メインコンテンツへスキップ

親族・相続

遺産分割調停・遺留分調停で固定資産評価証明書をどう取るか-統一様式が使えない理由と相続人・共有者・相手方名義の場合(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論1 対象とする手続と基準日2 結論第2 弁護士の統一様式が使えない理由1 統一様式の根拠は申立人自身の請求権である2 家事調停・審判は対象の申立てに入っていない3 遺留分侵害額請求の訴えも対象外と考えられる第3 誰の名義の,どの年度の証明書が必要か1 固定資産税の名義は1月1日で決まる2 手続ごとに求められる年度3 発行できる年度には限りがある第4 自分で取れる場合1 被相続人に関する年度を相続人として取る2 遺産共有中の不動産を共有者として取る3 代理人弁護士が依頼者の委任を受けて取る第5 相手方名義の不動産で自分では取れない場合1 自分では取れないと考えられる理由2 相手方に提出を求める3 調停委員会に調査嘱託又は文書送付嘱託を求める4 弁護士会照会は回答を得にくい5 評価証明書が取れなくても手続は進められる第6 申請前に確認する事項第7 関連記事第8 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 公文書4 裁判所の案内・説明資料5 自治体の案内6 職能団体の資料
第1 この記事の対象と結論
1 対象とする手続と基準日

本記事は,遺産分割調停・審判と,遺留分侵害額の請求調停で,不動産の固定資産評価証明書をどのように取得するかを扱う。
遺留分侵害額の請求調停は,令和元年7月1日以後に開始した相続についての手続である。
法令は令和8年9月28日現在の条文により,裁判所と自治体の案内は同日に確認した内容による。

裁判所の全国共通の案内は,遺産分割調停について「不動産登記事項証明書及び固定資産評価証明書」を,遺留分侵害額の請求調停について「不動産登記事項証明書,固定資産評価証明書」を,それぞれ標準的な申立添付書類として掲げている(裁判所「遺産分割調停」,裁判所「遺留分侵害額の請求調停」)。
ところが,訴訟の準備であれば弁護士が所有者の委任なしに評価証明書を取れる「統一様式」は,家事調停では使えない。
そのため,家事調停では,誰の名義の,どの年度の証明書が必要かによって,取り方を組み立て直す必要がある。

2 結論

結論は,次のとおりである。
①弁護士の統一様式は,遺産分割調停・審判と遺留分侵害額の請求調停のためには使えない。
②被相続人が納税義務者であった年度(死亡した年の年度等)の証明書は,相続人として,自分で請求できる。
③遺産分割前で相続登記がされていない不動産は,共同相続人の一人として,自分で請求できる場合が多い。
④相続登記又は遺贈・贈与の登記により相手方の名義になった後の年度の証明書は,自分では取れないと考えられる。
その場合は,相手方に提出を求めるか,調停委員会の手続(調査嘱託等)を求めることになり,弁護士会照会は回答を得にくい。
⑤評価証明書は評価の資料の一つにすぎず,取れない物件があっても,登記事項証明書で物件を特定し,評価の合意又は鑑定へ進むことができる。

第2 弁護士の統一様式が使えない理由
1 統一様式の根拠は申立人自身の請求権である

弁護士が所有者の委任状なしに評価証明書を取れるのは,地方税法382条の3と地方税法施行令52条の15の表第4号によるものである。
地方税法382条の3は,「市町村長は、第二十条の十の規定によるもののほか、政令で定める者の請求があつたときは、これらの者に係る固定資産として政令で定めるものに関して固定資産課税台帳に記載をされている事項のうち政令で定めるものについての証明書を交付しなければならない。」と定める。

施行令52条の15の表第4号は,「民事訴訟費用等に関する法律(昭和四十六年法律第四十号)別表第一の一〇の項ロ及び一三の項から一四の二の項まで並びに別表第二の一の項から七の項まで及び一一の項の上欄に掲げる申立てをしようとする者」を掲げ,対象となる固定資産を「当該申立ての目的である固定資産」に限っている。
つまり,この制度は,一定の申立てをしようとする人自身に,申立ての目的となる不動産の証明書を請求する権利を認めたものである。
日本弁護士連合会が定める「固定資産評価証明書の交付申請書」(統一様式)は,弁護士が代理人としてこの請求をするための書式である。

2 家事調停・審判は対象の申立てに入っていない
(1) 政令が掲げる申立て

政令が掲げる申立ては,訴えの提起,控訴・上告,請求の変更,反訴,参加,支払督促,民事保全,借地非訟,民事調停及び労働審判と,これらの一部の申立ての変更である。
家事審判と家事調停の申立ては,民事訴訟費用等に関する法律別表第一の15の項・15の2の項に掲げられているが,政令はこれらの項を掲げていない。
遺産分割調停・審判も遺留分侵害額の請求調停も家事事件であるから,申立人は,この制度による請求権を持たないことになる。

(2) 日本弁護士連合会と自治体の案内

(続きを読む...)遺産分割調停・遺留分調停で固定資産評価証明書をどう取るか-統一様式が使えない理由と相続人・共有者・相手方名義の場合(AI作成)

国際扶養の準拠法―常居所地法・共通本国法・日本法(AI作成)

目次第1 扶養は独立して準拠法を決める第2 三段階の連結第3 成年年齢との関係第4 重国籍と共通本国法第5 実務上の確認事項第6 出典

国際的な親子間の扶養料請求では,親権者,法定代理人,子の成年年齢及び扶養義務の準拠法を分けて考える必要がある。本記事は,扶養義務の準拠法に関する法律を中心に,令和8年9月28日現在の日本法を整理する。

第1 扶養は独立して準拠法を決める

親権等の親子間の法律関係は法の適用に関する通則法32条によるが,扶養義務については同法43条1項により同条の適用が除外され,特別法である「扶養義務の準拠法に関する法律」による。子の国籍法が成年年齢を16歳とすることや,一方の親が単独親権者であることだけで,扶養請求の準拠法と結論を決めることはできない。

第2 三段階の連結

扶養義務の準拠法に関する法律2条1項本文は,扶養権利者の常居所地法を第一順位とする。同法によって扶養を受けられないときは,当事者の共通本国法を第二順位とする。同項ただし書及び2項により,これらの法によっても扶養を受けられないときは日本法による。

この段階的連結は,第一順位の法を適用した結果が不利なら自由に次の法を選べる制度ではない。「扶養を受けることができない」場合に限って次順位へ進む。扶養の要件,権利者・義務者の範囲,程度,期間,変更・消滅等を各準拠法について確認する必要がある。

第3 成年年齢との関係

外国法が親の扶養義務を「未成年子」に限り,成年年齢を16歳と定める場合でも,16歳以上の子が扶養を受けられないと直ちに結論づけない。「未成年子」の該当性を扶養準拠法の実体要件として判断するのか,別個の先決問題として子の本国法等により判断するのかを検討する。前者の構成で扶養が認められなければ扶養法2条の次順位法を確認し,後者の構成なら別に定まる成年年齢と扶養準拠法上の要件を組み合わせて検討する。外国法が具体的な年齢を定めるのか,「未成年者」という概念を用いるのかも条文と解釈資料で確認する。

子の扶養請求権の存否,子のために権利を行使できる者,親権・法定代理権及び日本の裁判所での手続行為能力は,問題ごとに分けて確認する。扶養法6条は,扶養権利者のために権利を行使できる者の範囲等を扶養義務の準拠法に委ねる。親権等の親子間の法律関係には通則法32条が関わり,日本での申立ての方式や手続上の代理には日本の手続法も関わる。日本国籍を含む重国籍者の本国法を通則法によって決める場面では,同法38条1項ただし書も確認する。

第4 重国籍と共通本国法

扶養義務には通則法38条1項の国籍一本化規定をそのまま適用せず,扶養法にも同様の規定はない。扶養法2条1項ただし書の「当事者の共通本国法」は,両当事者が共通に国籍を有する国があればその国の法を指すと解される。これは同項ただし書の解釈であり,扶養法2条2項に重国籍者の特則があるわけではない。同条2項は,先順位の法によっても扶養を受けられない場合に日本法を適用する規定である。

例えば,子が日本国籍と甲国籍を有し,父が甲国籍だけを有する場合,共通本国法として甲国法が第二順位になり得る。子が日本国籍を含むため能力について日本法が本国法になることと,扶養の第二順位に甲国法が現れることは矛盾しない。問題ごとに適用法令が異なるためである。

第5 実務上の確認事項

①扶養権利者・義務者の国籍と重国籍の組合せ。
②権利者の常居所地。短期滞在先と生活の本拠を区別する。
③第一順位法で扶養を受けられるか。年齢だけでなく,教育中の子,障害のある成年子等の規律も調べる。
④共通本国法の有無と,重国籍者が共通に有する国籍。
⑤日本法に進む要件を満たすか。
⑥扶養法6条による権利行使者,親権・法定代理,利益相反,外国の親権・監護裁判の承認を分けて確認する。
⑦外国法の条文,判例,運用及び日本語訳を提出できる形で準備する。

請求・回収までの手順は、関連記事「国際養育費の請求と回収―準拠法・日本の裁判管轄・外国裁判の承認と強制執行」を参照されたい。

第6 出典

①e-Gov法令検索「扶養義務の準拠法に関する法律」2条・6条。
②e-Gov法令検索「法の適用に関する通則法」32条,38条,43条。
③小出邦夫編著『一問一答 新しい国際私法』(商事法務,平成18年)135頁~140頁。
④東京高等裁判所平成18年10月30日決定(平成18年(ラ)第876号,判例時報1965号70頁。裁判所ウェブサイト未掲載)。同決定の書誌は専門誌索引で確認したが,本記事はその事案の結論を直接の根拠としていない。
⑤法務省「平成29年司法試験の採点実感(国際関係法・私法系)」。同年の別問題について,扶養法には通則法38条1項相当の規定がないことを明示する資料であり,令和8年司法試験の公式資料ではない。

国際親子関係の準拠法―嫡出推定・嫡出否認・重国籍・出訴期間(AI作成)

目次第1 準拠法を決める単位第2 嫡出親子関係の成立第3 嫡出否認第4 重国籍者の本国法第5 実務上の確認事項第6 出典

国際的な親子関係では,DNA上の父子関係だけでなく,どの国の法が嫡出推定を置き,誰が,どの方法・期間で否認できるかを確定しなければならない。本記事は,令和8年9月28日現在の法の適用に関する通則法を基礎に整理する。

第1 準拠法を決める単位

離婚の準拠法,嫡出親子関係の成立・否認の準拠法,認知の準拠法,親権等の親子間の法律関係の準拠法は同じとは限らない。離婚が成立した国又は親子関係を争う裁判所の所在地だけで準拠法を決めてはならない。

第2 嫡出親子関係の成立

通則法28条1項は,夫婦の一方の本国法で,子の出生時に子が嫡出となるべきときは,その子を嫡出である子とする。夫と妻のいずれか一方の本国法が嫡出性を認めれば足りる選択的連結であり,子の身分の安定を図る規定である。

どの期間に生まれた子を夫の子と推定するか,推定が及ばない場合があるかは,この準拠法によって判断する。出生時の夫婦双方の国籍を確認し,それぞれの国の嫡出推定規定を調査する必要がある。

第3 嫡出否認

嫡出否認は嫡出推定と表裏の関係にあるため,通則法28条の問題と解される。双方の本国法が子を嫡出とする場合,嫡出性を否定するには,原則として双方の法により否認が可能でなければならないと解されている。否認権者,否認原因,権利行使期間とその起算点,推定の及ばない子の扱いは,指定された法の内容を確認する。他方,日本の裁判所に訴える場合の訴状・送達等の手続は日本の手続法に従うため,外国法上の権利行使要件と日本の訴訟手続を分ける。

例えば,一方の法が母にも否認権を認め,出生を知った時から90日以内と定め,他方の法が母又は子にも否認権を認めて3年の期間を定めるときは,誰がいつ提訴したかを両法について検討する。片方の法の期間だけを満たしても,もう片方の法による嫡出性が残れば,否認請求が認められないことがある。

日本法については,令和4年法律第102号による改正後の民法772条以下と経過措置を確認する。現在の民法777条は原則3年の出訴期間を定めるが,出生時期によって改正前法が適用される可能性がある。

第4 重国籍者の本国法

通則法38条1項は,当事者が二つ以上の国籍を有するとき,原則として常居所を有する国が国籍国の一つであればその国の法を本国法とし,そうでなければ最も密接な関係がある国の法を本国法とする。ただし,日本国籍を含む重国籍者については日本法を本国法とする。

したがって,日本国籍と外国国籍を有する子又は親については,外国に常居所があっても,通則法上の本国法は日本法となる。ただし,扶養義務の準拠法については別の「扶養義務の準拠法に関する法律」が適用されるため,通則法38条をそのまま当てはめない。

第5 実務上の確認事項

①出生時の父母の婚姻関係と国籍,重国籍の有無。
②出生証明書,戸籍,婚姻・離婚の成立日。
③各国法の嫡出推定期間,否認権者,出訴期間及び起算点。
④外国法上の裁判手続と,日本の人事訴訟・家事事件の国際裁判管轄。
⑤反致を扱うときは通則法41条の要件とただし書の適用除外を確認する。試験問題が反致の検討を不要と指定している場合は,その指定を答案に明示する。当事者の契約だけで親子の身分関係の抵触規則を排除したと扱わない。
⑥日本法の改正前後を分けるための出生年月日。

第6 出典

①e-Gov法令検索「法の適用に関する通則法」28条,29条,30条,38条,41条。
②e-Gov法令検索「民法」772条~778条の2。
③e-Gov法令検索「人事訴訟法」。
④法務省「無戸籍でお困りの方へ・よくある御質問」。
⑤小出邦夫編著『一問一答 新しい国際私法』(商事法務,平成18年)138頁~140頁(設問135・136)。
⑥東京家庭裁判所令和3年1月4日審判(令和2年(家イ)第8523号。裁判所ウェブサイト未掲載)。判例の位置付けは北澤安紀「嫡出否認に関する準拠法」令和4年度重要判例解説283頁以下で確認した。

所有不動産記録証明制度とは―請求方法,必要書類,手数料及び検索漏れの注意点(AI作成)

目次第1 所有不動産記録証明制度の概要1 令和8年2月2日に始まった全国横断検索2 証明書に記載される情報第2 請求できる人1 所有権の登記名義人2 相続人その他の一般承継人3 代理人第3 請求先と請求方法1 全国の登記所へ請求できる2 書面請求3 オンライン請求第4 必要書類1 登記名義人本人が請求する場合2 相続人その他の一般承継人が請求する場合3 原本還付と補正への対応第5 検索条件と手数料1 氏名又は名称と住所による検索2 異体字と同名異人3 検索条件1件・1通ごとの手数料第6 検索結果に現れない主な場合1 登記上の氏名・住所と検索条件が一致しない場合2 制度上の検索対象外又は未反映の場合3 「該当なし」は不動産不存在の証明ではない第7 証明書を取得した後の調査1 物件ごとの登記事項証明書を確認する2 名寄帳等と組み合わせる3 相続財産調査の中で位置付ける第8 関連記事1 不動産登記制度に関する記事2 法務省の制度案内第9 出典1 法令・告示2 所管行政機関の解説・運用資料
第1 所有不動産記録証明制度の概要
1 令和8年2月2日に始まった全国横断検索

所有不動産記録証明制度は,特定の人又は法人が所有権の登記名義人として記録されている不動産を登記官が検索し,その結果を一覧にした証明書を交付する制度である。
令和6年4月1日に始まった相続登記の申請義務化に伴い,相続人が被相続人名義の不動産を把握しやすくし,相続登記の漏れを防ぐため,令和8年2月2日に施行された。

本記事は,令和8年9月28日現在の法令及び法務省資料を基準に,請求できる人,請求方法,必要書類,手数料及び検索結果を読む際の注意点を説明する。

2 証明書に記載される情報

証明書には,請求人の資格・氏名又は名称・住所,検索に用いた氏名又は名称・ローマ字氏名・住所・会社法人等番号,検索条件に該当した不動産の管轄登記所・種別・所在事項・不動産番号等が記載される。
証明書は検索結果の一覧であり,各不動産の持分,抵当権,差押え,信託その他の権利関係を網羅する登記事項証明書ではない。

第2 請求できる人
1 所有権の登記名義人

所有権の登記名義人は,自分を検索対象者として証明書の交付を請求できる。
自然人だけでなく,所有権の登記名義人である法人も対象となる。

2 相続人その他の一般承継人

所有権の登記名義人の相続人その他の一般承継人は,被相続人又は被承継人を検索対象者として請求できる。
相続人からの請求では,請求人自身の本人確認に加え,被相続人との相続関係を戸籍謄本,法定相続情報一覧図の写し等で明らかにする必要がある。

3 代理人

本人又は相続人その他の一般承継人は,代理人を通じて請求できる。
委任による代理人の場合,請求人の実印を押した委任状と請求人の印鑑証明書が必要となる。

第3 請求先と請求方法
1 全国の登記所へ請求できる

請求は,法務局・地方法務局の本局,支局及び出張所で取り扱われる。
検索対象となる不動産の所在地を管轄する登記所に限られないため,遠隔地の不動産を調べる場合でも,利用しやすい登記所を請求先に選べる。

2 書面請求

書面請求は,窓口への提出又は郵送によって行う。
郵送による受領を希望するときは,返送用封筒と切手を提出する必要がある。

書面の請求書では,一つの検索条件欄に複数の氏名又は住所をまとめて記載せず,現在の氏名・住所と過去の氏名・住所を別々の検索条件として記載する。

3 オンライン請求

オンライン請求は,登記・供託オンライン申請システムの申請用総合ソフトで「所有不動産記録証明書交付請求書」を選択し,必要事項を入力して電子署名を付して送信する。
必要書類も全てオンラインで提供する必要があり,証明書は郵送又は指定した登記所の窓口で受領できる。

(続きを読む...)所有不動産記録証明制度とは―請求方法,必要書類,手数料及び検索漏れの注意点(AI作成)

相続開始後に遺留分減殺請求をし,その後に換地処分があった土地の評価基準時(AI作成)

目次第1 本件の結論1 相続開始,減殺請求,換地処分の順に検討する2 換地後の価格を相続開始時へ遡らせるわけではない第2 旧法の遺留分減殺請求が適用される範囲1 適用法は減殺請求日ではなく相続開始日で決まる2 減殺請求後は目的土地について共有持分が生じる第3 遺留分を計算するための従前地の評価1 基礎財産は相続開始時に評価する2 相続開始時の事業段階を価格へ反映する第4 減殺請求後の換地処分による権利の移行1 従前地の法律関係は換地へ移る2 遺留分権利者の共有持分も換地へ移る3 清算金は原則として同じ持分割合で按分される第5 換地処分後に価額弁償をする場合1 価額弁償の基準時は相続開始時ではない2 換地処分後は換地の持分を評価する3 清算金の二重計上を避ける第6 事案によって結論が変わる分岐1 金銭解決が裁判所の職権で選ばれるわけではない2 換地が定められなかった場合3 減殺請求前に処分があった場合第7 主張立証及び鑑定で準備する資料1 二つの評価書を区別する2 換地関係資料を時系列でそろえる第8 関連記事1 旧法の評価基準時及び計算方法2 訴額との区別第9 まとめ1 本件では二つの基準時を使い分ける第10 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 土地区画整理事業及び清算金の取扱資料
第1 本件の結論

本記事は,土地区画整理事業中の土地について,相続開始後に旧法の遺留分減殺請求がされ,その後に換地処分が行われた場合の評価を扱う。制度の仕組みは土地区画整理事業の総合解説を参照されたい。現行法の遺留分侵害額請求へ,旧法の物権的効果や価額弁償の説明をそのまま当てはめることはできない。

以下の四つの段階を分けると,遺留分の計算と価額弁償の評価基準時が異なることを把握しやすい。

段階本記事で区別する問題相続開始遺留分の算定に用いる財産と,相続開始時の従前地の評価。遺留分減殺請求旧法の減殺請求によって生じる従前地の法律関係と持分。換地処分・公告従前地から換地への法律関係の移行と,公告翌日の清算金の確定。価額弁償価額弁償の対象となる換地の評価と,清算金の別処理・二重計上の防止。
1 相続開始,減殺請求,換地処分の順に検討する

本記事が扱うのは,①被相続人の死亡により相続が開始し,②遺留分権利者が土地について旧法上の遺留分減殺請求を行い,③その後に土地区画整理事業の換地処分が効力を生じた場合である。
調査基準日は令和8年9月29日であり,令和元年6月30日までに開始した相続へ適用される改正前民法を前提とする。

結論として,土地の評価基準時は,評価の目的によって二つに分かれる。
遺留分侵害の有無及び減殺の割合を決めるための評価は相続開始時であり,その時点の従前地を評価する。
これに対し,換地処分後に旧民法1041条の価額弁償によって現物返還を免れる場合は,原則として現実の弁償時の換地を評価し,訴訟では事実審口頭弁論終結時の換地を評価する。

清算金については,換地処分時までに減殺請求による共有関係が成立していれば,その共有所有権について生じる交付清算金又は徴収清算金は,原則として従前地の共有持分と同じ割合で各共有者に按分される。
ただし,清算金が減殺請求時に土地とともに「移動」するのではなく,換地処分の公告日の翌日に,各共有者と施行者との間で持分割合に応じた独立の債権又は債務として確定するという関係である。

評価の目的評価対象評価基準時遺留分侵害及び減殺割合の計算相続開始時の従前地相続開始時減殺後の権利の帰属従前地から移行する換地の持分換地処分の効力発生時に権利の客体が換地へ移るため,新たな減殺割合の計算はしない旧民法1041条の価額弁償換地処分後の換地の持分現実の弁償時。訴訟では事実審口頭弁論終結時換地計画で定められた清算金共有持分に対応して別個に確定する清算金債権又は債務換地処分の公告日の翌日。原則として同日時点の共有持分割合で按分
2 換地後の価格を相続開始時へ遡らせるわけではない

相続開始時評価では,後に成立した換地の現在価格を用いるのではなく,相続開始時に存在した従前地の客観的交換価値を求める。
相続開始時に土地区画整理事業が既に進行していた場合は,当時の事業計画,仮換地指定,使用収益制限及び市場の認識が従前地の価格形成要因になり得るが,その後の換地処分によって判明した結果を当然に相続開始時へ遡及させるものではない。

換地処分後の価額弁償では,反対に,既に権利の客体が従前地から換地へ移っているため,存在しない従前地の現在価格を仮定するのではなく,換地の現実の価額を基礎とするのが相当である。
ただし,この結論は遺留分法と土地区画整理法を組み合わせた解釈であり,本件と同じ時系列を直接判断した公刊裁判例は,本記事で確認した範囲では見当たらなかった。

第2 旧法の遺留分減殺請求が適用される範囲
1 適用法は減殺請求日ではなく相続開始日で決まる

平成30年法律第72号による遺留分制度の改正は,原則として令和元年7月1日に施行された。
同法附則2条により,施行日前に開始した相続については原則として従前の例によるため,被相続人が令和元年6月30日までに死亡した場合は,減殺請求又は換地処分が同年7月1日以後であっても旧法事案となり得る。

令和元年7月1日以後に開始した相続では,民法1046条により遺留分侵害額に相当する金銭の支払請求が生じるだけであり,土地の共有持分を物権的に取得する旧法の構造は採られていない。
したがって,本記事の「減殺請求後に持分が換地へ移る」という説明は,改正前民法が適用される相続に限られる。

2 減殺請求後は目的土地について共有持分が生じる

旧法上,遺留分減殺請求の意思表示が効力を生じると,遺留分を侵害する限度で目的物について遺留分権利者の権利が生じる。
最高裁令和7年7月10日第一小法廷判決(令和6年(受)第2号,遺留分減殺請求事件)は,旧法事案について,価額弁償請求権が確定的に取得されるまでは,遺留分権利者が減殺によって取得した共有持分権及びこれに基づく現物返還請求権を有することを前提としている。

本件では,換地処分の前に減殺請求がされているため,換地処分時には受遺者又は受贈者だけでなく,遺留分権利者も従前地の持分権者となっていることを出発点とする。
減殺請求前に受遺者が土地を第三者へ売却した場合とは,評価対象及び適用される法理が異なる。

(続きを読む...)相続開始後に遺留分減殺請求をし,その後に換地処分があった土地の評価基準時(AI作成)

未成年子による扶養料請求の法定代理と利益相反―単独親権・共同親権・特別代理人の実務(AI作成)

目次

第1 結論
第2 最初に区別すべき二つの請求
第3 未成年の子に手続行為能力はあるか
第4 誰が法定代理人になるか
第5 相手方と親権者の組合せによる類型別整理
第6 四つの「代理人」を区別する
第7 兄弟姉妹・並行請求・和解における利益相反
第8 共同親権施行後の注意点
第9 申立前の実務チェックリスト
第10 子の意思の把握
第11 国際扶養事件では準拠法を別に確認する
第13 まとめ

◯本ブログ記事は専らAIで作成したものです。
◯以下の記事も参照してください。
・ 父母間の養育費合意は子自身の扶養料請求を妨げるか―免除条項・事情変更・二重請求の整理(AI作成)
・ 親と未成年の子の利益相反と特別代理人―遺産分割・相続放棄・担保提供の判断基準と代理権の濫用(AI作成)
・ 訴訟能力,訴状等の受送達者,審判前の保全処分及び特別代理人(AIリライト)

第1 結論

未成年の子が父又は母に民法877条以下の扶養料を請求する場合,申立人は子であり,金銭給付を求める通常の扶養請求では,子は法定代理人を通じて手続を行うのが原則である。子と同居している,日常の監護をしている,又は離婚時に監護者と定められたというだけで,その親に当然に法定代理権が生じるわけではない。まず親権者又は未成年後見人を確認する必要がある。

次に,法定代理人となるべき者と子との間に利益相反がないかを確認する。典型例は,子が扶養料を請求する相手方自身が親権者である場合である。この場合,その親が子を代理して自分を相手に申し立てることはできず,民法826条の特別代理人が問題となる。共同親権者の一方だけが相手方である場合も,「他方の親だけで足りる」と即断せず,非利益相反の親と特別代理人との共同代理の要否を検討する。

弁護士を選任しても,その前提となる法定代理権の欠缺又は利益相反が当然に治癒されるわけではない。また,民法826条の特別代理人,家事事件手続法19条の手続上の特別代理人及び同法22条・23条の手続代理人は,根拠・選任主体・権限が異なる。

第2 最初に区別すべき二つの請求

請求権利主体・当事者主な根拠通常の申立人

(続きを読む...)未成年子による扶養料請求の法定代理と利益相反―単独親権・共同親権・特別代理人の実務(AI作成)

父母間の養育費合意は子自身の扶養料請求を妨げるか―免除条項・事情変更・二重請求の整理(AI作成)

◯本ブログ記事は専らAIで作成したものです。
◯以下の記事も参照してください。
・ 養育費の取り決め方―共同養育計画書・合意書・公正証書・調停調書の違い(AI作成)
・ 養育費算定表の見方,計算方法及び法定養育費との違い(AI作成)
・ 養育費は18歳・20歳・大学卒業のいつまでか―未成熟子と支払終期(AI作成)
・ 未成年子による扶養料請求の法定代理と利益相反―単独親権・共同親権・特別代理人の実務(AI作成)

目次

第1 結論―父母間の合意と子自身の権利は同じではない
第2 養育費分担請求と扶養料請求の法的な違い

1 父母間の養育費分担
2 子自身の扶養料請求
3 権利を処分できないことと具体額が残ることは別問題である

第3 父母間の合意が子自身の請求に及ぼす影響

1 原則―父母だけの合意で子の抽象的な権利を消滅させることはできない
2 実際に扶養が履行されていれば具体的な不足額がないことがある
3 同じ費用の二重取得は認められない

