入価額である個別元本が異なれば,ある投資家には全額が普通分配金となり,別の投資家には一部又は全部が元本払戻金となることがある。
商品名,分配率又は運用報告書だけでは個人の区分を確定できない。
販売会社が発行する分配金計算書及び個別元本の記録を確認する必要がある。

第2 普通分配金と元本払戻金の仕組み
1 普通分配金

追加型株式投資信託について,分配後の基準価額が投資家の個別元本を下回らない部分は,原則として普通分配金となる。
普通分配金は税法上課税対象とされ,株式投資信託では配当所得として扱われるのが通常である。
普通分配金を現金で受け取らず,自動再投資した場合でも,いったん普通分配金を受領した上で再投資したものとして課税される。
したがって,生活口座への現金入金がないという理由だけで,普通分配金の発生を見落とさないようにする。

2 元本払戻金(特別分配金)

分配後の基準価額が投資家の個別元本を下回る部分に対応する分配は,元本払戻金となる。
これは投資元本の一部返還であるため非課税とされ,受領後の個別元本は元本払戻金相当額だけ減額される。
元本払戻金を再投資する場合も,経済的には元本の一部払戻しを受けた後に新たな口数を購入することになる。
再投資したという事情によって,元本払戻金が収益へ変わるわけではない。

3 個別元本が変動する場合

同じ投資信託を異なる価格で追加購入した場合,個別元本は原則として移動平均により修正される。
相続,贈与,特別分配又は口座移管がある場合も,販売会社の記録上の個別元本を確認する必要がある。

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変動する収入を婚姻費用・養育費で何年平均するか-歩合給・事業所得・証券売買益・暗号資産(AI作成)

目次第1 変動収入の平均期間に関する結論1 3年平均又は5年平均という一律のルールはない2 通常の確認順序第2 算定表が前提とする年間収入1 算定表は双方の総収入を出発点とする2 過去の実績と将来予測を区別する第3 期間選択の参考となる裁判例1 反復する暗号資産取引益を算入した審判2 構造変化後の資料から年額を推計した審判3 一時的な株式売却を収入から除外した決定4 現在の保有株数から将来配当を推計した審判第4 平均期間の選び方1 単年度を用いる場合2 3年平均を主位的試算とする場合3 5年平均を併記する場合4 中央値を併記する場合第5 所得類型ごとの調整後年間収入1 給与及び賞与2 事業所得3 証券売買益4 暗号資産取引益第6 具体的な計算方法1 単純平均2 現在の元本規模による補助試算3 感応度表を作る第7 給与収入と変動所得を合算する際の注意1 総収入を単純加算できない場合がある2 同じ利益を二重に評価しない第8 提出資料と主張の組み立て1 共通資料2 高い収入を主張する側3 低い収入を主張する側第9 関連する山中弁護士ブログの記事1 算定表及び給与年収2 金融資産及び事業所得第10 出典・参考資料1 裁判所公表資料2 裁判例
第1 変動収入の平均期間に関する結論
1 3年平均又は5年平均という一律のルールはない
(1) 対象と調査基準日

本記事は令和8年9月14日を調査基準日とし,令和元年版の標準算定方式及び判例秘書で全文確認した裁判例を基礎として,変動収入から現在及び近い将来の年間収入を推計する方法を扱う。
税務上の所得計算そのものではなく,婚姻費用又は養育費の算定に用いる収入期間の選択を対象とする。

(2) 固定的な平均期間の不存在

婚姻費用及び養育費は,父母又は夫婦の現在及び近い将来の収入を基礎として定めるものである。
歩合給,賞与,事業所得,証券売買益又は暗号資産取引益の変動が大きい場合でも,常に過去3年又は5年の平均を採用するという法令又は裁判例上の一律のルールはない。
複数年平均は,単年度の例外的な増減をならし,今後の支払能力を推計するための方法である。
したがって,何年分を使うかは,過去の収入が現在の就労状況,事業規模又は投資規模と同質であるかを確認して決める必要がある。

2 通常の確認順序

まず,直近1年の収入が通常年を代表しているかを確認する。
一時的な賞与,臨時受注,保有資産の一括売却又は相場の急騰等が含まれるときは,直近3年の推移を確認し,必要に応じて5年平均及び中央値も併記する。
他方,転職,退職,休職,事業廃止,投資元本の大幅な増減その他の構造変化がある場合は,古い年度を長く平均するほど現在の稼得能力から離れることがある。
この場合は,構造変化後の12か月又は24か月,直近の給与明細,事業計画,現在の保有資産等を用いて年額を推計することになる。

第2 算定表が前提とする年間収入
1 算定表は双方の総収入を出発点とする

裁判所の令和元年版算定表は,給与所得者については原則として源泉徴収票の「支払金額」を,自営業者については確定申告書の「課税される所得金額」を出発点とする。
ただし,自営業者については,青色申告特別控除等の現実に支出されていない控除を加算するなど,算定用の総収入へ修正する必要がある。
算定表へ入力するのは過去の税額を確定するための所得ではなく,今後の生活費負担能力を把握するための年間収入である。
このため,課税証明書又は確定申告書の数字が存在するだけで,その年度が当然に採用年度となるわけではない。

2 過去の実績と将来予測を区別する

過去の収入は,現在及び将来の収入を認定するための証拠である。
審理時点で既に退職しているのに退職前の高額給与をそのまま使うことも,反対に,意図的又は一時的な減収をそのまま固定することも適切ではない。
期間選択では,①勤務又は事業の継続性,②報酬又は取引を本人が調整できる程度,③季節変動,④一時的要因,⑤減収時期と申立時期との関係,⑥現在の契約及び保有資産を確認する。

第3 期間選択の参考となる裁判例
1 反復する暗号資産取引益を算入した審判

福岡家庭裁判所令和4年9月13日審判(令和4年(家)第3142号,判例時報2606号85頁,裁判所HP未掲載,判例秘書L07760034)は,令和3年分の確定申告書に暗号資産取引による雑所得443万2423円が記載されていた事案を扱った。
同審判は,暗号資産の売却又は交換を反復し,その都度利益を得ていたことから,その所得を一回的又は偶発的なものではないとして婚姻費用算定の基礎に含めた。

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相続人に認知症・精神障害等で判断能力を欠く人がいる場合の遺産分割―協議の無効,代筆の危険,成年後見の申立て及び特別代理人(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論の要旨1 本記事の対象2 結論の要旨第2 判断能力を欠く相続人を含めた遺産分割協議の効力1 遺産分割協議は共同相続人全員でする2 意思能力を欠く者の法律行為は無効である3 認知症の診断があるだけで意思能力がないとは限らない4 家族が代わりに署名押印することはできない第3 遺産分割を進める三つの方法1 後見開始等の申立てをして成年後見人等と協議し,又は調停をする方法2 特別代理人の選任を求める方法3 遺産分割審判を最初から申し立てる方法第4 判断能力の程度による違い1 後見相当の場合2 保佐相当の場合3 補助相当の場合4 任意後見契約がある場合第5 後見開始等の申立ての進め方1 申立てができる親族2 申立てができる親族がいない場合の市町村長申立て3 申立先,鑑定及び本人の陳述聴取4 申立ての取下げの制限と費用5 成年後見人の選任と遺産分割への関与第6 手続中に注意すべき期限と資金1 相続税の申告期限2 預貯金の払戻し3 相続放棄を検討する場合第7 出頭が難しいだけの相続人との違い第8 令和8年成年後見制度改正の影響第9 出典1 法令2 裁判例3 裁判所及び行政機関の公表資料4 文献
第1 本記事の対象と結論の要旨
1 本記事の対象

本記事は,共同相続人の中に,認知症,精神疾患又は知的障害等のため判断能力を欠き,又は欠いている疑いがある人がいる場合に,遺産分割をどのように進めるかを,令和8年9月11日時点の法令,裁判例及び家庭裁判所の公表資料に基づいて整理するものである。
主な対象は,その相続人がまだ家庭裁判所から後見開始等の審判を受けていない場面である。
判断能力の程度や手続の段階によって取るべき方法が異なるため,協議の効力,手続の選び方,判断能力の程度による違い,後見開始等の申立て,手続中の期限及び令和8年成年後見制度改正の影響を順に扱う。

2 結論の要旨

結論は次のとおりである。
①判断能力を欠く相続人を加えて遺産分割協議をしても,その相続人の意思表示は無効であり(民法3条の2),協議は有効に成立しないと考えられる。
②家族であっても,成年者を代理して遺産分割協議書に署名押印する権限は当然には生じず,権限なく本人名義で署名押印すれば私文書偽造罪(刑法159条)の成否が問題となり得る。
③遺産分割を進める本筋は,その相続人について後見開始等の申立てをし,家庭裁判所が選任した成年後見人等との間で協議又は調停をする方法である。
④家事事件手続法19条及び民事訴訟法35条の特別代理人は,文言上は未成年者又は成年被後見人を対象とする制度であり,後見開始の審判を受けていない人についても選任し得るとする解釈と高裁の決定はあるものの,遺産分割について家庭裁判所の公表資料が案内しているのは成年後見手続である。
⑤遺産分割審判を最初から申し立てることはできるが,それによって相続人の判断能力の問題が解消されるわけではない。
⑥後見開始等の申立ては,本人の配偶者や四親等内の親族等がすることができ,申立てをする親族がいない場合には市町村長による申立てが問題となる。

第2 判断能力を欠く相続人を含めた遺産分割協議の効力
1 遺産分割協議は共同相続人全員でする

民法907条1項は,共同相続人は,遺言で分割が禁じられた場合等を除き,いつでも,その協議で遺産の全部又は一部の分割をすることができると定めている。
遺産分割協議は共同相続人全員でしなければならず,家庭裁判所の遺産分割調停でも,申立人は他の共同相続人全員を相手方とする必要がある(裁判所職員総合研修所監修『家事事件手続法下における書記官事務の運用に関する実証的研究-家事調停事件及び別表第二審判事件を中心に-』253頁)。
したがって,判断能力を欠く相続人を除外して,残りの相続人だけで遺産分割協議を成立させることはできない。

民法907条2項は,「遺産の分割について、共同相続人間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、各共同相続人は、その全部又は一部の分割を家庭裁判所に請求することができる。」と定めている。
判断能力を欠く相続人がいて協議ができない場合も家庭裁判所の手続を利用することになるが,後記第3の3のとおり,家庭裁判所の手続でもその相続人の能力の問題は残る。

2 意思能力を欠く者の法律行為は無効である

民法3条の2は,「法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は、無効とする。」と定めている。
遺産分割協議に加わる各相続人の合意は意思表示であるから,協議の時点で意思能力を欠いていた相続人の意思表示は無効となる。
その結果,共同相続人全員の有効な合意がないことになり,協議は有効に成立しないと考えられる。

このような協議に基づいて相続登記や預貯金の払戻しがされても,後に協議の無効が主張されれば,その前提が争われることになる。
遺産分割協議の効力が争われる場面としては,このほかに錯誤による取消しがあり,遺産分割協議における錯誤取消し―旧法の要素の錯誤,裁判例と実務対応で整理している。

3 認知症の診断があるだけで意思能力がないとは限らない

意思能力の有無は,病名だけで一律に決まるものではない。
片岡武・管野眞一編著『第4版 家庭裁判所における遺産分割・遺留分の実務』488頁は,遺言能力に関する説明の中で,意思無能力かどうかは,問題となる個々の法律行為ごとに,その難易や重大性なども考慮して,行為の結果を正しく認識できていたかを中心に判断されるべきものであると説明している。

(続きを読む...)相続人に認知症・精神障害等で判断能力を欠く人がいる場合の遺産分割―協議の無効,代筆の危険,成年後見の申立て及び特別代理人(AI作成)

大学の学費は特別受益になるか―きょうだいの一人だけが大学へ進学した場合と医学部・歯学部の裁判例(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論の見取図1 対象とする場面2 結論の見取図第2 学費が特別受益になるかを考える枠組み1 「生計の資本としての贈与」と扶養義務の関係2 学説の二つの見解3 家庭裁判所の実務書の説明4 大学進学の現状5 裁判例が示す基準第3 きょうだいの一人だけが大学へ進学した場合1 特別受益とされなかった例2 特別受益に当たることを前提に算定を求めた例3 二つの事案の違い第4 医学部・歯学部など学費が特に多額の場合1 歯学部の学費を特別受益とした例2 医学部・歯学部の学費を特別受益としなかった例3 高卒のきょうだいがいる場合への当てはめ4 学費以外の費用と,誰が負担したか第5 特別受益に当たり得ても持戻しが免除されることがある第6 孫の学費を祖父母が負担した場合第7 金額の算定,期限と確認する資料1 特別受益とされた場合の金額2 期限3 確認する資料第8 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 文献4 統計
第1 本記事の対象と結論の見取図
1 対象とする場面

本記事は,3人の子のうち2人は高校を卒業して就職し,1人だけが親に大学の学費を出してもらったという場合に,その学費が民法903条1項の特別受益として遺産分割で考慮されるかを,令和8年9月11日時点の法令と裁判例に基づいて整理するものである。
遺留分の計算でも,相続人に対する生計の資本としての贈与は基礎となる財産に算入されるため(民法1044条1項・3項),同じ問題が生じる。
子の人数が3人であること自体は結論に関係せず,判断を分けるのは,学費の額,親の資産や社会的地位,学費が支出された当時の事情,他の子との比較である。

2 結論の見取図

裁判例と実務書を踏まえると,結論は次のように整理できる。
①大学の学費は,親の資産や社会的地位からみてその程度の教育を受けさせるのが普通といえる範囲では親の扶養義務の履行とされ,本記事で確認した裁判例でも特別受益を否定したものが多い。
②きょうだいのうち一人だけが大学へ進学したという事実だけで,直ちに特別受益とされるわけではない。
③私立大学の医学部や歯学部のように学費が特に多額の場合には,特別受益とされた裁判例がある一方,家業の承継や他のきょうだいの学歴を理由に否定した裁判例もある。
④特別受益に当たり得る場合でも,親が持戻しを免除する意思を有していたと認められることがある。

第2 学費が特別受益になるかを考える枠組み
1 「生計の資本としての贈与」と扶養義務の関係

民法903条1項は,共同相続人のうち,被相続人から遺贈を受け,又は「婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者」があるときは,その贈与の価額を相続財産に加えて相続分を計算すると定めている。
他方で,直系血族は互いに扶養をする義務を負う(民法877条1項)。
大学の学費は,卒業後の生活の基礎となる点で「生計の資本」に当たり得るが,親が子に教育を受けさせる費用は扶養の一内容でもあるため,どこまでが扶養でどこからが遺産の前渡しかが問題となる。

親が離婚した場合に子の大学の学費を養育費に加算できるかという別の問題は,私立学校・大学・留学の学費は養育費に加算できるか―標準教育費と超過分の計算で扱っている。

2 学説の二つの見解

松川正毅・窪田充見編『新基本法コンメンタール 相続』(日本評論社,2016年)の民法903条の解説(木村敦子執筆)は,教育費用として特別受益性が特に問題となるのは大学以上の高等教育であるとした上で,二つの見解を紹介している(同書71頁)。
一つは,高等教育の費用は生活費の源泉及び生活能力の取得のためのものであるから,常に生計の資本としての贈与に当たるとする見解である。
もう一つは,被相続人の資力や社会的地位,他の兄弟との比較から,具体的に被相続人の扶養義務に含まれるかどうかを判断した上で,通常の学資と考えられるものは特別受益に該当しないとする見解であり,同書はこちらが有力に主張されているとしている。

3 家庭裁判所の実務書の説明

片岡武・管野眞一編著『第4版 家庭裁判所における遺産分割・遺留分の実務』(日本加除出版,2021年。以下「片岡・管野編著」という。)は,高等教育を受けるための学資とは基本的には入学金や授業料等をいい,その間の生活費や下宿代,留学時の渡航費用などを必ずしも含むものではないとしている(同書243頁~244頁)。
同書は,高校卒業後の専門学校,大学,留学等の学資は,私立の医科・薬科等の大学の入学金・授業料のように特別に多額なものでない限り,子の資質・能力等に応じた親の子に対する扶養義務の履行に基づく支出とみることができるとしている(同書244頁)。
また,扶養の範囲内とはいえないものの,相続人全員が大学教育を受け,ほぼ同額の受益を受けている場合には,「特別受益として考慮しない」とするのが相当であるとしている(同書244頁)。

田村洋三・小圷眞史編著『第3版 実務相続関係訴訟』(日本加除出版,2020年。以下「田村・小圷編著」という。)は,高等学校や大学の学費については,高学歴化の時代で多くの者が進学することから,扶養義務の履行にすぎないとして特別受益と見ない考え方が強くなっているようであるが,医学部など高額な費用を要する場合は特別受益と考える扱いが多いようであると説明している(同書27頁)。

4 大学進学の現状

文部科学省が令和7年12月26日に公表した学校基本統計(学校基本調査の結果)の確定値によれば,令和7年度の大学(学部)進学率(過年度卒を含む)は58.6%,大学・短期大学のほか高等専門学校4年次や専門学校を含む高等教育機関への進学率は85.4%である。
ここでいう大学(学部)進学率は,大学(学部)の入学者を3年前の中学校等の卒業者の数で割ったものである。

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公正証書遺言と異なる口約束は遺言の効力に影響するか―撤回の方式,生前処分との抵触及び口頭の死因贈与(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論の要旨1 本記事の対象2 結論の要旨3 遺言が効力を生ずるのは死亡の時である第2 口約束で公正証書遺言を撤回し,又は変更することはできない1 撤回は遺言の方式による2 「遺言は変えない」「書き換える」という約束の効力3 公正証書遺言の正本を破棄しても撤回にはならないと解されている4 口頭の遺言は原則として効力がない第3 遺言後の生前処分による撤回擬制1 民法1023条2項の定め2 「抵触」の意味――最高裁昭和56年11月13日判決3 確定的な法律効果が必要――最高裁昭和43年12月24日判決4 遺言者本人の行為であることが必要5 撤回されるのは抵触する部分に限られる第4 口約束の中身ごとの検討1 単なる希望や予定の表明にとどまる場合2 売買の約束をした場合3 生前贈与の約束をした場合4 「自分が死んだら譲る」という約束をした場合第5 口頭の死因贈与と公正証書遺言の優劣1 死因贈与は口頭でも成立するが,承諾が必要である2 遺言の後に口頭で死因贈与をした場合3 遺言の前に口頭で死因贈与をしていた場合4 負担付死因贈与で負担が履行されている場合――最高裁昭和57年4月30日判決5 裁判上の和解でされた死因贈与――最高裁昭和58年1月24日判決6 書面によらない死因贈与の解除第6 口約束の立証1 口頭の死因贈与の成立が否定された例――大阪地裁令和2年3月27日判決2 主張する側と争う側が確認する事項第7 約束を実現したい場合にとるべき方法第8 出典1 法令2 裁判例3 文献
第1 本記事の対象と結論の要旨
1 本記事の対象

本記事は,公正証書遺言を作成した人が,遺言の内容と異なる不動産の処分を口頭で約束していた場合に,その約束が公正証書遺言の効力に影響するかを,令和8年9月11日時点の民法と裁判例に基づいて整理するものである。
典型的には,「自宅は長男に相続させる」との公正証書遺言がある一方で,親が生前に次男へ「この家はお前にやる」と話していたという場面である。

2 結論の要旨

結論は,口約束の法的な中身と,遺言との先後関係によって次のように分かれる。
①口約束が「遺言をやめる」「遺言を書き直す」という意思の表明にとどまる場合は,遺言の方式によっていない以上,公正証書遺言は撤回されない。
②遺言の後に,売買,贈与又は死因贈与の契約が口頭で成立し,それが遺言と両立しない場合は,両立しない部分について遺言は撤回されたものとみなされる(民法1023条2項)。
③もっとも,意思が表明されただけで法律効果が確定的に生じていない場合は,撤回されたものとはみなされない。
④遺言の前に口頭の死因贈与が成立していた場合は,後の遺言が優先するのが原則であるが,負担付死因贈与で受贈者が負担を履行していた場合などは,後の遺言によって覆らないことがある。
⑤口約束は証拠が残りにくく,約束の成立そのものが認められないことがある。

3 遺言が効力を生ずるのは死亡の時である

遺言は,遺言者の死亡の時からその効力を生ずる(民法985条1項)。
そのため,公正証書遺言を作成した後も遺言者は生前に財産を処分することができ,その処分と遺言との関係を定めているのが民法1022条から1026条までの規定である。

第2 口約束で公正証書遺言を撤回し,又は変更することはできない
1 撤回は遺言の方式による

民法1022条は,「遺言者は、いつでも、遺言の方式に従って、その遺言の全部又は一部を撤回することができる。」と定めている。
遺言の撤回は遺言そのものではないが,遺言の方式によらなければならず,これは遺言の要式行為性を貫いたものと説明されている(松川正毅・窪田充見編『新基本法コンメンタール 相続』236頁〔久保野恵美子〕)。
したがって,遺言者が家族や受遺者に対して「あの遺言はなかったことにする」と口頭で述べても,それだけで公正証書遺言が撤回されることはない。

撤回に用いる方式は撤回される遺言と同じである必要はなく,公正証書遺言を自筆証書遺言の方式で撤回することもできる(同書236頁,田村洋三・小圷眞史編著『第3版 実務相続関係訴訟』244頁)。
遺言は民法に定める方式に従わなければすることができず(民法960条),普通の方式は自筆証書,公正証書又は秘密証書である(民法967条)。

2 「遺言は変えない」「書き換える」という約束の効力

民法1026条は,「遺言者は、その遺言を撤回する権利を放棄することができない。」と定めている。
注釈書は,遺言者が受遺者その他の者と撤回しない旨を約束しても,遺言者はこれに拘束されず,矛盾する遺言をしたり,遺贈の目的物を受遺者以外の者に譲渡したりして遺言を撤回することができると説明している(前掲『新基本法コンメンタール 相続』244頁~245頁)。
反対に,「遺言を書き換えて家はお前に渡す」と約束しただけでは,遺言が書き換えられたことにはならない。

3 公正証書遺言の正本を破棄しても撤回にはならないと解されている

遺言者が故意に遺言書を破棄したときは,破棄した部分について遺言を撤回したものとみなされる(民法1024条)。
しかし,公正証書遺言の原本は公証人が保管しており,遺言者が手元の正本を破棄しただけでは撤回事由にならないと解されている(前掲『新基本法コンメンタール 相続』241頁)。
約束の相手の前で正本を破ってみせたとしても,それだけでは公正証書遺言は撤回されないと考えられる。

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実家に独身のまま無償で住み続けた子は特別受益者になるか―同居・別居・土地利用で分かれる判断(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論の見取図1 対象とする場面2 判断を分ける四つの場面第2 無償居住で問題となる利益1 特別受益は「生計の資本としての贈与」に限られる2 使用借権と賃料相当額は区別される第3 親と同居していた場合は原則として特別受益にならない1 同居の子は占有補助者にとどまる2 使用借主の家族として同居していたにすぎない場合3 親の土地に建てた家で親と同居していた場合第4 特別受益に当たり得る場面1 親の住まいから独立した住戸を無償で使っていた場合2 親の土地に自分の家を建てて住んでいた場合3 家賃だけでなく生活費の援助も受けていた場合第5 特別受益に当たるとしても結論が動く事情1 持戻し免除の意思表示2 介護・扶養との関係と寄与分第6 親の死亡後も住み続ける場合第7 期限と主張立証の進め方1 遺産分割の10年と遺留分の期間2 特別受益を主張する側が確認する資料3 住み続けた側の反論第8 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 文献
第1 本記事の対象と結論の見取図
1 対象とする場面

