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不同意性交等罪(刑法177条)の国際比較――強制要件・不同意要件・積極的同意の三つのモデル(AI作成)

第1 この記事が扱う対象と比較の枠組み

1 対象と時点

本記事は,令和5年法律第66号による改正で新設された刑法177条(不同意性交等)及び176条(不同意わいせつ)の構成要件を,諸外国の性犯罪規定と対照して整理するものである。令和8年8月9日現在で入手できる各国の公式法令データベースの条文,日本の立法過程で公表された法務省の資料,及び裁判所ウェブサイト掲載の裁判例に基づいている。生成AIを用いて各国の条文原文と立法資料を通読し,条文の文言と施行日を原典と照合した上で構成した。

比較の対象は,日本の立法過程で法務省自身が条文の仮訳を作成して部会に提出した9法域(アメリカのミシガン州・ニューヨーク州・カリフォルニア州,イギリス,フランス,ドイツ,韓国,フィンランド,スウェーデン,カナダ)を出発点とし,その後に大きな改正があった北欧諸国,スペイン,ベルギー,オーストラリアの各州,台湾,中国,並びに国際条約及び国際刑事裁判所の犯罪構成要件へ広げた。各国の運用実態や有罪率の統計は本記事の対象外であり,条文上の構成要件がどう組み立てられているかに絞っている。なお,各国の司法制度そのものの構造については,別途諸外国(米英独仏豪加)の司法制度で扱っている。

2 三つの構成要件モデル

性犯罪の構成要件は,条文が何を犯罪成立の中核に据えるかによって,おおむね三つに分けて整理することができる。第1は,暴行・脅迫という行為者側の強制手段を要件とする強制要件型である。第2は,強制手段を要件とせず,被害者が同意していなかったこと自体を中核要件とする不同意要件型である。第3は,同意がなかったことにとどまらず,同意を積極的に表明する言動があったか,あるいは行為者が同意を確認する行動をとったかを問題とする積極的同意型である。

この三分法は本記事の説明のための整理であって,各国の条文が常にいずれか一つに純粋に当てはまるわけではない。後述するように,オーストリアは強制要件型と不同意要件型の規定を併存させており,ノルウェーは一つの条文の中に積極的同意型と強制要件型を段階的に配置している。フランスは強姦罪の基本条文に強制要件を残したまま,上位規定に同意の定義を置いた。日本の刑法177条も,このいずれにも単純には収まらない構造をとっている。

第2 日本の不同意性交等罪の構成要件

1 刑法177条の条文と八つの列挙事由

刑法177条1項は,176条1項各号に掲げる行為又は事由その他これらに類する行為又は事由により,「同意しない意思を形成し,表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて」,性交,肛門性交,口腔性交又は膣若しくは肛門に身体の一部(陰茎を除く)若しくは物を挿入する行為であってわいせつなものをした者を,婚姻関係の有無にかかわらず5年以上の有期拘禁刑に処すると定める。改正前の強制性交等罪が「暴行又は脅迫を用いて」と定め,準強制性交等罪が「心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ」と定めていたのに対し,現行法は暴行・脅迫を八つの類型のうちの一つに位置付け直した。

その八つの類型を定める176条1項各号は,①暴行若しくは脅迫を用いること又はそれらを受けたこと,②心身の障害を生じさせること又はそれがあること,③アルコール若しくは薬物を摂取させること又はそれらの影響があること,④睡眠その他の意識が明瞭でない状態にさせること又はその状態にあること,⑤同意しない意思を形成し,表明し又は全うするいとまがないこと,⑥予想と異なる事態に直面させて恐怖させ,若しくは驚愕させること又はその事態に直面して恐怖し,若しくは驚愕していること,⑦虐待に起因する心理的反応を生じさせること又はそれがあること,⑧経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させること又はそれを憂慮していること,である。法務省が公表した改正法の概要資料は,⑤の例として不意打ち,⑥の例としてフリーズ,⑧の例として祖父母と孫,上司と部下,教師と生徒といった立場ゆえの影響力を挙げている。

