第1 この記事の対象と犯罪捜査規範の位置付け
1 対象と基準時
本記事は,2026年9月6日現在の「犯罪捜査規範」のうち,被害者の届出,心情・人格への配慮,通知,安全の確保,個人特定事項の保護及び各捜査段階の対応に関係する主な条文を整理するものである。
犯罪捜査規範は,国家公安委員会が定めた規則であり,警察官の犯罪捜査の心構えと手続を定めている。
各条の全文及び最新の改正履歴は,e-Gov法令検索で確認できる。
第2の3以下の被害届提出時の注意点は,2026年10月21日に確認した法令及び警察の公表資料に基づく。
犯罪捜査規範第9条第1項は,「被害者」を「犯罪により害を被つた者」と定義する。
同規範第10条の2は,その節における「被害者等」を被害者又はその親族とする。
他方,「犯罪被害者等基本法」第2条第2項の「犯罪被害者等」は,犯罪等により害を被った者及びその家族又は遺族をいい,用語の範囲は各制度で必ずしも同一ではない。
2 被害者に関する規定の全体像
被害者に関する主な規定は,次のように分けられる。
①被害届の受理と口頭による届出の処理(第61条)
②秘密・名誉の保護,心情・人格への配慮,通知,後難防止及び捜査の公平性(第9条から第14条まで)
③令和6年改正による個人特定事項の保護(第9条,第11条,第122条の2,第126条第6項及び第188条)
④親告罪,現場捜査,資料の証拠力,実況見分調書及び微罪処分の場面における被害者関係の規定(第70条,第85条,第90条,第92条,第105条及び第200条)
第2 被害届の受理
1 犯罪捜査規範第61条
(被害届の受理)
第61条 警察官は,犯罪による被害の届出をする者があつたときは,その届出に係る事件が管轄区域の事件であるかどうかを問わず,これを受理しなければならない。
2 前項の届出が口頭によるものであるときは,被害届(別記様式第6号)に記入を求め又は警察官が代書するものとする。
この場合において,参考人供述調書を作成したときは,被害届の作成を省略することができる。
第61条第1項は,届出の対象事件がその警察署の管轄区域に属するかどうかを問わず,警察官が被害の届出を受理しなければならないことを定めている。
口頭の届出の場合は,届出人が被害届に記入するか,警察官が代書する。
参考人供述調書を作成したときは,別に被害届を作成しないことがある。
2 迅速・確実な受理に関する警察庁通達
警察庁刑事局長の令和6年3月22日付け通達「迅速・確実な被害の届出の受理等について」は,被害者等の立場に立って対応し,届出内容が明白な虚偽又は著しく合理性を欠く場合を除き,即時受理することとしている。
この判断は,届出内容から容易に判断し得る場合を指し,改めて捜査又は調査を行ってから受理を検討するという意味ではない。
また,警ら中又は現場臨場時の届出を,必ずその場で受理することまで求めるものではないとされている。
同通達は,①迅速・確実に受理できる警察官が対応すること,②担当警察官が急訴事件への対処等で直ちに受理できないときは他の警察官を対応させること,③管轄区域外の届出も即時受理し,適当な警察署等へ引き継ぐこと,④複数の都道府県警察又は警察署にまたがる被害で関連情報を共有することを求めている。
この通達の有効期間は,令和11年3月31日までである。
被害届と告訴・告発は同じ手続ではない。
告訴・告発の受理及び処理については,「告訴・告発に関する犯罪捜査規範の条文及び令和6年警察庁通達」で整理している。
知能犯罪に関する告訴・告発については,令和6年1月5日付け警察庁丁捜二発第2号の全文を「知能犯罪に関する告訴・告発の令和6年1月5日通達-全文,3か月の目途及び援用上の限定」で扱っている。
3 被害届と告訴の違いを確認する
被害届は,犯罪の被害に遭ったことを捜査機関に申告するものである。
告訴は,告訴権を有する者が犯罪事実を申告し,犯人の処罰を求める意思を示すものである。
書面の題名だけで決まるものではないが,警察に事情を説明したというだけで,当然に告訴をしたことになるわけではない。
犯人の処罰を求めたい場合は,その意思を明確に伝え,被害届と告訴のどちらの手続として扱われているか確認しておくことが大切である。
特に親告罪では,被害届の提出だけで告訴の要件を満たしたと考えてはならない。