第4 合意条項ごとの検討

1 定額の養育費合意
2 養育費を支払わない旨の合意
3 清算条項・今後請求しない旨の条項
4 大学費用・医療費等の特別費用

第5 事情変更と見直し

(続きを読む...)父母間の養育費合意は子自身の扶養料請求を妨げるか―免除条項・事情変更・二重請求の整理(AI作成)

子の引渡しの間接強制と権利濫用―最高裁平成31年決定と令和4年決定の違い(AI作成)

第1 結論第2 子の引渡しを実現する手続1 子の引渡しを命ずる審判と強制執行2 間接強制と直接的な引渡しの実施3 人身保護請求とは区別する第3 最高裁平成31年4月26日決定1 事案の経過2 最高裁の判断3 射程第4 最高裁令和4年11月30日決定1 事案の経過2 最高裁の判断3 宇賀克也裁判官の補足意見第5 二つの決定の違い第6 申立て・抗告で確認する事項1 拒絶の言葉だけで結論を出さない2 時系列と働き掛けを具体化する3 手続ごとの判断対象を混同しない第7 関連記事第8 出典
第1 結論

子が引渡しを拒んでいることは,子の引渡しを命ずる審判を債務名義とする間接強制を直ちに妨げる理由にはなりません。
もっとも,直接的な引渡しの実施が子の心身への重大な悪影響のおそれを理由に不能となり,人身保護請求でも子が自由意思に基づいて現在の監護者の下にとどまっていると判断された後に,金銭の支払で監護者を心理的に圧迫することは,過酷な執行として権利濫用となることがあります。

最高裁平成31年4月26日決定・平成30年(許)第13号は,先行する引渡執行と人身保護請求の具体的な経過を踏まえて,間接強制の申立てを権利濫用としました。
これに対し,最高裁令和4年11月30日決定・令和3年(許)第17号は,審判確定後約2か月の間に子が2回拒絶したにとどまる事案で,権利濫用とした原決定を破棄しました。

二つの決定は,子の拒絶意思を重視するか否かという抽象的な対立ではありません。
子の拒絶の現れ方,子への影響,先行手続の結果,現在の監護者が引渡しのためにした働き掛けなどを,具体的な時系列に沿って比較した判断です。

第2 子の引渡しを実現する手続
1 子の引渡しを命ずる審判と強制執行

家庭裁判所が子の監護者を定め,現在の監護者に子の引渡しを命じても,審判の確定だけで現実の監護が移るわけではありません。
任意の引渡しが実現しないときは,確定審判等を債務名義として強制執行を申し立てることになります。

強制執行の場面でも,子は単なる物ではありません。
引渡しを命じられた者は,子の年齢,発達の程度その他の事情を踏まえ,子の心身に有害な影響を及ぼさないよう配慮しつつ,合理的に必要な行為をして引渡しを実現する義務を負います。

2 間接強制と直接的な引渡しの実施

民事執行法174条1項は,子の引渡しの強制執行について,①執行裁判所が執行官に子の引渡しを実施させる方法と,②同法172条1項の間接強制の方法を定めています。

間接強制は,債務者が一定期間内に引渡しをしないとき,遅延期間に応じた一定額の金銭を債権者に支払うよう命じ,心理的な圧力によって履行を促す方法です。
執行官による引渡しの実施は,間接強制決定の確定後2週間が経過した場合,間接強制をしても監護を解く見込みがない場合,又は子の急迫の危険を防止するため直ちに執行する必要がある場合のいずれかで申し立てることができます。

間接強制と執行官による引渡しの実施は,申立要件,執行の方法及び子への影響が異なります。
一方の手続で生じた事情を他方で援用するときは,いつ,誰が,何を観察し,どの理由で手続が終わったのかを明確にします。

3 人身保護請求とは区別する

人身保護請求は,現在の監護が人身保護法上の拘束に当たり,その拘束が顕著に違法であるかなどを審理する別の手続です。
子の引渡しの審判,強制執行及び人身保護請求では,判断対象と判断時点が同じではありません。

もっとも,先行する人身保護請求で子の判断能力,意思の強固さ,現在の監護者からの影響の有無が具体的に審理された場合,その認定経過は,後の間接強制が過酷な執行となるかを判断する重要な事情になり得ます。

第3 最高裁平成31年4月26日決定
1 事案の経過

最高裁平成31年4月26日決定の事案では,家庭裁判所が母を3人の子の監護者と指定し,父に子らの引渡しを命じる審判が確定しました。
執行官による引渡しの際,二男と長女は母へ引き渡されましたが,当時9歳3か月の長男は明確に拒絶して泣きじゃくり,呼吸困難に陥りそうになりました。執行官は,執行を続けると長男の心身に重大な悪影響を及ぼすおそれがあるとして,長男について執行不能で終了しました。

その後,母は父らを拘束者として人身保護請求をしました。
長男は,当時9歳7か月で,弟妹と離れて暮らすのは嫌であるものの父らの下での生活を続けたいと述べました。裁判所は,長男が十分な判断能力に基づく強固な意思を明確に表示し,その意思は父らの影響によるものではなく自由意思であるとして,人身保護請求を棄却しました。

2 最高裁の判断

最高裁は,子が引渡しを拒絶する意思を表明していることは,直ちに間接強制を妨げる理由ではないという一般論を示しました。
しかし,本件では,引渡執行が子の心身への重大な悪影響のおそれを理由に不能となり,人身保護請求でも自由意思に基づく強固な拒絶意思が認定されていました。

最高裁は,この経過の下では,子の心身に有害な影響を及ぼさずに引渡しを実現するため父がすべき合理的な行為を具体的に想定することは困難であるとしました。
父に1日1万円の支払を命じて心理的に圧迫することは過酷な執行であり,間接強制の申立ては権利濫用に当たるとして,申立てを却下しました。

3 射程

この決定は,子が拒絶すれば間接強制はできないという一般ルールを定めたものではありません。
直接的な引渡しの実施で身体的不調が現れ,その後の人身保護請求で自由意思に基づく強固な意思が認定されたという,積み重なった事情の下での判断です。

第4 最高裁令和4年11月30日決定
1 事案の経過

最高裁令和4年11月30日決定の事案では,家庭裁判所が母を子らの監護者と指定し,父に引渡しを命じる審判が令和3年3月29日に確定しました。
同年4月5日,二男は母へ引き渡されましたが,長男は約2時間の説得にも応じず,母の下に行くと父に会えなくなると述べ,母を押しのけるなどして拒絶しました。

同年5月30日の弟との面会時にも,長男は母の姿を見て反発し,母に抱かれることを拒み,泣きながら父宅へ帰ることを強く求めました。
母は同年6月9日に間接強制を申し立て,原々審は,父に長男を引き渡すよう命じるとともに,履行しないときは1日2万円を支払うよう命じました。

2 最高裁の判断

(続きを読む...)子の引渡しの間接強制と権利濫用―最高裁平成31年決定と令和4年決定の違い(AI作成)

祖父母等と子との交流―最高裁令和3年3月29日決定と民法766条の2(AI作成)

◯本ブログ記事は専らAIで作成したものです。
◯以下の記事も参照してください。
・ 離婚に関するメモ書き
・ 家事調停に関するメモ書き
・ 平成21年度から令和6年度までの許可抗告事件の分析(AI作成)
・ 平成21年度から令和6年度までの最高裁民事破棄判決の分析(AI作成)

目次

第1 結論の要点
第2 最高裁令和3年3月29日決定(旧法)

1 祖父母と子との面会交流
2 祖母を監護者に指定する申立て
3 二つの決定を混同しないこと

第3 令和8年施行の民法766条の2

1 原則は父又は母による申立て
2 親族自身が申し立てられる場合
3 交流を定める実体要件

第4 申立てと立証の実務

1 最初に確認する事項
2 子の利益に関する資料

(続きを読む...)祖父母等と子との交流―最高裁令和3年3月29日決定と民法766条の2(AI作成)

固定資産評価証明書を所有者以外が取得できる場合-請求できる人,資格及び必要書類(AI作成)

目次第1 所有者以外でも取得できる場合がある1 結論と記事の対象2 「取得できる人」の四つの意味第2 地方税法上の交付制度1 本人に関する証明と第三者への証明は根拠が異なる2 評価証明書と課税台帳の閲覧は別の制度である第3 対価を支払う借地人・借家人等1 土地の使用又は収益を目的とする権利を有する人2 家屋の使用又は収益を目的とする権利を有する人3 契約書と対価の支払資料第4 処分権者と裁判手続の申立人1 総務省令で定める処分権者2 法令が対象とする裁判手続3 競売の申立人が必要とする証明書第5 相続,年途中の取得及び財産管理1 1月2日以降に所有者となった人2 相続人,受遺者及び遺言執行者3 財産管理人等第6 代理人,法定代理人及び法人関係者1 委任を受けた代理人2 同居親族3 成年後見人等と法人関係者第7 専門職及び登記関係の限定ルート1 弁護士・司法書士の統一様式2 税理士の税務代理権限証書3 登記官の交付依頼書第8 その立場だけでは取得できない人1 親族,利用者及び購入希望者2 債権者,不動産関係者及び専門職第9 取得できる範囲と申請前の確認1 対象不動産の範囲2 申請前にそろえる情報と資料3 自治体へ確認するときの伝え方第10 出典・参考資料1 法令2 所管自治体・弁護士会の解説・申請案内3 関連する記事
第1 所有者以外でも取得できる場合がある
1 結論と記事の対象

固定資産評価証明書は,不動産の所在地や評価額等を証明する書類であり,登記事項証明書のように誰でも自由に取得できる資料ではない。
しかし,所有者本人の委任がなくても,法律上の資格又は申立ての目的に基づいて取得できる人がいる。

令和8年9月27日現在,所有者以外による取得は,①対価を支払う借地人・借家人等の直接請求,②法令で定める管財人等又は一定の裁判手続を始める人の直接請求,③相続人・法定代理人・財産管理人等による所有者側の地位又は権限に基づく請求,④委任を受けた代理人又は限定目的の特別書式による請求に分けると理解しやすい。
同じ「所有者以外」であっても,請求の根拠,取得できる不動産の範囲及び必要書類は同じではない。

本記事は,固定資産課税台帳に記載された価格等の証明書のうち,一般に「固定資産評価証明書」と呼ばれるものを中心に扱う。
評価証明書,公課証明書及び名寄帳の違いは,固定資産評価証明書と名寄帳の違い-相続・登記・訴訟での使い分け(AI作成)で説明している。

2 「取得できる人」の四つの意味

第一は,所有者の同意や委任を必要とせず,自分の法律上の資格で直接請求できる人である。
対価を支払う土地・家屋の使用収益権者,総務省令で定める処分権者及び一定の裁判手続を始める人がこれに当たる。

第二は,相続,成年後見,財産管理その他の法的地位により,所有者側の権利又は管理権限を示して請求する人である。
第三は,所有者又は納税義務者から委任を受けた代理人であり,親族,宅地建物取引業者又は専門職であるという肩書だけでは足りない。

第四は,訴額の算定,税務代理又は登記官の交付依頼等の限定された目的について,自治体が指定する書式と資料を用いる人である。
弁護士,司法書士又は税理士であること自体が,不動産一般を調査する権限になるわけではない。

第2 地方税法上の交付制度
1 本人に関する証明と第三者への証明は根拠が異なる

地方税法20条の10は,地方税に関する証明書を請求者本人に関するものに限って交付する制度を定めている。
これに対し,同法382条の3は,同条の政令で定める人が請求したときに,その人に関係する固定資産について,政令で定める登録事項の証明書を交付する制度を置いている。

したがって,「所有者本人でない」という理由だけで一律に交付を拒まれるわけではない。
他方,請求者が対象不動産と無関係であれば,不動産の所在地を知っているだけで取得することはできない。

2 評価証明書と課税台帳の閲覧は別の制度である

地方税法382条の2は固定資産課税台帳の閲覧を,同法382条の3は登録事項の証明書の交付を定めている。
両制度には共通する請求者区分があるものの,必要な情報が証明書であるのか,台帳の閲覧で足りるのかを申請前に区別する必要がある。

自治体によって,評価証明書の名称,記載事項,手数料,郵送・電子申請の可否及び請求権を確認する書類が異なる。
以下で示す法令上の請求資格と,個々の自治体が定める申請方法を分けて確認する必要がある。

第3 対価を支払う借地人・借家人等
1 土地の使用又は収益を目的とする権利を有する人

地方税法施行令52条の15は,土地について賃借権その他の使用又は収益を目的とする権利を有し,その権利について対価を支払う人に,対象土地の登録事項証明書を請求する資格を認めている。

(続きを読む...)固定資産評価証明書を所有者以外が取得できる場合-請求できる人,資格及び必要書類(AI作成)

令和8年成年後見制度改正の施行準備―権限・必要性台帳,年次見直し及び旧後見・旧保佐から新補助への移行(AI作成)

目次第1 施行前から準備すべき理由1 包括的な制度区分から個別の権限設計へ移る2 開始後も権限の必要性を見直す第2 権限・必要性台帳の作り方1 課題を行為単位で記録する2 事実・評価・未確認事項を分ける第3 必要な保護を三つに分ける1 特定の行為に対する同意権・取消権2 特定補助3 代理権第4 本人の意向を手続と記録に組み込む1 意向尊重は一度の意見聴取ではない2 本人の意向と安全確保が衝突する場合第5 旧後見・旧保佐・旧補助の経過措置1 旧後見・旧保佐は自動的に新補助へ移らない2 旧補助は新補助とみなされる3 旧事件にも適用される新しい職務規律がある第6 年次見直しと終了支援1 毎年の報告を権限監査の機会にする2 終了後の支援を先に設計する第7 任意後見との併存を検討する第8 施行前の実務チェックリスト第9 出典と未確定事項1 確認した一次資料2 実務参考資料とその限界3 令和8年9月27日現在の未確定事項

令和8年法律第45号による成年後見制度の改正では,法定後見が「補助」に一元化され,家庭裁判所が必要な同意権・取消権,特定補助又は代理権を個別に定める仕組みに変わる。補助人には本人の意向を把握・尊重する義務と年1回の報告義務が置かれ,不要になった権限を外し,必要に応じて補助人を交代させる制度も整備される。

もっとも,令和8年9月27日現在,成年後見関係改正の具体的施行日は確定していない。この記事は,公布済みの法律と関係法律整備法から確認できる事項を基礎に,相談・申立て・受任中事件について今から作成できる「権限・必要性台帳」と,施行後の見直し手順を整理するものである。改正内容の全体像は,令和8年成年後見制度改正と関係法律61本の整備で説明している。

第1 施行前から準備すべき理由
1 包括的な制度区分から個別の権限設計へ移る

改正前は,本人の判断能力の程度に応じて後見・保佐・補助を選ぶ制度である。改正後は補助に一元化され,具体的な法律行為について,どの保護がなぜ必要かを示す必要がある。

したがって,「認知症だから後見」「財産が多いから保佐」という説明では足りない。預金払戻し,不動産売却,遺産分割,施設契約又は訴訟行為等の課題ごとに,本人だけでは何が難しく,どの権限があれば不利益を防げるかを記録する必要がある。

2 開始後も権限の必要性を見直す

改正法は,判断能力の回復だけでなく,個別の権限又は特定補助の必要性がなくなった場合にも,審判の全部又は一部を取り消すことができる。補助人は年1回,家庭裁判所が命じた事項を報告し,家庭裁判所は必要に応じて職権で取消しを行うことができる。

このため,申立時だけでなく,受任中も「現在必要な権限」「不要になった権限」「新たに必要となった権限」を説明できる記録が重要となる。

第2 権限・必要性台帳の作り方
1 課題を行為単位で記録する

本人の生活上又は財産上の課題を,次の項目に分けて記録する。

①対象となる法律行為又は生活上の課題
②現時点で本人ができることと,支援があればできること
③支援がない場合に生じる具体的な不利益
④本人への説明方法,表明された意向及び反対理由
⑤家族,福祉サービス,日常生活自立支援事業,財産管理契約等の代替手段
⑥必要と考える権限と,それより制限の少ない手段では足りない理由
⑦裏付け資料と情報源
⑧見直し時期と,終了・追加・交代を検討する条件

「将来何か起きるかもしれない」という抽象的な不安と,期限のある契約,滞納,財産被害又は現に進行する手続等の具体的な必要性を区別する。

2 事実・評価・未確認事項を分ける

台帳には,観察できた事実,申立人・親族・支援者の説明,弁護士の法的評価及び未確認事項を混在させない。例えば,「本人は契約を理解できない」とだけ書くのではなく,説明した情報,質問への回答,選択肢の比較,援助後の理解,過去の同種取引及び医学資料を分けて残す。

判断能力,同意能力及び意思表示能力は,場面と時点によって異なり得る。診断名だけから必要な権限を決めず,対象行為との関係を示す必要がある。

第3 必要な保護を三つに分ける
1 特定の行為に対する同意権・取消権

通常の補助では,重要な財産上の行為のうち家庭裁判所が定めた行為について,補助人に同意権が付与され,本人が補助人の同意なく行った行為を取り消すことができる。

本人以外の者が申し立てる場合は,本人が意思表示できないときを除き,本人の同意が必要である。対象行為を広く書くのではなく,現に保護が必要な行為と期間を具体化する。

2 特定補助

(続きを読む...)令和8年成年後見制度改正の施行準備―権限・必要性台帳,年次見直し及び旧後見・旧保佐から新補助への移行(AI作成)

離婚・家事事件の民間ADR――家庭裁判所の調停との違い,強制執行及びDV対応(AI作成)

目次

第1 民間ADRと家庭裁判所の家事調停

1 民間ADRとは何か
2 裁判所の調停との主な違い

第2 離婚・家事事件で利用できる場面

1 離婚条件,養育費及び親子交流
2 事業者ごとに取扱範囲が異なる

第3 民間ADRを選びやすい場合と家庭裁判所を選ぶべき場合

1 民間ADRを検討しやすい場合
2 裁判所又は保護手続を優先すべき場合

第4 成立した合意の効力と強制執行

1 合意書は当然に債務名義になるわけではない
2 認証ADRの特定和解と家事事件の例外
3 離婚そのものと届出

第5 申立て前に確認する事項

(続きを読む...)離婚・家事事件の民間ADR――家庭裁判所の調停との違い,強制執行及びDV対応(AI作成)

交通事故で成年後見制度が必要になった場合の費用は損害になるか―申立費用,申立代理人費用,後見人・監督人報酬(AI作成)

◯本ブログ記事は専ら,AIで作成したものです。

目次

第1 この記事の結論と対象
第2 区別すべき三つの費用1 申立てに要する実費2 申立代理人の弁護士費用3 選任後の後見人・監督人報酬
第3 裁判例から分かること
第4 請求の組み立て方
第5 立証資料と二重計上の防止
第6 成年後見制度の改正との関係
第7 調査範囲と出典

第1 この記事の結論と対象

交通事故によって被害者の判断能力が低下し,示談,訴訟,保険金の受領又は多額の賠償金の管理のために成年後見制度を利用する場合,その費用が直ちに全額,交通事故による損害になるわけではない。事故との相当因果関係,制度利用の必要性,現実の支出又は将来支出の蓋然性,金額及び期間の相当性を,費目ごとに立証する必要がある。

特に,①申立手数料・登記手数料・郵便料・診断書料・鑑定費用等の申立実費,②申立代理人の弁護士費用,③選任後の成年後見人又は成年後見監督人の継続的な報酬は,法的根拠と判断要素が異なる。家庭裁判所が本人の財産から後見人報酬を支給する審判をすることと,加害者に不法行為損害として賠償を命じることも別の問題である。

成年後見人等の報酬額そのものについては,成年後見人等の報酬額の目安を参照されたい。本記事は,その金額を交通事故の損害に計上できるかという別の問題を扱う。

第2 区別すべき三つの費用
1 申立てに要する実費

後見開始の申立てには,収入印紙,登記手数料,郵便料,診断書料等が必要になり,事案によっては鑑定費用も生じる。事故前には必要でなかった申立てが,事故による高次脳機能障害,遷延性意識障害その他の精神上の障害のために必要になったことを示せれば,相当因果関係のある損害として認められる余地がある。

もっとも,申立時に支出した額を領収書で示すだけでなく,事故による障害と判断能力低下との関係,家族が本人を当然に代理できないこと,示談・訴訟又は賠償金管理のために法定代理人が必要であったことも整理する必要がある。

2 申立代理人の弁護士費用

申立代理人に支払う弁護士費用は,裁判所に納める実費とは別である。申立ての難易度,親族関係,財産の内容,緊急性,申立代理人が行った事務及び報酬額の相当性を示す必要があり,申立てをしたという事実だけから全額が当然に認められるものではない。

3 選任後の後見人・監督人報酬

後見人報酬は,民法862条に基づき,家庭裁判所が後見人及び本人の資力その他の事情を考慮し,本人の財産から相当額を与えるものである。大阪家庭裁判所の「報酬額のめやす」も,個別審判を拘束する料金表ではない。

(続きを読む...)交通事故で成年後見制度が必要になった場合の費用は損害になるか―申立費用,申立代理人費用,後見人・監督人報酬(AI作成)

固定資産評価証明書と名寄帳の違い-相続・登記・訴訟での使い分け(AI作成)

目次第1 固定資産評価証明書と名寄帳の役割1 評価証明書は特定物件の登録価格等を証明する2 名寄帳は所有者ごとの物件を市町村内で確認する第2 地方税法上の位置付け1 固定資産課税台帳には登記物件と未登記物件がある2 証明書の交付と課税台帳の閲覧は別の制度である3 名寄帳は固定資産課税台帳に基づいて作られる第3 記載内容と使い分け1 両者の違い2 評価額,課税標準額及び税額は異なる第4 相続・登記・訴訟での選び方1 相続財産を調べる場合2 相続登記その他の登記をする場合3 訴訟又は民事執行で価額を示す場合4 売買価格又は市場価格を知りたい場合第5 名寄帳に物件が載らない主な場合1 不動産が他の市町村にある場合2 非課税物件が帳票に含まれない場合3 単独名義と共有名義が分かれている場合4 1月2日以後に取得した場合5 未登記建物又は課税上の名義が異なる場合第6 請求前に確認する事項1 必要な記載事項から書類を選ぶ2 年度,名義及び請求資格を確認する第7 出典・参考資料1 法令2 所管行政機関及び法務局の解説・運用資料3 自治体の交付・閲覧案内
第1 固定資産評価証明書と名寄帳の役割
1 評価証明書は特定物件の登録価格等を証明する

固定資産評価証明書は,土地又は家屋について固定資産課税台帳に登録された事項を市町村長が証明する書類である。
登記の登録免許税,訴訟物の価額その他の場面で,特定物件の評価額を示す必要があるときに用いられる。

本記事の調査基準日は令和8年9月27日であり,同月24日に施行されている地方税法,同月27日までに公表された国税庁,法務省,法務局及び自治体の資料を確認した。
証明書の名称,記載事項,請求資格,手数料及び交付方法は自治体により異なるため,本記事では全国に共通する法的な骨格と複数の自治体で確認できる代表的な運用を区別して説明する。

2 名寄帳は所有者ごとの物件を市町村内で確認する

名寄帳は,固定資産課税台帳に基づき,土地又は家屋を所有者ごとにまとめた帳簿である。
ある市町村内で,その人に課税上ひも付けられた物件を探し,所在,面積,評価額,課税標準額等を一覧で確認するときに用いられる。

固定資産税の納税通知書そのものではなく,通常はこれに同封される課税明細書に物件ごとの情報が記載される。
課税明細書に載る不動産と名寄帳に載る不動産は,同じ年度,納税義務者及び課税区域について見れば,通常は大部分が重なる。

しかし,両者は同一の帳票ではないため,自治体の出力範囲,非課税又は免税点未満の物件の扱い,単独名義と共有名義の区分,課税区域等により,記載される不動産が一致しないことがある。
相続財産を調査するときは,納税通知書に同封された課税明細書だけで調査を終えず,名寄帳及び登記事項証明書等と突き合わせて確認する必要がある。

相続財産を調査するときは,名寄帳で候補物件を探し,登記事項証明書で権利関係を確認し,提出先から証明を求められる物件について評価証明書を取得するという順序が考えられる。
名寄帳に記載がないことは,全国に不動産がないことの証明にはならない。

第2 地方税法上の位置付け
1 固定資産課税台帳には登記物件と未登記物件がある

地方税法341条は,土地課税台帳,土地補充課税台帳,家屋課税台帳,家屋補充課税台帳及び償却資産課税台帳を固定資産課税台帳と定義しており,同法380条は市町村にその備付けを求めている。
同法381条によれば,登記簿に登記された土地及び家屋は土地課税台帳又は家屋課税台帳に,登記されていない土地及び家屋は土地補充課税台帳又は家屋補充課税台帳に登録される。

この仕組みにより,課税対象として把握された未登記建物が名寄帳に現れることがある。
ただし,固定資産課税台帳は課税のための帳簿であり,記載された名義だけで私法上の所有権が最終的に決まるものではない。

2 証明書の交付と課税台帳の閲覧は別の制度である

地方税法20条の10は地方団体の徴収金に関する証明書の交付を定め,同法382条の3は一定の請求者に対する固定資産課税台帳登録事項の証明書交付を定めている。
これに対し,同法382条の2は,納税義務者その他の一定の者に固定資産課税台帳の関係部分を閲覧させる制度を定めている。

地方税法施行令52条の14及び52条の15は,有償で借りている土地又は家屋の使用者,固定資産を処分する権利を有する者等について,対象となる固定資産の範囲で閲覧又は証明書交付を請求できる場合を定めている。
同令52条の15の表第4号は,民事訴訟費用等に関する法律の別表に掲げる訴えの提起等の申立てをしようとする人にも,申立ての目的である固定資産の証明書の交付を認めている。
実際の請求では,請求者の立場と物件との関係を示す資料を自治体の案内で確認する必要がある。

所有者本人の委任がない場合に誰がどの根拠で請求できるか,取得できる不動産の範囲及び必要書類は,固定資産評価証明書を所有者以外が取得できる場合-請求できる人,資格及び必要書類で整理している。

3 名寄帳は固定資産課税台帳に基づいて作られる

(続きを読む...)固定資産評価証明書と名寄帳の違い-相続・登記・訴訟での使い分け(AI作成)

養子縁組前の子と兄弟姉妹の代襲相続―「共通する親の直系卑属」と最高裁令和6年11月12日判決(AI作成)

被相続人より先に兄弟姉妹が死亡していても,その子であるおい・めいが常に代襲相続人になるわけではありません。最高裁令和6年11月12日第三小法廷判決は,おい・めいが「被相続人とその兄弟姉妹の共通する親の直系卑属」でない場合には,兄弟姉妹を代襲して相続人になることができないと判断しました。

この問題は,死亡した兄弟姉妹が被相続人の親と養子縁組をし,その兄弟姉妹に縁組前から子がいた場合に生じます。戸籍を読む際には,死亡の先後だけでなく,養子縁組日と子の出生年月日を対照する必要があります。

第1 最高裁令和6年11月12日判決の結論
第2 判決の事案
第3 兄弟姉妹の代襲相続と養子縁組の法的関係

1 兄弟姉妹の子が代襲する基本ルール
2 養子縁組による親族関係は縁組の日から生じる
3 「共通する親の直系卑属」の意味

第4 縁組日と出生日の組合せ
第5 戸籍・相続登記・法定相続情報一覧図の確認方法
第6 相続放棄を検討するときの注意
第7 判決の射程と実務上の注意
第8 出典・参考資料

第1 最高裁令和6年11月12日判決の結論

最高裁令和6年11月12日第三小法廷判決(令和5年(行ヒ)第165号,民集78巻6号1377頁)は,次のように判断しました。

被相続人とその兄弟姉妹の共通する親の直系卑属でない者は,被相続人の兄弟姉妹を代襲して相続人となることができない。

したがって,戸籍上「死亡した兄弟姉妹の子」であることだけでは足りません。その子が,被相続人と兄弟姉妹を結び付ける共通の親から見ても直系卑属であるかを確認する必要があります。

