私道に関するメモ書き


目次

1 私道の通行妨害と妨害排除請求
2 建築基準法上の道路に期待されている役割等
3 みなし道路の指定は抗告訴訟の対象となる行政処分に当たること等
4 囲繞地通行権
5 通行地役権
6 固定資産税等が課税されない私道
7 私道が道路交通法上の道路に該当する場合,駐車等が禁止されること
8 建築基準法42条2項道路及びセットバック
9 共有私道に関する法務省のガイドライン等
10 登録自動車の車庫証明及び軽自動車の車庫届出
11 関連記事その他

1 私道の通行妨害と妨害排除請求
(1) 私道とは,個人や団体等の私人が所有している道路をいい,建築基準法上の道路に該当するものとしては,建築基準法42条1項3号の道路(既存私道),建築基準法42条1項5号の道路(位置指定道路),及び建築基準法42条2項の道路(みなし道路)があります。
(2) 建築基準法42条1項5号の規定による位置の指定を受け現実に開設されている道路を通行することについて日常生活上不可欠の利益を有する者は,右道路の通行をその敷地の所有者によって妨害され,又は妨害されるおそれがあるときは,敷地所有者が右通行を受忍することによって通行者の通行利益を上回る著しい損害を被るなどの特段の事情のない限り,敷地所有者に対して右妨害行為の排除及び将来の妨害行為の禁止を求める権利(人格権的権利)を有します(最高裁平成9年12月18日判決)。
ウ 最高裁平成9年12月18日判決は,建築基準法42条2項の規定による位置の指定を受け現実に開設されている道路の場合についても同様に当てはまる話である(最高裁平成12年1月27日判決)。

2 建築基準法上の道路に期待されている役割等
(1) 建築基準法は,43条1項において,建築物の敷地は道路に2m以上接しなければならないものと定めるとともに(接道義務),その道路は,法42条に定めるものでなければならないものとしていますところ,その趣旨は,建物を建築しようとする者に対し,建物の敷地が幅員4m以上の道路に接することを義務づけることによって,当該建物に係る避難,通行又は防火上の安全等を確保し,ひいては,その周辺に存する建物やその居住者の安全等にも寄与することにあると解されています(最高裁平成18年3月23日判決)。
(2) 建築基準法上の道路については,これに接する敷地上の建築物の利用者の避難,防災,衛生,通行の安全等に支障が生じないよう保障する機能を果たすことが期待されているものであり,2項道路についてもこの点は同様であるが,ある道が上記のような機能を果たし得るためには,必ずしもその道の両端が同法上の道路に接続していることを要するものではなく,同法もそのことを2項道路の要件としているものではありません(最高裁平成20年11月25日判決)。

3 みなし道路の指定は抗告訴訟の対象となる行政処分に当たること等
(1)  告示により一定の条件に合致する道を一括して指定する方法でされた建築基準法42条2項所定のいわゆるみなし道路の指定は,抗告訴訟の対象となる行政処分に当たります(最高裁平成14年1月17日判決)。
(2) イクラ不動産HPに「42条2項道路とはどのような道路なのかわかりやすくまとめた」が載っています。

4 囲繞地通行権
(1)  民法213条の規定する囲繞地通行権は,通行の対象となる土地に特定承継が生じた場合にも消滅しません(最高裁平成2年11月20日判決)。
(2) 同一人の所有に属する数筆の土地の一部が担保権の実行としての競売により袋地となった場合は,民法213条2項の囲繞地通行権が成立します(最高裁平成5年12月17日判決)。
(3)ア 公道に1.45メートル接する甲土地の上に建築基準法が施行されるよりも前から存在した建築物が老朽化したために取り壊されたが,その当時,甲土地に隣接し右公道に接する乙土地は同法の規定が適用される建築物の敷地とされていたなどといった事実関係の下においては,甲土地の所有者のために,乙土地について,同法43条1項本文所定のいわゆる接道要件を満たすべき内容の囲繞地通行権は認められません(最高裁平成11年7月13日判決)。
イ 住宅金融普及協会HP「袋地の通行権と接道義務の関係」には以下の記載があります。
要するに、最高裁は、囲繞地通行権が認められる趣旨と、接道要件を定めた趣旨は、異なるものであって、囲繞地通行権の通路幅を決定する際に建築基準法の接道要件を満たすことを求めることは当然には認められないとしているのです。袋地には、こうしたリスクがあること、万一、これを購入する場合には、隣地所有者との間で囲繞地通行権として2mの幅員を容認してくれるかを確認しておくことが重要です。
(4)ア  民法210条の囲繞地通行権の対象となる通路の幅員を定めるにあたって,建築基準法43条所定の規定基準をその判断資料にすることができます(最高裁昭和49年4月9日判決)。
イ 自動車による通行を前提とする210条通行権の成否及びその具体的内容は,他の土地について自動車による通行を認める必要性,周辺の土地の状況,自動車による通行を前提とする210条通行権が認められることにより他の土地の所有者が被る不利益等の諸事情を総合考慮して判断されます(最高裁平成18年3月16日判決)。

