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司法書士の業務範囲と司法書士法の変遷(AIリライト)

第1 本記事の対象

司法書士の法定業務は,裁判所及び検事局に提出する書類の作成を出発点とし,登記・供託手続の代理,認定司法書士による簡易裁判所関係業務,筆界特定手続等へと段階的に広がってきた。本記事は,令和8年7月30日現在の法令を前提に,業務範囲を変更した主要な法改正と,現行司法書士法3条及び司法書士法施行規則31条の関係を時系列で整理する。

もっとも,司法書士法3条1項1号から5号までの業務と,法務大臣の認定を受けた司法書士だけが行える同項6号から8号までの簡裁訴訟代理等関係業務は区別する必要がある。また,同法に業務として掲げられていても,他の法律による制限を受けることがあり,同法73条1項の非司法書士による業務禁止の範囲とも一致しない。

第2 業務規定の変遷

年月法令業務規定に関する主な内容
大正8年4月司法代書人法(大正8年法律第48号)裁判所及び検事局に提出する書類の作成を業務とした。
昭和10年4月司法代書人法中改正法律(昭和10年法律第36号)法律の題名と「司法代書人」の名称を「司法書士」に改めた。
昭和25年5月司法書士法(昭和25年法律第197号)裁判所,検察庁及び法務局等への提出書類の作成を業務として定め,旧法を全部改正した。
昭和42年7月昭和42年法律第66号登記又は供託に関する手続を代わって行うことを業務に加えた。
昭和53年6月昭和53年法律第82号登記・供託手続の代理,提出書類の作成及び審査請求手続の代理を号別に整理した。
平成14年5月平成14年法律第33号認定司法書士による簡裁訴訟代理等関係業務を創設した。平成15年4月1日の施行時における上限額は90万円であった。
平成16年4月平成15年法律第128号簡易裁判所の事物管轄が引き上げられ,認定司法書士の代理権の上限も140万円となった。
平成17年3月平成16年法律第124号法務局等に提供する電磁的記録の作成を業務に含めた。
平成17年4月平成16年法律第152号一定の少額訴訟債権執行手続の代理を加えた。
平成18年1月平成17年法律第29号一定の上訴提起,仲裁事件及び筆界特定手続に関する業務を加えた。
令和2年8月令和元年法律第29号使命規定,懲戒制度及び司法書士法人制度を改めたが,3条1項の業務列挙は拡張しなかった。
令和8年5月令和4年法律第48号等裁判所・検察庁提出用の電磁的記録の作成を明記し,支払督促の参照先を民事訴訟法第八編とした。

第3 司法代書人法から登記・供託手続の代理まで

1 大正8年の司法代書人法

明治5年の司法職務定制は,証書人,代書人及び代言人の職制を置いたものであり,代書人は現在の司法書士につながる職能と位置付けられている(日本司法書士会連合会「司法書士の歴史」)。もっとも,現在の司法書士法に直接つながる法律は,大正8年4月10日に公布された大正8年法律第48号の司法代書人法であり,同法1条は,他人の嘱託を受け,裁判所及び検事局に提出する書類を作成することを司法代書人の業務としていた(国立国会図書館日本法令索引「司法書士法(大正8年法律第48号)」)。

昭和10年法律第36号は,司法代書人法の題名及び「司法代書人」の名称を「司法書士」に改めた。この改正は名称の変更であり,この時点で現在のような登記手続の代理又は簡裁訴訟代理等関係業務が新設されたものではない。

2 昭和25年の全部改正

昭和25年法律第197号は旧法を全部改正し,現在の司法書士法の基礎を作った。制定時の1条1項は,司法書士が,他人の嘱託を受け,その者が裁判所,検察庁又は法務局若しくは地方法務局に提出する書類を代わって作成することを業務とし,同条2項は,他の法律により制限されている書類について業務を行えないことを定めていた(衆議院「司法書士法(昭和25年法律第197号)」)。

3 昭和42年及び昭和53年の改正

昭和42年法律第66号は,司法書士法1条1項に「登記又は供託に関する手続を代わつてする」ことを加え,それまで実務上行われていた登記・供託手続の代理を業務規定に明記した(衆議院「司法書士法及び土地家屋調査士法の一部を改正する法律」)。

昭和53年法律第82号は,昭和54年1月1日から施行され,法律の目的及び司法書士の職責を新設するとともに,業務を当時の2条に号別に列挙した。列挙された中核業務は,①登記又は供託に関する手続の代理,②裁判所,検察庁又は法務局若しくは地方法務局に提出する書類の作成,③登記又は供託に関する審査請求手続の代理であり,この改正により現在につながる業務規定の構造が整えられた(衆議院「司法書士法の一部を改正する法律」)。