この条文構造で重要なのは,八つの事由のいずれかに該当すれば足りるという点と,各号の事由があることだけでは足りず,それによって「同意しない意思を形成し,表明し若しくは全うすることが困難な状態」が生じていることを要する点である。列挙事由は同意困難な状態を基礎付ける原因として位置付けられており,事由の存在と状態の発生とが二段構えで要求されている。

2 法定刑,年齢に関する規定及び関連条文

法定刑は,177条が5年以上の有期拘禁刑,176条が6月以上10年以下の拘禁刑である。法務省の概要資料が公表された令和5年当時はいずれも懲役と表記されていたが,令和4年法律第67号による刑の種類の見直しが令和7年6月1日に施行されたことに伴い,現行条文の表記は拘禁刑となっている。181条は,176条又は179条1項の罪及びその未遂罪により人を死傷させた場合を無期又は3年以上の拘禁刑,177条又は179条2項の罪及びその未遂罪の場合を無期又は6年以上の拘禁刑と定める。なお,177条の5年以上という下限は令和5年改正で新たに定められたものではない。強姦罪の法定刑の下限が強盗罪(236条)の5年以上を下回る状態を解消すべきであるとの議論を経て,平成29年法律第72号が3年以上から引き上げたものであり,令和5年改正はこの水準をそのまま引き継いでいる。この下限が定まるまでの立法過程と,改正後の量刑の実際の分布については,別途不同意性交等罪の法定刑はなぜ「5年以上」なのかで扱っている。

年齢に関する規定は,177条3項が16歳未満の者に対する性交等を処罰の対象とし,被害者が13歳以上である場合については行為者が「その者が生まれた日より五年以上前の日に生まれた者」であることを要件とする。同年代の者どうしの行為を一律に処罰対象としないための年齢差要件であり,後述するフランスやオーストラリアのタスマニア州にも類似の構造がある。このほか,179条が18歳未満の者に対する監護者わいせつ及び監護者性交等を,182条が16歳未満の者に対する面会要求等を定めており,178条は改正により削除されている。なお,性犯罪の被害者が刑事手続においてどのような権利を有するかについては,別途刑事手続及び少年審判における被害者の権利で扱っている。

第3 立法過程で参照された諸外国法と,採用されなかった選択肢

1 法務省が示した九法域の条文仮訳

日本の性犯罪規定の見直しは,平成29年法律第72号の附則9条を受けて設置された性犯罪に関する刑事法検討会(令和2年6月から令和3年5月まで16回開催)と,これを受けた法制審議会刑事法(性犯罪関係)部会(令和3年10月から令和5年2月まで14回開催)で検討された。検討会の第1回会議の配布資料8は「諸外国の性犯罪関連規定(仮訳)」と題する115頁の資料であり,アメリカのミシガン州・ニューヨーク州・カリフォルニア州,イギリス,フランス,ドイツ,韓国,フィンランド,スウェーデン,カナダの条文が令和2年3月又は同年5月時点の内容で訳出されている。

この資料の存在は,日本の不同意性交等罪が比較法的な検討を経ずに設計されたものではないことを示している。もっとも,仮訳の基準時は令和2年であり,後述するフィンランドの令和5年(2023年)改正,フランスの令和7年(2025年)改正など,その後に生じた各国の変動は当然ながら反映されていない。同資料に収録された韓国刑法297条の仮訳は「暴行又は脅迫により,人を強姦した者は,3年以上の有期懲役に処する」であり,当時の韓国が強制要件型を維持していたことが確認できる。

2 「Yes means Yes」型をめぐる議論

検討会の取りまとめ報告書(令和3年5月)は,性的行為に対する同意に関する議論として,「相手方から明確な同意を得ていない性交は処罰されるべきであり,いわゆる『Yes means Yes』型,すなわち,自発的に参加していない人に対して行う性行為はすべて処罰すべき」との意見が述べられたことを記録している。同報告書は「暴行・脅迫や心神喪失・抗拒不能の要件の在り方」の項を設け,「強制性交等罪の暴行・脅迫の要件,準強制性交等罪の心神喪失・抗拒不能の要件を撤廃し,被害者が性交等に同意していないことを構成要件とすべきか」を正面から検討課題として掲げている。

