この記事は,AIを用いて作成し,2026年7月時点の法令・裁判例に基づいて内容を確認したものです。
民事訴訟で提出する陳述書や,法廷での証言,準備書面の記載が,相手方や第三者の社会的評価を低下させることがあります。こうした訴訟活動の中でされた表現が名誉毀損・侮辱として不法行為(民法709条)や国家賠償の対象になるのかを,裁判例に即して整理します。結論を先に述べると,訴訟の中での供述や陳述書は原則として違法性が阻却され,一定の要件を満たす場合に限って違法と評価されます。あわせて,名誉感情の侵害(侮辱)が違法となる基準,検察官の論告の違法性についても取り上げます。
第1 陳述書と名誉毀損──原則として不法行為にならない理由
相手方に不利な事実を陳述書に書けば,相手方の社会的評価が下がることは珍しくありません。しかし,そのことだけで陳述書の作成者が名誉毀損の責任を負うわけではありません。裁判例は,訴訟の中でされた供述には原則として違法性阻却を認め,例外的な場合に限って不法行為の成立を認めています。
1 訴訟での証言・陳述書が違法にならない仕組み
裁判所は,争いのある事実について,当事者が提出する証拠を取り調べ,その結果に基づいて事実を認定します。証人は,特別の定めがある場合を除き,宣誓のうえ,尋問された事項について真実を述べる義務を負います(民事訴訟法201条1項)。そのため,証人の証言は,要証事実と関連し,答える必要がある限り,結果として他人の名誉を毀損し,または侮辱することになったとしても,それが真実と認められる場合には違法性が阻却され,不法行為に当たらないと解されています。
書証として提出される陳述書も,作成者が証人として証言するときにこれを補い,または証言に代わる機能を持ちます。その意味で証言に類似するものといえるため,陳述書の内容が要証事実に関連性を有し,これを明らかにする必要がある限り,他人の名誉を毀損し,または侮辱することになっても,真実と認められる場合には,証言と同様に違法性が阻却されるとされています。別訴で書証として提出することを予定して作成・交付された陳述書について,相手方の社会的評価を低下させても真実の記載であるとして違法性阻却を認め,不法行為の成立を否定した裁判例があります(東京地裁平成13年4月25日判決・判例タイムズ1076号281頁。裁判所ウェブサイト未掲載)。
2 陳述書の作成が違法と評価されるための要件
もっとも,第三者が一方当事者の求めに応じて陳述書を作成する場合であっても,虚偽の内容の陳述書を作成して真実発見を妨げることは許されません。他方で,結果として裁判所が認定した事実と異なる事実や,誇張された表現が陳述書に記載されていたというだけで事後的に違法と評価されるとすれば,陳述書の作成が萎縮し,当事者の立証活動を妨げ,かえって真実の発見を困難にしかねません。
そこで裁判例は,陳述書の作成が相手方当事者との関係で違法と評価されるためには,記載内容が客観的な裏付けを欠くというだけでは足りず,少なくとも,①陳述書に記載された事実が虚偽であること,または②判断等の根拠とされた資料に看過できない誤りがあり,作成者がその誤りを知り,もしくは当然に知り得たことを要するとしています(東京地裁平成27年10月30日判決・判例時報2298号58頁。裁判所ウェブサイト未掲載)。この事案は,記載内容の一部が虚偽である陳述書の作成・提出に関与した訴訟代理人である弁護士の不法行為責任を否定したものです。
3 違法性の有無を分ける考慮要素
陳述書に限らず,準備書面,証人尋問,告訴,鑑定書など,訴訟活動の中でされた表現が名誉毀損に当たるかどうかは,個別の事情を総合して判断されます。裁判例や学説では,おおむね,その表現の目的,訴訟上の必要性,要証事実との関連性,表現方法の相当性,他の手段による代替可能性といった要素と,相手方が受ける不利益とを比較して,違法性の有無を検討する枠組みがとられています。
より一般的な名誉毀損の枠組みでは,事実を摘示する類型については,公共の利害に関する事実に係り,専ら公益を図る目的で,摘示した事実の重要な部分が真実であること(または真実と信じるにつき相当の理由があること)が認められれば,違法性が阻却されます。意見や論評の類型については,その前提としている事実が重要な部分において真実であり,人身攻撃に及ぶなど意見・論評としての域を逸脱していないことが問われます。訴訟活動の中での表現についても,こうした枠組みを踏まえつつ,訴訟制度が真実発見のために自由な陳述の機会を保障している点が考慮されます。