第4 認定司法書士の簡裁訴訟代理等関係業務

1 平成14年法律第33号

平成14年法律第33号は,司法書士法人制度を創設するとともに,研修を修了し,法務大臣の認定を受けた司法書士について,簡易裁判所における民事訴訟,民事調停,訴え提起前の和解,支払督促,裁判外の和解及び法律相談等を業務として行える制度を設けた。この改正は司法制度改革の一環として行われ,平成15年4月1日に施行された(衆議院「司法書士法及び土地家屋調査士法の一部を改正する法律」)。

平成14年改正法は,代理できる事件の上限額を固定額で記載せず,裁判所法33条1項1号に定める額を引用していた。平成15年4月1日の施行時における簡易裁判所の事物管轄は90万円以下であったため,認定司法書士の代理権の上限も当初は90万円であり,「平成14年改正によって直ちに140万円の代理権が付与された」とする説明は正確でない。

2 90万円から140万円への引上げ

平成15年法律第128号は,簡易裁判所の事物管轄を90万円から140万円に引き上げた。この改正が平成16年4月1日に施行されたことにより,裁判所法33条1項1号を引用する認定司法書士の代理権の上限も140万円となった(衆議院「司法制度改革のための裁判所法等の一部を改正する法律」)。

3 平成16年及び平成17年の追加改正

不動産登記法の施行に伴う関係法律の整備等に関する平成16年法律第124号は,法務局又は地方法務局に提出する書類だけでなく,同局に提供する電磁的記録の作成も司法書士の業務に含めた。この部分は,新しい不動産登記法の施行日である平成17年3月7日に施行された(衆議院「不動産登記法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」)。

民事関係手続の改善のための民事訴訟法等の一部を改正する平成16年法律第152号は,認定司法書士が一定の少額訴訟債権執行手続を代理できることを定め,平成17年4月1日に施行された(衆議院「民事関係手続の改善のための民事訴訟法等の一部を改正する法律」)。

不動産登記法等の一部を改正する平成17年法律第29号は,①自ら代理人として関与した事件の判決,決定又は命令に対する上訴の提起,②仲裁事件の手続,③一定額以下の筆界特定手続の相談及び代理を認定司法書士の業務に加え,平成18年1月20日に施行された。ただし,上訴審における訴訟追行まで代理できるわけではなく,自ら代理した事件について認められたのは上訴の提起までである(衆議院「不動産登記法等の一部を改正する法律」)。

第5 令和元年改正と民事訴訟手続のデジタル化

1 令和元年法律第29号

令和元年法律第29号は,司法書士について,司法書士法の定めにより業務とする登記,供託,訴訟その他の法律事務の専門家として,国民の権利を擁護し,自由かつ公正な社会の形成に寄与することを使命とする旨を定めた。また,懲戒権者の変更,懲戒処分の除斥期間及び一人司法書士法人等に関する改正も行い,令和2年8月1日に施行されたが,同法3条1項の業務列挙を拡張した改正ではない(法務省「司法書士法及び土地家屋調査士法の一部を改正する法律案」)。

2 令和8年5月21日施行の改正

民事訴訟法等の一部を改正する令和4年法律第48号等の全面施行に伴い,令和8年5月21日から民事訴訟手続が全面的にデジタル化された。これに対応して,司法書士法3条1項4号は,裁判所又は検察庁に提出する「書類」に加えて「電磁的記録」の作成を明記し,支払督促に関する同項6号ロの参照先も民事訴訟法「第七編」から「第八編」に変更された(裁判所「改正民訴法等で変わる民事訴訟手続の概要」)。

したがって,裁判所又は検察庁に提出する対象をなお「書類」だけとし,支払督促を「第七編」と記載する旧条文は,令和8年5月21日以後の現行法とは一致しない。

第6 現行司法書士法3条の業務区分

1 すべての司法書士が行うことのできる業務

司法書士法3条1項1号から5号までには,①登記又は供託手続の代理,②法務局又は地方法務局に提出・提供する書類又は電磁的記録の作成,③登記又は供託に関する審査請求手続の代理,④裁判所若しくは検察庁に提出する書類若しくは電磁的記録又は筆界特定手続で提出・提供する書類若しくは電磁的記録の作成,⑤これらの事務に関する相談が掲げられている(e-Gov法令検索「司法書士法」)。

これらの業務には法務大臣による簡裁訴訟代理等関係業務の認定を要しないが,裁判所提出書類を作成できることと,その事件について一般的な訴訟代理又は裁判外の和解の代理ができることは同じではない。

2 認定司法書士に限られる業務

同項6号から8号までの業務は,同条2項の認定を受けた司法書士に限られる。その内容は,①140万円以下の一定の簡易裁判所関係手続の代理,②簡易裁判所の民事訴訟手続の対象となる140万円以下の民事紛争についての相談,仲裁事件の手続又は裁判外の和解の代理,③法定の算定額が140万円以下となる筆界特定手続の相談又は代理である。