これに対して報告書が記録する慎重論は,主として二つの方向のものである。第1は,「現在の日本においては,性的行為に同意しているか否かを言語や行為により明示的に示す文化が定着しているとは言い難く」,「そもそも,我が国では『性的同意』という概念が浸透しておらず,社会的に何を性的行為の同意と見るかが曖昧で」あるという,社会的前提に関わる指摘である。第2は,「被害者の不同意やこれに対する被告人の認識の立証には,暴行・脅迫や薬物等の使用が重要な意味を持つところ,不同意のみを要件とすると立証の対象を特定しにくい」という,立証構造に関わる指摘である。報告書はまた,「不同意の徴表である暴行・脅迫や抗拒不能の要件を明確化する」という方向や,「被害者の不同意の徴表たる行為態様や状態を列挙」して処罰の間隙を埋めるという方向の意見も記録している。

3 採用された構成要件の性格

以上の議論の帰結として採用されたのが,第2で見た八つの列挙事由と「同意しない意思を形成し,表明し若しくは全うすることが困難な状態」との組合せである。単純に不同意のみを要件とする条文にはせず,同時に暴行・脅迫を必須の要件として残すこともしなかった点で,本記事の三分法にいう強制要件型と不同意要件型のいずれとも異なる。列挙事由が「不同意の徴表」として機能し,その徴表の存在によって同意困難な状態を認定するという構造は,報告書が記録した「列挙」という方向の議論を条文化したものと整理できる。

もっとも,条文が同意の定義規定を置いていない点は,後述する諸外国との顕著な違いである。イギリス,カナダ,オーストラリアのニューサウスウェールズ州及びタスマニア州,フランス,ベルギーは,いずれも「同意」の意味を定める規定を条文中に置いている。日本の刑法は同意そのものを定義せず,同意しない意思を形成・表明・全うすることが困難な状態という形で,同意の欠如を状態の側から捉える表現を採っている。

第4 不同意を独立の要件とする国

1 ドイツ

ドイツ刑法(StGB)177条1項は,「他人の認識可能な意思に反して(gegen den erkennbaren Willen einer anderen Person)当該人に対し性的行為を行い若しくは行わせ,又は当該人を第三者に対し若しくは第三者から性的行為を行い若しくは受忍させるよう仕向けた者は,6月以上5年以下の自由刑に処する」と定める。暴行・脅迫は基本類型の要件ではなく,同条5項が暴行の行使,生命身体への現在の危険の告知,被害者が無防備な状態にあることの利用を1年以上の自由刑という加重事由として位置付けている。同条2項は,被害者が意思を形成・表明できない状態の利用,身体的・精神的状態により意思の形成・表明が著しく制限されていることの利用,不意打ちの利用など五つの類型を基本類型と同じ法定刑で処罰する。

この構造は,平成28年(2016年)11月10日に施行された性的自己決定権の保護改善のための第50次刑法改正法によるものであり,「Nein heißt Nein」(ノーはノーを意味する)改正と通称されている。ドイツ刑法177条の見出しが「性的加害・性的強要・強姦(Sexueller Übergriff; sexuelle Nötigung; Vergewaltigung)」と三つの罪名を併記しているのは,同条6項が性交等を伴う場合を「特に重い場合」として2年以上の自由刑とし,これを強姦と括弧書きで示す構造をとっているためである。ドイツの司法制度の全体像については,別途ドイツ連邦共和国の司法制度で扱っている。

2 イギリス(イングランド及びウェールズ)

イングランド及びウェールズの2003年性犯罪法(Sexual Offences Act 2003)1条は,強姦(rape)の成立要件を,①故意に他人の膣,肛門又は口腔に陰茎を挿入したこと,②相手方が挿入に同意していないこと,③行為者が相手方の同意を合理的に信じていないこと,の三つと定める。同条2項は,信念が合理的であるか否かは,行為者が相手方の同意の有無を確かめるためにとった措置を含む一切の事情に照らして判断されると定めており,主観的要件が客観的な基準によって枠付けられている。法定刑は終身刑である。

