民事訴訟で用いられる陳述書は,通常,私文書の一種である。
したがって,私文書と陳述書は別々の証拠類型ではなく,一般に信用性が高い私文書と,訴訟を念頭に作成されることが多い陳述書とで,内容の信用性を支える事情が異なると理解するのが正確である。
本記事では,私文書の成立の真正と記載内容の信用性との違い,一般に信用性が高い文書の特性,陳述書の機能と評価方法,電子メール及びLINEを証拠とする場合の確認事項を説明する。
第1 私文書と陳述書の関係
1 陳述書も私文書の一種である
民事訴訟でいう私文書は,公務員が職務上作成したと認められる公文書以外の文書である。
民事訴訟で提出される陳述書は,通常,当事者本人又は第三者が自己の認識や判断を記載した私文書であり,報告文書の一種である。
したがって,「私文書」と「陳述書」とが相互に排他的な証拠の種類であるわけではない。
正確には,私文書のうち一般に信用性が高い文書と,紛争が顕在化した後に訴訟を念頭に置いて作成されることが多い陳述書とでは,信用性を判断する際の出発点が異なるという関係にある。
もっとも,民事訴訟法247条は自由心証主義を定めているため,文書の名称だけで証明力の大小が機械的に決まるものではない。
2 成立の真正と記載内容の信用性は別の問題である
文書の証拠力を検討するときは,①その文書が作成名義人の意思に基づいて作成されたかという形式的証拠力と,②記載内容が真実であるかという実質的証拠力を区別する必要がある。
民事訴訟法228条4項は,本人又はその代理人の署名又は押印がある私文書について,真正に成立したものと推定すると定めている。
この推定は文書の成立に関するものであり,記載内容が真実であることまで推定するものではない。
成立の真正が認められた後に,作成者,作成目的,作成時期,作成経緯,記載された事実の性質,文書の体裁及び他の証拠との整合性を検討して,実質的証拠力を判断することになる。
第2 一般に信用性が高い私文書
1 類型的に信用性が高い文書
司法研修所『事例で考える民事事実認定(3訂)』25頁は,契約書,手形及び領収証等を,通常,記載された事実が存在しなければ作成されない文書として,類型的に信用性が高い文書と位置付けている。
このような文書について成立の真正が認められた場合,記載内容どおりの事実を認定すべきでないといえる特段の事情がない限り,高い実質的証拠力を認めることができる。
もっとも,契約書という表題があるだけで,常に契約書記載どおりの法律関係が認定されるわけではない。
虚偽の外形を作るために作成された事情,後日の改ざん,記載の欠落又は取引経過との不整合等があれば,その事情を具体的に検討する必要がある。
2 それ以外の一般に信用性が高い文書
同書26頁は,類型的に信用性が高い文書には直ちに当たらない文書であっても,次の特性を有する私文書は一般に信用性が高いと整理している。
- ① 紛争が顕在化する前に作成された文書
- ② 紛争当事者と利害関係のない者が作成した文書
- ③ 事実があった時点に近い時期に作成された文書
- ④ 記載行為が習慣化されている文書
- ⑤ 自己に不利益な内容を記載した文書
取引中に作成された見積書,作業日報,商業帳簿及びカルテ等は,これらの特性の一つ又は複数を備えることがある。
当時の電子メール及びLINEのやり取りも,紛争が顕在化する前に事実発生時に近接して作成され,かつ,やり取りの相手方にも同じ内容が保存されている場合には,信用性を支える事情がある。
3 文書の種類だけで結論は決まらない
一般に信用性が高いという整理は,経験則に基づく評価の出発点であって,例外のない証拠法則ではない。
例えば,作業日報でも紛争を予測して後からまとめて作成された場合があり,商業帳簿でも入力根拠が不明な場合があり,カルテでも記載漏れ又は誤入力があり得る。
反対に,紛争顕在化後の文書であっても,作成者が不利な事実を具体的に記載し,その内容が当時の客観的資料と整合する場合には,相応の証明力を有することがある。
したがって,文書を一括して信用するか否かではなく,立証しようとする事実との関係で,個々の記載の実質的証拠力を検討する必要がある。