刑事訴訟法第235条第1項は,原則として犯人を知った日から6か月の告訴期間を定めている。
犯罪の種類や例外の有無も関係するため,告訴が必要な事件か,期限が迫っていないかを早めに確認する必要がある。
告訴・告発の受理や不受理の判断については,令和6年警察庁通達に基づく告訴・告発の取扱いで整理している。
被害届の受理に関する通達と,告訴・告発の取扱いに関する通達は区別する必要がある。
4 出来事を整理し,証拠を保存する
提出前には,いつ,どこで,誰から,何をされ,どのような被害が生じたかを,時系列で整理しておくと説明しやすくなる。
相手の氏名が分からない場合でも,外見,連絡先,アカウント名,使用された車両など,分かる範囲を記録する。
直接見聞きした事実と,他人から聞いたこと,自分の推測を分け,日時や金額が不確かな点は,不確かであることも伝える。
けがの写真,診断書,壊された物の写真や修理見積書,振込記録,契約書,メール,SNSのやり取りなど,被害を裏付ける資料を保存する。
これらは事件に応じた資料の例であり,全部そろわなければ届け出られないという意味ではない。
手元にない資料は,その所在や入手できる見込みを説明する。
デジタル資料は,画面の一部分だけでなく,相手,日時,URL,やり取りの前後関係が分かる状態でも保存すると,その意味を説明しやすくなる。
自分の端末やサービス上で適法に確認できる範囲で,元のデータやログも残し,証拠を得るために相手のアカウントへ無断でアクセスするなどの行為は避ける必要がある。
警視庁も,不正アクセス被害について,ログイン履歴の保存・印字,サービス提供会社とのやり取りの保存,相談時の画面・ログ等の準備を案内している。
事件によって必要な資料は異なるため,持参方法や原本を預ける必要があるかは担当者に確認する。
提出する資料については,可能な範囲で自分の控えと提出物の一覧を残しておくと,その後の説明に役立つ。
5 提出先と持参する物を確認する
犯罪捜査規範第61条第1項は,管轄区域の事件かどうかにかかわらず,被害の届出を受理しなければならないと定めている。
ただし,受理後の捜査は別の警察署等へ引き継がれ,改めて事情聴取や現場での確認を求められることがある。
管轄外で届け出る場合は,引継ぎ先やその後の連絡方法も確認する。
窓口で落ち着いて説明できるよう,緊急でない場合は,あらかじめ警察署へ連絡して担当部署や訪問時間,持参資料を確認する方法が考えられる。
ただし,予約や資料の完成を待つために,身の安全の確保や早急な相談を遅らせる必要はない。
被害が進行中であるなど,緊急の対応が必要な場合は110番を利用する。
大阪府警察の阿倍野警察署の案内では,被害を受けた本人からの届出を原則とし,難しい場合は事情を詳しく説明できる家族・従業員等による届出も案内している。
被害品を特定する資料がない場合は口頭の説明でも構わない旨が示されている。
これは同署の案内であり,全国一律の持参品や代理届出の条件を定めたものではない。
本人が出向けない事情がある場合は,その事情を伝えて方法を相談する。
6 聴取された内容と書面を確認する
犯罪捜査規範第61条第2項は,口頭での被害の届出も予定している。
警察官は,被害届への記入を求め,又は代書することとされ,参考人供述調書を作成した場合には被害届の作成を省略できると定められている。
したがって,自分で完成した書面を用意しなければ一切届け出られないという制度ではない。
作成された書面を示されたときは,日時,場所,相手の言動,被害の内容・金額,処罰を求める意思などが,自分の説明と一致しているか確認する。
記憶がないことや推測であることが,断定的な表現になっていないかにも注意が必要である。
誤りや抜けがあれば,署名等をする前に具体的な訂正・補足を申し出る。
同規範第179条第2項は,供述を録取したときは,読み聞かせ又は閲覧をさせ,誤りの有無を確認させ,増減変更を申し立てる機会を十分に与えることを求めている。
被害届そのものと供述調書は区別しつつ,内容に疑問がある場合は,説明を求めて確認することが大切である。
7 提出後の連絡先と手続の状態を確認する
窓口では,単なる相談として扱われているのか,被害届が受理されたのか,追加資料の提出を求められている段階なのかを確認する。
訪問日,担当部署・担当者,連絡先,提出した資料,次に必要な対応を自分でも記録しておくと,その後の照会がしやすくなる。