第2 侮辱・名誉感情の侵害と違法性
名誉毀損とは別に,相手を侮辱する表現が問題になることがあります。ここでの「侮辱」は,社会的評価の低下ではなく,本人の名誉感情(プライド)の侵害を指します。名誉毀損とは保護される利益が異なるため,違法となる場面も限定されています。
1 名誉毀損と名誉感情侵害の違い
最高裁は,民法723条にいう「名誉」とは,人がその品性,徳行,名声,信用等の人格的価値について社会から受ける客観的な評価,すなわち社会的名誉を指すものであって,人が自己自身の人格的価値について有する主観的な評価,すなわち名誉感情は含まないと解しています(最高裁昭和45年12月18日判決・民集24巻13号2151頁)。
この区別を前提にすると,民事上の「侮辱」は,刑事の侮辱罪と異なり,保護法益が個人の名誉感情である,と整理できます(弁護士神田知宏公式サイト「名誉感情侵害(侮辱)」)。社会的評価を低下させる具体的事実の摘示があれば名誉毀損の問題となり,そうした事実の摘示を伴わずに相手のプライドを傷つける表現は,名誉感情侵害の問題となります。
2 名誉感情侵害が違法となる基準
名誉感情の侵害は,それが社会通念上許される限度を超える侮辱行為であると認められる場合に初めて,法律上保護されるべき人格的利益の侵害として違法となり得ます。最高裁は,インターネットの電子掲示板に書き込まれた「気違い」という表現について,具体的事実を摘示して社会的評価を低下させるものではなく,名誉感情を侵害するにとどまるとし,その文言だけから社会通念上許される限度を超える侮辱行為であることが一見明白とはいえないと判断しました(最高裁平成22年4月13日判決・民集64巻3号758頁。発信者情報開示に応じなかったプロバイダに重大な過失はないとされた事案)。
どの程度の表現であれば「社会通念上許される限度を超える」といえるかについては,単にプライドが傷つけば足りるのではなく,いわゆる放送禁止用語に匹敵する強い侮蔑表現が求められるとの指摘があります(『インターネット削除請求・発信者情報開示請求の実務と書式』62頁)。
他方で,侮辱的な書き込みについて損害賠償が認められた例も報道されています。次の投稿は,重度障害者の男性に対するネット掲示板への書き込みについて,前橋地方裁判所が投稿者に約96万円の支払を命じたと報じるものです。
「殺処分でいいやん」とネット掲示板に書き込まれた重度障害者の男性が起こした裁判で、約96万円の支払いを投稿者に命じる判決が言い渡されました。https://t.co/RQdu0XkZTR
12月8日、前橋地裁の判決は「極めて不当な表現方法で男性の人格を否定した誹謗中傷」だと指摘しました。— 弁護士ドットコムニュース (@bengo4topics) December 8, 2023
3 侮辱罪の法定刑(令和4年改正)
民事上の侮辱(名誉感情侵害)とは別に,刑事の侮辱罪(刑法231条)があります。侮辱罪の法定刑は,かつては拘留または科料に限られていましたが,インターネット上の誹謗中傷への対応を背景に,令和4年の刑法改正(刑法等の一部を改正する法律・令和4年法律第67号,令和4年6月17日公布,同年7月7日施行)で引き上げられました。改正当時は「1年以下の懲役若しくは禁錮若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料」となり,公訴時効も1年から3年に伸長され,教唆犯・幇助犯の処罰も可能になりました。その後,令和7年6月1日施行の拘禁刑への一本化により,現在の法定刑は「1年以下の拘禁刑若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料」です。
この引き上げに至る立法過程として,法制審議会刑事法(侮辱罪の法定刑関係)部会(令和3年9月22日第1回会議)や,法学セミナー2021年12月号「侮辱罪の立法過程から見た罪質と役割──侮辱罪の法定刑引き上げをめぐって」があります。
第3 検察官の論告と国家賠償