本記事は,親(被相続人)名義の実家に,子が家賃を払わずに住み続けていた場合に,その居住の利益が民法903条1項の特別受益として遺産分割や遺留分の計算に反映されるかを,令和8年9月11日時点の法令と裁判例に基づいて整理するものである。
独身のまま実家に残った子が典型的な場面であるが,独身であること自体は法律上の要件ではなく,判断を分けるのは,親と同じ家で暮らしていたのか,親の住まいから独立した部分を独占していたのか,親の財産がどれだけ減ったのかという事情である。
配偶者の居住については配偶者短期居住権等の別の制度があるため,本記事は子の居住を対象とする。

2 判断を分ける四つの場面

裁判例と実務書を踏まえると,場面ごとの結論は次のように整理できる。
①親と同じ家で暮らしていた場合は,原則として特別受益にならない。
②親の住まいから独立した住戸を独占して無償で使い,親がその住戸を賃貸に出せた場合には,特別受益とされた裁判例がある。
③親の土地に自分名義の家を建てて住んでいた場合は,土地の使用借権が特別受益とされることがある。
④家賃を免れただけでなく生活費の援助も受けていた場合は,援助の額によって特別受益となることがある。

第2 無償居住で問題となる利益
1 特別受益は「生計の資本としての贈与」に限られる

民法903条1項は,共同相続人のうち,被相続人から遺贈を受け,又は「婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者」がいるときに,その価額を相続財産に加えて相続分を計算すると定めている。
実家に住まわせることは,所有権を移すものではなく,無償で使用させる使用貸借(民法593条)の関係である。
そのため,無償居住が特別受益になるかは,親から子へ何が「贈与」されたといえるのか,すなわち使用借権そのものか,免れた家賃の累計かという形で問題になる。

2 使用借権と賃料相当額は区別される

遺産分割の実務書である片岡武・管野眞一編著『第4版 家庭裁判所における遺産分割・遺留分の実務』(以下「片岡・管野編著」という。)は,特別受益は遺産の前渡しを考慮する制度であるから,相続開始時の遺産の減少分である使用借権相当額が特別受益額であり,遺産の価値と関わらない地代相当額は特別受益額とはならないという見解に実務が立っていると説明している(同書258頁)。
東京地方裁判所平成15年11月17日判決(平成13年(ワ)第16810号,家月57巻4号67頁,判タ1152号241頁)も,土地を無償で使用していた相続人について,使用期間中の使用による利益は使用貸借権の価格に織り込まれているとして,使用貸借権とは別に使用料を加算することを否定した。

したがって,「何十年分の家賃相当額をそのまま足し戻す」という主張は,土地の使用については,上記の実務書と判決のいずれも採っていない。
他方,後記第4の1の東京地方裁判所平成30年12月27日判決は,建物の独立した住戸の無償使用について,使用期間の賃料相当額を基に特別受益の額を算定しており,土地の場合とは算定方法が異なる。
親に固定資産税相当額や相場より安い家賃を払っていた場合に,それが賃料といえるか,使用貸借にとどまるかは,使用貸借と賃貸借の区別-固定資産税程度の支払,相場より安い地代・家賃は賃料かで扱っている。

第3 親と同居していた場合は原則として特別受益にならない
1 同居の子は占有補助者にとどまる

片岡・管野編著は,相続人が被相続人の建物で被相続人と同居していたが,単なる占有補助者であって独立の占有権原があると認められない場合は,使用借権が認められないから特別受益にならないとしている(同書261頁)。

同書は,独立の占有が認められる場合でも,建物については賃料相当額が特別受益になる場合はないとの見解を示している(同書260頁~261頁)。
その理由として,建物の使用貸借は恩恵的要素が強く遺産の前渡しという性格が定型的に薄いこと,建物の使用借権は対抗力がなく明渡しも容易で経済的価値に乏しいこと,賃料相当額を合計すると遺産の総額と比べて過大になることなどを挙げている。

さらに同書は,被相続人の強い希望による同居,被相続人の療養看護や生活支援のための同居,家業従事の都合による同居は,単純に相続人の利益のためとは言い難く,特別受益に該当しないことがあるとしている(同書262頁)。

2 使用借主の家族として同居していたにすぎない場合

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養育費のワンストップ執行手続とは-財産開示から給与差押えまでの一括申立てと,銀行口座が対象外である理由(AI作成)

第1 結論第2 制度の位置付けと施行時期1 改正前は三つの申立てを別々にする必要があった2 令和6年法律第33号による新設と経過措置第3 利用できる債権者1 対象となる請求権2 債務名義を有する債権者3 子の監護費用の先取特権を証する文書を提出した債権者第4 財産開示手続から入る場合1 申立ての要件と手続の流れ2 開示された給与債権に対する差押え3 債務者が財産を開示しなかった場合の市町村への情報提供命令第5 給与債権に係る情報取得手続から入る場合1 情報の提供を命じられる第三者2 3年以内に財産開示期日が実施されていること3 手続の流れ第6 差し押さえるべき給与債権を特定できない場合第7 銀行口座(預貯金)は対象外である1 条文と裁判所の書式による限定2 預貯金が対象から外された経緯3 国会答弁の表現の変化4 預貯金を差し押さえたい場合の手順第8 申立ての前後で注意すべき点1 ワンストップ執行手続を使わない場合の意思表示2 手数料の納付時期と額3 債務者に手続が知られる時点4 取下げの制限5 市町村の情報の基準時と自営業者の限界6 消滅時効との関係第9 どちらの入口を選ぶか第10 出典1 法令2 公文書(法制審議会資料・国会会議録)3 所管行政機関及び裁判所の解説・運用資料
第1 結論

令和8年4月1日から,養育費,婚姻費用その他の扶養義務等に係る請求権に基づいて財産開示手続又は給与債権に係る第三者からの情報取得手続を申し立てると,その申立てと同時に,これらの手続で判明した給与債権に対する差押命令の申立てもしたものとみなされるようになった(民事執行法167条の17第1項)。
裁判所は,この仕組みを「ワンストップ執行手続」と呼んでいる。

財産開示手続から入った場合に,債務者が財産を開示しなかったときは,債権者が別段の意思を表示しない限り,執行裁判所は,債務者の住所のある市町村に対し,勤務先等の給与に関する情報の提供を命じなければならない(同条2項)。
これにより,財産開示,勤務先の特定及び給与の差押えを,1回の申立てで連続して進めることができる。

もっとも,差押命令の申立てをしたものとみなされるのは,給与債権(民事執行法206条1項各号に規定する債権)に限られる。
銀行口座の預貯金は対象外であり,預貯金を差し押さえるには,預貯金債権に係る第三者からの情報取得手続(同法207条)と差押命令の申立てを別に行う必要がある。
財産開示から勤務先の特定,銀行口座の差押えまでを1回の申立てで行えるという理解は,銀行口座の部分について条文と一致しない。

本記事は,令和8年9月11日時点の法令,裁判所の手続案内及び公表されている立法資料に基づき,この制度を利用できる債権者,二つの入口(財産開示手続と情報取得手続),給与債権に限られた経緯及び申立ての前後で注意すべき点を整理するものである。
養育費の回収方法全体(履行勧告,給与差押えの範囲,将来分の差押え,消滅時効等)は養育費を払わない場合の回収方法―履行勧告・給与差押え・先取特権・ワンストップ執行(AI作成)で,先取特権の要件と上限額は養育費債権の先取特権とは―対象範囲,子1人当たり月額8万円の上限及び差押え(AI作成)で説明している。

第2 制度の位置付けと施行時期
1 改正前は三つの申立てを別々にする必要があった

強制執行を申し立てるには,差し押さえる財産を特定する必要がある。
相手の勤務先や財産が分からない場合は,財産開示手続や第三者からの情報取得手続を使って財産を調べ,判明した財産に対する差押えを改めて申し立てることになる。
法務省民事局長は,令和6年4月5日の衆議院法務委員会で,これらの手続についてそれぞれ別個に申立てをしなければならず,一人親家庭にとっての負担となっているとの指摘があると答弁しており,ワンストップ執行手続はこの申立ての負担を軽減するために設けられた。

2 令和6年法律第33号による新設と経過措置

民事執行法167条の17は,民法等の一部を改正する法律(令和6年法律第33号)による改正で新設された。
同法は令和6年5月24日に公布され,167条の17は令和8年4月1日に施行された。

同法附則7条は,改正後の167条の17(193条2項において準用する場合を含む。)の規定は,施行日以後に申し立てられる民事執行の事件について適用すると定めている。
基準は申立ての日であるから,令和8年3月31日以前に成立した調停調書や公正証書に基づく場合でも,令和8年4月1日以後に申し立てるのであれば,この仕組みを利用できると考えられる。
東京地方裁判所民事執行センターの書式案内も,令和8年3月31日までの養育費に関する調停調書,審判書,公正証書等がある場合を,債務名義に基づく申立書の例として挙げている。

これに対し,子の監護費用の先取特権は,施行日以後に生じた各期の定期金についてのみ適用される(同法附則3条1項)。
そのため,先取特権に基づいてワンストップ執行手続を利用する場合に請求できるのは,令和8年4月1日以後に生じた分に限られる。

第3 利用できる債権者
1 対象となる請求権

対象となるのは,民事執行法151条の2第1項各号に掲げる義務に係る請求権であり,具体的には次の四つである。
①夫婦間の協力及び扶助の義務(民法752条)
②婚姻から生ずる費用の分担の義務(民法760条)
③子の監護に関する義務(民法766条及び766条の3。749条,771条及び788条において準用する場合を含む。)

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独身の高齢者に任意後見契約が必要な理由―申立人の不在,受任者の選び方及び令和8年改正(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論の要旨1 本記事の対象2 結論の要旨第2 独身の高齢者に起きること1 一人暮らしの高齢者は増え続けている2 判断能力が低下すると本人名義の手続が滞る3 申立人がいなければ市区町村長の申立てに頼ることになる第3 任意後見契約が独身の高齢者に適する理由1 受任者と代理権の範囲を自分で決められる2 登記された任意後見契約は法定後見に優先する3 権限は契約に書いた範囲に限られる第4 独身の高齢者が任意後見契約でつまずきやすい点1 契約しても発効しないまま終わることがある2 受任者が先に亡くなり,又は衰えることがある3 任意後見監督人の報酬がかかる4 葬儀などの死亡後の事務は任意後見の範囲外である5 医療行為への同意と身元保証も解決しない第5 任意後見契約と組み合わせるもの1 見守りと財産管理の委任2 死後事務委任契約と遺言3 公的支援と民間の事業者4 契約の手順と費用第6 令和8年改正で独身の高齢者に何が変わるか1 施行時期と既存の契約への適用2 発効の申立てを託す人を公正証書で指定できる3 受任者が欠けたときの次順位を決められる4 任意後見監督人を選任しない場合がある5 補助が始まっても任意後見契約は終了しない第7 独身の高齢者が任意後見契約を結ぶときの確認事項第8 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 所管行政機関の資料・行政ガイドライン4 統計・調査5 職能団体の資料6 文献

第1 本記事の対象と結論の要旨

1 本記事の対象

本記事は,配偶者も子もいない高齢者,又は親族はいても日常的に頼れる関係にない高齢者(以下「独身の高齢者」という。)について,判断能力の低下に備えて任意後見契約を結ぶ必要があるかを扱う。
記載は令和8年9月10日時点の法令及び公表資料に基づき,同月11日に加筆した部分は同日時点の法令及び公表資料による。
令和8年6月24日に公布された民法等の一部を改正する法律(令和8年法律第45号)は,成年後見制度の部分がまだ施行されていないため,現行法による説明と改正後の説明を分けて記載する。

移行型の任意後見契約の仕組み,通常委任の段階の濫用防止条項及び移行型に関する裁判例は,移行型の任意後見契約―通常委任からの移行,濫用防止及び令和8年改正で扱っている。
本記事は,独身であることによって生じる問題,すなわち判断能力が低下したときに誰が本人のために動くのかという点に絞って検討する。

2 結論の要旨

独身の高齢者にとって,任意後見契約の必要性は高い。
判断能力が低下した後に預貯金の管理や施設入所の契約を本人に代わって行う人を,配偶者や子のいる人のように家族の中に見込むことができないためである。
任意後見契約がないまま判断能力が低下すると,本人が自ら申し立てるか,親族や市区町村長が申し立てるまで法定後見は始まらず,申立てがされても後見人等は家庭裁判所が選ぶ。

もっとも,任意後見契約は結んだだけでは効力を生じない。
現行法では,家庭裁判所が任意後見監督人を選任して初めて効力を生じ,その申立てができるのは本人,配偶者,四親等内の親族及び任意後見受任者に限られる。
独身の高齢者の場合,申立てを担えるのが事実上受任者だけということがあり,受任者が同世代であれば本人より先に亡くなることもある。
任意後見は本人の死亡で終わり,医療行為への同意や身元保証も引き受けない。

そのため,独身の高齢者が任意後見契約を結ぶときは,受任者の年齢と代わりの受任者,判断能力の低下に誰が気付き誰が申立てをするか,代理権の範囲,監督人報酬を含む費用及び死亡後の事務を,併せて設計することが考えられる。
令和8年改正法が施行されると,発効の申立てを託す人を公正証書で指定し,次順位の受任者を定めることができるようになり,これらの問題の一部に制度上の手当てがされる。

第2 独身の高齢者に起きること

1 一人暮らしの高齢者は増え続けている

内閣府の令和8年版高齢社会白書によれば,65歳以上の一人暮らしの者が65歳以上人口に占める割合は,令和2年に男性15.0%,女性22.1%であり,令和32年には男性26.1%,女性29.3%になると見込まれている。
65歳以上の一人暮らしの者の数も,令和2年の約672万人から,令和32年には約1,084万人になると推計されている。

この統計の「一人暮らし」は単独世帯等を指し,未婚の人や子のいない人の数を直接示すものではない。
配偶者と死別して子と別居している人が含まれる一方,未婚でもきょうだいと同居している人は含まれない。
それでも,判断能力が低下したときに同じ家で異変に気付く家族がいない高齢者が増えていることは,この統計から読み取れる。

2 判断能力が低下すると本人名義の手続が滞る

最高裁判所事務総局家庭局の「成年後見関係事件の概況―令和7年1月~12月―」によれば,成年後見関係事件の主な申立ての動機は,預貯金等の管理・解約が93.4%,身上保護が74.2%,介護保険契約が45.7%,不動産の処分が36.3%であった。
預貯金の払戻し,介護サービスや施設入所の契約,自宅の売却といった手続は,本人が内容を理解して判断できることを前提としており,判断能力が低下すると本人に代わって行う人が必要になる。

(続きを読む...)独身の高齢者に任意後見契約が必要な理由―申立人の不在,受任者の選び方及び令和8年改正(AI作成)

証券口座の相続-共同相続人の一人だけで取引履歴を取得できるか(AI作成)

目次第1 結論1 共同相続人の一人による請求2 情報の取得と証券の処分は別である第2 単独請求を認める法的な考え方1 相続による契約上の地位の承継2 最高裁平成21年1月22日判決3 証券会社への適用は判例の射程を踏まえて判断する4 帳簿の保存義務と開示請求権は同じではない第3 どの資料をどこへ請求するか1 口座開設先を調べる資料2 残高証明書と取引履歴3 請求期間と対象口座を特定する第4 証券会社に対する実際の請求手続1 一般に準備する書類2 公表されている証券会社の取扱例3 相続手続依頼書とは分けて請求する第5 請求が制限され得る場面1 保存期間を経過した記録2 生前に口座契約が終了していた場合3 第三者の情報及び権利濫用4 相続資格に争いがある場合第6 個人情報保護法及び守秘義務との関係1 死亡した本人だけの情報2 生存する個人の情報が含まれる場合第7 取得した取引履歴の使い方1 相続財産及び取得費の確認2 資産移動に疑問がある場合3 関連する本ブログの記事第8 請求前の確認事項出典・参考資料1 法令2 裁判例3 公的機関の資料4 証券会社の公開資料5 参考文献
第1 結論
1 共同相続人の一人による請求

被相続人が証券会社に有していた口座については,共同相続人の一人が,被相続人の死亡及び自らが相続人であることを証明し,他の共同相続人全員の同意を得ずに,顧客勘定元帳その他の取引履歴を請求できるのが原則であると考えられる。
もっとも,最高裁判所が直接判断したのは預金口座の取引経過であり,証券会社に対する請求について同じ結論を示した最高裁判例は,令和8年9月10日現在,裁判所ウェブサイトでは確認できない。
そのため,法的な根拠と証券会社の公開手続を併せて確認し,会社ごとの書式,対象期間,手数料及び本人確認方法に従って請求する必要がある。

2 情報の取得と証券の処分は別である

取引履歴又は残高証明書を取得することと,被相続人名義の株式,投資信託,債券又は預り金を移管し,売却し,又は払い出すことは別の手続である。
共同相続された株式等は遺産分割前には準共有となるものが多く,共同相続人の一人が資料を単独で取得できるとしても,その者だけで口座内の資産全部を処分できるわけではない。
相続放棄又は限定承認を検討している場合も,財産調査と処分を区別する必要がある。

第2 単独請求を認める法的な考え方
1 相続による契約上の地位の承継

民法896条は,相続人が相続開始時から被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継することを原則とし,同法898条は,相続人が数人あるときは相続財産が共同相続人の共有に属すると定めている。
所有権以外の財産権を数人で有する場合には共有に関する規定が準用され(民法264条),保存行為は各共有者が単独ですることができる(同法252条5項)。
被相続人が証券会社との取引契約に基づいて有していた報告請求の地位も共同相続人に承継され,取引状況を把握するための資料請求は,その地位を保存する行為として単独行使できると考える余地がある。

2 最高裁平成21年1月22日判決

最高裁平成21年1月22日第一小法廷判決(平成19年(受)第1919号預金取引記録開示請求事件,民集63巻1号228頁)は,預金契約に含まれる委任事務又は準委任事務の処理状況を把握するため,金融機関は預金者に取引経過を開示する義務を負うとした。
同判決は,預金者の死亡後,共同相続人の一人が,共同相続人全員に帰属する預金契約上の地位に基づき,他の共同相続人全員の同意なしに取引経過開示請求権を単独で行使できると判示した。
また,開示の相手方が共同相続人にとどまる限り,預金者のプライバシー又は金融機関の守秘義務の問題が生ずる余地はないとしつつ,請求の態様,対象又は範囲によっては権利濫用となり得ることも付言した。

3 証券会社への適用は判例の射程を踏まえて判断する

証券取引口座の契約関係にも,売買等の受託,保管,振替及び金銭の受払いに関する事務処理と,その結果を顧客へ報告する関係が含まれる。
そのため,取引状況の把握に必要な資料を相続人の一人が請求する場面では,前記最高裁判決の考え方が証券会社にも及ぶと解することができる。
もっとも,証券取引口座の契約内容及び金融商品の種類は預金契約と同一ではなく,証券会社に対する単独請求を直接認めた最高裁判例も確認できないため,本記事では「原則として単独請求できると考えられる」と整理する。

4 帳簿の保存義務と開示請求権は同じではない

金融商品取引法46条の2は,金融商品取引業者に帳簿書類の作成及び保存を義務付けている。
金融商品取引業等に関する内閣府令157条及び164条は,顧客勘定元帳を帳簿書類の一つとして掲げ,その記載事項と保存期間を定めている。
これらの規定は,証券会社が記録を作成し保存する根拠であるが,それだけで相続人に対する私法上の開示請求権を直接定めたものではないため,契約上の地位の承継及び各社の手続と区別して理解する必要がある。

第3 どの資料をどこへ請求するか
1 口座開設先を調べる資料

被相続人が利用していた証券会社が分からない場合,証券保管振替機構に登録済加入者情報の開示を請求できる。
同機構の公開案内は,法定相続人が複数いる場合でも,そのうち一人から請求できるとしている。
ただし,この開示で分かるのは開示時点の口座開設先であり,銘柄,保有数量,残高及び取引履歴は含まれないため,判明した各証券会社へ改めて照会する必要がある。

2 残高証明書と取引履歴

残高証明書は,死亡日その他の基準日に被相続人口座に存在した資産を把握する資料である。
これに対し,顧客勘定元帳,取引明細又は取引履歴は,売買,入出庫,入出金,配当,分配金,償還及び手数料等の経過を確認する資料であり,残高証明書だけでは分からない取得価額又は資金移動を調べる際に必要となる。
書類名,記載範囲及び交付形式は証券会社によって異なるため,「取引履歴一式」とだけ書かず,必要な資料名と項目を確認するのが適切である。

3 請求期間と対象口座を特定する

請求書には,被相続人の氏名,生年月日,住所,支店名及び口座番号のほか,対象期間,金融商品の種類並びに必要な取引項目を具体的に記載する。
例えば,死亡日前後の資産移動を調べるのか,被相続人の取得費を調べるのかによって,必要な期間と資料は異なる。
複数の口座区分がある場合は,特定口座,一般口座,NISA口座,外国証券口座,信用取引口座及び預り金のいずれを対象とするかも確認する必要がある。

第4 証券会社に対する実際の請求手続
1 一般に準備する書類

一般に,①被相続人の死亡を確認できる戸籍又は除籍,②請求者が法定相続人であることを確認できる戸籍又は法定相続情報一覧図,③請求者の本人確認書類,④証券会社所定の請求書が必要となる。
印鑑登録証明書,実印による押印又は追加の相続関係書類を求める会社もある。
弁護士が代理して請求する場合は,照会,資料請求及び受領の権限を明記した委任状と,代理人の本人確認資料等も準備する。

2 公表されている証券会社の取扱例

野村證券の公開資料は,「相続人等」の一人が,被相続人の死亡及び請求者の相続関係を示す書類等を提出して,顧客勘定元帳その他の口座情報を請求する書式を案内している。
楽天証券の相続手続案内は,確認書類の審査後,申請者に閲覧専用のログイン情報を案内し,被相続人口座の取引情報や顧客勘定元帳を確認する方法を示している。
SBI証券も,相続窓口を通じた残高証明書及び顧客勘定元帳の請求を案内しているが,公開ページだけでは共同相続人の一人による請求条件の全てを確認できないため,個別に問い合わせる必要がある。

3 相続手続依頼書とは分けて請求する

証券の移管又は換価に用いる相続手続依頼書は,遺産の取得者を確定して資産を処理するための書類であり,情報取得だけを目的とする請求書とは役割が異なる。
証券会社から相続人全員の署名又は遺産分割協議書を求められた場合は,それが取引履歴の交付条件なのか,資産の移管・払出しの条件なのかを確認する必要がある。
取引履歴だけを求めていることを明示すると,二つの手続が混同されるのを避けやすい。

第5 請求が制限され得る場面

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精神科病院入院中の成年被後見人が他科を受診するときの付添い――後見人の義務、病院との役割分担、介護保険・障害福祉・自費サービス(AI作成)

