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精神科病院入院中の成年被後見人が他科を受診するときの付添い――後見人の義務、病院との役割分担、介護保険・障害福祉・自費サービス

第1 結論と検討の対象

本記事は,令和8年9月10日現在の法令及び公的資料に基づき,精神科病院に入院中の成年被後見人が整形外科等の他の医療機関を受診するとき,誰が付添いを担うのかを整理するものである。
結論からいえば,成年後見人であるというだけで,後見人本人が車椅子を押し,移動中及び待合室で見守り,診察に付き添う事実行為まで当然に行う義務を負うわけではない。
もっとも,本人が必要な診療を安全に受けられるよう,病院と必要な支援内容を確認し,利用可能なサービスを調査し,必要な契約及び支払を行うことは,後見事務となり得る。

付添い方法は,精神疾患の診断名だけで決めるべきではない。
本人ごとの歩行・移乗能力,転倒又は離院のおそれ,意思疎通の方法,服薬及び急変時の対応,入院形態並びに受診先が求める支援を確認して決める必要がある。
本記事は一般的な情報提供を目的とし,個別事案では病院,市町村,介護支援専門員及び相談支援専門員等への確認を要する。

第2 最初に「付添い」の内容を分ける

1 移送と介助は別の機能である

「病院への付添い」という一語には,複数の異なる仕事が含まれる。
少なくとも,①精神科病院から受診先までの車両による移送,②病室から車両まで及び車両から診察室までの歩行・車椅子・移乗介助,③車内及び待合室での見守り,④受付・保険資格確認・会計,⑤診察時の意思疎通支援,⑥診療情報及び処方内容の受渡し,⑦急変又は離院時の対応に分けて考える必要がある。

これらを一人又は一事業者が全部担わなければならないわけではない。
例えば,移送は許可又は登録のあるタクシー等,乗降及び待合室の支援は自費の付添い事業者,診療情報の作成及び帰院後の治療継続は入院先病院という分担も考えられる。

2 医療同意とも区別する

診察に同席して説明を聞くことと,医的侵襲に同意することは別である。
成年後見人には一般的な医療同意権がないと整理されており,後見人が付添いに行くことから直ちに手術,注射その他の医療行為への同意権が生じるわけではない。
この点は,別稿「成年後見人の医療行為の同意」で詳しく扱っている。

第3 成年後見人の義務と限界

1 民法858条及び859条

民法858条は,成年後見人が生活,療養看護及び財産管理に関する事務を行うに当たり,本人の意思を尊重し,心身の状態及び生活の状況に配慮すべきことを定めている。
同法859条1項は,成年後見人が本人の財産を管理し,その財産に関する法律行為について本人を代表することを定めている。

したがって,受診の必要性,安全な実施方法,本人の意向及び費用負担を確認し,必要なサービス契約を締結し,本人の財産から適正な費用を支払うことは,成年後見人の職務に含まれ得る。
他方,条文に「療養看護」とあることから,後見人が自ら介護職又は看護職の代わりとなり,身体介護や継続的見守りを行う義務まで直ちに導くことはできない。

2 最高裁平成28年3月1日第三小法廷判決

最高裁平成28年3月1日第三小法廷判決(平成26年(受)第1434号・第1435号)は,認知症高齢者の鉄道事故をめぐる民法714条の監督義務者責任を扱った判決である。
同判決は,民法858条が成年後見人に事実行為として本人の現実の介護を行うことや本人の行動を監督することを求めるものではない旨を判示した。

この判決は,他科受診の付添い義務を直接判断したものではない。
しかし,「身上配慮義務」と「本人に対する現実の介護・行動監督」を区別する必要があることを示す一次資料として重要である。

3 大阪家裁後見センターだよりの整理

大阪家裁後見センターだより第32回「身上保護事務について」は,食事,入浴等の実際の介護,家事労働,入院時の身元保証,強制的医療行為等を身上保護事務そのものとはしない一方,介護契約,施設入所契約,医療契約及びこれらに伴う支払等を例示している。
この整理によっても,後見人が自ら付添人になることと,必要な付添いを手配することは分けて考えるべきである。

