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匿名・流動型犯罪グループ(トクリュウ)対策の警察組織――情報分析室,匿流ターゲット取締りチーム,TAIT及び仮装身分捜査(AI作成)

第1 匿名・流動型犯罪グループとは何か

1 警察庁による説明

警察庁は,匿名・流動型犯罪グループについて,「各種資金獲得活動により得た収益を吸い上げている中核部分は匿名化され,犯罪の実行者はSNS等でその都度募集されるなどして流動化しており,組織の把握やメンバーの特定が容易ではないという特徴を有している」と説明している。
そのうえで,こうした匿名性・流動性を利用し,暴力団や来日外国人犯罪組織等と一定の関係を持ちながら,特殊詐欺,強盗・窃盗等の様々な事案に関与して資金を獲得しているとする。

令和6年版警察白書は,この類型の特徴として,①中核的人物が,自らに捜査が及ぶことのないようにするため,匿名性の高い通信手段を使用すること,②犯罪の実行者は,SNSでその都度募集され,検挙されても新たな者が募集されるなどして流動化していること,③特殊詐欺をはじめ,組織的な強盗や窃盗,違法なスカウト行為,悪質なリフォーム業,薬物密売等の様々な犯罪に及ぶことを挙げている。
同白書は,緩やかに結び付いたメンバー同士が役割を細分化させ,その都度,末端の実行犯を言わば「使い捨て」にする,とも述べている。

「トクリュウ」は,この類型の略称として報道等で広く用いられている呼称であり,警視庁も専用ウェブページの経路名に用いている。
もっとも法令上の用語ではないから,本記事では原則として警察庁の用語である「匿名・流動型犯罪グループ」を用いる。

2 従来の組織犯罪対策との関係

警察庁は,我が国の組織犯罪対策が,従来,暴力団による犯罪を典型的な射程としつつ,来日外国人による組織的な犯罪並びに薬物事犯及び銃器発砲事件への対策を柱として推進されてきたところ,近年,新たな特徴を有する匿名・流動型犯罪グループが台頭して治安対策上の脅威となり,「これまでの組織犯罪対策の在り方を抜本的に見直すこととなった」と整理している。
本記事では,以下に述べる一連の組織新設を,暴力団のように指定と名簿によって外形的に把握できる集団を前提としてきた体制を,そうした把握になじまない犯罪集団へ対応させるための組み替えとして整理する。

第2 司令塔と部門横断の体制

1 警察庁及び都道府県警察の司令塔

警察庁においては,長官官房審議官(調整担当)及び長官官房参事官(匿名・流動型犯罪グループ対策担当)の取りまとめの下で,部門横断的な情報共有及び実態解明が推進されている。
全国警察においては,組織犯罪対策等を担当する参事官級の職員が匿名・流動型犯罪グループに係る総合対策の司令塔とされ,関係部門における取組状況等を集約している。

なお警視庁は,これに先立つ令和4年12月,副総監を長とする部門横断的なタスクフォースとして「犯罪集団等の実態解明及び取締りに関する特命チーム」を編成していた。
また令和6年版警察白書によれば,令和6年4月,全国警察において,犯罪手口,資金源等の活動実態を明らかにするための実態解明体制と,中核的人物等の取締りを行うための事件検挙体制が整備された。

2 特殊詐欺連合捜査班(TAIT)

令和6年4月,匿名・流動型犯罪グループが深く関与する特殊詐欺及びSNS型投資・ロマンス詐欺について,都道府県警察の垣根を越えて迅速かつ効果的な捜査を推進するため,「他の都道府県警察から依頼を受けて管轄区域内で行うべき捜査を遂行する」仕組みとして,「特殊詐欺連合捜査班」(TAIT)が各都道府県警察に構築された。
TAITは Telecom scam Allianced Investigation Team の略であり,警察庁は「タイト」と呼称している。