同法74条は同意を定義し,「人は,選択によって合意し,かつ,その選択をする自由と能力を有する場合に,同意する」と規定する。同意の有無を,単なる内心の状態ではなく,自由と能力に裏付けられた選択として捉える定式であり,後述するイスタンブール条約の定式と発想を共有している。イギリスの裁判制度については,別途イギリス連合王国(イングランド及びウェールズ)の司法制度で扱っている。

3 カナダ及びオーストラリア

カナダ刑法(Criminal Code)273.1条は,同意を「当該性的行為に従事することへの任意の合意」と定義した上で,同意は行為の時点で存在しなければならないこと,被害者が意識を失っている場合には同意がないことなどを定めている。意識喪失に関する規定は2018年の改正で追加されたものである。性的加害(sexual assault)の法定刑は,271条により,正式起訴による場合で上限10年(被害者が16歳未満の場合は上限14年かつ下限1年)である。

オーストラリアは州ごとに刑事法が異なる。ニューサウスウェールズ州の1900年犯罪法は,2021年の性的同意改革法(2022年6月1日施行)により,同意を「自由かつ任意の合意」と定義する61HI条のほか,同意を伝達する言動を一切していないこと自体を非同意事由とする61HJ条,行為者が事前又は行為時に相手方の同意を確認するための言動を一切行わなかった場合には同意についての合理的な信念があったとはいえないとする61HK条を置いた。同意の有無を,被害者の内心ではなく当事者間の意思疎通の過程で捉えるという意味で,コミュニケーティブモデルと呼ばれる立法である。タスマニア州は,1924年刑法典2A条が1987年の時点で既に同意を「自由な合意(free agreement)」と定義しており,同州185条の強姦罪は暴行・脅迫を要件とせず「相手方の同意なく性交をした者」と定めている。カナダの司法制度については,別途カナダの司法制度で扱っている。

第5 積極的同意を要件とする国

1 北欧諸国とベルギー

北欧諸国は2010年代後半以降,相次いで積極的同意を軸とする改正を行った。スウェーデンは2018年7月1日施行の改正(通称samtyckeslagen)で犯罪法典(Brottsbalken)6章を改め,同章1条2項に「参加が自発的か否かの判断に当たっては,特に,自発性が言葉・行動その他の方法によって表明されたか否かを考慮しなければならない」という規定を置いた。スウェーデン法が用いる操作概念は「同意(samtycke)」ではなく「自発性(frivillighet)」であり,通称と条文上の文言が一致していない点に注意を要する。アイスランドは2018年4月,デンマークは2021年1月,フィンランドは2023年1月に,それぞれ同意の欠如を中核とする規定へ改めた。

ベルギーは2022年3月21日法律により刑法典の性犯罪に関する編を全面改正し,同年6月1日から施行した。同法417/5条は同意が自由意思に基づいて与えられたことを前提とすること,及び同意が性的行為の前又は最中のいかなる時点でも撤回できることを定め,沈黙のみからは同意を推認できないこと,意識不明・睡眠中の者については同意が存在しないとみなされることを明記している。417/11条は強姦を「同意しない者に対し又は当該者を用いて行われる,いかなる態様・手段によるものであれ性的挿入を含む又はこれから成るあらゆる行為」と定義する。

2 ノルウェーの二段階構造

ノルウェーは北欧諸国の中で最も遅く,2025年6月20日法律第86号により刑法(straffeloven)291条を改正し,同年7月1日から施行した。改正後の同条1項は「言葉でも行動でも同意していない者と性的行為をした者は,6年以下の拘禁刑に処する」と定め,2項は「暴行又は脅迫的行動によって性的行為を得た者」「言葉又は行動により,それを望まない意思を表明している者と性的行為をした者」「行為に抵抗できない状態にある者と性的行為をした者」等を10年以下の拘禁刑と定める。