第4 精神科病院との役割分担

1 病院に最初に確認すべき事項

他科受診を決めた入院先病院は,本人の現在の病状,服薬,行動上及び身体上の注意事項を把握している。
そこで後見人は,単に「付き添ってください」という依頼を受けるだけでなく,①受診の目的及び緊急性,②受診先及び予約時刻,③対診又は院内診療で代替できない理由,④入院形態,⑤必要な介助及び見守りの水準,⑥必要資格,⑦病院職員が同行できない理由,⑧診療情報提供書・画像・薬剤情報の準備,⑨帰院後の治療への引継ぎ,⑩急変・離院・受診拒否時の連絡先を確認する必要がある。

「精神科病院に入院している」という事実だけでは,二人介助,拘束可能な付添人又は看護師同行が必要であるとは限らない。
反対に,高齢,骨折疑い,鎮静作用のある薬剤,車椅子移乗,認知機能又は離院リスク等が重なる場合には,一般の家事援助型ヘルパー一人では安全を確保できないこともある。

2 他医療機関受診に関する診療上の連携

厚生労働省の令和8年度診療報酬に関する実施上の留意事項は,入院中の患者に診療上の必要があり,他の保険医療機関の医師による対診又は他医療機関での診療が行われる場合を予定し,医療機関間の診療報酬の取扱いを定めている。
診療報酬上,他医療機関受診が予定されていることは,入院先病院が常に職員を同行させる法的義務を直接意味しない。
もっとも,受診の必要性,診療情報の提供,服薬及び帰院後の治療継続は医療上の事項であり,後見人や外部事業者だけで判断できるものではない。

3 全国一律の付添い分担規定は確認できない

本記事の調査では,精神科病院から他の医療機関を受診するとき,病院,家族又は成年後見人のうち誰が必ず同行しなければならないかを直接定める全国一律の法令又は行政通知は確認できなかった。
したがって,病院が職員を出せないというだけで当然に後見人本人の義務になるとも,病院が必ず職員を出さなければならないとも断定できない。

役割分担は,診療上の必要性,本人の具体的リスク,入院契約及び病院の説明内容,利用可能な地域資源並びに費用を踏まえて協議する必要がある。
病院側には,医療連携室又は精神保健福祉士を窓口として,安全に受診できる具体案を示すよう求めるのが実務的である。

第5 介護保険の通院等乗降介助

1 居宅が始点又は終点となることが基本である

介護保険の訪問介護における「通院等乗降介助」は,居宅要介護者の通院等を支援する仕組みである。
令和3年度改定以後,複数の目的地を移動する場合でも,居宅が始点又は終点であり,同一の訪問介護事業所が一連の支援を行うときは,病院から別の病院への移送等も算定できる場合がある。
厚生労働省の通院等乗降介助の見直し資料は,この要件を明示している。

精神科病院を出発し,整形外科を受診して,同じ精神科病院へ戻る行程には,通常,「居宅」が始点又は終点として含まれない。
そのため,80歳で要介護認定を受けているというだけで,この病院間往復に通院等乗降介助を利用できるとはいえない。

2 老健からの受診例をそのまま当てはめない

別の事案で介護老人保健施設から外部受診した際にヘルパーが同行したとしても,その費用が介護保険給付であったとは限らない。
施設の契約,自費サービス,医療機関との個別調整又は保険外サービスであった可能性があるため,前例として用いる前に,サービス名,契約主体,請求名目及び保険給付の有無を確認する必要がある。

3 実際の確認先

介護保険で対応できる可能性を検討するときは,介護保険被保険者証及び要介護認定,担当介護支援専門員の有無,入院前の訪問介護事業所並びに行程を確認し,保険者である市町村に具体的行程を示して照会する。
「病院から病院へ」という抽象的な尋ね方ではなく,「精神科病院の病室から出発し,車両で整形外科へ行き,院内を介助し,同日中に元の病室へ戻る」という全行程を示すことが重要である。

