民事訴訟で当事者や証人予定者が作成する陳述書は,主尋問を補い,争点を整理し,相手方の反対尋問の準備を可能にする重要な書面です。本稿では,民事訴訟で裁判所に信用される陳述書を作成するための注意点を,作成の基本方針,記載すべき内容,信用性を高める工夫,記憶やあいまいな記憶・伝聞の扱い,事実と意見の区別,弁護士が関与する際の留意点に分けて整理します。刑事訴訟の供述調書ではなく,民事訴訟の陳述書を対象とします。
第1 陳述書とは何か
1 陳述書の意義(書証としての報告文書)
陳述書とは,当事者,当事者に準ずる者又は証人となる予定の者が,訴訟係属後に,その事件の事実関係についての自らの認識を記載して作成する書面です。証拠としては書証(報告文書)に当たります。
裁判所が当事者に異議のない場合に相当と認めて証人尋問に代えて提出させる「尋問に代わる書面」(民事訴訟法205条)とは異なり,陳述書は書証として提出され,別途,法廷での尋問が予定されるのが通常です。
2 陳述書が果たす機能
陳述書には,主に次の機能があります。
- ① 主尋問の一部を代替し,補完する。
- ② 争点を整理する。
- ③ 相手方にあらかじめ主尋問の内容を開示し,反対尋問の準備を可能にする(証拠開示的機能)。
- ④ 尋問の事前準備を促す。
- ⑤ 作成者の主張を固定する。
- ⑥ 尋問調書の作成を補助する。
特に③の機能があるため,主尋問の調書を見てから反対尋問を行うといった非効率を避け,争点整理を終えた後に人証を集中して取り調べる集中証拠調べ(民事訴訟法182条)を実現することができます。陳述書がどのように裁判官の心証形成に関わるかは,陳述書の機能及び裁判官の心証形成も参照してください。
3 陳述書の限界(作為の可能性と自由心証)
陳述書は書面であるため,証人が書類その他の物に基づいて陳述することを原則として禁じた規律(民事訴訟法203条。当事者本人には同210条により準用)が前提とする口頭主義や,直接主義との間に一定の緊張があります。また,作成に弁護士が関与するため作為が入りやすく,その証拠価値は,法廷での供述と併せて自由心証により判断されます。陳述書だけで心証が形成されるわけではない点に留意が必要です。
第2 陳述書作成の基本方針
1 直接体験した生の事実を,時系列で,自分の言葉で書く
陳述書では,作成者が直接体験した「生の事実」を,できる限り日時を入れて時系列で,自分の言葉で説明することを心がけます。本人が使うはずのない法律用語や,準備書面と全く同じ言い回しを用いると,かえって弁護士が作成したことが露見し,記憶の裏づけがないことを疑われます。もっとも,弁護士が本人から聴き取って陳述書を作成すること自体は一般的な実務であり,文章が整っていることから弁護士の関与は裁判所にも当然に読み取られています。
裁判所は、本人訴訟などで「本当に本人が書いた陳述書」を沢山見ているから、弁護士が(本人から話を聴取して)作成した書面であれば(文章が整っていることからして)弁護士の関与がある旨は当然に「読めば分かる」という感じだと思います。
— 圓道至剛(まるみちむねたか) (@marumichi0316) October 7, 2022
依頼者が要求するけれども弁護士としてはどうしてもやりたくない主張は、「貴方が書いた書面をそのまま裁判所に読んでもらえば裁判所もよく分かってくれると思います」などと言って、本人が作った陳述書を手を入れずにそのまま出すと、本人は満足し、弁護士は苦労を裁判所に察してもらえる
— _hznf_ (@_hznf_) July 29, 2022
2 段落ごとに番号を振り,小見出しを付ける
段落分けをした上で,段落ごとに番号(1,2,3など)を振ります。可能であれば,各番号に内容を要約した小見出しを付けると読みやすくなります。
3 動かしがたい事実をつなぐストーリーを示す
動かしがたい事実をつなぐ線(ストーリー)を,できる限り分かりやすく示します。動かしがたい事実としては,次のものが挙げられます。
- ① 当事者間に争いのない事実。
- ② 戸籍謄本や登記事項証明書などの公文書によって認定できる事実。
- ③ 契約書等の処分証書や領収書のほか,紛争当時のメールやLINEなど,信用性の高い私文書によって認定できる事実。
第3 記載すべき内容
1 争点に関係する生の事実と背景事情
争点に関係する生の事実を中心に記載しますが,事件の大枠を裁判所に理解してもらうため,当事者の経歴や紛争に至った背景事情にも言及した方がよいです。
2 経歴の記載が必要になる場合
例えば交通事故で後遺障害逸失利益が問題となる場合,基礎収入をいくらとするかが争点となるため,被害者の経歴や稼働状況を記載することがあります。