特に捜査事項が集中すると見込まれる警視庁,埼玉,千葉,神奈川,愛知,大阪及び福岡の7都府県警察では,それぞれ専従の捜査体制が構築され,全国警察から派遣される捜査員を加えて,合計約500人の捜査員が配置された。
警察庁の資料によれば,令和7年中にTAITを活用した特殊詐欺等の検挙件数は533件であった。

この仕組みは,被害地と拠点地が離れ,複数の都道府県にまたがって実行される詐欺について,管轄をまたぐ捜査の遅れを解消しようとするものであると考えられる。

第3 令和7年10月に新設された組織

1 警察庁「匿名・流動型犯罪グループ情報分析室」

警察庁は,令和7年10月,匿名・流動型犯罪グループの中核的人物に指向した実態解明・取締り等の強化を図るため,「匿名・流動型犯罪グループ情報分析室」を新たに設置した。
その役割は,各部門・各都道府県警察に点在する情報を一元的に集約・分析し,グループの中核的人物をあぶり出すことにある。

国家公安委員会委員長は,令和7年9月25日の記者会見において,「10月1日付けで,匿名・流動型犯罪グループをターゲットとした,いわばインテリジェンス組織として『匿名・流動型犯罪グループ情報分析室』を警察庁に新たに設置」する旨を説明している。
同室は長官官房企画課に置かれているとみられる。
警察学論集79巻7号(令和8年7月号)に掲載された同室に関する解説の執筆者の肩書が「警察庁長官官房企画課匿名・流動型犯罪グループ情報分析室長」と表示されているためである。

2 警視庁「匿名・流動型犯罪グループ対策本部」及び「匿流ターゲット取締りチーム(T3)」

同じく令和7年10月,警視庁に設置された「匿名・流動型犯罪グループ対策本部」に,全国警察の捜査員から成る専従捜査体制である「匿流ターゲット取締りチーム」(T3)が新設された。
警察庁は,これにより全国警察が一体となった中核的人物に対する集中的かつ戦略的な実態解明・取締りを行い,「その検挙とその違法なビジネスモデルの解体を強力に推進している」としている。

警視庁のウェブサイトによれば,同対策本部は副総監を本部長とし,各部署からの情報を集約・分析して犯罪の首謀者や犯罪収益を得ている者をあぶり出し,戦略的取締りを指令するほか,犯行ツールの遮断,実行犯を生まないための対策並びに被害に遭わないための対策及び注意喚起を行い,被疑者の検挙と被害防止の両輪で対策を推進するものとされている。
T3は,他道府県警察からの捜査員で構成される専従捜査班である。

3 「国際組織犯罪対策官」の設置

警察学論集79巻7号(令和8年7月号)には,「『国際組織犯罪対策官』の設置について」と題する解説(警察庁刑事局組織犯罪対策部国際捜査管理官執筆・同誌161頁~168頁)が掲載されており,同名の職の設置が報告されている。
もっとも,本記事の作成時点において,警察庁ウェブサイトの公表資料からは同職の設置に関する告知を確認できなかったため,本記事では同誌に解説が掲載されているという書誌事実を示すにとどめる。

第4 新たな捜査手法――仮装身分捜査

1 制度の内容

警察庁の資料によれば,SNS等のインターネット上において犯罪実行者が募集された上で実行される犯罪に的確に対処するため,捜査員がその身分を秘して募集に応じ,検挙等につなげる「雇われたふり作戦」を行う場合において,架空の本人確認書類等を使用する「仮装身分捜査」が実施されている。
警察庁は,この実施を通じて,実行犯の身柄を早期に確保して被害の未然防止を図るとともに,首謀者や指示役の検挙を推進することとしている。
捜査の端緒や告訴・告発の取扱いについては,別稿令和6年警察庁通達に基づく告訴・告発の取扱いも参照されたい。

2 実施件数

警察庁の資料によれば,令和7年中には13件の「仮装身分捜査」が実施され,強盗予備で1件2名,詐欺未遂で3件3名を検挙したほか,これら4件を含む7件の被害の発生を抑止した。