目次第1 結論と検討の対象第2 最初に「付添い」の内容を分ける1 移送と介助は別の機能である2 医療同意とも区別する第3 成年後見人の義務と限界1 民法858条及び859条2 最高裁平成28年3月1日第三小法廷判決3 大阪家裁後見センターだよりの整理第4 精神科病院との役割分担1 病院に最初に確認すべき事項2 他医療機関受診に関する診療上の連携3 全国一律の付添い分担規定は確認できない第5 介護保険の通院等乗降介助1 居宅が始点又は終点となることが基本である2 老健からの受診例をそのまま当てはめない3 実際の確認先第6 障害福祉サービス1 通院等介助にも居宅起点・終点の制約がある2 入院中の重度訪問介護と移送を混同しない3 65歳以上では介護保険との関係も確認する第7 地域の外出支援と自費サービス1 寝屋川市の外出援助サービス2 自費の付添いサービス3 移送部分には道路運送法上の確認が必要である第8 費用負担と後見事務の記録1 本人の必要性と財産から判断する2 記録に残す事項第9 実務上の手順1 病院との打合せ2 公的サービスの照会3 自費サービスの選定4 受診後の引継ぎ第10 判例及び一次資料の到達点第11 出典1 法令及び裁判例2 行政資料3 文献
第1 結論と検討の対象

本記事は,令和8年9月10日現在の法令及び公的資料に基づき,精神科病院に入院中の成年被後見人が整形外科等の他の医療機関を受診するとき,誰が付添いを担うのかを整理するものである。
結論からいえば,成年後見人であるというだけで,後見人本人が車椅子を押し,移動中及び待合室で見守り,診察に付き添う事実行為まで当然に行う義務を負うわけではない。
もっとも,本人が必要な診療を安全に受けられるよう,病院と必要な支援内容を確認し,利用可能なサービスを調査し,必要な契約及び支払を行うことは,後見事務となり得る。

付添い方法は,精神疾患の診断名だけで決めるべきではない。
本人ごとの歩行・移乗能力,転倒又は離院のおそれ,意思疎通の方法,服薬及び急変時の対応,入院形態並びに受診先が求める支援を確認して決める必要がある。

第2 最初に「付添い」の内容を分ける
1 移送と介助は別の機能である

「病院への付添い」という一語には,複数の異なる仕事が含まれる。
少なくとも,①精神科病院から受診先までの車両による移送,②病室から車両まで及び車両から診察室までの歩行・車椅子・移乗介助,③車内及び待合室での見守り,④受付・保険資格確認・会計,⑤診察時の意思疎通支援,⑥診療情報及び処方内容の受渡し,⑦急変又は離院時の対応に分けて考える必要がある。

これらを一人又は一事業者が全部担わなければならないわけではない。
例えば,移送は許可又は登録のあるタクシー等,乗降及び待合室の支援は自費の付添い事業者,診療情報の作成及び帰院後の治療継続は入院先病院という分担も考えられる。

2 医療同意とも区別する

診察に同席して説明を聞くことと,医的侵襲に同意することは別である。
成年後見人には一般的な医療同意権がないと整理されており,後見人が付添いに行くことから直ちに手術,注射その他の医療行為への同意権が生じるわけではない。
この点は,別稿「成年後見人の医療行為の同意」で詳しく扱っている。

第3 成年後見人の義務と限界
1 民法858条及び859条

民法858条は,成年後見人が生活,療養看護及び財産管理に関する事務を行うに当たり,本人の意思を尊重し,心身の状態及び生活の状況に配慮すべきことを定めている。
同法859条1項は,成年後見人が本人の財産を管理し,その財産に関する法律行為について本人を代表することを定めている。

したがって,受診の必要性,安全な実施方法,本人の意向及び費用負担を確認し,必要なサービス契約を締結し,本人の財産から適正な費用を支払うことは,成年後見人の職務に含まれ得る。
他方,条文に「療養看護」とあることから,後見人が自ら介護職又は看護職の代わりとなり,身体介護や継続的見守りを行う義務まで直ちに導くことはできない。

2 最高裁平成28年3月1日第三小法廷判決

最高裁平成28年3月1日第三小法廷判決(平成26年(受)第1434号・第1435号)は,認知症高齢者の鉄道事故をめぐる民法714条の監督義務者責任を扱った判決である。
同判決は,民法858条が成年後見人に事実行為として本人の現実の介護を行うことや本人の行動を監督することを求めるものではない旨を判示した。

この判決は,他科受診の付添い義務を直接判断したものではない。
しかし,「身上配慮義務」と「本人に対する現実の介護・行動監督」を区別する必要があることを示す一次資料として重要である。

3 大阪家裁後見センターだよりの整理

大阪家裁後見センターだより第32回「第二期計画下における身上保護事務について」は,身上保護事務は契約等の法律行為に関する事項である限り,一身専属的な事項を除いて身上監護に関するあらゆる事項(法律行為に当然伴う事実行為を含む。)を対象とする一方,身体に対する強制を伴う事項(健康診断の受診の強制・入院の強制,施設への入所の強制,介護の強制等),一身専属的な事項及び現実の介護・看護行為(事実行為としての介護・看護)は身上保護事務に含まれないという共通の理解を示している(大阪家庭裁判所後見センター編『大阪家庭裁判所後見センターだより』(大阪弁護士協同組合,2025年)137頁~138頁)。

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生命保険契約照会制度-死亡・認知判断能力低下・災害時の利用方法と注意点(AI作成)

目次

第1 生命保険契約照会制度の結論1 制度の役割2 令和8年9月10日現在の重要な運用状況第2 照会できる三つの場面1 死亡した場合2 認知判断能力が低下した場合3 災害で死亡又は行方不明になった場合第3 誰が申請できるか1 死亡照会の申請者2 認知判断能力低下時の申請者3 申請者の人数第4 調査対象となる契約と対象外の契約1 調査対象2 対象外の契約等3 本制度だけでは分からないこと第5 申請前に確認すべき手掛かり1 自宅及び取引履歴を確認する2 推測できる会社へ直接問い合わせる第6 申請方法,必要書類及び費用1 基準日現在の書面申請2 死亡照会の主な必要書類3 認知判断能力低下時の主な必要書類4 回答までの期間5 WEB申請が再開された場合第7 回答を受けた後の対応1 各生命保険会社へ連絡する2 請求権者と相続財産を区別する3 保険金請求権の消滅時効4 税務上の扱いを別に確認する第8 利用実績と利用料改定1 申請件数2 数値から分かることと分からないこと第9 令和8年7月公表のシステム事案第10 実務上のチェックリスト第11 出典1 法令2 生命保険協会の利用規約3 生命保険協会の運用案内・公表資料4 行政機関の解説5 独立行政法人・専門機関等の解説6 関連記事
第1 生命保険契約照会制度の結論
1 制度の役割

生命保険契約照会制度は,家族の死亡又は認知判断能力の低下などにより生命保険契約の手掛かりが失われた場合に,一般社団法人生命保険協会が会員会社へ一括照会し,対象者が契約者又は被保険者となっている契約の有無を回答する制度である。
東日本大震災後に設けられた災害地域生保契約照会制度を平時にも拡張し,令和3年7月1日に開始された。
本稿は令和8年9月10日を調査基準日とし,同日現在の申請要件及び運用状況,令和3年度から令和6年度までの利用実績並びに個別契約で別途確認すべき時効及び税務を扱う。

この制度は,生命保険協会が利用規約に基づいて会員会社へ照会する業界の仕組みである。
契約があるとの回答を受けても,保険金額,受取人,契約の効力又は請求権の有無まで確定するわけではなく,その後に各生命保険会社へ連絡する必要がある。

2 令和8年9月10日現在の重要な運用状況

生命保険協会は,システム上の不備について安全性を確認するため,令和8年7月27日から生命保険契約照会制度のWEB申請を停止している。
令和8年9月10日現在,平時の照会は書面申請を利用することになり,利用料は照会対象者1名につき7000円である。

書面申請は申込みが集中し,通常より時間を要すると案内されている。
WEB申請が再開された場合の利用料は照会対象者1名につき6000円であるが,再開時期を含む最新状況は,生命保険協会の案内で確認する必要がある。

第2 照会できる三つの場面
1 死亡した場合

家族が死亡し,生命保険会社が分からない場合に利用できる。
対象者が契約者又は被保険者である契約の有無が照会され,申請者が死亡保険金等を請求できる可能性があるときは,その旨も回答対象となる。

遺品から保険証券その他の手掛かりが見付かる場合や,契約先と考えられる生命保険会社が分かる場合は,まずその会社へ直接問い合わせるのが原則である。
本制度は契約先が分からない場合の一括照会を補う仕組みであり,既知の契約先への個別照会に代わるものではない。

2 認知判断能力が低下した場合

医師の診断により認知判断能力の低下が認められ,生命保険契約の有無が分からない場合に利用できる。
単に高齢であることや,家族が財産状況を把握したいという事情だけでは足りない。

法定代理人又は任意後見人のほか,一定の条件の下で三親等内の親族や代理人が申請できる。
後見人等がいない者による申請では,生命保険協会の利用規約上,緊急の資金需要があること,より先順位の推定相続人に結果を伝える意思があること,対象者の財産を管理する意思があることなどについて同意が求められる。

3 災害で死亡又は行方不明になった場合

災害救助法が適用された地域で家族等が被災して死亡又は行方不明となり,家屋等の流失又は焼失等により生命保険契約に関する請求が困難となった場合は,災害地域生保契約照会制度を利用できる。
この場合は電話で申し込み,利用料は無料である。

原則として,対象者の配偶者,親,子若しくは兄弟姉妹,又はこれらの法定代理人若しくは任意代理人が申請でき,特段の事情がある場合は生命保険協会がその他の者からの照会を受け付ける。
通常は書類の提出を要せず,生命保険協会は原則として受付日から14営業日以内に書面で回答するとしている。

第3 誰が申請できるか

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被相続人の死亡後もスマホを法定相続人が使い続ける方法(AI作成)

目次

第1 使い続けるために分けて考える三つの対象

1 端末・回線・アカウント
2 最初に相続放棄の可能性を確認する

第2 スマホ本体を取得する方法

1 被相続人所有の端末
2 共同相続人がいる場合

第3 携帯電話回線と電話番号を承継する方法

1 携帯電話会社の承継手続
2 主要事業者の手続の違い

第4 相続放棄とスマホの取扱い

1 三か月の熟慮期間
2 継続使用と法定単純承認

第5 端末ロックとデータの処理

1 iPhone

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永代供養とは何か-「永代」の意味,費用,合祀,返金及び改葬の注意点(AI作成)

目次

第1 永代供養の意味とこの記事の対象

1 対象,基準日及び結論

2 永代供養は法律上の施設名ではない

第2 「永代」と個別安置・合祀の関係

1 「永代」は永久の個別安置を意味しない

2 直接合祀と一定期間後の合祀

3 合祀後の遺骨は取り戻せるとは限らない

第3 墓じまいから永代供養へ移る手続

1 改葬許可を受ける

2 行政手続と現在の墓地との契約を分ける

3 祭祀承継者との調整

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成年後見人の死後事務と遺骨の引取り-大阪市立斎場の保管,誓約書及び合同埋蔵(AI作成)

第1 この記事の対象と結論1 対象と基準日2 結論第2 大阪市の要綱が対象とする遺骨1 すべての身寄りのない遺骨が対象になるわけではないこと2 遺体の火葬と火葬後の遺骨は別の段階であること第3 保管から合同埋蔵までの流れ1 火葬の日から1年間の保管2 南霊園への引継ぎ3 慰霊祭と合同埋蔵4 保管中の参拝第4 誰が遺骨を引き取ることができるか1 行旅死亡人又は生活保護の取扱いによる場合2 親族による引取り3 施設長,病院長又は成年後見人等による引取り4 瓜破霊園合葬式墓地の使用許可を受けていた場合5 親族以外の関係人による引取り第5 成年後見人等が引き取る場合の注意点1 斎場使用申込時の申出を記録に残すこと2 誓約書等の内容は公開資料だけでは確定できないこと3 大阪市の引渡要件と民法上の死後事務権限を分けること4 家庭裁判所の公開案内が明示している範囲5 保佐人,補助人その他の者第6 実務上の確認事項1 斎場使用申込時2 火葬後の保管中3 南霊園への引継ぎが近い場合第7 公開資料だけでは確定できない事項1 斎場への個別確認が必要な事項2 日程を「法律上の権利行使期限」と扱わないこと3 判例の位置付け第8 出典・参考資料1 法令2 大阪市の例規及び要綱3 裁判所の手続案内4 関連記事
第1 この記事の対象と結論
1 対象と基準日

本記事は,大阪市立斎場で火葬された後,引き取る人がいないため斎場で保管される遺骨について,引渡し,保管及び合同埋蔵の流れを整理するものである。
令和8年9月9日に閲覧した大阪市の例規,要綱及び裁判所の公開資料を基準とする。
大阪市例規データベースは,内容現在を令和8年4月1日と表示している。

2 結論

大阪市の制度では,引取り手のない遺骨が直ちに合同埋蔵されるわけではない。
対象となる遺骨は斎場で一定期間保管され,所定の時点で南霊園に引き継がれた後,無縁堂に合同埋蔵される。
親族のほか,所定の場合には成年後見人等や親族以外の関係人も引取りを申し出ることができるが,申出の時期や誓約書等の条件が異なる。

大阪市の要綱に基づいて遺骨の引渡しを受けられることと,死亡後に納骨その他の契約を締結する民法上の権限があることは別問題である。
成年後見人であった人にとっては,成年被後見人が死亡した後に元後見人ができること-民法873条の2の死後事務と事務管理(AI作成)も併せて確認対象となる。

第2 大阪市の要綱が対象とする遺骨
1 すべての身寄りのない遺骨が対象になるわけではないこと

大阪市立斎場保管遺骨取扱要綱が対象とするのは,大阪市の行旅死亡人関係の細則その他これに準じる規定に基づいて大阪市立斎場で火葬され,引き取る人がいない,又は引き取る人が分からないため保管された遺骨である。
したがって,大阪市内に身寄りのない人が死亡した場合の遺骨をすべて一律に扱う要綱ではない。
実際の案件では,誰の依頼で,どの制度に基づいて,どの大阪市立斎場で火葬されたかが最初の確認事項となる。

2 遺体の火葬と火葬後の遺骨は別の段階であること

墓地,埋葬等に関する法律9条は,死体の埋葬又は火葬を行う人がいない,又は分からない場合の市町村長の対応を定めている。
これに対し,本記事で扱う大阪市の要綱は,火葬が済んだ後に斎場で保管されている遺骨の取扱いを定めるものである。
本記事では,火葬前の手続と火葬後の引取りを分けて検討する。

第3 保管から合同埋蔵までの流れ
1 火葬の日から1年間の保管

大阪市例規データベースに掲載されている大阪市行旅病人及行旅死亡人取扱法施行細則10条は,市立斎場において火葬した遺骨について,火葬の日から1年間保管し,その後に適宜の処置をする旨を定めている。
この1年という期間は,国の行旅病人及行旅死亡人取扱法ではなく,大阪市の細則に置かれた基準である。

2 南霊園への引継ぎ

大阪市立斎場保管遺骨取扱要綱2条によれば,斎場で保管している遺骨は,保管期間の経過後,最初に到来する9月1日以降に処理することが原則である。
斎場から南霊園へ遺骨と火葬許可証が引き継がれる。

「火葬から1年後に直ちに合同埋蔵される」という仕組みではなく,1年経過後の最初の9月1日が行政上の節目となる。
引取りを検討している場合は,火葬日だけでなく,この日程を斎場へ事前に確認することが重要である。

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同居の配偶者が死亡した後1週間に相続人がすること-手続・生活・遺産保全の全チェックリスト(AI作成)

目次

第1 一週間の考え方と優先順位1 本記事の対象2 一週間で優先する六つの仕事3 一週間で結論を出さない方がよい事項第2 当日から死亡診断書等の受領まで1 死亡確認前と死亡確認後を分ける2 病院・施設等で受け取り,確認する物3 本人の意思を直ちに確認する場面(1)臓器・組織提供及び献体(2)葬送,宗教及び連絡の希望4 同居家族の生命と生活を先に守る第3 死亡届,火葬許可及び証明書1 死亡届の7日という法定期限2 届出先と添付書類3 火葬許可と24時間の規律4 提出後に残す記録第4 遺体の搬送,葬儀,連絡及び費用1 搬送と安置を先に決める2 葬儀契約は明細と総額で確認する3 支払と証拠を分けて残す4 訃報と個人情報を管理する第5 遺言,遺産,負債及び証拠の保全1 最初は動かさずに記録する(1)家の中と持出品(2)郵便物と取引の手掛かり2 相続放棄の可能性があれば避ける行為3 遺言書は探すが,封印された物を開けない4 銀行口座と当面の生活費(1)カード,暗証番号及びオンラインバンキングを使わない(2)遺産分割前の預貯金払戻し制度第6 住まい,家族,勤務先及び公的給付1 住まいを失わず,契約を止め過ぎない(1)持家,賃貸住宅及び公営住宅(2)住宅ローン,保険,公共料金及び防犯2 子ども,要介護者及びペット3 勤務先と事業関係4 健康保険,年金,生命保険及び固有の給付第7 スマートフォン,デジタル契約及び郵便物1 端末を初期化せず,電源と状態を保つ2 メール・SNS・クラウド・暗号資産を一斉解約しない3 郵便物は現住所で管理する第8 事情があるときだけ直ちに分岐する事項1 事故,犯罪,医療,労災又は第三者の関与2 個人事業,会社経営又は専門資格3 多額の負債,相続人間の対立又は家に危険物がある場合4 国外,外国籍又は家族関係が複雑な場合第9 一週間の実行チェックリストと後日の期限1 当日から翌日2 2日目から3日目3 4日目から7日目4 一週間後に管理する主な期限第10 出典・参考資料1 法令2 裁判所・法務省の手続案内3 行政機関・制度実施主体の案内4 制度実施団体・事業者の案内
第1 一週間の考え方と優先順位
1 本記事の対象

本記事は,令和8年9月8日現在,日本国内で同居の配偶者が死亡し,生存配偶者が相続人となる通常の場面を対象とする。
死亡直後から7日目までに全員が行う事項と,該当するときだけ行う事項を分け,法定期限,生活上の必要及び証拠・財産の保全を一つの時系列に整理する。

「死亡後1週間以内」の法定期限として最も重要なのは,原則として死亡の事実を知った日から7日以内の死亡届である。
健康保険,年金,相続放棄,税務,相続登記等には別の期限又は個別の手続があるため,一週間ですべてを終える必要はないが,窓口と必要資料を確認し,後日の期限を記録するところまでは進めておくとよい。

2 一週間で優先する六つの仕事

一週間の優先順位は,①死亡確認と死亡診断書又は死体検案書の受領,②死亡届と火葬許可,③遺体の搬送・安置と葬儀,④同居家族の生活維持,⑤遺言・財産・証拠の保全,⑥期限一覧と連絡先の作成,の順で考えると整理しやすい。
一人で抱えず,手続担当,葬儀担当,連絡担当及び記録担当を分け,同じ情報を共有できる一冊のノート又は表を作るのが実用的である。

記録には,日時,相手方,電話番号,担当者名,話した内容,提出物,受領物,支払額,支払者及び次の期限を残す。
死亡診断書等,請求書,領収書,名刺及び画面は,原本の所在を決めた上で写し又は写真も保存する。

3 一週間で結論を出さない方がよい事項

遺産分割,相続放棄の最終判断,不動産・自動車・株式の名義変更,故人の契約の一斉解約及び大量の遺品処分は,通常,一週間以内に完了させる事項ではない。
資産,負債,遺言及び他の相続人を確認しないまま財産を動かすと,後に相続放棄や遺産分割で問題となり得るため,最初の一週間は「処分」よりも「保全と一覧化」を優先する。

第2 当日から死亡診断書等の受領まで
1 死亡確認前と死亡確認後を分ける

反応や呼吸がなく,医師による死亡確認が済んでいない場合は,直ちに119番へ連絡し,通信指令員の指示に従う。
在宅療養中で主治医又は訪問看護の緊急連絡方法が決まっている場合でも,状況が判断できなければ救急へ連絡し,自己判断で遺体を動かさない。

病院,施設又は在宅で医師が死亡を確認した後は,死亡診断書又は死体検案書が作成される。
厚生労働省は,生前に診療していた傷病に関連する死亡と認められる場合に死亡診断書,それ以外の場合に死体検案書を交付するという区別を示しているが,いずれも死亡を医学的・法律的に証明する文書であり,効力に違いはない。

事故,自殺の疑い,死因不明,発見まで時間が経過した場合その他の異状が考えられるときは,医師又は警察の手続が優先する。
現場,衣類,薬,容器,端末,写真,防犯カメラ及び関係者との通信を片付けたり消去したりせず,警察や医師の指示を受ける。

2 病院・施設等で受け取り,確認する物

死亡診断書又は死体検案書は,氏名,生年月日,死亡日時,死亡場所及び作成医師の記載を確認し,死亡届へ提出する前に全面の鮮明な写しを複数確保する。
提出後の原本確保,記載事項証明書及び誤記訂正については,弁護士のための死亡診断書の実務で詳しく説明している。

診察券,預り品,現金,鍵,眼鏡,補聴器,義歯,携帯電話及び充電器等を受け取るときは,受領品をその場で照合する。
入院費,施設利用料,遺体搬送費その他の請求については,請求書と明細を分けて受け取り,誰が何を立て替えたかを記録する。

3 本人の意思を直ちに確認する場面
(1)臓器・組織提供及び献体

臓器・組織提供又は献体に関する意思表示カード,運転免許証,マイナンバーカード,登録証,大学への申込書等がある場合は,直ちに医療機関へ申し出る。
実施できる時間と条件が限られるため,後で検討する事項として先送りせず,本人の意思が不明な場合を含め,医療機関の担当者から説明を受ける。

(2)葬送,宗教及び連絡の希望

エンディングノート,葬儀の生前契約,墓地・納骨堂の契約,菩提寺,宗教上の希望,連絡してほしい人及び連絡を控えてほしい人を確認する。
本人の希望は重要であるが,法的拘束力の有無,費用負担及び家族間の合意は別問題であるため,見つけた資料を保全して関係者と共有する。

4 同居家族の生命と生活を先に守る

乳幼児,未成年者,要介護者,障害者,服薬中の家族及びペットについて,その日の食事,薬,通院,送迎,介護,預け先及び連絡先を確保する。
故人だけが担っていた世話,支払又は連絡を紙に書き出し,少なくとも一週間を乗り切る担当者を決める。

生存配偶者自身も,睡眠不足や強い動揺の中で運転,契約又は多額の支払をしないよう,可能であれば信頼できる人に同席を頼む。
急な胸痛,呼吸困難,自傷のおそれその他の緊急症状があれば,手続よりも救急又は医療機関への相談を優先する。

第3 死亡届,火葬許可及び証明書
1 死亡届の7日という法定期限

戸籍法86条1項により,死亡の届出は,届出義務者が死亡の事実を知った日から7日以内にしなければならない。
同居していた生存配偶者は同居の親族に当たり,戸籍法87条1項の第一順位の届出義務者となるが,同条は,順位にかかわらず届出をすることができるとも定めている。

