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自賠責保険の被害者請求・加害者請求の消滅時効―3年の起算点,時効中断申請書及び時効完成後の回収方法(AI作成)

第1 本記事の対象と結論

1 本記事の対象

本記事は,交通事故の被害者が自賠責保険会社に直接請求する権利(被害者請求・仮渡金),加害者が賠償金を支払った後に自賠責保険会社に請求する権利(加害者請求),及び政府の自動車損害賠償保障事業(政府保障事業)に対する請求権の消滅時効を整理するものである。
調査基準日は令和8年9月19日である。
加害者本人に対する損害賠償請求権の時効は交通事故の損害賠償請求権の時効はいつから進行するか―症状固定,物損の別進行及び弁護士費用で扱い,消滅時効の全体像は消滅時効に関するメモ書きにまとめている。

2 結論

自賠責保険の請求権の時効は,被害者請求・加害者請求・政府保障事業のいずれも3年である(自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)19条・23条・75条,保険法95条1項)。
平成22年3月31日以前に発生した事故については2年である。

国土交通省の案内では,時効の起算日は次のとおりとされている。
①被害者請求のうち傷害は事故発生日の翌日から3年。
②被害者請求のうち後遺障害は症状固定日の翌日から3年。
③被害者請求のうち死亡は死亡日の翌日から3年。
④加害者請求は加害者が損害賠償金を支払った日の翌日から3年。

注意すべき点は次の3つである。
第一に,加害者本人に対する人身損害の損害賠償請求権は令和2年4月1日施行の民法改正で5年になったが,自賠責保険の被害者請求は3年のままであり,多くの場合,自賠責保険の方が先に時効にかかる。
第二に,加害者に対して訴えを提起しても,自賠責保険会社に対する被害者請求の時効は止まらない。
第三に,期限内に請求できないときは,自賠責保険会社所定の書式で時効の更新(旧法の時効中断)を申請し,保険会社の承認を得ることで,承認の時から新たに3年が進行する。

被害者請求の時効が完成した後でも,加害者の任意保険会社から支払を受けることや,加害者に対する判決に基づいて加害者の自賠責保険金請求権を差し押さえて転付命令を得ること(最高裁昭和56年3月24日判決)により,回収の途が残る場合がある。

第2 根拠条文と期間

1 被害者請求と仮渡金

自賠法19条は,「第十六条第一項及び第十七条第一項の規定による請求権は、被害者又はその法定代理人が損害及び保有者を知つた時から三年を経過したときは、時効によつて消滅する。」と定める。
16条1項は被害者が保険会社に対して損害賠償額の支払を請求する権利(被害者請求)を,17条1項は損害賠償額の支払のための仮渡金を請求する権利を定めている。
条文上の起算点は,民法724条1号と同じく,被害者又は法定代理人が「損害及び保有者を知つた時」という主観的な起算点である。

2 加害者請求

自賠法15条は,「被保険者は、被害者に対する損害賠償額について自己が支払をした限度においてのみ、保険会社に対して保険金の支払を請求することができる。」と定める。
この保険金請求権の時効について自賠法は定めを置いていないが,同法23条が「責任保険の契約については、この法律に別段の定めがある場合を除くほか、保険法第一章、第二章(第五節を除く。)及び第五章の規定による。」と定めている。
保険法95条1項は,「保険給付を請求する権利、保険料の返還を請求する権利及び第六十三条又は第九十二条に規定する保険料積立金の払戻しを請求する権利は、これらを行使することができる時から三年間行使しないときは、時効によって消滅する。」と定めるから,加害者請求も3年である。
加害者請求は賠償金を支払った限度でしかできないから,その「行使することができる時」は支払をした時となる。

3 政府保障事業

ひき逃げや無保険車による事故で,自賠法72条1項により政府に損害の塡補を請求する権利について,同法75条は,「これらを行使することができる時から三年を経過したときは、時効によつて消滅する。」と定める。
政府保障事業の起算点は,被害者請求と異なり,客観的な「行使することができる時」である。