第2 判決の事案

判決で問題となった親族関係は,次のようなものでした。

(続きを読む...)養子縁組前の子と兄弟姉妹の代襲相続―「共通する親の直系卑属」と最高裁令和6年11月12日判決(AI作成)

敷地権の登記がないマンションの相続登記―土地の共有持分と専有部分,登記の目的,課税価格及び登記事項証明書(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 本記事の対象2 結論第2 敷地権とは1 敷地権の意味2 敷地権の登記があるときの効力3 敷地権の登記がないのはどのような場合か4 敷地権の登記の有無の確かめ方第3 登記記録の読み方と登記事項証明書の取り方1 建物の登記記録2 土地の登記記録3 登記事項証明書の種類4 敷地が複数の筆にわたる場合第4 申請書の書き方1 登記の目的2 不動産の表示3 相続人が複数いる場合4 敷地権付き区分建物との比較第5 課税価格と登録免許税1 税率と端数処理2 土地は持分の価格3 どの年度の価格を使うか4 計算例5 土地の免税措置第6 添付情報第7 遺言書と遺産分割協議書の注意点1 土地の共有持分も漏れなく記載する2 遺言書に持分の記載がない場合第8 関連記事第9 出典1 法令2 法務省・法務局の資料
第1 本記事の対象と結論
1 本記事の対象

本記事は,マンション(区分建物)の専有部分と,その敷地の共有持分を相続した場合に,建物の登記記録に「敷地権」の登記がないときの相続登記の申請方法を扱う。
敷地権の登記があるマンションでは,建物について相続登記をすれば敷地の権利にも効力が及ぶので,申請書は建物一つ分で足りる。
これに対し,敷地権の登記がないマンションでは,建物と土地が別々の登記記録になっており,土地の共有持分についても相続登記をしなければならない。
調査基準日は令和8年9月26日である。
条文はe-Gov法令検索で,法務局の資料は原本を取得して確認した。

2 結論

①敷地権の登記がないマンションでは,専有部分の建物と,敷地の土地の共有持分の両方について相続登記を申請する。
②被相続人が建物を単独で所有し,土地を共有持分で有していた場合,一つの申請書で申請するときの登記の目的は「所有権移転及び○○持分全部移転」とする(○○は被相続人の氏名)。
③土地については,不動産の表示に移転する持分を書く。
④登録免許税の課税価格は,土地については持分の価格であり,建物の価格と合計して1000円未満を切り捨てる。
⑤昭和59年1月1日より前からある専有部分は,法務大臣の指定がない限り,規約で分離して処分することができると定められたものとみなされたため,敷地権の登記がないことがある。
⑥共有者が多い土地の登記事項証明書は頁数が多くなるので,被相続人の持分を確かめるには,所有者証明書や何区何番事項証明書も使える。
⑦遺言書や遺産分割協議書では,建物だけでなく土地の共有持分も漏れなく記載する。

第2 敷地権とは
1 敷地権の意味

区分所有法22条1項は,敷地利用権が数人で有する所有権その他の権利である場合には,区分所有者は,その有する専有部分とその専有部分に係る敷地利用権とを分離して処分することができないと定める。
ただし,規約に別段の定めがあるときは,この限りでない(同項ただし書)。

不動産登記法は,区分建物の敷地利用権(登記されたものに限る。)で,区分所有法22条1項本文により専有部分と分離して処分することができないものを「敷地権」といい,建物の表示に関する登記の登記事項としている(不動産登記法44条1項9号)。
登記官は,区分建物の表題部に敷地権を最初に登記するときは,敷地の土地の登記記録に,職権で,その権利が敷地権である旨の登記をする(同法46条)。

2 敷地権の登記があるときの効力

敷地権付き区分建物についての所有権に係る権利に関する登記は,敷地権である旨の登記をした土地の敷地権についてされた登記としての効力を有する(不動産登記法73条1項本文)。
そのため,敷地権の登記があるマンションを相続したときは,建物について相続登記を一件申請すれば,敷地権についても登記がされたのと同じ効力が生じる。
敷地権である旨の登記をした土地には,原則として敷地権の移転の登記をすることができないので(同条2項本文),土地の登記記録に個々の区分所有者の持分移転の登記が重ねられることはない。

3 敷地権の登記がないのはどのような場合か

敷地権は,登記された敷地利用権で,専有部分と分離して処分することができないものに限られる(第2の1)。
そのため,敷地利用権が登記されていない場合や,規約で分離して処分することができると定めている場合には,敷地権の登記はされない。

古いマンションで敷地権の登記がないことが多いのは,昭和58年の区分所有法の改正の経過措置による。

(続きを読む...)敷地権の登記がないマンションの相続登記―土地の共有持分と専有部分,登記の目的,課税価格及び登記事項証明書(AI作成)

弁護士が遺言執行者に就任した後の預貯金・国債・年金保険の手続―就任通知・財産目録,口座の照会と取引経過,ゆうちょ銀行の流れ,非課税貯蓄の死亡届出及び報酬の精算(AI作成)

目次第1 この記事の対象と確認の方法1 対象2 確認の方法と結論の要旨第2 就任直後の法律上の義務1 任務の開始,相続人への通知及び財産目録2 権利義務,委任規定の準用及び行為の効果3 特定財産承継遺言と預貯金の払戻し・解約4 相続人の処分の制限(民法1013条)第3 金融機関への連絡・照会と口座の停止1 死亡の連絡で口座が止まること2 口座の照会と取引経過の開示3 遺言執行者が手続をするときの書類第4 ゆうちょ銀行の相続手続の流れ1 六つのステップ2 相続確認表,必要書類及び払戻金の受取方法3 民営化前の郵便貯金第5 個人向け国債1 相続人の口座への移管と中途換金の特例第6 非課税貯蓄(マル優・特別マル優)の死亡届出1 非課税貯蓄者死亡届出書2 死亡後の利子の課税第7 年金保険(保証期間付きの個人年金)1 年金受取人が死亡した場合の手続2 相続税と所得税の扱い第8 報酬・執行費用の精算と執行の終了1 遺言執行者の報酬2 執行費用3 執行の終了と報告第9 実務チェックリスト1 就任から精算までの確認事項第10 関連記事第11 出典1 法令2 裁判例3 官公庁・金融機関の公表資料4 弁護士会の告示
第1 この記事の対象と確認の方法
1 対象
(1) 弁護士個人が遺言執行者として金融機関とやり取りする場面

本記事は,遺言で指定され,又は家庭裁判所で選任されて遺言執行者に就任した弁護士が,被相続人名義の預貯金,個人向け国債及び年金保険について金融機関とやり取りする場面を扱う。
読者として想定しているのは,遺言執行者に就任した弁護士その他の専門家と,遺言執行者に手続を任せる相続人及び受遺者である。
信託銀行が遺言執行者に就任した場合の流れは,信託銀行が遺言執行者に就任した後の手続とスケジュールで扱っている。

(2) この記事で扱わないこと

遺言の文言が「任せる」「託す」のようにあいまいで,金融機関が払戻しに応じない場面は,「任せる」「託す」と書かれた遺言は有効か―遺言の解釈の基準,有効・無効とされた裁判例,金融機関が払戻しを拒んだ場合の対応及び作成時の注意で扱う。
相続人の代理人として銀行口座の相続手続をする場面は,弁護士が代理人として被相続人の銀行口座の相続手続をする方法で扱っている。
証券口座の株式・投資信託は,遺言執行者が相続株式・有価証券を売却して分配する際の実務上の問題点に譲る。
遺言書を発見した後の検認の要否,遺言執行者の就任・選任,財産別手続及び遺言どおりに執行できない場合を含む全体像は,遺言書の執行とは―見つけた後の検認,遺言執行者,財産別の手続及び執行できない場合を参照されたい。

2 確認の方法と結論の要旨
(1) 確認の方法と資料の性質

令和8年9月26日に,民法,家事事件手続法,所得税法,同法施行令,租税特別措置法,同法施行令及び相続税法の条文をe-Gov法令検索(法令API)で取得し,平成30年法律第72号の附則は民法の附則として取得した。
裁判例は,裁判所HPの裁判例検索で書誌,判示事項及び裁判要旨を確認し,判決全文のPDFを読んだものだけを挙げる。
金融機関の手続は,同日時点の各金融機関の公式ページ及び公式ページに掲載されたPDFの記載だけを書き,各ページのURLを本文と出典に示す。
金融機関の手続は予告なく変わることがあるので,以下の記載は令和8年9月26日時点のものであり,着手の際には各金融機関の案内を取り直す必要がある。

(2) 結論の要旨

①遺言執行者は,就職を承諾したら直ちに任務を開始し,遅滞なく遺言の内容を相続人に通知し,相続財産の目録を作成して相続人に交付しなければならない(民法1007条,1011条1項)。
②特定財産承継遺言の目的が預貯金債権であれば,遺言執行者は払戻しを請求でき,預貯金債権の全部が目的であれば解約の申入れもできる(民法1014条3項)が,令和元年7月1日(施行日)前にされた遺言には同条2項から4項までは適用されない(平成30年法律第72号附則8条2項)。
③ゆうちょ銀行,三井住友銀行,みずほ銀行及び三菱UFJ銀行の公式ページには,名義人の死亡の連絡を受けると口座の入出金を止める旨の記載がある。
④共同相続人の一人は,被相続人名義の預金口座の取引経過の開示を単独で求めることができる(最高裁平成21年1月22日判決)が,遺言執行者自身の開示請求権について判断した最高裁判例は確認できなかった。
ただし,三菱UFJ銀行,三井住友銀行及びみずほ銀行の公式ページは,遺言執行者を取引明細等の証明書の依頼者として挙げている。
⑤非課税貯蓄(障害者等のマル優・特別マル優)の預金者が死亡したときは,相続人が非課税貯蓄者死亡届出書を金融機関に提出する(所得税法施行令46条1項)。
死亡後に支払を受けるべき利子のうち死亡した日までの期間に対応する部分を超える利子には,原則として非課税の規定が適用されない(所得税基本通達10-21)。
⑥報酬は,遺言に定めがあればそれにより,定めがなければ家庭裁判所が定めることができる(民法1018条1項,家事事件手続法別表第一の105項)。

第2 就任直後の法律上の義務
1 任務の開始,相続人への通知及び財産目録
(1) 任務の開始と通知(民法1007条)

(続きを読む...)弁護士が遺言執行者に就任した後の預貯金・国債・年金保険の手続―就任通知・財産目録,口座の照会と取引経過,ゆうちょ銀行の流れ,非課税貯蓄の死亡届出及び報酬の精算(AI作成)

「任せる」「託す」と書かれた遺言は有効か―遺言の解釈の基準,有効・無効とされた裁判例,金融機関が払戻しを拒んだ場合の対応及び作成時の注意(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 本記事の対象2 結論第2 遺言の解釈の基準1 最高裁昭和58年3月18日判決2 遺言で定められる事項は法律で決まっている3 文言の本来の意味第3 遺贈又は承継の趣旨と解された裁判例1 大阪高裁平成25年9月5日判決(「全てまかせます」)2 東京地裁令和2年11月16日判決(「すべて委託します」)3 東京地裁令和4年11月10日判決(「すべてたくします」)第4 遺言としての効力が否定された裁判例1 大阪高裁令和3年11月5日判決(「全てをまかせる」)2 東京地裁平成15年10月23日判決(手紙形式の書面)3 東京地裁令和4年4月28日判決(「託します」)第5 一部だけ無効とされた裁判例1 東京地裁平成15年3月25日判決(遺産の分配を一任する条項)第6 結論を分けた事情1 判断に用いられた事情の一覧2 読み方の注意第7 金融機関が払戻しを拒んだ場合の対応1 金融機関の立場2 相続人全員の了解を書面で得る3 払戻請求訴訟を起こす4 遺言執行者の選任を申し立てる5 払戻しを受けた後に遺言の効力が否定される危険第8 遺言を作る側の注意1 「遺贈する」又は「相続させる」と書く2 対象財産と相手方を特定する3 遺言執行者を指定し,権限を書く4 公正証書遺言又は法務局保管を検討する第9 関連記事第10 出典1 法令2 裁判例
第1 本記事の対象と結論
1 本記事の対象

本記事は,自筆証書遺言に「財産を○○に任せる」「全てまかせます」「すべてたくします」「すべて委託します」のように,財産を与えるのか,管理や処理を頼むだけなのかがはっきりしない言葉が書かれている場合に,その遺言がどのように解釈されるかを扱う。
あわせて,このような遺言を示しても金融機関が預貯金の払戻しに応じない場合の対応と,遺言を作る側の注意点を整理する。
調査基準日は令和8年9月26日である。
条文はe-Gov法令検索で確認し,最高裁判例は裁判所ウェブサイトで確認した。
下級審の裁判例はいずれも裁判所ウェブサイトに掲載されていないため,判例秘書で判決文を確認した。

2 結論

①遺言の解釈では,文言を形式的に判断するだけでなく,遺言書の全記載との関連,遺言書作成当時の事情及び遺言者の置かれていた状況などを考慮して,遺言者の真意を探究する(最高裁昭和58年3月18日判決)。
②「任せる」「託す」「委託する」は,言葉の本来の意味では「頼む」「預ける」に近く,それだけで財産を与える意味になるわけではない。
③それでも,遺言者と相手方の関係,世話の実情,生前の言動,遺言書のほかの記載等から,財産の全部又は預貯金を遺贈する趣旨,又は相続させる趣旨と解された裁判例が複数ある(大阪高裁平成25年9月5日判決,東京地裁令和2年11月16日判決,東京地裁令和4年11月10日判決)。
④他方で,財産や死後に関する言葉が無く,「二代目」と宣言したメモや,生前の財産管理等を任せる念書である可能性が残るとして,遺言として無効とされた裁判例もある(大阪高裁令和3年11月5日判決)。
⑤遺言として有効でも,遺産の分配方法を一任する旨の条項が遺産分割の方法の指定の委託と解され,委託の相手が包括受遺者であったために,その部分だけ無効とされた裁判例もある(東京地裁平成15年3月25日判決)。
⑥金融機関は,このような遺言だけでは払戻しに応じないことがある。
相続人全員の了解を書面で得るか,受遺者等が金融機関を被告として払戻請求訴訟を起こすこと等が考えられる。
⑦遺言を作る側は,「遺贈する」又は「相続させる」と書き,対象財産と遺言執行者を明記すれば,このような解釈の争いを避けやすくなる。

第2 遺言の解釈の基準
1 最高裁昭和58年3月18日判決

最高裁昭和58年3月18日第二小法廷判決(昭和55年(オ)第973号,集民138号277頁)について,裁判所ウェブサイトに掲載された裁判要旨は,次のとおりである。
「遺言の解釈にあたつては、遺言書の文言を形式的に判断するだけでなく、遺言者の真意を探究すべきものであり、遺言書の特定の条項を解釈するにあたつても、当該条項と遺言書の全記載との関連、遺言書作成当時の事情及び遺言者の置かれていた状況などを考慮して当該条項の趣旨を確定すべきである。」
本記事で紹介する大阪高裁平成25年9月5日判決と大阪高裁令和3年11月5日判決はこの判決を参照しており,東京地裁の令和2年11月16日判決,令和4年11月10日判決及び平成15年3月25日判決も同じ趣旨の一般論を述べたうえで判断している。

2 遺言で定められる事項は法律で決まっている

遺言は,法律が定める事項についてだけ効力を持つ。
財産に関して遺言でできる主なことは,次のとおりである。
①包括又は特定の名義で財産の全部又は一部を処分すること,すなわち遺贈(民法964条)
②共同相続人の相続分を定め,又はこれを定めることを第三者に委託すること(民法902条1項)
③遺産の分割の方法を定め,若しくはこれを定めることを第三者に委託すること(民法908条1項)
④遺言執行者を指定し,又はその指定を第三者に委託すること(民法1006条1項)
なお,遺産の分割の方法の指定として特定の財産を共同相続人に承継させる遺言は,民法1014条2項で「特定財産承継遺言」と呼ばれている。

(続きを読む...)「任せる」「託す」と書かれた遺言は有効か―遺言の解釈の基準,有効・無効とされた裁判例,金融機関が払戻しを拒んだ場合の対応及び作成時の注意(AI作成)

相続させる遺言に基づく相続登記を弁護士が代理する方法―申請人の選び方,添付情報,委任状,登記識別情報及び国籍等の申出(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 本記事の対象2 結論第2 登記申請の前提となる法律関係1 相続開始時に直ちに承継する2 登記をしなければ第三者に対抗できない3 申請義務と期限4 遺言の作成日で遺言執行者の権限が分かれる第3 弁護士が登記申請を代理できる根拠1 弁護士法3条1項と司法書士法73条1項2 東京高裁平成7年11月29日判決3 法務省の取扱いと実務上の注意第4 誰を申請人とするか1 受益相続人の単独申請を弁護士が代理する方法2 遺言執行者が申請する方法3 二つの方法の比較第5 受任したときに確認すること1 遺言書2 受益者と相続関係3 不動産の特定と登記記録4 他の相続人が先に登記をしていないか第6 添付情報1 添付情報の一覧2 出生から死亡までの戸籍は要らない3 原本の還付第7 申請書の書き方1 受益相続人の単独申請を弁護士が代理する場合2 遺言執行者が申請する場合第8 委任状の書き方1 委任事項2 押印と印鑑証明書3 登記識別情報を受け取るための特別の委任第9 登録免許税1 税率と計算2 免税措置は申請書に書かないと受けられない第10 申請の方法1 書面申請2 オンライン申請(特例方式)第11 登記が完了した後第12 関連記事第13 出典1 法令2 裁判例3 法務省・法務局の資料4 その他
第1 本記事の対象と結論
1 本記事の対象

本記事は,特定の不動産を特定の相続人に「相続させる」旨の遺言(民法1014条2項の特定財産承継遺言)がある場合に,その不動産の相続による所有権移転登記を,弁護士が代理人として申請する方法を扱う。
以下,遺言によって不動産を取得した相続人を「受益相続人」という。
調査基準日は令和8年9月26日である。
条文はe-Gov法令検索で,最高裁判例は裁判所ウェブサイトで全文を確認し,東京高裁平成7年11月29日判決は判例秘書で全文を確認した。
申請書・委任状の記載は,法務局が公表している記載例を基礎にしている。

「相続させる」遺言の性質,判例の流れ及び遺言執行者の権限の実体法上の整理は,相続させる遺言と特定財産承継遺言――違い,効力,登記及び遺言執行者の権限で扱っている。
本記事は,その整理を前提に,登記申請の実務に絞って説明する。

本記事の申請書・委任状の説明は,遺言で指定された受益相続人が遺言どおりに不動産を取得する場合を対象とする。相続人全員が最初の協議で別の相続人を取得者とする場合は,協議の民事上の効力と登記原因・申請経路を別に確認する必要があり,本記事の記載例をそのまま使えない。特定財産承継遺言と異なる最初の全員協議の登記原因と課税関係では,さいたま地裁平成14年2月7日判決の射程と税務上の未確定事項を整理した。

2 結論

①弁護士は,弁護士法3条1項に基づき,相続登記の申請を代理人として行うことができる。
②弁護士が関与する申請の形は,受益相続人の単独申請を任意代理する方法,弁護士自身が遺言執行者として申請する方法,遺言執行者から委任を受けて申請する方法の三つである。
③遺言執行者による申請は,令和元年7月1日以後に作成された遺言に限られる。
④添付情報は,遺言書,被相続人の死亡の記載のある戸籍,受益相続人が相続人であることが分かる戸籍,住民票の写し,委任状等であり,被相続人の出生から死亡までの戸籍は要らない。
⑤委任状には受益相続人の記名押印が要るが,印鑑証明書は要らない。
⑥登記識別情報を弁護士が受け取るには,委任状に受領の特別の委任を書く。
⑦令和8年10月5日以後に申請する場合は,受益相続人の「国籍等」も申請情報とし,国籍等を証する情報を提供する。

第2 登記申請の前提となる法律関係
1 相続開始時に直ちに承継する

最高裁平成3年4月19日第二小法廷判決(平成元年(オ)第174号,民集45巻4号477頁)は,特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」趣旨の遺言は,遺贈と解すべき特段の事情がない限り,遺産分割の方法を指定したものと解すべきであるとした。
そして,特段の事情のない限り,何らの行為を要せずして,被相続人の死亡の時に直ちに相続により承継されるとした。
そのため,登記原因は「相続」であり,原因日付は,遺言書の作成日ではなく,被相続人の死亡日である。

登記実務は,平成3年判決より前から,特定の不動産を特定の相続人に「相続させる」旨の遺言書を添付してする「相続」を原因とする所有権移転登記の申請を認めていたとされる(昭和47年4月17日民事甲第1442号民事局長通達とされるもの。遺産分割の方法を指定する旨の遺言公正証書を添付した申請についても,昭和47年8月21日民事甲第3565号民事局長回答があるとされる。)。
本記事では,この2件の原典を確認できておらず,司法書士事務所のウェブサイトにおける紹介によっている。
同じウェブサイトは,この形の遺言は,遺産分割協議を経ずに特定の遺産を特定の相続人に承継させたいという遺言者の要望に応えるため,公証実務で考案されたものと説明している。
いずれにしても,受益相続人は,遺産分割協議書を添付することなく,遺言書を添付して単独で相続登記を申請することができる。

2 登記をしなければ第三者に対抗できない

民法899条の2第1項は,相続による権利の承継は,遺産の分割によるものかどうかにかかわらず,法定相続分を超える部分については,登記その他の対抗要件を備えなければ第三者に対抗することができないと定める。

(続きを読む...)相続させる遺言に基づく相続登記を弁護士が代理する方法―申請人の選び方,添付情報,委任状,登記識別情報及び国籍等の申出(AI作成)

法定相続情報一覧図の申出書の書き方と窓口持参―郵送交付・原本返却・代理人申出(AI作成)

目次第1 申出書・一覧図・添付書面を分けて考える第2 申出先の法務局を選ぶ第3 申出書を書く1 申出人・被相続人・利用目的2 必要通数と受取方法3 日付と一覧図の作成日第4 窓口持参と郵送交付を区別する1 申出方法と受取方法は別に選ぶ2 窓口持参・郵送交付の場合3 窓口受取の場合第5 戸籍等の原本と本人確認資料をそろえる1 戸籍・除籍・住民票等2 申出人の本人確認資料3 返却される書類と返却されない書類第6 弁護士等が代理して申し出る場合第7 任意の戸籍チェック表を付ける場合1 法定の添付書面ではない2 記載する内容3 記載しない内容と綴じる位置第8 窓口へ持参する前の点検表第9 出典・参考資料

法定相続情報一覧図の申出では、法務局へ書類を持参する方法と、審査後に一覧図の写し及び戸籍等の返却を郵送で受ける方法とを組み合わせることができる。
申出書の「窓口で受取・郵送」は、申出書をどう提出するかではなく、完成後の一覧図の写しと返却書類をどう受け取るかを選ぶ欄である。

本記事は、令和8年9月25日現在の不動産登記規則、法務局の現行申出書及び手続案内を前提に、窓口へ持参する場合の申出書の書き方、原本、本人確認、代理人書類及び任意の戸籍チェック表を整理する。
一覧図そのものの作り方は「法定相続情報一覧図の作成方法―戸籍謄本の読み方と相続人の確認」、前婚の子がいる場合は「前妻・前夫との子がいる場合の法定相続情報一覧図」を参照されたい。

第1 申出書・一覧図・添付書面を分けて考える

申出時に提出する書類は、大きく分けると、①法定相続情報一覧図の保管及び交付の申出書、②申出人又は代理人が作成した法定相続情報一覧図、③戸除籍謄本、住民票の除票、相続人の戸籍、本人確認資料等の添付書面である。
法務局は、戸籍の束を受け取って一から一覧図を作るのではなく、申出人側が作った一覧図と添付書面を照合する。

不動産登記規則247条は、申出書の記載事項と添付書面を定めている。
そのため、提出用の一覧図には法定の記載事項を記載し、戸籍の読み方、疑問点、相続分の計算、遺産分割の方針等を記した内部メモとは分ける。

法定相続情報一覧図は、戸籍上の法定相続関係を証明する制度であり、遺産分割の結果、相続放棄の有無、遺言の内容又は各財産の取得者まで証明するものではない。
利用先によっては、一覧図の写し以外に遺産分割協議書、相続放棄申述受理証明書、印鑑証明書等が必要になる。

第2 申出先の法務局を選ぶ

申出は、次のいずれかの地を管轄する登記所にすることができる(不動産登記規則247条1項)。

被相続人の死亡時の本籍地被相続人の最後の住所地申出人の住所地被相続人名義の不動産の所在地

被相続人名義の不動産所在地を選ぶ場合は、申出書に不動産所在事項又は不動産番号を記載する。
最寄りの法務局であれば常に受け付けられるわけではないので、上記4類型のいずれに基づく申出かを決め、管轄を確認する。

窓口へ持参する場合でも、法務局によっては手続案内や受付の予約を案内していることがある。
予約の要否、受付時間、交付までのおおよその日数は、申出先の登記所へ事前に確認するとよい。

(続きを読む...)法定相続情報一覧図の申出書の書き方と窓口持参―郵送交付・原本返却・代理人申出(AI作成)

清算型遺言の清算金から信託を設定する場合―遺言執行者・受託者・受益者の役割,受託者への引渡し,代替条項及び課税(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論1 この記事の対象と基準日2 結論の要約第2 「遺言信託」という言葉の二つの意味1 銀行サービスとしての遺言信託2 財産管理制度としての信託第3 信託を設定する方法と時期1 生前に設定した信託へ拠出する場合2 遺言による信託(信託法3条2号)の場合3 相続開始後に信託契約を締結する場合4 受託者となるべき者が引き受けない場合第4 遺言執行者・受託者・受益者の役割1 三者の根拠と任務2 同じ者が遺言執行者と受託者を兼ねる場合第5 相続開始から完了報告までの手順1 遺言執行者の就職と受託者の引受けの確認2 預貯金・有価証券の換価3 費用・債務・税金の留保額の確定4 受託者への指定額の引渡し5 残額の分配6 引継資料・通知・完了報告第6 遺言を作成するときに置いておく条項1 信託銀行が就職又は受託を辞退した場合の代替条項2 清算金が不足する場合の減額順序3 受益者の先死亡と判断能力の低下4 信託の終了と残余財産の帰属5 受益者が受益権を放棄する場合の代替条項第7 課税と信託業法1 信託に関する権利の相続税2 国税庁の質疑応答事例の位置付け3 換価による譲渡所得4 受託者と信託業法5 受益権放棄後の課税関係第8 出典1 法令2 裁判例3 所管行政機関の資料4 業界団体の解説・文献
第1 この記事の対象と結論
1 この記事の対象と基準日
(1) 想定する遺言

本記事は,遺言者が遺産を換価し,費用及び債務を支払った後の金銭(以下「清算金」という。)のうち一定額を信託の財産とし,残額を相続人又は受遺者に分配するよう定めた遺言を扱う。
例えば,「遺言執行者は,遺言者の預貯金及び有価証券を換価し,その換価金から遺言者の債務,遺言執行費用及び遺言執行者の報酬を控除した残額のうち,第○条に定める額をBに信託する。Bは,これをCの生活費等に充てるため管理し,Cに給付する。残額は,D及びEに各2分の1の割合で取得させる。」という形の遺言である(本記事で作成した一般的な例である)。
清算型遺言一般の実現方法,信託銀行が遺言執行者への就職を辞退した場合の手続及び換価による譲渡所得の帰属は,清算型遺言(財産を換金して分ける遺言)の実現方法で扱っており,本記事は,清算金の一部を信託へ回す場合に固有の問題を取り上げる。