この二段階構造は,同意の不存在それ自体を処罰する類型と,従来の暴行・脅迫型を拡張した類型とを,異なる法定刑で併存させるものである。積極的同意型の類型のほうが法定刑の上限が低く設定されている点は,同意の欠如のみを理由とする処罰と,強制手段を伴う処罰との間に,違法性の程度の差を認める設計として理解することができる。同一の法典の中で二つのモデルを段階的に配置した例として,日本の八類型構造と対比する意味がある。

3 スペインで生じた量刑の逆転と再改正

スペインは2022年9月6日組織法10/2022(通称「solo sí es sí(イエスのみがイエス)」法)により,同年10月7日から施行される形で刑法を改正した。従来,暴行を伴う性犯罪(agresión sexual)と暴行を伴わない性犯罪(abuso sexual)を区別していたのを廃し,同意の欠如を要件とする単一の類型に統合したものである。同法の前文は,他人の同意なく性的自由を侵害するあらゆる行為を性的加害とする旨を述べている。

ところが,類型統合の結果として一部の行為類型について法定刑の下限が従来より下がることとなり,刑法上の有利な遡及適用の原則により,既に有罪が確定していた者について減刑や釈放が生じる事態となった。スペインはこれを是正するため,2023年4月27日組織法4/2023により,暴行・脅迫を伴う類型や意思無能力を利用した類型について別建ての量刑段階を新設する再改正を行い,同月29日から施行した。構成要件の統合が量刑体系の整合性に波及し,施行から半年余りで再改正に至った経緯は,構成要件の見直しが量刑の全体構造と切り離せないことを示す例である。日本の令和5年改正は,構成要件を全面的に組み替えながら177条の法定刑を5年以上の有期拘禁刑のまま維持しており,構成要件の見直しと量刑水準の見直しとを切り離した点で,スペインの経過と対照的である。

第6 強制要件を維持する国

1 韓国

韓国刑法297条は,前記のとおり「暴行又は脅迫により,人を強姦した者は,3年以上の有期懲役に処する」と定めており,暴行・脅迫を要件とする強制要件型である。2012年の改正で客体が「婦女」から性別を限定しない「人」に改められたが,構成要件の中核は変わっていない。同法297条の2(類似強姦),298条(強制わいせつ),299条(準強姦・準強制わいせつ)も同じ枠組みで構成されている。

2018年以降,同意の不存在を中核とする規定への改正を求める法案が繰り返し国会に提出されてきたが,本記事の調査で確認できた範囲では,これらはいずれも成立に至っていない。2023年には所管省庁の間で見直しの方針が示されたものの短期間で撤回され,2025年1月には5万人を超える賛同を集めた請願が国会の委員会に付託されたが,審議は進んでいない。日本と法制度の系譜を共有する韓国が,日本の令和5年改正から3年を経てなお強制要件型を維持していることは,同意モデルへの移行が地域を問わず一様に進む現象ではないことを示している。両国の司法制度全般の比較については,別途日本と韓国の司法制度の徹底比較で扱っている。

2 台湾及び中国

台湾刑法221条の強制性交罪は,「強暴,脅迫,恐嚇,催眠術又はその他の意願に反する方法」により性交した者を3年以上10年以下の有期徒刑に処すると定める。列挙された手段のほかに「その他の意願に反する方法」という包括的な文言を含んでいる点で,強制要件型でありながら実質的には不同意型に接近した構造となっている。1999年の改正で従前の「抗拒できない」という要件から「意願に反する」という要件へ緩和され,客体も男女双方に拡大された。

中国刑法236条の強姦罪は,「暴力,脅迫又はその他の手段により婦女を強姦した」場合を3年以上10年以下の有期懲役に処すると定める。強制要件型である点に加え,客体が「婦女」に限定されており,男性の被害者が同条の適用対象とされていない点は,本記事で扱った他の法域と異なる。2020年12月26日成立・2021年3月1日施行の刑法改正(修正案十一)では,14歳以上16歳未満の未成年女性に対し監護・養育・教育・医療等の特殊な職責を負う者による性的関係を処罰する236条の一が新設された。日本の監護者性交等罪と発想を共有する規定であるが,同条についても客体は女性に限られている。