3 業務列挙,認定及び独占の違い

司法書士法3条8項は,同条1項の業務であっても,他の法律により制限されている業務を行えないと定める。また,同法73条1項の非司法書士による業務禁止は,3条1項1号から5号までの業務を対象とし,他の法律に別段の定めがある場合を除外している。したがって,司法書士法上の業務列挙,認定司法書士だけが行える業務,非司法書士に対する独占の範囲及び他士業法による制限は,それぞれ別に確認する必要がある。

第7 司法書士法施行規則31条の位置付け

司法書士法29条1項1号は,司法書士法人が,同法3条の業務のほか,「法令等に基づきすべての司法書士が行うことができるものとして法務省令で定める業務」を行えると定める。これを受けた司法書士法施行規則31条は,①管財人・管理人等として他人の事業又は財産を管理・処分する業務等,②後見人・保佐人・補助人等の業務,③講演・出版等の教育普及業務,④市場化テスト法上の特定業務,⑤司法書士法3条1項1号から5号まで及び前記①から④までの業務に附帯し,又は密接に関連する業務を掲げている(e-Gov法令検索「司法書士法施行規則」)。

同条の見出しは「司法書士法人の業務の範囲」であるが,法29条1項1号は,同条所定の業務を法令等に基づきすべての司法書士が行える業務として法人にも認める構造を採っている。このため,規則31条を司法書士法人だけに固有の業務を定めた規定と説明するのは正確でない。

他方,規則31条1号の財産管理業務には,依頼又は委嘱を受けて一定の法的地位に就き,他人の事業又は財産の管理・処分等を行うという要件がある。同条は,司法書士法3条1項1号から5号までの中核業務と同じものではなく,規則31条だけを根拠として弁護士法その他の法律が制限する法律事務を行えるものでもない(一般社団法人日本財産管理協会編『第2版 相続財産の管理と処分の実務』日本加除出版,2018年,1頁~14頁)。

第8 認定司法書士の代理権に関する最高裁判例

1 最高裁平成28年6月27日判決

最高裁平成28年6月27日第一小法廷判決(平成26年(受)第1813号・第1814号,民集70巻5号1306頁)は,債務整理を受任した認定司法書士の裁判外の和解代理権の上限について,「紛争の目的の価額」は債務者が弁済計画の変更等によって受ける経済的利益ではなく,個々の債権者が主張する債権額を基準とすると判断した。したがって,個別の債権額が140万円を超える場合,認定司法書士はその債権について裁判外の和解を代理できず,複数債権の合計額だけで判断するものでもない(裁判所掲載判決PDF)。

2 最高裁平成29年7月24日判決

最高裁平成29年7月24日第一小法廷判決(平成28年(受)第1463号,民集71巻6号969頁)は,認定司法書士が締結した裁判外の和解契約が弁護士法72条に違反する場合でも,その内容及び締結経緯等に照らして公序良俗違反の性質を帯びる特段の事情がない限り,直ちに無効とはならないと判断した。もっとも,この判決は,司法書士に権限のない事件の受任又は和解代理自体を適法としたものではない(裁判所掲載判決PDF)。

第9 関連記事

① 司法書士資格の変遷

② 令和元年の司法書士法及び土地家屋調査士法改正に関する法務省民事局の御説明資料

第10 出典・参考資料

1 法令及び改正資料

① e-Gov法令検索「司法書士法」

② e-Gov法令検索「司法書士法施行規則」

③ 衆議院「司法書士法(昭和25年法律第197号)」

④ 衆議院「司法書士法及び土地家屋調査士法の一部を改正する法律(昭和42年法律第66号)」

⑤ 衆議院「司法書士法の一部を改正する法律(昭和53年法律第82号)」

⑥ 衆議院「司法書士法及び土地家屋調査士法の一部を改正する法律(平成14年法律第33号)」

⑦ 衆議院「司法制度改革のための裁判所法等の一部を改正する法律(平成15年法律第128号)」

⑧ 衆議院「不動産登記法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(平成16年法律第124号)」

⑨ 衆議院「民事関係手続の改善のための民事訴訟法等の一部を改正する法律(平成16年法律第152号)」

⑩ 衆議院「不動産登記法等の一部を改正する法律(平成17年法律第29号)」

⑪ 法務省「司法書士法及び土地家屋調査士法の一部を改正する法律案」

⑫ 法務省「民事訴訟法等の一部を改正する法律案」

2 裁判例

① 最高裁平成28年6月27日第一小法廷判決(平成26年(受)第1813号・第1814号,民集70巻5号1306頁)

② 最高裁平成29年7月24日第一小法廷判決(平成28年(受)第1463号,民集71巻6号969頁)

3 歴史資料及び公的解説

① 国立国会図書館日本法令索引「司法書士法(大正8年法律第48号)」

② 日本司法書士会連合会「司法書士関連法の変遷」

③ 日本司法書士会連合会「司法書士の歴史」

④ 裁判所「改正民訴法等で変わる民事訴訟手続の概要」

4 文献

① 一般社団法人日本財産管理協会編『第2版 相続財産の管理と処分の実務』日本加除出版,2018年,1頁~14頁