(2) 資料と基準日

本記事は,令和8年9月25日時点でe-Gov法令検索に掲載されている信託法,民法,相続税法,信託業法等の条文,裁判所ウェブサイトに掲載された最高裁判所の判決,国税庁の質疑応答事例及び信託協会の公開資料に基づいて整理したものであり,AIを用いて作成した。
条文の文言から直接導けない部分は,「本記事では~と整理する」「~と考えられる」という形で示す。

2 結論の要約

①信託銀行が商品名として用いる「遺言信託」は,遺言書の保管や遺言の執行を中心とするサービスであり,その契約だけで信託法上の信託が設定されるわけではない。
②遺言で信託を設定する場合(信託法3条2号),信託は遺言の効力の発生によって効力を生ずる(同法4条2項)から,遺言執行者が受託者へ送金することは信託を成立させる行為ではなく,信託財産となる金銭を受託者に移転する遺言の執行である。
③受託者に指定された者は引受けを義務付けられず,引受けの催告に確答しなければ引受けをしなかったものとみなされる(信託法5条2項)から,予備的な受託者を遺言で定めておくことが考えられる。
④遺言執行者は,換価,費用・債務・税金の留保額の確定,受託者への引渡し及び残額の分配の順に執行し,計算書,振込記録,受領書及び完了報告を残す。
⑤清算金が予定額に足りない場合の減額順序,受益者の先死亡と判断能力の低下,信託の終了事由及び残余財産の帰属は,遺言で定めておかないと法律の補充規定や解釈に委ねられる。
⑥遺言による信託の受益者は,信託に関する権利を遺言者から遺贈により取得したものとみなされる(相続税法9条の2第1項)。

第2 「遺言信託」という言葉の二つの意味
1 銀行サービスとしての遺言信託

信託協会の解説ページは,「遺言信託」を,信託銀行等が遺言書作成の相談から遺言書の保管,遺言の執行までの相続手続を支援するサービスとして説明している。
このサービスの中核である遺言の執行は,金融機関の信託業務の兼営等に関する法律(以下「兼営法」という。)1条1項4号が,認可を受けた金融機関の営むことができる業務として掲げる「財産に関する遺言の執行」に当たる。
そのため,信託銀行と「遺言信託」の契約をしただけでは,遺言者の財産が受託者に移るわけではなく,信託法上の信託財産や受益権は生じない。
信託銀行の遺言信託を利用するときの費用や辞退の問題は,信託銀行の遺言信託を利用する遺言者と家族の注意事項で扱っている。

2 財産管理制度としての信託

信託法2条1項は,信託を,同法3条各号の方法により,特定の者が一定の目的に従い財産の管理又は処分等をすべきものとすることと定義している。
信託財産は受託者に属する財産であり(同法2条3項),受託者は信託行為の定めに従い信託財産の管理又は処分等をすべき義務を負い(同条5項),受益者は受益権を有する(同条6項・7項)。
本記事で「信託」というときは,この信託法上の信託を指す。
銀行サービス,遺言による信託及び遺言代用信託の違い全般は,遺言信託の記事で説明している。

第3 信託を設定する方法と時期
1 生前に設定した信託へ拠出する場合

(続きを読む...)清算型遺言の清算金から信託を設定する場合―遺言執行者・受託者・受益者の役割,受託者への引渡し,代替条項及び課税(AI作成)

遺言書を開示した信託銀行はいつ遺言執行者に就任するのか―指定,死亡通知,就職の審査,就職通知及び任務開始の違い(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論1 この記事の対象2 結論第2 指定から執行完了までの5段階1 5段階の整理2 信託銀行の公開案内での書き方第3 就職の承諾が任務開始の基準となること1 民法1007条の定め2 開示や資料提出は就職の承諾を意味しないこと第4 就職の承諾前でも相続人の処分は制限されること1 最高裁昭和62年4月23日判決2 承諾前でも制限される理由3 現行民法1013条2項ただし書4 制限が及ぶ範囲第5 相続人側が確認し,働きかけられること1 日付を分けて確認する2 民法1008条の催告3 辞退された場合の家庭裁判所による選任4 就職後の辞任には家庭裁判所の許可が必要であること第6 出典1 法令2 裁判例3 法務省の公表資料4 文献5 信託銀行及び業界団体の公開案内
第1 この記事の対象と結論
1 この記事の対象

信託銀行の遺言信託を利用した遺言者が亡くなると,信託銀行は保管していた遺言書を相続人等に開示し,その後,遺言執行者として相続手続を進めるのが一般的な流れである。
もっとも,遺言書で信託銀行が遺言執行者に指定されていても,遺言書を開示した時点で,その銀行が遺言執行者として任務を開始しているとは限らない。
本記事は,信託銀行がいつ遺言執行者に就任するのかを,民法の用語である「就職」を用いて,遺言書での指定,死亡連絡と遺言書の開示,就職の審査,就職の承諾と通知及び任務の遂行という段階に分けて説明する。
本記事は,令和8年9月25日時点でe-Gov法令検索に掲載されている民法の条文,裁判所ウェブサイトに掲載された最高裁判所の判決,法務省の公表資料,立案担当者の解説書並びに信託銀行及び信託協会の公開案内に基づいて作成した。

2 結論

遺言執行者として任務を行う義務が生じる基準は,遺言書の開示ではなく,指定された者が就職を承諾した時である(民法1007条1項)。
他方で,相続人が相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができないという制限(民法1013条1項)について,最高裁判所は,指定された者が就職を承諾する前であっても及ぶとしている(最高裁昭和62年4月23日第一小法廷判決)。
そのため,遺言書の開示から就職の承諾までの間は,信託銀行がまだ遺言執行者として執行事務を始めていない一方で,相続人も遺言の内容に反する処分を自由にはできない期間となる。
相続人側は,遺言書の開示日,就職を承諾した日,就職通知書の日付及び遺言の内容の通知を別々に確認し,就職の判断が長引く場合には民法1008条の催告を検討することになる。

第2 指定から執行完了までの5段階
1 5段階の整理

信託銀行が遺言執行者に指定された場合の流れを,本記事では次の5段階に整理する。
このうち②と③は,指定された信託銀行が就職を承諾する前の段階である。

段階主な出来事民法上の位置付け相続人側が確認すること①遺言書で指定遺言者が公正証書遺言で信託銀行を遺言執行者に指定し,銀行が遺言書を保管する遺言で遺言執行者を指定することができる(1006条1項)。遺言の効力は遺言者の死亡の時から生ずる(985条1項)遺言書の写し,遺言信託の約定書②死亡連絡・遺言開示通知人が死亡を連絡し,銀行が相続人等に遺言書を開示する就職の承諾前。ただし,相続人の処分の制限(1013条)は既に及ぶ開示を受けた日,開示を受けた相続人等の範囲③就職の審査相続人の確定,財産の変動,遺言内容の実現可能性を銀行が調査する就職の承諾前。承諾するか辞退するかの判断過程審査の見込み期間,提出を求められた資料④就職承諾・就職通知銀行が就職を承諾し,相続人に就職を通知する承諾により直ちに任務を行う義務が生じ(1007条1項),任務の開始時に遅滞なく遺言の内容を通知する(同条2項)就職を承諾した日,通知書の日付,遺言の内容の記載の有無⑤財産調査・換価・分配・完了報告財産調査,財産目録の作成・交付,換価・名義変更・分配,完了の報告財産目録の作成・交付(1011条1項),遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務(1012条1項)財産目録,執行の対象となる財産の範囲,費用

表の各段階は,次の2で紹介する信託銀行の公開案内に記載された流れを,民法の条文に対応させて並べたものである。
銀行ごとの手続の細部や所要期間は,遺言信託の約定書及び銀行からの個別の案内で確認することになる。
就職した後の財産目録,換価・名義変更,税務等の具体的な進み方は,信託銀行が遺言執行者に就任した後の手続とスケジュールで説明している。
①の段階で遺言者と家族が確認しておくべき費用や辞退の条件は信託銀行の遺言信託を利用する遺言者と家族の注意事項で,⑤の段階で株式・投資信託等を売却して分配する際の問題は遺言執行者が相続株式・有価証券を売却して分配する際の実務上の問題点で扱っている。
遺言で清算金の一部を信託へ拠出するよう定めている場合は,遺言執行者の就職とは別に受託者の引受けも確認する必要があり,その手順は清算型遺言の清算金から信託を設定する場合で説明している。

2 信託銀行の公開案内での書き方
(1) 開示と就職を別の項目にしている例

三菱UFJ信託銀行の「遺言信託[遺心伝心]」の手続の流れの案内は,遺言の執行の段階として「ご逝去のご通知」,「遺言書の開示」,「遺言執行者への就職」及び「財産調査へのご協力」を順に別の項目として掲げている。
同案内は,通知人から逝去の通知を受けると相続人等関係者に保管している遺言書を開示するとした上で,就職については「相続人確定・財産変動等、遺言内容の実現性を調査・確認のうえ、遺言執行者に就職いたします。」と記載している。
この案内の上でも,遺言書の開示と遺言執行者への就職の間には,相続人の確定や遺言内容の実現性の調査という段階が置かれている。

(2) 開示と就任を一つの項目にまとめている例

三井住友信託銀行の遺言信託の案内は,「遺言書のご披露と遺言執行者就任」を一つの項目とし,遺言書の内容を相続人・受遺者に披露した「その後」に遺言執行者に就任すると記載している。
信託協会の遺言信託の案内も,相続開始後の流れとして,信託銀行等が遺言書の内容を相続人などに披露し,遺言執行者となって執行業務を始めることを一つの項目で説明している。

(続きを読む...)遺言書を開示した信託銀行はいつ遺言執行者に就任するのか―指定,死亡通知,就職の審査,就職通知及び任務開始の違い(AI作成)

死亡保険金が特別受益に準じて持戻しの対象となる「特段の事情」―最高裁平成16年10月29日決定と下級審の肯定例・否定例(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論1 この記事の対象2 結論の要約第2 最高裁平成16年10月29日決定1 事案2 判示3 特段の事情の考慮要素4 当てはめ第3 下級審の判断例1 肯定例①:保険金が遺産の総額とほぼ同額だった例2 肯定例②:婚姻期間の短い妻が保険金を受け取った例3 否定例:保険金が遺産の6%余りにとどまった例4 3件の比較第4 持戻しの対象となった場合の計算第5 周辺の論点1 遺留分との関係2 相続税の扱いとは別の問題である3 受取人の変更の時期と経緯第6 主張・立証の進め方1 持戻しを求める側2 持戻しを争う側3 生前に保険を使って特定の相続人へ多く残したいとき4 受取人変更の有効性自体が争われる場合第7 出典1 法令2 裁判例
第1 この記事の対象と結論
1 この記事の対象
(1) 問題となる場面

被相続人が自分を保険契約者・被保険者とし,相続人の一人を死亡保険金受取人とする生命保険に加入していた場合,受取人になった相続人だけが多額の保険金を受け取り,他の相続人との間に不公平が生じることがある。
遺産分割の場面で,他の相続人がその保険金を特別受益として持ち戻すべきだと主張することは多い。
本記事は,最高裁判所がこの問題について示した判断の枠組みと,その後に持戻しを認めた例・認めなかった例を整理する。

(2) 本記事の資料と基準日

本記事は,令和8年9月25日時点でe-Gov法令検索に掲載されている民法・相続税法の条文,裁判所ウェブサイトに掲載された最高裁判所の裁判例及び判例秘書で全文を確認した下級審の裁判例に基づいて整理したものである。
下級審の3件はいずれも裁判所ウェブサイトに掲載されていないので,判例秘書の判例番号を併記する。

2 結論の要約

死亡保険金請求権は,受取人の固有の権利であり,原則として民法903条1項の特別受益に当たらない。
ただし,保険金受取人である相続人と他の相続人との間の不公平が到底是認することができないほど著しいと評価すべき特段の事情があれば,同条の類推適用により,保険金が特別受益に準じて持戻しの対象となる。
特段の事情の有無は,保険金の額,その額の遺産の総額に対する比率,同居の有無や介護等への貢献の度合いなどの被相続人との関係,各相続人の生活実態等を総合して判断される。
下級審では,保険金が遺産の総額とほぼ同額であった例と,婚姻期間の短い妻の特別受益額が遺産の約61%に当たった例で持戻しが認められ,遺産の6%余りにとどまり,受取人が被相続人と長年同居して入通院の世話をしていた例では認められなかった。

第2 最高裁平成16年10月29日決定
1 事案

最高裁判所第二小法廷平成16年10月29日決定(平成16年(許)第11号,民集58巻7号1979頁)は,両親(決定文では甲・乙)の遺産分割について,子の一人が受け取った死亡保険金が特別受益に当たるかが争われた事案である。
遺産分割の対象として残っていた土地の評価額は,第1審の鑑定の結果によれば合計1149万円であった。
受取人となった子は,乙を保険契約者・被保険者とする2口の養老保険について,合計約574万円(500万2465円と73万7824円)の死亡保険金を受け取っていた。
この子は,甲・乙のために自宅を増築して甲・乙を住まわせ,認知症の状態になった甲の介護を乙が行うのを手伝っていた。
他の子らは,両親と同居していなかった。

2 判示

同決定は,被相続人が自己を保険契約者及び被保険者とし,共同相続人の一人又は一部の者を保険金受取人と指定して締結した養老保険契約に基づく死亡保険金請求権は,保険金受取人が自らの固有の権利として取得するのであって,保険契約者又は被保険者から承継取得するものではなく,これらの者の相続財産に属するものではないとした。
また,死亡保険金請求権は,被保険者が死亡した時に初めて発生するものであり,保険契約者の払い込んだ保険料と等価関係に立つものではなく,被保険者の稼働能力に代わる給付でもないから,実質的に保険契約者又は被保険者の財産に属していたものとみることはできないとした。
その上で,死亡保険金請求権又はこれを行使して取得した死亡保険金は,民法903条1項に規定する遺贈又は贈与に係る財産には当たらないとした。

もっとも,同決定は,保険料は被相続人が生前保険者に支払ったものであり,被相続人の死亡により保険金受取人である相続人に死亡保険金請求権が発生すること等に鑑み,「保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生ずる不公平が民法903条の趣旨に照らし到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合には,同条の類推適用により,当該死亡保険金請求権は特別受益に準じて持戻しの対象となると解するのが相当である。」とした。

3 特段の事情の考慮要素

同決定は,特段の事情の有無について,「保険金の額,この額の遺産の総額に対する比率のほか,同居の有無,被相続人の介護等に対する貢献の度合いなどの保険金受取人である相続人及び他の共同相続人と被相続人との関係,各相続人の生活実態等の諸般の事情を総合考慮して判断すべきである。」とした。
同居の有無と介護等への貢献の度合いは,被相続人との関係を示す事情の例として挙げられている。

(続きを読む...)死亡保険金が特別受益に準じて持戻しの対象となる「特段の事情」―最高裁平成16年10月29日決定と下級審の肯定例・否定例(AI作成)

余命宣告を受けた後に特定の相続人へ多くのお金を残す方法―一時払終身保険,遺言代用信託,生前贈与及び遺言の比較(非課税枠・特別受益・遺留分)(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論1 この記事の対象2 結論の要約第2 「生前に渡す」と「死亡時に渡す」の区別1 生前に渡す手段は贈与である2 死亡時に確実に渡す手段第3 終身保険を使う場合1 死亡保険金は受取人の固有の権利である2 相続税の非課税枠3 原則として特別受益に当たらない4 原則として遺留分の算定にも入らない5 余命宣告を受けた後に加入できるか6 既に加入している保険の受取人を変更する第4 遺言代用信託を使う場合1 仕組み2 相続税に非課税枠はない3 特別受益と遺留分4 遺言代用信託が向いている場面第5 生前贈与を使う場合1 暦年課税の贈与と加算期間2 相続時精算課税3 民法上の扱い第6 数値例による比較1 前提2 比較表第7 手段の選び方1 比較の一覧2 組合せの例3 余命宣告を受けた後に急ぐべきこと第8 出典1 法令2 裁判例3 所管行政機関の解説4 商品資料
第1 この記事の対象と結論
1 この記事の対象
(1) 問題となる場面

余命宣告を受けた人が,同居して介護をしてくれた子,障害のある子,配偶者等,特定の相続人に他の相続人より多くのお金を残したいと考えることがある。
その手段としては,終身保険(特に保険料を一度に払い込む一時払終身保険)の保険金受取人をその相続人にする方法,信託銀行の遺言代用信託(例えば三菱UFJ信託銀行の「ずっと安心信託」)を使う方法,生前贈与をする方法及び遺言を書く方法が考えられる。
本記事は,これらの手段を,相続税の非課税枠,特別受益,遺留分,余命宣告後に実際に利用できるか等の観点から比べる。

(2) 本記事の資料と基準日

本記事は,令和8年9月25日時点でe-Gov法令検索に掲載されている民法・保険法・相続税法・租税特別措置法・信託法の条文,裁判所ウェブサイトに掲載された最高裁判所の裁判例,判例秘書で確認した下級審の裁判例,国税庁のタックスアンサー並びに保険会社及び信託銀行が公表している商品資料に基づいて整理したものである。
商品の内容(加入年齢,金額の上限,手数料等)は改定されることがあるので,申込みの前に最新の約款と商品概要を確かめる必要がある。

2 結論の要約

特定の相続人に多く渡すことが目的であれば,保険に加入できる限り,被相続人が保険契約者・被保険者・保険料負担者となり,その相続人を死亡保険金受取人とする終身保険が有利である。
死亡保険金は受取人の固有の権利であり,相続人が受け取る死亡保険金には「500万円×法定相続人の数」の非課税枠があり,原則として特別受益にも遺留分の算定にも入らないからである。
ただし,余命宣告を受けた後は告知が必要な保険には通常は加入できず,告知不要型の一時払終身保険でも,入院中の人や余命宣告を受けた人の申込みを引き受けないと明記している商品が多い。
そのため,余命宣告を受けた後は,既に加入している保険の受取人を変更できないかを先に確かめるべきである。
遺言代用信託は,死亡後すぐに指定した相続人へお金を渡す手段としては有用であるが,非課税枠はなく,特別受益や遺留分の対象となる可能性があるので,多く渡す手段としては保険より弱い。
生前贈与は,相続開始前の一定期間の贈与が相続税の計算に加算され,民法上も特別受益や遺留分の算定の対象となるので,余命宣告を受けた後の手段としては効果が小さい。

第2 「生前に渡す」と「死亡時に渡す」の区別
1 生前に渡す手段は贈与である

存命中にまとまったお金を相続人に渡せば,それは贈与であり,贈与税と,相続開始前の贈与の加算の問題が生じる。
民法上も,生計の資本としての贈与は特別受益となり得る(民法903条1項)。
詳しくは第5で説明する。

2 死亡時に確実に渡す手段

終身保険と遺言代用信託は,どちらも生前に手配しておき,本人の死亡時に指定した相続人へお金が届く仕組みである。
遺言も死亡時に効力を生じるが,遺言執行や遺産分割の手続を経るので,預貯金を受け取るまでに時間がかかることがある。
「生前にまとまったお金を渡したい」という相談の多くは,実際には「生きているうちに手配して,死亡したら確実に特定の相続人へ渡したい」という意味であるから,本記事では主に死亡時に渡す手段を比べる。

第3 終身保険を使う場合
1 死亡保険金は受取人の固有の権利である

保険法42条は,「保険金受取人が生命保険契約の当事者以外の者であるときは、当該保険金受取人は、当然に当該生命保険契約の利益を享受する。」と定める。
最高裁判所第二小法廷平成16年10月29日決定(平成16年(許)第11号,民集58巻7号1979頁)は,被相続人が自己を保険契約者及び被保険者とし,共同相続人の一人を保険金受取人と指定した養老保険契約に基づく死亡保険金請求権について,保険金受取人が自らの固有の権利として取得するのであって,相続財産に属するものではないとした。

(続きを読む...)余命宣告を受けた後に特定の相続人へ多くのお金を残す方法―一時払終身保険,遺言代用信託,生前贈与及び遺言の比較(非課税枠・特別受益・遺留分)(AI作成)

遺言で換金して分けるとされた株式・投資信託を現物で受け取れるか―遺言の型,全員の合意,遺言執行者の権限及び税金(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論1 この記事の対象2 結論の要約第2 換金を指示する遺言の型1 遺産分割の方法として換金を指定する遺言2 清算型遺贈3 型を見分ける手掛かり第3 証券と換金の実務上の前提1 株式・投資信託は当然には分割されない2 被相続人名義の口座では売却しない3 遺言執行者の換金権限第4 現物で受け取るための要件1 相続人全員と受遺者全員の合意2 遺言執行者がいる場合3 遺言執行者がいない清算型遺贈4 価額の基準を合意する5 遺言の存在を知った上で合意したことを明らかにする6 清算金の一部を信託へ拠出する遺言の場合第5 税金の違い1 相続税と贈与税2 遺言執行者が換金した場合の譲渡所得3 現物で受け取って後で売る場合4 NISA口座の資産第6 手続の進め方1 協議前の確認2 協議書に書く事項3 関連記事第7 出典1 法令2 裁判例3 所管行政機関の解説・質疑応答及び研究資料4 文献
第1 この記事の対象と結論
1 この記事の対象
(1) 問題となる場面

遺言書に,「有価証券を売却し,その代金を長男と長女に2分の1ずつ相続させる」,「遺言執行者において一切の財産を換価し,債務と費用を控除した残額を甲・乙・丙に遺贈する」等と書かれていることがある。
相続人の側では,相場が下がっているので今は売りたくない,長期保有の株式をそのまま持ち続けたい,売却による税金を避けたい等の理由から,換金せずに株式や投資信託のまま受け取りたいと考えることがある。
本記事は,このような場合に現物で受け取ることができるか,誰の合意が要るか,遺言執行者の権限がどうなるか,税金がどう変わるかを整理する。

(2) 本記事の資料と基準日

本記事は,令和8年9月25日時点でe-Gov法令検索に掲載されている民法・所得税法・租税特別措置法の条文,裁判所ウェブサイトに掲載された最高裁判所の判決,国税庁の質疑応答事例,立案担当者の解説書及び実務書に基づいて整理したものである。
遺言と異なる遺産分割一般の要件と裁判例は,遺言と異なる遺産分割協議はできるかで詳しく説明している。

2 結論の要約

換金を指示した遺言があっても,相続人全員と受遺者全員が合意すれば,株式や投資信託を現物で受け取る内容の遺産分割をすることは可能と考えられる。
遺言執行者が就職している場合には,相続人及び受遺者全員の合意だけで換金の指示を変更するのではなく,遺言執行者を協議に加え,その明示の同意を得る必要があると考えるべきである。
証券会社がその方法による移管を受け付けるか,及び課税関係がどうなるかも,実行前に確認しなければならない。
遺言執行者がいない清算型遺贈では,遺贈を履行する義務を負う相続人全員の協力が要る。
税金の面では,遺言執行者が換金すれば,その譲渡所得を誰が申告するかが問題となり,現物で受け取って後で売れば,受け取った人が被相続人の取得費を引き継いで譲渡所得を申告することになる。

第2 換金を指示する遺言の型
1 遺産分割の方法として換金を指定する遺言

民法908条1項は,「被相続人は、遺言で、遺産の分割の方法を定め、若しくはこれを定めることを第三者に委託し、又は相続開始の時から五年を超えない期間を定めて、遺産の分割を禁ずることができる。」と定める。
相続人に対して「株式を換金してその代金を2分の1ずつ相続させる」とする遺言は,遺産分割の方法として換価分割を指定したものと読める場合がある。

2 清算型遺贈

「遺言執行者において,不動産・有価証券・預貯金その他一切の財産を換価売却し,債務・費用を控除した残額を遺贈する」という遺言は,一般に清算型遺贈と呼ばれる。
実務書は,このような遺言は遺言執行者の権限が一切の財産に及ぶので包括遺贈の一種であると考えられるとした上で,実質的には遺言の効力発生時点において割合的包括遺贈の効力が発生しており,遺贈義務のみが法定相続人あるいは相続財産法人に帰属すると解釈し,換価売却して現金化してから遺贈義務を果たすのが清算型遺贈の本質であると考えるべきであるとしている(遺言・相続実務問題研究会編,野口大・藤井伸介編集代表『事案から学ぶ 履行困難な遺言執行の実務』日本加除出版,2023年,229頁~230頁)。
同書は,預貯金・有価証券・動産類については,遺言執行者の権限により預貯金を解約し,有価証券についても解約あるいは売却することにより換価作業を行えるとしている(同書231頁)。

3 型を見分ける手掛かり

次の点を遺言全文から確かめる。
①「相続させる」「遺贈する」「取得させる」のどの文言か
②換金の対象が特定の銘柄・口座か,一切の財産か
③換金の主体として遺言執行者が指定されているか
④代金の受取人が相続人だけか,相続人でない者を含むか

(続きを読む...)遺言で換金して分けるとされた株式・投資信託を現物で受け取れるか―遺言の型,全員の合意,遺言執行者の権限及び税金(AI作成)

遺言と異なる遺産分割協議はできるか―相続人・受遺者全員の合意,遺言執行者の同意,分割の禁止及び贈与税(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論1 この記事の対象2 結論の要約第2 遺言の型によって法律構成が変わる1 特定遺贈――受遺者が放棄すれば遺産に戻る2 包括遺贈――受遺者は遺産分割の当事者になる3 「相続させる」遺言――相続開始時に承継が済んでいる第3 合意に加わる人1 相続人全員2 受遺者3 相続人でない受遺者に財産を取得させる場合第4 遺言執行者がいる場合1 条文2 遺言執行者の同意を得た合意を有効とした裁判例3 遺言執行者の同意がない協議の扱い4 実務書の説明5 遺言執行者の立場と判断第5 遺言による分割の禁止第6 遺言の存在を知らずに協議した場合第7 税務・登記・金融機関の手続1 相続税と贈与税2 登記3 金融機関4 遺言による信託と受益権がある場合第8 手続の進め方1 協議前の確認2 協議書の書き方3 関連記事第9 出典1 法令2 裁判例3 所管行政機関の解説・質疑応答4 文献
第1 この記事の対象と結論
1 この記事の対象
(1) 問題となる場面

遺言書があるのに,相続人全員が,遺言とは違う分け方を望むことがある。
例えば,「全財産を長男に相続させる」という遺言があるが,長男も含めて母に自宅を残したい場合や,「株式を換金して分けよ」という遺言があるが,相続人が株式をそのまま受け取りたい場合である。
このような場合に,相続人全員の話合いで遺言と異なる遺産分割をすることができるか,誰の合意が要るか,遺言執行者がいるときはどうなるか,贈与税がかかるかが問題になる。

(2) 本記事の資料と基準日

本記事は,令和8年9月25日時点でe-Gov法令検索に掲載されている民法の条文,裁判所ウェブサイトに掲載された最高裁判所の判決,判例秘書に収録された下級審判決の全文,国税庁の質疑応答事例及び実務書に基づいて整理したものである。
東京地裁平成13年6月28日判決等は判例秘書の判例番号で特定する。さいたま地裁平成14年2月7日判決は,裁判所ウェブサイトで判決全文を確認した。

2 結論の要約
(1) 五つの確認事項

遺言と異なる遺産分割を検討するときは,次の順序で確認する。
①遺言が,特定遺贈,包括遺贈,「相続させる」遺言(特定財産承継遺言)のいずれに当たるか
②合意に加わる必要がある人は誰か(相続人全員のほか,受遺者を含むか)
③遺言執行者がいるか,いる場合にその同意を得られるか
④遺言で遺産の分割が禁じられていないか
⑤相続税・贈与税,登記及び金融機関の手続をどうするか