届出人の資格,提出を他人に託す場合及び例外的な届出人については,死亡届の届出人で詳しく説明している。
葬儀社が書類提出を補助する場合でも,届出人欄に誰がどの資格で記載するかを確認し,控えを残す。

(続きを読む...)同居の配偶者が死亡した後1週間に相続人がすること-手続・生活・遺産保全の全チェックリスト(AI作成)

成年被後見人が死亡した後に元後見人ができること-民法873条の2の死後事務と事務管理(AI作成)

第1 この記事の対象と結論1 対象,基準日及び他の記事との分担2 結論第2 本人の死亡で消えるもの,残るもの1 代理権は消滅する2 民法873条の2の死後事務3 民法874条が準用する654条の応急処分4 民法697条以下の事務管理5 三つの関係――873条の2は上限ではない第3 民法873条の2の柱書の要件1 「必要があるとき」2 「相続人の意思に反することが明らかなとき」3 「相続人が相続財産を管理することができるに至るまで」第4 1号及び2号――家庭裁判所の許可を要しない行為1 1号の保存行為2 2号の弁済3 払戻しが必要になった時点で3号許可が要る第5 3号許可の対象――「相続財産の保存に必要な行為」1 判定の基準2 火葬,埋葬及び納骨3 残置動産の廃棄と借家の明渡し4 後見人報酬及び後見事務費の精算5 申立ての実際第6 葬儀ができないときの経路1 3号許可の対象外とされる理由2 大阪家庭裁判所の取扱い3 事務管理による経路4 親族から依頼された場合第7 原資の確保1 死亡前の引出し2 死亡後の払戻し3 年金受給口座と残す口座第8 管理計算と引継ぎ1 管理の計算2 引継ぎは相続人1人で足りる3 相続人の調査4 受領を拒絶された場合5 相続財産管理人と相続財産清算人第9 監督,報酬及び終了登記第10 保佐人及び補助人第11 令和8年法律第45号による改正1 民法876条の26の構造2 施行日前に開始した後見の扱い第12 実務上の確認手順と停止基準1 死亡の連絡を受けた時点で確認する事項2 根拠を選ぶ順序3 高負担の手続へ進まない基準4 結論を左右し得る不確実な要素第13 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 家庭裁判所の資料4 文献5 関連記事
第1 この記事の対象と結論
1 対象,基準日及び他の記事との分担

本記事は,成年被後見人が死亡した直後に,成年後見人であった者が何を,どの根拠で,どの順序で行うことができるかを整理するものである。
調査の基準日は令和8年9月7日であり,法令は同日現在のe-Gov法令検索で確認した現行条文による。
引用する家庭裁判所の資料は平成29年から平成30年までに公表されたもの,実務書は令和5年に発行されたものであり,資料の対象期間はこの範囲である。
令和8年法律第45号による改正法は本記事の作成時点で施行されておらず,改正後の姿は第11で別に扱う。

火葬許可証の交付手続そのものは火葬許可証で,遺骨の帰属及び葬儀費用の終局的な負担者は葬儀・火葬の実施で,本人の生前に締結する契約は死後事務委任契約の効力,内容及び作成時の注意点で扱っている。
本記事はこれらと重複する説明を置かず,後見人の側の判断だけを対象とする。

この論点には,参照できる裁判例がほとんどない。
裁判所ウェブサイトの裁判例検索を令和8年9月7日に行ったところ,全文検索の語を「民法873条の2」としたときの該当件数は0件,「八百七十三条の二」としたときも0件であった。
「873条の2」では2件が該当したが,いずれも著作権に関する知的財産の事件であって条文の引用として一致したものではない。
同じ検索式で「成年後見人」を検索すると102件が該当するから,検索の仕組み自体は動いている。
裁判所ウェブサイトに掲載がないことは裁判例が存在しないことの証明にはならないが,公開されている範囲で民法873条の2の解釈が正面から争われた例は見当たらないため,本記事は条文と,家庭裁判所自身が公表した運用の説明及び実務書の記述を根拠として組み立てている。

2 結論

本人の死亡により後見は終了し,成年後見人の代理権は消滅する。
それでも元後見人が死後の事務を行うことができる根拠は,①民法873条の2の死後事務,②民法874条が準用する同法654条の応急処分,③民法697条以下の事務管理の三つに分かれる。
どの根拠で動いているかによって,家庭裁判所の許可の要否,費用の求償先及び裁判所への報告の内容が変わる。

実務上の分岐点は三つである。
第一に,凍結された預貯金口座から金銭を払い戻す必要があるかどうかであり,払戻しが必要になった時点で民法873条の2第3号の家庭裁判所の許可(以下「3号許可」という。)が必要になる。
第二に,葬儀を行うかどうかであり,葬儀は3号許可の対象とされていないため,葬儀を行うのであれば事務管理の構成によることになる。
第三に,相続人が引継ぎを受けるかどうかであり,引継ぎは相続人の1人に対して行えば足りるが,その1人すら受け取らないときは弁済供託又は相続財産管理人の選任という別の出口が要る。

第2 本人の死亡で消えるもの,残るもの
1 代理権は消滅する

民法111条1項1号は,代理権が本人の死亡によって消滅すると定める。
民法653条1号も,委任が委任者又は受任者の死亡によって終了すると定めている。
大阪家庭裁判所家事第4部後見係「大阪家裁後見センターだより」第3回(月刊大阪弁護士会2017年10月号54頁~55頁)も,後見人は被後見人の死亡により代理権等の権限を失うことを出発点として説明している。
したがって,本人が死亡した後の元後見人の行為は,いずれも例外規定の上に立つことになる。

2 民法873条の2の死後事務

民法873条の2は,「成年被後見人の死亡後の成年後見人の権限」という見出しの下に,「成年後見人は、成年被後見人が死亡した場合において、必要があるときは、成年被後見人の相続人の意思に反することが明らかなときを除き、相続人が相続財産を管理することができるに至るまで、次に掲げる行為をすることができる。ただし、第三号に掲げる行為をするには、家庭裁判所の許可を得なければならない。」と定める。
掲げられている行為は,①相続財産に属する特定の財産の保存に必要な行為(1号),②相続財産に属する債務(弁済期が到来しているものに限る。)の弁済(2号),③その死体の火葬又は埋葬に関する契約の締結その他相続財産の保存に必要な行為(前2号に掲げる行為を除く。)(3号)の三つである。
この規定は,成年後見の事務の円滑化を図るための民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律(平成28年法律第27号。以下「円滑化法」という。)により新設され,平成28年10月13日に施行された。

3 民法874条が準用する654条の応急処分

民法874条は,民法654条及び655条を後見について準用する。
民法654条は,「委任が終了した場合において、急迫の事情があるときは、受任者又はその相続人若しくは法定代理人は、委任者又はその相続人若しくは法定代理人が委任事務を処理することができるに至るまで、必要な処分をしなければならない」と定めている。
条文の文言が「しなければならない」である以上,これは権限であると同時に義務であり,家庭裁判所の許可を要しない。

4 民法697条以下の事務管理

民法697条1項は,義務なく他人のために事務の管理を始めた者が,その事務の性質に従い,最も本人の利益に適合する方法によって事務の管理をしなければならないと定める。
元後見人が相続人らのために事務管理を行い,その費用を民法702条1項の有益費償還請求により清算する,という構成である。
大阪弁護士会高齢者・障害者総合支援センター編「【全訂版】成年後見人の実務2023」(大阪弁護士協同組合,2023年)131頁~132頁は,この方法によれば裁判所の許可を得る必要はなく,事後的な報告で足りるとする。
もっとも,民法697条2項及び700条ただし書があるため,相続人の意思に反する対応はできない。

5 三つの関係――873条の2は上限ではない

重要なのは,民法873条の2が従前の対応を制限する規定ではないという点である。
前記「大阪家裁後見センターだより」第3回は,円滑化法の施行以前も,後見終了時の応急処分(民法654条)や相続人全員のための事務管理(民法697条)を根拠として一定の範囲の死後事務を行うことは可能であると解されていたとした上で,円滑化法は従前から行うことのできていた行為を制限する趣旨とは解されないので,応急処分等の要件を満たす行為は施行後も家庭裁判所の許可なくして適法に行うことが可能であるとする。
前記「【全訂版】成年後見人の実務2023」128頁も,民法873条の2は保存行為の範囲内で成年後見人に権限があることを確認したものであって,これらが成年後見人の義務となるものではなく,従前の事務管理法理等による対応が否定されるものでもないと述べている。
したがって,3号許可が得られないことは,元後見人が何もできないことを意味しない。

第3 民法873条の2の柱書の要件
1 「必要があるとき」

前記「大阪家裁後見センターだより」第3回は,「必要があるとき」とは,相続人ではなく後見人が当該事務を行わなければならない場合をいうとする。
同回が挙げる例は,入院費等の支払を請求されているが,相続人の連絡先が不明で,成年後見人が支払をしないと相当期間債務の支払がされないこととなる場合である。
相続人が現に対応できる状況であれば,この要件は満たされない。

2 「相続人の意思に反することが明らかなとき」

同回は,これを,後見人が死後事務を行うことについて相続人が明確に反対の意思表示をしている場合をいうとし,相続人が不存在の場合や存否が明らかでない場合,相続人と連絡が取れない場合はこれに当たらないとする。
他方,相続人が複数いる場合には,一人でも反対の意思表示を明らかにしているときはこれに当たると考えられる旨が,同回の注に記されている。
前記「【全訂版】成年後見人の実務2023」128頁~129頁も,相続人の意思を確認することは求められていないから,相続人はいるがすぐに連絡が取れないなどの場合であれば死後事務を行うことは可能であるとする。
実務上は,「連絡が取れない」のか「反対されている」のかを,時期と方法を含めて記録の上で区別しておくことが要点になる。

親族が遺体や遺骨を「引き取らない」と述べている場合も,それだけでは,後見人が死後事務を行うことへの明確な反対の意思表示とは限らない。
自分では遺体を引き取らず火葬も手配しないという意思と,後見人が火葬や納骨をすることに反対する意思とは,別のものだからである。
「DNA鑑定をしなければ引き取らない」のように条件を付けた拒否も同様であり,「鑑定が済むまで火葬するな」とまで明言されたかどうかを,親族の言葉どおりに記録しておくことになる。
この場面の具体的な対応と,危篤の段階で送る意向照会書の文例は,親族が遺体・遺骨の引取りを拒む・条件を付ける・連絡がつかないとき-成年後見人の対応と意向照会書(AI作成)で扱っている。

3 「相続人が相続財産を管理することができるに至るまで」

同書128頁は,相続人に引継ぎができる状況となったときは速やかに引継ぎをしてその後の対応は相続人に委ねるべきであるから,死後事務を行うことができるのはそれまでに限られるとする。
民法873条の2の権限は,引継ぎまでの暫定的なものである。

第4 1号及び2号――家庭裁判所の許可を要しない行為
1 1号の保存行為

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弁護士による民事信託(家族信託)業務の流れ-受任・意思確認から監督・清算まで(AI作成)

目次

第1 本記事の対象と結論第2 受任-依頼者,目的及び制度選択を確定する1 依頼者及び利害関係を特定する2 依頼の目的を事実に置き換える3 他の制度及び受託者候補を検討する第3 意思確認-委託者本人の能力及び真意を記録する1 委託者本人と独立して面談する2 能力確認と契約内容の説明を記録する第4 契約-権限,変更,交代及び終了を一体として設計する1 ひな型を個別の財産及び目的に合わせる2 終了制限は目的との対応を具体化する3 公正証書及び専門職との連携を決める第5 実装-財産移転,登記,口座及び税務提出を完了する1 契約締結と財産移転を区別する2 信託口口座の取扱いを事前に確認する3 税務提出の担当及び期限を決める第6 運用-分別管理,帳簿,報告及び監督を続ける1 受託者の法定義務を運用へ落とし込む2 弁護士の受任範囲を明確にする3 信託監督人及び受益者代理人の要否を検討する第7 変更・交代-契約後の事情変更に備える1 信託の変更手続を確認する2 受託者の任務終了と後継者への引継ぎを分ける第8 終了・清算-残余財産の給付と最終計算まで行う1 終了事由及び終了時点を確定する2 終了後の清算手続を完了する3 最終計算の承認と記録保存を確認する出典1 法令2 所管行政機関の手続案内3 職能団体のガイドライン
第1 本記事の対象と結論

本記事は,弁護士が民事信託(家族信託)の相談を受けた後,受任,委託者本人の意思確認,契約設計,財産移転,運用,受託者交代,終了及び清算をどの順序で確認するかを整理するものである。
調査の基準日は令和8年9月6日であり,同日現在の信託法,国税庁の手続案内及び日本弁護士連合会の公開ガイドラインを確認し,AIを利用して作成した。

民事信託業務は,契約書を作成して署名押印すれば完了するものではない。
信託の効力発生とは別に,対象財産の移転,登記,口座,帳簿,税務提出,受託者の監督,交代時の引継ぎ及び終了後の清算を実装する必要があるからである。

本記事は一般的な業務工程を示すものであり,個別の契約条項,課税関係又は金融機関の取扱いを一律に示すものではない。
民事信託の制度選択自体に伴う難しさについては,家族信託(民事信託)が難しい4つの理由で説明している。

第2 受任-依頼者,目的及び制度選択を確定する
1 依頼者及び利害関係を特定する

最初に,誰が弁護士への依頼者であり,誰の意思と利益を中心に信託を設計するのかを委任契約書及び面談記録で特定する。
親族から相談が持ち込まれた場合でも,委託者となる本人,受託者候補,他の推定相続人及び受益予定者の利害が常に一致するとは限らない。

日本弁護士連合会の「民事信託業務に関するガイドライン」3頁~5頁は,委託者本人との面談,親族等から不当な影響を受けていないことの確認及び他の制度との比較検討を重視している。
複数の当事者から共同で依頼を受ける場合は,利益相反が現にあるか,将来顕在化し得るか,情報を相互に共有できるかを受任前に確認する必要がある。

2 依頼の目的を事実に置き換える

「認知症対策」「財産を守りたい」又は「家族に迷惑を掛けたくない」という抽象的な希望だけでは,受託者へ与える権限も信託の終了条件も決められない。
管理を継続したい財産,想定する期間,収益の使途,売却又は借入れの必要性,受益者の生活費,承継先及び終了後の帰属先を事実レベルで確認する。

確認すべき資料は,①対象財産の一覧,②不動産登記事項証明書,③預貯金及び有価証券の残高資料,④賃貸借契約及び借入資料,⑤家族関係を示す戸籍等並びに⑥既存の遺言,任意後見契約又は贈与契約である。
資料を集める目的は,財産額を増やして見せることではなく,信託へ入れる財産,残す財産及び信託外で処理する事項を分けることにある。

3 他の制度及び受託者候補を検討する

本人の財産管理だけが目的であれば任意後見又は法定後見,死亡後の承継だけが目的であれば遺言,生前の権利移転が目的であれば贈与で足りる場合がある。
民事信託とこれらの制度は排他的ではなく,身上保護,信託外財産及び遺言執行を補うために併用することもある。

受託者候補については,年齢及び家族関係だけでなく,対象財産を管理する時間と能力,帳簿作成,利益相反への対応,長期継続の可能性,報酬及び後継者候補を確認する。
日弁連ガイドライン5頁~6頁は,受託者候補の適格性を検討し,受託者の法的義務と責任を具体的に説明することを求めている。

第3 意思確認-委託者本人の能力及び真意を記録する
1 委託者本人と独立して面談する

委託者の判断能力と信託設定意思は,親族の説明だけで確定しない。
少なくとも重要な局面では委託者本人と面談し,信託する財産,受託者へ移る権限,受益者,信託期間,変更・終了条件及び残余財産の帰属について,本人自身の言葉で理解と意思を確認する。

親族が同席すると本人の発言が影響を受けるおそれがあるときは,日弁連ガイドライン4頁が示すように,本人だけと面談する機会を設ける。
通訳,補助者又は医療情報が必要な場合でも,本人の意思を代替するのではなく,意思決定を支援して理解の有無を確認するという位置付けを明確にする。

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民事信託(家族信託)の税金はいつ発生するか-設定・運用・受益者変更・相続・終了の時系列(AI作成)

目次

第1 結論-税金は受託者への名義変更だけで決まらない第2 課税関係の全体像1 受益者等課税信託の基本2 時系列表第3 設定時の税金1 委託者と受益者が同じ自益信託2 委託者と受益者が異なる他益信託3 不動産を信託する場合の流通税4 紙の信託契約書の印紙税第4 運用中の税金及び受託者の手続1 所得税は受益者に帰属する2 消費税及び固定資産税3 信託不動産の損失制限4 信託の計算書第5 受益者又は受益権割合が変わった時1 新たな受益者が生じた場合2 受益者別調書及び贈与税申告第6 先順位の受益者が死亡した時1 次順位の受益者へのみなし遺贈2 受益者連続型信託の評価3 小規模宅地等の特例第7 信託が終了した時1 残余財産の取得と贈与税又は相続税2 不動産取得税及び登録免許税3 取得費及び所有期間の引継ぎ4 空き家の3000万円特別控除5 終了時の受益者別調書第8 設計及び運用時の確認順序出典1 法令2 法令解釈通達及び改正説明3 国税庁の手続案内及びタックスアンサー4 国税庁の質疑応答事例5 東京国税局の文書回答事例6 財務省の税制資料
第1 結論-税金は受託者への名義変更だけで決まらない

民事信託(家族信託)の税務では,受託者名義に変えたかどうかだけでなく,誰が信託の経済的利益を受ける地位を取得し,その地位がいつ移ったかを見る必要がある。
委託者が自ら受益者となる自益信託では,設定時に受益権の経済的な移転がないため,相続税法9条の2第1項による贈与税又は相続税は通常生じないが,これを「家族信託は非課税である」と言い換えることはできない。

課税又は手続が問題となる主な時点は,①他人を受益者とする信託の設定時,②信託財産から所得が生じた時,③受益者又は受益権割合が変わった時,④先順位の受益者が死亡した時,⑤信託終了後に残余財産を取得した時,⑥不動産の登記又は紙の契約書を作成した時である。
贈与税,相続税及び所得税のほか,消費税,登録免許税,不動産取得税,固定資産税,印紙税並びに受託者の法定調書を別々に確認しなければならない。

本記事は,令和8年9月6日現在の法令及び国税庁等の公開資料に基づき,個人を委託者,受託者及び受益者とする一般的な受益者等課税信託を時系列で整理するものである。
法人課税信託,集団投資信託,退職年金等信託,受益者等が存しない信託,国外財産を含む信託及び個別の税額計算は対象外であり,具体的な申告では最新の法令と事実関係を税理士等に確認する必要がある。

第2 課税関係の全体像
1 受益者等課税信託の基本

所得税法13条は,受益者等課税信託について,信託財産に属する資産及び負債を受益者が有し,信託財産に帰せられる収益及び費用を受益者の収益及び費用とみなして所得税法を適用するものとしている。
消費税法14条も,原則として,信託財産に属する資産を受益者が有するものとみなし,信託財産に係る取引を受益者の取引として扱う。

したがって,受託者が家賃を受け取り,費用を支払っていても,所得税及び消費税の課税主体は受託者であるとは限らない。
受益者等課税信託では,受益者が信託財産を直接保有して取引したものに近い形で課税関係を確認することになるが,受託者には後述する法定調書の提出義務が別に生じ得る。

2 時系列表

①設定時は,自益信託か他益信託か,不動産を信託するか,紙の信託契約書を作成するかを確認する。
②運用中は,賃料,配当,譲渡益その他の所得を誰に帰属させるか,消費税の課税事業者か,不動産所得の損失制限があるかを確認する。
③受益者変更時は,新たな受益者が対価を負担したか,変更が前の受益者の死亡に基因するか,受益権割合が動いたかを確認する。
④相続時は,次順位の受益者へのみなし遺贈,受益者連続型信託の評価,相続税額の加算,債務控除及び小規模宅地等の特例を確認する。
⑤終了時は,残余財産を取得する者の従前の受益権,取得原因,不動産の登記,取得費の引継ぎ及び空き家特例を確認する。

第3 設定時の税金
1 委託者と受益者が同じ自益信託

相続税法9条の2第1項は,信託の効力が生じた場合に,適正な対価を負担せずに受益者等となる者があるときは,その者が委託者から信託に関する権利を贈与により取得したものとみなし,委託者の死亡に基因する場合は遺贈により取得したものとみなしている。
委託者と受益者が同一であり,受益権が他人へ移らない通常の自益信託では,この規定による贈与税又は相続税は設定時には通常生じない。

もっとも,自益信託であることは,設定から終了まで全ての税がかからないことを意味しない。
不動産の信託登記,紙の信託契約書,運用益,受益者の変更及び終了時の残余財産取得については,それぞれ別の課税関係がある。

2 委託者と受益者が異なる他益信託

委託者以外の者が適正な対価を負担せずに受益者となる他益信託では,信託の効力が生じた時に,受益者が信託に関する権利を委託者から贈与により取得したものとみなされる。
委託者の死亡により信託の効力が生じるときは,贈与ではなく遺贈による取得とみなされる。

課税時期は,受託者が信託財産を換価し,又は受益者へ金銭を交付した時に限られない。
信託の効力発生により経済的利益を受ける受益者等となった時点で課税関係を検討する必要がある。

3 不動産を信託する場合の流通税

登録免許税法7条1項により,委託者から受託者への信託のための財産権移転の登記は登録免許税を課されないが,信託の登記そのものは別に課税される。
財務省の令和8年の案内によれば,土地の所有権の信託登記は,令和11年3月31日まで税率が1000分の3に軽減されているが,建物その他の登記は別に確認する必要がある。

地方税法73条の7第3号は,委託者から受託者に信託財産を移す場合の不動産取得について,所定の例外を除き不動産取得税を課さないとしている。
したがって,不動産取得税が課されないことと,信託登記の登録免許税が生じることとは両立する。

4 紙の信託契約書の印紙税

国税庁の印紙税額一覧表では,信託行為に関する契約書は第12号文書とされ,1通につき200円である。
文書の名称ではなく内容及び作成形態によって課税文書への該当性が決まるため,電子契約や関連契約書を含め,実際に作成する文書ごとに確認する必要がある。

第4 運用中の税金及び受託者の手続
1 所得税は受益者に帰属する

受益者等課税信託では,賃料,配当,利子,譲渡益その他の収益及び対応する費用は,原則として受益者に帰属する。
受託者の口座に入金されたままで受益者へ現金が交付されていなくても,そのことだけで受益者への所得課税を免れるものではない。

受益者が確定申告を要するか,所得区分,必要経費及び源泉徴収をどう扱うかは,信託財産と取引の内容によって異なる。
信託を設定したこと自体が,受益者の一般的な所得税の申告期限又は計算方法を別制度に置き換えるものではない。

2 消費税及び固定資産税

消費税法14条により,受益者等課税信託の信託財産に係る取引は原則として受益者の取引と扱われるため,賃貸その他の取引の課税・非課税,受益者の課税事業者該当性及びインボイス対応を受益者側で確認する必要がある。
信託を利用したことだけで,課税売上げが非課税になるものではない。

固定資産税は,地方税法343条により,原則として登記簿等に所有者として登記されている者に課される。
信託不動産では受託者名義で登記されるため,通常は受託者が納税通知を受けるが,信託財産から支出するか,受益者への収支報告でどう扱うかを信託事務として整理する必要がある。