4 平成22年3月31日以前の事故は2年

保険法の施行に伴う関係法律の整備に関する法律(平成20年法律第57号)15条は,自賠法19条及び75条の「二年」を「三年」に改めた。
同法16条1項は,自動車の運行による事故が施行日前に発生した場合における被害者請求,仮渡金及び政府保障事業による損害の塡補について「なお従前の例による」とし,同条2項は,施行日前に締結された自賠責保険契約に係る事故が施行日以後に発生した場合の保険金の請求について保険法95条1項を適用すると定めている。
国土交通省の案内も,平成22年3月31日以前に発生した事故については請求できる期間は2年以内となると説明している。
したがって,期間が2年か3年かは,保険契約の締結日ではなく事故の発生日で判断することになる。

第3 起算点と実務の取扱い

1 国土交通省の案内による起算日

国土交通省の「支払までの流れと請求方法」は,請求区分ごとの起算日と時効完成日を次のように示している。

請求区分起算日期間
被害者請求傷害事故発生の翌日3年以内
被害者請求後遺障害症状固定日の翌日3年以内
被害者請求死亡死亡日の翌日3年以内
加害者請求傷害・後遺障害・死亡損害賠償金を支払った翌日3年以内

損害保険会社の請求案内(損害保険ジャパン株式会社「自賠責保険 請求のご案内」令和8年2月改定)も同じ表を掲げ,加害者請求において分割して個々に支払ったときは,それぞれ支払った日の翌日から起算するとしている。
また,同案内は,請求者が複数いる場合には時効更新の手続は請求者ごとに行う必要があるとしている。

2 条文上の起算点とのずれ

この取扱いは,多くの事案では「損害及び保有者を知つた時」という条文上の起算点と一致する。
もっとも,加害車両の保有者が誰であるかを直ちに知り得ない事案などでは,事故日と保有者を知った日がずれることがあり得る。
その場合は条文に立ち返って起算点を検討することになるが,実務の取扱いより遅い起算点を主張することになるから,争いを避けるには事故日等を基準に管理しておくのが安全である。

3 加害者本人への請求権(5年)とのずれ

加害者本人に対する人身損害の損害賠償請求権は,平成29年法律第44号による民法改正で,損害及び加害者を知った時から5年となった(民法724条の2)。
これに対し,自賠法19条は改正されておらず,被害者請求は3年のままである。
そのため,加害者との示談交渉や訴訟に時間がかかる事案では,加害者への請求権が残っているのに自賠責保険の被害者請求だけが先に時効にかかることがあり得る。
示談交渉が長引くときは,自賠責保険について先に被害者請求をするか,時効更新の手続をとっておく必要がある。

4 任意保険会社の一括払

国土交通省の案内は,加害者が任意保険に加入している場合には,任意保険会社が被保険者に対して支払責任を負う限度で,加害者に代わって自賠責保険金を含めて支払うことがあり,これを一括払制度と呼んでいる。
一括払では,任意保険会社が被害者に支払い,その後に自賠責保険会社から支払を受けるから,被害者自身が自賠責保険に請求する場面は少ない。
もっとも,任意保険会社が一括払で支払を続けていることは,被害者自身の被害者請求の時効が進行しないことを意味しない。
一括払が打ち切られた後に被害者請求をしようとして,事故日や症状固定日から3年が経過していたということのないよう,被害者請求の起算日は別に管理する必要がある。
人身傷害保険を使う場合の請求順序は人身傷害保険の補償範囲と請求順序―人傷先行・賠償先行,保険代位及び自賠責回収で扱っている。

第4 時効の更新

1 加害者への訴えでは止まらない

加害者に対する損害賠償請求権と,自賠責保険会社に対する被害者請求の請求権は,相手方も根拠条文も異なる別個の権利である。
民法153条1項は,「第百四十七条又は第百四十八条の規定による時効の完成猶予又は更新は、完成猶予又は更新の事由が生じた当事者及びその承継人の間においてのみ、その効力を有する。」と定めている。
したがって,加害者に対して損害賠償請求訴訟を提起しても,自賠責保険会社に対する被害者請求の権利について完成猶予・更新の効果は生じない。