5 通行地役権
(1)ア 通行地役権の承役地が譲渡された場合において,譲渡の時に,右承役地が要役地の所有者によって継続的に通路として使用されていることがその位置,形状,構造等の物理的状況から客観的に明らかであり,かつ,譲受人がそのことを認識していたか又は認識することが可能であったときは,譲受人は,通行地役権が設定されていることを知らなかったとしても,特段の事情がない限り,地役権設定登記の欠缺を主張するについて正当な利益を有する第三者に当たりません(最高裁平成10年2月13日判決)。
イ 最高裁平成10年2月13日判決には,「(8)Eは、右売買後直ちに、本件係争地を除いた部分に自宅を建築し、本件係争地については、アスファルト舗装をし、その東端と西端に排水溝を設けるなどして、自宅から右公道に出入りするための通路とした」という事実認定があります。
(2)  通行地役権の承役地が担保不動産競売により売却された場合において,最先順位の抵当権の設定時に,既に設定されている通行地役権に係る承役地が要役地の所有者によって継続的に通路として使用されていることがその位置,形状,構造等の物理的状況から客観的に明らかであり,かつ,上記抵当権の抵当権者がそのことを認識していたか又は認識することが可能であったときは,通行地役権者は,特段の事情がない限り,登記がなくとも,買受人に対し,当該通行地役権を主張することができます(最高裁平成25年2月26日判決)。
(3) 土地の一部が,通行権(地役権を含む)の目的となっており,隣地の居住者の日常の通路として使用されているような場合,私道に関する負担があるものとして考え,重要事項説明書の「対象不動産に含まれる私道に関する負担の内容」欄には,「負担面積」として通行に供される部分の土地面積を記入しなければなりません(イクラ不動産HP「「私道に関する負担等に関する事項」とはなにか」参照)。

6 固定資産税等が課税されない私道
(1) 以下の要件を満たす私道については,固定資産税及び都市計画税が課税されません(地方税法348条2項5号のほか,東京都HPの「道路に対する非課税のご案内」参照)。
① 利用上の制約を設けず不特定多数の人の利用に供されていること。
② 客観的に道路として認定できる形態を有すること
③ 一定の条件を満たす,通り抜け私道,行き止まり私道及びコの字型私道
(2) 植木,室外機,自動車,自転車などを置いていたり,一般の通行を禁止する表示物や門扉(もんぴ)・車止めなど通行の障害物を置いていたりした場合,利用上の制約となりますから,固定資産税及び都市計画税が課税されます。

7 私道が道路交通法上の道路に該当する場合,駐車等が禁止されること
(1) 道路交通法は2条1号で「道路」の定義として,道路法に規定する道路等のほか,「一般交通の用に供するその他の場所」を掲げており,たとえ,私有地であっても,不特定の人や車が自由に通行できる状態になっている場所は,同法上の道路です(最高裁昭和44年7月11日判決(判例秘書に掲載))。
(2) 私道が「一般交通の用に供するその他の場所」として道路交通法上の道路に該当する場合,当該私道への駐車は通常,右側の道路上に3.5メートル以上の余地がありませんから,道路交通法45条2項に違反します。
(3) 自動車の保有者は道路上の場所以外の場所を当該自動車の保管場所として確保しなければならない(自動車の保管場所の確保等に関する法律(いわゆる車庫法)のであって,道路交通法上の道路に該当する私道を自動車の保管場所として使用する行為は車庫法11条に違反します。
(4) 過去6ヶ月以内に放置違反金納付命令を3回受けると,車両の使用制限命令(普通自動車の場合,期間は2月)が出ます(警視庁HPの「放置駐車違反に対する責任追及の流れ」参照)。

8 建築基準法42条2項道路及びセットバック
(1) 土地や中古住宅を購入する際に,建築基準法42条2項道路に接地する土地や住宅であった場合,「2項道路に接する」などといった注意書きが書かれていますところ,このような土地を購入し,住宅を建てようとする場合,建築時に建築基準法42条2項道路の中心線から2メートルの範囲をセットバックする必要があります(不動産戦略メディア「リディア」の「【道路の基礎知識】法42条2項道路とセットバックについて」参照)。
(2) 現況道路と,私道負担及びセットバックの関係については,三井住友トラスト不動産HPの「私道について~私道負担(セットバック)と課税並びにその評価について」が参考になります。
(3) セットバックは「道路後退部分」ともいいますところ,道路後退部分は,「災害時の避難経路の確保」,「緊急車両の通行」などに支障をきたすことが予想されるため,常に道路として使える状態にしておく必要がありますから,自分の敷地なのに使用できないことになります(青森市HPの「道を広げて快適なまちに~道路後退ってなんだ?~」参照)。
(4) 道路後退線とは,前面道路の幅員が狭い場合に道路境界線を後退させて幅員を確保した際の境界線をいいます。
(5) 大阪市HPのマップナビおおさか「指定道路図(道路参考図)」を使えば,大阪市内の道路が建築基準法42条のどの道路に該当するかを確認できます。
(6) 東京地裁平成22年3月18日判決(判例秘書に掲載)は,例えば,以下の判示をしています。
① 2項道路は道路交通法2条1項1号の「一般交通の用に供するその他の場所」に該当するから,私道であっても原則として民法210条の「公道」に該当する。
② 2項道路は,建築基準法上の制限が及ぶがゆえに,反射的利益として一般人が通行できるものであるが,その利益の内容として,自動車による通行が認められるか否かは,道路の現況,自動車通行による危険の有無,従来の利用状況(自動車通行が認められていたか否か)等を総合して,当該2項道路を自動車で通行することについて日常生活上不可欠の利益を有しているか否かによって判断すべきである。