(2) 短い結論

相続人全員と受遺者全員が合意すれば,遺言と異なる内容で遺産を分けることは,実務上広く行われている。
遺言執行者がいない場合は,この合意だけで足りると整理されている。
遺言執行者がいる場合は,遺言執行者の同意を得て協議するのが安全である。
遺言執行者の同意がない協議の効力については,下級審の判断が分かれている。
国税庁が贈与税を課さないと回答したのは,特定の相続人へ遺産全部を与える遺言があり,相続人全員で異なる分割をした事例である。複数の条項を持つ遺言の一部を先に執行し,残る財産だけについて取得者を変える場合まで,同じ取扱いと断定することはできない。
申告期限までに協議が成立しない場合には,遺言によって取得者が確定した財産と真に未分割の財産を区別し,前者は原則として遺言どおり,後者は相続税法55条により申告する。

第2 遺言の型によって法律構成が変わる
1 特定遺贈――受遺者が放棄すれば遺産に戻る
(1) 条文

民法986条1項は,「受遺者は、遺言者の死亡後、いつでも、遺贈の放棄をすることができる。」と定め,同条2項は,「遺贈の放棄は、遺言者の死亡の時にさかのぼってその効力を生ずる。」と定める。
民法995条は,遺贈が放棄によってその効力を失ったときは,受遺者が受けるべきであったものは,遺言者が別段の意思を表示した場合を除き,相続人に帰属すると定める。

(続きを読む...)遺言と異なる遺産分割協議はできるか―相続人・受遺者全員の合意,遺言執行者の同意,分割の禁止及び贈与税(AI作成)

親と未成年の子の利益相反と特別代理人―遺産分割・相続放棄・担保提供の判断基準と代理権の濫用(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 本記事の対象2 結論第2 親権者の代理権と利益相反の規律1 親権者の代理権2 民法826条3 父母が共同で親権を行う場合4 成年後見人への準用第3 利益相反行為の判断基準―外形で判断する1 判例の基準2 外形で判断することの意味3 昭和42年判決の事案第4 典型的な場面の判断1 遺産分割協議2 相続放棄3 担保の提供・保証4 親から子への贈与を受ける場合第5 特別代理人を選任せずにした行為の効力1 無権代理行為となる2 成年に達した後の追認3 選任された特別代理人自身が利益相反する場合第6 利益相反に当たらない場合の代理権の濫用1 民法107条2 親権者の代理権の濫用に関する判例3 現行法の下での読み方4 代理行為の時点の目的と,代金を使い込まれた場合の子の救済第7 特別代理人の選任の申立て1 申立ての概要2 申立ての前に確認すること3 手続の場面で求められる例4 未成年の子による扶養料請求第8 関連記事第9 出典1 法令2 裁判例3 裁判所の手続案内
第1 本記事の対象と結論
1 本記事の対象

本記事は,親権者である父又は母が未成年の子を代理して法律行為をする場面のうち,親と子の利益が相反するため家庭裁判所に特別代理人の選任を請求しなければならないのはどのような場合かを扱う。
典型は,父が死亡して母と未成年の子が共同相続人となった場合の遺産分割協議,子の相続放棄,及び親の借入れのために子の不動産に担保を設定する場合である。
あわせて,利益相反行為に当たらない場合でも問題となる代理権の濫用を扱う。

調査基準日は令和8年9月25日である。
条文はe-Gov法令検索の現行条文を,裁判例は裁判所HPの裁判例検索で全文を確認した最高裁判例を,申立ての手続は裁判所HPの手続案内を用いた。
成年後見人と本人の利益相反(民法860条による826条の準用)は,相続人に認知症・精神障害等で判断能力を欠く人がいる場合の遺産分割及び成年後見人は本人の古い借金を返してよいかで扱っている。

2 結論

①親権を行う者とその子との利益が相反する行為については,親権を行う者は,子のために特別代理人を選任することを家庭裁判所に請求しなければならない(民法826条1項)。
②利益相反行為に当たるかどうかは,行為の外形で決すべきであり,親権者の意図や行為の実質的な効果を問題とすべきではないとするのが判例である。
③親権者と未成年の子が共同相続人となった場合に,親権者が子を代理して遺産分割協議をすることは,親権者と子の利益相反行為となる。
親権者が数人の子を代理して遺産分割協議をする場合も,子同士の利益相反が問題となる。親権者自身が共同相続人であるときは各子について特別代理人を要し,親権者が相続人でないときは親権者が代理する一人を除く各子について別々の特別代理人を要する。
④親権者が特別代理人を選任せずに利益相反行為をしたときは無権代理行為となり,子が成年に達した後に追認すれば効力を生じる。
⑤外形上は利益相反行為に当たらない行為(子の名義での借入れ,第三者の債務のための担保提供等)でも,代理権の濫用として子に効果が及ばないことがある(民法107条)。
ただし,判例は,親権者の広範な裁量を前提に,濫用に当たる場合を限定している。
⑥特別代理人の選任は,子の住所地の家庭裁判所に申し立てる。
申立てには,遺産分割協議書案など利益相反に関する資料を付ける。

第2 親権者の代理権と利益相反の規律
1 親権者の代理権

民法824条本文は,「親権を行う者は、子の財産を管理し、かつ、その財産に関する法律行為についてその子を代表する。」と定める。
親権は,成年に達しない子について,その子の利益のために行使しなければならない(同法818条1項)。
親権者は,子の財産に関する法律行為について広い代理権を持つが,その代理権には,次の利益相反行為の規律と,代理権の濫用の規律(第6)による制限がある。

2 民法826条

民法826条1項は,「親権を行う父又は母とその子との利益が相反する行為については、親権を行う者は、その子のために特別代理人を選任することを家庭裁判所に請求しなければならない。」と定める。
同条2項は,「親権を行う者が数人の子に対して親権を行う場合において、その一人と他の子との利益が相反する行為については、親権を行う者は、その一方のために特別代理人を選任することを家庭裁判所に請求しなければならない。」と定める。
1項は親と子の利益相反,2項は同じ親権に服する子どうしの利益相反を対象とする。

3 父母が共同で親権を行う場合

父母は,その双方が親権者であるときは,原則として共同して親権を行う(民法824条の2第1項)。

(続きを読む...)親と未成年の子の利益相反と特別代理人―遺産分割・相続放棄・担保提供の判断基準と代理権の濫用(AI作成)

特別寄与料の請求―請求できる親族とできない人,相手方と負担額,6か月・1年の期間制限及び相続税(AI作成)

目次第1 特別寄与料とは何か1 相続人ではない親族の貢献に報いる金銭請求2 寄与分との違い第2 請求できる親族と請求できない人1 被相続人の親族であること2 除かれる人3 相続人の配偶者が介護した場合第3 特別の寄与の要件1 無償の療養看護その他の労務の提供2 財産の維持又は増加3 「特別の寄与」の程度4 相続開始後の行為は含まれない第4 誰に,いくら請求できるか1 請求の相手方は相続人である2 相続人ごとの負担額3 遺言で相続分がないとされた相続人4 金額の決まり方と上限第5 期間制限と手続1 6か月と1年の期間制限2 協議,調停及び審判3 遺産分割とは別の手続である第6 相続税1 特別寄与料を受け取る側2 特別寄与料を支払う側第7 請求する側と請求される側の確認事項1 請求する側2 請求される側第8 関連記事第9 出典1 法令2 裁判例3 裁判所の資料
第1 特別寄与料とは何か
1 相続人ではない親族の貢献に報いる金銭請求

被相続人の親族が,無償で療養看護その他の労務を提供し,被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした場合,その親族は,相続の開始後,相続人に対し,寄与に応じた額の金銭の支払を請求することができる(民法1050条1項)。
この金銭を「特別寄与料」といい,請求する親族を「特別寄与者」という。
典型例は,亡くなった親の介護を長年担ってきた長男の妻のように,介護の担い手ではあったものの相続人ではない親族である。

本記事は,令和8年9月25日現在の法令及び確認できた裁判例に基づき,特別寄与料を請求できる人とできない人,請求の相手方と負担額,期間制限,手続及び相続税を整理するものである。
裁判所の特別の寄与に関する処分調停の案内のとおり,令和元年7月1日より前に開始した相続については,この申立てはできない。

2 寄与分との違い

相続人自身の貢献は,遺産分割の中で具体的相続分を修正する寄与分(民法904条の2)によって考慮される。
これに対し,特別寄与料は,遺産分割に参加して遺産の一部を取得する制度ではなく,相続人に対して金銭の支払を求める制度である。
特別寄与料が認められても,特別寄与者が土地の持分その他の遺産を当然に取得するわけではない。

項目寄与分特別寄与料主張できる人共同相続人相続人ではない被相続人の親族(相続放棄をした者,相続欠格者及び廃除された者を除く。)対象となる行為事業に関する労務の提供,財産上の給付,療養看護その他の方法(民法904条の2第1項)無償の療養看護その他の労務の提供に限られる効果遺産分割における具体的相続分の修正相続人に対する金銭の支払請求手続遺産分割の手続の中で主張し,審判では寄与分を定める処分の申立てが必要協議が調わなければ,家庭裁判所の特別の寄与に関する処分(調停・審判)期間相続開始から10年を経過した後の遺産分割では原則として考慮されない(民法904条の3)相続の開始及び相続人を知った時から6か月,相続開始の時から1年

寄与分の主張方法は,遺産分割における寄与分の主張方法―費用対効果・証拠・申立時期で扱っている。

第2 請求できる親族と請求できない人
1 被相続人の親族であること

特別寄与者は,被相続人の親族でなければならない。
親族とは,6親等内の血族,配偶者及び3親等内の姻族である(民法725条)。

子の配偶者は1親等の姻族であるから,長男の妻が義理の親を介護した場合は,親族の要件を満たす。
被相続人に子がいて兄弟姉妹が相続人とならない場合の兄弟姉妹,子が生存していて相続人とならない孫なども,親族に当たる。
後記第3の3の静岡家庭裁判所の審判も,被相続人の子2人が相続人である事案で,被相続人の弟が申し立てたものである。

他方,内縁の配偶者,友人,近所の人,事業者等は,親族ではないから,どれほど献身的に介護をしても特別寄与者にはならない。
相続人がいない場合の特別縁故者への財産分与(民法958条の2)は別の制度であり,相続人がいない場合の相続財産清算人で扱っている。

2 除かれる人

民法1050条1項は,特別寄与者から「相続人、相続の放棄をした者及び第八百九十一条の規定に該当し又は廃除によってその相続権を失った者」を除いている。
したがって,次の人は特別寄与料を請求できない。

① 相続人(自らの貢献は寄与分として主張する。)
② 相続の放棄をした者
③ 相続欠格者(民法891条)
④ 廃除によって相続権を失った者(民法892条,893条)

(続きを読む...)特別寄与料の請求―請求できる親族とできない人,相手方と負担額,6か月・1年の期間制限及び相続税(AI作成)

信託銀行が遺言執行者に就任した後の手続とスケジュール―財産目録,換価・名義変更,債務,税務及び相続人の協力(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論第2 最初に分ける四つの担当領域第3 相続開始後の手続とスケジュール1 死亡通知から就職まで2 就職後から財産目録まで3 名義変更・換価から完了報告まで第4 銀行の財産目録と全遺産は一致しない1 三つの財産範囲2 目録に載ることと銀行が処理することは別である第5 預貯金・有価証券の換価と名義変更1 遺言の内容が出発点となる2 換価の時期と価格3 現物で受け取る場合の準備第6 不動産登記と遺言作成日の確認第7 債務・税務・保険等は別工程で管理する1 債務承継2 税務申告と納税資金3 保険・年金・家財等第8 相続人の協力が得られない場合第9 費用・追加財産・完了後の確認第10 弁護士が確認するチェックリスト第11 関連記事第12 出典・参考資料1 法令・法務省資料2 裁判例3 税務資料4 信託協会・金融機関の公式資料

信託銀行が遺言執行者に指定されている相続では,銀行へ死亡を連絡すれば,すべての相続手続が自動的に終了するわけではない。
銀行が扱う遺言執行,司法書士・税理士等へ依頼する手続,相続人又は受遺者が自ら行う手続を分け,法定期限と銀行の予定日を別々に管理する必要がある。

第1 本記事の対象と結論

本記事は,令和8年9月24日現在の法令及び公開資料に基づき,銀行又は信託銀行が商品として提供する「遺言信託」のうち,相続開始後に信託銀行が遺言執行者へ就職する場面を扱う。
遺言によって信託法上の信託を設定する制度や,遺言のない相続について相続人全員から委任を受ける遺産整理業務とは異なる。

実務上の要点は,次の三つである。
第一に,遺言書で信託銀行が指定されていても,相続開始後の調査と就職承諾を経るまで,その銀行が遺言執行者として任務を開始したとは限らない。
第二に,銀行が調査・処理する「遺言執行対象財産」は,被相続人の全財産や相続税申告の対象財産と一致しないことがある。
第三に,債務承継,税務申告,紛争処理,保険金・年金等の請求は,銀行の遺言執行と別の担当者及び期限で進める必要がある。

特に,信託銀行から示される工程表では,「遺言開示」,「就職通知」,「財産調査」及び「財産目録交付」が一つの予定表に続けて記載されることがあるため,遺言書を開示した日を就職の日と誤解しやすい。
「遺言書の開示」,「遺言内容及び予定の説明」並びに「戸籍・財産資料の提出」は,通常,就職を判断する前の段階であり,これらが行われただけで信託銀行が遺言執行者に就職したとは限らない。
就職を承諾した日,就職通知書の日付及び任務開始の通知を,それぞれ別に確認する必要がある。
就職に至るまでの段階と,就職の承諾前でも相続人の処分が制限される関係は,遺言書を開示した信託銀行はいつ遺言執行者に就任するのか―指定,死亡通知,就職の審査,就職通知及び任務開始の違いで説明している。

第2 最初に分ける四つの担当領域
担当領域主な内容確認事項信託銀行(就職前の指定された銀行)死亡の受付,遺言の開示,資料の確認,遺言内容の実現可能性の審査,就職の判断就職承諾の有無及びその日付,審査の見込み期間,辞退した場合の対応信託銀行(就職後の遺言執行者)就職通知,執行対象財産の調査・目録作成,預貯金等の解約・売却・名義変更,換価代金の管理・清算・分配,完了報告遺言書及び約定上の対象財産,対象外業務,費用,予定日司法書士相続・遺贈による不動産登記その他の登記申請誰が委任者になるか,登録免許税及び司法書士報酬税理士準確定申告,相続税申告,換価後の譲渡所得等申告義務,資料の受渡し,納税資金及び各期限相続人・受遺者又は弁護士債務承継,保険金・年金等の請求,公共料金等の口座変更,遺留分・遺言無効その他の紛争銀行の対象外であることを前提に,担当者と期限を別に置く

この表は一般的な整理であり,具体的な担当範囲は,遺言書,信託銀行との約定,最新の手数料規定及び各専門職との委任契約によって確認する必要がある。

第3 相続開始後の手続とスケジュール
1 死亡通知から就職まで

遺言者が死亡したときは,あらかじめ定めた死亡通知人又は家族が,遺言書を保管する信託銀行へ連絡する。
銀行は,遺言書を開示し,相続人・受遺者,財産の変動,後日付の遺言の有無及び遺言内容の実現可能性等を調査した上で,遺言執行者への就職を判断する。

民法1007条1項は,指定された者が就職を承諾したときは直ちに任務を行うことを定め,同条2項は,任務を開始したときは遅滞なく遺言の内容を相続人へ通知することを定める。
これとは別に,民法1008条は,相続人その他の利害関係人が相当の期間を定めて就職承諾の有無を確答するよう催告できることを定めている。

銀行の就職判断を待つ間も,相続放棄・限定承認は原則として自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月,準確定申告は原則4か月,相続税申告・納付は原則10か月という別の期限が進む。
銀行の工程表に記載された目標日と法律上の期限を同じ欄で管理してはならない。

2 就職後から財産目録まで

就職後は,戸籍等による相続関係の確認,遺言執行対象財産の調査,残高証明書等の取得,不動産及び金融商品の手続準備へ進む。
民法1011条1項は,遺言執行者に対し,遅滞なく相続財産の目録を作成して相続人へ交付することを求める。

もっとも,遺言が特定の財産に関する場合,民法1014条1項により,民法1011条から1013条までの規定はその財産についてのみ適用される。
三菱UFJ信託銀行の現在の公開案内も,調査及び財産目録の対象を「遺言執行対象財産」に限ると説明している。

(続きを読む...)信託銀行が遺言執行者に就任した後の手続とスケジュール―財産目録,換価・名義変更,債務,税務及び相続人の協力(AI作成)

国際離婚の手続選択と日本の国際裁判管轄・準拠法―調停・訴訟・財産分与・慰謝料を分ける(AI作成)

目次
第1 結論―管轄と準拠法は別に調べる
第2 最初に請求単位へ分解する
第3 日本の裁判所に国際裁判管轄があるか
第4 調停・審判・訴訟の選択
第5 離婚に適用される法律
第6 財産分与・慰謝料・子の事項は別に確認する
第7 外国法と証拠の準備
第8 受任時チェックリスト
第9 関連記事
第10 出典と調査範囲

第1 結論―管轄と準拠法は別に調べる

国際離婚では、「日本の裁判所が事件を扱えるか」という国際裁判管轄と、「離婚の成否をどの国の法律で判断するか」という準拠法は別問題である。日本に国際裁判管轄があっても外国法を適用することがあり、反対に日本法が準拠法となり得ても、日本の裁判所に管轄がなければ日本で訴訟を進めることはできない。

さらに、離婚そのもの、財産分与、慰謝料、親権・監護、養育費、婚姻費用では、管轄・準拠法・手続が同じとは限らない。実務では、夫婦関係を一括して「国際離婚事件」と呼ぶ前に、請求ごとの入口を作る必要がある。

第2 最初に請求単位へ分解する
検討単位最初に確認する事項
離婚の成立裁判離婚、調停・審判、協議離婚のどの方法が可能か
財産分与対象財産、所在地、取得時期、名義、外国の夫婦財産制
慰謝料等離婚請求との関連、行為地・結果発生地、請求相手
子に関する事項子の常居所、現在地、監護状況、国際的な連れ去りの有無
扶養・養育費権利者・義務者の常居所、既存合意・裁判、執行先財産
外国裁判の効力承認・執行が必要か、送達と防御機会、公序、確定性

この分解により、「離婚は日本でできるが、外国不動産の処理や外国での執行には別の対応が必要」という結論も明瞭になる。

第3 日本の裁判所に国際裁判管轄があるか

離婚訴訟の国際裁判管轄は、人事訴訟法3条の2以下から確認する。同条は、身分関係の当事者の住所又は居所が日本にある場合などを管轄原因として定める。条文には複数の管轄原因があるため、「日本国籍の当事者がいる」又は「日本で結婚した」という事情だけで結論を出さず、原告・被告の住所、最後の共通住所、現在の居所その他の条文要件へ事実を割り当てる。

人事訴訟法3条の5は、日本に管轄原因があっても、事案の性質、応訴負担、証拠の所在地その他の事情から日本で審理することが当事者間の衡平を害し、適正・迅速な審理を妨げる特別の事情がある場合の取扱いを定める。したがって、形式的な接点だけでなく、外国での係属、当事者・証人の所在、資料言語、判決の実効性も確認する。

財産分与や関連する損害賠償を離婚訴訟と一緒に扱えるかは、人事訴訟法3条の3・3条の4等の専用規定を別に確認する。関連性があるというだけで、全ての請求が当然に日本の管轄へ入るわけではない。

第4 調停・審判・訴訟の選択

(続きを読む...)国際離婚の手続選択と日本の国際裁判管轄・準拠法―調停・訴訟・財産分与・慰謝料を分ける(AI作成)

人口減少社会で増える可能性のある法律実務―相続・空き家・成年後見・事業承継・外国人雇用(AI作成)

目次

第1 人口統計は入口であって結論ではない第2 共通する四段階の確認第3 相続人不存在・所有者不明不動産第4 空き家と管理責任第5 成年後見・医療・介護第6 事業承継・廃業第7 外国人雇用第8 裁判所支部と司法アクセス第9 分野ごとの需要と弁護士全体の業務量第10 法律相談の確認表第11 出典・参考資料
第1 人口統計は入口であって結論ではない

人口減少と高齢化は,相続,空き家,成年後見,事業承継,外国人雇用及び司法アクセスに共通する背景である。
しかし,人口統計だけで個別事件の権利義務や法的需要が決まるわけではない。
本記事は,公的統計から相談・立証へ進む際の「証拠の橋渡し」を整理するものであり,各分野の裁判例の検討は含まない。

国立社会保障・人口問題研究所の地域別将来推計人口は,2020年国勢調査を基準に,2050年までの市区町村別人口を男女・5歳階級別に推計している。
地域の年齢構成や世帯の変化を検討する重要な一次資料である。

ただし,これは将来推計であり,個々の市区町村の政策,特定の家庭の状況又は個別事件の結果を予言するものではない。
法律実務では,人口指標と,当事者に生じた生活上・事業上の出来事,その法的地位,利用可能な手続を順に結ぶ必要がある。

第2 共通する四段階の確認

人口統計から個別の相談へ進むときは,次の四段階を順に確認する。
①人口・社会指標:人口,年齢構成,世帯数,住宅,事業所,外国人雇用等の変化を確認する。
②具体的な出来事:死亡,認知機能の低下,空き家化,後継者不在,雇用開始等が実際に起きたかを確認する。
③法的地位:相続人,所有者,管理者,成年被後見人,会社・個人事業主,使用者・労働者,在留資格等を確認する。
④手続と証拠:登記,相続財産清算,後見申立て,事業譲渡,雇用管理,訴訟・調停等の選択肢と必要資料を確認する。

人口統計は第1段階の背景資料として有用であるが,第2段階以下を省略する根拠にはならない。

第3 相続人不存在・所有者不明不動産

単身高齢者の増加や親族関係の希薄化は,相続人の調査,遺言,死後事務及び相続財産清算の相談を考える背景となる。
しかし,「独居」であることと「相続人がいない」ことは同じではない。

実務では,戸籍による相続関係の調査,遺言の有無,相続放棄,債権債務,不動産・預貯金の管理状況を個別に確認する。
相続人不存在の場合の手続は,相続人がいない場合の相続財産清算人選任申立ての流れで整理している。

第4 空き家と管理責任

総務省統計局の令和5年住宅・土地統計調査では,空き家は900万2千戸であった。
このうち「賃貸・売却用及び二次的住宅を除く空き家」は385万6千戸である。

もっとも,900万2千戸の全てを放置空き家,危険家屋又は所有者不明土地と呼ぶことはできない。
賃貸用,売却用,別荘等も空き家総数に含まれるためである。

相談では,所有権・共有関係,相続登記,占有,管理状況,建物の危険性,自治体の措置,固定資産税,売却可能性を分けて確認する。
売却段階の税務上の入口は,相続した不動産を売却したときの譲渡所得で整理している。

第5 成年後見・医療・介護

最高裁判所は,成年後見関係事件の申立て,終局,申立人と本人との関係等を毎年集計している。

(続きを読む...)人口減少社会で増える可能性のある法律実務―相続・空き家・成年後見・事業承継・外国人雇用(AI作成)

家族の「違和感」と服薬・介護記録は遺言能力の証拠になるか―介護者負担と回顧バイアスを踏まえた評価(AI作成)

◯山中弁護士への事件のご相談・ご依頼は「遺言・相続のお問い合わせ」から可能です。

家族が「最近,何かおかしい」と感じたことや,服薬を家族が管理していたことは,遺言能力を検討する重要な端緒になります。しかし,家族の印象や「薬を一人で飲めなかった」という一事から,直ちに遺言能力の有無を決めることはできません。観察された具体的行動を,遺言日に近い時期の診療・看護・介護・薬局等の業務記録と照合し,別の原因でも説明できないかを検討する必要があります。

目次

第1 結論―家族の違和感は「入口」であり,それだけで結論にはならない
第2 遺言能力は遺言時・遺言内容ごとに判断する
第3 家族の供述を「具体的行動」に分解する

1 抽象的評価と観察事実を分ける
2 利害関係,回顧バイアス及び介護者負担を点検する

第4 診察室の受け答えと日常生活上の機能を照合する
第5 服薬失敗・家族管理には複数の原因がある

1 本人側・治療側・介護側の原因を分ける
2 介護者負担と服薬継続に関する研究の読み方

第6 証拠価値が高い記録と集め方
第7 法律相談・証拠保全のチェックリスト
第8 準備書面では両方向の仮説を検討する
第9 出典・参考資料

第1 結論―家族の違和感は「入口」であり,それだけで結論にはならない

(続きを読む...)家族の「違和感」と服薬・介護記録は遺言能力の証拠になるか―介護者負担と回顧バイアスを踏まえた評価(AI作成)

外国籍・国外財産がある相続と遺言―国際裁判管轄・準拠法・反致・遺言方式(AI作成)

目次第1 最初に五つの問題を分ける第2 日本の裁判所に国際裁判管轄があるか第3 相続の準拠法と反致1 相続は被相続人の本国法による2 反致は外国法の抵触規則まで確認する第4 遺言の成立・効力と方式を分ける第5 国外財産は現地手続を別に確認する第6 受任時の資料と確認表第7 実務上の注意点第8 一次資料と確認状況
第1 最初に五つの問題を分ける

外国籍の被相続人,国外居住の相続人又は国外財産がある相続事件では,次の五つを分けて検討する必要がある。

① 日本の裁判所に国際裁判管轄があるか
② 日本国内のどの家庭裁判所又は地方裁判所が管轄するか
③ 相続又は遺言の成立・効力にどの国の実質法を適用するか
④ 遺言の方式がどの国の法に適合すれば有効か
⑤ 財産所在地国で名義変更,検認,遺産管理又は税務手続が必要か

日本の裁判所が手続を行うことと,日本民法が相続関係を規律することは同じではない。
また,日本法上有効な遺産分割協議書又は審判があっても,外国の不動産登記,金融機関又は裁判所がそのまま受け付けるとは限らない。

第2 日本の裁判所に国際裁判管轄があるか

家事事件手続法3条の11は,相続に関する審判事件について,相続開始時に被相続人の住所が日本国内にある場合を基本的な管轄原因とする。
住所がない又は知れない場合の居所,さらに一定の場合における日本国内の最後の住所も規定しているため,住民票だけでなく,生活の本拠を示す居住,家族,職業,資産及び在留関係の資料を確認する。

国際裁判管轄が日本にあることが分かっても,国内土地管轄は別に決める。
遺産分割審判は相続開始地を管轄する家庭裁判所が基本であり,遺産の範囲又は所有権を争う民事訴訟とは手続が異なる。詳細は,遺産分割調停・審判の管轄,移送と自庁処理(AI作成)で説明している。

国外財産があることだけで,日本の家庭裁判所の国際裁判管轄が当然に失われるわけではない。
反対に,日本国内に財産があることだけで,あらゆる相続審判について日本の管轄が当然に生じるとも限らない。申立ての種類と家事事件手続法3条の11の各要件を対応させる必要がある。

第3 相続の準拠法と反致
1 相続は被相続人の本国法による

法の適用に関する通則法36条は,相続は被相続人の本国法によると定める。
したがって,被相続人が外国籍である事件では,相続人の範囲・順位,相続分,遺留分に相当する制度,相続の承認・放棄及び遺産の承継方法について,原則としてその外国法の内容を確認する。

「日本に長く居住していた」「財産の大半が日本にある」「相続人が全員日本人である」という事情だけから,日本民法が当然に適用されるとはいえない。
重国籍,地域により法が異なる国及び人的に法が異なる国については,通則法38条及び40条に従い,本国法としてどの法を選ぶかを先に確定する。

2 反致は外国法の抵触規則まで確認する

通則法41条は,当事者の本国法によるべき場合に,その国の法に従えば日本法によるべきときは,日本法によると定める。これが反致である。
反致を判断するには,外国の相続実体法だけでなく,その国の国際私法又は抵触法を確認しなければならない。