3 重要な事実は一通り書いておく
陳述書に書かれていない重要な事実が尋問で突然出てくると,裁判官が違和感を抱き,信用性に疑問を呈することが少なくありません。重要な事実は一通り陳述書に記載しておきます。
4 都合の悪い事実はフォローとともに書く
自分に不利な事実であっても,反対尋問で問われることが予想されるものは,それをフォローする事情と一緒に,陳述書の段階で明らかにしておくのが得策です。反対尋問で初めて明らかになると,フォローする供述の機会を得にくくなるからです。
5 分量の目安と提出の時期
分量は,争点に関する事実を過不足なく記載し,通常は5頁から10頁程度が一つの目安です。準備書面の引き写しのような冗長なものは敬遠されます。裁判官が尋問の際に陳述書へ書き込みをすることがあるため,行間は詰めすぎない方がよいです。
提出の時期は,争点整理がある程度進み,人証として取り調べることが見込まれる段階が基本です。争点整理の途中で,求められてもいないのに陳述書を提出すると,かえって争点整理の妨げになることがあります。
第4 信用性を高めるための工夫
1 書証を読み込み,動かしがたい事実と整合させる
書証をよく読み込んだ上で,動かしがたい事実との整合性を確保します。処分証書及び報告文書の意味や,二段の推定といった証拠法の基礎を踏まえると,どの事実が動かしにくいかを見極めやすくなります。信用性の高い私文書と陳述書との性質の違いは,通常は信用性を有する私文書と陳述書との違いも参照してください。
その話が本当であれば当然あってよいはずの証拠がないときは,証拠がないことについて納得できる理由があるかを,あらかじめ確認しておくことも大切です。
ある人の話が信用できるか?を考えるとき、話の内容に沿う証拠があることはもちろん大事なこと。
他方、その話が本当ならあってよいはずの証拠がないときは、証拠がないことにつき、納得できる理由があるかを考えることもとても大事です。— 山男弁 (@23153583z) February 8, 2023
2 経験則に反する行動には特別の事情を書く
経験則に反する行動を記載する場合は,そのように行動した特別の事情を併せて記載しておく必要があります。特別の事情が示されれば,一見不自然な行動でも信用され得るからです。
3 重要な部分で矛盾を生じさせない
陳述書の重要な部分については,主尋問と反対尋問の間はもとより,陳述書自体の中でも矛盾が生じないようにします。重要な部分での矛盾は,供述全体の信用性を損ないます。
第5 記憶の程度に応じた書き分け
1 記憶があるなら具体的な事実を書く
記憶があるのであれば,「暴行」「脅迫」「侮辱」といった抽象的な表現にとどめず,具体的な事実を記載します。「弁済」のように評価を含む表現についても,その評価の根拠となる具体的な事実を記載します。
2 あいまいな記憶は正直に書く
はっきりした記憶があるものはそのとおり記述すればよいですが,記憶があいまいな部分は,むしろ「ここは記憶がはっきりしません」と正直に書いた方が,裁判所に与える印象がよいです。何でも断定調で書けばよいというものではありません。記憶を喚起してもそれ以上明らかにならない点は,無理をせず「今となってはよく分からない」と書きます。
記憶を喚起する手がかりとして,当時の手帳や携帯電話,写真,勤務先,住んでいた場所,家族構成,旅行の有無などを確認すると,思い出せることがあります。
●数年前の話を聴取するときは当時の手帳、携帯を持ってきてもらう。ラインやメール、写真が役に立つ。
記憶が曖昧なときは当時の季節、勤め先、住んでる場所、家族構成、旅行の有無などを聞いてみると思いだしたりする。— みず (@E7r5p4iiz4pDbBq) April 20, 2022
第6 伝聞供述の取扱い
伝聞(他人から聞いた話)を記載すること自体は許されます。刑事訴訟では伝聞証拠の証拠能力が原則として否定されますが(刑事訴訟法320条),民事訴訟にはそのような規定がないためです。
もっとも,伝聞である旨をはっきり書いておく必要があり,反対尋問で初めて伝聞であることが明らかになる事態は避けます。伝聞供述であることは,その信用性を判断する際に十分考慮しなければなりませんが,伝聞であることから一般論として当然に信用できないとまでいうのは行き過ぎで,個別に判断する必要があります(『ステップアップ民事事実認定〔第2版〕』93頁)。
第7 事実と意見の区別その他の注意点
そのほか,次の点にも注意します。
- ① 事実と意見は区別し,意見については当時のものか現在のものかを明らかにします。法的な見解や解釈,証拠の評価は,陳述書には記載しません。これらは準備書面で述べるべき事柄であり,本人に証拠評価をさせる陳述書は好ましくありません。
