第1 司法書士資格の変遷を理解するための前提
司法書士制度の沿革には,①明治5年に設けられた代書人という前身職種,②大正8年に独立の法律で規律された司法代書人,③昭和10年以後の司法書士,④昭和53年に導入された国家試験と法務大臣による資格認定,⑤平成14年以後の認定司法書士という複数の段階がある。本記事では,前身職種の起源と法律上の制度確立を区別した上で,資格取得の経路がどのように変わったかを時系列で整理する。
1 資格取得,登録及び簡裁代理能力認定の違い
現行の司法書士法4条は,司法書士試験の合格と法務大臣の認定を,司法書士となる資格の取得経路として定めている。もっとも,資格を得ただけで司法書士として業務を行えるわけではなく,同法8条の司法書士名簿への登録と,同法57条に基づく司法書士会への入会が必要である。また,同法3条2項の簡裁訴訟代理等関係業務の能力認定は,司法書士となる資格を与える同法4条2号の資格認定とは別の制度である。
第2 代書人から司法書士への変遷
1 明治5年の司法職務定制
現在の司法書士につながる前身職種は,明治5年8月3日の司法省職制並ニ事務章程,いわゆる司法職務定制に置かれた代書人である。司法職務定制42条は,各区に代書人を置いて人民の訴状を作成させる一方,代書人を利用するか否かは本人の意思に任せていた。同じ章には,現在の公証人につながる証書人と,現在の弁護士につながる代言人も定められていた。原本は,国立公文書館デジタルアーカイブの司法職務定制で確認できる。
明治6年の訴答文例は訴状等を代書人に作成させる強制主義を採用したが,明治7年の改正により選任は再び任意となった。日本司法書士会連合会の司法書士関連法の変遷は,これらを代書人制度の創設と初期の変化として整理している。したがって,明治5年は司法書士の前身制度の起源であり,現在と同じ資格制度が完成した時点ではない。
2 大正8年の司法代書人法
司法代書人法は,大正8年4月10日法律第48号として公布された。同法により,裁判所及び検事局へ提出する書類の作成を業とする司法代書人が,一般の代書人から区別された。国立国会図書館の日本法令索引は,公布日を大正8年4月10日としている。
昭和53年改正案の国会審議でも,政府は,明治5年の代書人を社会的制度としての起源としつつ,司法書士に連なる法律上の制度が確立されたのは大正8年であると説明している。この説明に従えば,「明治5年に前身制度が始まり,大正8年に司法代書人が独立の法律制度となった」と整理するのが正確である。第84回国会衆議院法務委員会会議録で政府説明を確認できる。
3 昭和10年の司法書士への改称
司法代書人法中改正法律は,昭和10年4月4日法律第36号として公布され,司法代書人は司法書士に,司法代書人法は司法書士法に改称された。国立国会図書館の日本法令索引で,公布日と法律番号を確認できる。
改称案の貴族院特別委員会会議録では,司法省が,制度内容を改めず名称だけを変更する案には賛成しにくい旨を説明していた。他方,衆議院委員会会議録では改称案が異議なく可決されており,確認できた帝国議会会議録からは,改称の経緯を単純な一方向の反対運動として説明することはできない。
第3 戦後の資格・登録制度
1 昭和25年司法書士法
現行法の基礎となる司法書士法は,昭和25年5月22日法律第197号として公布され,同年7月1日に施行された。制定時の2条1号は,裁判所書記,裁判所事務官,裁判所事務官補,法務府事務官又は検察事務官として通算3年以上勤務した者に資格を認め,同条2号は,これらの者と同等以上の教養及び能力を有する者にも資格を認めていた。業務を行うには,法務局又は地方法務局の長の認可を受ける必要があり,現在の国家試験及び登録制度とは異なる仕組みであった。衆議院掲載の制定時司法書士法で当時の条文を確認できる。
2 昭和31年改正と全国統一認可試験
昭和31年3月22日法律第18号は,官職経験者に必要な実務経験を通算3年以上から通算5年以上へ延長し,業務認可を「選考による認可」とした。この改正後,全国統一認可試験が実施されるようになったが,これは昭和53年改正後の法定の国家試験とは異なる。また,昭和31年改正は司法書士会の強制設立及び全員加入の制度も定めた。衆議院掲載の昭和31年改正法で改正内容を確認できる。
3 昭和42年改正による法人格の付与
昭和42年7月18日法律第66号により,司法書士会及び日本司法書士会連合会に法人格が付与された。この改正は資格取得経路そのものを変えるものではないが,強制加入を前提とする専門職団体の法的基盤を整えたものである。衆議院掲載の昭和42年改正法で改正内容を確認できる。