外国法が,動産は被相続人の住所地法,不動産は所在地法とするなど財産ごとに準拠法を分けている場合,日本にある財産について日本法への反致が成立することがある。
ただし,国名だけから一律に結論を出してはならない。外国法の改正日,施行日,地域差,国籍・住所・常居所の定義及び個別の財産分類を一次資料又は現地専門家により確認する必要がある。

第4 遺言の成立・効力と方式を分ける

通則法37条は,遺言の成立及び効力を,その成立当時における遺言者の本国法によるとする。遺言の取消しについては,取消し当時の本国法も問題となる。

(続きを読む...)外国籍・国外財産がある相続と遺言―国際裁判管轄・準拠法・反致・遺言方式(AI作成)

相続した非公開会社株式の議決権行使―準共有株式・会社法106条・決議取消し・後続決議(AI作成)

被相続人が保有していた非公開会社の株式は,遺産分割が終わるまで共同相続人の準共有となる。相続人の一人が株式全部について単独で議決権を行使しても,会社が認めさえすれば有効になるとは限らない。

本記事では,会社法106条の権利行使者,準共有者間の意思決定,決議取消し及び後続総会が開かれた場合の訴えの利益を整理する。

目次
第1 遺産分割前の株式は準共有となる
第2 会社法106条の権利行使者
第2の2 準共有者の原告適格
第3 会社の同意だけでは足りない
第4 持分価格の過半数で決める
第5 株主総会決議取消し
第6 後続総会と訴えの利益
第7 会社側・相続人側の実務対応
第8 出典・関連記事

第1 遺産分割前の株式は準共有となる

相続人が複数いる場合,相続財産は遺産分割まで共同相続人の共有に属する。株式も同様であり,各相続人が株式数を法定相続分どおりに当然取得するのではなく,一株ごとに準共有する状態になる。

そのため,株主名簿に被相続人の氏名が残っているかだけでなく,相続人の範囲,法定相続分,遺言,遺産分割の有無及び会社への通知を確認する。

第2 会社法106条の権利行使者

会社法106条本文は,株式が二人以上の共有に属するときは,共有者が権利を行使する者一人を定め,会社へその氏名又は名称を通知しなければ,株式についての権利を行使できないと定める。

権利行使者は株式の所有者になる者ではなく,準共有者全体を代表して株主権を行使する者である。会社へ通知した後も,議決権,配当,株主提案その他の権利について,準共有者間の意思決定が問題となる。

準共有者の原告適格は別に確認する

株式の準共有持分を有することと,会社訴訟を提起できる原告適格があることは同じではない。最高裁平成2年12月4日第三小法廷判決(平成元年(オ)第573号・民集44巻9号1165頁)は,旧商法203条2項の権利行使者の指定・通知を欠く共同相続人は,特段の事情がない限り,株主総会決議不存在確認の訴えの原告適格を有しないとした。

同判決は不存在確認訴訟についての判例であり,具体的な訴訟類型と現行会社法の条文を確認する必要がある。それでも,準共有株式をめぐる会社訴訟では,①原告適格,②訴えの利益,③本案の取消事由・無効又は不存在を順に分け,持分保有だけで①を即断しないことが重要である。

第3 会社の同意だけでは足りない

会社法106条ただし書は,会社が同意した場合の例外を置く。しかし,会社が任意に選んだ相続人へ議決権行使を認めれば常に適法になるという規定ではない。

最高裁平成27年2月19日第一小法廷判決(平成25年(受)第650号・民集69巻1号25頁)は,権利行使者の指定・通知を欠く場合,議決権行使が民法の共有に関する規定に従ったものでなければ,会社が同意しても適法にならないとした。

会社側は,出席者が相続人であることだけで受け付けず,遺産分割の有無,権利行使者の指定資料,準共有者の持分及び意思決定方法を確認する必要がある。

会社の同意の効果と,その議決権行使が適法かは分ける。
会社法106条ただし書による同意は本文の指定・通知の規律を外すものであり,民法の共有に関する意思決定まで代替するものではない。
共有者間の意思決定を欠くため議決権行使が不適法となる場合にも,そのことと会社の同意自体が効力を生じないことを同一視しない。

第4 持分価格の過半数で決める

(続きを読む...)相続した非公開会社株式の議決権行使―準共有株式・会社法106条・決議取消し・後続決議(AI作成)

相続開始後も同居配偶者は自宅に住み続けられるか―配偶者短期居住権・共有持分・使用貸借・明渡し(AI作成)

相続開始時に被相続人所有の建物で暮らしていた配偶者は,死亡直後に当然退去しなければならないわけではない。配偶者短期居住権に加え,配偶者自身の共有持分や,被相続人との間で成立していた使用貸借が居住の根拠となることがある。

本記事では,明渡しの可否を一つの制度だけで決めず,居住の根拠,存続期間,用途変更及び使用料を順番に確認する。

目次
第1 最初に確認する四つの居住根拠
第2 配偶者短期居住権1 成立要件2 存続期間3 従前の用法と無断改築
第3 配偶者に共有持分がある場合
第4 黙示の使用貸借
第5 明渡しと使用料を分けて考える
第6 相談時に確保する資料
第7 出典・関連記事

第1 最初に確認する四つの居住根拠

同居配偶者に対する明渡請求では,少なくとも次の四つを確認する。

民法1037条以下の配偶者短期居住権
遺産分割又は遺贈で取得した配偶者居住権
配偶者自身の所有権又は共有持分
被相続人との間の使用貸借,賃貸借その他の契約

一つの権利が消滅しても,他の権利まで当然に消滅するものではない。したがって,「配偶者短期居住権が終わった」という理由だけで明渡しの結論を出さず,競合する権原を一つずつ検討する必要がある。

第2 配偶者短期居住権
1 成立要件

民法1037条1項は,配偶者が,被相続人の財産に属した建物に相続開始時に無償で居住していた場合,原則としてその居住部分を無償で使用できる配偶者短期居住権を定める。

確認すべき中心事実は,①法律上の配偶者であること,②建物が相続開始時に被相続人の財産に属していたこと,③相続開始時に居住していたこと,④使用が無償であったことである。建物の一部だけに居住していたときは,原則としてその部分が対象になる。

2 存続期間

配偶者を含む共同相続人間で居住建物を遺産分割する場合は,建物の帰属が確定した日又は相続開始から6か月を経過する日のいずれか遅い日まで存続する。

それ以外の場合は,居住建物取得者が消滅の申入れをした日から6か月を経過する日までである。死亡から常に6か月で終了するわけではないため,遺産分割の対象か,誰が建物を取得したか,消滅の申入れがいつされたかを時系列で確認する。

3 従前の用法と無断改築

民法1038条1項は,配偶者に対し,従前の用法に従い,善良な管理者の注意をもって居住建物を使用するよう求める。同条2項は,居住建物取得者の承諾を得なければ,第三者に居住建物を使用させることができないと定める。

同条3項は,配偶者が同条1項又は2項に違反したとき,居住建物取得者が配偶者短期居住権を消滅させる意思表示をできると定める。条文上,相当期間を定めた是正催告は消滅の要件ではない。また,譲渡禁止は民法1041条が準用する1032条2項に基づく。

(続きを読む...)相続開始後も同居配偶者は自宅に住み続けられるか―配偶者短期居住権・共有持分・使用貸借・明渡し(AI作成)

高齢者施設から入院した後の退所・再入所―特養の3か月基準,有料老人ホームの契約及び成年後見人の対応(AI作成)

目次第1 問題の所在と結論1 本記事が扱う場面2 結論の要旨第2 最初に確認する施設の種類と書類1 同じ「老人ホーム」でも法的な枠組みが異なること2 入院直後に確保すべき書類第3 指定介護老人福祉施設の入院期間中の取扱い1 入院後おおむね3か月以内の基準2 満床は当然に「やむを得ない事情」にならないこと3 退院可能となったときの速やかな再入所への努力第4 有料老人ホームの契約解除と入院中の費用1 入居契約が判断の出発点になること2 事業者側の解除条件の限界3 入院中の費用と前払金第5 成年後見人が関与するとき1 契約上の行為と医療同意を区別すること2 居住用不動産の処分許可との関係3 後見人が署名前に確認すべきこと第6 救急搬送・看取り方針と施設契約1 看取り方針があっても契約問題は別に残ること2 施設契約に記載しておくべき連携事項第7 紛争になったときの確認事項1 時系列を作ること2 施設へ求める説明3 相談先第8 弁護士が依頼者から聴取すべき事項第9 出典・参考資料1 法令2 厚生労働省資料
第1 問題の所在と結論
1 本記事が扱う場面

特別養護老人ホーム,有料老人ホームその他の高齢者施設の入所者が病院へ入院したとき,施設から「長期入院になるので退所してほしい」,「退院しても元の施設へ戻れない」又は「入院中も居室料等がかかる」と説明されることがある。本人又は家族は,入院すれば施設契約が当然に終了するのか,退院時に再入所できるのか,どの費用を負担するのかを短期間で判断しなければならない。

しかし,取扱いは施設の種類によって異なる。指定介護老人福祉施設については介護保険法上の運営基準があり,有料老人ホームについては入居契約,重要事項説明書及び都道府県等の指導指針の確認が中心となる。「3か月」という言葉も,特養の入院期間中の取扱いと,有料老人ホームの前払金に関する短期解約特例とで意味が異なる。

本記事は,令和8年9月22日現在の法令及び厚生労働省資料に基づき,入院後の退所,再入所,契約解除,費用,救急搬送方針及び成年後見人の対応を整理するものである。

2 結論の要旨

第一に,入院しただけで施設との契約が当然に終了するとは限らない。契約終了には,法令上の基準,入居契約の解除条項,意思表示及び所定の手続を確認する必要がある。

第二に,指定介護老人福祉施設では,入院後おおむね3か月以内に退院することが明らかに見込まれるときは,本人及び家族の希望等を考慮し,やむを得ない事情がある場合を除いて円滑に再入所できるようにしなければならない。単に当初の退院予定日に満床であるという施設側の事情だけでは,「やむを得ない事情」には当たらないと解釈されている。

第三に,特別養護老人ホームには,協力医療機関等から退院可能となった入所者を速やかに再入所させられるよう努める規定もある。3か月を超えたことだけから,再入所への配慮が直ちに消滅すると整理すべきではない。

第四に,有料老人ホームでは一律の再入所ルールではなく,入居契約の内容が出発点となる。事業者側の解除条件が入居者の権利を不当に狭めていないか,入院中の費用,居室保持,退院後の受入条件及び前払金の返還を個別に確認する必要がある。

第2 最初に確認する施設の種類と書類
1 同じ「老人ホーム」でも法的な枠組みが異なること

「施設」又は「老人ホーム」という呼び方だけでは,適用される基準を判断できない。少なくとも,①指定介護老人福祉施設として介護保険法上の指定を受けた特別養護老人ホーム,②介護付き又は住宅型の有料老人ホーム,③サービス付き高齢者向け住宅,④介護老人保健施設,⑤介護医療院等を区別する必要がある。

本記事が詳しく扱うのは,指定介護老人福祉施設としての特養と,有料老人ホームである。サービス付き高齢者向け住宅は,建物賃貸借,生活支援サービス及び介護サービスの契約が分かれていることがあるため,契約ごとの終了条件を確認する必要がある。

2 入院直後に確保すべき書類

施設へは,少なくとも次の書類の交付又は写しの提供を求める。

①入居契約書又は施設利用契約書

②重要事項説明書及び管理規程

③料金表並びに入院中の費用に関する定め

④契約解除,退所及び再入所に関する規程

⑤施設サービス計画,緊急時対応方針及び協力医療機関との連携方法

⑥施設から退所又は契約解除を求める書面,その理由及び根拠条項

口頭で「3か月を超えれば自動退所」と説明された場合でも,直ちに同意書へ署名せず,どの法令又は契約条項に基づく説明かを確認することが重要である。

第3 指定介護老人福祉施設の入院期間中の取扱い
1 入院後おおむね3か月以内の基準

指定介護老人福祉施設の人員,設備及び運営に関する基準19条は,入所者について病院又は診療所への入院が必要となり,入院後おおむね3か月以内に退院することが明らかに見込まれるときは,本人及び家族の希望等を勘案して必要に応じ適切な便宜を供与し,やむを得ない事情がある場合を除き,退院後に円滑に再入所できるようにしなければならないと定める。

「おおむね3か月」は,入院した瞬間から3か月分の居室を必ず空けておくという意味でも,3か月を1日超えれば再入所の可能性がなくなるという意味でもない。まず,主治医への確認等により,3か月以内の退院が明らかに見込まれるかを判断するための基準である。

2 満床は当然に「やむを得ない事情」にならないこと

厚生労働省の解釈通知は,「やむを得ない事情」について,単に当初予定された退院日に施設が満床であることだけでは足りず,退院が予定より早まってベッドの確保が間に合わない場合等を指すとする。施設側の都合は基本的に該当しない。

(続きを読む...)高齢者施設から入院した後の退所・再入所―特養の3か月基準,有料老人ホームの契約及び成年後見人の対応(AI作成)

DNARは何を意味するか―心肺蘇生,救急搬送,再入院,抗菌薬,輸液及び人工呼吸器の個別確認(AI作成)

目次第1 問題の所在と結論1 本記事が扱う問題2 結論の要旨第2 DNARが対象とするもの1 心停止時の心肺蘇生2 DNARと終末期医療は同義でないこと3 Partial DNARを用いないこと第3 個別に確認すべき治療・対応1 救急搬送2 再入院3 気管挿管及び人工呼吸器4 抗菌薬5 輸液6 人工的水分・栄養補給7 苦痛緩和第4 本人意思を確認する手順1 本人による決定を基本とすること2 ACPとして繰り返し話し合うこと3 本人の意思を確認できない場合4 成年後見人の役割第5 救急現場とDNAR記録1 施設内方針だけで救急隊の活動は決まらないこと2 事前に地域の手順を確認すること第6 意思確認票の作り方1 一つの包括的な欄にまとめないこと2 各項目に記録する事項3 原本,写し及び更新履歴第7 紛争予防及び事後検証のための記録第8 弁護士が相談を受けたときの確認事項第9 出典・参考資料1 公的ガイドライン等2 裁判例
第1 問題の所在と結論
1 本記事が扱う問題

DNAR(Do Not Attempt Resuscitation)は,心停止時に心肺蘇生を試みないという方針である。ところが,実務では「DNARだから救急車を呼ばない」,「DNARだから抗菌薬や輸液もしない」,「看取り希望だから再入院させない」など,心肺蘇生以外の治療方針まで一括して決めたものとして扱われることがある。

日本集中治療医学会は,DNAR指示は心停止時にのみ有効であり,心肺蘇生不開始以外の医療・看護は別に議論すべきであると勧告している。本人の意思を正確に反映するためには,救急搬送,再入院,気管挿管・人工呼吸器,抗菌薬,輸液,人工的水分・栄養補給及び苦痛緩和を個別に確認しなければならない。

本記事は,令和8年9月22日現在の厚生労働省,日本集中治療医学会及び総務省消防庁の資料に基づき,DNARの範囲,意思決定の手順,救急現場との接続及び記録の方法を整理するものである。

2 結論の要旨

第一に,DNARが直接決めるのは,心停止時に心肺蘇生を開始しないことだけである。心停止前の酸素投与,抗菌薬,輸液,栄養,人工呼吸器又はICU入室等を自動的に差し控え又は中止する根拠にはならない。

第二に,DNARと人生の最終段階における治療の差控え・中止は別の合意形成を要する。本人の病状,治療目標,期待できる効果及び負担を示し,各治療項目について判断する必要がある。

第三に,救急隊が現場で蘇生を中止できるかは,地域のメディカルコントロール協議会及び消防本部の手順によって異なる。施設内のDNAR記録があるだけで,119番通報後に当然に蘇生又は搬送が行われないとは限らない。

第四に,意思確認書は選択肢へ一度チェックを付けるだけの書面ではなく,誰が,いつ,どの病状と説明を前提に決め,どの場面で再確認するかを記録する必要がある。

第2 DNARが対象とするもの
1 心停止時の心肺蘇生

DNARは,「心停止が起きたとき,心肺蘇生を試みない」という医療方針である。ここでいう心肺蘇生には,胸骨圧迫,電気的除細動,蘇生薬の投与,気道確保その他の蘇生処置が含まれる。

「急変時には何もしない」という曖昧な指示に置き換えてはならない。心停止前の呼吸困難,発熱,脱水,意識障害,出血又は疼痛には,原因と本人の意向に応じた診察・治療が必要となり得る。

2 DNARと終末期医療は同義でないこと

日本集中治療医学会の勧告は,DNARと終末期医療を同義とせず,それぞれの合意形成を別個に行うよう求めている。終末期にDNARを選択することはあるが,DNARがある患者について心肺蘇生以外の治療を差し控え又は中止する場合は,改めてその治療方針について合意形成を行う。

厚生労働省の「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」は,本人の意思決定を基本とし,医療・ケアの開始,不開始,内容の変更及び中止を,医療・ケアチームが医学的妥当性と適切性を踏まえて慎重に判断する枠組みを示している。DNARの記載だけでこの過程を省略することはできない。

3 Partial DNARを用いないこと

日本集中治療医学会は,胸骨圧迫は行うが気管挿管は行わないなど,心肺蘇生の一部だけを実施する「Partial DNAR」を行わないよう勧告している。心停止時の蘇生処置は一つの救命行為として評価し,実施するか,DNARとするかを決める。

一方,心停止前の治療について,気管挿管は希望しないが抗菌薬は希望する,入院は希望しないが施設内での酸素投与や苦痛緩和は希望するという選択はあり得る。これはPartial DNARではなく,心停止前の治療目標を項目別に決める問題である。

令和8年9月28日に公表された「救急・集中治療における生命維持治療の終了/差し控えに関する4学会合同ガイドライン」のQ&A集も,DNARは心停止時に心肺蘇生を行わないという限定的な指示であり,肺炎に対する抗菌薬,酸素投与,鎮痛・鎮静,脱水に対する補液等はDNARの有無にかかわらず適切に行われるべき医療であるとしている(Q37)。さらに,入院時のルーチン,業務効率又は急変対応の簡略化を理由とする便宜的・画一的なDNARの運用を明確に否定し,胸骨圧迫はするが気管挿管はしない等の曖昧な運用も適切な医療提供を妨げるリスクがあるとしている(Q39)。同ガイドラインの内容は,救急・集中治療における生命維持治療の終了/差し控えに関する4学会合同ガイドライン(令和8年9月)―法的位置付け,判断の手順,診療録の記載事項及び裁判例の読み方(AI作成)で整理している。

第3 個別に確認すべき治療・対応
1 救急搬送

「心肺蘇生を希望しない」ことと「119番通報又は救急搬送を希望しない」ことは同じではない。骨折,窒息,出血,強い疼痛等,心停止とは異なる救急事態について治療を希望することがある。

救急搬送については,①どの症状なら主治医へ連絡するか,②どの症状なら119番通報するか,③夜間・休日の連絡先,④施設内で対応できる範囲,⑤搬送先候補を確認する。「急変時は搬送しない」とだけ記載せず,想定する病状と例外を具体化する。

2 再入院

本人が施設又は自宅での療養を希望していても,症状緩和,骨折治療,短期間の感染症治療等のために入院を選ぶことがある。反対に,治療効果より移動・せん妄・身体拘束等の負担が大きいと本人が考え,再入院を望まないこともある。

再入院の方針は,病名を問わず一律に決めるのではなく,治療による回復可能性,治療期間,侵襲,退院後の生活及び本人が重視することを基に検討する。

3 気管挿管及び人工呼吸器

(続きを読む...)DNARは何を意味するか―心肺蘇生,救急搬送,再入院,抗菌薬,輸液及び人工呼吸器の個別確認(AI作成)

胃瘻後に入退院を繰り返すときの本人意思―ACP,家族の関与,治療の差控え・中止及び成年後見人の役割(AI作成)

目次第1 問題の所在と結論1 本記事が扱う場面2 結論の要旨第2 分けて考えるべき四つの問題1 胃瘻の使用と急性疾患の治療は同じ問題ではないこと2 導入しないこと,変更すること及び中止すること3 救急時の一時的な治療と長期方針4 DNARと他の治療方針を混同しないこと第3 本人の意思を中心に置く判断手順1 現在の意思を確認できるか2 ACPと事前の意思表示を現在の判断に結び付けること3 本人の意思を確認できない場合の家族等の役割4 家族等がいない場合又は意見が対立する場合第4 胃瘻の導入後に再評価すべき事項1 造設時の目的を確認すること2 反復入院を再評価の合図にすること3 継続・変更・中止を検討する観点第5 成年後見人と家族ができること・できないこと1 成年後見人には一般的な医療同意権がないこと2 成年後見人が担い得る実務上の役割3 同意書又は確認書への署名を求められたとき第6 弁護士が相談を受けたときの資料と質問1 最初に集める資料2 医療・ケアチームに確認する事項3 本人・家族・後見人に確認する事項4 時系列表で残すべき事項第7 判断を誤らないための留意点1 高齢又は認知症だけを理由に治療を控えないこと2 治療の差控え・中止と積極的安楽死を区別すること3 ガイドラインの限界4 不明な点を不明なまま区別すること第8 治療の差控え・中止に関する裁判例と法的責任1 川崎協同病院事件の最高裁決定2 東京地方裁判所平成31年1月18日判決3 民事責任を検討するときの観点4 ガイドラインに沿うために必要な記録第9 胃瘻,誤嚥性肺炎,抗菌薬治療及び予後について医学文献が示すこと1 対象疾患を分ける必要があること2 胃瘻は誤嚥性肺炎を完全には防がないこと3 抗菌薬は生存と安楽に同じ影響を与えるとは限らないこと4 反復感染と予後の説明第10 施設退所・再入所,救急搬送及び看取り方針と契約1 施設類型を最初に確認すること2 特別養護老人ホームにおける入院後の再入所3 有料老人ホーム等では契約条項を確認すること4 救急搬送方針は施設内の実行手順まで決めること第11 実務書式の使い方1 一枚の包括同意書にまとめないこと2 治療項目別意思確認票3 「説明を受けた」確認書4 定期的な更新と版管理第12 出典・参考資料1 厚生労働省の資料2 日本老年医学会の資料3 裁判例・法制度4 施設契約・救急搬送5 医学文献6 救急・集中治療の学会ガイドライン
第1 問題の所在と結論
1 本記事が扱う場面

胃瘻(いろう)を造設した後も,誤嚥性肺炎,尿路感染症,脱水その他の急性疾患によって入退院を繰り返すことがある。このときは,「胃瘻を続けるか」という一つの問いだけでなく,①今回の感染症等をどこまで治療するか,②救急搬送や再入院を今後も繰り返すか,③人工的水分・栄養補給の方法及び量を維持・変更するか,④心肺蘇生,気管挿管,人工呼吸器等を行うか,⑤療養場所を病院,施設又は自宅のどこにするかという複数の問題が同時に生じる。

胃瘻の造設時に家族が同意書へ署名していても,その一枚の書面によって将来のすべての医療方針が決まるわけではない。本人の状態,治療の見込み及び負担は変化し,本人の意思も変化し得るため,各分岐点で説明,話合い,方針決定及び記録を繰り返す必要がある。

本記事は,厚生労働省の「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」,日本老年医学会の人工的水分・栄養補給に関するガイドライン及び同学会の「立場表明2025」等を基礎に,胃瘻後の反復入院を念頭に置いて意思決定の順序と弁護士が確認すべき記録を整理するものである。基準日は令和8年9月22日である。

2 結論の要旨

第一に,判断の出発点は家族又は成年後見人の希望ではなく,本人の現在の意思である。本人が医療の内容を完全には理解できなくても,苦痛,生活場所,大切にしたいこと等を表明できる場合があるため,意思決定能力を一括して否定してはならない。

第二に,本人の現在の意思を確認できない場合,家族等は本人に代わって自分の希望を決める者ではなく,本人の従前の言動,人生観及び価値観を医療・ケアチームに伝える者として関与する。日本老年医学会の「立場表明2025」は,この役割を「代理決定」ではなく「代弁」と整理している。

第三に,胃瘻の導入,継続,減量,方法変更及び中止は,医学的効果だけでなく,本人の苦痛,生活の質,療養場所及び本人が大切にしてきたことを含めて検討する。反復入院は,造設時の判断を機械的に維持する理由ではなく,治療目標と本人意思を再確認する重要な契機となる。

第四に,成年後見人には一般的な医療同意権がない。もっとも,本人の意思の推定に役立つ情報の提供,説明の場への参加,診療契約や費用の処理,医療・介護・福祉関係者の連絡調整及び記録の確保は,後見事務として重要な役割になり得る。

第2 分けて考えるべき四つの問題
1 胃瘻の使用と急性疾患の治療は同じ問題ではないこと

胃瘻から栄養を投与している本人が肺炎を発症した場合,胃瘻の継続と肺炎に対する抗菌薬,酸素投与又は入院治療は別の医療行為である。胃瘻を維持する方針であっても再入院を望まないことがあり,反対に胃瘻の投与量を見直しながら今回の感染症は治療することもあり得る。

したがって,「延命治療をするか」という抽象的な二択でまとめず,個々の医療行為について,目的,期待できる効果,負担,代替手段及び行わない場合の見通しを確認する必要がある。

2 導入しないこと,変更すること及び中止すること

厚生労働省のガイドラインは,人生の最終段階における医療・ケア行為について,開始,不開始,内容の変更及び中止を挙げ,いずれも医療・ケアチームが医学的妥当性と適切性を基に慎重に判断すべきものとしている。

日本老年医学会の平成24年ガイドラインも,人工的水分・栄養補給(AHN)の導入だけでなく,導入後の減量・中止について同じ意思決定プロセスを基本とする。ただし,これらのガイドラインが開始,不開始,変更及び中止を同一の手続で検討対象にしていることは,個別事案における法的責任が当然に同じになるという意味ではない。事実経過,説明内容,医学的評価及び記録を個別に検討する必要がある。

3 救急時の一時的な治療と長期方針

予期しない急変時には,治療効果を直ちに見通せないことがある。日本老年医学会の「立場表明2025」は,このような場合に,一定期間だけ治療を試み,あらかじめ定めた時点と評価項目により効果を見直す「time-limited trial(期間を区切った治療の試行)」を示している。

この方法を採る場合は,開始時に,①何を目標とするか,②いつ見直すか,③どの状態なら継続するか,④どの状態なら縮小又は終了を検討するか,⑤苦痛をどのように緩和するかを共有する必要がある。単に「とりあえず治療する」とだけ記録すると,惰性的な継続又は早すぎる打切りの双方を防ぎにくい。

4 DNARと他の治療方針を混同しないこと

心肺停止時に心肺蘇生を試みないというDNARの方針は,抗菌薬,酸素,輸液,胃瘻栄養,苦痛緩和その他の治療を一律に行わないという意味ではない。どの医療行為を行い,どの医療行為を差し控えるかは,それぞれについて目的と本人の意向を確認する必要がある。

第3 本人の意思を中心に置く判断手順
1 現在の意思を確認できるか

成年後見が開始していること,認知症の診断があること,又は発語が乏しいことだけで,医療に関する意思を表明できないとは限らない。説明の言葉を簡単にする,写真や図を用いる,痛みや不快の少ない時間帯に尋ねる,普段から本人を知る支援者に同席してもらうなど,意思表明を支える工夫を先に行うべきである。

本人が治療の詳細を理解できなくても,「病院へ行くのはつらい」,「施設に戻りたい」,「口から少しでも食べたい」,「苦しい処置は避けたい」といった意向を表明できることがある。その意向は,治療方針を組み立てる重要な資料となる。