検察官は,証拠調べが終わった後に,事実および法律の適用についての意見を陳述します(論告)。論告は,裁判所の適正な認定判断および刑の量定に資することを目的として検察官に与えられた訴訟上の権利であり,その目的を達成するためには,必要な範囲で自由に陳述する機会が保障されなければなりません。
最高裁は,検察官が論告において第三者の名誉または信用を害する陳述に及んだとしても,その陳述が,専ら誹謗を目的としたり,事件と全く関係がなかったり,明らかに自己の主観や単なる見込みに基づくにすぎないなど,論告の目的・範囲を著しく逸脱するとき,または陳述の方法が甚だしく不当であるときなど,訴訟上の権利の濫用に当たる特段の事情のない限り,正当な職務行為として国家賠償法1条1項の違法性が阻却されると判断しました(最高裁昭和60年5月17日判決・民集39巻4号919頁)。証人や当事者の陳述書と同様に,訴訟制度の中で真実発見のために自由な陳述の機会を保障する必要があることが,その根拠にあります。
第4 参考──関連する論点と記事
1 尊属傷害致死をめぐる裁判官の意見
訴訟に関わる者の表現という観点では,裁判官の意見の中に激しい言い回しが見られることもあります。尊属傷害致死罪は憲法14条1項に違反しないとした最高裁大法廷昭和25年10月11日判決・刑集4巻10号2037頁で,斎藤悠輔判事の意見(リンク先PDF15頁ないし22頁)は,穂積重遠判事の少数意見について「要するに民主主義の美名の下にその実得手勝手な我儘を基底として国辱的な曲学阿世の論を展開するもので読むに堪えない」などと評しています。
なお,尊属傷害致死を定めていた刑法205条2項は,その後も判例変更によって効力を失ったわけではありません。尊属殺(旧刑法200条)を違憲とした最高裁大法廷昭和48年4月4日判決(刑集27巻3号265頁)が変更したのは,尊属殺を合憲とした従来の判例です。尊属傷害致死については,同判決の後の最高裁昭和49年9月26日判決(刑集28巻6号329頁)が,昭和25年10月11日大法廷判決の結論を今日でも変更する必要はないとして合憲との判断を維持しました。刑法205条2項は,判例変更ではなく,平成7年の刑法改正(刑法の口語化を行った平成7年法律第91号)によって,他の尊属加重規定とともに削除されました。
2 相手方の陳述に基づく訴えの変更
陳述書などで相手方が陳述した事実は,訴訟の中で活用される場面があります。相手方が提出した防御方法を認めたうえで,その相手方の主張事実に立脚して新たに請求をする場合,すなわち相手方の陳述した事実をもって新請求の原因とする場合には,たとえそれが請求の基礎を変更する訴えの変更であっても,相手方は,訴えの変更が許されないと主張することはできず,相手方が現実に同意したかどうかにかかわらず,その訴えの変更は許されます(最高裁昭和39年7月10日判決・民集18巻6号1093頁。先例として大審院昭和9年3月13日判決)。
3 関連記事
陳述書の作成方法や,証言・尋問との関係については,以下の記事も参照してください。
出典
法令
- 民法709条・723条,民事訴訟法201条,刑法205条・231条,国家賠償法1条(いずれもe-Gov法令検索により現行条文を確認)
- 刑法等の一部を改正する法律(令和4年法律第67号。侮辱罪の法定刑引上げ)
- 刑法の一部を改正する法律(平成7年法律第91号。尊属加重規定の削除)
裁判例
- 東京地裁平成13年4月25日判決・判例タイムズ1076号281頁(裁判所ウェブサイト未掲載)
- 東京地裁平成27年10月30日判決・判例時報2298号58頁(裁判所ウェブサイト未掲載)
- 最高裁昭和45年12月18日判決・民集24巻13号2151頁
- 最高裁平成22年4月13日判決・民集64巻3号758頁
- 最高裁昭和60年5月17日判決・民集39巻4号919頁
- 最高裁大法廷昭和25年10月11日判決・刑集4巻10号2037頁
- 最高裁大法廷昭和48年4月4日判決・刑集27巻3号265頁(尊属殺重罰規定違憲判決)
- 最高裁昭和49年9月26日判決・刑集28巻6号329頁(尊属傷害致死・合憲)
- 最高裁昭和39年7月10日判決・民集18巻6号1093頁
文献
- 『インターネット削除請求・発信者情報開示請求の実務と書式』62頁
- 「侮辱罪の立法過程から見た罪質と役割──侮辱罪の法定刑引き上げをめぐって」法学セミナー2021年12月号