令和6年3月22日付け警察庁通達は,被害届を受理した場合,連絡先等を記載した書面を交付できることを説明し,希望者に届出の日時,連絡先等を記載した書面を交付する運用を示している。
ただし,被害者連絡の対象事件については別の取扱いがあり,都道府県警察の判断で交付することも認められている。
この書面の交付と,被害届の写しや受理証明書の交付は同じものではない。
受理番号が必要な場合は,どこへ,いつ照会すればよいかも確認する。
大阪府警察の阿倍野警察署は,届出日以降に管轄警察署の刑事課司法係へ問い合わせる方法を案内しているが,全国一律にその場で番号が交付されることを保証するものではない。
被害届の受理は,直ちに逮捕,起訴,処罰又は被害金の返還が決まることを意味しない。
追加の事情聴取や資料提出が必要になることもある。
損害賠償請求などの民事上の手続やその期限についても,被害届を提出したからすべて対応済みになると考えず,必要に応じて別途検討する必要がある。
8 受理されない場合は理由と不足事項を整理する
令和6年3月22日付け警察庁通達は,被害の届出は即時受理を原則とし,明白な虚偽又は著しく合理性を欠くものを除いている。
この例外は,申告内容から容易に判断できるものとされており,あらかじめ捜査して犯罪の成否を確定してから受理するという趣旨ではない。
受理されない場合は,その理由が,犯罪被害の申告に当たらないという判断なのか,説明・資料の不足なのか,担当部署への案内なのかを確認し,不足している点や次の対応を整理する。
相談日時,部署・担当者,説明した内容,示された理由を記録し,必要に応じて警察署の担当部署や警察本部の相談窓口に相談する。
これらの記録は事実経過を整理するためのもので,記録があれば必ず受理されるという意味ではない。
犯罪事実の整理,被害届と告訴の選択,告訴期間,安全確保などに判断が必要な場合は,弁護士への相談も考えられる。
警察職員の職務執行について苦情を申し出る制度もあるが,公安委員会への苦情申出が,個別事件について直接捜査を指揮してもらう制度になるわけではない。
9 安全確保とオンライン窓口の使い分け
相手からの報復,つきまとい,再度の暴行などが心配な場合は,被害の説明と併せて,具体的な危険や連絡上の配慮が必要な事情を伝える。
犯罪捜査規範第11条は,被害者等に危害が及ぶおそれがある場合の保護を定めている。
ただし,申出をすれば,すべての手続で氏名や住所が必ず相手に知られなくなるというものではない。
連絡方法や利用できる保護措置を個別に確認する必要がある。
警察庁のサイバー事案に関するオンライン窓口には,通報・相談・情報提供の区分がある。
同庁は,被害届の提出を希望する場合は最寄りの警察署へ連絡するよう案内している。
オンラインフォームを送信しただけで,被害届の提出や告訴の手続まで完了したと考えないようにする必要がある。
第3 被害者等への配慮,通知及び保護
1 秘密の保持と関係者への配慮(第9条・第10条)
(秘密の保持等)
第9条 捜査を行うに当たつては,秘密を厳守し,捜査の遂行に支障を及ぼさないように注意するとともに,被疑者,被害者(犯罪により害を被つた者をいう。以下同じ。)その他事件の関係者の名誉を害することのないように注意しなければならない。
2 捜査を行うに当たつては,前項の規定により秘密を厳守するほか,告訴,告発,犯罪に関する申告その他犯罪捜査の端緒又は犯罪捜査の資料を提供した者その他捜査の関係者(第11条(被害者等の保護等)第2項において「資料提供者等」という。)の名誉又は信用を害することのないように注意しなければならない。
(関係者に対する配慮)
第10条 捜査を行うに当つては,常に言動を慎み,関係者の利便を考慮し,必要な限度をこえて迷惑を及ぼさないように注意しなければならない。
第9条は,捜査上の秘密を守ることに加え,被疑者,被害者その他事件関係者の名誉や,資料提供者等の名誉・信用を害さないように注意することを定めている。
第10条は,被害者に限らず,捜査の関係者の利便を考慮し,必要な限度を超える迷惑を及ぼさないよう求めている。
2 被害者等の心情と人格への配慮(第10条の2)
(被害者等に対する配慮)