第7 フランスの令和7年(2025年)改正

1 同意の定義規定の新設

フランスは,2025年11月6日法律第2025-1057号により刑法典222-22条を改め,同月8日から施行した。改正後の同条は,性的加害(agression sexuelle)を「他人に対し又は行為者自身に対し行われた,若しくは法定の場合には成年者が未成年者に対して行った,あらゆる非同意の性的行為」と定義した上で,同意について「自由かつ情報を与えられた上での,特定的・事前的・撤回可能なもの」であり,「諸事情に照らして判断される」ものであって,「被害者の沈黙又は無反応のみから推定することはできない」と定めた。フランス刑法典に同意の法定義が置かれたのはこれが初めてである。

同条はあわせて,暴行,強制,脅迫又は不意打ちが用いられた場合には,その性質のいかんを問わず同意が存在しないと定めている。すなわち,従来から強姦罪の要件とされてきた四つの手段は,同意の不存在を導く事由として位置付け直されたことになる。フランスの司法制度については,別途フランス共和国の司法制度で扱っている。

2 強姦罪の基本条文が維持された意味

注意を要するのは,強姦罪(viol)を定める刑法典222-23条自体は,「暴行,強制,脅迫又は不意打ちにより(par violence, contrainte, menace ou surprise)」他人に対し又は行為者自身に対し行われた性的挿入等を強姦とする,という従来の文言を維持している点である。同意の定義は上位規定である222-22条に置かれ,強姦罪の構成要件そのものが不同意型に書き換えられたわけではない。

このため,フランスの改正は,本記事の三分法にいう積極的同意型への全面的な移行ではなく,強制要件型の枠組みを保持したまま,その解釈基準として同意の定義を明文化したものと整理するのが正確である。日本の令和5年改正が,暴行・脅迫を八つの列挙事由の一つに位置付け直しつつ,同意の定義規定を置かなかったのと比べると,両者はいずれも強制要件型と不同意要件型の中間に位置しながら,条文技術としては異なる方向を選んでいる。なお,未成年者に関しては,2021年4月21日法律第2021-478号により,成年者が15歳未満の未成年者に対して行った性的挿入等を,年齢差が5歳以上ある場合に強姦とみなす222-23-1条が置かれている。

第8 国際的な基準の二系統

1 イスタンブール条約36条2項

欧州評議会の女性に対する暴力及びドメスティック・バイオレンスの防止及び対策に関する条約(CETS No.210。イスタンブール条約)36条1項は,締約国に対し,非同意の膣・肛門・口腔への性的な挿入行為,その他の非同意の性的行為,及び他人をして第三者との非同意の性的行為に及ばせる行為を犯罪化する立法措置を求めている。同条2項は「同意は,周囲の状況に照らして評価される当該人の自由な意思の結果として,任意に与えられなければならない」と定め,3項は1項の規定が現在又は過去の配偶者・パートナーに対する行為にも適用されるべきことを求めている。

この定式は,本記事で見たイギリス2003年性犯罪法74条の「自由と能力を有する選択」やベルギー刑法417/5条の「自由意思」と発想を共有しており,2010年代後半以降のヨーロッパ各国の改正が同条約の履行として説明されることが多い。オーストリアが2016年に不同意型の205a条を新設したのも同条約の批准に伴う国内法整備であるとされる。日本は欧州評議会の加盟国ではなく,1996年11月以降オブザーバー国の地位にあるため,同条約を名宛人とする立場にない。

2 国際刑事裁判所の犯罪構成要件

これに対し,国際刑事裁判所(ICC)の犯罪構成要件(Elements of Crimes)は,異なる構造をとっている。人道に対する罪としての強姦(ローマ規程7条1項(g)-1)及び戦争犯罪としての強姦(同8条2項(b)(xxii)-1)の構成要件は,いずれも侵入行為が「暴力によって,又は暴力若しくは強制の脅威によって……若しくは強制的な環境を利用して行われたこと,又は真正な同意を与える能力を欠く者に対して行われたこと」を要素としている。中核に置かれているのは強制及び強制的環境であって,同意の欠如それ自体は独立の要素として明文化されていない。