第3 最高裁昭和45年11月26日判決
最高裁昭和45年11月26日第一小法廷判決(昭和43年(オ)第893号・集民101号565頁)は,売買契約の成立が争われた事案において,成立の真正に争いのない売買契約公正証書及び領収証の記載と異なる認定をした原判決を破棄し,差し戻した。
同判決は,これらの書証の記載及び体裁によれば,別異に解すべき特段の事情がない限り,売買契約又は売買の予約が成立したと認めるのが自然であると判断したものである。
同判決は,あらゆる領収証又は私文書の記載が常に真実であると判示したものではない。
成立の真正,文書の類型,記載及び体裁並びに特段の事情の有無を踏まえて判断した判例である点に注意する必要がある。
第4 陳述書の証明力
1 陳述書の機能
陳述書は,単に証明力が弱い書面として扱えばよいものではない。
陳述書には,主として次の機能がある。
- ① 当事者本人又は証人予定者の供述内容を尋問前に相手方へ明らかにする証拠開示機能
- ② 前提事実及び周辺事実について,主尋問に代用し,又は主尋問を補完する機能
- ③ 争いのある重要な事実に尋問時間を集中させ,集中証拠調べを実現しやすくする機能
民事訴訟では陳述書にも原則として証拠能力があり,書証として取り調べられた陳述書の内容が事実認定の資料となり得る。
そのため,作成者が証人申請されていないこと又は反対尋問を経ていないことだけを理由として,陳述書の証明力を常にゼロと扱うことはできない。
2 陳述書の信用性を慎重に検討する理由
もっとも,陳述書は,紛争が顕在化した後,しばしば訴訟代理人の事情聴取及び編集を経て,訴訟を念頭に置いて作成される。
そのため,作成者に有利な事実が選択され,不利な事実が省かれ,又は記憶が後の情報によって変容している可能性がある。
また,提出時点では反対尋問を経ておらず,作成者の認識根拠,記憶の程度及び供述の正確性が十分に検証されていないことが多い。
このような性質があるため,争いのある重要な事実を陳述書だけで認定することには慎重であるべき場合が多い。
しかし,このことから,自己に不利益な記載部分を除き陳述書それ自体の証明力は一律に小さいと結論付けることはできない。
3 陳述書は個々の供述部分ごとに評価する
陳述書の信用性は,主として次の事情から判断することになる。
- ① 作成者が自ら体験した事実か,第三者から聞いた事実か
- ② 事実発生から陳述書作成までの期間及び記憶を維持できる事情
- ③ 作成者と当事者との利害関係
- ④ 供述内容の具体性,合理性及び一貫性
- ⑤ 契約書,領収証,当時の電子メール,写真その他の動かし難い事実との整合性
- ⑥ 作成者に不利な事実及び記憶が曖昧な部分も区別して記載されているか
- ⑦ 本人尋問又は証人尋問を実施した場合,尋問結果と陳述書の記載が整合するか
司法研修所『事例で考える民事事実認定(3訂)』29頁は,人証の信用性を人単位で一刀両断するのではなく,供述単位で分析するのが相当であると説明している。
陳述書についても,書面全体を信用できる又は信用できないと一括評価するのではなく,争点に関係する個々の供述部分ごとに,動かし難い事実との整合性を検討する必要がある。
第5 電子メール及びLINEの証拠評価
1 信用性が高い場合がある理由
中村直人『訴訟の心得』13頁は,企業間の交渉で相互にやり取りされた電子メールについて,交渉経過及び当事者の理解を示す動かし難い証拠となり得ることを説明している。
電子メール及びLINEのやり取りは,①事実発生時に近接して記録される,②送信者及び受信者の双方に記録が残る,③送信日時及び文面が固定される,④一連の経過を時系列で確認できるという事情がある場合,後日作成された陳述書より高い証明力を有することがある。
2 電子メール及びLINEが常に信用されるわけではない
電子メール又はLINEという媒体であるだけで,その内容が当然に真実となるわけではない。
少なくとも,次の点を確認する必要がある。
- ① 表示されたアカウントを実際に誰が使用していたか
- ② 必要な前後のやり取りが省略されていないか
- ③ 引用,転送又はスクリーンショットの過程で文面が変更されていないか