4 昭和53年改正による国家試験と法務大臣認定
昭和53年6月23日法律第82号は,司法書士となる資格の取得経路を,司法書士試験の合格と法務大臣の資格認定に改め,登録制度を設けた。法務大臣の資格認定は,裁判所書記官,裁判所事務官,法務事務官又は検察事務官等として通算10年以上勤務した者だけでなく,これらの者と同等以上の法律知識及び実務経験を有する者も対象とした。改正法は昭和54年1月1日に施行され,同年から全国統一の国家試験が実施された。衆議院掲載の昭和53年改正法で改正条文を確認できる。
5 昭和60年改正による登録事務の移管
昭和60年6月28日法律第86号により,司法書士の登録事務は,法務局又は地方法務局から日本司法書士会連合会へ移された。資格取得と登録を制度上分けた昭和53年改正に続き,登録事務を専門職団体へ移すことで制度の自主性が高められた。衆議院掲載の昭和60年改正法で改正内容を確認できる。
第4 認定司法書士制度と140万円の範囲
1 平成14年改正当初の上限は90万円
平成14年5月7日法律第33号は,司法制度改革の一環として,所定の要件を満たした司法書士に簡易裁判所の訴訟代理等関係業務を認めた。主要部分は平成15年4月1日に施行されたが,当時の簡易裁判所の事物管轄は90万円以下であったため,制度創設時の訴額上限も90万円であった。衆議院法務委員会の法律案審査概要にも,請求額90万円を超えない簡易裁判所の民事事件を対象とする旨が記載されている。
2 平成16年施行の140万円への引上げ
平成15年7月25日法律第128号は,簡易裁判所の事物管轄を90万円から140万円へ引き上げ,平成16年4月1日に施行された。これに伴い,認定司法書士が代理できる簡易裁判所の民事訴訟等の上限も140万円となった。したがって,平成14年改正の時点から140万円であったわけではない。衆議院掲載の平成15年法律第128号で改正内容を確認できる。
3 簡裁訴訟代理等関係業務を行う要件
現行の司法書士法3条2項により簡裁訴訟代理等関係業務を行うには,①法務大臣が指定する研修の課程を修了すること,②法務大臣から必要な能力を有するとの認定を受けること,③司法書士会の会員であることが必要である。対象には,簡易裁判所の民事訴訟,訴え提起前の和解,支払督促,証拠保全,民事保全,民事調停,少額訴訟債権執行,裁判外の和解,仲裁及び筆界特定の手続等が含まれるが,各業務について法律が定める範囲を超えることはできない。法務省の司法書士の業務に関する説明に,対象業務が整理されている。
4 平成17年改正による上訴提起の代理
平成17年4月13日法律第29号により,認定司法書士は,自ら簡裁訴訟代理等関係業務として代理した事件について,判決又は決定に対する上訴の提起を代理できるようになった。ただし,付与されたのは上訴を提起する行為の代理権に限られ,地方裁判所又は高等裁判所における訴訟代理権ではない。国会審議でも,代理人として上訴理由書を提出することはできないと説明されている。衆議院掲載の平成17年法律第29号及び参議院法務委員会会議録で制度の範囲を確認できる。
5 最高裁平成28年6月27日判決と個々の債権額
最高裁平成28年6月27日第一小法廷判決(平成26年(受)第1813号・第1814号,損害賠償請求事件)は,債務整理に関する裁判外和解の代理権の範囲について,債務者が受ける経済的利益又は債務総額ではなく,個々の債権の価額を基準に判断するとした。したがって,個々の債権額が140万円を超える場合,認定司法書士はその債権について裁判外の和解を代理できない。裁判所HP掲載の最高裁判決全文で判示内容を確認できる。
第5 令和元年改正と現行の資格認定
1 令和元年改正による使命規定
令和元年6月12日法律第29号は,司法書士法1条を目的規定から使命規定へ改めた。司法書士は,登記,供託,訴訟その他の法律事務の専門家として,国民の権利を擁護し,自由かつ公正な社会の形成に寄与することを使命とする。同規定は令和2年8月1日に施行された。法務省の令和元年改正法に関する説明で施行日及び改正概要を確認できる。
2 現行法4条2号の資格認定
現行の司法書士法4条2号は,裁判所事務官,裁判所書記官,法務事務官又は検察事務官として登記,供託若しくは訴訟の事務等に従事した期間が通算10年以上となる者,又はこれと同等以上の法律知識及び実務経験を有する者について,法務大臣が必要な知識及び能力を有すると認めた場合に司法書士となる資格を与えている。e-Gov法令検索の司法書士法で現行条文を確認できる。
