目次第1 未決勾留日数算入の基本1 裁定算入と法定通算を区別する2 上訴申立後の日数が全部通算される場合第2 控訴棄却の場合1 「60日控除」ではなく,算入日数を確認する2 第二東京弁護士会の2020年資料3 2024年の裁判所公表例4 実務上の結論第3 原判決破棄の場合1 被告人側の控訴で原判決が破棄された場合2 差戻しの場合3 検察官控訴の場合第4 弁護側の確認事項1 日数表を作る2 判決主文と根拠条文を照合する3 審理経過を記録する4 他の刑の執行との重複を除く第5 根拠資料及び注意
第1 未決勾留日数算入の基本
1 裁定算入と法定通算を区別する
刑法21条は,未決勾留日数の全部又は一部を本刑に算入することが「できる」と定めている。これは,裁判所が判決で算入日数を定める裁定算入である。
刑事訴訟法495条は,これとは別に,一定の日数を当然に本刑へ通算する法定通算を定めている。同条1項によれば,上訴提起期間中の未決勾留日数は,上訴申立後の日数を除いて全部通算される。
2 上訴申立後の日数が全部通算される場合
刑事訴訟法495条2項によれば,上訴申立後の未決勾留日数が全部通算されるのは,①検察官が上訴を申し立てた場合,または②検察官以外の者が上訴を申し立て,その上訴審で原判決が破棄された場合である。
したがって,被告人だけが控訴し,控訴棄却となった場合は,同項による全部通算ではなく,刑法21条による裁定算入が問題となる。
第2 控訴棄却の場合
1 「60日控除」ではなく,算入日数を確認する
「60日控除」という言い方は,60日を本刑に算入するという意味なのか,控訴審の未決勾留の全期間から60日を差し引いた残りを算入するという意味なのかが曖昧である。
少なくとも,法令は「全期間から60日を控除する」という計算式を定めていない。判決主文も,通常は「当審における未決勾留日数中○日を原判決の刑に算入する」と,実際に算入する日数を示す。
2 第二東京弁護士会の2020年資料
第二東京弁護士会「上訴審弁護について」は,被告人控訴の棄却事案では60日前後,具体的には50日から70日程度が算入されることが多い旨を紹介している。
ただし,これは2020年時点の弁護士会広報誌に掲載された実務上の説明であって,法令上の基準でも,一律に適用される計算式でもない。
3 2024年の裁判所公表例
福岡高裁令和6年3月6日判決は,被告人の量刑不当の控訴を棄却し,当審における未決勾留日数中110日を原判決の刑に算入した。
札幌高裁令和6年7月16日判決は,訴訟手続の法令違反及び事実誤認を理由とする控訴を棄却し,当審における未決勾留日数中60日を原判決の刑に算入した。
いずれも裁判所ウェブサイトで公表された判決であるが,算入日数を60日または110日とした個別の理由までは判決文に記載されていない。また,裁判所ウェブサイトに掲載される裁判例は全件ではない。この2例からも,60日が固定された上限または標準日数ではないことが分かる一方,算入日数を予測する一般式までは導けない。
4 実務上の結論
被告人控訴の棄却事案については,「控訴申立てから判決前日までの全日数-60日」と機械的に計算すべきではない。まず,判決主文に記載された算入日数を確認し,法定通算となる日数と裁定算入の日数を分けて把握する必要がある。
第3 原判決破棄の場合
1 被告人側の控訴で原判決が破棄された場合
検察官以外の者が控訴を申し立て,控訴審で原判決が破棄された場合,上訴申立後の未決勾留日数は刑事訴訟法495条2項2号により全部通算される。破棄自判の場合だけでなく,条文上は「原判決が破棄されたとき」が要件である。
2 差戻しの場合
同条4項は,上訴裁判所が原判決を破棄した後の未決勾留について,上訴中の未決勾留日数に準じて通算すると定める。差戻し後も身柄拘束が続く場合は,この規定に加え,保釈及び勾留取消しの要否も別に検討する。
3 検察官控訴の場合
検察官が控訴を申し立てた場合は,結果が控訴棄却であるか原判決破棄であるかにかかわらず,上訴申立後の未決勾留日数が同条2項1号により全部通算される。
第4 弁護側の確認事項
1 日数表を作る