(続きを読む...)民事信託(家族信託)の税金はいつ発生するか-設定・運用・受益者変更・相続・終了の時系列(AI作成)

弁護士が代理人として被相続人の銀行口座の相続手続をする方法(AI作成)

目次第1 結論1 弁護士への委任と預金を処分できる根拠は別である2 標準的な手順第2 受任時に確定する事項1 依頼者の地位と利益相反2 委任状で特定する事項3 遺言,相続放棄及び債務の確認第3 被相続人の銀行口座を探す方法1 個別資料から取引銀行を特定する2 相続時預貯金口座照会を利用する3 死亡通知による取引制限に備える第4 相続関係と提出書類を整える方法1 戸籍と法定相続情報一覧図2 銀行ごとに変わる共通書類3 原本管理第5 残高と取引履歴を確認する方法1 死亡日残高と現在残高を分ける2 共同相続人1人による取引履歴の請求3 取得範囲を目的に合わせる第6 払戻しの法的根拠を選ぶ方法1 選択肢の一覧2 相続人全員による共同請求と遺産分割協議3 遺言執行者による手続4 遺産分割前の単独払戻し第7 銀行へ提出して払戻しを受ける方法1 提出前照会をする2 銀行別提出セットを作る3 払戻金と完了書類を管理する第8 例外的な事案で追加確認する事項1 未成年者,判断能力及び海外居住者2 相続放棄,行方不明者及び相続人不存在3 借入金,貸金庫及び金融商品第9 代理人弁護士の実務チェックリスト第10 出典1 法令2 裁判例3 公的機関及び金融機関の資料
第1 結論

本記事は,2026年9月6日現在の日本法及び公開資料に基づき,国内の個人名義の預貯金について,相続人,受遺者又は遺言執行者等から委任を受けた弁護士が行う口座探索,残高・取引履歴の取得,解約,払戻し及び完了管理を扱う。
証券口座の移管・換価及び相続税の申告計算は対象外とし,各銀行の書式,手数料,証明書の有効期間及び取扱いは,提出時に改めて確認する必要がある。

1 弁護士への委任と預金を処分できる根拠は別である

弁護士が相続人等の代理人として被相続人名義の銀行口座を調査し,相続手続書類を提出することは可能である。
もっとも,委任状は弁護士が本人に代わって行動できる範囲を示す書面であり,依頼者が預金全額を単独で取得できることを証明する書面ではない。

銀行口座の相続手続では,①弁護士が誰を代理し,何を委任されたかという代理権,②相続人全員の共同請求,遺産分割協議,遺言,遺言執行者の権限,調停調書又は審判書,民法909条の2による単独払戻し等の預金を処分できる根拠,③銀行所定の相続届,本人確認書類,印鑑登録証明書等の受付要件を分けて確認する必要がある。
弁護士が1人の共同相続人から委任を受けただけの場合,その弁護士が相続人全員を代理したことにはならず,原則として預金全額の解約及び払戻しを単独で行うことはできない。

2 標準的な手順

標準的な手順は,①依頼者の地位と委任範囲を確定する,②遺言,相続人,債務及び相続放棄の方針を確認する,③口座を探索する,④各銀行へ死亡の事実を連絡して専用書式と必要書類一覧を取り寄せる,⑤法定相続情報一覧図等を整える,⑥死亡日残高及び必要な取引履歴を取得する,⑦相続人全員の共同請求,遺産分割協議,遺言執行,裁判手続又は遺産分割前の払戻しの中から根拠を選ぶ,⑧銀行ごとに一式を提出する,⑨払戻金,返却原本及び手続完了書類を管理して依頼者へ報告する,という順序である。

各銀行の必要書類及び有効期限は同じではない。
例えば,三菱UFJ銀行は遺言書及び遺産分割協議書の有無等によって必要書類をAからDに分け,三井住友銀行は遺言書も遺産分割協議書もない場合に原則として相続人全員の署名・実印及び印鑑登録証明書を求め,みずほ銀行は代理人による手続について委任状,代理人の実印及び印鑑登録証明書を案内している。
したがって,共通書類だけを先に完成させるのではなく,対象銀行の相続担当部署から当該事案用の案内を取得してから署名,押印及び証明書の取得を進めるのが安全である。

第2 受任時に確定する事項
1 依頼者の地位と利益相反

最初に,依頼者が相続人,受遺者,遺言執行者,相続財産清算人その他のいずれであるかを確定する。
共同相続人の1人からの依頼であるか,相続人全員からの共同依頼であるかによって,取得できる資料及び行える払戻しの範囲が異なるためである。

相続人全員から依頼を受ける場合でも,預金の帰属,生前又は死後の出金,特別受益,寄与分,遺言の有効性又は分割割合に争いがないかを確認する。
対立が現実化したときは,同じ弁護士が複数の相続人を代理し続けられるかを改めて検討する必要がある。

2 委任状で特定する事項

銀行所定の委任状があるときはその書式を用い,委任事項を抽象的な「相続手続一切」にとどめない方がよい。
委任状又は別紙では,必要に応じて,①死亡の届出及び相続手続の開始,②口座の有無,取引店,預貯金の種類及び口座番号の照会,③死亡日その他の基準日の残高証明書及び取引履歴の申請・受領,④相続手続書類の作成・提出・補正,⑤預貯金契約の解約及び払戻請求,⑥払戻金の受領及び振込先口座,⑦原本還付及び完了書類の受領,⑧銀行からの連絡の受領を特定する。

ゆうちょ銀行の相続用委任状の記載例も,書類の提出,完了後の書類等の受領,払戻金の受領,不備返却書類の受領及び電話連絡を別々の委任事項としている。
これは,窓口へ書類を持参する権限と,預金を解約して払戻金を受け取る権限とが同じではないことを示す実務例である。

3 遺言,相続放棄及び債務の確認

預金の全額払戻しを進める前に,公正証書遺言,法務局保管の自筆証書遺言及び家庭内保管の遺言書の有無を確認する。
自筆証書遺言については,法務局保管制度を利用したもの等を除き,家庭裁判所の検認を要する場合がある。

借入金,保証債務,未払税金その他の債務が不明であり,相続放棄又は限定承認を検討する余地があるときは,預金の払戻し及び費消を先行させない。
資産調査と相続放棄の熟慮期間の管理は並行して行い,期限が迫るときは期間伸長の申立ても検討する。

第3 被相続人の銀行口座を探す方法
1 個別資料から取引銀行を特定する

まず,通帳,キャッシュカード,銀行からの郵便物,電子メール,確定申告書,給与・年金の振込記録,公共料金・クレジットカード・家賃等の引落資料及び他口座の振込履歴から,金融機関名と取引店を特定する。
口座番号が分からなくても,金融機関と本人特定情報を示して名寄せ及び残高証明の可否を問い合わせる余地がある。

死亡後に被相続人のキャッシュカード,暗証番号又はインターネットバンキングの認証情報を使用して出金することは避けるべきである。
権限及び取得額をめぐる紛争を生じさせるだけでなく,死亡時残高と死亡後取引の証拠関係を不明確にするため,正式な相続手続又は法定の払戻制度を用いるのが原則である。

2 相続時預貯金口座照会を利用する

令和7年度から開始された相続時預貯金口座照会では,相続人又は包括受遺者が,受付金融機関を通じて預金保険機構へ申込み,被相続人が生前にマイナンバーを付番し,制度の適用対象となる金融機関が管理する預貯金口座について,金融機関名,店舗名,預貯金の種類及び口座番号等の通知を受けることができる。
他の共同相続人の同意は不要であり,代理人が申し込む場合は,相続人本人と代理人の本人確認書類に加え,委任状その他の代理権確認資料を提出する。

預金保険機構の案内では,照会対象は被相続人の死亡後10年まで,手数料は1件5,060円,結果通知までは1か月程度とされている。
もっとも,照会できるのはマイナンバーが付番された口座に限られ,残高は通知されず,金融機関の回答状況等によっては存在する口座が表示されないこともあり,結果通知は口座の存否を証明するものではない。
したがって,この制度を通帳等による探索及び個別金融機関への照会に代わる完全な名寄せ制度として扱ってはならない。

3 死亡通知による取引制限に備える

全国銀行協会は,銀行が死亡の事実を知ると口座の取引を制限し,その後に相続関係書類を提出して払戻しを受ける流れを案内している。
三井住友銀行は,死亡の連絡を受けた口座について全ての入出金を停止すると明記し,公共料金等の引落口座及び家賃等の入金口座を早めに変更するよう案内している。

死亡通知を不当に遅らせるのではなく,いつ,どの銀行へ,誰が,どの連絡手段で届け出るかを決め,それまでに年金,給与,賃料その他の入金先と,公共料金,施設費,ローンその他の支払方法を変更する。
口座凍結の対象及び時期は銀行と取引内容によって異なるため,死亡通知の前後の対応を対象銀行へ確認する必要がある。

第4 相続関係と提出書類を整える方法

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最高裁令和8年6月17日決定と民事信託の終了制限-信託法164条の適用排除条項及び受託者解任(AI作成)

目次

第1 本決定の結論と記事の対象第2 信託の終了,受託者の解任及び清算の区別1 信託法164条の原則と別段の定め2 信託法58条4項による受託者解任3 信託終了後の清算第3 本件の事実関係と原審の判断1 30年間の信託と終了制限条項2 原審の判断第4 最高裁が示した二段階の合理的必要性1 第1段階-条項自体の効力2 第2段階-終了申入れ時の任務継続3 補足意見が挙げた検討要素第5 本決定が判断していない事項と射程1 本件条項の効力を最終判断していない2 信託終了又は受託者解任を命じていない3 直接の射程と未確定の事項第6 民事信託契約の作成及び運用に与える影響1 信託目的と終了制限との対応を明らかにする2 期間及び制限手段を検討する3 終了申入れ時に必要性を再評価する4 受託者の固有利益及び終了後の手続を分けて確認する出典・参考資料1 法令・条約・告示2 裁判例・行政処分・弁護士懲戒3 その他の文献
第1 本決定の結論と記事の対象

本記事は,最高裁令和8年6月17日第三小法廷決定(令和6年(許)第30号・受託者解任申立て却下決定に対する抗告棄却決定に対する許可抗告事件)を対象とし,信託法164条1項の適用排除条項と受託者解任との関係を整理するものである。
調査の基準日は令和8年9月6日であり,同日までに確認できた公開資料及び同日現在の信託法に基づき,AIを利用して作成した。
対象は本決定の事案,判示事項,射程及び民事信託契約の作成・運用上の留意点であり,個別の信託契約の有効性を判断するものではない。

本決定は,信託法164条1項の適用を排除する条項が,同条3項の「別段の定め」として常に有効になるとはしなかった。
条項自体が効力を有するには,信託目的の達成のために合理的に必要と認められることを要するとしたのである。
さらに,条項が有効であっても,終了申入れの時点で受託者が申入れを拒絶して任務を続けることについて,別に合理的必要性を要するとした。

もっとも,最高裁は,本件条項を無効とし,信託が終了したと判断し,又は受託者を解任したものではない。
原決定を破棄し,二つの合理的必要性について審理を尽くさせるため,事件を東京高等裁判所へ差し戻した。

第2 信託の終了,受託者の解任及び清算の区別
1 信託法164条の原則と別段の定め

信託法164条1項は,委託者及び受益者が,いつでも,その合意により信託を終了できると定めている。
委託者と受益者が同一人である自益信託では,双方の地位を兼ねる者の意思により終了の合意を成立させられることになる。

他方,同条3項は,信託行為に別段の定めがあるときは,その定めによるとしている。
本件の中心的な問題は,終了権を排除する文言があれば常に別段の定めとして効力を有するのか,それとも信託の本質から効力を制限されるのかという点であった。

2 信託法58条4項による受託者解任

信託法58条1項は,委託者及び受益者の合意による受託者の解任を認め,同条3項は信託行為による別段の定めを認めている。
これとは別に,同条4項は,受託者が任務違反により信託財産に著しい損害を与えた場合その他重要な事由があるときに,裁判所が委託者又は受益者の申立てによって受託者を解任できると定めている。

信託の終了は信託関係を清算段階へ移行させる制度であるのに対し,受託者の解任は特定の受託者の任務を終了させる制度である。
両者は別の制度であるが,本件では,終了申入れを拒絶して任務を続けたことが58条4項の重要な事由に当たるかという形で接続した。

3 信託終了後の清算

信託法176条は,信託が終了しても,清算が結了するまでは信託が存続するものとみなしている。
終了後の受託者は清算受託者となり,現務の結了,債権の取立て,債務の弁済及び残余財産の給付等を行う(同法177条以下)。
そのため,信託を終了できるかという問題と,終了後に誰がどのように清算するかという問題も区別する必要がある。

第3 本件の事実関係と原審の判断
1 30年間の信託と終了制限条項

最高裁決定全文によれば,抗告人は,平成29年5月23日,保有する外国会社の株式を兄である相手方へ信託し,自らを委託者兼受益者,相手方を受託者とする信託契約を締結した。
信託目的は,会社価値の毀損を防止し,会社全体の利益の最大化を図ることとされ,信託期間は30年間とされた。

契約には,委託者兼受益者が信託期間中に契約を解除できない旨の条項があった。
抗告人は令和2年8月及び9月,信託法164条1項に基づいて信託を終了する旨を通知したが,相手方は同条3項の別段の定めがあるとして終了を認めず,その後も受託者の任務を続けた。

2 原審の判断

抗告人は,信託法58条4項に基づく受託者の解任を申し立てた。
原審の東京高等裁判所令和6年9月10日決定(令和5年(ラ)第639号)は,終了制限条項が164条3項の別段の定めに当たり,終了通知によって信託は終了しないと判断した。
その上で,相手方が終了を認めず任務を続けても,58条4項の重要な事由はないとして,申立てを却下すべきものとした。

第4 最高裁が示した二段階の合理的必要性
1 第1段階-条項自体の効力

最高裁は,信託法164条3項が,信託の種類,目的等に応じて終了事由を柔軟に定められるようにする趣旨であるとした。
もっとも,信託の本質に反する定めまで許されるものではないとした。

信託では,財産権の名義を受託者へ移す一方,受託者は受益者のために管理・処分を行い,受託者自身が利益を享受する立場にはない。
最高裁は,専ら受託者の利益を図る目的の信託を定義から除く信託法2条1項と,受託者の利益享受を禁ずる同法8条を,この本質を示す規定として挙げた。

終了制限条項は,委託者兼受益者が通常は自由に信託を終了できる地位を制限し,その意思に反して受託者が任務を続けることを可能にするため,類型的かつ抽象的に利益相反のおそれがある。
そこで最高裁は,利益相反行為を扱う信託法31条1項及び2項を参照し,同条2項4号と同様に,信託目的の達成のために合理的に必要であることを終了制限条項にも要求した。

2 第2段階-終了申入れ時の任務継続

条項が契約締結時に有効であったとしても,その後の事情が変われば,受託者が終了申入れを拒絶して任務を続ける必要性は失われ得る。
最高裁は,終了申入れがされた時点で任務を続けることが信託目的の達成のために合理的に必要である場合に限り,受託者が申入れを拒絶して任務を続けることが許されるとした。

したがって,条項自体の効力と,終了申入れ後にその条項を根拠として任務を続けることの許容性とは,別々に審査される。
この二段階の判断枠組みは,契約締結時と終了申入れ時の事情を分けて確認することを求めるものである。

3 補足意見が挙げた検討要素

補足意見は,本件の「会社価値の毀損防止・利益最大化」という信託目的は抽象的であり,合理的必要性を判断する直接の指針になりにくいと指摘した。
その上で,信託契約締結の経緯,契約内容及び当事者が意図した実質的効果を踏まえ,信託目的の内容を理解する必要があると述べた。

(続きを読む...)最高裁令和8年6月17日決定と民事信託の終了制限-信託法164条の適用排除条項及び受託者解任(AI作成)

株式・証券口座の相続手続を弁護士が代理する方法-口座調査,必要書類,移管及び売却(AI作成)

目次

第1 弁護士代理による証券口座の相続手続の全体像1 本記事の対象2 手続は三種類の書類を分けて考える3 弁護士に委任しても相続人本人の対応が残る場合第2 証券口座と保有資産の調査1 口座の手掛かりがある場合2 証券保管振替機構による口座開設先の調査3 特別口座及び残高証明書第3 誰が取得するかを確定する書類1 共同相続された株式等は当然には人数割りされない2 遺言がない場合又は遺産分割協議による場合3 遺言又は家庭裁判所の手続による場合4 法定相続情報一覧図と原本返却第4 代理権と証券会社所定書類1 委任状に記載する権限2 相続手続依頼書と受入口座3 複数の相続人への配分と端数第5 移管後の売却と完了確認1 売却の時点と指示の記録2 相続税評価額,取得費及び売却代金は別の金額である3 手続完了を示す資料第6 先に別問題を確認すべき場合1 相続放棄又は限定承認を検討している場合2 NISA,外国証券及び非上場株式第7 弁護士へ依頼する際の確認事項1 初回に整理する情報2 手続を止めて法的判断を先に行う場面出典・参考資料1 法令・裁判例2 制度運営機関及び職能団体の運用資料3 証券会社の相続手続案内4 国税庁の解説
第1 弁護士代理による証券口座の相続手続の全体像
1 本記事の対象

本記事は,法定相続人又は遺産分割によって証券を取得する相続人から委任を受けた弁護士が,証券会社に対する口座調査,残高証明書の取得,相続手続書類の提出,証券の移管及び売却に関与する場合を対象とする。
調査の基準日は令和8年9月6日であり,証券会社の必要書類及び受付方法は変更されるため,実際の手続では各社がその時点で交付する案内を確認する必要がある。

弁護士が遺言執行者として有価証券を換価して受遺者等へ分配する場合は,権限の根拠及び利益相反の検討が異なる。
その場合は,遺言執行者が相続株式・有価証券を売却して分配する際の実務上の問題点を参照されたい。

2 手続は三種類の書類を分けて考える

証券口座の相続手続で提出する資料は,①誰が証券を取得するかを示す相続資格・取得根拠の資料,②弁護士が誰を代理し,何を行うかを示す委任状及び本人確認資料,③証券会社が事務処理のために定める相続手続依頼書,移管先口座の届出その他の所定書類に分けて考えると整理しやすい。
戸籍がそろっていても取得者が確定していなければ移管できず,遺産分割協議書があっても代理権の範囲又は所定書類が不足すれば手続は止まる。

一般的な順序は,①口座の所在を調べる,②死亡日現在の残高を確定する,③証券の取得者を確定する,④取得者名義の受入口座を準備する,⑤委任状及び証券会社所定書類を提出する,⑥証券及び預り金の移管を確認する,⑦売却する場合は具体的な売却指示と完了資料を残す,というものである。

3 弁護士に委任しても相続人本人の対応が残る場合

弁護士は,委任状の範囲内で,証券会社への照会,必要書類の取り寄せ,残高証明書の請求,書類の作成補助・提出及び進行管理を行うことができる。
もっとも,証券会社はマネー・ローンダリング対策,税務上の届出及び適合性確認等のため,受入口座の開設時に取得者本人による本人確認,申告又は操作を求めることがある。
したがって,「弁護士へ依頼すれば相続人は一度も証券会社へ対応しなくてよい」とは限らない。

第2 証券口座と保有資産の調査
1 口座の手掛かりがある場合

証券会社名の手掛かりとしては,取引残高報告書,年間取引報告書,配当金計算書,株主総会関係書類,証券会社からの郵便物,登録メールアドレスの受信記録及び預貯金口座の入出金履歴がある。
証券会社が判明しているときは,死亡の連絡だけで終えず,①口座の有無,②死亡日現在の残高証明書の発行方法,③相続関係書類の一覧,④代理人による請求の可否と必要な委任状,⑤原本の返却方法を一度に確認するのが効率的である。

共同相続人の一人だけで顧客勘定元帳その他の取引履歴を請求できるかについては,証券口座の相続-共同相続人の一人だけで取引履歴を取得できるか(AI作成)を参照されたい。

代理人による口座情報の照会については,証券会社ごとに書類が異なる。
例えば,野村證券の相続手続案内は,弁護士等の代理人が口座の有無を確認する場合について,相続人の実印を押した委任状原本及び印鑑登録証明書原本等を案内している。

2 証券保管振替機構による口座開設先の調査

証券会社が分からないときは,証券保管振替機構の登録済加入者情報の開示請求を利用できる場合がある。
同機構の令和8年8月版案内によれば,法定相続人の任意代理人も請求でき,開示時点で振替株式等の口座が開設されている証券会社・信託銀行等の一覧を確認できる。

この開示で分かるのは口座管理機関の名称であり,銘柄,取引履歴及び保有残高ではない。
開示結果を得た後,各証券会社等へ個別に残高を照会する必要がある。

また,外国株式,国債,社債及び同機構の取扱対象でない非上場株式等は,この開示の対象外である。
そのため,開示結果に該当がないことだけで,被相続人に有価証券がなかったと結論付けることはできない。

3 特別口座及び残高証明書

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養育費債権の先取特権とは―対象範囲,子1人当たり月額8万円の上限及び差押え(AI作成)

第1 子の監護費用の先取特権とは第2 先取特権の対象となる債権1 確定期限の定めがある定期金債権であること2 養育費だけでなく婚姻費用等も対象になり得る第3 上限は子1人当たり月額8万円である第4 優先順位と効力第5 債務名義がなくても差押えを申し立てられる1 私的な合意書がある場合2 法定養育費の場合第6 差押財産が分からない場合第7 令和8年4月1日前の取決めと未払分第8 申立て前の確認事項第9 出典

養育費債権の先取特権は,養育費等のうち子1人当たり月額8万円までの部分に認められる一般先取特権である。
私的な合意書しかない場合でも,先取特権の存在を証する文書を提出できれば,債務名義を取得せずに担保権実行として差押えを申し立てられる。

第1 子の監護費用の先取特権とは

子の監護費用の先取特権は,養育費等の一定部分について,原則として一般債権者に優先して弁済を受けることができる権利である(民法306条3号・308条の2)。
令和8年4月1日以後に生じた各期の定期金に適用される。

この制度により,父母間の私的な合意書しかない場合でも,その書面によって先取特権の存在を証明できれば,担保権実行として給与や預貯金等の差押えを申し立てることができる。
ただし,先取特権が養育費の額を決めるわけではなく,養育費債権が成立していること,確定した支払期限があること及び未払となったことが前提である。

第2 先取特権の対象となる債権
1 確定期限の定めがある定期金債権であること

先取特権が及ぶのは,民法308条の2が掲げる義務に係る確定期限の定めのある定期金債権のうち,子の監護に要する費用として相当な額である。
支払額だけでなく,「毎月末日限り」など各回の支払期限を明確に決めておくことが重要である。

一括払いの解決金,臨時の学費又は医療費などが当然に同条の定期金債権に含まれるとは限らない。
合意内容が定期金債権に当たるかは,書面の文言と支払設計を確認して判断する必要がある。

2 養育費だけでなく婚姻費用等も対象になり得る

対象となる義務は,夫婦間の協力及び扶助,婚姻費用の分担,離婚後の子の監護費用並びに親族間の扶養である。
したがって,離婚後の養育費のほか,婚姻費用分担金又は扶養料のうち子の監護に要する費用に対応する部分も対象になり得る。