- ④ 送信日時及びタイムゾーンの表示が正しいか
- ⑤ 冗談,仮定,交渉上の留保その他の文脈を踏まえているか
- ⑥ 添付ファイル,電子メールヘッダー,端末内の履歴その他の裏付けと整合するか
一部のメッセージだけを切り出すと,前後の文脈が失われ,かえって信用性が低下することがある。
3 電磁的記録としての提出と原データの保全
現行の民事訴訟法231条の2は,電磁的記録に記録された情報の内容に係る証拠調べの申出について定めている。
同法231条の3は書証に関する規定の多くを準用しているが,私文書の署名又は押印による成立の真正の推定を定める同法228条4項を準用の対象から除いている。
したがって,電子メール及びLINEの原データについては,紙の私文書における署名又は押印と同じ推定に依存することはできず,アカウントの使用者,保存経路,送受信記録及び他の資料との整合性等から作成者及び内容を確認する必要がある。
実務上は,次のような方法で原データ及び周辺情報を保存することが望ましい。
- ① 電子メールは印刷物だけでなく,原メール,ヘッダー及び添付ファイルを保存する。
- ② LINE等は問題となる部分だけでなく,必要な前後関係を含む履歴及び端末側の情報を保存する。
- ③ 端末交換,アカウント削除又はアプリ削除の前に,適切な方法でデータを保全する。
- ④ 改ざんが具体的に疑われる場合には,メタデータの確認又はデジタル・フォレンジックを検討する。
東京弁護士会法友全期会編『証拠収集実務マニュアル 第4版』94頁は,紙に印刷した電子メールだけでなく,電子メールデータを提出して証明力を補強する方法及び改ざんが疑われる場合のメタデータ分析等を説明している。
第6 証拠を評価する際の確認事項
私文書及び陳述書の証明力を検討するときは,少なくとも次の順序で確認するのが分かりやすい。
- ① 何を証明するための証拠であるかを特定する。
- ② 作成名義人及び実際の作成者を確認する。
- ③ 文書又は電磁的記録の成立の真正を確認する。
- ④ 作成目的,作成時期及び作成経緯を確認する。
- ⑤ 作成者の利害関係及び記載内容が自己に有利か不利かを確認する。
- ⑥ 原本又は原データ,文書全体及び前後のやり取りを確認する。
- ⑦ 動かし難い事実及び他の証拠との整合性を確認する。
- ⑧ 反対尋問その他の検証を経た場合,その結果を供述部分ごとに反映する。
証拠能力があること,成立の真正が認められること及び記載内容が真実であることは,それぞれ別の問題である。
この三つを区別することが,私文書と陳述書の証明力を正確に理解するための基本となる。
第7 関連記事
- ① 証人尋問及び当事者尋問
- ② 証拠説明書の書き方―民事訴訟の書証と立証趣旨の実務
- ③ 陳述書作成の注意点
- ④ 処分証書及び報告文書
- ⑤ 二段の推定とは―私文書の成立の真正と実印・認印,立証の実務
- ⑥ 陳述書の機能及び裁判官の心証形成
第8 出典
1 法令
2 裁判例
- ① 最高裁昭和45年11月26日第一小法廷判決・昭和43年(オ)第893号・集民101号565頁
3 裁判所資料
- ① 司法研修所『事例で考える民事事実認定(3訂)』令和7年3月,25頁~31頁
4 文献
- ① 中村直人『訴訟の心得―円滑な進行のために』中央経済社,2015年,13頁・72頁・92頁~93頁
- ② 伊藤滋夫『事実認定の基礎〔改訂版〕―裁判官による事実判断の構造』有斐閣,2020年,63頁
- ③ 森・濱田松本法律事務所編『企業訴訟実務問題シリーズ 企業訴訟総論』中央経済社,2017年,139頁~140頁
- ④ 東京弁護士会法友全期会編『証拠収集実務マニュアル 第4版』ぎょうせい,2025年,94頁
5 企業法務資料
- ① BUSINESS LAWYERS「民事訴訟における証拠の利用とその種類」(2020年9月3日)
- ② BUSINESS LAWYERS「電子データ・電子ファイルに含まれる情報」(2020年3月12日)
- ③ BUSINESS LAWYERS「文書の一部(抜粋)の証拠提出」(2021年5月12日)