- ② 感情的な記載は,事件の種類や記載した場合の影響を考えて,適切な範囲にとどめます。
- ③ 作成者の話し方を陳述書になるべく反映させると,尋問での供述との整合性を確保しやすくなります。
準備書面に書くこと(要件事実中心、ある程度冷静な証拠評価含む)と陳述書に書くこと(周辺エピソード含む迫真性に富んだ「事実」)は違うよ、というご指摘なのかなぁと思いました。たまに、証拠評価を本人にさせる陳述書に出くわすんですよね。。。
「○○という事実からすれば✕✕だと思います!」 https://t.co/oJ0gWD8WYt— venomy (@idleness_venomy) January 27, 2023
独断と偏見によるいい準備書面の条件
①事実と評価が区別して書いてある
②事実にはしっかり証拠が引用してある
③読み返すことなく最後まで読める
特に③が大切。論旨明快で理論的に整理されているとすーっと最後まで読めるけどそれが不十分だと頭に?が浮かんで何度も読み返すことになる。— Jはお前なんだよ (@tako_kora_) February 6, 2023
第8 虚偽の陳述書の作成と弁護士の責任
陳述書の作成に弁護士が関与すること自体は許されますが,虚偽の内容の陳述書の作成・提出に関与した場合には,弁護士が不法行為責任を問われることがあります。
この点について,東京地方裁判所平成27年10月30日判決(判例時報2298号58頁。裁判所ウェブサイト未掲載)は,弁護士の不法行為責任が認められるためには,陳述書の記載内容が客観的な裏づけを欠くというだけでは足りず,少なくとも,陳述書に記載された事実が虚偽であること,あるいは判断等の根拠とされた資料に看過できない誤りがあり,作成者がその誤りを知り又は当然に知り得たことを要する,と判示しました(結論として,弁護士の責任は否定されています)。
裏を返せば,弁護士が本人から丁寧に聴き取り,書証と整合する事実を記載する限り,陳述書の起案に関与すること自体が直ちに違法となるわけではありません。もっとも,記載内容が客観的事実と食い違う陳述書は,本人の信用性を損なうだけでなく,代理人にとっても危うい書面となり得ますから,本稿で述べた動かしがたい事実との整合性の確保は,この観点からも重要です。
第9 参考文献と関連記事
1 参考文献
- 土屋文昭・林道晴編『ステップアップ民事事実認定〔第2版〕』(有斐閣,2019年)93頁。伝聞供述の扱いにつき参照。なお,2026年4月に第3版が刊行されています。
- 加藤新太郎編著『民事尋問技術〔第4版〕』(ぎょうせい)。陳述書の機能や作成上の注意点につき参照。
- 岡口基一・中村真『裁判官! 当職そこが知りたかったのです。――民事訴訟がはかどる本』(学陽書房,2017年)52頁・53頁。陳述書に書かれていない周辺情報が尋問で表れることの意味につき参照。
- 中村直人『訴訟の心得――円滑な進行のために』(中央経済社,2015年)92頁。弁護士が起案する際の言葉遣いにつき参照。
- 京野哲也『クロスレファレンス民事実務講義〔第3版〕』(ぎょうせい,2021年)24頁。漏れのない発問(事情聴取の着眼点)につき参照。
2 関連記事
- 証人尋問及び当事者尋問
- 陳述書の機能及び裁判官の心証形成
- 通常は信用性を有する私文書と陳述書との違い
- 処分証書及び報告文書
- 二段の推定
- 文書鑑定
- 新様式判決
- 裁判所が考えるところの,人証に基づく心証形成
- 尋問の必要性等に関する東京高裁部総括の講演での発言
出典
【法令】
- 民事訴訟法(e-Gov法令検索)――182条(集中証拠調べ),203条(書類等に基づく陳述の禁止),205条(尋問に代わる書面の提出),210条(証人尋問の規定の準用)。
- 刑事訴訟法(e-Gov法令検索)――320条(伝聞証拠の証拠能力)。
【裁判例】
- 東京地方裁判所平成27年10月30日判決(判例時報2298号58頁,参照条文・民法709条,請求棄却)。裁判所ウェブサイト未掲載。
【文献】
- 土屋文昭・林道晴編『ステップアップ民事事実認定〔第2版〕』(有斐閣,2019年)93頁。
- 加藤新太郎編著『民事尋問技術〔第4版〕』(ぎょうせい)。
- 岡口基一・中村真『裁判官! 当職そこが知りたかったのです。』(学陽書房,2017年)52頁・53頁。
- 中村直人『訴訟の心得――円滑な進行のために』(中央経済社,2015年)92頁。
- 京野哲也『クロスレファレンス民事実務講義〔第3版〕』(ぎょうせい,2021年)24頁。