第10条の2 捜査を行うに当たつては,被害者又はその親族(以下この節において「被害者等」という。)の心情を理解し,その人格を尊重しなければならない。
2 捜査を行うに当たつては,被害者等の取調べにふさわしい場所の利用その他の被害者等にできる限り不安又は迷惑を覚えさせないようにするための措置を講じなければならない。
第1項は被害者等の心情の理解と人格の尊重を,第2項は取調べの場所その他の具体的な措置を定めている。
警察庁刑事局長ほかの令和5年3月16日付け通達「捜査員のための被害者等対応要領の改正について」も,被害者等の心情の理解,人格の尊重,二次的被害の防止,ふさわしい場所の選定及び被害者等に応じた捜査員の選定について定めている。
3 刑事手続と捜査経過の通知(第10条の3)
(被害者等に対する通知)
第10条の3 捜査を行うに当たつては,被害者等に対し,刑事手続の概要を説明するとともに,当該事件の捜査の経過その他被害者等の救済又は不安の解消に資すると認められる事項を通知しなければならない。
ただし,捜査その他の警察の事務若しくは公判に支障を及ぼし,又は関係者の名誉その他の権利を不当に侵害するおそれのある場合は,この限りでない。
第10条の3は,刑事手続の概要と,捜査経過その他救済又は不安の解消に資すると認められる事項の通知を定める。
もっとも,捜査,警察事務若しくは公判への支障又は関係者の権利を不当に侵害するおそれがある場合を除外しており,無制限な情報提供を定めたものではない。
令和5年7月10日付け警察庁通達「被害者連絡実施要領の改正について」は,身体犯,重大な交通事故事件及び警察本部長又は警察署長が必要と認める事件の被害者らを連絡対象者とする。
同要領は,刑事手続及び犯罪被害者のための制度,捜査状況,検挙状況及び処分状況についての連絡方法を定めているが,事件類型,連絡対象者の意向及び捜査への支障等に応じて取扱いが異なる。
通常の窃盗・横領による会社の被害も,身体犯等と同じ範囲・頻度の連絡が当然に行われるとは限らない。他方,財産犯だから一切連絡を求められないという意味でもない。会社の担当窓口を伝え,送致先等の必要事項と対応可能な連絡範囲を担当捜査員に確認する。検察処分や裁判の情報,刑事記録の取得までの手順は,従業員の窃盗・横領被害を受けた会社が捜査・刑事裁判の情報を確認する方法(AI作成)を参照されたい。
4 後難の防止と保護措置(第11条)
(被害者等の保護等)
第11条 警察官は,犯罪の手口,動機及び組織的背景,被疑者と被害者等との関係,被疑者の言動その他の状況から被害者等に後難が及ぶおそれがあると認められるときは,被疑者その他の関係者に,当該被害者等の氏名又はこれらを推知させるような事項を告げないようにするほか,必要に応じ,当該被害者等の保護のための措置を講じなければならない。
2 前項の規定は,資料提供者等に後難が及ぶおそれがあると認められる場合について準用する。
第11条第1項は,被害者等に後難が及ぶおそれを個別の状況から判断し,氏名等を被疑者その他の関係者に告げないようにすることや,必要な保護措置を講ずることを定める。
第2項は,同じ保護を資料提供者等に準用している。
また,警察庁の令和6年3月28日付け通達「再被害防止要綱の改正について」は,加害者による再被害のおそれがある被害者等を指定し,関係機関との連携,被害者等への連絡及び防犯指導等を行う枠組みを定めている。
5 捜査の公平性を保つための回避(第14条)
(捜査の回避)
第14条 警察官は,被疑者,被害者その他事件の関係者と親族その他特別の関係にあるため,その捜査について疑念をいだかれるおそれのあるときは,上司の許可を得て,その捜査を回避しなければならない。
第14条は,警察官が被害者その他の事件関係者と親族その他の特別な関係にあり,捜査の公平性に疑念を招くおそれがあるときの回避を定めている。
第4 令和6年改正と個人特定事項の保護
1 改正の概要
令和6年国家公安委員会規則第1号による犯罪捜査規範の改正は,令和6年2月15日に施行された。
被害者関係の主な改正は,次のとおりである。
①第9条第2項の対象を,犯罪捜査の端緒又は資料を提供した者から「その他捜査の関係者」にも広げ,呼称を「資料提供者等」に改めた。
②第11条第2項の保護対象を,改正後の「資料提供者等」に対応させた。
