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第1 日本学術会議法第17条による推薦と 内閣総理大臣による会員の任命との関係について(平成30年11月13日付の内閣府日本学術会議事務局の文書)
第2 関連記事その他
第1 日本学術会議法第17条による推薦と 内閣総理大臣による会員の任命との関係について(平成30年11月13日付の内閣府日本学術会議事務局の文書)
・ 文書の中身は以下のとおりです。
1.日本学術会議の沿革等について
(1)日本学術会議の設立経緯、設立趣旨等について
敗戦後の我が国が貧困な資源、荒廃した産業施設等の悪条件を克服し、文化国家として再建すると共に、世界平和に貢献し得るためには、是非とも科学の力によらなければならないとの問題意識の下、従来、個々の研究においては優れた成果が必ずしも少ないとは言い得ないにも関わらず、その有機的、統一的な発達が十分ではなく、全科学者が一致協力して現下の危機を救い、科学の進歩に寄与し得るような体制を欠いていたことを省みて、全国科学者の緊密な連絡協力によって、科学の振興発達を図り、行政産業及び国民生活に科学を反映浸透させるための新組織を国の審議機関として確立することを我が国の科学振興の基本的な前提と位置付け、昭和23年7月に「日本学術会議法(昭和23年法律第121号。以下「日学法」という。)」が制定され、昭和24年1月に日本学術会議が設立された。
近年、地球環境問題をはじめ、一つの専門分野の知識のみでは解決できない複雑な問題について、様々な知識を統合し、解決に向けた選択肢を示すことが求められている。こうした中で、日本学術会議は、我が国の科学者の内外に対する代表機関として、全ての学術分野の科学者を擁し、また、職務の独立性が担保されているといった特徴を有しており、幅広い学術分野の科学的知見を動員しつつ課題に関する審議を行って意見を集約し、政府や社会に対してその成果を提示できるところにその意義があるところである。政府や社会から尊重されつつその役割を十分に発揮できるような位置付け及び権限を付与し、安定的な運営を行うために必要な財政基盤を確保する観点から、日本学術会議は、科学に関する重要事項の審議及び研究の連絡に関する事務を所掌し、政府からの諮問に対する答申、政府への勧告等を行う国の行政機関として設置されているところである。
(※)例えば、国際リニアコライダー(ILC)については、高エネルギー物理学分野の国際的なコミュニティにおいて建設の期待が高まっているところであるが、ILCの建設及び運営には巨額の経費を要するため、我が国でこれを実施する場合には学術研究全体に大きな影響を与えることも想定されることから、学術に関する各分野の専門家で構成されている日本学術会議に対して文部科学省から審議を依頼されたところであり、現在、日本学術会議において、ILC計画における研究の学術的意義や、ILC計画の学術研究全体における位置付け等について審議しているところである。
日本学術会議は、内閣総理大臣の所轄とされ、当初は「機関」として総理府に置かれたものであり(総理府設置法第16条)、一旦、総務省に置かれたこともあったが、現在は「特別の機関」として内閣府にで 置かれているところである(内閣府設置法第40条第3項)。
(2)日本学術会議会員の選出方法の変遷について
日学法制定当初は、日本学術会議は、一定の資格を有する全国の科学者により選挙された特別職の国家公務員である日本学術会議会員(以下「会員」という。)によってこれを組織することとされていた。
その後、昭和44年頃から日本学術会議改革が議論されはじめ、昭和57年10月22日に日本学術会議は改革要綱を採択し、総務長官に提出した。また、同年8月19日には自由民主党から日本学術会議の改革に関する中間提言が出され、同年ll月22日には総務長官の私的懇談会も報告を総務長官に提出した。総務長官はこれらを総合的に勘案して、同月24日に総務長官試案を示し、この試案を基に総理府と日本学術会議で協議を進めた結果、昭和58年に日学法改正法案が第98回国会に提出され、同年11月に同法案は成立した。