もっとも,この二系統は截然と対立するものではない。旧ユーゴスラビア国際刑事裁判所のKunarac事件第一審判決(2001年2月22日)は,強姦の定義について「被害者の同意なくそのような性的侵入が行われた場合」とし,「この目的における同意は,周囲の状況に照らして評価される被害者の自由な意思の結果として,任意に与えられた同意でなければならない」と判示しており,イスタンブール条約36条2項とほぼ同一の構文をとっている。同事件の上訴審判決(2002年6月12日)は,実力の行使は同意の不存在を示す証拠であって構成要件そのものではないと述べた上で,拘束下という強制的な状況が真の同意を不可能にしたと認定して上訴を棄却した。強制的環境を重視する構成と同意の欠如を中核とする構成とは,強制的状況が同意の不存在を推認させるという関係で接続していると理解する余地がある。

第9 改正後の日本の裁判例

1 16歳未満の者に対する規定と憲法

東京高等裁判所令和6年10月15日判決(令和6年(う)第1138号,高等裁判所判例集76巻1号1頁)は,不同意性交等被告事件において,「刑法177条3項,1項は,憲法13条,14条1項に違反しない」と判示して控訴を棄却した。177条3項は,16歳未満の者に対する性交等を,被害者が13歳以上である場合には行為者が5歳以上年長であることを要件として処罰する規定であり,この年齢差による区別の合憲性が争われたものである。改正により新設された条文の憲法適合性が正面から判断された初期の裁判例である。

2 口腔性交等を加重処罰することと平等原則

東京高等裁判所令和7年10月16日判決(令和7年(う)第1040号,高等裁判所判例集77巻2号23頁)は,「口腔性交等につき,不同意わいせつ罪の場合と区別し,不同意性交等罪として加重処罰することとされた刑法177条の規定は,憲法14条に違反しない」と判示した。前記のとおり177条の法定刑は5年以上の有期拘禁刑であり,176条の6月以上10年以下の拘禁刑と比べて大幅に重い。口腔性交をこの重い類型に含めることの合理性が争われたものである。

これらの判断の前提として,改正前の176条に関する最高裁判所大法廷平成29年11月29日判決(平成28年(あ)第1731号,刑集71巻9号467頁)が,「刑法(平成29年法律第72号による改正前のもの)176条にいう『わいせつな行為』に当たるか否かの判断を行うための個別具体的な事情の一つとして,行為者の目的等の主観的事情を判断要素として考慮すべき場合はあり得るが,行為者の性的意図は強制わいせつ罪の成立要件ではない」と判示していることも参照する必要がある。同判決は改正前の条文を対象とするものであるが,わいせつな行為の該当性判断において行為者の主観に依存しない立場を示した点で,現行法の解釈にも影響し得る。

前記2件の東京高等裁判所判決は,いずれも令和5年改正で設けられた規定の合憲性が正面から争われたものである。弁護人の主張の内容,判決が改正の根拠として引用した立法事実及び原判決の科刑を含む経過については,別途不同意性交等罪の法定刑はなぜ「5年以上」なのかで扱っている。

第10 比較から見た日本法の位置付け

本記事で確認した限りでは,日本の刑法177条は,暴行・脅迫を要件から外した点で強制要件型を脱している一方,同意の定義規定を置かず,同意の欠如を八つの列挙事由に裏付けられた「困難な状態」として捉えている点で,不同意要件型とも積極的同意型とも異なる。ドイツが「認識可能な意思に反すること」という一般的な文言を採り,イギリス・カナダ・オーストラリア・ベルギーが同意の定義規定を置いたのに対し,日本は同意という概念を条文上定義せずに済ませる構造を選んだことになる。これは,検討会の取りまとめ報告書が記録した「性的同意という概念が浸透していない」という認識と,立証対象を特定できる形にすべきだという要請の双方に対応した選択であったと整理することができる。