第6 障害福祉サービス

1 通院等介助にも居宅起点・終点の制約がある

障害福祉の居宅介護には通院等介助及び通院等乗降介助があるが,利用には障害支援区分,支給決定及び個別の支援計画が必要である。
厚生労働省の障害福祉サービス等報酬改定等に関するQ&A VOL.2は,居宅が始点又は終点となる場合に一定の目的地間移動を支援対象とする一方,サービス事業所を始点かつ終点とする行程は報酬対象にならないと説明している。

この考え方によれば,精神科病院から整形外科へ行き,同じ精神科病院へ戻る行程は,通常の通院等介助等にそのまま当てはめにくい。
もっとも,障害福祉サービスは本人の支給決定及び市町村の具体的判断を要するため,利用不可と一律に決めず,寝屋川市の障害福祉サービス等支給決定基準を参照し,障害福祉課及び相談支援専門員に照会する必要がある。

2 入院中の重度訪問介護と移送を混同しない

重度訪問介護については,一定の要件を満たす利用者が医療機関に入院中も,意思疎通支援その他の支援を受けられる場合がある。
しかし,これは入院患者一般の病院間移送又は外来付添いを当然に給付対象とする制度ではない。
本人が従前から重度訪問介護の支給決定を受けているか,入院中の支援が必要か,予定する行為が給付対象かを個別に確認する必要がある。

3 65歳以上では介護保険との関係も確認する

障害者総合支援法7条は,介護保険法による給付等を受けられるときの調整を定めている。
80歳の本人については,障害福祉の利用可能性だけでなく介護保険との適用関係を確認する必要があるが,介護保険優先の原則があることから病院間往復が当然に介護保険給付になるわけではない。

第7 地域の外出支援と自費サービス

1 寝屋川市の外出援助サービス

寝屋川市「生活支援事業」の外出援助サービスは,単独で一般交通機関を利用することが困難な65歳以上の在宅高齢者等を対象とし,在宅生活を支援する制度である。
精神科病院の入院患者は「在宅高齢者」という要件に通常は該当しないため,本件行程の直接の解決策にはなりにくい。

2 自費の付添いサービス

公的給付の要件に合わない場合は,自費の介護事業者,付添い看護サービス又は通院付添いサービスを利用する余地がある。
病院が特定の事業者を紹介できない場合でも,医療連携室,精神保健福祉士,介護支援専門員,地域包括支援センター,市障害福祉課又は社会福祉協議会に,対応地域,必要資格及び本人のリスクを示して情報提供を求めることが考えられる。

契約前には,①精神科病院への入退館を含む対応地域,②車椅子及び移乗介助の可否,③精神症状又は認知機能低下がある人への対応経験,④看護師等の資格が必要な行為の有無,⑤待合時間及び延長料金,⑥キャンセル料,⑦事故・離院・急変時の手順,⑧損害賠償保険,⑨診療情報及び個人情報の取扱い,⑩病院との直接連絡の可否を書面で確認する必要がある。

3 移送部分には道路運送法上の確認が必要である

付添い事業者が本人を自己の車両に乗せ,有償で運ぶ場合は,付添い契約だけでなく旅客運送の許可又は登録の有無を確認する必要がある。
大阪府「福祉有償運送」は,公共交通機関を単独で利用できない高齢者又は障害者等について,道路運送法79条の登録を受けたNPO法人等が行う自家用有償旅客運送の仕組みと登録事業者情報を案内している。

実務上は,移送を許可又は登録のあるタクシー,介護タクシー又は福祉有償運送事業者に任せ,自費付添人が同乗する形にすると,役割と責任を明確にしやすい。
「ヘルパーが自家用車で送ってくれる」という説明だけで決めず,運送主体,許可・登録,運賃,介助料及び保険を確認すべきである。

第8 費用負担と後見事務の記録

1 本人の必要性と財産から判断する

付添いサービスが本人の受診に必要であり,料金が相当であれば,成年後見人が本人を代理して契約し,本人の財産から費用を支払うことが考えられる。
家族又は後見人が無償で付添うことを当然の前提とせず,まず公的給付,病院内の対応,複数事業者の見積り及び本人の資力を比較する必要がある。