婚姻費用の先取特権と回収方法は,婚姻費用が支払われない場合-履行勧告・給与差押え・令和8年の先取特権(AI作成)で説明している。

第3 上限は子1人当たり月額8万円である

省令1条は,先取特権が及ぶ額を,月額8万円に定期金によって扶養を受けるべき子の数を乗じた額としている。
子が2人であれば月額16万円,3人であれば月額24万円が上限となる。

この8万円は,家庭裁判所が認定すべき養育費の標準額でも,義務者が常に支払うべき額でもない。
合意又は審判による養育費が子1人当たり月額5万円であれば,先取特権の対象もその債権額を超えない。
反対に,子1人について月額10万円の養育費債権があっても,先取特権が及ぶのは月額8万円までであり,残る月額2万円については先取特権による優先権がない。

上限を超える部分も養育費債権として消滅するわけではない。
超過部分を含めて強制執行するためには,調停誸書,審判書又は執行認諾文言付き公正証書などの債務名義を確認する実益がある。

第4 優先順位と効力

一般先取特権が競合する場合の順位は,民法306条各号の順序による(民法329条1項)。
子の監護費用は,共益の費用及び雇用関係に次ぐ順位であり,葬式の費用及び日用品の供給より先順位となる。

先取特権があるからといって,常に全額を回収できるわけではない。
差し押さえた財産の価額,他の担保権又は先取特権の有無,租税その他の優先関係及び手続費用によって,実際の配当額は変わる。

一般先取特権は,債務者の総財産に及ぶが,不動産については登記をした第三者との関係に制限がある(民法336条)。
実務では,給与又は預貯金に対する債権差押えが中心になるため,対象財産と他の差押えの有無を確認する必要がある。

第5 債務名義がなくても差押えを申し立てられる
1 私的な合意書がある場合

債権を目的とする担保権の実行は,担保権の存在を証する文書が提出されたときに開始する(民事執行法193条1項)。
裁判所の家事事件Q&Aも,父母間の私的な合意書だけがある場合でも,月額8万円に子の数を乗じた額を上限として担保権実行を申し立てられると案内している。

申立てでは,合意書だけでなく,父母と子の関係,支払期限,未払の発生及び子の人数等を示す資料が必要となる。
口頭合意しかなく,先取特権の存在を証する文書を提出できない場合は,直ちに同じ方法で差押えができるとは限らないため,調停その他の方法による債務名義の取得を検討すべきである。

養育費の合意書,公正証書及び調停調書の違いは,養育費の取り決め方―共同養育計画書・合意書・公正証書・調停調書の違い(AI作成)で説明している。

2 法定養育費の場合

法定養育費にも先取特権が及ぶため,養育費を取り決めずに離婚した場合でも,令和8年4月1日以後の離婚等で要件を満たせば担保権実行を申し立てることができる。
執行裁判所は,法定養育費について必要があると認めるときは,差押命令を発する前に債務者を審尋できる(民事執行法193条3項)。

法定養育費の発生要件,月額及び支払期間は,法定養育費とは―請求要件,子1人当たり月額2万円及び支払期間(AI作成)を参照されたい。

第6 差押財産が分からない場合

子の監護費用の一般先取特権を有することを証する文書を提出できる債権者は,民事執行法の要件を満たす場合,財産開示手続又は給与債権に関する第三者からの情報取得手続を利用できる。
令和8年4月1日からは,これらの手続によって給与債権を特定した場合に差押命令の申立てへ接続するワンストップ執行手続も設けられている。

(続きを読む...)養育費債権の先取特権とは―対象範囲,子1人当たり月額8万円の上限及び差押え(AI作成)

法定養育費とは―請求要件,子1人当たり月額2万円及び支払期間(AI作成)

第1 法定養育費は取決めまでの暫定的な養育費である第2 請求できるための要件1 養育費の取決めがないこと2 離婚時から引き続き子を主として監護していること3 離婚等が令和8年4月1日以後であること第3 金額は子1人当たり月額2万円である1 子の数を乗じて計算する2 離婚月及び終了月は日割りとなる第4 いつからいつまで請求できるか1 離婚の日から請求できる2 三つのうち最も早い日に終了する第5 支払能力がない場合と家庭裁判所による調整1 義務者が支払を拒める場合2 後の養育費手続で免除又は猶予があり得る第6 請求と回収の進め方1 本来の養育費の取決めを並行して進める2 未払の場合は先取特権による担保権実行を検討する第7 確認すべき資料第8 出典

法定養育費は,令和8年4月1日以後に養育費を取り決めずに離婚した場合に,離婚時から子を主として監護する親が他方の親へ請求できる暫定的・補充的な養育費である。
金額は原則として子1人当たり月額2万円であり,本来の養育費の標準額又は最低額を意味しない。

第1 法定養育費は取決めまでの暫定的な養育費である

法定養育費は,養育費の取決めがない期間の空白を埋めるため,民法766条の3によって発生する請求権である。
養育費の合意又は家庭裁判所の審判が整うまでの当面の生活費を確保する役割を持つ。

法定養育費は,父母の収入や子の事情を踏まえて定める本来の養育費の標準額でも最低額でもない。
父母は,法定養育費の請求とは別に,協議,調停又は審判によって適正な養育費を定める必要がある。

第2 請求できるための要件
1 養育費の取決めがないこと

法定養育費は,父母が子の監護に要する費用の分担について定めないまま離婚した場合に問題となる。
離婚時に養育費の合意がある場合は,その合意に基づく養育費を請求することになり,法定養育費は発生しない。

取決めを文書にしていないだけで,口頭の合意が存在する場合に直ちに「取決めがない」とはいえない。
法定養育費を請求する前に,離婚時の協議内容,離婚届に伴って作成した書面,メールその他の記録を確認する必要がある。

2 離婚時から引き続き子を主として監護していること

請求できるのは,父母の一方であって,離婚時から引き続き未成年の子の監護を主として行っている者である。
単に親権者として指定されたかだけでなく,現実に誰が子を主として監護しているかが問題となる。

監護状況に争いがある場合は,同居状況,通学・通園,日常の世話,生活費の負担その他の具体的事情を整理する必要がある。
離婚後に監護者が変わった場合など,継続して主たる監護をしているといえるかが明確でない事案では,個別の検討を要する。

3 離婚等が令和8年4月1日以後であること

法定養育費は,令和8年4月1日より前の離婚には適用されない。
婚姻の取消し,裁判上の離婚及び認知にも民法766条の3が準用されるが,改正法附則3条2項により,いずれも施行日前に行われた場合には法定養育費は発生しない。

第3 金額は子1人当たり月額2万円である
1 子の数を乗じて計算する

法定養育費の額は,月額2万円に,離婚時から引き続き主として監護する未成年の子の数を乗じて計算する。
対象となる子が2人であれば月額4万円,3人であれば月額6万円である。

この金額は父母の収入に応じて作られた養育費算定表の金額ではない。
算定表による標準額と法定養育費の違いは,養育費算定表の見方,計算方法及び法定養育費との違い(AI作成)で説明している。

2 離婚月及び終了月は日割りとなる

法定養育費は毎月末に支払うものとされる。
離婚等の日が月の初日でない場合は,その月の初日から離婚等の日の前日までの日数に応じた額を控除する。
養育費の取決めが成立するなどして月の途中で請求期間が終わる場合も,終了日の翌日から月末までの日数に応じた額を控除する。

1日当たりの額は,月額をその月の日数で除して算定する。
実際の請求では,離婚日,終了事由が生じた日及び各月の日数を特定して計算する必要がある。

第4 いつからいつまで請求できるか
1 離婚の日から請求できる

法定養育費は,離婚の日から請求できる。
通常の養育費の過去分について実務上問題となる請求の始期とは制度が異なるため,区別が必要である。

通常の養育費の始期と法定養育費との関係は,養育費はいつから請求できるか―離婚後の過去分・法定養育費・調停申立ての始期(AI作成)で説明している。

2 三つのうち最も早い日に終了する

法定養育費を請求できる期間は,次の三つのうち最も早い日に終了する。
① 父母が協議によって養育費の分担を定めた日
② 養育費の分担について家庭裁判所の審判が確定した日
③ 子が成年に達した日

法定養育費は,適正な養育費が決まるまでの空白を埋める制度である。
月額2万円を長期間の最終的な養育費として固定する趣旨ではない。

第5 支払能力がない場合と家庭裁判所による調整
1 義務者が支払を拒める場合

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公正証書遺言の検索を弁護士が代理する方法-必要書類・委任状・謄本請求(AI作成)

目次第1 代理人弁護士による遺言検索の基本第2 依頼者の資格と必要書類1 誰を委任者とするか2 依頼者の資料と来所代理人の資料を分ける第3 委任状の書き方と職員が来所する場合1 検索と謄本の請求・受領を区別する2 職員が来所するときは権限のつながりを確認する第4 公証役場への申出と検索後の謄本取得1 最寄りの公証役場に連絡する2 判明した保管公証役場へ謄本等を請求する3 現行法の謄本等と正本等を区別する第5 費用と検索結果を受け取った後の注意1 無料の検索と有料の交付・閲覧を分ける2 該当なしと遺言の不存在・無効は同じではない3 相続手続の期限は検索と別に管理する第6 出典1 法令2 日本公証人連合会の制度Q&A3 各公証役場の手続案内・委任事項記載例4 裁判所の手続案内
第1 代理人弁護士による遺言検索の基本

相続人等から委任を受けた弁護士は,公証役場に公正証書遺言の検索を申し出ることができる。
準備する資料は,①遺言者の死亡と依頼者の資格を示す資料,②依頼者からの委任を示す資料,③来所する代理人の本人確認資料に分けると整理しやすい(世田谷公証役場「手続案内」)。

本記事は,令和8年9月4日現在の法令・公表資料に基づき,主として遺言者の死亡後に相続人を代理する場合の手順を説明するものである。
遺言の作成ではなく,既に作成された遺言の検索と,検索後の謄本等の取得を扱う。

日本公証人連合会の遺言検索Q&Aによれば,全国の公証役場で遺言公正証書の有無と保管公証役場を検索でき,最寄りの公証役場に申し出ることができる。
全国検索の対象は昭和64年1月1日以後に作成されたものであり,検索だけで遺言の内容まで分かるわけではない(銀座公証役場「FAQ」遺言検索)。

保存期間や検索制度全体については,公正証書遺言の保存期間及び検索方法を参照されたい。
以下では,代理利用で取り違えやすい委任者・来所者・請求先の違いに重点を置く。

第2 依頼者の資格と必要書類
1 誰を委任者とするか

遺言者の死亡後に検索を申し出ることができるのは,相続人等の利害関係人である。
弁護士が代理する場合も,まず依頼者がどの資格で申し出るのかを確認し,その資格を示す資料と委任状を準備する(日本公証人連合会のQ&A,世田谷公証役場の代理手続案内)。

相続人以外の者から依頼を受ける場合は,その者の利害関係を何によって示すかを,書類の取寄せに着手する前に申出先へ確認するのが適切である。
相続人向けの戸籍の案内を,受遺者等についてもそのまま当てはめることはできない。

遺言者の生存中は,遺言者本人が委任者となる場合に代理検索が認められる。
家族が将来の相続人になるという理由だけで,その家族から依頼を受けて検索する場合とは異なる(銀座公証役場「FAQ」,世田谷公証役場「検索等の委任状と必要書類等」)。

2 依頼者の資料と来所代理人の資料を分ける

次の表は,遺言者の死亡後に相続人を代理して来所する場合について,世田谷公証役場の案内に沿ってまとめた基本例である。
加古川公証役場の必要書類案内も,死亡・相続関係の資料に加え,委任状,依頼者の印鑑登録証明書,来所代理人の身分証明書類及び認印を挙げている。

確認すること準備する資料の基本例注意点遺言者の死亡死亡の記載がある除籍謄本等原本を準備し,別の死亡証明資料を使う場合は扱いを確認する依頼者の相続人資格相続関係が分かる戸籍謄本等必要な戸籍の範囲は相続関係によって異なる依頼者からの委任依頼者が実印を押した委任状遺言者と代理人を特定し,委任する手続を記載する委任者の印鑑依頼者の印鑑登録証明書原本世田谷の案内では来所日に発行後3か月以内来所する代理人の本人確認運転免許証・マイナンバーカード等依頼者ではなく,実際に来所する代理人の資料である来所代理人の押印認印世田谷の案内ではシャチハタでないもの

依頼者の印鑑登録証明書と,代理人の本人確認資料は,それぞれ確認する対象が異なる。
弁護士として来所する場合も,資格証明書による代替の可否を含め,利用する本人確認資料と委任状の取扱いを申出先へ確認しておく。

銀座公証役場のFAQは,相続人であることを示す資料として,戸籍謄本のほか法定相続情報一覧図も挙げている。
一覧図を利用する場合は,どの資料に代えることができるかを確認し,委任状や代理人の本人確認資料まで不要になったと扱わない。

戸籍の読み方と一覧図の作成方法は,法定相続情報一覧図の作成方法―戸籍謄本の読み方と相続人の確認で説明している。
検索のために必要な相続関係を,手元のどの資料で示せるかを確認してから,不足分を取得するとよい。

第3 委任状の書き方と職員が来所する場合
1 検索と謄本の請求・受領を区別する

世田谷公証役場の委任状案内は,検索する遺言者の氏名・ふりがな・生年月日を記載し,代理人の氏名・住所を本人確認書類どおりに記載するよう求めている。
遺言者の表示は戸籍等と照合し,依頼者自身の情報と取り違えないようにする。

銀座公証役場の委任事項記載例では,遺言検索と正本・謄本の交付請求について,別の例が示されている。
検索後の謄本取得まで依頼を受けるのであれば,検索だけでなく,謄本等の交付請求と受領を委任することも明示するのが確実である。

委任状を準備する際は,次の事項を申出先の様式と照合する。
①検索対象となる遺言者の氏名・ふりがな・生年月日
②委任者の氏名・住所と,遺言者との関係
③代理人の氏名・住所
④遺言検索,謄本等の交付請求及び受領のうち,委任する事項
⑤職員を復代理人として利用する場合の選任権限

検索前には証書番号や保管公証役場が分からない場合もある。
検索後の請求にも同じ委任状を使用できるか,判明した証書を特定する追加書類が必要かは,謄本を交付する公証役場へ確認する。

2 職員が来所するときは権限のつながりを確認する

銀座公証役場の遺言検索の委任事項例には,復代理人の選任に関する事項も含まれている。
弁護士が依頼者から委任を受け,事務所職員が復代理人として来所する場合には,依頼者から弁護士への委任と,弁護士から職員への権限付与をどの書類で示すかを確認する(同役場の委任事項記載例)。

職員が行うのが申出・受領なのか,単なる書類の持参なのかを明らかにし,職員の本人確認資料も含めて事前に役場と打ち合わせる。
弁護士を代理人とする委任状だけを職員に持たせれば足りると判断せず,実際に来所する人と,その人が行う手続に合わせて準備することが重要である。

第4 公証役場への申出と検索後の謄本取得
1 最寄りの公証役場に連絡する

まず,最寄りの公証役場へ,相続人の代理人弁護士として遺言検索を希望する旨を伝える。
その際,依頼者の資格,弁護士本人又は職員のどちらが来所するか,持参予定の資料を示し,予約の要否を確認する。

予約については,加古川公証役場は事前予約を求める一方,銀座公証役場のFAQは遺言検索の予約を不要としている。
全国一律の予約方法があるものとして準備せず,申出先の案内に従う。

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借地権付き建物の遺言と底地取得-混同後の効力と見直し(AI作成)

第1 底地取得後の遺言は見直すべきか第2 混同による借地権の消滅と例外1 地上権と賃借権では根拠条文が異なる2 抵当権との関係で消滅しない場合3 共同借地権と共有持分の取得第3 誰がいつ底地を取得したか第4 以前の遺言は取得後の土地にも及ぶか1 建物・借地権の記載と土地所有権の関係2 残余財産条項によって承継先が分かれる問題3 遺贈の規定から土地や金銭への置換えを当然視しない第5 遺言条項の整え方1 取得済みの土地と建物を明記する2 将来の底地取得に備える条項3 旧遺言と残余財産条項を整える4 見直し時に確認する資料と配分第6 出典1 法令2 裁判例3 実務資料・文献
第1 底地取得後の遺言は見直すべきか

借地権付き建物を特定の相続人に残す遺言をした後,遺言者が底地を買い取った場合には,土地所有権もその相続人に承継させる趣旨が明確か,遺言を見直すことを勧める。
借地権が混同によって消滅することと,買い取った土地が以前の遺言の対象に含まれることは,別の問題である。
底地取得だけから,土地も当然に同じ相続人へ移るとも,建物に関する条項を含めて遺言全体が効力を失うともいえない。

本記事では,令和8年9月4日現在の法令を前提に,遺言者Tが「建物とその敷地の借地権を長男Aに相続させる」と定めた後の底地取得を扱う。
以下の条項案は,Aが相続開始時に相続人であることを前提とする。

借地権とは,建物所有を目的とする地上権又は土地の賃借権である(借地借家法2条1号)。
底地は,その借地権が設定された土地を地主の所有権の側から呼ぶものである。

第2 混同による借地権の消滅と例外
1 地上権と賃借権では根拠条文が異なる

借地権が地上権である場合,同じ土地の所有権と地上権が同一人に帰属すると,地上権は原則として消滅する(民法179条1項)。
土地所有者が,自分の土地を利用するための地上権を別に持ち続ける必要は通常ないためである。

借地権が賃借権である場合には,債権と債務が同一人に帰属する混同の規定が問題となる(民法520条)。
底地の取得に伴って賃貸人と賃借人の地位が同一人に帰属するかを確認するのであり,賃貸人の地位の移転・留保を定める民法605条の2や契約内容も点検する。
土地の所有権移転だけを見て,賃借権が必ず消滅したと判断することはできない。

2 抵当権との関係で消滅しない場合

最高裁昭和46年10月14日第一小法廷判決(昭和46年(オ)第582号,民集25巻7号933頁)は,土地賃借権が対抗要件を備え,その後に土地へ抵当権が設定されていた場合には,土地所有権と賃借権が同一人に帰属しても,民法179条1項ただし書の準用により賃借権は消滅しないとした。
抵当権があるという事実だけでなく,賃借権の対抗要件と抵当権設定の先後が重要である。

したがって,底地を購入するときは,土地の登記記録だけでなく,借地権の対抗要件をいつ備えたかも確認する。
借地権については,借地権者が土地上に登記された建物を所有することによる対抗力も認められている(借地借家法10条1項)。

3 共同借地権と共有持分の取得

借地借家法15条2項は,借地権が借地権設定者に帰した場合でも,他の者と共にその借地権を有するときは消滅しないと定める。
これは,土地の所有権と借地権の全部が一人に帰属する場合とは異なる。

また,底地の共有持分だけを購入した場合を,底地全部の取得と同じに扱うこともできない。
土地所有権の持分,借地権の持分及び建物の持分をそれぞれ分けて確認することが出発点となる。

第3 誰がいつ底地を取得したか

遺言は原則として遺言者の死亡時から効力を生ずるため,底地取得がその前か後かで検討対象が変わる(民法985条)。
次の表は,停止条件等の特別な定めがなく,混同による消滅の例外にも当たらない通常の場面を,上記の条文と相続による承継の時期に沿って整理したものである。

底地を取得する者と時期
確認する問題

Tが生前に取得する
Tの借地権が消滅した後,死亡時に残る土地所有権と建物を,旧遺言がどの範囲で対象にしているか。

AがTの死亡後に取得する

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相続した不動産を売却したときの譲渡所得-取得費・特例・遺産分割(AI作成)

目次

第1 相続後の売却で確認すること第2 譲渡所得と税率の基本1 売却代金から控除するもの2 被相続人の取得費と取得時期を引き継ぐ3 令和8年分の基本税率第3 取得費と譲渡費用を確認する1 取得費が分からない場合の5%の取扱い2 建物の減価と相続登記費用3 売却費用と遺産分割の弁護士費用第4 相続税の取得費加算1 対象者と売却期限2 加算額の計算と上限3 申告における適用手続第5 相続した空き家の特別控除1 対象となる家屋と相続人2 売却期限と耐震改修・取壊し3 1億円の判定と他の特例との関係第6 特例を比較する計算例第7 遺産分割の方法による違い1 換価分割では誰の所得となるか2 代償分割の代償金は取得費となるか3 限定承認は通常の相続と区別する第8 売却時期と申告書類1 契約日と引渡日を分けて確認する2 特例の資料を売却前からそろえる第9 出典・参考資料1 法令2 裁判例・裁決3 国税庁の通達・解説・質疑応答4 文献
第1 相続後の売却で確認すること

相続した土地や建物を売却するときは,相続税とは別に,売却による譲渡所得の計算が問題となる。
通常の相続では,被相続人の取得費と取得時期を引き継ぐため,相続時の評価額より安く売れても譲渡益が生じることがあり,相続直後の売却でも長期譲渡所得となることがある(所得税法9条1項17号・33条・60条)。

本記事は,令和8年9月4日現在の法令を基準として,個人が相続した国内の土地・建物を令和8年中に売却する場合を説明する。
通常の相続を中心に,取得費の確認,相続税の取得費加算,空き家の特別控除及び遺産分割との関係を扱い,限定承認については通常の相続と異なる点を示す。
不動産業者の商品としての不動産や法人の取引は対象としない。

第2 譲渡所得と税率の基本
1 売却代金から控除するもの

土地・建物の譲渡所得は,給与所得などと分けて課税される。
基本となる計算は,売却収入から取得費と譲渡費用を差し引き,適用できる特別控除があれば更に控除するというものである(租税特別措置法31条・32条)。

課税譲渡所得金額=譲渡収入金額-取得費-譲渡費用-適用できる特別控除額

土地・建物の分離課税では,総合課税の譲渡所得における50万円の特別控除や,長期譲渡所得の2分の1を所得に算入する計算をそのまま用いることはできない。
また,譲渡損失が生じても,居住用財産の一定の特例等を除き,給与所得など他の所得との損益通算はできない(同法31条・32条)。

2 被相続人の取得費と取得時期を引き継ぐ

通常の相続では,被相続人が土地・建物を購入した際の取得費を引き継ぐ。
相続税の評価額や相続時の時価に置き換える制度ではなく,建物については被相続人の所有期間を含めた減価償却の調整も行う(所得税法38条・60条,国税庁「相続や贈与によって取得した土地・建物の取得費と取得の時期」)。

長期・短期の区分でも,被相続人の取得時期を引き継ぎ,売却した年の1月1日における所有期間で判断する。
したがって,相続してから5年待つことが一律に必要となるわけではない。
反対に,被相続人が令和8年2月に購入した土地を相続人が売却する場合,令和13年1月1日における所有期間は5年以下であるから,令和13年中の売却は短期譲渡所得となり,令和14年以後の売却で長期譲渡所得となる(租税特別措置法31条2項・32条1項)。

借地権を有していた被相続人が底地を買い取っていた土地では,その土地の取得の日を,底地に相当する部分とその他の部分とで各別に判定する(所得税基本通達33-10)。
そのため,古くからの借地権に相当する部分は長期譲渡所得でも,相続開始の数年前に買い取った底地に相当する部分は短期譲渡所得となることがあり,収入金額と取得費も両部分に区分して計算する(所得税基本通達33-11の3・38-4の3)。