2 時効更新の手続

期限内に請求できない場合には,自賠責保険会社所定の書式(「時効中断申請書」「時効更新申請書」等の名称で用意されている。)に必要事項を記入して提出し,保険会社の承認を得る方法がとられている。
国土交通省の案内も,請求が遅れる場合には時効更新の制度があるので各損害保険会社に相談するよう求めている。
保険会社が承認すれば,民法152条1項により「時効は、権利の承認があったときは、その時から新たにその進行を始める。」から,承認の時から更に3年間は時効が完成しない。
承認を繰り返せば,その都度新たに3年が進行する。

3 手続の注意点

時効更新は,時効が完成する前に申請して承認を受ける必要がある。
請求者が複数いる死亡事故では,相続人等の請求者ごとに手続をとる必要がある。
政府保障事業については,損害保険会社の請求案内に「時効更新の制度はございません。」とあり,被害者請求と同じ手続は用意されていないから,期限内に請求することが特に重要である。
なお,令和2年3月31日以前に承認を受けて旧法の時効中断の効力が生じたものは,その効力について改正前民法による(平成29年法律第44号附則10条2項)。

第5 政府保障事業の起算点

1 最高裁平成8年3月5日判決

最高裁判所第三小法廷平成8年3月5日判決(平成4年(オ)第701号,民集50巻3号383頁)は,自賠法72条1項前段(保有者が明らかでない場合。現行の同項1号に当たる。)による請求権の消滅時効は,ある者が交通事故の加害自動車の保有者であるか否かをめぐって,その者と被害者との間で自賠法3条による損害賠償請求権の存否が争われている場合においては,その損害賠償請求権が存在しないことが確定した時から進行すると判示した。

2 判決の理由と事案

同判決は,民法166条1項(改正前)にいう「権利ヲ行使スルコトヲ得ル時」とは,権利の行使につき法律上の障害がないというだけでなく,権利の性質上,その権利行使が現実に期待のできるものであることをも必要とすると述べた。
その上で,政府保障事業による請求権は自賠法3条による請求権の補充的な権利であり,加害者とみられる者に対する請求権とは両立しないから,その者に対する請求権の不存在が確定するまで権利行使を期待することは被害者に難きを強いるとした。
事案は,昭和59年3月24日のひき逃げ事故で,被害者が加害者とみられた者を被告として訴えを提起したが保有者と認め難いとして請求棄却の判決が昭和64年1月6日の経過により確定し,その後政府保障事業に請求したというものであり,時効はその翌日から進行するとされた。

3 現在の実務との関係

国土交通省の政府保障事業の案内は,傷害は事故発生日から,後遺障害は症状固定日から,死亡は死亡日から,それぞれ3年以内に請求するよう求めている。
平成8年判決は,加害者とみられる者との間で保有者性が争われているという例外的な場面の判断である。
加害者の特定や保有者性に争いがあるときは,同判決を踏まえて起算点を検討する余地があるが,原則は上記の期限内に請求しておくべきである。

第6 時効完成後の回収方法

1 任意保険会社からの支払

被害者請求の時効が完成しても,それは自賠責保険会社に直接請求できなくなるというだけであり,加害者に対する損害賠償請求権が消滅するわけではない。
加害者本人に対する人身損害の請求権は5年(事故の時から20年)であるから,その時効が完成していない限り,加害者又は加害者の任意保険会社から賠償金の支払を受けることができる。
この場合,加害者が被害者に賠償金を支払えば,加害者の自賠責保険会社に対する保険金請求(加害者請求)は,自動車損害賠償保障法15条により支払った限度で認められ,その時効は支払った日の翌日から3年として扱われている。
任意保険会社が一括して支払った分を自賠責保険会社から回収する関係は,保険会社間の実務の取扱いによるものであり,被害者の側で管理すべき時効ではない。

2 判決に基づく差押え・転付命令

最高裁判所第三小法廷昭和56年3月24日判決(昭和53年(オ)第880号,民集35巻2号271頁)は,自賠法3条の規定による損害賠償請求権を執行債権とし,損害賠償義務の履行によって発生すべき同法15条所定の自賠責保険金請求権につき転付命令が申請された場合には,その保険金請求権は券面額ある債権として被転付適格を有すると判示した。
同判決の事案では,被害者の自賠責保険会社に対する被害者請求の権利は時効により消滅したとされていたが,被害者は加害者に対する確定判決を債務名義として加害者の保険金請求権を差し押さえ,転付命令を得ていた。
同判決は,自賠責保険の保険金請求権は被保険者の賠償金の支払を停止条件とする債権であるが,転付命令が有効に発せられて執行債権の弁済の効果が生ずることによってその停止条件が成就すると述べている。