③被害者等の個人特定事項の記載がない逮捕状の抄本その他逮捕状に代わるものの交付請求に必要な手続を追加した。
④鑑定嘱託書の記載事項から,被害者の住居,氏名,年齢及び性別を削除した。
2 逮捕状に代わるもの(第122条の2・第126条第6項)
(逮捕状に代わるものの交付の請求の疎明資料)
第122条の2 逮捕状に代わるものの交付の請求をするときは,当該請求に係る者が刑訴法第201条の2第1項第1号又は第2号に掲げる者のいずれかに該当することを疎明する被害届,参考人供述調書,捜査報告書等の資料をも添えて行わなければならない。
(逮捕の際の注意)
第126条第6項 刑訴法第201条の2第3項の規定により逮捕状に代わるものを被疑者に示すときは,当該逮捕状に代わるものの交付の請求に係る個人特定事項(同条第1項に規定する個人特定事項をいう。第189条第3項において同じ。)が被疑者に知られることがないように注意しなければならない。
「刑事訴訟法」第201条の2は,一定の被害者等その他の者の個人特定事項が被疑者に知られることにより,名誉・社会生活の平穏への著しい侵害又は身体・財産への加害,畏怖・困惑行為のおそれがあるときに,個人特定事項を明らかにしない逮捕状の抄本その他逮捕状に代わるものの交付を請求できることを定める。
第122条の2はその請求時の疎明資料を,第126条第6項は逮捕時の呈示方法を定めている。
3 鑑定嘱託書からの被害者情報の削除(第188条)
改正前の第188条第1項第4号は,鑑定嘱託書の参考事項として,被害者の住居,氏名,年齢及び性別を掲げていた。
令和6年改正は,被害者情報の保護のため,これらを必要的記載事項から削除した。
現行の第188条第1項第4号は,犯罪の年月日時・場所,被疑者の住居・氏名・年齢・性別,鑑定資料の採取年月日・採取時の状態及び事件内容の概要その他参考事項を掲げている。
第5 捜査の各段階における被害者関係の条文
1 親告罪の要急捜査(第70条)
(親告罪の要急捜査)
第70条 警察官は,親告罪に係る犯罪があることを知つた場合において,直ちにその捜査を行わなければ証拠の収集その他事後における捜査が著しく困難となるおそれがあると認めるときは,未だ告訴がない場合においても,捜査しなければならない。
この場合においては,被害者またはその家族の名誉,信用等を傷つけることのないよう,特に注意しなければならない。
親告罪でも,告訴前に証拠が失われるおそれ等があるときは,要急の捜査が行われる。
その際,被害者又は家族の名誉・信用等を傷つけないよう,特に注意しなければならないと定めている。
2 現場の負傷者救護と被害者関係の捜査(第85条・第90条)
(現場における負傷者の救護等)
第85条 警察官は,現場を臨検した場合において負傷者があるときは,救護の処置をとらなければならない。
2 前項の場合において,ひん死の重傷者があるときは,応急救護の処置をとるとともに,その者から犯人の氏名,犯行の原因,被害者の氏名,目撃者等を聴取しておかなければならない。
3 前項の重傷者が死亡したときは,その時刻を記録しておかなければならない。
第90条について,以下は被害者に直接関係する第3号を掲げる。
(現場における捜査の要点)
第90条 現場において捜査を行うに当たつては,現場鑑識その他の科学的合理的な方法により,次に掲げる事項を明らかにするよう努め,犯行の過程を全般的に把握するようにしなければならない。
(3)被害者の関係
イ 犯人に対する応接その他被害前の状況
ロ 被害時における抵抗,姿勢等の状況
ハ 傷害の部位及び程度,被害金品の種別及び数量等被害の程度
ニ 死体の位置及び創傷,流血その他の状況
ホ その他被害者に関し参考となる事項
第85条は,現場に負傷者がいる場合の救護措置,ひん死の重傷者からの必要事項の聴取及び死亡時刻の記録を定める。
第90条は,現場で明らかにするよう努める事項を時,場所,被害者及び被疑者の関係に分け,被害者の関係として被害前の状況,抵抗・姿勢,被害程度,死体の状況等を掲げている。
3 現場資料の証拠力の保全(第92条)
(資料を発見した時の措置)
第92条 遺留品,現場指掌紋等の資料を発見したときは,年月日時及び場所を記載した紙片に被害者又は第三者の署名を求め,これを添付して撮影する等証拠力の保全に努めなければならない。