このような状況の中で、会員の選挙制については、立候補者数の減少による競争率の低下や無競争当選等、いわゆる学者離れなどの問題点が指摘され、より良い会員の選出方法が検討された結果、会員の選出方法は、科学者が自主的に会員を選出することを基本とし、学会を基礎として選出された者を日本学術会議が会員候補者として内閣総理大臣に推薦し、その推薦に基づき内閣総理大臣が任命する方法へと改正された。
さらに、平成16年の日学法改正においては、会員構成の硬直化を防ぎ、個別の学会の利害にとらわれない政策提言を行うことができるよう、推薦される会員候補者の選考方法が2.(2)において後述するとおりに改められた。
2.現行の会員選出方法について
(1)会員の選出に係る規定について
日本学術会議は、210人の特別職の国家公務員たる会員をもって組織されており、日学法第17条の規定による推薦に基づいて、内閣総理大臣が会員を任命することとされている(日学法第7条第1項及び第2項)。会員の任期は6年であり、3年ごとにその半数を任命している(同条第3項)。日本学術会議は、規則で定めるところにより、優れた研究又は業績がある科学者のうちから会員の候補者を選考し、内閣府令で定めるところにより、内閣総理大臣に推薦するものとされている(同条第17条)。日本学術会議会員候補者の内閣総理大臣への推薦手続を定める内閣府令(平成17年内閣府令第93号)では、会員候補者の内閣総理大臣への推薦は、任命を要する期日の30日前までに、当該候補者の氏名及び当該候補者が補欠の会員候補者である場合にはその任期を記載した書類を提出することにより行うものとしている。また、日学法上、会員としての欠格条項は特段規定されていないが、会員に会員として不適当な行為があるときは、内閣総理大臣は、日本学術会議の申出に基づき、当該会員を退職させることができることとされている(日学法第26条)。その不適当な行為とは、いわゆる名誉を汚辱するような行為であり、例えば、犯罪行為等が想定されているところである。
(※) 不適切な事案を背景として日本学術会議法施行令(平成17年政令第299号)第2条に基づき辞職を承認された連携会員(会員と連携し、日本学術会議の職務の一部を行わせるため、日学法第15条第1項に基づき置かれる一般職の国家公務員)の例として、
①大学教授が文部科学省からの研究資金を不正使用したことが大学の調査で判明し、大学から解雇された事例
②大学教授が論文でデータの改ざんやねつ造を行ったことが大学の調査で判明し、大学から懲戒解雇相当の処分とされた事例
等がある。
上記の事例については、連携会員として不適当な行為があるとして会長が当該連携会員を退職させることができる事由にも該当する可能性があると考えられる。
(2)会員候補者の選考手続について
日本学術会議における会員候補者の選考では、会員及び連携会員(会員と連携し、日本学術会議の職務の一部を行わせるため、日学法第15条第1項に基づき置かれる一般職の国家公務員)は、幹事会が定めるところにより、会員候補者を選考委員会に推薦することができることとされており、選考委員会は、推薦その他の情報に基づき、会員候補者の名簿を作成し、幹事会に提出することとされている。幹事会は、この名簿に基づき、総会の承認を得て、会員候補者を内閣総理大臣に推薦することを会長に求めるものとされている(会則第8条第1項、第2項及び第3項)。会員が任期の途中において定年、死亡、辞職又は退職により退任することで会員に欠員が生じた場合には、その後任者となる者(以下「補欠の会員」という。)の候補者の選考が行われ、また、補欠の会員の任期は、前任者の残任期間とされている(日学法第7条第4項)。なお、総会は、原則として毎年4月及び10月に会長が招集することとされている。
3.日学法第7条第2項に基づく内閣総理大臣の任命権の在り方について
内閣総理大臣による会員の任命は、推薦された者についてなされねばならず、推薦されていない者を任命することはできない。その上で、日学法第17条による推薦のとおりに内閣総理大臣が会員を任命すべき義務があるかどうかについて検討する。
(1)まず、
①日本学術会議が内閣総理大臣の所轄の下の国の行政機関であることから、憲法第65条及び第72条の規定の趣旨に照らし、内閣総理大臣は、会員の任命権者として、日本学術会議に人事を通じて一定の監督権を行使することができるものであると考えられること