3 弁護実務上の位置付け

この手法は,捜査員が犯罪実行者の募集に応じるという点で,従来から議論されてきたおとり捜査に隣接する。
もっとも,警察庁の説明は,犯罪の実行に着手させる前に身柄を確保して被害を防ぐという被害防止の側面を前面に置いている。
弁護人としては,架空の本人確認書類の使用がどの段階から行われたか,被疑者が募集に応じた時点で既に犯意を有していたか,捜査機関の働きかけが犯意を誘発したものでないかといった点が,事案によっては問題となり得ると考えられる。
なお,本記事は警察庁の公表資料に基づいて手法の内容と実施件数を紹介するものであり,個々の事件における適法性の評価に立ち入るものではない。

第5 検挙の実情――令和7年の統計

1 罪種及び年齢層

警察庁の資料によれば,令和7年中の匿名・流動型犯罪グループによるものとみられる主な資金獲得犯罪(詐欺,強盗,窃盗,薬物事犯及び風営適正化法違反)の検挙人員を罪種別にみると,詐欺が半数近くを占め,次いで薬物事犯,窃盗,風営適正化法違反,強盗の順であった。
年齢層別にみると,20歳前半が23.4%と最も多く,20代までの若年層が全体の約6割を占めている。
検挙人員のうち約3割の者は,SNSによる犯罪実行者募集情報が犯行への応募・加担の経緯となっていた。
他方,主犯・指示役の立場にあった者は約1割にとどまっており,警察庁は,グループの撲滅を図るためには主犯・指示役等の中核的人物の実態解明・取締りを更に強化する必要があるとしている。

これらの数値は,末端の実行犯として検挙される者に若年層が集中する一方,中核的人物の検挙がなお限られていることを示している。
本記事では,第3で述べた一連の組織新設を,この「末端の検挙が中核に届かない」という構造への対応として整理する。

2 海外拠点に関する検挙

警察庁の資料によれば,令和7年中,東南アジアのタイ,カンボジア,フィリピン及びマレーシアの詐欺拠点に関し,日本に移送するなどして都道府県警察が検挙した被疑者は54人であった。
また,日本サイバー犯罪対策センター(JC3)及びMicrosoft社の協力を得てインド国内に拠点を置くサポート詐欺グループの情報を入手し,インド当局との国際共同捜査を行った結果,令和7年5月,日本警察が提供した情報を基にインド当局が2つの拠点を摘発し,インド国籍の被疑者6人が逮捕された。

さらに,国境を越える組織的詐欺と闘う国際的な機運の高まりも踏まえ,令和7年12月,14か国3機関の参加を得て「アジア詐欺対策国際会議」が東京で開催された。

第6 弁護士実務から見た留意点

1 末端の実行犯の弁護

第5の1の統計が示すとおり,検挙されるのは若年の末端実行犯が中心である。
被疑者・被告人となる者の多くは,SNS上の犯罪実行者募集情報(いわゆる「闇バイト」)に応募した者であり,指示役の身元を知らず,匿名性の高い通信手段を通じて指示を受けていたにすぎないという事案が想定される。
量刑事情としては,加担の経緯,役割の限定性,指示役との関係の希薄さ,離脱の困難さ等が問題となる。

2 中核の実態解明が進むことの影響

情報分析室及びT3は,末端ではなく中核的人物を対象とする組織である。
これらが機能すれば,従来は指示役不詳のまま処理されていた事案についても,指示系統に関する客観的資料が捜査機関側に蓄積されることになる。
弁護人としては,被疑者の供述の裏付けとなる資料や,役割の限定性を示す資料が捜査機関側に存在する可能性を意識して,開示請求の対象を検討することが考えられる。

3 「反社会的勢力」該当性との関係

匿名・流動型犯罪グループは,暴力団のように指定と名簿によって外形的に把握できる集団ではない。
このため,契約実務上の反社会的勢力排除条項の適用に当たっても,暴力団該当性の判断とは異なる困難が生じ得る。
この点は,別稿反社会的勢力排除条項に関するメモ書きで扱った論点と関係する。

出典