高額な契約,長期継続契約,違約金を伴う契約又は本人の財産状況から負担が重い契約については,契約前に家庭裁判所又は後見監督人へ相談するのが安全である。
ただし,家庭裁判所は個別事業者の品質を保証する機関ではないため,事業者選定及び安全確認は別途行う必要がある。

2 記録に残す事項

後見記録には,①受診の必要性及び日程,②病院から受けた説明,③本人の意向及び意思決定支援の経過,④必要な介助・見守り水準,⑤公的サービスを利用できなかった理由,⑥照会先及び回答,⑦選定した事業者と選定理由,⑧見積書・契約書・領収書,⑨受診結果の病院への引継ぎを残すことが望ましい。
後日,費用の必要性又は後見人が自ら同行しなかった理由を説明する際にも,この記録が役立つ。

第9 実務上の手順

1 病院との打合せ

最初に,主治医,看護師及び精神保健福祉士等との間で受診の必要性,入院形態,同行者に求める役割及び病院側が行う業務を具体化する。
病院側が同行できないという結論だけでなく,どの作業を誰がすれば受診可能なのかを一枚の確認票にまとめるとよい。

2 公的サービスの照会

次に,要介護認定,障害福祉サービスの支給決定及び既存の担当者を確認する。
介護支援専門員,相談支援専門員及び市町村に全行程を示し,給付対象となる部分と保険外となる部分を分けて回答を求める。

3 自費サービスの選定

公的給付で不足する部分について,自費付添い及び許可・登録のある移送手段を組み合わせる。
受診先にも,精神科入院中であることだけでなく,実際に必要な介助,診察時の意思疎通方法,待合場所及び急変時連絡先を事前に伝える。

4 受診後の引継ぎ

診療結果,画像,処方又は安静・リハビリの指示を入院先病院へ確実に返す。
付添人が医療判断を代行するのではなく,受診先と入院先の医療者が必要な情報を共有できる流れを作ることが重要である。

第10 判例及び一次資料の到達点

本記事で確認した一次資料は,e-Gov法令検索の現行法令,裁判所ウェブサイト掲載の最高裁判決,厚生労働省の通知・Q&A,法務省,大阪府,寝屋川市及び大阪家庭裁判所の公表資料である。
最高裁平成28年3月1日第三小法廷判決は,成年後見人が事実行為として現実の介護又は行動監督を当然に負わないことの根拠になるが,他科受診の付添いを直接扱った判決ではない。

裁判所ウェブサイトは全裁判例を収録するものではない。
今回,判例秘書はログイン画面までの到達にとどまり,認証後の検索を実施していないため,「成年後見人・通院・受診・付添い・精神科病院・他科受診」等の組合せによる商用判例データベースの補充検索は【要追加確認】である。
したがって,直接裁判例が「存在しない」とは断定していない。

また,令和8年法律第45号による成年後見制度の見直しは令和8年6月24日に公布され,後見及び保佐を廃止して補助へ一元化する部分は公布日から2年6月以内の政令指定日に施行される。
令和8年9月10日現在は未施行であるため,本記事は現行の成年後見制度に基づいて記述しているが,施行時には用語及び権限関係を再確認する必要がある。

第11 出典

1 法令及び裁判例

e-Gov法令検索「民法」(858条及び859条)
e-Gov法令検索「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律」(7条)
e-Gov法令検索「道路運送法」(79条)
最高裁平成28年3月1日第三小法廷判決(平成26年(受)第1434号・第1435号)

2 行政資料

法務省「『民法等の一部を改正する法律』(成年後見及び遺言の制度の見直し)について」
大阪家裁後見センターだより第32回「身上保護事務について」
厚生労働省「令和8年度診療報酬の算定方法の一部改正等に伴う実施上の留意事項について」
厚生労働省「訪問介護における通院等乗降介助の見直し」
厚生労働省「令和6年度障害福祉サービス等報酬改定等に関するQ&A VOL.2」
厚生労働省「障害福祉サービスについて」
寝屋川市「生活支援事業」
寝屋川市「障害福祉サービス等支給決定基準」
大阪府「福祉有償運送」