②憲法第15条第1項の規定に明らかにされているところの公務員の終局的任命権が国民にあるという国民主権の原理からすれば、任命権者たる内閣総理大臣が、会員の任命について国民及び国会に対して責任を負えるものでなければならないことからすれば、内閣総理大臣に、日学法第17条による推薦のとおりに任命すべき義務があるとまでは言えないと考えられる。
(※)内閣総理大臣による会員の任命は、推薦を前提とするものであることから「形式的任命」と言われることもあるが、国の行政機関に属する国家公務員の任命であることから、司法権の独立が憲法上保障されているところでの内閣による下級裁判所の裁判官の任命や、憲法第23条に規定された学問の自由を保障するために大学の自治が認められているところでの文部大臣による大学の学長の任命とは同視することはできないと考えられる。
・最高裁判所の指名した者の名簿によって行われる内閣による下級裁判所の裁判官の任命(憲法第80条及び裁判所法第40条)
・大学管理機関の申出に基づく任命権者による大学の学長等の任命(教育公務員特例法(昭和24年法律第1号)第10条)
(2)他方、会員の任命について、日本学術会議の推薦に基づかなくてはならないとされているのは、
①会員候補者が優れた研究又は業績がある科学者であり、会員としてふさわしいかどうかを適切に判断しうるのは、日本学術会議であること
②日本学術会議は、法律上、科学者の代表機関として位置付けられており、独立して職務を行うこととされていること
③昭和58年の日学法改正による推薦・任命制の導入の趣旨は前述したとおりであり、これまでの沿革からすれば、科学者が自主的に会員を選出するという基本的な考え方に変更はなく、内閣総理大臣による会員の任命は、会員候補者に特別職の国家公務員たる会員としての地位を与えることを意図していたこと
によることからすれば、内閣総理大臣は、任命に当たって日本学術会議からの推薦を十分に尊重する必要があると考えられる。
(3)なお、(1)及び(2)の観点を踏まえた上で、内閣総理大臣が適切にその任命権を行使するため、任命すべき会員の数を上回る候補者の推薦を求め、その中から任命するということも否定されない(日本学術会議に保障された職務の独立を侵害するものではない。)
と考えられる。
平成30年10月当時の,日本学術会議の説明文書及び組織図を添付しています。 pic.twitter.com/Uafe8q51N1
— 弁護士 山中理司 (@yamanaka_osaka) December 26, 2020
* 「内閣法制局の応接録(平成30年9月5日から同月11月15日まで)」に含まれている文書です。
第2 関連記事その他
1 日弁連HPに以下の文書が載っています。
・ 日本学術会議会員候補者6名の速やかな任命を求める会長声明(令和2年10月22日付)
・ 日本学術会議会員任命拒否の違法状態の是正を求める意見書(令和3年11月16日付)
2(1) 以下の資料を掲載しています。
・ 日本学術会議法の一部を改正する法律案(説明資料)
→ 平成16年1月26日付の総務省の文書です。
・ 裁判官任命についての内閣の拒否権に関する想定問答
→ 内閣法制局第一部の執務参考資料集8(憲法76条ないし81条関係)からの抜粋です。
(2) 以下の記事も参照して下さい。
・ 下級裁判所裁判官指名諮問委員会で再任不適当とされた裁判官の数の推移
・ 下級裁判所裁判官指名諮問委員会委員名簿
・ 平成20年度以降,任期終了により退官した裁判官の一覧
・ 裁判官の再任の予定年月日,及び一斉採用年月日
・ 裁判官の退官情報
・ 裁判官の職務に対する苦情申告方法
日本学術会議法第17条による推薦と内閣総理大臣による会員の任命との関係について(平成30年11月13日 内閣府日本学術会議事務局)
日本学術会議に対して定員を超えた推薦を求めたのか?
「現時点では、わからない。」 https://t.co/sOlz5Msutf pic.twitter.com/gegg9oiyW9— 原口 一博 (@kharaguchi) October 6, 2020
日本学術会議はウクライナで何万人死のうと興味があまり無いのか・・・ https://t.co/WYKSUUJ0zE
— JSF (@rockfish31) April 14, 2022