3 転付命令の手順と注意点

この方法をとるには,加害者に対する損害賠償請求権の時効が完成する前に判決等の債務名義を得て,債権差押命令と転付命令(民事執行法159条)を申し立てることになる。
転付命令は確定しなければ効力を生じず(同条5項),効力を生じたときは,執行債権は転付命令が第三債務者に送達された時に券面額で弁済されたものとみなされる(同法160条)。
昭和56年判決は,転付命令の執行債権が被転付債権と同一の損害(同判決の事案では被害者の死亡)に基づくものである限りで保険金請求権が移転するとしており,加害者の損害賠償債務の成否等は転付を受けた保険金の請求訴訟で改めて審理されることになる。
差押え・転付の一般的な手続は債権差押命令の申立てと取立て・配当の実務で,判決で確定した債権の時効は判決で確定した債権の消滅時効は10年―民法169条と改正前169条(定期給付債権)の違いで扱う。

第7 日付で見る計算例

1 設例

令和6年5月10日に交通事故で負傷し,令和7年3月31日に症状固定の診断を受けた。
加害者の任意保険会社が治療費を一括払で支払っていたが,症状固定後の示談交渉がまとまらない。

請求権起算日期間時効完成の目安
自賠責の被害者請求(傷害)令和6年5月11日3年令和9年5月10日の経過
自賠責の被害者請求(後遺障害)令和7年4月1日3年令和10年3月31日の経過
加害者本人への請求(傷害部分)令和6年5月10日(事故日)5年令和11年5月10日の経過
加害者本人への請求(後遺障害部分)令和7年3月31日(症状固定日)5年令和12年3月31日の経過

2 読み方

国土交通省の案内は起算日を「翌日」と表現しているが,民法140条により初日を算入しないから,事故日や症状固定日から数えた場合と時効完成日は同じになる。
この設例では,自賠責保険の後遺障害部分の被害者請求は令和10年3月31日の経過で時効にかかる一方,加害者本人への後遺障害部分の請求はその2年後まで残る。
示談交渉が令和9年に入っても決着しないときは,傷害部分と後遺障害部分の被害者請求について,それぞれ時効完成前に時効更新の手続をとるか,被害者請求を先に済ませておくべきである。
被害者請求をした後の支払の時期と遅延損害金は自賠責保険の被害者請求と遅延損害金―自賠法16条の9の「必要な期間」,利率及び訴訟提起の実益で扱っている。

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第9 出典・参考資料

1 法令

①自動車損害賠償保障法(昭和30年法律第97号)3条,15条,16条,17条,19条,23条,72条,75条(e-Gov法令APIで取得した現行条文により確認)
②保険法(平成20年法律第56号)95条(同上)
③保険法の施行に伴う関係法律の整備に関する法律(平成20年法律第57号)15条,16条(e-Gov法令検索に本文が収録されていないため,衆議院ウェブサイト掲載の制定時の法律本文により確認)
④民法(明治29年法律第89号)140条,152条,153条,166条,724条,724条の2,民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)附則10条(e-Gov法令APIで取得した現行条文により確認)
⑤民事執行法(昭和54年法律第4号)159条,160条(同上)

2 裁判例

①最高裁判所第三小法廷昭和56年3月24日判決(昭和53年(オ)第880号,民集35巻2号271頁)裁判所HP
②最高裁判所第三小法廷平成8年3月5日判決(平成4年(オ)第701号,民集50巻3号383頁)裁判所HP

3 公的資料

①国土交通省「支払までの流れと請求方法」国土交通省
②国土交通省「損害賠償を受けるときは?」(政府保障事業)国土交通省
③衆議院「保険法の施行に伴う関係法律の整備に関する法律」(制定法律)衆議院

4 その他の資料

①損害保険ジャパン株式会社「自賠責保険 請求のご案内」(令和8年2月改定)PDFの3枚目・11枚目損害保険ジャパン