2 ACPと事前の意思表示を現在の判断に結び付けること

厚生労働省は,人生会議(ACP)を,望む医療やケアについて前もって考え,家族等や医療・ケアチームと繰り返し話し合い,共有する取組と説明している。ACPは一度作成した書面そのものではなく,対話と見直しの過程である。

事前指示書,エンディングノート,施設の意向確認書,診療録中の発言,家族やケアマネジャーに語った内容等がある場合は,作成時期,想定していた病状,説明を受けた内容及びその後の変更の有無を確認する。令和6年度厚生労働行政推進調査事業の報告書も,意向表明文書を作成した後の定期的な再確認,変更理由の記録及び医療機関との共有を重視している。

(続きを読む...)胃瘻後に入退院を繰り返すときの本人意思―ACP,家族の関与,治療の差控え・中止及び成年後見人の役割(AI作成)

信託銀行の遺言信託を利用する遺言者と家族の注意事項-費用,紛争時の辞退及び資金拘束の問題(AI作成)

目次第1 遺言信託の意味と本記事の対象1 同じ名称で異なる制度がある2 本記事が中心に扱う銀行サービス3 本記事の結論第2 契約前に疑うべき三つの前提1 銀行が担当する範囲2 相続開始後の就任判断3 費用4 遺言内容の実行可能性第3 契約後に遺言者が見直す事項1 遺言内容と財産の変化2 判断能力が低下する前の対応3 家族への情報共有第4 相続開始前に家族が準備する事項1 死亡通知を行う者と連絡先2 資料と相談先3 紛争の兆候第5 相続開始後に家族が確認する事項1 銀行への通知と就任確認2 範囲,費用及び予定の書面化3 遺言執行と紛争対応を分ける4 三つの財産範囲を照合する5 換価・名義変更と受取口座を確認する6 債務・税務・対象外手続を別に管理する第6 信託法上の遺言信託を用いる場合1 受託者の引受けと後継者2 管理,給付及び報告3 終了条件と変更可能性第7 契約書と遺言書のチェックリスト1 遺言者が確認する事項2 家族が確認する事項3 弁護士への事前相談が特に有用な場合第8 信託銀行の遺言信託に内在する構造的な問題1 費用と担当業務が対応しているか分かりにくい2 サービスが必要な局面ほど業務対象外になり得る3 商品提供者の提案を独立して検証する仕組みがない4 銀行が関与しなくなっても複雑な法的効果は残る第9 銀行サービスの利点と限界第10 関連記事第11 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 信託協会の資料4 金融機関の公式資料
第1 遺言信託の意味と本記事の対象
1 同じ名称で異なる制度がある

「遺言信託」は,一つの法制度だけを指す言葉ではない。
銀行又は信託銀行が行う遺言書作成の相談,遺言書の保管及び遺言執行を組み合わせたサービスを指す場合と,遺言によって財産を信託する信託法上の制度を指す場合がある。

信託協会のQ&Aも,金融機関が用いる「遺言信託」は,通常,信託法上の信託契約ではなく,遺言書作成の相談,遺言書の保管及び遺言執行等を組み合わせたサービスであると説明している。
両者では,契約当事者,財産管理の仕組み,相続開始後に必要となる手続及び費用が異なるため,まず利用中又は検討中の商品がどちらであるかを確認する必要がある。

2 本記事が中心に扱う銀行サービス

本記事は,令和8年9月22日現在の日本法を前提として,銀行又は信託銀行が提供する遺言書作成の相談,保管及び遺言執行のサービスを中心に,遺言者と家族が時系列で確認すべき事項を説明する。
信託法上の遺言信託については,第6で追加の注意事項を取り上げる。

制度の全体像と用語の違いについては,遺言信託(AI作成)を参照されたい。

3 本記事の結論

信託銀行の遺言信託は,「相続をまとめて任せられるサービス」と受け取られやすいが,実際には,財産事務,紛争対応,税務申告,不動産登記及び信託財産の管理が別々の主体と料金で処理される。
しかも,家族間の対立が顕在化してサービスの必要性が最も高くなった場面で,銀行が遺言執行者への就任を辞退することがある。

このため,最大の問題は,手数料が高いことだけではない。
遺言者が生前に費用を負担して複雑な遺言又は信託を設計した後も,紛争処理,就任辞退後の遺言執行者選任,登記,税務及び事情変更への対応が家族側に残り得るという,費用,権限及び責任の分断にある。

財産関係が単純で家族間の対立もない場合には,公正証書遺言と弁護士等による個別対応の方が低コストで柔軟なことがある。
反対に,財産又は家族関係が複雑で紛争可能性が高い場合には,信託銀行だけでは処理できない事項が増えるため,契約前に銀行から独立した弁護士の審査を受ける必要性が高い。

第2 契約前に疑うべき三つの前提
1 銀行が担当する範囲
(1) 財産に関する事務

銀行の遺言執行サービスは,預貯金,有価証券及び不動産等の財産に関する遺言を対象とするのが通常である。
認知,未成年後見人の指定その他の身分行為は,銀行が遺言執行者として処理できる財産事務とは別に考える必要がある。

契約前には,①対象財産,②相続人及び受遺者への通知,③財産目録の作成,④預貯金等の解約又は名義変更,⑤不動産の移転登記の手配,⑥遺言執行の完了報告のうち,どこまでが基本業務に含まれるかを確認する必要がある。
「遺言執行を任せる」という説明だけでは,実際の担当範囲は確定しない。
商品名に「信託」又は「相続サポート」と付いていても,家族間の利害調整まで引き受けるワンストップサービスであるとは限らない。

(2) 法的紛争と専門職業務

相続人間の争いについて代理交渉を行うこと,税務申告を行うこと及び不動産登記申請を代理することは,通常の銀行事務だけでは完結しない。
信託協会のQ&Aも,遺言執行報酬には税理士への相続税申告報酬及び司法書士への不動産登記報酬等が含まれないことがあると説明している。

弁護士法72条は,弁護士又は弁護士法人でない者が,報酬を得る目的で,訴訟事件その他一般の法律事件に関する法律事務を業として取り扱うこと等を原則として禁止している。

(続きを読む...)信託銀行の遺言信託を利用する遺言者と家族の注意事項-費用,紛争時の辞退及び資金拘束の問題(AI作成)

主要な国内暗号資産交換業者の死亡時手続比較―現物移管・円換価・必要書類(AI作成)

目次
第1 結論―各社の違いは「暗号資産のまま移すか、円に換えるか」に表れる
第2 本記事の対象と確認方法
第3 主要サービスの比較表
第4 各社の死亡時手続
1 bitFlyer2 Coincheck3 bitbank4 BITPOINT5 Binance Japan6 OKJ7 メルカリ/メルコイン
第5 必要書類を集める際の注意点
第6 弁護士が受任直後に確認する事項
第7 代表相続人と遺産分割を混同しない
第8 死亡後に交換業者が円換価した場合の所得税
1 死亡前の売却と死亡後の売却を分ける2 死亡後の換価は誰の所得になるか3 取得価額は被相続人の購入額ではなく死亡時評価額4 相続税評価額と所得税の取得価額は同じとは限らない5 換価損益の計算と損失の扱い6 換価前後の遺産分割で帰属が変わり得る7 交換業者と税理士へ確認する資料
第9 公開案内が見つからない事業者への照会事項
第10 調査上の限界と更新確認
第11 関連記事
第12 出典・参考資料

第1 結論―各社の違いは「暗号資産のまま移すか、円に換えるか」に表れる

暗号資産交換業者の口座名義人が死亡した場合、相続人が被相続人のID及びパスワードを使って売却又は送付するのではなく、各事業者の相続窓口へ連絡し、所定書類を提出するのが基本である。

ただし、手続の経済的な結果は各社で異なる。令和8年9月22日時点の公式案内を比較すると、主に次の三つに分かれる。

①暗号資産をそのまま代表相続人の口座へ移管する方式
②事業者が暗号資産を売却し、日本円を代表相続人へ払い戻す方式
③相続窓口は公開されているものの、資産の交付方法は個別案内とされている方式

価格変動が大きい暗号資産では、現物移管か円換価か、換価の時点を誰が決めるかによって相続人の受取額が変わり得る。そのため、戸籍及び印鑑証明書の準備だけでなく、凍結時点、未約定注文、信用取引、ステーキング又は貸暗号資産、取引履歴及び死亡日残高の扱いを最初に確認する必要がある。

第2 本記事の対象と確認方法

本記事は、金融庁の登録業者情報を参照した上で、一般利用者向けの死亡・相続手続を公式ウェブサイトで確認できた主要サービスを比較したものである。全登録業者について、非公開の社内手続又は個別回答まで調査したものではない。

表中の「確認済み」は各社の公式FAQ、公式サポート又は所定書式に記載された事項である。「個別確認」は、公開ページで結論が示されていない事項である。検索で案内を発見できなかったことは、その事業者に相続手続が存在しないことの証明にはならない。

また、BITPOINTサービスとSBI VCトレードのVCTRADEサービスは、同じグループの案内ページでも手続が異なる旨が明記されているため、本記事ではBITPOINTの案内をVCTRADEへ流用していない。

(続きを読む...)主要な国内暗号資産交換業者の死亡時手続比較―現物移管・円換価・必要書類(AI作成)

医師など高収入共働き夫婦の離婚実務―婚姻費用,養育費,財産分与,医療法人及び監護の整理(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 高収入共働きの離婚が複雑になる理由2 結論第2 最初に四つの時点を固定する1 別居開始時2 財産形成の基準時3 婚姻費用・養育費の収入基準年4 離婚成立と請求期限第3 婚姻費用と養育費の収入評価1 給与収入の合算2 事業所得と経費3 高額所得と算定表の範囲4 教育費・住宅費・特別費用第4 財産分与の資産一覧1 個人名義の金融資産2 不動産と住宅ローン3 医療機器,診療所及び事業資産第5 医療法人・関係会社と個人財産の区別1 法人財産はそのまま夫婦の財産ではない2 医療法人の類型を確認する3 家族労働と役員報酬第6 子の監護と勤務体制1 勤務表を具体化する2 監護と収入の二重計上を避ける3 子を情報の運び手にしない第7 資料保全と開示の実務1 収入資料2 資産・負債・法人資料第8 合意書・調停条項の確認1 支払条項2 財産分与と税・法人手続第9 関連記事第10 出典・参考資料1 法令2 裁判所の資料
第1 本記事の対象と結論
1 高収入共働きの離婚が複雑になる理由

医師,歯科医師,経営者,士業その他の専門職同士の共働き夫婦では,両方に高い収入があるため争点が少ないように見える。実際には,給与収入と事業収入の併存,日当直・スポット勤務の変動,当直回数の変化,可変給与,法人からの報酬,留保金,非上場株式,退職金,借入金,教育費,夜間・休日勤務と監護の分担等が重なる。

2 結論

この類型では,「高収入者だから算定表より高くなる」又は「共働きだから生活費は各自負担である」と単純化しないことが重要である。①現在の生活費の分担,②子の居所・監護・医療・教育,③収入の評価,④婚姻中に形成された財産,⑤個人と会社・医療法人の財産の区別,⑥将来のキャリアと監護体制を別々の表にし,その後に相互の影響を確認する。

第2 最初に四つの時点を固定する
1 別居開始時

婚姻費用,住宅ローン,子の居所,生活費の支払及び面会交流について,別居を開始した日の前後で事実関係が大きく変わる。別居日だけでなく,合意の有無,住所の変更,子の引渡し,鍵と財産の移動及び生活費の支払開始日を時系列にする。

2 財産形成の基準時

財産分与では,夫婦の協力による財産形成が実質的に終了した時点が問題となる。長期別居の後に大きな収入,株式価値の変動,施設の開業,借入又は資産移転があると,「どの時点の財産が分与対象か」と「いつの価値で評価するか」を分けて検討する必要がある。

3 婚姻費用・養育費の収入基準年

確定申告書や源泉徴収票は過去一年間の収入を示すが,当直回数,勤務先,雇用形態又は休業の変化がある場合,過去一年だけで将来の基礎収入を評価できないことがある。数年分の収入及び最近の勤務実態を並べ,一時的な要因と継続的な変化を分ける。

4 離婚成立と請求期限

婚姻費用は婚姻中の生活保持の問題であり,離婚後の養育費とは別である。財産分与は離婚後に請求期間があるため,調停,裁判又は公正証書で合意する場合に,未解決の財産が残っていないかを確認する。

第3 婚姻費用と養育費の収入評価
1 給与収入の合算

複数の病院・クリニックから給与を得ている場合,主たる勤務先の源泉徴収票だけでは収入の全体が分からない。住民税課税証明書,確定申告書,青色申告決算書,支払調書,給与明細,賞与明細及び当直・非常勤先の支払記録を総合する。

2 事業所得と経費

開業医,個人事業主又は自営業者では,売上ではなく事業上の必要経費を控除した所得が出発点となる。ただし,税務上の経費が生活費分担の計算で常に全額控除されるとは限らない。減価償却,事業専従者給与,親族・関係会社への支払,家事関連費との按分及び一時的な投資を個別に見る。

3 高額所得と算定表の範囲

裁判所が公表する養育費・婚姻費用算定表は,父母又は夫婦の収入と子の人数・年齢に応じた標準額を迅速に把握するための道具である。収入が表の上限を大きく超える場合,上限値を用いるか,標準算定方式を応用するか,実際の生活状況や貯蓄部分をどう評価するかが問題となる。自動的な答えはなく,個別事情と最新の裁判実務を確認する必要がある。

4 教育費・住宅費・特別費用

私立学校,学習塾,留学,医学部等への進学,習い事,高額の医療費又は住居費は,標準的な生活費にどこまで含まれるかが問題となる。婚姻中の合意,従前の支出,子の意向と適性,父母の収入・資産及び今後の支払能力を資料で示す。

第4 財産分与の資産一覧
1 個人名義の金融資産

預貯金,株式,投資信託,外貨,暗号資産,保険の解約返戻金,確定拠出年金,企業年金,職員共済,退職金見込額及び従業員持株会等を一覧にする。婚姻前財産,相続・贈与で取得した財産及びそれらの代償財産は,婚姻中に両方で形成した財産と区別する。

2 不動産と住宅ローン

登記名義,取得時期,頭金の原資,現在価値,ローン残高,団体信用生命保険,事業での利用,売却可能性及び離婚後の居住者を整理する。所有名義とローンの債務者を分け,財産分与の合意だけで金融機関に対する債務者が当然に変わらないことに注意する。

3 医療機器,診療所及び事業資産

(続きを読む...)医師など高収入共働き夫婦の離婚実務―婚姻費用,養育費,財産分与,医療法人及び監護の整理(AI作成)

親が元気なうちの実家じまい・生前整理―処分同意,重要書類,デジタル遺品及び家族間記録のチェックリスト(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 「実家じまい」に含まれる別々の行為2 結論第2 まず確認する三つの権利1 家財・預貯金・不動産の所有者2 本人が自分で決める能力3 子や受任者の代理権第3 捨てる前に分ける五つの群1 法律関係を示す重要書類2 金銭的価値のある動産3 個人情報・職務上の秘密を含む物4 思い出と家族史料5 危険物・規制品・廃棄方法が特殊な物第4 デジタル資産とアカウント1 一覧化するもの2 パスワードをそのまま家族に渡すときの問題第5 家族間で残す書面1 処分リストと保留リスト2 立替費用と売却代金の収支表3 本人の希望と法的効力の区別第6 業者を使うときの契約チェック1 見積りと業務範囲2 処分と買取の許可第7 本人の死後に変わること1 遺産の所有権と相続放棄2 死後事務委任と賃貸住宅の残置物第8 実行順序のチェックリスト1 初期確認2 作業実施と完了後第9 関連記事第10 出典・参考資料1 法令2 公的資料
第1 本記事の対象と結論
1 「実家じまい」に含まれる別々の行為

実家じまいや生前整理と呼ばれる作業には,家財の選別・廃棄,貴重品の売却,重要書類の保管,デジタルアカウントの整理,不動産の売却・賃貸,介護施設への転居,遺言・任意後見・財産管理等が含まれ得る。これらは便利な一つの作業名でまとめられているが,所有権,代理権,契約の目的及び判断能力という法的論点は別々である。

2 結論

親が元気なうちに行うべきことは,単に物の数を減らすことではない。①誰の所有物か,②誰がどこまで処分を決められるか,③捨ててはいけない書類・資産・思い出は何か,④死後に必要な手続を誰が行うか,⑤家族間で何を合意したかを書面化することである。

特に,判断能力が低下した後に子が親の名義で売却・解約・廃棄を行うことは,家族だから自由にできるわけではない。早い段階で本人の意思と権限を確認することに生前整理の法的な意味がある。

第2 まず確認する三つの権利
1 家財・預貯金・不動産の所有者

実家にある物がすべて親の所有物とは限らない。配偶者や子の所有物,預かった物,借りた物,共有物が混じっていることがある。不動産は登記事項証明書,固定資産税の納税通知書及び売買契約書等を突き合わせる。名義と実質的な所有関係が食い違う可能性がある場合は,処分前に個別の法律判断が必要である。

2 本人が自分で決める能力

生前整理の合意や売買契約が有効であるためには,本人がその行為の意味と結果を判断できることが必要である。診断名があるかどうかだけで決まるものではなく,処分する財産の重要性,契約の複雑さ,説明を受けた状況及び当時の理解の程度が問題となる。

家や高額の動産の売却,贈与,信託,遺言等は,日常的な処分よりも後の紛争が大きい。説明の過程,本人の言葉,同席者,日付及び関係資料を残す意義が大きい。

3 子や受任者の代理権

家族関係だけで他人の財産を処分する代理権は生じない。子が親の代わりに契約をする場合,委任状又は代理権授与契約で,対象財産,可能な行為,有効期間,代金の受領方法及び報告方法を明確にする。

実印,印鑑登録証明書,権利証・登記識別情報等を預けた相手が,預けた目的を越えて本人名義の保証契約や担保設定をした場合でも,本人が表見代理(民法109条・110条)によって責任を負うことがある。登記手続のために実印等を預けた場合の表見代理の成否と最高裁判例は,登記手続のために実印や権利証を預けた相手が無断で保証や担保設定をしたとき―表見代理(民法109条・110条)と最高裁判例で整理している。

代理権を与えた後に本人の判断能力が低下した場合も,受任者は本人の利益のために権限の範囲内で行動しなければならない。広範な財産管理に備えるなら,任意後見契約その他の制度を検討する。

第3 捨てる前に分ける五つの群
1 法律関係を示す重要書類

不動産の権利証・登記識別情報,売買契約書,借地・借家関係の契約書,保険証券,年金関係書類,借入・保証・投資関係資料,遺言書,民事信託・任意後見・死後事務委任の契約書,裁判・調停・和解の書類等は,他の紙類と分ける。原本と写しを区別し,保管場所の一覧を作る。

2 金銭的価値のある動産

貴金属,宝飾品,書画,古美術,切手,コイン,高級時計,ブランド品等は,親族内の感覚だけで価値の有無を決めない。所有者の確認後,写真,概要,査定先,査定額,売却先,手数料及び代金の入金先を記録する。

3 個人情報・職務上の秘密を含む物

他人の手紙,写真,医療・介護記録,業務書類,名簿,印鑑及びストレージ媒体は,普通の家庭ごみと同じように捨てない。シュレッダー,溶解,安全なデータ消去等,情報の内容と媒体に合った方法を選ぶ。

4 思い出と家族史料

写真,日記,手紙,賞状,位牌,家系図及び手作り品等は,市場価値がなくても他の家族にとって代替のきかない意味を持つ。捨てる権限と保存する希望を分け,家族で必要な確認期間を置く。

5 危険物・規制品・廃棄方法が特殊な物

火器,刀剣,薬品,注射針,農薬,消火器,金庫,ピアノ,家電リサイクル法の対象品等は,処理方法を自治体又は適正な受入先に確認する。家庭から出る廃棄物の収集・運搬を業者に任せる場合は,実際に積込み・運搬を行う者が,排出地の市町村の一般廃棄物収集運搬業の許可又は市町村の委託を受けているかを確認する(廃棄物処理法7条1項。専ら再生利用の目的となる一般廃棄物のみを扱う場合等の例外がある。)。許可業者も収集・運搬を他人に委託できないから(同条14項),許可業者と提携しているという説明だけでは足りない。

第4 デジタル資産とアカウント
1 一覧化するもの

(続きを読む...)親が元気なうちの実家じまい・生前整理―処分同意,重要書類,デジタル遺品及び家族間記録のチェックリスト(AI作成)

デジタル遺品・オンラインアカウントは相続人がどこまで処理できるか―端末・クラウド・SNS・暗号資産の違い(AI作成)

目次
第1 結論―「アカウントを相続する」と一括りにしない
第2 最初に端末・契約・データ・財産価値を分ける1 端末2 オンラインアカウント及び利用契約3 保存データ及び通信内容4 金銭債権及び暗号資産
第3 死亡直後に行う確認と避ける操作
第4 日本法上の主な論点1 相続の対象はサービスごとに異なる2 パスワードを知っていることとアクセス権限は同じではない3 通信内容には第三者の秘密も含まれる4 証拠保全と共同相続人の調整
第5 主要サービスの公式手続1 Apple Account2 Googleアカウント3 Facebook
第6 暗号資産・購入コンテンツ・継続課金
第7 米国RUFADAAとの比較
第8 相続人及び生前の本人が残す実務資料
第9 関連記事
第10 出典・参考資料

第1 結論―「アカウントを相続する」と一括りにしない

デジタル遺品について,相続人ができることは一律ではない。
スマートフォン又はパソコンという端末の所有権,サービスの利用契約,クラウド上の写真及び文書,メール又はメッセージの通信内容,売掛金又はポイント等の財産的利益,暗号資産並びに購入コンテンツの利用権を分けて確認する必要がある。

相続人であることだけから,被相続人のID及びパスワードを使ってあらゆるサービスへログインできるとは限らない。
サービスの利用規約,生前に設定された意思表示,提供事業者の死亡者向け公式手続,アクセス制御の状態,通信相手の秘密及び相続財産の管理に必要な範囲を確認し,公式手続で取得又は閉鎖できるものはその手続を先に用いる方が安全である。

本記事は,日本における一般的な論点と主要サービスの令和8年9月22日時点の公式案内を整理するものであり,個別サービスの権利移転又はログインの適法性を一律に断定するものではない。

第2 最初に端末・契約・データ・財産価値を分ける
1 端末

スマートフォン,パソコン,外付け記録媒体及び認証用の機器は有体物であり,相続財産としての所有関係を検討できる。
しかし,端末を所有することと,端末内又はクラウド上の暗号化データを復号し,第三者のサービスへログインできることは別である。

2 オンラインアカウント及び利用契約

オンラインアカウントは,単なる「物」ではなく,サービス事業者との契約上の地位,認証情報及び利用機能の組合せである。
死亡時の終了,譲渡禁止,遺族による閉鎖又は指定連絡先への限定的なデータ提供等が利用規約及び公式手続で定められていることがある。

3 保存データ及び通信内容

写真,文書及びバックアップのような保存データと,電子メール又はメッセージの内容を分ける。
通信内容には被相続人だけでなく,送信者,受信者その他の第三者の秘密又は個人情報が含まれるため,相続財産の調査に必要であるというだけで,無制限に閲覧・共有してよいとはいえない。

(続きを読む...)デジタル遺品・オンラインアカウントは相続人がどこまで処理できるか―端末・クラウド・SNS・暗号資産の違い(AI作成)

未登記建物は誰のものか――固定資産課税台帳の名義,遺言の対象,遺産分割及び表題登記(AI作成)

目次第1 結論第2 未登記建物とは何か1 表題登記の申請義務2 表題部所有者と所有権の登記名義人3 所有権の保存の登記第3 固定資産課税台帳の名義は所有権の証明ではない1 地方税法の定め2 死亡した者の名義が残っている場合3 使用者を所有者とみなす場合4 名義・台帳・登記の対応5 物理的建物・登記・課税台帳・増改築部分の対応表第4 誰が原始取得したか1 自分の費用と材料で建てた場合2 親が資金を出した場合3 増築及び改築4 借地の上にある建物第5 未登記建物を譲渡した場合1 対抗要件2 贈与又は売買をしたまま登記をしていない場合第6 遺言の対象に含まれるか1 「その余の不動産」型の条項2 物件の表示と実際の建物の食い違い3 付言事項が手掛かりになること第7 遺産分割及び遺留分での扱い1 遺産に属するかどうかを先に決める2 評価3 相続登記の申請義務との関係第8 登記の手続第9 実務の確認手順第10 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 公的資料
第1 結論

相続の場面では,登記記録に現れない建物が出てくることがある。
古い母屋,増築した離れ,作業場,倉庫,農機具小屋などである。

未登記であることは,所有者がいないことを意味しない。
建物は,建築によって誰かが所有権を原始取得しており,登記はその公示にすぎない。
したがって,未登記建物についても,①誰が原始取得したか,②その後に贈与,売買又は相続で移転したか,③遺言の対象に含まれるか,を順に確定する必要がある。

固定資産課税台帳(家屋補充課税台帳)に誰の名義で登録されているかは,手掛かりにはなるが,所有権の帰属を決めるものではない。
遺言の物件の表示と実際の建物が合わないことも多い。
本記事では,条文に即して確認の順序を示す。

第2 未登記建物とは何か
1 表題登記の申請義務

不動産登記法47条1項は,「新築した建物又は区分建物以外の表題登記がない建物の所有権を取得した者は,その所有権の取得の日から一月以内に,表題登記を申請しなければならない。」と定めている。

この申請を正当な理由なく怠ったときは,同法164条1項により十万円以下の過料に処せられる。
もっとも,実際には表題登記がされないまま何十年も経過している建物がある。

2 表題部所有者と所有権の登記名義人

不動産登記法27条は,建物の表示に関する登記の登記事項を定めており,その3号は,「所有権の登記がない不動産…については,所有者の氏名又は名称及び住所並びに所有者が二人以上であるときはその所有者ごとの持分」を掲げている。
この欄に記録された者が表題部所有者である。

表題部所有者は,権利部に記録される所有権の登記名義人とは別の概念である。
表題登記だけがされている建物は,権利部が存在しない状態であり,所有権の移転の登記をすることができない。

3 所有権の保存の登記

不動産登記法74条1項は,所有権の保存の登記を申請できる者を,①表題部所有者又はその相続人その他の一般承継人,②所有権を有することが確定判決によって確認された者,③収用によって所有権を取得した者に限っている。

そのため,表題登記がない建物について権利の登記をするには,まず表題登記をして表題部所有者を記録し,その上で保存の登記を申請するという二段階の手続を踏む。
相続人が申請するときは,被相続人を表題部所有者とする表題登記をした上で,相続を原因として保存の登記をする方法が採られることが多い。

第3 固定資産課税台帳の名義は所有権の証明ではない
1 地方税法の定め

地方税法343条1項は,固定資産税を「固定資産の所有者」に課するとしている。
同条2項は,その「所有者」について,「土地又は家屋については,登記簿又は土地補充課税台帳若しくは家屋補充課税台帳に所有者…として登記又は登録がされている者をいう。」と定めている。

未登記の建物は登記簿に記録がないため,家屋補充課税台帳に登録された者が「所有者」として扱われる。
これは課税のための擬制であって,私法上の所有権の帰属を決めるものではない。

(続きを読む...)未登記建物は誰のものか――固定資産課税台帳の名義,遺言の対象,遺産分割及び表題登記(AI作成)

相続税の申告書を遺留分の基礎財産表に使えない理由――相続時精算課税,農地等の納税猶予,小規模宅地等の特例及び債務控除の読み替え(AI作成)