3 令和8年分の基本税率

売却年の1月1日における所有期間
区分
所得税
復興特別所得税
住民税
合計

5年を超える
長期譲渡所得
15%
所得税額の2.1%

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親族間で土地を使わせる場合の課税-使用貸借と相当の地代(AI作成)

第1 親の土地を無償で借りても,借地権の贈与税は原則としてかからない第2 固定資産税相当額を負担する場合も使用貸借に含まれる第3 通常の地代と相当の地代の違い1 相場の地代を払うだけでは権利金の問題が残る2 相当の地代はおおむね年6%を基準とする3 相当の地代に満たない場合と地代を引き下げる場合第4 相続時の土地評価と小規模宅地等の特例1 子の家や貸家があっても,使用貸借地は原則として自用地評価となる2 相当の地代を収受する土地の80%評価3 使用貸借でも居住用の特例を検討できる場合がある第5 同族会社など法人が関係する土地貸借1 個人間の取扱いをそのまま当てはめない2 土地の無償返還に関する届出書の役割3 土地と同族会社株式の評価,裁判例の示す範囲第6 親族間の契約を決める前に確認する事項1 親の所有地か借地か,従前の借地権があるか2 返還条件と毎年の税負担を契約に合わせて確認する第7 出典1 法令2 国税庁の法令解釈通達3 国税庁の制度説明・手続案内4 裁判例

第1 親の土地を無償で借りても,借地権の贈与税は原則としてかからない

親の所有する土地に子が自分の家を建て,権利金も地代も支払わずに使用する場合,国税庁は,土地を使用する権利の価額を零として取り扱っている。
そのため,子に借地権相当額の贈与税は課されない一方,後に親の土地を相続するときは,原則として自用地の価額で評価する(国税庁「親の土地に子供が家を建てたとき」)。

本記事は,令和8年9月4日を基準に,親子その他の個人間で,建物の所有を目的として土地を使わせる場合を中心に説明する。
次の表は,権利金その他の特別な経済的利益の授受がない場合の基本的な違いである。

土地の使わせ方借りる側の取扱い貸す側の土地評価使用貸借使用権は零評価原則として自用地価額通常の地代による賃貸借権利金授受の慣行がある地域では,借地権の贈与が問題となる通常の貸宅地の評価相当の地代による賃貸借借地権設定による利益はないものとして扱う原則として自用地価額の80%

表の賃貸借に関する取扱いは,国税庁の相当の地代に関する通達の趣旨,1項,2項注及び6項による。
法人が当事者となる場合,既存の借地権がある場合及び小規模宅地等の特例については,それぞれ別の条件を確認する必要がある。
親の土地や建物を無償で使わせたことが,相続の際に民法上の特別受益に当たるかについては,実家に独身のまま無償で住み続けた子は特別受益者になるか―同居・別居・土地利用で分かれる判断で説明している。

第2 固定資産税相当額を負担する場合も使用貸借に含まれる

民法593条及び601条は,無償で使用・収益して契約終了時に返還する使用貸借と,賃料を支払う賃貸借を区別している。
親族間でも,契約書の表題だけでなく,地代,権利金及びその他の利益の授受を確かめることになる。

国税庁の「使用貸借に係る土地についての相続税及び贈与税の取扱いについて」1項は,土地の公租公課に相当する金額以下の授受があるにすぎない場合も,使用貸借に該当するとしている。
したがって,子が親にその土地の固定資産税・都市計画税相当額だけを支払っても,そのことだけで借地権の贈与税が生じるわけではない。
以下,この通達を「使用貸借通達」という。

反対に,毎月の地代がなくても,権利金や地代に代わる経済的利益を与えている場合は,同項の使用貸借には該当しない。
税額を少し超えたという数字だけで結論を出すのではなく,土地の使用の対価として何を約束し,何を支払っているかを検討する必要がある。
民法上,固定資産税相当額を超える地代や相場より安い地代が賃料に当たるかを判断した裁判例は,使用貸借と賃貸借の区別-固定資産税程度の支払,相場より安い地代・家賃は賃料かで整理している。

零評価になるのは,この土地使用権である。
親から土地の所有権そのものや建築資金の贈与を受ける場合まで,贈与税がかからないという意味ではない(相続税法,使用貸借通達1項)。

第3 通常の地代と相当の地代の違い

1 相場の地代を払うだけでは権利金の問題が残る

通常の地代とは,その地域の通常の賃貸借契約で支払われる地代である。
借地権設定時に権利金を授受する慣行がある地域で,権利金を払わず,通常の地代だけで借地権を設定すると,借地人が借地権相当の利益を受けたものとして,贈与税が問題となる。

これは,使用貸借の使用権を零評価とする取扱いとは異なる。
「無償では申し訳ないから相場の地代を払う」と決める前に,権利金の取扱いも含めて確認する必要がある(相当の地代に関する通達の趣旨及び2項注)。

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相続開始後の預貯金の払戻しと法定単純承認-相続放棄を検討するときの判断と対応(AI作成)

第1 預貯金を引き出した後でも相続放棄を検討できるか第2 払戻しが相続財産の「処分」になる場合1 債権を取り立てて自分のものとして受け取る行為2 死亡の認識と借金の認識は異なる第3 引き出した現金を使わず保管していた場合第4 葬儀費用と債務の支払をどう分けるか1 葬儀費用・仏壇・墓石に関する大阪高裁決定2 借金返済・生活費・立替金の取戻し第5 預貯金の仮払い制度と相続放棄1 銀行への単独払戻請求とATM出金の違い2 家庭裁判所による預貯金の仮取得第6 既に払戻しをした人が確認する資料と対応1 取引ごとに日付・原資・使途を記録する2 返金した場合と相続放棄後の保管第7 出典1 法令2 裁判例3 行政裁決4 裁判所の手続案内5 文献
第1 預貯金を引き出した後でも相続放棄を検討できるか

相続開始後に預貯金を払い戻した場合,相続放棄ができるかは,払戻しの方法,現金の保管・使途及び放棄との前後関係によって異なる。
相続財産を自分のものとして取得・処分したと評価されれば,民法921条の法定単純承認が問題となる一方,保存行為は除かれており,葬儀費用への支出について処分に当たらないとした裁判例もある。
本記事は,令和8年9月4日現在の法令を基準に,既に払戻しをした人が,相続放棄の可否を検討するための判断材料と初期対応を整理する。

先に確認するのは,承認・放棄を選ぶ熟慮期間である。
民法915条・938条によれば,相続放棄は,原則として自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に,家庭裁判所へ申述して行う。
払戻しの評価や財産調査に時間を要し,期間内に判断できない場合は,期限前に相続の承認又は放棄の期間の伸長を検討する。

第2 払戻しが相続財産の「処分」になる場合
1 債権を取り立てて自分のものとして受け取る行為

民法921条1号は,相続人が相続財産の全部又は一部を処分したときに,単純承認をしたものとみなす一方,保存行為等を除外している。
単純承認の効果は,引き出した金額だけに責任を負うというものではなく,被相続人の権利義務を無限に承継することである(民法920条)。

最高裁昭和37年6月21日第一小法廷判決(昭和36年(オ)第1029号,集民61号305頁)は,相続開始後,相続放棄前に,被相続人の売掛債権の一部3000円を取り立てて収受領得した行為を,相続財産の一部の処分に当たるとした(判決本文・PDF1頁)。
これは預金口座からの払戻しを直接判断した事件ではないが,相続した債権を回収して自分のものとして受け取る行為が問題となることを示している。
条文が「一部」の処分も対象とすることと併せると,少額であるというだけで当然に法定単純承認から除外されるとはいえない。

2 死亡の認識と借金の認識は異なる

最高裁昭和42年4月27日第一小法廷判決(昭和40年(オ)第1348号,民集21巻3号741頁)は,921条1号の適用には,相続人が自己のために相続が開始したことを知りながら処分したか,少なくとも被相続人の死亡を確実に予想しながらあえて処分したことを要するとした(判決本文・PDF1頁~2頁)。
同判決は,行方不明者の死亡をまだ知らなかった段階の財産処分等を扱っており,借金の存在を知らなければ処分してもよいとした判決ではない。

したがって,死亡と自己の相続開始を知って払戻しをした人について,「後から借金が見つかった」という事情だけで処分の問題が消えるとはいえない。
死亡を知った日,債務を知った日及び払戻日を分けることが,判例の要件に即した検討の出発点となる。

第3 引き出した現金を使わず保管していた場合

国税不服審判所令和2年4月17日裁決には,妻名義の口座に振り込まれた被相続人の報酬50万円について,妻が出金しても相続財産の処分に当たらないとした判断がある(公表裁決書抄4(3)ロ)。
入金は生前の契約に基づくもので,妻が故人名義の預金を解約して自分の口座に移した事案ではなかった。
裁決は,入金自体を妻による処分とはせず,出金後も現金を封筒に入れて保管し,一部でも費消した事実が認められないことを踏まえ,出金のみでは処分に当たらないとした。

この裁決は,国税の納付義務の承継をめぐる個別の行政判断であり,あらゆる預金払戻しについて「使わなければ単純承認にならない」とした最高裁判例ではない。
本記事では,入金の原因,誰の口座から出金したか,自己の財産への取込みや費消があったかを分けて確認するための参考事例と位置付ける。
未使用であると説明する場合も,残金の所在と保管経過を,取引履歴等と対応させて示すことが検討の助けとなる。

第4 葬儀費用と債務の支払をどう分けるか
1 葬儀費用・仏壇・墓石に関する大阪高裁決定

大阪高裁平成14年7月3日決定(平成14年(ラ)第408号,家庭裁判月報55巻1号82頁。裁判所HP未掲載。判例秘書により全文確認)は,被相続人名義の貯金を解約し,葬儀費用や仏壇・墓石の購入費に充てた遺族の相続放棄申述を扱った。
同決定は,葬儀の社会的な必要性等を理由に,相続財産から葬儀費用を支出する行為は921条1号の処分に当たらないとした(理由第2・2(1)ア)。

仏壇・墓石については,葬儀費用の支払とはやや異なるとしつつ,相続債務を知らないまま購入した経緯,社会的に不相当に高額とは断定できないこと,費用の不足分を遺族が自己負担したこと等を考慮した。
その上で,貯金を解約して購入費の一部に充てた行為が,明白に相続財産の処分に当たるとは断定できないとした(理由第2・2(1)イ)。
したがって,葬儀・仏壇・墓石という使途を一括し,金額や経緯を問わず安全であると一般化することはできない。

また,同決定は,相続放棄の申述を却下した原審判を取り消して受理したものであり,受理によって放棄の有効性を確定するものではないことも明示している(理由第2・2(3))。
葬儀費用に関する領収書等は,申述時だけでなく,債権者が後の訴訟で放棄の効力を争う場合にも説明できるよう保管しておくのがよい。

2 借金返済・生活費・立替金の取戻し

故人の借金の返済や遺族の生活費への支出まで,前記決定によって一律に保存行為になるわけではない。
払戻金を自分の生活費として費消した場合は,相続財産の処分として問題になるため,支出目的の名称だけでなく,実際の支払先,内容及び原資を確認する。

遺族自身の資金で費用を立て替えた行為と,後から故人の預貯金を引き出して立替額を回収する行為も分けて検討する。
民法921条1号が対象とするのは相続財産の処分であり,後者については遺産からの支出が別に生じるからである。
本記事では,相続放棄を検討する人に対し,借金の返済や立替金の精算を新たに進める前に,債務の根拠と支出の原資を整理することを勧める。

第5 預貯金の仮払い制度と相続放棄
1 銀行への単独払戻請求とATM出金の違い

民法909条の2は,遺産分割前でも,各共同相続人が一定額の預貯金債権を単独で行使できる制度を定めている。
額は,対象となる預貯金の相続開始時の残高に3分の1と法定相続分を乗じて算定し,同一の金融機関に対する行使額の上限は法務省令による150万円である。
150万円は口座ごとに認められる上限ではない。

同条後段は,権利行使した預貯金債権について,その相続人が遺産の一部の分割によって取得したものとみなすと定めている。
この取得の効果もあるため,「仮払い」という呼び名や上限額だけから,相続放棄への影響がないと判断することはできない。

堂薗幹一郎ほか『逐条解説 改正相続法』(商事法務,2024年)85頁~86頁は,同条による権利行使である旨を金融機関に示すことを要し,死亡を秘してATMから預金を引き出す行為は同条による権利行使とはいえないと説明している。
したがって,単に150万円以内を引き出しただけで,法定の払戻制度を利用したことになるわけではない。

2 家庭裁判所による預貯金の仮取得

家事事件手続法200条3項には,遺産分割の審判又は調停が申し立てられている場合に,その申立人又は相手方の申立てにより,家庭裁判所が特定の預貯金債権をその者に仮に取得させる制度もある。
相続債務の弁済,生活費の支弁その他の事情による権利行使の必要性が認められることを要し,他の共同相続人の利益を害するときは認められない。

この条文は,必要な資金を得るための仮取得を認めるものであり,民法921条の適用を除外する規定ではない。
銀行への単独払戻請求と家裁の仮取得のいずれについても,資金を受け取れることと,相続放棄が有効になることを別々に検討することになる。

(続きを読む...)相続開始後の預貯金の払戻しと法定単純承認-相続放棄を検討するときの判断と対応(AI作成)

成年後見人のマイナンバーカード管理-電子証明書の更新・期限切れ・資格確認書(AI作成)

第1 カードと2種類の電子証明書を区別する1 用途と暗証番号の違い2 期限はカード本体と別に確認する第2 後見開始・住所変更で何が変わるか1 署名用の発行と既存証明書の失効は別問題である2 通常の住所変更と転入手続の未了を分ける第3 成年後見人による更新と暗証番号の再設定1 受付開始日と通知書の有無を確認する2 法定代理人の手続として持ち物を確認する第4 電子証明書が期限切れになったときの受診1 期限満了後の取扱いには期間と機能の制限がある2 資格確認書の交付対象と到達を確認する3 顔認証マイナンバーカードも選択肢となる第5 後見人と施設で管理方法を決める1 本人の意向・利用目的・受診手段を記録する2 カードの預かりと暗証番号の共有を分ける3 紛失したときと見つかったときの手順も決めておく第6 出典1 法令2 国・発行主体・保険者の説明資料3 自治体の手続案内4 関連記事5 文献

成年後見人がマイナンバーカードを管理する際は,カード本体と2種類の電子証明書を区別し,本人が使う機能と受診時に提示する書類を確認することが出発点となる。
電子証明書を更新する手続と,資格確認書によって受診を続ける方法を把握した上で,本人の意向や生活状況に応じて管理方法を選ぶ。

本記事は,令和8年9月4日現在(第5の3は同月11日現在)の公表資料に基づき,国内に居住する成年被後見人のマイナンバーカードを扱う。
成年後見人が法定代理人として行う手続を対象とし,保佐・補助・任意後見の個別の代理権に基づく手続は別に検討する。

第1 カードと2種類の電子証明書を区別する
1 用途と暗証番号の違い

マイナンバーカードには,署名用電子証明書と利用者証明用電子証明書を搭載できる。
大阪市の電子証明書の案内と東淀川区の暗証番号の案内による用途の違いは,次のとおりである。

対象主な用途暗証番号・確認事項カード本体券面による本人確認カード自体の有効期限を確認する利用者証明用電子証明書マイナポータルへのログイン,コンビニ交付,マイナ保険証数字4桁。顔認証マイナンバーカードでは設定しない署名用電子証明書電子申請等で電子文書に署名する大文字の英字と数字を組み合わせた6~16文字

数字4桁の暗証番号には,利用者証明用のほか,住民基本台帳用及び券面事項入力補助用もある。
同じ4桁であることだけでは用途を特定できないため,窓口に相談する際は,どの暗証番号が分からないのかを伝える。

2 期限はカード本体と別に確認する

J-LISの更新案内によれば,電子証明書の有効期限は原則として発行後5回目の誕生日であり,満了まで3か月未満となった日から満了日までに更新した場合は,発行後6回目の誕生日までとなる。
ただし,J-LISのFAQが示すカード自体の有効期限等による上限もあるため,一律に「発行日から5年間」と計算せず,実際の期限を確認する。

デジタル庁の案内では,カード本体の期限は券面に印字され,電子証明書の期限は券面に記入する扱いとされている。
電子証明書の記入がない場合は,カード本体の印字された期限で代用せず,市区町村窓口で確認する方法を検討する。

第2 後見開始・住所変更で何が変わるか
1 署名用の発行と既存証明書の失効は別問題である

大阪市は,成年被後見人には署名用電子証明書を原則として発行しないと案内している。
一方,公的個人認証法15条・34条の失効事由には,後見開始そのものは独立した事由として列挙されていない。
したがって,発行に関する取扱いから,既存の証明書が後見開始だけで当然に失効すると結論付けることはできない。

署名用の発行について,横浜市は,原則不発行としつつ,本人と法定代理人が一緒に窓口で申請した場合に限り発行すると説明している。
これに対し,川崎市の案内は,成年被後見人には発行できないという表現を用いている。
案内の記載に差があるため,横浜市の説明を全国共通の受付条件とせず,申請先へ本人の来庁可否と必要な利用目的を伝えて確認する。

2 通常の住所変更と転入手続の未了を分ける

J-LISのFAQは,氏名・住所等の変更により署名用電子証明書は失効するが,利用者証明用電子証明書はその変更だけでは失効しないと説明している。
法的には,署名用について,公的個人認証法12条・15条により,所定の変更を受けた機構の失効情報の記録が失効に結び付く。

利用者証明用も,転出届を出した後,転入届を行わずに転出予定日から30日を経過した場合などは別の失効事由となる(同法31条・34条)。
施設入所に伴って住所を移す際は,通常の住所変更による影響と,転入・カード継続利用の手続が済んでいるかを分けて確認する。

(続きを読む...)成年後見人のマイナンバーカード管理-電子証明書の更新・期限切れ・資格確認書(AI作成)

遺言執行者が相続株式・有価証券を売却して分配する際の実務上の問題点(AI作成)

目次

第1 この記事の対象と結論第2 遺言の対象と遺言執行者の権限1 遺言全文から換価対象を確定すること2 通知,財産目録及び相続人による妨害の防止第3 証券口座及び保有商品の調査1 口座開設先と保有残高を分けて調べること2 証券会社から取得する資料第4 証券会社における換価経路1 相続人名義口座へ移管してから売却する取扱い2 遺言執行者による換金分割用の取扱い第5 換価時期及び注文方法1 善管注意義務と相場変動2 売却方針を先に記録すること第6 相続税評価額,取得費及び譲渡所得1 四つの金額を区別すること2 換価による譲渡所得を誰が申告するか3 NISAと取得費加算の特例第7 商品別の例外と分配・報告1 非上場株式,外国証券及び信用取引2 配当金等と換価代金の範囲3 換価代金の管理と相続人への報告出典・参考資料1 法令2 所管行政機関の解説・質疑応答及び研究資料3 証券関係機関及び金融商品取引業者の手続資料4 文献5 裁判例・判決紹介

第1 この記事の対象と結論

本記事は,令和8年9月4日現在の法令及び公開資料に基づき,被相続人名義の株式,投資信託,債券その他の有価証券を遺言執行者が換価し,その代金を相続人に分配する遺言の執行を扱う。
相続人が現物のまま有価証券を取得する場合や,遺言がなく遺産分割協議によって換価する場合は,直接の対象ではない。

相続人から委任を受けた弁護士が,証券口座の調査,必要書類の収集,受入口座への移管及び売却を代理する一般的な手順は,「株式・証券口座の相続手続を弁護士が代理する方法-口座調査,必要書類,移管及び売却(AI作成)」で説明している。

有価証券の換価分配では,遺言執行者に民法上の処分権限があることと,証券会社が被相続人名義の口座で直ちに売却注文を受け付けることとは別問題である。
実際には,①遺言の対象と権限,②口座及び保有商品の全体像,③証券会社所定の換価経路,④売却時期及び注文方法,⑤譲渡所得の帰属及び分配可能額を順に確定する必要がある。

本記事では,換価方針を相場予測で決めるのではなく,遺言の文言,証券会社の手続,銘柄の流動性,税務上の取扱い及び相続人間の公平を確認した上で,判断時点の資料と理由を記録して執行することを基本形とする。
遺言執行者に関する一般的な相続人側の注意点は,「遺言執行者が指定されている場合の相続人の注意点」で説明している。

第2 遺言の対象と遺言執行者の権限

1 遺言全文から換価対象を確定すること

民法1012条1項は,遺言執行者が遺言の内容を実現するため,相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有すると定めている。
一方,遺言が特定の財産に関する場合,遺言執行者の権限はその財産についてのみ及ぶ(同法1014条1項)ため,「有価証券を売却する」という一節だけでなく,遺言全文から対象と目的を確定する必要がある。

確認する事項は,①すべての有価証券を対象とするのか,特定の証券会社,口座又は銘柄に限るのか,②株式分割,合併,償還,再投資等によって形を変えた資産を含むのか,③外貨預り金,未収配当金,分配金及び株主優待を含むのか,④換価費用,遺言執行者報酬,債務及び税金をどこまで控除するのか,⑤誰にどの割合で分配するのかである。
受取人の先死亡,相続放棄又は受遺放棄が生じた場合の代替的な分配条項も確認する。

『履行困難な遺言執行の実務』136頁~138頁が紹介する事例では,遺言が対象とした上場株式を遺言者本人が生前に売却して預金へ変えた結果,遺言執行者がその預金について当然には換価・分配権限を行使できないことが問題となった。
有価証券を特定した遺言が,売却後の代金又は別口座の預金にまで当然に及ぶとは限らない。

2 通知,財産目録及び相続人による妨害の防止

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信託銀行に遺言執行者を辞退・辞任してもらう方法-相続開始後のメリット・デメリット(AI作成)

目次

第1 結論と本記事の対象

1 就任前は辞退の申入れ,就任後は家庭裁判所の許可が問題となること
2 調査基準日及び対象範囲
3 銀行サービスとしての「遺言信託」と信託法上の信託を区別すること

第2 辞退,辞任及び解任の違い

1 就職承諾前の「辞退」
2 就職承諾後の「辞任」
3 利害関係人による「解任」
4 遺言執行契約の精算と遺言上の指定は別問題であること

第3 信託銀行に辞退又は辞任してもらうメリット

1 未発生の遺言執行報酬を減らせる可能性があること
2 残る事務に適した担い手を選べること
3 既に大半の手続が終わっている場合に役割を絞れること

第4 信託銀行に辞退又は辞任してもらうデメリットとその限界

1 信託銀行でなければできない遺言執行は限られること
2 手続の遅延と二重費用は就職承諾後に問題となること

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家庭裁判所が選任した遺言執行者の報酬の目安-現行法と旧基準(AI作成)

目次

第1 結論と対象範囲第2 選任の審判と報酬付与の審判は別である1 家庭裁判所が遺言執行者を選任する場合2 選任時に報酬額まで当然に決まるわけではない第3 報酬の決まり方1 遺言に報酬の定めがある場合2 家庭裁判所が考慮する事情第4 旧日弁連報酬等基準規程による歴史的な参考額1 旧基準の内容2 旧基準を単純計算した場合3 現在の目安として使う場合の限界第5 誰が,いつ報酬を支払うか1 原則として遺言執行後に支払う2 報酬は相続財産の負担となる第6 報酬付与の申立てで示すべき資料第7 関連記事第8 出典1 法令2 裁決3 裁判所及び法務省の資料4 職能団体の旧規程5 その他の文献