こうした構造には,条文の適用範囲が列挙事由の解釈にかかってくるという特徴がある。八つの事由には「その他これらに類する行為又は事由」という受け皿が付されているため,列挙が限定列挙として働くわけではないが,同時に,どの範囲までが「これらに類する」ものかは条文自体からは定まらない。とりわけ,⑧の経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力の類型は,日本法が独自に条文化した部分であり,オーストリア刑法205a条の困窮状態の利用やドイツ刑法177条2項4号の抵抗すれば重大な害悪を被る状況の利用と比べても,適用範囲の輪郭は今後の裁判例の集積を待つ部分が大きい。

他方,各国の動向を時系列で見ると,同意モデルへの移行は一様な世界的収斂ではないことも確かである。ヨーロッパでは2016年のドイツ・オーストリアから2025年のノルウェー・フランスまで改正が続いているが,韓国では同種の法案が繰り返し成立に至らず,中国は客体を女性に限定する規定を維持している。アメリカでも,法律家団体である米国法律協会が2021年に模範刑法典の性犯罪規定を約50年ぶりに改訂した際,積極的同意モデルの全面採用は採られなかった。日本の令和5年改正を評価する際に,「国際標準に合わせた」という説明も「国際標準から遅れている」という説明も,いずれも比較対象の選び方によって結論が変わり得ることに留意する必要がある。

出典・参考資料

1 法令・条約

①刑法(明治40年法律第45号)176条・177条・179条・181条・182条(e-Gov法令検索

②刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律(令和5年法律第66号)

③ドイツ刑法(Strafgesetzbuch)177条(gesetze-im-internet.de

④イギリス2003年性犯罪法(Sexual Offences Act 2003)1条74条

⑤フランス刑法典(Code pénal)222-22条(2025年11月8日施行版。2025年11月6日法律第2025-1057号による改正。Légifrance

⑥ノルウェー刑法(straffeloven)291条(2025年6月20日法律第86号による改正,2025年7月1日施行。Lovdata

⑦カナダ刑法(Criminal Code)273.1条(Justice Laws Website

⑧オーストラリア・ニューサウスウェールズ州1900年犯罪法(Crimes Act 1900)61HI条・61HJ条・61HK条(NSW Legislation

⑨女性に対する暴力及びドメスティック・バイオレンスの防止及び対策に関する欧州評議会条約(CETS No.210)36条(Council of Europe

2 裁判例

①最高裁判所大法廷平成29年11月29日判決(平成28年(あ)第1731号,刑集71巻9号467頁。裁判所ウェブサイト

②東京高等裁判所令和6年10月15日判決(令和6年(う)第1138号,高等裁判所判例集76巻1号1頁。裁判所ウェブサイト

③東京高等裁判所令和7年10月16日判決(令和7年(う)第1040号,高等裁判所判例集77巻2号23頁。裁判所ウェブサイト

④旧ユーゴスラビア国際刑事裁判所Kunarac事件第一審判決(IT-96-23-T及びIT-96-23/1-T,2001年2月22日)及び上訴審判決(IT-96-23及びIT-96-23/1-A,2002年6月12日)

3 公文書・立法資料

①法務省「性犯罪に関する刑事法検討会」第1回会議配布資料8「諸外国の性犯罪関連規定(仮訳)」(令和2年6月4日。基準時は令和2年3月及び同年5月)

②法務省「『性犯罪に関する刑事法検討会』取りまとめ報告書」(令和3年5月)

③法務省「刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律」(改正の概要資料)

④法制審議会刑事法(性犯罪関係)部会(法務省

⑤国際刑事裁判所「犯罪の構成要件(Elements of Crimes)」7条1項(g)-1,8条2項(b)(xxii)-1

⑥女子差別撤廃委員会一般勧告第35号(CEDAW/C/GC/35,2017年7月14日)33項

4 ウェブ資料

①外務省「欧州の主要枠組み」(欧州評議会に関する記載)