第92条は,現場で発見した資料の証拠力を保全する方法の一つとして,年月日時・場所を記載した紙片への被害者又は第三者の署名と,その紙片を添付した撮影等を掲げている。
4 実況見分調書と指示説明(第105条)
(実況見分調書記載上の注意)
第105条 実況見分調書は,客観的に記載するように努め,被疑者,被害者その他の関係者に対し説明を求めた場合においても,その指示説明の範囲をこえて記載することのないように注意しなければならない。
2 被疑者,被害者その他の関係者の指示説明の範囲をこえて,特にその供述を実況見分調書に記載する必要がある場合には,刑訴法第198条第3項から第5項までおよび同法第223条第2項の規定によらなければならない。
この場合において,被疑者の供述に関しては,あらかじめ,自己の意思に反して供述をする必要がない旨を告げ,かつ,その点を調書に明らかにしておかなければならない。
第105条は,実況見分調書の客観的記載と,被害者等の指示説明の範囲を超えないことを定めている。
実況見分の具体的な注意点は,「実況見分調書作成時の留意点」でも整理している。
5 微罪処分と被害回復・謝罪(第200条)
第200条について,以下は被害者に直接関係する第3号を掲げる。
(微罪処分の際の処置)
第200条 第198条(微罪処分ができる場合)の規定により事件を送致しない場合には,次の各号に掲げる処置をとるものとする。
(3)被疑者に対し,被害者に対する被害の回復,謝罪その他適当な方法を講ずるよう諭すこと。
第200条第3号は,微罪処分により事件を送致しないときの処置として,被疑者に被害回復,謝罪その他適当な方法を講ずるよう諭すことを定めている。
警察官が被疑者を諭す規定であり,被害回復又は謝罪の実現自体を保証する条文ではない。
第6 犯罪捜査規範と関連制度の区別
1 条文から分かる範囲
犯罪捜査規範には,「しなければならない」と定める条文のほか,「努めなければならない」と定める条文や,一定のおそれ・必要性を要件とする条文がある。
条文を読むときは,各規定の主体,対象,要件,但書及び表現の強さを区別する必要がある。
例えば,第10条の3は被害者等への通知を定めるが,但書による除外があり,被害者連絡実施要領の適用対象も事件類型等により限定されている。
犯罪捜査規範は,捜査段階の警察の対応を中心に定める。
捜査後の刑事手続への参加,意見陳述,記録の閲覧等は別の法令・制度によるため,「犯罪被害者の権利」及び「刑事事件記録に関する記事の一覧」を併せて参照されたい。
第7 出典・参考資料
1 法令・国家公安委員会規則
①犯罪捜査規範(昭和32年国家公安委員会規則第2号)
②刑事訴訟法(昭和23年法律第131号)
③犯罪被害者等基本法(平成16年法律第161号)
2 所管行政機関の運用資料
①警察庁刑事局長「迅速・確実な被害の届出の受理等について(通達)」令和6年3月22日,PDF1頁~2頁
②警察庁刑事局長ほか「捜査員のための被害者等対応要領の改正について(通達)」令和5年3月16日,PDF1頁及び6頁~8頁
③警察庁「被害者連絡実施要領の改正について(通達)」令和5年7月10日,PDF1頁~5頁
④警察庁「刑事訴訟法第189条第1項および第199条第2項の規定に基づく司法警察員等の指定に関する規則及び犯罪捜査規範の一部を改正する規則の制定について(通達)」令和6年1月17日,PDF1頁~3頁
⑤警察庁「再被害防止要綱の改正について(通達)」令和6年3月28日,PDF1頁~4頁
⑥大阪府警察・阿倍野警察署「被害の届出に関するご案内」 https://www.police.pref.osaka.lg.jp/ochikakunokeisatsusho/keisatsushobetsujoho/20/2/16478.html
⑦警視庁「あなたのアカウント狙われています(不正アクセス)」 https://www.keishicho.metro.tokyo.lg.jp/kurashi/cyber/notes/husei_access.html
⑧大阪府公安委員会「苦情申出制度のご案内」 https://kouaniinkai.pref.osaka.lg.jp/4033.html
⑨警察庁「サイバー事案に関する相談窓口」 https://www.npa.go.jp/bureau/cyber/soudan.html