法務省の司法書士の資格認定に関する訓令は,資格認定を求めることができる職歴等を具体化し,知識及び能力の判定を口述及び必要に応じた筆記によって行うとしている。この資格認定は司法書士試験合格に代わる資格取得経路であり,簡裁訴訟代理等関係業務の能力認定とは効果が異なる。
第6 法務大臣認定による新規登録者数と行政文書
1 資格認定と能力認定の統計は区別する
司法書士法4条2号の資格認定は,司法書士となる資格を取得する制度である。これに対し,同法3条2項の能力認定は,既に司法書士となる資格と登録を備えた者が簡裁訴訟代理等関係業務を行うための制度である。「法務大臣認定」という表現だけでは両者を区別できないため,統計を読む場合も根拠条文と集計対象を確認する必要がある。
2 令和7年版司法書士白書による推移
日本司法書士会連合会『司法書士白書2025年版』44頁(PDF55枚目)は,法務大臣の資格認定による新規登録者数が平成元年度の304人をピークとし,平成25年度以後は100人以下で推移しているとする。同白書157頁(PDF168枚目)による平成26年度から令和5年度までの人数は,次のとおりである。
| 年度 | 法務大臣認定による新規登録者数 |
|---|---|
| 平成26年度 | 99人 |
| 平成27年度 | 79人 |
| 平成28年度 | 52人 |
| 平成29年度 | 83人 |
| 平成30年度 | 56人 |
| 令和元年度 | 51人 |
| 令和2年度 | 58人 |
| 令和3年度 | 61人 |
| 令和4年度 | 60人 |
| 令和5年度 | 52人 |
日本司法書士会連合会の司法書士白書掲載ページから,各年版の白書に到達できる。上記の人数は,資格認定を受けた人数そのものではなく,その資格に基づいて各年度に新規登録した人数である。
3 平成29年の法務省回答が示す範囲
平成29年7月11日付け法務省の意思確認文書は,資格認定訓令の運用通達等の最新版と,平成14年度から平成28年度までの年度別・従前職務別の資格認定者数が分かる文書について,請求趣旨に該当する行政文書を法務省本省では保有していないと回答したものである。
この回答は,資格認定に関する行政文書が一切存在しないことを意味しない。法務局の標準文書保存期間基準には,司法書士法4条2号の資格認定申請及び認定通知に関する個別文書を30年間保存する類型が記載されているためである。釧路地方法務局の標準文書保存期間基準で当該保存類型を確認できる。
第7 関連する記事
司法書士に認められてきた業務そのものの変化については,司法書士の業務に関する司法書士法の定めの変遷で整理している。資格取得の経路を扱う本記事とは対象が異なるため,業務範囲の詳細は同記事を参照されたい。
令和元年改正の法務省説明資料については,令和元年の司法書士法及び土地家屋調査士法改正に関する法務省民事局の御説明資料に掲載している。
第8 出典・参考資料
1 法令及び立法資料
歴史的法令は,国立公文書館デジタルアーカイブ「司法省職制並ニ事務章程(司法職務定制)」,国立国会図書館日本法令索引の「司法代書人法」及び「司法代書人法中改正法律」で確認した。昭和10年改正の審議経過は,第67回帝国議会の貴族院及び衆議院の委員会会議録を参照した。
戦後の改正は,衆議院掲載の昭和25年法律第197号,昭和31年法律第18号,昭和42年法律第66号,昭和53年法律第82号,昭和60年法律第86号,平成15年法律第128号及び平成17年法律第29号を参照した。
現行法は,e-Gov法令検索「司法書士法」を参照した。平成14年改正及び平成17年改正の趣旨と範囲は,衆議院法務委員会の審査概要及び参議院法務委員会会議録を参照した。
2 歴史資料及び公的統計
日本司法書士会連合会「司法書士の歴史」及び同「司法書士関連法の変遷」を,制度沿革の確認に用いた。資格認定による新規登録者数は,同『司法書士白書2025年版』44頁及び157頁を参照した。
3 裁判例
認定司法書士の代理権の範囲について,最高裁平成28年6月27日第一小法廷判決(平成26年(受)第1813号・第1814号,損害賠償請求事件,裁判所HP掲載の判決全文)を参照した。
4 文献
制度沿革について,里村美喜夫「相続登記の義務化と司法書士」『法律のひろば』令和4年12月号,ぎょうせい,33頁~40頁,及び鈴木秀幸・水林彪編『司法改革の検証』日本評論社,令和5年,299頁を参照した。認定司法書士制度について,加藤新太郎編『簡裁民事事件の考え方と実務〔第4版〕』民事法研究会,平成23年,8頁~21頁,園部厚『簡裁民事訴訟マニュアル』日本評論社,平成28年,37頁及び50頁,並びに松岡慶子監修『金銭貸借・クレジット・ローン・保証の法律とトラブル解決法128』三修社,平成30年,112頁を参照した。