第1 結論と対象範囲

民法1018条は,家庭裁判所が選任した遺言執行者の報酬について,全国一律の金額表又は料率を定めていない。
家庭裁判所は,相続財産の状況その他の事情を考慮して報酬を定めるため,令和8年9月4日現在の法令及び確認できた公表資料からは,遺産額だけで個別の審判額を正確に予測することはできない。

実務書には,弁護士である遺言執行者について,平成16年4月に廃止された旧日弁連報酬等基準規程を参考にし,これを若干減額して決定していた時期があるとの記載がある。
旧基準を機械的に当てはめると,執行対象の価額が1000万円なら44万円,5000万円なら104万円,1億円なら154万円となるが,これは現在の家庭裁判所の基準額,最低額又は予測額ではない。

したがって,現在の報酬の見通しを立てる際は,遺産額に一定割合を掛けるだけでは足りない。
財産の種類及び評価額,執行した事務の内容,期間,難易度,紛争対応,支出した費用並びに執行結果を示す資料を準備するのが有用である。

本記事は,家庭裁判所が選任した遺言執行者に対する報酬付与を中心に扱う。
遺言で指定された専門家又は信託銀行の契約上の報酬は,家庭裁判所が定める報酬との違いを説明する範囲に限って取り上げる。

第2 選任の審判と報酬付与の審判は別である

1 家庭裁判所が遺言執行者を選任する場合

遺言執行者がいないとき,又はいったん就任した遺言執行者が辞任,解任又は死亡等によっていなくなったときは,家庭裁判所は,利害関係人の請求により遺言執行者を選任することができる(民法1010条)。
裁判所ウェブサイトの「遺言執行者の選任」も,申立人は相続人,遺言者の債権者又は受遺者等の利害関係人であり,申立先は遺言者の最後の住所地の家庭裁判所であると案内している。

2 選任時に報酬額まで当然に決まるわけではない

遺言執行者の選任は,家事事件手続法別表第一の104の項の事件であり,遺言執行者に対する報酬の付与は,同表105の項の別事件である。
したがって,家庭裁判所が遺言執行者を選任したという事実だけから,報酬額が確定したことにはならない。

報酬付与事件の管轄は,相続を開始した地を管轄する家庭裁判所にある(家事事件手続法209条1項)。
相続開始地は,被相続人の住所である(民法883条)ため,通常は遺言者の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に申し立てることになる。

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遺言と異なる遺産分割をしたい場合の調停手続-受遺者がいる場合の選び方(AI作成)

目次

第1 結論及び本記事の対象第2 遺産分割調停を利用できる場合1 分割すべき遺産が存在すること2 包括受遺者がいる場合第3 遺言によって取得者が確定している場合1 特定遺贈及び特定財産承継遺言2 特定遺贈を放棄した場合第4 一般調停を利用する場合1 遺産に関する紛争調整調停2 親族関係調整調停3 調停不成立後の違い第5 遺言執行者及び関係者全員の同意1 遺言執行者がいる場合2 関係者全員が同意する場合第6 申立て前の手続選択1 状況ごとの手続2 最初に集める資料及び停止基準第7 遺言の存在を知らずに協議した場合第8 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 裁判所及び所管行政機関の解説・質疑応答4 その他の文献
第1 結論及び本記事の対象

受遺者が遺言と異なる分け方を希望しているというだけで,遺産分割調停を利用できるわけではない。
最初に確認すべきことは,遺言によって対象財産の取得者が既に確定しているか,複数の共同相続人又は包括受遺者の間に分割すべき未分割遺産が残っているかである。

未分割遺産が残っている場合は遺産分割調停を利用する。
これに対し,遺言によって取得者が既に確定した財産を関係者全員の合意で組み替える場合は,遺産分割調停ではなく,一般調停である「遺産に関する紛争調整調停」を検討するのが基本となる。
親族間の感情的対立や関係修復が中心である場合には「親族関係調整調停」が候補になるが,遺産の帰属を組み替えること自体が目的であれば,「遺産に関する紛争調整調停」の方が事件の内容に即している。

本記事は,令和8年9月3日現在の民法,家事事件手続法,裁判所の手続案内,裁判例及び国税庁の質疑応答事例を基に,AIを用いて手続選択の分岐を整理したものである。
具体的な申立てでは,遺言の文言,受遺者の種類,遺贈の承認又は放棄,遺言執行者及び登記の状況によって結論が変わる。

第2 遺産分割調停を利用できる場合
1 分割すべき遺産が存在すること

民法907条は,共同相続人が,被相続人による遺産分割の禁止がない限り,協議によって遺産の全部又は一部を分割できることを定めている。
協議が調わない場合又は協議をすることができない場合には,各共同相続人は家庭裁判所に遺産分割を請求できる。

遺産分割の対象になるのは,取得者がまだ確定していない遺産である。
名古屋家庭裁判所の遺産分割調停の案内も,有効な遺言書がある場合は原則として遺言書の内容が優先され,遺言で遺産全部の取得者が指定されている場合には,一般に遺産分割の余地がないと説明している。
ただし,遺言の対象となっていない残余財産があれば,その部分は遺産分割の対象になり得る。

2 包括受遺者がいる場合

民法990条は,包括受遺者が相続人と同一の権利義務を有することを定めている。
複数の共同相続人又は包括受遺者の間に未分割遺産が存在する場合,包括受遺者も遺産分割手続の当事者となる。

裁判所の手続案内は,遺産分割調停の申立人として共同相続人及び包括受遺者を挙げ,すべての共同相続人及び包括受遺者を相手方又は申立人として手続に参加させる必要があるとしている。
一部の共同相続人又は包括受遺者を除外した合意では,遺産全体の分割を確定できない。

包括受遺者がいることだけで,当然に遺産分割調停を選択できるわけではない。
例えば,遺産全部が1人の包括受遺者に帰属し,包括遺贈が有効なままである場合には,複数人の間で分割すべき遺産が存在しない可能性がある。

第3 遺言によって取得者が確定している場合
1 特定遺贈及び特定財産承継遺言

民法964条及び985条によれば,遺言者は遺言によって財産の全部又は一部を遺贈でき,遺言は原則として遺言者の死亡時に効力を生じる。
特定の不動産を特定の受遺者へ遺贈する有効な遺言があれば,その不動産は,通常の遺産分割によって取得者を決める未分割遺産とは異なる。

「相続させる」旨の遺言についても,最高裁平成3年4月19日第二小法廷判決(平成元年(オ)第174号,民集45巻4号477頁)は,特段の事情がない限り,対象財産が被相続人の死亡時に直ちに指定された相続人へ承継されると判断した。
したがって,このような財産を別の者へ帰属させたい場合の中心的な問題は,未分割遺産の分割ではなく,遺贈の放棄又は取得後の財産処分をどのように構成するかである。

2 特定遺贈を放棄した場合

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相続放棄をしても受け取れる権利―保険金・年金・退職金の区別(AI作成)

第1 受け取れる権利と判断の基準
第2 生命保険金

1 受取人固有の死亡保険金
2 入院給付金・返戻金等との違い
3 人身傷害保険の死亡保険金

第3 死亡退職金
第4 未支給年金

1 国民年金・厚生年金
2 旧三共済・農林共済
3 故人口座への入金

第5 遺族年金・死亡一時金・労災給付

1 給付ごとの受給要件
2 死亡一時金と子の年金

第6 埋葬料・葬祭費・香典等
第7 慰謝料・祭祀財産・特定遺贈

1 遺族固有の慰謝料
2 祭祀財産
3 特定遺贈

第8 税金の取扱い
第9 受領前の確認と期限

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遺言書保管事実証明書・遺言書情報証明書の郵送請求―必要書類と手順(AI作成)

第1 どちらの証明書を請求するか

1 2種類の違いと郵送請求の基本

2 請求できる人と代理請求

第2 遺言書保管事実証明書の必要書類

1 基本となる添付書類

2 通知書などがある場合の省略

第3 遺言書情報証明書の必要書類

1 初回の請求と法定相続情報一覧図

2 関係遺言書保管通知と指定者通知の違い

3 数次相続・法人・法定代理人の追加書類

第4 請求書の作成から発送まで

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亡くなった家族の入通院先を調べる方法―遺族のレセプト開示とカルテの取得(AI作成)

第1 受診先が分からないときの調査順序

第2 当時加入していた医療保険を特定する

第3 遺族としてレセプトの開示を依頼する

1 請求できる遺族と必要書類

2 対象の指定,費用及び所要期間

第4 保存期間の「5年」をどう確認するか

第5 判明した病院・薬局から受診歴をたどる

1 病院・診療所の診療記録

閉院・破産している場合

2 薬局の記録

3 介護の記録

第6 資料が出ない場合の確認と次の手段

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被相続人のスマホに関して,死亡直後に遺族がすべきこと(AI作成)

第1 死亡直後は端末の保管と携帯会社への連絡を並行する
第2 初期化と推測入力を避け,端末の状態を記録する
1 端末と関連資料の保管
2 ロック解除とデータ消去の違い

第3 回線の解約・承継と別契約の請求を分ける
1 携帯会社別の手続の入口
2 SMS認証,サブスク及び端末代金の確認

第4 Apple・Googleのデータ請求は端末解除とは別である
1 Appleの故人アカウント管理連絡先等
2 Googleのデータ請求と閉鎖の順序

第5 相続放棄を考えている場合とアクセス権限の注意点
1 財産調査,処分及び放棄後の保管
2 パスワードが分かっても利用権限は別に確認する

第6 スマホが開かない場合の調査と相談
1 郵便物・通帳・カード明細から調べる
2 専門的な調査へ進む条件

第7 出典
1 法令

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法定相続情報一覧図の作成方法―戸籍謄本の読み方と相続人の確認(AI作成)

第1 戸籍を読み終えてから提出用の一覧図を作る第2 戸籍謄本の種類と読む欄を区別する1 現在戸籍・除籍・改製原戸籍の違い2 本籍・筆頭者・戸籍事項・身分事項の読み分け第3 出生から死亡までの戸籍をつなぐ方法1 新しい戸籍から一つ前の戸籍へ戻る2 三つの戸籍を照合する架空の作業例3 死亡日・届出日・旧字体を照合する第4 戸籍から相続関係を確認する1 配偶者・子・親・兄弟姉妹の順序2 代襲相続と数次相続は死亡の先後で分ける3 兄弟姉妹相続では父母双方の関係を追う4 相続放棄と廃除の記載を混同しない第5 確認した情報を一覧図へ転記する1 書く情報と転記元を対応させる2 続柄は被相続人を基準にし,住所は利用先を考えて選ぶ3 代襲の線と複数枚のつながりを確認する4 前婚の子がいる場合は前配偶者を性別で表示する第6 必要書類をそろえ,不足や読めない部分を解消する1 申出用の書類と広域交付の範囲2 未取得・判読不能・廃棄を区別する第7 申出前の点検と他の相続手続の期限1 戸籍から図へ,図から戸籍へ照合する2 相続放棄と相続登記は別に期限を管理する第8 出典・参考資料1 法令2 法務省・法務局の手続案内と記載例3 裁判所の手続案内4 自治体の戸籍解説・実務資料

第1 戸籍を読み終えてから提出用の一覧図を作る

法定相続情報一覧図は,亡くなった人と,戸籍の記載から確認できる相続人との関係をまとめる書面である。
相続人等が一覧図を作成して戸籍等とともに申し出ると,登記官が記載内容を照合し,認証文を付した写しを交付するのであり,戸籍の束を持参すれば法務局が図を作成してくれる制度ではない(不動産登記規則247条)。

作業は,①被相続人の出生から死亡までの戸籍をつなぐ,②各人の身分事項から相続関係を確認する,③証明書に基づいて一覧図へ転記する,という順序で進める。
本記事は,令和8年8月30日現在の法令・公表資料を前提に,現在の相続法が適用される相続について,戸籍の読解と転記の方法を説明するものである。

本記事では,調査中の親族関係,取得済みの戸籍及び未確認事項を書き込む作業メモを,法務局へ提出する一覧図とは分けることを基本形とする。
法定相続分の計算,遺産分割の合意内容及び調査上の疑問は作業メモに置き,提出用の一覧図には,法定の記載事項と法務局の記載例に沿った情報を記載する。

一覧図は,誰が最終的にどの財産を取得するかまで証明するものではなく,遺産分割協議書や相続放棄を証する書類が別途必要となる場合がある。
従来どおり戸籍の束で相続手続を行う方法も利用できるため,提出先が少ない場合には,一覧図を取得する手間も含めて選ぶことになる(法務省民事局「法定相続情報証明制度について」平成30年4月1日改訂,2頁・PDF3頁)。

遺言の有無や内容も,一覧図の記載だけでは確認できない。
公正証書遺言の存在を調べる場合は,「公正証書遺言の保存期間と検索方法」を参照されたい。

公正証書遺言の検索で相続人資格を示す資料と,弁護士への委任に必要な資料の区別は,「公正証書遺言の検索を弁護士が代理する方法」で説明している。

第2 戸籍謄本の種類と読む欄を区別する

1 現在戸籍・除籍・改製原戸籍の違い

戸籍謄本は戸籍に記載された全員についての証明であり,電算化された戸籍では戸籍全部事項証明書という名称が用いられる。
これに対し,戸籍抄本・個人事項証明書は一部の人についての証明であるため,被相続人の家族関係全体を調べる資料と,相続人本人の現在の身分を確認する資料とを使い分ける。

「除籍」には,婚姻や死亡等によって一人がその戸籍から除かれるという意味と,全員が除かれた戸籍という意味がある。
「除籍」の表示だけで死亡したと判断せず,その原因が婚姻,転籍,死亡等のいずれであるかを身分事項から確認する。

(続きを読む...)法定相続情報一覧図の作成方法―戸籍謄本の読み方と相続人の確認(AI作成)

保管証書遺言とは―令和8年民法等改正で新設された第4の遺言方式,成立要件及び施行時期(AI作成)

第1 保管証書遺言の位置付けと本記事の範囲

1 新設された第4の遺言方式であること
2 本記事の基準日及び対象範囲

第2 保管証書遺言の法的根拠及び新設の経緯

1 根拠法令
2 法制審議会における審議経過
3 制度創設の背景となった課題

第3 保管証書遺言の成立要件

1 二段階の方式(民法968条の2)
2 電磁的記録による作成と署名に代わる措置
3 遺言書保管官の意義
4 口がきけない者の特則(民法968条の3)

第4 作成手続の具体的な流れ

1 保管申請とオンライン利用
2 本人確認とウェブ会議の利用
3 財産目録の口述省略

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自筆証書遺言書保管制度―法務局の保管手続と検認不要のメリット(AI作成)

第1 自筆証書遺言書保管制度の対象及び最大のメリット

1 本記事の対象及び結論
2 制度の目的及び根拠法令
3 検認が不要になる仕組み

第2 遺言者本人による保管の申請

1 保管の申請ができる遺言書保管所
2 保管の申請の要件―本人出頭の原則
3 保管する遺言書の様式
4 保管後に遺言者ができること

第3 遺言者の死亡後に相続人等ができる手続

1 遺言書情報証明書の交付請求
2 遺言書保管事実証明書の交付請求
3 閲覧請求及び非表示措置の申出

第4 手数料
第5 通知制度

1 関係遺言書保管通知
2 指定者通知

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遺言執行者が指定されている場合の相続人の注意点――処分禁止,通知請求権及び解任手続(AI作成)

第1 この記事の対象と全体像
第2 処分禁止の内容と違反行為の効力

1 遺言執行者の就任と任務開始
2 相続人による処分等の禁止
3 違反行為の無効と善意の第三者保護
4 相続人の債権者による権利行使への影響

第3 相続人が遺言執行者から受けられる通知と説明

1 任務開始の通知
2 相続財産目録の作成及び交付
3 通知が来ないときの催告

第4 遺言執行者がいても相続人ができること

1 特定財産承継遺言の対抗要件具備
2 遺産分割前の預貯金の払戻し制度との関係
3 遺留分侵害額請求は遺言執行者に対してする請求ではない

第5 遺言執行者に問題があるときの手続

1 処分制限は放置によって当然には外れない
2 解任請求の要件と管轄
3 解任手続の進み方と保全処分

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遺族厚生年金の生計維持要件——収入,別居,内縁及びDV別居の限界事例(AI作成)

第1 この記事が扱う対象
第2 生計維持要件の基本構造

1 根拠条文
2 生計同一要件と収入要件への分解
3 形式的な基準を修正する例外条項

第3 収入が基準額を超えている場合の限界事例

1 収入要件の4類型
2 死亡当時までの収入変動が考慮された事例

第4 同居していない場合の限界事例

1 同居していなくても生計同一と認められる場合
2 高齢の夫婦が別々の施設に入所した事例
3 複数の扶養者がいる場合

第5 DVを理由に別居している場合の限界事例

1 判断枠組みの見直し
2 別居から約13年後に死亡した事案

第6 内縁関係が絡む場合の限界事例

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遺留分侵害額請求の期限と手続―内容証明・交渉・調停・訴訟・必要書類(AI作成)

第1 この記事の対象と最初に行うこと

1 令和元年7月1日以後に開始した相続が対象である

2 請求額の確定より先に期限を確認する

3 内容証明から訴訟までの標準的な順序

第2 1年と10年の期限

1 知った時から1年

2 相続開始から10年

3 発送日ではなく到達時が問題となる

4 権利行使後の金銭債権も別に管理する

第3 内容証明郵便による権利行使

1 内容証明と配達証明の役割は異なる

2 通知書で特定する事項

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成年後見制度利用支援事業とは―後見人報酬・申立費用の自治体助成を比較する(AI作成)

第1 成年後見制度利用支援事業とは

1 制度の内容――申立費用と後見人等の報酬を市区町村が助成する
2 高齢者向けと障害者向けで法律上の位置づけが異なる

(1) 高齢者向け――介護保険法の任意事業
(2) 障害者向け――障害者総合支援法上の地域生活支援事業

第2 助成を受けられるのはどのような場合か

1 資力要件
2 対象となる申立人の範囲
3 後見人等が親族である場合の扱い

第3 実際にいくら助成されるか――7市の実例

1 報酬助成の上限額
2 申立費用の助成対象
3 申請期限に注意する

第4 自治体によってどれだけ違うか――全国調査からみる実態

1 助成制度自体がない自治体も存在する

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要介護認定の結果に納得できない場合の資料収集と争い方―認定調査票・主治医意見書・一次判定・二次判定の読み方(AI作成)

目次

第1 最初に確認すること

1 結論

2 結果だけでなく資料の流れを確認する理由

3 期間制限

第2 認定調査から処分までの資料の流れ

1 法定の手続

2 一次判定は最終結論ではない

3 処分時点と現在時点を分ける

第3 最初に集める資料

1 行政側の資料

2 大阪市の情報提供手続

3 本人側で作る資料

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遺留分侵害額請求の計算方法と請求を受けた側の対応―期限の許与・分割払い・遅延損害金(AI作成)

目次

第1 この記事の対象と既存記事との役割分担1 令和元年7月1日以後に開始した相続を扱うこと2 旧法と変わった点と変わらなかった点3 既存記事との役割分担第2 遺留分を算定するための財産1 条文と算式2 相続人に対する贈与が10年に限られたこと3 負担付贈与と不相当な対価第3 遺留分を請求できる人と割合1 遺留分を請求できる人2 総体的遺留分と個別的遺留分3 相続人の組合せごとの遺留分割合4 複数の子・直系尊属、代襲相続及び養子5 相続放棄、相続欠格及び廃除6 相続開始前の遺留分放棄第4 遺留分侵害額1 民法1046条2項の算定式2 寄与分が反映されないこと3 承継債務を加算すること
4 死亡保険金の取扱い第5 遺留分侵害額請求を受けた側の確認事項1 回答前に保存する資料2 請求額を検証する順序3 受遺者・受贈者の負担限度と負担順序4 遺留分権利者承継債務を弁済した場合5 裁判所による期限の許与6 分割払いの合意と事実上の分割払い第6 遅延損害金と期間制限1 権利行使と履行請求を区別する2 遅延損害金の利率3 民法1048条の期間と発生後の金銭債権の時効4 請求を受けた側の回答順序第7 現物で解決する場合の課税1 代物弁済と譲渡所得2 相続税の更正の請求と修正申告第8 新法の解釈を示した裁判例がほとんどないこと第9 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 公的資料4 文献

第1 この記事の対象と既存記事との役割分担

1 令和元年7月1日以後に開始した相続を扱うこと

民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律(平成30年法律第72号)の附則第2条は「この法律の施行の日(以下「施行日」という。)前に開始した相続については、この附則に特別の定めがある場合を除き、なお従前の例による。」と定める。
遺留分に関する改正規定は同法附則第1条ただし書の各号に掲げられておらず、法務省が公表する原則的な施行期日である2019年7月1日から施行された。
したがって、被相続人の死亡日が令和元年7月1日以後であれば、金銭の支払を求める遺留分侵害額請求として処理する。

判定の基準は相続開始日であって、判決の年でも権利行使の年でもない。
逆に、判決が令和6年や令和7年であっても、相続開始が施行日より前であれば旧法の遺留分減殺請求として処理される。

2 旧法と変わった点と変わらなかった点

改正の中心は、権利の性質が物権的効果から金銭債権へ変わったことである。
民法1046条1項は「遺留分権利者及びその承継人は、受遺者…又は受贈者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができる」と定める。
その結果、旧法で最も誤りが生じやすかった減殺率の分母の選択という問題は、計算の手順から消えた。

もっとも、変わらなかった部分も多い。
基礎財産の算式(1043条1項)は旧1029条とほぼ同文であり、負担の順序(1047条1項各号)も旧1033条から1035条までと同じ構造である。
遺留分の放棄に関する1049条は旧1043条と同文で、第2項の「共同相続人の一人のした遺留分の放棄は、他の各共同相続人の遺留分に影響を及ぼさない」という規律も維持されている。
実質的に変わったのは、後述する贈与の加算期間、負担の限度の条文化、価額弁償に代わる期限の許与の4点に整理できる。

3 既存記事との役割分担

旧法の計算方法そのものは旧法の遺留分減殺請求の計算方法―基礎財産・侵害額・減殺率と判例タイムズ1345号の計算シートで扱っている。
減殺の順序は旧法の遺留分減殺請求の順序―遺贈・死因贈与・生前贈与と通知の先後、遺産の評価時点は旧法事案の遺留分減殺請求における遺産の評価基準時で扱っている。
この記事は新法の金額の算定過程に絞り、旧法との違いが実務にどう表れるかを併せて示す。
1年・10年の期限,内容証明による通知,交渉,調停,訴訟及び必要書類は,遺留分侵害額請求の期限と手続―内容証明・交渉・調停・訴訟・必要書類で扱っている。

第2 遺留分を算定するための財産

1 条文と算式

(続きを読む...)遺留分侵害額請求の計算方法と請求を受けた側の対応―期限の許与・分割払い・遅延損害金(AI作成)