陳述書作成の注意点


目次
第1 陳述書作成の注意点
1 総論
2 記載すべき内容
3 信用性を高めるための工夫
4 記憶があるのであれば,具体的な事実を記載すべきこと
5 あいまいな記憶の取扱い
6 伝聞供述の取扱い
7 その他
第2 関連記事その他

第1 陳述書作成の注意点
1 総論
(1) 陳述書の作成者が直接体験した「生の事実」を,できる限り日時を入れて「時系列で」,「自分の言葉で」説明することを心がける必要があります。
(2) 段落分けをした上で段落ごとに番号(1,2,3・・・等)を振るべきですし,可能であれば,各番号ごとに小見出しを付けることが望ましいです。
(3)ア 動かしがたい事実をつなぐ線(ストーリー)を可能な限り分かりやすく示すことが望ましいです。
イ 動かしがたい事実としては以下のものがあります。
① 当事者間に争いのない事実
② 公文書(例えば,戸籍謄本及び登記簿)によって認定できる事実
③ 信用性の高い私文書(契約書等の処分証書及び領収書は当然ですが,紛争当時のメール及びLINEが含まれることもあります。)によって認定できる事実

2 記載すべき内容
(1) 争点に関係する生の事実を中心として記載すべきですが,背景事情にも言及した方がいいです。
(2)   交通事故事件において後遺障害逸失利益が問題となる場合,基礎収入をいくらとするのかが問題となりますから,依頼者の経歴を記載することがあります。
(3) 陳述書に記載されていない重要な事実が尋問で突然,出てきた場合,裁判官が違和感を持つことが多いですから,重要な事実は一通り陳述書に書いておいた方がいいです。
(4) 都合の悪い事実であっても反対尋問が予想されるものについては,フォローする事情と一緒に書いておいた方がいいです。

3 信用性を高めるための工夫
(1) 書証をよく読み込んだ上で,動かしがたい事実との間の整合性を確保する必要があります
(2) 経験則に反する行動を記載した場合,そのように行動した特別の事情を記載しておく必要があります。
(3) 陳述書の重要な部分については絶対に矛盾が生じないようにする必要があります。

4 記憶があるのであれば,具体的な事実を記載すべきこと
(1) 記憶があるのであれば,「暴行」,「脅迫」,「侮辱」といった抽象的な表現に留めずに,具体的な事実を記載すべきです。
(2) 記憶があるのであれば,「弁済」のような評価が含まれる表現については,具体的な事実も記載すべきです。

5 あいまいな記憶の取扱い
(1) 体験したことではっきりした記憶があるものはそのとおり記述すればいいのですが,すでに記憶があいまいだという部分も当然あり得ます。
   そういう部分は,むしろここはもう記憶がはっきりしませんと正直に書いていただいた方が,裁判所に与える印象がいいです。
(2) 何でもかんでも明快に,断定調で書けばいいというものではありません。
    記憶を喚起しても,それ以上明らかにならないところは,ここは今となってはよく分からない,思い出せないと正直に書いた方が,裁判所に与える印象がいいです。

6 伝聞供述の取扱い
(1)   伝聞を入れることは許されますものの,この場合,これは伝聞である旨をはっきり書いておく必要があるのであって,反対尋問で初めて伝聞供述であることが明らかになるような事態は避ける必要があります。
(2) 「ステップアップ民事事実認定 第2版」93頁には以下の記載があります。
    伝聞供述であることは,その信用性を判断する際には十分に考慮しなければならないことですが,伝聞供述であることから,一般論として当然に信用できないとまでいうのは行き過ぎで,個別に判断する必要があります。

7 その他
(1) 事実と意見は区別し,意見については当時のものか現在のものかを明らかにする必要があります。
(2) 感情的な記載は,事件の種類や記載した場合の影響を考えて適切な範囲にとどめる必要があります。
(3) 陳述書の作成者の話し方を,陳述書になるべく反映させた方が,尋問での供述との整合性を確保しやすいと思います。


第2 関連記事その他
1 法律トラブル羅針盤HP「陳述書例」が載っています。
2 「裁判官!当職そこが知りたかったのです。-民事訴訟がはかどる本-」52頁及び53頁には以下の記載があります。
岡口 基本的な周辺情報は,陳述書に書いてほしいですけどね。
    陳述書に書いていない,動機や人間性に関わる周辺情報が尋問でポロッと出てくると,それは,まさに,作為が介入していない生の情報として,裁判官の心証に決定的に影響することがあります。
3 訴訟の心得92頁には以下の記載があります。
    (山中注:陳述書を)弁護士が起案しても良いとはいっても,本人が使うはずのない言葉,たとえば法律用語や準備書面と全く同じ言い回しなどを使用すると,幻滅である。本人が知っているはずのない用語が出てくれば,それは弁護士が言わせただけであるし,それに対応する記憶も本人にないことが明らかである。
    弁護士は,訴訟全体を担当しているから,代理人としての目でモノを見ている。しかし証人は,その証人としてモノを見たのだし,記憶もしたのである。そのときその証人がどういう知識を持っていたか,何を知っていて,何を知っていなかったのか。またその証人は会社において何を担当する部署にいて,現実にどういう立ち位置でその事案に関わったのか,ということもきちんと整理して,その証人の立場に立って起案してやらないといけない。準備書面を書いているのと同じ立場で書いたら,恥ずかしいことになる。
4 クロスレファレンス民事実務講義(第3版)24頁には「【実務の着眼】-漏れのない発問-」として以下の記載があります。
① その人と最初に,また最後に会ったのはいつですか。
② その人と合計で何回会いましたか。
③ 相手方に出した通知,及び相手方から来た書面はこれで全部ですか。
④ その書類の原本は今どこにありますか。
⑤ あなたが◯◯したことは生まれてから今まで何回ありますか。
⑥ 結局のところ,あなたが出したお金は差し引きいくらですか。
⑦ 別の人に対しても同じようなことをしていませんか。
⑧ あなたは何時も◯◯の方法で△△をするのですか。
5 以下の記事も参照して下さい。
・ 証人尋問及び当事者尋問
・ 陳述書の機能及び裁判官の心証形成
 新様式判決
 処分証書及び報告文書
・ 二段の推定
・ 文書鑑定
 裁判所が考えるところの,人証に基づく心証形成
・ 尋問の必要性等に関する東京高裁部総括の講演での発言
 通常は信用性を有する私文書と陳述書との違い


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