第1 この記事が扱う相続と,適用される法の決め方1 相続分は相続開始時の法によって定まる2 適用される法の時期区分第2 昭和55年改正が設けた分水嶺1 改正法附則の経過措置2 改正された条文の内容3 e-Gov法令検索で経過措置を確認するときの限界第3 昭和23年1月1日から昭和55年12月31日までの法定相続分1 配偶者と血族相続人の割合2 同順位の相続人が数人あるときの割合3 昭和37年改正が変えたものと変えなかったもの第4 応急措置法が適用される相続の相続分第5 旧民法の遺産相続における相続分1 遺産相続人の順位2 庶子及び私生子の相続分第6 代襲相続の範囲が三段階に変わること第7 嫡出でない子の相続分と違憲決定の射程第8 地域による適用法の違い第9 相続分の計算に連動する制度1 遺留分2 寄与分3 相続税法上の相続分と配偶者の税額軽減第10 計算の手順と誤りやすい点1 計算の手順2 誤りやすい点3 計算した相続分が争われた場合出典・参考資料1 法令2 裁判例3 公文書・歴史資料4 文献
第1 この記事が扱う相続と,適用される法の決め方
1 相続分は相続開始時の法によって定まる
相続登記が長期間されないまま放置された不動産や,先代・先々代の名義のままになっている土地について遺産分割や相続登記を進めるときは,被相続人が死亡した日を基準として,その当時に施行されていた法律による法定相続分を計算しなければならない。現行の民法900条1号は,子及び配偶者が相続人であるときの相続分を各2分の1と定めているが,この割合が適用されるのは昭和56年1月1日以後に開始した相続に限られる。本記事は,昭和55年12月31日以前に開始した相続について,どの時期にどの割合が適用されるのかを,官報に掲載された公布時の条文にさかのぼって整理するものである。作成に当たっては,AIを用いて官報,国会会議録及び裁判所ウェブサイトの原資料を通読し,条文の文言と数値を原典と逐語で照合した。
この整理の出発点となる経過措置は二つある。一つは,民法及び家事審判法の一部を改正する法律(昭和55年法律第51号)附則第2項であり,「この法律の施行前に開始した相続に関しては、なお、第一条の規定による改正前の民法の規定を適用する」と定める。もう一つは,民法の一部を改正する法律(昭和22年法律第222号)附則第25条第1項であり,「応急措置法施行前に開始した相続に関しては、第二項の場合を除いて、なお、旧法を適用する」と定める。相続分は,相続人の範囲と同じく相続開始時に施行されていた法によって決まり,その後の改正によって遡って変わることはない。
本記事は,被相続人が日本人であり日本法が準拠法となる場合を対象とする。被相続人が外国人であるときは相続の準拠法は本国法であり,最高裁判所第二小法廷昭和37年8月10日判決は,大韓民国人について昭和31年当時に生じた遺産相続の相続人を,当時の同国の慣習によって認定している。在日韓国・朝鮮人が被相続人である事案の相続人調査については在日韓国・朝鮮人の相続人調査で扱っている。また,相続人の範囲そのもの,すなわち家督相続と遺産相続の区別,家督相続人が選定されなかった場合の処理及び家附の継子の相続権については旧民法が適用される相続の相続人の特定で扱っているため,本記事は相続人が確定した後の割合の計算に対象を絞る。
2 適用される法の時期区分
相続開始日によって適用される法は,次の5期に分かれる。境界となる日付は,いずれも各法律の施行期日に関する規定から導かれる。
相続開始日適用される法昭和22年5月2日以前旧民法(明治31年法律第9号として公布された民法第四編親族・第五編相続)。家督相続又は遺産相続昭和22年5月3日から同年12月31日まで日本国憲法の施行に伴う民法の応急的措置に関する法律(昭和22年法律第74号)及び旧民法の遺産相続に関する規定昭和23年1月1日から昭和37年6月30日まで民法(昭和22年法律第222号による改正後のもの)昭和37年7月1日から昭和55年12月31日まで民法(昭和37年法律第40号による改正後のもの)昭和56年1月1日以後民法(昭和55年法律第51号による改正後のもの)
各境界日の根拠は次のとおりである。応急措置法の附則は「この法律は、日本國憲法施行の日から、これを施行する。」と定めるから,同法は憲法施行日である昭和22年5月3日から適用される。昭和22年法律第222号附則第1条は「この法律は、昭和二十三年一月一日から、これを施行する。」と定める。昭和37年法律第40号附則第1項は「この法律は、昭和三十七年七月一日から施行する。」と定め,昭和55年法律第51号附則第1項は「この法律は、昭和五十六年一月一日から施行する。」と定める。なお,応急措置法の附則には失効期日を定める規定が置かれておらず,同法及び同時期の関係法律の整理に関する法律にも同法を廃止する条項は見当たらないが,新民法の施行によって相続に関する規律が引き継がれた結果,昭和23年1月1日以後に開始した相続には新民法が適用される。
第2 昭和55年改正が設けた分水嶺
1 改正法附則の経過措置
民法及び家事審判法の一部を改正する法律は,昭和55年5月17日に公布され,官報同日付本紙第15994号5頁に掲載された。その附則は7項から成り,相続分の計算に直接かかわるのは次の2項である。
1 この法律は、昭和五十六年一月一日から施行する。
2 この法律の施行前に開始した相続に関しては、なお、第一条の規定による改正前の民法の規定を適用する。
この経過措置は,改正後の規定を施行前に開始した相続へは一切及ぼさないという完全な不遡及を定めるものである。したがって,被相続人が昭和55年12月31日に死亡した相続と,翌日である昭和56年1月1日に死亡した相続とでは,遺産分割や相続登記を現在行うとしても,適用される相続分の割合が異なる。
(続きを読む...)昭和55年以前に開始した相続の法定相続分――時期区分と改正前民法900条の割合(AI作成)