9 共有私道に関する法務省のガイドライン等
(1) 法務省HPの「共有私道の保存・管理等に関する事例研究会」に,複数の者が所有する私道の工事において必要な所有者の同意に関する研究報告書 ~所有者不明私道への対応ガイドライン~(平成30年1月)が載っています。
(2) 法務省HPの「共有私道の保存・管理等に関する事例研究会(第2期)」に,「複数の者が所有する私道の工事において必要な所有者の同意に関する研究報告書~所有者不明私道への対応ガイドライン~(第2版)(令和4年6月)」が載っています。
(3)ア 私道負担のパターンとしては,①私道部分が一筆の土地の場合,②私道部分が敷地と一体化している場合及び③私道負担部分が分筆されている場合(私道負担部分が敷地に接する場合と,敷地から離れている場合があります。)があります(オールアバウトHPの「私道負担のこんなパターンを知っていますか?」参照)。
イ 私道に面した土地の場合,私道の所有者とトラブルになったり,道路やインフラ整備の負担が発生したりしますし,私道に接する物件の場合,設備や管理費が自己負担となったり,公道に面する物件よりも土地相場が低くなったり,配管工事等をする時に私道所有者の承諾が必要になったりします(KINPLEの「私道に接する物件トラブル3つ|私道負担部分の税金について知る」参照)。

10 登録自動車の車庫証明及び軽自動車の車庫届出
(1) ①登録自動車の車庫証明は,新規登録(道路運送車両法4条),変更登録(道路運送車両法12条)又は移転登録(道路運送車両法13条)を受けるために事前に取得する必要がある(車庫法4条)のに対し,②軽自動車の車庫届出(平成3年7月1日開始)は,軽自動車の新車又は中古車の購入後,使用前に届出をすれば足ります(車庫法5条)。
(2) ①登録自動車の車庫証明は東京都特別区,すべての市町及び一部の村で必要となるのに対し,②軽自動車の車庫届出は東京都特別区及び大部分の市で必要となります(車庫法附則2項,車庫法施行令附則2項及び別表第二)。
(3) 大阪府警察HPに「1.自動車保管場所の要件及び2.軽自動車の保管場所届出の手続きについて」が載っています。

11 関連記事その他

(1) 民法213条の規定する囲繞地通行権は、通行の対象となる土地に特定承継が生じた場合にも消滅しません(最高裁平成2年11月20日判決)。
(2)ア みずほ中央法律事務所HPに「【いろいろな法律における『道路』の定義|道路関係・建築関係・刑法・税法】」が載っています。
イ イクラ不動産HPに「不動産調査の知識」及び「重要事項説明書」が載っています。
(3) かつての市街地建築物法で指定された附則5項道路(建築線)は建築基準法42条1項5号道路(位置指定道路)とみなされます(不動産実務TIPSの「建築線とは何か。建築線の説明や2項道路との違い。」参照)。
(4)  甲が時効取得した不動産について,その取得時効完成後に乙が当該不動産の譲渡を受けて所有権移転登記を了した場合において,乙が,当該不動産の譲渡を受けた時に,甲が多年にわたり当該不動産を占有している事実を認識しており,甲の登記の欠缺を主張することが信義に反するものと認められる事情が存在するときは,乙は背信的悪意者に当たります(最高裁平成18年1月17日判決)。
(5)ア あなたのまちの司法書士グループHP「連棟建物(長屋、二戸一、三戸一)の切り離しに関するトラブル」には,長屋の切り離し工事について適法な手続を実行しなかった場合のデメリット・リスクとして以下の記載があります。
① 切離しとその後の新築工事内容によっては、新築建物の取壊しを命じられる可能性があります。
② 取壊し請求権(建物収去請求権)は、区分所有者の共同利益に反する行為が継続している限り、消滅時効にかかることはありません(=いつまでも建物にリスクがついて回る)。
③ 切離し工事の結果、他の区分建物に損害が発注した場合には、切離し工事を発注した者も損害賠償請求を受けることがあります。
イ 大阪府八尾市HPに「長屋にまつわる諸問題の解説報告書(令和2年度空き家対策の担い手強化・連携モデル事業)」が載っています。
(6) 以下の記事も参照してください。
・ 家賃相場・土地価格相場等の情報
・ 貨物軽自動車運送事業(軽貨物運送業)


広告
スポンサーリンク