目次第1 結論第2 相続税の申告書に載っている財産の範囲1 課税価格の計算は民法上の遺産の範囲と一致しない2 「取得者」欄は遺言又は遺産分割の結果を書いたものである第3 相続開始の時に被相続人が所有していなかった財産が混ざる1 相続時精算課税に係る贈与財産2 農地等の贈与税の納税猶予に係る農地等3 相続開始前七年以内の贈与4 税法上のみなし規定は民法上の性質を変えない第4 課税価格の評価額は民法上の時価ではない1 小規模宅地等の特例2 農業投資価格3 路線価及び固定資産税評価額第5 みなし相続財産と非課税財産1 生命保険金及び死亡退職手当金2 特別受益の問題とは別である第6 債務控除欄の読み替え1 葬式費用は相続税では控除できるが遺留分では控除できない2 申告書に計上しなかった債務を後から主張する場合第7 申告書から遺留分の基礎財産表を作る手順第8 相続税の申告書を書証にするときの注意第9 関連記事第10 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 公的資料
第1 結論

相続事件で遺産の全体像をつかもうとするとき,相続税の申告書又は税理士が作成した財産の一覧表が最初に手に入ることが多い。
しかし,相続税の申告書は相続税の課税価格を計算するための書類であって,遺留分を算定するための財産の一覧表ではない。
両者は,載せる財産の範囲,価額の求め方及び控除する債務の範囲のいずれにおいても一致しない。

民法1043条1項は,遺留分を算定するための財産の価額を「被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与した財産の価額を加えた額から債務の全額を控除した額とする。」と定めている(令和元年7月1日前に開始した相続では,同じ内容の旧民法1029条1項による。)。
これに対し,相続税の課税価格には,被相続人が相続開始の時に所有していなかった財産が,複数のみなし規定によって入り込む。
課税価格に算入する価額も,小規模宅地等の特例その他の政策的な評価によって取引価格から離れることがある。

そのため,申告書の数字をそのまま計算シートへ書き写すと,次の4種類の誤りが同時に起こり得る。
①遺留分の基礎財産に入れてはならない財産を入れる。
②遺贈と生前贈与を取り違えて,減殺又は負担の順序を誤る。
③価額を過小又は過大に見積もる。
④控除できない葬式費用を控除する。

本記事では,申告書のどの欄がどの理由で使えないのかを条文に即して整理し,申告書を読み替えて遺留分の基礎財産表を作る手順を示す。

第2 相続税の申告書に載っている財産の範囲
1 課税価格の計算は民法上の遺産の範囲と一致しない

相続税の課税価格は,相続又は遺贈により取得した財産の価額を基礎としつつ,次のものを加減して計算する。
①相続税法3条1項によって相続又は遺贈により取得したものとみなされる財産(生命保険金,死亡退職手当金等)を加える。
②相続時精算課税に係る贈与財産の価額を加える(相続税法21条の15第1項,21条の16第1項)。
③相続開始前の一定期間内(後記3のとおり,相続開始日に応じて3年以内から7年以内まで)の贈与財産の価額を加える(相続税法19条1項)。
④租税特別措置法70条の5第1項により相続で取得したものとみなされる農地等を加える。
⑤相続税法12条1項の非課税財産を除く。
⑥相続税法13条1項の債務及び葬式費用を控除する。

このうち②③④は,相続開始の時には既に受贈者のものになっていた財産である。
⑤は課税上除かれるだけであって,民法上の扱いは別に考える必要がある。
⑥には,民法上は相続債務でないものが含まれている。

2 「取得者」欄は遺言又は遺産分割の結果を書いたものである

財産の明細に付された「取得者」欄は,その財産を誰が取得したかを申告する欄であって,遺言の条項をそのまま写したものではない。
遺言と異なる内容の遺産分割がされた場合や,未登記の建物について実際の使用者を書いた場合には,遺言の条項と食い違うことがある。

そのため,取得者欄を根拠に「この不動産は遺言で誰々が取得した」と主張すると,遺言原本と照合した相手方から不整合を指摘されることになる。

(続きを読む...)相続税の申告書を遺留分の基礎財産表に使えない理由――相続時精算課税,農地等の納税猶予,小規模宅地等の特例及び債務控除の読み替え(AI作成)

こども性暴力防止法の施行と弁護士の役割―事業者側助言・こども側代理・聴き取りの注意点(AI作成)

目次第1 こども性暴力防止法とこの記事の結論1 令和8年12月25日から施行される2 弁護士の役割は一つではない3 公開資料だけを根拠とする第2 事業者側弁護士が最初に整理する事項1 法の対象と事業者の区分を確認する2 初動を「聴き取り」だけにしない3 担当者,指揮系統及び記録を決める第3 こどもへの聴き取りに先立つ安全確保1 現在の危険から離す2 医療と証拠保全を遅らせない3 外部機関との役割分担を決める第4 こどもへの聴き取りの注意点1 聴き取りの目的を限定する2 誘導を避け,自由な説明を尊重する3 聴取回数と参加者を絞る4 録音・録画は目的と負担を確認する第5 事業者側弁護士とこども側弁護士の役割分担1 事業者側弁護士の役割2 こども側弁護士の役割3 必要に応じて代理人を分ける第6 情報管理,労務対応及び説明1 情報共有は必要性と権限で判断する2 安全確保と懲戒判断を分ける3 こども・保護者への説明事項を記録する第7 弁護士が使う初動確認表1 事業者側の確認事項2 こども側の確認事項第8 出典・確認範囲1 法令及びこども家庭庁資料2 確認していない事項
第1 こども性暴力防止法とこの記事の結論
1 令和8年12月25日から施行される

こども性暴力防止法の正式名称は,「学校設置者等及び民間教育保育等事業者による児童対象性暴力等の防止等のための措置に関する法律」であり,令和6年法律第69号として公布された。
同法は,令和8年12月25日から施行される。
学校設置者等には法定の措置が義務付けられ,学習塾等の民間教育保育等事業者については,認定を受けた事業者に同等の措置が求められる仕組みである。

2 弁護士の役割は一つではない

性暴力の疑いが生じた場面で,弁護士は,事業者側で初動,調査,安全確保,関係機関との連携及び労務対応を助言する場合と,こども又は保護者の側で権利擁護,意思確認,被害申告及び支援機関との連携を担う場合がある。
事業者側の事実確認と,こどもの安全・回復のための支援は,目的も担当者も一致するとは限らない。
同じ弁護士が双方の立場を曖昧に担当すると,利益相反や,こどもが事業者の調査へ協力することを当然視する危険が生じるので,受任主体,依頼目的,情報共有の範囲及び意思決定者を最初に明確にする必要がある。

3 公開資料だけを根拠とする

本記事は,令和8年10月8日現在の法令,こども家庭庁の指針,Q&A及び公開研修資料に基づく。
個別の被害事案や関係者名は扱わず,公開資料から一般化できる実務上の確認事項だけを記載する。
制度の対象事業者,対象従事者,主な義務及び施行準備の全体像は,子ども性暴力防止法とは―「こども性暴力防止法」(日本版DBS)の対象・義務・令和8年12月25日の施行準備で整理している。

個別案件では,対象事業,施行時期,所管行政庁,警察・児童相談所への連絡,労働法上の措置及び証拠保全を,最新の公式資料と当該事案の事情に即して確認する必要がある。

第2 事業者側弁護士が最初に整理する事項
1 法の対象と事業者の区分を確認する

最初に,事業者が学校設置者等に当たるのか,民間教育保育等事業者に当たるのか,後者であれば認定を受けているのか又は受ける予定があるのかを確認する。
同じ法人が複数の事業を行う場合,施設又はサービスごとに法の対象範囲が異なることがあるので,法人名だけで判断しない。
従事者の職名ではなく,実際に児童等へ提供する役務,接触の態様及び法令上の区分を確認する。

2 初動を「聴き取り」だけにしない

こども家庭庁の公開資料は,こどもへの聴き取りに先立ち,警察への通報・相談,所管行政庁への相談及び専門家への相談を検討するよう求めている。
したがって,事業者が最初に行うべき作業は,詳しい供述を直ちに取り切ることではない。
①現在も接触の危険があるか,②緊急の医療が必要か,③証拠が失われるおそれがあるか,④警察,児童相談所又は所管行政庁へいつ連絡するか,⑤誰がこどもと保護者へ説明するかを先に整理する。

3 担当者,指揮系統及び記録を決める

事業者内部では,安全確保,関係機関への連絡,こども・保護者対応,従事者対応,労務判断及び広報対応の担当を分ける。
弁護士は,誰が最終判断を行うのか,どの情報を誰へ共有するのか,時刻を含む初動記録を誰が作成するのかを確認する。
関係者が独自に繰り返し質問すると,こどもの負担を増やし,記憶や供述の評価を難しくすることがあるので,連絡経路を一本化する必要がある。

第3 こどもへの聴き取りに先立つ安全確保
1 現在の危険から離す

(続きを読む...)こども性暴力防止法の施行と弁護士の役割―事業者側助言・こども側代理・聴き取りの注意点(AI作成)

妻が払った夫名義の住宅ローンは取り戻せるか―同居中・別居後・離婚後の3段階と財産分与・立替金の請求(AI作成)

目次第1 この記事が扱う場面と結論1 想定する場面2 結論の要約3 基準日と資料の性質第2 払った時期を3つに分ける第3 同居中に払った分1 夫婦の協力による財産形成として清算される2 妻の特有財産から払った分は別に考慮される第4 別居後,離婚前に払った分1 婚姻費用は増えないのが原則である2 財産分与では,別居時の残高で計算される3 財産分与の中で主張する方法4 夫に対する立替金として別に請求する方法5 「養育費(婚姻費用)から払った」ことの意味第5 離婚後に払った分1 元夫の債務を代わりに払ったことになる2 元夫に請求する根拠3 共有名義・連帯保証の場合の裁判例4 時効に注意する第6 調停・和解で決めておくこと1 住宅をどちらが取得するか2 清算条項の範囲を確かめる3 財産分与の請求期間第7 手元に集める資料第8 出典1 法令2 裁判例3 裁判所の資料4 関連記事
第1 この記事が扱う場面と結論
1 想定する場面

本記事は,夫の単独名義の自宅に妻と子が住み,その住宅ローンを妻が払ってきた(又は払っている)場合に,払った分を夫との間でどう精算するかを扱う。
妻が自分の給与から払う場合のほか,夫から受け取った婚姻費用や養育費をローンの返済に回している場合も含む。
夫婦の役割が逆の場合(妻名義の住宅のローンを夫が払う場合)も,考え方は同じである。

別居中の婚姻費用の計算で住宅ローンをどう扱うかは,別記事「別居中の婚姻費用と住宅ローン-誰が住み,誰が返済するかで変わる計算方法」で扱っている。
本記事は,その先の問題,すなわち「払った分は最終的に誰のものになり,どの手続で取り戻すか」を扱う。
夫婦がペアローンや連帯債務でローンを組んでいる場合は,別記事「ペアローンを組んだ夫婦の離婚と財産分与――評価,連帯保証・求償の帰趨及び課税」を参照されたい。

2 結論の要約

払った時期によって,問題になる手続と考え方が次のとおり分かれる。
①同居中に払った分は,夫婦の協力による財産形成として,財産分与の中で2分の1ずつ清算されるのが原則である。
②別居後,離婚前に払った分は,財産分与の計算では住宅ローンが別居時の残高で評価されるため,そのままでは反映されない。財産分与の「一切の事情」として主張するか,夫に対する立替金等の請求として別に請求するかを検討する。
③離婚後に払った分は,元夫の債務を代わりに払ったものであり,財産分与とは別の民事上の請求(事務管理,不当利得等)の問題になる。
④調停や和解で離婚するときは,払った分と今後払う分の扱いを条項に書いておかないと,清算条項によって後から請求できなくなるおそれがある。

3 基準日と資料の性質

本記事は,令和8年9月20日時点の民法の条文(e-Gov法令検索で確認した令和8年6月24日施行版)に基づく。
財産分与の実務の説明は,東京家庭裁判所家事第6部「東京家裁人訴部における離婚訴訟の審理モデル」について(令和6年4月26日。以下「審理モデル」という。)に基づく。
本記事で紹介する下級審の裁判例は,いずれも裁判所HPの裁判例検索には掲載されておらず(裁判所HP未掲載),判例秘書(LLI/DB)で本文を確認したものである(令和8年9月20日確認)。
夫の単独名義の住宅のローンを妻が払った分の精算を正面から判断した裁判例は,判例秘書でも見当たらなかったため,本記事には,共有名義の事案の裁判例や,条文と審理モデルからの整理を含む。
整理の部分は,「本記事では~と整理する」等の表現で区別している。

第2 払った時期を3つに分ける

調停や交渉で話がかみ合わなくなる原因の多くは,時期の違う支払を一まとめにして議論することにある。
まず,通帳や償還予定表を見ながら,払った時期を次の3つに分けて一覧表にする。

払った時期問題になる手続基本的な考え方同居中財産分与夫婦の協力による財産形成として清算される別居後・離婚前婚姻費用,財産分与,立替金等の請求婚姻費用は増えないのが原則である。財産分与ではローンを別居時の残高で評価するため,別途の主張が要る離婚後財産分与とは別の民事上の請求元夫の債務を代わりに払ったものとして,事務管理,不当利得等で請求する

財産分与では,対象となる財産を確定する基準時は原則として別居時,その財産を評価する基準時は原則として口頭弁論終結時とされている(審理モデル9頁の脚注12)。
この「別居時」という区切りが,上の表の1行目と2行目を分ける理由である。

第3 同居中に払った分
1 夫婦の協力による財産形成として清算される

民法768条3項は,家庭裁判所が財産分与を定めるに当たり,「当事者双方がその婚姻中に取得し,又は維持した財産の額及びその取得又は維持についての各当事者の寄与の程度」その他一切の事情を考慮すると定めている。

(続きを読む...)妻が払った夫名義の住宅ローンは取り戻せるか―同居中・別居後・離婚後の3段階と財産分与・立替金の請求(AI作成)

エホバの証人の輸血方針の変更(令和8年9月)と宗教的輸血拒否の法的枠組み―成人患者の意思確認,同意書及び子どもへの輸血(AI作成)

目次第1 この記事の対象と基準日第2 エホバの証人が公表した輸血方針の変更1 公表された文書2 変更の内容3 個人の決定の扱いと事前指示書4 図表「Products Derived From Whole Blood」第3 国内の血液製剤から見た変更の意味1 全血製剤はほとんど供給されていない2 献血された血液の使い道第4 成人患者の輸血拒否に関する裁判例1 最高裁平成12年2月29日判決2 大分地裁昭和60年12月2日決定3 方針変更後に意思確認で注意すべき点第5 子どもへの輸血と親権者の拒否1 ガイドラインの年齢区分2 行政機関の位置付け3 三つの手続と選び方4 審判例5 方針変更が子どもの事案に与える影響第6 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 行政機関の通知・Q&A・事務連絡4 医学会等の指針5 統計・公的機関の資料6 宗教団体の公表資料
第1 この記事の対象と基準日

エホバの証人は,令和8年9月18日,他人の血液に由来する赤血球,白血球,血漿及び血小板(主要4成分)を治療に用いるかどうかを,各信者が個人として決めることとする方針を公式ウェブサイトで公表した。
全血の輸血は,引き続き受けないとしている。
本記事は,公表された文書の内容を確認した上で,宗教上の理由による輸血拒否について,国内の法令,裁判例,行政機関の通知及び医学会等の指針がどのような枠組みを置いているかを整理し,今回の変更が医療機関,患者,家族及び代理人の実務にどう関係するかを検討するものである。

基準日は令和8年9月20日である。
エホバの証人の文書は,基準日時点で英語版だけが公表されており,日本語の記事及び図表は同団体の日本語サイトに掲載されていない(同サイトのトップページには動画「2026 統治体からの話(6)」の案内がある。)。
そのため,本記事で英語の文書を日本語で示す部分は,いずれも本記事による仮訳である。
教義の当否は論じず,公表文書の記載と,法令,裁判例及び公的資料で確認できる事項に限って扱う。

結論を先に示すと,次のとおりである。
①今回の変更の中心は,主要4成分の使用を各信者の判断に委ねた点にあり,全血の輸血を受けないこと,全血の輸血に回る献血をしないことは維持されている。
②国内では全血製剤はほとんど供給されていないため,国内で行われる輸血の大半は,各信者が個人で判断する範囲に入ると考えられる。
③同じ信者でも受け入れる製剤が人によって分かれ得るので,医療機関は,信仰の有無からではなく,製剤ごとに本人の現在の意思を確かめる必要が大きくなる。
④子どもへの輸血について親権者が同意しない場合の法的手続(親権停止の審判,その保全処分及び児童相談所長等の緊急の措置)は,今回の変更によって何も変わらない。

第2 エホバの証人が公表した輸血方針の変更
1 公表された文書
(1) 令和8年9月18日の公表

公表の中心は,令和8年9月18日付けの「2026 Governing Body Update #6」(動画)である。
同じ日に,解説記事「How Do Jehovah’s Witnesses Show Respect for Life?」と,図表「Products Derived From Whole Blood」が公表された。
解説記事の末尾には,同記事は Update #6 で説明された内容を反映したもので,今後『ものみの塔』誌に掲載される予定である旨の注記がある。
同団体は,この変更を「adjustment」(調整)と表現している。

(2) 先行する令和8年3月20日の公表

これに先立つ令和8年3月20日付けの「2026 Governing Body Update #2」は,患者自身の血液を医療に用いることについての立場を明確にするものであった。
今回の解説記事は,この Update #2 の説明を引用した上で,同じ原則を主要4成分にも当てはめる構成をとっている。

2 変更の内容

解説記事の記載を項目ごとに整理すると,次のとおりである。

項目従前の扱い(解説記事の説明による)令和8年9月18日以降全血の輸血受けない受けない(変更なし)主要4成分(赤血球・白血球・血漿・血小板)全血と同じ原則を当てはめて受けない各信者が個人として決める分画(アルブミン,免疫グロブリン,凝固因子等)受け入れる信者がいることを前提とする記載がある各信者が個人として決める献血しない全血の輸血に回る献血はしない。成分・分画を他人に用いる明確な目的の献血は各信者が決める自己の血液の使用―令和8年3月20日の Update #2 から各信者が決める
(1) 主要4成分は各信者の判断に委ねられた

解説記事は,統治体が,他人の血液に由来する全血の主要4成分についても同じ原則が当てはまると決定したと述べ,「これら4つの主要成分をあらゆる内科的・外科的治療で用いるかどうかは,各クリスチャンが個人として決定しなければならない」(仮訳)としている。
他方で,主要4成分の一つ又は複数を用いる治療を統治体が軽く見ているわけではなく,引き続き「非常に重大な事柄」(仮訳)とみているとも述べている。

(続きを読む...)エホバの証人の輸血方針の変更(令和8年9月)と宗教的輸血拒否の法的枠組み―成人患者の意思確認,同意書及び子どもへの輸血(AI作成)

遺産分割調停・審判はどのくらいかかるか―調停に代わる審判と二期日指定(令和6年)(AI作成)

目次第1 この記事の対象と資料1 使用する資料と対象期間2 数え方の注意第2 遺産分割事件の平均審理期間1 令和6年の平均と分布2 平均審理期間の推移第3 期間を左右する事情1 手続代理人弁護士の関与2 当事者の人数3 遺産の額・特別受益・寄与分4 期日の回数と間隔第4 終局の仕方と期間1 終局区分ごとの割合と期間2 調停に代わる審判の活用第5 期日間隔を縮める家庭裁判所の取組1 実情調査で紹介された取組2 代理人の側の工夫と課題第6 大阪家庭裁判所管内の数値第7 依頼者への説明と代理人の準備第8 関連記事第9 出典1 法令2 統計・データ
第1 この記事の対象と資料
1 使用する資料と対象期間

本記事は,最高裁判所事務総局「裁判の迅速化に係る検証に関する報告書(第11回)」(令和7年7月)の家事事件の統計を基に,家庭裁判所の遺産分割事件(調停及び審判)がどのくらいの期間で終わっているかを整理するものである。
対象は令和6年に終局した事件であり,統計は令和7年4月15日現在の数値である。
主に,報告書152頁~156頁(遺産分割事件の概況),185頁~193頁(実情調査の結果等),資料4-1・4-2(事件類型別の数値),資料4-4・4-5(家庭裁判所管内別の数値)及び資料5の表42~表44(遺産額・特別受益・寄与分別の数値)を使った。

2 数え方の注意

遺産分割事件の既済件数と審理期間は,調停が不成立になって審判に移行した事件のように,調停と審判の両方を経た事件も1件として数えている(報告書152頁【図10】の注)。
したがって,平均審理期間は,最初の申立てから調停又は審判で終わるまでの期間と考えてよい。
他方,新受件数は,調停としての係属と審判としての係属を別々に数えている。

報告書の本文が「前回」と書くときは第10回報告書,すなわち令和4年の数値を指す。
平均期日間隔は,平均審理期間を平均期日回数で割った数値である(報告書155頁【表16】の注)。

第2 遺産分割事件の平均審理期間
1 令和6年の平均と分布

令和6年の遺産分割事件の既済件数は1万5379件で,平均審理期間は12.1月であった(報告書153頁,資料4-1)。
同じ年の民事第一審訴訟の平均審理期間(9.2月)より長い。
新受件数(調停と審判を別々に数えたもの)は1万9550件で,前回(1万6687件)から約17%増えた。

審理期間件数割合6月以内5361件34.9%6月超1年以内5016件32.6%1年超2年以内3575件23.2%2年超3年以内958件6.2%3年超469件3.0%

1年を超える事件は32.5%であり,おおむね3件に1件が1年を超えている。
前回(令和4年)は,6月以内が32.8%,1年超が35.0%であったから,短い側へ少し移っている。

2 平均審理期間の推移

報告書によれば,平均審理期間は,令和元年までの数年間は12月を下回っていたが,令和2年に大きく長くなって12月を上回り,令和4年から緩やかに短くなっている(報告書152頁~153頁)。
資料4-5の数値では,令和2年12.7月,令和3年13.2月,令和4年12.9月,令和5年12.5月,令和6年12.1月である。

報告書は,令和4年以降の短縮の要因として,新型コロナウイルス感染症の影響が落ち着いたことのほか,各家庭裁判所が同感染症の拡大を契機に進めてきた調停運営改善の取組の効果が現れてきたことが考えられるとしている(報告書153頁)。

第3 期間を左右する事情
1 手続代理人弁護士の関与

遺産分割事件のうち,当事者のいずれかに手続代理人弁護士が付いた事件は1万2336件(80.2%)であった(資料4-1)。
報告書は,関与率が長らく6割台であったものが15年ほど前から上がり,平成30年頃から80%前後で高止まりしているとしている(報告書155頁)。

平均審理期間は,代理人の関与がある事件で13.2月,関与がない事件で7.9月であった(資料4-2)。
報告書も,関与がある事件の方が平均審理期間が長いという傾向に変化はないとしている。

(続きを読む...)遺産分割調停・審判はどのくらいかかるか―調停に代わる審判と二期日指定(令和6年)(AI作成)

判断能力を欠く人に対する時効の完成猶予―民法158条の類推適用と最高裁平成26年3月14日判決(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 本記事の対象2 結論第2 民法158条の内容1 条文2 改正前民法との関係3 規定の趣旨第3 最高裁平成26年3月14日判決1 事案2 判断3 日付で見た当てはめ4 判断の射程第4 平成10年6月12日判決との関係1 除斥期間への民法158条の法意の適用2 両判決の違い3 現行民法724条2号との関係第5 実務上の対応1 時効の満了前に後見開始を申し立てる2 審判前の保全処分3 就職から6か月以内に権利を行使する4 後見人に対する権利(民法158条2項)5 債務者の側が判断能力を欠く場合第6 その他の権利者側の事情による完成猶予1 夫婦間の権利(民法159条)2 相続財産(民法160条)3 天災等(民法161条)第7 関連記事第8 出典・参考資料1 法令2 裁判例
第1 本記事の対象と結論
1 本記事の対象

本記事は,認知症や精神障害等で判断能力を欠く人が権利を持っている場合に,その権利の消滅時効がどのように扱われるかを,民法158条と最高裁判所第二小法廷平成26年3月14日判決を中心に整理するものである。
あわせて,民法159条から161条までの権利者側の事情による完成猶予と,除斥期間について民法158条の法意を用いた最高裁判所第二小法廷平成10年6月12日判決との関係にも触れる。
調査基準日は令和8年9月19日であり,条文はe-Gov法令検索で取得した現行民法等の本文と照合し,判決は裁判所ウェブサイトの詳細頁と全文で確認した。
消滅時効全体の見取り図は消滅時効に関するメモ書きにある。

2 結論

民法158条1項は,時効の期間の満了前6か月以内の間に未成年者又は成年被後見人に法定代理人がないときは,法定代理人が就職した時等から6か月を経過するまで,その人に対して時効は完成しないと定める。
後見開始の審判をまだ受けていない人は,判断能力を欠いていても,条文上の「成年被後見人」には当たらない。
しかし,平成26年判決は,時効の期間の満了前6か月以内の間に精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある人に法定代理人がない場合において,少なくとも,時効の期間の満了前の申立てに基づき後見開始の審判がされたときは,民法158条1項の類推適用により,成年後見人が就職した時から6か月を経過するまでの間は,その人に対して時効は完成しないとした。
この救済を受けるには,①満了前6か月以内に判断能力を欠く常況にあったこと,②満了前に後見開始の申立てがされたこと,③その申立てに基づいて後見開始の審判がされたことが必要であり,④成年後見人は就職から6か月以内に権利を行使しなければならない。
時効の満了前に申立てがされていない場合に類推適用が認められるかは,平成26年判決の判断の外にある。
したがって,判断能力を欠く親族の権利について時効の満了が迫っているときは,満了前に後見開始の申立てをしておくことが決定的に重要である。

第2 民法158条の内容
1 条文

民法158条1項は「時効の期間の満了前六箇月以内の間に未成年者又は成年被後見人に法定代理人がないときは、その未成年者若しくは成年被後見人が行為能力者となった時又は法定代理人が就職した時から六箇月を経過するまでの間は、その未成年者又は成年被後見人に対して、時効は、完成しない。」と定める。
同条2項は「未成年者又は成年被後見人がその財産を管理する父、母又は後見人に対して権利を有するときは、その未成年者若しくは成年被後見人が行為能力者となった時又は後任の法定代理人が就職した時から六箇月を経過するまでの間は、その権利について、時効は、完成しない。」と定める。
いずれも,時効の完成を猶予する規定であり,時効期間を振り出しに戻す更新の効果はない。
完成猶予と更新の区別は,時効の完成猶予と更新の違い―旧法の中断・停止との対応関係と事由の一覧で整理している。

2 改正前民法との関係

改正前民法158条は,見出しが「時効の停止」であったほかは,現行民法158条と同じ文言である。
平成29年法律第44号附則10条2項は,施行日(令和2年4月1日)前に改正前民法158条から161条までの時効の停止の事由が生じた場合におけるこれらの事由の効力については,なお従前の例によるとしている。
もっとも,民法158条の文言は改正の前後で変わっていないから,平成26年判決の考え方は現行法の下でもそのまま参考になる。

3 規定の趣旨

平成26年判決は,民法158条1項の趣旨について,成年被後見人等は法定代理人を有しない場合には時効中断の措置を執ることができないのであるから,法定代理人を有しないにもかかわらず時効の完成を認めるのは成年被後見人等に酷であるとして,これを保護するところにあると述べている。
同判決は,さらに,同項が成年被後見人等だけを掲げているのは,その該当性や法定代理人の選任の有無・時期が形式的・画一的に確定し得る事実であり,時効を援用しようとする者の予見可能性を不当に奪うものとはいえないからであると説明している。
この二つの観点,すなわち権利者保護の必要性と,時効を援用しようとする者の予見可能性が,類推適用の可否を分ける基準になっている。

第3 最高裁平成26年3月14日判決
1 事案

(続きを読む...)判断能力を欠く人に対する時効の完成猶予―民法158条の類推適用と最高裁平成26年3月14日判決(AI作成)